本部

テスト勉強をしよう!

一 一

形態
ショートEX
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
9人 / 0~10人
報酬
寸志
相談期間
5日
完成日
2016/12/09 20:36

掲示板

オープニング

●3バカDGZ
『お願いしますっ!!』
 H.O.P.E.東京海上支部の受付にて、3人の少年が大声で訴えかけていた。声の先には女性職員がいるが、彼らへ送られる視線は冷ややかなもの。
「自分たちで何とかするべき問題かと思いますけど?」
 ずっとこの場で粘り続けている少年たちに、嫌気がさしたように告げる職員だが、彼らはめげない。
「自分たちで何とかできないから今まで頭を下げ続けてんだろ、察しろよ!」
「その通りです! こっちだって切羽詰まってるんですよ!」
「日頃色んな任務をこなしてるんすから、ちょっとくらいサポートしてくれたっていいじゃねぇっすか!」
 少年たちはH.O.P.E.所属の能力者。つい最近まで普通の高校生だった彼らは、参加した依頼が数件程度のひよっこである。上から堂島、下呂、財津といい、身じろぎを一切しない完璧な土下座を披露していた。
 堂島たちの言葉使いはやや生意気でも、示す態度だけは低姿勢。たいていの頼みごとなら頷きそうなものだが、職員の表情は苛立ちと煩わしさだけがあり、同情する空気は微塵もない。
「……一度貴方たちの話を整理しますね。まず、能力者として登録してから、参加してもいない任務を口実に学校を連日サボっていた」
「勉強なんてダルいだけだから当然だろ?」
 堂島は威張って謎のドヤ顔。
「……それが先日ご両親にバレてしこたま怒られ、約1週間後にある期末考査の結果次第では家を出て行けと言われた」
「将来何の役に立つのかわからない勉強など、するだけ無駄だと思ったから避けていたのに、酷い条件だと思いませんか?」
 下呂は本気で主張し苦い顔。
「……しかし、全員勉強をろくにしてないため、現状赤点はほぼ確実。加え、任務の報酬は既に使い果たし貯金も0で、家を追い出されると生きていけない」
「自分らまだ高校生っすよ? エージェントで仕事するっつったって、それだけで生きていけるわけねぇっすよね?」
 財津は底抜けに軽薄な笑顔。
「…………だから、テスト期間終了まで会議室の一室を貸し切りにして、講師役を集めて試験対策を手伝って欲しい、でしたか?」
「それもこれも、能力者になったことが原因なんだから、H.O.P.E.がサポートしてくれるのが筋ってもんだろ!?」
「教師にバレないカンニング方法などを教えてくれる方が理想です! 今さら勉強などしても付け焼き刃にすぎませんから!」
「かわいくて綺麗な女の子限定、ってのも忘れないでくださいっす! 野郎だけ集まった勉強会とか参加する気が失せるっすから!」
「却下。自業自得、やる気なし、下心全開な貴方たちの態度で、協力できるとでも? 自分たちで蒔いた種なんですから、自分たちで解決しなさい」
『そこを何とか!!』
 かれこれ1時間ほど、全く同じ内容でループしているこのやりとりは、まだまだ終わりを見せそうもない。
「一体何が悪いんだ!? 俺たちはこうして、誠心誠意頼んでるじゃねぇか!?」
「強いて言えば、頭・生活態度・口・根性が悪いですね。そもそもお願いする立場なのに、誠意のカケラも見えませんし」
 職員は堂島の上から目線な物言いをばっさり切り捨て。
「僕たちだって、考えに考えた末の決断なんですよ!? 見捨てるなんてあんまりです!」
「考える力があるのなら、素直に授業を受けて勉強すればよかったでしょう? 見捨てたのはこうなることを予測できなかった、貴方たち自身だと思いますけど?」
 下呂の考える力の無駄遣いに呆れ。
「暴論っす! 横暴っす! 大人の陰謀っす! 自分たちにも生きる権利くらいあるっす!」
「生きる権利を主張する前に、努力しようという姿勢を見せてください。参加者は若くてかわいい綺麗な女の子だけとか、舐めてるんですか?」
 財津のふざけた条件に青筋を浮かべる。
「若いとまではいってないっす! 被害妄想っす! 自分がぱっとしないからって、若さに嫉妬するのはどうかと思うっす!」
「……あ゛ぁん!?」
「さーせんしたぁ!!」
「すみませんでしたぁ!!」
「自分、調子こきましたぁ!!」
 余談だが、堂島らはこの時初めて誠意を見せたらしい。
「…………はぁ、わかりました。他のエージェントの方々に声だけはかけてみます。それでいいですか?」
 結局、埒が明かないと判断した女性職員が折れ、渋々ながら依頼は通されることに。
「ったく、いいなら最初からいいって言えよな」
「浪費した時間を考えると、同感ですね」
「本当、オバサンは頭が固いっすから」
「聞こえてんぞクソガキども!!」
 なお、堂島・下呂・財津の帰り際に漏らした小言が原因で、中堅リンカーでもある女性職員(29)ともう一悶着起こりそうだったことも、完全な余談である。

●色んな意味の勉強会
「……ということがありまして、あまりにもしつこかったのでうっかり通しちゃったんですよ」
 少年らが逃げた後、女性職員はたまたま東京海上支部にいたエージェントたちに声をかけ、先ほどのやりとりを説明した。最後に大きなため息を出し、彼らとのやりとりでいかに疲れたのかがわかる。
「それで、時間に余裕がある方でいいので、彼らの勉強と性根を見てもらえませんか? まだ能力者になりたてで若いとはいえ、あのような態度や世間知らずのままですと、エージェントとしてだけでなく、今後の彼らの生活にも支障が出るかもしれませんし」
 実際にAGWを出し、本気で攻撃しかけた女性職員としても、少年らの言動が敵や問題を作りやすいと言わざるを得ない。彼らに「少しは将来を考えろ」という趣旨の説教もした手前、放っておくこともできなかった女性職員は、彼らの代わりに頭を下げた。
「あの生意気な性格が一朝一夕で更生できるとは思えませんが、同じエージェントや大人としての立場から、未熟な彼らを指導してやってください。報酬は微々たる額ですが、これも後輩の育成と思って協力していただけないでしょうか?」
 エージェントへ協力を仰いだ女性職員の姿は、少年らの土下座よりもよほど誠意が込められていた。
 初日の勉強会は、明日の夕方5時から予定されている。
 はてさて、一体どうなることやら?

解説

●目標
・少年エージェントらの成績向上
・問題のある性根の改善

●登場
・堂島…高校2年生。言動が上から目線で口も少々悪い。不良より悪ガキといった印象で、土下座に慣れが見える。全科目不得意であり、特に苦手な科目は古文と英語。

・下呂…高校1年生。敬語の慇懃無礼。3人の中で1番頭の回転は速いが、学校の勉強に意義を見いだせず成績悪化。得意科目は数学・化学・物理、苦手科目は歴史・地理。

・財津…高校3年生。下っ端口調でデリカシー0。女の子が大好きなお調子者で、ノリで生きているためか失言も多い。得意科目は副教科、苦手科目は5教科すべて。

※得意科目はあくまで自己申告、成績は全教科赤点レベル

●場所
 H.O.P.E.東京海上支部にある会議室。約30名を収容でき、広さは学校の教室よりやや小さい。3人掛けの長机が2列5組(計10脚)で並び、壁の一面は大きめなホワイトボードが設置。
 該当階のフロアは全て小~中規模の会議室として利用され、他の会議室も随時使用される。階段やエレベーター、自販機、トイレはフロアの端にあり、各会議室の出入り口は見通しのいい1本の廊下と隣接している。

●状況
 勉強会は平日17:00~21:00、土日9:00~21:00の予定。テスト期間中の平日は学校に登校し、渋々授業を受けている。
 全員学校では赤点常連であり、それぞれの両親が出したクリア条件は全教科赤点よりも上になること。勉強意欲はほとんどないが、実家から追い出されるのをおそれH.O.P.E.へ泣きついた。勉強会ではテスト範囲を把握して教材を持参するものの、それまでに勉強は一切していない。
 また全員能力者となって日が浅く、戦闘経験もほぼない。そのため、外見年齢や容姿で人を判断し、暴力的や威圧的な言動をされるとすぐに引く傾向がある。なお、英雄は社会勉強をかねてアルバイトをしており、勉強会には不参加。

リプレイ

●心配性……?
「陛下、本当に一羽で大丈夫ですか?」
「共に勉強し、分からぬ所を教え合うだけであろう。何も心配することは無いぞ」
 勉強会の前日、知らぬ間に受けた依頼の内容を聞いた酒又 織歌(aa4300)は、ペンギン皇帝(aa4300hero001)に何度も何度も確認をしていた。
 一緒に参加できればここまで不安はないのだが、あいにく織歌は水泳部があってほとんど参加できない。ペンギン皇帝は人と意志疎通が可能とはいえ、一羽だけでの行動は家族として不安が募るのだろう。
「勉強会、楽しみである」
「……大丈夫でしょうか」
 とても前向きなペンギン皇帝をよそに、織歌のため息が止まることはなかった。

●確認テスト
「あの、深散先輩。もしかしたら皆さんにご迷惑をお掛けするかもしれませんが……どうぞ、陛下の事を宜しくお願いします」
 勉強会当日の放課後。結局織歌は同じ学校の先輩で、偶然同じ依頼を受けていた国塚 深散(aa4139)にペンギン皇帝を任せることにした。織歌はフリッパー用の改造筆記用具も深散に渡し、やはり心配そうに部活へ向かう。
「織歌ちゃんは部活ですか、残念です。ペンギンさん、頑張りましょう」
「うむ、此度はよろしく頼むぞ」
 そうして深散とペンギン皇帝は勉強会が行われる会議室へ向かった。

「お~、勉強出来そうな奴がちらほらいるな」
「……つまり、テストは正攻法でいくしかない、ということですか」
「ペンギンがいるっすよ!? すっげ、自分初めて見た!!」
 すでにエージェントたちが揃う中、問題児たちは17時ギリギリに到着。謎の上から目線な発言の堂島に、不正を諦めてなかった下呂が肩を落とす。財津はペンギン皇帝に大興奮し、着席を促されるまでスマホで写メを撮りまくっていた。
「まずは、現在の学力がどの程度かを見ます。基礎が出来ていなければ、特に理数系は理解できませんよ」
 初日はアリス(aa0040hero001)が教師役。事前に聞いていた学年と試験科目ごとのテストを作成し、参加学生たちに配った。ただし、佐藤 咲雪(aa0040)は参加学生で唯一の中学生であり、唯一の鳥類であるペンギン皇帝は独学であるため、高校生組とは別のテストが配布されている。
「……ん、めんどくさい」
「私語は慎むように」
 ただ、咲雪は始まる前から無気力全開。アリスから注意を受けて、渋々ペンを取る。

「そこまで」
 小休憩を挟みつつ、8科目のテストはアリスの号令で終わる。その他教師役はカンニング対策として会議室内を回っていたが、ひとまず不正者はいなかった。
「かぁーっ、終わったぁ!」
「失礼します」
「また明日、よろしくっす!」
 すると、3人が早々に席を立つ。堂島は「ゲーセン」と呟きつつ、下呂は愛想0で、財津は女子とペンギン皇帝に手を振って、足早に去っていった。
「…………」
「どうしましたの?」
「いや、あの連中をうちの道場に連れてったら、相当面白い光景が見られそうだなと」
 3人の背中を見送る赤城 龍哉(aa0090)に、ヴァルトラウテ(aa0090hero001)が首を傾げると、そのような返答が。実家の古武術道場で今も元気な祖父を思い返しつつ、堂島たちを死地に送った場合をシミュレートして笑みが浮かぶ。
「これは……」
 それからすぐに添削作業を終えたアリスが、堂島たちの解答用紙を見て眉をひそめる。ただ間違えるだけならまだしも、ほとんどの記入欄で『知るか』・『わかりません』・『女の子の連絡先を教えてくださいっす!』などなど、そもそもテストを受ける気があるのかすらわからない解答ばかりだったからだ。
「俺も優等生とは言えんが、これは酷いな……。一度留年させて、地獄を味わわせた方がいいんじゃないか?」
「なるほど、これがまるで駄目な男子、略してマダオって言う人たちかぁ~」
 その日の内にテスト結果を受け取るために残っていた御神 恭也(aa0127)も、堂島たちの解答を見て呆れ顔。伊邪那美(aa0127hero001)もひょっこり顔を覗かせ、辛辣な評価を堂島たちに下す。
「そお言えば恭也も、休日にも学校に行ってるよね? もしかして……」
 その流れで、恭也の通学状況を思い出した伊邪那美は流し目を送るが、返ってきたのは否定の言葉。
「何を考えてるか判るが、奴らと違って成績が悪いからじゃ無いぞ」
「ならなんで?」
「依頼のせいで出席日数が純粋に足りないんだ。成績は中の下と言った所だから、補習で免除して貰っている」
 ちなみに、恭也のテスト結果は自己申告通りだった。
「不真面目な生徒達だ。今やるべきことをやらずして、後悔するのは自分なのだぞ!」
「き、教育魂に燃えていますね、ラシル……」
 堂島たちの態度に憤慨するリーヴスラシル(aa0873hero001)の横で、在学中のテール・プロミーズ学園の制服を着たまま参加している月鏡 由利菜(aa0873)は熱血スイッチの入った英雄に少々気後れしている。教師から見れば、元が悪いほど教育のしがいがある、ということなのかもしれない。
 ちなみに、由利菜のテストは全教科好成績だった。
「このまま彼らに勉強を教えたとして、果たして身につくでしょうか?」
「知ろうという気持ちが見えないから、やっても無駄じゃない?」
 全体的に高得点だが数学がやや低かった深散の疑問に、九郎(aa4139hero001)はにべもなく切り捨てた。依頼を通したH.O.P.E.職員から聞いた話からでも、やる気とは無縁な人物像だとはわかっていたが、予想以上に酷い堂島たちに呆れを隠せない。
「私はまだお会いしていませんが、ずいぶんと難儀な方たちのようですね」
「余が見る限り、少年らも悪人ではないのだがな」
 部活終わりでペンギン皇帝を迎えにきた織歌も、彼らの解答を見て英雄への心配をさらに濃くする。当の本鳥は、野生の勘かぼんやり残る皇帝時代の経験からか、堂島たちの人間性はフォローした。
 なお、ペンギン皇帝の正答率は平均50%前後。アリスのテストにより得意・不得意が判明し、今後は苦手を集中的に潰す予定だ。近い目標は高等学校卒業程度認定試験の合格。メインの堂島たちより意欲も志も高い。
「なんだか、昔の私を見ているみたいだわ……」
「え、お前もあんな学生だったのか?」
 苦虫を噛み潰した表情でこぼすHoang Thi Hoa(aa4477)の横で、Jeanne d'Arc(aa4477hero001)は驚きと納得が半分ずつ同居した顔で目を見張る。
 余談として、年齢的に近いからとジャンヌもテストを受け、ほぼ全滅。現代知識をある程度所持して顕現したジャンヌだがかなり限定的で、学問はからっきしらしい。
「でも、いくつかは正解していますし、望みがないわけではないと思いますよ」
「あ、あたまが……」
 唯一、勉強でのフォローを入れたのは町田紀子(aa4500)。1科目1~2問ほどだが、堂島たちの正答を指し示す。一方、英雄の町田紀子(aa4500hero001)は早くも知恵熱を出してダウン。結果は全問不正解で、何と堂島たちよりも下だった。
「……俺も新人だけど、あいつらよりはマシだな」
「う~ん、ここから一週間かぁ……」
 数学・物理で高得点だった日暮仙寿(aa4519)は堂島たちが出て行った扉を睨みつつ、国語と歴史が得意な不知火あけび(aa4519hero001)は堂島たちが残したバツだらけの解答用紙を前に、挽回方法を模索する。
 自身も期末テストが近い仙寿とあけびの不得意科目はちょうど真逆。テスト対策をかねて全日程参加する予定だが、この様子では肝心の堂島たちの成績が伸びないのは明白だった。
「彼らは、『学ぶこと』の重要性が理解できていないのかもしれませんね」
 スーツ姿のアカデミック・ミリキー(aa4589)はそう分析し、故郷の戦士たちと比較すれば衰えた筋肉の腕を見下ろす。
「この成績だと、残りの時間を均等に分割して、全体的に理解力の底上げを行うしかなさそうだな。全教科の基礎から徹底的に叩き込み、地力をつけねば話にならない」
「その前にまず、本人たちのやる気を引き出す方が先では? 現状、彼らの成績が改善する可能性は、かなり低いですよ?」
 現役教師として教育方針を真剣に検討するリーヴスラシルに、アリスはテストで全教科普通の成績だった咲雪を見つつ反論。
 咲雪は教科書を数度読み、話を聞くだけで平均点が取れる程度には万能型の天才だが、無気力な性格が原因でそれ以上の点数にならない。学校の授業も基本的に寝ているため、放っておけば成績はそのままだ。
 今回も、高校受験を控えても一切勉強しない咲雪を、アリスが無理やり連行しての参加である。勉強意欲の重要性は、この中の誰よりもアリスが理解していた。
「でしたら勉強に入る前に、『勉強の大切さ』について説明しますか? もしかしたら、彼らもやる気を出してくれるかもしれませんし」
 リーヴスラシルとアリスの意見を聞いた紀子が、明日の方針を提案して初日は終了。主に教師役となるエージェントたちと打ち合わせを行い、解散となった。

●特別講義・知(いき)るということ
 2日目。昨日と同じくダラダラと会議室に入ってきた3人へ、最初にテスト結果が返却された。
「何だ、適当に書いても当たるもんだな」
「僕はたまたま知っていた問題があっただけですけど」
「アリス先生~! 1つくらい教えてくれてもよくないっすか~?」
 どうやら堂島は当てずっぽう、下呂は答えを理解して、財津はこの様子だと偶然、問題を解いたらしい。
「本人に無断で連絡先を教えるわけないでしょう?」
 ひとまずアリスが財津の戯言にきちんと釘を刺してから、3人へ大まかな勉強スケジュールを知らせる。会議室の利用時間いっぱいまで組み込まれた内容に、堂島たちは明らかに嫌そうに表情を歪めた。
「それと、今日は勉強会を始める前に特別講義の時間を設けた。お前達の今後にも関わるため、しっかり聞くように」
 続けて、リーヴスラシルがホワイトボードの前に用意された即席の教壇で告げてから、場所を譲る。
「シンチャオ。ベトナム人のホアです」
「英雄のジャンヌです」
 最初はホアン。一礼するジャンヌと共に教壇に立ち、ホワイトボードに『しくじった講義』と大きく記入。
「ベトナム人は結構現実主義でシビアな人が多くて、若い頃から英語や日本語やドイツ語を学んでる人多いのよね。将来、その国の人と結婚したりそこで仕事ができるようにって。私は当時、そんなの全然わかって無くて、内装がキレイなスイーツショップでバイトばかりしてたわ。学校の授業は寝てたか遊んでた」
 ホアンが昨日、堂島たちに己を投影した理由がこれだ。勉強もろくにせず、バイト三昧な生活を省みると、確かに類似点があるといえよう。
「綺麗なお店でバイトすれば、ほらバイト代って学生の時は高く感じるでしょう。お金持ちだ! かわいい! 幸せ! って毎日楽しく過ごしてたの。でもなんか生活がキツイ、ベトナムドンは凄い数字が大きくても安くて、それは通貨のレートが……インフレで……」
 と、通過の話題からホアンの声が途切れ、次第に体が震え出す。
「わかんないの! レートとかインフレが何か、まともに勉強してないからわかんないの! 問題がどこなのかわからない! 自分が何を分からないかすらわからないから、あなたたちに説明すらできない!! わああああ!!」
 瞬間、感情を爆発させてホアンは教壇に伏せて号泣。隣にいたジャンヌが背中をさすって慰めるが、堂島たちはただ呆気にとられていた。
「……気が付けば20代の大人になったみんなはまともな男性と結婚したり、大手企業に就職してたわ。外資系とかの。でも私は、考えがお花畑なアホの子と結婚したら家を持ち崩される、って敬遠されて、結婚もダメだった。女子力さえ高ければいいと思ってたけど、現実は違った。みんな気づいてたんだね」
 少し落ち着きを取り戻してから、ホアンの講義は続く。
「それから、同じ漢字文化圏の日本だったら、少し働けば高いお金がもらえると思ったの。それで残りの全財産で日本にきたけど、風俗のキャッチに追われて以下略。のたれ死に寸前で、うちの英雄ダルクが頭はたきながら顕現して、エージェントになったの」
 波瀾万丈な半生を語り終えると、ホアンは堂島たちに人差し指を突きつける。
「勉強し直そうとしても、基礎がわからないからわかんない……。だけど私は、勉強しなさいなんて言いに来たんじゃないわ! あなたたちも私と同じ末路を歩めばいい! 好き好んでそうしてるんだから! 死ねばいいのに!」
 最後にものすごく大人げない台詞を残し、ホアンはその場に泣き崩れた上、ストレスが振り切れて吐いた。
「……醜態を見せ、申し訳ありません。ですが、無知が原因で多大な苦労を招く危険性は、知っておいて欲しいです」
 代わりにジャンヌが頭を下げてそう締めくくり、吐瀉物を掃除してからホアンを介抱する。
「と、とんでもねぇ女だったな……」
「…………」
「ま、自分たちは日本にいるし、何とかなるんじゃねぇっすか?」
 ホアンが退出した後、堂島は口角をひきつらせ、下呂は思案顔で黙り、財津はあっけらかんと頭の後ろで両手を組んだ。
「マサイ族、ミリキーだ」
 気を取り直し、次に前に出たのはアカデミック。
「マサイ族の男は牛の放牧を仕事とし、ライオンと戦う戦士でもある。そこで学ぶのは放牧の仕方や獣からの守り方、ライオンとの戦い方……。西洋学校教育ではない世界で生きると決めた人間は、そもそも学校にいかない。子供の頃は、大人を見てあこがれたさ。ずっと、立派な戦士になれるように祈っていた」
 ホアンと違い、アカデミックは勉強の大切さを説く。
「少し大きくなると視野が広がり、もっと外に世界がある事を知った。その頃にはマサイの外に出たかったから、教育を受けた。マサイの村から徒歩二時間のところに、キリスト教系の出資で学校が建っていてね。学びたい者はそこで学ぶが、必要性を感じない者もいる。マサイ族の戦士には、役に立ちにくい知識だからね」
 一度苦笑を漏らすも、すぐに表情を引き締めた。
「卒業後は海外に出たが、中堅の大学までしか受からず、就職した企業も鳴かず飛ばず。もっと上に行けないなら、人生をかけた意味がない。そんな時、英雄が現れた。強いマサイ戦士の力を与える、ってね。マサイ戦士になりたいという、子供の頃の祈りのせいだった。今更か!」
 瞬間、アカデミックは背を丸めて教壇に両拳を打つ。背後の『しくじった講義』というホアンの文字が、一段と大きく見えた。
「人は人生を選べない。自分はこう生きるから、それに不必要な技量はいらないと嘯いた所で、後に人生が変わるかもしれない。そのためにオールラウンドな基礎知識……『義務教育』を受けるわけだ。それを放棄するなら、放棄する側の学び、ボクならマサイとしての生き方を学べばいい」
『義務教育』を基盤とする生き方と、マサイ戦士の生き方。アカデミックにあった選択肢は両極端だからこそ、選ぶ必要があった。結果、前者を取った彼はエリート会社員にも、マサイの戦士にもなりきれず、英雄と出会った。
「だが、どちらも学ばない人間は死ぬ。人生の壁という、ライオンに負けるんだ。弱い戦士は死ぬしかない。そしてボクは、戦う気概がない奴に、戦い方を教える気はない」
 選択し、理想と異なる人生を歩んだアカデミックだが、学ぶことを放棄したりはしなかった。果たして、彼の目に堂島たちの姿はどう映るのだろうか。
「テストと関係ねぇじゃねぇか」
「まぁ、そうですね」
「え~? ライオンとの戦い方とか、気にならないっすか?」
 アカデミックの講義でも、3人の態度は大きく変わらない。堂島に同意した下呂のみ声に含みを持たせたが、財津の脳天気な発言で言葉は続かなかった。
「こんにちは。私は勉強はよくできたの、ガリ勉だったわ。いじめっ子に突き倒されても、体が弱かったから何もできなくて、せめて勉強で見返してやろうって」
 次に話し出したのは紀子。隣には英雄の町田が、腕組みをして立っている。
「そんな中、おかあさんが愚神被害で大けがを負ってね。愚神や英雄の発生メカニズムの研究センターがある院に進みたくて猛勉強。でも愚神に不利な人間って、愚神がつぶしにかかるみたいね。直接的な攻撃を受けて死にかかった時、彼女に会ったの」
 メガネでひ弱な紀子は、愚神という理不尽との遭遇でより知識を求めた。同じ境遇の人を助けたいという気持ちを原動力に、あらゆる学問の知識を吸収した。が、今度は自身が愚神の暴力にさらされ、もうダメだと思った瞬間、もう1人の自分と出会った。
「要点から言うと、私は別の人生の町田だ。荒れた県の学校でな、勉強なんて落ち着いてできない。身を守るために武道と暴力だけ鍛えて、それでも正義を渇望して人を助けながら来たつもりだ。愚神の被害は強大な力だけあれば解決すると思って強くなった。勉強なんて何の役に立つ、人を救えるのか? と鼻で笑ったものだ」
 体を鍛え続けた町田は、愚神という暴力に抗う手段として暴力を求めた。最初は自身の身を守るため、やがて人を助けるために、実用的な戦い方を追求した。が、次第に自身では対処しきれない、知能の高い愚神の存在を知り、極めた道の限界を知った。
「そして、どんづまりまで行ったある時、頭のいい愚神は間に人間を何人も噛ませ、社会に溶け込んでいる事が分かった。社会の構造や法律がわからない、腕力しかない私はそうした愚神に対しては無力だった。対応が遅れて人が削り取られていく中、もう一人の私と出会ったんだ」
 知識と暴力。両極端な選択肢の一方しか選べなかったアカデミックとは違い、片方ずつを選んで生きてきた2人の『町田紀子』は数奇な運命を経て出会い、共鳴した。
「学問だけと腕力だけ、二回の人生を合計してみせるこれは、イレギュラーな事。ふつうは、人は一度きりの人生しかない。なのに、エージェントとして力も磨かない、身を守るための学問もやらない君たちに、生きている価値があるの?」
 2人は自分が生きるため、同時に誰かを助けるために、1つのことを自身の限界まで磨いた。それでもなお、足りないと思い知らされた。故に、自発的に何かをしようとしない堂島たちへ向けた、『町田紀子』の言葉は厳しい。
「い、生きる価値とか知らねぇよ!」
「僕はっ! ……っ!」
「よくわかんねぇっすけど、2回分の人生を知れてお得っすね」
 すると、堂島は強がり、下呂は言葉を詰まらせて、反発の姿勢を見せた。財津だけは意に介さず、ヘラヘラと無遠慮な台詞を吐く。
「……エージェントの力は試験をクリアしてからやればいい。まず君たちに必要なのは、勉強よ」
 3人の反応に目を細め、紀子は静かに告げて共鳴を解いた。
「この際だから、ずっと思ってたことを言うわせてもらう。ーー甘えてんじゃねぇぞ」
 直後、学生席から声を上げたのは仙寿。堂島たちを射抜く目は、いつも以上に鋭い。
「俺の将来は一族の当主と決まってるが、学ぶべきことはまだまだ多い。あけびだって自分の一族の為に勉強してたし、今も続けてる。勉強はダルいからやらねぇだの、何の役に立つかわからないだの言ってたそうだが、何にでもなれる奴らが何言ってんだ?」
 暗殺者一族の次期当主である仙寿と、古い忍一族の跡取りだったあけび。生まれたときから将来が決まっていた2人だが、努力を怠ったことはない。
「五教科を勉強する意義なんて、お前らが考えることじゃねぇ。世間がお前らを測る物差しに使ってるんだよ。良い結果を出せば将来の選択肢が広がる。ついでに勉強すれば、強くなれる」
「知識はそれだけで強さだからね。学ぶ過程で考える力もつく。思考能力は戦闘でも生かせる……生存確率も上がるんだよ」
 暗に、堂島たちは努力次第で未来を選べる恵まれた立場にある、と告げた仙寿。その後に続くあけびの台詞は、裏を返せば『勉強をおろそかにするだけ生存確率は下がる』ことを指し、ホアンやアカデミックや紀子の言葉と同じ意味でもある。
「強くなったって、独り善がりじゃ仲間を殺すことになるけどな。今のお前らに命を預けられる奴なんているのか? 逆の立場になって考えてみろ」
「誓約を通して命を預けた英雄に、相棒に誇れる自分か、考えてみて」
 さらに仙寿は、堂島たちの自分本位な思考が周囲を殺すと警告した。あけびもまた、この場にいない彼らの英雄を引き合いに出して、考えを改めるよう促す。
「……ちっ、エラそうに」
「英雄に誇れる、自分……」
「共鳴時は意識ないっすから、自分は関係ないっすね~」
 すると、堂島は急速に語気を弱め、下呂は英雄というワードを聞いて考え込んだ。しかしやはり、財津のみどこかずれたことを言い、軽薄な笑みが消えることはなかった。

 1時間ほどかけて行った先輩エージェントの講義の後は普通に試験対策の勉強を行っていたが、内容は芳しくない。堂島は反抗的な態度が強くなり、下呂は勉強に身が入らない様子でどこか上の空、財津は肩肘ついて大あくびと純粋に態度が悪かった。
「おいお前ら、ちょっとつき合え」
 その様子を見ていた龍哉は、帰り際の3人を呼び止め連れ出した。場所は、午前中に龍哉が使用許可を得た、無人の訓練場。
「ぐえっ!」
「ごほっ、ごほっ!」
「ちょ、ちょっとまっでぇ! っず!?」
 そこで行われたのは、非共鳴で徒手空拳のみが条件の模擬戦闘。龍哉は手加減するも、堂島は蹴りを食らって尻餅をつき、下呂は鳩尾に入った拳に悶絶し、財津は投げ飛ばされて宙を舞う。
「お前ら、まさかこのまま依頼に出て、万が一の時は愚神どもに色々と言い訳すれば、何とかなるとか思ってねぇだろうな?」
「そ、れは……」
 龍哉の言葉に、堂島は声を詰まらせ。
「っぐ……」
 下呂は両拳を限界まで握り込み。
「ならないんっすか!?」
 バカが何か喚いていた。
「なるわけねぇだろ!」
「いってぇ!!」
 財津に一発拳骨を落とした後、龍哉は3人を睥睨する。
「今、俺との訓練で何を考えてた? 各自考えなしに突っ込んだだけだろ? 俺が愚神だったら、お前らは何回死んだ?」
 たった10分間の訓練でもボコボコにされていた3人は、視線を逸らし押し黙る。
「勉強の基礎がわからないホアのように、戦術の基礎を知らねぇから連携も出来ねぇ。理想のため努力したミリキーと違って、問題を棚上げし続けたから何も出来ねぇ。だから、直向きに努力した町田たちの言葉に、何も言い返せねぇんだよ。お前ら、もう一度日暮と不知火の言葉を聞いても反論出来るか?」
 先の講義を踏まえて問いただす龍哉に、やはり3人とも口をつぐむ。
「文句を言う暇があるなら打開策を自ら打ち出せ。いつでも誰かが助けてくれるなんて甘えは捨てろ。勉強でも何でも、『しない』と『できない』は違うんだからな」
 そう言い残し、龍哉は訓練を終了した。その場に残された3人は、しばらくして訓練場を後にする。その間、彼らの口からは、文句も、悪態も、言い訳も、何も出てこなかった。

●今日から本腰
「うす! 今日も頼んます!」
「よろしくお願いします」
「あれ? 何か2人とも、キャラ変わったっすか?」
 3日目。開始時間より早く会議室に現れた彼らに変化があった。
「赤城のアニキ、お疲れさんです!」
「お、おう」
 堂島は舎弟感が増し、龍哉を見つけると深々と頭を下げる。
「昨日まで失礼な態度を取り、申し訳ありませんでした」
 下呂は態度が軟化し、自らの経験を語ったエージェントたちに謝罪を述べた。
「あ! 陛下、こんちゃーっす!」
「うむ、そなたも元気そうだな財津」
 財津はペンギン皇帝を見つけて近寄っていった。財津のみ一見いつも通りだが、他の2人と同じ時間帯にきたことを考えると、全く変化がないわけではないのだろう。
「昨日、彼らを連れ出してましたわね?」
「ああ。言い聞かせるより、体に叩き込んだ方が早い場合もあるからな。他人への態度や認識の矯正も兼ねて、軽く稽古をつけてやったんだよ。鉄は熱い内に打て、ってな」
「理屈は理解できましたが、その割には、妙に懐かれましたね?」
「さすがに、アニキは予想外だ……」
「しかしこの様子なら、昨日までよりもはるかに精力的に勉強へ取り組んでくれるのは間違いないだろう。助かったぞタツヤ」
 3人の変化に言及するヴァルトラウテに龍哉が説明をし、堂島の変化に苦笑を漏らす。とはいえ、リーヴスラシルにとっては歓迎すべき変化であるため、龍哉のファインプレーに賞賛の声を送っていた。
「少々時間は早いですが、勉強会を始めましょうか」
『はい!』
 メンバーが揃ったところで、アリスが学生たちに声をかけた。期末試験まで時間はなく、少しでも勉強時間を確保できれば堂島たちにとってはいいと判断したためだ。
 そこから勉強会がスタートし、自然とテスト範囲が近い学年ごとに集まる。本日最初の科目は数学だ。
「では、咲雪はこれで復習するように」
「…………ん」
 高校生以外の班は、主にアリスが担当。まず咲雪にアリスが購入してきた問題集が渡され、いつもより長い間の後で返事があった。
 このやりとりは、昨日の勉強会における咲雪の態度に起因する。講師がアリス以外だとぼーっと聞いていただけで、やる気のなさが浮き彫りだったため、アリスが問題集という形で咲雪の逃げ場を潰しにきたのだ。
「そして、陛下・ジャンヌ様・町田様にはこちらを」
「うむ、手間をかけさせたな」
「ありがとうございます」
「……」
 さらにアリスはペンギン皇帝とジャンヌ、町田へも問題プリントを渡す。ペンギン皇帝はさっそく改造筆記用具を装着し、プリントに視線を落とした。ジャンヌはこれを機に学問を勉強し直そうと参加を決め、町田も無知であることの無力感を知るため参加した。が、連日知恵熱を発症する町田の表情は暗い。
 このプリントは初日の正答率から範囲を決め、参考書等を元に作られた。ペンギン皇帝には高認試験の範囲を、ジャンヌと町田には中学生程度の範囲を出題している。なお、制作はアリス、監修はリーヴスラシルが担当した。
「……お前、どんだけ出来ねぇんだよ?」
「……すみません」
「ますは基礎だ。それさえ押さえれば、数学は案外何とかなる。一通りの公式さえ覚えれば、後は個別に数字を当てはめればいいだけだからな」
「焦らず、確実にやればいいさ」
 1年生では教師役となった仙寿がペンの全く進まない下呂に呆れ、恭也も自身の復習を兼ねて隣から助言を出す。監督役にはアカデミックがつき、教科書片手に下呂の勉強を見ていた。ほとんど何も知らない状態からスタートしたが、一応得意科目と申告するだけはあり、下呂の理解力はある程度高く、意欲はそれ以上に高かった。
「だから、この問題はこうなるの。わかる?」
「……???」
「あの、町田さん? 問題からいきなり答えを導き出してしまっては、堂島さんは何もわからないと思いますよ? 計算過程を1つずつ丁寧に示してあげないと、混乱は増すばかりではないかと」
「やれやれ、先が思いやられるね」
 2年生の教師役となった紀子が問題を解説するが、堂島の疑問符は増える一方。堂島の隣で解説を聞いていた深散は、答えまで一気にワープしたような解説をやんわり指摘し、背後の九朗も頭の回転が速すぎて教え下手になっている紀子に肩を竦めた。
「ーーと、こうなる」
「なるほど」
「リーヴスラシル先生の説明は、とてもわかりやすくて助かります!」
 3年生の教師役はリーヴスラシルが担当し、由利菜とあけびが真剣に耳を傾ける。特にあけびは数学が苦手科目なので、丁寧な説明に感謝しきりだ。
「はいはい質問! ラシル先生はどうしてそんなエロい格好なんっすか!?」
「……胸が大きいから、こういう衣装が必要なだけだ」
「時間がねぇ状況でふざけるとは、いい度胸だな?」
「自分で無駄にした時間のつけは、他の誰にも肩代わりは出来ませんわよ?」
「さーせんしたぁ!!」
 だが、時折財津が邪魔をするため、進み具合はやや遅い。リーヴスラシルも無視をすればいいのだが、律儀に答えるのは彼女の性格故か。その度、龍哉とヴァルトラウテが財津に睨みを利かせる必要があった。昨日の訓練で大人しくはなったものの、財津の学習意欲はまだまだ低いらしい。
「勉強って大変そうだね」
「そうなの。今も聞いててさっぱりわからないし……」
 勉強の輪に参加していないのは伊邪那美とホアン。伊邪那美は年齢的に、ホアンは学力的に戦力外だったためだ。学生たちから少し離れたところで座り、息抜き用の軽食をパクつきながら談笑する。ちなみに、ホアンの食事スピードが早く、すでにこの日用意された軽食の半分がなくなっている。
 こうして3日目はおおむねスムーズに勉強できた。

「私たちが皆に古文を教えるよー」
「とりあえず、こちらの表を出来るだけ覚えるところから始めましょう」
 4日目。テスト範囲は異なるが、基礎すら出来ない3人のため、古文は全員で勉強する。講師役はあけびと深散が前に出た。あけびは事前にテスト範囲の助動詞や単語表を作成して3人に配布し、最初にこう豪語した。
「さて、古文はフィーリングです!」
「おい、深散と説明交代してくれ」
 古文が苦手な仙寿があけびの解説を聞いた途端、即座にチェンジを要求。
「え? だって日本語だよ? 漢文も漢字だし、基本は感覚であとは謎解きみたいな物だよ?」
 ただ、あけびから言わせれば古文はクイズのような感覚。謎解きに必要な材料が単語や品詞の知識であって、まずはそれを知らないと話にならないとのこと。
「これを、全部か……?」
「正直、お前たちの場合このまま教えても、基礎知識が無い以上は意味が無いだろう。考える必要はない、ただ全てを覚えろ。それが苦行だと感じるのなら、次からは自分で出来る範囲で努力しろ。家族を納得させられるほどに成績を上げるためには、結局はそれが一番の近道だ」
「……わかったよ」
 古文が苦手な堂島が暗記表を見て顔をしかめたが、すかさず恭也が遠慮のないダメ出しを行う。心を入れ替え意欲が増したとはいえ、3日目の勉強で自分が何も出来ないことを明確に自覚していた堂島は、素直に恭也の言葉に頷き表を睨みつけた。
「……そういえば、下呂は絶対バレないカンニングの方法が知りたい、って言ってたっすよね?」
「まあ、確かに言いましたけど……」
「絶対にバレないカンニング方法ですか? 私は知ってますよ?」
 成績を上げる近道、という恭也の言葉から財津が数日前の下呂の発言を思い出し、下呂に水を向ける。下呂は暗記表から目を離さず返答すると、深散からまさかの発言が飛び出し財津が食いついた。
「マジっすか!?」
「簡単です。脳裏に焼き付けておけば絶対にバレません。コツは情報を文字に変換せず、ページそのままを情景として覚えてしまうこと。文字では情報が散らばってしまいますし、覚えたことをうまく思い出せないのは、しまった引き出しがわからなくなるからです」
「いやそれ、カンニングじゃな……」
「大丈夫。テスト範囲だけなので、ページ数はそう多くありません。できるまでやりましょうね、財津さん」
「あ、はいっす」
 が、深散の有無を言わさぬ笑みを受け、最終的に財津は結局謎の威圧感に負けて諦めた。結局暗記をする事に変わりなく、不用意な発言で自分を追いつめた財津に、下呂も呆れ顔だった。
 そこからはあけびの基本方針に乗っ取り、暗記と問題集のループをひたすらやり続けた。暗記は3人とも苦手らしく、終始苦戦していた。
「また暗記っすか!?」
「文句を言う労力と時間を、あなたが望む結果を導き出すために使うだけですわ。簡単な事でしょう?」
「社会に出ても、一般常識を求められる機会は多いものです。頑張りましょう」
 次の英語も古文と同じく、英単語と文法の暗記が必要で財津が悲鳴を上げる。だが、講師役のヴァルトラウテは笑顔で悲鳴を黙殺し、由利菜が財津の肩に触れて励ます。
「うぅ、美人に言い寄られてるのに、微妙に嬉しくないっす……」
 飴と鞭がくっきり分かれた講師の指導に財津は屈するしかなく、泣く泣く暗記を行っていく。
「由利菜ちゃんこれは……ってぇ!?」
「近づき過ぎだ」
「次は殴るぞ?」
「ひぃ!?」
 時折財津が由利菜に近づき、リーヴスラシルと龍哉の教育的指導が下る以外は変わったこともなく、この日は暗記がメインで行われた。
「……」
 強いて言えば、英語が苦手な恭也がずっと厳しい表情だったことくらい。堂島に詰め込み暗記を命じた手前もあり、黙々と暗記に勤しむ姿があったそうな。

 5日目。この日は地理と歴史を科目別に教えていた。
「日本史は私と深散さんで教えるね」
「僕も手伝うよ。歴史は多少詳しいからね」
「九朗も、ですか?」
「よろしく頼むぜ」
 日本史を選択した堂島には、あけびと深散と九朗が講師となる。あけびと深散がテスト範囲を、九朗はその時代背景にあった裏事情を面白おかしく補足していく。
「暗記科目なので歴史は得意な方ですが、九郎はどうしてそんなに詳しいんですか? な、納得がいきません……」
「僕は歴史の背後事情や前後関係の繋がりには強いけど、人名は深散の方が知っているだろう? 興味や覚え方の差であって、知識量の差とは別問題だと思うよ?」
 その際、九朗の思わぬ博識さに深散が唸ったが、九朗は適当にはぐらかした。なお、九朗が人名を知らないのは単に興味がないだけだったりする。
「年号などはこじつけでも構いません。せっかく面白い覚え方があるのですから、そういう手段も使わない手はありませんわ」
「世界史は範囲が広いですが、歴史の前後関係や他国の情勢と併せて覚えると、理解が深まりますよ」
「わかりました」
 世界史を覚える下呂にはヴァルトラウテとアリスがつく。ヴァルトラウテは趣味が高じて得た幅広い知識で説明し、アリスが補助的に同じ時代の他国情勢や関連性なども解説して、歴史が苦手な下呂の理解を深めていく。
「喜べ。お前には私とタツヤがみっちり教えてやろう」
「よろしくな?」
「ちょ!? 2人とも目が殺し屋っすよ!?」
 地理を覚える財津には、リーヴスラシルと龍哉が脇を固める。気を抜くとすぐ由利菜にちょっかいを出そうとする財津に、リーヴスラシルが本気モードになったためであった。南無。

●追い込みで見た光明
 そうして3人の教育やエージェントたちの自習は進み、テスト前の休日に入った。残り2日間は長時間会議室を利用でき、最後の追い込みをかける機会とばかりに、勉強にも熱が入る。
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私は陛下と誓約した能力者です。このところ陛下がお世話になっております。勉強は大変かもしれませんけど、無駄な事は無いはずです。頑張って下さいね」
「うっす! 頑張りまっす!」
 最初に、ずっと部活だった織歌がペンギン皇帝とともに会議室に現れた時、堂島たちと初顔合わせを果たす。休日も部活がある織歌はペンギン皇帝を連れてきてすぐに退室したが、その際笑顔を向けてやる気を向上させるよう促し、財津が特に大きな反応を示した。
「フラストレーションが溜まったら、こいつで発散しておけ」
「ちょっ、音がめっちゃ怖いんっすけど!?」
 また平日と違う長期戦を考慮し、龍哉が息抜き用としてサンドバックを室内に設置。時折それを殴る音で財津を牽制するのも忘れない。
「……ん、コレ終わった。かんたん」
「じゃあ、次の問題集はこれね」
「……ん、めんど……くさい」
 勉強意欲という点では、アリスの咲雪への指導も熱が入る。勉強期間中ずっと、サボらないように問題集を追加し続け、時間が許す限り咲雪の勉強を見続けていた。
「……いたい」
「咲雪、あと5ヶ月もすれば受験でしょう。もう少しやる気を出しなさい」
 しかし、アリスが堂島たちの勉強を見るために離れた瞬間を狙い、咲雪は胸を机の上に載せつつこっそり休憩することもあった。しかし、その度に財津が咲雪の胸をガン見してサボリがバレ、アリスから脳天チョップにより咲雪が渋々勉強に戻る、という攻防を繰り返していた。
「少年よ、そこはこのように解くのだ」
「ぺ、ペンギンなのに詳しいな、おい」
 他にも、堂島たちより基礎が出来ていたペンギン皇帝が勉強を教えることもあった。指摘を受けた堂島は間違いを受け入れつつ、鳥類に負けたことで口角がひきつっている。屈辱だ、とまではいかないものの、ペンギンに勉強を教わることで複雑な気持ちが堂島の胸に去来していた。
「勉強と難しく捉えるから苦手にもなるのだろう。そなたが今まで知らなかった世界に触れる事で、狭かった視野がどんどん広がっていくのが、知るという事なのだ。知る事は楽しい、そうは考えられぬか?」
「まだそこまでの余裕はねぇよ」
 勉強の苦手意識が消えない様子の堂島に、ペンギン皇帝が自分なりの考え方で前向きになれるよう言葉をかけたが、そう簡単には楽しいとは思えないらしく苦笑を返される。テスト範囲を覚えるのに精一杯な状況では、堂島の中で勉強はまだ辛い作業でしかないようだ。
「教育の分野が充実したのは近世から。為政者が民を都合よく支配する為に、知識とは制限される対象だった。知らぬ者は知る者に搾取されるのが世の常。知識を得る権利を持ちながら放棄することは、弱肉強食の食われる側になることと同じだよ? 君はそれで構わないとでも思うような、大人しい性格には見えないけどね?」
「当たり前だ。勉強は楽しくねぇが、敵や勝負に勝つために必要なら、止めようとは思わねぇよ」
 そこに九朗が口を挟み、堂島は真っ直ぐに見返した。彼の勉強意欲の源泉は勝ちにこだわる負けん気にあり、龍哉との訓練で考えることの大切さを少し理解したため。本来理屈や説教は苦手な堂島だが、今は九朗の言葉を聞いても反発心は無かった。ずっと学ぼうという姿勢を持たなかったことで、土下座が板につくくらい負け根性がついてしまったことを反省したからこその変化だろう。
「あの、少しいいですか?」
 休憩時間になると、下呂がエージェントたちに声をかけていた。
「そうですね、私がエージェントとして心がけているのは、『姫らしく、騎士らしく』でしょうか。ラシルが教えてくれたことです。後は、資格を取るのもいいと思いますよ。就職で有利になるのはもちろん、依頼の場面で有益となることもありますから」
「ある程度レールがなければ人は道を見失う。だが、お前達は既にそれを抜けている。自分で考えられるはずだ。ヒントならば出す。お前達の英雄との誓約の意味を考えるのだ」
 質問は主にエージェントの活動や英雄との関係について。親身に答える由利菜とリーヴスラシルの言葉に、下呂は熱心に耳を傾けている。
「そういえば、リーヴスラシル先生はどうやって英雄の身で、教員職に勤めることが出来たのですか?」
「私はこの世界にきて2・3年くらいだが、教師になれたのは前の世界での勉学知識がある程度あったためだ。テール・プロミーズに英雄の就職支援制度があったことも大きい。だが何よりも強かったのは、主を導きたい思いだ。私と誓約を結んだ為、ユリナは故郷に戻れなくなったからな」
「そうですか、月鏡さんのために……」
 リーヴスラシルの話を聞き終えた下呂は神妙に頷いてから、口を開く。
「僕は逆に、英雄の手助けをしたくて誓約を交わしました。学校をサボっていたのも、彼は頭も良かったので勉強しても無駄だと勝手に自己判断し、共鳴状態での訓練に時間を割いていたからです。僕にはそれしか協力出来ないと、思い込んでいましたから」
「……ミリキーさんや日暮が言ったように、勉強で得た事は将来の幅を広げる。一兵士で終わるか、指揮をする立場になるかも、学力で差がつくだろう。特に地理や歴史は、戦略や戦術を立てるのに重要な教科だ。いくら英雄が優秀でも、お前だけが得た知識と経験が無駄になることはない」
「心得ています。苦手科目だからといって、今さら逃げたりはしませんよ。英雄と共に、強くなるために」
 恭也がさらに言葉を重ねると、漠然としていた英雄との関係に明確な答えを得たのだろう。下呂は強い力で視線を返し、勉強の意義を見出した。
「自分の英雄は80近いババアっすけど、共鳴したらモロ自分好みの美少女になるんすよ。でも、共鳴中は英雄の若返った意識が主体で意識ゼロだし、そもそも自分を口説けないから、新たな出会いが欲しいんすよね~」
 その流れで、財津が笑いながら言う。女子にこだわっていたのはそれが原因らしい。
「でも、やっぱり自分よりもお馬鹿な人と付き合うのって嫌だよね?」
「え、と、まあ、そうですね?」
 すると、それを聞いた伊邪那美が由利菜へ声をかけた。突然の話題に由利菜は自分の英雄へ視線を向け、曖昧な笑みを浮かべた。
「それに、話していて微妙に会話がかみ合わないのって、どんな美形な人が相手でも楽しくなさそうだよね」
「そうだね~。頭がいい人ならこっちに会話を合わせてくれるだろうし、話題も豊富できっと楽しいと思うな」
 さらに話はあけびへも飛び火し、伊邪那美の意図を汲んだあけびは笑顔で言い切った。
「ラシル先生! 休憩はもういいんで、自分に勉強を教えてくださいっす!」
 効果は抜群。伊邪那美たちの会話を聞いた財津は、今までの適当さが嘘のように勉強に取り組みだした。単純である。
「財津さん、どんどん正解するようになってますね。すごいです」
「ふぉ~っ! テンション上がってきた~!」
「九朗の言った通りでした。時には飴も必要なんですね」
「ちょっと効きすぎだけどね。彼は一見扱いにくいようでいて、実は一番扱いやすい人種だったんだね」
 また、財津の様子を見ていた九朗が深散へこっそりボディタッチを提言し、言う通りに深散が体に触れつつ財津を褒めると、九朗が呆れるほどさらにやる気が増大した。バカである。
「由利菜ちゃん、自分これだけ出来たんで褒めてくださいっす!」
「いい加減にしろ!」
「あたぁ!!」
 ただし、調子に乗りすぎた財津は性懲りもなく由利菜にちょっかいをかけようとし、ついにリーヴスラシルの教鞭でしばかれ説教まで受けた。どうしようもないアホである。
 こうして1週間、堂島たちはみっちりと勉強漬けの日々を送って、試験に臨んだ。

●棚上げの代償
 結果から言えば、3人とも成績は上がった。龍哉にしごかれて認識を改めた堂島は全教科平均点の少し下で、下呂は平均点よりやや上。伊邪那美や深散のテコ入れで最後に盛り返した財津も、全教科で赤点は免れた。両親との和解も成立し、3人とも家を追い出されることもなくなった。
 また、一緒に勉強したエージェントたちの成績も向上。まず咲雪は、偏差値が一気に上位へランクアップした。
「いつもより点数が高いな」
「それで出席日数もいくつか免除してくれないの?」
「さすがにそこまで都合のいい話はない」
 恭也は中の下から中の上ほどの成績を収めるに至り、伊邪那美の疑問には冷静に突っ込んだ。それとこれとは話が別なのである。
「ラシルだけでなく町田さんにも勉強を教わったおかげで、いつもよりスムーズに解答できました」
「あの3人もテストを無事乗り越えたそうだ。ザイツには手こずらされたが、契約初期の私とユリナの苦労に比べれば、ずっと楽だったな」
 由利菜もまた一段と点数を稼ぎ、勉強会の成果が現れた。一方のリーヴスラシルは、財津たちへの教育が実を結んだことに充実感を覚えていた。後は、仙寿とあけびも特に苦手科目の点数が前回よりも上昇しており、ふたを開ければ全員のテスト結果が底上げされたことになる。
「深散はもちろん、アリスやリーヴスラシルという優秀な指導者にも恵まれ、とても有意義な時間を過ごすことが出来たである」
「それはよかったですね、陛下」
 他にも、ペンギン皇帝は苦手分野を中心に知識の幅をさらに広げて織歌に自慢し、ジャンヌも努力の成果が実って中学生程度の学力を身につけた。唯一、町田は無理をしすぎて知恵熱が悪化し、寝込むことになったのだけが残念といえよう。しばらくして紀子の看病で回復した町田は、改めて勉強は無理だと思い知る。
 そして、これはテスト後の余談だが。
「ぎゃあっ!!」
「ひいぃっ!!」
「何っすかこの化け物ジジイは! あ、う、嘘っす、冗談っすからあぁ!!」
 龍哉が戦闘訓練と称して3人を実家の道場へ招き、龍哉の爺様である宗家に問答無用でしごかれた。健全な精神は健全な肉体に宿るという名目の稽古後、健全とはいえない状態で気絶した3人の屍が残される。
 それからというもの、3人はすっかり大人しくなり、赤城家をいたく恐れるようになったそうな。めでたしめでたし。
「めでたく、ねぇ……」
「り、りふじん、です……」
「なんか、もう、さんざんっすよ……」

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
  • 太公望
    御神 恭也aa0127

重体一覧

参加者

  • 魅惑のパイスラ
    佐藤 咲雪aa0040
    機械|15才|女性|回避
  • 貴腐人
    アリスaa0040hero001
    英雄|18才|女性|シャド
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 喪失を知る『風』
    国塚 深散aa4139
    機械|17才|女性|回避
  • 風を支える『影』
    九郎aa4139hero001
    英雄|16才|?|シャド
  • 悪気はない。
    酒又 織歌aa4300
    人間|16才|女性|生命
  • 愛しき国は彼方に
    ペンギン皇帝aa4300hero001
    英雄|7才|男性|バト
  • 恋は戦争、愛は略奪
    Hoang Thi Hoaaa4477
    人間|22才|女性|生命
  • エージェント
    ベトナムオオムカデaa4477hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • エージェント
    町田紀子aa4500
    人間|24才|女性|攻撃
  • エージェント
    町田紀子aa4500hero001
    英雄|16才|女性|ドレ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • エージェント
    アカデミック・ミリキーaa4589
    人間|22才|男性|攻撃



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