本部

退治されるは鬼か人か

東川 善通

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/08/25 22:50

掲示板

オープニング

●小さな信仰者
「康広ちゃん、ティアラちゃん、遊びに行きましょ」
 夏休みも丁度良く始まったということもあり、椿康広(az0002)とティアラ・プリンシパル(az0002hero001)は猿、犬、烏、小鬼による襲撃の後、集落の老夫婦のご厚意でそちらの家に宿泊していた。その老夫婦には可愛らしい孫がいるようで、騒動終了後、無理を言って香川から遊びに来ていた。そして、何故か気に入られた二人は度々彼女――桃愛(もあ)と一緒に行動することが増える。
「私は家でいいわ」
「いいじゃねぇか、行こうぜ」
「……わかったわ、幻想蝶の中に入ってる」
「おい」
 ブレスレットにしている幻想蝶に触れ、ティアラはさっさと幻想蝶の中に入りこむ。それに康広は呆れながらも、行かないというよりはマシかと思いながら、康広は桃愛とお出かけすることになった。
 お出かけ先は桃愛のお気に入りの場所だという。
「ふーん、どんなとこなんだ?」
「あのね、お社様があるの。おじいちゃんの話だと、昔ね、鬼を封じた場所なんだって」
 でも、今はぼろぼろなのと残念そうに告げる彼女の頭にぽんと手を置く。
「だったら、お前がでかくなった時にでも綺麗にしてやればいいんじゃねーの?」
「……そっか、そうだよね! あたし、頑張るね!」
 康広の提案にうふふっと嬉しそうに笑う桃愛。それから、桃愛はその社でどういう遊びをしていたのかを康広に語る。
「お社様の隣にはね、白い蔵があるの。そこには、いっぱい、お猿さんやお犬さん、烏ちゃんの置物が置いてあるの」
『……猿、犬、烏の置物?』
「そうよ! 本当はキジさんにしたかったらしいんだけど、顔料って言うのが手に入らなくて、烏にしたんだって」
「……ティアラ」
『わかってるわ。警戒しながら行きましょう』
 幻想蝶の中から聞こえたティアラの声に興味を持ってくれたと思った桃愛は嬉しそうに話す。それに声を落として、康広が名前を呟けば、ティアラもわかったのだろう、頷いた。
 集落から少し離れたところまで来ると鳥居が見えてきた。それに桃愛が嬉しそうに駆け寄り、「この先にもう一個鳥居があるの。で、そこまでくると、もうお社様もすぐ傍にあるのよ」と社があるであろう方向を指差す。そして、早くとばかりに康広の手を引く。
「ほら、お社様!」
 二つ目の鳥居に辿り着き、見えたぼろぼろの社。桃愛が桃愛が走りだそうとした瞬間、康広の目に黒い影が映った。それに反応し共鳴をすると、彼女の体を己に抱き寄せる。
 そうして、彼女が抱き寄せられなければ、いたであろう場所にはずっしりとした棒。視線でそれを辿れば、大鎧を纏った猿。いや、頭だけが猿だった。
「え、なに、お猿さん?」
「いーや、猿じゃねぇよ。そんな可愛いもんじゃねぇな」
 その猿の奥には犬の頭を持っている人型と鶏の頭を持つ人型の姿も見えた。片側に桃愛を抱え、空いている手にはソルディアを持つ。ただ、自分一人だと分が悪い。
「一先ず、退く。桃愛、しっかりとオレに掴まってろ」
「う、うん!」
 ギュッと康広のコートを握る桃愛。それを確認すると同時に襲い掛かってきた三体。康広はそれを後ろに飛びずさることによって、回避する。そして、鳥居を抜け、社から離れた。一つ目の鳥居まで戻り、後ろを振り返れば、三体が付いてきている様子はなかった。
「あの中だけで動いてるのか?」
『考察は後よ。とりあえず、先に集落に戻りましょ』
「それもそうだな」
 集落に戻った康広はすぐさま夫婦に話をし、H.O.P.Eへ依頼と集落の人間が社に近づかないよう注意喚起を頼んだ。それに夫婦はすぐさま動き、康広はどうするのかと尋ねる。
「オレは他のエージェントたちと一緒に討伐に向かう。ここまで関わったんだ。最後までやってやるぜ」
 だから、オレたちに任せてくれと康広は笑みを浮かべた。その一方で、連絡を受けたH.O.P.Eは至急、岡山近辺にいる君たちの許に討伐依頼が発信した。

解説

愚神及び従魔の討伐
前作等、読んでいなくても問題ありません。

●寂れた社
百姫の拠点。集落より少し離れた山間部にある。ボロボロになった社とその隣には蔵が隣接している。鬼を封じていたなどという伝説も残っているらしい。二つ目の鳥居からの範囲は25×15スクエア。

●同行NPC:椿&ティアラ
桃組パニック!? 終了後もティアラの引きこもり脱却のため、暫く集落に滞在していた。指示があれば、プレイングに。質問があれば、卓へ。

●その他NPC
・老夫婦
 前作で協力してくれた老夫婦。

・桃愛
 老夫婦の孫。香川に住んでいるのだが、無理を言って老夫婦のところに遊びに来たらしい。

以下、PCが知りうることができない情報
一部OP既出情報もあり。

●デクリオ級愚神
百姫(ももひめ)
角が生えており、麻呂眉で綺麗に切りそろえられた髪を持つ、平安武士のような姿。ライヴスを奪っては桃組を作っていたもよう。武器は薙刀。攻撃範囲は1~2。

●ミーレス級従魔
百姫守護役。ライヴスをたっぷり摂取しているため、若干デクリオ級に近づいている。神社の境内に入って来たものを攻撃するようになっている。また、境内(鳥居より先)から出ると追いかけてはこない。

・戌(いぬ)
犬の頭を持つ人型従魔。動きは鈍いがパワーがある、刀を武器とする。攻撃範囲は1。

・申(さる)
猿の頭を持つ人型従魔。身軽で小柄、三節棍を武器とする。攻撃範囲は1~2。

・酉(とり)
鶏の頭を持つ人型従魔。翼があり、数十秒(1~3ターンほど)のみ飛行(空中浮遊)可能。戟を武器とする。攻撃範囲は1~2。

●他ミーレス級従魔(生まれたてほやほやの小間使い)。
猿、犬、烏、小鬼の桃組。体長はかなり小さいものになる。そのため、回避率だけが格段に高い。が、一撃当たれば壊れるくらいの雑魚。それぞれ2体。攻撃範囲は1。

リプレイ

●古の物語
 岡山の集落。そこにH.O.P.Eの依頼を受けたエージェントたちが集まっていた。
「社……完全に見落としてたね」
 集落での討伐戦で参戦していた皆月 若葉(aa0778)。そんな彼の言葉に彼同様に参戦していた北条 ゆら(aa0651)と荒木 拓海(aa1049)もし渋い顔をして頷く。
「それにしても、人型従魔……種類から察すると以前の件に関係ありそうか」
「だとすると、鬼もいるかもしれないかな? 注意しないとだね」
 依頼文にもあった従魔の情報に若葉の相棒ラドシアス(aa0778hero001)はうむと考えこめば、若葉もそれに頷いた。
「北条サン、皆月サン、荒木サン、前回に引き続き、助かります」
「偶々、近くにいたからね」
「そうね。それにこういう時は助け合いです」
 頭を下げる椿康広(az0002)に拓海は気にするなと彼の肩を叩き、メリッサ インガルズ(aa1049hero001)もそれに頷く。そんな二人の一方ではーーゆらはやる気満々だった。
「桃組ちゃん再登場ですかー。村を守るためにもがんばるぞ」
「村に愛着湧いてるっぽいな」
「私の生まれた村が今もあればこんな感じだったのかなーと思えば、気にもかかるってもんですよ」
「そうか……なら、やるしかないな」
「ええ」
 シド (aa0651hero001)のその言葉にゆらは力いっぱい頷く。そんな姿に場を提供している老夫婦は有り難いことだと手を合わせていた。

「おい、岩磨。桃太郎のお供が悪さをしているようだぞ。風評被害だ。懲らしめるぞ」
「アホ、なんで俺がそんな面倒なことせなアカンねん! 旅行かてしゃあなしに来てやったちゅうのに……」
「H.O.P.Eのエージェントになったのだから最低限働かんか!」
 そんな彼らの一方で、偶々岡山に旅行に来ていた彼らの許にもその依頼は届き、何 不謂(aa4312hero001)はカッと目を開くと近くでつまらさそうにパンフレットを見ていた狒頭 岩磨(aa4312)に掴みかかったが、岩磨は嫌そうに顔を歪める。ただ、風評被害だ! という不謂の力は思ったよりも強く、ずるずると引き摺られ、集落に到着すると岩磨も観念していた。
 そして、一応駐在に挨拶に行こうと駐在所に向かう岩磨の傍を緊張した面持ちで竜胆 シビル(aa4373)がソーディー ヘレティック(aa4373hero001)と共に通り過ぎる。
「ついに始めての依頼デスネ……やはり緊張しマスネ」
「たしかにな。だが、あれだけ訓練したのだ。何も出来ずに終わるということはないであろう。なにより仲間が居るのだ。臆せず力を振るってやろうではないか」
 全くコヤツはと心の内でソーディーが思っているとシビルはジトッとした目で彼を見つめていた。
「また何かおせっかいなこと考えていマスネ。わかっていマス。仲間を信じ自分を信じてデスネ」
「む……そのとおりだ。わかっているのならそれでよい」
 まずは到着したら、挨拶をと続けたソーディーにシビルは静かに「わかってマス」と返事をした。

「鬼を封じたという概念か想いに対して宿ったってところか」
「犬、猿、鶏の元が蔵の置物とすると、当然、作り出した親玉もいるということでしょう」
「当然、相手は待ち構えてるよな」
「そうですね。桃愛さんたちが二つ目の鳥居まで襲われなかったということは、境内が縄張りと言う事でしょうね」
「といって、それまでの道中を油断する訳にはいかないけどな」
 遅れて到着した月影 飛翔(aa0224)とルビナス フローリア(aa0224hero001)は先に到着していた若葉達と挨拶もそこそこに古い地図を広げていた。
「最初は食材を盗む、次は謎の食べ物を食べさせる、この間は村の畑を荒らしてほっといたら人を襲うように、そして今回、社を守るように現れた従魔……」
「……色々事件はあったけど、ライヴスに固執してるようには見えないよね」
「何となく……こう、俺達……というか人の気を引く行動にも思えるんだよね」
「確かにそうだね。すみませんが、分かる範囲でいいのでお社の話しを聞かせて下さい」
 飛翔と若葉たちの話にうんうんと頷き、拓海は老夫婦に向き直ると、そう尋ねた。老夫婦は困ったように顔を見合わせ、静かに話し始めた。
「あのお社には鬼――いえ、桃太郎が封印されているとのことですじゃ」
 鬼退治の後、祀り上げられ、歪んでいった桃太郎はいつしか自らの身が鬼に変化していることにすら気づくことなかった。しかし、その桃太郎の従者たちはそんな桃太郎が憐れに思ったのだろう。隣国より強い霊力を持つ者に足を運んでもらい、滅さず封印するという方法をとった。そして、桃太郎は本来の名である「百姫」という鬼として封じられ、霊力者が桃太郎という名を継ぎ、隣国へと戻っていった。その後、社を建て、従者の名の置物を納めた。
「桃太郎って女だったのか!?」
「それには諸説あるらしいわ。香川では娘を守るために敢えて『桃太郎』という名を付けたって言う話もあるらしいから」
 なんとと驚きの声をあげる不謂にティアラ・プリンシパル(az0002hero001)が答える。
「そもそも、逸話だし、真実はどうかわからないしね」
「えぇ、そうです。ですが、集落のものはそうであると信じております」
 苦笑いを浮かべる拓海に老婆は続けた。社については知ってるのはこの話くらいだと老夫は申し訳なさそうに呟いた。
「いえいえ、十分ですよ。つまり、親玉は百姫である可能性があるわけですよね」
「ということは、愚神の力を借りて、復讐?」
「そういう可能性もあるやろな。まぁ、本人に会ってみんことには何とも言えんが」
 大丈夫ですよとゆらが言い、それに続く形で若葉が首を傾げ、岩磨が自分の考えを告げる。
「あの……すいません。できれば戦闘域への一般人の侵入がないよう周囲警戒をお願いできないでショウカ?」
「あぁ、それだったら大丈夫だよ、お嬢さん。椿君があなた方が集まる前に出来ることをやると言って一軒一軒走り回ってくれたからね」
 この社の参道には入らないよと老夫が告げれば、シビルは「そうデスカ。安心しマシタ」とホッと息を吐いた。彼女の英雄であるソーディーはカオティックブレイド。無差別のスキルを持つため、万が一一般人の侵入があった場合、最悪な事態になってしまうと想定されたがための確認だった。

●現世に蘇ったモノ
 老夫婦の話の後、百姫を親玉と想定し、作戦を立てることとした。わかっているのは大鎧を着こんだ獣の顔をした従魔が数体とかつての桃組という小型の従魔たちの存在。相手の数が正確にわからない点と桃組に関しては今までのことも踏まえ、複数体いる可能性が大だ。
「じゃあ、ちょっとオレと岩磨で境内の中を走り回ってみるよ。ゆらちゃんには社のあたりを探ってもらうよ」
「うまいこと引き寄せられたら、嬢ちゃんたち、頼むで」
「はい、頑張りマス」
「緊張しても、集中力は途切らせるな」
「勿論デス」
 岩磨の言葉にしっかりと返事をしたシビルにソーディーは注意をする。それに対しても、コクリと理解を示す。そんなシビルにソーディーはそれならばいいと口を閉じた。
 そして、大枠の作戦を決めるとライヴス通信機がきちんと繋がるかのテストを行い、拓海、ゆら、岩磨を先頭にし、そのあとを康広たちが社へ向かう道を歩く。
 整備のされていない参道は砂利道で歩けば音を立てていた。音が立つということは敵に居場所を教えているようなもの。もしかしてと思い、警戒をして進むも、一つ目の鳥居まで敵は現れることなく、無事に到着した。
「一つ目の鳥居までにはいないみたいですね」
『まるで、俺達が来るのを待っているかだな』
 警戒はしていたのですがとチョコレートを頬張り、そう呟くゆら。それにシドは彼女の中で静かに呟いた。
「ゆらさん、あんまり無理しないでね」
 万全の状態って感じしないからさと若葉は別の依頼での負傷してしまっているゆらを気遣う。それにゆらは「危なくなったら、たくみんたちにお願いして下がるから大丈夫」とその顔に微笑みを浮かべた。
「ま、危なくならねぇように俺たちがフォローするから大丈夫だろ」
 飛翔の言葉に若葉は確かにそうだよなと口角をあげる。そうして、話している間にも二つ目の鳥居が見えてきた。
「それじゃあ、行ってくるよ」
「お願いします」
 駆け出した拓海、ゆら、岩磨を見送り、残った康広、若葉、飛翔、シビルは二つ目の鳥居の付近に身を潜めた。境内の中からは猿などの鳴き声が響く。

「おう、ワラワラと寄ってきよったわ。おーにさーんこーちら、てーのなーるほーおへ!」
『鬼ばかりじゃなくて犬などもいるがな』
「わかっとらい」
 足を踏み入れた瞬間、集まってきたのは桃組。桃組達は標的を見つけるや否や襲い掛かる。素早いということもあり、岩磨の岩のような肌に細かい傷がつく。
「こいつはちょっとばかし、あれやな」
 朱里双釵の際でガードをしつつ、後ろへと引く。そして、鳥居との距離を測る。そして、一瞬の隙にそちらへと駆け出した。
「岩磨、屈め!」
「うおっ」
 岩磨に飛びかかろうとした犬に彼に合流した拓海は魔剣「カラミティエンド」を突きさす。その瞬間、犬は形を失い、砂へと還った。
『――桃組は鳥居を越えてこれるみたいだ』
 通信機から聞こえた飛翔の声に二人は「じゃあ、ここで潰しておいた方がいい」と鳥居に向かっていた足を反転し、従魔たちに向き直る。
『ついでに今、ゆらさんが酉と対峙してる』
 こいつは鳥居の先には出てこなかった。そこから攻撃するかとも思ったけど、すぐに踵を返して社へと戻っていっていたと桃組の守護の動きの違いを飛翔に代わり、若葉が説明する。
 それにちらりと鳥居を見れば、そこには酉と戦闘するゆらの姿。更にはその近くにはシビルのスキル、ストームエッジの残骸らしき剣が散らばっていた。
「岩磨」
「北条の姉さんの方に行ったほうがええやろな。俺はこのままこいつらを鳥居まで連れて行くわ」
「すまない、頼む」
 岩磨は残りの桃組を引きつけ、拓海はゆらのフォローへと走った。
「申の姿はまだ見えへんな」
 アイツには言いたいことがあるんじゃと口の中でもごもごと呟くと拓海が鳥居の傍から酉を引きはがしたのを確認し、桃組を鳥居へ引き連れていった。
「土に還れ」
 岩磨が鳥居に飛び込むと同時に彼を追っていた桃組は青い炎に包まれる。よくよく見れば、酉との戦闘は拓海に任せたゆらが陰陽の書に持ち替え、ブルームフレアを放っていた。
「おどれら、桃太郎のお供が鬼に使われてどないすんねん! プライドないんか! ……ないか。従魔やしな」
 桃組が砂塵と化した後、斬りこんできたのは犬の面をし、大鎧に身を包んだ従魔戌と猿の面をし、戌同様大鎧に身を包んだ従魔申だった。しかし、それらも酉同様、鳥居の先には足を踏み入れない。そして、その姿をみて、叫んだ岩磨の言葉に反応を示さなかった。
「ただ、これだけは言わせろや。ボケ申! お前みたいなんがおるから、俺ら猿人が割食うんや! 詫びろ!」
 牙を剥き出し、吠える岩磨に猿人だけじゃなくて他のワイルドブラッドも結構割食ってるよなと少し頭に過るが敢えて黙殺した。
「予想以上に、キツイかな」
 囮組とシビルで相手ができそうならと考えたが、思った以上に相手の基本値があるようだ。「俺がフォローに加わって、椿と月影さんに先行してもらうか」と次の手を模索する。
「皆月サン、社の方に行ってもらっていいですか? オレがフォローに加わるんで」
「そういっていたら、向こうが先に来てくれたみたいだぞ」
 若葉の傍に行った康広がそう告げ終ると同時に社の方に角の生えた女の姿見え、それを飛翔が二人に告げた。
「ボクの庭を荒らすのはお前たちだな。散々、ボクが作ったものを壊したのも」
 大変だったのにと呟くと女百姫は薙刀で一閃。衝撃波が康広たちのところに突撃する。
「……ぐっ」
 何度も戦闘経験のある飛翔たちは間一髪のところでそれを避けきったが、戦闘経験の浅いシビル、岩磨はそれをまともに受けてしまった。康広も防御に徹したため、僅かではあるが、傷を負った。
「流石に親玉になると違うみたいだね」
「これは早々に従魔を殲滅したほうがいいな」
「うん、ゆらちゃん、いける」
「問題ない」
 愚神百姫の攻撃に従魔の存在が邪魔になると判断した拓海とゆらは近くにいたシビルと岩磨を助け起こし、早々に従魔を倒す旨を伝える。それの様を百姫はジッと見つめ、目を細めたかと思うとぎゅっと薙刀を握りなおした。
「……もう、壊させぬ」
 そう呟くや否や、百姫は再び一閃の構え。それにシビルや岩磨が危ないと悟った若葉はポケットを漁り、あるものを見つけた。
『返してやったらいいんじゃないか。時季外れだが』
「そうだね。お返しは同じもので申し訳ないけど」
 それはチョコらしき物質。かつて、バレンタインに起こった騒動で回収したそれはまさかの普通のチョコと同じ物質であることが検査で発覚。それには当時、関わったものたちは驚いたものだ。それが、今ここにあるということは折角だから返してしまおう。武器をしまい、【限定】投擲用チョコを思いっきり、百姫へと投げつけた。
「……っ!」
 ゴスッと鈍い音を響かせ、それは百姫の頭部に直撃。百姫は一閃の構えを解き、ゆらりとその目に若葉の姿を映した。
「一つ聞きたかったんだよね。鍋の時もそうだけど、バレンタインの時も、ライヴスを奪うわけじゃなかった。だから、あなたは何がしたかったのかなって」
 こうして、まみえることができたんだ、教えて欲しいなと臆することなく、百姫を見つめ、若葉は言葉を紡ぐ。
「貴様らには関係のないことだ。大体、ライヴスを奪うことなど造作ない」
 淡々と告げられた言葉に小さく若葉は「そう」と呟いただけだった。
「忘れないでほしいとかそういう気持ちで現れたのかなって思ったんだけど」
「ボクは何も知らない。興味もない。ただ、黒に染めるだけだ」

 百姫と若葉がギリギリの対話をしている一方では百姫の許へと行かぬ様、康広たちが従魔を押えていた。
「剣壁召喚。その刀身で持って敵を阻メ」
 シビルはインタラプトシールドを発動し、仲間に加わる攻撃を防ぐ。
「これくらい、痛くも痒くもないわい」
 そう言いつつも、自身にケアレイを施し、次に自分と同様に傷だらけになりつつも、敵へと向かうシビルへケアレイを施す。
「感謝しマス」
「気にすんな。回復させるのが俺の役目や」
 礼を述べるシビルにつらくなったら俺に言えと告げた。
「燃えろ!」
「合流はさせない!」
 ゆらのブルームフレア、拓海の一気呵成が戌と酉を襲う。燃える戌はぐぐっと燃え盛る炎を百姫の方へ伸ばし崩れ落ちた。転倒し、追撃を避けきることができなかった酉は魔剣に貫かれ、大鎧だけを残し、砂塵へと還る。
「行かすかよ」
 康広はライヴスの針を放ち、申をその場に縫い止める。そこに複数の剣を出現させ、ストームエッジを発動させた。
 剣に貫かれ、崩れ落ちたところに岩磨が釵を振り下した。

「あなたが桃太郎だったということも知らない?」
「くどい! 知らぬものは知らぬ!」
 一閃。百姫はちらりとかつての守護達の姿をみて、ギリィと歯を食いしばる。
「ボクが桃太郎というのならば、貴様らは討伐対象だ」
 ボクのモノを壊したんだ、覚悟しろと戦闘態勢に入った百姫。それに若葉が声をかけるものの、聞き耳持たず。
「皆月、もう無理だ」
「チッ、やっぱりそうだよね」
 バンカーメイスを構え、ずっと百姫と若葉の対話を警戒を解くことなく見ていた飛翔。そして、百姫が動いた瞬間、その間に入り、若葉への攻撃をそらす。
 従魔を討伐し終わった、拓海たちが合流し、全員で百姫を取り囲むも、百姫は一切怯む様子を見せない。
 そして、数度の攻防が続き、味方のいない百姫は防戦一方となっていた。
「……また、ボクの邪魔をする」
 小さく小さく呟かれた言葉は剣撃の音にかき消され、エージェントたちのもとへは届くことはなかった。
 そして、最後の一撃が百姫の体を貫いた。
「……ボクは……ただ――――だ」
 空に手を伸ばし、地面に崩れ落ちた百姫。そこには百姫の姿はなく、ただ古びた大鎧だけが残されていた。

●人が紡ぐ悲しき鬼の物語
「百姫は最後、なんて言ったんだろうね」
「愚神の言葉は本心かわからないがな」
 戦闘が終わり、共鳴を解除するといそいそと社の修繕に取り掛かる。そこで、修繕をしながら拓海が呟けば、近くにいた飛翔が答えた。
「ただ、消えた今なら、少しはいい方に考えてもいいかもな」
「そうだよね」
 きっとあの時は本心が聞けたんだと思うことにしようと拓海は飛翔の言葉にそう考えた。
「掃除道具、大工道具一式は皆様の分も含めこちらに用意してあります」
「……いつの間に用意したんだ」
「この程度はメイドの嗜みですので」
 社の前にいつの間に用意したのかずらりと清掃用具が並んでいた。それに飛翔は「メイドの嗜みとは」と思うも、彼女の中ではそれが当然なのだから、言うことじゃないなと口を噤む。
「ほれ、どこ行っとるんだ、他の皆を見習わんか。まさかこのまま帰るわけじゃあるまいな」
「わぁっとるわい! 道具探しとったんじゃい!」
「そんなもん、すでに用意されとるだろうが! よう見ぃ」
 仁王立ちをし、岩磨にてきぱきと指示を出す不謂。それにガァと返しながらも、道具を手に取り、他のエージェントたちと同じように社の掃除を始める。ゆらとシドは幣殿の雑巾がけや清掃を行っていた。その近くではティアラが幻想蝶の中から出てきて、手伝うわけでなく、とんとんと拍子を踏んでいた。
「ティアラ、手伝え」
「あら、うるさい男は嫌われるわよ」
「大体、お前、引き籠ってばっかなんだから、こんぐらいやれよ」
 そうやり取りをする康広とティアラ。ただ、その中の「引き籠り」という言葉にピクリと耳を動かしたものがいた。
「まだ、若いのに何引きこもっとるか!」
 不謂だ。戸惑うティアラを正座させ、不謂の自論が語られる。それを聞く、ティアラはそっと康広に目を向けるが康広は若葉たちの手伝いに逃げており、「役立たずね」と小さく呟く。
「おまはん関係ないやろ、ほっといたれや」
「何を言うか。たった今関わった。関係などそれで充分だ」
「……まさか、引き籠り止めるまで関わる気かいな……」
 不謂にやめたれと声をかけるもやめる様子のない不謂。そこに騒ぎを聞きつけた拓海も加わった。
「引き籠りはよくないよ。外に出れば、いろんな人の出会いもあるし」
「出会いなら、ネットでもできるわ」
 今はそういう時代でしょうと口元に弧を描き、言えば、それもそうなんだけどと返答に困る。
「あ、ティアラさん。この間みたいに舞ってくれませんか?」
「そうそう、御霊を鎮める為、舞ってやって下さい」
 助け舟を出したメリッサに心の内で手を合わせながら、舞を願う。そこにさらに助け舟のようにゆらが「綺麗に出来たから、大丈夫ですよ。というか、私が見てみたいです」と幣殿の掃除を終え、そう告げた。それに不謂が口を開くも流石にこれはダメだと思った岩磨が口を押え、若葉たちの所へと向かった。
「……いいわよ。こういう舞台で舞うのはどのくらいかしら」
 踊り子としても吟遊詩人としても興奮するわと言ったティアラはさっさと立ち上がると自分の足で舞台の大きさを確かめる。
「若葉、ティアラさん、舞ってくれるって」
「お、本当!? また、あれ見れるんだ」
 あれ、綺麗だよねと隣に立つラドシアスに話しかければ、そうだなと頷く。そこに報告を受けた老夫婦たちが足を運んでいた。老夫婦だけでなく、桃愛や集落の人の姿もあった。
「いいタイミングデスネ。今から、始まるみたいデスヨ」
 皆さんも見まショウと幣殿の前に移動すれば、ちょうど始めたらしく幣殿の上でティアラが舞っていた。舞台を最大限に利用し、自分の体を大きく使い、舞う。
「美しい舞だな……直で見ると感動が違う」
「ネットの中だけで済ませてしまうのは勿体ないわね」
「リサもやっぱりそう思うよね」
「ええ、これを見れば、誰だってそう思うわよ」

 舞が終わった後、メリッサはティアラの舞を見て目を輝かせていた桃愛に「大きくなってもお社を守りたいと感じてられたら……守ってあげてね」と声をかけた。
「大丈夫よ。だって、康広ちゃんと約束したもの」
 うふふと笑う桃愛にメリッサはきっと彼女なら大丈夫だと笑みを浮かべた。
 そんな一方で、拓海とゆら、若葉は老夫婦に集落を盛り上げるためにこういうのはどうだろうかと提案をしていた。
「残念ながら、恨みとか忘れたとかそう言うので百姫は現れたわけではなかったですけど、折角ですから、こちらで奉納されてた置物の形をしたマスコットとかどうでしょう」
 こういう話があるんだよと知らせるためにもいいかと思います。そう説明し、老夫婦の手にちょっとした間にラドシアスと若葉の二人で作った犬、烏、猿、小鬼のマスコットを置く。
「祭りとか新しく始めるのもいいと思いますよ」
 いい幣殿らしいですからと使わない手はないです。とぐっと拳を握ってゆらと拓海が言えば、老夫婦は目に涙を浮かべ、ありがとうございますと頭を下げた。
「でも、正直、人手がーー」
「んじゃ、オレがたまに来てやってもいいぜ。ティアラが幣殿気に入ったとか言ってたし、それになんかあったら、H.O.P.Eに依頼してもいいんじゃねぇかな。きっと協力してくれるぜ」
「本当に何から何までありがとうございます」
「皆様、ありがとうございます」
 ぺこぺこと頭を下げる老夫婦。そして、最後に二人は笑みを浮かべ、「皆様に助けていただいたこの社をしっかりと守っていきます」と深々と頭を下げた。

「人の中に帰れてよかったわね」
「ん?」
「建物も人が使わないと廃れるだけなのよ。人がいてこそ、この社は社であれる。もしかしたら、あの愚神は、いえ、大鎧は帰りたかったのかもしれないわね。人の中に」
「そうだといいよな」
「そういうことにしようよ」
「そうそう、それがいいさ」
 エージェント達揃って、集落を離れる際、満場一致でそういうことになった。そして、いつの日か、若葉が提案したことやゆらと拓海が提案した祭りや行事が行われ、賑わうことを祈って。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049

重体一覧

参加者

  • 『星』を追う者
    月影 飛翔aa0224
    人間|20才|男性|攻撃
  • 『星』を追う者
    ルビナス フローリアaa0224hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 乱狼
    加賀谷 ゆらaa0651
    人間|24才|女性|命中
  • 切れ者
    シド aa0651hero001
    英雄|25才|男性|ソフィ
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 温もりはそばに
    ラドシアス・ル・アヴィシニアaa0778hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • The Caver
    狒頭 岩磨aa4312
    獣人|32才|男性|防御
  • 猛獣ハンター
    何 不謂aa4312hero001
    英雄|20才|男性|バト
  • エージェント
    竜胆 シビルaa4373
    獣人|18才|女性|命中
  • エージェント
    ソーディー ヘレティックaa4373hero001
    英雄|35才|男性|カオ
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