本部

 【仮装騒】ハロウィン連動シナリオ

【仮装騒】嵐の古城、パーティーナイト

時鳥

形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
25人 / 1~25人
英雄
25人 / 0~25人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2016/11/14 21:00

掲示板

オープニング

●悪霊と陰謀の仮装狂騒
 秋晴れの十月中旬、ここは大英図書館。そしてH.O.P.E.ロンドン支部でもある。
 長い廊下にコツコツと響く靴音。
 一人の職員が扉の前で立ち止まって大きく息を吸う。静かに吐いて気持ちを落ち着かせたところでノッカーを叩く。女性の返事が聞こえてきたので入室すると、そこは小部屋だ。テーブルの向こうで微笑む応対の秘書へと用件を伝える。
「お待ちくださいませ」
 秘書が内線で連絡した。
 職員はいつものように報告書を秘書に預ければすむと考えていた。しかし支部長が直接会うとの返答に何度も瞬きを繰り返す。
 秘書に導かれて館長室へ。奥の非常に広い机にはたくさんの書類や本が積まれていた。その向こう側で席についている支部長キュリス・F・アルトリルゼイン(az0056)に報告書を手渡す。
 一分にも満たないはずの、しかし長い時が経過する。
「プリセンサー能力者三名によれば緊急性はないようですね。それにしても十月末から十一月初旬にかけて、多数の従魔、もしくはH.O.P.E.に仇なす者が出没ですか」
「はい。警戒すべきはイギリス全土になります。他の地域に関しても注意が必要とのことです。ご存じの通り、その時期はヨーロッパ各地でハロウィンとガイ・フォークス・ナイトが催されます。仮装した人々の間に紛れられると大変ではないかと――」
 キュリスが片眼にかけたモノクルに触りながら、職員の前でもう一度報告書に目を通した。
「……リンカーのみなさんにはあらかじめ各地に潜入してもらいましょう。それと、せっかくのお祭りです。従魔などの敵さえ倒せたのなら、仕事一辺倒ではなく楽しんでもらって大いに結構。そのように計らってください」
 キュリスが話した内容を職員はメモに認める。仕事場に戻ると依頼文章を作成。リンカー達の目に触れるよう配信するのだった。

●一掃計画
 山の奥にひっそりと佇み歴史を感じさせる古い城。外壁には蔦が巻き付き、暗雲たる空に伸びる数本の塔は重圧さえ感じさせる。
 城主の自慢は白いドレスを纏った女性と燕尾服の男性の幽霊が出ることだそうだ。
 そして、流石はイギリスと言ったところだろうか、この幽霊の噂のある古城でハロウィンパーティーを催すのだという。
 例え仮装はアメリカから逆輸入されたもの、と言っても、ハロウィンは元はイギリスの収穫祭。悪霊を追い出す為に盛大に踊り歌い、食べ、飲んで、騒ごうというのだ。
 だがしかし、プリセンサーによると、この城に数日前からイマーゴ級の従魔が集まってしまいハロウィンパーティーの日に訪れた人間のライヴスでミーレス級へと変化するかもしれない、と出ていた。
 よって、H.O.P.E.は前日にイマーゴ級の従魔の一掃をする為、依頼募集を掛けた。
 ハロウィン前夜にハロウィンパーティーをする、というものだ。
 城の中は広く部屋数も多い。ライヴスの弱いイマーゴ級を探して徘徊するのは得策ではないだろう。
 そこで、H.O.P.Eではオーパーツ「フォルクルス」を使い、イマーゴ級の排除を計画している。
 オーパーツ「フォルクルス」は4体の木彫りと思われる鳥の人形だ。遠い昔悪魔祓いに使われていたらしく、憑依しているモノを排除する力がある。
 この4体の人形は東西南北に配置し、その陣の内部にある、もしくはいる者のライヴスによって力を発揮するのだが、効果範囲はそれなりに広いものの力自体はあまり強くない。イマーゴ級ぐらいにしか効果がなく、必要なライヴス自体も多いため、今回のような事案ぐらいしか使い道はないだろう。
 また、力を発揮するまで大いに時間が掛かるのも難点だ。
 そこで、従魔が仮装した人々に紛れ込むかもしれない。その逆手を取ってリンカー達に仮装してもらい、踊って食べて、歌って飲んで、騒いでイマーゴ級従魔を引き寄せ誘い、欺いて「フォルクルス」の発動を狙う。
 さあ、シャンデリアが下がり、ゴシック調の調度品が並ぶ、古い古い城の中。
 盛大なパーティーが始まる。

●当日
 パーティー会場の古城は入り口からホール、パーティルームまでカボチャやカブのランタンが導くように置かれている。
 カボチャの他にカブがあるのはここがイギリスだからだろう。
 従魔に正体がばれにくいように明かりはランタンのみだ。その為薄暗く古臭いカビの匂いも相俟ってゾクリ、と背筋が寒くなりそうな雰囲気が漂っている。
 当日は嵐が直撃し窓の外では雷鳴が時折轟いていた。
 だが、調度品は城主の趣味でゴシック調であり時折雷の光で鮮明に浮かび上がる姿は怖くもあり、そしてどこか妖しい美しさも醸し出している。
 パーティー会場は50人が入ってもまだ広く、部屋の半分には長いテーブルが幾つも置かれ、その上には料理の数々が行儀よく並べられていた。
 半分はダンスが踊れるようにスペースが空いている。その先には不気味な仮装をしている音楽隊が並んで静かながら壮大で美しい音色を奏でていた。
 シャンデリアで照らされた部屋もホールや廊下程ではないが薄暗い。
 雨が叩きつける窓の向こう、広いテラスには白いドレスを纏った女性が立ち、こちらを見て静かに微笑んでいた。

解説

●目的
 仮装をしてハロウィンパーティーを楽しもう!

●天候
 パーティーの始まりは嵐で雨が窓に横殴り、雷鳴は轟いている。
 しかし、終盤になれば雨雲が晴れ、綺麗な月が顔を出す。

●料理について
 様々な秋の味覚、西洋料理がテーブルの上に並んでいる。
 料理はなくなれば仮装したウェイターが新しいものを運んでくる。イギリス特有の料理も混じってはいるが大半の料理は美味しい。
 飲み物はジュースやワイン。
 お菓子やデザートなどもたくさん用意されている。
 デザートの一部はパティシエ、ショコラール・クロワッサンが担当している。

●仮装について
 仮装は必須であり、従魔を欺く必要がある為、おばけや怪物などホラー要素があるものを推奨。

●混じる者達
・白いドレスの女性
 噂の幽霊。ハロウィンパーティーの賑やかさに惹かれて顔をだしてきた。美人、胸は普通。半透明。害はない。

・燕尾服の男性
 噂のもう一人の幽霊。シルクハットを被っており顔が何故か判別できない。半透明。女性PCをダンスに誘ってくる。

・大きなカボチャランタンを頭に乗せ黒いマントで全身を覆ったジャックオーランタン
 パーティー会場をふらふらとしている。「トリック・オア・トリート!(Trick or Treat!)」と声を掛けると飴玉をくれる。
 他のことを話かけても不気味なケケケという笑い声を立てるだけ。

・ガイコツ
 標本にイマーゴ級従魔が憑依した。パーティー会場に入ってきて料理を食べ始める。
 もちろん食べている料理はあばら骨の隙間を通り床に落ちていく。

・白いカーテン
 浮かんだり落ちたりしている。時折中に人がいるような形になる。イマーゴ級従魔。

他にも仮装に紛れて徐々に従魔は増えていきます。

リプレイ


 古城ホール。薄暗くカボチャやカブのランタンが並び、かび臭い匂いは陰湿さを醸し出している。
「ほぅ……流石イギリス、本場だな」
「……ん、良い雰囲気」
 ユフォアリーヤ(aa0452hero001)と連れだってやってきた麻生 遊夜(aa0452)は会場の雰囲気に感嘆の息を逃がす。隣でユフォアリーヤはクスクスと楽し気に笑いを零した。
 黒い吸血鬼の衣装を纏った遊夜と狼を思わせる毛皮のドレスを着た色っぽさ溢れるユフォアリーヤは、二人ともカボチャを模した半分に割れた仮面をつけている。正し、左右逆、まるで一つの仮面を割ったものをお互いがお揃いで着けているようだ。
「ねぇ、カイ本場のハロウィンってどんなだろうね?」
 自身が知っている日本のハロウィンと比べ、まるで何か闇から飛び出しできそうな雰囲気に、御童 紗希(aa0339)は隣を行くカイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)に問いかけた。カイもまた吸血鬼の格好をしているがこちらは2メートル近い大男。別の迫力がある。
 紗希はこの城の装飾品に相応しいゴシックロリータ風の黒いドレスを身に纏い、真っ黒い若干ウェーブの掛かった髪が肩に流れ、その姿は妖しい魔女そのもの。
「元々収穫祭だろ? それに現世に現れるとされる「異界」の住民から仲間だと思わせて身を守る「隠れ蓑」なんだから、まぁ日本のハロウィンとは全く違うだろうな」
 カイがきょろきょろと見回しながら事前に得た情報と照らし合わせながら答える。日本のハロウィンはまさしくお祭り、大騒ぎという明るさがあるが、この空間から漂う雰囲気はむしろお化け屋敷に近いだろう。
「怖いのは得意でないの……」
「来たいと言ったのはお前だろう?」
「だってハロウィンとか仮装とか楽しそうだと思ったから」
「別に1人ではないから大丈夫だ。せっかくだから楽しめ」
 雰囲気に呑まれ身が縮こまっているのは桜寺りりあ(aa0092)だ。紗希と似たような魔女の姿でゴシック調のワンピースにローブを羽織っている。隣の比蛇 清樹(aa0092hero001)も吸血鬼の衣装ではあるが、他の二人とはまた違った雰囲気を醸し出している。同じような衣装でもやはり人によって受ける印象は違うものだ。
「え……なんかめっちゃ暗くない……?」
 りりあ達と同行してきた十影夕(aa0890)は二人の隣でぽつっと呟く。夕はボロ切れを纏い死に損なった風体で隣のおばけカボチャの被り物をし膨らんだパンツ履いた自身の英雄シキ(aa0890hero001)に視線を向けた。正直ぱっと見、シキだとは判別しにくい。
「さながら、とこよとうつしよのはざまだね。おもむきがあってよろしい」
(お化け屋敷感やばい……)
 満足げなシキに対し、夕もりりあと同じように怖さに飲み込まれかけていた。
「おぉ……シキさんが頼もしいの、です。夕さん、1人じゃないから大丈夫なの」
 りりあはシキの堂々とした姿に感心し、怖がっている夕に親近感を覚え、先程清樹に言われた言葉を夕に掛けた。
 そんな薄暗く背筋が寒くなるような暗さのホールを抜け、パーティー会場の扉を開ける。大きな部屋の中には既に同じように依頼を受けたエージェントか、はたまたH.O.P.E.の職員か、それとも既に紛れ込んだ従魔なのか、何十人もの人のような、そうではないような者達の姿があった。
 テーブルに並べられた料理からは食欲を誘う香りが漂っている。
「このまま横たわって意識が無くなっても誰も気に止めないな」
「縁起でもない事は言わないで下さい! アナタは大人しくしていれば良いのです」
 パーティー会場の壁際、重体の負傷をそのまま仮装として演出するような包帯ぐるぐるの木乃伊男、真壁 久朗(aa0032)が相方アトリア(aa0032hero002)に厳しく叱責されながらも手を貸してもらっている。アトリアは真っ黒なウエディングドレスと顔を隠すようなベール、さながら喪服の花嫁、という言葉が似合う仮装をしていた。
「やはりこのような格好では動きにくいではありませんか?」
「怪物みたいなのはイヤって言うからそれになったんだ。結構似合ってると思う。馬子にも衣装だ」
 少し前は会話もままならなかった二人も軽口を交わせるくらいになったようでアトリアは久朗の怪我を人差し指でグリグリ。
「一言余計です!! アナタはカカシの方がお似合いですよ! 後はワタシがこなします!」
 と、言い切るアトリア。だが、パーティーが初めてのアトリアにとってこの景色、音楽、雰囲気、全てが新鮮だった。
「パーティで時間稼ぎをしろ、という事らしいが……」
 身長120cm程、どうみてもペンギンそのまま、といった風体だがれっきとした英雄、ペンギン皇帝(aa4300hero001)が能力者の酒又 織歌(aa4300)を見遣る。
 織歌はホオジロザメの着ぐるみをベースに改造したシャチの着ぐるみを着用している。とてもリアルで迫力があり、冥界の獣らしく目も怪しく光る仕組みになっている。口元には赤いケチャップがついておりつい先ほど獲物を捕らえたかのような生々しさも演出されていた。
 その口の中の織歌の瞳がきらり、と光る。
「なるほど、その時間一杯食べ放題、という事ですね?」
「……好きにするが良い」
 織歌のショッキングな仮装にペンギン皇帝が距離を取った。その背中が誰かに当たる。それは同じようなペンギン。しかしこちらはペンギン皇帝の倍はありそうな巨体であり、燕尾服を纏っていた。彼も英雄でありMasquerade(aa0033hero001)ことマスカレイドと言う。
 ショックのあまり、王笏を取り落とすペンギン皇帝。
「王様の他にペンギンがいるッス!」
 ペンギン皇帝に気が付いたマスカレイドの能力者Domino(aa0033)ことドミノがおぉ、と声を上げる。ドミノは血や血行の悪さをメイクで演出したゾンビ姿だ。
「大きいペンギンさんですね。陛下の知り合いですか?」
 マスカレイドとペンギン皇帝を見比べながら織歌がペンギン皇帝に問いかける。ペンギン皇帝は首を左右に揺らした。
「わぁ、奇遇ッスね! しかし……すごい恰好ッスね」
 ドミノが織歌の方に視線をやってそのリアルさに一瞬ギョッとする。がおーっとしてみる織歌。珍しいペンギン型英雄の邂逅の瞬間だった。

「ところで僕は仮装になっているんだろうか?」
 元の耳はそのままに人狼軍人という出で立ちのライン・ブルーローゼン(aa1453hero001)は不安そうに呟く。
「大丈夫ですわ。……何か思い出したりはしまして?」
 黒のナイトドレスに帽子を被った魔女、散夏 日和(aa1453)が隣で太鼓判を押してあげた。念のため珍しい衣装が喪失されたラインの記憶を刺激したかどうかも確認する。首を横に振り「いや、何も……すまない」と答えるライン。
「まぁ焦る必要もありませんし、ゆっくり探していきましょう」
「す……いや、有難う」
 柔らかく笑って大したことはないように言う日和に、すまない、と言いかけてラインは言葉を礼に変えた。
「……私を醜い姿へ変えたのは誰だ……!! 姉上はどこにいる!? 答えろ!!」
「エウリュアレ姉さん、あまり騒がない方が……それより、お菓子や紅茶を貰おうよ?」
 と、隣であげられた大きな声の口上に、人見知りのラインはすぐ口を閉ざす。二人の醜い蛇女が並んで立っており雰囲気は大変怖い。月鏡 由利菜(aa0873)とウィリディス(aa0873hero002)だ。ギリシャ神話のゴルゴン三姉妹をイメージプロジェクターとペルソナマスクで作り上げている。由利菜が次姉エウリュアレ、ウィリディスが三女メドゥーサ、そしてここにいないもう一人の英雄が長女ステンノ扱いである。
 イギリス本土のハロウィンが気になって依頼参加を決める由利菜だったがやるからには本気。演技は気合が入っておりより怖さを引き立てている。

「みんな、仮装、すごい……」
「ふふっ、そうですのっ。パーティーを楽しみましょう、つきさまっ」
 織歌のような奇抜な仮装もあれば由利菜にとても怖く、皆、色々趣向を凝らしている。それを見て感心したように呟いたのは木陰 黎夜(aa0061)。吸血鬼の恰好をしているが、黎夜は女の子だ。つまり男装ヴァンパイアである。一方、真昼・O・ノッテ(aa0061hero002)は女性版フランケンシュタインだ。継ぎ接ぎのメイクをした上にドレスを着用している。
 ホラーは苦手な黎夜に対し、真昼はホラーが大好きな為、とてもテンションが高い。
「真昼ちゃん、黎夜ちゃん、楽しんでる?」
 そんな二人に声を掛けてきたのは虎噛 千颯(aa0123)だ。フランケンシュタインの仮装として継ぎ接ぎのアートに白衣を着ている。但し白衣の下は……お察しください。風が吹かない室内なので問題はないだろう。その隣には虎狼男、ともいうべきか、精巧なホワイトタイガーの被り物の上に狼の毛皮を被りふわふわのファーに全身が覆われた白虎丸(aa0123hero001)がいる。いつもよりモフモフ度がぐっと上がり多分250%UPだ!(当社比)
 知り合いの姿を認めて黎夜はほっと小さく安堵の息を逃がした。
「魔法の言葉言えるかな~?」
「どろっぷおあとりーとめんとでござるよ」
「それ、違うから……白虎丸……」
「ふふ、トリックオアトリート! ですの!」
 魔法の言葉を促す千颯とヒント、と黎夜と真昼に小声で伝える白虎丸。しかし、横文字の苦手な白虎丸は少し間違えて覚えていたようだ。黎夜がやんわりと指摘する。
「よ~し、よくできました!」
 と、真昼達を褒めながら千颯は二人にお菓子を手渡した。そして、顔を上げた千颯の目にまた別の知り合いが映り込む。
「お、向こうにいるのリュカちゃんたちじゃん。おーい!」
 手を振って声を掛けるとその姿に気が付いた紫 征四郎(aa0076)が手を振り返した。征四郎が目の見えない木霊・C・リュカ(aa0068)の手を引き誘導している。かわいい不思議の国のアリス風ドレスを纏った顔に傷のある少女に手を引かれる血のような赤い瞳をした吸血鬼姿の美青年の姿は、妖し気でも美しさを感じさせる空間に馴染んでいた。
「その声はちーちゃんだね! はっぴーはろうぃーん!」
「リュカちゃん~お菓子くれなちゃ悪戯するぞ~なんてな!」
 千颯の言葉にリュカは赤い包装紙に包まれた小さなお菓子を声のする方に差し出す。
「ふふーふ、甘美な紅い液体を固めた(苺)キャンディだよ!」
「まひるも、、トリックオアトリート! ですの!」
 中身は苺キャンディだった。受け取る千颯。真昼もリュカに寄って行き元気に魔法の言葉を告げる。
「征四郎殿、どろっぷおあとりーとめんとは魔法の言葉でござるよ」
 と、白虎丸が征四郎にも魔法の言葉を言うように促す。でもやはりちょっと間違っている。
「ビャッコ丸、それを言うならトリックアンドトリートなのです」
「虎殿の毛並みを撫で撫でさせてくれんか頼んでくれぬか」
 ふるふると頭を横に揺らし訂正を掛ける征四郎の服の裾を軽く引き、彼女の英雄ユエリャン・李(aa0076hero002)が耳打ちをした。白虎丸のモフモフファーに触りたくて仕方がないようだ。
「自分で言ってくださいなのです」
「ユエちゃん麗しぃ~! 楽しんでる?」
 征四郎がばっさりと断ると、二人の間に千颯が声を挟む。ユエリャンのマッドハッター風男装姿にひゅ~♪ と口笛を鳴らし、褒めたたえた。長い赤髪は黒いスーツと帽子に良く映えている。褒められれば満更でもなく、頷いて返すユエリャン。
「凛道殿は何の仮装でござるか?」
「いえ、これは普段着……なんですが……」
 数歩離れたところで愛めのランタン作りを手伝っていた凛道(aa0068hero002)に白虎丸が声を掛けた。凛道は黒のH.O.P.E.公式コートとグリムリーパー、所謂死神のような姿をしていた。普段着なのだが妙に場に馴染んでいる。
「なんで離れていたでござるか?」
「あ、いえそれは……少々動悸がしまして……」
 一人だけやや離れていたことにいたことに白虎丸が言及すると凛道はちらちらっと征四郎や黎夜、真昼に視線を向けながら答えた。所謂ちっちゃい子が好きな凛道にとって普段とは違う恰好をしてお菓子を貰ったりしている彼女達の姿はインパクトがでかいようだ。つまり、とてもかわいい、と。かわいすぎて近づけない、と、そういうことだろう。
「虎殿、毛並みを撫でても良いだろうか?」
 そんな凛道と白虎丸の間にユエリャンが割って入った。ユエリャンの申し出に快く頷く白虎丸。
「優しくしてほしいでござる」
「任せるがいい」
 ユエリャンがもふもふと白虎丸のモフモフ仮装を堪能している姿を見ていた黎夜がうずうずし寄ってくる。
「あの、うちも……いい?」
 と、白虎丸のモフモフ増量は大好評のようだ。


「伊奈ちゃん、これはあくまでHOPEの依頼なんだからね。気を引き締めていくんだよ」
「セリフと表情が合ってねえよ、朝霞。料理は逃げないから、大丈夫だって」
 じゅるり……と今にも涎が零れそうな顔をして数々の料理に目を輝かせる大宮 朝霞(aa0476)に春日部 伊奈(aa0476hero002)が呆れ気味に突っ込みを入れた。
 朝霞は魔法使い、伊奈はサキュバスと色っぽい衣装だ。二人が並んでいると魔法使いとその使いのように見える。
「知り合いの人もたくさん参加してるはずだよ。仮装してるからすぐにはわからないかもだけど……」
「みんなどんな仮装してんだろな。興味あるぜ」
 もちろん、料理以外にも興味がある、と言いたげに言葉を続ける朝霞。一つ頷いて伊奈が見渡すパーティーホールには開始直後よりずっと人影が多くなっていた。思い思いの衣装、そして薄暗い照明では遠目ではすぐに人を判別することは不可能だろう。
 二人はきょろきょろとしながら知り合いを探してみる。
「ぁー……ったく。目の前でうろちょろしやがンのにぶん殴れねーってのが、な」
 徐々に増えてきた異形者を認めながら包帯ぐるぐるミイラっ娘、天野 心乃(aa4317)が呟いた。ふわふわと浮かぶ白いカーテンなどは絶対に人ではないだろう。お皿に盛った料理を持ってその場を通り過ぎる。
「ん? ぁー……どこだったっけ」
 自分の英雄白ケモ耳を生やしたぞんびっ娘、麗(aa4317hero001)がいるテーブルを探す心乃。見つけると適当に見繕ってきた料理が乗った皿を麗の前に置く。
「ほらよ」
「ありがとう、心乃。それでですね次は……」
「って、なンで私が持ってこなきゃなンねーんだよ!? テメーが食う分はテメーで持ってこいや」
 もぐもぐと一瞬にしてぺろりと平らげる麗。しかしその様は上品、に見える。次の料理を指定しようとした麗に心乃が我に返って突っ込みを入れた。
「あら……? そうですわね。せっかくのはろうぃん、貴方も楽しみませんと。私は私で食を堪能したく思いますので」
 心乃の言葉に納得したように頷いてもぐもぐもぐもぐと料理を食べながらぐっ、とサムズアップをする麗。「……はぁ」と思わず心乃口からため息が漏れた。
「こーゆートコ慣れねー馴染めねーから苦手だってのに。ま、食費浮くのは助かっけどマジで」
 未だに食べ続けている麗を見ながら心乃は普段の食費を思い出す。すごく、真顔になってしまった。踊りもガラではないし、と麗の横で料理を摘みながら心乃は思案する。
 その隣でも良いくいっぷりを繰り広げている者がいた。ユフォアリーヤだ。
「……ん、お肉!」
「相変わらず良い食いっぷりだな……お、上手いなコレ」
 尻尾をブンブンと振りながら気持ちのいいくらいの食べっぷりでローストビーフを始め、チキンやポーク、ラムにターキーと肉料理を制覇していくユフォアリーヤ。そんな彼女を横目にフィッシュアンドチップスやコーニッシュ・パスティを遊夜はワインと一緒に頂く。
「それはどちらにありまして?」
「向こうの右端のテーブル、分かるか?」
 と、麗がユフォアリーヤの食べているチキンソテーを見つけて声を掛ける。遊夜が答えて指で指示しながら快く麗に場所を教える。暗くて見えにくいが場所を把握した麗が二人に礼を述べ立ち上がった。そして心乃を置いて奥へと行ってしまう。 
(ふむ、何と言いますか、お世話好きで甘やかしなので、ついついお任せしがちですけれど、それを拠り所にされ過ぎるのも如何かな、と)
 目的の場所にたどり着く前に各種テーブルで目が付いたものにふらふらと寄って行っては、もぐもぐごくごくぺろりんと平らげつつも心乃のことを考える麗。
(出会いや繋がりも大事ですわ)
 自分が一緒にいては心乃の新たな出会いや交流の邪魔になるかもしれない、と考えていたのだろう。まぁ、気兼ねなくめいっぱい食べ歩きたい、という気持ちのが強いかもしれないが。取り残された心乃は料理を口に運びながら考える。
(さーてどうすっかね。特に知り合いもー……杏奈だっけ。此処んトコ一緒したし)
「……ん、ユーヤも、食べよう?」
 隣のテーブルではユフォアリーヤが肉もってあーん、と遊夜に食べさせており、傍から見ればいちゃいちゃしているカップル。流石に心乃は話しかけにくい。
「おぅ、ありがとうよ……ほれ、これも食えー」
「……やーん」
「お二人さん熱いね~!」
 ヨークシャープディングやサラダを遊夜がユフォアリーヤにあーんと仕返していたところに千颯が元気に二人に声を掛けた。千颯はすかさずユフォアリーヤの服装をセクシーだと褒める。ユフォアリーヤは遊夜に身を寄せた。
 そんな風に知り合い同士が挨拶を交わすのを見て、心乃は席を立つ。最近一緒に居たとはいえ折角同じ場所に来ているのだ。
(ま、挨拶くれーはしとく……か)
 と、心内で思いながら心乃は大門寺 杏奈(aa4314)を探して人混みに紛れていった。
「従魔退治に仮装パーティか。ま、折角だし楽しむかね」
「その名はハロウィン仮面なり!! いえ~い!パーティだパーティ!」
 仮面をつけた吸血鬼と黒ポンチョを羽織りったかぼちゃヘッドが並んで歩いている。一ノ瀬 春翔(aa3715)とアリス・レッドクイーン(aa3715hero001)だ。アリスは大はしゃぎで跳ねたりしている。
「料理めっちゃ美味そうだし全力で楽しもう!」
 と、勝手に走って行くアリス。残された春翔が知り合いの姿を認め軽く片手を上げて声を掛けた。
「よぉ、緋村」
「……っ! 一ノ瀬」
 声を掛けられたレミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)のことしか見ていなかった狒村 緋十郎(aa3678)が驚いたように振り返る。レミアは普段そのままの吸血鬼の姿だが、アンティークの椅子に腰かけ雷鳴が轟く窓からの明かりに照らし出される姿は圧倒的な迫力と美しさだ。緋十郎は獣人化し黒い外套羽織った女亭主の吸血鬼に仕える眷属。遠目から見ればまるで映画のワンシーンを彷彿とさせられるだろう。
「やっぱりホンモノは雰囲気が段違いだな。っつうか英雄なんてハナから仮装してるようなモンか」
 レミアの普段のままの恰好があまりにもこの場に馴染んでいる為、半ば感心したように春翔は言う。だが内心、その威風堂々した吸血鬼そのものの姿と自分の仮装を顧みて
(……アリスめ、吸血鬼なんて用意しやがって。ホンモンがいるじゃねぇか……)
 と、内心衣装を用意した自身の英雄に悪態をついていた。
「あら、貴方も似合ってるわよ?」
 ふふっと妖しげな笑みを口元に湛え春翔の衣装に言及するレミア。
「では、それっぽくワインでも飲みながら会話でもしてようか」
 グラスに赤いワインを注ぎ春翔はレミアに差し出す。
「俺も吸血鬼のが良かっただろうか?」
「緋十郎はそれでいいのよ。わたしの、なのだから」
 二人の様子を見て緋十郎が考えるように呟くとすぐにレミアが含みのある言い方をした。
 一方、早速並んだ料理に手を付けようとしていたアリスだったが
「いただきまー……あ、ちょっと……かぼちゃ……邪魔……」
 フォークを持って口に運ぼうとしたところで被り物をしていては全く食べられないことに気が付いた。少し考えてからアリスは一人どこかへ姿を消す。
「仮装でパーティ……か」
「くふふ♪ 誰が誰か分からないとか、楽しそうだねぇ?」
 仮面をつけた吸血鬼、賢木 守凪(aa2548)と同じように仮面をつけた魔法使い姿のカミユ(aa2548hero001)が人を探しながらホールを歩く。神父姿の笹山平介(aa0342)と魔女の恰好をした柳京香(aa0342hero001)は仮面をつけていない分、早く見つけることが出来た。平介が守凪に笑いかけた。
「その……こういうのは初めて、だからな! 何をしたらいいか分からないが……」
「では、一緒に楽しみましょう♪」
 守凪はハロウィンのことを殆ど知らない旨を告げると平介は教える為と同行を申し出た。守凪が他の誰かに悪戯されないよう共に行動する為の口実でもある。
 大切な、恋愛的な意味で好きな人なので一緒に居れるのが嬉しい、というのが滲み出る守凪。
「誰が誰か分からないし……手を繋いでも……いい、だろうか……」
 真っ赤になり視線を逸らせてそっぽを向きながら勇気を出して守凪はそっと平介に片手を差し出した。
「では、トリックオアトリート♪」
 笑顔を浮かべ魔法の言葉を唱えて出された手を取る平介。
「これが私が守凪さんにできる悪戯……になってます……かね? さっきのはお菓子をくれなきゃ悪戯するぞ! という意味ですからね」
 しっかりと手を握りながらも、先程の魔法の言葉の意味を守凪に平介は説明する。だが、守凪はそれどころではなく首の方まで赤くなっており、頭の中が平介の手の温かさでいっぱいだった。
「ボクと踊っていただけますか?」
 一方、カミユが京香に恭しく手を差し出しダンスへと彼女を誘う。
「えぇ……でも私あまりうまく……」
 カミユからの誘いに嬉し恥ずかし顔を赤くして俯く京香。「大丈夫だよ」と、カミユは京香の手を取る。
「あ、平介。これ、お願い」
 戸惑いながらもダンスを受けることにした京香は友人の分のお菓子を平介に配ってくれるようお願いした。快く受け取る平介。
「京香ちゃんギャンかわ~!! デート? デート?」
「千颯! 囃子立てるで無いでござる。笹山殿、阿呆がすまないでござる」
 そこに通りかかった千颯が囃し立て、白虎丸が慌てて頭を下げる。より真っ赤になる京香。
「ダンスに誘ったんですよぉ」
 恥ずかしがって中々言葉を発せない京香に代わりカミユが答える。そして、カミユが紳士的に京香の手を優しく引き、他の四人に失礼しますねぇ、と声を掛け二人でダンスホールへと歩いて行った。カミユがリードしゆっくりと二人のステップが始まる。魔法使いと魔女のカップルはとてもお似合いだった。
 ダンスホールでは既に何組かが踊りを楽しんでおり、とても華やかだ。
「夜会と聞いてダンスのステップを練習してきたぞ。そちらの紳士、お相手願おうか」
 幽霊紳士に自身からダンスを申し出たミツルギ サヤ(aa4381hero001)は背丈ほどある白い翼が生える豪奢な黒いドレスを舞わせ、上級者のリードに身をまかせながら音楽と雰囲気を楽しんでいた。その姿はさながら死者と踊る堕天使だ。装飾品が雷の閃光に反射し輝く。
 一曲が終わり幽霊紳士が頭を下げれば同じようにサヤも一礼を返す。そして燕尾服に狼の耳が生えた狼男、ニノマエ(aa4381)の元に戻ってくると手を差し出した。
「ふふ、私に初めての仮装をすすめただろう? おまえも初めてを経験するが良い」
「そう言われると断りずらいな」
 一瞬迷うもののサヤの手を取るニノマエ。先程のダンスでコツを掴んだサヤがリードしながらステップを踏む。ニノマエは慣れないことに緊張してギクシャクしており(今すぐ会場の外に出て守衛役をやりたい)と心の中で唱えた。
「心に余裕を持て」
 サヤの一言。それで心を読まれたことを察するニノマエ。だが、そのおかげか気持ちが落ち着き周りが見えてくる。
 ほの暗く美しい灯り。重厚な音楽。静かに重なってゆく、人ならざる者達の楽しげな囁き。
 雨の叩きつける音は音楽と重なりより一層深く美しい音色になっていく。
 これ程の不思議な空気は中々味わうことはできないだろう。ニノマエの足は自ずとダンスの形になっていった。
 一方、体の空いた幽霊紳士は一人うろうろとしているアトリアに声を掛ける。
「美しいお嬢さん。私と踊りませんか?」
 声が直接頭に響いてくるような不思議な声音。しかし、幽霊も見た事が無いアトリアは相手の姿がどうでも怖じずに訊ねた。
「ダンスとは何ですか? ワタシに出来る芸当なのでしょうか?」
 問いかければ紳士は一つ頷きアトリアの手を取る。顔は判然としないが優しく笑いかけられた気がアトリアはした。初心者の彼女を丁寧にリードしながら、紳士はステップを踏む。動きにくい、と言っていたドレスは裾が舞い踊り、よりダンスを綺麗に見せていた。
「ふ、女装は美しいが腹に入らぬからな」
 と、目新しいものを片っ端から食べていたユエリャンだったが壁の花と化している凛道に気が付く。
「どうした眼鏡置き。ダンスのステップなら教えるぞ」
 社交ダンスは一通り会得しており男側も女側も踊ることが出来るユエリャンは凛道にステップを教える為ヒールの靴を脱いで女側に立った。
「何だかユエさんが優しいと怖いですね」
「足を踏んだら殺す」
「あ、足、足痛いです踏まないで……!」
 凛道が基礎的なことを教わりながらつい口から余計な一言が飛び出ると、ユエリャンはこんな風に、と言いたげにわざと凛道の足を踏んで見せた。ヒールではないところは優しいだろう。そうやって短時間スパルタで凛道にダンスのステップをユエリャンは教え込んだ。


「私に遠慮せずお友達にご挨拶を」
「具合悪いのか? 座ってるんだぞ!? 茂守のお菓子も貰ってくるからな!」
 お揃いで包帯少し巻き血のりつけた呉 琳(aa3404)と藤堂 茂守(aa3404hero002)だったが、開始早々茂守が琳と別れようとする。琳が心配げに問いかけると頷く茂守。彼を座らせてから琳は知り合いを探して駆けていった。
 茂守が本当は何を目的にしているかも知らずに。

「少し離れてただけなのに、なんだか懐かしいわね」
「そうだな。まぁ、休暇みたいなものだ。ゆっくりするとしよう」
 リリアン・レッドフォード(aa1631hero001)はイギリスについたときふと、何とも言えない懐かしさを覚えた。能力者のクレア・マクミラン(aa1631)がスコットランド人だからだろうか。クレアは故郷のスコットランド民族衣装に身を包み、頭の羽根飾りはかつての所属を表す黒羽である。リリアンは特に思い入れはないもののパートナーに合わせイギリスのレッドコートを着用していた。
 ウィスキーを片手にクレアは守凪と共にいる千颯達と喋る平介を見つける。二人で共に会場を一通り確認している最中だった。
「笹山さん、楽しんでいますか?」
「えぇ、とっても♪ どうぞ、お菓子です♪」
 挨拶を交わすと平介は二人に京香からの分を含めてお菓子を手渡す。甘いものに嬉しそうにするリリアン。守凪は緊張しているのか喋らない。
「俺ちゃんからもあげるよ~!」
 と、千颯もリリアンの手の中にお菓子を追加する。
 その姿を遠目に由利菜が見ていた。千颯達とは知り合いだが、どうしても声がかけられない。由利菜の本名は『篠宮クレア』なのだがクレア・マクミランがクレア、と周りに呼ばれているのが羨ましく、どう対応していいか分からずにいた。そんな由利菜の様子にウィリディスが複雑な気分になる。
「姉さん、飲み物は……あれ、紅茶がない!?」
 気を逸らそうと紅茶を探して見たものの見当たらず、ウィリディスは思わず声を上げた。
「紅茶無くして何がブリテンのティータイムか……!! 私がこの高級ティーセットを使って皆に紅茶を淹れる!」
(姉さん……目が演技に見えないよ……)
 見事に気が逸れた由利菜だったが、完全に何かのスイッチが入っていた。ティーセットを取り出し丁寧に準備を始める。

「美味いなこれ」
 久朗は大人しく料理を食べつつ留守番しており、何やらメモを書いている。そこに知り合いが連れ立ってやってきた。幽霊紳士とのダンスを終えたアトリアが途中で千颯達と会ったのだ。
「久朗ちゃんどう? 楽しんでる?」
「あんまり動けないからな」
「何をメモしてるでござるか?」
 千颯には重体である旨を答え、白虎丸の問いかけに久朗はもう一人の英雄の為に後日振舞ってやろうと今日食べた料理をメモしていることを掻い摘んで話した。
「こんばんわ♪」
 そして平介が挨拶を口にした後、何か言いたげににこにことしている。久朗はアトリアに促すように視線を向けた。
「あ、トリックオアトリート?」
「はい♪ お菓子をどうぞ♪」
 アトリアにお菓子を手渡す平介。ハロウィンで初めてもらうお菓子に嬉しそうにするアトリア。
「お菓子を渡したら悪戯はなし、なんだな」
「大丈夫、一緒にいる間は悪戯させません♪」
 平介達のやり取りを見ながら守凪は改めてハロウィンのルールを認識しなおす。その言葉に平介は笑顔で守る、という旨を遠回しに含ませる。お菓子をめいっぱい持ってきた本当の理由はそこにあった。
「へーすけ! ちはや! くろー!」
 そこへ大きな声で駆け寄ってくる元気な姿、琳。その後ろに途中で合流したのか朝霞と伊奈の姿もある。
「お! 琳ちゃんはその仮装か似合ってるよ~!」
「藤堂殿、……はどうしたでござるか?」
「ありがとな、ちはや! 茂守は具合悪いって!」
「美味しいものたくさん食べれば大丈夫よ! お菓子、持って行ってあげましょう」
 琳は千颯と白虎丸の言葉に元気に、しかし茂守の話題になるとしゅんっ、と心配そうなそぶりをみせる。それを朝霞は元気づける。
「そうだな。じゃあ、朝霞ちゃん! TRICKorTREATだ!」
「言われるより言う方がいいな。だからトリックオアトリート!」
 こくっと千颯は朝霞の言葉に頷いて、気を取り直し魔法の言葉を朝霞に向けた。が、逆にやり返す朝霞。仕方ないな~、と朝霞にお菓子を千颯は渡す。千颯がお菓子を持っていないのか、と問えば、どちらかと言えば食べに来たから、と答える朝霞。
「春日部殿は随分軽装でござるな……」
「朝霞に負けてないでしょ!」
 一方で白虎丸は伊奈のサキュバスの露出の多い服装が気になるようだ。伊奈は子供じゃないの、と言いたげに胸を張る。
「へーすけ達はお菓子一杯持ってた! ちはや! あさか! くろー! 皆で一緒に回ろう! 食事皆と食べたいな……!」
 平介にトリックオアトリート! と言ってたくさん両手に抱える程のお菓子を貰った琳が嬉しそうに千颯達に声を掛ける。
「さっき見たけど、デザートおいしそうだよ!」
「朝霞はいきなりデザートかよ。もっと大物から行こうぜ!」
 琳の提案に朝霞が片手をあげまたじゅるっと唾を飲み込む。いきなりデザートの話になったのですかさず伊奈が突っ込みをいれるがいいコンビのようだ。わいわいと騒ぎながらどの料理を食べるか、など話が広がった。

 うろうろと色々な異形の者にさえ声を掛けわいわいと楽しんでいるのはフィアナ(aa4210)。
『ファニーガイサマノオカゲデスゴイネ』
『カカカカカカカカッ』
 ルーに昔教わった、元々のハロウィンとしての認識が強く、アイルランド育ちという事もあって、近くで従魔達がこんな風に喋っていても何にも動じている様子はない。衣装はバンシーをイメージしたものだ。
 フィアナはジャックオーランタンを見つけると「トリックオアトリートっ」と声を掛ける。飴玉をひょい、っと二つ、ジャックオーランタンはフィアナの手に乗せた。ありがとう、とお礼と共に自分が持っていたお菓子をジャックオーランタンに渡す。ケケケ、と不気味な笑いを零すジャックオーランタン。
「あのね、飴玉ね、貰ったの。兄さんにもあげるっ」
 そのまま踵を返しルーの元に戻ってきて飴玉の一つをルーへと渡す。ルーは黒い燕尾服に黒いマントを羽織っているものの持ち前の金色の髪が輝き明るい雰囲気が漂っていた。そこにユエリャンが二人へと声を掛ける。
「もし差し支え無ければ、一曲踊ってくれぬであろうか?」
 フィアナへと恭しく跪き、片手を差し出してダンスへの誘いをするユエリャン。もちろん、とフィアナは楽しそうにダンスの申し出を受けた。ユエリャンとのダンスが終わったらルーとも踊りたい旨を伝え、ユエリャンの手を取りダンスの輪の中へ入って行くフィアナ。
 ルーは一つ頷くと微笑ましそうに見送った。
 ジャックオーランタンにフィアナが飴を貰っているのを目撃したシキが夕の手を引いた。お化け屋敷が苦手な夕の為、シキはしっかり手を繋いでくれているのだ。
「ユウ、アメがもらえるよ。いこう」
「え、やだ……ほら、あっちにケーキあるよ」
「こわいなら、わたしひとりでいってくるよ」
「……それもやだ」
 仕方なく夕はシキと二人でジャックオーランタンの元に向かう。トリックオアトリート! というと、飴玉を二人に渡し楽し気にケケケと笑うジャックオーランタン。
「カボチャの頭……少し、こわいの……ですね」
「飴、貰うんだろう?」
 二人の様子を見ていたりりあも怖がりながら少し距離を取り清樹の後ろから勇気を出してジャックオーランタンに声を掛ける。
「トリック、オア、トリート……です」
 たくさんの子供に声をかけてもらって嬉しいのだろうか、飴を多めにりりあに渡し、くるくるとジャックオーランタンは回る。
「アメをたべるとケーキがたべられないから、あとでたべよう」
「もー……だったら貰わなくてよかったじゃん……」
「ピィピィうるさいチビスケだね」
「チビじゃないし……」
 と、夕とシキがやり合っている時だった。
「あら十影さん! 御機嫌よう」
 日和が夕達を見つけ声を掛けながら寄ってくる。財閥関係のパーティーに飽き飽きしていた日和だが、今回の特殊なパーティーはとても気に入っている様子だ。その日和の後ろから人が多くて落ち着かない様子でラインが付いてきた。
「そちらの方は、桜寺さんに……!? 私好み……には少しお若いですが近い殿方……!」
 むきむきのイケオジ様がというストライクゾーンを刺激する清樹を見初めて日和は大はしゃぎである。
「比蛇さん是非私と踊って頂きたいのですがっ」
「ダンス……? まぁ、少しくらいなら構わない」
 ぐいぐいと迫る日和。清樹はりりあが夕やシキ、ラインと一人になることはなさそうなのを確認し、ダンスの誘いを受ける。二人が連れ立ってダンスホールへと向かう。
「植物園以来だな」
 その二人を見送りながらラインは夕とシキに声を掛ける。ラインは踊らないのか、と問われれば困ったように遠い目をして。
「僕も3日3晩日和にレッスンされて踊れなくは無いが……。僕なんかの相手は申し訳ないだろう。……シキは何を食べているんだ?」
「ケーキをたべているのだよ。あまくまろやかでまろんのあじがするね」
 ラインがシキの手にしている皿を見つめていると、食べるか、というように彼にケーキの乗った皿を差し出すシキ。日和が踊っている間、ラインは彼らと菓子を食べてることにした。

 一方、征四郎に食べ物巡りに連れてってもらいながら会う知り合いには後でゆっくり皆の仮装も見たい、と写真をねだって回るリュカ。ユエリャンがフィアナを誘っているのを見て征四郎は足を止めた。
「えっと。一緒に踊って頂けませんか? ム・シュー、リュカ」
「ふふーふ、これはこれは。とても可愛いアリスのお嬢さんだ! 勿論喜んで」
 綺麗に礼を一つ、リュカの手を取る征四郎。リュカは喜んで誘いを受ける。二人でゆっくりとステップを踏む。見えないリュカにハンディはあるもののその姿は様になっていった。
「身長はまだまだ足りませんけど、前に踊った時よりは上手になったでしょう?」
「ダンスの途中に私に噛まれないように気をつけてください、マダム?」
 二人は楽しそうに笑いながらステップを踏む。ダンスに一番大切なのは楽しむ心だろう。
 同じようにダンスに参加している遊夜とユフォアリーヤの二人。デザートまで堪能し終え、食後の運動といったところだろうか。遊夜は子供たちと良く踊る為、ダンスは上手い方だ。ユフォアリーヤを軽やかなステップでリードする。
「こんな感じ、かね?」
「……ん、こう?」
 ユフォアリーヤがややぎこちないものの遊夜の先導とユフォアリーヤが選んだ衣装のおかげか大人の魅力が二人から溢れ出ていた。


「杏奈、仮装ですわよ!」
「でも、怖いのしかダメだって……」
「それならゾンビはどうでしょう? 杏奈は1回なったことありますから」
「うん、そうする」
 という事前のやり取りの結果、杏奈は黒茶色の肌に繋ぎ目があり、髪は深淵を思わせる黒、赤い瞳、と気合の入ったゾンビで来ている。レミ=ウィンズ(aa4314hero002)は繋ぎ目のみで綺麗なドレス姿だ。
 ちなみに杏奈は会場にあるお菓子とデザートを全て食べるつもりで来ている。
「じゃあ、初めよう」
「杏奈……今まで見た中で1番の笑顔ですわ……」
 とってもいい笑顔でお菓子やスイーツを取り皿に盛る杏奈。そしてきりりっ、と表情を引き締めて一言。
「私は諦めない。そこにスイーツがある限り」
 そう言い放ちスイーツに手を付け始める。杏奈のそんな姿を見てレミは目を細めた。
「ゾンビがスイーツを食べる光景……とてつもなくシュールですわ……」
 だが、その後にもっとシュールな光景が繰り広げられることを彼女達はまだ知らない。
「ほーォ、なかなか広いものだな……しかし尾まで入るには奥まで行かねばならん」
「……父上、何をお召上がりになられますか……」
「根刮ぎ持ってくるが良い、余はこの世界の食を識りたいのだ」
 見た目は従魔か、と見紛う程の二人組、Ω(aa0331)とUnknown(aa0331hero002)ことアンノウン。仮装要らずの怪物共だ。だが一応Ωは大きな螺子の刺さった南瓜頭を被っており、アンノウンは頭部から首にかけて覆うように布を巻いている。金の扇子ではたはたと仰ぐアンノウンは全高3m弱の超重量で見る者を圧倒させるが、彼曰く「この世界に来た時に実にコンパクトな容姿になった」のだそうだ。
 二人がここへやってきたのはΩを人に慣れさせる為だ。
「……この皿は、不純物等は入っていない……か? ……父上は皿ごと料理を召し上がる……」
「皿までが「料理」であろう?」
 Ωの問いに料理を運んでいたウェイターが困った顔をしている。
「この中のいったい誰が従魔なんだろ」
 朝霞が料理を皿に取りながら、より増えてきた室内の人影を見渡す。時々『がいのかめんをかぶって』『アレハメンジャナイ』『ちいさい』『アシたハタクさんノラいヴスがくルト』と囁きのような聞き取りにくい声のようなものが聞こえてくるところを考えれば大分従魔が集まってきているようだ。
「さあねー。おっ、アンタの仮装、よくできてんじゃん! すげーな、どーなってんだよ?」
 横で食べ始めたガイコツに気が付いた伊奈が落ちていく料理を見ながら感心したように声を掛ける。カタカタと骨が鳴り更にガイコツは料理を流し込むが、ぼたぼたと全部やはり零れてしまっていた。
 更にその横に杏奈がおり、ガイコツの食べっぷりに無条件で食べ競い始めた。
「やっと普通のパーティーって感じ」
 と安堵していた夕だったがシキがそんな杏奈やガイコツを見つけると大ウケでガイコツに料理を運んでいく。
「これはゆかいだ。どれ、こちらもいかがかね」
 どんどん食べる杏奈とガイコツ。そして床に積もって行く料理の数々。
 シキは更にもう一つ近くに面白いことをしている者を見つけた。織歌とドミノだ。
「Trick or Treat!」
 リアルなシャチの口に大量の食べ物をドミノに入れてもらっていた。ドミノは慣れているのか給仕をささっとこなす。
 織歌は着ぐるみの中で食べているのだが傍から見れば皿ごと丸呑み数分後に、皿を吐き出すシャチ、にしか見えない。しかもこちらも杏奈達に負けず劣らずいい食べっぷりだ。
 ちなみに好物は焼き鳥なので、焼き鳥多めにしてもらっている。シキも近づこうとするが夕がリアルなシャチに怖がってシキを止める。
 それに気が付いた織歌はがおー、と悪戯に怖がらせてみた。だが、その声は明らかに少女の声だったため逆に恐怖は薄らぐだろう。
 しかし、それに一番怯えてるのはペンギン皇帝だった。何せめっちゃ鶏肉もたくさん食べてるし、中身は織歌だし、仕方がないだろう。
「そもそも胃の中に入ってませんわ!?」
「ふっ、反則で私の勝ちですね。次はゾンビになってかかってきなさい」
 杏奈の元に戻ってきたレミが突っ込みを入れると、ハッ、となって杏奈は勝利宣言をした。
「多く食べた者が勝者であるか? 余も混じらせてもらおう」
 その騒動に興味を持ったアンノウンが巨大な体で目の前のテーブルごとぱくり、と一気に食べてしまう。驚く杏奈。皿どころかテーブルごと食べてしまうとはまさしく悪食魔人。
「ふっ、負けません」
 と、普段の無口ぎみはどこへやら、甘いものの為に人格が少々変わっている杏奈は受けて立つ。そんな杏奈に挨拶ぐらいは、と思って彼女を探していた心乃は話しかけられずに遠目から眺めていた。
 更にアンノウンだけでなく麗もしれっと混じりぺろりむしゃむしゃと皿を空にしていく。そこら一帯がまるで大食い会場のようになっていた。
 アンノウンからやや離れていたΩに幽霊紳士が声を掛ける。
「お嬢さん、ダンスをしませんか?」
「……だん、す……なんてした事、無い……」
 緩く頭を横に振りアンノウンの為の料理を持って逃げていくΩ。積極的に誰かと関わることは、うまくできないらしい。それでも時々周囲をΩは観察していた。
 断られてしまった幽霊紳士は今度はクレアとリリアンへと声をかける。二人は知り合いに挨拶が終わり二人でまったりとしているところだった。クレアはガラじゃない、とダンスの誘いに乗る気配はない。
「貴方……ううん、そうね。踊りましょう、ジェントルマン。素敵な夜ですものね」
 代わりにリリアンが幽霊の誘いににこやかに乗った。ダンスホールへと幽霊紳士に誘導されて向かうリリアン。ステップを踏むたびにレッドコートの赤い裾が舞い、蝶のようだ。
 リリアンと別れたクレアが人の少ないテラスの窓へと向かう。少し人混みから外れ一人の時間を楽しもうと思っていた。

 雨が叩きつける窓の向こう、広いテラスには白いドレスを纏った女性が立ち、こちらを見ていることに紗希は気が付いた。
 そして、その反対側のテラスに真っ黒な衣装で鬼の形相をした吸血鬼が仁王立ちしている者がいることも。カイだった。
「なんで俺が締め出されるんだよ! 外スゲー雨だぞ!」
「勝手にウロウロしてるからだよ」
 紗希に鬱憤をぶつけるカイ。テラスの窓を先が開けて入るように促す。
「それより従魔討伐の為にパーティ楽しまなきゃいけないんだからほら着替えてきてよ。替えの衣装はあるんでしょ?」
 と、促す紗希。びしょ濡れのそういう衣装だ、と言い張ることも可能だが、大人しくカイは着替えてくることにした。
 その様子を端に座り窓を開けタバコに火をつけていたクレアも見ていたが、テラスの幽霊により窓を広く開け中に入るように促してみる。女性は微笑むと促されるまま室内へとスーッと滑るように移動してきた。カイとは違いまるで濡れた様子はない。
 お礼を言うように頭を下げる女幽霊。その様子にクレアは何一つ動じることなく、
「なに、どうせ従魔が入り込んでるんです。何かがさらに増えたところで変わりません。楽しまれるといい、今日はそういう日です」
 普通の人間相手のように話しかけた。
「そうですよ。ですから、私と踊っていただけますか?」
 そこに丁度、曲を終えた遊夜がやってきてクレアの言葉に合わせたように白いドレスの幽霊をダンスに誘う。本当に嬉しそうに微笑む女性。二人に頭を下げてから紳士的に差し出された遊夜の手を取り、エスコートされながら女性はダンスホールへと向かう。
「そういえば、ココって、幽霊が出るんだって」
「幽霊?」
「私は霊感ないからなー。会えるかなー。あの白いドレスの人、ダンス上手だねー」
 朝霞がデザートを食べながら事前に聞いた噂を思い出し辺りを軽く見回す。その時、遊夜と踊る女性を認めて感心したように零した。女性も遊夜も共にダンス上級者、そのステップは軽やかであり美しく優雅でさえある。
「そうだなー。ウラワンダーの変身ポーズも、ああいう優雅なのにしたらどうだよ」
「ヒーローの変身ポーズは、カッコイイやつでいいの!」
 遊夜達を見て伊奈もうんうんと頷き賛同を示しながら、常々それだけは理解できない、と思っていた変身ポーズの変更を促してみた。まぁ、即却下されたわけだが。
 一方ユフォアリーヤは遊夜以外と踊る気はなく、誘われるダンスの誘いを丁寧に断りつつ周りの噂話を聞いてジャックオーランタンに会いに行く。
「トリック・オア・トリート!」
「ケケケ、君で最後かな」
 すると初めて人語を喋りユフォアリーヤにはたくさんの抱えきれない飴玉を渡してマントを翻すとジャックオーランタンは姿を消した。
 その頃、清樹とダンスを終えた日和がりりあ達の元に戻ってくる。
「所作も紳士然としてらっしゃって素敵ですわ。これだけでも来た甲斐がありましてよ。まさに夢の時間…有難う御座いました」
 口では面倒だなんだと言いながらもしっかりリードし結構紳士的なところを見せた清樹に日和もご満悦だ。
「彼方にいらっしゃるのはリュカさん方かしら、御機嫌よう!」
 そして日和はまた別の知り合いの姿を認める。こちらも征四郎とのダンスを終え凛道達のところへ戻ってくるところだった。
「そちらは新しい英雄さんですのね。壁の華なんて勿体無い! さぁ手を取って、踊りましょう」
 声を掛ければ凛道がずっと壁で待っていたことを知り、彼の手を取りダンスへと誘う日和。
「先ほど習ったばかりなので、不慣れな点が多いかと思いますが……」
「リードなら私にお任せですわ!」
 凛道は誘いに大人しく乗り、うまくできないかもしれない、と断りを入れるが、日和は任せて、と笑顔を浮かべる。
「このチョコレート、美味しかったですよっ」
 征四郎はりりあやシキと貰ったり取ってきたりしていたお菓子を交換しながらいろいろと味見をしていた。
「不思議なキャンディ、どこで貰ったです?」
 シキとりりあがジャックオーランタンに貰った飴は美味しいが例えようのないなんとも言えない味がして不思議に思い聞く。ジャックオーランタンの話を聞き、後でリュカの手を引いて行ってみようと征四郎は思った。
「とても美しい足捌きだと思います」
 日和とダンスをしている凛道は日和の素晴らしいステップに素直な感想を零す。「嬉しいですわ」と返す日和。
 そんな風に何人も踊る中、ダンスホールは従魔達が増え、奇怪な姿の生き物たちに埋め尽くされていく。
(ふむ、変わった格好をした者が多いが、この美しい音色には聞きほれてしまうな。美しき楽曲には美しき舞踏が一番である。故に、踊ろうではないか。老若男女問わず、美しい者と手を取りて踊る……うむ、パーティーの醍醐味というものであるな)
 マスカレイドは増えてきている従魔達を見ながらも奏でられる旋律に聞きほれ、折角なのだから、と綺麗な女性をダンスに誘おうと動いた。
「麗しき姫よ……どうか余と一曲の付き合いを」
 と、レミにダンスの誘いを掛ける。王家の人間である彼女を見抜いたのかはたまた偶然か、姫と誘われて断れるわけはない。
「本領発揮ですね」
「当然ですわ!」
「はっはっはっ、良きかな良きかな」
 大分スイーツをたっぷりと堪能した杏奈が誘われているレミに流石、と頷く。まぁ、相手はペンギンなのだが。レミ達は仮装だと思い込んでいるようだ。マスカレイドもダンスの誘いを受けいれられ大変ご満悦の様子。二人がダンスホールへと消えると、杏奈と春翔が同時に声を掛けてきた。二人ともタイミングを見計らっていたらしい。
 知り合いに会えた杏奈はまだスーツを食べながらも、しばし会話に興じた。

 ぼんやりとだが前世界の居城に似た雰囲気をこの会場からレミアは感じていた。一ノ瀬と別れた後も優雅に赤ワインを嗜み、遠い記憶を懐かしむレミア。隣で肉料理を齧っていた緋十郎はそのレミアの追懐の表情にうっとりと見惚れていた。
「ねぇ緋十郎。今、わたしに血を吸って貰いたい……って思ったのでしょう? ふふふふダメよ、夜会が終わるまでは我慢なさい」
 すぐに気が付き緋十郎を焦らしてレミアは楽しむ。そこへリリアンと踊り終わった幽霊紳士が姿を現した。
「愛らしいお嬢さん、是非ダンスを踊ってくれませんか?」
 レミアに恭しく手を差し出しダンスへと誘う幽霊。がすぐに緋十郎がむっとして即座にその間に割って入った。
「おい、レミアは俺の嫁だ。ダンスに誘うなら他を当たってくれ」
 言い切る緋十郎の後ろに悠然とした笑みを浮かべつつも小さく華奢な体を隠すようにレミアは緋十郎の背中に縋った。「これは失礼」と幽霊は丁寧に頭を下げ「お幸せに」と言葉を添え二人の元を後にする。
「ふふ、さっきの緋十郎、珍しく男らしかったわね。やっぱり、わたしが他の誰かとダンスをするのは嫌?」
 幽霊の姿が見えなくなってからレミアが緋十郎に問いかけた。内心は彼の振る舞いを嬉しく思っている。
「当たり前だ……!」
 緋十郎のはっきりとした回答に満足したレミアは自分をダンスに誘うよう緋十郎に促し、黒いハイヒールの爪先に口付けるよう命じる。恭しく主人に仕えるように従う緋十郎。ワインを置いたレミアの細い腰に手を回し、小柄な彼女にリードされながらも、緋十郎はダンスを楽しんだ。
 そんな風にレミアに振られた幽霊紳士は今度は紗希へと声を掛ける。そこへ丁度カイが着替えを終えて戻ってきていた。カイはずっと飲食している間も紗希に男が寄ってこないかばかりを気にしていたのだがついにその現場を捉えてしまった。ダンスに誘われている、ということは分かる。
「あんにゃろう!」
 と、飛び出すカイ。そして紗希と紳士の間に割り込む。
「俺と踊って下さい!」
 勢い余って幽霊紳士の方に言ってしまった。カイを見て考えるように首を傾ける幽霊。紗希が何か言おうとしたとき、幽霊は「成程。よろしいでしょう。お任せください」と柔和に笑みを浮かべながら答えた。
 次の瞬間、カイと幽霊の体が重なる。そしてカイ意思とは関係なく恭しく紗希の手を取りリードを取って踊り始めた。「いいですか、こうやって女性をリードするのです」、「ステップはこうですよ」とカイの頭の中に先程の紳士の声が響いてくる。
 カイは幽霊に内側から始動されながら紗希と一曲分のステップを踏む。傍から見ればとても綺麗にダンスを舞っているように見えただろう。
 春翔は由利菜から受け取った紅茶を啜りつつそんなカイを見ていたが、着替え終えて料理を堪能し終えた自身の英雄アリスを視線の端に見つけた。
「真っ赤なドレスに王冠! これでも元王族だからね! 気分はノーライフクイーン! ってね!」
 とはアリス本人談。
(わ、気合い入ってんなー……ちょっとからかってやるか)
 その真っ赤な美しいドレス姿を見て少し考えてから口端を釣り上げアリスの元に足を向ける。
「そこの素敵なお嬢さん、ダンスでも如何かな?」
「ん? ダンス? ふふふ……女王を舐めるなよ。勿論、一緒に踊りましょう」
 恭しく差し出された春翔の手を見てアリスも楽し気に笑みを浮かべその手を取った。二人はゆっくりとステップを踏み始める。元王族だけあってアリスからは気品が満ち溢れていた。

 由利菜は入れた紅茶を皆に配って歩いていた。白いドレスの女性にも、そっと差し出すとその姿に驚いたのか中々受け取ってもらえない。
「……見た目で私を判断するな。紅茶の出し方くらい心得ている」
 その一言に納得したのか女性の幽霊は紅茶を受け取りおそるおそる口に含んだ。すると途端に表情が綻ぶ。
「とても、懐かしい味がしますわ。ありがとうございます、蛇のお方」
 イギリスの幽霊の舌に合う紅茶を出せた、ということだろう。少しばかりゆっくりとティータイムを幽霊と由利菜は楽しんだ。
「こんな美味しい物が沢山の素敵なパーティーに招待してくれてありがとうございます♪」
 そこに織歌が女性を主催者と勘違いして声を掛ける。ゆるゆると頭を横に揺らす幽霊。
「私の方こそ、こんなに賑やかなのは久しぶりですわ」
「折角ですし、一緒に紅茶をいかが?」
 微笑んで織歌に返す幽霊と、紅茶を彼女に差し出す由利菜。
 そんなほんわかとしたブリテン・ティータイムを過ごす由利菜達の少しばかり離れたところでは少々不穏な空気が漂っていた。
「京香さん、今日は……あの方居ないんですね」
 茂守が京香のピアスに触れ唐突に話しかけた。カミユが京香の手を引き茂守から離れさせる。京香は茂守に恐怖感を覚えているので身を強張らせ口を閉ざした。
 ピアスは過去、茂守が京香に上げたものだったが、それを話すつもりはない。それよりもゼム(自分の理想の存在)を変える危険分子ではないか、殺める必要はないか確かめに来たのだ。
 京香の腕にはめられたブレスレットに茂守は気が付いた。
「おや、そのブレスレットは……」
「……何か用かなぁ?」
「……彼女の着けているブレスレット……君があげたんですか……? よく似合っている♪」
 牽制するようなカミユに対し、笑顔を浮かべて問いかける茂守。京香を背中に庇い茂守と対峙し、そうだ、と一応カミユは答えた。しかし、だからどうしたのだ、という雰囲気を言外に匂わす。
「でも次はピアス……」
 カミユの意図を無視してか察していないのか、茂守はマイペースに耳を指さし、
「送ってあげた方が良いですよ?」
 ちらり、と隠れる京香の耳に視線を送ってから更に笑顔を茂守は重ねた。その笑顔には優しさや和やかさは感じられない。京香だけでも遠ざけるべきか、とカミユが考えている中、茂守はそれ以上は何も言わず踵を返した。
 あっさりと二人の前から姿を消す茂守。
「二人仲良くこの世に喰われればいい……」
 だが一人笑いつつ不穏な一言を零す。琳が戻ってくる前に可笑しいと笑い元の場所へと歩を進めた。本当に何も企んでいないということにする為に。


 日和を見失って壁際で内装の花で花輪を作っていたラインに壁の花状態だったルーが話しかける。
「何をしているのかな?」
「あ、……日和を見失って……」
 問いかけられると日和を待っていることを伝えるライン。そんな如何にも馴染めていなさそうな二人に親近感を覚えたアトリアがそこへ顔を出す。
「こんばんは。楽しんでいますか?」
「みんなが楽しんでいるのを見るのは好きだな」
 わいわいと最高潮に賑わいを見せるパーティーホールへと視線を向けルーはアトリアに応えた。
「武器を振るう以外の任務がワタシにも出来るなんて思いもしませんでした」
「僕も……特に面白みもないし何を話せばいいか……分からない、……し」
 アトリアとラインはそれぞれ馴染まない理由を口にする。ルーが二人を若いなぁ、という顔で見つめていた。
 そのまま三人で壁に寄りかかりぽつぽつと一緒に来ているパートナーのことや、さっきまでのことをなんとなく話した。
 外の雨音は止み、窓が一部解放される。すると吹き込んできた風に千颯の白衣の前方が捲れ上がった。ふわ~おはぁとな状態だったがそれを見ていたのは従魔のみ。結局誰にも白衣の下の秘密を見られることはなかった。

 空が晴れ音楽と熱、そして人影の数は最高に達している。あと少しでこんな時間も終わりだろうか。
「ごきげんよう、お嬢さん。私の最後の曲のお相手をしていただけますか?」
「ごきげんよう。まひるはダンスにおさそいしていただけて光栄ですの。ぜひ、一曲お願いいたしますの」
 幽霊紳士は終わりが近づいていることを察し、最後のダンスの相手を真昼に頼んだ。他の人と踊り終わった真昼は快く紳士の手を取る。窓からは僅かな月明かりが差し込んでおり、幻想的な奇々怪々な舞踊会をより妖しく美しく照らし出していた。
 そんなころ窓辺でグラスを傾けるニノマエ。いつもと違うサヤに困惑しているのは彼女には秘密だ。
 サヤはショコラを手に微笑みを返す。ニノマエはその姿見てふと思う。そういえば、こいつの本当の名前と綴りは……。
「楽しんでいるか?」
「……ああ」
 思い出せぬまま溶けて消えた。
 まあいい。フォルクルスが鳴くまであと少し、不可思議な夜を楽しもうか。
 そうニノマエはこの妖しげな夜を最後まで堪能することに決めた。
 終わりの時は刻々と近づいてきている。バルコニーへダンスを終えた緋十郎とレミアが連れ添って出て行った。
 二人言葉なく、そっと寄り添って月を眺める。誰も入り込めない絆がそこにはあった。
 同じように人混みから消え二人だけの時間を持つため古城の天辺に上ったカミユと京香。
 二人きり月を背後に京香は両手で包むようにして持っている袋に視線を落とす。
「カミユ……実はプレゼントがあるの。だから言ってもらえないかしら……」
 その一言に素直に「トリックオアトリート」と答えるカミユ。その一言に手にしていた袋をカミユの手に乗せた。安堵と共に微笑みが京香の顔に零れる。
 中身はカミユの為に真心を込めて作った手作りだ。
 カミユは喜んで受け取るものの味覚が無いため、少しだけ申し訳ない気持ちになる。
「すごく嬉しい。ありがとう。味わって食べるね」
 それでも精一杯の感謝を京香に伝えようとした。渡されたお菓子の味が分からなくとも込められた真心の味は分かるだろう。それが気持ちが伝わるということだ。
 月が古城を照らしている。
 フォルクスが啼いた。多くの人影は消え、一部は残骸が残る。不思議な余韻が残った。

「――そうか、貴様が愉しかったのであれば良かろう」
 全てを終えた、帰り道、南瓜頭をとったΩの顔は何の変化も無いが、この日は楽しかったと言うのを聞きアンノウンは良かった、と頷く。
 顔や態度には出ないが、Ωが楽しかったという事実はしっかりと彼は解っていたのだ。また機会があれば人に慣れさせるため連れ出すのも良いだろう。
 こうして一夜、不可思議で不気味な妖しくも盛大な宴は、静かに幕を下ろした。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 傍らに依り添う"羽"
    アトリアaa0032hero002
    英雄|18才|女性|ブレ
  • 罠師
    Dominoaa0033
    人間|18才|?|防御
  • 第三舞踏帝国帝王
    Masqueradeaa0033hero001
    英雄|28才|?|バト
  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 生満ちる朝日を臨む
    真昼・O・ノッテaa0061hero002
    英雄|10才|女性|カオ
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 断罪者
    凛道aa0068hero002
    英雄|23才|男性|カオ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • エージェント
    桜寺りりあaa0092
    人間|17才|女性|生命
  • エージェント
    比蛇 清樹aa0092hero001
    英雄|40才|男性|ソフィ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • エージェント
    Ωaa0331
    機械|10才|?|生命
  • エージェント
    Unknownaa0331hero002
    英雄|47才|男性|ドレ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 分かち合う幸せ
    笹山平介aa0342
    人間|25才|男性|命中
  • 薫風ゆらめく花の色
    柳京香aa0342hero001
    英雄|24才|女性|ドレ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 私ってばちょ~イケてる!?
    春日部 伊奈aa0476hero002
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 花の守護者
    ウィリディスaa0873hero002
    英雄|18才|女性|バト
  • エージェント
    十影夕aa0890
    機械|19才|男性|命中
  • エージェント
    シキaa0890hero001
    英雄|7才|?|ジャ
  • 自称・巴御前
    散夏 日和aa1453
    人間|24才|女性|命中
  • ブルームーン
    ライン・ブルーローゼンaa1453hero001
    英雄|25才|男性|ドレ
  • 死を殺す者
    クレア・マクミランaa1631
    人間|28才|女性|生命
  • ドクターノーブル
    リリアン・レッドフォードaa1631hero001
    英雄|29才|女性|バト
  • コードブレイカー
    賢木 守凪aa2548
    機械|19才|男性|生命
  • 真心の味わい
    カミユaa2548hero001
    英雄|17才|男性|ドレ
  • やるときはやる。
    呉 琳aa3404
    獣人|17才|男性|生命
  • 見守る視線
    藤堂 茂守aa3404hero002
    英雄|28才|男性|シャド
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
  • 生命の意味を知る者
    一ノ瀬 春翔aa3715
    人間|25才|男性|攻撃
  • 生の形を守る者
    アリス・レッドクイーンaa3715hero001
    英雄|15才|女性|シャド
  • 光旗を掲げて
    フィアナaa4210
    人間|19才|女性|命中
  • 翡翠
    ルーaa4210hero001
    英雄|20才|男性|ブレ
  • 悪気はない。
    酒又 織歌aa4300
    人間|16才|女性|生命
  • 愛しき国は彼方に
    ペンギン皇帝aa4300hero001
    英雄|7才|男性|バト
  • 暗闇引き裂く閃光
    大門寺 杏奈aa4314
    機械|18才|女性|防御
  • 闇を裂く光輝
    レミ=ウィンズaa4314hero002
    英雄|16才|女性|ブレ
  • エージェント
    天野 心乃aa4317
    人間|16才|女性|攻撃
  • エージェント
    aa4317hero001
    英雄|15才|女性|ドレ
  • 不撓不屈
    ニノマエaa4381
    機械|20才|男性|攻撃
  • 砂の明星
    ミツルギ サヤaa4381hero001
    英雄|20才|女性|カオ
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