本部

歌詞作りのための徹夜お菓子パーティ

高庭ぺん銀

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
寸志
相談期間
5日
完成日
2017/04/22 19:47

掲示板

オープニング

●急募:歌詞
 かしがないんだよ! 放課後の教室に響いたのは悲痛な叫び。
「ボーカルが無駄に叫ぶなよ。鍛えてる分うるさい」
 黒髪の少年が低く深みのある声で言った。彼の名前は直人。とあるバンドのベーシスト。
「すまねぇ。取り乱した。……くそ、後は歌詞だけなのに……」
 言いながら着席したのは椿康広(az0002)。同バンドのギター&ヴォーカル担当。
「ていうかさ、ティアラさんに頼めばよくない? 意地はってないでさー」
 180cmをゆうに超える長身と垂れ目が印象的な少年が言うと、康広はうっと言葉を詰まらせる。
「喧嘩中なんだよ……」
 原因は彼女の引きこもり癖を直そうと、強く説得しすぎたことだ。
「僕も一緒に謝ってあげるよー?」
 康広はようやく彼の意図を察する。
「純、ティアラに会いたいんだな?」
「はは、そうとも言う」
 長身の少年――ドラム担当の純は眉をハの字にしてへらりと笑った。
「今回の新歓ライブは、俺たちの結成ライブでもある。できれば自分の力で書きたかったが、もう時間がない」
 去年は康広と純、そして卒業した先輩の3人でバンドを組んでいた。最初から先輩は卒業を機にバンドを去ると公言していた。それは康広の夢に同乗する気はないという意思表示でもあった。
(「友達の友達のそのまた友達」が俺とか言っていたな。あいつ、俺が初心者だってことも聞いていたらしいのに……)
 いきなり教室に入ってきた初対面の同級生。その第一声は――。
(『俺と一緒に世界を目指そうぜ』か。我ながらよくOKしたものだな)
 直人はため息をつく。けれど、康広の言葉を否定する気持ちはないようだ。
「それで、どうするつもりだ?」
 康広と純は同時にぐっと親指を立てた。
「今度の週末、椿の部屋に集まろう。三人寄れば文殊の知恵だろ」

●徹夜作業は青春の証
「で、どうしてこうなったんだ?」
 直人は問う。康広の部屋に入ると、明らかに10人以上呼ぶ準備ができていたのだ。
「俺を含め、みんな作詞は初心者だからな。3人じゃ知恵が足りないかと思って、声かけて見た」
 ちなみにこれは報酬、と康広が示したのはローテーブルいっぱいに置かれたお菓子の山。
「皆、もうすぐ到着するってさ。それから、ここでバンド名も決めちまおうぜ」
 テーブルに並べられる3枚の紙片。

・Rock鳴漢 (ろくめいかん)
・The mellow Dynamite (ザ メロウ ダイナマイト)
・Around the Tiara(アラウンド ザ ティアラ)

 少年たちの間に視線の火花が散る。
「一人一票で無記名投票。どうだ?」
「乗った」
 直人は頷く。それと――。
「新入部員を2人獲得すれば、晴れて軽音同好会は軽音部に格上げだ。いい歌詞書いて、ド派手に一発かましてやろうぜ」
「2人くらい魅了できなければ、世界は遠いしな。それにも乗った」
 青春の空気は濃すぎると照れくさい。天然か計算か、純がマイペースに言った。
「ところでティアラさんはー?」
「いつも通り幻想蝶に引きこもり。出て来るかどうかは、お前と今から来る皆サンの説得次第だな」

●待ち人きたるまでの解説タイム
・Rock鳴漢 (ろくめいかん)

「康広、年末の補習三昧で頭が沸いたのか?」
「『ロックな俺たち』を表現したら、たまたま読みが一致したんだよ」
「ん~、『鹿鳴館』の末路を思うとあまり縁起はよくないかも」
「まだまだだな、純。その退廃感? 滅び感? がまたロックなトコなんだって!」
「滅び感って何?」

・The mellow Dynamite (ザ メロウ ダイナマイト)

「直人のは……えーと、どういう意味?」
「直訳すると『熟したダイナマイト』だな。転じて、『機は熟した』『俺たちはいつでも爆発できる』の意」
「意外とロックしてたな。学校では優等生のくせに」
「康広うるさい。……略称を『メロD』(メロディ)にしたらどうかと思ってな。バンドにはそういうのも大事だろう?」

・Around the Tiara(アラウンド ザ ティアラ)

「『お姫様を囲む騎士たち』的な」
「……本音は?」
「『ティアラさん親衛隊』を精一杯かっこよく言ってみたよ!」
「親衛隊じゃねぇし。どれが誰の案なのか皆にはバラさねぇつもりなんだがな。純のはバレバレすぎだろ」
「大丈夫だよ、椿。僕がティアラさんファンだってことは投票終わるまで黙っておく」

「OK。じゃ、由来については一括して俺が説明する。誰の案が通っても恨みっこなしだぜ」

解説

 徹夜でお菓子パーティしながら、作詞のお手伝いをしてください。

【目標1】バンド名を決める
・由来については代表で康広が説明。その後、一人一票で投票の予定。
・名前の考案者は、PCたちには非公開。
 ※『待ち人きたるまでの解説タイム』はPL情報です。
・同票になった場合は、ダイスで決めます。

【目標2】歌詞を完成させる
・テーマは「始まり」「春」
・テーマに合いそうな単語やフレーズを一組につき一個以上持ち寄ってください。
 ※歌詞のすり合わせは康広たちが行いますので、お気軽にアイディアを出してみてください。
・曲はアップテンポで、さわやかな感じのロック。あとは歌詞をつければ完成。
・新歓ライブは4月の末、場所は高校の体育館

【話題の例】
・音楽の経験はある?
・普段よく聴くのはどんな曲?
・部活orアルバイトはしている? (または学生時代、放課後なにやってた?)
・料理やお菓子作りは得意?

 その他、自由に会話してOK。ただし質問系の話題は、会話相手に回答を返してもらってください。(プレイング内か「基礎設定」「イラスト描写、シナリオ執筆の際のお願い」に書いてある内容でしたらアドリブで処理できます)

【バンドメンバー】
 椿康広……ギター・ボーカル
 瀬田 純(せた じゅん)……ドラム
 外山 直人(とやま なおと)……ベース
 
 ティアラ……サポートメンバー的な存在。作詞をはじめ、曲作り全般を手伝う。

リプレイ

●助っ人集合!
 とある宵。康広の暮らすマンションを目指し、歩くのはヘンリー・クラウン(aa0636)、葉月 桜(aa3674)、御剣 正宗(aa5043)と英雄たち。
「楽しいお菓子パーティだって!」
「それで報酬はいくらなんすかねー?」
 桜の言葉にそう返すのは五十嵐 渚(aa3674hero002)。
「もー、なっちゃんたらー」
 二人はコンビニ袋をぷらぷらと提げている。食べ物や飲み物は康広たちが用意すると聞いていたが、自分たちもコンビニに寄って来たのだ。
「康広ちゃん元気~?」
「お菓子パーティーなんだね! 楽しみなんだよ!」
 目を輝かせてやってきたのは烏兎姫(aa0123hero002)。以前に依頼で共闘した康広に明るく挨拶するのは、虎噛 千颯(aa0123)だ。
「頑張る康広ちゃんの為にがおぅ堂からの差し入れだぜ!! みんなで食べてな」
 純と直人が目を丸くしている。
「駄菓子屋さんなんだよ。こんなにたくさん、ありがとうございます!」
 初対面の烏兎姫とは名を名乗り合う。
「いや~バンドとか懐かしいな~」
「虎噛サンもバンドを? 初耳っすよ!」
 驚く康広に千颯はいたずらっぽく微笑む。
「こう見えても学生時代はブイブイ言わせてたんだぜ~ドラムのちーちゃんなんて呼ばれてな!」
「ボクも歌は大好きなんだよ! 今度一緒にセッションしようよ! パパにドラムをしてもらうよ!」
 完全に乗り気でうんうんと頷く千颯。例え親バカとからかわれても、全力で「その通り!」と胸を張るだろう。
「康広くんのバンドの歌聞きたいな! 音源とか無いの?」
「あるぜ。皆が揃うまで聞いてみるか?」
 やってきた6人にも、康広たちからの依頼が伝えられる。
「へぇ、菓子作りならぬ歌詞作りかぁ、面白そうだね!」
 一番にそう言ったのは桜。
「歌詞と菓子をかけているんですね、まぁ面白いとは思いますよ、多分」
 CODENAME-S(aa5043hero001)の対応はクールだ。
「自分達のセンスをみせてあげるっすよ」
 渚は胸を叩く。ヘンリーは荷物の包みを開けた。
「煮詰まってる時は甘いものでも食べて頭を休めるといい」
「いいんですか、こんな高そうなもの?」
 本格的なお菓子たちに直人たちは恐縮する。
「何、金のことは気にしなくていい。俺の手作りだしな」
「すっごいな! うちのバンドに入りません?」
「何目当てで誘ってるんだ、バカ純」
 聞けばヘンリーも、相棒の片薙 蓮司(aa0636hero002)も音楽経験者らしい。頼りになりそうな助っ人だ。
「久しぶりだな、康広。そっちがメンバーか?」
 レイ(aa0632)は知る人ぞ知るインディーズバンドのギターボーカル担当。
「お菓子も料理も任しとけ! こう見えてオレ、そーいうの得意♪」
 そう豪語するのはカール シェーンハイド(aa0632hero001)。相棒のレイの影響でベースをかじっているそうだ。
「邪魔するぞ」
 最後に現れたのは墓場鳥(aa4840hero001)とその陰に隠れるナイチンゲール(aa4840)だ。
「じゃ早速、最初の仕事をお願いします」
 椿は小さく切ったメモ帳と回収用の袋を取り出し、皆の前に掲げた。

●バンド名は?
「かわったバンド名ですね、どれも個性的でいいと思いますよ」
 3つの候補をSが淡々と評する。皆、菓子を広げる手を止めてしばし熟考する。――否、早くも書き終わった者もいるようだ。名無しのロックバンドは固唾をのんで見守る。
「じゃあ、集計してきます」
 背を向け開票作業に励む少年たち。次は客人たちが見守る番だった。ひそひそと互いの投票先を尋ね合う者たちもいる。そして、発表の時。

 Rock鳴漢 1票
(なんというか、男らしいからってのが投票理由っすね)

 The mellow Dynamite 4票
(フィーリングだけど何だかこれが一番しっくり来たんだよー!)
(んー他のも悪くないけど……なんかちょっちオヤジギャグっぽいバンド名もあったしな~)
(カールとは意見が合ったらしいな)
(ガッツリしたロックならこの名前がいいと思ったんだよね~)

 Around the Tiara 7票
(この名前が一番可愛いんだもんっ!)
(バンドに可愛さは必要なのか、桜? でも一番しっくりきたのがこの名前だったな)
(ヘンリーに賛成っすね)
(わ……私なんかが投票してごめんなさい!)
(作曲者が露出しないなら象徴として、だな。権利を与えられているのだから、縮こまることもあるまいに)
(優雅で上品だと思ったから)
(なにより、ティアラさんの事を思ったらこれが良いという結論に至ったんです)

 投票者の正体と込めた思いはつゆ知らず。Around the Tiaraのメンバーは悲喜こもごも。
「やったよ、ティアラさ~ん!」
「純に負けた……」
「いいんじゃね? 由来はともかく名前としてはアリだろ」

●菓子パーティ
 次は歌詞作り、とはりきる桜だったが――。
「えーと、桜餅、うぐいす餅、いちご大福、椿餅、三色団子……」
 食い気に偏りまくった答えに、ヘンリーが待ったをかける。
「桜、そんなに腹が減ってるのか」
 桜はてへへと可愛らしく笑う。
「ごめんごめん。甘い匂いがいっぱいだから、余計にお菓子が食べたくなっちゃって」
 リラックスと適度な満腹感は、頭脳労働には必要だろう。一同は少し腹ごしらえをしてから歌詞作りに入ることにした。
「ほら、これでも食べて皆頑張ってくれ」
 ヘンリーが言う。彼の職業はパティシェだ。菓子はどれも本格的で、アップルパイやガトーショコラはホールで持ってきてくれた。
「俺も何か手伝うっすよ。ピアノとか得意っすから何かあったら言ってください」
 ヘンリーと蓮司が入れた紅茶が良い香りを立てる。あいにく康広の家にピアノはなかったが、培ったリズム感や音感は曲に歌詞をつけるのに役に立つはずだ。
「ああ、そういや差入れにスコーンとか焼いてきたんだった……食べる?」
「そっちもレベル高いっすね!」
 ヘンリーと共に菓子を配る蓮司が驚く。作り手とのギャップが主な原因かもしれない。
「ジャムとか要らないようにチョコチップとかチーズとか入って……」
 しかも細やかな工夫を凝らした逸品らしい。延々と続きそうな説明を、レイがチョップで止めたが。
「かーるさん!」
 康広は口をもごもごさせながら親指を立てる。これうめぇスよ、と言いたいらしい。「ほらね」と得意げにウインクするカール。
「べらべらと余計なことを喋らなければ、素直に褒める気も沸くんだがな」
 ヘンリーからパイを一切れ頂戴しながら、レイは嘆息した。
「おやつは好きですか」
 Sが問うと康広は頷く。
「甘党って程じゃないが作詞中は欲しくなるな」
 康広は正宗に話を振るが、答えたのはSだった。
「正宗はスイーツ全般が好きですね。ローストビーフとフィッシュアンドチップスも」
 正宗がイギリス出身と聞いて、彼の好きな音楽について聞きたがる康広だったが、正宗は首を傾げるのみ。謎の多い二人組だ。
「ところでCODENAME-Sってあだ名か?」
 直人は彼女の本名を尋ねるが。
「名無シノ権兵衛」
 彼女はくすりと笑いこう答えるのみだった。渚は康広に話しかけてみる。
「康広は料理とかは好きなんすか?」
「鍋とか簡単なもんならよく作るぜ」
「お菓子は作らないの?」
 桜が問うがこちらはさほど得意ではないらしい。
「三人はいつから一緒にいるんだ?」
 ヘンリーも質問する。
「純とは中学からの同級生。一緒にバンドを始めたのは去年ですけど。直人が入ったのは今年に入ってからっす」
 桜はティアラ加入のきっかけが気になるらしい。
「去年、別のバンドを組んでた時にも歌詞作りに行き詰まることが合って、そんとき助けてもらって以来です。あいつ個人の活動も頑張ってほしいから、サポートメンバーって形にしたんですが……。もっとしっかりしないとな」
 肩を落とす康広の背をあえて強く叩いたのは渚だ。
「まずはそのシケた面を何とかするっすよ」
「今回はボクたちがついてるからね。一緒に頑張ろ!」
 礼を言って微笑んだ康広はヘンリーにギターを始めたきっかけを聞き、盛り上がる。
「康広はどういう曲をよく聞くんだ?」
「俺はロックが大半かな。純はティアラが配信してる曲がお気に入りらしいですけど」
 この話題には烏兎姫も参加し、盛り上がっている。
「クラシックもジャズも演歌も面白いんだよ! 食わず嫌いはもったいないんだよ康広くん!」
「確かに曲作りの参考になるかもしれねぇな……。烏兎姫先生、おすすめを教えてくれ!」
「えっへん! ボクにまかせとくんだよ~!」
 年も近そうで音楽好きな康広たちとはやはり気が合うようだ。烏兎姫にとっていい刺激になればよいと思っていたが、その通りになったようで嬉しい。
「あ、あの……曲戴いてもいい……です……?」
 ちまちまとヘンリー持参のアイスボックスクッキーを齧っていたナイチンゲールは、勇気を出して真面目そうな一人に話しかけてみた。
「は? 何か言ったか?」
 が、眉間にしわを寄せて返事をされる。
「うゃっごごめんなさい駄目ならいいんですっ」
「直さん、女の子には優しく!」
 純に咎められ気まずそうにした直人は、ナイチンゲールの要望を聞きスマホにデータを送ってくれた。
(ロックも男の子のことも分からないけど、軽くて、でも力強くて……どきどきする音)
 イヤホンで何度も聞くうち無自覚にハミングを奏でだす。澄んだ歌声に烏兎姫が気づいたが、千颯がしーっと人差し指を立てた。少女のペンがさらさらと動き、手にしたメモ帳にフレーズが羅列され始めていたからだ。
「バイト? あー……プロバンドのローディーだな」
「俺は高校卒業したらどうするかなぁ」
「世界的ミュージシャン目指すっつっても、急になれるわけじゃないっすもんねぇ」
 レイの仕事の話に耳を傾けるのは康広と蓮司だ。
「この頃楽しいことはあったか?」
 ヘンリーはギターをポロリと鳴らしながら問う。
「この前、依頼の途中にエージェントの皆と地元の大学生とでライブしたんすよ」
「康広とはいつかだったか、急なセッションもしたよな。あの時のことは忘れられない思い出だ……」
 レイと康広は初対面だったのだが、音楽を愛するもの同士意気投合したらしい。
「レイさんもバンドをやってるんですね? カールさんも?」
 ヘンリーは興味深そうに聞いている。
「……あ、カールはバンドとかじゃなく、趣味のベースだな」
「そーそ。元はさ、レイ達のバンド見て……こっちの音楽が好きになったんだよな~」
 そこでふと思い出したのか、カールは直人へと視線を移す。
「そいや、オレもベースかじり始めなんだよな~。なぁなぁ直人、ベースの上達方法ってある?」
「俺は大学生の兄貴に習ってます。あと、ネットだとこの本が評判良いみたいで」
 直人が取り出した初心者向けの指南書を二人して読み始める。だがカールは文字の多さから、すぐに飽きてしまったらしい。
「そんなんより実践あるのみじゃね?」
「基本は大事ですよ」
 結局カールに押され、あれこれ言いながら直人のベースを弾き始めたようだ。
「うわ苦っ……これ酒じゃないですか!」
「カタいこと言わずに楽しもうぜ~?」
 優等生と銀髪の派手な男が同じ話題で騒げるのもまた音楽の力だろう。
「ヘンリーは一時期、紙芝居で飯食っててさ。そこに俺が出くわして~」
「いい声してると思ったぜ。そっちを本業にしないのは勿体ねぇけど、この菓子が食えないのも勿体ねぇし……多彩な人って大変ですね」
「そんなに褒めても菓子くらいしか出せないぞ」
 苦笑したヘンリーは追加の菓子を作りに行く。少年たちのたまり場だけあって、キッチンにはホットケーキミックスなどもあったようだ。
「駄菓子おいしい~! 小さいドーナツも、小さいヨーグルトも!」
「甘いのばっかりでよく飽きないっすね、桜は」
 甘辛いイカのお菓子を食べながら渚が言う。
「喜んでもらえて何よりなんだぜ! けど、なんか忘れてるような……」
 千颯は顎に手を当てて思案する。
「あっ」
「歌詞作り……そろそろ始めるか?」
 レイが康広たちに視線を投げる。時刻はとっくに真夜中を過ぎていた。

●歌詞パーティ
 軽く肩を叩かれて、ナイチンゲールは振り返った。墓場鳥が無言のまま親指で示したのは、こちらを注目する参加者たち。
「……はっ!?」
 ハミングを聴かれたことに気づいて、赤面し後ずさる。
「私……なんてことを……ってちょっ待っ」
 墓場鳥は難なくメモを奪うと、ピースの指で挟んで康広へ渡す。
「煮ても焼いても構わないそうだ」
 隅にうずくまる彼女に烏兎姫や桜が話しかけてみるが、彼女はますます恐縮するばかり。他の者は歌詞作りに移行する。
「桜、五月雨、春雷、あとなにかあったけなー」
 首をひねる蓮司。渚も彼の隣で同じように首をひねる。
「入学、入社、開花……とかっすか?」
「おお、意外と真面目な回答?」
 キッチンからはヘンリーの声が返ってくる。
「どういう意味っすか、ヘンリー!?」
 ぷりぷり起こる渚だが、彼女の見た目や性格をよく知るものからしたら意外だったかもしれない。渚は気を取り直してヘンリーの案を聞いてみる。
「花見、梅雨、藤……あと、牡丹に夜桜とかは?」
 ナイチンゲールの元から烏兎姫たちが帰ってくる。
「今は無理みたい。お話したかったのに残念なんだよ~」
 可愛い『女子』への劣等感ゆえの反応だとは、烏兎姫は知る由もない。
「うーん、フレーズかぁ……どんなのがいいかな~」
 しばしの思案。のち、歌うように湧き出る単語や文章。
「――とかどうかなー? フレーズばっかりだけど……」
「書き留めるからもう一回頼む。……初めてとは思えないな」
 書記の直人が言う。純は尊敬の目で烏兎姫を見る。
「難しい言葉もよく知ってるね。どれもシブくて綺麗な感じ!」
「えへへ、ありがと! あとは青陽、嚆矢とかもいいかもだよ」
 オシャレや流行に詳しい烏兎姫だが、古き良き日本語もたくさん身に着けているようだ。
「これは嬉しい悲鳴だな」
「ね~、このフレーズ恋愛ソングに使えそうじゃない?」
「でもこっちも目立つ位置で活かしたいんだよ。となると……」
 少年たちはいつの間にか、本日二度目の火花を散らしていた。そこへ。
「イラついたときはおかしを食べるべし」
 ニョキッと現れたのは、おかめ、ひょっとこ、そしてアフリカの少数民族風の仮面をつけた3人組。
「テイスト統一しろよ!」
 直人の低音が鋭く切り込んだところで、仮面の団体――正宗、桜、ヘンリーが、目を見開く相棒たちの口にできたてのホットケーキを突っ込む。
「も~、何するんすかぁ~……あ、おいしっすね」
 渚の素直な笑顔に蓮司がときめいていたり。場はすっかり和んだようだ。
「すんません、ぴりぴりしてたかも」
 康広たちも差し出された皿から、相伴にあずかることにした。
 墓場鳥は適度に場に馴染みつつも、行動を起こしていた。手に取ったのは康広の幻想蝶。
「済まないがあれと話してやってくれないか」
 表現者でない自分には気持ちが分からないから。平坦に放たれた言葉の中に相棒を思う温かさを感じ取ったティアラは、求めに応じた。
「あなた、康広の曲を熱心に聞いてくれたらしいじゃない。もっと意見を出したら?」
「だって……歌が好きで来てみたけど、やっぱり私なんか場違いなんです……。楽しくお喋りも出来ないし作詞だってどうせ……」
 没になるに決まっている。
「いっそ私も幻想蝶に引き篭もりたいよ……」
「……私ね、喧騒が嫌いなの。うるさく主張してくるくせに、私のことをちっとも見てくれないんだもの。けれど、この場所は違うんじゃない? 騒がしいけど、きっとあなたを拒んだりしない。特に、あなたは音楽の才があるみたいだし」
 幻想蝶に居ても、外の音は届いていた。彼女の歌声も。
「んだよ。出てこれるんじゃねぇか」
 墓場鳥はぼやく康広のコップにコーラを注ぐ。
「お互い気苦労が絶えないな。だが……認められなくても受け入れねばならないことがある。そして強いるのではなく自ら望んで殻を破る為にはどうすべきか。それを考えてやりたいと、自分は思っている」
 康広は目を瞬く。無表情な彼女から出るには意外な言葉だったのだろう。
「……喋り過ぎたか」
「いいや、もっと喋って下さいよ。美人と話してたら創作意欲がわくかも?」
 冗談めかして言う康広に、思わぬ攻撃が届いた。
「おや、ナンパですか?」
 Sが冷たい目でこちらを見ていたのだ。
「音楽のできる男性はモテるらしいですが、誰にでも通用するとは限りませんよね。ちなみに、正宗を口説くのは勝手ですが、彼はれっきとした男です」
 はっとした表情で身を引く正宗。見た目が愛らしい自覚はあるらしい。康広は頭を抱える。
「口説いてねぇし、御剣さんも口説かねぇから……」
「んでんで? 純ちゃんはいつティアラちゃんを口説くんだぜ?」
「う~ん、まだ時期じゃないですね。もっとお互いを知らないと」
 見れば千颯まで悪乗りしている。
「ふむ、お互いを知るにはまず服という障壁を」
「パパ、真面目に歌詞考えてよ!」
 そして烏兎姫に怒られるのはお約束。
「もう一息なんすけど……」
 康広も助けを求めるように千颯を見た。
「ま、俺ちゃんもフレーズを出さない訳にはいかないかな? ロックなら……」
 千颯はわかりやすいよう紙に書きながら言う。
「――とかの英語を入れるのはどうよ?」
「お、いいすね!」
 横道にそれていた面々も、完成が近づくほどに康広の周りへと集結していく。
「重い! 背中に肘ついてるの誰っすか!」
「俺~」
 大きな猫のようにあくびをする蓮司。ずいぶん夜も更けた。
「蓮司くん、楽しそうなんだよ! ボクも~!」
「重なるな!」
「ほらヘンリー、あーんしてー?」
「いちゃつくな!」
 そして――少しばかりせっかちな春の夜明けがやってくる。

●徹夜明け、幕開け
「できたね!」
「っすね!」
 桜と渚がハイタッチする。烏兎姫はすっかり覚えた曲に合わせて、歌詞をなぞってみる。
「みんなで考えるのって楽しいね! ボクも何かオリジナルソングが欲しくなっちゃうなー」
 康広たちへと向き直り。
「今度ボクにも作って!」
 必殺おねだり攻撃! 無邪気な笑顔にはなんだか断る気が起らず、メンバーたちは苦笑する。
「考えとく。烏兎姫の歌声、俺も好きだしな。あ、ツインボーカル曲とか作ってコラボしてみるのはどうだ?」
「それ、すっごく面白そうなんだよ!」
 烏兎姫と共にこっそりさえずっていたのはナイチンゲール。少しだけ自信が付いたのだろうか。表情は明るい。殻を敲く墓場鳥の嘴の音を心地よく思えたのなら、それは小さな前進だろう。
「時刻的にはモーニングですが、そこはご勘弁を」
 Sと正宗は何処からかアフタヌーンティーセットを用意し、皆で食べようと提案する。
「タイトル、こんなのはどう?」
 ティアラは言った。スプリング ビギナー。『春を始めるもの』、あるいは意訳気味に『恋の初心者』と。
 ――皆の脳裏に疾走感にあふれたイントロが流れ出す。


Spring beginner

作詞:Around the Tiara with Friends
作曲:椿 康広


新しい靴、不慣れな道 タンポポ踏みつけないよう渡ってく
四方八方初めまして そわそわ入学式の教室みたいに
喜・怒・哀の3色団子 「楽」の字迷子なのは不安だけど
藤棚くぐり探すんだ春 遠くに見えた君は誰だろう

すくむ足 加速する心臓
俺は君の名前すら知らないのに
雪解け間近の春の心
とてつもなく良いことが待ってるらしい

無邪気に不安 でも無責任に強気
時代(トキ)は来た 革命される(かわる)のは俺自身!
大人しく派手に 泥臭く華麗に
時代(トキ)は来た 革命する(かえる)のさ! 世界(ぜんぶ)巻き込んで!



夜桜の道、月光の橋 も一度会える気がして歩いてく
高鳴る鼓動抑えきれずに 竜天に上る それが春
やがて五月雨降ってきたなら 雨宿りしよう ハナミズキの下
一歩キョリ詰め寄り添いたいぜ 今はまだ庭向こうのカトレア

桜舞う中君が笑う 
俺の心に春雷が訪れる
「恋」と呼んだら笑われるかな?
花信風に乗せて届けこの想い

無謀な突貫 君と目が合った
瞬間(トキ)は来た ふたり出会ったんだ!
俺は必死に 君は可憐に
瞬間(トキ)は来た 始まりの握手をかわそう



甘く煮立てた体 白い布団にくるまって
寝坊をしよう イチゴの香りに酔いしれてしまったから
パラシュート無いまま 生身で春へと飛び込もう
歌え、シャムロック! そのメロディで君をそそのかすつもりなんだ 

Brighten up the day! Here's my beginning! (さぁ、輝く日々を! これが始まりさ)
Brighten up the day! Let's go together! (走り抜こう、俺達の輝かしい道を!)

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
  • 明日に希望を
    ナイチンゲールaa4840

重体一覧

参加者

  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • Sound Holic
    レイaa0632
    人間|20才|男性|回避
  • 本領発揮
    カール シェーンハイドaa0632hero001
    英雄|23才|男性|ジャ
  • 戦うパティシエ
    ヘンリー・クラウンaa0636
    機械|22才|男性|攻撃
  • ベストキッチンスタッフ
    片薙 蓮司aa0636hero002
    英雄|25才|男性|カオ
  • 家族とのひと時
    リリア・クラウンaa3674
    人間|18才|女性|攻撃
  • 友とのひと時
    片薙 渚aa3674hero002
    英雄|20才|女性|ソフィ
  • 明日に希望を
    ナイチンゲールaa4840
    機械|20才|女性|攻撃
  • 【能】となる者
    墓場鳥aa4840hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 愛するべき人の為の灯火
    御剣 正宗aa5043
    人間|22才|?|攻撃
  • 共に進む永久の契り
    CODENAME-Saa5043hero001
    英雄|15才|女性|バト
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