本部

リンカーストーリー 第二章

玲瓏

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2017/06/05 21:01

掲示板

オープニング

 私がリンカー達に取材をしてからそろそろ一年が経過する。一年というのは短いようで長いというのは事実極まりないことだ。新しい事に挑戦する者、挫折する者、もしかしたら恋人が出来た者もいるだろうか。一般市民が思っている以上にリンカーという存在は、むしろ一般市民以上に人間的なのだ。
 英雄も変わらない。特別な力を持っているだろう、手から炎を出したり猫が喋ったり、超常現象とも呼べる事を平気で行えるだろう。しかし例外を除いて彼らは自我を持ち、そこにいる。その事実を否定なんてできないのだ。
 時に英雄と人間の絆やリンカー同士の絆の間にはドラマが生まれることがある。ノンフィクション小説を書く時にリンカーを取材すれば、作家側は話を盛り上げようとする必要がない。既に彼らの人生は盛り上がりに満ち溢れているから。
 第一章の取材をした時に既に、その片鱗は見せられているだろう。
 第二章の目的は第一章で登場したリンカーが一年でどう変化したのかを記せればいいと思う。彼らにコンタクトを取って、再び取材をしようと思う。
 また、新たにリンカーになった者も取材の対象だ。そして今回は第一章よりも更に、彼らのプライベートに密着してみようと思う。
 今回は取材の質問事項を大幅に絞った聞き取りをする。以前は質問が多く一人一人の話を全て載せることができなかった。今回は質問数を大幅に絞って、自由気ままに話してもらいたいと思う。
 さて、私は前座を書き終えたから今からペンとメモ用紙を持って家を出よう。どんな話が待ち受けているのか、今から楽しみだ。

解説

●目的
 一般市民向けに自分の事を語る。

●質問事項
・趣味はあるのか。
・夢と呼べる物はあるだろうか。
・今までで一番うれしかった事、もしくは悲しかった事は。
 他、雑談。

●文屋が訪れるタイミングについて、他
 彼は全くランダムな時間帯、場所にエージェント達を訪れる。任務の時を除いて、例えば買い物をしている所や仲間と遊んでいる時等に質問を持ちかける。そのため、二人以上のエージェントと同席して質問する場合もある。
 質問をしてくれた礼として、ジュースをお礼に渡す。無論、リクエストは受け付けます。
 更に家でお話を聞いてもいいのかと尋ねる。リンカーがどんな家にそれぞれ住んでいるのか。それも題材になるのだと。

リプレイ


 私の目の前にいる顔立ちの整った男性の名前は中城 凱(aa0406)と言って、隣にいる英雄の名前は礼野 智美(aa0406hero001)と言う。智美、と言うが男性か女性かは見分けが付かない。
 二人だけではない。彼らは親友の二人と買い物の最中だったみたいで、離戸 薫(aa0416)と美森 あやか(aa0416hero001)と呼ばれる女性が付き添っていた。私は取材を申し込んで、もし断られたら退く気でいたが快く応じてくれた。
 しかしアイスが溶けてしまうからと一度家に帰らないといけないそうだ。よく見れば三人の幼子が見える。
「僕の妹達なんです」
 薫は言う。両親が共働きで、彼は代わりに面倒を見ているのだ。今時殊勝な少年だった。薫もまだ、面倒を見てもらえる年頃だというのに。
 私は離戸の家に招待された。中城は離戸の隣の家に住んでいて買い物を閉まってくると言って家の玄関を開けて中へ入った。
 離戸の家は普遍な一戸建て住宅。耳を澄ませば鳥の囀りや遠くで鳴る車のエンジン音が聞こえる。
「お邪魔します」
 離戸は最初にリビングに案内してくれた。わざわざ手前に引いてくれた椅子に座った。彼はまた律儀にも氷の入ったコップに麦茶を注いでくれて私に出しだしてくれた。本当に喉が渇いていたのですぐに口を付けた。
「凱達が来るまで少し待ってて下さいね」
「ありがとう。あまり急がなくてもいいから」
 ちょっとだけ私が微笑ましいと思った事を記したい。離戸は妹達を子供部屋に纏めて置いてきたが、ドアを完全には閉めずに隙間を開けていたのだ。いつでも様子が窺えるように。
 細かな配慮に私は感心した。
 後で聞いたが、子供部屋は元々は祖父母の部屋だったそうだ。
「部屋、暑くないですか?」
 美森がまた気をかけてくれたが、私はこれ以上待遇を良くされても迷惑をかけると思って「大丈夫だ」と返した。それにしてもまだ幼いのに、二人とも気遣いが立派だな。
 中城と礼野が戻ってきて、私は改めて挨拶と取材の前フリをした。最初に私は中城に話をかけた。最初に訊ねたのは趣味についてだ。
「俺は……うーん、スポーツは大抵そこそこ出来てたけど夢中になるほどじゃなかったし……リンカーになった今じゃ普通に出来ないし。娯楽映画位なら見るけど」
「この四人で映画に出演したこともあったな」
 最初は礼野の言葉が信じられなかったが、実際の映画で本物のリンカーを使って盛り上げようとする企画が海外であったのだと説明されると納得した。さすが海外だ、発想が奇抜。
「帰ったらレンタルして見てみようか」
「上手に演技できた訳じゃないけどな。監督さんの指示は良かったから、それっぽく出来たとは思ってるけど」
「懐かしいなあ。もう一昨年の話になるんだよね」
 私もよく映画は見るから中城と話は合うかもしれない。
「智美、お前は?」
 映画談義が終わって礼野の趣味を私が聞こうとしたが、その前に中城が尋ねてくれた。
「鍛練」
 礼野は即答した。
「何か昔より技能が落ちた感じが未だに拭えなくて……バイト以外で暇が出来たらよく訓練施設行ってるな。凱の技量も心配だから彼奴の時間が合えば引っ張って。
「そう、此奴まるで俺の兄……姉、より兄だよな……みたいな感じなんだよな」
 姉という言葉が少し気にかかったが置いといて、とりあえず離戸に同じ質問をした。趣味について。
「趣味? 何だろ……父さんと母さんがややオタク寄りの多趣味な人だから、二階に行けば色々ありますけど……僕自身はあれば読む、位ですし」
「薫の趣味は今は妹達の面倒見る事だろ?」
 中城は口元に柔らかな笑みを作って言った。
「あ、うんそうかも。さっきも言いましたけど両親が共働きで母がサービス業ですから僕が妹三人の面倒もっぱら見る事になって。今うちの中心って三人のお姫様達ですから……僕自身は特になし、かな?」
 語尾に「あやかさんは?」と付け足して、今度は美森が考える番になった。
「あたしもこれと言っては……あ、料理は好きですけれど」
「料理か。教えて欲しいことがあるんだが、目玉焼きを作る時に中々上手くいかない。ひっくり返そうとすると形が崩れて悲惨な事になってしまうんだが、良いアドバイスはないかな」
「えっと……油、しっかり使ってますか……?」
「ちょっとケチってるかもしれない」
「あ、でしたら油を、たくさんじゃないですけど今までより使ってみると簡単に作れるかも……」
「ありがとう、参考にするよ」
 次に私は四人に夢について訊ねた。寝てる間に見るものではない。起きてる間に見る夢である。最初に中城はこう答えた。
「医者。じいちゃんみたいなかかりつけ医者目指してるけど、大病院でも働いてみたいし……親父が外科、お袋が麻酔科医で、救急も受け付けてる大病院で働いてるんだ」
 私はメモを取りながら相槌を打つ。
「結構忙しいみたいだけど、経験積んでみたいし……今はその為に勉強、だよな」
「医者の勉強というとやはり、留学だろうか」
「そうなるかな」
 留学。日本から離れて異国の地で学ぶ事。親友と離れなければならないだろうか?
「留学すると経験豊富になるけど、それなら英語以外にも独逸語もあったら便利と聞くが」
「だから智美、なんでお前そんな知識持ってるんだ……」
 話を聞く限り、礼野という英雄は外見に似合わず豊富な知識を持ち合わせているようだ。
 あまり長居するのも迷惑だ。私はもう何ページも書き込んだメモ帳に蓋をして、四人にお礼をしてからその場を去った。四人とも、マシュマロを気に入ってくれればいいが。
 その日はレンタル屋に寄ってブルー・チームの映画を探した。あっさり見つかって、二泊三日の宿泊券を映画に贈ることにした。


 行商人のように多くの荷物を担いでいる男性がいて、私はなんとなくリンカーかと思って声をかけた。
「こんにちは、リンカーについて取材しているんだが……」
 荷物を持つ男性、トゥマス ウォルフガング(aa4419hero001)は酸欠になりかけた顔をして私を見返した。
 私は隣の男性、御宮 裕樹(aa4419)に大丈夫なのかと訊いたが、大丈夫なのだと返ってきた。
「そちらが構わなければ家で話そう。潰れそうだし……」
 御宮がそう言ってくれて、私は彼らの家に案内された。トゥマスは本当に潰れてしまいそうだ。私は荷物を持とうかと提案したが、お断りを受けた。
 結局一度トゥマスは「ぷち」と音を立てて潰れたが、なんとか家に辿りつくことができた。彼らの家は都市部から離れた閑静な場所だ。平屋で、脇にフルコンのキャンピングカーと大型バイクが止まっている。
「放浪してた頃はアレで生活しててな」
 御宮はキャンピングカーを指した。
「今は定住してるし日用には流石に不便だからほぼ止めっぱに近いが…トゥマスはあっちで寝泊まりしてるぞ」
「平屋よりしっくり来るんだよなー」
 私は家の中に通された。手短な場所に座らせてもらうと早速取材を開始した。まずは趣味からだ。
「趣味か……とりあえず料理と武器の整備としてあとは……」
「料理はまだしも整備って趣味か? 正直趣味と言うより所得技能ってノリが近い気がすんぞ整備って」
 私もトゥマスに考えが近い。
「む……じゃあ言語……」
「お前基本世界各国渡り歩いてたせいで必要に迫られただけだろ! 確かにエスペラントだのヒュムノスやらクウェンヤの習得は趣味の産物かもしれんけど」
「エスペラントにヒュムノス……初めて聞いたな。そんな言葉があるのか。俺も覚えた方が世界を旅するときに役に立つだろうか」
「立たないから止めとけ。マジで。第一後半二つは架空の言語だし、使ってる奴なんてその物語の登場人物だけだし」
 架空の言語を作るのもまた、面白味がある。
 中学の頃授業中の暇な時間に架空の言語を書く遊びをやったことがある。
 暫くの間御宮が何度か趣味を言ってはトゥマスが否定するという応酬が続いた。結果辿り着いた結論が――
「裕樹は無趣味だなぁ」
 最後の最後で御宮が「その理屈はおかしい」とようやく反論した。
 ちなみにトゥマスの趣味はナンパらしいが、話に広がりがなさそう(トゥマス、申し訳ない)なので次の質問に移った。
「夢はあるか」
「あるよ、あるけれど……夢は口にすると叶わないって言うだろ?」
 何割かの夢追い人が挫けそうな名言だ。私はどんな夢か何度か尋ねてみたが、彼が言うことはなかった。トゥマスに質問をしてみると。
「気の合う可愛い彼女がほし~い」
「予想以上に率直だったッ!?」と御宮。
「恋人募集中か。俺の英雄も最近はラブストーリーを見て恋心に興味を持ち始めたところだ。トゥマスの事を紹介しようか」
「お、マジ?」
「やめとけやめとけー。いい事ないぞ」
「ひっでえ」
 二人とも仲良しで、私は心が癒やされていた。私は最後に買い物をしまう手伝いをして家から退いた。アレだけの荷物を一人で持ったトゥマスを讃えたい気持ちだ。


「やあ、久しぶりだね」
 第一章を執筆してから今までずっと、彼がどうしているのか気になっていた。ヨハン・リントヴルム(aa1933)は前回と同じように公園に座っていた。
「今日はやけに日が照って暑苦しいからどっか屋内で話したい。もしよければ、君の家とかどうだろう」
「僕の家かい。別に構わないけど……」
 気にかかる言い方をするが、私は構わずヨハンの後を着いていった。彼の家は緑生い茂る……雑草の生えた敷地に立ったアパートだ。彼の扉の前に私は案内される。
 私は目を瞠った。
『犯罪者は死ね』『人殺し』
 心無い言葉が紙に塗られて貼り付けられていた。
 ヨハンは何も言わず扉を開けた。彼の顔を覗いてみたが、彼はにこやかに視線を返した。
 私は部屋に案内されて、机の前で座った。
「あれからどうだろう。君に進展は?」
「僕は相変わらずさ、夢も希望もありゃしない。復讐は何一つ進展していないし、それどころか東嵐の一件はすっかり過去の事として忘れられつつある」
「過去の事か」
 ヨハンは端末を取り出して、話の途中だったが熱心にモニターを確認し始めた。用事が終わったみたいで端末をしまうと私に目を合わせた。
「ああ、ごめんね。娘ができたんだけど、今こうしている間にも誰かに攫われているんじゃないかと気になって気になって。GPSと盗聴器と隠しカメラを確認していたんだ」
「心配なんだな。大事な娘のことが」
「HOPEがヴィランズと真っ向から闘ってくれていたら、もう少し安心していられたのかもしれないけどね」
 ヨハンは古龍幇の被害者だ。
「僕はまだいいさ、能力者だから。だけど……例えば、何の力もない一般人からしたらどうだろう? もし自分がヴィランと何かあった時、護ってくれるのはHOPEだけなのに、そのHOPEがヴィランと手を取り合った事を、どう思っているんだろう?」
 香港協定の事を言っているのだ。愚神から手を引いてH.O.P.Eと協力関係を結び表面上は円満に終わっている。しかし、被害者の気持ちはどうなるのか。ヨハンの心情は無視されて良いのか?
「或いは、過去にヴィランの被害に遭った人は、あの協定をどう捉えているんだろう? 自分の大切なものを傷つけた連中が手を差し伸べられている様を指を咥えて見ているんだろうか?」
 彼は締めくくりにこう言った。
「……自分の事を棚に上げるつもりはないよ。僕もそういう、許されてはいけないヴィランの一人だ」
 彼の夢は、復讐を終えて誰よりも惨たらしく死ぬことだと最後に言った。

 帰り道、私はヨハンに娘の学校を教えてもらって、校門前でファニー・リントヴルム(aa1933hero002)を待った。
「君がファニー、か」
「うん。お兄さん、誰かな?」
「お父さんのお友達だ。これは、俺から君への些細な幸福を願ってのプレゼントだ。受け取ってほしい」
 私は溶けかけたアイスを渡した。カップの中で、ピンク色のプラスチックスプーンと一緒に入っている。
「美味しそう。変なモノとか入ってないよね」
「ヨハンの心を傷つけるような真似はしない。安心して食していい」
 家路へとつくファニー。何もできない自分。地球という大きな惑星の中で、自分とは結局小さき存在でしかないのだろうか。


 私は生まれて初めてアイドルと話す事になった。フルム・レベント(aa4719hero001)は緊張気味だ。
「今日は取材をさせてもらいたくて。そんなに緊張せず、リラックスして答えてほしい」
 二人は商店街を歩いていた。色々な店が立ち並んでいて、アクセサリーのお店や古本屋、小さな玩具屋も揃っている。
「君達はアイドルだったな」
「知ってるんだ、俺たちのこと」
「情報屋とまではいかないが、長いことリンカーと携わっているといろんな情報を見聞きできて。Soleilだったかな、応援してる」
 どうも、とフラン・アイナット(aa4719)は礼をした。
「ところで今日はここに何をしに?」
「曲のフレーズを求めてぶらぶらと。街は色んなネタの宝庫だからな。家で延々と考えるよりもいいんだ」
「それに、いい歌詞が思いつくかも知れないから」
 フルムは歌詞担当だという。私も彼らの考えには賛同する。アイデアが思いつかなければ街を歩いてみるのだ。時折風が、私にアイデアを教えてくれることがある。
「何かいいフレーズは出たかな」
「もう少しで出そうだよ。リンカーに取材してる珍しい人に出会ったから」
「散歩の邪魔をしたかと思っていたが、役に立てたなら何よりだよ。よかったら、二人の歌を聞かせて欲しいな」
「それなら近くに公園があるから、そこで披露しよう」
 よく見ればフランは楽器を背負っていた。カバーに包まれているから中身は分からないが、ギターの形をしている。
 広い公園だった。遊具という遊具はなく、犬の散歩途中の高齢者や学校終わりの子供達が見えている。子供たちは鬼ごっこの途中だろう。アイドルの二人はベンチを見つけると肩を寄せて座った。
 フォークギターと元気なハーモニー。二人が奏でた音楽はアップテンポで、聴いてる私も口ずさみたくなる程だった。楽しそうに歌って、弾いている。二人の歌声が重なって心地いい。
 私はオーケストラやバンド以外の音楽には詳しくなかったもので、たった二人でなんの機械もなくここまで人の気持ちを盛り上げることができることに驚きを覚えたと同時に、尊敬さえ覚えた。
 演奏が終わると、私の後ろからまばらな拍手が鳴った。しばらくここは小さなサイン会場となっていた。
 サイン会が終わると、質問に戻った。
「二人はどういうアイドルになりたいんだ」
「私たちは太陽のように光輝き皆を照らす存在になりたいんだ」
 もう緊張は解けていたフルムが言った。私はもう既になってるよと心の中で言った。
「俺もこいつと似てるな。元々持っていた本質が違っていても思いは同じだからアイドルの道を選んだんです。とにかく人々を癒せるようになりたいかな」
 創作者というのはいつの時代も、今の自分には満足できない存在なのだろう。私は笑みを浮かべて頷いた。
 最後に何かアピールが欲しいと言うと、二人は腕をくんでニッコリ笑った。二人とも仲良しで何よりだ。私はこのグループは長く続く予感がした。
「今日は取材に応えてくれてありがとう。もしよかったら俺にもサインを書いてもらえないか」
 私はメモ帳を二人に渡した。帰ったら友人に自慢でもしようか。アイドルのサインを手に入れたぞ、と。


 私は今南極でペンギンに囲まれている。嘘のようだが本当の話だ。インタビューとはノンフィクションなのだから、嘘は書けない。
 H.O.P.E南極支部配属の氷鏡 六花(aa4969)はペンギンのコロニーの中にかまくらを作って生活しているのだ。日本との気温の違いに取材も楽じゃないと実感しながら、私は趣味について質問をさせてもらった。
「趣味は……特に、ありませんけれど……最近は、オーロラを見上げたり、海で泳いで、魚を捕まえたり、ペンギンさん達と一緒に、遊ぶのが、好き……です」
「もうたくさんの友達がいるのよ、六花は」
 アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)と氷鏡は姉妹のように見えた。血は繋がっていないだろうし、表面上に似ている部分はないが、私は姉妹に見えるのだ。
 私は嬉しかったこと、悲しかったことを質問することにした。生きている中で、どんな思い出が二人には待ち受けているのだろう。
「一番悲しかった事は……愚神に……パパとママを……殺されて、しまった……事……です」
 彼女が口を止めると、私はすぐに、嬉しかったことの話題に移った。
「嬉しかったことは?」
「アルヴィナと、出会えた……事です」
 氷鏡はにっこりと笑って、アルヴィナを見つめた。
「そうね、嬉しかった事は……私も、六花と出会えた事……かしら。この前、二人で一緒に遊園地に行って、とても楽しかったわ」
 英雄と能力者の絆。
 私はアルヴィナに、夢について問う。英雄の夢。
「私は六花の力に成る事、六花を助ける事、支える事、一緒に居る事が私の幸せ。だから、今の夢は……六花に、幸せになって貰う事、かしら」
 六花の長い髪を撫でるように、アルヴィナは手を動かした。
 彼女の家族を殺した愚神はまだ見つかっていない。氷鏡の夢は、その愚神を見つけ出して仇を討つこと。
「私と出会ってからの数ヶ月で……六花も、氷雪の霊力の扱いが随分と上達したわ。まだ小さいのに……もしかしたら、氷雪系統限定なら、もうHOPEでも指折りの使い手かも。この調子なら…あとは、六花の…ご両親を失った日の、記憶が戻って、愚神が見つかりさえすれば……」
 アルヴィナが言い終わると、氷鏡が口を開いた。彼女の眼差しにしまわれていた覚悟が、口を通して表に出てきたように感じた。
「六花みたいな想いを、誰もせずに済むように…愚神は、みんな、倒し……たい……です」
 優しい声の彼女が、倒したいと言う。ペンギンと仲良しで、私にすら笑顔を向けてくれる少女が仇討ちの覚悟を決める。絶望の一日だっただろう。アルヴィナと出会えなかったら、彼女は今一体どうしていただろうか。
「頑張ってとしか言えないのがもどかしいな。俺が少しでも愚神の情報を持っていればよかったんだが」
「いえ……、負い目を……感じないでください。六花は……、こうしてお話できるだけでも……嬉しいですから」
 常々思う。どうしてこのように、天使とも呼べる人間に不幸が舞い降りるのだろう。
 それでも生きているのはどうしてだろう。絶望を味わった人間が生きているのはどうしてだろうと、疑問に答えられないまま私は立ち上がった。


 南極の次は豪邸だ。取材は楽ではないが貴重な経験をさせてもらえるのは最大のメリットだろう。私の家は一般住居だから豪邸に案内してもらえると感動の連続だ。和を感じさせる建築物は私に故郷を思い出させ、心が落ち着くものだ。
 この家に住んでいるのは御剣 正宗(aa5043)だ。私はリンカーの取材と告げて、よければ家に招待してほしいと言うと快く案内されて、応接間に通された。私はこの場所で胡座は似合わないと考えて、正座で御剣と対面している。彼女の隣にはCODENAME-S(aa5043hero001)がいて、翼が生えている。
 翼が生える英雄は珍しくない。彼女はえすちゃんと呼ばれているみたいで、私もえすちゃんと呼ばさせてもらうことにした。
 私はまず、趣味を二人に訊ねた。趣味を聞くのが最初のお決まりのようになっている。
「ボクの趣味は……女装。と言えば、伝わるか」
「驚いたな、君はてっきり女性だと思っていた」
 彼女の隣には――と先ほど書いたが、訂正しなければならないみたいだ。
「ボクは、女の子に近づきたいと思っている……。それが夢で」
 御剣は色々な服装を試しているみたいで、私は写真を見せてもらった。どれも一目みれば女性だと誰もが思ってしまうもので、彼の……いや、やはり彼女のと言うのが相応しいだろうか――彼女の技術力は高いものだと驚いた。
「私はねー、お料理とか家事全般が趣味ですねっ。和洋中、なんでも作れるんですよ。えっへへこの前は皆に美味しいって言ってもらえて」
「家事が趣味とは、また家庭的だな」
 御剣の夢は女性に近づくことだと言ってくれた。私はエスちゃんの夢も尋ねることにした。
「私の夢はいつまでもこの二人で一緒にいること……です。争いごとのない平和な世界でずっと一緒に。そのために、些細な人助けでも積極的にやってるんですよ。道に落ちてる空き缶は絶対に拾いますっ」
 私は御剣に視線を戻して、人生で一番嬉しかったことを尋ねることにした。
「ボクが嬉しいと感じたことは……えすちゃんに出会えたこと、かな」
 えすちゃんは少しだけはにかむ顔を見せた。可愛らしい仕草だと思ったと白状しよう。
「私も、正宗さんに会えて本当によかったって思ってます。そのう、幸せですよ。こうして奉仕させていただけて」
 何となく二人を羨ましいなと思えた。幸せを妬んでいるのではない。二人は一生離れてほしくないと、私は全くの部外者だが……そんな願いが生まれた。
 悲しい出来事を尋ねるのが次の私の行動だったが、今回は取り下げた。
「よかったら君の料理を食べてみたい。皆に絶賛された料理を」
 名前でエスちゃんというのは気恥ずかしくて、私はどうしてもキミと呼んでしまう。
「勿論です! リクエストはありますか?」
「そうだな。美味しいハンバーグはどうだろう。ハンバーグとサラダ、ご飯があればいいな」
 ハンバーグの香ばしい匂いと共に昼食を三人で取ることにした。……これは確かに、絶賛される味だ。昼食を全部食べてもまだ物足りないほど、彼女の腕前は確かだった。

 

 彼に会うのもまた久しぶりだった。黒金 蛍丸(aa2951)と詩乃(aa2951hero001)は元気そうな顔を私に見せてくれた。
「お久しぶりです! 文屋さん」
「久しぶりだな。良かったよ、その様子じゃ元気を取り戻したみたいだ」
 伊達にジャーナリストをやってきていない。私とて、噂話には耳が早いほうだ。黒金が一時期殻に閉じこもってしまったことは知っている。
 私は黒金に図書館に案内してもらった。彼は読書が趣味で、今日みたいな休日は図書館で過ごすことが多いみたいだ。
「最近は詩乃も一緒についてきて、児童書を読んでるんですよ」
 図書館は静かで涼しさが漂っている。色々な本が置いてあるが、そのうちリンカーストーリーが置かれる時が来るのだろうか。
 誰も座っていない長机の椅子に三人で腰掛けて、私は二人に夢を訊ねた。
「僕の夢は、皆の笑顔を守ることです」
 昨年も同じことを言っていた。彼の根本にあるものは太いのだ。
「調子はどうだろう。しっかり夢を叶えられているか」
「色々なことがありました。守れた命、守れなかった命があるのは事実です。皆の笑顔を見ることは叶わなかった……」
「全部が蛍丸の責任にある訳じゃないさ」
「はい、いろんな人に励ましてもらってます。でも……」
 どれだけ励まされてもそこに現実があるなら、苦しいだろう。
「でも蛍丸様は」
 詩乃は両手を膝の上に置いて、優しい声で言った。
「決して挫けません。転んでもまた立ち上がります。立ち上がる度に、強くなります」
「僕一人じゃ起き上がれないよ。詩乃や、皆がいるから立ち上がれる」
 愛しながら、愛されながら……。
 黒金は人を愛している、愛しているからこそ愛されて、立ち上がれるのだ。
「そういえば、恋人が出来たと聞いた」
 途端に、黒金は顔を赤くした。
「や、やっぱりしってらして」
「上手くいってるのか、彼女とは」
「そ、そこはかとなく……」
 反応を見る限り、しっかり彼女を愛している様子だ。私は意地悪な性格が表に出てきて、彼にこんな事を訊いていた。
「この本もいずれ彼女が目を通すかもしれない。何か伝えたいことがあれば、私が書いておくよ」
 黒金は悩んで、詩乃に助けを求めた。詩乃はくすくす笑ってこう言った。
「想いを伝えれば良いのですよ、蛍丸様」
 ごほん、と黒金は咳払いをして前座を終わらすとこう言った。
「いつも心配かけてごめん。まだその、不甲斐ない所が色々あるけど……ちゃんと、貴女を守る。だから、いつまでも――」
 恋人でいてほしい。
「この一年、色々なことがありました。邪英化した仲間の救出、ドミネーターに対しての反撃……。どんな窮地も乗り越えてきたから、これからも勇気を胸に、立ち向かって行きます!」
 彼女さん、黒金の思いをここに書き記しました。しっかり読んであげてほしいです。
 私は二人に謝礼のジュースを渡して家路を歩き始めた。どうか二人の恋が永遠でありますように、と願いをこめて。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • エージェント
    中城 凱aa0406
    人間|14才|男性|命中
  • エージェント
    礼野 智美aa0406hero001
    英雄|14才|男性|ドレ
  • 癒やし系男子
    離戸 薫aa0416
    人間|13才|男性|防御
  • 保母さん
    美森 あやかaa0416hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • 急所ハンター
    ヨハン・リントヴルムaa1933
    人間|24才|男性|命中
  • エージェント
    ファニー・リントヴルムaa1933hero002
    英雄|7才|女性|カオ
  • 愛しながら
    宮ヶ匁 蛍丸aa2951
    人間|17才|男性|命中
  • 愛されながら
    詩乃aa2951hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • エージェント
    御宮 裕樹aa4419
    人間|24才|男性|命中
  • エージェント
    トゥマス ウォルフガングaa4419hero001
    英雄|20才|男性|カオ
  • これからも、ずっと
    フラン・アイナットaa4719
    人間|22才|男性|命中
  • これからも、ずっと
    フルム・レベントaa4719hero001
    英雄|16才|女性|カオ
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 愛するべき人の為の灯火
    御剣 正宗aa5043
    人間|22才|?|攻撃
  • 共に進む永久の契り
    CODENAME-Saa5043hero001
    英雄|15才|女性|バト
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