本部

【卓戯】連動シナリオ

【卓戯】「私は陰陽師です」×3

影絵 企我

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/09/26 09:12

掲示板

オープニング

●運命の選択

村人A~F「もう一度整理しましょう」

村人A「私は村人です。Fは本当の事を言っています」
村人B「私は陰陽師です。Eは物怪です」
村人C「私は陰陽師です。Aは物怪です」
村人D「私は村人です。Fは嘘をついています」
村人E「私は陰陽師です。Fは物怪です」
村人F「私は村人です。Dは嘘をついています」
村人G(死人に口なし)

村人A~F「旅の御方。我々に代わり、物怪に裁きを」

 君達がこんなことを言われるまでの経緯を、遡って確かめていく事にしよう。

●一時間前
 アクセス媒体を通して君達がやって来たのは、何の変哲もない村だった。見た目だけは。水田には黄金色の稲穂が垂れ、秋の爽やかな風が流れていく。少し歴史を遡った、日本の農村の風景だ。しかし漂う雰囲気はあまりに物々しい。広場に六人の男女が集まり、今にも飛び掛からんばかりの勢いで睨み合っていたのだ。

「さっきから言っているだろう! 私が本物の陰陽師で! この男がエイタに成りすましてゴウタを殺した物怪(もののけ)なのだ!」
「何を言っている! 私こそが本物の陰陽師だ! お前は嘘つき、そう物怪だ!」
「いやいや待て! 偽の陰陽師が物怪であるばかりではないぞ。この中には狂奔も紛れている。物怪を崇拝している者も混じっているに違いない!」

 歴史の教科書にでも出てきそうな格好をした人々が、恐ろしい剣幕で叫び合っている。今の話から、君達は村の住人の一人が物怪とかいう存在に殺された事になり、六人の中からその物怪を探り出そうとしている事を知るだろう。
 ついでに、その物怪がこの『村人が生き残るために、物怪を炙り出して殺さなければならない』というゾーンルールに一般人を縛り付けている愚神だという事も。
 とはいえ、似たり寄ったりの格好をしている六人から、愚神の気配を感じ取る事は出来ないだろう。このドロップゾーンの特別な力を上手く使って巧妙に隠れているらしい。

「こうなれば指の差し合いだ。誰が物怪なのかを指の差し合いで決めようじゃないか!」

 君達が顔を見合わせている間にも、六人は激しい議論を続けたのだった。

●四十五分前
 君達が上手く話しかける機会を求められずにいるうちに、六人の議論は続いていく。といっても、只の多数決なのであるが。

「フトシが物怪! フトシが物怪であるに違いない!」
「何を言っている! エイタが物怪だ!」
「いや、アマスケだ!」

 何度も何度も指の差し合いが続くが、どうにも単独多数が決まらない。何度も何度も数を被らせて、まごまごと話し合いを引き延ばす無意味な問答を続けている。もう彼らの中で話は出きってしまっているらしい。彼らは息を荒げて、ついに話が途切れた。
 君達は、ここぞとばかりに六人の話へと割って入った。

「こ、これは旅の方! 貴方達なら、もしや物怪の存在を見抜けるかもしれない!」

 君達はとりあえず首を傾げる。すると、一人の女が早口で話し始めた。

「私はこの村で細々と加持祈祷を行う陰陽師だ――」
「いや違う、私が陰陽師だ」
「違うね! 俺が陰陽師だ!」

 この有様である。三人は眼を剥いて顔を見合わせると、同時に鋭く叫んだ。

「こいつらは嘘つきです!」

 てんで話にならなかった。君達がどうにかこうにか総合すると、『村でたった一人の陰陽師が物の怪が二体この村に紛れ込んだ事、そしてそのうちの一人を見抜いた』らしい。それで嫌疑を掛けられる羽目になったただの村人三人も引き合いに出され、こうして六人で散々にやり取りを続けていたらしい。

 雑な推理ドラマだ。君達の誰かがこっそりとツッコミを入れた。

●三十分前
「やはり我々で話し合っていても埒が明かない。お互いをお互いに色眼鏡で見合ってしまい、正確な判断が出来ない!」
「全くだ! ここで判断を間違えばもう村に未来は無いというのに、我々はいつまでも堂々巡りの議論を続けている!」
「ここはやはり、旅の皆様に誰を処刑するか決めてもらうしかない!」

 正気なのだろうか。君達の誰かがまたツッコミを入れるだろうが、ゾーンの変な力に囚われた彼らはあくまで真剣だった。君達を物怪の狩人と決めて、狩り取ってもらう気で満々だった。守ってもらう気満々だった。

 結局君達はどうにかして物怪を六人の中からあぶり出さなければならない。引き受ける以外に道は無い。君達は程無く同意する事だろう。

●十五分前
「夜ごとに物怪は善良なる者達に襲い掛かり、その魂を喰らっていく。当然人間は命を落とし、命を喰らった物怪はさらに力を増してしまう。力を付け過ぎた物怪は、君達が寄って集っても倒せるか分からん。だから、何としても防がなければならない」
「これより我々は一日ごとにこの六人の中から一人ずつ処刑していこうと考えている。夜間の襲撃が止むまでだ」

 六人は君達に向かって次々に言葉を投げてくる。聞き洩らさないように、君達は必死に耳を傾け、メモを取った。

「まず、日暮れ前に公平な眼で物怪の存在を見極め、処刑すべき人物を定めてくれ。それから、夜更けには貴方達の手で守るべき人物を一人見定め、守ってほしい。散らばって守るわけにはいかない。物怪はどれほど強いか分からん。全力を出して一人を守ってもらいたい。特に、本物の陰陽師が分かったのなら」

「俺が本物だ」
「私だ」
「おれだ」

 三人はまたしても自己主張を始めた。あてずっぽうに処刑するわけにもいかない。考える時間が必要だろう。君達は顔を見合わせると、村人達に許可を求め、誰が本物の陰陽師か、どこに物怪が紛れているか考え始めた。

 かくて、全ては運命の選択へと至るのである……

解説

●ミッションタイプ:【敵撃破】
このシナリオはクリアと成功度に応じて様々なボーナスが発生します。
詳細は特設ページから「ミッションについて」をご確認ください。

●おさらい
処刑は一日一人
夜間護衛も一日一人
夜間襲撃に失敗しても物怪は撤退に必ず成功する
村人×2、狂奔×1、陰陽師×1、物怪×2

●登場NPC
村人
 ただの人。生きて。『必ず本当の事を言う』

陰陽師
 本物。物怪の一人を卜占で発見し、村人Gを殺害したと告発。殺しちゃダメ。『必ず本当の事を言う』

狂奔
 あっぱらぱ。物怪を崇拝している。殺していい。『必ず嘘を言う』

物怪
 二体もいる。夜に殺戮を行う。手始めに本物の陰陽師を殺そうとしている。後は適当。村人を殺すほど強くなっていき、皆殺しにすると手が付けられないレベルになる。すぐ殺せ。『必ず嘘を言う』

PL
 愚神退治にやってきたイェーガー。頑張ってください。『嘘もホントも言う』

●敵情報
ミーレス級(仮)愚神「ライカンスロープ」
 物怪の正体。一般人達をゲーム「陰陽師は日本にて最強」を元にしたゾーンルールに縛り付け、ライヴスを奪い成長しようと目論む人狼型の愚神。もう少しでデクリオ級の力を手にする。
(また、処刑される事になっても悪あがきで正体を現し暴れ出す)
・捕食
 NPCに対してのみ使用。ライヴスを吸収する。吸収するとデクリオ級に強化される。
・切り裂き
 視界内全域対象。目にも止まらぬ速さで切りつける。
・飛び掛かり
 一体対象。一人に飛びついて喉元に食らいつき、動きを封じるとともにダメージ。

●成功条件
大成功:犠牲ゼロ
成功:死者は狂奔だけ
普通:村人に死者が出る

●プレイング上のアドバイス
処刑したい順番を(A→B→C……)とそれぞれ冒頭に記載してください。お願いします。多数決でMSは決めます。
目標はとりあえず愚神をボコす事ですが、どうせなら推理も格好良く決めたいですよね。考えれば殺していい人物三人は分かるはずです。

リプレイ

●運命の選択五分前
「さて、皆さん答えは解っているという事でよろしいですね」
 村人達に借りた家の中、キース=ロロッカ(aa3593)は仲間達を見渡して尋ねる。戸惑った調子のエージェントはいなかった。
「ええ。よくある論理ゲームに過ぎません」
「愚神にしては“いい趣味”してるわね」
 化野 燈花(aa0041)と梶木 千尋(aa4353)がにこりともせずに応える。キースは頷くと、手元に握っていたメモを半分匂坂 紙姫(aa3593hero001)に手渡した。
「回してください」
『はーい』
 一分でメモは行き渡り、揃って眼を通していく。高野 香菜(aa4353hero001)はさらりとした口調で尋ねる。
『その心は?』
「こちらが上手であると思わせないためです」
「そうですねぇ。負けを悟ると無茶苦茶やるっていいますし……」
 キースの言葉にセレティア(aa1695)も頷く。幼く見える彼女の眼は、既に策略に渦巻いていた。隣で見ていた沖 一真(aa3591)は渋い顔だ。
「セレさん最近怖いな」
「ふふふ」
『んじゃあ、僕はその引っ掻き回す方になるかな。その方が面白そうだ。千尋はとっちめる側に回るといいよ』
 香菜はメモを制服のポケットに突っ込んでにやりと笑った。月夜(aa3591hero001)も悪戯っぽい笑みを浮かべて一真を一瞥する。
『一真も引っ掻き回し側にいた方がいいんじゃないかな』
「どういう意味だよ」
 一真はムッとする。月夜はその鼻先をちょっと指差した。
『その方が自然に見えると思うし』
「それ遠回しに俺の事バカっぽいって言ってるよな」
『そうじゃん。私がアドバイスしてるのに直感がとか言って無視するでしょ』
「月夜が慎重過ぎんの!」
『そこまでだ。俺達に砂糖を吐かせる前に終わりにしてくれ』
 バルトロメイ(aa1695hero001)が一真と月夜の肩に手を置いて二人の口喧嘩を打ち切る。そのままキースの方に眼をやって、誰よりも輝かしい笑みを浮かべた。
『ま、俺達に任せときな』
『やな予感……』
 バルト達をよく知る月夜は、思わず肩を縮こまらせるのだった。

●道化が湧き騒ぐ
「我々に代わり、物怪に裁きを」
 村人A~Fが揃ってエージェント達に言い放つ。千尋は軽く咳払いし、ずいと一歩踏み出した。キースもその後に続いて眼鏡をきらりと光らせる。
「今から私がずばりと貴方達を裁いて見せるわ」
「そして僕が何故その結論に至ったのかをお話しします」

『そして俺がシャトルランをする』
 言うが早いか、セレティアと共鳴を終えていたバルトは、広場の端から端までを往復するシャトルランを始めた。その姿は、さながらマラトンの勝利を伝えるために走り抜けた戦士のようである。ここが競技場ならば、均整の取れた肉体美が織り成す躍動感に、皆が感涙した事だろう。

「なんでだぁっ!」『唐突だよ……』
 沖と月夜が一斉にツッコミにかかる。キースと紙姫は目を瞬かせる。燈花達も閉口している中で、頭を抱え気味に千尋は話し始めた。
「え、えーと。村人E、貴方は間違いなく物怪よ」
「なっ! お、お前――」
 Eは目を見開く。口を開いて何かを言いかけたが、キースはそれを手で制し、真っ直ぐにEを見据える。
「弁明の余地は後でお与えします。まずは我々の意見を全て聞いてからにしてください」
「ぐぬぬ」
 Eが黙り込んだところへ、キースは畳みかけるようにすらすらと説明を始めた。
「村人二人、陰陽師一人。最初で村人、陰陽師各三人いたので村人に一人、陰陽師に二人の嘘つきが確認できます」
「ちなみに俺も陰陽師だぜ」
『はいはい、ややこしくなるようなこと言わない』
「次に自称村人の三人の発言を見ると、D、Fいずれかが嘘を吐いている事になります。逆説的にAが本当の事を言っており、そのままFが真実、Dが嘘と確定します。陰陽師はA,Fを物怪と断じる二人が嘘つきになり、Bが陰陽師、そしてEが物怪として確定します」
『つまりEさんは間違いなく物怪だから、追い出しちゃわないといけないね』
 キースの言葉の後を引き継ぎ、紙姫はにっと笑ってみせた。Eは目を見開くと、DとFに脇を抱えられ、取り押さえられながら叫んだ。
「お、おい、テメェ! 何適当な事を言ってんだ! それはただの理屈だろ? 俺が本当に嘘をついてるって証拠は有るのか!」
「問題ない。証拠ならお前達の手にある」
「は?」
「一人一人の手相を見るのさ。それで人間か物怪か判別できる」
『(物怪には一度も会ったことないけどね……)』
『お、僕もちょっとは手相がわかるぞ(?)。僕も見よう』
 言うが早いか、一真は月夜を伴い素早く手相を見始めた。香菜も二人の様子を見て、手相を見始める。それを横目でちらりと見た後、一真はEの手を取って覗き込む。一際念入りに、じっくりと。
「ふむふむ。やはりお前の手相はおかしい。生命線が存在しない。お前は物怪だ」
「は、はぁっ? 手の皺ごときで犯人扱いされてたまるか!」
『ならばこんな方法もあるぞ』
 あくまで拒否を続けようとするEに向かって、ジャージのポケットに手を突っ込んだバルトがつかつかと歩み寄っていく。
『ほら、この煙草を吸うんだ』
「むぐぐぅっ! ゲホッ! 何で私!?」
 火を点け、バルトは煙草をBの口に無理やり咥えさせた。激しくむせかえるBを見て、バルトは得意げに頷いた。
『やはりな。物怪は聖なる煙草の煙を吸うと化けきれなくなり額に青筋が浮かぶのだ。つまりお前が物怪だ』
「そんなの初めて聞きました! というかEが物怪という話だったんじゃないんですか!」
「もういい。ややこしくなるから」
 Bの悲痛なツッコミに合わせて、一真もバルトをBの前から押し退けていく。バルトはつまらなそうに肩を竦め、木陰の方へとさっさと行ってしまった。
『じゃあ寝る』
「本当に寝ていますね……」
『何か、すごいや』
 自分の腕を枕に寝っ転がったバルトを見つめ、燈花と月 瑠音(aa0041hero002)が呆然と呟く。すっかりバルトが作り出した空気に飲み込まれていた。村人達も、エージェント達をどこか胡散臭いものを見るような眼をしている。キースはそんな雰囲気にも全く動じず、銃を片手に村人を見渡す。
「貴方達がボク達の事をどうお考えでいようが、ボク達に処刑を任せたのは貴方達です。それに、ボク達を抜きにして無為に時間を過ごしても、さらに貴方達が物怪に自由な行動を許してしまうだけですよ」
「む……まあ、Eを処刑するというのなら、私は何も異論ありません」
 Bは未だに苦い顔をしながら渋々頷く。他も自分が標的では無いため、渋る理由は無かった。千尋はそんな彼らをぐるりと見渡した後、キースの方に目配せする。
「さて、銃も取り出してやる気のようだし、キースが処刑してくれるのね?」
「ええ。初日はボクがやりましょう」
『本当に大丈夫?』
 千尋の言葉に合わせて進み出るキースに駆け寄って、紙姫がそっと耳打ちする。キースは近くの紙姫にしか見えない、ほんのわずかな笑みを浮かべた。
「ええ。ちゃんと考えてますから」
『……うん!』
 その笑みに安心した紙姫は、静かにキースと共鳴した。キースの中で紙姫は眠りに就き、キースは黒髪の怜悧なスナイパーとなる。その鋭い眼差しは、取り押さえられたEを真っ直ぐに捉えていた。



 Eは丸太に縛り付けられた。キースはその真正面に陣取り、その脳天に向かって魔導銃を向ける。万一に備えて、一般人でも死なない弾を込めた銃を。キースは周囲に目配せを送る。燈花、千尋、一真、ステラ=オールブライト(aa1353)はそれを合図にじりじりと輪を広げる。
「さて、大人しく処刑されてくれるか……」
 一真は村人からも離れた位置で、Eが眼を剥いてもがく様子を見守る。Eは息を荒げ、キースが引き金に指を掛けるのを見つめていた。瞬間、Eは吼え、全身の筋肉を波打たせる。
「あ、あああっ! ふざけるな! こんな訳の分からん奴らに殺されてたまるか!」
 Eの服が破れ、それは獣人の姿に変わる。愚神としての正体を露わにした物怪は、縄を力づくで引きちぎって村人Aの方へと飛び出した。
「実力行使だ!」
「ひぃっ!」
『っ……そんなわけないよね!』
 月夜と一真が素早く共鳴し、白い狩衣姿となった。
「火界咒――急々……」
 一真はブルームフレアを放とうとしたが、慌ててその手を止める。既に、燈花が愚神と衝突しようとしていたのだ。
「本性を現したか、ケダモノめ」
『討ち果たしてやる!』
 巫女装束を波打たせ、燈花はAへと襲い掛かる愚神の間に割って入る。瑠音も素早く彼女に駆け寄り共鳴を果たした。艶やかな着物を纏い、膝裏にもかかる髪の毛が銀と紅の美しい階調を為す。
 爪で鋭く切り裂きに来た愚神の一撃を大剣の腹で受け止め、燈花は血走った眼を真っ直ぐに睨みつけた。
「チッ」
「私は護りの刃では無いぞ」
 一気呵成に燈花は仕掛けた。
「素っ首置いてけ!」
低い姿勢から突っ込むように振り抜かれた一撃は、鋭く愚神の脚を払って地面に叩きつける。さらに脳天に向かって大剣を振り下ろすが、愚神は地面を転げて身をかわす。
「畜生……!」
 距離を取って立ち上がった愚神に向かって、千尋とステラが追撃にかかる。不利を悟った愚神は、彼女の放つライヴスに導かれるまま千尋の方へと鋭い爪で斬り込んだ。千尋は斧槍の柄で愚神の爪を受け止めると、その視線で愚神を刺す。
「畜生はあなたでしょう。おとなしく夢へと還りなさいな」
「我が槍の錆となれ!」
「ぐあっ――」
 二人の槍が愚神を貫く。それは断末魔の叫びを上げ、そのまま消滅した。

●静かな夜
「……私を護衛してくださるのは有難いのですが……」
 陰陽師Bは、困ったような顔でエージェントの面々を見渡していた。特に、セレティアとバルトの方を。彼らは既に家の隅で眠り始めていた。とかく傍若無人な振る舞いである。彼女達をよく知らない千尋と香菜も思わず訝しげな目を向けてしまう。
「えーと、わざと、やってるのよね」
『何だか素でやってるんじゃないかって気がしてくるなぁ』
「大丈夫だって。セレさんは結構腹黒いからな」
『フォローになってないよそれ』
 胸を張る一真に、すかさずツッコむ月夜。彼らをひとしきり観察して軽い溜め息をつくと、燈花はみんなの方に向き直った。
「まあ、全員で護衛する必要はないでしょう。脅かす程度で逃げてしまうのでしょうし、三組くらいで守りに徹していれば問題ないはずです。ひとまず私達は立つつもりですが」
「私も参加するよ。ね、負屓」
『ああ、そうしようか』
 ステラと負屓(aa1353hero001)は素早く名乗りを挙げた。それを見た千尋も、胸を張りながら一歩進み出た。
「なら私達もやらせてもらうわ。攻撃を私に引き寄せる事も出来るし」
「わかりました。なら皆さんにお願いして、ボク達はとりあえず狸寝入りをします。余り万全に守っていると、向こうが狙いを変えてしまわないとも限りません」
 キースは相も変わらず真剣そのものの顔で六人を見渡す。
「そうね。私達に任せておいて」
『それにしても、怪しいのはCとDだけど、物怪はどっちだと思う? あたしはCの方だと思うんだよね。狂奔は、たとえ物怪を守るためでも、敵を自分が崇拝する対象に仕立て上げたりしないと思うの。あたしだったら、あるじを助ける為でもそうはしないよ』
 瑠音が腕組みしながら周囲に尋ねる。千尋はそれを聞いて軽く唸った。
「瑠音のその心意気は立派だと思うわ。でも、嘘つき陰陽師がどちらも物怪なんて事は無いはずよ。陰陽師を全員まとめて吊ってしまおう、って話になったら全員アウトじゃない」
『うむむ……』
「大丈夫です。ボクに考えがありますから。尤も、ボクの他にも考え付いている方はいるでしょうが。では、そろそろ夜も更けますね。準備をお願いします」
 六人は頷くと、それぞれ共鳴を果たした。その姿をそれぞれ見つめて、キースは朗々と言い放つ。
「では万事、抜かりなくやりましょう」



 ぴんと張り詰めた静寂。神経を張り詰めた三人の戦士が出入り口や窓から外を窺っていた。やがて、窓から外を窺っていた燈花が、遠くの茂みが僅かに動いたことに気が付いた。一気に戦闘態勢に入った彼女は、顔を顰めてステラや千尋の方へと振り返る。
「来たぞ、備えろ」
 闇に紛れて、月光に眼を輝かせた獣が一体、茂みから飛び出し駆けてくる。咆哮を上げ、全力で走り寄ってくる。入り口までぎりぎりで引き付けた千尋は、影が差した瞬間一気に斧槍を突き出した。
「うぬぅっ!」
 獣は叫んで後ろに飛び退く。千尋達はその後を追って夜空の下へと飛び出した。
「来ると思っていたぞ。その首、我があるじに捧げろ!」
「覚悟なさい、あなたのお仲間と同じようにしてあげるわ!」
「貴様の命、貰い受ける!」
 燈花達の鋭い剣幕を前に、獣は尻込みして二の足を踏んだ。千尋はライヴスを鋭く放って、どこからでもかかって来いと言わんばかりだ。脇を固める二人の得物も、愚神を仕留めんという意志に満ち満ちている。たかがミーレス級が付け入る隙などどこにも無かった。
「ち、ちぃっ!」
 獣は尻尾を巻いて、脱兎のごとく駆け出した。三人は追いかけるものの、全力で逃げるその足はあまりにも早く、とても追いつけそうにない。すぐに見失ってしまった。燈花は舌打ちし、大剣で空を薙ぐ。
「くそっ!」
「逃しましたか」
 振り返ると、キースが三人の方へと駆け寄ってくるところだった。
「傷の一つくらいつけてやりたいところだったけど、ダメだったわね」
「傷を受ければ明日の評定でバレバレです。それは向こうとしても避けたいところでしょう。……村の皆さんを起こしましょう。八つ当たりの襲撃を防がなければ」
「そうしましょう。共鳴を解いて手分けすれば、直ぐに終わります。私達は一足先に向かっていますね」
 素早く共鳴を解いた燈花と瑠音は、目配せして走り出した。

 かくして夜の襲撃は防がれた。日は再び昇り、再び運命の選択へと至るのである。

●嘘つきの口を割れ
 今日も村人達とキース達は向かい合う。曲がりなりに愚神を一体討ち果たし、襲撃も未然に防いでみせた彼ら。いくらぬけさくな愚神でも相手が手練れの策士と気付き始めていた。特に昨日の処刑を先導したキースを、CとDは揃って注視していた。彼は相変わらず真面目くさった顔で、感情を内に潜め抜いていたが。
「では、本日処刑が行われるべき存在を見定めたいと思います。候補はCとDですが、残念ながらこの二人の何方であるかは貴方達の発言からだけでは探れません。そこで、ボクは――」

『よーし! 今日の処刑対象を決めるぞ! うむ、バットが走る、走る!』
 キースの言葉を遮り、無茶苦茶にバットを振り回しながら共鳴を終えたバルトが叫ぶ。わがままボディが躍動し村人達の目を惹きつけてやまない。中身はむさくるしい雄だが。そのまま彼はすたすた前に進み出て、幾人もの高校球児の夢を藻屑に帰した甲子園のマモノをいきなり地面に突き立てる。それはそのままふらりと揺れて地面に倒れた。その先に立つは村人F。彼はうむと頷くと、どや顔作ってFを見据えた。
『うむ。お前が最後の物怪か。成敗してやる』
「えええーっ!?」

「なんでだぁっ!」『唐突だよ……』
『僕の煽る隙が……』「この人達正気なの?」
「何というかその、凄いですね」『すごいねぇ』
「crazy……」『なーんだこれ』
 話の流れをぶった切ってまで突っ込まれたバルトの自由な振る舞いに、周囲は突っ込まずにいられない。村人達も『こいつ大丈夫か』という眼をしている。紙姫もさすがに表情を曇らせて、隣に立つキースの横顔を窺った。
『ねえ、キース君……』
 キースは彼女の方は向かなかった。眼鏡をきらりと閃かせると、バルトを押し退け一歩前に進み出る。
「皆さんに質問します! 貴方は物怪ですか!」
「いいえ」と、A。
「いいえ」と、B。
「はい」と、C。
「いいえ」と、D。
「いいえ」と、F。
 混乱の中不意に繰り出された質問。取り繕う暇も無く、一人だけ「はい」と答えてしまった者がいた。キースはその人間を見逃さない。一真に目配せを送ると、彼は銃を取り出し――Dへと向けた。
「動かないでください。今の言葉で全てが決まりました。D、貴方が物怪です!」
「なっ……! バカな! Cが、今自供しただろ!」
「ふん、簡単な事ね。ゾーンルールに縛られた貴方達は、どんなに落ち着いている時でも、どんなに焦っている時でも嘘を吐くしかない」
『つまりCは物怪を庇おうとして自分が物怪と偽る狂奔。そしてお前は、命を繋ごうと哀れにもがく物怪、いや、愚神ってことさ!』
 素早く前へと出た千尋と香菜が見得を切って言い放ち、そのまま共鳴した。ただでさえ派手で華やかな彼女の身形が、オーラを帯びてさらに煌びやかなものとなる。その姿に怖気づいたDは、思わず踵を返して逃げ出そうとする。
「今更逃げるのは無しだぞ、愚神。お前の首は確実にもらう」
 既に共鳴を終えた燈花が立ちはだかる。さらに逃げ道を探すが、既に脇は甲冑に身を包んだステラが押さえていた。
「く、くそ。くそっ!」
「ふーむ。意外でも何でもなかったぜ。この陰陽師の勘が、怪しいと感じさせていたからな」
 喚くDに向かって、堂々と一真が進み出る。白い長髪を風に吹き流し、白い狩衣をなびかせる。黒く艶やかな烏帽子を深く被り、竜の籠手を嵌めた左手には牡丹が描かれた札を握りしめる。額の紅い三日月を輝かせ、一真は堂々と立っていた。
『(その烏帽子、どこで見つけたの……)』
「さあ、誰がバカにしようと俺は陰陽師だ。ホントのな。つーことで、大人しく裁きを受け入れな!」
 素早く九字を切り、一真は叫んだ。
「百鬼を退け凶災を祓う! 火界咒――急々如律令!」
 放たれた青い炎がDに炸裂し、Dは愚神としての正体を露わにする。地面を転がって炎を消し、Dはぱっと後ろへ飛び退く。
「くそ……脱出だ。せめてここから脱出すれば! まだ何とか……!」
 愚神はきょろきょろと周囲を見渡し、いつの間にやら木陰で居眠りしているバルトロメイの姿を目に留めた。ギラリと爪を輝かせ、愚神は一気に走り出す。
「そこだ、そこが脱出口だ!」
 突っ込んでいく愚神。彼がチームのウィークポイント。そう考えたに違いない。だが、居眠りしているかに見えたバルトロメイはむくと起き上がり、愚神の一撃を腕で受け止めた。したり顔を浮かべ、彼は愚神を突き飛ばす。

『頭がいいからルーニーが出来るんだ。憶えておけ!』

 バルトロメイが構える。刹那、疾風怒涛見極めクリティ会心火力全部載せのフルスイングが愚神の腹を撃ち抜いた。
「あああああっ!」
 愚神は空へと高々舞い上がる。その様即ち砲弾の如く。夕日を背にした愚神は、巨大な花火となって弾けた。これが花火大会ならば、誰もが喝采したことだろう。共鳴を解いたバルトとセレティアは、並んでその花火を見つめる。
『ふん。造作も無いな!』
「うまくいきましたねバルトさん……ふふっ」

「……ほんとに何なの。この人達……」
 いきなり勝ち星を掻っ攫っていったバルト達を見つめ、千尋はもう呆気にとられるしかなかった。燈花もステラもひたすら戸惑って立ち尽くしている。
「なんかどんどんすごい事になってくな、あの人達……」
 一真は烏帽子がずり落ちたのにも気づかず、セレティア達を見て頬を引きつらせる。一方のキースはどこか満足げだ。
「……ふふ、あの人達ならやってくれると思っていましたよ。ただ質問を仕掛けるだけじゃ、彼らが口を割らずに結局情報が抜けない可能性もありました。バルトさんがひと暴れして混乱を持ち込んでくれたからこそ、この大成功があるんです」
「あいつらとツーカーやれるキースもすげえよ。打ち合わせなんてしてないだろ」
「まあ、これが策士のやり方ですよ」
「へえ、あなたって、孔明みたいね!」
 表情は変えずとも、どこか誇らしげにするキースの肩を、ステラが叩いた。キースはまんざらでもなかったが、おくびにも出さず、ただ曖昧に頷いた。
「……ふむ。まあ、無敗の将、司馬懿も捨てがたいですね」

 とまれかくまれ、物怪騒ぎは万事抜かりなく解決したのであった。

●エピローグ
「“お前は善良な村人だ”」
「……あれ、私は一体何をしていたのでしょう?」
 支配者の言葉の応用で、狂奔の洗脳は解かれてただの村人へと戻った。村人がどよめく中、共鳴を解いて一真は得意げに腕組みする。
「言ったろ、俺こそが陰陽師だってな」
『あくまで“自称”だけどね』
「うるさいな! ちょっとくらい良い顔させてくれよ!」
 ワイワイとしたやり取り。燈花達は二人の口喧嘩を軒下から遠巻きに見つめていた。
『あるじも行ったら? 私も本当の巫女様だよって』
「……バイトですからねぇ。本当の巫女と言えるかどうか」
『少なくとも一真君よりは本物に近いんじゃないかな……』

『そういえば、千尋はこういうゲーム得意?』
「……苦手よ」
『ま、冷静なのは雰囲気だけで、直ぐに熱くなっちゃうもんね』
「悪かったわね。……で、どうしたのよ」
「い、いえ。別に……」
 セレティアは木陰に佇んでいる千尋と香菜の前に立ち、じっと千尋を見つめていた。その視線が気になって、彼女は話を続けられずにセレティアの方に眼を向ける。それでもセレティアはじっと見つめているから、彼女はとうとう溜め息をついた。
「共鳴した時は私とどっこいくらいだったんじゃないの?」
「そ、そうですか! 成長したらそれくらいになるつもりなんです。よろしくおねがいします」
「よろしくしてどうするのよ」
『そのためには適切な栄養補給と運動が必要だぞ。こっそりお菓子食べるのはダメだからな』
「はぁい」
 セレティアの横に立ったバルトがすかさず小言を言い始める。どこかしらなにかしらな雰囲気を感じ、千尋は肩を竦める。
「バルトロメイだったかしら? 貴方……大概よね。何とは言わないけれど……」
『俺はティアの保護者だからな。彼女の成長を見守るのが義務というものだ』
『うんうん。分かるよ。僕もちゃんと千尋が傷つかないように守らなきゃね』
「……よろしく」

 そんなこんなで、ちょっとした安寧の一時は流れていくのだった。

「ちくしょーっ。俺はホントの陰陽師になってやるからな!」

おしまい!

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 天秤を司る者
    キース=ロロッカaa3593

重体一覧

参加者

  • 泣かせ演技の女優
    化野 燈花aa0041
    人間|17才|女性|攻撃
  • エージェント
    月 瑠音aa0041hero002
    英雄|16才|女性|ドレ
  • わくわく☆ステラ探検隊
    ステラ=オールブライトaa1353
    人間|15才|女性|攻撃
  • エージェント
    負屓aa1353hero001
    英雄|18才|男性|ドレ
  • 黒の歴史を紡ぐ者
    セレティアaa1695
    人間|11才|女性|攻撃
  • 過保護な英雄
    バルトロメイaa1695hero001
    英雄|32才|男性|ドレ
  • 御屋形様
    沖 一真aa3591
    人間|17才|男性|命中
  • 凪に映る光
    月夜aa3591hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 天秤を司る者
    キース=ロロッカaa3593
    人間|21才|男性|回避
  • ありのままで
    匂坂 紙姫aa3593hero001
    英雄|13才|女性|ジャ
  • 崩れぬ者
    梶木 千尋aa4353
    機械|18才|女性|防御
  • 誇り高き者
    高野 香菜aa4353hero001
    英雄|17才|女性|ブレ
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