本部

ショッピングモールで何したい?

高庭ぺん銀

形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
25人 / 1~25人
英雄
25人 / 0~25人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2016/11/29 21:31

掲示板

オープニング

●大切な人と来る? 大切な人に贈る?
 シャンゴリラTOKYO。『東京』と名の付く先人たちと同じく、東京都ではないどこかに存在するショッピングモールである。全国展開と呼ぶのがためらわれるほど、見事に主要都市を避けた広がりを見せるシャンゴリラグループの一店舗だ。
 地方ほどの広さはないが、豊富なイベントやキャンペーンが行われるのがシャンゴリラTOKYOの魅力だ。任務に疲れたそこのあなたも、お友達や恋人と気軽に遊びたいあなたも、ぜひ遊びに来てほしい。

●シャンゴリラ☆インフォメーション
1、メッセージカード無料配布☆
 11月22日はいい夫婦の日、11月23日は勤労感謝の日。大切な方へプレゼントはいかがでしょうか。通常のギフトラッピングサービスに加え、メッセージカードもお渡しします。デザインはシンプルなものから、ハートや動物型など可愛いものまでご用意。

2、特設ステージ☆主張でショー
 リンカーお笑いコンビ、鳴鳴(めいめい)が司会。貴女の主張を思いっきり叫んでください。飛び入り参加も歓迎。
 時間:13時~、19時~  場所:屋上(イベントスペース)

3、特設会場☆おいもフェア
 石焼き芋、スイートポテト、大学芋、サツマイモアイス、LOVEおいもビッグパフェ(3人前)、じゃがバター、ポテトもち、フライドポテト…その他さまざまなおいもフードが集結!
 場所:2階催事売り場

4、秋コーデ☆インタビュー
 テレビ局のカメラが巡回中。声を掛けられたオシャレなあなたは、よければ自慢のコーデを披露してください。ご一緒にいる方との関係についてもインタビューされちゃうかも。

5、冬物商品5%OFF☆
 2日間限定! コート、マフラー、手袋、ニット帽、耳あて、ブーツ、あったかインナーなどがシーズン前なのに安い! この機会に冬支度を済ませちゃおう!

☆映画館シャンゴリシネマより今月のおすすめ
『ねこねこぎゅっぎゅ』
 田舎の高校生が繰り広げるじれったいラブコメディ。黒猫のぽんたと三毛猫のフゥが、草食系男子のもえぎくんと天然なそらちゃんのキューピッドに。
『知恵のないカカシ』
 影楼文庫大賞に輝いたホラー小説を映画化。亡くなった祖母の家を取り壊した日から、ソレは僕に憑いてきた。「教えてよ、君の血の色、君の死に顔。そしたらもっとかしこくなれる」
『ダンシング☆大仏』
 決め台詞「仏の顔も三度まで!」が今日も炸裂! 温厚な住職とは仮の姿、闇夜に踊るヒーロー・DIE佛(だいぶつ)の天誅に手加減など無い!

解説

大型ショッピングモール「シャンゴリラ」。3階建て。屋上はイベントスペース。
ファッションから専門店まで何でも揃い、レストランもジャンルが充実。お好きな店舗をプレイング内で登場させてOK。
例:各種ファッション、インテリア、雑貨、本、ゲームセンター、レストラン、スーパー、楽器屋、スポーツ用品店、おもちゃ屋、映画館、フードコートなど

【注意】
・日付は22日と23日、どちらかをお選びください。オフという設定でも、仕事帰りなどでも構いません。
・字数制限があるためイベントは選んで参加するのが無難かと思います(場合によりますが、3つ以上の参加はひとつひとつの描写が薄くなる可能性が高いです)。
・イベントには参加せず、ずっとショッピングというような予定でも構いません。
・買い物や飲食によってアイテムが増えることはありませんのでご了承ください。また通貨も減りません。

【イベント補足】
3、特設会場☆おいもフェア
 プレイングでOPのメニュー以外を出してもOKです。広い室内で屋台形式で販売されており、簡易なテーブルとベンチがあります。お持ち帰り可能。フードコートへ持っていって食べてもOKです。
 
5特設ステージ☆主張でショー
・まずは名前や職業、誰と来ているかなどを聞かれます。(内容はプレイング内で指定してもOK)
・持ち時間は30秒以内。内容は、大事な人への感謝、愚痴、告白などご自由に。お店や商品の宣伝などもOK。好きなことを叫びましょう。
・30秒間の主張タイムだけ、マイクの使用は禁じられています。あなたの想いをぎゅっぎゅっと詰め込んで、大きな声で発表してください。
・鳴鳴:ツッコミで能力者の姫井くんが司会とタイムキーパーを担当。ボケ役で英雄の亀井くんがコメントをくれることも。(何か演出が必要でしたらお使いください)

☆映画館
既存のタイトルの使用はお控えください。OPに書かれていないタイトルも多数上映されています。

リプレイ

●今日はいい夫婦の日!
「冬物の準備は今のうちにしておいた方がいいのでは?」
「そうですね。祭日は混むようですからそうでない日にでも」
 そんな会話を経て六鬼 硲(aa1148)とラウラ スミス(aa1148hero001)は平日のショッピングモールへやってきた。
「流石に広いですね」
 硲は案内図を見ながら思案する。
「手分けをした方が良さそうです。私はコートを見に行きましょうか」
「では小物類はラウラにお任せください」
 彼女は手袋やマフラー、帽子などがある店舗を回ると言う。
「このチャンスを逃す手は無いからな」
 鋼野 明斗(aa0553)の声に頷くドロシー ジャスティス(aa0553hero001)。長く続いた暖かさのお陰で今まで薄着で過ごして来たが、11月も暮れ。いつ、真冬の寒気が襲ってもおかしくない。店内に踊る5%OFFの文字。そう、負けられない戦いがそこにはある!
 一目散に衣料品売り場へ。到着寸前、明斗が指示を飛ばす。
「まずは、自分の分を選んでいるから、お前は最初に下着を選んでこい」
 了解と敬礼しドロシーは下着売り場、明斗は冬物売り場へと散開した。
「……ん、早く……早く、行こう?」
 ユフォアリーヤ(aa0452hero001)は尻尾をブンブン振って麻生 遊夜(aa0452)の手を引く。
「んな急がなくても逃げやしねぇって」
 苦笑する彼も、実は気合十分。狙うは子供たち28人分の冬物。
「さぁ安い内に揃えるぞ!」
「……おー!」
 リーヤがくすくすと笑う。少しでも安く、良い物を。まずは温かいインナー類だ。
「リーヤ、頼んだ!」
「……ん、わかった」
 耳をピコピコと動かしてリーヤが答える。阿吽の呼吸に買い物客たちも舌を巻く。「うちの旦那もこうだったらねぇ」と囁き合う奥様たちの言葉にリーヤの耳がぴくんと立った。
「……ん、これが良い」
 次はお揃いのコートやマフラー。体格に合わせて様々なサイズを買う。子供たちとお揃いでふたりの分も買うことにした。
 
●お目当てなぁに?
「今年はチェック柄のコートが流行りなんだよ! 何にでも合わせやすいしね」
 テンション高く烏兎姫(aa0123hero002)が解説する。
「あとは大きめに着るのも今年の流行りだよ、パパ」
 彼女に養分でも吸われたかのごとく、虎噛 千颯(aa0123)は萎れていた。
「ねぇ……烏兎ちゃん……この間も沢山買い物したよね……?」
 烏兎姫は千颯と一緒にショッピングが出来て純粋に嬉しいのだろう。それがわかるから強くは出られない。
「今年の冬は始まったばかりだからね、今のうちに揃えておかないと置いていかれちゃうんだよ」
 だがこのままでは財布が重体判定だ。むしろ数日の安静で治ってしまうものならどんなに良いか。
「ファッションはわかるんだけど……今年だけでコートもう何着買った? そんなに着ないよね?」
「あー! あのブーツもかわいい!」
「聞いてない……」
 明斗が二人分のマフラーと手袋を選んでいるとドロシーが戻ってきた。眼鏡の奥の怜悧な眼差しが獲物を射抜く。
「それはいるのか?」
『育つ!』
 スケッチブックに強い主張が躍る。もう片方の手にはCカップブラ。素人目でもわかる、盛りすぎだ!
「百歩譲って、売り場の人の言う事を聞くんだな。返品だ」
 うぐぐと抗議の目を向けるも、鋼の意思で睨み返す明斗に勝つ術はない。ド正論である。ドロシーは仕方なくCカップブラをAAカップに取りかえた。
 店内では盛んにメッセージカードの配布を知らせる放送が流れている。亜莉香(aa3665hero001)は蒔司(aa3665)の腕にぎゅっと抱きついて言う。
「あのね、いつもお世話してくれてる執事さんと家主さんに、いつもお疲れさまー! とありがとう! をカードに描いて贈ろう? プレゼントと一緒に! きっと喜んでくれると思うの!」
「ワシはええよ……亜莉香に任せるきに」
 顔を伏せる蒔司。感情を素直に表現できる亜莉香にとっては名案でも、彼にはハードルが高い行為だ。
「ダメ! 蒔司ちゃんも一緒にやるから喜んでくれるのよ!」
 一言いう間に亜莉香の目いっぱいに涙が貯まっていく。今にもこぼれそうだ。
「わ、分かったき……そんな涙目で言わんでもええよ……」
 蒔司は彼女の頭を撫でて、慌てて言い募る。少し厄介なことになったかもしれぬと予感しながら。
 亜莉香は蒔司の手を引いて紳士用の洋品店へと入る。小柄な少年少女は目立ってしまう店だが、目的達成のためにしばし辛抱する。
「ここで家主さんと執事さんへプレゼント買お♪ やっぱりマフラーかな~」
「これなんぞええんじゃないろうか」
 蒔司はチャコールグレーと黒のチェック柄と、ワインレッドのニットマフラーを示して答える。
「素敵♪ それにしよ! 亜莉香と蒔司ちゃんのも一緒に買おうね!」
 亜莉香のカードには可愛い字で「いつもありがとう、大好き♪」のメッセージと可愛い猫の絵。蒔司は花束が開くポップアップカードを選び、小さな字で「ありがとう」とシンプルに記した。
 お嬢様育ちのレミ=ウィンズ(aa4314hero002)にとってショッピングモールは興味深い場所なのだろう。あれこれと目を奪われる彼女の隙を突いて、大門寺 杏奈(aa4314)はプレゼントの用意に成功した。
「ちょっとベンチで休まない?」
 杏奈が言うとレミは頷く。
「レミ。これ、受け取って」
 白地にイエローの小花柄の包装紙。一目で贈り物だとわかる。
「……開けますわね?」
 感激に目が潤んだレミが丁寧に包みを開ける。中身は太陽の形のペンダント。杏奈のムーンチョーカーと対になるものだ。いつも賑やかなレミが言葉を詰まらせる。
 とどめはメッセージカード――『レミの輝くような笑顔にいつも元気をもらってる。これからも私の側にいて』と丁寧な文字が語る。
「あ……アンナ……」
「レミ?」
 下を向いて震えるレミを杏奈はのぞき込む。
「大好きですわぁぁぁぁ!!!!!」
 フロア全体に響き渡りそうな声。振り向く者もいたが、にこりとして通り過ぎていく。
「……苦しいよ」
 杏奈は照れ隠しに呟く。しかしその程度でめげるレミではない。腕をほどいて、杏奈の手を両手でぎゅっと握る。
「アンナのお言葉、わたくしの全力にかけて応えて差し上げますわ……!!」
 少女たちは微笑み合う。再び歩き出したとき、レミの胸で太陽のモチーフが揺れていた。

●腹ごしらえは大事です
 東江 刀護(aa3503)と双樹 辰美(aa3503hero001)。ともに武人らしい気高さを持ったお似合いの夫婦――と思いきや彼らはあくまで主従関係だという。
「腹が減ったな。ここで何か食おうか」
「お付き合いします」
 刀護はじゃがバター、ポテトもち、フライドポテトとさすがの食欲。逆に辰美はスイートポテト、サツマイモアイスと甘味中心に攻めていたが、異彩を放つのはLOVEおいもビッグパフェ。
「そのパフェ、食えるのか?」
「甘いものは別腹です。問題ありません」
 大蛇がとぐろを巻くかのようなさつまいもソフトから始まり、芋の甘露煮や生クリーム、砕いたビスケットなどでボリューミーに造られた巨大パフェ。難攻不落に見えたそれは順調に体積を減らしていき、刀護が食事を終える頃には跡形もなくなっていた。
(……すげぇ食欲。女の別腹は本当だったんだな)
「どうかしましたか?」
 微塵も苦し気な様子を見せず、むしろ刀護を気遣う辰美。
「何でもない。買い物に行くか。こっちの冬は憂鬱だが、備え次第で何とでもなるはずだ」
 衣料品の新調を済ませた硲とラウラは合流し、昼食を済ませていた。料理の心得のある彼らの興味は自然とそちら方面へ。冬は鍋料理が美味しい季節。土鍋やコンロ、ライターなども新調を検討する。
「寒い現場で鍋料理できると面白いんですが」
 ライターを手にとって硲は言う。
「あまり沢山買いこまないで下さいね。それと鍋料理できるほど余裕のある現場はそうないかと」
 帰った後の荷物整理も大変なので、と言うと硲は少し残念そうに頷いた。

●愛です!
「ふぅ……お疲れさん」
「……ん、ふふ」
 遊夜がポンポンと頭を撫でるとしっぽが能弁に喜色を表す。買ったばかりのコートに袖を通して屋上へ行ってみる。
「お、何かやってんな」
 どうやら参加型のショーらしい。ステージ上の男性が妻に日頃の感謝を叫ぶ。いい夫婦の日にちなんだ企画かと遊夜は推察する。
「……ん、出て来る」
 リーヤが耳と右手をピンと立てる。
「おおっ、お姉さんやる気だね」
 呆気に取られているうちに、トントン拍子で出演が決まった。
(この人混みの中に……人嫌いだったのに、成長したな)
 人の間をずんずんと進んでいく逞しい姿に遊夜は感動していた。
「お名前とご職業をどうぞ」
「……ユフォアリーヤ……孤児院副院長」
 尻尾を揺らして何かを我慢する様子に、遊夜は首を傾げる。
「今日はどなたと来たんですか?」
「……ん、ユーヤと」
 少しだけ視線がこちらに集まるが、皆すぐに正面に向き直る。が、亀井と名乗った男は目ざとかった。
「あ、お揃い。羨ましいスな~」
「可愛い子だからって絡まないの。さ、準備は良い?」
 リーヤは頷く。マイクを持って芸人が退くと彼女は大きく息を吸う。客席がしんと静まる。
「……ユーヤ愛してるーー!!」
 震える空気。拍手と歓声に、一斉に後ろへ向く視線たち。目印はお揃いのコートだ。リーヤは芸人たちの称賛に短く返事をして威風堂々と帰還する。主張は全てあの一言に込めた! と言うわけだ。
「……やられた」
「……ん」
 胸を張るリーヤ。愛は女を強くし、時に賢くもするらしい。
 プレゼントを無事用意した亜莉香はご機嫌な様子で売り場を歩く。
「蒔司ちゃんはこの蒼のノルディック柄マフラーがいいと思う♪ 亜莉香のは蒔司ちゃんが選んで!」
「ぬ……じゃあ、これ……」
 もこもこなファーのマフラーだ。
「わ、可愛い! 流石蒔司ちゃんだよう~。大好きっ」
 本人も一目で気に入ったようだ。
「わ、分かったからくっつくな……!」
 人目は気になるが『妹』が満足そうなことには安心する。最後の難関はプレゼントを渡す瞬間だろうか。『兄』として、堂々とした態度で臨まねばと蒔司は不器用な決心をしていた。
 
●これも愛です!
「……確かに可愛いけどロンファとかも此の間買ったよね?」
 すっかり独り言状態にも慣れてきた千颯に声をかける者があった。
「今『秋コーデ☆インタビュー』っていうコーナーの撮影中で~。ちょっとしたお礼もあるんですけど~?」
「やっちゃうんだぜ! 烏兎ちゃ~ん、ちょっとおいで~」
「どうしたの、パパ~?」
 何枚あるのかわからないコートを店員に持ってもらい「ど・れ・にしようかな~」などと口ずさんでいた烏兎姫は、スキップでやってきた。店員は前が見えないらしく同僚に支えられながら山積みの商品を台に下している。この短時間で、恐ろしい子。命拾いしたかもしれない。
「パパ?」
「違うって! そういう意味のパパじゃないんだぜ!」
 インタビュアーが趣旨を説明すると烏兎姫は嬉しげにこだわりを語る。
「なるほど~。パパもすっごくおしゃれだよね」
「うん! カッコよくて自慢のパパだよ!」
 烏兎姫が千颯に抱きつく。警備員が寄ってきた。
「この子英雄だからね! 危ない関係じゃないですから!」
 ほとんど烏兎姫の独り舞台で取材は終了した。
「こちらお礼です~」
「え」
 それは妙にリアルで可愛くないゴリラのクリアファイル。シャンゴリラのマスコットらしい。
「パパ、早くお店に戻ろう」
「え、キャンセルしたんじゃ」
「先に袋に詰めてもらってるんだ。あったまいいでしょ?」
 命運は尽きた。帰ったら妻への謝罪と言う第二フェーズが待っている。頑張れパパ。
 刀護は品定めを辰美に一任するつもりだ。寒がりな刀護のために辰美はまずインナーを手に取る。
「生地は薄いですが保温性能は抜群だそうです。伸縮性もあって動きやすいみたいですね」
「それは助かるな。何枚か買おう」
 別の店では、刀護愛用のジャケットと同色のコートを選ぶ。
「刀護さんに合いそうな色のコートにしてみました。いかがでしょうか?」
「ありがとな。お前、センスいいな」
「喜んでもらえて嬉しいです」
 健気な辰美の様子に心が温かくなる。彼女にはいつも助けられている。『献身的にサポート』することが誓約であるとはいえ、向けられる様々な気遣いから辰美の思いやりの深さが伝わる。
「お前は何かいらないのか? 今日は資金に余裕があるから心配はいらないぞ」
 遠慮する辰美に、ふと目についた白いマフラーを巻いてみる。
「似合うじゃないか」
「そうでしょうか……?」
 鏡をちらりと見てまんざらでもない様子の辰美を、次は手袋コーナーに誘う。
「これか? それともこっちが良いか?」
 少しくらい強引と思われても構わない。躊躇いつつ彼女が選んだ黒い手袋を迷うことなく会計する。
「……ありがとうございます」
「楽しんでもらえたなら何よりだ」
 ぎこちないシーンもあるけれど、優しい休日。こんな過ごし方も良いものだ。
 杏奈とレミはおいもパフェを仲良くシェアしていた。
「はい、あーんですわよ♪」
「……あーん」
 この光景もすっかり恒例だ。
「お味はどうでしょう?」
「おいしい、よ」
 普段あまり表情が変化しない杏奈だがスイーツを食べる時だけは別だ。
「ふふふ……スイーツを食べる時のアンナは最高にかわいいですわね!!」
「それ、前も聞いたよ」
 レミの言動に慣れてきた杏奈はかわそうとするが。
「愛してますわ、アンナ」
 この言葉は予想外だったらしい。
「私は本気ですわよ」
 追い打ちを掛けられて白い頬が桜色に染まる。
「さあ、まだパフェは残っていますわ。早くお口を開けてくださいまし」
「……あー」
 恥ずかしい。でも甘味の誘惑には勝てない。ためらいつつ口を開けるが、その表情は――。
「真っ赤になりながらスイーツを求めるアンナ……何かに目覚めてしまいそうですわ」
「……もっと」
「もちろんですわ♪」
 スイーツより濃密な甘々空間を形成していることに、当人たちは無頓着なのだった。
「さて、次はどうしましょうか」
 ラウラが言うと硲は即答する。
「大型の本屋があるようです。行ってみませんか?」
 本屋では「冬に食べたい料理特集」と題してレシピ本が並べられていた。今日はスケジュールに余裕がある。家に帰ったら早速試してみよう。彼らの心は一つになる。最後に向かった食材コーナーで鍋用の食材を買い込んで帰途に就いた。

●日、暮れて
 ひたすらに求めるのは安さと保温性の高さ。明斗とドロシーの手に確かな重みを伝えるそれらは、まさしく戦利品と呼ぶに相応しい。
「すいませ~ん」
 声に振り向くとマイクを持った若い女が笑顔で立っていた。
「ちょっとお話聞いいですか? 冬コーデのインタビューやってるんです~」
 女は彼らの大荷物に興味を示した。
「今日の買い物のポイントは何でしょう?」
「生きるためですよ」
 凛々しい声音で明斗は言い放った。ついていけない様子の女にドロシーがスケッチブックを掲げる。
『ザ・サバイバー』
 親指をぐーっと立てる。彼女の表情もきりりとしている。平和なショッピングモールで一体どんな戦いがあったというのだろうか。
「あ、もう大丈夫ですか? では、これで!」
 完全に煙に巻かれた形のスタッフたちは、可愛らしい少女と兄と思われる青年を解放した。素材は良かったが、放送に使えるかどうかは怪しい。番組の都合を知る由もない彼らは家路を急ぐ。理由は勿論、腹が減って余計な出費を出さないためだ。徹底した節約生活には頭が下がるばかりである。
 料理本のページを広げてラウラが言う。
「これなんて試してみるのはどうです?」
「エビのアヒージョならぬチリージョ、ですか。かなり辛い味付けになりそうですね」
 オリーブオイルでエビを煮るのではなく、チリソースを作ってエビを煮る料理だ。豆板醤をなど家に常備した食材で作れそうだ。
「やってみましょう」
 ラウラがエビの皮をむく隣で、硲が調味料を鍋に投入していく。辛さの度合いはふたりで相談だ。
 ひとつ増えたレパートリー。これも広義では見識を広げる術といえるだろうか。熱々の料理で胃と心を満たしつつ、硲は新たな季節の到来に思いを馳せていた。

●今日は勤労感謝の日!
 明けて、23日。シャンゴリラ近くの公園に張られたテントから巨大な芋虫が這い出て来た。
「姐さんそろそろ開店時間っス」
「うーん」
 芋虫改め寝袋の正体は花も恥じらうJK、御童 紗希(aa0339)とスワロウ・テイル(aa0339hero002)。
「寝袋最悪……テイルちゃん今日の獲物はバッチリだよね」
「勿論っス! 昨日閉店間際まで下見したんで狙ったブツの最短ルートは自分の頭に叩き込んであるっスよ!」
 テイルは親指を立てる。ついでに寝ぐせも立っている。寒い朝だが、昨夜の晩おいもフェアで英気を養った二人には何ということもない。それよりも課せられた使命が二人の戦乙女(ヴァルキリー)を駆り立てる。
「兄さんに散々小声で言われたっス。『ダンシング☆大仏』マリと行きたかったって……」
「そっちは後で〆とくから今はセールに集中!」
 声を低めた紗希が司令官のごとく問う。
「装備は?」
「移動、イニ、特抵、命中、回避バッチリ! これならいけまス!」
 開店の合図が聞こえると同時に2人は共鳴した。シャドウルーカー。これほどまでにバーゲンに特化したクラスがあっただろうか――というと色々な方面から怒られそうだが。並居る客を全力疾走で越え、紗希が目当ての売り場に一番乗りしたのは事実だ。歴戦の店員が生唾を呑んで挨拶した。
(先ずコートとブーツ! それからマフラー!)
 紗希の意識が吠える。
(姐さん腹巻も!)
 テイルは中国語でまくしたてるが問題なく伝わったらしい。迷いなく、ピンクのもこもこ腹巻という女子力が高いんだか低いんだかわからない代物をゲットした。
 ファーが取り外し可能で着回しの利くコート。定番のチェックマフラー。誰よりも早く選別し、他の者が動く前に手を伸ばす。隣で舌打ちした女に可愛らしく笑みを返してレジへ駆けこむ。人波の回避はお手の物だ。
「これはあたしの!」
「このデザインはどう考えてもヤング向きだろうがぁあ!」
 パンチパーマのおばちゃんの猛攻もなぜか特殊抵抗でカバーできてしまった。ステータスの有効活用。リンカーの本気である。
 オフの今日も規則正しい生活習慣を守った百目木 亮(aa1195)と英雄のシロガネ(aa1195hero002)はぶらりとショッピングモールを訪れた。
「混んでるねえ……」
「そら祝日ですし。勤労感謝の日、でした? 働けることに感謝せなあきまへんなぁ」
「本来の祝日とは違うんだがなあ。ま、違いねえ」
 カップルやら家族連れの波に乗って向かうは映画館だ。
「お休みだねぇ、ニック」
「そうだな。朝霞は普段から大学にも行かずにゴロゴロしているがな」
 大宮 朝霞(aa0476)はむっとして言い返す。
「ゴロゴロしてるんじゃないわよ。HOPEから緊急の依頼があるかもしれないから、待機してるんだよ!」
 その言葉に納得したのかしないのか、ニクノイーサ(aa0476hero001)は言う。
「なるほど。今日はせっかくだから、買い物にでも出かけたらどうだ?」
「ニックもたまにはいい事いうじゃない。それじゃ、さっそく出発よ!」
 おや?
「……俺も行くのか?」
「だって、荷物持つ人が必要じゃない」
 割とひどい扱いだが、結局行ってしまうのが彼なのである。夏にもこうして出かけたのを思い出す。あの時とは違いすっかり寒くなった。しかし冬本番はこれからだ。
「コートを買っておかなくちゃね。伊奈ちゃんの分もだから、三人分ね!」
「お金がかかるものだな……」
「そうよ。生きていくためにはお金がかかるものなのよ」
 開店から少し後、シャンゴリラの入口には小さな影がふたつ。
「お休みだから、人、結構多い、な……」
 木陰 黎夜(aa0061)が呟くと、真昼・O・ノッテ(aa0061hero002)が言う。
「はぐれないように、手をおつなぎしたいのですが、よろしいですの?」
「……うん……」
 道すがら冷え切ってしまった手と手がじんわりと温かくなっていく。
「と、いうわけで。行くわよ映画館!」
「いきなりだな、おい」
 ティーナ フォーゲル(aa1352hero001)の宣言に藍澤 健二(aa1352)は面食らった。彼女にしては珍しいお出掛けの提案だ。
「だってだって宣伝のにゃんこ可愛いじゃないここはしっかりと大画面で見るべきよ。うん絶対にそうすべき……」
「いいから落ち着け。はい、お水」
 息継ぎ一つせずにまくしたてるティーナ。裏腹に、妙に落ち着いてしまっている健二は閃いた。
(おりしも今日は23日、勤労感謝の日だ。普段は仕事を手伝ってくれているしな)
 相棒の普段とのギャップにいささか困惑しつつ、健二は準備を開始した。

●気ままにショッピング
 シックな色調が目立つ店を選び、黒のコートばかりを手に取る黎夜。真昼は不思議がる。
「つきさまは明るい色もよくお似合いだと思いますのよ?」
「あ、あんまり明るい色は、ちょっと……」
 真昼が持ったパステルブルーのコートから眼を逸らした黎夜が、帽子コーナーに目を止める。
「真昼、このニット帽、似合いそう……うさぎさん……」
「うさぎさんですの! かわいいですのっ」
 真昼はうさぎさんのつぶらな瞳に一瞬でノックアウトされたようだ。
「これ、いいかも……」
 黎夜が気に入った黒いコートは一見シンプルだが、袖の飾りベルトに黒い糸でうさぎが刺繍されていた。
「つきさまとおそろいですの? まひる、嬉しいですわ!」
 黎夜は冬用のインナーを買い足して買い物終了。真昼は帽子に合わせてコート、マフラー、手袋と一式揃える。いずれも適度にフリルやリボンがあしらわれていて、フル装備の真昼はさぞや可愛らしいことだろう。
 ショーケースに飾られたマネキンの恋人たちは、お揃いのコーディネートで手を繋ぐ。かつてそれをまぶしく見ていた天都 娑己(aa2459)の隣には、今大切な人がいる。
「あの服、和馬さんが好きそうな感じ」
「そうだな。じゃあ隣の子は娑己ってことで」
 鹿島 和馬(aa3414)は笑う。小さな幸せ。積もり積もって胸を温かく包み込むそれを、雪に例えるのは気が早いだろうか。
「あら、まだ上映まで時間があるみたいね?」
 早めに到着したのはいいが、少し張り切りすぎたようだ。テイーナが時間潰しに希望したのはペットショップ。
「ねぇ見て見ておナカ上に向けてころーんってしてるのあのにゃんこらぶりぃじゃない?……」
 またしても息継ぎナシの実況。今日は彼女の意外な一面を発見した気がする。よちよち歩きのロシアンブルーは、ガラス越しにティーナをじっと見つめている。気に入られたのだろうか。
「ねぇ、これも運命よ。一匹連れて帰りましょう?」
「はっ!? ダメだって!」
 真剣に訴えるティーナはまるで幼い少女のよう。ならば自分は母親役だろうか。勘弁してくれと思いつつも諫める役割は果たして、健二は無事その場を後にしたのだった。
 ニックに荷物を預け、朝霞は次々とコートを試着する。
「どう? これ似合うかな?」
「……どうだろうな。俺にはよくわからんが」
「……別のにしよう」
 このループも何度目だろうか。しょんぼりした顔でコートを脱ぐ朝霞は見ていて心が痛むのだが、気の利いたコメントも思いつかない。愁いの視線をぼんやりと遠くに投げる色男に忍び寄る影。
「隙あり!」
 ニックの頭には朝霞が好むようなつば広帽子が乗っかっていた。ただ、大きな羽飾りとコサージュ、そしてレースは完全に貴婦人のそれである。
「……ニック、似合ってるわよ……ふふ」
 朝霞はツボにはまったらしくお腹を抱えている。
「全く……」
 ニックは短く笑って帽子を外し、髪を手ぐしで整えた。
「服とか……僕じゃ分からなくて、見立てて貰って?」
「主……多すぎです」
 三ッ也 槻右(aa1163)に費用の半分という大金を渡され、隠鬼 千(aa1163hero002)は眉尻を下げる。荒木 拓海(aa1049)とメリッサ インガルズ(aa1049hero001)は槻右の味方のようだ。
「好きなの見つけておいで。リサさん、よろしくね」
「ええ、任せて」
 拓海と槻右は、リサと千のコンビと別れ歩き出す。家具や日用品の名前がずらっと並んだリストを見ながら拓海は言う。
「世話になるよ」
「ううん、維持するの大変だから助かるよ、手放したくなくてさ」
 彼らは槻右の両親が遺した戸建の家で共同生活を始めることになったのだ。
「光熱費はオレが出すとして他はどうしよう?」
「税金とかは僕が払うよ、後は……追々かな?」
 始めてから気づくこともあるだろう。同意した拓海だが、すぐに思い当たる。
「朝起こすのはオレ達の仕事かな?」
「う……朝は……弱いんだよね」
 拓海は冗談めかした口調だったが、情景が浮かんだらしい槻右は苦い顔をした。
「仕方ない。拓海お兄さんが、毎朝フライパンを叩いて起こしてあげよう」
「それ、拓海お母さんって感じじゃない?」
 緩いチョップが槻右の側頭部に決まった。
 食器は6人分を色違いで揃え、タオルなどの日用品も買っていく。家具とまとめて槻右の家に配送してもらう予定だ。
「あ、土鍋か。ちょっと心惹かれる」
「拓海たちが来たら鍋パーティできるね。ちらし寿司とかもいいな」
 リサも千から広い台所を自由に使えると聞き、喜んでいた。
「嬉しい~アパートのは狭くて……楽しく色々作れそうね」
 可愛いカーテンなどを買った後、服売り場へ。
「何かお探しですか?」
 穏やかな笑顔の店員に、リサが千の服を探していることを伝えた。
「優しいお姉さんね?」
 店員は千に視線を移す。ともに銀糸のような髪を持つふたりは確かに姉妹にも見える。訂正すべきだろうかと思っていると、リサにしか聞こえないくらいの声で千が言った。
「あ……あの、お姉ちゃんって呼んでも……いい?」
 恥ずかしげに、しかし期待のこもった眼で尋ねる千。リサの心は奪われた。
「喜んで!」
 千とお揃いのように頬を染めたリサが優しく尋ねる。
「千ちゃんはどう言うのが好きかしら?」
「ええと、動きやすいのを」
 上着にボトムにインナーが数点。靴も必要だ。着回しがきくように工夫して揃えていく。ショッピングに慣れていない千だが、わからないことをリサに質問したり、数点の候補の中から選ばせてもらったりして楽しむことができた。
 笹山平介(aa0342)と賢木 守凪(aa2548)は英雄たちと別行動をとっていた。
「おいもフェアですか♪ 守凪さん焼き芋食べませんか?」
「焼き芋…! 名前は聞いたことがあるが食べたことは無かったな……」
 半ばBGMと化した焼き芋屋の声に誘われ、鮮やかな黄色がまぶしい石焼き芋を購入する。
「こうやって食べると手が汚れなくていいですよ♪」
 平介が食べ方を教えると、守凪は眼を輝かせて真似をする。
「ここ空いてます?」
「ええ、どうぞ♪」
 家族連れが隣の席へやってきて一気に賑やかになる。平介との初対面は子供に正月遊びを教える依頼だったことを思い出して、守凪は尋ねる。
「平介は、子供が好き……か?」
「……ええ、好きですよ?」
 笑顔の向こう、すりガラスを覗くように哀しみの影が見えた気がして守凪は口を閉ざした。

●刺激も必要ですか?
 ゼム ロバート(aa0342hero002)とイコイ(aa2548hero002)はインタビュアーに捕まっていた。
「今日のコーデのポイントは?」
「興味ねぇよ」
 鋭い眼光に相手は怯む。彼が衣服に求めるのは動きやすさだけだ。
「で、ではそちらの方は?」
「……女だ」
 ゴシップの香りに「えっ? どうなんです?」とイコイにマイクが向けられる。
「懸想人でしょうか」
 淑女然としてにっこり笑うイコイ。ゼムが一瞬言葉を失くす。
「……何言ってんだ……お前」
 イコイはゼムに気付かれないよう少しだけ距離を詰める。誤解を与えられれば上々。
「恥ずかしがりで」
 などと余計な一言も言っておく。だって彼のいろんな顔が見たいから。――興味本位で。
「……もういい、道空けろ」
 ゼムはイコイの腕を掴み、その場を去る。気分を害した顔に見えるが、イコイといるときはいつもこの調子なので何とも判断しづらい。イコイが特に抵抗もしないでいると、物陰に連れ込まれて壁際に追いやられた。脇の下につかれた両手はイコイを怯ませるには心もとない。
「壁に押し付けるなら首の横にしないと」
 手の甲で叩いて位置を示す。返って来るのは舌打ちのみ。
「なんです? キスでもされそうな状態ですねぇ」
 イコイは長いまつ毛を伏せ、意地悪く口の端を上げた。
「……やめだ……次行くぞ」
 勉強も依頼も置いといて遊びたい! 皆月 若葉(aa0778)の主張をラドシアス(aa0778hero001)は鷹揚に受け入れた。
 まず向かったのはゲーセン。ガンシューティングで協力プレイをしながらの得点勝負だ。
「わっ?! 離れて!」
 死角からゾンビに組み付かれた若葉だが、慣れた様子で銃を振り、引き剥がした敵の頭を撃ち抜く。
「あっぶな~」
 ピンチを切り抜ければすぐに調子を取り戻す。弾を出し惜しみしないスタイルだがリロードのタイミングは申し分なく、経験からか敵の発見も早い。
「……こっちか」
 一方、ラドシアスは無駄撃ちせず的確に当てていく。やる気はないが負けるつもりもないようだ。ゲームは初めてだが持ち前の器用さで段々と若葉のペースに追い付きつつある。
「ボスだ! こいつは固いよ!」
 桁外れの大型ゾンビは怪獣モノの雰囲気すら漂わせる。大きく速い敵の攻撃をやり過ごしつつ、順調に削っていく。ポジショニングや攻撃タイミングは、流石の阿吽の呼吸だ。
「……手慣れてるな」
「まぁね、射撃の腕はコレで鍛えたし! ……よし、クリア!」
 勝負は僅差で若葉が逃げ切った。次は若葉が射撃以上に大得意なクレーンゲームだ。
「あ、これピピ喜びそう」
 薄紫の蝙蝠ぐるみを目にとめるや否や、アームを自由自在に操って楽々ゲット。
「よし、次は」
「……色違いはいらん」
「えー……じゃあ」
 次の獲物はビッグサイズのお菓子。取りすぎても幻想蝶があれば大丈夫。もちろん引き取り手に心当たりがあってのことだ。
 話題のホラー映画は男二人で挑むのにおあつらえ向きだった。
「悪くなかったな。ラストでカカシをぶっ壊すのは予想できたが、それで呪いが完成するオチとはね。伏線の張り方も申し分なかった」
 シロガネは役者の熱演には賛辞を贈るものの、いわゆるビックリ系の演出が頻発したのにはご不満の様子だ。少し考えてようやくぞっとできるような陰湿な恐怖が足りなかったと口の端を上げる。雑感を述べる彼らのテンションは至極平坦だ。
「ちったぁ怖がれよ」
「オヤジはんこそ」
 可愛げのない――あっても怖い――連れだが仲良く腹ごしらえといこう。目的地は何度も宣伝の放送がかかっている催事場だ。
「千ちゃん?」
 千の足を止めたのは蝶の髪留めだった。
「か……かわいい」
「本当ね。今日買った服にも合いそうだし」
 リサに勧められ、千は服を着替える。仕上げにリサが千の髪に蝶をとまらせ、姉妹のようなふたりは満足げに歩き出した。

●ランチタイムはどうしたい?
「……勤労感謝の日に半日仕事を突っ込まれるとはな……」
 祝日に裏切られた男・迫間 央(aa1445)は仕事を終えると、少し足を伸ばしてシャンゴリラへ向かった。ちょうど昼時だ。黒スーツの央とドレス姿のマイヤ サーア(aa1445hero001)という二人組は、周囲の目を引きながら颯爽とフードコートへ向かい、合流予定の友人たちのために席を確保する。
「お、いたいた。こっちだよ」
 拓海と槻右の後に、若葉とラドシアスが到着する。まもなくリサと千も合流してランチタイムが始まった。
「千、よく似合ってるよ」
「うん、可愛いよ!」
 槻右と拓海に絶賛され、千が俯きながら礼を言う。
「さっすがリサさんだね。助かったよ」
「ふふ、私も楽しかったわ。また千ちゃんとお買い物に来たいな」
 微笑ましいやりとりを眺めながらハンバーガーのセットをつまんでいた央は言う。
「この間のハロウィンイベントはありがとう。いい1日になったよ、本当に」
 コーヒーを一口飲んだ拓海が答える。
「こちらこそ。ハロウィン楽しかったな」
「外でって言うのも良かったわね」
 リサが言うと、大ぶりのたこ焼きを頬張った拓海がこくこく頷く。
「若葉さんは、当日は来て貰ったのにバタバタしちゃってすいませんでした」
「そんなことないですよ! 俺も楽しかったです」
 続いて槻右が礼を述べると、千もぺこりと頭を下げる。
「貰って帰ったお菓子や料理、凄く喜んでさ。ありがとうね」
「とても美味しかったです。兄も喜んでました」
 千はカレーライスを行儀よく食べている。槻右がおいもフェア会場で手に入れたパフェがデザートだ。
「それはそうと、2人が同棲するとは驚いたな。もういっそ付き合っちゃえば?」
 槻右がハッシュドポテトバーガーを喉に詰まらせる。拓海もフライドチキンにかぶりついたまま笑いをこらえている。きょとんとする若葉たちに向けてリサが説明した。
「へー……皆で一緒に住むんだ。今度遊びに行ってもいい?」
 「もちろん!」と二重に声が聞こえ、一同は笑う。うっかりシンクロしてしまった拓海と槻右はまたしてもいじられるのだった。
 匂いに惹かれおいもフェア会場に飛び込んだ黎夜と真昼は、良く知った声に呼び止められた。
「奇遇だな、嬢ちゃんたち。買い物かい?」
 同じアパートの住人の亮だ。
「黎はん、真昼はん、もし良かったら一緒に食べません? 奢りますよって」
「……シロガネ、自分で出せよ」
 調子よく提案したシロガネを亮が覇気なく睨む。
「本当によろしいですの?」
「シロガネさん……うち、ビッグパフェ、食べたいです……1人で……」
 フードコートに移動しテーブルを挟んで食べる。中でもLOVEおいもビッグパフェの存在感は他の追随を許さない。
「やー、すごいなぁ。見ていて気持ちいい食べっぷりや」
 こう見えて黎夜の食欲は運動部の男子中学生並みだ。残す心配はないだろう。対照的に亮はじゃがいも入りのおでんをちびちび食べている。
「真昼はん、フライドポテトあげますわ」
「ありがとうございます。ポテトもちでよければ一口いかがですか?」
 向かい合って座ったシロガネと真昼は和気あいあいとおかずを交換する。亮は椅子に背を預けて、黎夜に問う。
「結構な大荷物だな。何を買ったんだ?」
「冬物を色々、です……。亮さんたちは……?」
「ああ、『知恵のないカカシ』っていう……」
 ガタリと音が鳴った。黎夜が椅子ごと後ずさりしたらしい。ジャーマンポテトを飲み込んだシロガネが「いじめたらあかんて」と笑う。
「……それ、怖いCMのやつ……ですか?」
「すまん。別の話にするか」
 とはいっても共通の話題と言うと自然と依頼関係になってしまう。
「こっちは、イギリスの方に、少し……。もう収束しそう、ですけど……」
「俺は四国、それからロシアだな」
「うちは、まだかかわっていませんけど……四国と、ロシア……。ロシアは、これから寒くなるのに、イヤ、ですね……」
「ロシアでは強敵と戦ってきた。ちとしくじっちまったがよ。嬢ちゃんも、行くなら気を付けな」
 黎夜に請われるまま、亮はあったことをかいつまんで説明する。真剣な顔で聞きつつも順調に減っていくパフェに、何だか笑いが込み上げた。
「ここで少し待ってろ。適当に買って来る」
 ベンチに無音 冬(aa3984)を残し、イヴィア(aa3984hero001)はご機嫌な足取りで屋台の列に繰り出す。焼き芋はやはり鉄板。スイートポテトも気に入っているようだし、出来立てポタージュも温まりそうだ。
「……冬?」
 両手に食べ物を持って戻ってくると、冬の姿が消えていた。
「おい、こん位の真っ白な少年見なかったか? あ、インナーだけは黒かったか……とにかく無表情の」
 思わず近くを通った婦人に声をかけるが。
「イヴィア……」
 反対方向の人ごみから白い影がにゅっと現れた。
「お前な……待ってろって言っただろ? まさかずっと」
「この人ごみだから……見失うと困るかなって」
 彼なりに考えがあって動いたらしい。これは叱るに叱れないか、と苦笑する。
「悪い、足止めさせちまったな、どうぞ行ってくれ」
 婦人は「よかった」と微笑んで去っていった。そんなに心配そうな顔をしていただろうか。
「……半分持つよ」
 冬が手を差し出す。
「いいって、お前が食えば減るんだから、ゆっくり……しっかり食べろ?」
 イヴィアが微笑むと、冬は彼の顔をまばたきなしで見つめてから返事をした。
「……うん」

●この後どうする?
「そだ、これ皆にあげるよ」
 若葉からビッグお菓子のおすそ分けをもらって、一同は解散する。
「拓海……って呼びますね」
 千は拓海とも打ち解けた様子だ。央は午後の予定をすでに決めているらしい。
「おいもフェアでちょい探し物……昔、出店で見掛けたポテトが食べたい……」
 それを聞いてマイヤも言う。
「……央、私も少しだけ行ってきていいかしら?」
「いいけど、何かあったか?」
「少し……ね」
 買い物するなら、と央に財布を渡されてマイヤは去って行く。彼女にしては珍しい行動だが、良い傾向であることは間違いない。
「さて、なかなかの店舗数だが……」
 央は活気あふれる特設会場の中へ飛び込んだ。
「うぅ……よかったわぁ」
 ティーナが言った。映画はほのぼのとしたラブストーリーだったが、ハラハラするシーンもあった。ヒロインの両親の不仲によって離ればなれになりかけた飼い主たちと猫たちは、ラスト付近の和解によってこれからも共にいられることとなった。安堵のあまりに涙するティーナをどう扱っていいかわからず、健二はうろたえる。
(パンフに混じって、猫の縫いぐるみもあるのか……まぁ、これなら買ってもいいかな)
 ダメ元で、健二は提案してみる。ティーナは一瞬きょとんとしたが、特徴を捉えた縫いぐるみに目を奪われたようだ。青い瞳を覆った涙が引いていくのを見て健二は安堵した。
「ぽんたとフゥちゃん、セットでね」
「はいはい」
 名シーンの写真やオフショットがふんだんに盛り込まれたパンフレットも買ってしまおう。ティーナの熱い猫語りの材料になりそうだが、それも良いだろう。猫が招いてくれた発見と楽しい時間に健二は感謝した。
 和馬と娑己も『ねこねこぎゅっぎゅ』を見終わって出てきた。両想いなのに踏み出せないふたりと背中を押すふたり。和馬は登場人物達に既視感を覚えて、むずむずしっぱなしだったらしい。それを聞いて娑己がくすくすと笑う。
「なんか被るよな。紫はともかく俺氏はあんな可愛くねぇけど」
 何かと暗躍していた相棒たちを思う。と、派手な張り紙が目に入った。
「どうせついてきてんだろ――ちょっと驚かせてみねぇ?」
 一方、波月 ラルフ(aa4220)とファラン・ステラ(aa4220hero001)は。
「猫が可愛い映画だった」
「お前はいつもそうだな」
 満足げな感想の後に、さらっと愛猫への愛を吐露するところが彼らしい。ファランは尋ねる。
「……で、次はどこだ」
「おいもフェア」
 強面の男は真顔で言い放った。

●いろいろな『大切』
 イベント中の屋上。和馬と娑己が手を挙げると亀井が目を止める。
「何よそこのリア充! 上がりな!」
 妙にリアルなオカマ口調の彼にマイクを渡され、和馬が言い返す。
「悔しかったら大事な誰かを見つけて、俺等に負けねぇぐらい幸せになりやがれっ!」
「んまー! ちょっと奥さん聞いた~?」
 姫井はボケをいなしつつ自己紹介を促し、主張タイムへと進行する。
「二人のことだから、きっとどこかで聞いてくれてるよね」
 娑己がステージの中央に立つ。
「俺氏さん、紫、いつも私達を見守っていてくれて、本当にありがとう。相合傘のときも、結婚写真のときも、誕生日のときも、恋人として初めてのデートのときも、そういえばあのときも、このときも……ずっと見てくれてたよね」
「ストーップ! 何だそれ、ストーカーかよ!」
 姫井がタイムキーパー役を放り出す。
「姫井くん……うらやましいの?」
「キモッ!」
 和馬がやれやれと言った調子で割り込む。
「あのー、うちの彼女が戸惑ってるんだけど。主張続けて良い?」
「どうぞ~……ってそれ俺の仕事!」
 仕切り直しだ。娑己が続ける。
「二人が、いつも心の底から私達の幸せを願ってくれているから、私達はとっても幸せだよ。いつも本当に、ありがとう」
 アイコンタクトして位置を入れ替わり、和馬が中央へ。
「いざとなると上手く言葉が出てこねぇな……」
 娑己は微笑んで見守る。きっと大丈夫、伝わるはずだからと。
「その、俺がこうして想いを遂げられたのも、お前らが背中を押してくれたってのがあると思ってる。仕事でも私生活でも助けられっぱなしで……いつも感謝してる」
「残り10秒!」
「ありがとう――これからも宜しく」
 少ない言葉に、心からの想いをのせて。――ふたり合わせてたった60秒のショーが終わる。
「ぇっ? わっ……」
 カウントゼロが宣言されると、和馬は娑己の手を引いて逃げるように退場する。思った以上の恥ずかしさに耐えられなくなったのだ。
「こら、礼くらい言わせろー! いい主張だったぞー!」
「ご、ごめんなさいー!」
 謝る娑己だが、その表情はとても楽しそうだった。
「二人で惚気合うのかと思ったら……ふふっ」
「余計なお世話かなとも思っていたから……うん、良かったよね」
 どこかで、ではなく会場に紛れて見守っていた龍ノ紫刀(aa2459hero001)と俺氏(aa3414hero001)は、嬉しい驚きで相棒たちの姿を見失った。
「これは娑己氏の提案かな? 優しい子だよね」
 俺氏が言う。後に娑己から提案者は和馬だと告げられるのだが、さて彼はどんな反応を見せるのだろうか。
「いこっか」
 ふんわりと微笑んで紫が言う。俺氏は頷く。
「このあとは腹ごしらえかな。とりあえずフードコート?」
「いや、たしか娑己様はおいもフェアが気になるって言ってたよ」
「それだ」
 ストーキング? いいえ、見守り活動です。まだ当分この景色は変わらないようで。きっとこれも幸せ。
 もこもことした素材が増えるこの時期の服屋は、冬を惹きつけてやまない。
「冬物……」
 無表情なまま、目だけがキラリと光った気がしてイヴィアが言う。
「お前本当に好きだな……」
「これからもっと寒くなるから……」
 冬はマイペースに商品に目を走らせ、そして止める。
「イヴィアにはこれ似合いそう……」
「お前……」
 イヴィアは二の句が継げない。何故よりにもよってピンクのマフラーなのか。
「……嫌?」
 しかしこの純粋な好意を無駄にするのは気が引ける。
「良いセンスしてるな」
「……うん」
 冬は「似合う」と念を押すように深く頷いた。
「暇だ……」
 御神 恭也(aa0127)は珍しい疲れ方をしていた。
「冬物が安いと言っていたが、たった5%……買い時とは思えんが?」
 伊邪那美(aa0127hero001)は売り場を何往復もしながら唸っている。
「う~ん、こっちも良いけどあっちも捨てがたいな……」
「そうだな」
 相槌の種類も尽きてきた。恭也自身の買い物は瞬く間に終わったため、ショップ袋をもったカカシのごとく立ち尽くすしかない。
(遅い……刀剣店と植木屋に寄りたかったが、どちらか一店しか回れそうにないな)
「もう! ちゃんと見てる? さっきから返事が適当な感じに聞こえるんだけど?」
 予算の上限を大幅に上げることで機嫌は回復したが、またしても始まる唸り声。熟考の末、残り2点まで絞れたようだがここからが長いということを恭也は学んでいた。
「恭也さん?」
 振り返ると月鏡 由利菜(aa0873)が立っていた。伊邪那美はぱっと顔を輝かせ由利菜に意見を求める。
「どっちが良いと思う? 恭也は全然あてにならないんだ~」
 恭也にはほぼ同じデザインに見えるコートを由利菜は真剣に吟味し出す。
「何を買うか決まっているなら、大きさと好みの色かを調べれたら直ぐに終わると思うんだがな」
「あはは、男の子ってそういうものなのかな?」
 首を傾げつつ、ウィリディス(aa0873hero002)は「右がいいんじゃない?」と指をさす。
「う~ん、こっちにはフードがついてないんだよね~」
「でも丈はこっちの方が長くて暖かそうなのよね」
 すかさず反論が返ってきたため「じゃあ左か?」と恭也が問う。
「ええ、色味はこちらですよね」
「でもポケット小さくないかな? 大きい方がいいよね」
 完全にミイラ取りがミイラである。恭也は嘆息した。
「幼いと言える見た目だが、年齢に関係無く女性は買い物が長いんだな」
「それは反論できないなぁ。友達とあれこれ言い合えるのって楽しいけどね」
 今度は恭也が首を傾げる番だった。
「次はきみの分もふたりで相談して決めてみたら? 喜ぶよ、きっと」
「そういうもの、か?」
「うん。それにいつも自分を見てくれてる人の選んだ服なら似合うんじゃないかな」
 リディスは微笑んで、由利菜の横に並ぶ。女子3人がかりで買い物を終え、また二人ずつに戻る。
「ク……ユリナ、みんな上へ昇ってくみたいだね?」
「何かイベントがあるみたいね?」
「よし、行こう!」
 エレベーターに乗りこみ屋上へ。
「お母さ~ん! いつもおいしいご飯作ってくれてありがとう~!」
 ステージに昇った少女が叫んでいる。その度胸に由利菜は感心する。
「楽しそう! あたし行ってくるね」
 元気に手を挙げたリディスは司会の目に留まったらしい。
「ウィリディスです。今日は親友の……ユリナと一緒に来ました」
「親友か。青春だねぇ」
 亀井はしみじみと言う。
「え~、こいつはほっといてウィリディスさんの主張に行きましょうかね」
 姫井はストップウォッチ片手にカウントダウンする。
「3、2、1!」
「まだまだこの世界はわからないことだらけだけど、ユリナが居て、たくさんおしゃべり出来て、毎日楽しいよ! これからもよろしくね!」
 ウィリディスはそう言うとにっこりと笑う。客席の後ろの方にいた由利菜だったが、まっすぐで明るい声ははっきりと届いた。ロケットのように心に突撃される感じ。照れくさいけれど心地良い。叫び返したいけれど声が出なくて由利菜は申し訳なくなる。
「待ってて! 返事はそっちで聞くから!」
 司会の二人と挨拶を交わすと、リディスはあっという間に戻って来る。
「あ~、すっきりした~。ちゃんと聞こえた?」
「ええ。ありがとう、リディス。素直に想いを表現できるところ、素敵だなって思うわ」
 由利菜は精一杯の笑顔で言う。リディスは少し照れたように笑った。
「叫んだらお腹空いちゃった。ユリナ、何か食べに行こうよ」
「いいわね。クレープはどう?」
「うん、いこいこ!」
 何の憂いもなく親友同士だと思わせてくれるような楽しい休日は続いていく。
 兄弟とその英雄への贈り物を選びながら、ふと冬が言う。
「皆……大切な人が居るのかな……イヴィアにもいる?」
「ん? そうだな、今目の前にいるな」
「……くさいセリフ」
 嘯いた言葉に他所以外のツッコミが帰って来て、イヴィアは噴き出した。
「お前も冗談がわかるようになったか。よしよし」
 笑い交じりの声で頭を撫でてやる。
「でも本当なら……嬉しいよ……」
 イヴィアは眼を見開いた。本当に読めない少年だ。

●言えなくても
 その頃、ある依頼を終えた不知火あけび(aa4519hero001)は日暮仙寿(aa4519)に言った。
「たまには仙寿様を労ってあげるよー!」
「……逆じゃねーのか?」
 冷たい目で「お前が芋スイーツを食べたいだけだろ」と言われ、あけびは「うっ」と大げさなくらいに言葉を詰まらせた。
「行くぞ」
 仙寿は歩き出す。あけびが慌てて後を追う。彼も本当は嬉しいのだ。つい冷たくあしらってしまう英雄が、遠慮なく振舞ってくれることが。
「普段は東京ですか。またお会い出来たら良いのですが」
 コーラ片手に央はポテト屋の店主と話していた。探し物が見つかったらしい。
「いやあ、嬉しいね。かなりの絶滅危惧種だがファンは見つかるもんだな」
 一見普通のフライドポテトだが、ジャガイモの粉末をこねて作った生地はモチモチしていて癖になるのだ。
 ジャガイモをふんだんに使ったグラタンやサラダ、スライスしたジャガイモを円形にまとめたガレット風の料理。おいもフェアのメニューの多彩さはラルフたちを満足させた。サツマイモはデザートとして味わうことにする。
「サツマイモパフェ美味い」
「よく食べる……」
 ラルフは3人前のパフェを美味しそうに食べる。お前が育ちまくった理由が解った、とそれを見つめるファランは、小ぶりなさつまいもチーズケーキをつついている。さつまいものパウンドケーキは土産用に購入することにした。
「笹山さんとはお買い物されないのですか?」
 イコイが尋ねると「あいつはダメだ」と低い声が返ってきた。好きに選ばせたところ、スーツばかり提示されたのが不満だったのだ。
「どうせ動きやすい服、いつでも戦える服と言っていたんでしょう?」
 食えない女が自分の服を見繕うのをゼムは腕組みして見守る。イコイが黙れば途切れる会話。和やかさは皆無だ。
「洒落要素もありますが、防寒性に優れますし。日常生活ではこういったものもいいかもしれませんねぇ」
 やがて示されたのは黒のモッズコート、グレーのタートルネックに黒のジーンズ。
「……真面目な服を選ぶんだな……」
 何が可笑しいのかイコイが目を細める。やはり癇に障るとゼムは思った。
「守凪さんはこういった服も良く似合いますから♪ 私がコーディネートしてもよろしいでしょうか♪」
 平介の言葉が嬉しいはずなのに、苦しい。守凪は痛みを隠して笑う。――楽しもう。いつか出来なくなるかもしれないから。
「ん……それなら、よろしく頼む」
 平介は次々と服を選んでいく。誰よりも彼のことを考えている自信がある。だから彼に似合うものを見つけるのは造作もないこと。「すごいな、全部好みだ」
 言葉自体に嘘はなさそうだが、その声には力がなくて。
「こちらが守凪さんで」
 平介は緑のマフラーを手に取る。
「この青が私のです♪ 色違いですがお揃いです、いかがでしょうか?」
 ああ、泣きたくなんてないのに。
「いいんじゃないか」
 守凪はとっさにあくびの真似をしながらそっぽをむく。
「楽しみで眠れなくてな」
「それは困りました♪ 次の予定に備えて安眠グッズでも揃えましょうか?」
 守凪は笑って、振り向いた。――いつか終わりが来るとしても、できるだけ長く『今』が続くのを祈るくらいは許されるだろうか。
「これ、プレゼントで」
 紗希がリボンと包装紙を選ぶと、店員は男物の手袋を手際よく包む。
「まあこれ位渡しとけばあの人大人しくなるから」
「フフ、ちょろいッスねぇ」
 テイルも調子よく同調する。
(でもま、兄さんマジで泣いて喜ぶッスよ)
 なんだかんだで甘い紗希の横顔を眺めてテイルはニヤリと笑うのだった。

●甘いのはお好き?
「決めた! コレとコレ! ニックのは、コレでいいわよね!」
「あぁ、いいんじゃないかな」
 ループの終焉は突然訪れた。
(決める時は、朝霞はズバッと決めるよな)
 ニックは、すっきりとした表情で次の売り場に向かう朝霞についていくが。
「ニック、これどう? あったかいらしいわよ?」
 まさかの、腹巻。
「いや、遠慮しておこう」
「そ~お?」
 朝霞は首を傾げる。ご丁寧に着用イメージのマネキンが置かれていてよかった。知らずに「いいんじゃないか」なんて言ってしまうところだった。
「ヒーローは見た目も大事なんじゃないのか?」
「そうね。でもやっぱり大事なのはハートよ。だから腹巻くらいで……」
 例えばショッキングピンクの腹巻をつけたウラワンダー。
「ないわね」
「だな」
 冬将軍との戦いには別の装備を検討したいものである。
 女性ものの服屋へと入店しようとするラルフに、ファランは難色を示す。
「お前の冬服が揃ってないし」
「私は買って欲しいとは」
「お前この世界の金持ってないから無理」
 そう言ってラルフは入っていく。
「ぐ……」
 後に続くと店員がにこやかに挨拶してきた。
「こういう店好きだろ」
 大人っぽいが、さりげない可愛さを忘れないデザイン。図星を刺されてファランは俯く。
「似合う訳な……」
「可愛いし似合うだろ」
 ネガティブな思いをそんな言葉で遮られて。
「あれどうだ?」
 キャメルのニットと濃蒼のキュロットは、確かに自分好みだが――。
「手馴れてるな」
「別に普通だろ」
 何だかざわつく気持ちを抱えつつも、ファランは冬の装いを充実させていく。
「ん~!」
 あけびが目を輝かせる。さつまいもモンブランは隠し味のバターと表面につけた焦げ目が良い味を出している。
「仙寿様、このモンブラン美味しいよ!」
「お前芋羊羹食べてなかったか? いつ食べ終わった!?」
「あ、芋プリンも下さい!」
 仙寿が驚いている間に、あけびは注文がてら店員と会話を弾ませている。
「へぇ~、このお芋って他のより甘い種類なんだ」
 すっかり待たされる格好になった仙寿は、芋うんちくを聞き流しながらとりとめもないことを考える。
(女って何で買い物でこんなに動くんだ?)
 あけびはこっそり店員がおすすめしてくれた他店舗のスイーツを買いに行くという。無駄に高い情報収集能力。一歩ニンジャガール側に近付いたと言ったら怒るだろうか。
「お前……依頼の時より動いてないか?」
「美味しいものは正義!」
「そうかよ……俺はあっちで座ってるから好きに食べてろ」
 仙寿は幸せそうなあけびに背を向けて会場を去り、コーヒーと共にフードコートに陣取った。
(こんな風に出掛ける事なんて今まで無かったな……)
 暇さえあれば剣術の修行に明け暮れた今までの日々に不満はない。ただ、こうしていると普通の高校生になったような錯覚をして。――「普通」に身を置くのは、少し申し訳ない気がして。
「一緒に食べよう!」
 その声が下降を続けるばかりの思考を遮った。大量の芋菓子が二人掛け用の机を占拠する。
「……これ二人で食べきれる量か?」
「甘いものは別腹だよ! 胃が三個位増えるはず!」
「牛か俺達は」
 仙寿は少し笑う。くだらない会話に。シリアスを強引にぶち壊す相棒に。
 あけびの一押しは芋タルトらしい。程よい甘味となめらかな食感に舌鼓を打ちながら、今度高校の友人とも遊びに行ってみるかなどという気持ちになる。
(息抜きになったかな?)
 気を抜くとぱらぱら崩れるタルトの攻略に仙寿が手間取っているのをいいことに、あけびはそっと観察する。何となく作戦成功の気配を感じて、彼女は微笑んでいた。
「ここに座れ……」
 ゼムが椅子を指さす。イコイは黙って従う。
「今日の礼に……」
 ゼムの指がイコイの顎をとらえ、上向かせる。それほど長くない彼の髪がイコイの顔にかかった。
「いつかテメェを奪ってやるよ」
 吐息でキスを降らすようにゼムが言う。それは挑発の印。イコイは短く笑った。
「腰抜け」
 身じろぎにもならない動作。生ぬるい攻撃ばかり仕掛けるくせに『奪う』なんてお笑い種だろう。
「奪われるのはどんな気分です?」
「……顔に似合わねぇことするんじゃねぇよ」
「フェミニストでも気取っているんですか? つまらないことはやめてもらえませんかねぇ」
 たしかに触れ合った唇たちからは、甘さとは程遠い声音が発される。
「戻るぞ」
 相棒たちとの待ち合わせの時間なのだ。手加減すべき相手を見誤り噛みつかれたゼム。ゼムの感情を思うように引き出せなかったイコイ。いずれも勝鬨を上げる権利はなさそうだ。駆け引きは引き分け。次に持ち越しだ。

●藍色の街を
 すっかり手荷物が増えたころ、ラルフは言った。
「これやる」
「蝶のブレスレット?」
「お前が試着してる間に向かいの店で買ってきたんだが」
 あしらわれたマリアオーラがふたりの幻想蝶に似ているとラルフは言う。
「俺着けてるんだし着けろ」
「同じじゃない。貰う謂れなど……」
 反抗するファランに、ラルフは思案顔になる。
「頭撫でるのは子供扱いだとNG出されたし……んー」
 寸時の思索の後、会心の表情を浮かべた彼はファランに顔を寄せて囁いた。
「今日お前可愛過ぎるからお礼……ならいいだろ?」
「こ、この馬鹿者! 帰るぞ!」
 耳まで真っ赤にしたファランが足早に歩き出した。さて、正解はどこにあるのやら。
「今日は知り合いとよく会うな」
 恭也と伊邪那美は、再び特設会場へ来た黎夜と真昼とすれ違った。彼女らは今日お留守番の彼へのお土産にスイートポテトを買いに来たらしい。
「恭也!」
「サツマイモケーキにプリンまでつけさせておいて、まだ言うか」
 一度怒らせた手前、伊邪那美のふくれっ面は放置できない案件だ。恭也は譲歩案を提示する。
「日持ちのしないものばかりだ。スイートポテトは後日作る、ということで手を打たないか? 有名店の味とはいかないが焼きたては魅力的だろう」
「言ったな~。約束だからね!」
 待ち合わせ場所――飾り時計のある開けたスペースに央は向かう。マイヤは先に到着していたのだが。
「すみませぇ~ん」
 話しかけてきたのはテレビ局のクルー。
「申し訳ありません。職業柄、あまりこういうことは……」
 女の甲高い声に表情を陰らせるマイヤを背に庇い、央はやんわりと断る。公務員と言う肩書きは説得力があったようだ。
「残念ですねぇ。とってもお似合いだったので」
 笑顔を作ってもう一言詫びると、央はマイヤを促して去った。女は絵になる後姿を名残惜しそうに見送った。
「大丈夫か?」
「ええ。でも少し疲れたみたい。もう戻るわね」
 マイヤは違和感を抱かせず幻想蝶に戻る。そっと央のスーツのポケットにメッセージカードを忍ばせて。
(勤労感謝なんでしょう?)
 『いつも一緒に戦ってくれてありがとう』。思いがけず出来た宝物に彼が気づくのはもう少し後の話。
 帰り道鼻歌交じりで歩く若葉は言う。
「いい息抜きになったね♪」
「まあ、たまにはな」
 ラドシアスはそう言って、シューティングゲームでの再戦の約束にも頷いた。
 別の道では千がぽつりと言う。
「主……お姉ちゃん達。来るの楽しみです」
 槻右は驚くが、すぐに穏やかな笑みを浮かべる。
「うん、そうだね」
 彼らとならきっと楽しく過ごせるはずだ。ふたりは微笑み合った。
「槻右さんと楽しそうだったわね~。拓海は槻右さんの事、大好きだもんね」
「リサ~」
 拓海は少しむくれて言うリサに苦笑する。白い息が漏れて、寒いなと改めて思った。もう一度名前を呼んで立ち止まる。振り向いた彼女に紙袋から取り出したスヌードを掛ける。
「何時もありがとう……えっと、お揃いだよ」
 微笑んだ顔はきっと照れが隠しきれていない。スマートにはいかないようだ。リサが短く息を吐くのが見えたかと思うと、彼女は袋から拓海の分を出し首に掛けてくれた。
「お馬鹿……許してあげる」
 素直じゃない言葉と優しい声。そして笑顔。暮れ始めた景色の中をふたりは並んで歩き出した。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 生満ちる朝日を臨む
    真昼・O・ノッテaa0061hero002
    英雄|10才|女性|カオ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • 雨に唄えば
    烏兎姫aa0123hero002
    英雄|15才|女性|カオ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • 赤い日の中で
    スワロウ・テイルaa0339hero002
    英雄|16才|女性|シャド
  • 分かち合う幸せ
    笹山平介aa0342
    人間|25才|男性|命中
  • どの世界にいようとも
    ゼム ロバートaa0342hero002
    英雄|26才|男性|カオ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • 沈着の判断者
    鋼野 明斗aa0553
    人間|19才|男性|防御
  • 見えた希望を守りし者
    ドロシー ジャスティスaa0553hero001
    英雄|7才|女性|バト
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 温もりはそばに
    ラドシアス・ル・アヴィシニアaa0778hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 天啓の医療者
    六鬼 硲aa1148
    人間|18才|男性|生命
  • 羊狩り
    ラウラ スミスaa1148hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 拓海の嫁///
    三ッ也 槻右aa1163
    機械|22才|男性|回避
  • 分かち合う幸せ
    隠鬼 千aa1163hero002
    英雄|15才|女性|カオ
  • HOPE情報部所属
    百目木 亮aa1195
    機械|50才|男性|防御
  • Adjudicator
    シロガネaa1195hero002
    英雄|20才|男性|ブレ
  • 愛すべきカミカミ兄ちゃん
    藍澤 健二aa1352
    人間|19才|男性|生命
  • エージェント
    ティーナ フォーゲルaa1352hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 初心者彼女
    天都 娑己aa2459
    人間|16才|女性|攻撃
  • 弄する漆黒の策士
    龍ノ紫刀aa2459hero001
    英雄|16才|女性|ドレ
  • コードブレイカー
    賢木 守凪aa2548
    機械|19才|男性|生命
  • Survivor
    イコイaa2548hero002
    英雄|26才|?|ソフィ
  • 初心者彼氏
    鹿島 和馬aa3414
    獣人|22才|男性|回避
  • 巡らす純白の策士
    俺氏aa3414hero001
    英雄|22才|男性|シャド
  • その背に【暁】を刻みて
    東江 刀護aa3503
    機械|29才|男性|攻撃
  • 優しい剣士
    双樹 辰美aa3503hero001
    英雄|17才|女性|ブレ
  • 色とりどりの想いを乗せて
    蒔司aa3665
    獣人|14才|男性|防御
  • 天真爛漫
    亜莉香aa3665hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 穏やかでゆるやかな日常
    無音 冬aa3984
    人間|16才|男性|回避
  • 見守る者
    イヴィアaa3984hero001
    英雄|30才|男性|ソフィ
  • 密やかな意味を
    波月 ラルフaa4220
    人間|26才|男性|生命
  • 巡り合う者
    ファラン・ステラaa4220hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 暗闇引き裂く閃光
    大門寺 杏奈aa4314
    機械|18才|女性|防御
  • 闇を裂く光輝
    レミ=ウィンズaa4314hero002
    英雄|16才|女性|ブレ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
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