本部

頑張りますと大きな一声

玲瓏

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
5人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/08/20 20:23

掲示板

オープニング


 こんにちは! 僕は玲川(りょうかわ)高校の男子生徒です。
 最近、部活に先輩が来ないので気になって先輩の家を訪ねてみたんです。あ、部活というのは「趣旨はこれから決める部」で、僕は部活といっていますが学校側からすれば全く部活として認められていません。
 なので部員は僕と先輩の二人だけなんです。
「面白い事思いついちゃってさ」
 先輩は女性なんですが、性格は男子っぽいです。
「どんな事ですか?」
「部活の事だよ。今までにない部活を設立しようと思ってんだ。もうその案もできてる」
「へえ、お伺いしたいです!」
「リンカーのボランティア!」
 最初聞いた時、僕はちょっと驚きました。
「それってつまり、僕なりに解釈したんですが、H.O.P.Eにいるエージェント達のお手伝いをするという事なんでしょうか」
「うむ」
「……あの、場合によっては死んじゃうのではないでしょうか」
「ばーかわたしたちは戦場にはいかないよ。足手まとい以下の存在になるからね。っていうか、エージェントの仕事が戦いばかりだと思ったらそれも間違いなのだよ、少年」
「あー! 人探しとか、簡単な任務のお手伝いという事ですね!」
「後々もっと挑戦的なお手伝いをしたいけどね。リンカーのお手伝いをするなんて部活、ないでしょ? すごく斬新よね。ね?」
「はい! ですが別に部活じゃなくても、なんかネットとかのコミュニティーでも良いのではないでしょうか」
「コミュニティだとできる事が限られるんじゃない? それに――もしかしたら受験とかに大きなプラスになるかも……!」
 という話をしました。結局僕はその日、どうして部活に来なかったのかを質問はしませんでしたが、部活を本格的に始動させるための準備期間だったんじゃないかなと思います。
 えっと……エージェントの皆さん、そういう次第で……。よろしくお願いします。
 あ、まだ部活は設立してはないのですが、先生から「一度エージェントのお手伝いを二人でして、その任務が無事成功したら設立を許可してもいい」とお言葉を頂いています。
 僕は……折角ですから、部活を設立させたいなって思います。なので、任務のお手伝いはしっかりと頑張ります。
 あ、後、部活名はまだ決まってないので、案があれば教えてください! 


 今日は坂山が不在であり、オペレーターの代わりになったのは坂山の英雄、子供のノボルだった。坂山は現在、病院にて傷の治療をしている。
「A県A市に怪しいパン屋がいるって、地域の人達から通報が入っているんだ。どうも屋台のパン屋さんで、移動しながら無鉄砲に人にパンを売っている……とのこと。住民は警戒して誰も買っていないみたいなんだけれど、何ヵ月も同じ事をしてるから、気味が悪いって」
 何ヵ月も同じ事をしていれば、必ず誰かはパンを購入するだろう。それが昨日の話だった。
「パンを食べた人がいるんだ。高齢の人だったんだけど、そしたらその日のうちに心臓発作が起きて、命を落としたって。それから街の人達は一斉にパン屋を責め立ててね、パン屋の人は家に閉じこもってるって。その人の事、調査をお願いしたいんだ。悪意を持った犯罪者なら捕まえてほしいし、違うならば……その人に、エージェントの目線から説教をしてほしい。迷惑をしているのだってね」
 いつもなら一つの任務を説明して終わりだが、今日はもう一つ、エージェントに課せられる任務があった。
「ちょっと場所は離れるんだけれど、イギリスの街で子供の連続誘拐事件があったんだ。地元の警察の情報と聞き込みを参考に、調査してほしい」
 今日のオペレーターはまだまだ喋る。
「なるべく二手に別れてこの事件を調査してほしいのと、今回はエージェント達にボランティアがつくんだ。玲川高校の生徒二人が、ぜひ協力させてほしいって。なんでもする、と言っていたんだ。どうも、新しい部活を作るための試練だとかなんだとか。今回は従魔とかヴィランとかは関係ない依頼だと思うし、このボランティアさん達をこき使ってあげるといいかも。エージェントについて一般市民の人達に知ってもらうための、いいチャンスかもしれないしね」
 頑張って、とノボルはエージェントを送り出した。送り出した後、坂山オペレーターが使っている机の引き出しをあけて、中から分厚いチョコを取り出した。
 実に美味しそうに、黙々とチョコレートを食べ始めた。

解説

●目的
 ボランティア二人と協力して、二つの事件を解決する。

●人物紹介
 荻元(おぎもと) 凜子(りんこ) 十七歳女性。
 部活の提案者で、淑やかな服装や髪型をしているが、言動は強気。エージェント達に対しては大雑把な敬語を使う。忠誠心はしっかりしており、エージェントの言う事は聞く。しかし、こうした方がいいかと自分で思った時は言われたままではなく、少し自分なりに工夫して物事を行う。
 イギリスで起きた行方不明事件の手伝いをする。

 山田(やまだ) 徹(てつ) 十六歳男性。
 敬語が私語と言わんばかりの少し変わった生徒。元気さと素直さが取柄で、けなげな性格。言われた事はその通り行い、人に喜んでもらう事を自分の喜びとする。
 パン屋事件の手伝いをする。

●事件概要 パン屋
 レリィという二十歳の女性がパンを売る人物。故郷で培ったパン屋の経験をもとに、日本に広めようと訪れた。なので彼女自身に犯罪の意識はない。
 エージェント達が彼女を訪れると、自責の念により家で自殺未遂を行おうとする現場に出る。もし助けが成功すると、「パンを広める事が夢なんです」と語る。しかし人を殺してしまい、信頼は最悪。絶望的だった。しかし、心臓発作は本当に偶然の話である。(この話は亡くなった人物を手術した医者から聞ける)
 依頼を成功に導くには、彼女の信頼を取り戻す事が必要不可欠となる。

●事件概要 行方不明
 聞き込みをすれば、事件が起きているのはいずれも同じ街である事が発覚する。連れ去られる人物は五歳~十八歳の子供達。どこに連れ去られているのかは全く不明。人攫いが起こる場所はランダムだが、人のない夜の街という共通点がある。
 人が連れ去られる場所は犯人の家で、犯人は男のヴィランである。人々は殺されてはおらず、地下室に監禁され、残酷な犯人に虐待を受ける羽目となる。
 男は不利になると逃亡を図り、地下室にエージェントごと閉じ込めようと企む。

リプレイ


 機内アナウンスから日本を離れた事が分かった。日本を飛び立った機械仕掛けの両翼はイギリスの軌道だった。
 緊張は常に纏っている。荻元は機内で配布されるアップルジュースを飲みながら外を眺めていた。
 一般人である彼女とリンカー達との共同の仕事だった。それも行方不明事件を追うという、命を落としかねない事件だ。その事件の事に緊張しているのと、もし失態を犯せばエージェントに迷惑をかけるだけでなく本来の目的である部活動の設立も難儀な事になってくる。
 飛行機は無事にロンドンのガドウィック空港に着陸した。
「荻元凜子ちゃん、かな?」
 空港を右往左往している荻元に声を掛けたのは木霊・C・リュカ(aa0068)だった。
「待ってたよ。入国審査と荷物受け取りを済ませたら早速現地に向かおうか」
「は、はい」
 海外に出るのは今回が初めてな荻元はそういった面でも不安を大きく感じていた。
「大丈夫か」
 オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)が声を掛けた。
「ええ、多分大丈夫です。多分……」
「お兄さん達が全面的にフォローするから安心していいよ。あ、そうだ、一緒に任務に就くからには守ってほしい事がいくつかあるんだ」
 荻元は腰につけるショートバックからメモ用紙とペンを取り出した。
「もし何か思った事があったら何でも言ってほしいんだ。積極的に取り入れていくよ。だけれど勝手な行動はしないでほしい。必ず誰かの確認を取るようにね。それと、必ず一人のエージェントを引き連れるようにね。お兄さんとの約束だよ」
「分かりました」
 大きな荷物を受け取り、入国審査を終えると三人は鉄道を使って事件の発生した場所へと向かった。
 何時間か歩いたり電車に揺られたりしながら時間を過ごしていると、駅でステラ=オールブライト(aa1353)が出迎えた。
「こんにちは! 凜子さん。お待ちしてました」
「どうも。えっと――」
「もう捜査は始まってるから、お兄さんはエージェントと合流するね。ステラちゃん、凜子ちゃんを任せてもいいかな?」
「勿論! お任せください、リュカさん」
 二人に手を振ったリュカはオリヴィエを連れて駅を出た。
「私達もいきましょうか、凜子さん。まずは聞き込みです。かの有名な探偵たちも最初は聞き込みからなんですよ!」
「はい!」
 最初は縛られるような息苦しさを感じていた荻元だったがどうにか解けてきたのは、心豊かなエージェント達のおかげだろう。

 駅から数キロメートル離れた警察署には赤城 龍哉(aa0090)が聞き込みに出向ていた。日本語に手慣れた警官が署内に通し、机の上に大きな市街地の地図を広げた。
「この地図を見ていただければ分かると思います。赤い印がついているのは全て、被害者の襲われた箇所です。どれも地面に血がついていたので、場所はすぐに割り出せました」
「なるほど、纏めてみると確かに全部同じ街で起こってるな」
「夜に、人気のない場所で、というのは判りますけれど、五歳の子がどういう状況でいなくなったのか気になりますわ」
 子供をターゲットとした犯人に義憤を感じていたヴァルトラウテ(aa0090hero001)は顎に手を置きながら地図を凝視した。
「そいつもそうだよな。五歳の子が夜道に一人で歩いてたって事だろ」
「その子に関しましては、家族旅行の帰り道だったそうです。どうやらM町出身の子ではなかったようで、帰り道に子供がアイスが欲しいというために店で買いに家族全員で向かったそうです。その間に、いつの間にかという事でした」
「許せませんわ……。良い思い出を台無しにするなんて」
 警察署から三百メートル離れた地点にある小さな公園では紫 征四郎(aa0076)が子供の保護者達に犯人について情報を求めた。
「怖い事件よね。夜に出歩いてはいけないって、ホラー映画みたいな文句が出回ってるのよ。ポップコーンが欲しくなるわ!」
「ポップコーンは美味しいですよ。えっとそうじゃなくてです。何か犯人について知ってる事はありますか?」
「キャラメルソース味が好きよ。え? 犯人について? ……うーん。高身長という事くらいしか、今のところ分かってないみたい」
 高身長、凶器はおそらく鈍器、そんなに高くない知能指数だが行動基準から見て推定できる犯人の年齢は二十代後半。大体の聞き込みで以上の事が分かった。
 聞き込みが済んだ紫は公園を出た。ちょうどガルー・A・A(aa0076hero001)が通路から歩いてきていた。
「警察署にいったら赤城達がいてな。仕事が省略された。そんで事件が起きた地点に印付けられた地図のコピーも拝借してきた」
「ふむふむ。うーん、あんまりきょうつうてんはないですね。どこで多くゆうかいされているか、というのも無くて」
「絞り込みは難しいだろうな」
「あ、今回はボランティアが来ていたんですよね。オギモト、でした? オギモトは今何をお手伝いしてくれているのです?」
「被害者の学校に電話して共通点を聞いてくれてる。英語ができないっていうからステラちゃんが翻訳してくれてるってよ」
 なるほどと聞き終えると、紫は思い出したように携帯を手にして公園で得た情報をエージェント達に共有した。


 人差し指を立てて、ステラは荻元に言った。
「私の推理はこうだよ、ワト○ン君」
「はい」
「学校の人達の聞き込みによればどうやら被害者は女性が多いらしい」
「はい」
「おそらく犯人は……男性だろう」
「……なるほど」
「後、夜に犯行が行われるって先ほど、聞き込み役の赤城クンから連絡があったね」
「はい」
「夜に犯行をする。身を隠すために夜を選ぶ……。この事からね、とても重要な事が分かるのだよ」
「はい、どんな事でしょうか」
「犯人は頭が良い」
 丁寧にステラは発言を続けていった。
「そういえば被害者の中に男性はいるのでしょうか?」
 ステラは目を閉じて頷いた。
 彼女はふと思った。被害者は女性が多く、いずれも若い世代がターゲット。ん……?
「あ!」
 両目を開け、下げていた人差し指を再び開けてこう言った。
「私が囮になればいいのよ。犯人にわざと連れ去られて、アジトに乗り込むの」
「それは良い提案ですが、危険じゃない……?」
「エージェントなのよ、私は。確かに一般人なら危ないと思うけど……だけど私は英雄なの」
「その役、私の方が適役じゃないでしょうか? もしもステラさんの命が奪われるような事があったら、貴重な人が減ってしまう……。なら、最初から一般市民である私にしてもらった方がリスクはないと思う」
 とんでもない事を口走ると、ステラは少し驚いた。
「その勇気は素晴らしいけどね、貴重だとかそんな問題じゃないの。この仕事は私にさせてほしいわ」
 ステラの案はすぐに通された。エージェントにしかできない偉業となる。九字原 昂(aa0919)はすぐにステラと合流。彼の提案でステラにデスマークが付与された。
「オリヴィエさんの方はまだ犯人に目を付けられていないみたいですが、くれぐれも用心してください」
「あれ、もしかしてもう既に囮をしてる方が?」
「そうですよ。先ほど付近を偵察しにいったのですが犯人と思える姿はなく。オリヴィエさんは猫と遊んでいました」
 オリジナリティのある作戦だと思いきや先駆者がいた。
 荻元は心配していた。数時間しか行動してないとはいえ、もう二人は友達の仲だ。
「怖く、ないんですか?」
「ううん。怖くないわけじゃないの。それでもね、こんな時はいつもワクワクしている気持ちの方がずっと強いって言うか。負屓がね、言ってたの……『君はどこかが歪んでいる。しかし、それはひとつの【英雄】の資質だ』って」
 これが英雄なのか。荻元は自分と彼女との明確な違いが分かった。彼女は英雄、自分は一般市民。

 月が顔を見せてからそれはすぐだった。
 すぐだった――。


「ここは……」
 ステラはどこかの台に寝かされていた。部屋の中は暗い。そして湿り気があり、様々な臭いが混ざって混沌としている。
「おはよう」
「あ、あなたは……」
「君の事は空港で見てから知った。君が何しにここにきたのかも知っているんだ」
 男は大きな手でステラの髪に触れた。
「君はリンカーなんだろう。初めてだよ、リンカーのドールを作るのは」
「人、形……?」
「ほら、皆をみてくれ」
 腕で背中を押されて彼女は強引に起こされた。見ると近くには台の列が並んでおり、その上には少女、青年達が寝かされていた。まだ息はしている。
 ステラは安堵した。
「君は囮としてやってきたんだろうが、仲間が来ないという事はどうやらまだここを割り出せていないようだ。ああそうだ、ドールの数は君でそろったんだったよ」
 すると男は機械を取り出して、超音波を発生した。ステラは耳を塞ごうと両手を上げたが、縛りつけられていて動かない。
 台の上に寝ていた人間達は一斉に起きた。目覚ましだったのだ。男はステラに一番近い台である女性に近づいた。
「重いドールはいらないからまずは血抜きかな」
 男はナイフを取り出した。悲鳴が、その女性から鳴った。
「おいおい約束と違う。私はみっともないドールはいらないんだが……。はあ、君には落胆した。私の言いつけを守らないドールはいらない」
 女性の頬を拳で殴った男はナイフを地面に投げ捨てて怒りを表した。
 暗さにも慣れてきて、ステラは部屋を見渡す事ができた。地下室のようで、縦……もしくは横に長い部屋だ。大きな病室のようで――男はステラに微笑みかける。
「見ていなさい」
 後ろを振り返って、部屋の奥まで男は歩こうとしたのだろう。
 鈍い音が聞こえた。
「仲間が来ない……というのは間違いですッ」
 九字原は犯人の袖を掴み、内股に足を通すと相手の重心を崩して地面に倒れさせた。すぐに女郎蜘蛛で捕獲した。
「大丈夫ですか、ステラさん」
「はい、大丈夫です。どうなるかとは思いましたが……」
「くそ! 鍵をかけておいたはずなのに!」
「詰めが甘かったですね、いえ……最初からあなたは甘かったんです。リンカーだと分かっていながら誘拐した。強欲過ぎたんですよ」
 犯人はまだ諦めなかった。強い力を使って拘束を解く気でいたのだ。
「そうはさせないのです!」
 犯人の背後にいた紫はインサニアの柄で犯人の後頭部を強打して力を根こそぎ奪った。
「九字原、この男を任せたのです。征四郎は皆を救出してきます!」
「はい、お願いします――って、あ!」
「!! やはり……!」
 犯人は二人いたのだ。もう一人の犯人は扉を蹴って外へ避難した。
 だがこの犯人もまた甘かった。
「逃げる間なんて与えてやる訳ねぇだろ」
 そこには赤城とヴァルトラウテがいた。正義に燃えるヴァルトラウテは赤城より先に行動に出た。
「うわッ!」
 剣で足を払い地面に思い切り叩きつけると、その喉元に切っ先を突きつけた。
「おっとヴァル、そこまでだぜ」
「な、なんで俺達の場所が分かったんだよ。こんな、誰にも分かるはずねえのに」
「お前んとこのマヌケがバラしてくれたんだぜ」
 赤城は奥にいる紫達に確保の声を送った。その声を切っ掛けに事件は幕を下ろし始めた。


 荻元はオリヴィエに魔砲銃を返した。オリヴィエは念のためにと渡しておいたのだ。
「これ、ありがとうございました。結局使いませんでしたが……」
「使わなくてよかったと思ってる」
 家からはたくさんの被害者たちが表に出てきていた。顔は誰もが暗いままだ。外に待機していたパトカーに一人ずつ乗せられ、家族の所へと届けられる。
 犯人はトラウマを植え付けた。一生をかけても拭えない少女もいるかもしれない。特に最年少だと、濃い思い出となりそうだった。
「龍哉、あの者をこの場で処断しても?」
 ヴァルトラウテは犯人達に向かって言った。
「気持ちは判るがやめろ」
 暗い顔をしていたのは荻元も同様だった。ステラは無事だから良いが、たくさんの人から笑顔が消えたのだ。そして犯人もリンカーだった。
 英雄は一歩間違えれば狂人になる。
「あの、皆さん」
 エージェントが全員揃ってる所を見て、大きく声を出した。
「今日は本当にありがとうございました。色々な方に守っていただいて……正直、こんなに優しい人達だって思わなかったです」
「凜子ちゃんは良い経験にはなれたかな?」
「はい、学校に連絡したり銃を持たせてもらったり、私なりになんか頑張ったと思います。これなら先生も、エージェント達のボランティアだって認めてくれると思うんです」
 頑張りましたね、と九字原に言われた荻元は素直な顔を浮かべた。喜び顔だった。
「あ、もう一人山田っていう私の部員が今頑張ってると思うので、どんな状況か聞いてきますね」
 そう言って荻元はエージェント達から離れた。携帯を取り出して、日本にいる山田に電話を繋げた。
「あれ、オリヴィエはどこにいくのですか?」
「猫達に餌をやってくる」
「あ、なら征四郎も行くのです!」
「おい征四郎、気を付けろよここは日本じゃ……もう行っちまったのか」
 イギリスの夜に垂れ幕が下がる。もう雲に月も隠されている……。


 殺人パン屋の住所はノボルから端末に送られていた。風深 禅(aa2310)はその指示に従って、その家の前まで来た。
「ここ、ですよねー」
 よくある一般家庭。特別変わった所はないが……。
「――開き直ってんじゃないわよ! 夢? あんたの夢のためになんで人が死ぬのよ。あんたが死ねばよかった! もう私に顔を見せないで!」
「待って……」
「来んなよ人殺し女が!」
 中から若い女性が表に出てきた。泣いた顔でエージェント達の前を通過していった。彼女には誰も見えていなかったのだろうか。
 扉は開きっぱなしだ。目を丸くしていた散夏 日和(aa1453)はなんとか元に戻って、扉の向こうにいるパン屋に声をかけた。
「あの、パン屋さん、いらっしゃいますわよね。私達はエージェントですわ、少しお話を聞かせてくださるかしら」
 返事はなかった。代わりに中から物音が聞こえた。水の音だ。液体が流れる音が聞こえる。
「嫌な予感がするな」
 斑 壱鬼(aa4292hero001)の予感に風深も同意した。夢野 小夜子(aa4292)は斑の後ろに隠れつつ、四人は家の中へと入った。
 茶髪で、肌が少し黒い女性がいた。彼女はリビングにいた。リビングは荒れていた。本や白い粉、パンや割れた食器が散らばっている。その中心でパン屋は赤いポリタンクを頭から被っていた。
 油の匂いが周囲を取り囲んだ。手にはマッチが握られていた。
「いけない! お待ちなさいっ!」
 油を被っていた彼女に、散夏は飛び込んでいた。言葉より先に体が彼女を止めていた。油が服につく事は考えもしなかったのだろう。
「な、なんですかあなたタチ!」
「俺達はエージェントですよー。パン屋さん、ひとまずそのマッチを俺に渡してもらえますかー?」
「わたしたちが助けますから、はやまったことは……!」
「ダメです」
 やむを得ず、風深はパン屋の背後に回った。散夏が行動を阻害してくれていて、スムーズに彼女の手からマッチを奪う事ができた。赤いポリタンクも別の場所へ蹴り飛ばしている。
「さっきの女の人がいってた夢って、なんの事ですかー?」
 濡れた髪の下、パン屋は目の袋に涙を貯めている。
「パンを、広めたかっただけです」
「パン屋さんの事は聞いていますわ。ずっと販売していたと」
「でももう叶わないんです。ヒトを殺してしまった」
 そのお爺さんは健気にも毎日パンを販売する彼女の真面目さに心を打たれた。無料で販売していたパンだったが、お爺さんは多くの寄付金と称してお金を出してパンを買った。
 彼女の見ている前で食べて美味しいと言った。
「俺にもね、似たような夢があるんですよー」
 え? とパン屋は風深を見た。
「モナカをね、広めたいんです。だからパン屋さんの気持ちすっごく分かるんですよー。大切なものは、良さを他の方にも知って欲しいですよねー! 世界には、俺たちの好きな物の魅力にこれから気づくことができる幸福な方々が沢山いるんですよー」
「そうです。まだ諦めないでください……!」
 斑の背中に隠れる事を止めた夢野は彼女に目を合わせて強く言った。
「でも、ヒトを……」
「あ――。パン屋さん、私良い事想いつきましたわ」
 散夏はパン屋の濡れた前髪を耳の後ろまで下げて、ニコリと微笑んだ。


 ――パンを食べて心臓発作になった老人、実はパンが原因ではなかった……?
 そんな記事が市の新聞一面に飾られていた。
 ――エージェントの調査により、亡くなられた方の担当をしていた医師はパンによる物ではないとはっきりと明言したそうだ。
「ね、一緒にいかない?」
 山田は友人達に"エージェント達と体験、パン作り"に参加しようと片っ端から持ち掛けた。山田と仲がよく、結構な頻度で遊んでいた四人のグループは誘いに乗る。
「いいけど、それ何するんだよ。パン作り?」
「うん。パン屋さんと一緒にパンを作って、オリジナルのパンを作るんだよ。ほら、夏休みの宿題でさなんか……創作系のなんかあったよね」
「あー! あのメンドい奴な。確かにそれで補えるんじゃね? パンの作り方ーってレポート作って」

 ライン・ブルーローゼン(aa1453hero001)は散夏に携帯電話の使い方を教えてもらって、会場から山田に電話をかけた。
「もしもし」
「僕だ。準備が出来た。もう開始できる」
「分かりました。僕も友達を連れていきますね。お客さんはきていますか?」
「結構」
「おお! ではすぐに向かいますね」
「分かった」
「……」
「……」
「……」
「……」
「切らないんですか?」
「すまない、ちょっと待ってほしい――日和、これはどうすればいい?」
「え? もう、さっきも教えましたのに。こうすれば良いのですよ」
 電話が切れた。
 会場を開く前にラインは準備は大丈夫かと、教室の方へと向かった。風深や夢野、斑が手分けしてパン作りの準備を進めていて、滞りなく今日を迎えられる事になる。


 会場には家族連れが多かった。子供の割合が多い。エージェントがいるという事から、安全性の面で大きく信頼されたという事だ。
「皆さん、パンの作り方をまず一から説明していきますね」
 パン屋のチェーリは講師として呼ばれていた。まずは彼女がパンの作り方を実践しながら教える。夢野や風深達もパンを作りつつ、困っている子供がいたら助っ人をする。
「あ、ちょっとパン粉の量が多かったのかなー?」
「こねる時はしっかりと力を入れるのですが……あ、それは入れ過ぎですー!」
 大盛況……とまではいかなかったが、多くの人達が集まってくれて楽しんでくれていた。
 パンが完成すると全員で食べる事になった。
 それが本当に美味しかった。チェーリの作るパンは(企業秘密)が加えられており、普段作るパンよりも香ばしい。更に(企業秘密)の追加で誰でも美味しく食べられるのだ。
「本当に美味いな」
 パンを褒めるだけの売り子役として呼ばれた斑も、演技ではなく本心からだった。誰もが美味しそうに自分のパンを食べる光景、それはチェーリの夢に近い光景だった。
 彼女は携帯をエプロンのポケットから取り出して画面を見つめた。
「それはどなたですか?」
「ワタシの父です。父がこの美味しいパンを作ってくれて……。でも、紛争で腕がなくなってから作れなくなったんです。だから代わりにと思って」

 興奮が冷めぬままこの催しは終わりを迎えた。
「エージェントさん、そしてヤマダさん、ワタシは嬉しいです。ワタシなんかのために、こんなにしてくださって」
「夢を広げたいって俺も分かるからさー。あ、はいモナカ。この前渡しそびれちゃって」
「これがモナカ! ありがとう、いただきます」
 美味しい美味しいと、モナカはすぐにチェーリのお腹の中へと消えた。
「チェーリさん、今日はお疲れ様です」
 夢野が言った。
「しばらくの間、山田さんをお手伝いとして一緒にパンを作って、今までよりその、オープンに販売するといいんじゃないでしょうか。お手伝いが足りないなら、兄もいますよ」
「エヘヘ、助言ありがとう」
「まだパンの免許持ってなかったんですよね。なら、免許とってから、宣伝の歌を作ってみたりパンへの想いを桃太郎旗に書いて出してみたり、してみてはどうでしょうか」
「サンコウにしますっ。えっと……エージェントさんタチの力を借りるのは、キョウまでとします。これからはワタシが、パンのために頑張らないとなって」
「良い心意気ですわね」
 夕方のカラスの鳴き声が聞こえた。
「では、パンを作ってきます!」
「頑張れよ。暇だったら買いにいってやる」
 日本の夕方に垂れ幕が下がる。太陽は就寝の準備を終えていて、夕焼け空を作っていた。


 ――拝啓、エージェント様
 このたびはお手伝いをさせていただいて、本当にありがとうございました。
 明日にでも先生に報告して、部活の設立ができるようにします。
 もし設立したら、いつでも私達を頼ってください。
 山田、荻元より。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • わくわく☆ステラ探検隊
    ステラ=オールブライトaa1353

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避



  • わくわく☆ステラ探検隊
    ステラ=オールブライトaa1353
    人間|15才|女性|攻撃



  • 自称・巴御前
    散夏 日和aa1453
    人間|24才|女性|命中
  • ブルームーン
    ライン・ブルーローゼンaa1453hero001
    英雄|25才|男性|ドレ
  • エージェント
    風深 禅aa2310
    人間|17才|男性|回避



  • 一握りの勇気
    夢野 小夜子aa4292
    獣人|15才|女性|防御
  • ステルス鬼
    斑 壱鬼aa4292hero001
    英雄|25才|男性|ドレ
前に戻る
ページトップへ戻る