本部

【絶零】連動シナリオ

【絶零】雪娘と凍結の街

弐号

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2017/01/19 13:49

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掲示板

オープニング

●全ては氷の中に
 ロシア西部。
 かのナポレオンをも退けたといわれる極寒の大地の片隅にあるほんの小さな田舎町。
 人の数より牛の方が多い、と揶揄されるほど畜産に頼り切った街であり、田舎故大した娯楽もなく若い者は皆刺激を求め街へ旅立ち、残された老人たちが緩やかな衰えと共に生きる、そんなのどかな街。
 しかし、その街はいまや『死の街』と化していた。
 ――全てが氷の中に。

●父親の氷像
「一体何だって言うんだ! くそっ!」
 一人の男が全力で閉ざされた扉に体当たりを仕掛けて何とか破壊を試みる。ここは住宅街のこじんまりとした一軒家。彼が体当たりをしているのはその玄関の扉である。
「くそっ! 開け! 開けよ!」
 悪態と共に何度も扉にぶち当たる。
 ――名誉のために述べると、彼は決して悪意を持って扉を壊そうとしているわけではない。その証拠に彼は外側からではなく内側から扉を開こうとしている。
 彼は自身の家族の為に、この扉を破壊しようとしていた。
「パパ……」
「大丈夫だ! もうすぐ開く!」
 不安そうな顔を見せる子供を励まし、父親はもう一度渾身の力で扉を押し込んだ。
「おっ! よし、開いたぞ!」
 衝撃でようやく扉が開く。
「――っ」
 そして、目の前に広がる風景に一瞬絶句する。
 それは白銀の世界だった。
 全てが凍り付いた死の世界。
 道も、家も、木々も何もかもが凍り付き、動きを止めている。
「何が起こったんだ……」
 事態を飲み込めずただただ圧倒される男。
「パパ……」
「安心しろ。今、安全なところに連れて行ってやるからな」
 子供の声にふと我に返り、その頭を撫でる。彼には呆けている暇などなかった。
 一先ず、ガレージへ車の確認に向かう。
「クソッタレ……!」
 しかし、期待は裏切られる。
 彼の自慢の車は完全に凍り付き、数cmの氷に覆われていた。
「くそ、どうする?」
 まず扉が空けられないし、仮に開けられたところで、タイヤまで完全に氷に覆われている物が動くわけがない。
「パパ……」
「大丈夫だ、今方法を考える!」
 子供の呼びかけに声だけで答えて、必死に考える。
 こんな異常事態、長年この町で暮らしているが聞いた事がない。
 いや、普通に考えて自然現象でここまでの事になるとは考えにくい、つまり、これは――
「愚神……」
「パァパ?」
 そこまで考えてから背筋に怖気が走る。
 ――息子の声じゃない。
「あはっ、やっとこっちを向いてくれたのね、パパ」
 振り向くとそこには10歳ほどの幼い女の子と大きな犬が立っていた。
「あ、あぁ……」
 犬の口からわずかにはみ出しているのは指。
 見間違えるわけがない。昨日だって俺が爪を切ってやったんだ。あれは……息子の――
「駄目なのよ、餌箱から出てきちゃ。お皿から勝手に逃げ出すお肉って聞いた事ある? もしそんなものがあったらお行儀が悪いと思わない?」
 首をかしげて玉虫色の瞳をこちらへ向ける少女。
「ひっ――やめっ――」
「質問に答えろよ。どう思うかって聞いてんのよ」
「うわぁぁぁ!」
 態度を急変させた少女に男は恥も外聞もなく、逃げ出した。
 ――否、逃げ出そうとした。
「ぐ――」
 逃げ出そうとして何かに躓き地面に倒れ込む。
「もー、パパったら慌てちゃって大変ね」
「あ、あ?」
 急いで立ち上がろうとするがうまく行かない。
「靴、履いた方がいいんじゃない?」
 無邪気な声音に自分の足元を見る。
 そこには白く凍てついた自分の長靴が一足立っていた。
 ――いや、違う。俺の靴は長靴じゃない。
 ならばそこに立っている一対の長靴はなんだ。あれは――あれは俺の――
「うわぁぁぁぁ――」
「うるさいな、黙れ」
 少女がそう告げると瞬く間に男の全身は白い霜に覆われ、精密な人間の氷像と化した。
「あーあ、死んじゃった。ルドルフ食べていいわよ」
 興味を無くした少女の命令に従って、傍らの犬――ルドルフが体を巨大化させ、その大きな口で男の氷像を丸のみにした。
「うふふ、いっぱい食べていっぱいいっぱい大きくなろうね、ルドルフ」
 見た目相応の笑顔を浮かべ少女が歩く。
 しんと静まった街に、扉を叩く音が聞こえる。いくつも、いくつも――

●その名はヴァルヴァラ
「かなり緊急性の高い作戦となります」
 ジェイソンが資料に目を通し説明を開始する。
「場所はロシア西部の小さな街。現在この街は道路やライフラインなどすべてが氷が覆われており完全に陸の孤島と化しております。今や電気も回線も通っておりません」
 プロジェクターに投射された地図の街に続く道路にことごとく赤い×印が付けられる。
「そこへ冷気を伴った愚神と従魔が現れました。連絡が途切れる前に送られてきた特徴から以前から確認されている『ヴァルヴァラ』と『ルドルフ』と呼ばれている個体だと思われます。この個体については……鬼丸さん、お願いします」
「はい」
 ジェイソンに促され、凛とした雰囲気の女性が立ち上がる。
「以前接触したエージェントの方々のご報告によりますと彼女の目的は『女王になる事』。つまり、今回の行動も力を蓄えるためのものと思われます」
 端末を操作し、プロジェクターに一人の少年の姿が映し出される。
「かの愚神はミロンという少年の体を触媒にして活動しております。そして、彼は今だ死んでおりません。いわば人質、に近い状況と言えるでしょうか……」
「今回の任務はヴァルヴァラの撃破が目的ではありません」
 鬼丸の言葉を拾ってジェイソンが続ける。
「現在、家そのものを凍り付かされ、閉じ込められている方々が大量に残っております。その方々の避難が何よりも最優先。ヴァルヴァラに関しては時間稼ぎを主として考えてください」
 ジェイソンの鉄面皮が少しだけ歪む。彼としても苦渋の判断だろう。
「状況は一分一秒を争います。どうか、命を一つでも多く救ってください……」

解説

・目的
ヴァルヴァラとルドルフから人々を救い出せ

・状況 ※PL情報
ヴァルヴァラによって凍り付かされた家屋は現在30軒ほど。
中から一般人が脱出するのは非常に困難で扉を固めている氷を砕くか、窓を割る必要がある。
しかし、ヴァルヴァラの冷気により、既に室内の基本は屋外と同等まで下がっており、住民たちの凍死が危ぶまれている。
街の外の可能な所まで住民全てを乗せれる大型バスが数台用意されており、そこまで人々を避難させるのが最優先目的。

※PC情報
ヴァルヴァラは一つ一つ訪問し、住民たちの命を奪っているようで、直接の被害の拡大はそれほど早くはない。
エージェント達の接近を察知するとヴァルヴァラとルドルフは姿を隠し、街を動き回るようになる。
その後の動きに関しては不明である。

・敵
デクリオ級愚神「ヴァルヴァラ」
冷気を操る少女型愚神。ミロンという少年の肉体を触媒にして活動中。
分類上デクリオ級上位だが、ほとんどケントゥリオ級に近しい力を有していて、その成長は著しい。
性格は一見無邪気だが、時折冷酷な一面を覗かせる。

デクリオ級従魔「ルドルフ」
巨大な体を誇る狼型従魔。犬の姿に擬態も出来るが、その真の姿は象並みに巨大な狼である。
ヴァルヴァラの命令に忠実で、彼女の身の危機には敏感に反応する。

リプレイ

 氷に囚われた町は不気味なほどに静かだった。一切のヒトの気配を感じさせない無音の町並みが仄暗い空気を纏い、見るものの心に陰鬱な影を落とす。
 それは死だ。
 町は緩慢に、そして着実に死という深い沼の底に沈み落ちようとしていた。

「良かったよ。住民の皆さんは、雪掻きなんてやる暇なかっただろうからね」
『メテオ達にもそんな余裕はないのです……。ですからこれはきっと、神様が『生きろ』って仰っているのですね……!』
「さて、神様がいるのなら、最初からこんな試練お与えにならないで頂きたいところだけどね――っと」
 共鳴中のメテオバイザー(aa4046hero001)とそんなやり取りを交わしながら、桜小路 國光(aa4046)は“ちゃっかふぁいあーくん1号”で凍て付いた扉を熱していた。
 コミカルな商品名とは凡そ似付かわしくない、一体何を焼き殺すつもりで設計したのか尋ねたくなるような豪炎が銃口の先から轟々と迸り、扉に張り付いた氷をみるみるうちに溶かしてしまった。
 中に入る。
 屋内は静かだった。静かな家を選んでいるのだから当然と言えたが、それは同時に状況が切迫している事を再確認する行為でもあった。
 吐き出した息が真っ白に滲んだ。マイナス20℃を超える外気温と、体感で殆ど差がないように感じられる。やはり不味いと國光は奥歯を噛みしめる。早急に住民を見つけ出さなければ、彼らの命が――
『サクラコ、奥……!!』
 メテオバイザーの声に従い振り向くと、居間に構える暖炉の前に2つの“布の山”があった――否。
「大丈夫ですか……!」
 ヒトだ。
 幾重にも布を被った二人の住民が、身を寄せ合うようにして並び、凍えながら、必死に眼差しだけで國光達に何かを訴えかけていた。
 暖炉からは一切の温かみを感じられない。それはつまり、彼らがこの極寒の空間で暖を失って久しい事を意味している。
「やっぱり低体温症に……! まずはこれを。もう大丈夫です、オレ達はH.O.P.E.です!」
 彼はこういった事態を予測し、ヒトの気配が感じられない家を優先して選んでいた。
 助けを求める声よりも、“沈黙”の方がよほど危険である事を理解していたからだ。
 二人の住民の震える手に暖かい白湯の入ったMM水筒を握らせる……。

 もう一つ言えば、“彼ら”は街の最奥部の家屋から順々に人々を救助していた。
「死なせない……ただの一人だって、死なせるわけには……!」
 白銀の天使のような出で立ちをしたエージェント、大門寺 杏奈(aa4314)が住民を抱き抱え、雪原をひた駆ける。
 住民はヒーターシールドで暖められ、青白かった肌にほんのりと血の色を宿し始めていた。
「ええ。凍死にせよ愚神にせよ、罪なきヒトが理不尽な最期を迎えるなんて、わたし達が許さないわ」
 その隣には防寒具に身を包む老婆を背負いながら並走するアガサ(aa3950)の姿がある。
 二人は街の最奥部から入り口に停留する大型バスまでの距離をひと息で走破すると、暖房の効いた車内に住民を座らせ、運転席の横に大きく掲示された地図にチェックを記入した。
 地図は、國光が用意した。救助が完了した家屋に印をつける事で、作戦の効率化を図る目的だ。
「…………」
「どうかされまして?」
 とんぼ返りで再び町の最奥部を目指して疾走る中、杏奈が硬い表情をしていた事に気付き、アガサが双眼鏡から――愚神警戒用だ――顔を離して、声をかける。
「……ううん」杏奈はややあって首を振り、「“彼”の交渉が始まれば、成功にせよ失敗にせよ、本格的な戦闘に移行するわ。それまでにどれだけ救助を進められるかが、鍵になると思って」
「なるほど」これを受けてアガサは前を向き、「成功……するかしら」独り言のように呟いた。
「…………」
 杏奈の沈黙は、決してネガティヴなそれではない。
 ただ、杏奈の思考では、交渉の成否以上に、人々の安否に重きを置いていた。ある朝突然、死の淵に立たされた住民達の境遇と、彼女が過去に味わった耐え難い悲痛な記憶が否が応でも重なり、彼女の表情を険しくしていたのだ。
「まだ生きてる人がいる。急がなくちゃ」
『時間勝負ですわよ!』
 杏奈の言葉に反応する格好で、共鳴中のレミ=ウィンズ(aa4314hero002)の声が、場違いなほど朗らかに脳内に響き。
『担当区域まで50M地点を通過。並び、10時方向凡そ55Mの家屋より音声確認』
「……ええ」
 同じく脳内に響いたエンブリオ(aa3950hero002)の声を聞いたアガサは双眼鏡を下ろし、特徴的な紫色の瞳をそちらへ向ける……。

 國光、杏奈、アガサが町の最奥部を担当する班ならば、古賀 佐助(aa2087)達は手前のエリアを担当していた。
〈ワタシ達はH.O.P.E.のエージェントだ! 救助に来たよ、さぁ、急いで避難しよう!〉
 ヒートソードで扉の蝶番を切断して家屋の中に入った佐助は、住民達にブランケットを手渡すや、両肩に一人ずつを抱え上げ、あっと言う間にバスまで運び込んでしまう。バスまでの距離が近い分、彼らは効率よく救助を進める事が出来ていた。
(二度目の救出劇か……今回は数も多いし、スピード優先で動くとすっか……!)
『ん……近場から優先的に、ね』
 脳内で共鳴中のリア=サイレンス(aa2087hero001)と会話しながら、雪の上を駆け抜ける。住民達は佐助の登場に喜び、安堵し、中には涙する者さえいた。
 一方、同じく手前のエリアを担当しているニウェウス・アーラ(aa1428)は救助方法に独特のものがあった。
「救助優先……迅速に、行こう」
『OK。ここはレスキューの鬼になるしか!』
 氷のように冷淡なニウェウスの言葉に反して、はしゃぐようなストゥルトゥス(aa1428hero001)の声。ヒートソードを用いて扉を開けるところまでは他の者と同じだが、彼女が救い出した住民に手渡したのはハンドアウトカードセットだった。
「簡易地図だよ。この印のところまで走って。バスと、暖かいものと、救助された他の人達がいるから」
 これを聞いた住民は自らの脚で、動けない者がいれば各々がおぶってバスを目指した。
 彼女は、兎角効率を重視していたと言える。バスにほど近い家屋であれば移動は住民の脚に任せられる。これにより、彼女自身が動ける時間を増やす事こそ、結果的に多くの住民を救う事に繋がると考えたのだ。
 手前のエリアを担当する者は二人だけだったが、バランスの良い配分と言えた。バスまでの距離が近い上、ニウェウスの効率が際立っていた為、奥のエリアよりもずっとピッチが早かった。
〈……ん〉
「? どうかし、」
 救助作業のさなか、偶然顔を合わせた佐助が特徴的なオッドアイを周囲に巡らせている事に気付き、ニウェウスは何かあったのかと声をかけようとしたが、即座に口をつぐんだ。
 佐助はこの作戦に於いて、“奇襲を感知する能力”を発現させていた。
 そんな彼の――いや、共鳴中のその姿を鑑みれば、彼女のと言うべきだろうか――右手が、肩に提げたイグニスに伸びている事に気付いたのだ。
〈ちょっと、急いだ方が良いかもだね――〉

 このように、奥、手前と二つのエリアから救助してゆく作戦を採用したエージェント達だったが、彼らが組み立てた作戦はもう一つあった。
「さて――後は待つばかり、か」
『“待ち人”が来ると良いわね? いえ、この場合は一方的に待ち伏せているのだから、そんなに可愛らしい話でもないのだけれど』
「……自分勝手は承知の上だ」
 狒村 緋十郎(aa3678)は、共鳴中のレミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)と軽口を叩き合いながら、住民を避難させた後の家の中で毛布を何枚も重ねてかぶり、蹲っていた。
 そうして懐からライヴス通信機を取り出し、声をひそめて連絡を入れる。
「俺だ。潜伏完了。赤レンガの煙突の家だ――」

「――了解」
 荒木 拓海(aa1049)は短く返答してから通信機を切り、改めて自らが引くソリを振り返った。
 ソリには4人の住民が多少窮屈そうに乗っていた。老人の多いこの町にも若い世代がいないわけではない。こういった場合、一度に大人数を運ぶ事の出来るソリに着目した拓海の発想は確かな成果を挙げていた。
(やっぱり、俺が運ぶしかないな)
『少なくとも愚神が姿を現すまでは、無防備な状態で住民の方々に長距離を歩かせるわけにはいかないわね』
 拓海の心の中の声に、メリッサ インガルズ(aa1049hero001)が頷いた。彼らは町のちょうど中央部で救助活動を行っている。
 國光達に加勢するか迷ったが、緋十郎が中央部に目標を定めた事で彼らもこの一帯を担当する運びとなった。
(殺させるものか。ああ、住民も、ミロンも……仲間も、誰も犠牲にはしない)
『……そうね』
 何処か張り詰めた拓海の言葉に対するメリッサの表情は暗い。
 “この作戦”で最も危険な者が緋十郎である事は疑いようもない事実だ。だが、だからこそメリッサは拓海の身を案じていた。
 友が目の前で危険な賭けに出ようとしている状況で、この男が己の身を顧みる筈がないのだ。
「今の所、愚神の動きは確認出来ません。実に静かです」
 そんな拓海達の隣で、Гарсия-К-Вампир(aa4706)……ガルシア・クロブ・ヴァンピラは愚神の警戒に専念していた

 拓海に随伴しながら、雪の上に足跡がないか、家屋の影に隠れていないかと探して回るが痕跡は見られない。頻繁にエージェント達が行き来している為に雪の上は足跡が点在しており、愚神のものであるか否かを区別する事が難しかった。
 だが、警戒はそれ自体が抑止に繋がる。全く隙を見せないエージェントに襲いかかる事は、上位とは言えデクリオ級の愚神であるヴァルヴァラにとってもリスクの高い行為の筈だ。
「……荒木様は、初対面で御座いますね」
「ん……ああ、そうだね」
 出し抜けに、そのように拓海に話し掛けたガルシアはぴくりとも表情を変えぬまま、けれど品の良い仕草で小さく目礼をした。
「サンクトペテルブルク支部のガルシアです。改めて、よろしくお願いいたします。……レティ、ご挨拶を」
『はーい! あたしレティ、よろしくね!』
 一瞬だけ肉体の主導を得たЛетти-Ветер(aa4706hero001)……レティ・ヴィーテュアが無邪気な声で挨拶を重ねた。サンクトペテルブルクはロシア西部の都市だ。つまり彼女にとって、一連の事件は故郷を荒らされているようなものだろうか……そんな事を考えながら拓海が挨拶を返そうとした瞬間。
「……よろしく」
「うわぁっ!?」
 真横から急に声が聞こえ、思わず大きな声を上げてしまった。
 見ればガルシアとは反対方向を、何時の間にか住民を背負った忍び装束の男が並走していた。拓海とは裏腹にガルシアは男の姿を認めると、平然と一礼する。
「……僕は……不知火 轍(aa1641)……。迅速に、作戦を成功させよう……」
「あ……ああ、そうだな。住民達を、一刻も早く救ってあげないとね」
「早く帰って、寝たい……」
「あっ、そういう……」
 忍び装束の男、轍はそれだけ告げると、ぽかんとした拓海とガルシアを追い抜いて、颯爽と駆け抜けて行ってしまう。
 ――少し、補足が要るだろう。まず第一に、轍が安眠をこよなく愛している事は間違いなかったが、彼は決して住民の命をその下に置いているわけではない。
 そして、彼が早々に会話を打ち切って先へ行ってしまったのは、二人との会話を嫌ったわけではなく、彼が背負う住民に軽度低体温の症状が確認出来ていた為だ。
『中等度低体温、と言いましたか。それ以下の症状が今の所見られないのが幸いですね』
「……作戦が長引けば、分からない。……中等度以上の処置は、面倒……」
 共鳴中の英雄、雪道 イザード(aa1641hero001)とそんな風に会話をし、時折凍結した路面を見つけては砂を巻いて滑り止めにしつつ、轍は風のように雪原を駆け抜ける。

 そのようにして、三者三様、十人十色の方法で救助作業を進めていた所……“それ”は遂に訪れた。
「こーんこーん♪」
 扉がノックされると同時に、可愛らしい声が扉を叩く擬音を歌った。
「どなたかいらっしゃらない? お外は一面、雪で真っ白! だからわたしと遊びましょう?」
 木材がねじれるような音が室内に響き、内向きに扉が開かれた。茶色い絨毯の上に小さな二つの足が乗る。何かを探すような足取りで、ぱた、ぱたぱた、と床を踏むたび、足音が羽のように軽い体重を伝えた。
 その足が、止まる。
「あっ! みぃーつけた!」
 少女は――ヴァルヴァラはとうに火の消えた暖炉の前に蹲る、何枚もの毛布を被った人影を指差して、ころころと可愛らしく笑った。
 そうして近付いてゆくと、笑顔のままむんずと毛布を掴み――恐らく住民の恐怖に歪んだ表情を確認する為だと思われるが――勢い良く、全ての布を剥ぎ取った。
「ヴァルヴァラ……俺だ!!」
 布の下から現れたのは、緋十郎の笑顔だった。
「会いたかった……会いたかったぞ……!!」
 緋十郎は再会の喜びを緩みきった表情でいっぱいに表現しながら、キラキラと輝かんばかりの熱視線をヴァルヴァラに注いでいる。
 対するヴァルヴァラの反応は、急激に凍り付いた笑顔のまま、「……うっわ」と一言呟くのみ。
 何とも締まらない絵面ではあるが――エージェント達の作戦が第二段階に移行した瞬間であった。



「始まったようだね」
 繋ぎっぱなしのライヴス通信機が伝えてくれる状況から事態が動いた事を察知し、國光は地図を広げた。
「忙しくなるよ」
「そうね。残りは半数弱、といったところかしら」
 アガサも住民を背負いながら救助の進行状況を思い起こす。
「確か、手前はほぼ完了していたわ。やはり奥が残ったわね」
「まあどうであれ、みんなが頑張ってるんだ。オレ達も頑張らないとな――」



 緋十郎がマフラーやらティアラやらを興奮気味に取り出してはヴァルヴァラに着せようとした辺りで、ヴァルヴァラの表情は笑顔から一転して何か生理的嫌悪感のようなものさえたたえたものに変貌し、緋十郎の満面の笑みを目掛けてバスケットボールほどもあろうかという氷の礫を叩きつけようとした。
「そこまでですっ!」
 すんでのところで、鋭く割り込む声があった。ヴァルヴァラが入ってきた扉から、ひと組みの男女が駆け込んでくる。
「ニック、変身よ!」
『またあのポーズか、と言っている暇はなさそうだな。いや、ないという事にしよう……』
「変身! ミラクル☆トランスフォ――――ムッ!!」
 唖然とするヴァルヴァラの前で、突如現れた二人の人物、大宮 朝霞(aa0476)と英雄のニクノイーサ(aa0476hero001)は彼女には理解し難いポーズを取り、変身という名の共鳴を果たした。
 燦然と輝くライヴスの光の中から現れたのは、朝霞の思い描く理想のヒーローとしての顕現、“聖霊紫帝闘士ウラワンダー”。勇ましくも何処か可憐なポーズを、びしいぃぃぃぃぃぃぃっ、と決めている。
 そんな朝霞をヴァルヴァラが胡乱な目つきで見つめる中、朝霞はやや芝居がかったような仕草で人差し指を突きつけた。
「私はね、雪娘! 貴女の事を『アルに囚われていてかわいそうだなー、自由になれてよかった』と思っていたわ……」
「えっ、この流れでその話始まるの……?」
「貴女、アルに捕まっていた時、どんな気持ちだった? 嫌じゃなかった? 自分がされて嫌な事を、他人にしちゃいけないんだからね!」
 ――朝霞が現れるなり目の前で共鳴し、出し抜けにこんな話を始めた事にはわけがある。
 朝霞は愚神の警戒手を担っていた。一つどころに留まらず町中を歩き回っては、時折バスへの襲撃の兆しがないか双眼鏡を覗き込む。
 そんな折に雪娘が家屋に入ってゆく姿を発見した為、慌てて追って来た流れだ。
『おい、ちょっと流れが強引過ぎないか……!』
(仕方がありません。既にこの子は狒村さんと接触してしまっています。応援が駆けつけるまで、極力戦闘を回避し、時間を稼がなければなりません!)
『確かに今のは危なかったがな……』
(咄嗟に庇う為に共鳴しましたが、ひとまず攻撃は阻止できましたね)
 そう、彼女の目的は時間稼ぎ。
 彼らエージェントが打ち立てた“もう一つの作戦”の成否にかかる最初の分水嶺が、今、此処だった。
「貴女なら英雄として生きる道もあったかもしれないのに。こんな事を続けるなら、私はココで貴女を――」
 そこまで言いかけたところで、ヴァルヴァラの背後で毛布に埋もれていた緋十郎が立ち上がり、右手で朝霞を制した。
「ヴァルヴァラ、単刀直入に言う」
 ヴァルヴァラは再び緋十郎と向き直った。彼の瞳には先程とは打って変わって真摯な光が宿っている。
 そうして緋十郎は、大真面目な顔をして、こう告げた。

「俺と一緒に、愚神を捕食しないか?」

 ヴァルヴァラが――首を傾げる。
「エージェントと戦いながら人間の微弱な霊力を集めるより、愚神を捕食した方が遥かに効率が良い」
「何で、そんな事が分かるの?」
「それは……」
 言葉を詰まらせる緋十郎。この件について事前にH.O.P.E.の見解を聞いたが、確かな答えは得られなかった。
「……お前がヒトを殺すなら、俺達が止めに入るからだ。だが愚神を捕食する限りH.O.P.E.は邪魔をしない。それに、能力者を依代にした方が力も強まる筈だ。だから、俺の身体を――」
 家屋の外から、緋十郎の名を呼ぶ声が響いた。入り口から顔を出したのは、肩で息をする拓海だ。杏奈とガルシアも家の外に駆けつけている。
 皆、朝霞からヴァルヴァラ出現の報を受け、この“作戦”の為に集結したのだ。
 緋十郎は構わず続ける。
「――俺の身体を使え」
 そうして共鳴を解除し、レミアを傍らに解放すると、幻想蝶をヴァルヴァラの前に突き出し、それを砕いて見せた。武器である槍は小脇に突き立ててある。
 幻想蝶の喪失は誓約の破棄を意味する。戦闘行為を放棄する事、そしてヴァルヴァラを“迎え入れる”準備が整った事を示したのだ。
 これを受けたヴァルヴァラは、ひとしきり不思議そうな顔をした後に真顔になり、「ふうん」とだけ呟いて――

 緋十郎に一歩、踏み出した。

 全員が、固唾を飲んだ。
 緋十郎の言葉は多分にはったりが含まれていた。そもそも彼は自らの身をそのまま差し出すつもりはない。
 緋十郎に憑依するには、現在依代としているミロンを解放する必要がある。この一瞬を狙い、ミロンを回収。緋十郎は“自分の”幻想蝶で再びレミアと共鳴する、そういう作戦だった。

 二歩、踏み出した。

 彼らがいる小屋からやや遠く。アガサはライヴス通信機を通じて会話を聞いていた。
『何故? 理由を問う』
「あの人たちが自分の気持ちに決着をつける為よ」
 感情を滅多に見せないエンブリオには理解し難い事かも知れない。“自分達の”幻想蝶が砕ける感覚を味わいながら、アガサはそっと瞼を閉じた。
「……それにしても、幼い女の子を女王に育てようだなんて、とんだ光源氏ね」

 三歩目で、ヴァルヴァラは振り返った。

「下がって?」
 それは朝霞と拓海に向けられた言葉だった。
 動揺したのは拓海だ。彼はミロンを回収する役目を担うつもりで、即座に対応できる位置にいた。
 だが、憑依を解いたり憑依を行う瞬間を狙われては困るというヴァルヴァラの思惑は――奇妙な表現ではあるが――筋が通っている。
 話を持ちかけているのが此方である以上要求を突っぱねれば破談が待っているだけだ。
 緋十郎が頷いて見せた為、彼らは渋々小屋の外に出ざるを得なかった。

 そして四歩目。
 ヴァルヴァラがミロンを解放した。

 緋十郎はこの時、要求が呑まれたのだと漸く実感した。
 心臓が早鐘を打ち、脳の血流が加速し、刹那の内にヴァルヴァラと視線が交差する。

 五歩目。

 此処だ。
 緋十郎が再び共鳴して槍を振るった。同時に拓海が屋内に飛び込んで来た。
 槍がヴァルヴァラの胸を袈裟に断ち、同時に拓海が腕を大きく伸ばした。だが間に合わない。緋十郎が槍を振るった瞬間にはミロンの姿はヴァルヴァラの中に再び吸い込まれていた。
 ヴァルヴァラは、きょとんとしていた。
「……ッ、失敗……!」
 拓海の表情に苦渋が滲み、同時に朝霞、杏奈、ガルシアも屋内に雪崩込んで来る。俄に空気が熱を帯びる中、ヴァルヴァラの口角が、ひく、と吊り上がった。
 その瞬間のヴァルヴァラの表情を見た緋十郎は、果たしてどのような顔をしていたか。

「あなた達の言葉は二度と聞かない」

 氷のように、冷たい何かに彩られた言葉だった。
 決して、ヒトを信用した訳ではなかった筈だ。ただの一度の気紛れのつもりだったのかも知れない。
 だが、少女は“裏切られた”。その事に彼女がどういった感情を抱き、どう認識したかは定かではない。しかしながら、それはどうしようもなく絶対的な宣言であり、有無を言わさぬ拒絶だった。
「ヴァルヴァラ、待っ――」
 緋十郎の言葉など歯牙にもかけず、ヴァルヴァラは朗らかな笑い声を上げながら窓を突き破り、外へ出てしまった。
 呆然とする一同だったが――拓海が気付く。
「ヴァルヴァラは、ルドルフを連れているんじゃなかったのか……!?」



 ニウェウスと共に住民を運搬している最中だった。
 ニウェウスが住民を引き連れ、警戒手である佐助がその周囲を守った。ある家屋を通り過ぎる瞬間、佐助は一見して無防備だったが、その実、極限まで感覚を研ぎ澄ませていた。
 殆ど脊髄反射だった。弾かれたように身をよじると、身の丈をゆうに超える携行型速射砲で、物陰から放たれた高速の一撃を受け流す。
〈そう易々と、やられる程こっちは甘くないんだよ……!〉
 住民が悲鳴を上げ、ニウェウスが彼らを護るように立ちはだかった。巨大な……象かと見まごう巨躯を持つ従魔、ルドルフが雪の上に立っていた。これほどの巨体が隠れる場所などこの町にはない為、犬に化けて虎視眈々と好機を伺っていたのだろう。
「狼だけ、かな?」
〈そうだろうね。今さっきまで、ヴァルヴァラは中央部にいたようだから〉
 言いながら、佐助は後ろに下がり、ニウェウスが前に出た。前衛は不得手だが佐助が射程を活かすには彼女が前に出るしかない。ライヴスの風を全身に纏い、住民の命を背に仁王立ちした。
 目と目の間に皺を寄せ、飛びかからんと大きく屈んだルドルフの鼻先に無数のライヴスの針が飛来。辛くも回避したルドルフは飛び退り、エージェント達との間に数Mの距離を開けた。
「……助太刀、する」
 景色の中から滲み出るように、轍がニウェウスの隣に姿を現した。この隙を見逃さず佐助がライヴス通信機に呼びかける。
〈此方、佐助! ルドルフと交戦開始だよ! 場所は――〉
 殆ど同時にニウェウスがライヴスの火球を放つ。それはルドルフの足元に着弾するや、爆炎と共に重厚な炸裂音を町中に響かせた。
「――“此処”、だよ」
 それが、開戦の狼煙となった。
 ニウェウスが再度ルドルフに爆炎魔法を見舞えば、ルドルフが反撃の剛爪を振るう。だが、これに合わせて佐助の威嚇射撃が雨霰と降り注ぎ攻撃の出鼻を挫く。畳み掛けるように轍がライヴスの針を射出して牽制。
 以降、爆炎魔法は尽きたもののニウェウスの魔法が苛烈にルドルフを襲い、これを佐助と轍がフォローする攻め口で交戦した。
 それは、どちらかと言えば討伐よりも足止めに重点を置く戦い方と言えただろう。
〈そこから先は悪いが通行止めだよ、大人しくとは言わないけれど足を止めてもらおうか!〉
 佐助の宣言の通り、ルドルフは攻めあぐねていた。仮に持久戦だとすれば先に体力が尽きるのはエージェントの方だろう。ルドルフは二重、三重の行動阻害に苦戦しつつも確かにニウェウスや、佐助に打撃を重ねていた。
 だが、それでも彼らは一貫して足止めに徹した。
 理由は明白だ。
「おおおおおおっ!!」
 ルドルフの横合いに、ハルバードによる強烈な一撃が見舞われる。そのあまりの衝撃はルドルフの感覚を限定的に奪い去るほどだ。
「待たせたね……!」
 佐助の通信の相手、拓海が駆けつけたのだ。
 即座に轍が隣に並び、佐助が敵を再照準。ニウェウスは前衛に余裕が生まれた為、住民の護衛を引き受け、バスを目指して駆け出したところだ。
「……向こうで何があったとかは、聞かない……」
〈今はとりあえず!〉
 この脅威を、排除しなければ。



 絶え間なく歌声が響いていた。
 何処の国の言語とも知れぬ、優しい歌を口ずさみながら、ヴァルヴァラは戯れのように雪原を駆けていた。
「待ちなさい……っ!」
 朝霞が賢明に彼女を追い掛けるが氷の礫の迎撃を受ける。ステッキと言うべきか棍棒と言うべきか判別に困る得物を振るい弾き落とすが、攻撃するには圧倒的に射程が足りない。
「ヴァルヴァラ様」
 その手に構えたナイフを鋭く投擲しながらガルシアがヴァルヴァラに追従する。
「あなたのお噂は常々私もお聞きしております。残虐非道を繰り返す心悲しきСнегурочка(雪娘)がいると……。私は貴方様達の美しくも儚く、また気高いお話を聞かされて育ちました。なぜ愚かな神に身を堕としたのでしょう……? 私の元に新たな雪娘がおります。彼女にとって良き精霊の生き方をお教えください……」
「人違いじゃない?」
 ナイフを回避し、にべもなくそう告げて返すとヴァルヴァラは歌い、笑い、そして両腕を広げた。
「わたしはヴァルヴァラ! いつか女王に至る愚神、ヴァルヴァラよ!」
 ひときわ巨大な氷塊を生み出して放つ。ガルシアの目と鼻の先まで迫ったそれは、然し金色の盾に弾かれて破砕。
「確かにあなたの力は強大ね。だけど、一発で倒れる程ではないわ」
 難なく防いで見せた杏奈が冷たくも勇ましくそう告げると、ヴァルヴァラはにっこりと微笑んだ。
 次の瞬間――彼女達の周囲を苛烈な冷気が覆い尽くす。
 氷獄。
 ヴァルヴァラを中心とする一定範囲が凍り付く。ガルシアは飛び退ろうとするが、足元が凍結し動けない事に気付いた。
 イニシアチブは、完全にヴァルヴァラが握っていた。
 氷の礫で引き撃ちを続ける限り近接攻撃を受ける事はなく、仮に接近されたとしても氷獄により足止めが可能。ガルシアが音響爆弾を雪の中に隠し、地雷のように使用する事も試みたがその地点に誘導する術を講じていなかった為、やむなく投擲による攻撃に切り替えた。
 だが、ヴァルヴァラも決め手を欠いた。
 高位のバトルメディックである朝霞、そしてカバーに徹するブレイブナイトの杏奈という二枚の壁を落とす手段がヴァルヴァラにはない。いや、あるのかも知れないがそのカードを切る様子がなかった。
 結果として戦いが膠着したまま、ただヴァルヴァラが逃げ、それを三人が追いすがるという状況が続き――
「あら!」
 辺りに響き渡ったヴァルヴァラのその一声を以て、作戦は大詰めを迎える事となる。
 朝霞、ガルシア、杏奈がたたらを踏んで立ち止まり……彼女達の顔を見た、佐助、轍、拓海も表情を顰めた。
「ルドルフ、まだ終わってなかったの?」
 ヴァルヴァラとルドルフが――とうとう合流してしまったのだ。
 つい先程まで佐助達と交戦していたルドルフが、ヴァルヴァラの傍らまで跳躍。すわ決戦かと一同が武器を構えた瞬間。

『――おまたせ。救助完了』
『搬送バス、出発よ』

 ライヴス通信機が、國光とアガサの声を雑音混じりに、届けた。



「私で最後、かな?」
「そうみたいだね」
 ニウェウスの手で送り届けられた住民を迎え入れ、國光が運転席の横に張り出された地図にチェックを入れると、全ての家がレ点で消された状態となった。
 住民は、怯えている。
 戦闘音が響き始めている事に加えて、此処まで運び込む途中で遠目にルドルフの姿を目撃した住民も多かった。あれほどの巨体であれば嫌でも目立つ。それはひょっとすると、ヴァルヴァラよりもよほど住民の目には恐怖の対象として映るかも知れない。
「出発、させた方が良さそうだね」
「同感だわ。万が一、愚神がこちらに特攻して来ては面倒だもの」
「……誓約は?」
「もう、済んでいてよ。それじゃあ、わたし達も行きましょうか――」



 町の入り口の方から、ニウェウス、國光、アガサが歩いてきていた。各々が武器を構え、ヴァルヴァラとルドルフを睨みつけている。
「ふぅーん……」
 ヴァルヴァラはつまらなそうに口を尖らせると、ルドルフの背に飛び乗った。
 住民がいない以上、この場に留まる意味も、エージェント達と争う理由も、彼女は失ってしまった。ニウェウス達三人の到来は、この戦闘を終結させる決定打となったのだ。
「ヴァルヴァラ……!」
 そこへ緋十郎も駆けつけたが、ヴァルヴァラは興味がなさそうに一瞥すると、全員に向かってにっこりと愛らしい笑みを浮かべる。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、遊んでくれてありがとう! ちょっと遊び足りないんだけど、わたし、もう帰らなきゃいけないの」
「……それがいい。……僕も……そろそろ寝たい」
「私は、まだお相手出来ますが」
「同じく。ストゥルが暴れ足りないって」
「オレも来たばかりだし、少しくらいなら遊んでやれるが?」
 轍、ガルシア、ニウェウス、國光が油断なく得物を構えながら口々にそう言って返すと、ヴァルヴァラが突然、強烈な風と冷気を放った。ゴウと吹雪が吹き荒んだのは一瞬。一同が目を開けると、愚神の姿は忽然と消え失せていた。
 唐突の集結にやや面食らった一同だが、一人、また一人と武器を収め、帰還の準備に取り掛かってゆく。
「ヴァルヴァラ……」
 ただひとり立ち尽くした緋十郎の小さな呟きが、静寂の雪に染み込んで……消えた。


担当:ららら

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結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
  • 厄払いヒーロー!
    古賀 佐助aa2087

重体一覧

参加者

  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • カフカスの『知』
    ニウェウス・アーラaa1428
    人間|16才|女性|攻撃
  • ストゥえもん
    ストゥルトゥスaa1428hero001
    英雄|20才|女性|ソフィ
  • その血は酒で出来ている
    不知火 轍aa1641
    人間|21才|男性|生命
  • Survivor
    雪道 イザードaa1641hero001
    英雄|26才|男性|シャド
  • 厄払いヒーロー!
    古賀 佐助aa2087
    人間|17才|男性|回避
  • エルクハンター
    リア=サイレンスaa2087hero001
    英雄|13才|女性|ジャ
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
  • ツンデレお嬢様
    アガサaa3950
    人間|21才|女性|防御
  • エージェント
    エンブリオaa3950hero002
    英雄|13才|女性|バト
  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046
    人間|25才|男性|防御
  • サクラコの剣
    メテオバイザーaa4046hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • 暗闇引き裂く閃光
    大門寺 杏奈aa4314
    機械|18才|女性|防御
  • 闇を裂く光輝
    レミ=ウィンズaa4314hero002
    英雄|16才|女性|ブレ
  • 守りもてなすのもメイド
    Гарсия-К-Вампирaa4706
    獣人|19才|女性|回避
  • 抱擁する北風
    Летти-Ветерaa4706hero001
    英雄|6才|女性|カオ
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