本部

お前らに構ってる暇はない!

高庭ぺん銀

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/05/09 19:20

掲示板

オープニング

「っざけんなよ!」
 椿康広(az0002)は叫ぶ。放課後の商店街。その中にある小さな商店で、愛用ののど飴を買いたいだけだった。
 今日は新歓ライブの日だ。場所は体育館のステージ。先生たちを拝み倒し、運動部の先輩たちに頼み込んで生まれた、たったの20分。けれど彼らにとっては、プライドを賭けた勝負だ。ここで一年生を獲得し、現軽音同好会を軽音部へと持ち上げれば、彼らの部活ライフはより華やかなものとなるだろう。早く行かないと。なのに――!
「とまー?」
「うるっせえ!」
 素早くティアラ・プリンシパル(az0002hero001)と共鳴した康広は、相手を叩き斬る。
「うわ! 制服が!」
 相手は八百屋のトマトが依代となった従魔らしかった。力任せに剣を振るえば、汚れるに決まっている。共鳴の影響でロックテイストに変化しているとはいえ、元は制服。共鳴を解いて元に戻る保証はない。
(いいじゃない。それはそれで『ロック』よ?)
 ティアラはのんきに言う。
「ロックの一種としてはいいかもしれねぇけど、そんなダークな雰囲気のバンドじゃねぇ! ましてや新歓なのに!」
(見た目の事を気にしている場合? 見たところ雑魚ばかりだけれど、ここは戦場よ?)
 康広ははっと息を呑む。そして立ち止まり、大きく深呼吸した。
「ありがとな、ティアラ。俺間違ってへぶっ」
 顔面にトマト。血糊メイクなんて頼んでない。しかも
「す、酸っぺぇ! まじ、むり、す……」
 味覚を共有していたティアラも、無言で刺激的すぎる味に耐えていた。
(ここで遅刻したら、作詞に協力してくれたみんなに示しつかねぇ! 応援を呼ばねぇと……!)
 椿から要請を受けたHOPEは、援軍を手配した。しかし彼らもまた、それぞれに急がねばならない理由を抱えているのだった。

解説

皆さんには次の予定があるようです。またはデートやおつかいなどの最中かもしれません。ささっとスマートに敵を片付けましょう。

【敵】
トマト怪人×30(到着時)
 ミーレス級従魔。人間の体にトマトの頭。背は小学校低学年の子供くらい。恐らく倒したところで売り物にはならない。口に汁が入ると、とてつもなく酸っぱい。
 見かけによらず耐久力に優れるようで、体は人間並みに固い。頭も外側を傷つけたくらいでは倒れない。さいの目に切られる、跡形もなくつぶす、というレベルになるまで動き続ける。

『攻撃手段』
 トマト投げ
  どこからともなくとりだした普通のトマトを投げる。感触は完熟だが、超酸っぱい。
 体当たり
  頭から突っ込んでくる。多少自分の頭が潰れてもお構いなし。

 ※何らかの理由で服を汚したくない方はお気を付けください。

リプレイ

●赤い遭遇
 東江 刀護(aa3503)は最寄りの商店街へとやってきた。留守番中の英雄に頼まれ、大和 那智(aa3503hero002)と共におつかいにやってきたのだ。
「急ぐぞ。早く帰らないとご飯抜きです、と言われたからな……」
 料理ができない彼らにはキツい罰だ。
「で、何買うんだ?」
「トマトと、とろけるチーズと……」
 指折り数える刀護はそこで言葉を止める。いや、止めざるを得なかった。
 商店街の程近くにあるスーパー『ジェイソン』。規模は小さいながら人気を誇る店舗だ。その理由は何といっても激安にある。
「ハヤクハヤクー! 半額セール終わっちゃいマスヨー!」
 キャス・ライジングサン(aa0306hero001)がその場で足踏みしながら、後方の鴉守 暁(aa0306)を手招く。
「まだタイムサービスまでは時間あるだろー。しかし卵が、本日限り御一人様1パック13円とはなー。ほぼタダだわ、微妙に縁起悪いわ」
 つまるところ暁とキャスは、好奇心に駆られて今日の買い物先を決めたらしい。
「……キャスー予定変更」
 商店街の方向から泡を食って逃げ出してくる人々。
「オウ! パニックムービー!?」
 呼び止めて聞いてみれば案の定、従魔らしき目撃情報。赤い汚れが血ではないことに、ひとまず安堵する。
「ワタシ達お人良しダカラ仕方ナイネー」
「ねー。HOPEのいい宣伝になればいいけどねー」
 節約も悪くないが、収入がなければ元も子もない。英雄稼業は明日への飯の糧なれば。目的地は目と鼻の先だ。
「ひかるん。今夜は何食べたい?」
 加賀谷 ゆら(aa0651)が尋ねると、加賀谷 ひかる(aa0651hero002)は顎に指を当てて考える。
「うーん。今日は和な感じがいいかも?」
「じゃあ、白身魚のフライに、厚揚げ……。あとは小松菜の煮びたしとか、お味噌汁つけて。あとは、トマトでも切るか……な……」
 おいしそうな夕飯を思い浮かべつつ、ひかるは前方の商店街へと目を凝らす。が。
「って、気持ち悪っ! 何あれ!?」
 ひかるの顔が青ざめる。目が合ったのは軽快に跳ね回るトマト人間だ。従魔に違いない。
「あそこにいるの、桃組の椿君じゃない? やだー。トマトー? トマトに体―!?」
 鬼気迫る表情で剣を振るうのは、たしかに康広。心なしか、剣筋に迷いが見える。
「椿君とは、わたし、まだ会ったことなかったけど、すごい状況だね。ママ、共鳴いくよ!」
 和テイストの黒いドレスにぽっくり姿のゆらは、薙刀『冬姫』を抱えて戦場へと進み出た。
 ちょうど現場付近を歩いていたエミル・ハイドレンジア(aa0425)にも、HOPEより援軍の要請が入った。
「ん、おうどんが、ワタシを呼んでいる……」
(開店まであまり猶予も無いのだが、よいのか……?)
 要請を受けた彼女にギール・ガングリフ(aa0425hero001)が尋ねる。目指していたのは連日行列の絶えない人気うどん店。こだわりの手打ち麺故、急がねば品切れとなってしまう。
「ん、ご飯の前の、はらごしらえ……」
(……着替えは用意してある、好きにするがよい……)
 移動時の習慣で、彼らはすでに共鳴状態だ。甘美なるおうどんタイムのため、超特急で現場に急行した。
「……せーれ、あのひとたちあたま……とまと…………」
 ラミィリ(aa5113hero001)は呟いた。真っ白な髪に真っ白な服が印象的な少女だ。
「……トマト人間ですね」
 相棒のセーレ・ディディー(aa5113)は無表情に答えた。
「みかくにんせいぶつ……? ……UMA……?」
「……だと面白いですけど…………」
 セーレは歯噛みする。大切な恋人との待ち合わせのため、息を切らしていたというのに。
「……邪魔です……」
「……じゃま……?」
 トマトごときに邪魔される訳には行かない。そしてトマトまみれになる訳にもいかない。彼女は決意を胸にラミィリと共鳴した。

●ここは任せて先に行け!
「仕事で遅れる、先に受付を済ませててくれるか」
 電話越しに荒木 拓海(aa1049)が言った。彼を街コンに誘った友人はもう会場にいるらしい。
「ん、ここがトマト祭りの、会場……?」
(のようだな。実に珍妙奇天烈な輩が見えるものだ)
 人型で、背丈はエミルとそう変わらない。異質なのは頭だけだ。やってきた新手を怪人たちの洗礼――トマト投擲が襲う。エミルが飛ぶ。避けるためではない。その真っ赤な果実を口に収めるためである。
「ん……すっぱ、すっぱ」
 大人でも顔をしかめる酸味が口に広がる。エミルはにゅ~と口をすぼめた。
(まずいなら、吐き出してもいいんだぞ?)
「酸っぱいの嫌いじゃ無いし、平気、平気……」
 一方、相手を怯ませて先手必勝と行くつもりだった従魔は、予想外の行動に混乱していた。怯むどころか、ガン見してくる少女。正体不明、意味不明。咀嚼をやめる気配もない。完全に食材として見られている。
「援軍ありがたいっす! ……どこかで会ったことあります?」
 戸惑う康広にゆらは名を名乗る。彼は心強い援軍に安堵した表情を見せるが、すぐに眉を下げる。
「え!? ライブがあるの? 椿君。ここは任せて、いそいで!」
「でも、戦力が……」
 彼の肩を叩いたのは拓海だった。
「これで避けつつ走れ、済ませたらオレも聞きに行かせて貰うよ」
 康広にスカーレットレインを差し出して言う。
「おっ同業者がいるとは助かるねー」
 そこへ暁とキャスが合流する。HOPEに話が通っていることを聞いて、二人は頷きあう。
「じゃー速攻片付けよう。援護は任せろー」
「バリバリやるヨー」
 アーバレスト「ハストゥル」が展開され、ライヴスの弦がぴんと張られる。康広は拓海に目で促され、踵を返して走り出した。
「とーぅまっ」
 ロック少年の背へと投げつけられるトマトを、拓海はビーチパラソル「マダム・バタフライ」で受け止める。すかさず傘を閉じ、怒りの声を上げる怪人へと不敵な笑みを投げると、石突による二段突きを繰り出した。
「これで……どうだっ」
 後ろへとふらついたトマトの脳天へ傘を振り上げる。重量での叩き潰しこそ、この武器の真骨頂だ。まともに攻撃を食らった従魔は絶命し、熟れすぎたトマトだけが地面に残された。
「トマトは大人しく斬られてなさーい!」
 ゆらの顔に浮かぶのは愉悦。ドレスの裾がひらりひらり、死を呼ぶ黒い蝶のように美を振りまく。
「甘い!」
 気配に振り向いて、薙刀を低く払う。トマト怪人が転倒した。足から流れるのはやはり血ではなく、トマトの汁らしい。刃を突き立てる動きに呼応して、常よりも短く整えられた茶髪がはらりと揺れた。
「人間の体にトマトの頭……ぷっ! できそこないな従魔だなー。笑いすぎて腹いてー!」
 大笑いする那智。刀護は鋭い視線で従魔を射抜く。
「油断は禁物だ。共鳴するぞ」
 那智の姿が消え、長髪の刀護が姿を現す。その瞬間、攻撃する間もなくトマトが顔面にクリーンヒット。
「すっぺ! 超すっぺ! なにこれ!」
 犯人は挑発するように彼を指さすと、背を向けて駆け出す。
「トマトのクセして生意気な……許さねぇ!」
 刀護が周りの者に下がるよう声をかける。発動したのはストームエッジ。複製され、雨のように降り注いだのは、ハイパークールタオル『町中商店街』である。
「とま……!」
 タオルが逃げる怪人ともう一体の顔面を包み込んだ。漂う冷気。トマトシャーベットの完成だ。素早く『双龍のヌンチャク』を装備すると、怪人の頭へ向けて振り下ろした。
「原型留めないくらい、ぐちゃぐちゃになりやがれ!」
 少々、楽しくなってきているのは否めない。
「とまっ!」
「くっ……」
 背中側からトマトの突進を察知し、スカートをひるがえす。優しい恋人の笑顔が脳裏に浮かんだ。
(トマト臭いまま、あの人に会うわけにはいかない……。……でも、トマト臭くても良いよ。と、言ってくれそうだけれども……)
 それはそれで問題な気もするが。めげずにむかってくるトマトに、光の図形を飛ばす。裂傷からトマトの香りが立ち上った。
(……ラミィリはトマト、好き……?)
(……きらいじゃない……とおもう……)
 脳内で問いかければ、そんな答えが返ってきた。好き嫌いが無いのは良い事だ。
(せーれは、とまと……すき……?)
(……そうですね……嫌いではない……ですね)
 膝をつくトマト怪人に追撃しながらでは、説得力がないかもしれないが。
(……じゃあ……おそろい)
 抑揚のない声で紡がれる、無邪気な感想。セーレは同意を示す代わりに、こくりと頷いた。
「あぶなーい……もぐ」
 エミルは、セーレへと投げつけられたトマトを空中でキャッチする。フリスビーをキャッチする子犬が彼女の脳裏に浮かんだ。
「助かります……」
「んん……礼には及ばない……助け合い精神……」
 エミルは相変わらず口をにゅ~っとしながら親指を立てた。
 猫しか通らないような細い路地に潜み、味方たちの戦いぶりを観察しているのは暁だ。
「ふむ、頭潰せばそれで終了ーってわけでもないみたいだなー」
 優先すべきは手足。撃ち抜き潰して、機動力と遠距離攻撃を封じる。トドメは前衛にまかせるか、後回しでいい。戦闘可能な個体を減らすことを優先する作戦だ。
「うーん、ちょっと硬いだけのゾンビ的なやつかな?」
 赤をぶちまけたフィールド。蔓延る異形。あるものはふらつき、またあるものは前のめりに人に組み付く。恐怖と苦笑が浮かぶその様相はまるでB級ホラー。あるいは――。
「……血糊っぽくて、スプラッタじみていて、少し面白い……ですね……」
 怪人が投げたトマトや、従魔から解放された依代トマトが、地面に真っ赤な絵を描いている。足場には気を付けなくては。
「……すぷらった……しらない」
「血がどばー。と言った感じです……ね」
 言葉で説明するより、この現場を見た方が早いだろうか。シュールな見た目で軽減されているが、従魔の見た目がもっと人間に近かったなら放送禁止レベルの惨事だろう。
「とまー」
「おいおい、ゴキブリかよー」
 暁は接近してきたファストショットを当てて、別の建物の影へ。
「体液浴びたくないなートマトの酸味が強化されてるんだったよね」
 もう一言こぼすと、返事が返ってきた。
「いやぁ、意外と……これはこれで……」
 エミルだ。強すぎる酸味が段々と癖になってきたという。
「ん、すっぱい……、もう一個……」
 小さな赤い舌が、口の端についた酸っぱい果汁をペロリと舐めた。

●ダイナミック・クッキング
「潰すように打つべし! 打つべし!」
 刀護はハイテンションで叫ぶ。トマト頭はふらつきながらも果敢に挑んでくる。人であれば大した根性だと称えるところだが、従魔としてはうっとうしいことこの上ない。
「こうなったらみじん切りにしてやる! 頭も身体もぜーんぶ!」
 言ってみたものの、ふと那智は疑問に思う。
(刀護、おまえ、切り方知ってんの?)
(細かく刻めば良いんだろ?)
 つまり適当らしい。どのみちタオルでは不可能なので刀を装備する必要があるか。ヌンチャクを袈裟懸けに振り下ろしながら、思案する。その時、彼の目に飛び込んできたのは、黒いドレスを身にまとった女性だった。
「輪斬りに、拍子木、くし形斬りー! これで晩御飯はばっちりよ!」
(ママ、イヤだよ。こんな晩御飯……)
 ちょっとだけ我に返ったひかるの精神が、こっそりツッコミを入れた。
 白いシャツの袖にしぶきが飛び、拓海は顔をしかめる。そんな中、ゆらは返り血のごとき汚れも気にせず舞い踊る。
「ここは商店街。着替え用の服なら、いくらでも売ってるわ!」
「ゆらさん……! そうだな」
 何に感じ入ったやら、拓海は獲物をハンマーへと持ち替える。
「……行くぞ」
 凛々しく宣言し、まっすぐ突っ込む。
(ちょっと拓海ー!)
 メリッサ インガルズ(aa1049hero001)の悲鳴をBGMに、真っ赤な顔面を叩いて、叩いて、叩き潰す。よそ行きの服がパンクロック風味へと変わっていった。
 セーレはトマトの投擲を辛くもかわす。体勢を整えようと後ろへステップを踏むが、それは叶わなかった。硬いような柔らかいような感触が背に伝わる。
「おーい、大丈夫?」
 暁が言った。セーレは無表情でそちらを見み、からくり仕掛けの人形じみた頷きを返す。痛みはない。ただ、嫌な予感がした。
「ん、平気? なら、そいつはまかせるよ」
 セーレは言葉を発さぬまま、ゆっくりと振り返る。
「とーま」
 顔のない従魔がこちらを見て立っていた。嗤っている、そう思った。あかいつるつるした表皮を流れていく液体。根拠としては十分だ。背中には赤いシミがついていることだろう。
「……急いでいます私は。急いでいるのです……」
「とうちほう……」
 セーレの声は静かなまま。しかし目標を阻害されて、多少気分を害したのだろう。目には獰猛な光が宿った。
「とまぁ……」
「逃がすか!」
 拓海のロケットアンカーが従魔を捕らえる。クローから伸びた線を利用し別の従魔の方向へ引っ張ると、頭と頭をぶつける。
「焼きトマト、好きなひと―!」
 明るすぎる死の宣告は距離の離れた怪人へも、しかと届いた。黒猫『オヴィンニク』が飛び掛かり、燃え盛る足で猫パンチを繰り出す。ついでに尻尾ビンタをサービスすれば、オーブンで焼いたようなこんがりトマト。しかし、食欲がわくことはなく。
「さすがの私も引くわよ!」
 なぜか逆切れする黒衣の麗人。戦況はエージェント側が断然有利。暁の働きで、手足が潰された従魔も目立つ。あと一息だ。
 その頃エミルは、さらなるチャレンジ精神を発揮していた。
「がぶり」
「トマアアア」
 エミルに噛みつかれたまま、上下左右に激しくヘッドバンキングするトマト。
(どうだ?)
「とっても、淡泊……むしろ、無味無臭……?」
 慣性を利用して飛びのいたエミルは、ファルシャ【クロ】を構える。
「ん、見た目に反して、非食用……。ぎるてぃ……」
「豪快に? 食べてる……」
 あまりのワイルドさに、拓海は我が目を疑った。白い頬が果汁で汚れるのも全く意に介していない。ふと思いつく。
「トマトはパックにしても肌に良いそうだ……交代しようか?」
 主導権を交代しリサの姿になれば、効果があるかもしれない。提案は「充分に美肌よ」の言葉で一蹴された。
 しゅるんと空を切る音。ヌンチャクでの一撃をかわしたトマト怪人だが、第2撃は1秒と間をあけず襲ってきた。
「どまぁっ」
 甲高い声が醜く濁る。ぽたりぽたりと雫が垂れる。軽い雰囲気の男はにやりと笑いながら、倒れこんだトマトの前に仁王立ちした。
「よーし、仕上げだなー」
 まともに動ける敵はもういない。暁はシャープポジショニング、そしてトリオを発動し、地を這う哀れな怪物たちを射抜く。頭も胴もハチの巣にしてやると、人型が崩れ、潰れたトマトの残骸が残った。
「……よっし、と。あれで最後かな?」
「グチャグチャにしてやんよ!」
 絶え間なく続く高笑い。みじん切りというより、ミンチと呼ぶにふさわしいトマト怪人だったもの。刀護の満面の笑みはどろりとした赤い液体で汚れていく。
「正義の味方ってなんだっけ」
 悪夢のような光景に、商店街の皆さんは身を寄せ合い震えていた。

●走れ!
 あっという間に殲滅が完了し、一同はほっと息をつく。
「ぉー……、まっかっかー……」
(実に凄惨な現場になってきたものだ……、事情を知らぬ者が見たら卒倒するやも知れぬな)
 真っ赤に染まった衣服を纏い、赤い液体の滴る斧を持った幼女。トラウマ必至である。
「ん、すぷらったったー……?」
 従魔の情報が入った時点で汚れる覚悟はできていた。ギールがコートをバサッと広げると、あっという間にお着替え完了だ。
「皆は用事あるんでしょ? こっちは大した用事でないし、まー、またの機会でよしだから」
 暁はHOPEへの戦闘終了報告を請け負った。
 そうと決まればエミルがやることはひとつ。おうどん屋に向かって全速前進だ。おなかの空き具合をギールが問うが、それこそ愚問である。
「準備万端……うどんは別腹、別腹……」
 ようやく気持ちが固まった拓海は友人へと連絡を取る。
「前回さ、会話の取っ掛かりとか上手かったよ、大丈夫。自分と一緒に相手にも楽しんで貰おうって気持ちで話しておいでよ」
 友人は渋ったが、トマトまみれになった写真を送ったところ一人で戦う覚悟を決めたようだ。
「良かったわね~断る理由が出来て。これで茶番に付き合わず済むわ」
 リサは言う。拓海とのカップル成立を装い、他の者からの誘いを断るのが彼女の仕事だったのだ。
「真剣に参加してる人に申し訳ないだろう」
「どんなのか調べもせず参加したのが悪いのよ~」
「……くっ」
 巻き込んでしまっただけに、それ以上言い返すことはできなかった。
「どうする、ママ?」
 ひかるが聞くとゆらは辺りを見回しながら答える
「着替えて、椿君のライブに行こうよ」
「買い物は?」
「留守番のあの人にメールしたから、何とかしてくれるはず」
 言うが早いか、ひかるの手を引き衣料品店へ。
「おじさんの返事は?」
「まだない。でも、だいじょぶ!」
 数秒で選択を終えたゆらは、試着室内から「着て帰りますー」と声をかける。
「まあ、いっかー! よっし、初ライブ、はじけるぞ!」
 母譲りの判断力を発揮したのか、ひかるも秒単位で買い物を終える。着替えが済むとすでに支払いは済んでおり、肉屋の袋を下げた由良が手を振っていた。
「おやつにコロッケ買ったよー」
「食べる!」
 那智はぐるぐると肩を回す。
「急いでる時に戦闘たぁついてないねえ。さっさと買い物済まそうぜ」
「……この恰好でか?」
 全身トマトまみれなのである。
「みんな事情は知ってるし大丈夫じゃね? それより、遅くなった詫びになんか買っていけば?」
「……しまった、もうこんな時間か!」
 すでに機嫌を損ねた後かもしれないが、那智の案は試してみる価値がある。頷いた刀護の髪からどろりとトマトの中身がしたたり落ちた。
 怒りのさざ波が収まったらしいセーレは、ひとり思案する。
(トマトだらけ、ある意味血糊に見えるこの姿で会うのも、リアクション……面白そうです……)
 好奇心がむくむくとわいてくる。それに。
(そう、ありのままで。気取っても仕方ない……)
 あるがままの自分を、彼は好きでいてくれるのだから。
「……ラミィリ、この儘行きましょう……待たせたら、嫌ですし……」
 歩き出す二人。ラミィリは長い髪をひとすくいして、ぼんやりと見つめる。
「……わたしのかみ、あかくなった……」
「赤髪も似合ってますよ……」
 セーレが言うと、ラミィリは彼女を見上げこてんと首を傾げた。
 拓海は八百屋の店主に頼んで、頭から水を被り汚れを流す。タオルは店主の妻が貸してくれた。
「後で片づけ手伝いますね。今はちょっと急いでて!」
 ゆらたちと合流し、高校へと走る。
「拓海、風邪ひかない?」
「大丈夫。ほら、自然乾燥だよ」
 のんきな顔で髪をなびかせる拓海にリサはため息をついた。
「……そーそー、詳細は追って事務所で。とりあえず後片付けに人員よこして」
 暁が通話を終了する。応援が来るまではヒーロー活動の続きといこう。
「ヤー、真っ赤な海ネー」
「スペインか何かかねー」
 まずは商店街の人達に安全報告、それから掃除、あとは被害状況を纏めてレポートにするくらいだろうか。
「キャスはホース借りてきてー。水まいて排水溝に流そう」
「カシコマリーマスター!」
 どこかの店の老婦人がキャスを呼び止める。
「あんた服汚しちゃったの? だからってそんな恰好はだめよー」
 確かに露出度は高いが、それは彼女の普段着である。
 不思議なことに、刀護たちが立ち寄った店は軒並み代金をまけてくれ、お詫びのスイーツにもたんまりおまけをつけてくれた。店員たちが目を合わせてくれなかった気もするが、気のせいだろう。
「これで完璧だな!」
 那智に言う。刀護もそんな気がしてきた。彼は頷き、家路に着く。喉に引っかかった小骨のような違和感を感じながら。

●勝利の凱歌
「それじゃ、聞いてくれ。『Spring beginner』」
 さわやかなイントロが響く中、4人は体育館へと入り込む。数名だが教師もいるらしく少しぎょっとしたが、拓海はあえて堂々と隣に並ぶ。
「生き生きしてるな。自由で居て目的を持ち動く……懐かしい。自主性を重んじる指導をしてくれてるからこそ、ですね」
 壮年の教師は誉め言葉を素直に受け取り、ぺこぺこと頭を下げる。狙い通り、OBかPTAだと思ってくれたようだ。
「え? 新歓ライブだったんすか? まあ、わたしも転校生だから、問題ないっす!」
 無理のある嘘をしれっとついてしまうひかるは大物かもしれない。ゆらは微笑んでステージを見上げている。
「楽しそうだね、椿くん」
 ギターとベースとドラムで紡がれる凱歌は、耳に心地よかった。



「傘、ありがとうございました」
 康広は頭を下げる。傘のお陰で、服の被害は最小限で済んだらしい。
「ライブすっごくよかったわよ」
 リサが言うと、康広はもう一度礼を言う。
「皆さんが声援送ってくれてるの見えてましたよ。よかったらまた来てくださいね」
 康広たちの撤収を手伝っていると、拓海に連絡が入った。
「あ……街コン上手く行きそうだって」
「参加取り止めに出来て良かったと思うわ」
「うん、同意」
 数分後、商店街に戻った拓海たちは何とも言えない表情を浮かべた。
 『一攫千金』『酒池肉林』という文字入りTシャツと芋ジャージを着せられ、淡々と掃除にいそしむ暁とキャス。そして商店街をアスリート並みの速さで駆けていく二人の大男。その正体がトマトを買い忘れて大目玉を食らった刀護と那智であることを、彼らは何となく察するのだった。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049

重体一覧

参加者

  • ようへいだもの
    鴉守 暁aa0306
    人間|14才|女性|命中
  • 無音の撹乱者
    キャス・ライジングサンaa0306hero001
    英雄|20才|女性|ジャ
  • 死を否定する者
    エミル・ハイドレンジアaa0425
    人間|10才|女性|攻撃
  • 殿軍の雄
    ギール・ガングリフaa0425hero001
    英雄|48才|男性|ドレ
  • 乱狼
    加賀谷 ゆらaa0651
    人間|24才|女性|命中
  • 悪夢の先にある光
    加賀谷 ひかるaa0651hero002
    英雄|17才|女性|ドレ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • その背に【暁】を刻みて
    東江 刀護aa3503
    機械|29才|男性|攻撃
  • 最強新成人・特攻服仕様
    大和 那智aa3503hero002
    英雄|21才|男性|カオ
  • エージェント
    セーレ・ディディーaa5113
    機械|17才|女性|命中
  • エージェント
    ラミィリaa5113hero001
    英雄|7才|女性|ソフィ
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