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悪魔による天使のための復讐
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最終発言2017/03/22 22:58:17 -
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最終発言2017/03/20 02:41:11
オープニング
●天使を見た日
その人は、天使のような人だった。
「天使ねぇ。ただの医療従事者だけども」
「敵味方、分け隔てなく治療をする人間を普通ならば『仏のようだ』とか言うだろう。別に天使と呼ばれてもおかしいことはないじゃないか」
患者の言葉に、女リンカーは考える。
「やっぱり、私はただの医者だなぁ。たまたま戦場に立つことになって、敵も患者になっただけだ」
女―アサミは、手錠をかけたれた男に向かって手を振る。
「では、できれば次は改心したときに会おう。ええっと、ウツノミヤさん?」
「ウツミだ」
「……次会う時までは、がんばって覚えていることにする」
そんなたわいもない約束事なんて、たぶん君は忘れてしまっているだろうね。
でも――それでよかった。
●悪魔が戻った日
「ウツミさんを止めてください」
HOPEの支部にやってきた男は、職員に向かってそう言った。彼はウツミという男の部下であった人間であると自己紹介する。
「ウツミというのは三年前に拘束された男のことですか?」
職員は聞き返す。名前には聞き覚えがあった。
危ない組織で、用心棒的な働きをしていた男である。元ヴィランであったが、三年前に拘束されてからはHOPEに協力的な態度であった。彼を慕う配下も多く、HOPEとしても目を離したくはない人物であった。
「彼がかかわった事件は、すべてが『ウツミやその配下がかかわった証拠がない』ということで無罪判決がでていますね。限りなく黒に近いグレーの人物……」
「はい。ですが、拘束されてからウツミさんは変わりました。とある人のために、正義の人のなろうと心に決めたのです」
HOPEと協力関係を築くようになったのも、その頃だ。
「……その、ウツミさんを変えた人――アサミさんが亡くなりました。それからウツミさんは考え込むことが多くなり、こんなものを残して姿を消しました」
それは、手紙であった。
「自分の跡は追わないようにと書き残していましたが……ウツミさんを熱烈に下っていた若い衆たちとの連絡が取れていません」
「アサミ……聞き覚えがある名前ですね。そうだ、たしか医者の資格をもったリンカーで、拘束したヴィランを治療中に殺害されています」
●天使への捧げもの
廃ビルの中には、二人の男がいた。
「天使のような人だったね。患者に、悪人も善人もなく手を差し伸べる。治療が終われば興味をうしなって、ぷいっとどこかへ行ってしまう……」
薄暗い建物のなかで、ウツミは若い男に銃を突き付けていた。
「あっ……あいつが、悪いんだ。普通、拘束した奴をその場で手当しだす奴がいるかっ!」
「そのおかげで、今君はここにいる。あのとき、君は重傷ですぐにでも手当が必要だった。あの人は君の命の恩人だよ。なのに、君の仲間は君を助けるためにあの人を殺してしまった」
まるで、遊んでいるかのようにウツミは銃を男からそらす。
「私もわかっているんだよ。あの人が殺されたのは、あの人のミスだ。あの人は、たぶん「仕方がないか。よし、来世では注意しよう」ぐらいにしか思ってないよ。でもね、それじゃあ私の腹の虫がおさまらないんだよ」
――約束事なんて、忘れてくれてかまわなかった。
「君が元気で生きてさえいてくれればね。でも、死んでしまったら私は悪魔になるしかないじゃないか」
ウツミが拘束した男は、とある闇組織トップの息子である。本人はたいしたことない人間だが、きっと彼を助けに組織の人間がここに詰めかけるであろう。
そのすべてを殺してしまおう。
天使が人の死を望まないのは知っている。
だが、悪魔には血が必要だった。
解説
廃ビル(昼)
二階建のビルで、町はずれにある。電気は通っておらず薄暗い。なお、フロアを仕切る壁もない。
1F……闇組織の人間をウツミは相手にする予定だった。数多くのトラップが仕掛けられている。
闇組織(10人)……1Fのみに出現。すでにビル内に潜入し、ウツミの部下と戦っている。武器は全員が長刀と銃を使用している。全員が腕利き。
ウツミの部下(10人)……1Fのみに出現。すでにビル内に潜伏しており、闇組織と戦っている。若い人間が多く、実力でいえば闇組織に劣る。PLたちと会うと、敵か味方か分からないために攻撃してくる。納得はかなり難しい。武器は全員がナイフと銃。
2F……ウツミと男がいる。1Fで混乱がおきていることは分かっているが、ウツミは2Fから動かない。
ウツミ……腕がいい元ヴィラン。元は悪人だが、配下には慕われている。復讐を邪魔する人間はすべて倒すつもりだが、命まではとらない。武器はナイフと銃。なお、ナイフは複数隠し持っているが、銃は二丁のみ携帯。
トラップ――1Fにのみ使用。壁や床に手榴弾を埋め込み、階段にも同じトラップをしかけている。
復讐劇――対象に向かって大量のナイフを投擲し、その後銃を乱発する。相手と距離があるときに使用。
恩返し――両手で銃を持ち、天井にあらかじめ仕掛けてある槍や剣の釣糸を撃ち落とす。
悪魔の一撃――相手が近くにいるときに使用。素早く動いて残像を作りだし、そちらに気を取られているうちに背後から敵を狙う。
天使再現――自分の体力が半分以下になったときに発動。体力を回復させ、素早さをあげる。
リプレイ
「やれやれ、何ともやり切れんね」
麻生 遊夜(aa0452)は、はぁと深いため息をつく。遊夜たちはこれから、とある男の復讐を止めなければならないのだ。
『……ん、でもお仕事』
ユフォアリーヤ(aa0452hero001)は、ビルの地図を広げる。
「動機は復讐。対象はヴィラン……跡を追うなと言うことは、1人で多数を相手か」
遊夜は、HOPEより事前に聞いた話を整理する。計画を聞く限り、相手はかなり戦いなれた相手のようであった。
『……ん、集めて、罠にかける……狩りとして、最も効率的』
遊夜とユフォアリーヤの会話に口を挟んだのは、無音 彼方(aa4329)であった。
「やれやれ。面倒なもんに巻き込まれた気がするぞ、おい」
『とはいうものの、放っておく気は無いのじゃろう。主殿は』
普段より多少イライラしている彼方の様子に、那由多乃刃 除夜(aa4329hero001)は無意識に首をかしげた。
「さて、この程度の高さなら余裕ですかな?」
フィー(aa4205)は、そう呟きながらビルを眺めていた。
●1F 突破作戦
ビルの内部は、薄暗かった。電気などとうに止められているのであろう。だが、そんな古びたビルの内部には殺気が渦巻いている。
「くっ、なんだこいつら。敵はウツミだけじゃなかったのか!?」
「こいつらが、ウツミさんの敵だつぶせぇ!!」
男たちの怒号が飛び交うなかで、ひそかにビルに侵入していた九郎(aa4139hero001)は、国塚 深散(aa4139)に囁く。
『ウツミの部下は敵を待ち伏せるように仲間を配置しているはず。そこを攻めるのが闇組織の人間だ。わかりそうかい、深散?』
「ええ、凡そは」
良いことを思いついたとばかりに、九郎の声は弾んだ。
『ウツミの部下は、罠の位置を知っているはず。敢えて残しておけば動きを読みやすくもなるかもしれない』
「知っているからこそ、意識無意識に関わらず避けてしまう?」
『そういうこと』
レーダーユニット「モスケール」でビル内部を索敵していた深散は、苦無を持つ。そんなな彼女の緊張をほぐすためなのか、九郎は問いかける。
『今回の事件を、きみはどう見る?』
「復讐は否定しません。でもそんな個人的な事情に、誰かを巻き込むべきではないのです」
深散は、かつての自分を思い出す。
復習しか頭になかった、あのころを。
「復讐の為に力を求めた私には、偉そうなことを言う資格はありませんから。私にできるのは、誰も死なせず全員を逮捕することだけ。つまりは――HOPEを、全うします」
『いい返事だ』
九郎の言葉に、深散はくすりと笑う。
「さて、始めるよ」
行雲 天音(aa2311)は、フリーガーファウストG3を闇組織の人間めがけて打ち込む。
「さすが、手練れ。これぐらいの攻撃なら、しのぐのね」
殺さないように敵の手足を狙う。撃ちながら天音は、ウツミの部下らしき人間たちに注意を向けた。
『あちらは、別の方にまかせましょうか』
蒼(aa2311hero001)の言葉に、天音は「そうね」と答える。
「それにしても復讐なんて……。するなとか言うつもりもないけど、それに囚われ過ぎるのもね」
『それ結構ごく一部の感想ですよ、同意できますけど』
蒼は、苦笑いを浮かべていた。
『どいつもこいつも、阿呆共が踊りおって』
豪徳寺 神楽(aa4353hero002)は、どこか毒を孕ませた口調で呟く。
「いつにもまして不機嫌そうね」
『ハッ。もっとしがらみに絡み取られて、人間らしく生きればいいんだ。慕ってくる部下共を切り捨てようとして切り捨てられもせず、阿呆の極みだな』
梶木 千尋(aa4353)は、その言葉を深くは追及しない。
今の彼女には、するべきことがあった。
「わたしたちはHOPEよ!!」
大声で千尋は、ウツミの部下に話しかける。
千尋の証言を補佐するように遊夜は証明書を見せた。薄暗いなかでは、どこまで相手に見えるかは賭けではあったが。
「千尋さんの話は本当だ。俺達はHOPEだ、ウツミさんに話が合ってきた……通してくれないか?」
ウツミたちの部下は、武器を向けてくる。
やはり、証明書だけでの説得は無理があったらしい。だが、千尋は恐れない。
「あなたたちが下手を打てば、それだけウツミの立場が悪くなるわよ。慕っている上司なのでしょう? 見ての通りわたしたちは管理側とは縁遠い人間よ。悪いようにはしないから、考えて動きなさいな」
千尋は、ウツミの部下たちを味方に引き入れたいわけではない。
単に彼らを惑わし、混乱に陥らせたいだけなのである。
「動くな。動けば頭蓋を撃ちぬく。お前さんの所属は?」
キャルディアナ・ランドグリーズ(aa5037)は、手近な人間に9-SPを突きつける。
「お前こそ、誰だ!」
敵もキャルディアナに向かって銃を向ける。
それを確認したキャルディアナは、問答無用で引き金を引いた。急所は狙ってはいない。後々ウツミ側の人間だと判明したら、厄介なことになるかもしれないと思ったからだ。
『いつも言っているが……』
「準備と警戒は怠るな……だろ ?耳にタコができるっての……。ま、忠告あんがとよ」
ツヴァイ・アルクス(aa5037hero001)の忠告を聞きながら、武器をウルフバートに持ち替える。
「さすがに、もう不意打ちはさせてもらえないようだな」
『ウツミの部下だったら面倒だな』
「分かってる。だが、確認させてくれるかどうか」
敵の肩や足を狙っていたキャルディアを援護するような攻撃があった。それは、Erie Schwagerin(aa4748)の攻撃であった。
「ウツミンの部下さんなら手伝うわよぉ。殺しはできないけど、捕まえて痛い目に遭わせるくらいはできるしぃ」
『それはそれで……犯罪の片棒を担いでいるような気も』
フローレンス(aa4748hero001)は、『むー』と唸っていたが、結局はそれ以上の考えが思いつかなかったらしい。
『それにしてもウツミの部下といい、闇組織の人間といい、あきらめる気配がないわね』
「だったら、こっちの手よぉ」
Erieはブルームフレアを使用し、周囲の敵を吹き飛ばす。
「助かった、エリー」
『さすがは魔女だ』
キャルディアナとツヴァイの賛辞に、Erieは微笑んだ。
「ち……。ひとまずやるっきゃないか」
刀を振り回す彼方は、無意識に舌打ちする。
ウツミと部下と闇組織の人間の見分けがつかない。そのことにも苛立つが、彼方はもっと別なことにも苛立ちを感じていた。
『うむ、うむ……まあ、主殿のやりたいようにじゃな』
除夜は、この事件になにか思うところがあるわけではなかった。しかし、彼方は妙にやる気を出しているようである。
『止める理由もないからのう』
主の苛立ちなど、この先を進めば知れるだろう。
除夜は、そう思うことにした。
「――罠師発動」
ウツミの部下たちの動きを見ていた深散は、階段に罠があると看破しスキルを発動させる。
「よし、任せてね! 親父の頭ー!!」
無関係の人間が聞いたら、いきなり何を言い出したのだろうかと首をかしげるような言葉と共に天音はフラッシュバンを撃ちこんだ。蒼は、『ああ、禿げ頭のことですね……』と思った。
「対閃光防御だと、咄嗟に防がれそうでさ」
『一部の方に、深い傷跡を残しますね』
ウツミの部下も闇組織の人間も目がくらみ、階段を上っていく者たちの姿を追うことはできなかった。
一階に残った千尋は、階段を背にしてウツミの部下たちに尋ねる。
「ここで点数を稼いでおけば、ウツミもあなたたちも取りなしやすくなるのだけれど。拒否するなら、少なくともちょっとばかり痛い目をみてもらうことになるわね」
『……説得する気があるのか?』
神楽は、子供のように可憐に微笑んでいた千尋に尋ねる。
「取引したいだけだもの」
トップギアで力を蓄えた千尋が、一歩を踏み出す。
「お手伝いが必要でしょう」
苦無を持ったままの深散が、千尋の隣へと立つ。
九郎は、そんな深散に囁いた。
『2階に突入した班がドンパチを始めれば、両勢力にプレッシャーだろうね。ウツミの部下は2階に侵入されたことに焦り、闇組織は救出対象の無事を危ぶむ』
「そこを突かない手はないですね」
深散は、武器を刀に持ち替える。
『さて、このド阿呆どもにきつい灸でもすえるとするか』
神楽が、にんまりと笑った。
●外から二階へ
「取り合えず、悪い子は皆殺し!」
『事情も理由も知ったこっちゃねぇし、どうでもいい。とりあえず、全員ヤればいいんだろ?』
ビルの外では、威勢の良い声が響き渡る。
雨宮 葵(aa4783)とジャック・ブギーマン(aa3355hero001)が「えいえいおー」と拳を天に振り上げていたのだった。
「よくないよ! 止めなきゃ駄目なんだよ! 多分!」
物騒な方向性で意見が合う二人を桃井 咲良(aa3355)が必死に止める。
「冗談だよ。お仕事なので半殺しにしとこー」
葵を燐(aa4783hero001)は、不安げに見つめる。
『ん。……自分が殺されない様に、ね』
緊張しないのは良いことだろうと思うが、これから敵地に侵入するには葵の行動はあまりに能天気すぎる。
「強い先輩達がいるから大丈夫だしー。死にそうになったら、きっと回収してくれる!」
燐は、ため息をつく。
仲間を信用することは良いことだが、葵の怖いもの知らずぷりにはあきれるしかない。
「さて、この高さならば問題はないと思うんですがね」
『アレを使えば、いけるはずです』
フィリア(aa4205hero002)と共鳴したフィーが、アンカー砲を使用する。ビルの二階の窓近くにクローを打ち込み、しっかり固定されていたことを確かめた。
「これからが、作戦の本番だよね」
咲良の声に、全員がうなずいた。
●二階 パイ作戦
殺されてしまったアサミが復讐を望まないことぐらいは、ウツミは知っている。ウツミが殺そうとしているのは、アサミが助けた命である。おそらくアサミは、もう一度殺されることになっても彼を助けるだろう。それでも自分を生まれ変わらせてくれた彼女の敵を取らなければ、もうウツミはこれからを生きてはいけないような気がするのだ。
「ダイナミックお邪魔しまーす!」
『キヒヒヒ。文字通り邪魔しに来たぜ』
二階の窓を割って入ってきたのは、咲良やジャックたちであった。ウツミは一瞬だけ驚いたが、年若いが戦いなれていそうな彼らをHOPEであると判断する。予想はしていた。ウツミを止めようとした部下がいたことは知っていたし、彼が駆け込むとしたらHOPE以外はありえないだろう。だが、次の言葉はウツミの予想外のことだった。
「―――おい、パイ食わねぇか」
いつの間にか両手にパイを持っていたフィーは、それを全力でウツミに向かって投げた。それを避けたウツミに、フィーは容赦なくジェミニストライクを叩きこむ。
「おう食えよぉ、私のパイは108式まであるぞぉ」
『なんですか、その口調。本家リスペクトですか』
フィリアは少しばかりあきれていた。これも作戦であるとは理解しているが、パイを投げてパイを避ける行動はお笑い番組じみている。
「うわー、すっごく楽しそうだよね! 私も混ぜて!!」
葵が目を輝かせながら、妖刀「華樂紅」を持って二人の間に入る。
戦いが生み出す騒音のなかで、フィーは高らかに叫んだ。
「復讐! なんてすばらしいんでしょーなあ!」
手には未だに冗談みたいにパイが乗せられていて、ウツミの顔面を狙っている。
「一人よがりで、人の為に事を為していると思い込むことが出来る! すばらしい! なんたる自己満足! なんたる自慰行為! ―――そう、それが本質ですわ、結局あんたは自分の為に復讐を掲げているにすぎない」
『真面目にやっていたら、少しは様になっていたんですけどねー』
フィリアの視線の先には、ウツミよりも先にパイの餌食になってしまった人質の姿。別に狙ったわけではなくて、流れ弾もとい流れパイに当たってしまったのである。
「ああ、そうだよ。私はね、自分がこれからを歩むために復讐しようとしているんだよ」
ウツミが、ぼそりと呟く。
そして、自分の近くにいた咲良に対して悪魔の一撃を使用する。
『奇襲は、こっちの十八番だってーの。当たるかよ、バーカ』
――じゃあ、あちらは?
と、ウツミはほとんど視線を咲良から離さずにフィーに向かって銃を撃つ。
「おおっ、あぶな!! ……別に復讐を否定する訳じゃねーですよ? そんなんは馬鹿らしいっつーだけで」
間一髪のところで銃弾を避けたフィーは、腹に力を込めた。
「何が解る? 何も解る訳がねえでしょーが、ヴァァァァカ! 会いもしたことがねえ他人の事なんざ解らねえですし、知らねえですし、興味もねえですな!」
フィーの声が、ビルの内部に木霊する。
それに向かって拍手を送ったのは、フィリアだけであった。
『流石、煽り検定準2級の腕前は伊達ではありませんね』
「え、それ知らねえんですが」
『えぇ、今考えて適当に言いましたから』
「……あんたまでボケられっと、ツッコミが居ねえでしょーが!」
それ以前に戦闘に忙しいので、突っ込む暇がない。葵はちょっとうずうずして、燐に止められていたが。
『偶には、私もボケてもいいでしょう』
「ちっと空気読んで真面目にいきましょーな? これ割と真面目な依頼なんで」
と言っている割に、フィーはパイを投げる手を止めない。
『お姉さまに言われたくはないです』
「おい、おまえらだけで楽しく漫才すんじゃねーの!! 真面目に戦ってるオレが、バカみたいじゃん!!」
ジャックと切り結んでいたウツミは、呟いた。
「興味がないなら、放っておいてくれ。私のささやかな復讐を止めに来るほど、HOPEだって暇ではないだろう」
ウツミの視線が、パイで汚れる人質に向けられる。いまいち、大事にされていない人質は闇組織のトップの息子だ。大したことがないといっても罪を犯したことがある人間であった。
「んー。私個人としては、人質とかは殺しても問題ないと思う」
『……え』
葵は、無邪気に言い放つ。
燐は、その言葉に少しばかり驚いていた。
だが、次の瞬間の葵の言葉は冷えていた。
「でも、それをやったら貴方は戻ってこれないよ?」
どこから、とは葵は言わない。
誰も、聞かない。
「アサミさんが導いてくれた道を貴方が歩き続ける事が――アサミさんがやってくれた事が正義であったと証明する方法なんじゃないの?」
――きっとウツミさんも頭では分かっていると思うけど、でも悲しみや憎しみが大きくてどうしようもないんでしょ?
葵は、にこっと笑う。
武器を構えて「戦おうよ」と遊びに誘うかのように、ウツミに語りかけた。
「腹の虫が収まらないというなら、収まるまでお相手してあげるよ!」
『……気を付けてね。……油断だけは、絶対にダメ』
「大丈夫。殺されそうになったら、ちゃんと逃げるからね」
軽口をたたきながら、葵はウツミにストレートブロウを叩きこむ。
それを見ながら、ジャックは笑った。
『くくくっ。戻ってくる意味は、あると思うぜ。まぁ、オレじゃなくて咲良が考えていることだけどな』
「さすっが、ジャックちゃん。僕のことをよくわかってるね」
フィーは、ぼそりと呟く。
「―――或る者曰く、人を殺す事は悪業であり、悪業を為す者は悪鬼である、と」
そして、ウツミをみやる。
「よう"同業者"、てめぇは戻るか戻らないかどっちの道を選ぶんでしょーかね?」
●二階 武器の雨
「どうやら、間に合ったようだな」
二階にたどり着いた遊夜は、周囲を警戒する。
『……ん、二階に天井に刃物がつるされている。……罠なのかも』
「ウツミは、おそらくトラップに慣れている。気をつけろ」
仲間に危険を教えた遊夜は、武器を構える。
何故か二階には、甘い香りが充満していた。
本当に何故だ。
これも罠なのだろうか。
「考えるのは後だよ」
『少しは怪しみましょうか?』
とりゃー、と天音は釣竿で人質を一本釣りする。
マグロじゃないんだから、と言いたくなるような光景であった。
「一本釣り確保ー、したけど天使はいらないって言うわね」
天使って怪我人にしか興味がなかったんだよね、と天音は続ける。
人質を奪われたウツミは、舌打ちをしながら復讐劇を使用する。大量のナイフが天音に向かって放たれた瞬間、彼方が天音をかばう。
『反応、予測、釈迦の掌を目指せ』
「無茶いうな……っ!」
彼方は攻撃をしつつ、厳しい除夜の言葉に悲鳴に上げる。
だが、ウツミの攻撃は彼方の急所を狙ってはいない。どうやら、ウツミは彼方たちを殺す気はないらしい。徹底的なまでに、彼は復讐だけを目的とている。
「別に、お前が何しようが勝手だよ……だがまあ、お前の復讐はお前自身だけがやるものだろ。ほかのメンツを巻き込むんじゃねえよ! 一階の連中だ、一階の連中!!」
彼方は、ウツミを怒鳴りつける。
『復讐劇は人の心を打つ、だが一緒になって踊らせてはいかんのう。それでは、やわになる』
「私は部下たちに追ってくるなと言ったはずだ」
ウツミの言葉に、彼方はジェミニストライクを打ち込みながらも叫ぶ。
「自分を追ってきた部下を、てめぇは知らなねぇっていうんだな……!」
彼方は怒りと共に縫止を打ち込み、「今だ!」と叫んだ。
『せっかく作ってもらったチャンスを無駄にするな』
「そんなことぐらいは、言われなくてもわかってる。本当に……忠告には感謝してるけどよ!」
キャルディアナはウツミの懐に入り、ウルフバートを振り上げる。刀身を体に受けたウツミは、天使再現を使用し傷を回復させた。
「ここで回復か。嫌な相手だな」
『事前情報通り、戦いなれているようだな』
ツヴァイは縫止の効果が切れたと見切り、「離れろ」とキャルディアナに訴えかける。
『タイミング的にはここだろう』
「エリー、上だ!」
キャルディアナの言葉に、Erieは微笑みながら答えた。
「はぁい。このチャンスを待っていたわぁ」
『作戦上、全員の身を一時的に危険にさらしかねませんが……致し方ありません』
Erieは天井に向かって、ブルームフレアを放つ。
天井に売り下げてあった武器が、敵にも味方にも平等に降り注ぐ。
「わーん、私も同じようなことをやろうとしたのに先をこされたよ!」
『これと同じようなことをしようとしていたの……』
燐にあきれられながら、葵はカチューシャを装備して仲間に降り注ぐ刃を破壊していく。ウツミも自分の身を守ろうと、攻撃態勢に移ろうとした。
「あんたが、動いた理由は理解した……」
遊夜は、ウツミにトリオを仕掛ける。
すでに攻撃態勢に入っていたウツミはそれを避けるが、もはや天上の刃はウツミにも遊夜にも迫っていた。
「俺としては、このまま本懐遂げて貰っても構わないとも思うんだが……。あんただったら復讐を遂げた後には、また真っ直ぐに歩くだろう。だが、周りはそうじゃないよな」
『……ん、これがお仕事……。それに、貴方を心配してる人がいる……。貴方がいないと駄目な人たちがいる。だから、止める……ね?』
「せめてもの経緯を払って……相打ちで終わらせてやるよ」
遊夜はフラッシュバンを使用し、二人は刃の雨に濡れた。
●天使の面差し
――昔、敵であるはずの自分に手錠もかけずに手当をする女を見た。
「ただの医療従事者だけども」
――彼女はそう言ったが、死にかけた身から見れば女は確かに天使であった。
「うーんと、これでOKだよね? イッケンラクチャクかな!」
『所詮八つ当たりだろ、十分暴れたんだから頭冷えたんじゃねーの? どーでもいいけど』
咲良とジャックの話声で、遊夜は目覚めた。
隣には、少しばかりむくれたユフォアリーヤの姿があった。
『……ん、無理しすぎ』
「すまん。落ちてきて当たっても殺傷能力が低い武器ばかりだとわかってたから、相打ちなんて言ったんだ。まさか、当たり所が悪くて気を失うとは思ってなかったが……」
罠を看破した遊夜は、ウツミには殺意がないこともまた看破していた。ならば、使用する罠も殺傷能力が高いものを使用するはずがない。せいぜい、フェイト目的に使用する程度の威力のはずだ。
「一階の鎮圧は終わりました」
『闇組織の人間は全員拘束。あなたの部下も……一応は拘束させてもらってます』
深散と九郎は、自分たちが担当した一階の様子を伝える。
『部下を人質に取っているとは思わないでくださいね。あなたの部下も暴れていたし、念のためでしかありませんから』
九郎の言葉に、分かっているとばかりにウツミは頷いた。
「人質も……闇組織の人間も逮捕ということになるのよね。あなたもあなたの部下も、残念だけど捕まえなければならないわ」
千尋の言葉にも、ウツミはあまり反応を見せない。
「復讐の仕方を間違えちゃダメよぉ。殺したらそこで終わり、何もなくなっちゃう。それとも、殺すだけで満足できるのぉ?」
Erieは、どこか楽しげに語る。
『それは……いや、なんでもない』
フローレンスは一瞬Erieを止めようとしたが、言葉が見つからないらしくうなだれた。Erieは、なおも楽しそうに微笑む。
「じっくりゆっくり楽しみましょう。復讐の人生って、やつをねぇ」
拘束したウツミが手首を動かしたのを葵は見逃さなかった。
「残念だね。武器は取り上げてあるよ。自害しようとしても、駄目だからね」
『手足を縛ったのも念のため……恨まないで』
葵の自害という言葉に、静かに怒ったのは神楽であった。
『貴様もアサミも、まあそこの千尋もな、みな阿呆だが今の貴様以外は筋を通す阿呆だ。阿呆ヅラ晒した部下共が大挙して押し寄せるくらいだ、昔の貴様もさぞかし筋の通った阿呆だったのだろうよ』
神楽は、保護した人質を見つめる。
今回、ウツミは彼だけに殺意を注いでいた。
『……あれの命も、貴様の正義への貢献も、アサミの残滓ではないのか。今の貴様は、アサミが残した価値さえも根こそぎ消し去ろうとするド阿呆だ。わかっているんだろう?』
神楽の言葉に、ウツミは目を閉じる。
分かってはいた。
それでも、止められなかったのだろう。
「たく、まだ分からないのかよ!」
彼方の怒り制したのは除夜ではなく、天音であった。
除夜は、ただ行く末を見守る。
「どうせなら、悪魔らしく闇組織ごと潰してして復讐としたらいいのに。慕う部下もいるし楽勝でしょ」
『もしも、そういうことであればHOPEとしてもお手伝いができたかもしれません』
蒼も、隣で呟く。
人質がとられているという情報があり、なおかつウツミが人質の命を狙っているから加勢はできなかった。しかし、闇組織の一斉摘発だったならば蒼たちはHOPEとしてウツミの仲間になることができた。
「そうならなかったのは、たしかに残念だね。そうそう、伝言があるわよ。HOPEに依頼にやってきた、ウツミさんの部下からなんだけどね『待っているので、できるだけ早く帰ってきてください』だってよ」
天音の言葉に、ウツミは顔を上げた。
除夜は、そのときウツミの目が驚いたように丸くなるのを見た。
もしかしたら、天音の顔があの日の天使の面差しと重なってみえたのかもしれない。あるいは、部下の言葉が天使の言葉と重なったのかもしれない。どちらにせよ、彼の復讐はここまでだ。
最後にフィーは、残っていた最後のパイを人質に向かって投げつける。
べちゃり、と音を立ててパイはつぶれてしまった。
「これにて悪魔の復讐劇はお終いってことで、いいんでしょーかね」
フィーの言葉に誰も答えない。
けれども、悪魔はもう二度と人を殺さないだろうという奇妙な確信が全員の胸のなかにあった。
結果
シナリオ成功度 | 大成功 |
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