本部

おかえりスチャースよ

玲瓏

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
4人 / 4~9人
英雄
3人 / 0~9人
報酬
寸志
相談期間
5日
完成日
2016/12/22 18:52

掲示板

オープニング


 つい先ほど、スチャースが帰還することになると坂山は知った。
 スチャースとは犬型のAIロボットのことである。彼は人間の幸福について調査するようロシアの博士に作られた存在であり、今でも幸福の調査に労を厭わない。そんな彼は困った人を見かけると助けたくなるお節介な性格を持ち合わせており、その性格が災難して一度壊れてしまった。
 現在坂山はとある反政府組織を追っているのだが、その調査に向かった先で大きな事故に遭ったのだ。
 エージェントの修理を受けて、一ヶ月以上をしてようやく帰ってくることができた。まだこの部屋には戻ってきていないが。
 H.O.P.Eオペレーターの坂山は、彼女がいつもエージェントに任務を言い渡す部屋の机に肘を乗せて彼が帰ってくるのを待っていた。彼女の英雄、ノボルはチョコレートを食べながら扉が開く時を待ち遠しくしていた。
「ねえ、ノボル一ついいかしら」
「うん?」
「エージェントを呼ばない?」
 不意をつくような思いつきだった。ノボルは笑った。
「坂山ってエージェントのこと好きだよね。この前の秋祭りの時だって、事ある毎にエージェントを呼んで。その前だって」
「いいじゃない。スチャースだって、大勢で歓迎してくれた方が喜ぶんじゃないかなって思うわ」
「本当、アクティヴだよね坂山は。お祭りの疲れを取るんじゃなかったの?」
 少し前に行った秋祭りの疲れを取るために一週間は休もうと誓った坂山だったが、その誓いを既に忘れているらしい。
「スチャースが帰ってくるのよ。エージェントにも伝えなくちゃ」
「あはは。まあいいと思うよ。確かに大勢でおかえりなさい会でもすれば楽しいと思うし」
「そうでしょ? 後それでね、もう一つ別の閃きがあるの」
「またあるの」
 閃きというのは連鎖反応を起こすのだ。一つ閃いたら、また別の閃きが発生する。
「今まで、エージェントとスチャースが交流する機会って全然なかったじゃない? それとスチャースだって、犬なのに全然犬らしいことできてないじゃない」
「犬型ロボットっていうだけで、犬ではないと思うよ」
「それでも犬でしょ。だからエージェントとスチャースの交流会も兼ねようと思って」
「……エージェントってそんなに暇じゃないよ」
「わからないわよー?」
 この発想を、彼女は楽しんでいるようだった。エージェントが来るかどうか、それを問題視せずもう来ることが決定してしまったかのような顔つきだ。
「交流会、面白そうでしょ?」
「それはね。まあね」
 ノボルは頷いて同意した。
「でも何するの?」
「あっ……」
 坂山はそこで顔を止めた。さすがに、メニューを問題視する訳にはいかないのだ。
「ただのお疲れ様会ってだけでエージェントを呼ぶのはあまりおもしろくないわ。だから、折角だからもっと何か……こう、ほしいのよね。何がほしいのかって言われると、答えられないのだけれど」
「思いつかないの?」
「違うわよ。ほら……エージェントって若い子が多いじゃない? 私もまだ若い方だと思うけど……考え方とか違うと思うから、何が楽しいんだろうって考えた時にパッと出てこないのよ。かくれんぼうとかだるまさんが転んだとか、それくらいしか出てこないのよ」
「思いつかないんだね」
「ち、違うってば」
 それから二十分は考えたが、結局何も思い浮かばないままだった。
「私、こういうの考えるの苦手みたい」
 最初はウキウキで待っていた彼女だったが、今では背凭れに体全体を預けて溜息をついている。
「あはは、別に坂山が考えなくてもいいことなのに」
「え?」
 言葉の意図がよく汲み取れず、坂山はノボルを見た。
「これからスチャースが帰ってくるんだけれど、それまで後どれくらい時間があるの?」
「えっと……三時間」
「ならその間にエージェントを呼んで、交流会をどうするか皆で話し合えばいいんじゃないかな。坂山が全部一人で考える必要はないよ」
「それも……そっか。はあ、そうよね。何を焦ってたのかしら」
 ネガティヴな感情からポジティヴに切り替える短い時間を要した後、坂山はエージェントに招集をかけることにした。
 一体どんな交流会になるというのか、それは全く分からない。

解説

●目的
 スチャースと交流。

●依頼について
 常日頃、エージェントと関わりを持つも交流会という機会に恵まれなかったスチャースを、彼の管理人坂山が設けた。これはスチャースのためだけでなく、今まで彼と関わったことのある人物や、今回初めて会う人物にも楽しんでもらえたらな、とそんな願いが依頼には込められている。
 スチャースについてよく知ることができるかもしれない。

●交流会
 交流会は一日で終わる。スチャースが帰ってくるのが十三時で、十三時~二十四時まで。
 交流会と一概にいっても色々あるが、今回はグループを幾つか組んでスチャースを歓迎したい。三つのグループに別れ、それぞれやることを決める。坂山はどんな交流会にしようかとメニューを決められなかったので、何をするか考えるのはエージェントにお願いすることとなる。
 内容は楽しめるものであれば何でも。スチャースは感情を持っているので、自分達が楽しめるものであれば彼も楽しんでくれるだろう。

●場所
 場所も特に指定はなし。誰かの家に集まってもよければ、公園に集まるのも大丈夫。

●夜 二十二時以降
 交流会の最後は坂山のいるオペレーターの部屋を借りて全員で歓迎。(坂山は唯一、このメニューだけを思いついた)

リプレイ


 今日ほど腕時計を頻繁に目にした日はない。針はそろそろ鬱陶しいと思っているだろうが、坂山は気にもとめず何度も腕時計と扉に視線を行き来していた。
「スチャースと会うのも久しぶりだな」
 おかえり会とシンプルに称して、坂山はスチャースのことを知るエージェントを数人呼び寄せていた。赤城 龍哉(aa0090)はすぐに駆けつけてくれたのだ。
「一体どんな顔してやってくるんだろうな。色々と楽しみだぜ」
「強化改修されての再登場……鎧に変形して合体を」
 そう言ったのはヴァルトラウテ(aa0090hero001)だ。赤城は彼女の肩を手のひらで弱く叩いた。
「しねぇよ!」
 スチャースが来る前からオペレーターの部屋は賑やかである。とはいえ、集まってくれたのは英雄含んで四人。現在ここにいる人数は、坂山の予想を大きく下回っていた。
 彼女が落胆していないのは強がりではない。予想は下回ったが、この少人数で歓迎するというのも意外と楽しいものなのだ。例えば大人数で誕生日パーティをするのと二、三人でパーティをするのならば、二つともそれぞれ違った楽しみがある。
 大人数はお祭りのような雰囲気を楽しみ、少人数は身内感を楽しむ。坂山は双方の楽しみ方を心得ていた。
 一変、ノボルはその楽しみ方を知らずにいた。
「スチャース、喜んでくれるかな」
 彼とスチャースの仲の良さというのは計り知れない。親友以上恋人未満であり、彼がスチャースに気を遣うのは今日日珍しくはない。
「残念ながらこの時期にそうそう暇なエージェントはいないのよ」
 易しめな口調で橘 由香里(aa1855)が言った。
「クリスマスに忘年会、冬休みも近いのよ。……ま、派手にやる必要なんかないから、来れる人だけでお祝いしましょ。スチャースも帰ってきて突然たくさんのエージェントがいると吃驚してショートしちゃうんじゃないかしら」
「それは大変だね……。そうだね、たしかに。ありがとう橘さん」
 その瞬間に思い出したことがあって、飯綱比売命(aa1855hero001)は意地の悪い目つきになって橘にこう尋ねた。
「そういえばお主ら、クリスマスの予て」
「それ以上言うと雪だるまの中に埋め込むわよ?」
 正確に言うと尋ねられなかったのだが。
「あ、そういえばグループに別れるのは止めたわ。元々エージェントの人数が多かった時の対処法で決めただけだし、このメンバーで今日は行動するの」
「そう。坂山さんも一緒に行動するのかしら」
「迷い中よ」
 忘れてはならないのが、ドミネーターという組織の存在だ。この極悪の反政府組織は坂山を以前殺害しようとした経緯がある。
「俺たちがいるんだったらその辺も問題ねえぜ。坂山さんもたまには思いっきり遊んでみるのも悪くないんじゃねえか。それとも予定があるとかか?」
「たまには遊んでみようかしら」
「いつも椅子に座っていると体もつまらんじゃろう。して、遊ぶっていうのは? 何をするのじゃ?」
「赤城君の提案なんだけれど、スチャースの身体能力を確認するために、フリスビーとかボール遊びとかするの。公園でね」
 そんな話をしていると十分というのは簡単に経つものだ。
「お待たせしたのう。わらわ参上じゃ」
 元気の良いカグヤ・アトラクア(aa0535)の声。何となく坂山は、カグヤはそんなセリフを吐くだろうと想像していて大凡当たっていた。
「長らくぶりだな」
 カグヤの腕に抱かれていたスチャースは首を全員に向けて懐かしささえ覚える声で言った。
「おおスチャース! ひっさびさだなあ」
「相変わらず澄ました声ね」
 カグヤはスチャースを地面へと降ろした。橘はスチャースに近づくと、その頭を手で触れた。相変わらず、冷たい体だ。
「あら?」
 坂山は扉の奥からカグヤとスチャース、クー・ナンナ(aa0535hero001)の他、もう一人の姿に気づいた。
「さっき廊下ですれ違っての。スチャースのことが気になるっていうから、連れてきたんじゃ」
 カグヤの斜め後ろに立っていたのは柊 紅葉(aa4606)だった。彼は喋る犬、考える犬に興味を惹かれてカグヤの後ろをついてきていた。
「邪魔しちゃったか?」
「そんなことないわよ」
 おかえりなさい会をしている、と坂山は付け加えた。
「わらわからしてみれば別におかえり会って訳でもないんじゃが、まあそれはそれじゃ」
「へえ……。にしても本当、脱帽もんだわ。最近の科学ってすごいんだな。自分の意思を持って動いてんだろ、このロボット」
 話に境目が見えると、坂山はこれから公園でボール遊びでもしようと考えているとカグヤと柊に言った。グループに別れることもなくなったと、それも伝えた。
「俺も参加していいか? そのスチャースってロボットの実力、興味があるんだよな」
「勿論よ。それじゃあ公園に移動しましょうか」
 スチャース含めて十人は準備を終えると、少し広めの公園まで歩いて向かった。


 柊と赤城が二人で買ってきてくれたボールを使って、広めの公園でドッチボールをすることになった。
 クーは「疲れるからなあ」と見学席に移り、飯綱比売命は「わらわはあくてぃぶ系ではないからのう」と見学席に移った。チームはアルファチームとデルタチームに別れ、アルファチームのメンバーが以下の四人だ。
『ヴァルトラウテ、橘、ノボル、カグヤ』
 デルタチームは以下の四人となっている。
『赤城、坂山、柊、スチャース』
 適当に砂場に境界を描き、外野と内野、中心の区別をつけると早速試合のゴングが鳴る。この試合、勝敗に意味はないから楽しんだもの勝ちだ。四人とも楽しむ準備を終える。
「頑張ってね~」
 クーはあくびをしながら、柊に買ってきてもらった温かいミルクココアを飲んでいる。体が温まったおかげで、吐く息が白い。
「よっしゃ、先攻は俺からだぜ」
 赤城はボールを手にした。ちなみに共鳴は無しというルールだ。共鳴はなしといえど、この試合がどう結末を終えるのか誰も分からない。エージェント同士の真剣ドッチボールであるから、どんな展開にもなりうるのだ。
 投げ方は問われない。ルールは一般的なドッチボールと同じで、相手にボールを当て、相手のコート内に誰もいなくなったら勝利だ。ボールを当てられても、外野から内野にいる人間にボールが当たれば、コートに戻れるという救済措置もバッチリである。
 先攻赤城。赤城はボールを上へと投げた。手のひらから離れるボール、ふわりと浮いたボールに、赤城は額を打ち付けた。イナズマのような素早さで、ボールは吹き飛ばされた。
 ボールは無造作に投げられて、四人は簡単に回避ができた。だが、赤城の狙いは正面突破だけではない。
「安心するにはまだ早いんじゃねえか」
 その言葉は的を射る。ボールの向かった先には大きくないながら石造りの壁ができていた。ボールはそれに反射して、勢いよく戻ってきたのだ。
 ボールの進行方向はカグヤだった。背後からの接近にいち早く気づいた彼女は、グランガチシールドを掲げた。ボールは盾に当たり、頭上を跳ねた。カグヤはそのボールを両手で掴んで、危機を抹消した。
「さすがじゃな。反射を利用して相手の隙を突く……考えたのう」
「カグヤさんこそ、中々手練だぜ。普通、あんな反応できねえ」
「伊達にわらわもエージェントをやってないでの。それじゃあ、反撃じゃ! スチャース、お主の実力を見せてやるとよいぞ。わらわのボール、受け止めてみるのじゃ」
「むッ」
 カグヤの狙いはスチャースだった。自分で修理したロボットに彼女は手加減は作らない。軽い助走をつけて、思い切り腕を振った。ボールの軌道はスチャース、それをこのロボットはどう受け止めるのか?
 ボールが宙を浮いた時、誰も外野に出た者はなかった。スチャースは尻尾でボールを叩き、空中を独楽のように回転し始めたボールを頭の上に乗せた。
「ほぉ、立派じゃのう」
 思わず飯綱比売命は声を上げた。あのスチャースが、一ヶ月以上見なくなっただけでここまで成長するとは。
「やるわね、カグヤさん。ビックリしちゃった」
 坂山は拍手を起こした。
「まあわらわも専門じゃからのう」
 ボールを頭に乗せて、スチャースはどう投げるのだろうと坂山は疑問を抱いたが答えは簡単だ。彼はボールを上にひょいと飛ばし、両後ろ足で蹴り飛ばした。ボールの先にはヴァルトラウテ。彼女は難なく手に取った。
「次行きますわ、お覚悟を!」
 彼女は律儀にも両手でボールを投げた。二つ分の力がかかっただけあり、その速度は砂を起こすほどだった。
「柊、危ないッ」 
 スチャースはボールの先に柊がいることを知った。だが、柊は受け止める体制が整ってなかったのだ。スチャースはだから自らの体を跳ねさせて、柊からボールを守った。
 赤城が手を伸ばしたが、間に合わずボールは地面へと落ちた。
「大丈夫か?」
「あ、ああサンキュー。すげえな、お前」
 砂で多少汚れのついたスチャースを、赤城が茶化した。
「ドッチボールじゃ死人はでないから、そんな頑張ることねえんだぜ」
「うむ。しかし、最早使命感だ。人間でいうところの無意識と同じなのだろう」
「心強いわね」
 熱くなってきた坂山は、スーツの上着を脱いでベンチにかけた。
 心強いが、一つ憂いも生まれる。戦場で仲間を襲うのはボールではない。銃弾であったり、火炎であったりと様々だ。今後スチャースはそういった脅威から仲間を守るために動くだろうが、それで彼の命が終わってしまえば……。
 後でカグヤさんに相談しておこう、坂山は決めて試合へと戻った。


 白熱しすぎたドッチボール。スチャースと橘、ノボルは休憩を取ることに決めた。
「おつかれじゃったのう」
 飯綱比売命の出迎えだ。
「由香里はよくボールに当たらんのう。当って外野にいって悔しがる姿を見たかったんじゃよ?」
「私がヘマする訳ないでしょう。それにボールに当たったからって、ただのお遊びで悔しがらないわよ」
 まだ試合は続いている。今はカグヤが投げたボールが変な軌道を描いて、赤城に命中したところだ。真っ直ぐなげたはずのボールが、なぜか途中で斜めに逸れた。
「ねえスチャース、こう親しい人が無事で帰ってきてくれるのも、何もない平凡な一日も、幸せなんだって思わない?」
 橘は言った。自然に言った。
「そうなのだろうか。何もないというのが幸せとは、私は考えなかった」
「従魔とか、人の命を奪いかねない存在はもう当たり前に蔓延しているのよ。スチャースだってその事故に巻き込まれて、壊れちゃったんでしょう?」
「うむ」
「ノボルだって、滅茶苦茶心配してたと思うわ」
 スチャースは首を伸ばして、ノボルの方を見た。
「夜は寂しかったよ。スチャースがいないからね」
 親しい人か。彼は赤城や、坂山の方を見ながら言った。独り言であった。
「そいつは人じゃなくてロボットじゃがのー」
「自分で考えて、自分で判断できて、個性が宿っているなら、それはもう機械じゃなくて人格なの!だいたい、それを言ったらあなた元の姿は狐でしょーが!」
「なにおう!?」
 隣で始まったじゃれ合い、何か面白味のあるやり取りだ。スチャースは考えた。もしも二人のうち一人が帰ってこなかったら、この光景は二度とない。自分がここにいなかったら、この光景は見られない。
 カグヤがいなかったら、自分はここにはいない……。赤城がいなかったら、坂山がいなかったら。
 そう考えた途端、まるで今起きている事象が全て奇跡であるように思えた。この世界は奇跡だけで作られているのではないか。こんなに都合よく、今日という日が訪れている。
 そして幸福が紡がれている。橘の言う通りだった。何もない平凡な一日があるだけで奇跡であり、同時に幸せであった。
「ありがとう、橘」
 飯綱比売命の頬を抓っていた橘は振り返った。
「うん? どうかしたかしら」
「なんでもない。続けてほしい」
 再び仲良く二人が戯れ合うのを見て、スチャースもノボルも笑った。


 昼という時間が過ぎ去り、夜になった。夜は誰かの家でパーティをすることに坂山は決めていたが、特に立候補は挙がらず彼女の家で行うことになった。
 ローストチキンや皮付きポテトフライを食べながら、全員は食卓に座って様々に話を交わしていた。
「もうスチャースと会って結構経つのね」
 橘はそう言った。
「わらわが初めて会ったのは確か、三人の少年やら一人のサラリーマンやらにお節介して、それをわらわ達が食い止めるって奴じゃったのう」
 カグヤは食事は簡単に済ませて、坂山の家を興味深そうに物色していた。ここに来るのは初めてだからだ。家の主、坂山は少し気恥ずかしそうにしていたが、咎めはなかった。
「ボクが止めなかったら本当にあの時、持ち帰ってたよね」
「その通りじゃな」
「認めるんだな……」
 柊は昔話に参加はできないが、一人一人の過去を聞いていく過程を楽しめた。
 話は移り変わって、橘と赤城がスチャースに初めて会った頃の話になった。
「思い出すわね、ロシアのあの山」
「研究所、だったんだっけか。あそこで最後のトドメをさしたんだったよな、奴に」
 赤城が言っているのはカナピルの事だ。この男は一時指名手配されていたが、調子に乗ったせいかすぐに居場所が特定され、エージェントの活躍で捕らえられていた。
「屈辱を覚えてるわ。奴は私達が来るのを知っていて、待ち構えていたのよね」
 橘は後ろから、男にではないが攻撃を食らって危機一髪の状況に追い込まれたのだ。
「無事解決できたのが救いですわ」
 その時、カグヤが「面白そうなもの発見じゃ」と言って話が一度中断した。思い出のアルバム、のようなものを見つけて坂山は慌てて彼女を取り押さえにいったが、間に合わなかった。
「ほほお。これが、純子が小学生の頃かあ。おっ、これは劇かのう? このマントは――」
「ね? カグヤさん、それ以上は捲らなくていいのよ? そのアルバムね、小学生のしかないから」
「中学生の時のもあるのじゃ。へえ、昔は髪は短かったんじゃなあ。――あ、これは運動会の写真か。顔中粉だらけじゃ」
「違うのよ、それは違うの。カグヤさん、ね? もうそれだけにしときましょう?」
 身内のアルバムというのはどうして興味を持てるのだろうか。ほとんど皆がアルバムを覗き込んでいた。とはいえ、アルバムはそんなに長くはなく十ページもすると終わってしまったが。
「恥ずかしい……」
 パーティ会場を自分の家に選んだのは正解なのか間違いなのか、坂山はわからなくなっていた。
「以前と比べるとどの辺が変わってるんだ? スチャースの機能のことなんだが」
 席に戻った赤城は、カグヤにそう尋ねた。
「故障時にGPS機能を使えること、隠しカメラ、盗聴機能を付属させたこと、それといざという時の回復手段も持たせておいたのじゃ。とりあえずわらわが数種類くらい付け足しておいたのじゃ」
「以前と比べると能力者向けの任務にも機能的に対応し易くなった、という所でしょうか」
「そうじゃな。前のスチャースはただのロボットじゃったが、少しくらいは任務に貢献できるようになった。電池消費とかは考えなくてよいぞ、今までと同じに扱ってくれて構わんからのう」
「やっぱりすごいのね、カグヤさんは」
 坂山は羞恥心から平常心を取り戻して言った。
 しばらくして橘は坂山にこう言った。
「坂山さん、お化粧道具を借りてもいいでしょうか。少しやってみたいことがあって」
「いいわよ。お化粧が崩れちゃったの?」
「いいえ違うんです」
 面白そうな予感を察知した飯綱比売命は彼女についていった。橘はスチャースを別室に連れていって、化粧道具を借りると、口紅をスチャースの口へと近づけた。
「む?」
「動かないで、スチャース。折角の主役なんだから」
 そして完成した一品を見た飯綱比売命は、大笑いを堪えて述べた。
「くっ……くくっ。い、いくらなんでもあいしゃどうに口紅はちょっと、その、どうなんじゃろうのう」
「うーん、もう少し可愛くなると思ったんだけど……え? そんなに駄目?」
 すると柊がその部屋に訪れた。
「おーい、坂山さんがもうそろそろお開きにするって――って、なんだそりゃ」
「良いところにきたわ。このスチャース、可愛いと思わない?」
「そ、そうだなあ……」
 何とも言えない。柊が返答に迷っていたのを確認して、橘はスチャースにつけた化粧を拭いた。
「リボンとか着けた方がよかったかしら」
 そう、ボヤきつつ。
 結局スチャースの飾り付けに似合うものはなく素の状態でリビングへと戻った。
「復帰祝いでプレゼントを用意したんだ。という事で、俺からはボディの手入れ用セットを」
 アクセサリーをプレゼントするのも良いのだが、スチャースにとっては邪魔になると考えた赤城は手入れセットを送った。橘も持ってきた鞄から箱を取り出した。
「私からはオイルよ。あなたの動力源がオイルかは分からないけれど、潤滑油として使えるかと思ってね」
「ボクからはこれをぷれぜんと。門出にね」
 クーからは、お腹の大きなコアラのぬいぐるみがプレゼントされた。
「眠くなったらここで眠るといいよ」
「ありがとう。でも良いのか? 自分の分は」
「家にお気に入りがたくさんあるから大丈夫」
 全体的に好奇心で同行した柊も、スチャースに贈り物を持ってきている。
「俺はあんまりスチャースのこと知らねえけど、何もないのも悪いって思ったからな。一応、簡単なものを買ってきたぜ。シールだ」
 アクセサリーや服は戦闘時に確かに、障害となるかもしれない。しかしシールならば邪魔にはならないだろう。柊は犬の顔をした可愛らしいシールをスチャースにプレゼントした。
「可愛いわね」
 喜んだのは坂山だった。どこに貼ろうか今から悩んでいる。
 贈り物も届け終わり、会場はお開きとなる。これから坂山は食器等を片付けなければならないから、まだ終わったというには早いが。彼女はエージェントを玄関まで見送った。スチャースもついてきている。
「今日はありがとう。とても楽しかった」
 スチャースが月並みに言うのは珍しい。
「俺たちも、久々に楽しかったぜ。また遊ぼうな」
「うむ。だがひとまずは任務だ。今日も、一人でも幸せにするために頑張らなくてはならない。またよろしく頼む」
「よろしくね」
 おかえり、ありがとう。そんな言葉でも幸せに感じられるものだとスチャースは理解した。エージェントは扉をくぐって、寒い外へと帰路につくのだ。
 彼らが帰った後もスチャースはその場に残った。ノボルと一緒に。その場の幸福な余韻を、一秒でも長く感じていたかったから。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • 終極に挑む
    橘 由香里aa1855
    人間|18才|女性|攻撃
  • 狐は見守る、その行く先を
    飯綱比売命aa1855hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • エージェント
    柊 紅葉aa4606
    機械|20才|男性|攻撃



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