本部

タコと沈没船と

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/02/26 23:58

掲示板

オープニング

●深海三百メートル
「深度三百、着底する」
 着底の衝撃で海底の砂が巻き上がる。
 水深三百メートルの深海。
 真っ暗な海の底を潜水艇の照明が照らし出す。
 明りによって切り出された小さな空間に深海の奇妙な生物達が姿を現す。
『目標よりもだいぶ南に流されているようだ』
 海上の司令船からの指示に潜水艇を移動させる。
 スクリューの音と巻き上げる砂に驚いたように明りの中に居た生き物たちが逃げていく。
「破片らしきものを発見した」
 照明の明かりの中に木片が現れる。
『そろそろ目標が見えてくるころだ』
 海上からの指示に応えようとした瞬間、船体が突然弾かれたように揺れる。
「何だ!?」
 まるで洗濯機にでも放り込まれたかのように潜水艇が振り回される。
『どうした!? 何があった!?』
 聞こえてくる無線に応える余裕もなく必死に投げ出されないように操縦桿にしがみつく。
 揺れ始めた時と同様に突然揺れが止まる。
 いつの間にか閉じていた目を恐る恐る開く。
「なっ……!」
 驚きに声が零れた。
 窓の向こうに見えたのは巨大な目玉だった。
 明りに照らされた無表情な目がじっとこちらを覗き込んでいる。
 キシキシと船体が悲鳴のような軋みを上げ、コントロールパネルの警告灯が次々に赤へと変わる。
 必死に操縦桿を動かすが艇はピクリとも動かない。
 悲鳴が零れるよりも先に再び振り回されるように艇が動き体がシートに押し付けられる。
 叩き付けられた衝撃に体がシートから投げ出される。
 窓の外では舞い上がった砂がベールのようにゆっくりと海底へと舞い落ちている。
 横倒しになった艇の窓から見える沈没船の上に何かがいた。
 吸盤の付いた足に丸い頭。
 それは巨大なタコだった。
『おい! 生きてるなら返事しろ!』
 通信機が上げた声に驚き思わず跳びあがって、機材にしたたかに体を打ち付けて呻き声をあげながら慌てて通信機を手に取る。
「生きてる、バカでかいタコに襲われた!」
 必死に助けを叫ぶ。
「艇は動かない、スクリューもバラストもダメだ、助けてくれ!」

●出撃
「状況は良くありません」
 オペレータはまずそう切り出した。
「海底で擱座した潜水艇には乗員一名が取り残されています」
 さらに潜水艇は半分海底に埋まった形で自力で動くこともできず浮上することが出来なくなっている。
「潜水艇が擱座しているのは敵従魔が陣取っている古い沈没船の南側五メートルの位置です」
 潜水艇はその古い沈没船の調査の為に潜航していたのだという。
「敵従魔の大きさは推定二十メートル。足だけでも十五メートルは有ると思われます」
 タコ型従魔は現在はじっとしているが潜水艇までは充分足が届く距離である。
 救助に向かったとしても擱座した潜水艇を救出する前に救助する為の潜水艇が襲われるだろう事は想像に難くない。
「皆様への依頼はこのタコ型従魔の撃破です」
 救出するための安全の確保、それが今回の目的である。
 作戦としては北側から接近して南側の潜水艇を巻き込まないように戦闘、出来る限り速やかにこれを撃破する事である。
「深海での戦闘補助の為、こちらで装備を準備しています」
 その装備は一見すると普通のウェットスーツのようであった。
「元々共鳴状態であれば水圧も低温も障害とはならないはずですが、寒さを感じないわけではありませんし、潜水病に掛からない保証も有りません」
 その為に耐水圧と保温機能を備えてあるのだという。
 さらにセットのヘルメットにはライトも取り付けられ光源の無い深海での視界もある程度確保できるようになっている。
「潜水艇の生命維持システムの限界稼働時間は残り四時間を切っています。次のチャンスはありません。必ず撃破してください」

解説

●目標
・タコ型従魔の撃退

●タコ型従魔
・頭部五メートル、足十五メートルで全体で二十メートル。足は太いところで直径一メートル。
・古い木造の沈没船の上に陣取っている。
・攻撃手段
 1・足による叩き付け、薙ぎ払い。
 2・足による絡みつき。(拘束状態になると締め付けによる継続ダメージが発生)
 3・墨吐き。(従魔自身の周囲を濃い墨で覆い、身を隠します。攻撃、回避共に修正が発生)
・PL情報:視覚だけでなく温度変化とライブスの濃さで目標を認識しているのでタコは墨の影響を受けません。
※【潜水】の能力を持っています。

●潜水艇
・乗員:伊丹 昭雄(46歳) 既婚 二人の子持ち(長男17歳、長女13歳)
・船体の半分が海底に埋もれています。推進系、浮上システム全て破損。浸水は無く、生命維持システムは稼働しています。
・浮上の為の救出準備は海上で既に整っています。
・擱座からすでに二十時間が経過しています。

●潜水スーツ
・アニメのロボットパイロットの宇宙服のような見た目です。
・ヘルメット部分にライトが組み込まれているので正面の視界は確保できますが、左右の視野は狭く特に真横方向はヘルメットにより死角になっています。
※共鳴状態ならば水圧、呼吸の心配は必要ありませんがスーツの機能維持のためヘルメットを外すことは推奨されていません。
・耐水圧、保温は充分であるのでスーツにより海中での動きを阻害される事はありません。
・通信機は内蔵なので海上、それから潜水艇どちらとも会話できます。
・【潜水】等の能力は付加されていませんので装備品にて補ってください。

●沈没船
・古い木造の帆船です。
・発見されたばかりで調査はこれからです。
・タコ型従魔は偶然(MSの都合により)この場所に居座っています。
・船体はほぼ原形を保っており内部を通り抜けることが可能です。

リプレイ

●深海
「リサと居るとさ、何でも出来て調子に乗って、つい大事な事を見失いそうだな」
 真っ暗な世界を切り取ったライトの光を横切る深海の奇妙な生き物達を目で追いながら荒木 拓海(aa1049)がメリッサ インガルズ(aa1049hero001)に声をかける。
『なら解いて、ちょっと海に落としてあげるわ』
 からかうようなどこか楽しげなメリッサの声に
「いえ……自分で常に省みます」
 と応えて拓海は真っ暗な海底へと目を向ける。
 太陽光の届かない海の底は夜よりもずっと暗く飲み込まれそうなほど深い。
 その海の底を見つめて国塚 深散(aa4139)は拓海と自分を結ぶ野戦用ザイルを握りしめる。
『深散に苦手な物があったとはね』
 九郎(aa4139hero001)の声に深散が慌ててザイルから手を離す。
『要救助者の存在と恐怖は冷静さを奪う』
 続く静かで落ち着いた九郎の言葉は波立っていた深散の心を宥めるように響く。
「地上なら月のない闇夜も平気なのに……」
 呟きになってこぼれた深散の言葉を聞きながら九郎は言葉を重ねる。
『深散、僕を信じて作戦通りに動いて』
 九郎の言葉にゆっくりと頷いて深散は胸元に忍ばせた命脈の札へと手を重ねる。
「タク兄、勇気をくださいね」
 誰にも聞こえないように小さく呟いた深散は近づく人の気配に顔を上げる。
「深遠へ向うような暗さは苦手だったね」
 ヘルメットの向こうに拓海の顔が見える。
「怖かったら頼れ。二人分動く」
 深散を安心させるように優しく触れて拓海が微笑む。
『チルル殿怖くないの……皆も居る』
 深散を安心させるように言った酉島 野乃(aa1163hero001)の言葉に深散は皆に見えるようにゆっくりと大きく頷いて見せる。
 例えどんなに怖くても自分と同じように家族を失う悲しみを生む訳にはいかない、その想いが波立つ深散の心を少しだけ鎮めてくれる。

『水中戦……妙な感覚だけれど』
 ぼんやりと見え始めた潜水艇のシルエットを見つめてマイヤ サーア(aa1445hero001)は手足の感覚を確かめるように意識を向ける。
「……救助にかかる時間も考えれば一刻の猶予もなしか」
 いつもと違う体の感覚と動きを確認するように体を動かして迫間 央(aa1445)はヘルメットの光源を絞りノクトビジョン・ヴィゲンをセットする。
 海底に横たわる潜水艇とそのすぐ側、沈没船の上に蹲る巨大なタコ型従魔の姿が青白い視界に浮かび上がる。
「伊丹」
 央の呼びかけに応えた伊丹の声には色濃い疲労が滲んでいた。
「もう少しだけ待ってくれ、俺達が必ず助ける」
 その言葉に応えた伊丹の
「頼む」
 という一言は思ったよりも静かで落ち着いていた。
「あの……」
 思わずといった様子で声を上げた深散が迷うように言葉を切る。
「何か?」
 訝しむような伊丹の声に深散は言いかけた言葉を続ける。
「海が怖くなくなるようなお話ないですか?」
 深散の言葉に少しだけ間を置いて伊丹は
「海が怖いのか?」
 と問い返す。
「……光の届かない深海は怖いんです。真っ暗闇から手が伸びてきて、深く深く引き込まれそうで」
 恐怖に強張っていた伊丹の口から微かな笑いが零れる。
「君達でも怖いんだな」
 伊丹はそう言って潜水艇の外の世界に目を向ける。
「怖い所だよ海は。一瞬でも気を抜けば待っているのは死だからね」
 深散に語り掛けながら伊丹は見えない海面へと手を伸ばす。
 その手は無様なほどに震えているが、取り乱して叫んだところでどうにもならない。
 妻と子供達の元に生きて帰るためには彼女達に頼るしかないのだ。
「だけど、この場所は死の世界じゃない。ちゃんと生物のいる生者の世界なんだ」
 震える声を抑えて少しでも深散が落ち着けるように言葉を探す。
「海は怖い場所だけど、地獄のような恐れるべき場所じゃないよ」
 深散に語り掛ける伊丹の言葉を聞いていた飛岡 豪(aa4056)が
「強い男だな」
 と呟いて沈没船の上に蹲るタコ型従魔へと視線を向ける。
「あの従魔を倒さぬ限り、救出はままならない。早急な対処が必要だ」
 近付いて来た豪達に気付いたようにタコ型従魔が頭を上げる。
『今回はオレが行くぜゴウ!』
 ガイ・フィールグッド(aa4056hero001)の言葉に豪が静かに頷く。
「ああ、救助ならゴーガインよりスカーレット・テザーだ。任せよう」
 警戒するように足を広げたタコ型従魔を睨み返したガイが
『任せとけ! 燃えるぜ、ファイヤー!』
 と声を上げる。

「おぉおぉお弟者……なんだあのデカブツは……」
 岩場に隠れるように身を潜めて阪須賀 槇(aa4862)は震える声を上げる。
 足を広げたタコ型従魔は想像していたよりも大きく見える。
『アレを倒すんだぞ兄者』
 オタオタしている槇に阪須賀 誄(aa4862hero001)が冷静な声をかける。
「ひぃえぇぇ……」
 悲鳴じみた声を上げる槇に誄が落ち着いた声で言葉を続ける。
『なお人命も掛かってる』
 誄の言葉に少し離れた所に見える潜水艇の明かりへと槇が目を向ける。
 深海の暗闇にポツンと浮かぶ小さな明かりをじっと見つめて槇が小さく深呼吸するように息を吸って吐きだす。
「……なら、仕方ない。やろうか弟者」
 震える言葉を押さえて槇はAK-13を構える。

「……少しだけ待ってて……絶対守る」
 レーダーユニット「モスケール」が捉えた潜水艇と仲間達の位置を確認しながら三ッ也 槻右(aa1163)は自分自身に誓うようにそう口にする。
『その為に、それがしが居るの』
 いつもと変わらない野乃の声に槻右は知らず緊張していた意識をほぐすように一度大きく息を吐いて
「頼りにしてるよ」
 と返す。
『任せよっ』
 野乃の言葉と全員が位置に着いた合図が重なる。

●開戦
 全員が位置に着いた事を確認した拓海がロケットアンカー砲に繋いでマグロを放つ。
 それに反応するようにタコ型従魔が動いた。
 大きさのせいかタコ型従魔の動きはゆったりとしているように見えたが、その動きは早い。
 タコ型従魔の動きに慌てたように深散が拓海と繋がった野戦用ザイルを引く。
 予定とは違いタコ型従魔はすぐ側を通過したマグロではなくそれを放った拓海自身へと足を伸ばしていた。
 拓海が直前まで居た空間をタコ型従魔の足が通過する。
 逃がした獲物を追うように深散に牽かれる拓海を追ってタコ型従魔が沈没船を離れる。
 当初の予定とは違うが、結果として予定通り沈没船の北側にタコ型従魔を誘導する事には成功した。
 だが、逃げる拓海のすぐ背後にタコ型従魔は迫っている。
「ガイさん、下通過まで3、2、1」
 三ッ也の声が通信機から響く。
「空に煌めく一つ星。希望の使者、スカーレット・テザー参上!」
 今まさに拓海を絡め捕ろうと足を延ばしたタコ型従魔の真上から声と共にスカーレット・テザーが爆導索を振り下ろす。
 頭部に絡みついた爆導索の爆発に悶えるようにタコ型従魔が身を翻して海底方向へと逃げる。
 その先には央が忍刀「無」の柄に手を添えて立っている。
 央の刀を抜くかのような動きに反応してタコ型従魔が動きを止める。
『用意は良いか兄者』
 動きを止めて央に対する防御姿勢をとったタコ型従魔の側面を見据えて誄が声をかける。
「OK、派手に行こうか!」
 銃身を安定させるために岩に銃を密着させて槇が引き金を引く。
 AK-13の大型ドラムマガジンから吐き出される大量の弾丸がタコ型従魔の体を穿ち、我に返ったようにタコ型従魔が走りだす。
「チルル、ザイルを」
 拓海の言葉に深散が二人を繋いでいた野戦用ザイルを解く。
『拓海君は心配ない』
 不安げにザイルを握る深散に九郎はあえて拓海の名前を出して声をかける。
『水中は相手の土俵、力押しで来られると不利だ。蛸の知能の高さを逆手に取り、精神的に追い込んで消極策に誘導する』
 九郎の作戦に頷いて深散は気持ちを切り替えるように息を吐き出して顔を上げる。
 戦闘はすでに始まっている。
 深散のノクトビジョン・ヴィゲンの青白い視界に飛ぶように泳ぐタコ型従魔の姿が映る。
 円を描くように大きく迂回したタコ型従魔は槇を狙っていたが、ライトの範囲からタコ型従魔を見失った槇はまだその動きに気付いていない。
「阪須賀さん、上です!」
 深散の声に弾かれるように槇が横へと体を投げ出す。
「あわわわ……」
 直前まで槇がいた場所を巨大なタコ型従魔の足が叩き、砕けた岩が舞い上がる。
「お、弟者……なんかタコさん、暗いのに見えすぎじゃまいか」
 かろうじてライトが届くギリギリに見えるタコ型従魔の頭へと目を向けて槇が声を上げる。
『目の作りが違うのかもしれない。時に……潰せば一緒だがな』
 振り下ろした足をもう一度振り上げるタコ型従魔の目へと誄が視線を向ける。
「OK!」
 応えると同時に槇がタコ型従魔の目に向けて引き金を引く。
 だが、銃弾は太い足に阻まれ、さらに別の足が槇へと向けられる。
 その攻撃を深散がターゲットドロウによって奪う。
 振り下ろされた足を受けて深散の体が弾き飛ばされるように海中を流れるがダメージに悶えたのはタコ型従魔の方であった。
 攻撃を受けた瞬間、防御と同時に斬りつけた深散のライヴスが毒のようにタコ型従魔を蝕んでいる。
 
 戦闘が始まった音を聞きながら槻右は伊丹に見えるように潜水艇のライトの明かりの中へと入る。
 声だけでない人の姿に伊丹が安堵の息をつくのが通信機越しに分かる。
 潜水艇の窓の中に見える伊丹の姿はたった一日足らずで随分とやつれているように見えた。
「すぐ終わらせるよ」
 伊丹を安心させるように声をかけて槻右は戦闘をしている仲間達へと目を向ける。
 その視界に戦場と潜水艇を隔てるように横たわる沈没船の姿が映る。
「沈没船、壊さない方がいいんだよね?」
 槻右の言葉に伊丹は思わず苦笑する。
「俺は生きて帰りたい」
 槻右は伊丹のその言葉を聞きながら海上へと目を向ける。
 海上のスタッフも伊丹の救出が出来ればいいと言っていた。
 まだ船名すら確認できていない沈没船の価値は未知数だが仲間の命に代えられるものではないと。
「人命が優先、でも出来る限り守るよ」
 伊丹にそう声をかけて槻右は海底を蹴って泳ぎ出す。
「硯は墨には負けない。どうか守る力に……」
 沈没船に向かって泳ぎながら槻右は祈るように口にして新しい愛刀、小烏丸:硯羽にそっと触れる。

●海戦
「阪須賀さんっ! そっち!」
 沈没船の前に陣取ってレーダーで戦場を俯瞰して槻右が指示を出す。
「おぉOK」
 その指示に槇が慌てて銃を向ける。
『慌てすぎだ兄者』
 タコ型従魔の体をバラバラと叩く銃弾に誄が呆れたように声をかける。
 多少集弾が悪くともタコ型従魔の巨体を外すことは無いが、弾がばらけるとダメージは下がる。
「だって、怖いじゃまいか!」
 巨大な敵の姿に恐怖を感じるのは普通の反応だ。
 異常な戦場の中に有って槇の感覚は正常で伊丹の次に普通に近いだろう。
『兄者、我々の命も掛かっている』
 誄の言葉に槇の顔が微かに引き攣る。
『生きて帰られるかは兄者の腕次第だ』
 続いた言葉に槇は真剣に頷き、
「やるしかないじゃないか、弟者」
 と言って銃を握り直す。
 今度の集弾はさっきよりもずっとましになったが、流石に二十メートルの巨体をアサルトライフルで止めるにはストッピングパワーが足りていない。
 タコ型従魔は動きを止めずに真っ直ぐに槇の方へと向かってくる。
 だが、その体が槇の所へ届くよりも先に足へと絡みついたワイヤーがタコ型従魔の進路を強引に変更する。
「足を絡みつかせるのが得意なようだが、こちらも絡め捕るのは得意でね!」
 ワイヤーの先、凄竹のつりざおを手にしたスカーレット・テザーがワイヤーを巻き上げるが、暴れるタコ型従魔の力は強く海底に踏ん張っていたスカーレット・テザーの足が浮き上がる。
『拓海!』
 メリッサの声に応えて拓海がロケットアンカー砲を放ち、撃ち出されたクローがスカーレット・テザーの胴を掴む。
「酢蛸にするか茹蛸にするか、それが問題だ。なんてね」
 ピンと張った凄竹のつりざおのワイヤーがタコ型従魔の足に食い込み切断する。
『みんなでタコ焼きパーティも良いわね』
 切り落とされた足を見て言ったメリッサの言葉に野乃が
『たこ焼き、何人前できるかの?』
 と嬉しそうに応えるのを聞きながら槻右は身を翻したタコ型従魔の足を弾く。
 硯羽の背で受けた事でタコ型従魔は岩にでも当たった程度にしか思ってはいないだろうが、攻撃ではないとはいえ槻右にダメージが無い訳では無い。
『少し無茶ではないか?』
 心配するような野乃の言葉に槻右は
「守るって約束したから」
 そう応えて沈没船を守るように背にしてタコ型従魔に視線を向ける。
「央、行ったよ!」
 槻右の声に央が忍刀「無」の柄に手を添える。
 タコ型従魔の進路上に気配を消して忍者の様に潜伏する央のノクトビジョン・ヴィゲンの青白い視界一杯にタコ型従魔の巨体が迫って来る。
『ギリギリまで引きつけて』
 マイアの言葉に従い衝突する寸前で身を翻して央は零距離でタコ型従魔の巨体をすり抜けるように回避してEMスカバードで加速した刀身を抜き撃つ。
 高速の斬撃に足を斬り飛ばされたタコ型従魔がバランスを崩して海底にぶつかる。
『央!』
 海底に衝突して砂を巻き上げるタコ型従魔の胴に視線を向けていた央がマイアの警告に咄嗟に身を翻すが、体に振り回されるように広がった足の一本が央にぶつかる。
 そのまま絡め捕られた央にタコ型従魔も予想外だったのか一瞬だが反応が遅れた。
「生憎、易々と捕まっているつもりは無いんだ」
 締め付けられるまでの僅かな隙に放った女郎蜘蛛のスキルがタコ型従魔の足の一本を別の足へと拘束する。
 絡まった足にもがくタコ型従魔の隙をついて拓海が央を拘束する足へと近付く。
 それに気付いたタコ型従魔が拓海を妨害するように残りの足を向ける。
「援護射撃行きますよっと!」
 拓海へ向けられた足を狙って槇がAK-13のトリガーを引く。
『FFに注意だ兄者』
 タコ型従魔の足の位置と拓海の姿を確認しながら誄が槇に声をかける。
「FPS厨的に考えて、FFの事とか当たり前だろJK!」
 誄にそう返した槇の放つ弾丸は足先へ集中して拓海の進路を妨害する足を弾き飛ばす。
 槇の援護で切り開かれた進路を拓海が進み、深散が放った巻物「雷神ノ書」の雷撃が央を拘束する足を撃つ。
 雷撃でわずかに緩んだ拘束に内側から央が忍刀「無」を突き立て、外側から拓海がトライド・グロウスヴァイルを叩き付ける。
「僕もいるんだよ」
 拓海と央に注意が向いたタコ型従魔の眉間に槻右が電光石火の突きを撃ち込む。
 深々と眉間に突き立てられた刃の痛みにタコ型従魔が驚き、動きを止めた隙を逃さず拓海がトライド・グロウスヴァイルのトリガーを引く。
 刀身内部に組み込まれた形成火薬が炸裂し引きちぎるようにタコ型従魔の足を切り落とす。
「全員離れろ!」
 スカーレット・テザーが警告の声を上げる。
 その警告に央と拓海は浮力を利用してタコ型従魔の上へ避けるが、胴の正面にいた槻右は後ろへ下がった。
 足を失った怒りに任せるように振るわれたタコ型従魔の足が避けきれなかった槻右の体を弾き飛ばす。
「槻右!」
 弾き飛ばされた槻右の体を海中でスカーレット・テザーが受け止める。
「ありがとう、ガイさん」
 スカーレット・テザーに礼を言って槻右はタコ型従魔のいた場所に視線を向ける。
 その場所は見通せない闇に覆われていた。
 僅かな光さえ遮る墨がタコ型従魔の姿を覆い隠している。
 一切の光学情報を遮られたせいか暗視装置の映像さえぼやけたように墨の中を見通せない。
「槻右、判るか?」
 拓海の声に槻右は少しだけ眉をしかめる。
「位置だけは」
 タコ型従魔のライヴスは墨の中から動いていない。
「スミで隠れたつもりかい? その”スミの中に居る”事は変わらないだろう!」
 スカーレット・テザーが凄竹のつりざおを振るう。
 墨の塊の中央を分断するように振るわれたワイヤーはそのまま何にも引っ掛からずに墨の端から端へと抜ける。
「ガイさん!」
 槻右の警告と同時に墨の中から伸びて来た足が下からスカーレット・テザーに襲い掛かる。
「攻撃の動作が見えないのは、ちょっと厄介だね」
 防御は間に合ったが、踏ん張り所のない海中では衝撃で体が流れる。
 体勢を整え直して目を向けた時には既にタコ型従魔の足は墨の中へ消えていた。
「阪須賀さん!」
 互いの死角をカバーするように目を配っていた深散が槇に声をかける。
「お、弟者きたぞきたきたきた……ッ!」
 墨の中から飛び出してきた足に槇が声を上げる。
『もちつけ兄者、他の行動はしないで《全力で》隠れろ!』
 誄の言葉に槇はバタバタと足元の岩場の窪みに隠れ、槇を捉えられなかったタコ型従魔の足が空を掴む。
「ゲーム的に考えて……ッ! 回避の後は……」
 戻っていくタコ型従魔の足に窪みから飛び出した槇がフリーガーファウストG3を向ける。
『攻撃の機会……ってな。OK、活躍チャンスだ兄者』
 放たれたロケット弾が足を追って墨の中へと飛び込み、広がった着弾の爆風が周囲の墨を吹き散らす。
『深散』
 吹き散らされた墨のさらに奥へ足をひっこめるタコ型従魔の様子を観察して九郎が深散に呼びかける。
『蛸は墨の中で目に頼らず周囲を知覚する術を持つはず』
 そう言って九郎は深散に指示を出す。
 九郎の指示に従い深散は潜伏で気配を押さえて墨の真上へと移動する。
「これでいいのね?」
 確認するように深散は九郎に呼びかける。
 その手にはH.O.P.E.まんが二つ握られている。
『それでいい』
 九郎の言葉に深散は紙をはがして熱々になったH.O.P.E.まんを墨の中へ向けて落とす。
『に……肉まんが……』
 墨の中に沈んで行くH.O.P.E.まんを見つけて野乃が思わず声を上げた瞬間、墨の中で爆発が起こる。
『肉まんが、爆発した!?』
 野乃の驚きの声に
『H.O.P.E.まんに苦無「極」を仕込んでいたのですよ』
 と応えた九郎の足元、墨の中からタコ型従魔が飛び出してくる。 

●決着
 墨から飛び出したタコ型従魔は不利を悟ったのか一目散に逃げるように泳ぎ始める。
「逃がしはしない!」
 タコ型従魔を追って放ったスカーレット・テザーのAGルアーがその胴へと掛かる。
 凄竹のつりざおを手に踏ん張るスカーレット・テザーによりタコ型従魔の速度がほんの僅かに緩む。
「ガイ、ナイス!」
 速度が落ちたタコ型従魔の胴に拓海のアンカークロー砲のクローが噛みつくように喰い込む。
 体に絡み付く二本のワイヤーに苛立つようにタコ型従魔が動きを止める。
 ワイヤーごとスカーレット・テザーと拓海を排除すべくタコ型従魔が攻撃に移るよりも先に央の猫騙がその動きを妨げる。
 動きを止めたタコ型従魔の胴に深散の巻物「雷神ノ書」の雷撃が突き刺さる。
 何とか逃げだそうとタコ型従魔が再び墨を吐きだすが
『兄者、予想通りタコ墨だ』
 その瞬間を狙って誄が槇に声をかけ
「OK、ロケラン行きます……よッと!」
 連続で放たれたロケット弾の爆風が墨が広がる前に吹き散らす。
 僅かに残った海底付近の墨を目隠しにタコ型従魔の真下へと央が潜り込む。
「自分で自分の目を塞いだな」
 墨から飛び出した央がタコ型従魔の後頭部の隙間に苦無「極」を撃ち込む。
 体内で炸裂した苦無の衝撃に目を回すようにタコ型従魔がフラフラと揺れる。
「央……流石っ!」
 槻右の全身のライヴスを集中させたような硯羽の電光石火の一撃が墨よりも鮮やかな黒い軌跡を引いてタコ型従魔の眉間へ深々と突き刺さる。
「逝ってよし」
 渾身の一撃を撃ち込んで離れた槻右と入れ替わるように槇が放ったロケット弾がタコ型従魔の体を撃ち、爆発する。
 爆風に押されるようにタコ型従魔の体が流れ、ゆっくりと海底に落ちる。

●海雪
「終わった……の?」
 倒れ込むタコ型従魔の体から目を離さないまま槻右が呟く。
「おぉぉ、倒したのか!?」
 フリーガーファウストG3を肩に担いだまま槇が声を上げる。
『しかも何と……LAだ』
 誄もまた驚いたような声を零す。
『終わりです、深散』
 解けるように崩れていく巨大なタコ型従魔の姿に九郎が息をつく。
『伊丹殿……無事だの』
 離れた場所で明かりを灯し続ける潜水艇に視線を送った野乃に
「うん」
 と嬉しそうに返事をして槻右は沈没船へ視線を移す。
 壊れても構わない、そう言われていた沈没船も無事だ。
「さ、子供達が待っていますよ。無事な姿を見せに参りましょう」
 スカーレット・テザーが潜水艇の伊丹に呼びかけて泳ぎ出す。
「一番大切な所へ戻りましょう」
 海上に戦闘の終了を報告した拓海もそう言って潜水艇へと向かう。
『あれだけのタコならタコ焼き何人前だったか……』
 消えていくタコ型従魔の姿にあまりにも残念そうに声を上げる野乃に苦笑しながらメリッサが
『タコ、買って帰る?』
 と声をかけ即座に野乃が嬉しげに同意の声を上げる。
「タコは一度凍らせると柔らかく頂けるそうだよ」
 どれほどのタコを買って帰るのかと苦笑しながら潜水艇に行きついた拓海は伊丹にも声をかけている。
『央……雪みたい』
 マイヤの静かな声に央がタコ型従魔へと視線を向ける。
 タコ型従魔の体から解けて舞い上がったライヴスの残滓が仄かな輝きを放ちながら海底へと降り注いていた。
 いつの間にか周囲は月夜のように仄かなな明かりに包まれていた。
 幻想的な明かりの中を深海の奇妙な魚達が泳ぐ光景は不可思議だったが、とても美しく見える。
「きれい……」
 深散の息をのむ声を聞きながらマイヤは沈没船へと手を伸ばす。
 降り積もったライヴスの残滓に船そのものが淡い輝きを放っているように見えた。
「ローザリア?」
 船首のプレートを央が読み上げる。
「船の名前?」
 槻右の声に
「だろうな」
 と央が応える。
「どんな船だったんでしょうね?」
 船首の女神像を見上げて深散が呟く。
 どんな船だったのか、それは調査が始まらなければ分からない。
 ゆっくりと光が消えていく。
 タコ型従魔の体が消え、闇が戻った深海に一条の光が差した。
 それは救助の為に降ろされた潜水艇の明かりだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 拓海の嫁///
    三ッ也 槻右aa1163
    機械|22才|男性|回避
  • 大切な人を見守るために
    酉島 野乃aa1163hero001
    英雄|10才|男性|ドレ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 夜を取り戻す太陽黒点
    飛岡 豪aa4056
    人間|28才|男性|命中
  • 正義を語る背中
    ガイ・フィールグッドaa4056hero001
    英雄|20才|男性|ドレ
  • 喪失を知る『風』
    国塚 深散aa4139
    機械|17才|女性|回避
  • 風を支える『影』
    九郎aa4139hero001
    英雄|16才|?|シャド
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 槇aa4862
    獣人|21才|男性|命中
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 誄aa4862hero001
    英雄|19才|男性|ジャ
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