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デッキブラシでホッケーしましょ
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最終発言2016/07/28 20:13:03 -
相談卓
最終発言2016/07/29 09:56:13
オープニング
●遊びたがる高校生
「午前中で終わらせるからな。絶対に、遊ぶなよ!」
市営のプールには、デッキブラシを持った高校生がいた。
スポーツ強豪校の喜多野高校――彼らの高校にもプールはあったのだが、現在故障中の為に使えないのである。授業でプールを使わせてもらうためにも、彼らは奉仕活動としてプール掃除をしていた。だが、そこは高校生の集まり。
デッキブラシを持たせた途端に、遊びだしたのである。
石鹸をパックにし、ブラシをスティックしての即席のアイスホッケー大会である。すでに水着だから、濡れる心配もまったくない。
「なっ、なんでHOPEのリンカーがいるんだ!」
高校生の一人がわめいた。
嫌な予感がするな、と高校生のリーダー格である黛少年は思った。
実は喜多野高校三年生は、HOPEのリンカーと浅からぬ因縁がある。ピンクのパンツを披露することになったり、サバイバルゲームをしたりするような因縁である。なお、そのゲームに高校生は全て負けていた。
「リベンジだ!」
負けず嫌いの高校生が、そんな宿敵と出会って逃がすわけがなかった。
「えっ……掃除しようよ」
黛少年の真っ当な意見は、無視された。
●遊びは本気で
リンカーたちも市営のプールに掃除に来ていた。水中戦の訓練をするための奉仕活動である。なにせHOPEの支部には、プールがない。
なのに、何故か高校生と即席アイスホッケールールを考えている。なお、高校生側にアイスホッケーに詳しい人間がいないためにルールは怪我人がでないことを第一に考えられた。転ぶと危ないという理由で、自転車用のヘルメットの着用義務まで出来る始末である。
「えー、決まったルールを発表します」
黛少年は、ノートに書いたルール表を提示する。
「ちゃんとしたアイスホッケーは色々とルールがあるけど、今回は単純なルールで行くぞ。掃除に戻らないといけないし……。制限時間は三十分。長いけど、途中で選手の入れ替えをするからな」
うちのほうで参加者を募っちゃったらいっぱいいたから、と黛少年は呟く。
「それまでジュースの空き缶に、固形石鹸をぶつけた回数を競う。つまり、缶ジュースがゴールってわけだ。缶はそれぞれの陣地の端っこに置いておくけど、この缶ジュースを手に持って移動したりするのは禁止な」
もちろん危険行動も、付け加える。
「さて、泣いてもわめいても十五分だからな」
終わったら掃除をするんだからな、黛少年はそういった。
解説
・高校生と即席アイスホッケーをしてください
※このシナリオでは共鳴はできません。
ルール
・プール全体(プルサイドは含まれない)がリンクであり、中央線より左が高校生チーム。右がリンカーチーム。
・ゲームは中央から始まり、一点が入るたびにそこからやりなおす。なお、最初の石鹸の取り合いをできるのは両チーム一人ずつである。他の選手はゲーム開始三秒以上たたなければ、石鹸に触れることができない。
・ゴールは、缶ジュース。石鹸が当たるたびに一点がチームが入る。
・十五分たったら、選手の一部入れ替えが可能(一度にリンクにいる人数は高校生チーム10人。リンカーチーム最低5人、最高10人)
高校生
オフェンス……五名。バスケ部より、選出。抜群のチームワークで、パス回しに特化した責めをおこなう。リンカーチームが石鹸を持っているときに、パスをカットして自分たちの流れを作ったりする。ない、リンク内をどこでも移動する。動きは比較的素早い。ゲーム終盤はよく転ぶようになる。
ディフェンス……四名。サッカー部より、選出。ゴールを側を守るディフェンス。責めは仲間に任せているので、自陣がある左側から動かない。石鹸が泡立ってくると、素早さが格段に落ちる。
ゴールキーパー……サッカー部より選出。部活でもゴールキーパーであるが、足元が滑るためにあまり上手く守れていない。
審判……黛少年。早くゲームを終わらせて、掃除をしたい。
石鹸……動かせば動かすほどにつるつる滑る。ゲームが進めば進むほどに足場はつるつるになっていき、気をつけても転んでしまうようになる。
リプレイ
●サボりは程々に
水のはっていない市民プールに高校生とリンカーが集まっていた。目的は掃除だったのだが、いつの間にか即席のホッケーをすることになってしまっている。審判役の黛少年は、ため息交じりで参加者に学校指定のヘルメットを配った。怪我への配慮である。
「へー! 喜多野高って運動部の強豪校じゃん!」
ヘルメットに書かれた高校名に、春川 芳紀(aa4330)は感心していた。現在は帰宅部な芳紀であったが、中学時代は運動部であったせいで名前は聞いたことがあった。
『……ほぉ、すごいのか?』
「そーだよ! スポーツ……あー、武に長けたヤツラなんだよ。甲子園とかでも、毎年優勝候補になってる」
丁香花(aa4330hero001)は、それを聞いてにやりと笑う。
芳紀の話を聞いていた紫 征四郎(aa0076)は、ぐっと拳を握りしめていた。
「そうだったんですね。でも、勝負とあらば負けるわけにはいか……」
そんな征四朗の小さな体を担ぎあげたのは、ガルー・A・A(aa0076hero001)であった。
『はいはいはいはい、お前さんは今日はこっちだ。リュカちゃん頼んだ』
「はーい、頼まれたよ」
木霊・C・リュカ(aa0068)は、ここに座りなさいと自分の隣をぽんぽんと叩く。日傘の下のそこは、屋外にも関わらず中々に快適そうな場所だった。座ってみると、涼しい風が気持ち良い。その反対側の隣には、なぜかビデオカメラ。夏の思い出の記録するためなのか、さぼりの証拠映像なのか非常に判断に困る。
「征四郎は、まだ戦えるのです!!」
『ばぁーか! 遊びで傷開いたらどうすんだよ、今日は大人しくしときなさい!』
休養のつもりの奉仕活動に参加したのに、こんな事で再び怪我をしたら目も当てられない。征四朗は、ぶーと膨れつつもリュカの隣で体育座りをした。
「……めんどくさい、帰りたい」
新調した水着を着つつも、ちゃっかり見学組に混ざっていた佐藤 咲雪(aa0040)は呟く。このまま自分も見学者としてカウントしてくれないだろうか、と思いながら。
「高校生男子の水着姿が公然と見れるのよ。参加しない手は無いわ」
むふふふ、とアリス(aa0040hero001)は怪しい笑いを漏らす。
「……水着、石鹸、泡……ひらめいた!」
右を見ても左をみても、若々しい筋肉ばかり。複眼複眼、とアリスは上機嫌である。
ピッピー、と笛の音が響いた。
審判である黛少年のものである。
「はい、じゃあ。こっちに集まってください。参加者を発表するので……。リンカーチームの前半参加者は……キーパー、咲雪さん。オフェンス、オリヴィエさん、ガルーさん、参瑚さん、ルゥルゥさん、芳紀さん。ディフェンスが透真さん、光汰さん、天音さんですね」
後半の参加者も発表します、と黛は続ける。
「キーパー、咲雪さん、オフェンス、ガルーさん、恭也さん、武之さん、芳紀さん、ディフェンス、オリヴィエさん、已勾さん、光汰さん……えっと沙羅さんだけポジションの希望がありませんが?」
『石鹸おいかけますにゃ!』
白雪 沙羅(aa3525hero001)の返答で、黛は沙羅をオフェンスであると判断することにした。
「では、ルールはさっき説明したとおりです。正々堂々、手っ取り早く試合を終了させましょう」
そして掃除を再会させましょう。
●前半戦
「よっしゃー! やるからには勝つぞ、おめーらー」
サーフパンツを着用した桐ケ谷 参瑚(aa1516)は、テンション低く拳を振りあげる。無表情なせいもあって、なんともちぐはぐな光景であった。だが、リンカーチームは「おー」とそろって拳を振りあげる。
「では、試合開始」
ピッ、と笛と同時に高校生チームが石鹸を奪う。そのままリンカーチームの陣地へとパスを回しながら入りこむ。
「さすがは、スポーツ強豪校ね。攻めが早い」
行雲 天音(aa2311)は、パスとパスの間に入りこみ石鹸をパコーンと打った。勢いよく飛んだ石鹸は、そのまま高校生チームの陣地へと飛ぶがゴールすることなくオフェンスに阻まれる。
「さすがに、あの距離はちょっと無理だったようね」
先制点を取りたかったのに、と天音は呟く。
「天音、どんまいだ。石鹸は味方のオフェンスが拾ってくれるから、俺達はパスカットに専念しよう」
猫井 透真(aa3525)が天音をはげましながら、リンカーチームの陣地に向かってくる高校生に向かって呟く。
「ふふふ……。高校生達よ。現実の厳しさというものを教えて……」
今は、本来ならば掃除という仕事の最中のはず。こういうふうにサボるべきではないのである。遊びたい盛りなのは分かるが年長者としてしっかりと指導をおこなわなければ……と考えていた透真の足の間を石鹸が通り抜ける。
「なかなか素早いじゃないか……! 俺も本気を出させてもらう……」
闘志をむき出しにした透真の頭から「掃除をしなければ」という使命感は吹き飛んだ。
「とう!」
透真は、高校生がパスを回そうとした瞬間に二人の選手の間に入った。
そのまま味方にパスを回すが、高校生が間に入りパスカットをしてしまう。
「バスケ部を舐めるなよ!」
高校生が、石鹸を打つ。
勢いよく、石鹸がリンカーチームのゴールへと向かった。
「……あ」
咲雪のブラシも間に合わず、ジュースの缶が倒れた。
ピッ、と黛がホイッスルを鳴らす。
「喜多野高校に一点」
『リーヴィ、俺達が一点を取り返すぞ』
ガルーの真剣な声色に、オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)は頷く。
『お前さんに、秘密兵器を託すぞ』
そう言って、ガルーが差し出したのは水着だった。しかも、学校指定の女子児童用スクール水着略してスク水である。『何故。それを三十代の男性が持っているのか』という疑問に誰もが無言になった。征四朗は、真っ赤になって両手で顔を隠している。もしかしたら、水着は彼女のものなのかもしれない。
『お前さんのすばしっこさとこいつの機動力があれば……』
『すまん、手が(故意に)滑った』
オリヴィエのモップの柄が、ガルーの脳天を襲う。
ギリギリでそれを避けたガルーは『なんだ、旧スク水派かよ」と呟いている。
「危険行為は反則になると思うよ」
プールサイドで応援していた伊邪那美(aa0127hero001)が、オリヴィエに声をかけた。その隣にいた御神 恭也(aa0127)は、何も言わない。だが、同じことをされればおそらく恭也でも手が(故意に)滑るであろう。
「すまない。変態行為を止めるためだった」
後悔はない、とオリヴィエは語った。
『楽しいんだよー! ホッケーって石鹸をビュンビュン飛ばすんだね!』
ザフル・アル・ルゥルゥ(aa3506hero001)は目を輝かせながら、石鹸を追いかけていた。
無邪気な彼女はフリルがついた水着を翻しながら、ルゥルゥは走りまわる。意外なことに、彼女の動きは高校生を翻弄していた。勝つための動きは、ある程度パターンができるものである。バスケ部はパターン化されたパスには、かなり強い。
だが、ルゥルウのとりあえず楽しいからパスする。とりあえず楽しいから走る、という動きは高校生には読みづらかったのである。
かきーん、とルゥルゥは石鹸を飛ばし、ゴールを決めた。
「リンカーチームに一点」
無邪気の勝利である。
「武之もやろうよ! 楽しいよ! 武之も楽しいと思うよ! ね! やろうよ!」
大興奮で、ルゥルゥはプールサイドで体育座りをしていた鵜鬱鷹 武之(aa3506)に手を振った。石鹸が通った道は泡がぶくぶくと泡立っているし、それで転んでしまうのも面白い!
だが、手を振られた武之はまったくやる気がなかった。
「はぁ……高校生もルゥルゥは元気だな」
誰か養ってくれないかな、といつもの通りに武之はやる気がない。
「でも、有望なスポーツマンだったら将来的には養ってもらえるか?」
今すぐが理想だけど、と武之は続ける。
『ほれ。光汰も頑張ってゴールせい』
いつの間にか缶ビールを開けていた華月(aa1016hero001)が、試合は酒のつまみだと言わんばかりに応援という名の野次を送る。
「僕は、ディフェンダーだよ。あと、姉さんはなにか羽織ってよね!」
浅木 光汰(aa1016)は「もう!」と自分の保護者から、視線を背ける。華月に男性陣の視線がいくのは嫌だが、華月はビールを飲んで笑ってばかりである。
「よし……使いたくなかった手だが」
参瑚はそう呟くと、高校生から石鹸を奪い取りガルーにパスをする。
再び、ガルーから石鹸が返ってくる。オリヴィエにパスしようとした参瑚の前に、高校生が現れた。
「――ポロリしてるんだけど、大丈夫か?」
「えっ。うそ、マジ?」
参瑚の言葉に思わず内股になる高校生であったが、参瑚はその隣をすり向けた。
「はははー! 勝てばよかろうなのだぁーー」
内股になった高校生の顔面が赤くなった。
それを見た周囲は、高校生に同情する。
特に男性陣は思った――今のは可哀想だろう、と。
「芳紀、パス」
石鹸を受け取った芳紀は、すぐに反応する高校生たちをかわす為に石鹸を天音にパスする。
「このチャンスを待っていたのよ」
学校指定のワンピース型の水着とセーラー服を纏った彼女は、ぺろりと唇を舐める。相手の陣地にいた光汰を狙って「いっくわよ」と石鹸をかきーんと打った。
「天音さん、ナイスです。後は、僕に任せてください!!」
光汰は、石鹸を敵のゴールに叩きこもうとした。
「悪いが、部活のシュートより温いぞ!!」
キーパーが、光汰のシュートを止めてしまった。
ピー、と笛が鳴る。
「十五分、経過。水分補給もかねて少し、休憩してください。五分後に、後半戦再開」
黛少年の声に、天音は頬を膨らませる。
「惜しいところまでいったのよ」
持ってきた麦茶を、天音は全員に配る。動いて汗をかいたせいなのか、冷えた飲み物が体にしみわたる。
「……高校生たちは、本気のようだな。キーパーの守りも固く、攻めも強気だ」
試合を見ていた恭也が、そんな感想を漏らす。
「今は、一対一なのです! ガルー、もっとちゃんとやってください」
『リーヴィが、秘密兵器を着てくれねぇんだよ』
『それを握り閉めるのだけは、止めろ』
オリヴィエの目には、殺意が浮かんでいた。
「うーん。話を聞いている限りは、こっちの弱点は守備なのかも」
ずっとビデオをまわし続けていたリュカの言葉に、咲雪はぎくりとする。
「……もっと露出度の高い水着にしたら、油断するかも」
『対戦相手の高校生が前屈みになるわよ。リュカ様のとっているビデオが再生不可能な代物になるのよ。私はそのほうが嬉しいけど』
何を期待しているのかは知らないが、アリスはうふふと笑っていた。
『後半はメンバーが多少は変わるし、コートの状態も変わっているはずだよ。切り変えていこう!』
恭也に上着やら貴重品やらを預けられた伊邪那美は、全員にエールを送る。
「服が汚れるのは気にせんが・・・臭いのする藻だらけになるのは勘弁して欲しいな。……伊邪那美、なにをやっているんだ?」
預けたばかり上着のポケットを漁っている伊邪那美に、恭也は声をかける。嫌な予感がしたのだ。
『人質だよ。負けたら、恭也のボク欲しいもの買っちゃうよ』
「待て……財布は」
ピー、と笛が鳴る。
無情にも、試合が始まった。
「巳勾ぁーー俺の分までふぁいと☆」
参瑚はプールサイドでゴロゴロしながら、応援と風景観賞を楽しんでいた。なんの風景を観賞していたかは、数分後に天音のドロップキックが炸裂するので察して頂きたい。
「参瑚、若ェんだからフルラウンドで頑張っとけよ……。ったく、俺っちまで巻き込みやがって」
デッキブラシを担いで、巳勾(aa1516hero001)はリンカーチームのゴールに近くに居座った。
『こっちに攻め込ませねェよーに全力で攻めろよ、オフェンス』
巳勾は、ゴールに飛んできた石鹸をブラシで弾く。
「おっ、こっちに石鹸がくるのかよ」
武乃は自分の方にやってきた石鹸を、とりあえず敵陣地まで運ぶ。面倒だが、周りが試合に勝とうという雰囲気なので逃げられない。
「行かせないぜ!」
高校生が飛び出してきた。
ああ、仲間の誰かが以前にパンツを晒すことになってしまったと言っていた高校生だったか。名前は……思いだせない。思いだせないが、パンツの色だけは思い出せた。
「赤パンくん、今日も赤パンかい?」
「だれが、ぱんつだぁぁぁぁ!!」
高校生が叫びながら、すってーんと転んだ。
思ったより、床は滑りやすくなっているようである。
「うわぁ……思ったより滑るのか」
そんな感想を漏らしながら、武之は仲間にパスを回す。
『にゃー! 石鹸が来たにゃー』
パスをもらった沙羅は、目を輝かせながら信じられない行動をとった。石鹸を手で掴んだのである。黛がホイッスルを鳴らそうとすると「缶は持っちゃダメだけど、石鹸持っちゃダメとは言われてないにゃ!!」と沙羅は自信をもって宣言した。だが、普通は持とうとは考えないであろう。
『……って石鹸が逃げる! 逃げるにゃあああ!!』
ぽーんと手から逃げて行った石鹸を追いかけようとした沙羅は、泡で滑ってすてーんと転んでしまう。
『とっ、止まらないにゃー』
そのまま、彼女は高校生チームのゴールまで滑って行ってしまった。缶は倒れたが、誰も得点に繋がったとは騒がなかった。
「今のは、ノーカンで」
透真の言葉に、反対する者はいなかった。
「はぁ」と黛はため息をつく。
『黛ちゃんも苦労してるよねぇ。で、今回負けたらどうするの? ビキニ着る?』
妙にウキウキしているガルーを、オリヴィエと恭也がそろって連れ戻した。このままでは、ガルーが未成年へのセクハラ行為で通報されてしまいそうだった。
「床が思うより滑るようになったな。パス回し云々よりは、転ばないほうが重要になってくるだろう」
『ガルーと恭也で、パスを繋ぎながら攻撃してくれ。俺は二人の影に隠れて、パスがカットされたら石鹸を取り戻す』
『妙案だぜ。いざという時は、こいつを着て――』
オリヴィエは、ガルーが手に持っていたスク水を放り投げた。
「ぶっ!」
高校生の顔面にスク水が降りかかり、驚いた高校生は石鹸を力任せにかっきーんと打った。
「……あ」
絶対にこない、と油断していた雪咲は石鹸を止められなかった。
「喜多野高校、二点」
プールサイドで応援に回っていた丁香花が『救急箱が、そろそろご入り用かの』と呟く。それぐらいにプール内は泡にまみれていた。石鹸を開発した会社が見たら、CM撮影で使わせて欲しいと打診してくるほどに泡まみれであった。
『うわー、楽しそう! 武之は泡いっぱいでいいな』
羨ましい、とルウルウははしゃぐ。
「こっちは、まったく楽しくないぞ。おー、敵も味方も滑る滑る」
武之は、全て地区高校生達を見ながら「こいつら、俺を養ってくれるほどのスポーツ選手のなれるのか?」と呟いていた。
「やっぱり、足元の状態は悪くなっちゃいましたね。うわぁ!」
光汰も足を滑らせて、転んでしまう。できるだけ何ともないような顔をするものも、ヒヤヒヤしてしまう。
「うーん。チームの中心人物について回るつもりだったけど、ちょっと難しいですよね」
敵も味方も滑っていますし、と光汰は続ける。
「ガルー! オリヴィエ! 負けたら承知しないのです!!」
征四郎の声援を聞いたガルーは、石鹸を受け取った途端にオリヴィエにパスを出した。オリヴィエは石鹸をすぐさまガルーへと戻し、そのまま後ろにぴったりとつく。
ガルーは恭也にパスを回し、そのまま高校生チームの陣地へと向かう。高校生がガルーたちの攻めを止めようと割りこんでくるが、そこにオリヴィエが現れた。彼は高校生から石鹸を奪うと、再びガルーへと渡した。
『頼むぜ!』
ガルーは恭也にパスを回し、恭也はカーンと勢いよく石鹸を打った。石鹸はプールの壁にぶつかって、思いもよらない方向から高校生チームのゴールに突っこむ。
「リンカーチームに二点」
『お、同点だ』
巳勾は楽しげに、ゴール地点に戻される空き缶を眺めていた。
『残り時間は、あと五分だよ!』
リュカの声に、双方のチームの目がぎらりと燃える。
現在、二対二。
この五分の間に、一点を入れたチームが勝つのだ。
『最初の取ったぞ』
オリヴィエが、スタート時での石鹸の取り合いに勝利する。
その石鹸は、沙羅に渡された。
『にゃー。持たないで、打つにゃ!!』
カッキーン、と力任せ沙羅は石鹸を打ちこむ。
先ほど壁に当たってゴールしたこともあり、高校生達は石鹸の行き先に注目した。
「また、俺か」
石鹸が手元にきた武乃は、やる気なさそうに沙羅の方を見た。
「養ってくれるっていうなら本気出すよ」
『にゃ?』
ダメだ、養ってくれそうにない。
武之は、素早くそれだけは判断した。
彼は石鹸をオリヴィエにパスし、オリヴィエは恭也に石鹸をパスする。
恭也は時計をちらりと確認するも、もう時間があまりなかった。一か八か、恭也は力任せに石鹸を高校生チームのゴールへと叩きこもうとした。だが、それは高校生チームのキーパーに阻まれた。
「オレが、近くにいたんだよ!」
芳紀が、キーパーに弾かれた石鹸をブラシで叩いた。
カーン、と石鹸が空き缶を叩く音が響いた。
「試合終了。両者そこまで。喜多野高校二点。リンカーチーム三点。よって、リンカーチームの勝利!」
黛少年の声に、応援席に座っていた面々はわきたった。
ゲームに参加した者たちは、喜びのあまりプールに飛び込む。
「やったわね」
と、天音は頭にタンコブを作った参瑚の背中を叩いた。
『楽しかったね。 ルゥルゥはもう一回石鹸を追いかけたい!!』
「沙羅、石鹸は手に持つな……」
全員が勝利の喜びを噛みしめているなかで、巳勾だけはどこからかホースを持ってきていた。彼はそれを蛇口に繋ぐと、ホールから勢いよく水を出した。
「どうせお前ェらも石鹸まみれだろ。まとめて洗われちまえ」
プールは綺麗になったが、勝負に参加した全員が水浸しになったという。
●掃除の後のお楽しみ
「プールサイドで食べるスイカは格別だね」
日傘の下で、リュカは切られたスイカを楽しんでいた。
それぞれが持ってきたり買ってきたりした差し入れは、集めると結構な量があったので全員で分け合うことにしたのである。
「見ているだけではつまらなかったけど……いっぱい応援できて楽しかったかもしれないです」
ジュースを飲みながら、征四朗は微笑んでいた。いつもとは違う立ち位置でいたことに、彼女は何かを感じたのであろう。
「姉さん、缶ビールいくつめなの?」
華月が呑んだと思われるビールの山を見て、光汰はため息をついていた。彼女は思いのほか、スポーツ観戦を楽しんだらしい。
「参瑚、てめェ途中試合見てなかったろ……。ったく色ボケガキめ」
参瑚の頭には、大きなタンコブが出来ていた。
大方、女性の水着を見ていたのがバレたのだろう。
『とーまのスコーン美味しいにゃ!』
「いけるいける」
大量に作ったはずのスコーンは沙羅と高校生たちの空の胃袋のなかに、どんどんと飲み込まれていく。紅茶も持ってきたほうが良かったかな、と透真はちらりと思ったが差し入れのジュースは大量にあったので水分に困るということはなさそうである。
「やっぱり、スイカは旨いよな。あ、それと連絡先くれよ! オレのもやっからさ。オレ帰宅部だから対戦はできねーけど、試合の応援はできっから!」
同じ男子高校生として馬が会うのか、芳紀は喜多野高校の生徒と連絡先を交換していた。違う学校の奴らと騒ぐのも楽しいなーと束の間の交流を楽しんでいた芳紀であったが、ふと重要なことを思い出した。
「あれ、包丁を持ってきてたけかな?」
「伊邪那美……俺の財布がかなり軽くなっているが、買ったのはジュースだけなんだろうな」
恭也は、伊邪那美から受け取った財布の中身を確認していた。買ったのはジュースだけだと思っていたが、それにしては財布の残金が妙に少ない。
『健闘賞のスイカを頂くための、小さな犠牲だよ』
しゃり、と伊邪那美はスイカを齧った。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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