本部

きょだいか

雪虫

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/09/12 13:19

掲示板

オープニング

●なにかいる
「暑い所ご足労頂いて済まないな! 少々人手不足になっていて……本当に助かる! 戻ったらよく冷えた麦茶をご馳走させて頂こう!」
 戸丸音弥(az0037)はアマゾンの暑さに負けないぐらいの暑苦しい声を張り上げた。時刻は日中。晴天。暑い。出来れば今すぐ戻って大浴場なりシャワー室なりで汗を流したい所だが、音弥の話ではこの近くに設置されている監視カメラに不審な人影が映り込んでいたらしい。
「監視カメラと言っても、このアマゾン全域に十分数を設置出来ている訳ではないのだが……中には立ち入れない区域もあるしな。とは言え、密猟者かもしれないから確認する必要がある。そろそろ共鳴しておいた方がいいかもしれない。共鳴すれば大丈夫でも、生身では一般の銃も十二分に危険だからな……」
 と、音弥の足がピタリと止まった。音弥だけでなく、後ろのエージェント達もピタリと止まった。何かいる。ジャングルの樹々の影に隠れて、何かがじっとこちらを見ている。
 それは、蚊だった。人間の身体に蚊の頭を乗せた、蚊みたいな何かだった。いや、違う。蚊じゃないわ。蚊に人間の(しかもムキムキマッチョ系)の首から下がついているはずないわ。しかも一匹じゃなかった。四匹だった。赤、青、黄、緑の巨大な蚊のような生き物が、じっっっっと数メートル先にいるエージェント達を見つめていた。ここにピンクがいたら戦隊物を組め……る訳ない。なんだ蚊の戦隊物って。どんなにネタが尽きようとも採用される気がしない。
 などというツッコミをエージェント達が各々の頭の中で繰り広げていると、蚊もどきが腕を伸ばした。そして肘を折り曲げた。蚊もどきの上腕に見事な筋肉が浮かび上がった。むき。

解説

●目標
 従魔討伐

●場所
 密林地帯
 樹々がうっそうと生い茂っている。木にぶつかりさえしなければ何処までも走っていけそう。迷子&火気注意

●NPC情報
 戸丸音弥&セプス・ベルベッド
 ギアナ支部所属のバトルメディック。特に指示がなければ自己判断で行動
 スキル:ケアレイ/クリアレイ  
 武器:禁軍装甲/アサルトライフル

●敵情報【PL情報】
 巨大蚊×4
 元はなんの変哲もない蚊だが従魔が取り憑き巨大化。蚊の習性がちょっと残っているが虫よけスプレーは克服した。密林における目立ちやすさは赤>青・黄>緑。防御と移動が高い
・モスキートハグ
 ムッキムキの両腕で抱きつき【拘束】付与
・ストレートモスキート
 直線上に大量の蚊の群れを飛ばし、直線上にいるPC全てを襲わせる(蚊の群れは1ターンで消失する)。当たるとどこか一か所に蚊に喰われたような痒みが発生し、激しい痒みによる【減退】付与。攻撃を喰らう程にBSは強化され、4回喰らうと(諸々への怒りで)【暴走】付与。
 いずれの状態であってもBSはBS回復スキル1回で回復出来るが、刺された痕と痒みは残る
 ライヴスによる痒みのため英雄(共鳴・非共鳴問わず)にも影響が出る。共鳴を解除した場合は能力者・英雄に効果が分散され、非共鳴状態で攻撃に当たった後共鳴した場合は能力者・英雄の効果が合算される
・ラストモスキート
 残り2体になると使用。半径5スクエアに巨大な蚊柱を出現させる。範囲が違うだけで効果はストレートモスキートと同じ

●使用可能物品
 装備品、携行品、麦茶、塩飴、虫よけスプレー、虫さされ軟膏
 
●その他
・「蚊に刺された時の反応」はこだわりがある/NGがある場合は記入お願い致します。特にない場合はMSがアドリブします
・【減退】【暴走】は自動回復しないBSですのでご注意下さい
・PL情報はPCが知らない情報です。使用する場合はPC情報に落とし込むアクションが必要となります

リプレイ

●未知との遭遇
「あっちー、なーんでこんな時期にこんなところで仕事なんすかね。クーラー効いた部屋でデスクワークたいっすわー」
「デスクワークすらしないでしょう、あなたは」
 虫よけスプレーをかけつつ宣う木佐川 結(aa4452)に水蓮寺 義政(aa4452hero001)は落ち着いた口調で指摘した。見た目は清楚、中身はスーパーローテンション無気力。愛するものは自由と金とカップラーメン。それが木佐川結である。佐倉 樹(aa0340)も自分とシルミルテ(aa0340hero001)に、シルミルテの耳にもしっかりと掛ける事を忘れないようにしながら虫よけスプレーを噴射する。
「匂イがお鼻ニきュ? ット……」
「戸丸君とは初めてになるか。今回はよろしく頼む」
「こちらこそよろしく頼む」
「ところで、何で人手が不足しているのか聞いてもいいッスか?」
 顔をわずかに顰めるシルミルテの横で無月(aa1531)が音弥に話し掛け、齶田 米衛門(aa1482)が素朴な疑問を音弥へと投げ掛けた。「働き過ぎじゃないのかな?」という想いもあるし「自分達の存在で人手不足解消になると良いな」という考えもある。
「アマゾン全域の調査を行っているんだ。最近見慣れぬ従魔が増えててな。そろそろ共鳴しておいた方がいいかもしれない。共鳴すれば大丈夫でも、生身では一般の銃も十二分に……」
 と、音弥の足がピタリと止まった。音弥だけでなく、後ろのエージェント達もピタリと止まった。
 それは蚊だった。人間の身体に蚊の頭を乗せた、蚊みたいな何(以下省略)。蚊とムキムキマッチョのキマイラに、一色 綾香(aa4051)は緑色の瞳を細める。
「……蚊?」
「従魔化したものだ。一般の蚊ではない」
「見れば分かる!」
 サイコロ(aa4051hero001)の的確()な分析に綾香はすかさず突っ込んだ。こんな蚊が一般に居たら嫌過ぎる。樹は
「……また(筋肉)か……」
と眉間にわずかに皺を寄せ、シルミルテは
「……ォーゥ」
とアメリカンに反応した。
「何と言うか……端的に言うと気持ち悪いですね、アレ。あと何かこう……沸々と込み上げてくるモノがあるような?」
「わからんでもないの。頭だけ蚊のマッチョって字面だけでも中々アレじゃが実物になると最早意味わからん……」
 秋津 隼人(aa0034)は防虫電磁ブロックをONにしながら嫌悪をはっきり言葉にし、椋(aa0034hero001)は見た目は子供、口調は年寄りで隼人の言葉に頷いた。一方
「良い筋肉ッスなぁ」
「見飽きた気がすっけどなぁ」
というやり取りをする米衛門とスノー ヴェイツ(aa1482hero001)もいたりするので、人の感じ方はまさに十人十色のようである。
「蚊の戦隊物? 戦隊物の番組の製作者に謝った方がいいわよ。良くて怪人の方じゃない、あれ」
 志々 紅夏(aa4282)もカラー分けされた巨大蚊に真顔で指差し意見を述べた。その最中でもむき、むきとポーズを変える蚊マッチョに隼人が思わず口を開く。
「あとポーズキめてるけど……違うね、マッスルってのはもっとこう、魂がないとグッドモーニングできない……って何言ってるんだろう?」
「大方脳裏に焼き付いたマッスルが蘇ったとかそんなんじゃろ。ドロップゾーンで重体だったからの、影響が出る事もあるんじゃろ、多分。……あまり思い出さん方が良いと思うが」
 何かに取り憑かれている相棒に椋が汗ながら肩を叩いた。という風にしばらくごった煮が続いたが、ついに樹が共鳴し黒の猟兵をその手に開いた。そして今まさにポーズを取っている赤蚊、の「むき」部分目掛け銀の魔弾を撃ち放つ。本当はウィザードセンスで強化したい所だが、とりあえず「むき」の部分を攻撃せずにはいられなかった。
「戦力的に不備はないと思われる」
「それは……そーだねー。なんか有名な隊の人達もいるもんね」
 サイコロの的確な分析に綾香は今度は同意した。白い悪魔(と呼ばれたい)に機械音が案を述べる。
「我らは邪魔にならぬよう側面攻撃が望ましい」
「気合いれなきゃね!」
「気合、入れる」
「いくよコロちゃん! リンク、エーレクトロン!!」
 説明しよう。エーレクトロンとはサイコロの居た世界の搭載機の事であり、綾香はサイコロと共鳴する事によりエーレクトロンの外装を装着した姿となるのだ! コスプレちっくなちゃちい外装だが本人はいたって満足している。
『Ver.バスター』
「綾香機、でますっ!!」
 と綾香は出撃……せず、その場で拳を握り構えた。ポイントである半透明な羽(ただの飾り)を煌めかせ、現在進行検討中のトップギアのポーズを取る。
「コロちゃん……チャージ!」
『綾香、これが気合か』
「ちがーう! でも合ってるかも!?」
『?? 不明』
「気にしないで! いっくよぉ!」
『了解。気にしない』
 
「愚神や従魔は異世界から来た者達と言う事だが……彼らは一体どこから来たのだろうな……」
「さあね、戦隊ヒーローがリアルでいる世界とかじゃないのかな……」
 爆裂爆闘爆装少女が一部発光していた頃、無月の言葉にジェネッサ・ルディス(aa1531hero001)は呆れ混じりに呟いた。無月はジェネッサと共鳴し、舞う炎の帯の間から己が獲物に瞳を定める。
「とりあえず、私は緑色の従魔を相手にしようか」
『一番忍んでいるからかな?』
「別にそう言う訳ではないが、一番目立たない相手を放置するのは危険だからな。と、言う事で、彼らには早急に元の世界にお引き取りいただこう」
 無月はライヴスで全身を覆い密林の影へ身を潜めた。ナガル・クロッソニア(aa3796)も千冬(aa3796hero001)と共鳴し潜伏、をかける前に、猫の尾をぶわっと太くしぎゅっと拳を握り締める。
「む、ムキムキであっても虫は虫! 成敗します!」
「……あまり気張りすぎない様に……寄ってこられたらどうするんですか」
 千冬に諫められつつナガルは影に隠れてこそこそと準備した。虫刺され軟膏は刺されたら直ぐ塗れるように「……効くと、いいなぁ……」と希望を添えつつ絶対携帯。刺されない様、可能な限り隠せるところは隠して長袖! ……でもあんまり暑くなるようなら少し腕まくりも検討……と色々準備を終えた所で共鳴し潜伏し、米衛門は快活な笑みと共に両手をパンと打ち鳴らす。
「相手に不足なし、行くべ!」
「あいよー」
 共鳴し若干伸びた髪を後ろへ流した米衛門の脳裏には、「蚊は熱と二酸化炭素に寄って来る」というジッサマの言葉が過ぎっていた。「ならば花火でファイヤーすれば良いのでは? 寄せられたら御の字焼けても御の字」という考えの元爆竹を取り出そうとした米衛門は、そこで爆竹を忘れた事に気が付いた。凄竹ならあるがこれではない。米衛門は慌てず騒がず手筒花火を取り出すと、着火して小脇に抱え、従魔が二体来た所で怒涛乱舞を繰り広げる。
「うわーないっすわー、初仕事がこんなんとかないっすわー。クソ暑い上にクソマッチョが相手とかないっすわー」
「そんなこと言って、動くのは私じゃないですか」
 結は清楚な見た目で全力で文句を言い、義政は日頃の苦労が垣間見える台詞をひそり吐き出した。しかし戦わなければ終わらない。義政は結と共鳴し重武装エレキギター「パラダイスバード」を出現させ、距離を取りつつギターに搭載された火炎放射器を従魔目掛けて噴射する。
「……何はともあれ従魔は討伐しないとな」
 仲間達が各々戦闘を繰り広げる中、ようやくグッドでモーニングなマッスルから現実に帰還した隼人は、改造した魔槍「ガ・ジャルグ」、命銘「心血」を手に青い蚊へと斬り掛かった。そんなバトルメディックを表し難い眼差しでしばしの間見つめた後、紅夏はもう一人のバトルメディックへ視線を移す。
「あ、音弥は下がってて頂戴。あんたバトルメディックだから、回復担当が負傷されても困るし。……もう一人は、多分戦闘終了後無事でいるかどうかわかんないわ。以前、その、ちょっと、スイカと間違えて攻撃したことあるから、そういう星の生まれかもしれないし、か、回復担当一人位は無事でいた方が皆大きな怪我しないとかそういう訳じゃないのよ?」
 紅夏は何故か目を逸らしつつそう述べた。音弥は疑問符を飛ばしつつ「了解した」と従魔がいない所へ退避した。
「虫除けスプレーと軟膏はあるけど、相手は従魔だろうし、まともに通じるかどうかは考えない方がいいわよね。 腕がしっかりしてるし、物理攻撃にも優れるかもしれないわ。まず数を減らすことを考えないと」
 そのために、と紅夏は保志 翼(aa4282hero001)と共鳴し守るべき誓いを展開させた。敵の意識を引き囮になる、実行するのはかなり嫌だが自分に優先順位をつけることで目視しやすくなると思う、という考えからの策だった。
 周囲にライヴスが発散され、巨大蚊達の視線が一斉に紅夏を向いた。そしてその中の一匹が、何故かむきむきの両腕を広げ紅夏へと迫りくる。その黄色にコーティングされた筋肉に最近見た全裸マッチョ従魔の全て(意味深)が重なった。迫るマッチョ。蘇るトラウマ。紅夏の中で何かが切れた。
「う、マッチョが迫ってくる……ぞうさんぱおーん」
 黄色に染まりし蚊マッチョは叫ぶ紅夏に抱き着いた。残り三体の蚊が一斉に蚊(大量)を召喚し、紅夏と一匹の蚊マッチョは三本の蚊柱の向こうに消えた。

●阿鼻叫喚
「いっやああああああああ」
 紅夏はマッチョにハグられながら蚊の洗礼に遭っていた。肌に虫刺されが出来ているが正直それどころではない。
「やだやめてちょっと抱きつかないでよ! どうすればこいつ死ぬの? 誰か! 何やってもいいからこいつ殺してもういっそ私ごと撃っていい、許す!!」
 マッチョハグへの嫌悪が死ぬかも知れない恐怖を完全に上回っている。音弥は「大丈夫か紅夏君!」とスキルを使おうと構えたが、それをウィザードセンス準備中の樹がスッと片手で制す。
「戸丸さん、バルメディックが少ないから回復スキルは温存してもらっていいかな?」
 樹の言葉に音弥はぐっと口を結んだ。ここでクリアレイを使えば紅夏の拘束は解けるだろう。が、
「すまない紅夏君……頑張ってくれ!」
「いっやああああああああ」
「これは……蚊で攻撃してるの?? とりあえず、これでも、くらえー!」
 綾香は紅夏を助けるため、屠剣「神斬」の斬撃を黄色い蚊へと撃ち放った。攻撃は蚊に命中したが、どうやら攻撃を受けただけでは離れてくれないようである。
 無月は潜伏をかけたまま密林を音もなく駆け抜けた。隠れ場の多い地の利を利用し標的へと肉薄し、背後から奇襲を掛け縫止の針を飛ばす。攻撃が命中した事に、ジェネッサが無月の内で悪戯っぽく呟いた。
「これぞ忍びの戦いってやつかな?」
 ナガルもまた潜伏しながら青い蚊に接近すると、その腕目掛けてデスマークを発射した。これでこの従魔をしばらく見失う事はない。
「一匹にデスマークを付けました。一体、追います!」

 米衛門は巻物「雷神ノ書」を腕に巻きながら考えた。何で蚊に色分けがあるのかと。効果分けされてるとかじゃないようだし。虫よけ克服しているのなら蚊取り線香は大丈夫なのだろうか。ハーブなど要は本来虫が避けるべき成分を克服って事になると(都合により標準語でお送りします)
「無農薬栽培はハーブと一緒でねば大変なんだがなぁ」
『他の害虫じゃ無くてマシじゃねェか?』
「んだな」
 それはそれ、倒せば良いと、サバイバルブランケットを被りながら従魔へと突撃する。ブランケット自体に効果は無くても振り回し回転しながらで心持行ける気がする。全てはノリと勢い、それが米衛門という男である。
 一方、迫りくる蚊柱を横っ飛びで回避した義政は、無情にも結に文句言われなうだった。
「義政、当たったら殺す」
『だったら体のコントロール、自分でやったらどうですか……』
 説明しよう。この二人の共鳴は体を動かすのは義政、メインの意識は結であり、義政(体)がしくじると結(意識)から罵声が飛ぶ仕組みなのだ。同情を禁じ得ない。
 義政は息を吐きつつも、孤立する個体により接近しやすいように潜伏を使用した。同刻、極獄宝典『アルスマギカ・リ・チューン』に武器を換装した隼人は、筋肉強調ポーズ決めなうの蚊マッチョに何かがパーンと弾け飛んだ。
「そんな物が筋肉だと、マッスルだと思うのか! ……って何言ってるんだ俺は」
『隼人……あの時負った傷は深かったのじゃな』
 困惑する隼人の姿に椋は「ほろり」と擬音を零した。マッスルの記憶がフラッシュバックしハイになっているのかもしれない。その手に持っているアルスマギカの所為かもしれない。しかたない。
「とにかく、真のマッスルとは何かを見せてやらねば……うおおおお!」

 翼はマッチョに半狂乱になっている紅夏に無反応を貫いていた。元々とある事情により感情の起伏の乏しい翼は、今日も「倒せるなら死に掛けも辞さぬとはおかしな奴だ」ぐらいの感想しか持たなかった。
 一方、紅夏はこれ以上ない程必死だった。「いっやあああああ」と絶叫しながらようやく巨大蚊を振り払い、そこかしこに出来た虫刺されに軟膏をぬりぬりする。
「痒い、なんて言うと思ってるの! 私は絶対に言わないわよ!」
 と紅夏が叫んだその瞬間、赤、青、黄の三匹がストレートに蚊を飛ばしてきた。紅夏は再び蚊を喰らい音弥がクリアレイを飛ばす。綾香も洗礼を喰らったが握った拳を払い、叫ぶ。
「こんなん私に効くかぁ!!」
『特に鋼体化しているわけではないので効果はある』
「言わないの! 痒いと思わなければ痒くないっ」
「みんな、サンダーランス使うから、気を付けはするけど、もしも当たりそうだったら避けてね」
 直線上に従魔が二匹並んだのを見た樹は周囲にそう通達し、直後ライヴスの雷を一直線に撃ち放った。雷は見事二匹、と一人に命中し、樹は「一度注意をしているので自分は然程悪くない」という感じで一人へ声を掛ける。
「あ、ヨネさんごめん」
「おーかっこえぇー」
 樹の放ったサンダーランスに綾香は目をキラキラさせた。対しサイコロは淡々と説明する。
『ソフィスが使える魔法の一種だ』
「あんなのやってみたいな!」
『それは不可。魔法は我には使えない』
「わかってるって! ……似たような事できないかなーとか思っただけ!」
『綾香は派手好きなのだな』
「こんなの目立ってなんぼだからね!」
 「夢は巨大ロボ」な綾香はタワーシールドを構えたまま、疾風怒濤を仕掛けるべく従魔目掛け駆け出した。近接したと同時に煙を吹きながら連続攻撃を叩き込む。
「蚊の攻撃なんか痛くない! いっけぇぇっ!!」
『バースト、始動』

「あ、危なかったです……」
 蚊の大群からの全力回避に成功したナガルはほっと息を吐き出した。しかし一息つく間もなく他の蚊と合流しそうな蚊頭マッチョを発見し、縫止の針を放った上で通信機に声を飛ばす。
「今こっちで一匹足止めしました!」
『マスター、油断はされませんよう。……どうしても視界は悪いですから』

 米衛門はプスプスと灰色の煙を上げていた。樹の放った通達に米衛門は退避せず、むしろフットマンズ・アックスに武器を切り替え敵目掛けて突進した。避雷針がいないと敵に当たらないかもしれない、出来るだけ多く巻き込みたい、当たっても構わない、そういうものだ、当たる時は当たる全ては自然のまま……という諦めではなくある種悟りの境地にその心は達していた。(都合により標準以下略)。
「あの時は敵一体に対してタッグ技を選んだのが悪かった……ならば!」
 色々ハイが止まらない隼人は黄色い蚊の身体を掴むと、そのまま見様見真似筋○バスターを選択し上空へと飛び上がった。でも見様見真似なので下半身を地面に強かに打ち付けるだけ痛い。アルスマギカどうしたなどとツッコミを入れてはならない。
「いっやああああああああ」
 紅夏は目に映るマッチョに向けてライヴスショットを放っていた。音弥にクリアレイを掛けられたが精神的な暴走はどうしようもないようである。緑のマッチョは攻撃を喰らいながら紅夏に襲い掛かろうとしたが、そこに無月が苦無片手に立ち塞がった。無月は敵を牽制し、仲間が立て直す猶予を作るべく苦無を敵へ振るったが、従魔は刃を受けながらそのまま無月を拘束する。
「ぐ、うぅう……!」
(く、苦しい……、だが、ここで果てる訳には行かない……! 諦めるものか、私は最後まで抗って必ず抜けだして見せる……!)
 力では到底叶わぬだろうが決して心までは屈しはしない、ムキムキマッチョにハグられながら無月は敵を睨み付けた。そんな無月を嘲笑うように別の従魔の放ったストレートモスキートが従魔ごと無月を飲み込んだ。義政は蚊柱を回避し、同時に横合いからパラダイスバード搭載の火炎放射器を射出する。
『焼き払う事は可能なようですが、根本的な解決にはならなそうですね……』
「やっぱり直接処分するより他にはないよね」
 樹はポージングしている赤蚊を狙い銀の魔弾を発射した。魔力の弾は筋肉を余すことなく強調する従魔の胸部にぶち辺り、そのまま本体を吹き飛ばした。筋肉に当たった上に倒した事に樹が満足気な笑みを浮かべる。
  
 その頃、密かにモスキートハグに遭っていた綾香は見事なまでに硬直していた。顔色が悪くなる綾香にサイコロが声を上げる。
『綾香、危険だ脱出を』
「……さ」
『さ?』
「触るなぁぁぁっ!!」
 綾香の怒声と共に閃光が迸った。武器に集まるライヴスにサイコロが機械音を放つ。
『関節可動上限開放。ターゲットロックオン』
「どっかに飛んでけぇっ!!」
 頭を狙った零距離オーガドライブに黄蚊は綺麗に虚空に消えた。綾香はフーフーと荒く息を吐いていたが、しばらくして可憐な少女ボイスで口を開く。
「コロちゃん……」
『どうした?』
「私はコロちゃんだけだからね!?」
『理解はできない了解した』
「うぅ……なにあの腕とかキモチワルイー」
『綾香はロボ専だからな』
「お、覚えたね! そう!!」
 
 緑蚊をようやく払った無月は懸命に痒みを堪えていた。戦いの最中に隙を晒せばそれこそ相手の思う壺。戦いが終わればすぐにでも痒みは治せる。その時が来ることを考え、意志の力で痒みを懸命に我慢する。とは言え、我慢する事による集中力の低下は免れない。極力避けたい状態だ。
「蚊とは言え、従魔の駒にされた彼女達も犠牲者だ。蚊攻撃の蚊の命は取りたくはないな……」
「蚊なんて滅びたらいいんだー!!」
 無月が蚊への温情を呟く一方、ナガルは真逆の事を叫びつつ緑蚊へデスマークを付着させた。米衛門は引き続き突貫スタイルで己が拳を叩き込み、潜伏で姿を隠す義政は青い蚊へと肉薄しジェミニストライクで奇襲を仕掛ける。
『孤立している敵に奇襲をかければ、ある程度の差はカバーできますよ』
「うっわ、至近距離でクソマッチョ見せんなよ。はっ倒すぞ、義政」
 無情な結の罵倒を受けつつ義政は地を蹴り距離を取った。結の言もあるし、相手の近くに長く留まることは絶対しない方がいい。
 紅夏は血走り気味の目でライヴスショットを放っていた。「蚊だわマッチョだわなんて最悪ぜつゆる皆と協力して確実にぶっ殺す」と目がこれ以上なく語っている。
「残っているのは青と緑か。ゲリラ戦になるかもしれない。追跡を試みます」
 隼人はライヴスゴーグルを装着し「心血」で緑蚊へ斬り掛かった。と、二体の従魔が何故か天高くへと両手を伸ばした。あれ、なんか違くね? と思った瞬間、超特大の蚊柱が二本密林にそびえ立った。

●※都合によりお見せ出来ません
 蚊の洗礼を受けた結は義政をめちゃくちゃ罵倒した。とにかくありったけの言葉で遠慮呵責容赦なく義政を罵倒した。良心? 知らぬ。体を動かしているあいつの責任。そう言わんばかりのいっそ清々しい罵倒だった。
「とにかく、早く倒しましょうか」
 隼人は己も虫刺されを作りながら仲間達へと声を上げ、遠くにいたためファイナルモスキートを免れた樹がいち早く銀の魔弾を発射した。しかし「むき」と強調される上腕を狙った攻撃は蚊がポーズを変えたと同時に外れてしまい、樹は露骨に舌打ちした。
 綾香が斬撃を飛ばしたと同時に、接近した無月がジェミニストライクで奇襲を掛ける。ナガルもじわじわーっと痒みが来るのを必死に堪えアーバレスト「ハストゥル」の矢を放ち、義政は結に罵倒されつつ縫止の針を飛ばす。
「秋津さん、ここは連携と行くッスよ!」
 米衛門の誘いに隼人は頷き、二人同時に攻撃を従魔のマッスルへ叩き込んだ。紅夏がパイレーツサーベルで緑の蚊を消滅させ、残り一体、となった時、最後の蚊はあろうことか樹へと抱き着いた。
 予告はなかった。一切の予告なく、次の瞬間には雷の槍が密林の中をひた走った。サンダーランスに撃ち抜かれた蚊マッチョは完全に消滅し、樹は煙を上げている人物(二人目)へ視線を向ける。
「……えっと……大丈夫?」
 今日も今日とて不幸な事故に巻き込まれる運命の隼人は、しかし爽やかな笑顔で樹にサムズアップした。

●俺達の戦いはこれからだ!
『排除、完了』
 サイコロの言葉と共に綾香は共鳴を解除した。そして眉間に皺を寄せ虫刺されをカリカリと掻く。
「……そして痒い」
「効果はあると言った」
「わかってるってばー。むーコロちゃんはいいなー」
「なんでだ?」
「痒いとか感じないの」
「そのような機能はないな」
「ふこうへいだー」

「隼人君、すまんが相談したい事が」
 「疲れましたね……痒いし、なんなら痛いし」と尻を擦っていた隼人は、「半分以上は自分のせいな気もするが……まあお疲れ様、じゃの」と麦茶をゴクゴク飲んでいた椋から視線を音弥へと向けた。音弥は共鳴を解除せぬまま言いにくそうに言葉を紡ぐ。
「実は、君と合わせてクリアレイがあと五回しかないのだが、今状態異常は七名……だよな? つまり誰か二人……」
 その時、「ぞうさんを、乗り越えるんだから」と言いながら紅夏が地面に倒れ込んだ。「音弥、怪我ないならこれからあんたが忙しくなるのよ」と気丈に振る舞っていたはずだが、どうやら痒みによる減退が体力を食い尽くしたらしい。虫刺されの悪化に倒れた紅夏に隼人は即座に決意する。
「クリアレイも回復も残りの五人に回しましょう。俺は大丈夫ですから」
 元々自分の回復は三の次以下、痒みさえ椋には渡さず全て自分が背負う覚悟だった隼人はきっぱりそう述べた。音弥は「すまない隼人君!」と隼人の手をきつく握り、二人で仲間達への回復作業を開始した。

 シルミルテはセプスをじーっと見ていた。スキルを使い切った音弥は共鳴を解除し軟膏処置などに当たっている。セプスはしばらく音弥の事を眺めていたが、ようやく視線に気付いたらしくシルミルテに瞳を向けた。シルミルテは首をこてんと傾げ無口な英雄に問い掛ける。
「苦労…………しテル?」
 間のある問いにセプスは答えず無言のまま瞳を逸らした。無反応に近いそれに、しかしシルミルテはにぱーっとうれしそうな笑顔を浮かべ、従魔の残骸を調べていた樹の元へと走っていった。残骸を回収出来ず不満そうな樹にシルミルテは問い掛ける。
「……今回モ従魔ノデーたまとメテ『報告』すルノ?」
「一応……何が後で有用になるかわからないし……後々コレのデータが有用になる機会が無い事を祈るばかりだよ……」
 樹はHOPEと身内用の報告書作成にと密林を歩き回り、シルミルテはその後をぱたぱたと着いていった。

「二度とこんなところ来ないっすわ、クーラー効いたところでの仕事だけ呼んでほしいっす」
「仕事は選べませんよ、生活もかかってるんですから」
 軟膏を塗りつつ麦茶を飲む結を義政が変わらぬ調子で諫め、音弥が「申し訳ない」と結達へと頭を下げた。そこに米衛門とスノーが近付き浮かんだ疑問を音弥にぶつける。
「ライヴスって感覚さ来るもんなんス? 痒みが来るってのなして何だがと思ったんスよ」
「痒みって痛みじゃねェもんな」
「ん、そう言われてみれば……」
「戸丸さんも大変お疲れ様でした……」
 麦茶を貰いにきたナガルが音弥へと声を掛けると、音弥は思考を中断しナガルに麦茶を入れてくれた。ちなみに戦闘中は痒みを堪えたナガルだが、先程一回掻いたが最後もうその場所が気になってしょうがなくなっている。千冬は慌てず騒がず先ず軟膏を塗り表情にあまり出ていないが、頬の内側を噛み締めて静かに痒みを我慢していた。
 と、ナガルの目の前にぷうんと蚊が寄ってきた。ナガルがぺちんと蚊を落とし呟きを零したのと、虫刺されが悪化した隼人が倒れたのは全く同時刻だった。
「まだ蚊はいますからね。暑い内は油断できません……」

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

  • 挑む者・
    秋津 隼人aa0034
  • 断罪乙女・
    志々 紅夏aa4282

参加者

  • 挑む者
    秋津 隼人aa0034
    人間|20才|男性|防御
  • ブラッドアルティメイタム
    aa0034hero001
    英雄|11才|男性|バト
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • 我が身仲間の為に『有る』
    齶田 米衛門aa1482
    機械|21才|男性|防御
  • 飴のお姉さん
    スノー ヴェイツaa1482hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 夜を切り裂く月光
    無月aa1531
    人間|22才|女性|回避
  • 反抗する音色
    ジェネッサ・ルディスaa1531hero001
    英雄|25才|女性|シャド
  • 跳び猫
    ナガル・クロッソニアaa3796
    獣人|17才|女性|回避
  • エージェント
    千冬aa3796hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • 爆裂爆闘爆装少女
    一色 綾香aa4051
    機械|17才|女性|生命
  • エージェント
    サイコロaa4051hero001
    英雄|6才|?|ドレ
  • 断罪乙女
    志々 紅夏aa4282
    人間|23才|女性|攻撃
  • エージェント
    志々 翼aa4282hero001
    英雄|27才|男性|ブレ
  • エージェント
    木佐川 結aa4452
    人間|16才|女性|回避
  • エージェント
    水蓮寺 義政aa4452hero001
    英雄|23才|男性|シャド
前に戻る
ページトップへ戻る