本部

我が身、ただ仇が為に

弐号

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
9人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/08/04 19:40

掲示板

オープニング

●敵影
「ヴィラン達の集まりが潰されてる?」
「そーみたい。ここ一週間で三つだってさ」
 H.O.P.E.社内で流通する情報共有の為のメールに目を通しながらリリイ レイドール(az0048hero001)が奥山 俊夫 (az0048)に話しかける。
「正義の味方のつもりなのかねぇ?」
「潰されてるというのはどういう状態なんだ。死人が出てるのか?」
「うん、被害はまちまちだけど、死人もいるって」
「生存者の証言は?」
「……俊夫さぁ。気になるなら自分で調べなよ……」
 文句を言いつつもパソコンを操作し、H.O.P.E.のデータにアクセスして情報を取得する。
「うーん、いつもの溜まり場にいるところを、電気を消し視界を奪ってから襲撃。気付いた時には全滅状態……」
「姿すら掴めない、か。手際が良すぎるな」
 ヴィランはリンカーだ。戦闘能力もそれなりにある。常に共鳴しているわけでもないだろうが、それにしても瞬殺過ぎる話だ。
「あ、待って。一つだけ情報がある。あ、これって……」
「ん? どうした?」
「黒ずくめの忍者のような影……まさか……」
 心当たりのある目撃談に思わずリリイは言葉を失った。

●二つの影
「頭領、傷の具合は如何でありましょう」
「二乃影……」
 人の寝静まった深夜。町を見下ろす高層マンションの屋上に二つの影が立つ。少し余裕のある黒い装束で全身を覆い、顔も覆面で目元以外はほとんどを隠している。一目見れば誰でもこう呼ぶだろう。忍者、と。
「傷はほぼ癒えた。力の蓄えも上々だ。おかげでな」
「勿体なきお言葉」
 二乃影と呼ばれた忍者が頭を下げ、自身の刀を抜き頭領に向け掲げる。
「先日集めた霊力で御座います」
「うむ」
 二乃影から頭領へ相当量のライヴスが移り込んでいく。
「そちらの様子はどうだ」
「やはり悪党相手では動きが鈍くなるという頭領の読みに間違いは御座いませんでした。今暫く動けるものと踏んでおります」
「そうか。では、引き続き頼む」
「御意」
 その言葉だけを残して影が消える。屋上にはただ一人直立する忍者の姿が残された。
「――我が身、ただ仇が為に」

●作戦概要
「えー、というわけで、ローラー作戦です」
 リリイが大型ディスプレイに地図を表示してエージェント達に説明を始める。
「とにかく、虱潰しにヴィランの集まりを張ります。皆さんに担当してもらうのはこちら、『Hedgehog』です」
 ディスプレイから地図が消え、数人の顔写真と名前が表示される。
「まあ、大層な名前がついてますけど、対して大きいグループじゃないです。確認されてるリンカーの数は4、5名程度。皆さんであれば制圧は簡単でしょう。ですが……」
 コンコンとディスプレイを叩く。すると『Hedgehog』の写真の上に一枚のビルの写真が表示される。
「今回の目的はヴィランを襲撃していると思われる愚神の撃破です。特徴から先日ビジネスビルに出現した愚神の生き残りと思われますが確証はまだありません。ですから、この愚神が現れるまではこのヴィラン達を捕らえてはなりません。このグループのたまり場はちょっと広めのゲームセンター。皆さんには連日ここを見張り、愚神が出てきた場合これに対処してください。質問があればどうぞ」
 説明を終え、ディスプレイを切るリリイ。

 『Hedgehog』が愚神に襲われる十時間前の事である。

解説

●敵
・デクリオ級愚神『二乃影』
 忍者の姿をした愚神。素早い動きと正確無比な苦無投げを得意としている。ドロップゾーン内部でない為、以前のような瞬間移動能力は無いと思われるが、二乃影自身は集めたライヴスによって強化されている可能性が高い。
 テレポートショット相当の攻撃、足を止めての連続苦無投げなどが、前回戦闘時の主な脅威として記録されている。ただ、以前は使わなかった、あるいはそれから習得した攻撃手段を持っている可能性もある。
 忍者だけあって気配察知と隠密能力にはかなり優れている。
※PL情報
 ヴィランを襲撃し、ライヴスを奪い持ち帰るのが目的。H.O.P.E.には敵意を抱いているが性格は至って冷静なので、エージェント達を見てどういう行動をとるかは未知数。
 形勢が悪いと判断すると撤退を検討するが、追跡をされる可能性があるならその場での討ち死にを選択する。頭領の元へ敵を連れて帰らないのが最優先事項。

・ヴィランチーム『Hedgehog』
 小規模ヴィランチーム。所属するリンカーは5名。総員は10名前後。
 ドレッドノートが多いようだが、細かい内訳は判明していない。
 当然だがH.O.P.E.とは敵対しており、またリーダーであるリンカーはそこそこ疑い深い性格である。
 連日のヴィラン襲撃は聞いているので多少警戒はしているようだ。

●状況・作戦
 ヴィラン達の溜まり場のゲームセンターを見張れる場所で待機し、任意のタイミングで突入する。
 ゲームセンター内はそこそこ広い1フロアだが、大小様々な筐体がひしめいており、視界と足場はあまり良くない。
 周辺はビジネス街で夜に人はまずいない。
※PL情報
 二乃影の襲撃は午前1時。まず、忍術で一帯の電気関係の一切をショートさせる。そして、窓から突入。状況を確認し、一体ずつ処理。全滅させたら撤退を開始する。細かい生死の確認はしないようだ。
 突入のタイミングは一任します。

リプレイ

●思い思いの正義
「今何時? ……もう一時近いじゃない。眠いわけね、ふあぁ……」
 稲穂(aa0213hero001)が時計を覗き込み、あくびをかみ殺す。
「連日で見張り……出てくるまでずっとなのかしら?」
「拙者はそれでも構わぬが……」
 彼女よりは夜更かしに慣れているのかケロッとした様子で小鉄(aa0213)が言う。
「しかし、まあこうしてただ見張っているというのも確かに退屈でござるな」
「ふっ、鍛錬が甘いですわよ!」
 小鉄の何気ない呟きに何故か張り合うようにクラリス・チェンバース(aa4212)がビシィっと指さす。
「私は仮に一晩中だったとしても正座で待ち構えて見せますわ!」
 言って素早く妙に美しい所作の正座の姿勢でちょこんと座る。
「ほほう、これは見事な……」
 妙に感心した様子で感嘆の声を漏らす小鉄。
「では、拙者も……」
「やめなさい、いざという時にしびれて動けないとかなったら怒るわよ」
 呆れ顔で稲穂が小鉄の襟首を掴み止める。その光景の横で新座 ミサト(aa3710)が静かに溜息を吐いた。
「……どうしたのじゃ、ミサトちゃん。先程からなにやら不機嫌そうじゃな」
 その様子を見て嵐山(aa3710hero001)が声をかける。
「……今回の作戦、老師はいかが思われますか」
「ふむ?」
「ヴィランとはいえ、愚神を誘き出す為のエサとするH.O.P.E.のやり方は如何なものでしょう」
「ほっほっほっ。ミサトちゃんは真面目じゃのう」
 真剣な面持ちのミサトを茶化す様に嵐山が笑う。
「愚神の狙いも不思議だよね。犯罪を犯したモノなら、って感じかな?」
「さあな、ただ、犯罪者であれ犠牲にしてしまうかもしれない。今回のような囮捜査も、本来許されるべきではないだろう、な」
 木霊・C・リュカ(aa0068)の呟きにオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)が返す。
『一応、言い訳はしておくが……』
 それに反応して通信機越しに奥山俊夫の声が届く。
『ヴィラン達の保護の意味もある。ヴィラン達を捕まえても我々が拠点を把握していないヴィランズの元へ行くだけだ。今のうちに叩かねばならん。……苦肉の策だがな』
 若干苦々し気なニュアンスを含める奥山。あまり褒められた作戦でないという自覚はあるのかもしれない。
「まあ、ヴィランと愚神なら明らかに愚神の方が強いだろうしねー。放っておくわけにもいかないか」
「とりあえず、愚神の思い通りにはさせたくねーしな」
 餅 望月(aa0843)の言葉に旧 式(aa0545)が返す。そこへさらにドナ・ドナ(aa0545hero001)が後ろから快活な笑い声をあげて乗っかる。
「ま、アタシらだってチンピラみてえなもんだしよ。チャンスぐらいやってやろうぜ」
「ち、気に入らないな」
 離れたところで座り込んでいたChris McLain(aa3881)が苛立たし気に口にしながら立ち上がる。
「愚神がヴィランを攻撃して回ってるというのなら放置すればいい。わざわざゴミを掃除してくれるって言うんだからな」
「ク、クリスさん!」
 その物言いを英雄のシャロ(aa3881hero001)が咎める。
「でも……無差別なんですよね? ヴィラン襲撃は」
 クリスの言葉に目を伏せて、紫 征四郎(aa0076)が呟く。
「うーん、前の事件じゃルール違反する人を攻撃してたからそういう気質の愚神なのかも」
「まぁ、ヴィランなんてやってる以上、覚悟はしてると思うけどぉ。命なんていつ誰から狙われてもおかしくないだろ、能力犯罪者なんてよ」
 稲穂の言葉に煙草を燻らしながらガルー・A・A(aa0076hero001)が言う。
「クリスさんの気持ちもわからないではないですけど、むざむざ狩られるわけにもいきませんしね」
 九字原 昂(aa0919)が苦笑いを浮かべる。
「まあ、良い機会ですし纏めて捕らえてしまいましょうか」
「ふふふ、それが天使の思し召しね」
「何か凄い黒幕感のある台詞ね」
 昂の台詞に乗っかって不穏な事を言う百薬(aa0843hero001)にすかさず望月が突っ込みを入れる。
「しかし、エラく大雑把な仕事をするもんだな」
 意外なことに一人真面目に資料に目を落としながら五々六(aa1568hero001)がボソリと呟いた。なお、彼の相方であるところの獅子ヶ谷 七海(aa1568)は傍らですでに寝息を立てている。
「大雑把とは?」
「俺が愚神なら確実に息の根を止めるね。目撃者なんて出さねぇ。もし、前の愚神連中だとしたら違和感がある。そんなヌルイ奴らじゃなかったぜ」
「なるほど、言われてみれば確かに」
 五々六の言葉に小鉄がしたり顔で頷く。
「他の場所も見張ってんだろ、どうなんだそっちは?」
『んー、今のところ反応無しだね』
 通信機から今度はリリイ レイドールの声が聞こえる。
『まー全部は当たれないし、大体都内ってだけしか情報がないから漏れはあるからねぇ。こうして当たってるのもほとんど勘ですし』
「おいおい大丈夫かよ……」
 リリイの物言いに式が思わず不安な顔を浮かべる。
「ま、勘ってのも案外馬鹿には――」
 五々六の言葉の途中でバシュっという破裂音が一体に走る。
「!?」
 そして、それと同時に訪れる暗闇。今まで辺りを照らしていた街灯が一斉にその光を失っていた。
「これは……電気?」
 昂が肌にピリっとした微かな刺激を感じ取り呟く。この感じからするとこちらを直接狙ったものではない。恐らく何らかの攻撃の余波である。つまり――
「ふむ、確かに馬鹿には出来んでござるな、勘というのも」
 木下三太郎重繁(aa4212hero001)がそう言いながらヴィラン達の詰めるゲームセンターを見やる。
 闇夜の中、真っ暗闇になったゲームセンターからガラスの割れる音が響いた。

●天使の子守歌
「ビンゴのようじゃの」
「老師、急ぎましょう」
 すぐさま反応し次々と共鳴していくエージェント達。五々六も寝ていた七海の幻想蝶をむんずと掴み半ば強制的に共鳴する。
「クリスさん……」
「分かってる。俺もガキじゃない。仕事はする」
 心配そうに話しかけるシャロに対してそう返してクリスも共鳴する。
(ただし、仕事の範囲内では好きにさせてもらうがな)
 仲間たちに続き、愛用の銃を構えてゲームセンターの方へと突撃していく。
「固まって動いてください! 行きます!」
 移動しがてら征四郎が全員にライトアイとフットガードを掛けていく。
「ありがとうございます。では僕達は入口から」
「拙者達は窓から行くでござる!」
 昂と小鉄が先頭となって二手に分かれてゲームセンターに迫る。大きく分けてヴィラン対応班と愚神対応班である。
「とう!」
 一足飛びに壁を飛び越え、窓を突き破り店内に侵入する小鉄。他のエージェント達もそれに続いていく。
「今度は何だ!」
 聞き覚えのない男の声が響く。恐らく『hedgehog』のメンバーだろう。
 中の状況を把握せんと視界を巡らせる。
 機械のせいで視界は万全ではないが、少なくとも十人弱の人影が見て取れる。
 そして、それらとは若干離れた場所に佇む黒い影が一つ。
「よもやと思ったがやはりお主らでござるか……!」
 忍び衣装に身を包み、苦無を構えるその姿には見覚えがあった。間違いなく前回取り逃がした愚神、五影の内の一人である。
「H.O.P.E.か。思ったよりは対応が早いな」
 エージェント達を認めた愚神だったが、その動きに一切の動揺はない。
 手に持っていた苦無を次々と放っていく。その狙いはエージェント達だけではない。ヴィラン達にも同時に正確極まりない投擲で苦無を放り投げていく。
「――いかん!」
 この苦無を防ぐことは左程難しくない。いかに早く正確と言えど所詮一本の苦無である。それなりの経験と技術があれば防御は可能だろう。
 しかし、一般人なら話は別だ。彼らの身体能力では苦無の軌跡を目で捕らえる事すら困難だろう。そして、彼らはリンカーと違い苦無に当たればほぼ間違いなく死が訪れる。
「ったく、世話の焼ける……」
「お逃げなさい!」
 近場の苦無をクラリスと式が何とが弾くが、店内全域のフォローは不可能だ。
 一種の覚悟をエージェント達が抱いたところで、意外な事が起こった。
 愚神の苦無を一般人の男が身を屈め、躱して見せたのだ。
(いや、違う――)
「間に合いましたね……!」
 両手を広げた望月が告げる。彼女のセーフティガスにより一帯の一般人達が次々とその場に眠っていく。
 先ほどの光景は避けたのではなく男が崩れ落ちた事でたまたま苦無から逃れたのだ。
 床に寝転がってしまえばゲーム筐体が邪魔で戦闘の最中、正確に狙いを付けるのは困難だろう。
「少し眠っていて下さいね。少なくとも立ち尽くしているよりは安全なはずですから」
 ニコリと笑い一つウインクをしてみせる望月。背中の天使の羽がばさりと羽ばたいた。

●鉄の雨
「おら、お前ら愚神の襲撃だ! 噂は聞いてんだろ! 全員集まれ!」
「愚神の狙いはあなた達です! ここで見誤れば大怪我ではすみませんよ!」
 式と征四郎がそれぞれヴィランズに呼び掛ける。式とクラリスが仲間を庇ったのを見ていたヴィラン達は比較的素直にそれに従おうと動き出す。
「逃げようとするものから討つ! 逃げ切れる自信があるのならば逃げよ!」
 そこへ愚神の怒号が飛んだ。
 言いながら近場にいるエージェント達に連続で苦無を投げて足止めを図る。
 ほんの一瞬の間に5、6本の苦無が宙を飛びエージェント達に迫る。
 苛烈な攻撃だったが何とか捌き致命傷は避ける。
「うぜー奴だな……」
 式が思わず顔を引きつらせる。
 その言葉と苛烈な攻撃はヴィランの脚を一瞬止めさせてしまった。
『敵の獲物は苦無じゃな。何とか間合いまで接近したいところじゃの』
「ならば今のうちに……」
 愚神の攻撃の間隙を付き、ミサトが筐体に身を隠し愚神への距離を詰めようと床を這うように進む。
「考えが甘いぞ、H.O.P.E.」
 愚神は短くそう言って苦無の一本をミサトの隠れた筐体の方へと投擲する。
 その苦無は空中で掻き消え、次の瞬間ミサトの目前に現れる。
「――!」
『いかん!』
 咄嗟に避けようとするが間に合わない。身を隠していたため愚神の予備動作が見えない分、回避行動が遅れるのは必然だった。
 苦無がミサトの胸元に深々と突き刺さる。
「ぐっ!」
「ならば、小細工無用!」
「忍者に後れを取るわけにはまいりませんわ!」
 半端な対策は却って逆効果と踏んだ小鉄とクラリスが一直線に愚神の元へ駆ける。
「無謀な」
 愚神の放つ苦無が雨あられのように二人に降り注ぐ。
「足を止めては拙い! 突っ切るでござるよ、チェンバース殿!」
「防御は不得手……などと申してる場合ではございませんわね」
 小鉄の無茶振りにクラリスが冷汗を流しながら笑う。
 二人は急所だけをガードし、苦無の雨の中に自ら突っ込んだ。
 何とか急所だけは守り、二人はそのまま直進した。
「今です! 早く逃げなさい!」
 愚神の放った苦無の流れ弾を他の者たちに届かぬよう弾き飛ばしながら征四郎が叫ぶ。それに式も続いた。
「テメエらみたいなんでも守ってやる。だから早くしろ!」
 その声で呪縛が解けたかのように出口へ駆け出すヴィラン達。
「ち」
 ちらりとそちらの方を愚神が見るが流石にそれに手を出せるような状況ではない。
「お主の距離にはさせぬでござる」
「前回のようにはいきませんわ!」
 少しタイミングと角度を変えて小鉄とクラリスが愚神に迫る。
「奇遇だな」
「――!」
 落ち着いた口調で愚神が印を組む。それを見てクラリスは咄嗟に体内でライヴスを練り上げる。
「私も以前と同じではない」
「リンクバリア!」
 愚神の体がから全方位に電撃が走るのとクラリスが結界を張るのはほぼ同時であった。
「うぬっ!」
「くぅ!」
「ぬぅ!」
 目まぐるしい状況の変化に三人が三人とも驚愕の声を上げる。
「お見事。だが一歩遠い」
 愚神が小太刀を腰から抜き放つ。一方小鉄とクラリスの二人は電撃の影響か体の反応が一瞬遅れている。リンクバリアによって直撃は避けたが、その余波の痺れまでは防げなかった。
『二人とも、目を瞑れ』
 攻撃を受ける事を覚悟した二人の耳にオリヴィエの声が届く。躊躇いなく二人は目を閉じた。
「――なに」
 同時に二人と愚神を圧倒的な光量が包み込んだ。

●手加減無用のヴィランズ裁き
「くそっ、何だってんだ……!」
 命からがらといった様子で屋外へ逃げ出すヴィラン達。今まで根城にしていたゲームセンターを振り返り顔を歪ませる。
「どうするよ」
「どうするもこうするもねぇだろ。流石に愚神とは戦えねぇ。ここにいてもH.O.P.E.の連中に捕まるだけだ」
 とりあえずの方針をこそこそと相談して決める。
「じゃあ、逃げるか」
「大体タイミングが良すぎる。H.O.P.E.が愚神をけしかけたんじゃないなら、奴らは俺達を囮にしてたって事だ。義理を感じる道理はねぇよ」
 大分身勝手な理論を口にしながらそろそろと付近を警戒しながら歩き始める。
「ふん、さすがのクズどもだな。反吐が出る」
 と、その横合いからヴィラン達に声が掛かる。
「っ! てめぇ、エージェントか!」
「どうだかな。H.O.P.E.のエージェントである事よりも俺には優先すべき事がある」
 チャキと撃鉄の音が鳴る。
「それはてめぇらヴィランをぶっ潰す事だ。来い、針鼠野郎!」
「ちっ、やってやらぁ!」
 クリスの怒りに反応してヴィランの一人が銃を構える。
「おせぇ!」
 しかし、それはクリスの早撃ちによって阻まれる。
「うぐぉ!」
「はい、ちょっと痛い目見てもらいますよ」
 肩口に弾丸を受けよろめいて下がった所を望月の槍に頭をぶん殴られてその場に倒れ伏す。手加減など皆無な無慈悲な一撃。
「てめぇ!」
「安心してください。リンカーは余程のことが無い限り一撃では死にませんから」
「くそがっ!」
 にこやかに告げる望月に二人が武器を構え殴り掛かる。
「恩を仇で返すのは感心しないな」
 その二人を上から降ってきたライヴスの網が拘束する。
「な、なんだこりゃ!」
「お二人様御就寝です」
「おやすみ」
 上から降ってきた昂と待ち構えていた望月がそれぞれ一人ずつ、拘束されたヴィラン達の首筋を打ちすえ昏倒させる。
「う、うああああ!」
 両手に大剣を作り出し最後の一人がクリスに向かって突撃する。後ろの近接二人よりは銃を扱うクリス一人の方が与し易いと踏んでの行動だろう。だが――
「ったく、馬鹿野郎がよ」
 甲高い金属音と共にその刃は阻まれる。クリスの前にはシルバーシールドを構えた式が立ちふさがっていた。
「そのクソッタレた手でいったい何人の人間を不幸にしたんだ?」
 式の肩に腕を乗せほぼ零距離で照準をヴィランの額に合わせるクリス。
「せいぜいブタ箱で罪を贖うんだな、クソ野郎!」
 銃声と共にヴィランが後ろにつんのめって倒れる。
「一応、生きてっか?」
 式が倒れたヴィランの顔を覗き込み確かめる。
「愚神の餌になったり、強者に利用されたり……そんな事の為に生きたくはねぇだろ? 芯を持てよ」
 聞こえているかどうかはあいまいだったが一応声を掛けて、式は未だ愚神の残るゲームセンターへと意識を切り替えた。

●疑惑
「おい、リリイ。他の所の状況はどうだ」
 ゲームセンターの壁に背中を張り付けながら五々六がリリイに話しかける。彼はあえて店内には入っていない。状況の不自然さから何らかの罠の可能性を考慮したのだ。全員で突入して一網打尽となっては手の打ちようがない。
(しかし、どうやらその線はなさそうだが……)
『動きなし。愚神が現れてるのは今のところそこだけだね』
 返ってきたリリイの返答に眉を顰める。
(ということは完璧一人か。ありゃあ、多分頭領の方じゃねぇな。二乃影つったか? あいつだな)
 なぜ一人で動くのか。なぜ標的を殺し切らないのか。なぜヴィランを狙うのか。不自然な状況が多い。
(そもそももう十数人分の被害は出てんだよな? その割にはあいつの強さはそこまで劇的には変化してねぇ。ライヴスの量的にはそろそろケントゥリオ級相当のはず……)
 そのライヴスはどこへ行ったのか。その答えはすぐ浮かぶ。ここにいない頭領の愚神だ。
(つまり、頭領の傷の回復と強化の為の襲撃か。手早く集めたいが大事にはしたくねぇ。だからヴィラン相手で半端な被害だったわけだ。あいつ自身は決死。死ぬのも考慮の内ってところか)
 ならばと考える。こんな時、相手にとって最も嫌な状況は何か。それを考える。
 虚言、偽報に騙し討ちは戦場の華。剣を合わせるだけが戦いではない。戦いはもっと汚く醜い。五々六はそれを知っていた。

●秘技・心眼鏡
「くっ、目晦ましか……!」
 オリヴィエのフラッシュバンにより目を焼かれた愚神が、攻撃は悪手と悟り距離を取ろうと後ろに跳躍する。
「逃がしません!」
 着地点を狙い征四郎が突っ込む。
「む!」
 これは咄嗟に片手に持った小太刀で受け止め、そして征四郎の腹部に蹴りを叩きこむ。
「かはっ!」
 そのまま小太刀を持つ手と逆の手に複数の苦無を構える。
「させないっ!」
 しかし、それを放つより先にミサトの虹蛇が愚神の脚を叩きそのバランスを崩す。
「邪魔だ」
 持っていた苦無の標的を変えミサトに放つ。
「くっ!」
 何とか防御するが全ては防ぎきれずその場に膝を付く。
「今ですわ!」
 その隙に動きを取り戻した小鉄とクラリスが、距離を詰めんと駆けた。
「おっと」
 後ろに下がろうとしていた愚神の足元に牽制のようにオリヴィエの放った弾丸が突き刺さり、その動きを阻害する。
「まさか今更逃げようなんて言わないよね?」
 リュカの声が愚神に耳に届く。
「勝機!」
 小鉄が刀を一時鞘へと仕舞い居合の形をとる。
「近付けば何とかなると思っているのだろうが……」
 愚神が迎撃せんと小太刀を構える。
「甘い考えだ。……雷切丸」
 愚神の呟きと共に小太刀が光り輝き、その刀身を包み込むように雷の刃が伸びる。その長さは元の刀身のおおよそ倍。
(切り札か……!)
 明らかに尋常ではない雰囲気。このまま突っ切るべきか否か、一瞬逡巡が生まれる。
「コテツ! ここはわたくしが受け持ちますわ!」
 クラリスが叫んで小鉄よりも一歩前に出る。
「参の太刀、穿!」
 クラリスがクイックモーションで愚神に突きを放つ。
 しかし、紙一重。愚神の衣服を浅く裂き、その刀身はすり抜けた。
「――っ!」
 もとより決死。当たればよし、躱されたなら攻撃を引き着けるのが真の目的だ。クラリスは来るであろう衝撃に備え歯を食いしばった。
「ならん!」
 鞘から迸った小鉄の電光石火の一刀が、愚神の振るおうとしていた小太刀を狙う。
「ふん」
 刀と刀が激突し、激しい音と衝撃で互いに後ろに吹き飛ぶ。
 互いに大したダメージではなく何事も無く着地するが、問題は距離が再び離れた事だ。
「潮時か……」
 そう呟き、愚神が背後のガラスを突き破り、屋外へと飛び退く。
「逃げる気ですか!」
 征四郎が追おうとするもその足元に牽制の苦無が突き刺さる。
「くっ!」
「さらばだ」
 愚神がそう言い残して闇夜に消えようとしたとき、床に転がったスマートホンから五々六の怒鳴り声が響いた。
「おい、聞こえるか! プリセンサーの報告通り、頭領と呼称されていた愚神を発見、交戦中だ! こっちに援護に来てくれ!」
 ピク、と愚神の顔が歪む。分かり切ったプラフだ。この短時間で場所が分かるはずがない。そう確信はしているものの心の内に一瞬生まれる疑惑。
「ここはお兄さんが足止めするから皆は早く退いて!」
 五々六の策にいち早く乗ったのはリュカであった。本来後衛であるはずの彼は今の五々六の言葉を聞きあえて最前線へ走る。
『征四郎、ちょい代われ』
『え?』
 そして、それとほぼ同時にガルーと征四郎が主導権を入れ替わった。
「わかりました、リュカ! ここは任せます!」
 そして征四郎の口調のままガルーが一芝居打って後ろに下がる。
「俺も甘い……」
 その一連の芝居に愚神が迷ったのは時間にしてほんの数秒。彼も決して完全に騙されたわけではない。ただ事の真偽を判断するのに数秒の時間を有したというだけ。
 しかし、戦場における数秒のロスはおおよそ致命的なロスである。
「塞がれたか……」
「バレましたか」
 愚神の後方に潜伏スキルで身を隠していた昂が姿を現す。もしも気付かないようならこのまま頭領のところまで案内してもらおうという腹だったのだが、さすがにそこまでは許されなかったらしい。
「バレた以上逃がしません」
「押し通る!」
 この場に間に合ったのは速度と反射に優れる昂だけだ。今この瞬間、彼は一対一での足止めを余儀なくされた。
「ふっ!」
 愚神が昂に向かって駆けこみながら苦無を二本正中線に向かって放つ。
「――っ」
 愚神の動きからその軌道を見切り最小限の動きでそれらを避ける。お返しとばかりに縫止用のライヴス針を投げるが、これはあっさり避けられる。
 牽制の一投を互いに躱し、白兵戦の射程内に入る。
「……」
 無言のまま孤月を構える。デクリオ級上位愚神と真正面から一対一。一瞬たりとも油断のできる状況ではない。
 愚神の持つ小太刀には先ほどと同じように雷が纏わりついていた。
(――来る!)
 愚神の動き出しの微かな動きを感じ取り迎撃態勢を取る。だが――
(速い……っ!)
 動き出しまでの瞬間は捕らえられたがそこから愚神の動きがさらに加速する。動く暇もなく雷の刃が昂の体をすり抜けて通る。
「ぐ……ぁ!」
 全身に激痛が走り、膝から崩れ落ちる。体に力が入らない。
「九字原殿!」
 俊足の小鉄が昂を切り伏せた愚神の背後に何とか追いつきその刀の射程に捕らえる。
「……致し方なし」
 背後から狙われるよりはと愚神が振り返り小鉄と向き合う。その小太刀からは雷の刃は消えていた。
(連発は効かぬでござるか。つまり、ここが勝機!)
 再び居合からの神速の抜刀で斬りかかる。
 脳内のアドレナリンがわずか刹那の出来事をあたかもスローモーションのように知覚させる。
 十全。一つも陰りのない完璧な一刀。しかし、それは紙一重で愚神の胸元の薄皮一枚を裂くに留まった。
 後ろに退いた。ならば次の一手は決まり切っている。
 いや、あるいは退かずともそうだったかもしれない。絶体絶命の危機にある時、人は自身が絶対の信を置く動きを選択する。
 すなわち苦無投げ。
 ライトアイは既に切れた。暗い星明りの中、愚神の動きだけをじっと見つめる。
 苦無に指を掛ける。取り出す。腕を振る。指を離す。
 その指先に至るまで動きの全てに神経を張り巡らせる。
 闇夜に飛来する漆黒の苦無は見えない。しかし、小鉄は確信する。
(見切った!)
 そして彼はその軌道を避けると同時に――いや、それより前から、避ける動作を終えるよりも先に愚神の動きをトレースするが如く苦無を投げ放っていた。
「――!」
 愚神の急所に吸い込まれるように苦無が突き刺さる。
「馬鹿なっ……!」
 得意とする苦無投げの応酬で上回れられ、愚神が驚愕の声をあげる。
 信じられないという顔で自分の喉元の苦無を見やる。
「邪魔するぜ」
 そこへ薄汚く血に汚れた大剣を担いだ五々六が突貫する。
「前も言ったっけな。意外と足は速くてよ」
 足の止まった愚神にライヴスを込めた一撃を叩き込む。
 愚神は何とか防御態勢を取るが、御しきれずバランスを崩し地に背を預け転倒した。
「いいとこどりで悪ぃが、決着だ」
 続く断頭の一撃が愚神の生命を絶つ一刀となった。

●我が名は
 夜の摩天楼の屋上に立つ影が一つ。
 強風吹き荒ぶ中、服以外微動だにしないその影は何かを聞き逃さぬよう集中するが如く目を閉じ、静かに佇んでいた。
「……二乃影。大義であった」
 ぽつりと呟く。
 そして、ゆっくりと目を開き、虚空を睨む。
「我が名は五影一身。『希望』に刃突き立てる者也」

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 忍ばないNINJA
    小鉄aa0213

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 忍ばないNINJA
    小鉄aa0213
    機械|24才|男性|回避
  • サポートお姉さん
    稲穂aa0213hero001
    英雄|14才|女性|ドレ
  • 堕落せし者
    旧 式aa0545
    人間|24才|男性|防御
  • エージェント
    ドナ・ドナaa0545hero001
    英雄|22才|女性|ブレ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避



  • エージェント
    獅子ヶ谷 七海aa1568
    人間|9才|女性|防御
  • エージェント
    五々六aa1568hero001
    英雄|42才|男性|ドレ
  • ローズクロス・クイーン
    新座 ミサトaa3710
    人間|24才|女性|攻撃
  • 老練のオシリスキー
    嵐山aa3710hero001
    英雄|79才|男性|ドレ
  • 指導教官
    Chris McLainaa3881
    人間|17才|男性|生命
  • チョコラ完全攻略!
    シャロaa3881hero001
    英雄|11才|女性|ジャ
  • 我が歩み止まらず
    クラリス・チェンバースaa4212
    機械|19才|女性|回避
  • エージェント
    木下三太郎重繁aa4212hero001
    英雄|38才|男性|ブレ
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