本部

【卓戯】連動シナリオ

【卓戯】おかしな防衛戦

一 一

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 6~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/09/21 20:49

掲示板

オープニング

●おい魔女、仕事しろ
「ああっ! そこ行くとても強そうなお方! 私のお話を聞いては下さいませんか!?」
『現実世界』と『異世界』の狭間に生じたドロップゾーンに侵入してすぐ。鬱蒼とした木々に囲まれた場所に降り立ったエージェントたちは、とても焦った様子の声に呼び止められた。
 声の主を振り向くと、そこには1匹の真っ黒なコウモリが。流暢に人語を話すそれはNPCなのだろうが、どうにも様子がおかしい。飛び方があっちこっちに移動してとてもせわしなく、台詞も早口で焦りの色が濃い。
「私、とある魔女様の使い魔でございまして、今非常に困っているのです!」
 エージェントたちの頭上をパタパタと飛んでいた自称使い魔は、翼を翻して移動を始めた。ついてこい、ということなのだろう。全員顔を見合わせ、コウモリの後を追っていく。
「魔女様はとても変わっておりまして、だからこそこんな森の中に居を構えているのですが……」
 道中、使い魔の話に耳を傾けていると、いきなり木が途切れて開けた場所にきた。
「このように、魔女様はお菓子に住んでいます」
 そこにあったのは、メルヘンな物語でしか聞いたことがない、お菓子でできた家だった。まるで童話の中にでも入り込んだような光景に、エージェントたちは一瞬言葉をなくす。
「実はこのお菓子の家は、他の動物に食べられないようにいつも魔法で守っているのですが、今はその魔法がかかっていない状態なのです」
 固まったエージェントたちを現実に呼び戻したのは、何事もなく話し続ける使い魔の声。とりあえず、コウモリの話を聞いてから判断しようと、耳を傾ける。
「原因は、ここ数日魔女様がずっと徹夜をしていらして、つい先ほど意識を失うかのように眠ってしまわれたためです。齢80にして未だに白馬に乗った王子様を夢見る喪女様は、今回のように恋占いに没頭しては生活がおろそかになることが度々あるのです」
 おい魔女、仕事しろ。
「そして運が悪いことに、今日は魔女様が力つきたのと同時、お菓子の家にかけられた魔法が解けてしまったのです。このままではお菓子の匂いに誘われた動物たちに家を食べられ、ついでに眠りこけた魔女様も食べられてしまうかもしれません!」
 何だろう、状況は深刻なはずなのに、原因が原因だから同情の余地がない。
「あ! それともう一つ、魔女様は若いころから結婚資金として宝石類を集めていて、家周辺にあるお菓子の倉庫に保管しています。結局使われないまま増え続け、今では魔女様唯一の心の癒しである宝石たちも、可能な範囲で守って下さい! なくなったと知られれば、私がこっぴどく叱られてしまいます!」
 それと、さっきからエピソードの背景がちょいちょいもの悲しいのが気になって仕方がない。このまま知らんぷりをするのは、色々な意味でかわいそうになってきた。
「確かに、いい歳をしていながら頭の中がお花畑で、維持管理がクソ大変なお菓子の家なんかを森の中に建てやがった上、ほぼ毎夜のごとく無意味な占いにふける引きこもりの色ボケババアではありますが、それでも私は魔女様の使い魔なのです! どうかお助け下さい、お願いします!」
 なるほど、少なくともコウモリさんのストレスがハンパないことはわかった。魔女が寝ていることをいいことに言いたい放題である。
 そして、このおかしなお願いが今回の『セッション』ということだろう。
 コウモリの話が終わった瞬間、視界の端に数字が出現してカウントダウンが始まった。これが0になった瞬間、森から敵となる動物たちが襲ってくるとみて間違いない。エージェントたちは顔を見合わせ、頷いた。
『セッション』開始の時間まで、残り30分。

●招かれざる小さな客人
 時は少しさかのぼる。
「お兄ちゃん、おなかすいた……」
「だいじょうぶ、きっとおうちに帰れる。だから、もう少しだけがんばろう?」
「……わかった」
 徹夜明けの魔女が倒れ、魔法が解けたことを知ったコウモリが焦ってお菓子の家を飛び出した直後。二人の兄妹が森の中をさまよっていた。どれだけの時間歩いていたのか、服も靴もぼろぼろに汚れていて、時折お腹の鳴る音まで聞こえてくる。
「……あ、あれ!」
 そして、エージェントたちが現れるちょうど反対側の方向から、二人の兄妹もまた魔女の住むお菓子の家へたどり着いた。
「わ! これぜんぶお菓子だよ!?」
「ほんとだ! すご~い!」
 ずっと空腹状態のまま歩きっぱなしだった兄妹は、目を輝かせてお菓子でできた建物を見上げる。それはお菓子の家という存在への興味と、甘い誘惑に囚われてしまったが故の輝きだった。
「おいし~!」
「ほんとうだ、すごくおいしい!」
 兄妹たちは目に付いたお菓子に夢中になり、次々と幸せそうに口へ運んでいく。よほど空腹だったのか、壁に小さな穴があくほどの量をすぐに平らげてしまった。
「お兄ちゃん、次はなにをたべる?」
「しっ!」
 少し元気を取り戻した妹が話しかけたところ、兄は返事の代わりに口を押さえて押し黙った。そして、遠くから聞こえてきた話し声に、妹もまた状況を理解する。
(ど、どうしよう!? おこられるかな!?)
(こっちだ!)
 会話を小声に切り替えた二人は、兄の機転で壁の穴に体をもぐり込ませた。子どもがようやく通れるくらいの穴をくぐると、兄妹はすぐに建物内を見回し、目についたもので自分たちが通った穴を塞いだ。
「とりあえず、このままじっとしていよう。外の人がいなくなってから、ばれないように逃げればおこられないよ、きっと」
「う、うん」
 無断でお菓子を食べたことを叱られると思った兄妹は、こっそり隠れてやりすごすことを選択した。
 もうすぐこの場が、たくさんの動物たちに襲撃される戦場になるとも知らないで。

解説

●ミッションタイプ
【一般人救助/霊石採掘】
 このシナリオはクリアと成功度に応じて様々なボーナスが発生します。詳細は特設ページから「ミッションについて」をご確認ください。

●目標
・メイン:保護NPCと宝石の防衛
・サブ:霊石の入手

●登場
 敵NPC
 アリ…子どもくらいの大きさ。攻撃力『1』、耐久値『10』。
 スキル
・仲間を呼ぶ…1d10体のアリが森から出現。
・威嚇…成功時、翻弄BS付与。

 スズメ…アリより一回り大きい。攻撃力『2』、耐久値『20』。
 スキル
・奇襲…出現時のみ使用。成功時、狼狽BS付与。
・わし掴み…建物へのダメージ2倍。

 クマ…2mを超える大きさで一番タフ。攻撃力『1d6』、耐久値『30』。
 スキル
・黄金の右…ほんのり蜂蜜の香り。一定確率で衝撃BS付与。
・幻の左…建物を一撃で破壊。

 保護NPC(いずれも耐久値『1』)
 魔女…結婚を夢見る喪女(80)。夢の中で王子様(16)と戯れ中。『セッション』中は起きない。

 コウモリ…魔女の使い魔。魔女には辛口なショタボイス。『セッション』中は家の中に避難。

(兄妹…森の中をさまよっていた幼い兄妹。倉庫の1つに潜伏中。『セッション』中は疲れて熟睡。PL情報)

●場所
 円形に開けた森の中。お菓子の家を中心に、6つの倉庫が等間隔に点在。
 倉庫…耐久値『10』、魔女の家…耐久値『20』。

●状況(PL情報)
 敵は家の周囲から出現し、建物を攻撃または大ダメージを受けると森へ帰る。敵がすべて登場すると『セッション』終了。

 倉庫内の宝石には霊石が混じり、『セッション』中のみ持ち出し可。霊石は各倉庫に1つずつ。

 ゾーンルール
・PC…命中判定に成功→敵へのダメージは『1d10』で判定。建物への攻撃・侵入不可。
・NPC…固有の攻撃力と耐久値(=生命力)が設定。中身は全員一般人(アリの増殖スキルは除外)。護衛成功数および敵の撃破数だけ救出可能。

リプレイ

●散策と戦略
「ありがとうございます! では、私はあのクソババアを起こしてきますね! それまで何とか持ちこたえてください!」
 この短時間で魔女様→喪女様→色ボケババア→クソババアと主人をこき下ろしたコウモリは、ぴゅーっとお菓子の家へ消えていった。彼の今後が心配だ。
「しかし、維持管理が大変とか夢のない話だね」
「メルヘンに過酷な現実とか設定しなくてもいいですよね」
「ベトベトしたり虫が湧いたりしそうだし、わかるけど」
「……全部便利な魔法でどうにかすることにすればいいでしょう」
 志賀谷 京子(aa0150)は、家の中に消えたコウモリを見送ってぽつりとつぶやく。もっともな意見にアリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)も同意を返すが、続く京子の現実寄りな答えにはジト目を送っていた。
「やぁ、まるで本当に本の中に入り込んでしまったみたいだ! 面白いねっ」
「敵地では素直に喜べないがな」
 有名な童話じみた世界に、普段は本を取り扱う仕事の木霊・C・リュカ(aa0068)は興奮気味だ。対し、相棒のオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)は冷静に周囲を観察し、警戒の色を濃くする。
「すごい! お菓子の家!」
「不思議なドロップゾーン、……こういうこともあるんだな」
 中でも大興奮だったのが紫 征四郎(aa0076)だ。普段から大人びた態度を意識していても、中身は年相応の少女。とてもメルヘンな光景を前に、目の輝きを隠せていない。一方、隣のガルー・A・A(aa0076hero001)は見方が異なり、目の前の光景に若干呆れ気味だった。
「不思議な感覚だね、本の中に入ってこんな童話みたいな世界で戦うなんて」
「ですね。でも、場所がどこであろうとやることは変わりませんよ」
「だね、守り切るよ。建物も、人も」
 リュカや征四郎に似た感想をこぼした氷室 詩乃(aa3403hero001)に、柳生 楓(aa3403)は静かな口調ながらも強い意志を言葉に込める。
 誰かを守るために力を使う楓にとって、たとえ戦場が童話の世界で、守る相手が自業自得な魔女であっても、やることは同じ。詩乃もそれを承知しており、力強く頷いた。
「お菓子の家、ねぇ。常備食か非常食か、どっちだと思う?」
「『家』の時点で食用ではないと答えておくよ、和馬氏」
 こちらでは鹿島 和馬(aa3414)と俺氏(aa3414hero001)の2人がちょっとずれた会話をしていた。お菓子製だから食えるだろうけど、さすがに家主は食べないだろう。あらゆる物事を受容するという方向性が違う気がする。
「森だね、兄さんっ」
「そうだねぇ、懐かしい空気だ」
 唯一、お菓子の家ではなく森の中という環境に着目したのはフィアナ(aa4210)だ。以前はルー(aa4210hero001)と森で暮らしていたため、郷愁の念を覚えているのだろう。戦いの前だが、この2人だけ妙にほっこりしていた。
「今回はやけにやる気だねアル」
「まあな、今回は俺にまかせろマコト」
「よくわからないけど、まかしたよーアル!」
「まずは二つの班に分かれて作戦を展開する、俺たちは護衛班だマコト」
「アイアイサー!」
 今回、積極的に指揮を執ったのはバーティン アルリオ(aa2412hero001)だ。微かに残る自身の記憶に従い、たぎる血気を隠さず獰猛な笑みを浮かべている。いつもはアルリオを振り回す東雲 マコト(aa2412)も、今回は彼に指針をゆだねたようだ。
 まずはアルリオの指示により、エージェントたちはお菓子の家周辺を調べる探索班と、防衛戦の作戦を立てる護衛班に分けられる。

「まず、家周辺の地形が知りたいところだ」
「じゃあ、『鷹の目』で偵察するか? 空からだから早いぞ?」
「お、じゃあ頼んだぞ鹿島、上手くやれよ」
「任された!」
 段取りを整理するアルリオのつぶやきを聞き、近くにいた和馬が偵察に立候補して俺氏と共鳴。ライヴスの鷹を上空に舞い上がらせ、地上の偵察と並行して行っていく。
「この場所があの童話の通りなら、幼い兄妹もいる可能性があるのですよ」
「なら、そっちも並行して捜索してみてくれ」
 童話の内容を取り上げた征四郎の意見に、アルリオは探索班に声をかける。その後、通信機での連絡が可能なことを確かめてから、探索班は情報収集へ向かった。
「森の中のお菓子の家か。孤児院のガキどもが見れば喜ぶぞ、きっと」
「今は目の前のことに集中しろ」
「へいへい」
 探索班として行動する前に、ダシュク バッツバウンド(aa0044)とアータル ディリングスター(aa0044hero001)はカウントを気にしつつ、魔女の家を見上げた。お菓子の建物に興味津々なダシュクだが、アータルの注意で移動を開始する。
「せーちゃんの言うとおり、もしかしたらまだ子供達がいるかもねっ」
「童話通りならな」
 倉庫に触れながら出たリュカの言葉に、オリヴィエは頭の隅に懸念として残しておきながら、淡々と調べていく。
「建物の距離は近いし、配置もわかりやすいな」
『鷹の目』で生み出した鷹を操り、上空からお菓子の家と倉庫を見下ろしていた和馬は、偵察で得た情報を通信機でアルリオに伝えていく。
「森には何もなかったな。セッションが始まってからはわかんねぇけど」
 その後、森を探索していたダシュクとアータルは何も見つけられず、探索班と合流する。また家周辺の調査では倉庫の内部に入れず、扉を無理矢理こじ開けようとしても不可能だと判明した。
「おそらく、ゾーンルールで建物への干渉を禁じられた、といったところか。この分だと、魔女の家の中にも入れないだろう」
 倉庫を調べた結果を聞いてアータルが推測から導いた意見に全員が納得し、護衛班のところへ戻る。
「さて、敵はどこから来るかわからない。戦いには連携が重要だ」
 セッション開始10分前。再び集結したエージェントたちは、アルリオを中心に戦略を練っていた。
「探索班が調べてくれた地理情報や条件を踏まえ、防衛の人員配置を決める」
 森に包囲された拠点を守るとなると、どうしても戦力を分散させねば対応が難しい。仲間の能力を把握し、適切で効率的な配置の可否で、防衛力は変わってくる。
「足の速さにはちょっと自信があるの。できるだけフォローするから、離れた位置の敵は任せて」
「なら、戦場全体をカバーできる位置がいいな」
 京子の意見に、アルリオは拠点周辺の情報を確認しながら思案する。
「私は盾・剣・鞭を使い分けて戦います。敵が大勢だったり危険だと判断すれば『守るべき誓い』で引きつけ、防衛を重視したいと思います」
「私と兄さんも、楓と同じく守りに専念しようと思ってるよ、アル」
「わかった」
 次いで防衛に向いたスキルを持つ楓とフィアナの意向を確かめ、アルリオはおおよその見当をつけていく。同じように探索班の能力も確認したアルリオは、即座に指示を出し戦力を展開した。

●セッションスタート
「……敵さんのお出ましだ、気張っていこうぜ皆」
 カウントゼロと同時、森から現れた動物を視認し、アルリオは通信機越しに全員へと声をかけてマコトと共鳴する。
「ヴァンクール、殺伐とした戦場に颯爽参上!」
 レッドスター・ヴァンクールは武器を構え、アルリオの記憶から己の役割を確認する。
 戦場の広さとこちらの戦力を考慮し、エージェントたちは散開していた。和馬の提案でお菓子の家の正面扉を6時の方角と定義し、それぞれ文字盤の方角に相当する倉庫を守護する。
 1時の倉庫には和馬、3時の倉庫には征四郎と楓、5時と7時の倉庫にはダシュクとヴァンクール、9時の倉庫にはフィアナ、そして11時の倉庫にリュカ。配置の基準は戦闘能力に機動力、森までの距離などを参考に決定されている。
「よっと。おーけー、こっちでも敵を視認してるよ」
 例外は京子だ。共鳴してお菓子の家の屋根に跳び上がり、高所から広範囲を援護する遊撃を担う。広く視野を確保して森から現れた敵を確認すると、京子は九陽神弓に矢をつがえた。
「さぁて、もう少しがんばってもらうぜ」
 配置についた和馬は、まだ残っていた『鷹の目』の鷹を再び空へと放った。戦闘中の敵の動きを把握する偵察として、お菓子の家上空を旋回させる。
「敵を家から遠ざければいいよね?」
 ルーと共鳴したフィアナは白い短槍の白鷺を片手でクルクル回し、現れた動物へ笑顔を向けた。
「ふざけたドロップゾーンではあるが、やるしかねぇぜ、征四郎」
「もちろんなのです! みんなの明日を守る為に!」
 動物たちの姿を確認し、征四郎とガルーも共鳴。3時方向の倉庫を背に目を光らせる。
 お菓子の家を守る防衛戦が始まった。

 姿を現したのは、アリ、スズメ、クマの三種類の動物。それぞれ別々の位置から出現し、相対したエージェントから戦闘に入る。
 しかし、全員が奇妙な違和感を覚える。気配から従魔ではない動物が、エージェントたちの攻撃に何度か耐えていたのだ。
「カバーリングできる範囲は広いつもりだけど……」
『攻撃力が制限されている状況はストレスが貯まりますね」
 アリの侵攻を阻害していた京子とアリッサは、早々に違和感に気づいていた。アリの頭部や関節に命中しても元気な個体や、腹に浅く当たって消滅した個体も確認された。こうした奇妙なダメージの波に、京子は表情をゆがめる。
「堅実な攻撃がウリなのに、ダメージがばらつくのもちょっとね」
『成功させれば、苦労も思い出話に変わりますよ。さあ、集中して』
「はいはい、っと!」
 しかし、愚痴っていても敵は襲ってくる。体を張って侵攻を防ぐ仲間の負担を少しでも軽くするべく、アリッサに促されて京子は次の敵に狙いを定めた。

「こちら征四郎! 倉庫に接近したクマを討伐しました! かなりタフです! 出現したときは気をつけてください!」
 こちらは征四郎がクマの特徴を通信機で伝えた。雷上動による遠距離攻撃でクマの撃破に成功したが、ほとんどひるまない様子に脅威を覚えて警戒を促す。
「紫さん、5時方面に新たな敵を確認しました! 一度離れ、迎撃に向かいます!」
「わかりました! お気をつけて!」
 クマを征四郎と連携していた楓は、新たなクマの出現を目視して駆け出す。近くに敵影がない上で、ダメージ制限を考慮し、早めに対処すべきと判断したためだ。
「そう簡単には通しません!」
「はあっ!」
 6時方面の戦場にて、新たなクマへと接近していた楓は、近くの倉庫防衛を担当していたヴァンクールと連携。何度攻撃を受けてもひるまないクマは厄介だったが、着実にダメージを重ねていく。

「はっ! あら?」
 9時倉庫にも敵が集まり、接近戦に切り替えたフィアナはイフリートに炎をまとわせアリの1体へ突く。すると、アリは火をいやがるようにして森へと帰ってしまった。
「火が苦手なのかしら? だとしたら好都合ね」
 ダメージの制限はあるが、『防衛』という観点でイフリートが効果的な武器だと知り、戦闘開始から浮かべていた笑みを深める。
「さぁ、次はあなたたち?」
 そして、フィアナは新たな複数のアリを視界に収め、『守るべき誓い』を発動した。
「お菓子がおいしそうなのはわかるけど、人のお家は食べちゃだめなのよ?」
 通じない言葉の代わり、イフリートの炎をさらに散らして、フィアナは笑顔のまま迎え撃った。

「チュン!」
 こちらは12時方向の戦場。集まる動物へ順番に攻撃を加えていたオリヴィエと和馬だったが、突然鳥の声が耳朶を打つ。
「くっ!?」
 標的はオリヴィエ。死角からの襲撃に対応が遅れ、鋭いくちばしを受ける。ダメージは弱いが、体勢が崩れて咄嗟に反撃できない。
「なっ!? どっから現れたんだ!?」
「わからない! こっちも確認できなかったよ!?」
『鷹の目』で戦場を俯瞰していた和馬や、家の屋根から警戒していた京子も、スズメの『奇襲』に気づけず驚愕の声を出す。
「スズメはいきなり襲ってくる! 気をつけろ!」
「チュン!?」
 和馬と京子の声を聞き、オリヴィエは通信機に味方への注意を乗せる。それから体勢を立て直し、スズメの翼を狙撃して落とした。
「げっ! マジかよ!?」
 しかしすぐ、移動しながら敵を追い払っていた和馬は、12時の方角に出現した大量のアリに口をへの字に曲げる。
「牽制する!」
 すると、近くにいた和馬に注意喚起を行い、リュカはアリの群れへ『フラッシュバン』を発動。強烈な光と音でほとんどのアリがひるみ、足を止めた。
「ねずみ算で増えられるのは勘弁してほしいもの、即刻退場願うよ」
 光が消えた後、隊列が乱れた黒い影を見下ろし、京子は『トリオ』で複数のアリへと矢を放つ。さらに『ダンシングバレット』も発動して、確実に敵の数を減らしていった。そして和馬も、10体近いアリへ刀の切っ先を向けて駆け出す。
 各方面の戦場で両者一歩も譲らず、一進一退の攻防が続いていた。

●物量と連携
「全員聞け! 敵の出現傾向が見えてきた!」
 楓と協力してクマを切り捨てた後、ヴァンクールは通信機を起動。和馬の『鷹の目』の情報や、逐次聞こえる仲間たちの報告から、各動物の出現が時計回りに移動していると告げる。
「あと、敵を倒すか逃がせば、すぐに次の敵が出現している! 各人、可能なら討伐の報告もしてくれ! あたしは5時のクマを倒して、6時に出現したクマの相手をする!」
 通信を切ったヴァンクールは、四足で走っているクマへ接近。
「やらせるか!」
 倉庫に向かうクマの勢いをゆるめるため、ヴァンクールは剣にライヴスを集中して『疾風怒濤』を発動した。
「ガアアッ!」
 しかし、連続攻撃をしのいだクマは、ヴァンクールの隙を突いて脇をすり抜け、倉庫へ最接近。二足で立ち上がると、異様な気配をまとう左手を握りしめた。
「させるかよ! ぐっ!?」
 クマの拳が放たれる寸前、ダシュクが倉庫との間に滑り込んだ。巴の薙刀で受け止め、両手に強いしびれが生じる。
『次がくるぞ!』
「ガアッ!」
「あっ、てめっ!」
 すぐにアータルの忠告が飛ぶが、ひるんだ一瞬でクマの右拳がダシュクの頭上を通り過ぎ、倉庫を強打。反射的にクマへ薙刀を振るうが、しびれの残る手では狙いが甘く空を切る。クマは破壊したお菓子をくわると、一目散に森へと逃げてしまった。
「くっそ、逃げられたっ!」
『追うな! 次の敵に備えろ!』
「ちっ! 守りながら戦うってのは、骨が折れるな!」
 追撃しようとしたダシュクを、アータルが厳しく制止した。持ち場を離れて建物へのダメージが重なれば、さらに状況が悪化する。ダシュクもそれを理解し足を止め、警戒を強めて森を睨みつけた。

「くそっ!」
 間もなく、アリの軍勢を抑えきれずに、リュカが守っていた11時の倉庫が食い荒らされて消滅した。
「……ん?」
 急いでオリヴィエが近寄ると、魔女の宝石と、スヤスヤ寝息を立てる2人の子供の姿があった。
『ビンゴ! せーちゃんの言うとおりだったね!』
「侵入不可の倉庫内に残すのは、性格が悪いが、な!」
 リュカの声に答えつつ、オリヴィエは付近のアリへライトブラスターを浴びせ、ひとまず安全確保を優先する。
「おいおいおい、子供がこんなとこで何してんだ!?」
『おや、お菓子の家と子供達、……なんだか馴染む組み合わせだね』
 オリヴィエへ視線を向けた和馬も兄妹の存在を確認し、俺氏も童話の印象を強くしてつぶやきをこぼした。が、和馬はそちらへは向かわず、目の前のアリへと刃を振るう。
 1時の倉庫はまだ残っている。まだまだ群がるアリを追い払うため、迎撃の手を止めるわけにはいかなかったのだ。
「それに、宝石もこれだけたくさんあると」
 そうして時間を稼いだオリヴィエの前には、眠ったまま起きない兄妹と宝石の山。どちらも移動せねばならず、迷いが生じる。
「宝石の方は幻想蝶に保管できねぇか!?」
「やってみる!」
 付近で敵を散らす和馬の提案を聞き、オリヴィエは幻想蝶への収納を試みた。結果、宝石はすべて納まり、護衛対象が兄妹に絞られた。
「報告! 宝石は幻想蝶へ収納可能! 倉庫破壊後は確保を推奨! 後、2人の子供を発見! 敵の少ない場所へ移動させる!」
『急がなきゃいそがなきゃ!』
 通信機越しに他のメンバーへ情報を伝えると、オリヴィエはリュカの声に急かされつつ兄妹を抱え上げた。敵の攻勢が緩い場所を仲間に聞きつつ、避難させていった。
「くっそ! アリの数多すぎだろ!?」
 その後も京子と奮闘した和馬だったが物量の差を覆せず、1時の倉庫もアリに食べ尽くされてしまった。仕方なく、隙を見て宝石を幻想蝶に確保し、敵が家へと向かわないように防衛へ回る。

「キリがないのです!」
「数が、多い……っ!」
 3時方面でも、森から次々と出現するアリに対し、征四郎と戻ってきた楓も移動しながら攻撃して抵抗を続ける。が、ダメージの制限により思うように数が減らせない。
 応援を呼んで手数を増やそうにも、敵は倒したそばから出現するため、誰しもが初期位置から離れすぎると隙を作ることになる。
「しまった!」
「くっ! こちら征四郎! 3時倉庫が破壊されました! 宝石を確保し、引き続き家を守るため、迎撃を行います!」
 そうして、楓と征四郎も数で押し寄せるアリ相手に奮闘したが、倉庫の破壊を許してしまった。即座に征四郎は通信機で状況を伝え、宝石を幻想蝶に取り込んでから、家への侵攻を防ごうとすぐさま武器を構えた。

「ガアッ!」
「させないっ!」
 9時の戦場ではフィアナが単独でアリを追い払い、今度はクマと相対していた。何度か炎槍を振り回すも、クマは精神もタフなのかなかなか逃げようとしない。
 ついに倉庫に接近されてしまったところで、フィアナは2度目の『守るべき誓い』を発動。クマの拳を受け止めた。
「っ! ……ふふ、みんなお菓子が大好きなのね?」
 直後、新たな気配にフィアナは森へ視線を向けると、追い打ちのようにアリが群れを成していた。それでも、フィアナは笑みを絶やさない。この程度の不利なら問題ないと暗に示し、集う動物たちへ炎槍を向ける。

「団体はお呼びじゃねーんだよ!」
 6時の場所でも仲間を増やしてやってきたアリたちに、ヴァンクールは『怒涛乱舞』で吹き飛ばした。しかし、一撃でしとめきることができない。すぐに起きあがったアリたちの進軍を止めきれず、7時の倉庫を破壊された。
「これ以上は、行かせねぇよ!」
 お菓子の破片が消えた後。ダシュクは残された宝石の山を幻想蝶へ収納し、すぐさま集まったアリを薙刀で追い払い、森へと退避させた。

 終わりの見えない動物たちの襲撃だったが、エージェントたちも押されっぱなしではない。ヴァンクールが伝えた出現傾向を利用し、敵の数を減らすと同時に味方同士の連携ができるようじわじわと移動していた。
 京子の援護を受けて敵を退けた和馬が楓や征四郎に合流し、3時方面の敵を倒す。そこからダシュクとヴァンクール、そして兄妹を避難させたリュカたちとも合流。時計回りに出現する敵を追いかけるように殲滅していく。
「ここから先は絶対に通しません!」
 そうして、敵が9時倉庫に集まりだしたとき、先に到着した楓は『守るべき誓い』を発動。フィアナ1人では対処しきれなくなってきた数のアリたちを分散させ、自身へも引きつける。
「すぐにみなさんからの応援もきます! それまでは持ちこたえましょう!」
「わかったよ、楓!」
 クマとアリの猛攻を2人で引きつけ、楓は盾を、フィアナは炎槍を、巧みに操りしのいでいく。
「っし、間に合った!」
 すると、楓とフィアナの抑えていた敵へ、和馬が滑り込む。即座に『ジェミニストライク』で分身を生み出し、複数の敵へ切りかかった。
 これをきっかけに、敵味方が9時方面に集まった総力戦となり、ダメージを敵に集中させることで着実に敵を倒していく。そして、動物の出現数と消滅数が逆転し、戦場から数が減っていった。
「ふぅ、これでもう大丈夫だね」
 そして、フィアナが最後に残ったアリを炎槍で貫き、戦闘は終了した。結局、フィアナは最後まで笑みを絶やさず、背にした倉庫を守りきったのだった。

●あま~い報酬……?
「作戦終了。この戦いのヴァンクール(勝利者)は俺たちだ」
「皆ーお疲れー!」
 家の正面扉に戻って共鳴を解除したアルリオは勝利を宣言し、マコトはすぐに仲間の方へ駆け出した。アルリオは元気なマコトの背中を見送り、やれやれといったため息をこぼす。
「建物はいくつか破壊を許してしまいましたが、人は守れましたね、詩乃」
「そうだね。できれば全部を守りたかったけど、最善は尽くせたかな」
 マコトたちのにぎやかさで眠りから覚めた兄妹を見つめ、楓と詩乃は安堵のため息をもらした。たとえ仮初めの存在だとしても、危険にさらされた誰かを守りきれたという実感が、彼女たちの胸に充足感を落としていく。
 しばらくして、黒いローブ姿の老婆とコウモリが家の扉から姿を現した。
「何だい、うるさいねぇ!」
「お待たせしました! 奇跡的に魔女様が起きてくれました!」
「お前が一番うるさいよ!!」
「ふぎゃっ!?」
 寝起きで不機嫌そうな魔女は、さりげなくディスったコウモリを杖で殴り、地面へ叩きつけた。
「……コウモリさんがストレスで禿げてないといいけど」
「……抜ける毛がなくても胃には来てそうですよね」
 魔女とコウモリさんのやりとりを見て、京子とアリッサはひそひそと苦労性のコウモリさんに同情していた。
 よく見ると殴られたコウモリさんの体に焦げ跡があり、家の中でも壮絶な攻防があったことがわかる。本当、円形脱毛や胃潰瘍にならないか心配だ。
「それにガキまで潜り込んでたみたいだし、今日は厄日さね!」
「ご、ごめんなさ……」
「子供に優しくした方が女子力高そうで男にモテるぜ、魔女さん(ボソッ」
「ま、事情が事情だし許してあげるよ!」
「ほ、ほんとう?」
「ありがとう、おばあさん!」
 魔女の矛先がコウモリから兄妹へ移ろうとしたところ、すかさず和馬が魔女に耳打ち。すると一転満面の笑みとなり、兄妹のつまみ食いをチャラにした。魔女チョロい。
「む~……」
「あはは……」
 その際、終始魔女から熱烈な視線を受けていたルーは、ぴったりくっついて離れないフィアナへ苦笑を漏らした。とりあえずババア、自重しろ。
 そして魔女に倉庫の損壊を伝え、幻想蝶に確保していた宝石を渡す。
「ふんっ! まあ、感謝くらいはしてやるかね」
 そういうと、魔女は残った家と倉庫に魔法をかけ直し、さっさと家に戻っていった。直後、『セッション』が終了したと判断されたのか、徐々に建物の姿がゆがんで消えた。また、近くにいた兄妹も消滅し、代わりに気絶した一般人やいくつかの霊石が地面に出現した。
「あー、消えちまった。めっちゃうまそうだったのに」
「腹を壊しても知らんぞ」
 ずっとお菓子の家を眺めていたダシュクは残念そうに肩を落とし、背後のアータルから呆れた声をもらう。
「えっ!? 待って、写真!」
「もう消えた」
 密かに兄妹とお菓子の家を記念に撮影しようと思っていたリュカは、ダシュクの声に焦るも時すでに遅し。気落ちした様子のリュカを、オリヴィエは無言で背中を叩いて慰める。
「ん? なんだありゃ?」
 しかし、消滅した跡に何かがあることにダシュクは気づく。近づいてみると、それはラッピングされたクッキーだった。それは1つではなく、全員に配れる量がある。
「このクッキーはお菓子の家に使われた物と同じでしょうか!?」
「さぁな。家の菓子の味がわからねぇし、判断のしようがねぇだろ」
「でも、お菓子の家の場所にあったんだから、やっぱり同じ物だと思うのです!」
 クッキーを手に期待感を爆発させる征四郎に、ガルーの指摘を冷静。だが、すでに征四郎にとってはメルヘン印の特別なクッキーなのだろう。ガルーの言葉も右から左で、嬉しそうに袋を胸に抱いていた。
「みやげ付きのセッションとは、気が利くな!」
「……」
 ダシュクも素直に喜んでいたが、アータルは1人クッキーの下にあった紙に気づき、無言で眉をひそめる。
 それは『セッションに使用したお菓子です。よかったらどうぞ』というメモ書き。こちらの様子を監視していた上、挑発する意図を含む内容に、アータルは不快感を示す。
 しかし、アータルは何も言わずメモをそっとポケットへしのばせる。敵の罠の可能性を考慮し、クッキーとともにH.O.P.E.へ提出すればいいと判断したのだ。その後、クッキーは害なしと判断され、エージェント全員に再配布された。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
  • 初心者彼氏
    鹿島 和馬aa3414

重体一覧

参加者

  • 復活の狼煙
    ダシュク バッツバウンドaa0044
    人間|27才|男性|攻撃
  • 復活の狼煙
    アータル ディリングスターaa0044hero001
    英雄|23才|男性|ドレ
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 血まみれにゃんこ突撃隊☆
    東雲 マコトaa2412
    人間|19才|女性|回避
  • ヒーロー魂
    バーティン アルリオaa2412hero001
    英雄|26才|男性|ドレ
  • これからも、ずっと
    柳生 楓aa3403
    機械|20才|女性|生命
  • これからも、ずっと
    氷室 詩乃aa3403hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 初心者彼氏
    鹿島 和馬aa3414
    獣人|22才|男性|回避
  • 巡らす純白の策士
    俺氏aa3414hero001
    英雄|22才|男性|シャド
  • 光旗を掲げて
    フィアナaa4210
    人間|19才|女性|命中
  • 翡翠
    ルーaa4210hero001
    英雄|20才|男性|ブレ
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