本部

メリーさんの背後を取れ!

影絵 企我

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/11/14 21:16

掲示板

オープニング

●闇夜からの電話
「なあ、こんな話知ってるか? この前テレビで見たんだけどよー」
 夜に公園をうろつく悪い少年達が、他愛もない会話を繰り広げている。
「夜中にさ、電話がかかってくるんだってよ。その電話を取ったらさ、いきなり女が笑う声が聞こえてくるんだってさ。フフ、フフフッてさ」
 それを語る少年Aは至極楽しそうだ。周りもまともには聞かず、また馬鹿な話を始めたという顔で見ている。都市伝説に怪談の類など、突き詰めればその身に危機が及ばないと知りながら、仮初の恐怖を味わう戯れに過ぎない。真の恐怖を語る時には、コンマ一秒たりと笑みを浮かべる事など出来ない筈なのだ。
「それでそいつは言うんだ。『私、メリーさん。今、マンションの一階にいるの』って」
「で?」
「そこで電話は切れるんだ。まあ普通は悪戯電話だと思って気にしないだろ。でもな、しばらくしたらまた電話がかかってくるんだ。今度はな、『私、メリーさん。今、貴方の部屋の前にいるの』って、言うんだ。同時にピンポンも鳴るんだ。流石にビビるだろ? でも出ちゃいけねえんだ。出たらな……誰もいないんだ」
「誰もいねえのかよ!」
「そこにはゾンビが! とかじゃねえのかよ」
「うるせえなあ。こっからだよ。誰もいない……何だ。やっぱり悪戯なのか? そう思うだろ。普通なら。でもまた電話がかかってくるんだ。慌てて取るとさ、また女の高笑いが聞こえるんだ。……ダブって。受話器からも。背後からも」
「『私、メリーさん! 今、貴方の後ろにいるの!』」
 少年Aがオチを決めようとした瞬間、他の少年がその言葉を奪い取ってしまった。むっとする少年A、ゲラゲラ笑う取り巻き。箸が落ちるも面白い年頃だ。
 そんな時、いきなり少年Aの携帯に電話がかかってきた。突然の事に一瞬びくついたAだったが、その画面に映るのは彼女の名前。
「ちょっと電話だ。悪いな」
 そういって、少年Aは取り巻きから離れて電話を取る。相手は真面目ぶってちょいと引っ掛けてやった眼鏡の美少女。ここで夜遊びがバレるわけにはいかなかった。
「な、なんだよ? こんな時間に電話なんて珍しいな?」
『うん。さっきまで勉強してたんだけど、ちょっとね――』
 彼女の柔らかい声は途中で不意に途切れ、鋭いノイズが挟まった。ぴんと跳ねる音に、思わず少年は携帯を遠ざける。
「おい、どうしたんだよ」
 少年は叫ぶが、そんな叫びを嘲笑う女の声が飛び出してくる。
「私、メリーさん。今、貴方の後ろにいるの」
 絶望のサラウンドボイス。何が起きたかもわからぬうちに、少年の喉を真一文字に刃が走る。
「あ――」
 深紅の散華が舞い散り、少年はその場にどうと倒れた。

●狡猾な殺人鬼
 連日の殺人事件は街の新聞を賑わせた。『切り裂きジャクリーヌ』、『現代辻斬り』やら色々あだ名されたが、結局は『メリーさん』の名前が冠された。それは、辛くも生き延びたエージェントが、以下のような事の次第と顛末を語ったからである。



 暗い路地裏を一人のエージェントが歩く。既に共鳴は終え、戦う気満々だ。彼は敢えて一人で立っていた。四人のエージェントが固まってぞろぞろと捜索に当たったが、ついぞ殺人を繰り返す何者かが現れる事は無かった。彼女は形勢の不利を少しでも悟ると、戦いを挑もうとしないのである。
 故に彼は一人で立つことにした。一人でいれば、殺人鬼もこれぞ好機とばかりに攻めてくるだろうと考えたのだ。
 だが、二人の仲間が物陰に控えているとはいえ、殺人鬼の奇襲を一手に引き受けるのは非常に危険な事である。
 彼はたかを括っていた。まあ、何とかなるだろう。自分はエージェントなのだから。それくらいに考えていたのである。
「……」
 エージェントは携帯を取り出し、HOPEに向かって発信する。聞き慣れた呼び出し音がしばらく流れ、電話はHOPEに繋が――らなかった。『こちらHOPE』の言葉も聞かないうちに、歪んだノイズがそれを遮ってしまったからである。
「フフ。フフフ……私、メリーさん。今、貴方の後ろにいるの」
 構えも取れないうちに、女のしなやかな腕が伸び、紫色の刃が男の首を切り裂いた。戦い鍛えたエージェント、死ほどの傷は免れたが、それでも首から脈々と血が溢れる。
「ぐ、うぅ……」
「おい、大丈夫か!」
 振り返り、漆黒のドレスを着た女にエージェントは向き直ろうとするが、構えが取れない。慌てて仲間達三人がエージェントの方へと駆け寄っていく。それを見渡した彼女は、くすくすと笑いながら右手に蒼い炎を灯す。
「フフ。やっぱりお仲間がいたのね」
 言うや否や、女はやたらと火力の高いブルームフレアを投げつける。戦いに入ろうとしたエージェント達の身を、その炎は容赦なく焦がす。
「ちぃっ!」
「さようなら」
 炎の処理に手間取っているエージェント達に、女はぺこりと頭を下げるとそのまま闇夜の中へと消えてしまった。どうにか火を消したエージェント達は、首から血を溢れさせて倒れた仲間の側に駆け寄る。
「おい、大丈夫か、大丈夫か!」

●メリーさんの背後を取れ
 そんな苦戦続きの戦場に、君達は舞い降りる事となった。任務は一つ。メリーさんと名乗る殺人鬼を取り押さえる事。愚神ならば倒してしまえばいい。だがヴィランだと厄介だ。既に十人ほどを血塗れの肉塊に変えているが、それでも手を下してしまうことはできないのだから。
 それぞれの思いを胸に、君達は戦うだろう。メリーさんは、そんな君達を嘲笑うように、闇夜の中から今も見つめている。

解説

メイン
メリーさんの撃破
サブ
メリーさんの背後から攻撃を加える

敵情報
デクリオ級相当脅威『メリーさん』
深夜の街を駆け回る殺人鬼。切り裂きジャクリーヌという名前でも噂されている。改造の施されたライヴス通信機を用いて夜な夜な人々の電話に割り込み、たっぷり恐怖を与えたところで喉元を切り裂くのが主な手口。愉快犯的な性向が見られるところから、ヴィランである可能性が指摘されている。調査に当たったエージェント達までもが、殺害には至らないながらも数名が重傷を負わされており、非常に危険。
・ステータス
命中A、生命D、その他B~C。
・通信妨害
改造ライヴス通信機を利用し、エージェント側の通信を妨害する。メリーさんがこれを発動した時点で、通信機その他を用いた仲間同士の連絡は行えなくなるため、離れた味方への救援要請は難しくなる。一方、これの発動はメリーさんが戦闘を仕掛けてくる合図とも言える。
・狡猾
基本的に四人以上で行動しているグループには戦闘を仕掛けない。戦闘中に敵が四人以上となった場合、次ラウンドのスタートフェーズには離脱する。この離脱は必ず成功する。以降、その戦いで認識した相手には、また戦いを起こした場所では二度と戦闘を仕掛けない。
・ジャックザリッパー
スタートフェーズに使用する。敵一体の背後に回り込んでの強烈な奇襲攻撃。大ダメージと減退(4)を与える。回避系スキルを所持している場合完全に防ぐことが出来る。
・ドゥームズデイ
紫色に禍々しく輝く短剣。闇に紛れて剣閃が見えにくく、回避しにくい攻撃を繰り出す。回避修正値-10で命中判定。物理攻撃。
・ファントムフレア
ブルームフレアの強化版。全体に魔法攻撃と減退(1)を与える。敵が三人以上の時のラウンドで使用する。

出現場所の大まかなエリア分け
駅前
公園
商店街
ビル街
繁華街

Tips
能力者と英雄は別としてメリーさんに認識される

リプレイ

●死のしるし
「かなり面倒臭い相手だなー。協力して、確実にメリーさんって奴、止めないとな!」
『うん……慎重に、確実に……だね』
 古賀 佐助(aa2087)とリア=サイレンス(aa2087hero001)は、繁華街の奥、人通りの少ない裏通りを歩いていた。敵はひっそりと殺したい。二人は余計な人を巻き込みたくない。そこはぴったりの環境であった。二人は頷き合うと、素早く共鳴を果たした。リアが一回り大きくなったような姿の彼女は、ポケットに手を突っ込み、通信機を取り出す。
「やあ、今どこにいるの? ちょっと路地裏に入り込んじゃったみたいでさ……」
「ん? リアか。路地裏って言われても。どこら辺か言ってくれないと迎えになんかいけないぜ」
 やり取りの相手は沖 一真(aa3591)。事前に示し合わせて、箸にも棒にも掛からない適当な会話を繰り広げる。自分に死が迫っている事などまるで気づいていないような、油断しきりの人間になりきって。
「そんな事言われても、わからないのはわからないんだよ。わかるよね。ワタシがどれだけ方向音痴かって事くらい」
「ああ、ハイハイ。それじゃあ―――」
 ピンと響く、甲高いノイズ。その耳障りな音にリアは目を見開く。“奴”が来る合図だ。
「―――私、メリーさん。今、貴方の後ろにいるの」
「知ってるよ?」
 不意にリアは沈み込み、背後から忍び寄った刃を躱す。そのまま前方に跳び上がってライフルを取り出す。
「ようこそ、メリーさん!」
彼女は宙返りしながら足めがけて速射を放った。メリーさんはその一撃を素早く飛び退いて躱す。その姿を見届けたリアは、着地ざまにぽつりと呟く。
「それじゃあよろしくね、ギシャちゃん」
 メリーさんがリアの背後に向かって短剣の切っ先を向けた瞬間、まるで影がそのまま動き出したかのように、一人の少女がするすると忍び寄った。
「(背後から忍び寄る影! 同じアサシンとして負けられないねー)」
『(さあ、その技術の正しい使い方を、夜に潜む殺人鬼に教えてやれ)』
 一気に踏み込んだギシャ(aa3141)は、漆黒のドレスを纏う女の背後に向かって竜の爪を突き立てようとする。しかし、寸前で殺人鬼は身を翻し、紫のナイフでそれを受け切ってしまった。闇夜に怪しく歯を輝かせ、女はからからと笑う。
「私に意趣返ししようとする奴はいっぱいいたわ。でも、ぜーんぶ、返り討ちにしてあげたの!」
「ふーん。一筋縄じゃいかないねー。じゃ、これあげるよー」
 ギシャは女の一撃をすり抜け、ライヴスで作り出した針を女の脇腹に突き刺した。
「ふーん、何したの?」
「ほらほら。来なよー」
 ギシャは爪を届くか届かないかのところに繰り出し、メリーさんを挑発する。彼女は黒い髪を振り乱し、ギシャに何度も短剣を突き出した。
「はは! あはははは!」
 狂ったように笑いながらギシャと紙一重の攻防を繰り広げる女は、不意に身を捻り背後から飛んできた弾丸を躱した。
「私の背中を簡単に撃てると思ったら大間違いよ!」
 しかしその瞬間、女の肩をまた別の弾丸が掠めた。女は歪んだ笑みを浮かべ、弾丸の方角を見定める。その先には、銃口の先に紫煙を燻らす逢見仙也(aa4472)の姿があった。

「痛みか? 血か? ってな」
『(離れても喋るな。聞こえたら面倒だろうが)』
「うるせえ。もう見つかっちまってんじゃねえか」

「あら、他にも仲間がいるのね!」
『ああ。そうだよ』
 さらに路地の出口から、ふらりと一人の青年が現れた。九郎(aa4139hero001)だ。彼は携帯を取り出し、メリーさんの姿を素早く写真に収めた。その背後からギシャが、正面からはリアが迫る。それを躱しながら不利を悟った女は、素早く右手に炎を灯らせる。
「貴方達にもムラサキの輝きを……」
 メリーさんは炎を地面に叩きつけた。彼女の姿を取り囲むように、紫色の炎は一気に燃え広がる。
「おっと」
 ギシャとリアは一気に飛び退き、どうにか直撃だけは避ける。その間にメリーさんは、どす黒い夜闇の中へと消えてしまった。紫炎が燻る様子を眺めながら、ギシャはふっと狩人の笑みを浮かべる。
「よーし。準備かんりょー」
『(後は奴の隙を捉えるだけだな)』
「(そうだねー)」
「ギシャちゃん、メリーさんはどっちに行ったの?」
 リアはライフルの調子を確かめながら尋ねる。ギシャは迷わず彼方を指差した。獲物は捉えて逃さない。それが暗殺者だ。
「商店街。小鉄達の方に向かってるよー」

●応酬! ニンジャvsメリーさん!
――メリーさん、商店街方面に逃げた。ギシャ、古賀ペアが追っている――
 簡素なメールが仙也から届いた。それを見届けた小鉄(aa0213)は、金色の目を光らせ腕を組む。
「(拙者達が第二陣になるでござるな。メリーさんとやらに拙者の斬術見せてやるでござる)」
『(対抗心が出てるよ、こーちゃん)』
 稲穂(aa0213hero001)はそんな小鉄に粛々とツッコミを入れるのだった。

「(さーて。次は俺達だ。いけるかねぇ)」
『(知らん。構えろ)』
 その近くの影には、ディオハルク(aa4472hero001)と共鳴を終えた仙也が潜み、いつでも攻撃を仕掛けられる態勢を整えていた。共鳴を遂げた事で、逢魔が時を闊歩する殺人鬼への闘争心は赤く燃え上がっている。

「さて、行くでござる」
 小鉄は通信機の電源を入れ、佐助達の方へ連絡を入れる。
「もしもし。そちらの様子はどうでござるか?」
「いやぁ、逃がしちゃったよ。とりあえずまだ探してるけど」
「わかったでござる。いつ襲撃があるかわからぬ故、気を付けるでござる」
 返事が戻ってこない。響くノイズ。耳を痛めるような電子音に混じり、“彼女”は嗤う。
「――はーい、気を付けます。後ろにいてもね」
 紫電一閃。しかし小鉄は鋭く身を返してメリーさんの腕を受け止め、代わりに苦無を彼女の脇腹に向かって突き出す。メリーさんもまたその腕を空いた手で叩き落とし、一気に後方へ退く。
「あら。今日はツキが無いのかな……ふふふふ」
「……何を笑っているやら。これが本気という訳ではござるまい!」
 小鉄は孤月を抜き放ち、肩に担いで跳び上がった。
「いざ、尋常に!」
 疾風怒濤の唐竹割り。半身になって躱す。横薙ぎ。ひらりと跳び上がる。刀を引いて平突き。短剣を合わせて刃先を逸らす。
「あなたこそその程度? ……さあ、あなたもムラサキの輝きに呑まれて!」
『(こーちゃん気を付けて!)』
「(わかってるでござる)」
 紫に光る短剣が手の内でくるくる回り、闇の中へと溶け込んだ。しかし、小鉄は動じない。鋭く彼女の体捌きに目を走らせ、僅かな体重移動だけでその一閃を避ける。
「技の練度はあれど、胆力が足らんでござる」
 小鉄は再び疾風となって襲い掛かる。身を低く構え、メリーさんのドレスで覆われた足下めがけて続けざまに三本突きを放つ。メリーさんは舞踏会で踊るように、ワルツのステップでその突きを躱していく。しかしそれこそ小鉄の狙い。遠く飛び退いたメリーさんは、その背中を壁にぶつけてしまった。
「逢見殿! ここでござる!」
「知ってる!」
 飛び出してきた仙也は幾本もの刃を喚び出し、メリーさんにぶつける。態勢を崩していた彼女は、流石に躱しきれずにその一撃を受けてしまった。漆黒のドレスが裂け、肌がうっすら露わになる。
「もう一発!」
 仙也は長剣を構えて彼女の懐へと飛び込んでいく。メリーさんはへらへらと笑ったまま、短剣で受け止め仙也を蹴り飛ばした。
「その程度か!」
 しかし仙也は気に留める事無く長剣をメリーさんに向かって投擲する。彼女は破れたドレスを翻して脇へと飛び退くが、既にそこには小鉄が構えていた。
「覚悟!」
 苦無を握った拳を突き出す。メリーさんは両手を交差し、どうにかそれを受けきった。彼女はそそくさと飛び退き、滲む血を拭って構えを取り直す。
『(うーん。ちょこちょことセコい奴ね!)』
「手傷は負わせているようでござるが……」
「お前は殺しがしたいんだろう? 逃げてるだけじゃ殺しは出来ねえぞ!」
 小鉄の背後から仙也が飛び出し、ライフルの引き金を引く。メリーさんはにやりと笑うと、弾丸が頬を掠めるのも構わず仙也に向かって見えない短剣を突き出した。銃身で受け止め、仙也はメリーさんを睨みつける。
「その通りね。ほんとにその通り――」

「さーて、隙ありー」

 瞬間、ゆらりと影から抜け出してきたギシャがメリーさんの背後へと迫る。まさにその竜の爪を突き立てんとした時、メリーさんは反射的に振り返ってその腕を弾く。
「しつこいのねえ、あなた」
「あららー。上手くいかないなー」
『(ここで上手くいってもそれはそれで困るがな)』
 ギシャはわざとらしく肩を竦めると、不意に明後日の方向を指差す。
「まー、しつこいのはギシャだけじゃないよー」
 一発の弾丸が夜を裂き、メリーさんの足下を掠める。ギシャの指差しに一瞬でも気を取られた彼女は弾丸の正確な方角を掴みきれなかった。笑みがほんの僅かに歪んだ彼女に、ギシャは取り出した水筒の口を開いて中身をぶちまける。辺りにキツイ匂いが立ち込めた。
「これ、渡し損ねちゃった佐助とリアのプレゼントだってー。変な匂いだねー」
「ええ本当に。堪らないわ……」
 メリーさんは背後から迫る小鉄と仙也の攻撃をひらりと躱し、地面に紫の炎を叩きつける。燃え広がる炎。ギシャは全力で距離を取って躱し、至近距離の小鉄と仙也は黙って炎を受け切った。
「ふふふ。さよーなら」

 炎が消える頃には、既にメリーさんは消えていた。服に燃え移った炎を濡れる地面に転げて消し去り、小鉄はゆっくりと立ち上がる。
「さて、あやつはヴィランか、それとも愚神か。どちらでござろうかな」
『(何だかよくわからないね。愚神と戦ってる感覚じゃなかったけど)』
 小鉄の呟きを聞き、ギシャも頷く。
「多分ヴィランだと思うよー。愚神からライヴスを貰ってるとか、そんなことはあるかもしれないけどねー」
『(アレはブルームフレアの火力ではないからな……)』
「どっちにしろとっちめりゃいいって事だろ?」
 二人の言葉を聞きながら、仙也は気怠そうに首を振った。彼にとって敵は敵、その素性を考えるのは面倒だった。ディオもその知恵は実戦に回す気しかなかった。
『(そうだ。奴が何者だろうと関係はない)』

●それゆけ! 陰陽師
――交戦終了。そちらへと向かうでござる――
 一真にメールが回ってきた。受け取るなり、一真は国塚 深散(aa4139)にそれぞれメールを送る。
――そっちの準備はどうだ?
――大体終わりました。九郎はまだやれというのですが……
――とりあえず電話かけていいか? そろそろ俺達の方に引っ掛けたい
――こっちに来てしまうかもしれませんが……承知しました。やってみましょう
 人もまばらとなった駅前。一真は静かにライヴスの風を纏い、それから深散に電話を掛ける。深散の仕掛けるという作戦に乗っかったつもりで。
「も、もしもし。さっきは、電話番号ありがとなっ。つ、ついかけちまったぜ」
「はあ……?」
『(何でどもっちゃうのよ、そこで)』
「(うるさいな。ちょっと緊張したんだよ!)ほら、今、暇ならさ、お、お茶とか」
「はい……まあ、いいんじゃないでしょうか……」
『(ごめんなさい深散さん)』
 月夜(aa3591hero001)がため息を吐いていると、不意にひりひりとしたノイズが響く。途端、今一つぱっとしない一真の表情が一気に引き締まった。
「……私、メリーさん――」
「“動くな”」
 半ば遮るように、一真は勝気な笑みを浮かべて言い放つ。瞬間、喉元まで伸びかかっていた腕が急に止まった。
「……」
「おっと。本当に掛かるとはな。抵抗しない方が身のためだぜ。どうせ動けないがな」
 一真は刃から悠々と逃れ、死んだ魚のような目をしているメリーさんに向かって人差し指を突き出した。
『今、ここで捕まれば、痛い目見ないで済むよ……て言っても無駄だよね』
「さあ行け! 弥生!」

「はい! 我こそは三木家23代目頭首、三木弥生! 妖め、我が魂の一閃を受けよ!」

 三木 弥生(aa4687)は童子切を抜き放ち、一気に影から飛び出した。骸の鎧をがらがら鳴らしながら、背後から袈裟懸けに一撃叩き込む。洗脳による拘束が一気に解けたメリーさんは、そのまま地面に倒れ込んだ。
「さすがは御屋形様です! 完璧な作戦でございました! 見事な手管感服にございます!」
「え? お、おう! やってやったぜ!」
『(言っている場合か! ここは戦場だぞ!)』
「(はっ! も、申し訳ありませぬ!)」
 興奮で顔を紅潮させている弥生を三木 龍澤山 禅昌(aa4687hero001)は窘める。弥生ははっとすると、慌てて童子切を構え直した。その間にメリーさんは立ち上がり、ケラケラと壊れた笑い袋のようになる。
「あははははっ! やってくれたわねぇ! まずは貴方を殺してあげる!」
 女は深く構え、ボロボロのドレスを振り乱して弥生に向かって突進する。紫のナイフは闇へと隠れて見えなくなった。
「くそっ」
 一真はスマートフォンのライトをメリーさんの方へ差し向けた。闇が薄れ、地面を切り裂くように走る短剣が露わになる。しかし弥生は躱そうとする素振りさえ見せない。刀を水平に構え、その突進を真っ向から受け止めてしまった。鎧に紫色の刃が食い込む。
「さあ、ムラサキに呑まれて!」
「ぐぅっ! めりぃとやら。この程度で私が倒されると思ったなら、大間違いです!」
 弥生はライヴスで作り出した針を取り出し、彼女の脇腹に突き刺した。メリーさんは目を見開き、頭を抱えて呻きだす。
「ああああっ! ムラサキが! ムラサキの輝きが!」
「こ、これは変化でしょうか?」
『(違うだろう。むしろ狐憑きの反応に近い)』
「何でもいい! ここがチャンスだ!」
『(一気に決めるよ!)』
「喰らえ、火界咒!」
 一真は呪符を取り出すと、メリーさんに向かって投げつけた。呪符は蒼い炎となり、メリーさんに向かって飛んでいく。
「参上! 拙者も続くでござる!」
『(一気に仕掛けるよ!)』
 駅の屋根から飛び出してきたニンジャが、孤月を手に正拳突きを見舞う。ライヴスを乱され動く事もままならない彼女は身を庇う事しか出来ず、もんどり打って吹っ飛ぶ。その先には、銃を構える仙也とリアの姿があった。メリーさんは片手をついて無理やり跳ね上がり、射線から身を反らす。
「貴方達にも、ムラサキの輝きを……!」
 そのまま宙に舞い上がったメリーさんは、上空から紫炎の雨を降らせた。五人は慌てて身を庇う。その隙に、メリーさんは素早くその姿を消してしまったのだった。


「お、御屋形しゃま……私めの戦いは、いかがでしたか……?」
「何やってんだよ! それで怪我してたら世話ないだろ!」
 重傷とはいかずとも、浅くはない怪我を負って壁にもたれる弥生を一真は叱責する。
「私は家臣です。御屋形様に傷が無ければそれでよいのです」
「いや、だから家臣とかってのはさぁ、そもそも……」
 蒼い顔をしていてもあくまで忠義を通す彼女に、一真は白い髪を掻き雑ぜて呻く。後輩の怪我に慌て通しの一真の肩を、小鉄がそっと叩く。
「一真殿。落ち着くでござるよ。焦っても弥生殿の怪我はよくならんでござる」
「そそ。そこは“大儀であった”でいいんだよ。御屋形様としてはね」
 リアも癖っ毛を揺らしながらにっと笑う。一真はもう頷くしかなかった。
「……そうだな。初陣なのによくやったよ、弥生」
「ありがとうございます……御屋形様……」

 そんな彼らのやり取りを、仙也は遠くから眺めていた。
「御屋形様に家臣か。そういうのはよくわからねえな」
『(俺もだ。よくわからん)』



――ビル街周辺――
 ビルの屋上に佇み、改造を施した通信機を見つめるメリーさん。その画面には自らの闇に立つ姿が映っていた。
――メリーさんに挨拶したけど何ともなかった件www
 それは匿名のオカルト版。そこに自分の写真が載せられ、さらには煽られているのだ。
――俺にも電話かかってきたけど何も無かったわ
――飽きたんじゃね
――それにしても英雄だなお前
――ま、英雄だからねwww
 メリーさんは画面がひび割れるほどに通信機を強く握りしめる。怒りに狂った笑みを浮かべ、彼女は背筋を逸らしながら高らかに笑いだす。
「ふふふ、そうなの! 貴方もムラサキに染まりたいのね!」

 今ここに、最後の一戦が幕を開けようとしていた。

●メリーさんこちら
「やはり国塚さんは綺麗なお姉さんなのでありますねー」
 ビルの影から覗く小柄な少女は美空(aa4136)。彼女の視線の先には、柄があまりよくなさそうなニーサンに話しかけられている深散がいた。
「なあ、いいだろ? ちょっとくらい遊ぼーぜ。あんたもどうせノリでここにいんだろ」
「今日は先約があるの。ごめんなさい。奢ってくれるならいつでも歓迎だから、連絡先だけ交換しましょ」
 深散はニーサンのしつこい絡みを適当に受け流し、代わりにポケットから取り出した携帯をちらつかせる。深散のつれない態度に不満げな彼であったが、やがて渋々に電話番号を交換し始めた。
「なるほど、面倒な殿方はあのように躱せばよいのでありますね」
 間違いだ。しかし幼い美空にはわからない。やがて、深散はその場を離れ、つかつかと人気の少ない路地裏へと隠れていく。美空は慌ててその後を追いかけた。
「……やりましたよ。やはりいい気分ではありませんでしたが」
『結果は上々だよ。これを見たらメリーさん怒っちゃうだろうねぇ』
「協力者探しについてはどうだったんですか?」
 路地裏を歩きながら、深散と九郎はぽつぽつと言葉を交わしていた。美空はその後をこそこそとつけていく。
『あんまりよくわからなかったね。それっぽい車は無しさ』
「なるほど……一真さんの方から先程メリーさんが愚神であるか否かについて、興味深い情報が回ってきましたよ。愚神にライヴスを貸与されている可能性があるのではないか、と」
『その読みが本当だとしたら、中々回りくどい事をするねえ』
 やがて二人(と美空)は、市街の中心にある公園へと足を踏み入れる。二人がメリーさんを迎え撃つには相応しいと見込んだ場所だ。
「いよいよでありますね」
 一人意気込み、美空は深散と九郎が共鳴する様子を見守る。鳥の面、黒くなったセーラー服を纏う姿は、まるで一羽の烏のようだ。その首は、長いスカーフで覆われている。美空からは、背後からの一閃から身を守ろうとしているかのように見えた。
『さあ、行くよ深散』
「ええ。では先程電話番号を交換した方に。九郎の仕込みが上手くいっているなら――」
『こっちに来るよ。必ずね』
「うにに……」
 美空は深散が電話をかけ始める様子をじっと見つめる。じっとじっと見つめる。じっとじっとじっと見つめて――

 それはやってきた。

 物陰からひっそりと、忍び寄るように現れたそれは、縮地をかまして深散の元へと迫る。その手が深散の首へと伸びていく。
 紫色の刃が、歪に光った。
「は、はにゃあっ!」
 美空は思わず叫ぶ。深散の喉元から、深紅の薔薇が咲いたのだ。


「ふふ。ムラサキよ。赤と青で紫色になるの」
 深散は鮮血を撒き散らして倒れ込む。それを見下ろし、血染めの短剣を握りしめてメリーさんは甲高く笑った。その言葉はもう意味を為していない。その背後に向かって、美空がたったと駆けていく。
「く、国塚さんの仇!」
 しかし振り返りざまの一撃であえなくふっとばされてしまった。
「もけー……」
「うふふふふっ! 全部ムラサキ。全部ムラサキにするの!」
 ドゥームズデイを構え、美空に向かってさらに飛び掛かろうとする。しかしその時、跳ね起きた深散がメリーさんの背後に向かって猛進した。
「させませんよ!」
 メリーさんは生傷だらけの身体を返し、深散の突き出した忍刀を受け止める。
「ムラサキじゃないと思ってたわ」
「紫か何だかわかりませんが、ここで貴方の悪事はおしまいです!」
 素早く足払いをかける。彼女は跳び上がってそれを躱し、短剣を深散に向かって振り下ろす。それを片手で払い除け、深散は美空の方を見た。
「下がってください! 共鳴していないのでは危険です!」
「共鳴していなくても、エージェントはエージェントであります!」
 しかしこの言葉を美空は跳ね除け、メリーさんの足下に飛びついた。メリーさんはその華奢な重しを簡単に跳ね除けるが、その一瞬の隙をついて深散が縫止を叩き込んだ。
「これでどうです!」
「ああああっ!」
 ライヴスを乱されたメリーさんは、頭を押さえながら見えない刃を振るう。深散はつかず離れずの距離を保ち、メリーさんの一撃を往なしていった。
「消えて……消えて! ムラサキに!」
 そんな彼女の足元に二発の弾丸が突き刺さる。別々のビルの屋上に控えたリアと仙也が同時に弾丸を撃ちかけたのだ。思わず足を止めたメリーさんに向かって、小鉄と弥生が同時に躍りかかる。
「覚悟!」
「妖め、今度こそ成敗する!」
 短剣を滑らせて二振りの剣閃を同時に受け止め、メリーさんはついに笑みを崩す。
「しつこい。いい加減ムラサキの中に逝って!」
「そう、拙者はしつこいのでござるよ! 斯様に紫へ拘る理由、聞かせてもらうでござる!」
「ムラサキになればわかるわよ!」
 メリーさんは飛び退き、紫炎を公園の地面に叩きつける。小鉄と弥生はすぐさま飛び退き、深散は美空を抱きかかえその身で庇う。その様を見届け、悠々と去りかけたメリーさん。しかし、その背中に迫る影を、彼女は見落としていたのである。
「そこだ! 百鬼を退け凶災を祓え!」
 鋭く飛んだ一真のブルームフレアが、紫炎を一瞬打ち消す。そこへ滑り込んだ竜の娘は、メリーさんの背後に向かって白い爪を輝かせる。
「ギシャねー、今メリーさんの後ろにいるよー」
『(斬られる気持ち、今こそ理解させてやれ)』
「――!」
 ギシャの埋め込んだ死の徴が赤く輝き、爪牙はメリーさんを鮮やかに切り裂いた。

●紫に塗り込めし鏡の話
「ムラサキ……」
 グレイプニルで縛り上げられたメリーさんは、最早まともな言葉も話すことが出来ない。半分白目を剥いたまま、狂ってムラサキムラサキ言うだけである。
「これじゃ情報を得るも何もねえな」
『仕留めてしまっても良かったかもしれないな』
「あははー、そうかもー」
 仙也とディオはメリーさんの顔を覗き込んで呟く。それを聞いた佐助とリアは小さく首を振った。どらごん(aa3141hero001)も溜め息だ。
「ダメダメ。これでも人間なんだから」
『ん、殺しちゃったら、いけないよ……』
『やれやれだな……』
 そんな様子を離れて見つめていた深散は、隣の一真とぽつぽつやり取りを交わす。
「ですが、一体何があったのでしょうね。罪は罪ですが、これはいささかきな臭いです」
「だな。誰かに操られてたりっての、マジであるかもしれない」
『紫か……紫鏡の伝説を思い出すな。紫に塗りこめた鏡に映された人間は、身を亡ぼすって奴だ』
 ベンチを使ってめりぃ何某と巻物に書き込んでいる弥生を見ながら、禅昌はくつくつと笑う。紫鏡。それを聞いた九郎はふっと笑みを浮かべて頷く。
『興味深い話ですねぇ』
『私はぞっとする。そういうの』
『うちの相方は好きそうだけどねこういうの』
「だが、これだけ紫に拘るのだから、無関係とも考えにくいでござる」
「ムラサキカガミでありますか……」

 エージェント達は顔を見合わせる。狂った女の笑い声だけが、辺りに響き続けていた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • ぴゅあパール
    ギシャaa3141
  • 喪失を知る『風』
    国塚 深散aa4139

重体一覧

参加者

  • 忍ばないNINJA
    小鉄aa0213
    機械|24才|男性|回避
  • サポートお姉さん
    稲穂aa0213hero001
    英雄|14才|女性|ドレ
  • 厄払いヒーロー!
    古賀 佐助aa2087
    人間|17才|男性|回避
  • エルクハンター
    リア=サイレンスaa2087hero001
    英雄|13才|女性|ジャ
  • ぴゅあパール
    ギシャaa3141
    獣人|10才|女性|命中
  • えんだーグリーン
    どらごんaa3141hero001
    英雄|40才|?|シャド
  • 御屋形様
    沖 一真aa3591
    人間|17才|男性|命中
  • 凪に映る光
    月夜aa3591hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 譲れぬ意志
    美空aa4136
    人間|10才|女性|防御



  • 喪失を知る『風』
    国塚 深散aa4139
    機械|17才|女性|回避
  • 風を支える『影』
    九郎aa4139hero001
    英雄|16才|?|シャド
  • 悪食?
    逢見仙也aa4472
    人間|18才|男性|攻撃
  • 死の意味を問う者
    ディオハルクaa4472hero001
    英雄|18才|男性|カオ
  • 護りの巫女
    三木 弥生aa4687
    人間|16才|女性|生命
  • 守護骸骨
    三木 龍澤山 禅昌aa4687hero001
    英雄|58才|男性|シャド
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