本部

【屍国】連動シナリオ

【屍国】屍客思い出遊園地

雪虫

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/05/07 06:15

掲示板

オープニング

●懐かしき思い出
「懐かしい感じ」
「乗り物が少ない」
「こじんまりしている」
「小さい子供は喜びそう」
 それが、その遊園地に与えられた、お客さんの評価だった。
 メリーゴーランドに観覧車。ボートを浮かべて遊ぶプールに、決して大きくはないジェットコースター。遊園地の周りをぐるっと一周する水蒸気を上げる汽車。料金はそれ程高くはない。待つ必要もそれ程ない。だから気に入ったアトラクションには何度だって乗り放題。この遊園地の近所の子供は、数え切れない程この遊園地に何度も何度もお世話になった。
 けれど、この遊園地が魅力的に映るのはせいぜい小学校低学年まで。大きくなっていく程に遊園地はちっぽけになる。楽しい思い出はいっぱいあっても思い出だけじゃ楽しくならない。お父さんに「遊園地に行こうか」と誘われて「行かない」と返したのはいつからだった? 寂しそうな顔をされても仕方ない。もう、あの遊園地では遊べない。

●任務
「徳島の過疎地にある遊園地で大量のゾンビが発見された。どうやら遊園地近くの住人達がゾンビ化し、遊園地を根城にしているようだ。遊園地から出てまだ生きている者を襲い始めたら大変な事になる。至急遊園地に向かい、ゾンビ達を討伐してくれ」

●思い出の遊園地
 身体がだるい。
 身体が重い。
 肌が妙に青白い。
 あれってゾンビだったよね?
 肌が腐って肉が見えてて目が溶けててみんな腐ってみんな腐ってみんなを襲って襲われた人はゾンビになってゾンビゾンビゾンビゾンビ
 なんか治らないって聞いたし、多分私も治らない。
 私の人生ここで終わりか。
 もっと生きていたかったなあ。
 道路を歩いて私はあの遊園地へと辿り着いた。「懐かしい感じ」「乗り物が少ない」「こじんまりしている」「小さい子供は喜びそう」、そんな、ぱっとしない評価を与えられた思い出の中の遊園地。
 「行かない」といったのは、ここではもう遊べないから。お父さんが寂しそうな顔をしても、お母さんが困ったような顔をしても、だって仕方ないじゃない。みんなそう。大きくなったらこの遊園地がとてもちっぽけに見えてしまう。
 でも、こんな事なら、もう一回ぐらいくれば良かったなあ。
 もうあの日が戻ってこないと知っていたら、もう一度来てればよかったなあ。
 記憶よりもずっと小さい入口をくぐっていくと、遊園地の中は数えきれない程の人であふれかえっていた。記憶の中にあるよりずっと、ずっと賑わっている遊園地。
「あああああああああ」
「ばああああああああ」
「ががががががががが」
「いいいいいいいい、いいいいいいいい」
 肌が腐って、肉が見えてて、目が溶けてて、みんな腐って、そんな人達が遊園地を楽しそうに歩いている。そっか、みんな、同じ考えだったんだ。最期にみんな、この遊園地に来たかったんだ。分かるよ。だって私もそうだもの。
 みんなの中を縫って私は目的地へと歩き出す。これが最期。メリーゴーランドに乗りに行こう。白いお馬さんの上に立って、お父さんとお母さんにいっぱい手を振った昔みたいに。
「いこう。いごう。ずっといっじょ。ずっどあぞんであぞんであぞんであぞんでえええ、ええええええええええ」

●遊園地マップ

■■■■■■■■■■
■AAA  BBB■
■AAA  BBB■
■AAA  BBB■
■   EE   F
■   EE   F
■CCC  DDD■
■CCC  DDD■
■CCC  DDD■
■■■■入口■■■■
    

A:ジェットコースター
(ジェットコースターに群がるゾンビ、ジェットコースターに乗るゾンビ、ジェットコースターをよじ登ろうとするゾンビ、ジェットコースターから落下してくるゾンビなどがいる)
B:観覧車
(観覧車に群がるゾンビ、観覧車に乗るゾンビ、観覧車をよじ登ろうとするゾンビ、観覧車から落下してくるゾンビなどがいる)(観覧車の扉は開けっ放し)
C:ボートを浮かべて遊ぶタイプのプール
(ボートに乗るゾンビ、プールでばしゃばしゃやっているゾンビなどがいる)
D:メリーゴーランド
(メリーゴーランドに群がるゾンビ、メリーゴーランドに乗るゾンビ、メリーゴーランドの屋根によじ登ろうとするゾンビ、メリーゴーランドの屋根から落下してくるゾンビなどがいる)
E:花時計
(色とりどりのチューリップが植えられている……はずだが、ゾンビ達にぐちゃぐちゃに踏み荒らされている)
F:汽車乗り場
■:遊園地の周りをぐるっと一周する汽車の線路
(汽車に乗っているゾンビ、線路に立ち汽車に撥ね飛ばされるゾンビなどがいる)(線路は遊園地入口のすぐ外側にも敷かれている)

解説

●目標
 遊園地内のゾンビを殲滅する
 
●敵
 ゾンビ×500
 元は遊園地の近くの住民。幼い子供からお年寄りまで様々なゾンビがいる。ゾンビ化の兆候が始まった事に絶望し、完全に意識がなくなる前に遊園地を訪れ、ゾンビと化す
 完全にゾンビ(従魔)となっているため、救出は不可能。倒すとゾンビ化前の姿(死体)に戻る。AGW以外で倒す事は不可能(例:汽車にはねられても吹っ飛ぶだけでダメージ0)(死体に戻った後はAGW以外でも普通に傷付く)
 攻撃方法は噛み付く、羽交い締めにするなど程度。中には肉を噛み千切るぐらいの力のあるゾンビもいるかもしれない
 PC達がある程度近付くと反応して向かってくる
 
●その他
・時刻は昼。天候は晴れ
・使用可能物品は装備・携帯品のみ
・遊園地の遊具は何故か動いている(被害住民の誰かが完全にゾンビになる前に動かしたと思われる)。遊具を破壊でもしない限り止まる事はない
・遊園地の破壊はある程度は仕方がないが、出来るだけ最小限を目指す事
・遊園地の周りはまばらな林になっている(特に気にする必要なし)

リプレイ

●A
 遊園地へ行こう
 思い出作りに行こう
 あの頃の気持ちで
 みんな一緒に遊びましょう

●入口
 アーチの向こうは死人で溢れ返っていた。
 顔の皮膚が捲れている者。灰色の脳が覗いている者。捻じれた足を引きずる者。両腕の長さが違う者。
 晴れ渡る春の昼空の下の、寂れた遊園地と死者の群れ。のろのろと動く屍客達の姿を眺め、虎噛 千颯(aa0123)は痛ましげに瞳を細める。
「ゾンビが遊園地か……最後は童心に帰りたかったのかな……」
「何ともでござるな……せめて安らかな眠りをでござる」
「そうだな……あの放送を上手く止めることの出来なかった俺達にもこの状況を作った原因があるからな……」
 白虎丸(aa0123hero001)の言葉に苦く声を吐き出した後、千颯は仲間達を振り返り、ぱっと笑顔を浮かべてみせた。先程の痛ましさなどまるでなかったような顔で、いつもの飄々とした調子で仲間達に声を掛ける。
「黎夜ちゃん無理せずな」
「真昼殿も何かあればすぐ呼ぶでござるよ」
 千颯と白虎丸の声に、「……うん」「お二人も、くれぐれもお気をつけ下さいませ」と木陰 黎夜(aa0061)と真昼・O・ノッテ(aa0061hero002)が声を返し。
「仙寿ちゃん、俺ちゃんの手が必要だったら言ってな~」
「不知火殿も困った時はこの馬鹿を盾にするといいでござるよ」
 千颯と白虎丸の冗談めいたやり取りに、「……ああ」「頼りにしてるよ」と日暮仙寿(aa4519)と不知火あけび(aa4519hero001)が言葉を返し。
「ナイチンゲールちゃん、頼りにしてるんだぜ! 頑張ろうな!」
「墓場鳥殿、よろしくでござるよ」
 千颯と白虎丸の激励に、墓場鳥(aa4840hero001)と共鳴したままナイチンゲール(aa4840)が厳しい表情で頷き返し。
 リンカー達はそれぞれの場所へと得物を握り駆けていった。千颯も人手が足りなそうな場所を……と仲間を追う、その前に、ライヴス通信機「雫」を取り出しHOPEへ一つ要請を出す。
「遺体の回収のための車を手配してもらえない? 多分いっぱい、必要になるだろうからさ……」

●B
 ロバより小さなメリーゴーランド
 危ないけど両手を振って
 ムーディーなボートのプ-ルも
 今ならはしゃぎ放題

●メリーゴーランド
『仙寿様は人生二度目の遊園地だよね? 良い思い出にはなりそうにないね……』
「……」
『仙寿様?』
 内から聞こえるあけびの声に仙寿はただ黙していた。眼前にはメリーゴーランド。上下する作り物の馬とゆらゆら揺れる小さな馬車。それに合わせて大きく揺れる、老若男女の死者の群れ。
 仙寿は守護刀「小烏丸」を軽く振るうと、手近なゾンビの群れへ駆け出し勢いのまま一閃させた。胴を薙ぎ払った次の手で、左にあった首を。次の手で肩から腰元を。見える背中を。女児を。老人を。一撃で偽りの命を刈り取るべく、躊躇わず、深く、しかし判別に困らぬように、顔は傷付けないようにしかと注意を払いながら。
 回り続ける小さなメリーゴーランドの上で、高く結った髪を揺らし仙寿もまた踊って回る。自分に手を伸ばす死者と共に、黙々と。黙々と。
『仙寿様?』
『聞こえてますか、仙寿様』
『仙寿様……』
 あけびの声にも答えを返さず、黙々と地上の死者達を斬り伏せ終え、今度は月弓「アルテミス」に切り替え屋根上の死者に狙いを定めた。銀矢に腹部を貫かれ、ゾンビが屋根から転げて落ちる。
 仙寿は元々不愛想な性格だ。けれど今黙しているのは生来の性分故ではなく。遊園地を必要以上に壊す事がないように、そして犠牲者を悪戯に傷付ける事のないように、けれど迷いを見せる事なく仙寿は弓を射ち続ける。
 黙々と。
 黙々と。
 あけびが自分の名を呼んでも。
 死者達が動きを止めるまで。

●プール
『う~。死体、グチャグチャ、いやだ来るなぁぁ』
 夜代 明(aa4108)の脳内でアジ(aa4108hero001)はおぞましげに声を上げた。明はオッドアイに変じた瞳を眇めて相棒にツッコミを入れる。
「ゲテモノを平気で食う口が何言ってんだ」
『だってだって! あんな見た目で生きてる、じゃなくて死んでんだよぉ!? 心臓止まって腐っても動いてんだよぉ!? キモくない!?』
「脳内で騒ぐな、物理的に騒げ、俺に耳を塞がせろ」
 明は耳を塞ぐ素振りを見せたが勿論意味はない訳で。しかしアジが嫌がるのも無理はない。目の前で腐った死体がばしゃばしゃと水遊びに興じながらこちらに向かってくるのを見れば、「生物にとって不自然な事」を毛嫌いしているアジでなくとも普通は怖気を覚えるだろう。
 一方、明は自分に向かってくるゾンビ達より早い速度でプール周りを駆けながら、新型MM水筒の中身を目の前のプールにブチ撒けた。突然かつ謎の行動にアジが疑問を投げ掛ける。
『えー、何で水筒の中身をプールにまいてるんだよぉ? 中身何?』
「え、密造酒。ブルームフレアがライブスの炎なら酒を伝って燃えるだろう? 酒は水に浮くし。まぁ仮説だが」
 言いながら、明は豪快に密造酒「九龍仲謀」をプール全面に流し続けた。予想の斜め上の回答にアジ(時々オカン)が悲鳴を上げる。
『仮説の為にそれ買ったんだよぉ!? 10個限定の! あとハル未成年だよね!? どうやって年齢確認をパスしたの!?』
「トップシークレット」
 さらり。
 さらりと、実にさらりと言葉を返し、明の下準備は終了した。そして水の表面を狙いライヴスを集中させる。
「ブルームフレア」
 一瞬。炸裂した火炎の華は水面上の酒に引火し、一瞬にしてプールを火の海へと変貌させた。しかし類焼した炎にはライヴスが伴わず、ゾンビ達は燃え盛りながら明へと腐敗した手を伸ばす。
『あぁぁ燃えながらこっち来るよぉぉうぅぅやだよぉ帰りたいよぉぉ』
「……クッ」
 半泣き気味のアジに対し、明は口元に笑みを浮かべた。赤と銀の目を見開き、蛇痣の浮かぶ首を傾げる。
「酒を伝うまでは良かったんだけどな……まあいいや、やる事は」
「ガァッ!」
「変わらねえし!」
 拒絶の風を脚に纏い、明はゾンビの頭を踏み台に宙空へと跳躍した。残る炎がわずかに身を炙ったが、当然明にもダメージはなく。
 ボート上に着地と同時にルールブック「完全世界」の魔法を放ち、跳ね飛ばされたゾンビが水底に沈んで動きを止める。再び囲まれてしまったら足場を蹴って宙に跳び。水と炎と死者の上を舞いながら再び攻撃し。
「……ハ、アハハッ! 可笑しいよな、コイツ等元々人間だぜ!? 殺しの疑似体験ってか? 良いね良いねぇゾクゾクする!」
 愉しんででもいるように。
 笑う明の姿に、アジは幼い眉を寄せた。その姿は見えなくても、声は相棒の耳へと届く。
『……ハル、辛いならこう思えば良いんだよぅ。アジ・ダハーカは悪い竜だから、俺を無理やり誓約で生かしてヒト殺しをさせてる、俺は悪くないって』
「ハッ、何言ってんだ。実際に壊してるのは死体だぜ?
 ……それにな、アジ。お前が悪竜なら、俺も……」
 言い掛けて、明はすぐに「何でもねぇよ」と打ち消した。そして戦いに興じ続ける相棒に、アジは胸の内だけで語る。
(……ハルの笑い方、少しだけ、いつもより必死な気がするよぉ。
 聞いてもダメだろな、本当は、優しいもん)
 魔法攻撃に撃ち抜かれ、また一体がプールに沈む。全てが水底に沈むまで、彼は舞い踊る。

●C―A
 ちょっと休憩 汽車乗って(しゅっしゅっ)
 ぼんやり 次はどれにしようかな

 遊園地へ行こう
 思い出作りに行こう
 あの頃の気持ちで
 みんな一緒に遊びましょう

●汽車と線路
「ヴァン。私は、一つだけ、思っていたの」
『……何がだ』
「この力は――アンタの記憶を探すため、と、誰かを守るためにあるって」

 ヴァン=デラー(aa0035hero001)に語り掛けながら、雁屋 和(aa0035)は目の前の光景を瞳に映した。閉じた円環とその上を走る小さな汽車。戯れ続けるゾンビ達。彼らを討伐する事が和達に授けられた任務。
 でも、でも。これは、誰を守るっていうの?
 生きたかったであろう人が、最期に楽しむために動かした物を、止めろだなんて。
 それが分かっていても、戦う事が恐ろしくてならない自分が、浅ましかった。

 和は炎剣「スヴァローグ」――『御骨頂戴』と名付けられた大剣を軽く振るい、彼岸花形の炎を散らして死者の群れへと躍り出た。一直線に向かってくる和の姿にゾンビは一斉に襲い掛かるが、和は怯みもせずに、斬る。
 斬る。
 斬る。斬る。斬る。斬る。
 少し痛みが走ったが、気にもせずに刃を走らせ、汽車に乗っているゾンビが見えれば剣を構えて汽車の横に立ち――首を出したゾンビの、生きていた人間の体を、斬る。
「まるで予算はあるB級ゾンビ映画みたいね、やってることはサメだけど」
『そうだな……ノドカ』
「なに、ヴァン」
『大丈夫、か』
「……大丈夫よ」 
 努めて軽い調子で言葉を返し、和はひたすら刃を振るった。いつもと同じだ。殴るように斬って、更に殴るように斬って。殴れば相手は斃れる。愛用するシンプルな衣服と同じぐらいにシンプルな事実。
 それでも、多勢に無勢は偽りなしだが、囲まれれば終われる程にやわな心身は持ってはおらず。隙間が失せればストレートブロウ――加速した衝撃波を撃って敵を吹き飛ばし、周囲を確保しながらまた「生きていた人間」を斬り伏せる。
「わかっていたけど私、広範囲攻撃できないからこういう数で来られると、遅いわね」
 軽口は多めに。相棒以外とは誰とも顔を合わせはしないだろうから。
 止まりはしない。一度止まれば、動けなくなると知っているから。
 円環の外にゾンビの一体が足を踏み出そうとする。ブラウンの瞳に一瞬だけ迷いが走る。
(家に、帰りたいだけなんじゃない?)
 だが、和は手加減なく、ゾンビの背中に重い刃を振り下ろした。確かに伝わる肉を斬り裂く感触を、それごと断ち切るように和は告げる。
「――許さないわ、ここで、朽ちなさい」

●B’
 本命のジェットコースター
 スリリングに定員オーバー
 仕上げに観覧車で
 今日一日振り返るの

●ジェットコースター
「……ここに……居たりは……しない……かな……」
 藤岡 桜(aa4608)は呟きながら、もう何体目か分からないゾンビを大鎌で薙ぎ払った。ジェットコースター周りのゾンビも、ジェットコースターを昇るゾンビも、桜がある程度近付くと目標を変えて向かってくる。
 桜にはゾンビの殲滅以外にも個人的な目的があった。ゾンビ達を生み出し操る神門や三姉妹……特に芽衣沙を探すべく、桜は屍の土地を色々巡り歩いている。
 今回の任務も四人の捜索を兼ねての事……とは言え、ゾンビを殲滅する事を忘れた訳では決してなく。
 ミルノ(aa4608hero001)と共鳴し変じた白銀の髪をなびかせて、デビルブリンガーと漆黒のドレスで優雅に死者を「お片付け」。
『ご無事な方は、いらっしゃいませんね……』
 悲し気なミルノの声に桜は少し視線を落とした。まだ助かる人がいないかついつい目で探してしまう。だがここにいるのは屍ばかり。
 ジェットコースターからこちらに飛び掛かろうとする敵を感知し、桜は月弓「アルテミス」に切り替え矢を射放った。助からないとわかっているならせめてしっかり「お片付け」。通信機から仲間の声が聞こえはしないか、きちんと耳を傾けながら。

●観覧車
『本来「死者」など存在しない。
 死した瞬間人格は失われ、尚それを見出すのは生者の感傷に過ぎない』
 何が言いたいの?
『これは只の従魔掃討任務だ。
 預かり知らぬ死を……命を、くれぐれも背負おうなどと思うな』
 分かってるって
『期待している』

 大丈夫だよ
 ちゃんと……分かってるから

 観覧車もやはり屍の客で賑わっていた。
 ナイチンゲールは囲まれないよう背後と頭上を確認した後、ゾンビと距離を取りながらソルディアを軽く握り締めた。一匹が足を踏み出しナイチンゲールに腕を振り上げ――それより速くナイチンゲールが屍の胴を叩き斬る。一撃入れては一歩下がり、また一太刀加えて一歩下がり。複数で襲い掛かってきたら、逆に駆け出しすれ違い様に一斉に刃を走らせ、囲まれそうなら剣の先を床に付け、棒高跳びの要領で飛翔し。
 空中で身体を捻り、ナイチンゲールは地上のゾンビへライヴスショットを叩き付けた。衝撃波にゾンビが吹き飛び、着地後すぐに手薄な所に斬り込んでいく。映り込む大きな影。自分より大柄だと判断しライヴスブローを乗せて薙ぎ。複数方向から腕が伸びればクロスガードで防御を固め。
 観覧車にしがみついていたゾンビ達が落ちてくる。
 腐った腕が絡み付きナイチンゲールを羽交い締める。
 ナイチンゲールはそれを側転の勢いで振り払い、すぐさまゾンビの喉を刺し。
 噛み付く歯が見えれば反対の腕を差し出し、ゾンビが喰い付いたと同時にガラ空きになった胸を刺し。
 出来るだけ遺体を傷付けないようにしなければ……と、狙いを定めて胴を刺し。

 ……ねえ
 墓守をしてるとこんなこと沢山あるの?
『……どうかな。覚えていない』
 そうだったね……
『……』

 誰かが地面に倒れる度に心が錆び付く音がする。
 錆が増えていく程に頭の回転が鈍くなる。
 そうだ、歌を歌おう。遊園地っぽい愉快な歌を。
 歌を口ずさみながら、ナイチンゲールは奥へと進む。少しずつ傷付きながら、厭う事無く奥へと進む。

●C’―A
 ちょっと顔色悪いけど……大丈夫
 ほらね あんなに楽しそう

 遊園地へ行こう
 思い出作りに行こう
 あの頃の気持ちで
 みんな一緒に遊びましょう

●通路
 アトラクションではない場所をウロウロするゾンビ達を、千颯は厳しい表情で一体一体討伐していた。そんな千颯をまるで非難するように、屍客達は呻きを上げて千颯の方へと向かってくる。
「遊びの時間は終わりだぜ……さぁもう寝る時間だ。……助けてやれなくてすまない……」
『俺たちを憎んでくれていいでござる。その思いも無念も全て俺たちが背負うでござるよ!』
「ぅうあうぅう!」
 咆哮しながら襲い掛かるゾンビの腕を横に躱し、千颯は豪炎槍「イフリート」で青年ゾンビの胸を突く。灼熱の猛虎の幻影が屍の身を一挙に喰らい、後には腐ってなどいない「綺麗」な姿の遺体が残る。
 遺体に近付こうとするゾンビを倒せばまた「綺麗」な遺体が増え……千颯は元に戻った遺体を護りながら戦っていた。ゾンビを倒せば倒す程、護らなければならないものが増えていき、立ち回る事さえも難しさを増していく。
 それでも
「二度も汚したりはしない! せめて綺麗なまま眠らせてやるんだぜ!」
 少しでも余裕が出来れば、少しでも護りやすいように遺体を一つ所に集め。その時だって綺麗に並べて、粗雑に扱いなどしない。例え命尽きた後でも、彼らは敬意を払うべき「人」だから。
 一匹のゾンビが倒れ伏す遺体に近付こうとし、千颯は急ぎ駆け出し己が身を割り込ませた。遺体を庇おうとする千颯の背中にゾンビが大きく口を開く――
 瞬間、仙寿の放った女郎蜘蛛がゾンビの身を絡め取った。すぐさま千颯がイフリートでゾンビを人の姿に戻し、羽織袴で凛と佇む仲間へと視線を向ける。
「仙寿ちゃん、ありがと! そっちの方は大丈夫?」
「……ああ」
「そんじゃ、ちょっと手伝ってもらおうかな。ここが終わったら他の場所に一緒に行こうぜ」
 千颯は飄々とした声を仙寿へと投げ掛けた。みんなの前では普段通りに。秘めた思いを口にするのは、英雄以外は誰もいない時にだけ。
 より遺体を護りやすくするために、千颯は武器を飛盾「陰陽玉」に持ち替えた。軽く笑みを浮かべさえする口元は、いつも通りだ。
 表向きは。

●花時計
 花時計に植えられたチューリップはぐちゃぐちゃだった。
 潰れた命をさらに踏み、潰えたはずの命が歩く。黎夜が足を踏み出すと、一斉に向けられる腐った、目。死者達の視線に怯む事なく黎夜は静かに声を落とす。
「早く、楽に……」
『はい、おだやかな眠りを届けますの』
 真昼の声と共に、黎夜はザミェルザーチダガーをゾンビ一体へ振り抜いた。氷に熱した刃を入れたがごとくゾンビの身が断ち切られ、荒れた花壇に噴き出した腐液がまばらに注がれる。
 倒れ伏した遺体を傷つけないよう、適宜場所を変えながら。
 時計を壊さないように、ダガーを放つ位置に注意して。
「ゾンビから……おとうさんと、おにいちゃんと……おかあさんと……同じものにしに……」
『はい、倒せば従魔から戻るのであれば、倒しにいきましょう、つきさま』
「お願い、真昼……。木陰黎夜、真昼・オーロ・ノッテと共に、お前たちを斬り落とす……」
 黎夜の宣告を嫌がるように、ゾンビが濁った声を上げた。踏みにじられた花がさらに泥に染まっていく。その足が遺体に及ばないよう黎夜が時計周りに動く。
 黎夜がダガーを振るう度に遺体が一つ増えていく。まるで時を刻むように、もう動かない者達が花時計を覆っていく。
 ゾンビ達を引き付けるため黎夜は少しずつ後ろに下がった。だが、不確定に動くゾンビ全てを誘導する事は難しい。一体のゾンビの脚が遺体を掠めようとする。そこに黒猫「オヴィンニク」の操る火炎が炸裂する。
「遊ぶのは、うちと真昼にしようか……。うちらと一緒に、遊びましょう……?」
「ああぁぁあぁ」
 感情のない濁った声が是なのか否なのか分からない。だが、ゾンビ達は黎夜へ手を伸ばす。黎夜は彼らを眠らせるべく黒猫の炎を差し向ける。
 一匹のゾンビが、後ろから黎夜を羽交い締めた。細い腕は女性のものだが振り払うには少々強く。首筋に歯が届く前に、黎夜が命じる。
「オヴィンニク……敵を睨んで……」
 黎夜に戯れる黒猫が主人の敵をきっと睨めば、黎夜を抱きすくめていた女ゾンビが炎を上げて後ろに倒れる。すぐに距離を取り、同時に時計と敵を確認する。ここなら遺体も時計も傷付けずに済むはずだ。
「ストームエッジ!」
 召喚された刃の嵐が敵の身体を切り刻む。密集地に放たれた攻撃は一気にゾンビの数を減らした。黎夜は敵と距離を取り、「オヴィンニク」を操りながら仲間達に連絡を取る。特に問題はなさそうだが、殲滅まではもう少々かかりそうだ。
「まだいるなら、援護する……うん、じゃあ、そっちに行くよ……」
 最後のゾンビが倒れたと同時に、黎夜はふうと肩を落とした。移動する前に遺体を一か所に集めていく。全て集め終わってからLSR―M110――狙撃銃に得物を換装。
「行こうか、真昼」
『はい、つきさま』
 少し視線を上げれば遠くに蠢く死者が見える。黎夜は細い足で駆け出した。遊園地が静かになるまで、もう少し。もう少し。

●A’
 暗くなったら帰らなきゃ
 花時計に集合
 五百のチューリップとお別れ……

●閉園
 遺体は可能な限り遺族に引き渡したい、という黎夜の要望は一部叶わない事が分かった。
 家族全員がゾンビになってしまったケースがそれだ。「だったら、HOPEで埋葬を……」との黎夜の声に「分かった」、とすぐに職員は言った。
 仲間達や駆け付けた職員達と共に遺体を車に乗せながら、千颯は拳を握り締めた。傍らに立つ白虎丸にだけ聞こえるように言葉を洩らす。
「こんな悲劇……もう終わらせないといけないんだぜ……」
「いつまでも後手でいる訳にはいかないでござる。そろそろ反撃に出るでござる」
「……ああ」

「何してんだよぉ?」
 プールの水に身体を浸す相棒に、アジは脳の内から問い掛けた。ずぶ濡れの明の腕の中には何処の誰かも分からぬ遺体。
「……俺が死体回収して悪いか」
『やらなくても他が勝手にやるだろ、ってハルなら言いそうだもん』
「別に。遺族に渡しゃ俺の株が上がるだろ」
『……ふぅん』
 アジは共鳴を解除すると、「ちょっとあっち行ってるよぉ」と遺品を探しに歩いていった。明は遺体を引き上げると、アジも誰もいない事を確認してからポツリと呟く。
「……もう少し待ってろ。そうすれば体だけでも、家族はお前等に会える。……俺は出来なかったけどな」

「感傷よね」
 元に戻った遺体を出来る限り整えながら、和は声を落としていた。結果を見れば――傷つけたのは自分なのに。
「――私は、何のために、戦うんだろう」
 相方としている者の為に戦う事を決めた。戦う事に躊躇いはない。惨状や相手の思想に動揺する事はあれど、それでも決めた事なのだから。
 けれど、少しだけ、英雄の記憶を探すために戦うと言う根幹以外にも、戦う理由が欲しいと思った。
 それがなにかは、まだつかめないけれど。

 仙寿はあけびと共鳴したまま遺品と遺体を回収していた。戦闘の時に黙していた反動とでも言うように、仙寿がぽつぽつ想いを洩らす。
《……切り裂き魔の事件の時、自殺した感染者に言われたな。死んだらちゃんと殺してね、と》
 苦痛を終わらせたいと願いゾンビになった女性。
 あけびが渡したチョコの陰に毒を隠して一緒に飲み……ゾンビとなった直後俺が首を斬り落とした。
《「俺にも誰かを救えるのか?」とお前に聞き、肯定された次の依頼だった。朱天王と対峙した時は感染者の分だけでも一矢報いたいと思ったが、歯が立たなかった。ここにいる死者達も俺達が救えなかった者達だ》
 何故救えない。
 俺は結局殺す事しか出来ない人間なのか。
 その上あけびを感染者の自殺に利用された。
 憤り、悔しさ、言葉にしきれない感情の渦。心が渦に翻弄されて、仙寿は思わずそれを呟く。
《すまなかった》
 瞬間、仙寿はメリーゴーランドの前に一人で放り出されていた。視線を向けるとあけびが、真剣な面持ちで仙寿の事を見つめている。
「何で謝るの?」
「……あけび?」
「チョコは私の落ち度。戦っている以上、斬りたくない人を斬らなきゃいけない時もある。私も武人だよ? 英雄になる前から覚悟は出来てる。仙寿様は能力者で、人を救う力があるんだから立ち止まってちゃ駄目だよ。感染者と約束したでしょ? 『俺達がお大師様の遺志を継ぐ。お前のことも四国も守る』って。仙寿様が友達に言った言葉は覚えてる? 『未熟ならこれから強くなれば良い』。強さを目指し続けてよ……仙寿様なら出来るんだから!」
 一切の揺らぎのない、明るくまっすぐで強い声に、仙寿は地面に視線を落として思わず小さく笑みを浮かべた。
 ……本当にこいつは明ける日だ。
 俺にはどうしたってなれない。
 けれど、もし俺が暮れる日だとするなら、全てを呑み込んで闇に沈む力が欲しい。
 昼の内に溜まった澱を連れ去って、明ける日が清々しく輝けるように。
「そうだな。誓約は必ず守る……四国も俺達HOPEが救ってみせる」
 この四国に溜まる澱だって、全て連れ去ってみせる。

 千颯と共に仲間の傷を回復した後、桜は観覧車に向かっていた。遺体の回収はもちろんだが、高い場所から探し人がいないかどうか確かめたい。
 ゴンドラから見える景色は静まり返った遊園地。屍客達はみんな永遠の眠りに旅立った。そして見える景色の中に、桜の探し人達はいない。
「……今は……どこで……何……してるん……だろ……」 
 遠くに視線を投げ掛けても、探し人の姿は見えない。

 一人の少女がゴンドラの中で眠っていた。
 ナイチンゲールは墓場鳥と共鳴したまま、少女と手を繋ぎながら膝を抱え顔を伏せていた。
 おいたしてきた顔色の悪い同乗者も、今は隣でいい子にしている。
 今は綺麗。
 もう動かない。
 その隣で顔を伏せながら、ナイチンゲールは歌っている。
 ずっとそうしている。
 
「ねえ墓場鳥」
『どうした』
「…………重いよ……っ」
『……そうだな』

 感情に抑揚のない墓場鳥のいつにない優しい声。そろそろゴンドラが地上につく。そうしたらもう降りないと。
 でもそれまでは、ナイチンゲールは歌っている。静かになった遊園地に小夜啼鳥の歌が聞こえる。

 遊園地へ行こう
 思い出作りに行こう
 あの頃の気持ちで
 みんな一緒に遊びましょう

 ゆっくりおやすみなさい

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 【晶砕樹】
    雁屋 和aa0035
    人間|21才|女性|攻撃
  • お天道様が見守って
    ヴァン=デラーaa0035hero001
    英雄|47才|男性|ドレ
  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 生満ちる朝日を臨む
    真昼・O・ノッテaa0061hero002
    英雄|10才|女性|カオ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 掃除屋
    夜代 明aa4108
    人間|17才|男性|生命
  • 笑顔担当
    アジaa4108hero001
    英雄|6才|?|ソフィ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • 薄紅色の想いを携え
    藤岡 桜aa4608
    人間|13才|女性|生命
  • あなたと結ぶ未来を願う
    ミルノaa4608hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • クールビューティ
    アリスaa4688
    人間|18才|女性|攻撃
  • 運命の輪が重なって
    aa4688hero001
    英雄|19才|男性|ドレ
  • 明日に希望を
    ナイチンゲールaa4840
    機械|20才|女性|攻撃
  • 【能】となる者
    墓場鳥aa4840hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
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