本部

ムシバミ

雪虫

形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 5~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/08/13 16:47

掲示板

オープニング

●逃げ惑う者
「はあ……はあ……はあ……」
 男は逃げていた。野良猫から逃げるドブネズミのように必死の思いで逃げていた。その頬も服も足下も泥に酷く汚れていたが、そんな事はどうでもいい程必死の思いで逃げていた。死にたくない。死にたくない。死にたくない死にたくない死にたくない。男の願う事はただそれ一つだけだった。
「大丈夫だ……まだ間に合う……大丈夫大丈夫だいじょうぶ。お、俺はそんな酷い所に行っちゃいない。まだ戻れる。マガツヒが一体なんだってんだ。あんな頭のイカレた犯罪者集団……」
「簡単に逃げられるって? 甘い、甘いね、飴玉よりもゲロ甘だね」
 突然、空から声が降ってきて、同時に少年が男の前に降り立った。高校生ぐらいの少年、顔は面で隠している。その瞳が泥を煮詰めて腐らせたような黒である事を男はとうに知っている。
「あ……な、なんで……」
「なんでって、説明したじゃん。マガツヒは情報を洩らさないために捕まった構成員さえ殺す超絶秘密主義だって。まあ情報を洩らさないためじゃなくて単にソウシタイだけかもしんないけど。ヒヒ」
「た、頼む、見逃してくれよ。一生のお願いだ。俺は真っ当に生きたいんだ。やっと分かったんだよ。だから」
「萎えるよなあ」
 少年は、ぽつりとそう呟いた。冷たい声ではない。むしろ熱過ぎる程に熱い声だ。さながら激情だけを一つに集めてさらに煮立たせでもしたかのような。
「フィクションの悪役とか見てうわ萎える、とかアンタ思った事はない? 特に追い詰められたら情けなく正義の味方に命乞いとかしちゃうヤツ。生きる事に執着するとか、死にたくないって縋っちゃうとか、見苦しいよね。狂うならもう生きる事なんか度外視する程狂っちまえって感じだよね。安穏とした生活が欲しいとか、真っ当に生きていたいとか、人間としてどうたらこうたら、んなのどうでもいいんじゃない? 脳味噌が腐ってトロけて狂っちゃう程イカれるだけでサイコーじゃん。それ以外なんていらないのに、ねえ、何なのそのファッション狂気」
 少年は面を少し上げ、口に何かを放り込んだ。がり、がりっと噛み砕きながら、黒よりもおぞましい色でじっとりと男を見据える。
「今更背広着て至極真面目にリクルート活動でもしようって? 甘ェんだよ。後戻りなんて出来ねえよ。頭の先まで浸かっちまえよ。脳味噌ジンッとシビレちまえよ。トロけそうだろ? 腐りそうだろ?
 最高だろ?」

●蝕まれる者
 よたり、よたりと酔ったように歩く男の姿に、道行く人々は汚いものにそうするように道を開けた。いや、比喩表現ではなく、浮浪者然とした男の姿に誰もが自然にそうしていた。スマホを眺めていたサラリーマンはしかしその光景に気付く事なく、画面に夢中になったまま浮浪者にドンとぶつかった。失礼、と言いながら再び歩き出そうとしたが、誰かに腕を掴まれサラリーマンは視線を向ける。
「……うわ、なんだアンタは」
「……」
「ああ、失敬。悪いが手を放してくれないか。ぶつかった事は謝るよ。それじゃ」
「助けてくれ」
 蚊の鳴くような声だった。浮浪者の男はじっとサラリーマンを見つめていた。男の言葉より服が汚れていないか気になっているサラリーマンに浮浪者は必死に言葉を紡ぐ。
「助けてくれ。助けてくれ。助けてくれ。し、知らなかったんだよ。あんな所だったなんて思わなかったんだよ。助けてくれ。助けてくれ。たすけてくれ」
「おい、いい加減にしてくれよ! これ以上付き纏うなら警察に……」
 その時、浮浪者の顔からぼこりと何かが噴き出した。小さな箱、と思う間もなく、数多の箱は浮浪者の全身をあっという間に覆い尽くした。無数の赤黒い箱に全身を囚われた浮浪者の男は、箱の隙間からへたり込むサラリーマンに瞳を向ける。
「助けてくれ」
「あ……ああ……」
「助けてくれ、助けてくれ、たすけてくれぇッ!!」
 悲鳴が辺りに響き渡った。誰もが必死に走り出した。浮浪者の男は、箱の隙間から必死に逃げる誰かの背中に腕を伸ばす。
「嫌だ、俺も連れて行ってくれ! 誰か、誰か、だれかぁぁアッ!」

●牙を剥く者
「K区駅前に従魔が現れた。数は二体。小さな箱が寄り集まって集合体を為しているようだ」
 オペレーターの言葉に、李永平(az0057)は身を翻し何処かに出て行こうとした。その意図に気付き咄嗟にオペレーターが呼び止める。
「待て永平! 現場にはバスを出す。行くならそれに乗って皆と行け! 二体の内一体には一般人が取り込まれている。助けを求めているそうだからまだ意識はあると思うが……長期化するとライヴスを吸い尽くされ死亡、従魔化する恐れもある。大至急従魔を討伐してくれ」
「箱……今度こそパンドラの仕業か……あの野郎、一体何が目的なんだ……」
 永平はオペレーターの言葉を聞きながらギリッと奥歯を噛み締めた。エージェント達に見せるようになった表情とはそぐわない、荒れ狂う獣のような瞳。牙のように歯を剥く永平を一先ず宥め、エージェント達はバスに乗り目的地へと向かっていった。
 
●嗤うモノ
「あっはははははは!」
 ビルの屋上のヘリに座り、少年はひとしきり声を上げて爆笑すると、面を上げて口の中に飴を一つ放り込んだ。眼下には従魔に身を蝕まれみっともなく泣き叫ぶ男。少年はがり、がりっと甘い塊を砕きながら、泣き叫ぶ男の姿を熱く、激しく、嘲笑する。
「いいね、いいね、いいね、いいね! その鼻水と涎垂らしてみっともなく叫ぶ様、最ッ高にセクシーだぜアンタ!」

解説

●目標
 従魔討伐・浮浪者の救出

●場所
 K区駅前
 10×10sq。日中。曇り。従魔に囚われている男以外の一般人は退避済み

●NPC
 李永平&花陣
 マガツヒの愚神パンドラを倒すためHOPEに留まっている。ドレッドノート。武器:釘バット「我道」。従魔討伐を優先するつもりはあるようだが……
・ヘヴィアタック
 ライヴスを込めた重い一撃を繰り出す
・オーガドライブ
 防御を捨てた猛攻を仕掛ける
 
 浮浪者の男
 従魔に囚われ、助けを求め叫んでいる
【PL情報】
 従魔に呑み込まれているだけで生身の人間。従魔に呑み込まれた状態で4ターン経過すると発狂し、8ターンでライヴスを吸い尽くされ死亡する 

●敵情報【PL情報】
 奇箱・蝕×2
 赤黒い小さな箱が寄り集まった形の従魔(集合体を1体の従魔と考えて差し支えない/HPが0になると全ての箱が一斉に消滅)。全長4m。手足のようなものを生やしておりムカデのように移動する。攻撃力が低く防御力が高い。何故か浮浪者以外の一般人は襲わなかった模様。浮浪者を取り込んでいない箱は浮浪者を取り込んでいる箱を守るように行動する/浮浪者を取り込んでいる箱が先に倒された場合浮浪者を殺そうとする
・塵穿ち
 前方5sqに突進する
・蝕液
 半径2sqにライヴスを乱す体液を撒き散らす。【封印】付与
・壊音
 全体に悲鳴のような音を発する。距離・精神状態によって影響度が変化する。【衝撃】付与
・禍の狂持
 パッシブスキル。二回連続で攻撃を行う 例:塵穿ち後蝕液

 面を被った少年
 何処かのビルの屋上から事を眺め、事態が収まったと見ると人ごみに紛れ逃亡する

●使用可能物品
 装備品・携行品

リプレイ

●車中
 唐沢 九繰(aa1379)はエミナ・トライアルフォー(aa1379hero001)と共にスマホの地図アプリに真剣な視線を落としていた。相手は一般人を身の内に捕らえている従魔。逸る気持ちを押さえるため、そして最善の行動のシュミレートのため、二人はアプリを凝視して到着タイミングを計り続ける。
「時間との勝負ですね。間に合えば良いのですが」
「そうだね。絶対助けなきゃ!」
 エミナの言葉に九繰が頷き、佐倉 樹(aa0340)は黙して座る永平へと瞳を向けた。目を据わらせ沈黙を貫く永平に樹は静かに言葉を掛ける。
「……この間、君が教えてくれた望みはその後変わってない?」
 永平は樹を一瞥し小さく一つ頷いた。樹は「うん、それはよかった」と返した後、友達、と呼ぶにはまだ溝を感じさせる男へ視線を注ぎ続ける。
「奴は箱を使っていたけど、箱は奴じゃない……望みを叶える為に、無理や無茶をするなとは言わないよ。多少はしないとだしね。
 ただ、無謀をするなら何をするか教えて欲しい。そうしたら私だけじゃなくてみんな手助けしてくれるよ、きっと」
 示される樹の好意に永平は一度視線を向けたが、しかし答えを返さずに目をわずかに伏せてしまった。遠慮とも拒絶とも取れる態度を示す永平の肩を、反対側から虎噛 千颯(aa0123)がポンと叩く。
「焦る気持ちはわかるけど、今は我慢の時だぜ永平ちゃん。また勝手に動いてあの時みたいになって士文ちゃんの顔に泥を塗るような真似はするんじゃないぜ?」
「俺達を信用出来ないかもしれないが、今は信じて一緒に行動して欲しいでござる」
「もしパンドラがいても、一人で行ったりしないで下さい……!」
 「士文」という言葉に反応した永平に白虎丸(aa0123hero001)が声を重ね、御代 つくし(aa0657)も想いを込めて永平に言葉を投げ掛けた。仲間として一緒に戦いたい。行動の強制は出来ないけれど、お願いだけはしておきたい。つくしはそんな想いを眼に込め永平をじっと見続ける。
 麻生 遊夜(aa0452)は様子を見ながらふうと静かに息を吐いた。色々あって鬱憤が溜まっているだろうし、まだ呪いに関してわかっていない事も多い。永平の強張った表情も、皆の言葉に素直に頷けない心境も理解出来ない訳ではない。
 だが、遊夜の気持ちは永平を心配する仲間達と同じだった。身体張ってでも止めてやるし守ってやる、いざとなったらユフォアリーヤ(aa0452hero001)に主導渡してガン泣きと縋りつきの発動を止めずに実行させる、という決意は永平が喜ぶか分からないので口にはしないが、その位の心構えで自分も想いを音にする。
「ま、一緒に殴りに行ってやるさ。ただ、今永平さんらに抜けられるのは困る……戦友としても友人としてもな」
「……ん、大丈夫……よんぴょーは、良い子だから」
 ユフォアリーヤは永平の頬に腕を伸ばした。永平は身を引こうとしたが、ユフォアリーヤが瞳を潤ませたのを見て「頭は撫でるな」と釘を刺す。ユフォアリーヤは永平の頬に手を添え、ジッと瞳を合わせて笑顔を見せる。
「永平さん、これ」
 樹はシルミルテ(aa0340hero001)と共鳴すると、SMGリアールを取り出し永平へと差し出した。訝し気な永平に短機関銃の意を説明する。
「これ渡すからさ。今回は後方で全体状況の確認と、他に箱が増えないかどうかの警戒を大隊長殿にお願いしてもいいかな? たぶん、この中で君が一番そういう経験に長けてるから」
 樹の頼みに永平は眉間に皺を寄せた。しばらく視線を彷徨わせた後絞るように口を開く。
「今、『我道』以外の武器は使えねえんだ。色々試したんだが……」
 背中の呪い……そのせいかどうかは定かでないが、永平は口にする事も苦痛とばかりに苦々しく顔を歪める。それを見たゼノビア オルコット(aa0626)は愛用のメモ張に文字を書き永平の前へ差し出した。永平が視線を落とすと≪永平さん、花陣さん、がんばりましょう、ね! 皆で、無事に帰りたい、です≫との言葉があり、顔を上げるとわずかに掠める嫌な予感と、怒鳴られはしないかという少々の不安を滲ませる華奢な少女の顔がある。
 気を遣わせている、ゼノビアや皆の表情に永平はようやく思い至った。完全に心を落ち着かせる事は出来ないが、それでも申し訳なさに永平は息を吐く。
「ああ、よろしく。気を遣わせて悪かったな」
 ゼノビアはにこりと笑みを浮かべ、千颯は「頑張ろうぜ」と肩を叩いた。遊夜とユフォアリーヤはそれぞれに笑みを漏らし、つくしは目元を和ませた後樹へと声を掛ける。
「よろしくね、いつきちゃん!」
「うん、よろしく」
 淡々と言葉を返す樹につくしは明るい笑顔を見せた。永平を気にかけつつ一同の様子を眺めていた木陰 黎夜(aa0061)はバスの外を流れていく景色へと瞳を向ける。
「早く、助けねーと、な……。……敵は、討ち落となさいと……」
「冷静でいなさい。でないと足元を掬われるわよ」
「……うん……わかった……」
 アーテル・V・ノクス(aa0061hero001)の忠告に黎夜はこくりと頷いた。「あと五分程で到着します」、九繰の言葉に全員は緊張にその目元を引き締めた。

●出撃
 到着したエージェント達を待っていたのは歪な赤黒い外皮を纏う生物とは呼べぬ何かだった。状況把握と臨戦態勢に努める仲間達の背後で、千颯は周囲に並び立つビル群へと瞳を上げる。
(パンドラが絡んでいるなら何処かからこの状況を見ている可能性が高い……一番の特等席はどこだ……)
 邦衛 八宏(aa0046)とナガル・クロッソニア(aa3796)はそれぞれ稍乃 チカ(aa0046hero001)、千冬(aa3796hero001)と共鳴すると、ライヴスで作り上げた鷹を己の腕に停まらせた。上空からの偵察を狙う二人に千颯が金に染まった瞳を向ける。
「八宏ちゃん、あのビルが一番全体が見れるんじゃないかと思うんだ。それと、愚神を発見したら写真を撮って貰えないかな」
 千颯の頼みに八宏はスマホを取り出した。録画機能をオンにしたそれを胸のポケットへと仕舞い、普段より少し熱を帯びたぼそぼそ声で言葉を返す。
「了解です……申し訳ありませんがそちらは」
「任せてよ、八宏ちゃんもお願いね」
「それではエミナちゃん、いきますよ!」
『いきますよ、九繰』
 いち早く体勢を整えた九繰がアステリオスを振りかざし従魔へと足を踏み出した。工具を模したシンプルな装いに改造された大斧は、装着したアックスチャージャーによりライヴスをチャージする事が出来る。最も危険な状況にあるのは取り込まれた一般人、そう判断した九繰は救助を最優先させるべく、微かな悲鳴を漏らす従魔に斧を全力で振り下ろす。
「う、うわああ! 助けてくれ!」
「相変わらず悪趣味な奴らだ……待ってろ、今助けてやる!」
『……ん、大丈夫、ボク達なら出来る……ね、よんぴょー?』
 ユフォアリーヤは狼耳を生やした遊夜の内でクスクスと笑みを零し、聞こえた悲鳴に遊夜はハウンドドッグの狙いを定めた。声は歪に反響し取り込まれた男の位置は正確に特定出来ないが、男を傷付けないよう、そして即救助に移れるよう、接近しつつ過剰部分を削るようにテレポートショットを撃ち放つ。
「これがマガツヒの仕業なら、連続攻撃や突進、箱から何かを出す可能性は高いな」
「……交戦経歴を鑑みるなら、二度攻撃はあるものと思った方がいいね……」
「うちも、そう思う……少なくともマガツヒの仕業なのは間違いない……」
 遊夜の予測に不知火 轍(aa1641)と黎夜が頷き、樹は桃色と橙色の二色の虹彩を煌めかせた。シルミルテが湧き上がる欲望に忠実な、しかし無邪気で純粋な声を樹の内に響かせる。
『こノ藪に蛇居ルカな?』
「……じゃあ、突付いてみようか」
 「抑える」事をわざと緩和した樹は黒の猟兵を手に開くと、攻撃対象を「人型」の生物『以外』に指定した。バスを降りる前に使用したウィザードセンスに底上げされたブルームフレアは、二つの赤黒い異形を燃え盛りながら飲み込んでいく。
「助けてくれ! 殺さないでくれ!」
「すっかりパニックになってるね。永平ちゃん、敵が永平ちゃんに誘引されるか確認したいからちょっと離れた所にいて貰っていいかな。その後で一般人を捕らえている箱を攻撃して欲しいんだ」
 千颯の要望に永平は頷き、千颯は永平をフォロー出来る立ち位置にて武器を構えた。つくしは極獄宝典『アルスマギカ・リ・チューン』を携え従魔二体に視線を向ける。
「箱……あの愚神が関わってるのかな」
『分かりませんね。ただ、重々注意しましょう。幻月のようにどこかから見られている可能性もあります』
 メグル(aa0657hero001)の言葉につくしは頷き、箱二体を対象にゴーストウィンドを展開させた。樹の放ったブルームフレアにより男性は悲鳴を上げたがダメージを負った様子はない、ゆえに巻き込む事はないだろうと判断した。再び悲鳴を上げる男につくしは必死に声を上げる。
「待ってて下さいね! 必ず助けますから!」
「早く助けてあげないとね……。うし! ちーちゃんいっくよー!」
『焦りは禁物ですマスター。一つずつ仕掛けますよ』
 千冬は忠告を投げながら戦いに意識を集中させた。ナガルは猫の耳と尾を風になびかせ、男を取り込んでいない箱の方へ接近すると、スキルを封じる縫止の針を従魔の足部分へ放った。少しでも男から引き剥がす事を願った攻撃は命中し、そして男を捕らえた箱には潜伏で身を隠した轍が同じくライヴスの針を放つ。
「悲鳴、衰弱していく獲物、中身入りの箱はどっちでしょーか。……趣味の悪いゲームみたいだな。蹴っ飛ばしたら分断できないか……四メートルだしむりかな」
 主格を取ったレティシア ブランシェ(aa0626hero001)はPride of foolsを構えると、『愚か者』を冠する二挺拳銃からテレポートショットを空箱へと差し向けた。翻弄とスキルの封印、二つの異常を負った二体の従魔に黎夜が二種の黒を向ける。
「悪夢を、覚ます……」
 そのためにまず弱体化を。黒の猟兵から放たれた防御を弱める不浄の風が箱の群れを覆い尽くす。そこに千颯がラジエルの書から召喚した白い刃を打ち付ける。
「あら、結構硬いのね。もうちょっと待っててね、絶対助けてあげるから!」
「早く! 早く助けてくれ!」
 八宏は頭上から生えた猫の耳をピクリと動かしビルの一つに視線を向けた。上空に放った鷹がビルの屋上に人影を一つ感知した。奇妙な面を被り、地上を見下ろす一人の少年……身を翻した八宏に永平が声を飛ばす。
「何処へ行く」
「高所の方が、敵を見失いにくいんです」
「永平さんはこっちを頼む。早く助けてやらないと」
 遊夜がすかさず助け船を出し八宏はビルへと駆けていった。外壁にナイフを刺し、パイルバンカーから放った杭を駆使して移動時間短縮を試す。仲間の様子を気に掛けつつ屋上を目指す相棒に、チカが疑いを滲ませながら問い掛ける。
『つかよ、あれ本当にパンドラか? 見た感じ微妙に違うっつーか……』
「……無関係ではない、それで十分です」
 いずれにしろ逃がしはしない、その一念を持って八宏は一人天を目指して登っていった。

●戦闘
 従魔達は動かなかった。攻撃が功を奏したのか、その場でムカデのような足を蠢かせるだけだった。不気味と言えば不気味だが無駄にするような時間はない。救出を第一目標に据えたまま九繰が愛用の斧を構える。
『核となる個体があるか、全体で一を成しているかですが』
「後者だったら分裂とかしちゃいそうですね」
『念のため端から削りましょう』
 エミナの案に同意を示し、頭と思しき部分に九繰は大斧を振り下ろした。遊夜は敵を分断するように己が身を二体の間に割り込ませ、男の悲鳴を耳にしながら引き金に指を掛ける。
「時間がないんだ、さっさと潰れやがれ!」
『……ん、ここは通行止め、だよ?』
 ユフォアリーヤの言葉と共にダンシングバレットが放たれ、男を取り込む従魔の腹側面に傷を与えた。 樹は男を捕らえる箱にゴーストウィンドを、つくしは空箱にブルームフレアをそれぞれ放ち、千冬は鷹の目から見える情報を統括し主たるナガルへ助言する。
『箱の隙間や足などを狙い、機動力から削ぎましょう。「頭」は……まだ分かりませんね。この箱全てが「頭」である……という事がないよう祈りたいですが……』
 ナガルは頷き、二体の合流を阻む位置から毒刃を空箱へと見舞った。男の悲鳴が微かに聞こえたが、箱に反響しているためか喉が嗄れてきているのか先程より微かになっている。
「……これ、目印あった方がいいよね」
 轍はド派手なステッカーを取り出すと、死角から空箱にステッカーを張り付けた。同時にレティシアも目立つようにとメイクセットからパウダーを取り出し空箱へ投げて付着させる。ステッカーとパウダーにより全長四メートルもある従魔の区別は見事についたが、轍がレティシアに視線を向けレティシアが声を張り上げる。
「俺のじゃねぇよ!」
「……何も言ってないよ」
 黎夜は男を取り込んでいる、比較的地味めの様相となった箱へと銀の魔弾を撃ち込んだ。三人のソフィスビショップの攻撃により劣化の効果は出ているはず。その間に外装を削り男を無事に助け出す。
「一般人をなるべく傷つけねーように、注意だな……無駄な血は、いらないから……まだ人間なら……なるべく討ちたくは、ねーから……」
「永平ちゃん、一気に行くよ、ヘビィアタック頼む!」
「ああ」
 永平がヘビィアタックを乗せた釘バット『我道』を中身入り従魔へ叩き込み、千颯も同じ箱へフラメアの刃を突き刺した。倒すにはもう少しかかりそうだがこのまま行けば削れるはず。
 と、箱を寄り集めた二体の従魔がカタカタと箱を鳴らし始めた。千冬が『マスター、距離を。この近さでは危険です』と声を上げかけた瞬間、悲鳴のような音がエージェント達の耳を劈いた。鼓膜を、脳を、全身の血管を、金属の針でズタズタにするかのような壊れた音。永平が耳を押さえ唸りながらその場に崩れ、そこに二体の赤黒い塊が足を動かし迫ってきた。千颯が咄嗟に我が身を呈し、樹が永平を突き飛ばす。永平が見たのは従魔に撥ね飛ばされる千颯と樹の姿だった。

●救出
 八宏は面を被って立つ少年の姿を眺めていた。少年は自分を見る八宏の姿に、逃げる様子も見せず黙ってそこに立っていた。パンドラとは違う面だが背格好はよく似ている。とにかく声を聞こうと八宏は鋭く声を放つ。
「……僕の顔を見るのは、初めてでしょうか」
 少年は黙っていた。身じろぎもせず八宏に面を向けていた。八宏は銃を取り出し試しに少年に向けてみる。パーカーに身を包んだ少年は動かない。

 九繰は従魔達の様子から攻撃パターンを切り替える事にした。箱への攻撃が効いているか判断する事が出来ない。時間もない。男の声が段々と意味をなさなくなってきている。九繰は標的を変えぬまま、上空へ飛び上がってからアステリオスを振り下ろし、遊夜が早撃ちの乱射を披露し二体の従魔を射抜こうとする。
 だが、間近で放たれた怪音の衝撃が二人の集中力を乱した。攻撃は目標よりわずかに逸れ、つくしの放ったリーサルダークは効果を発揮しなかったようだ。轍は箱同士のわずかな隙間を固定しようとハングドマンを放ったが、目測が外れ赤に変じた瞳を眇める。
「……マガツヒ、彼らは”狂う事”に対しての美意識? 陶酔感? が強い……狂わされて精神が死んでしまったら繋げられない、何としても回避しないとだね」
「合流は、ぜっ……たい、させませんから!」
 ナガルは気合いと共に男を捕らえる箱へ毒刃を見舞ったが、傷は負わせても毒の効果を与える事は出来なかった。黎夜も黒い霧を召喚し箱型従魔へ差し向けたが、音に神経を喰われたように集中する事が出来ない。
「テメエ、一体何してやがんだァッ!」
 自分を庇い攻撃を受けた樹と千颯から従魔へ視線を向けた永平は、『我道』を構え単身突撃しようとした。瞬間、再び神経を壊すような音が聞こえ永平は強く耳を押さえる。そこに突進してきた従魔の姿にレティシアが威嚇射撃を見舞い、樹がブルームフレアを放ったと同時に千颯が永平の襟を引っ張り直線上から引き剥がす。
「少なくとも俺個人は大人しくしてろとは思ってねぇよ。無茶するな、極力怪我をするな。それだけだ。目の前で味方に何かあったら、後味悪ぃ。……目的があるんなら、それに向け冷静に動いたほうが収穫は大きくなる。そうだろ。聞けねえってんなら首根っこひっつかんで安全圏にぶん投げるが」
「あなたには"シンボル"がある……どんな影響があるか分かりません」
「我を忘れちゃダメだよ。俺達は大丈夫だから。そんなに攻撃力はないみたいだし」
 レティシア、樹、千颯の言葉に永平は口を引き結んだ。「悪い」と零す永平の肩を叩き、千颯は永平にクリアレイをかけてやる。
「さて永平ちゃん、どうやら時間はなさそうだ。背中は守る、だから強力な一撃をお願いするんだぜ!」
 長期間従魔に捕らえられた影響か、男の声は意味のないうめき声に変わっていた。正気のまま取り戻せる時間は恐らく残り僅かだろう。それを裏付けるかのように、空箱がムカデの足を動かし片割れに近付こうとする。
 今は邪魔な方を押さえる事が救助の早期化に繋がる、そう信じた九繰は標的を空箱へと転じた。無理な体勢でのカバーリングの誘発、かつもう一体から引き剥がす勢いでアステリオスを叩き込み、吐き出された赤黒い体液をその一身に浴びてしまう。遊夜は足並みを乱すため、男を取り込む箱へテレポートショットを撃ち放った。樹はさらに防御を崩すべくゴーストウィンドを展開させ、つくしは永平と樹の立ち位置に注意しつつライヴスの炎を巻き起こす。ナガルが空箱へ再度縫止の針を飛ばし、轍が男を抱える箱の隙間をハングドマンで固定する。黎夜が銀の魔弾を、レティシアがテレポートショットを放ち、遊夜とユフォアリーヤが永平へ声を上げる。
「今は時間が惜しい、ぶちかましてくれ!」
『……ん、よんぴょー頑張れー』
 永平が『我道』を振り上げ、防御を捨てた猛攻を箱の塊へ叩き込んだ。赤黒い従魔に亀裂が走り、捕らえていた男を残し一瞬にして崩れ去る。
 空箱は片割れが崩れ去ったのを見て取るや、地面に転がった男に明確に目標を転じた。突進してきた従魔の姿に千颯がスヴァリンを、九繰がアステリオスを構え、その隙に遊夜がSMGリアールに換装しつつ男を脇に抱え込む。
「戦場に晒しておくわけにはいかん、流れ弾も怖いからな」
 千颯と九繰に阻まれた従魔が遊夜と男へ身体を向けた。それを見てとったメグルがつくしへ声を張り上げる。
『もう一度来ます!』
「分かってる、よ……っ!」
 つくしは樹と共に箱を止めるべく魔法弾を撃ち放ち、遊夜から男を受け取った轍は少しでも安全な場所へと駆けた。ナガルは上空の鷹の目から周囲の状況を判断し、仲間達へと声を飛ばす。
「今の所異常は見られません、一気に行きましょう!」
 述べながらナガルは朱里双釵を叩き込み、黎夜が禁軍装甲を構え、従魔の行く手を遮りつつブルームフレアを解き放つ。肉薄したレティシアがPride of foolsで従魔の側面を殴り打ち、九繰が赤黒い液体を払いながら大斧で撃を見舞う。
「永平ちゃん、まだ行ける?」
「当たり前だ!」
 千颯と永平が息を合わせ己が得物を叩き込んだ所で、ハウンドドッグに持ち直した遊夜が銃口をピタリと定めた。猟犬の名を持つ狙撃銃を向けながらユフォアリーヤと声を合わせる。
「『おやすみなさい、良い旅を」』
 銃弾が箱を打ち鳴らし、従魔は赤黒い塵と崩れて立ち消えた。終わりを確認した轍は調合漢方薬「遼丹」を取り出すと、ガタガタと震えている男の前にそれを差し出す。
「……ほら、これ飲んで。落ち着かないならこれも飲む? アルコールは回りが早くて助かるよね……」
「いや、いい……」
 男は轍の出した酒甕は辞退し漢方薬だけを飲み干した。薬師を生業にしていた雪道 イザード(aa1641hero001)が男の様子に息を吐く。
「とりあえず、心身共に大丈夫そうですね」
 三人の元に共鳴を解除した樹も近付き、男に板チョコを渡そう、とした所で忘れた事に気が付いた。仕方ないと目を伏せた後、男へと視線を向ける。
「念のため精密検査を受けた方がいいかと。それと、何か事情をご存じでしたら話して頂けたら助かります……」
「お、俺は何も知らない! 巻き込まれただけなんだ!」
 男は必死の形相で樹を見た。あまり無理強いしない方が良さそうだ。男の監視をイザードに任せ仲間達の元へ戻った後、轍が皆に視線を合わせ問い掛ける。
「……身包み剥がして”印”があるか見る……?」
「今は止めておきましょう。精密検査を受けさせて確認の方がいいと思います。狂化薬の懸念もありますし、外見は大丈夫でも深手の傷を中に負ってるかもしれないし、他の一般人を襲わないで特定の対象だけっていうのも気になります。それと支配者の言葉を使った聴取も手配しようかと」
「精密検査は……賛成……体内に箱を埋め込まれた可能性、あるし……あの従魔はマガツヒのヤツだと思う……何かしらマガツヒに関わってしまったんだと、思う……」
 樹の案に黎夜が重ね、一同は同意を示した。樹が手配を行う中遊夜が皆へと意見を述べる。
「今の内に聞き込みと情報のまとめをしておくか。浮浪者のここ最近の動向も調べておきたい所だな。見世物みたいに暴れさせてんだ、近くに親玉がいる可能性も高い」
「あの従魔は他の人を襲わなかった……うちも可能性あると、思う……」
 黎夜は遊夜に同意を示し、永平を一瞥した後遊夜とそれぞれの相棒と共に聞き込みへと歩いていった。パンドラの呪いの影響が心配だが、とりあえず問題はなさそうだ。轍は不審者とライヴスの流れを確認すると言ってライヴスゴーグルを装着した後周囲を見渡し、つくしは溜息を吐いた樹へと声を掛ける。
「いつきちゃん、傷が痛い?」
「虎噛さんに治してもらったから大丈夫。支配者の言葉を使った聴取を頼んだんだけど、細かい質問は難しいし、一般人だった場合負荷が大きいため洗脳する事は出来ないって……一応やってはみるけれど、あまり期待はするなって……」
 樹は言って再び大きく息を吐いた。つくしはそんな樹を心配そうに見つめていた。つくしにとって樹は他の仲間と同じく信頼出来る、そして大切な友達だ。無茶はしないで欲しい。どこかに行かないか不安。そんな目で、つくしは樹の事を見ていた。
 「私も一緒にいる」と言って、つくしは樹の傍に寄った。救出した男性が「人間」のままかどうかも分からない。せめて帰るまでは一緒に。目を離さないように。つくしはそう心に決めた。

 永平は強張った表情で一人ビルを眺めていた。八宏が単身向かったビル。眉間に皺を寄せ歩いて行こうとした永平にナガルが背後から声を掛ける。
「一人でどこに行くんですか?」
「関係ねえだろ」
「一人で無茶しないで下さい! 皆心配してるのに、そんなことしたら怒ります。人は! 一人で何でも出来る訳じゃないんです!」
 永平の様子にナガルは思わず声を荒げた。初対面だろうがなんだろうが関係ない、そんな風に声をぶつけるナガルに永平は面食らう。と、ゼノビアが近付いてきて、文字を書いたメモ帳を永平の視界へと晒した。≪一緒に、無事に帰れて、嬉しい、です≫。だから無茶はしないでと、言外にそう訴えてくるゼノビアとナガルに、永平は諦めたように肩を落とす。
「分かったよ。だが、八宏……あいつはどうすんだ。チカってヤツも」
「今鷹を向かわせています。すぐ戻ってきますよ」
 ナガルは短くそれだけを告げ、八宏の前に並び立つ少年の事は言わなかった。言えばきっとこの男は走って行くに違いない。いざとなったら鷹を参戦させ八宏を助ける。そんな思いでナガルは意識を集中させた。

●対峙
 八宏と少年は、互いに向き合ったまま動こうとしなかった。傍観の体にも見えるし隙を伺っているようにも見える少年を前に、よそ見する事は出来なかった。面に隠れ表情の見えぬ少年に、チカが八宏の口を借りて問い掛ける。
『色々と確認したい事がある。こないだのあの何がしたいのか分からん箱の意図とか……あ、わりぃわりぃ八宏、真面目にするって。ウエディングドレス着せたり粘土像作らせたり、一体何が目的なワケ』
 少年は答えなかった。答える気がないと判断し今度は八宏が口を開く。
「……マガツヒの、貴方達の目的は、何ですか。……特に、李様を壊す訳でも、古龍幇の方々への交渉にする……訳でもなく、あのような状態で……易々と、此方に保護を許した……その意図は」
 目的が永平にあるのか、古龍幇にあるのか、それとも別にあるのか、問い詰めるように八宏は少年を強く睨みつけた。沈黙を続ける少年に、チカは息を吐いて噛み付くような視線を向ける。
『仕方ねえ、質問は終わり、次は要求だ。とっととあの二人から手ェ引け』
「……」
「……無償で、とは申しません。僕個人で……出来る事があれば、貴方達の要求を聞き入れます。……貴方達の目論見を、壊します。それが“彼”の、望みでしょう」
 目的を聞き出す為、八宏はあえて深く踏み込む姿勢を見せた。軽くあしらわれても、戦闘になって行動不能になっても今引き下がるつもりはない。本気で壊し合いに臨む、という意思で仮面の少年を見据え続ける。
 それに対し少年がようやく返したのは、溜息だった。面を斜めに傾げ、馬鹿にしきった調子で二人へと語り掛ける。
「アンタ、さっきから何言ってんの? オレただの人間だけど。マガツヒ? あの二人? なにそれ。アンタの言う通り全くの初対面だけど?」
 八宏は目を見開き、チカは『ハア?』と声を漏らした。少年は腕を持ち上げ己の面をトンと叩く。
「勘違いの原因ってコレ? 罰ゲームでさあ、一日中つけなきゃいけないんだよね」
『ここにいる理由は?』
「屋上に立ってたらいけないって法律でもあった? 下がうっさいから見てただけだよ。疑うんならその銃でオレの頭でも撃ってみる? 人間以外の何かなら面を壊して顔を見れる。人間だったらアンタは素敵な人殺し」
 ヒヒ、と少年は笑みを零し、そして八宏に背を向けた。嘲りを隠そうともしない少年にチカが噛み付くように声を飛ばす。
『面、外せよ』
「やなこった。屋上にいたってだけでつけ回されたら迷惑じゃん。アンタの探してるのが何処の誰だか知らないけど、藪から蛇出したかったらきちんと棒を持ってきなよ」
 そう言って退場した少年を見送った後、八宏は黎夜へ連絡を入れた。予め連絡先を交換していた黎夜はまずはナガルへ通話をし、ナガルは行動を共にしていたゼノビア、レティシア、駅で捜索を行っていた轍、イザードに声を掛ける。
「屋上にいた少年がビルを降りました。服装は鷹の目を通して分かっているので皆さん注意を」
 共鳴を解かぬままのナガルの言葉に四人は全身に緊張を走らせ、しばらくしてそこに一人の少年が通り掛かった。屋上にいたのと同じパーカーの少年……しかし面は被っておらず、ライヴスゴーグル越しに見た轍は怪訝な顔をする。
「……ライヴスの、流れが見えない……」
「え?」
 少年はまっすぐとナガル達の方へと歩き、そのまますれ違おうとした。事件に興味のなさそうな少年の様子にレティシアが声を掛ける。
「ちょっといいか」
「何」
「……近くで事件があってさ、首謀者探してるの」
「事件があったのにやたら冷静とか、興味を示してないとか、ちょっと不自然だろ。だから話を聞かせて欲しい」
 轍の助け船にレティシアが乗り、しかし少年は息を吐いた。泥を煮詰めて腐らせたような瞳でじっとりとリンカー達を見据える。
「近くで怖い事件が起きたから早く帰りたいって高校生はそんなに怪しい? 顔写真でも撮る? それともうちまで尾けてくる?」
「……」
「悪いけどテストの点悪くてイライラしてんの。用がないなら早く帰して」
「あなたのその服、どこで買ったの?」
「こんなの大型チェーン量販店でいくらでも売ってるでしょ。悪いけどもういいかな、猫耳美人のお姉さん」
 少年はナガルに言い捨てると六人に背を向け歩いていった。顔色を悪くするゼノビアに共鳴を解いた千冬が問い掛ける。
「大丈夫ですか、ゼノビアさん」
 千冬の問いにゼノビアはこくりと頷いた。ある依頼以降、ゼノビアを意識する千冬はほっと息をつき、轍がゴーグルをつけたまま周囲へと視線を向ける。
「……とりあえず、もう少し粘ってみよう。ケンカ売られるのは注目浴びやすいからって事だよね。きっと親玉がいると思うんだ……確認は高所だろうけど帰りは観察して帰るんじゃないかなと思うから、駅に来る可能性は高いと思う。極端に存在が薄かったり、足音が無かったりとか、違和感のある人物があれば積極的に調べていこう……近くの定点カメラ映像を確認出来ればしたいな」
 これもあるし、とインスタントカメラを取り出した轍の言葉に皆が頷き、それぞれ捜索へ向かっていった。その後不審者らしき人物は見当たらず、「箱は男の身体から突然出てきた」以外の情報は得られなかった。精密検査を受けた男の体内に異常はなかったが、一般人のため支配者の言葉は不可、肌の一部が赤黒く変色していたという報告が届けられた。

 少年は電車の窓から泥を煮詰めて腐らせたような瞳で外の景色を眺めていた。飴を取り出し、口に放り、そのままがり、がりっと噛み砕く。
「ヒヒヒ」

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 常夜より徒人を希う
    邦衛 八宏aa0046
    人間|28才|男性|命中
  • 不夜の旅路の同伴者
    稍乃 チカaa0046hero001
    英雄|17才|男性|シャド
  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • シャーウッドのスナイパー
    ゼノビア オルコットaa0626
    人間|19才|女性|命中
  • 妙策の兵
    レティシア ブランシェaa0626hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
    人間|18才|女性|防御
  • 共に在る『誓い』を抱いて
    メグルaa0657hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • Twinkle-twinkle-littlegear
    唐沢 九繰aa1379
    機械|18才|女性|生命
  • かにコレクター
    エミナ・トライアルフォーaa1379hero001
    英雄|14才|女性|バト
  • その血は酒で出来ている
    不知火 轍aa1641
    人間|21才|男性|生命
  • Survivor
    雪道 イザードaa1641hero001
    英雄|26才|男性|シャド
  • 跳び猫
    ナガル・クロッソニアaa3796
    獣人|17才|女性|回避
  • エージェント
    千冬aa3796hero001
    英雄|25才|男性|シャド
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