本部

【卓戯】連動シナリオ

【卓戯】殺人機械行進

弐号

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/10/05 19:50

掲示板

オープニング

●ソニックパニック
 それは単なる霊石の探索任務のはずだった。
 ここは近未来的な世界観を模したドロップゾーン。
 町での探索シナリオだったという関係上あまり敵対するものがおらず、安全に霊石を採取して帰る。そんな退屈な任務のはずだったのだ。
『えー、このシナリオを作った人によると、奥の工場には敵をいっぱい配置していたらしいので今は近づかないでくださいねー』
 通信機からリリイ レイドール (az0048hero001)の声が聞こえる。
『まー、強固な壁で仕切られていて、それを破壊する事態にならない限り出てこないらしいんで多分大丈夫。あとでゆっくり処理しましょう』
 そこまで喋った所でドロップゾーン内部に轟音が鳴り響いた。
 強烈な激突音の後に、ガラガラと何かが崩れ落ちるような音。
 まるで――そうまるで強固な壁がぶち壊されて脆くも崩れ去ったかのような音だ。
『ちょ、ちょっと待って。状況を確認……』
「WOOOOOOOOON!!」
 サイレンの様な、あるいは人の叫び声のような、どちらとも言い難い大音量を発しながら赤色の何かが工場から続く大通りを超高速で爆走してくる。
「OOOOOOOoooooooo……」
 ドップラー効果の掛かった音と残像だけを引き連れてその赤色は真っすぐその場から走り去る。ほんの一秒もかからず、赤色は視界の届く距離から消えた。
『何、今の? バイク……?』
 バイクと言われればバイクだったかもしれない。だた、高さにして2mを超え、誰も乗らずひとりでに走る二輪走行車をそう呼んでいいのであれば、だが。
『えっと、バイクを追って……いや、違うな。あれは無理だ。工場……そう工場から敵が出てきてます! 別の世界に拡散されると面倒なので処理してください!』
 若干ワタワタしながらリリイが指示を飛ばす。

 工場の壊れた壁からは様々な殺人機械達が姿を現していた。

解説

●目的 《愚神や従魔の撃破》
 工場から出てきたキリングマシーンをすべて破壊する。

●敵
ミーレス級従魔 キリングマシーン×5
 テーブルトークRPGのシナリオの敵を媒体に召喚された従魔。2m半ほどはある人型の機械の姿をしている。
 思考能力もあり従魔同士で通信を取り、連携や組織だった行動も行う。
 足にはタイヤもついており、平面での移動力はかなり高い。両手に節操なく色々なものが付いている。
 共通して頭部がセンサーになっているが、貴重な霊石が使われており壊さずに倒すと霊石が手に入るようだ。

・キリングマシーンの装備一覧
《ドリルアーム》:回転させて近接攻撃を加える。射程1。
《ダブルドリル》:両手がドリルの機体のみが持つスキル。【BS劣化(物理防御)】を付与する。
《シールドアーム》:巨大な大盾。
《マシンガンアーム》:弾幕を雨の様に降らせる。射程1~30。足に当たると【BS劣化(回避)】
《グレネードアーム》:爆弾を撃ちだし着弾させる。射程1~10。範囲3。
《ハンマーアーム》:ワイヤーの先の鉄球で攻撃をする。射程1~4。低命中高威力。
 基本左右で違うアームを装備しているが、両手ドリルや両手シールドのようなピーキーな機体も確認されている。


●状況
 夜の近未来的町並み。日は落ちているが照明は至る所に付いているため光量は問題ない。
 戦闘の場所として考える場所は3カ所である。
工場前:広い駐車場があり、見通しもよく障害物もない。ただし、敵が工場内に立てこもる可能性を考慮する必要がある。
大通り:町の中心を伸びる片道4車線の広い通り。左右は建物が立ち並んでいる。
市街地:碁盤の目に小さな道路が入り組む。分断しやすいが、同時にされやすい。遮蔽物が多く、視界は悪い。

リプレイ

●緊急配備
 その大きな破砕音は霊石を探していたエージェント達の耳にもしっかり届いていた。
「きゃあ!」
「何だぁ? 何の音だ?」
 カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)が突如聞こえた謎の音に、咄嗟に契約能力者である御童 紗希(aa0339)を後ろにかばい周囲を警戒する。
「ロロ――」
「ええ、どうやら外からの音のようです。行ってみましょう」
 辺是 落児(aa0281)と構築の魔女(aa0281hero001)が探索をしていた建物から急いで外へと向かう。
「え、何? ど、どうしたの?」
「悩むのは後、いったん外に出るよ、黒絵」
 急に起こった異常に戸惑う桜木 黒絵(aa0722)の腕をシウ ベルアート(aa0722hero001)が掴み、半ば無理やり外へと連れだす。他のエージェント達もそれに続き次々と建物から離れる。
「どっちからだ?」
 月影 飛翔(aa0224)とルビナス フローリア(aa0224hero001)が外に出て早々、近くの手ごろな建物の屋上へと跳び上がり辺りを見渡す。
「リリイ様、音のした方角は分かりますでしょうか」
『ちょ、ちょっと待って。状況を確認……』
「WOOOOOOOOOOOON!!」
 オペーレーターであるリリイにルビナスが問いただすが、それに明確な返事が返ってくる前にそれは来た。
 一陣の赤い風。この近未来風の街を貫く大通りを高速で駆け付ける一台の巨大な機械。
「OOOOOOooooooo……」
 ほんの一瞬の残像とドップラー効果の掛かったサイレンの様な音を残して街を駆け抜け通り過ぎていく赤色。
『何、今の? バイク……?』
「素直にそう呼ぶのは憚られるね」
「このようなところにいきなり出てくるのが普通のバイクなわけがないですものね」
「というか、その前にデカすぎだよ」
 通り過ぎ、既にその姿を夜の街の彼方に消しつつあるそれを見ながら九郎(aa4139hero001)と国塚 深散(aa4139)がそう呟く。
 そのバイクは高さにして2mほどはあった。普通のバイクにしては規格外の大きさである。
「従魔か愚神の類であることは間違いないだろうね。やれやれ、今日は結羅織の手慣らしのつもりだったんだけど、これは緊急登板かな? いきなりの初陣だけど、大丈夫そう?」
 十影夕(aa0890)が誓約を結んで初めての戦いとなる結羅織(aa0890hero002)に声をかける。結羅織を心配した、というよりは夕自身が不安に思ったが故の言葉だったかもしれない。共鳴状態で戦うという事は運命を共にするという事。生半可な覚悟や信頼で行えることではない。
「ええ、お兄様。まったく初めての気がいたしませんわ」
 しかし、当の結羅織の方が拳を握り、闘志を伺える笑顔を浮かべている。
(ん……まあ、大丈夫そうかな?)
 その様子に少し安心しながら内心ほっと溜息を吐く。
「――で、どうすんだ、リリイ。アレ追うのか?」
『えっと、バイクを追って……いや、違うな。あれは無理だ。工場……そう工場から敵が出てきてます! 
別の世界に拡散されると面倒なので処理してください!』
 カイが呼び掛けるとワタワタと落ち着かない様子でリリイが指示を飛ばす。
「リリイさん、落ち着いてください……」
「そうそう、ショーの前には深呼吸。スーハースーハー……」
 想詞 結(aa1461)とルフェ(aa1461hero001)が通信機越しのリリイに声をかけ、深呼吸をして見せる。
『スゥゥ、ハァァ……。あー、ごめんね。アリガト』
 素直にその言葉に従って深呼吸をした後、改めて状況を確認する。
『一先ず、あのバイクに追いつくのは無理です。しばらく観測しましたけど戻ってくる様子もないんで、あれは無視します。代わりにと言ってはなんですが、さっき言っていた敵を閉じ込めていた工場の壁が破壊されました。その対処をお願いします』
「何なのかしらね、あのバイク。厄介なお土産だけ置いて行ってくれたわ」
「まったくだね。リリイさん。敵の数と特徴は分かりますか?」
『ええと、ちょっと待ってね……』
 梶木 千尋(aa4353)と高野 香菜(aa4353hero001)に聞かれ、リリイが何かを操作し情報を収集する。
『ロボっぽい従魔が5体、ですね。とりあえず、便宜的にキリングマシーンと定義します』
「ほほう、ロボ……」
 その報告を聞いた瞬間、唐沢 九繰(aa1379)の目が光った。
「これは興味深いですね……。ロボット研究部部長としてはぜひとも分解をして中身を確認しなくては!」
「……まあ、九繰さんの趣味に口出しはしませんけど、ちゃんとお仕事もして下さいよ?」
「それはもちろん! 任せて下さい!」
 心配そうなテグミン・アクベンス(aa1379hero002)にガッツポーズで答えて見せる九繰。まあ、この少女に限って手を抜くことはありえまい。それはテグミンにも分かっていた。
「ん、じゃあ私達も気合入れていこっか!」
「はい、主様!」
 その九繰の元気溢れる姿を見ながらシエロ レミプリク(aa0575)がジスプ トゥルーパー(aa0575hero002)に笑いかける。
『とりあえず敵の情報で分かった事は随時お伝えするので、よろしくお願いします。それでは……作戦開始です!』
 リリイの言葉を合図にエージェント達は一斉に動き始めた。

●機械釣り
「さて……あれが例の工場か」
 前方に敵が居座る工場を望みながら飛翔が呟く。
『1、2……どうやら5体とも外に出てきているようですね』
「ああ、ありがたい。中に立てこもられると厄介だからな」
 ルビナスの言葉に一人頷く。
「あらまぁ、変なロボ。装備に節操がなくて美しくねぇ……」
 その敵の姿にうんざりした口調で紗希が文句を言う。
 くすんだ銀色のボディにドリルやら武骨な鉄の巨大な盾やら鉄球やらと重機を思わせる装備を腕に着けたそれらの姿は、お世辞にも洗練されたデザインと呼べるものではなかった。
『あれがキリングマシーン……今回の敵か。随分とまぁ趣味的な相手だね』
 二足歩行型ロボットという合理性からは外れたデザインのそれを見ながら香菜が呟く。
「狙われる方としては堪ったものではないけれど。……ん、こちらに気付いたようね」
「好都合です、このまま釣りあげましょう!」
 深散が面々に声をかける。
 今、この工場へ向かって来たのは全部で4人。彼らの目的はここで敵を叩き潰す事ではなく、味方が有利な場所まで敵を誘導する事である。
 事前に受け取っていた地図データを元に戦場の構築と道順の確認は済んである。あとはこの武骨なロボをそこまで連れて行くだけだ。
「さてと、まずはちょっかいかけるぜ!」
 紗希が幻想蝶からアサルトライフルを取り出し、素早く照準を合わせる。
「行け!」
 気合の掛け声と共に複数の銃弾が真っすぐに従魔の元へと向かう。
「ギ――」
 ガキンという金属音と共に、従魔の掲げた盾にその弾丸は弾かれる。
「ち、防がれたか」
「――敵対勢力からの攻撃を確認。反撃を開始します」
「――グレネード来るぞ! みんな避けろ!」
 視線の向こうで従魔の一体がこちらに向けて銃口を向けるのを見て紗希が慌てて警告する。
「――爆撃」
「くっ! ……思った以上に爆風の勢いが強いわね」
 千尋が爆風やそれに伴って飛び散る石の破片などから顔を守りながら呟く。
『おっと、冷静に分析している暇はなさそうだよ、ほら』
「――!」
 香菜に言われ前方を確認すると、両手に盾を構えた従魔を先頭に一列になって突撃してくる姿が目に入る。
『じゃ、上手く片付けて見せてよ。がんばって』
「まったく他人事みたいに!」
 飄々とした香菜の物言いに文句を付けながら、千尋が魔導書を展開する。
「いいわ! 押し戻してあげる! 『アルスマギカ・リ・チューン』! 派手に散れ!」
 魔導書の効果で若干テンションがハイになりながらも、戦闘の盾従魔に魔力塊を叩きつける。
 両手盾でガードするも勢いに押し返され、若干後方に揺らぐ従魔。
「木偶の数がどれほど揃おうと所詮は木偶よね!」
『千尋、いくら何でもハイになりすぎだよ!』
 従魔に一撃喰らわせた事と『アルスマギカ・リ・チェーン』の副作用によりテンション高めに見下した口調で叫ぶ千尋。
「――展開」
 しかし、攻撃を受けたとはいえ従魔の方も決して無策ではなかった。
 足の止まった戦闘の従魔を避けて、今度は一斉に横に広がり縦一直線から横一直線へと陣形を変える。
「――射撃」
 内一体、マシンガンアームを持つ機体が千尋に反撃の銃弾を放つ。
「きゃあ!」
 その銃弾で怯んだところに両手ドリルアームの機体が迫る。
「させるか!」
 しかし、その横から飛翔の投擲したスラッシュブーメランが従魔の脚の部分に激突する。
「緊急バランサー機動」
 若干揺らぐが倒れずそのまま横に進路がずれる従魔。
「時間を稼ぎます!」
 そこに深散がライヴスで編んだ網を投擲する。
 敵を拘束するその網は右側2体と、そして今飛翔が横に押し込んだ1体の計3体を巻き込み絡みついた。
「よし! 順調だ! あとは適度に叩きつつ退くぞ!」
 紗希が叫びながら唯一フリーに動いていた一体に銃撃を叩き込む。
 しかし、これは再びその大盾に阻まれた。
「くっそ、あいつらメンドクセー! 盾が邪魔なんだよ! 盾が!」
 そう喚くものの、実際にはその動きを阻害する事には成功している。ダメージにはなってはいないが目的は十二分に果たしてた。
「走れ!」
 飛翔の叫びと共にエージェント達は一斉に工場に背を向け走り始めた。

●鬼ごっこ
「お、来た来た来ましたよ」」
 遊撃班が引き連れてきた5体の従魔達を見てシエロが呟く。
「うーん、なんだか敵に親近感」
「いいえ! 主様とは似ても似つきませんな!」
 敵の姿を見て自身の機械化した脚との何となく共通点を見出したシエロにジスプが鼻息を荒くして答える。
「そう? ま、とりあえずありがとうね。それじゃいこっか、ジスプくん」
「はい!」
 元気よく返事を返しジスプが幻想蝶に触れ共鳴していく。
「ああ……熱い、予想してたけどナト君の時とは違い過ぎるねぇ……!」
(主様の感覚が自分にも……だがこれは、あまりにも凶暴過ぎないか?)
 シエロの笑みが普段の気の良い笑みから深い愉悦を感じさえる笑みへと変化していく。
「抑えきれない分は……暴れて発散するぜぇ!」
 堪えきれない、という様子で路地裏を飛び出し敵の方へ突撃するシエロ。
「わぁ、ロックンロールですね……。じゃあ、私達も行きましょう、テグミンさん!」
「ええ、九繰さん」
 九繰とテグミンの二人も互いに幻想蝶に触れ合う。この二人の共鳴は制約から共鳴の目的を述べながら行う必要がある。二人は同時に宣誓した。
「れっつ分解! ロボを分解して調べるよ!」
「仲間たちを守るために――って、ええ? そんな理由ですか!?」
 テグミンの驚きの声も飲み込むようにして共鳴する。
「さあ、いきますよ」
 シエロから一拍遅れて九繰も路地裏から飛び出した。
「おらぁ! こっち見ろー!」
 先頭を走っていた両腕盾の機体にシエロが真正面から殴り掛かる。
 この待ち伏せ作戦に置いて恐らく邪魔な奴はこいつだ。仲間達を庇われるように動かれると非常に厄介な存在である。いの一番に叩く必要があった。
「――敵の増援を確認。状況を更新します」
 シエロの鉤爪は盾に阻まれる。
「……」
 遅れて出てきた九繰は冷静に状況を確認して敵を見定める。両盾の機体はシエロが止めた。
 残る機体は4体。両手ドリル、銃とグレネード、盾とハンマー、ドリルと銃だ。
(うち、未だ全身を続けているのは……ダブルドリルとハンマー持ち)
 残る二体は既にシエロの出現を確認した時点で足を止め射撃体勢映ろうとしている。
「ならば私はあなたの相手をしましょう」
 九繰がハンマー持ちの機体に横から足元を狙い杖で殴り掛かる。
「――緊急バランサー起動」
 ぐらりと揺れ、従魔がたたらを踏んで止まる。
「ふーむ、これでも倒れないというのはバランサーの性能でしょうか、それとも……」
 盾を構えて防御の姿勢を取る九繰。同じく盾持ちの従魔も前面にそれを押し出し防御を固める構えだ。互いに足が止まる。
「――ピ。前線を突破します」
 その脇をダブルドリルの機体が高速で走っていく。
 足元の付属したタイヤを高速回転させて巨体を思わせぬ機動性で夜道を駆ける。
「――緊急事態発生」
 その従魔のタイヤが急に空回りし大きくバランスを崩す。
「――緊急バランサーき……」
「おっと、残念。寝ててもらうよ!」
 体勢を直そうとした従魔に、近くの路地から一陣の光と化した短槍がその体にトドメとばかりに激突し、従魔が成す術もなく転倒する。
「――路面状況情報更新」
「いや、効果あるもんだね。よく分からないオイルも」
 空になった元オイル瓶を見ながら夕がニコニコ笑う。
「さあ、足が止まったね」
 夕が通信機に口を近づけ呟く。
 確かに前衛後衛共に今この瞬間、全ての従魔の脚が止まった。
『さあ、まずはその脚を奪わせてもらいます』
『これなら盾も貫通するはず……! サンダーランス!』
『さあ、マジックショーの始まりさ!』
 構築の魔女の弾丸が、黒絵の雷が、ルフェの魔力弾が、それぞれの一体ずつの従魔の脚部に命中する。
「――損害確認。被害状況更新」
「――敵情報更新。劣勢と判断、作戦指針変更要請」
「――要請承認。作戦立案、C-03提案」
「提案承認」
 まるで輪唱のように5体の機体が次々と矢継ぎ早に何事かを喋る。
「お、おお……SFですね」
『通信で繋がっているのにわざわざ作戦を喋ってくれるなんて、馬鹿のする事のように思えますが』
「……その辺は元々ゲームの敵だからな。親切設計だったんだろう」
 目を輝かせる九繰とは裏腹に冷淡に言ってのけるルビナス。
「さあ、鬼ごっこの次はかくれんぼです、準備はいいですか、鬼さんたち」
 深散が続々と立ち上がる従魔達を見下ろし呟いた。

●強襲
「さあ、ここからが本番ですね……」
 見通しの良い建物の屋上で、銃に次弾を装填しながら構築の魔女が呟いた。
 先ほど3人が狙撃で足を狙ったのはいずれも遠距離武器を持つ機体、そして両盾の機体だ。
 そうする事で接近の必要がある近距離武器機体と、遠距離武器を持つ機体の距離が一層離れると踏んだからである。
「この齟齬が相手の分断に繋がればいいのですが……」
 心配をしながら敵が集まっていたところを再び見やる。既に近距離用の武器の敵はいなくなっている。残るは遠距離武器をメインとした従魔のみ。
「しばらくここから離れないでくださいね」
ここに一秒でも長く留まらせる。それが魔女の役割だった。それを担う為にさらに従魔の脚を狙い銃弾を放っていく。
 ひとまず今は順調。そう思考した瞬間――
 キュィィィンという甲高い音が構築の魔女の遥か下の方から聞こえてきた。
「――!」
 急いで構えていたフライクーゲルを幻想蝶へ仕舞い、双銃を取り出す。
 フライクーゲルは重くて長い分威力は高いが取り回しが効かない。接近されたのなら双銃の方が有利だ。
 今の音は恐らくドリルの回転音。従魔がこの下まで来ている。
「……業を煮やして私を狙いに来ましたか」
 ガッチャガッチャというけたたましい音が徐々に近付いてくる。ドリルを壁に突き刺して壁を登ってきているのだ。
 この屋上はそれほど広くない。今のうちに建物から降りるか?
 ……いや、機動力を生かされるとそれこそ辛い。ここで迎え撃った方がいいだろう。
 構築の魔女は覚悟を決めて音のする方向へ銃を構える。
「――敵発見。戦闘開始」
 屋上の端から頭だけを覗かせて従魔が喋る。
 一瞬撃とうか迷ったが、あの頭部は貴重な霊石が埋まっているという話である。出来れば無傷で手に入れたかった。
(出てきたところを撃つ)
 いつまでも頭だけ覗かせるわけにもいくまい。恐らく相手は両手がドリルの機体。構築の魔女に攻撃する為には近づく必要があるはずだ。
 そう思考する構築の魔女の足元から何かが崩れる音が聞こえた。
「――!」
 背中に怖気が走り、急いでその場から飛び退く。地面からドリルアームが伸びてきたのはそれとほぼ同時だった。
「――っ」
 構築の魔女が気付く方が一瞬早かったがそれでもドリルは魔女を追って迫る。
「インタラプトシールド!」
 そのドリルを宙に現れた大きな盾が受け止め、その軌道を反らす。
「魔女さん、大丈夫ですか!?」
「九繰さん、ありがとうございます」
 続いて九繰が従魔が来た方とは逆の方から屋上へ登ってくる。
 どうやら構築の魔女の状況を察して駆け付けてくれたらしい。
「さあ、おいたの代償は払ってもらいますよ」
 必殺のドリルを外され無防備となった従魔の腹に双銃の弾丸が次々撃ち込まれる。
「これでもロボには造詣が深いんです。どこをねじれば拙いのか、どこを叩けば壊れるのか。よーく知ってますよ。……テグミンさん!」
『お任せを』
 テグミンがカオティックブレイドとしての――武器としての本能と魂を呼び覚まし、その力を高めていく。
 グッと力強く九繰がダークリベリオンハンドを握りしめた。
「さあ、解体しましょうか」
 そうしていたずらっ子のような笑みを浮かべた九繰の一撃が、構築の魔女が空けた穴を起点に従魔の鉄の体に巨大な大穴を空けて見せたのだった。

●乱戦
「ヒュー、お姉さんカッコイイー!」
「あっはは! 任せなぁ!」
「すみません、ありがとうございます」
 結を肩に担ぎながらシエロがダッシュで市街地を駆け抜ける。
「後ろは来てるか!?」
「いえ、今のところ見えません!」
 いつもよりだいぶ荒い口調で尋ねるシエロに結が答える。
『主様、お気を付け下さい。我々と相手の移動速度の差を考えるとそろそろ追いつかれるはずです。なのに見えないという事は……』
「回り込まれてるか……」
『おそらく』
 ジフズぶ言葉にシエロがニヤリと笑う。
「おもしれぇ、どっからでも来てみな!」
 シエロが吼えるのとほぼ同時に、あたりを警戒していた結の顔に影が落ちる。
「……?」
 一瞬疑問に思ってからすぐに思い至る。
「シエロさん、上です!」
「何!?」
 結が頭上を指して叫ぶ。
「くっ、この!」
「わぁ!?」
 咄嗟にシエロが結を前方に放り投げて、振り向く。
 そこにあったのは巨大な鉄球。
「このやろう!」
 両腕で叩き、横に逸らす事でなんとか直撃は避ける。
 もとよりあまり正確な狙いではなかったのが幸いした。さすがにこれを真正面から受けるのは危ない。
「――敵損害状況軽微。戦闘を続行」
 建物の影からぬっと従魔が姿を現す。片手に鉄球、そしてもう片方の腕にマシンガンを付けたタイプである。
「メンサ・セクンダ! 行って!」
 先手必勝。結が大きめの氷を魔力で操り従魔へ向けて撃ち込む。
「――ピ。脅威接近警戒」
「……!」
 しかし、それは先ほど従魔が出てきた通路と同じところから現れた、もう一体の従魔の盾によって阻まれた。
「おもしれぇ、二体か……!」
『なかなか厄介な組み合わせです、主様』
「わかってるよ」
 シエロが静かに拳を握り直す。
 前方に鉄壁の盾持ちと後方に遠距離のマシンガンと近距離のハンマーの組み合わせ。非常にバランスが良く崩しがたい。まあ、だからこそ一緒に行動しているのだろうが。
「弱音を吐いても仕方ねぇ! 行くぜ!」
 武器を取り回しの良い鉤爪から一撃の重いハンマーへと持ち替えて突撃する。
「おりゃぁ!」
「――衝撃大。戦闘続行可能」」
 立ちはだかった大盾に怯むことなく全力で槌を叩きつける。盾が大きくひしゃげるが破壊するには及ばない。
「メンサ・セクンダ!」
 その隙を狙って結が後方の従魔を狙って氷を放つ。
「――ピ。射撃開始」
 同時に同様に結に向かって銃弾を発射する従魔。
「きゃあ!」
 攻撃に移るタイミングが丁度かち合い、双方ともに直撃する。
『主様、味方が!』
「ハァァ……カァ!」
 咄嗟にシエロが口からビーム状の何かを結に放つ。
『えっ、攻撃!?』
「回復だ」
 狼狽えるジスプにシエロが冷静に告げる。なるほど確かに結の傷が徐々に塞がっていく、見た目はどう見ても攻撃だが。
「――攻撃機会発生」
「っくあ!」
 しかし、結果的に敵を目の前にして背を向けた状態になってしまった。両盾の従魔がドンと強い勢いでシエロを突き飛ばす。
 盾とはいえ鉄の塊だ。殴られれば相当な衝撃がある。思わずシエロは前方に倒れ込んだ。
「――敵転倒確認。追撃開始」
 後方の従魔がシエロに打ち立てようと鉄球を振りかぶる。
「そうはさせない!」
 その従魔のさらに奥、道路の先に姿を現した人影からライヴスの奔流が吹き付ける。
「――……敵増援発見。目標変更」
 シエロに向かって振りかぶっていた鉄球を止めて、後方に現れて人影に向かって振るう従魔。
「さあ、今のうちに立て直して!」
 それは千尋であった。彼女が使用した守るべき誓いが敵の攻撃を引き付けたのだった。
「助かったぜ!」
 その隙にシエロが全身のばねを使って一息に立ちあがり再び鉄槌を構える。
「そちらは任せたぞ。こちらは……」
 鉄球を何とか回避した千尋の後ろから飛翔が飛び出し、鉄球と従魔とを結ぶワイヤーを思いっきりぶん殴る。衝撃にワイヤーが一部解れる。
「俺がスクラップにしてやる」
『機械如きで私達を止められると思わない事です』
 そのまま足を止める事無く前方へ駆け、一気に従魔との距離を詰める。
「――回収不能。ハンマーを廃棄」
 従魔が鉄球の回収を諦め逆の手の銃を飛翔に向けた。
「狭い場所ならこちらの方が機動力は上だ」
 言うや否やすぐに横に飛び、そしてさらに建物の壁を蹴って高く跳び上がる。
「――」
 目まぐるしく動き回る飛翔の動きについてこれず、狙いを定められない。
 飛翔を追って銃口が上を向いた時、既に彼は地面に着地していた。
「まずは膝!」
 横薙ぎのバンカーメイスが従魔の膝を破壊する。
「そして肘!」
 勢いのままさらに一回転し、今度はマシンガンの付いた腕を破壊する。
「そして、とどめだ!」
 三回転目。最高に遠心力が乗った一撃が従魔の胴体の装甲を完膚なきまでに打ち破った。
「余所見はしてる暇はねぇぜ」
 シエロが目の前の従魔に告げる。
「ハァァァ!」
 シエロのライヴスが急速に活性化し、飛躍的力が上がっていく。
「――危機的状況と判断。攻撃を回避後、離脱を――」
「逃がすかぁ! お前はここでぇ!」
 盾を構える従魔に愚直にまっすぐ突き進みバンカーメイスを振りかざす。
『大槌は……実によく馴染む』
「潰せぇ!」
 渾身の一撃が先ほどひしゃげた部分と同じ場所に激突し、今度こそ盾を割り、吹き飛ばした。
「――」
「失礼するわ。守ってばかりもつまらないもの」
『はいはいっと。僕の力、上手く使ってよね』
 そこへ駆け込んでくる千尋。咄嗟に無事な方の盾で防ごうとする従魔。しかし――
「やらせません!」
 結の放った魔力弾が腕を狙い打ち、それを防ぐ。
「――緊急事態発生、至急……」
「さよなら、機械人形」
 千尋のハルバードが従魔の胴体を貫き、そのまま動かなくなった。

●三色の槍
「いやー、何か光景も相まって何かハリウッド映画みたいだよねー」
 物陰に隠れながら遠距離主体の従魔と撃ち合いをしてる最中に夕が場にそぐわない口調で言う。
「いやいや、そんな事言ってる場合じゃないですから!」
 こちらも物陰に隠れたまま魔導銃だけを角から出して射撃しながら黒絵が返す。
(……まあ、確かにちょっとそれっぽいけど)
 などと思うが一応口には出さない。黒絵が扱ってるのは魔力ベースとはいえ銃だから猶更である。
「なんかワクワクしちゃってさ。ユエのせいだ。俺の英雄ってヘンタイばっかり」
 普段は寡黙な夕であるだけに、確かにこの妙な明るさは結羅織との共鳴のせいであろう。
「でも、どうしよっか。このままだとジリ貧というか……お互いに決め手がない状態だよね」
「確かに……」
 こうしてお互いに身を隠しての撃ち合いが始まって既に結構な時間が経過している。膠着状態に入ってると言っていいだろう。
「一か八か近づいてみようか」
「大丈夫かなぁ」
『一応数の上では二対一だからね。作戦としては在りだとは思うよ』
「……よし、分かりました。やってみましょう!」
 このままこうしていても仕方ないのは事実だ。意を決して黒絵も同意する。
「じゃあ、俺が飛び出すから、援護お願いね」
「了解です!」
 夕の言葉に力強く頷く。
「じゃあ……行くよ!」
「はい!」
 敵の弾幕が止む瞬間を見計らって角を飛び出す夕。
 黒絵も同時に角から身を出し、魔導銃を連射し従魔を牽制する。
「射程に入った、ライヴスフィールド!」
 少し走った所でライヴスの結界を作り出し、従魔の力を鈍らせる。
「――ピ。状況更新。パターン変更」
 従魔が先ほどまでとは逆の腕を出し、夕に狙いを定める。
 こちらはグレネードランチャー、爆弾を打ち込む方の腕である。
「来た!」
 黒絵がギュッと銃を握る指に力を籠める。そして、その腕に狙いを定めた。
「当たって!」
 先ほどまでとは違う強力にライブスを込めた魔弾が敵のアームに向かって真っすぐに飛ぶ。
「――機能異常感知」
 グレネードが発射される直前に黒絵の魔弾がアームに突き刺さり、内部の弾丸に着火し爆発する。
「お待たせ!」
 その間に一気に距離を詰めた夕が従魔の全身をついに捉える。
「こんなに近くで戦うの初めてかもしんない」
 両手にそれぞれ白と黒の短槍を構えて夕が迫る。
「そら!」
 至近距離から敵の喉元を目掛けて槍を放つ。
「――ピ」
 上半身を傾けそれを躱す従魔。しかし、夕の本命はこちらではなかった。
「足元ががら空き!」
 すれ違い様、従魔の膝の部分に直接槍を突き刺し、そのまま従魔の後ろに回る。
「――損傷増大。速やかな状況の解決を」
 片膝を付いた従魔が振り向き、残ったマシンガンアームを夕の方に向ける。
「ほら、こっち向いた。それは迂闊だなぁ」
「――」
 銃口を向けられながら夕が告げる。その視線の先には――
「サンダァ……」
 渾身のライヴスを込めた黒絵が光り輝く雷の槍を構えていた。
「ランス!」
 反応する余地もない。限界を超えた黒絵の一撃を完全に無防備に受けた従魔は木っ端みじんに砕け散ったのだった。

●鬼さんこちら
「こっちだ! こっち! 16式が怖ぇのか!?」
 敵の従魔に紗希が真正面から銃弾を次々放っていく。
「――前方に脅威確認。防御のち、排除開始」
 それを何とか盾で受け止めて、逆の手に付いたハンマーを振りかぶる。
「一人だと思いましたか?」
『残念、二人でしたー』
 しかし、その隙に死角から気配を完全に消していた深散が忍刀をその膝関節に突きさす。
「――後方に脅威確認」
 バランスを崩し駆けるも何とか堪え、センサーを深散の方へ向ける。
「あら、怒りましたか?」
「――攻撃開始」
 手を素早く回し、器用に懐近くの深散を狙い鉄球を落とすが、しかし悲しいかなその鈍重な動きは深散の動きにはまったく付いていけていなかった。
「ふふ、どうしました? 鬼さんこちらですよ?」
 鉄球の動きを完全に見切り、スレスレの所で避ける。体からわずか数cmの距離の場所に鉄球が落ち、ズジンと地面が揺れた。
「どっちを向いてやがる! てめぇの相手はこっちだろうが!」
 その間に、大分ヒートアップしてきた紗希が武器を刀に持ち替え一気に距離を詰める。
「――前方に脅威……」
「遅ぇ! 失せな! カナヅチ野郎!」
 まさに電光石火。剣閃が見えないほどの高速の一振りが従魔の体を切り裂いた。
「――被害……状況、甚大……」
『人形は人形らしく』
「物言わぬ骸の如く立ち尽くしなさい」
 3体に分かれた深散の刃がそれぞれ別々の方向から従魔の首に突き刺さり、その首を切り裂いた。


「結局あのバイクは何だったのでしょう」
『うーん、ごめん。分からない。結局戻ってこなかったし』
 構築の魔女が口元に手を当てて問うもリリイには大した答えは用意できなかった。その構築の魔女に飛翔が話しかける。
「このドロップゾーンで追加されたシナリオの一環だったんじゃないか? 舞台装置というか」
「そういった一過性のものの類であればいいんですけど……。嫌な予感がするんですよね。リリイさん、すこし工場の方調べてもいいですか?」
『いいですよ。元々は探索がお仕事ですし』
「じゃあ、私も行こうかなー。せっかくの近未来世界だしね。色々探索しなきゃ損!」
「では行ってみましょうか、桜木さん」
「ロロ――」
 そういって構築の魔女や黒絵達がその場を立ち去る。
「それよりも、リリイさん! これどういう事ですか!」
『え、何?』
 当特に珍しく語気を荒くして九繰が叫ぶ。
「このロボ、中身空っぽです! いえ、正確には謎のコードとか謎の箱とかが入ってますけど、全部ダミーです! こんなんじゃまったく動きませんよ!」
『知らないけど……。ゲーム中の敵なんだし、設定してなかったからじゃないの』
「そんな……」
「細部に神は宿るっていうのに酷い話だよなぁ」
 せっかくの楽しみが空振りに終わりがっくりと肩を落とす九繰とルフェ。
「せっかくかっこいいロボの中身が見れると思ったのに……」
「格好いいのかな、これ……」
 男の子の考える事はよく分からないと思いながら結は苦笑いを浮かべるのだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 喪失を知る『風』
    国塚 深散aa4139

重体一覧

参加者

  • 『星』を追う者
    月影 飛翔aa0224
    人間|20才|男性|攻撃
  • 『星』を追う者
    ルビナス フローリアaa0224hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • LinkBrave
    シエロ レミプリクaa0575
    機械|17才|女性|生命
  • 解放の日
    ジスプ トゥルーパーaa0575hero002
    英雄|13才|男性|バト
  • 病院送りにしてやるぜ
    桜木 黒絵aa0722
    人間|18才|女性|攻撃
  • 魂のボケ
    シウ ベルアートaa0722hero001
    英雄|28才|男性|ソフィ
  • エージェント
    十影夕aa0890
    機械|19才|男性|命中
  • エージェント
    結羅織aa0890hero002
    英雄|15才|女性|バト
  • Twinkle-twinkle-littlegear
    唐沢 九繰aa1379
    機械|18才|女性|生命
  • エージェント
    テグミン・アクベンスaa1379hero002
    英雄|21才|女性|カオ
  • ひとひらの想い
    想詞 結aa1461
    人間|15才|女性|攻撃
  • いたずらっ子
    ルフェaa1461hero001
    英雄|12才|男性|ソフィ
  • 喪失を知る『風』
    国塚 深散aa4139
    機械|17才|女性|回避
  • 風を支える『影』
    九郎aa4139hero001
    英雄|16才|?|シャド
  • 崩れぬ者
    梶木 千尋aa4353
    機械|18才|女性|防御
  • 誇り高き者
    高野 香菜aa4353hero001
    英雄|17才|女性|ブレ
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