本部

【神月】連動シナリオ

【神月】不死の軍勢

落花生

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/08/05 18:21

掲示板

オープニング

●死者の群

 まるで、地獄の釜が開いたかのような光景であった。

 国会議事堂までの真っ直ぐな乾いた道路を、炎をまとった者達が進む。全く同じ鉄やジルコンの仮面をかぶり、一つの意思によって動かされているかのような一糸乱れぬ従魔の軍勢。その異様な軍団から国会議事堂を守るためのバリケードが築かれ、HOPEからはリンカーたちが呼ばれた。
「なっ、なんだこれは!」
 その一人は、ここにやってきたことを後悔した。
 避難の終了した街を進むのは、死者をかたどった従魔の群。その軍隊の中央には、王族でも乗せているかのような巨大なカゴ。カゴを飾る薄い布が風で揺れるたびに、リンカーは理由もなく寒気に襲われた。あのなかには、なにか悪いものがいる。
 死者の軍隊に立ち向かうために、リンカーの一人が銃を乱射する。その銃弾はほとんどが亡者の盾によって防がれたが、何発かの弾丸が敵の仮面を落とした。ずるりとはがれ落ちた仮面の下にあったものは、やはり死んだ人間の顔であった。
「こいつら……アンデットとミイラなのか?」
 HOPEのリンカーは、茫然としていた。死んだ人間が片手斧や盾で武装し、軍隊のごとく行進をしている。そんな光景は、悪夢でしかなかった。
「くそっ。通信機が使えない」
 自分たちが持ち出してきた装備では、あの軍団とは戦えない。だが、助けを呼ぼうとしても通信機が使えなくなっていた。誰かが、議事堂にいる仲間に現状を伝えなければ。たとえ援軍が来たとしても、自分たちの二の舞いになってしまう。
「だれかっ。一度、議事堂に戻れ! そっちに別働隊がいる」
「馬鹿。前を見ろ!」
 ぐさり、と男の脇腹に何かが突き刺さる。
 それは、ミイラの武器であった。パイク、と呼ばれる現代ではまず見られない四メートル以上もある槍である。ミイラは刺さったパイクから逃げだそうとするリンカーを取り囲み、次々と自分のパイクを突き刺していく。その光景には、死体に群がるハゲタカのような残酷さがあった。
 ――ぞろぞろ、ぞろぞろ。
 蘇った兵士たちは、一心不乱に国会字義堂へと向かう。
「待ってろ! 今助けるぞ」
「こっちも手が空いた、援護できるぞ」
 串刺しにされた男を助けるために、仲間たちが駆け付ける。
 だが、串刺しになった男の目には別の敵が映っていた。
 カゴにつけられていた薄い布が、風ではためいたのである。見えたのは、骨であった。生前はさぞかし美しい女であったのだろうと思われる骨格は、所々が翡翠でつなぎ合わせてあった。死してなお艶やかな黒髪には、死後も続く彼女の執念すら感じられる。
 その女が手をあげた瞬間に、虚空から炎の球体がいくつも現れた。
 女の骨は、仲間がいる方向を指さした。すると炎の球体は、そちらへと一斉に向かって行く。あぶない、と声を上げる暇もなかった。仲間たちは燃え上がり、女の骨はどこか色めかしい仕草で腕を下ろす。そして、反対の腕でなにやら印を作りだす。
 その瞬間であった。
 仲間たちがやっとの思いで倒した従魔たちが、次々と立ち上る。元より、すぐに回復してしまう敵たちではあった。鎧を砕いても炎を消しても、彼らはダメージなど感じないかのように向かってきた。だが、ダメージを与え続けていればたしかに倒れたのである。
 なのに……女の骨は倒した敵さえも復活させてしまう。
 ああ、このままではダメだ。
 男は絶望していた。
 爆発音が聞こえる。爆発するゾンビがいたから、そいつの攻撃を誰かが受けたのであろう。もはや、確認する気力すら起きなかった。
「あきらめないで!」
 仲間の女性リンカーが、串刺しにされていた男の傷を回復させた。
「私たちが時間を稼ぐから、議事堂にいる別働隊に連絡をとって。私はもう、誰も回復させられないの」
 女の腕には、火傷があった。
 けれども、女は自分よりも仲間を優先した。
「さぁ、行って!」
 女の声に背を押されて、男は走る。
 敵はHOPEが当初考えていたよりも、ずっと強い。
 それを伝えるために。

●議事堂
 国会議事堂のなかには、議員とHOPEのリンカーの別働隊がいた。もしものときのために控えていたのだが、通信機が使えない今となっては外の様子もわからない。
「外はどうなっているんだ! もう、あのモンスターたちは倒されたのか!!」
 議員たちは、苛々している様子であった。
 すでに議事堂にたて籠ることを決めてから数時間が経過しており、一般人である議員たちのストレスが限界に達していたのだ。
「すみません。この方は、さっき出て行ったリンカーの一人じゃないですか?」
 議事堂の警備員が、息を切らせた男のリンカーに肩を貸して議員たちとリンカーたちがいた部屋に入ってくる。男は、息を切らしていた。そして、それ以上に酷い怪我を負っていた。ここまで走れたことが、不思議なほどに。
「俺の仲間は、もう駄目だ! 敵は……敵は、思ったよりも強い。あいつらは炎を纏っていて……たぶん他の現場に出現したヤツラよりも厄介なんだろう」
 男の口から、死者の部隊のことが告げられる。
 その情報に驚きながらも、国会議事堂を守っていたリンカーたちは頷きあった。
 たとえ、どんな強敵であろうとも逃げることは許されなかった。
 彼らはそれぞれ武器を握り、バリケードを乗り越えて外へと向かう。
 死者に戦う、生者になるために。

解説

・目標
 国会議事堂へと向かうアンデット軍団の討伐。
 もしくは敵本隊撃破まで耐える。(シナリオ「【神月】王の帰還」の解決)

・周囲の状況
 夜の街中。一般人の多くは避難済み。
 アンデット軍団は大通りを進んでいるが、一本でも違う道に入ると薄暗い路地が続く。

以下、男が伝えた情報。

鉄の仮面のミイラ(灰の重装兵)……ミーレス級。人と変わらぬ大きさであり、知能は高くはない。国会議事堂へと迫っており、一時間もしない内に到着する。パイク、大盾で武装している。特筆すべき攻撃力は持たないが、ミーレス級の平均値を大きく上回る打たれ強さを備えている。
 パイクの穂の基部や柄頭に取り付けられた鉤によって敵を引っ掛け、拘束する。複数体から同時に仕掛けられると非常に厄介である。炎を纏った装備を身につけており、鎧も肉体も数分あれば再生してしまう。多数出現。

ジルコンの仮面のアンデット(橙の工兵)……ミーレス級。灰の重装兵よりも小柄。知能は高い。支援特化型で、破壊工作や特殊行動などを行う。ライヴスを込めた爆発効果のある魔法の符を罠として設置でき、触れた者を爆炎によって攻撃する。進行を邪魔する者や行動停止に追い込まれている者を優先的に爆破する。また、橙の工兵の数が少なくなると体内に溜め込んだガスに点火し、自爆する。炎を纏った鎧を身につけており、自爆の火力が底上げされている。灰の重装兵よりも数は少ない。

緑の魔術師……ケントゥリオ級。やや小柄で、知能は非常に高い。移動することはなく、四人の重装兵が担ぐカゴに入って移動する。燃える火の球を多数出現させ、自分に近づいてくる敵から攻撃を加える。自分の近くに敵がいない場合は、遠くにいる人間まで攻撃を加える。従魔を一度に十体復活させる能力があり、味方の数が少なくなると発動させる。

リプレイ

●作戦会議
 命からがら逃げてきた男からの情報を聞いたリンカーたちは、そろって息を飲んだ。国会議事堂の空気が、しんと冷えていた。男の話しが本当ならば、議事堂に向かって死者の軍団が迫っていることになる。だが、傷だらけになった男の言葉を疑う者などいなかった。
「不死の軍勢って名前だけでもうホラー感あるやんっ!? うち、こう言うの苦手やって言うたのにっ!」
 鈴宮 夕燈(aa1480)は、若干涙目になっていた。
 ゾンビやミイラが大行進していると聞いた時から、夕燈の恐怖感は最高潮に高まっていた。唯一の救いは、知り合いが多いことぐらいだろうか。
「ゾンビ軍団!? ゾンビ……やだー」
 北条 ゆら(aa0651)も、夕燈と同じような気持ちであったらしい。夕燈は勝手に彼女を仲間と思っていたのに、ゆらは「でも、これ以上被害を出さないためにも頑張ります」と開き直って決心を固めてしまっていた。
「話を聞いた限りは、軍勢は直進しているんだな? なら、打つ手はあるかもしれない」
 飛岡 豪(aa4056)の言葉に、その場にいた全員が彼に注目する。注目された豪は、力強く頷いて見せた。
「僭越ながら、総指揮を執らせていただく。皆、よろしく頼む」
 豪は、こほんと咳払いをする。
「ここにいるメンバーを三組に分ける。正面で戦う防衛組、横から敵に攻撃する奇襲組、愚神を遠距離から攻撃する狙撃組。全員が一カ所に固まって戦えば数で圧倒されるだろうが、この作戦ならば敵のウィークポイントを突くことができる」
 おそらく奇襲班が一番危険な役回りになるだろう、と豪は続ける。
「俺は高所からの狙撃班にいるから、奇襲班が危なくなれば花火をあげる。そうしたら、全員撤退の準備をしてくれ」
 仲間のうち何名かが、奇襲班に名乗りを上げる。
 そして正面での戦闘をおこなう防衛班も決まり、気がつけば夕燈は狙撃班になっていた。
「夕燈、俺達は高所から愚神を狙う」
「な……なんで、ウチもそんな重要な役目なんや」
 夕燈は汗をだらだらと流しながらも、出撃の準備を始めるしかなかった。

●防衛組
「ふぁあ~、楽はできんのか?」
 欠伸を噛み殺すこともせずに鋼野 明斗(aa0553)は、バリケードを乗り越える。あと数十分もすれば死者の軍勢は国会議事堂へとたどり着くという。明斗たちの役割は、誰よりもシンプルである。敵と正面衝突して、相手の足を止める。
「さて、仕事と行こうか」
 頭をかきながら、明斗は自分より背丈が随分と低い相棒を見やった。ドロシー ジャスティス(aa0553hero001)は愛用のスケッチブックに『がってん』と記す。
「大丈夫。ここに居るメンバーは強い、必ず勝てる」
 荒木 拓海(aa1049)は、ぐっと拳を握りしめる。その様子に、メリッサ インガルズ(aa1049hero001)は微笑んだ。
『そうね。わたしたちが、先陣を切りましょう』
 共鳴した二人は、フリーガーファウストG3を肩に担ぐ。拓海の砲弾の炸裂音は、おそらくは離ればなれになった仲間たち全てにとどくであろう。それを見越して、コレを合図にと提案したのである。
『作戦を実行します!』
 メリッサの声と共に、拓海は引き金を引いた。たしかな威力に、敵前列の敵が何匹か吹き飛ぶ。逃げ帰った男の証言が本当ならば、敵の傷の修復は早い。しかも、ダメージを与え続けて倒しても、愚神の能力で復活してしまうという。拓海たちの場所からは愚神の姿は見えないが、情報が本当だとしたら厄介きわまりない能力である。
「うぉぉぉぉ!!」
 拓海は、敵の群のなかに走った。武気は持ちかえて、小回りの効くSMGリアールにしてある。敵の群のなかに入って、拓海は改めて敵の異様さに息を飲んだ。
 死者が歩いている。
 映画や漫画ではよくあるシュチエーションも、現実となれば悪夢としか言いようがない。よく映画の登場人物が「ゾンビになる前に俺を殺してくれ!」なんていうが、この光景を見た後であるならばその気持ちがよくわかる。自分も死んだ後に、アレにはなりたくはない。
『囲まれたら、終わりですよ!』
「分かってはいるんだよ!!」
 だが、敵の数が多すぎるのである。
 三百六十度、どこを見ても臨戦態勢の敵なのだ。
「熱を何処まで遮断できるか無駄となるかどうかは、試さねばな」
 紅焔寺 静希(aa0757hero001)と共鳴したダグラス=R=ハワード(aa0757)は、イグニスで周囲を焼いた。炎が効くかどうかを確かめる為の攻撃だったが、結果は微妙としか言えなかった。通常の攻撃と同じだけのダメージは負うようであるが、その動きや装備が燃えることはない。
「屍は屍らしく、塵と消えろ」
 なおも、ハワードはイグニスをかまえる。
 盾をもったミイラに、ハワードはイグニスの炎を食らわせる。熱伝導でミイラの体が崩れることや盾そのものを破壊する効果を狙ったのであった。盾はたしかに多少は脆くなったかもしれない。しかし、効率が悪すぎる。
『ダグラス様っ!』
 メリッサの声に、拓海はイグニスを握るハワードの方を振り返る。
「大丈夫でしょうか!」
「心配は無用だ。蹂躙するには、もってこいの強さと密度だな」
 冷徹な雰囲気をまき散らしながら炎を放つ、ハワード。
 彼は、彼なりに勝利を見越して動いているのだろう。
「この状態で囲まれないようにするのって、かなり難しいですよね!」
 隼風を握った明斗は、拓海の背後にいた敵を攻撃する。
「明斗さん、ありがとう」
「それより、符に気をつけてください。これも炎が……つっ!」
 そう言っている間にも、明斗は痛みに目を細めた。アンデットの一体が設置していった符に触れてしまったらしい。明斗は、すぐさま自分にリジェネーションをかける。傷はすぐに癒えたが、状況は未だに圧倒的に不利である。
「自分は、前線の維持だけを考えないと……」
 数の利は、圧倒的に愚神側にあるのである。おそらく防御に徹していても、時間をかけてじっくりと嬲られて終わりであろう。――仲間が来なければ。
 明斗は、再び武器を握りしめる。
 仲間が、機会をうかがっている。
 仲間が、自分たちの働きを期待していてくれる。
「持ちこたえてみせます……」
 小さく、明斗は呟いていた。

●狙撃班
「先行した人達は……」
 高いビルの屋上で武器を握っていた皆月 若葉(aa0778)は、ラドシアス(aa0778hero001)に訪ねていた。軍勢を見下ろせる高所にいてもなお、先行したはずのリンカーたちの姿は見つけることはできなかった。その意味を察せないほど若葉は子供ではないが、ついラドシアスに訪ねてしまっていたのだ。
『もっと近づいてみなければ分からない……が、彼らの努力を無駄にするな』
「……うん」
 若葉は、九陽神弓をぎゅっと握りしめる。
 先行隊の人間たちが勇気を持って仲間を庇わなければ、自分たちは敵の軍勢の情報を知ることはなかった。何も知らなければ全員が軍隊と正面からぶつかり負けていたか、なにも知らずに議事堂のなかでの戦いを余儀なくされていたかもしれない。
「明けない夜はない。俺達も希望の陽光となり、この絶望の夜を終わらせる」
『絶対に負けられない戦いだな』
 ガイ・フィールグッド(aa4056hero001)も、拳を握りしめる。
 自分のパートナーの言葉に頷きながら、豪も若葉と同じ弓を握っていた。
「も……もうすぐ、狙撃ポイントにカゴが到着するで」
 夕燈の言葉に、豪と若葉は共に狙いを定める。
 若葉は愚神がいるカゴに向かってテレポートショットを使用する。放たれた矢は一瞬だけ姿を消し、愚神がまるで真後ろから狙われたような位置に命中した。これで愚神は、おそらくは後方から援軍が来ると考えるだろう。だが、実際のところ自分たちが奇襲班を置いたのは軍隊の真横である。
 若葉は地上で戦う、仲間たちの姿を見る。
 大量の敵で苦戦しているようではあるが、誰一人としてあきらめてはいなかった。
「何度蘇えようとも……俺達が倒すよ!」
 自分の矢は、先発隊として散っていたものたちの無念を晴らすことができる。若葉は、自分にそう言い聞かせていた。
「俺達2人で18個の太陽を撃ち落とせる。邪悪な亡者など……物の数ではない」
 豪が、若葉を鼓舞する。
『カゴをよく狙えよ……』
 シド(aa0651hero001)は、銃をかまえるゆらに囁いた。
 魔術師はソコにいるという情報は、すでに得ている。自分で移動する事のない愚神の足となっているのは、死者と王族を運ぶような立派なカゴである。あれを破壊できれば、奇襲班の成功率もあがるであろう。すでに若葉が一発食らわせてはいるが、さすがにあの一発のみでは壊れたりはしなかった。
「わかってる」
 ゆらは頷いて、引き金を引く。三発ほど連続であてて、ようやくカゴの屋根が壊れた。ゆらはすかさず、幻影蝶を発動させる。カゴの周りにいる敵に、バットステータスを与える。
 ゆらの隣で、夕燈は小さくなっていた。
 豪や若葉と共に撃っていたはずのライフルを持って、ふるふると震えていた。恐怖で震えているわけではない。いや、恐怖もあるのだが根本は別の所にあった。
「……あ、リロードってどないするんやったっけ」
 誰にも聞こえないように、夕燈は小さく呟いた。
『リロードの仕方、教えただろうが、バカ助』
 Agra・Gilgit(aa1480hero001)の言葉に、夕燈は言葉に詰まった。
「バカ助ちゃうし……」
 だが、リロードの仕方はちゃっかり教えてもらう夕燈であった。

●奇襲班
『倒しても倒しても死なないとな? ならば遠慮はいらないな』
 ビルの陰に隠れていた染井 義乃(aa0053)に、シュヴェルト(aa0053hero001)は彼女だけに聞こえる声で囁く。すでに彼と共鳴していた義乃は、ふぅと息を吐いてそれに答えた。
「ちょっとは緊張感を持ってよ……。でも、容赦しないに関しては同感だよ」
 義乃の目の前を悠々と歩く死者の軍隊には、手加減などいらない。いや、手加減などしていたらこちらの命はないであろう。義乃は道の反対側にいったはずの仲間の姿を確認しようと思ったが、目の前を通りすぎる死者たちのせいでできなかった。通信機が使えないというのが、今さらながらに心細く思われる。
 そのとき、発砲音が聞こえた。
 おそらくは、狙撃班のものであろう。
 自分の仕事の時間だ、と感じた義乃は隠れていた場所から飛び出た。死者たちも義乃に気がつくが、彼らは相手にはしない。
 目標は、たった一つ。
 死んでもなお、美しい黒髪をたたえる魔術師である。
「ライヴスショット!」
 義乃の攻撃は、魔術師を守っていた死者たちに阻まれる。だが、義乃は失敗を悔やむことはせずに、すぐさま次の作戦へと行動を移す。
 守るべき誓い――の使用。
 これでしばらくの間、敵の攻撃は義乃へと向かう。
「来なさい。私はここです」
 義乃は、笑う。
 そのとき、道の反対側から赤い目をした少女が現れた。
『闇夜を統べる不死者の女王たる――このわたしに歯向かうつもり……?』
 レミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)であった。
 尊大なレミアに、狒村 緋十郎(aa3678)は「油断はするなよ」と言葉をかける。
『ふん。たかがゾンビの分際で、不愉快だわ。身の程を思い知らせてあげる必要があるわね…!』
 黒い衣装を翻して、レミアは炎も恐れずに突き進む。
「大丈夫なのか?」と緋十朗は声をかけるが、レミアは嗤うばかりだ。
『心配なら、死者にしてあげなさいよね!』
 魔剣カラミティエンドを手にしたレミアは、道をふさぐ重装兵に向かって一気呵成を使用する。攻撃によって転倒した死者の鎧の隙間を狙い、レミアは死者の上半身とか下半身をわけた。再生を恐れたレミアは、死者の下半身を放り投げた。
『邪魔はしないでよね』
 レミアはそう言うが、敵の数が多すぎる。
「隙を作ります」
『深散、来るよ』
 レミアの背後にいた国塚 深散(aa4139)が、前に飛び出る。九郎(aa4139hero001)は、言葉の通り敵はそこらじゅうにいた。それでも、深散は恐れることなく敵のなかへと突っ込んでいく。
 深散は忍刀を片手に、敵を引きつける。重装兵が深散を取り囲もうとするが、深散は敵の長い槍の隙間を縫って走りまわった。
「空振りした後の重装兵なんて、ただの的です」
 後は頼みます、狒村さん。
 深散は、そう呟いた。
 魔術師の側までたどり着いた深散は、魔術師に向かって縫止を使用する。骨となっても美しい愚神の動きは拘束され、レミアはそれを見て嗤った。
『まかされたわ』
 レミアは、周りの死者も巻き込んで魔術師に向かって怒涛乱舞を使用する。
「次々、いくわよ」
 次の攻撃に移る前に、レミアはアンテッドが自分の向かってくるのを見た。愚神を守ろうとしての特攻に嫌なものを感じた彼女は巨大な魔剣を盾にする。レミアの予感はあたった。アンデットは爆発し、あたりには爆風が吹き荒れる。防いだとはいえ、まだ同じような敵はいる。
「厄介ね」
 レミアは呟く。
 囮役の義乃にも、限界が近づいているようであった。
 HOPEまんを齧りつつ、敵の猛攻に耐えている。
 誰も愚神への攻撃に移れないと判断した深散は、自身で攻撃を試みる。彼女は魔術師の骨と骨とを繋ぐ翡翠に目をつけていた。控えめな緑色の宝石は、白い骨のなかでは酷く目立つ。
『これ見よがしな宝石を狙ってみようか』
 九朗の言葉に、深散は唇だけを動かして「私も同じことを考えています」とパートナーに伝える。
「深散さん、大丈夫ですか!」
 義乃は敵の攻撃に耐えながらも、敵に果敢に挑みかかる深散の身を案じていた。これだけの数の敵を相手にしていながら、義乃以外の奇襲班は体力の回復が出来ていない。精神の方はともかく、華奢な少女の体はいつかは悲鳴をあげてしまうであろう。
「この身体が動く限りは戦えます……」
『よくいったわね。わたしも同じ意見よ』
 レミアは自分に向かってくるアンデットを視界の端に見つけると、愚神にわざと近づいて爆発に魔術師も巻き込んだ。
 そのときであった。
 黒髪をなびかせながら、愚神が手で印を作る。骨だけになった愚神に、なにか尊き力でも宿ったかのように彼女の周りにいた死体たちがむくりと起き上がる。
 その数は、十体。
 この光景を見て、情報を伝えた男は恐怖を覚えたのだろう。
 この光景を見て、先発隊は生き残ることをあきらめたのであろう。
 やっとのことで倒した敵が、復活してしまうというのはそれだけの衝撃的な光景であった。事前に情報で知り得ていても、敵を目の前にしなければこの感情は理解できない。
 そのときであった。
 弾丸や弓が、愚神の周囲の死体を攻撃しはじめたのである。
 声や言葉を聞かなくとも、それは狙撃班に周った仲間たちの攻撃だった。そして、少し離れたところからは、防衛班が戦う音も聞こえてきた。通信機なんてものがなくとも、仲間が自分たちを援護していることを感じる。蘇った死体の数など、何でもない問題のように思えてきた。
『蘇らせた死体も、一匹残らず刈り取ってやるわよ』
 戦意を喪失しないレミアの言葉に、義乃と深散も頷く。
『わたしたちが議事堂に派遣されていた。それが、二度目のあなたの死因よ!』
 レミアが、愚神に向かって走り出す。
 深散と義乃は、彼女の動きを邪魔する敵を蹴散らしていった。

●狙撃班2
 豪は、下の様子を瞬きも忘れて見ていた。
 正確には、奇襲班の作戦が成功したのかどうかを見ていた。どうやら、愚神を倒すことには成功したらしい。未だに軍勢は残っていたが、大きな敵を倒せた事にほっとする。
 離れた場所にいる防衛班の詳しい様子までは分からないが、稀に大きな音が響くので全滅はしていないようである。
 豪は、花火を打ち上げる。
 二発は、最初に皆で決めた成功の合図である。
「作戦……成功したんですよね?」
「ああ、奇襲班はよくやった」
 豪の言葉に、若葉もほっとしていた。
 遠くで見ているからこそ圧倒的な数の不利がよくわかり、若葉は始終はらはらしていたのである。だが、これで終わりではない。まだ、多くの死者が残っている。
『緋十朗、ぱねぇっす!』
 止めを刺した知り合いに、ガイは歓喜の声をあげていた。
「あわわわ。みんな、傷だらけや。ウチ、ちょっとケアレイに行ってくるわ」
 夕燈はそう言って地上にいる仲間と合流するべく、ビルの階段を下っていった。あの軍勢のなかにいる奇襲班と合流する事は出来るだろうが、果たして戻ってくる事が出来るのだろうかと豪はわずかに考えた。戻ってこれなくとも、戦力にはなるだろう。
「ここの狙撃は、俺が請負ます。飛岡さんは、下で皆と一緒に戦ってください」
 若葉は弓をかまえながら、豪に言った。下では、まだ戦闘が続いている。体力を消耗した奇襲班を鼓舞するためにも、強力な助っ人が必要であろう。
 若葉は、そう判断した。
「では、ここを頼んだ」
 豪は階段を降りながら、武器をオロチに持ちかえる。
 ビルから飛び出た途端に、怒涛乱舞が炸裂した。
 飛び散る死体に恐怖せず、自分たちより遥かに多い軍隊にも恐れず、炎の熱さに脅えることもなく――ヒーローは名乗りをあげた。
「俺は夜明けをもたらす赤色巨星! 爆炎竜装ゴーガイン! 燃ゆる亡者どもよ、正義の炎の前に燃え尽きろ!」

●最後の戦い
「花火があがった」
 しかも、二発と明斗は呟く。
 肩で息をしながら、彼は前方を見る。自分の前には敵は多く、戦力差は未だに絶望的だ。それでも、仲間たちがやり遂げたのならば「負けてはいられない」という気持ちもわいてくる。少なくとも防衛ラインを越えられてしまったら、仲間に合わせる顔がない。
「一気に攻め込むぞ」
 ハワードはグリムリーパーに持ちかえ、盾を持った重装兵へと向かっていく。鎌の刃ではなく、柄の部分を使った攻撃をハワードは加えた。無論、ダメージはさほどない。ハワードが狙いたかったのは、それではない。敵が盾を構えると、ハワードは鎌の部分に盾を引っ掛けて敵の体勢を崩した。
「そこで、いつまでも転んでいろ」
 ハワードの背後に符を発見した拓海は、死者を誘導し爆発に巻き込む。最初は厄介だと思った敵の武器だが、何度も見るうちにその特性を理解した。符はほとんど地雷と同じであり、引っかかった者を自動的に爆破するのである。ならば、敵を誘導して爆発に巻き込んでしまえば良い。
 拓海の行動を見たハワードはパワードーピングを使用し、武器も釵へと持ちかえる。そして、減った体力を補うためにリジェネーションも使用した。敵の数は減ったが、まだ眼前には数えきれぬほどにいる。
「さぁ、もうひと踏ん張りか?」
 ハワードは、静希に尋ねてみる。
 物言わぬ彼女は、ハワードと同じ敵をただ見ているだけであった。

●戦いの後に
 最後の一匹となった死者をハワードが倒したことを確認すると、明斗はへたりと座りこんだ。どれぐらい戦っていたのかは分からないし、時間も確認したくはない。極度の疲労と緊張が解けたせいでの生理的欲求が、明斗の胃袋を猛烈に攻撃していた。
「……腹へったな」
 ちょっと胃が痛い。
 腹が空きすぎて、お腹が痛くなるというやつである。こんな時には、安くて速い丼物をかっこみたい。男らしく、がつがつと食べたい。牛丼もいいし、かつ丼だっておかわりできそうな腹具合である。
『鰻食べたい!』
「そんな金はない」
 スケッチブックに書かれたドロシーの文字に、明斗は彼にしては素早くツッコむ。
 よっぽど鰻が食べたかったのか、ドロシーの頬がリスのようにふっくらと膨らむ。その様子に笑いがこみあげてきて、明斗は彼女の頭を撫でた。
「これは、だれも武器として使ってなかったよね? 遺品……なのかな」
 若葉が見つけたらしい拳銃を、仲間に見せる。見おぼえない武器は、おそらくは先発隊の誰かのものだろう。家族にとどけたいな、と若葉は呟いた。見つけたものが武器だから難しいかもしれないが、それでも戦って散ったものたちの遺品が愛する人々に届くように若葉は祈った。
 そんな光景を見て、シドは顔を伏せた。
『負傷者が出る前に愚神どもを止める手立てはなかったものか。もっと早くに、俺たちは動けていたんじゃないか……』
「おー、さすが真面目シドさん。言うことがちがーう!」
 でも、それは違うわよとゆらは続ける。
「早く動いてたら、情報がなくて私達は全滅したと思うのよね……」
 先行隊の情報に命を救われたのよ、ゆらは言った。
 それぞれが犠牲者を悼むなかで、メリッサは無言で布をかけた。
 その相手は人間ではなく、骨だかになった愚神であった。不可解な事に戦っていた時にはあれほど怪しく美しかった黒髪も、動きが止まれば骨についているただのモノであった。艶も含んではおらず、風に吹かれて砂にまみれている。
「メリッサ?」
 拓海に名を呼ばれた彼女は、振りかえる。
 ふわり、とメリッサの長い髪が風に揺れた。
『沢山の命を奪った愚神と判ってるわ。けど、生前美しくある程、朽ちてく姿は晒したくなかったでしょうから……』
 微笑む彼女に、拓海はかける言葉を失っていた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • エージェント
    染井 義乃aa0053
    人間|15才|女性|防御
  • エージェント
    シュヴェルトaa0053hero001
    英雄|20才|男性|ブレ
  • 沈着の判断者
    鋼野 明斗aa0553
    人間|19才|男性|防御
  • 見えた希望を守りし者
    ドロシー ジャスティスaa0553hero001
    英雄|7才|女性|バト
  • 乱狼
    加賀谷 ゆらaa0651
    人間|24才|女性|命中
  • 切れ者
    シド aa0651hero001
    英雄|25才|男性|ソフィ
  • 我王
    ダグラス=R=ハワードaa0757
    人間|28才|男性|攻撃
  • 雪の闇と戦った者
    紅焔寺 静希aa0757hero001
    英雄|19才|女性|バト
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 温もりはそばに
    ラドシアス・ル・アヴィシニアaa0778hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
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  • 未来を導き得る者
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  • 陰に日向に 
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  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
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  • 夜を取り戻す太陽黒点
    飛岡 豪aa4056
    人間|28才|男性|命中
  • 正義を語る背中
    ガイ・フィールグッドaa4056hero001
    英雄|20才|男性|ドレ
  • 喪失を知る『風』
    国塚 深散aa4139
    機械|17才|女性|回避
  • 風を支える『影』
    九郎aa4139hero001
    英雄|16才|?|シャド
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