本部

拝啓

布川

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2016/10/07 21:48

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掲示板

オープニング

●とある秋の日の休日
「こんにちはー、宅配便です」
 チャイムが鳴る。仕事の報告書をまとめていたコリー・ケンジ・ボールドウィン(az0006)は相方ネフィエ・フェンサー(az0006hero001)に目線を送るが、ネフィエは動く気配がない。
「宅配便ぐらい受け取ったらどうなんだ」
「……今、忙しいんだよね」
「どの口が言うか」
 ネフィエはといえば、のんびり外を眺めているだけで全く立ち上がる気配がない。
 仕事に行っている間に随分と郵便物が溜まっていたようである。ふと、一枚の紙が目に入った。H.O.P.E.からの知らせである。
「なんだ? 妙にアナログだな」
 ぺらりとめくる。飛び込んできた文章は、『お手紙、書きませんか?』――というものだった。

『エージェントのみなさま、いかがお過ごしでしょうか。
 能力者と英雄、エージェントとしての活躍には、お互いの絆が必要不可欠です。
 相棒に言いたくても直接では言えないことはありませんか?
 そんなときは、手紙を出してみるというのも一つの手です。
 我々H.O.P.E.職員が、責任をもってお手紙を届けいたします。この機会に、お手紙を出してみるのはいかがでしょうか?』

(手紙……か)
 コリーはちらりとネフィエを見て、それから少し頭を掻いた。はてさて、一体何を書いたものか。

 そして、H.O.P.E.のキャンペーンの知らせは、エージェントたちの下へと届くのだった。

解説

●目標
 郵便を出し、又は受け取り、それぞれ交流を温める。

●解説
エージェントたちはそれぞれ誰かに郵便を出すか、郵便を受け取ります。
相互に手紙を出し合っても構いませんし、片方が出し、片方が受け取るという形でも構いません。手紙が届いてから、それに対峙てまた返事を書くというプレイングも可能です。

基本的には能力者⇔英雄のやり取りを想定していますが、相互に許可があれば他の参加PCとお手紙を出し合っても構いません。
(※他のNPCや参加していないPCに送ることは、リアクションの点で難しいでしょう)

なお、郵便は手配してから届くまで数日を要することになります。

●登場
コリー・ケンジ・ボールドウィン(az0006)。
強面だが面倒見の良いH.O.P.E.の教官。相棒に何か書こうと思っているが、何を書けばいいか悩んでいるようだ。
基本的には空気ですが、もしなにか、相談するプレイングorアドバイスするプレイングなどありましたらどうぞ。

ネフィエ・フェンサー(az0006hero001)
コリーの英雄。基本的に無気力。

●プレイング
主に、
・手紙の内容
・それに対するリアクション
をお願いします。

他には手紙を準備するまでのあれこれや、言語、字の上手下手などご自由にご記入ください。

●注意点など
もしも手紙と一緒にプレゼントなどするとして携帯品や所持金をフレーバーとして消費したい場合は、プレイングにご記入ください。
また、この依頼でデータ上のアイテムのやり取りはできないものとします。

リプレイ

●御神と伊邪那美
「さて、何を書いた物か……」
『う~ん、新しく契約した子達の為の催しかな?』
 御神 恭也(aa0127)の後ろから、伊邪那美(aa0127hero001)がひょこりと覗きこむ。
 無口がちな御神がどのような文章を書くのか、伊邪那美は興味津々だ。伊邪那美はむやみに行ったり来たりしながら、進捗具合をちらちらと眺めていた。

 それが、数日前のこと。

 伊邪那美はなんとなく郵便配達が気になって、それが微妙な日課になったような気がする。
 そもそも、自分に届くのかどうかすら不明瞭ではあるのだが。
 だから、封筒から見慣れたパートナーの字が見えたときは心が躍るような心地がした。

 封筒の表には、御神の人柄を現したような、確りとした文字が踊っている。
 宛名には自分の名前。

 喜んでいたものの、内容を読むにつれて、その表情は少しずつ微妙な顔になっていく。

「俺が学校に行っている間の昼食は皿洗いをしろとまでは言わないが、せめて水に浸けて置く事」。
「掃除や洗濯等は機械類が使えないから期待はしないが、脱いだ物を放り出して置かないで脱衣籠に入れろ、自分が出した物はちゃんと仕舞え」。
 とどめには、「友人達が新たな契約を結んで、新人を迎えたのを羨む気持ちは判るが犬や猫の子を貰ってくる訳じゃないんだからとりあえずで契約を結ばせようとするのは止めろ」ときたものだ。
 それがしっかりとした字で綴られているものだから、どうにも。

『うが~! これって手紙と言うよりボクに対する批判状だよね?』
 手紙を握りしめ、伊邪那美は憤慨していた。

 期待した分損した気分である。
『大体、内容が一方的過ぎるよ。昼食の片付けだって偶に忘れる位だし、服とか物とかも後で纏めて片付けようと思ってたのに恭也が先に片しちゃうだけだもん』
 偶にというのは実際のところゆうに半分以上超えているのではあるが。
 あんまりだ。――ふと、伊邪那美は手紙の最後に付け加えられた追伸に気が付いた。
『あれ、まだ続きがある』

「追伸。
……私生活では多々問題はあるが依頼の遂行に関しては大いに助かっている。面と向かって感謝の言葉を送れば、お前が調子に乗りそうなので此処に記させて貰う。力に関しては言うに及ばないが、俺に無い発想や明るい感情は何時も助けられている」

『……ありがとう、感謝している?』
 伊邪那美は手紙の文面をなぞるように口に出す。単純なもので、先ほどまでの憤慨はどこかへ行ってしまった。
 みるみるうちに心が温かいもので満たされていく。
『まったく~、恭也はしょうがないな~。ボクが居ないと駄目だなんて~』
 口を尖らせつつ、もう一度手紙に目を落とす。
 しっかりとした存在感を持った胸を張るような文字が、やっぱり感謝の言葉を継げている。
 そこまで頼まれたら一緒にいるのもやぶさかではない、なんて。
『ホント、しょーがないな~』

●白神とアーサー
 アーサー ペンドラゴン(aa4444hero001)は手紙を受け取り、宛名を確かめてほんのわずかに息をのんだ。
 白神 日和(aa4444)からの手紙だ。
 いったい何が書いてあるのだろう。
 アーサーは、ゆっくりと手紙を開封した。白神の文字は、女性らしさのない普通の読みやすい字だ。
 アーサーは金色の目を細めて、文字を追う。

「拝啓、空が高くなり、白い雲がたなびく季節になりましたが、貴方はいかがお過ごしですか?

この世界に来たばかりの貴方には何もかもが新しいでしょう。これから貴方はこの世界の秋を経験して、冬を知るでしょう。夏は貴方が私を抱えて川に飛び込むくらい、暑かったですね

冬はきっと貴方が炬燵から動けなくなるくらい寒い季節です。貴方は風邪を引くかもしれません。
ですから、寒かったり、体調が優れなくなったら、すぐに私に言ってくださいね。
貴方が健やかに過ごせることを心から願っています。
白神 日和より」

 しめくくりのサインを指でなぞり、アーサーは、怪訝そうに手紙を眺めた。手紙にするからにはなにかあると思っていたのだが、驚くほどに何もない。それどころか。

「(……私のことしか書いてはおらんではないか。私に対する不満も、私に対する要望の無い手紙だ。あるのは私を案ずる言葉だけだ……)」
 なぜだか、その事実が重くのしかかる。心地良いような、身を任せてしまいたいような感情。しかし、アーサーの心のどこかで歯止めがかかる。
「(なんだろうこの言葉が、何故か、初めて、投げかけられた言葉のように感じる……。
私は……私が日和と出会う前の私は、誰かにこんな風に心配してくれる者はいなかったのか……?)」

 しばらく手紙を眺めていたアーサーは、ふと、ペンをとった。流れるような筆跡が、便箋をゆっくりとなぞっていく。

 数日後。
 白神のもとに、品のある便箋が届いていた。
 日和へ。
 一行目を読むと、名前を呼ばれたような気がして、嬉しいような気がした。きょろきょろと辺りを見回してみるが、アーサーはそ知らぬふりをしていた。

「日和へ
手紙、受け取ったぞ。
夏は本当に暑かった。お前を少し恨んで、意趣返しにお前を抱えて川に飛び込んだ時、実は楽しかった。
あの時も、お前は自分の身を顧みず、私を心配していたな」

「……飛び込んだ後、アーサーさん、盛大に風邪ひきましたよね!!?」
 楽しかったのか。白神は思わず、笑みをこぼした。楽しかったなら、良かった。

「お前がいつも私を心配して、私に気を使う時、何故だがそれが凄く新鮮なもののように感じた。
お前が私の体調を聞く時、お前が私のことを聞く時、何故だがとても嬉しかった。
可笑しな話だ。私はお前と会う前は王であった。そして、絶望に包まれた死人であった。
それ以外覚えていないはずの私が、そんな思いを抱いたのだ。
だが、お前と過ごす日々は嫌いではない。それだけは確かだ。
これから来る秋はどんなものだ? これから来る冬はそんなに寒いのか?
お前と過ごす未来が、私は待ち遠しい
アーサー・ペンドラゴンより」

 待ち遠しい。それは、白神にとっても同じ気持ちだ。
 明日が、この先の未来が楽しみだった。手紙を几帳面に折りたたむ。

●真壁とアトリア
『好きな色? 何ですか、藪から棒に』
 真壁 久朗(aa0032)に尋ねられ、アトリア(aa0032hero002)は怪訝そうな表情を浮かべた。
「直感で答えてくれればいい」
『変な人ですね。……好きな色は赤です』
「他に好きなもの何か無いか?」
『……無いわけではありませんが、秘密です』
「そうか」

(このままでは良くないと思うのだが……)
 朴念仁と思われることの多い真壁と、何かと決断が素早く、はきはきとしたアトリア。
 誓約を結んだはいいものの、真壁が口を開けば彼女を怒らせてしまい、未だにまともに会話が続かない。
「あちらも中々頑固者だからな」
 真壁はアトリアに手紙を渡そうと考えていた。手紙といっても、そんなもの一度も出した事など無い。セラフィナに頼るのもそれは他力本願過ぎるかと思った。
 好みを聞いてみたものの、手に入った情報は好きな色に関するもののみだ・

(むしろこんな回りくどい事をしてもまた彼女に『無駄の多い男ですね』と罵られかねないのではないか?)
 悩んでも一向に関係が好転する気がしない。
(せめて何かのきっかけになればいいが)
 外へ出た真壁は、彼女の髪色に似た真朱の封筒と、綺麗な花の描かれた便箋を手にとった。

 首尾よく準備を整えたところで、真壁はまた壁に行き当たる。

「……人に自分の気持ちを伝えるのが一番苦手なんだが」
 何を書いたものか。真壁の脇には、みるみるうちに書き損じが増えていく。
 どの言葉も文字にしてみるとしっくりとこない。
 ふと、真壁は、今まで自分が人にしてもらったことを思い返した。
 思いついた後は、意外なほど早く書き終わった。書いたことは場所と時間だけであるから、それも当然なのであるが。

『てっきり果し状かと思いました』
「そんな剣呑なものは送ってない」

 町外れの小高い丘からは、夜空がよく見える。
 面と向かってじっくり話したほうが伝わるだろうと思った真壁は、丘にアトリアを呼び出したのだ。
 あまりにシンプルすぎる手紙は、思わぬ誤解を招いたようだったが。
 とりあえず、誤解はとけたようである。アトリアは真壁に続いて丘に座る。

 街の明かりの乏しいこの場所からは、星が良く見える。
「単刀直入に話す。その方がいいだろう? ……俺の何が嫌なんだ?」
『……いきなりですね。別に嫌という程ではありません』
 ロマンチックとは遠い物言いだ。アトリアはふうと息をついた。
『……アナタを怒らせたかったのですよ。何を考えているのかわからなくて。でも、ワタシが何を言ってもアナタはただの一度も怒らないから……引くに引けなくなった。それだけです』
 素直な気持ちが、意外なほどすらすらと出てきた。こんなことを言ったら怒るだろうかともちらりと思ったのだが、真壁はどちらかというとほっとした表情を浮かべていた。
「……良かった。どうしようもないことだったら困り果ててた所だ」
 良かったとは予想外だ。
『全く器が大きいのか鈍感なのか……いえ、ワタシも意地を張りすぎましたし……少し態度を改めます』
「そうか」
 アトリアは、意外にも手紙をしっかり手に持っていた。
『……この便箋中々悪くありませんね。気に入りました』
 かろやかな風の音が、二人の間を吹き抜けていった。

●荒木とメリッサ、そして、三ッ也と酉島
『たまには、お手紙も良いわね~』
 メリッサ インガルズ(aa1049hero001)と荒木 拓海(aa1049)は、部屋でのんびりとお茶をしていたところだ。
「えっ書いて欲しい、とか?」
 反射的にそう聞いてしまうのが、女心を察するのが壊滅的な荒木である。
『……い、要らないわよ! お友達に出すのも良いと思ったのよー!』

 友達と言われて浮かんだのは三ッ也 槻右(aa1163)の顔だった。
 選んだのは緋色の便箋と封筒だ。
 荒木の字は、あまり上手な字ではない。けれど、大きめで丁寧な字だ。
 慣れない作業に、書き損じが増えていく。
 しばらく便箋と格闘して、ようやく書き上げた。けれど、その手は宛名を書く段になって止まった。
『出さないの?』
「うーん……」
 上手に書けているかどうか、いまいち自信がない。

 出すか出さないか。
 第三者の目から見てもらえば、安心だと思った荒木は、コリーに手紙を見せることにした。
「何時ものオレと違う雰囲気で……どうかな? 迷惑でなきゃ良いが」
 しばらく手紙を読みいっていたコリーは、顔を上げるなり言った。
「迷惑なもんか。よく書けてるじゃないか」
 試行錯誤したのだろう。気持ちの籠った手紙だった。無骨だが丸みを帯びたその筆跡には、なんとなく人柄の良さが現れているような気がする。
「俺も、こんなふうに書けたらいいなと思うよ。貰って嬉しくないわけがない」
 ポンと背中を叩かれる。それを聞いて、ようやく出す決心がついた。

 荒木はきちんと手紙を出してきたらしい。
 それでも、荒木が何だか微妙な、何か言いたそうな顔をしているのに、メリッサは少しだけ首をかしげる。食卓の上を片付けようとしたとき。
 桜色の封筒が目に止まった。
(もしかして……)

 三ッ也への手紙を書き終えた荒木は、ペンを置いた後、暫し考え込み、再度ペンを握っていたのである。

(意地悪くてすまん……言うべき時には形にしないと、とは思うが、どう言葉にすれば良いか判らないので、感じてる事をただ綴るよ)

 槻右のより少し小さい字で、丁寧に綴られた言葉。

 こんな奴だが、これからも共に居たい。当たり前のように並び過ごす日々が長く続く事を願う。……内容は、彼らのみが知るところである。

『契約だから、ではなく……私は望んでここに居るのよ、自信を持ちなさい』
 メリッサは照れ臭げな微笑みを浮かべ、大切そうに手紙を持った。

 それから数日後。
 槻右宅には珍しい綺麗な封筒が届いていた。
「あれ? 拓海からだ」
 急ぎ自室へ駆け込むと、丁寧に封を切って読む。書き出しは、自分の名前。
「槻右さまへ……か」
 宛名の様に、なんだか改まったような、それでいて親しいような気分を覚えた。真面目な手紙なのだ。

「突然の手紙……驚くよな?
企画を知り、ずっと相棒をしてくれる槻右に書きたくなった

行き詰る時
話しを聞いてくれてありがとう

心の置き場が判らず自分が自分で無くなる時
戻してくれてありがとう

それでも戻れず迷い道を選ぶと
先を承知で共に行こうとするよね
だから巻き沿いにしない為
自分を律しなくてはと思った

槻右の優しさが嬉しくて、変えたくなくて
接する自分も優しくありたいと思った
強く成りたいと願った
この世界の理を学ぼうと思った

会わなければ「自分はそういう奴」と割り切り
ただ過ごしたかも知れない
そして、それは槻右も同じでは?と感じてる

一緒に居て共に変われる
そう出来ると思える相手と
出会わせてくれた、今の仕事にも感謝したい

……面と向かい話すのは照れるので手紙で

荒木拓海」

 気が付けば、一息に読んでいた。
 暫く言葉にならない様な、とても暖かな気持ちが満ちていた。そっと手紙を置く。
「返事……書こ」

 三ッ也は書く事を考えつつ、家を出る。彼は普段、手紙を書かない。まずは、封筒や便箋を買い揃える所からだ。
 どれがいいかと売り場を見渡し、手触りのいい落ち着いた白のセットが目に入った。これならば荒木にぴったりだと直感する。
 ふと、メッセージカードが目に入った。開くとお菓子の絵が飛び出すカードだ。こちらは、英雄である酉島 野乃(aa1163hero001)に渡そうか。

「どう、書けばいいのかな、拝啓……では少し堅いかな」 
 戻った三ッ也は、やはり手紙を何度か書き直していた。
 彼の字も決して上手くはない。けれど、読みやすい事を一番に、丁寧に書いていく字だった。

「荒木 拓海 様


とても暖かな手紙をありがとう
驚いたけど、凄く幸せな気持ちになった

どうお返事を書くか迷うな……
でも素直に書くね

僕もこの仕事に就いて
拓海に出会えて本当によかった

拓海は誠実で
繊細な優しさも
激しく厳しい面も持ってる
でもその全てが拓海の持つ魅力と思う

僕はへたれで
何度も拓海に弱音をはいて

その度に
温かい言葉をくれて
時に叱って

真っ向から言い合った事も
怒らせた事もいっぱいだけど

ずっと相棒でいてくれた
それ以上に
一緒にいる事を喜んでくれて
それが堪らなく嬉しいんだ

そんな拓海と居ると
僕も変わらなきゃって思える様になった

拓海が拓海らしく居られる様に
僕も僕らしく一歩先の自分に成りたいと思う

共に成長して
共に進めるように

これからもよろしくね


  三ッ也 槻右」

 夢中になっているうちに、夜半過ぎになっていた。ようやく納得できるものを書き終え、眠い目を擦る。それでも、次にまたペンを執った。こちらは、野乃へのメッセージだ。
 そっと部屋に入ると、カードを枕元に置いた。喜んでもらえるだろうか。

「野乃へ


いつもありがとうね
野乃が来て
家族の暖かさ思い出せた
きみに会えて
また歩き出せた

千も加わって益々賑やかだけど
これからもよろしくね


  槻右」

 翌日。
 意外にも、酉島は平然とした表情をしていた。特に反応はない……かと思えば、朝食を終えた食卓の上に、ノートの切れ端が載っていた。
 気が付けば、酉島がちらちらとこちらを伺うような表情をしている。照れたのか、ふいと目をそらした。

「水臭い
よろしくするのは当然じゃ
次は絵でなく
本物のプリンがよいの
気持ちは貰っておく


  野乃」

 三ッ也は思わず微笑んだ。
 今日はどこかでプリンを買ってこよう。そんなことを考えながら、背伸びをした。

 数日後、荒木は手紙を受け取っていた。
 真摯な気持ちを綴った手紙。真剣に伝えた気持ちに、真剣に返ってきた返事だ。
「貰う側も照れ臭いんだな……真っ直ぐ顔を見れるだろうか……」
 荒木は昨日よりもっと、二人と近くなれた気がして、嬉しくなった。

●天都と龍ノ
 龍ノ紫刀(aa2459hero001)は、天都 娑己(aa2459)が近くにいないことを確認すると、筆記用具を握った。露出度の高い服を好み、喋り方は軽い方ではある。けれど意外なことに、字は綺麗に整っていた。
 いつも馬鹿ばっかりやっているが、真面目なことを言えるのは手紙だからだ。
『……ふう』
 一気に書き終えた龍ノは、手紙の最後に桜の花びらを貼った。気が付いてくれるだろうか。二人が出会ったときの桜。押し花にしてとっておいたものだ。
 どんな反応をするだろうか。

「むらさきー、これ読んでいい?」
 予想外だった。後日、天都が手に持っていたのは、まさに龍ノが書いた手紙だった。
『ちょ……な、なんで持ってくるの!?』
「だって、むらさきからだから……」
 一直線に突っ走る天都は、時折、お馬鹿な行動に出る。かなり真面目に書いたものだから、目の前で読まれるのは恥ずかしい。
 お構いなしに天都は手紙を朗々と朗読し始めた。
「娑己様へ……」

「娑己様とはいつも一緒にいるから、こうやって手紙を書くことは初めてで、何を書いたらいいのか、少し戸惑っています。

娑己様と出会ってから、もう一年半も経つんだね。
娑己様は姫巫女様に似ているようで、でもやっぱり全然似てなくて。
馬鹿で、ドジで、いつも体当たりだから、見ててハラハラして放っておけない。
あたしが守らないとって思う。

でもね、気付けば、大事なときにはいつも娑己様に守られてる。
あたしが困ったときは、いつも、どんなときも助けてくれたよね。
自分がどんなに辛い状況でも、あたしに辛い思いをさせないように笑って立ち向かっていく娑己様を見て、胸が打たれたのを覚えています。

娑己様に出会えたことで、あたしがこの世界に来た意味を見つけることができたし、あたしの過去も、今も、そしてきっと未来も、素敵な価値のあるものになったんだなって、そう思う。

あたしと出会ってくれて、ありがとう。
これからもずっとよろしくね。


龍ノ紫刀」

 朗読は、途中で黙読になった。嬉しさでいっぱいになって、声にならなかった。表情は、真剣そのもので。文章を追う娑己を、龍ノはじっと眺めている。
 最後の文章に差し掛かると、貼り付けてある桜の花びらが目に入る。
 娑己の脳裏に、龍ノと出会ったときのことがよみがえる。今も、今だって。よく覚えている。
 胸が熱くなり、紫刀にぎゅっと抱きいた。
「私も……! ありがとう!!」
 同じように出会えたことが嬉しい。
『手紙ってさ、なんか、まっすぐ伝えられるっていうか……いいね、こういうの』
 いつになくまじめに、けれど、本当の気持ちを伝えた。紫刀は照れたように笑う。
「うん! 今度は私がお返事書くね!」
 同じように、出会えた感謝を。楽しみにしていると龍ノは言った。

●土御門と陸鴉
『ご主君に、書状を認めるのじゃ』
「手紙ねェ、しっかりとは書いたことねェなァ」
 グッと拳を握り、気合を入れて書き始める陸鴉(aa3499hero002)とは対照的に、土御門 晴明(aa3499)は冷めている。
 女の子らしい綺麗な字が、紙に踊る。草書体である。筆書きのはつらつとした線。
『ご主君が、いなければ、某は、ここにこうしておりませぬ。故にご主君には、感謝しきれぬ思い。いつか、ご主君に、褒められるように頑張りまするのでー』
「……」
 口に出しながら書いているせいで、内容は筒抜け状態である。
 手紙を書くつもりはなかったが、一生懸命文机に向かっているリクを見て、土御門は腰を上げた。
 内容は何が良いだろうか。おどおどとしている彼女は、なにかと失敗して叱られることも少なくはない。
 焦らずにゆっくりと上達していけばいい。……そう書くことに決めた。

 陸鴉のように筆を扱うこともできるが、今回は万年筆だ。ペンであろうともその筆跡は達筆だった。
 ついでに、何人かの知り合いの顔が浮かんだ。挨拶状のような、「これからよろしく」といった簡単な手紙を送ることにした。
「人づきあいが苦手だからな。このぐれェはやっとかねェとな」

 そして、数日後。

「いつの時代だよ、ったく。まァ、リクらしいっちゃらしいか」
 長いこと生きているらしい烏天狗の少女が送ってきたのは、折封の書状だった。土御門は苦笑いを浮かべる。所々、間違いもあったが、それでも、一生懸命に書いたことはよくわかる。
 届くかどうかばかり気にしていた陸鴉は満足そうにしていたが、不意に、自分にも一通の手紙を渡されると、目を丸くした。
『ご、ご主君から、お、おお、お手紙が届いたのじゃ!!』
 ぴしりと姿勢が伸びたかと思うと、手紙を置いて、意味もなく正座をする。正しく一礼した後、おそるおそるといった様子で手紙を持ち上げ、ゆっくりと震える手で手紙を開く。
 拝読。
 読み終わったあと、再びの一礼をして、目の前にそっと手紙を置いた。そして、また一礼して、再び拝読をしている。
「いや、普通に読めよ」
『な、なにをいいますか!? ご主君からのお手紙なのじゃ。無理なのじゃ。某の家宝じゃ』
 、言ってることが訳が分からないことになるくらい興奮しているようだ。

 ゆうに一日中そうしていたが、さすがに寝床には持ち込めない。しっかりと手紙は宝箱に保存して、一仕事終えたとばかりにムフーと誇らしげな顔をするのだった。
「……光物はなんもついてねェんだけどな」
 それを受けて、陸鴉は満面の笑みを浮かべる。
『ご主君からいただけるものは、どのようなものでも輝くのじゃ』

●ナガルと千冬、ゼノビアとレティシア
(日本語はちょっとむずかしいけど、頑張ったらいけるはず!)
『手紙……ですか。出した事はありませんが……この機会であれば、良いかもしれませんね』
「ちーちゃんはお手紙誰に書くの?」
『……内緒です。文章に出来るかも怪しいですから』
 ナガル・クロッソニア(aa3796)と千冬(aa3796hero001)は、レターセットを探しに文房具屋まで来ていた。
 離れたところでは、それぞれ、三ッ也と真壁が便箋を選んでいたようだ。

(私は……お世話になってるレティシアさんに書こうかな)
 好奇心にまかせて売り場を真剣に行ったり来たりとしていたナガルは、レースの飾りのついた可愛らしい便箋を手に取った。千冬は、シンプルな品のある白い便箋に決めたようだ。

「さって、書くぞー!」
 腕まくりをしたナガルは、便箋に向かい、うんうんと唸りながら、ゆっくりと文字を書いていく。千冬はといえば、珍しく幻想蝶の中にこもっているようだ。

(牢獄にも似た空間ですが……今はそこまで息苦しくもない)
 千冬は、しばらく思案した後、初めて買った万年筆を握る。日本語で大丈夫だろうか。
送る相手は……。

「おわったー!」
 格闘を終えて、ナガルはようやくペンを置いた。
 上手とは言えないが、気持ちだけは込めた自信がある。
 千冬はとっくに書き終えていたようだ。

『れていしあさんへ
いつもちーちやんとわたしがおせわなってます
またいしょにあそんでくだちい!
ながる より』

『ゼノビアさんへ
貴女と出会い、一つの季節を越えました。
海や色々な場所へ行きましたが、時間はまだ足りないものですね。
また近く、共に過ごす時間を頂ければ幸いです。
この先多くの幸が、貴女にあらんことを
千冬』

「……き、きっと通じるよね! レティシアさんだもんね!」
 肉球の形のシールで封をする。

『無事届けば良いのですが』
 手紙をポストに投函するナガルと千冬。

「気になるやつがいるなら手紙でも出したらどうだ」
 レティシア ブランシェ(aa0626hero001)はゼノビア オルコット(aa0626)に、もう少し、人付き合いに関して積極的に挑むような勇気を持って欲しいと願っているのだ。
 誰に書こうか。ゼノビアが浮かべたのは、千冬の顔だった。
 異性として意識し始めた彼と、もっと話がしたい。きっかけになるかもしれない。

 ゼノビアはコスモスが描かれた便箋を用意した。
 彼女の字は丁寧で細く小さく、ややぎこちない。
 以前の仕事のこと。一緒に行った旅行で、感謝の気持ちを抱いていること。
「ナガルちゃんはお元気ですか? 第二英雄さんとはうまくやれていますか?」
 機会があったら会ってみたい、です。

 それはぎこちない、「です」が多用された手紙だった。
 便箋は3枚になった。ふと、ゼノビアは2枚目を裏返した。裏面に書くのは、直接言う勇気はまだ出ないから。気が付きにくい場所にしたのは、……わざとだ。
 気づいてくれたらいいなという気持ちで、自分の素直な気持ちを、美しい英語の筆記体で綴る。
(きっと、千冬さんは、英語が読めないだろうから)
「今度はもうすこしだけ長い時間、二人で一緒にいたいです」

 そして、数日後。
「仕事を始めて1年間、頑張ったな。お疲れ様」
 英語で書かれたカードが、ゼノビアからレティシアから届いた。くまのぬいぐるみ。紅茶入りクッキー。そして、流れるような英語の筆記体で書かれたカード。どれもこれも、好みを踏まえたものだ。
 ゼノビアはくまのぬいぐるみをぎゅーっと抱きしめ、レティシアにお礼を言う。レティシアには、ナガルから手紙が届いているようだ。ゼノビアもまた、彼女に短い手紙を送ったらしい。
「まだあったぞ」
 千冬からだ。胸が高鳴るような心地がする。一人で読むことにして、部屋にそっと手紙を持っていく。
 紙の辞書を片手に、机に向かう。

 ナガルと千冬宛にも、手紙が届いていた。

「ちーちゃん! お手紙だよ!」
「……おや、私宛への手紙ですか」
 千冬はそっと手紙を開く。ナガルはなんて書いてあるのか興味があるようだが、流石に読んだりはしない。
 しばらく手紙を眺めていた千冬は、思わず頬を緩めた。なぜかなのかは、本人たちのみ知るところである。――少なくとも、千冬は何か国語かに堪能なのである。
「……これは、直にお伝えしたほうが良いかもしれませんね」
「お手紙って、メールよりドキドキするね。ちーちゃん!」
「ええ、そうですねマスター。……私は、少し出掛けてきます」
「そう? いってらっしゃい!」
 返事の内容を考えているナガル。
「……これが、ヒトの感情でしょうか」
 胸を押さえ呟いた千冬の言葉は誰にも聞かれることはなかった。

●誰かからの手紙
「カイ、テイルちゃんとこの部屋の掃除行ってくるね」
『ほいよ~』
「それと、今日はテイルちゃんとこお泊りしてくるから晩御飯は……」
『あー。了解』
 御童 紗希(aa0339)を見送ったカイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)は、昨日のカレーの残りを食べることにした。行ったかと思えば、御童はまたひょっこりと顔を出す。
「夕方ポスト見といて。それからソファでテレビ見るのはいいけど寝るときは……」
『はいはい、ちゃんと自分の部屋で寝るから』
「じゃ、いってくるね』

 夕方ロビーのポストまで行き郵便物を確かめたカイは、見慣れぬ郵便物を手に取った。
『なんだ? コレ』
 それは、HOPEのエンブレムが小さく印刷されたカイ宛の封筒だった。のんきなキャンペーンのお知らせとはまた違う、事務的な封筒。

 部屋に戻り封を切る。ことりと小さな音を立てて、指輪が転がってきた。
 中に入っていたのは一枚の手紙と、小さな銀の指輪だった。

【この手紙を読んでいるということは私はもうこの世界には居ないのでしょうね
そして貴方は昔のことを忘れて新しい生活を送っていることでしょう
私は「マリエル・ベルナール」貴方のパートナーです
いえ
でしたと書くべきでしょうね】

 カイは、手紙を凝視した。妙な汗がにじむ。
『なんだこの手紙……?』

【私と組んでいた時、あなたは「カイル」と名乗っていました
どうしようもなく生真面目で
お酒も飲まない貴方は暇さえあればずっと仕事の話ばかり
でも私はそんな貴方が好きでした】

 手が震える。いったい何のことなのか、分からない。けれど否定できなかった。
 愛している?

【貴方も「愛している」と言ってくれましたね
「共鳴時の能力を向上させる」と言われている銀の指輪をくれました
願わくばこの身の天寿を全うし
二人で土に還ることができればこれほどの幸せなど無いでしょう
この手紙が貴方の元に届くことなく廃棄されることを願って……

マリエル】

 ――マリエル。

 カイは支部にバイクを走らせると、エージェントの記録を端末で調べた。マリエル。マリエル・ベルナール。記録によれば、彼女は確かに存在していた。
 記録によれば、それは、紗希と契約する少し前のことだ。北米での大規模戦で彼女は愚神の攻撃を受け、その遺体すら残らなかったのだという。
 経歴の最期に表示されていたのは、「LOST」。
 マリエルの写真を見た瞬間、息が詰まる。
 マリエルは、紗希が彼女の歳になればこんな顔立ちになるであろう女性であった。

『なんだよ……これ……』

 どうして、今更。どうして、手紙が届くのか。

 強烈な危機感を覚えて飛ぶように家に帰ったカイは、家の中を探した。御童が居ない。出かけているのだが。正常な判断を失いつつあった。
 取り乱しそうになったとき、ガチャリと扉が開いた。
 間の抜けた声が聞こえた。

「ただいまぁ」
『紗希……』
「もうテイルちゃんち掃除しても3日経つと元に戻っちゃうんだよねぇ」
 リビングへ入った御童を、カイは突然抱きしめた。
「ちょ……ちょっとカイ! なによとつぜ……」
 御童がカイを見上げると、暖かい涙が彼女の頬に落ちてきた。
「え……?」
 まるで、体温を確かめるように。
 理由は聞けなかった。けれど、どうしてか離れてはいけないような気がして、カイの気が済むまで、御童はぽんぽんと背中を優しくさすってやることにした。

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結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 傍らに依り添う"羽"
    アトリアaa0032hero002
    英雄|18才|女性|ブレ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • シャーウッドのスナイパー
    ゼノビア オルコットaa0626
    人間|19才|女性|命中
  • 妙策の兵
    レティシア ブランシェaa0626hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 拓海の嫁///
    三ッ也 槻右aa1163
    機械|22才|男性|回避
  • 大切な人を見守るために
    酉島 野乃aa1163hero001
    英雄|10才|男性|ドレ
  • 初心者彼女
    天都 娑己aa2459
    人間|16才|女性|攻撃
  • 弄する漆黒の策士
    龍ノ紫刀aa2459hero001
    英雄|16才|女性|ドレ
  • エージェント
    土御門 晴明aa3499
    獣人|27才|男性|攻撃
  • エージェント
    陸鴉aa3499hero002
    英雄|8才|女性|ソフィ
  • 跳び猫
    ナガル・クロッソニアaa3796
    獣人|17才|女性|回避
  • エージェント
    千冬aa3796hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • エージェント
    白神 日和aa4444
    人間|16才|女性|命中
  • エージェント
    アーサー ペンドラゴンaa4444hero001
    英雄|27才|男性|ブレ
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