本部

霧の刃を渡る

影絵 企我

形態
シリーズ(続編)
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/04/30 22:44

掲示板

オープニング

●記憶の形
「そういうことなんだよ。『エイブラハム・シェリング』とは、その人が言っていた通り、姉さんと誓約を結んだ英雄の、世を偲ぶ仮の姿なんだ」
 テーブルを挟んで澪河青藍に向かい合う、白衣を着た少女――仁科恭佳はぴんと人差し指を立てる。青藍は首を振りも頷きもせず、小さく顔を顰めるだけだ。兄も能力者な都合、昔から英雄という存在に触れてきた青藍はそれなりに英雄の境遇について詳しかった。愚神や従魔という世界の脅威と共に現れた異世界の戦士。彼らの記憶は殆ど欠落してしまう。僅かな、彼らのルーツのみを残して。
「今までわかってる英雄の研究成果から根本的に対立してるよね、その結論は。英雄が憶えている事は、自身の名前であり、自身の立場であり、所持品の名前であり……本当に根本的な記憶のはず。それを偽るなんて……」
 コーヒーのカップを傾け、恭佳はいつになく真面目な表情で青藍を見据える。気宇壮大にしてはた迷惑な計画を練っている悪戯貧乳娘の面影はなく、純粋に、天才と評されるに相応しい学者の顔をしていた。
「姉さん、よく考えてみなよ。記憶は別に過去の経験の集積じゃない。皆そんなもんだろうと思いがちだけど」
 青藍は黙り込む。そんな彼女の眼を見つめながら、恭佳は角砂糖を一つ取り、鉛筆でそれを削り始めた。
「記憶は、あくまで脳を駆け巡った電気信号の集積。喩えそれが空想……脳内で自己完結した信号であったとしてもね」
「……回りくどいけど、要するに偽るもクソも無いって、言いたいんでしょ」
「そう。御偉方は格好つけて『英雄が有しているのは魂などに直接刻み込まれた記憶とでも言うべきものである』なんて言ってるけどね、要するに英雄は『そうである自分』、もっと言えば、『そうでありたい自分』としてこの世界に来てるんだよ」
 恭佳の手の中で、無機質な立方体が、少しずつ丸みを帯びていく。
「人間は誰でも、自分であるように記憶をカスタマイズしてる。そしてそのパーツは、自分が経験してきた現実の出来事から引っ張ってくる。だって空想からパーツを引っ張ってきたら、みんなこいつは頭おかしいって言って遠ざかっちゃうからね。だから空想は、記憶としては基本的に定着しない」
「……でも、空想からパーツを引っ張ってきて記憶をカスタマイズする事は不可能じゃない」
 青藍は応える。恭佳はふっと口端で微笑んだ。その手は変わらず角砂糖彫刻を続けている。
「それを偽記憶という。空想を自分の記憶として魂に刻み込むとやらをすることは、不可能じゃないってわけだ」
「エイブさんがエイブラハム・シェリングであるのは……彼が『自分はエイブラハム・シェリングである』と自分に言い聞かせて、それを自分のアイデンティティとして強引に定着させてきたから……」
「そういう事。……まあ全部私の仮説だけどさ。単純に言い聞かせる程度じゃ、こっちに飛ばされたら素に戻るでしょ。でもそれじゃ済まなかった。現に彼は『エイブラハム・シェリング』としてこっちに来ている」
 恭佳は手を止めて溜め息をついた。
「そうでもしなきゃ耐えられなかったんだろうね。きっと」
 彼女は角砂糖を青藍の目の前に置く。臆病そうなハツカネズミが、青藍をじっと見上げていた。

●剣の刃を渡る
――情報を元に探査を行った結果、従魔の襲撃を予知することが出来ました。本日夜に『ミザリー』と仮称された従魔に非常によく似た個体が2体同時に出現します。いずれも、ケントゥリオ級下位と分類するに相応しい実力を持っているようです。気を付けてください。付近には件の愚神も潜んでいるようです。これを叩く事も不可能ではありませんが、この個体もケントゥリオ級中位相当の実力を有していると予想されます。ケントゥリオ級三体を同時に敵とする事は非常に危険ですので、注意して任務に当たってください。
 また、今回の予知はほぼ百パーセントの精度と言えますが、その代わり少しでも状況を転じてしまうと、それがきっかけで予知したはずの未来が変わってしまいます。……なので、前もっての避難誘導は行うことが出来ません。行った場合、従魔や愚神の襲撃地点もそれに応じて変わってしまうからです。ですので、避難誘導は襲撃を確認してからとなります。
 剣の刃を渡るような、非常に難しい依頼です。が、皆さんならばきっとやり遂げてくれると信じています――

 夜となり、人が増えつつある歓楽街。君達は通行人に紛れ、襲撃が起きるといわれる路地の側にて従魔を待ち構えていた。未来を変えずに準備を進められる限界が其処だったのだ。あと五分だ。
 持ち場についたエージェント達の中には、澪河青藍も混じっていた。参加したエージェントの中には彼女らの状態を不安視する者もいたが、愚神を討ち切ることが出来ず招いた現況を見過ごすわけにはいかないという彼女の真剣な思いを無碍にすることも出来ない。同じような思いを抱える者もいたからだ。結果、不調を起こしたら迷惑をかける前に撤退するという条件付きで、エージェント達は彼女を戦列に加わる事を許したのだった。

 一人のエージェントが、青藍の横顔を窺う。彼女は神妙な面持ちで、手の内に幻想蝶を握りしめて立っていた。本当に大丈夫なのか。そのエージェントは青藍に尋ねた。
「ええ、大丈夫です。皆さんに色々と言われて、私もちゃんと心の整理をつけてきましたから。考えるのは後です。今は目の前の敵を、エージェントとして倒します」
 彼女は微笑みそう言った。その表情は強い。だが、エージェントは心配だった。どうにも胸を針でつかれるような、厭な心地がする。

 何か、起こる。そんな気がした。

 しかしその予感を伝える前に、時は訪れた。マンホールの蓋が開き、“それ”は姿を現す。エージェント達は共鳴し、敵と対峙した。
 青藍もまたエイブラハムと共に並び、共鳴しようとする。だが、彼の眼は僅かに濁り、戦意も薄い。心が曇っているのだろう。
『……セーラ。私は一体何者なんだ。私は本当にエイブラハムなのか』
「その証を立てるために戦うんです。……私がサポートしますから。エイブさんが戦ってください。……そうすれば、貴方が何者なのか、見えてくるはずです」
『……』
 青藍は小さく微笑んだ。
「ミディアンハンターのくせに、怖いんですか? ……大丈夫です。貴方が何者だとしても、私の相棒には違いありませんから」
『……そうか』
 二人は共鳴する。夜のように黒い外套をエイブラハムは身に纏う。中折れ帽を目深に被ると、深紅の眼がアンタレスのように輝いた。
『ならば……私は戦う』
 エイブラハムは天津風を抜き放ち、エージェントの隣に並ぶ。この世に現れた、ミディアンハンターとして。





「さぁ……いい加減思い出してくれよ……俺だけ憶えてて、お前はすっからかんなんてのはふざけてるじゃねえか? なあおい……」

「ウォルター=ドルイット!」

解説

メイン:ミザリーⅢ型、Ⅳ型の討伐
サブ:付近の人々を鎮静、避難誘導する

従魔ミザリーⅢ型、Ⅳ型
ケントゥリオ級
ステータス
Ⅲ型 物防B、魔防B、生命C、その他D以下
Ⅳ型 物攻B、魔攻B、生命B、その他D以下
スキル
・恐怖
 おぞましい容姿から洩れるライヴスは、対面するものの心身を縛り付ける。この愚神との戦闘時、移動力とイニシアティブは-2される。
・吸血
 物理攻撃。ランダムに一体対象。命中した場合、与えたダメージ分生命力を増加させる。この攻撃は最終ダメージ値に+5される。
・呪いの悲鳴
 魔法攻撃。全体対象。回避不可。防御に失敗した場合、減退(2)を付与する。

unknown
―PL情報―
名称:夜霧
脅威度:ケントゥリオ級
スキル
白昼霧 全体。1Rの間命中したPCの視力を奪い取る。プレイングで回避可。
Warning!
 この愚神とエイブラハムが遭遇した場合、エイブラハムは意識混濁を起こして共鳴が維持できなくなり、実質戦闘不能になる。愚神を捜索する、あるいは両ミザリーの撃破で発生。
―PL情報ここまで―

フィールド
歓楽街
要するに夜の街であり、深夜に近いが人通りが多い。
・プリセンサーの予知した未来を確立させるために避難誘導などを行えずにいたため、このまま放置していては混乱が波及する。
・誤射の危険性がある為人々を避難させるまで銃火器の使用は控える事。
・裏路地に押し込めて戦うと周囲への混乱は最小限となるが接近戦が難しくなる。
・広い道路で戦うとポジショニングなどは楽だが周囲の混乱が著しい。

NPC
・澪河青藍
ステータスなどは前回参照。妹分の恭佳と共に、エイブラハムの正体を探し求める事を決意する。
・エイブラハム・シェリング
ミザリーとの戦いの中で徐々に異常を来し始めた青藍の英雄。

Tips
・夜霧は今回エージェントと戦闘する気は無い。煽りに来た。
・ミザリーはそれぞれ別の場所から出現する。対応のためには人手を分ける必要がある。

リプレイ

●霧立ち上る
 カチカチと時計の針が動く。アイリッシュパブのカウンターに陣取ったカグヤ・アトラクア(aa0535)は、クラフトビールの入ったグラスを傾けつつ、蜘蛛の装飾が付けられた腕時計に目を下ろす。
 もうすぐ、予定の時になろうとしていた。
「さぁて、華麗に剣の刃を渡るとするかの」
『……ぐぅ、ぐぅ……』
 おさぼり半分真面目半分といったところなカグヤの横で、フィッシュアンドチップスを平らげたクー・ナンナ(aa0535hero001)はすっかりおねむだった。カグヤは顔をしかめ、その頬をひたひたと叩く。
「夜だからといって寝るでない! もうすぐなんじゃぞ」
『ふぇ……もうなの……』
「ああ。来るぞ。死に損ないの化け物めが、地面から上がってくるぞ」

「……じゃあ、誰でもいいから絶対に離れない事。孤立はやめてくださいよ」
 桜小路 國光(aa4046)は改めて青藍に釘を刺す。彼女は苦笑しながら小さく頷いた。
「わかってます。流石に今そんな無茶をやる勇気もないですから」
「六花もいるから大丈夫よ!」
 既に共鳴を終えた氷鏡 六花(aa4969)が、青藍の腕を掴んで己の下へ引き寄せる。彼女の纏う冷気に触れて一瞬ぶるりと震えあがった青藍だったが、微かに喜びの色を浮かべる。
「……そうね。ありがとう」
「あと一分だ。桜小路、もう動け」
 一ノ瀬 春翔(aa3715)もまた、影に抜身の妖刀を隠して路地を窺っていた。勝負は一瞬となる。一分のミスも許されない。彼はシャドウルーカーとして、神経を極限まで張り詰めていた。國光は頷くと、相棒のメテオバイザー(aa4046hero001)と歓楽街の雑踏へ向けて走り出す。
『(記憶、か……)』
 記憶を持たないメテオにとって、今宵の事件は複雑な思いを抱かせる。空を見れば、うっすらとかかる霧で月は覆い隠されていた。

「光縒さんは、自分がどんな英雄だったかって、気になったりはしないの?」
『愚問ね。私であったものが私でなくとも、今の私が変わるわけではないわ。大事なのは今、私が何者かということだけでしょう』
 刻が満ちる。戦いの準備を進めながら、天宮城 颯太(aa4794)と光縒(aa4794hero001)は隣り合わせでぽつりぽつりと言葉を交わす。彼らはビルの屋上から路地を見下ろし、奇襲の機会を窺っていた。
「でも、ちょっと気になるんだ。光縒さん、割と地雷ワードあるし、昔の記憶みたいなのがあると思うんだけど」
『地雷ワード……? 例えば?』
「胸が無――」
 呟きかけた颯太の頬に、フォーチュンダイスを握りしめた光縒の拳が炸裂する。
『それは記憶関係ないでしょ。殴るわよ』
「もう殴ってるよね……?」
 その時、颯太のポケットが震える。スマートフォンが開戦の刻を告げたのだ。二人は目配せすると、二人揃ってふわりとビルの塀を乗り越える。刹那、二人の姿は融け合い、一つとなる。
「(……あとは恋人のこと、もだよ……)」

――従魔が出現しました。従魔が出現しました。直ちに屋内へと避難してください。繰り返します――

 屋外のスピーカーから声が響く。そこにマンホールを開いて現れた、首も顔もずたずたに裂かれ、腹を引き裂かれて臓腑が露わの無残な死体。見ているだけで身が総毛立つ姿だったが、六花はそんな恐怖を己の中で蔓延る前に凍てつかせる。
『(寒さを厭わず……)』
「(雪を愛ず!)」
 アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)と息を合わせ、両手を差し伸べる。その瞬間に六花の背中には氷の翼が生え、白銀の冷気を放つ。
「凍れる闇の内に、消えて!」
 放たれる絶対零度の闇。眼にも映らぬ冷気の刃が、ぼろぼろなミザリーをさらに切り裂く。突然の奇襲に仰け反ったところを、さらに春翔が刀を構えて突っ込んでいく。
『綺麗に壊して貰えなくて、化けて出ちゃったかな?』
 アリスが挑発的に言葉をミザリーにぶつける。その言葉――というよりは語気に反応したミザリーは反射的に数歩後ろへと後退る。刀を上段に構えた“本物の”春翔が背後に立っていることなど気付かずに。影に潜むペテン師の本領だ。
「悪いが、こちとらコレが得意分野、なんでな!」
 全力の袈裟切りをミザリーの肩口から腰に掛けて見舞う。背筋をぶった切られた従魔は引き延ばされたゴムが戻るように、身体をくの字に折り曲げる。その懐へ潜り込んだエイブは、天津風をミザリーの肋間に突き立てる。
『お前に恨みは無いんだ……だが、お前をこの世界にのさばらせてはおけない』
 そのまま刃を返して翻り、背後にミザリーを投げ出す。そこに向かって、斧槍を高々と振り上げた颯太が飛び降りてくる。
「どうせ数が出てくるなら、もっと可愛かったらよかったのにな……!」
 重力加速を乗せた強靭な斧がミザリーの頭をかち割る。さらに槍で心臓を一突き、ピックで心臓を掻き出した。仮初の生故の図抜けたしぶとさがあるといっても、全力を傾けた四連撃を貰えば形無しだ。手も足も出せぬまま、断末魔の声さえ上げられず、ミザリーは絶命して消えた。
「ま、こんなんだから躊躇せずに攻撃できるんだけどな」
「よし。まさかここまでうまくハマるとは思ってなかったな……」
 ミザリーが跡形も残らず消え去ったのを確かめた春翔は頷く。
「残るはあと一体ね!」
「行きましょう。片づけるのが早いに越したことはありません」
 エイブの首筋から青藍の声が響く。三人は頷くと、ミザリー3型の現れた場所を目指して走り出した。

●四つの殺人
 劈くような悲鳴が、壁越しで屋内にも響いてくる。中に逃げ込んできた人々はその声に震え上がるが、恐怖のあまり異常を来す者までは現れない。建物の中に構えて住民保護の準備を進めていたカグヤが、ライヴスで作り上げた聖域で呪いを防いでいるのだ。
「うむ。耳を塞いで奥に身を寄せておるのじゃ。そうすれば従魔はこちらに手出しなど出来んからの」
『(一応一般市民の護衛は真面目にやるんだねぇ)』
「(人を助ける事じゃからな)」
 バーの真ん中に立ち、いかなる状況にも対応できるように構えるカグヤ。従魔を退けるに足る頭数は揃っている。ならば自分まで前線に出張る必要はなく、裏方にいればよい。蜘蛛を信奉する、彼女らしい考えだ。

『あのビルの中へ向かうのです! 建物の中に入れば安全ですから!』
 メテオは避難指示の放送を聞いたまま外でまごついている女子達の背中をぐいぐいと押してビルの中へと向かわせる。4型撃破の報は既に聞いたが、未だケントゥリオ級の愚神が近辺に潜んでいるらしいという噂だ。油断は出来ない。

『いかんいかん。そっちはいかん。野次馬根性なんて発揮しとる場合じゃない』
「あ、あ。わかった。わかったから……」
 ノエル メイフィールド(aa0584hero001)は建物の外へと顔を出そうとしている男を中へと押し戻す。ただでさえ力が強く、ついでに多少重いときては男でも勝てはしない。不満そうな顔をしながらも暗がりの中へと去るしかなかった。

「こちらに入ってはいけませんわ。怖い怖い死神従魔が現れて、貴方の首を刈り取ってしまうかもしれませんもの」
 路地裏に逃げ込もうとしていた青年の前に、シスター服姿のヴァイオレット メタボリック(aa0584)が立ちはだかる。言われなくとももう路地には進めない。その横幅が完全に道を塞いでいるのだ。メタはその肩をがちりと掴むと、回れ右させて傍のビルへと向かう。
「まずは、ここから離れますわよ」
「あ、ああ。はい……」

「大丈夫です。落ち着いて、先ずはあのビルまで行きましょう。焦らずに!」
 通りの真ん中に立った國光が、なおも道でまごついている通行人に向かって呼びかける。対応が上手く行ったのか、3型が通りに出てくる気配は無い。無いが、しっかりと避難を済ませるに越したことはない。
「桜小路!」
 そのうち、霧の立ち込める通りの奥から春翔達が駆け込んでくる。
「春翔、そっちはもう終わったのかい?」
「終わったから来たんだろ。3型の方は」
「押し込みは上手く行ってるんだと思う。ただ、どっちもパワーで叩き潰すってタイプじゃないから戦いは終わってないだろうね」
 國光はじわりと濡れた額を拭う。徐々に霧は濃くなりつつあった。万全の作戦を練っては来たが、一抹の不安を抱かせる天気だ。春翔は國光の肩を叩くと、擦れ違うようにして走り出す。
「だな。先に合流してる。頃合い見てお前も合流しろ」
「わかってる。じきに向かうさ」
 國光は擦れ違う仲間達を見送る。紅の青年、羽衣の少女、礼服の少年。その後に続く、黒装束の男。その紅の瞳が、微かに國光を捉える。國光はその視線には応えず、ただ霧の中へと消える彼の背中を見つめるのだった。

「コイツ……しぶといなぁ」
 志賀谷 京子(aa0150)は裏路地の中でよろよろと蠢く3型を前に溜め息をつく。その姿に傷は殆ど無い。心臓を一突き、首をすっぱりと裂かれただけだ。しかしその分死体の体力は有り余っている。投げたナイフで彼方此方を切り裂いても、気にした風もなくそれは迫ってくる。
『損壊が無ければ無いで、また厄介ですね……!』
 アリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)は軽く唸る。倒れ込むように襲い掛かってきた3型の胸元を素早く蹴飛ばし後退させる。古着を継ぎ合わせたようなドレスの胸元に靴跡が刻まれた。
「この世に悪の栄えた試しなし!」
 路地の反対側から素早く切り込んできたユーガ・アストレア(aa4363)は、恐怖を吹き飛ばす叫びと共に、3型の頭を斬りつける。全身のバネを器用に生かし、刃の切れ味を十全に発揮させる華麗な剣閃。傷口は裂け、血の雨と脳漿が飛ぶ。
「これが正義の刃だ!」
『影の刃は正義らしくないような気もしますが……敵を制するにはこれが一番ですわね』
 平常運転なご主人様にカルカ(aa4363hero001)は一言申しつけそうになったが、取りやめにしておく。刃が主役でいられる機会など早々無いのだ。今宵は存分に戦っていたい。
「――!」
「そんなもの効かないよ!」
 喉の傷口を塞ぎながら放つ、呪いの悲鳴。放たれるライヴスの波動を刃で切り裂くと、ユーガは己の周囲に次々と呪われた刃を生み出していく。
「悪は速やかに断ぁつ!」
 踊るように身を翻し、その勢いで周囲に浮かべた刃を3型に叩きつける。全身が膾切りにされ、じわりと血が溢れてくる。それでもしぶとく耐える従魔に、京子は更なる攻撃を浴びせた。
「これでどう?」
 飛んだダガーは従魔のアキレス腱を捉える。足元を掬われたミザリーは、ぐらりと傾いでその場に崩れ落ちた。
『このまま畳みかけてしまいましょう』
「ええ……!」
 そこに春翔達も合流する。既に武器は抜き放ち、いつでも攻撃できる構えだ。
「避難は概ね済んでる! 遠慮なく撃て!」
「畳みかける準備は出来てるからな!」
 春翔と颯太が並んで武器を構える。頷いた京子は、幻想蝶から拳銃を取り出し、高く宙に舞い上がる。
「……それなら!」
 宙返りざまに放たれた弾丸は、起き上がろうとするミザリーの肩口を撃ち抜く。よろめいた隙をついて、春翔がミザリーの懐に滑り込む。さらに背後へユーガも迫る。
「正義の一太刀!」
「さっさと決めさせてもらう!」
 次々に斬りつけ、二人は脇へと躱す。その隙を縫って、斧槍の先端を颯太はミザリーへと向かって突き出した。
「いい加減、見飽きたんだよ!」
 穂先はミザリーの鳩尾を捉え、颯太はそのまま力任せにミザリーを上空へ投げ上げた。身動きの取れないそれに向かって、六花は手を差し伸べる。
「これでおしまい!」
 鋭く飛ぶ雹の弾丸。その一撃はミザリーの頭部を捉え、柘榴のように吹き飛ばした。同時にその全身は爆ぜ散り、消える。驟雨のように降り掛かる血も、瞬く間に霧の中へと紛れ消えていく。刀を鞘に納め、アリスは力強く頷いた。
『ようし。予知さえ出来てれば、ケントゥリオ級だろうと恐れるに足らず!』
「まあ……ね。ここまでは上々かな」
 しかし、京子は拳銃のマガジンを取り換え、まさに闘える準備を整えていた。彼女にとっては、否、この場にいる全てのエージェントにとって、ここからが本番だった。春翔はすぐに真剣な表情を取り戻す。
「……ああ。報告書にも書かれてたっけか」
『ああ、あるぞ。……いつもこの戦い、“奴”が見ておるからのう』
 そこへやってくるノエル。既に共鳴を終え、戦闘準備は万全だ。エージェント達は武器を構え直し、広い路地へと出て周囲を油断なく窺う。何処からでも来るがいい。青藍のサポートでともかく安定を保っていたエイブラハムも、懐に隠したナイフの状態を確かめながら路地の奥へ目を凝らす。

「――おやぁ。もう終わってしまったんですか。流石はこの世に蔓延る“化け物”の皆様方だ。仕事が早い早い」

 ぱらぱらと乾いた拍手をしながら、霧の奥から一人の男が現れる。白いスーツの上から白いトレンチコートを纏い、白い中折れ帽を被ったその男。それはまるで、今のエイブラハムと正反対の姿だった。彼は歯を剥き出すような笑みを浮かべると、懐から一冊の本を取り出す。

「こんばんは、エイブラハム・シェリング……貴方にお土産があるんですよ」

 そう言って男は懐から一冊の本を取り出し、エイブに向かって投げ寄越す。ブラム・ストーカー、『ドラキュラ』だ。

「Abraham Helsing……いやあ。似ていると思いませんか。貴方が大好きだった本の主人公の名前に。……なんて言いましたっけ。確か……」

「……ッ!」

 刹那、Abraham Schellingは目を見開いた。融けていく。己の存在が。いない。エイブラハム・シェリングなどいない。

 いるのはただ、ゴシックホラーの強き主人公に憧れた、タダのヒト。

――モドキ。

「ぐあああッ!」

●Identity Crisis
 重なり合う二人の魂が剥がれる。弾き出された青藍は、ゴミ袋の山に叩きつけられた。その場に倒れたエイブ――であった者は、叫んで七転八倒を繰り返す。僅かに見えるその顔は、エージェント達が知る彼の姿とはかけ離れていた。痩せぎすの体格こそ変わらぬものの、その顔は気難しい男の顔ではない。儚げな美しさを持つ、女とさえ見紛う優男の顔だった。彼を知る六花は、真っ先に目を見開く。
「……え?」
「あ、ああっ! ぐうぅっ!」
 口元に泡さえ噴きながら、男はもがく。それを見つめ、コートの男――愚神は満足げに微笑んだ。
「思い出しましたねぇ。その苦しみ。とっくに化け物の癖に、人間でいようと足掻くから、全身が灰になりかかってしまうんです。どうしてですか。どうしてそんなに“人間”であろうとするんです。“ウォルター”さん?」
 男はわざとらしく蹲る男――ウォルターの肩に手を載せる。
「ぁああっ!」
 刹那、彼はバネのように跳ね、もんどりうって地面に倒れ込んだ。脂汗を流し、彼は芋虫のように転んで呻く。
「おバカさん。どんなに血を吸う事を拒んだって、あんたはもう人間にはなれないんだ。あんたはもう吸血鬼なんだから。あんたが憧れていたエイブラハム・シェリングのようにはもうなれないんです。ちょっと違う世界に来たからって、夢見過ぎですよあなた」
「貴方……一体何したの!」
 現れるや否や慇懃無礼に好き勝手言い並べる男に、六花は迷わず氷の炎を叩きつけた。しかし男はその姿が少し揺らいだだけで、欠片も動揺する気配を見せない。牙のように尖った歯をちらりと見せ、男は肩を竦める。
「おやおや。怖いですねぇ。今時シリアルキラーなんて流行りませんよぉ?」
「ふざけないで。六花は、人なんて殺さないわ……殺すのは愚神や従魔だけよ!」
『(……)』
 怒りを募らせる六花の奥で、黙り込むアルヴィナ。復讐の炎が揺らがないよう、アルヴィナはこっそりと受け止める。
『(愚神や従魔もまた、いずこかでは……)』
 愚神はくすくすと笑い、エージェント達をぐるりと見渡す。いつの間にやら、彼はバタフライナイフを手にしていた。カチリ、カチリと弄びながら彼は勝ち誇った色を交えて語る。
「いやいやいや。私この世界に来てから一年経ちますが、じぃっと貴方がたの事を見させて頂いたんですよ。……ろくなもんじゃないですね。どいつもこいつも狂った人殺しだ」
〈やれやれ。好き放題言ってくれるのう〉
 その時、ゴミ袋の山の中に沈んでいた青藍のところからカグヤの声が響く。かと思えば、不意に壁を突き抜けて数多の幽霊が現れ、愚神を包み込む。
「お、お前は……」
〈……わらわは人など殺したことなぞないぞ。死者はいくらでもこき使うがの〉
 どうにか立ち上がった青藍の肩から尚もカグヤの声は続く。カグヤお手製の蜘蛛型“ムシ”が、真っ直ぐに愚神の姿を捉えていた。愚神を包み込んでいた死霊は、ふわりとその姿を失う。しかし、相変わらず愚神だけは平然と立っていた。
「困ったなぁ。実際に殺したか殺してないかなんて、大した問題じゃないんですが……私が問題にしたいのはですね。あんた方の狂ってしまった可哀想な心の方なんです。あなた方は平気で愚神を傷つける。まるで虫けらみたいな扱いじゃないか。犬や猫は傷つけたらだめだというくせに、それより賢い愚神にはなにしたっていい。この価値観のどこが狂ってないって言うんです?」
「……そうですか。じゃあもっともっと語り合う事にでもしましょうか、愚神さん」
 その背後に、ふと一人の青年が立つ。信頼を置く仲間を苦しめた愚神への怒りが、怜悧な瞳を、両手の双剣を、共に冷たく輝かせる。
「お互いに狂った者同士ということで……!」
 渾身のライヴスリッパー。しかしその刃は空を切る。愚神の身体は霧のように虚ろで、國光はすり抜けてしまった。慌てて身を翻すと、相変わらず愚神は嫌らしい笑みを浮かべている。
『……何の小細工ですか』
 メテオの声もいつになく引き締まっている。愚神は軽く右足の先で地面をかつかつやり始め、首を傾げる。
「さぁ? ……ま、一番やりたいことは終わりましたし。そろそろお暇でもしますよ。その哀れな哀れななりそこないの面倒でも見てやったらどうです」
 愚神は余裕綽々でそんな事を言うと、エージェントへ向かって右手を差し出す。――その瞬間を、京子は見逃さない。

「はいそうですかって……帰すと思う?」

 放たれた弾丸は、愚神の右手を的確に捉えた。白霜が手を凍らせ、愚神は呻いて手をぶんぶん振る。
「アイタタッ! ……ほらほら。すぐこれですよ。私だって痛みを感じるんです。なのに躊躇が無い――」

「当然! 正義の行使に、躊躇など必要ない。何故なら正義だから!」
『人も殺せぬ刃に価値はありませんわ。御主人様の望むまま、人を殺し、神を殺し、全てを斬り捨てるのみですの』

 足下で転がり呻くエイブラハムを脇へと放り、ユーガは愚神の言葉を遮る。そのまま一歩前に飛び出すと、愚神に向かって刃の雨を浴びせた。しかしその身体は再び霧のように揺れ、一本の傷もつけられない。
 まるで霧雨でも浴びるかのような調子で刃を浴びながら、ふと愚神は表情を歪めた。その目に怒りと狂気が表出する。

「あ? それマジで言ってんのかテメェ」
「本性を見せたな! 挑発も小細工も、正義の前には意味など無いというわけだ! その無敵の秘密も、今すぐに暴いてやる!」
 言葉のドッジボール。ユーガは端から愚神の言葉に耳を貸す気など無いのだ。それがこの愚神には全く気に入らない。ナイフを取り出すと、一気にユーガへと迫った。
「テメェみてぇのが一番気に入らねえんだ! 正義なら人を殺してもいいだァ? 舐めんじゃねェ!」
 渦巻く激しい殺意。バタフライナイフが夜霧の中で歪に輝く。
「(……まずい!)」
 國光は素早くユーガと愚神の間に立ちはだかった。一息に放たれた五連斬が國光を襲う。急所だけは守るが、腕も太腿も腹も次々に切り裂かれ、國光は思わず膝をつく。
「く……」
「許される殺人なんてねぇ。そういうお為ごかしが一番クソだ! 俺の女も殺された! 吸血鬼だから殺された! 仕方ないって殺された! そこのウォルターにな!」
 ひたすらに喚き散らし、肩で息をしながら、愚神はギラギラと金色の瞳を輝かせる。
「……なぁおい教えてくれよ……仕方ないで済まされた人間はどうなればいい!」
 愚神が叫ぶと同時に、不穏な重力が一帯を包む。ライヴスが愚神に向かって吸い寄せられていく。その中で、春翔とアリスは平然と立っていた。怒る愚神を冷徹に眺め、肩を竦める。
「なるほど。要するに、暴力を振るうって狂気を、理論武装で正当化するなって事か?」
『ふっふーん。なるほどねぇ。……うむ。心底どうでもいい!』
 アリスは愚神の言葉を一蹴した。端から自分達が正義と言い張るつもりは無い。自分の強さを磨くため、その磨いた強さで何かを手に入れるために戦っているだけなのだから。
「なら堂々と暴力振るわせてもらうぜ。それなら文句ねぇよな。……っと。一つ言っておく」
 刀を振るい、切っ先を愚神の喉元へ向ける。
「この世界じゃ……紛れも無くお前はバケモノで、俺達が人間だ」
『そこんとこ、よろしくッ!』
 素早く迫り、袈裟に斬りつける。愚神は再びふわりと揺らぎ、刃を透かす。鋭い視線を青藍の方へ送りつつ、再びにやにやと笑い始めた。
「その態度……お前らは嫌いじゃねえがそう簡単にはやられねぇよ。そこの女に痛い目見せられたかんなぁ。じっくりじっくり準備してんだ」
『ふむ……何かの仕掛けというわけか』
 青藍を背に庇うノエルはあくまで冷静だった。人殺しと煽られようと、化け物とけなされようと、今更気にする事も無い。
『それよりも一体何がしたいんじゃ。全てはエイブラハム・シェリング――』
「ウォルター・ドルイットだってんだろ!」
 愚神は喚いて訂正させる。ノエルは僅かに顔をしかめつつ、それでも冷静を保った。
『……ウォルターに記憶を取り戻させるための策ということか? 途方も無いのう。一体何のために』
「何のため? 決まってるだろ! 俺は愉しみてェんだよ! そいつ自身が大嫌いらしい化け物になって、大嫌いらしい殺しをこれでもかって繰り返すようにして、それを見て俺は愉しみたいのさ! これほど滑稽な事なんてねえだろ? ……考えただけで笑えて来るよなぁ?」

「笑えない!」

 京子は突っぱねる。銃を構えて引き金を引く。その弾は途中で消え去り、愚神の死角から襲い掛かる。しかし効果はさっぱりだ。
「(……さっきは当たった……何かあるはず……)」
「ったく野蛮だよなぁ……人間と呼べるのは虫けらまでしか殺せない奴だけだってぇの。後は正真正銘化け物だ。人間なんて呼べやしねぇ。虫けらも殺せないバカも、畜生だろうと人だろうと殺せる狂人もな。他人事みてぇな面してんなよ、テメェ。お前も狂ってるんだよ。価値観が狂ってる。転倒してる。そういうのを化け物って言うんだ。化け物ってのは、吸血鬼とかそういう奴の事を言うんじゃねえ」
 愚神は京子を睨む。しかし彼女は怯まない。胸を張り、堂々と愚神に向かい合う。
「あなたがそう思うなら思えばいい。それはあなたの自由だから……でも、わたしのあり方はわたしが決める。あなたなんかに決めつけられたりしない」
『この誇りと覚悟をお前は毀損した。……許されると思うなよ、愚神』
 アリッサは確かな怒りを込めて言い放つ。だが愚神は欠伸交じりでどこ吹く風だ。
「なぁにが誇りと覚悟だ。うざってぇ」
『……まぁ、全体的に愚神が言ったところで、というところだけれど』
 ふと、颯太の共鳴が解ける。突然の事に慌てる颯太をよそに、光縒はその姿を現し、じっと愚神を見据える。
『確かに私は化け物かもしれないわね。そこは否定しないわ』
「否定しないんだ……」
『ええ。化け物を殺せるのは、それを上回る化け物だけよ。愚神を殺すためなら、私は悪鬼にだってなるわ』
 とうとうと、無感情に紡がれるその言葉。狂気を前面にしていた愚神の顔が、ふと神妙に緩む。
「……ああ、そうだよ。こいつも、そう開き直るってんなら。俺もこうはならなかったろうなぁ」
 一瞬流れる、沈黙。古雑巾のように、エイブラハム――否、ウォルターは横たわっていた。虚ろな目で、肩で息を続ける。そんな姿を横目に、血塗れの青年はゆらりと立ち上がる。
「話はもう、十分ですね……?」
 國光は、傍に落ちていた天津風を足で蹴り上げ手に握った。刹那、その切っ先が淡く光った。太刀風一陣吹き荒れて、路地に押し寄せる霧が後へと引いていく。見た愚神は、やにわに苦虫を噛み潰した顔をする。
「……チッ。面倒くせぇ」
 身を翻すと、愚神は脱兎の如く駆けた。

「待て……!」

 エージェントは追いかける。

 しかし間もなく、それは霧に紛れて見えなくなった。


続く

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • LinkBrave
    ヴァイオレット メタボリックaa0584
    機械|65才|女性|命中
  • 鏡の司祭
    ノエル メタボリックaa0584hero001
    英雄|52才|女性|バト
  • 生命の意味を知る者
    一ノ瀬 春翔aa3715
    人間|25才|男性|攻撃
  • 生の形を守る者
    アリス・レッドクイーンaa3715hero001
    英雄|15才|女性|シャド
  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046
    人間|25才|男性|防御
  • サクラコの剣
    メテオバイザーaa4046hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • 絶狂正義
    ユーガ・アストレアaa4363
    獣人|16才|女性|攻撃
  • カタストロフィリア
    カルカaa4363hero001
    英雄|22才|女性|カオ
  • エージェント
    天宮城 颯太aa4794
    人間|12才|?|命中
  • 短剣の調停を祓う者
    光縒aa4794hero001
    英雄|14才|女性|ドレ
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
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