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ねこさんぽ
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最終発言2016/07/07 23:03:14 -
ねこさんぽ
最終発言2016/07/10 02:10:36
オープニング
●能力者の能力が十分に活かせるお仕事です☆(注:報酬なし)
「あっつーい!」
扉が開かれる音と聞き慣れた声にタマ子はスタッフルームから顔を出して猫カフェの入り口を確認した。
「タマ子、アイスコーヒーちょうだい!」
いとこの九条が後見人となっているヴィクター、その相棒の沙羅は、その特殊な関係性からタマ子にとっては遠縁の親戚のような存在だ。
最近、エージェントの仕事で一定の収入を得るようになった沙羅は暇さえあれば猫たちに会いに来てくれるため、二人はとても親しくなっていた。
「いらっしゃい」と沙羅に笑顔を向けた後、タマ子はその後ろに目を向けた。
「ヴィクターも来るなんて珍しいわね」
「……暇だったからな」
「今飲み物用意するから、二人とも猫たちの相手しててくれる?」
「もちろん、そのつもり」
沙羅は早々に猫たちがいる部屋へと向かう。
「ヴィクターも早く!」と、ヴィクターの腕を引っ張った。
「可愛いでしょ?」
まるで自分が飼っているかのように自慢気に部屋にいる猫たちを見渡す沙羅。
そうして猫たちを見渡して、沙羅は驚く。
部屋中の猫たちがわらわらと寄ってきたのである。
「え? 何? どうしたの?」
猫が自ら寄ってくるなど珍しいと、沙羅は喜びに頬を緩ませたのだが……どうやら、猫たちの目当ては沙羅ではないらしい。
猫たちのクリクリと丸い目は真っ直ぐにヴィクターに注がれ、猫なで声でヴィクターの足元へと擦寄る。
『わぁ〜! ヴィクターだ!』
『なんだよー! 久しぶりだなー!』
『遊べよー!』
『撫でろよー!』
『ヴィクター! ヴィクター!』
沙羅には猫たちの声が聞こえるような気がした。
「……な、何よ……」
急に涙目になった沙羅にヴィクターは意味がわからずに眉間に皺を寄せる。
「ヴィクターのばか〜〜〜!」
走り出し、猫カフェから出て行ってしまった沙羅にヴィクターが驚いていると、アイスコーヒーを持ったタマ子が猫たちの部屋に入ってきた。
「追いかけなくていいの?」
「……追いかけるものなのか?」
「それがレディーに対する礼儀ね」
「……そうか」
意味がわからないまま猫たちのいる部屋から出ようとしたヴィクターをタマ子は引き止める。
「あ、ちょっと待って」
タマ子は数本のリードを差し出した。
「……?」
「ついでに猫たちの散歩も行ってきてちょうだい」
数本のリードと二十匹程の猫たちをヴィクターは交互に見た。
「何も全部連れて行けなんて言ってないわ。散歩好きじゃない子もいるし。ただ、散歩行かないと鬱憤がたまる子もいるのよね。能力者なら足も速いし、猫たちが逃げても捕まえられるでしょ。そもそも猫に好かれてれば逃げられることもないでしょうし」
「じゃ、よろしく」と、タマ子は鮮やかに営業スマイルを作ってみせた。
解説
●目標
散歩好きな猫たちを満足させてください。
●登場
・ブッチー
やんちゃ三匹のうちの一匹。切り込み隊長的存在。
・グゥちゃん
やんちゃ三匹のうちの一匹。ドライヤーは敵。
・虎之助
やんちゃ三匹のうちの一匹。頭脳派。
・ロケット
急に駆け出します。猫カフェの中で一番足が速いという噂も……(走る姿を見せたことがない猫もいるので、検証不可能)
・オリ
猫草大好き。冷静沈着。
・めたぼ
一切のくびれがないメタボ体型。散歩は好きではないが、ダイエットのために強制参加。
●場所と時間
場所:商店街から小さな公園へ向かいます
時間:日中
●状況
・タマ子から猫の散歩を頼まれました。
・気まぐれな猫を一人で六匹散歩させるのは至難の技なので、ヴィクターは商店街で見かけたあなた達に声をかけました。
・相性の良さそうな猫を一匹選び、散歩させてください。(指名が重なった場合、複数名で一匹の猫を散歩していただきます。余った猫はヴィクターが担当します)
・商店街を通り、猫カフェから人の足なら十分ほどで到着する小さな公園を目指してください。
・壁沿い行ったり来たり、路地裏探検、途中の虫遊び、急な日向ぼっこ等々、猫による散歩妨害もあるでしょうが、辛抱強く乗り切っていただければと思います。
・ちなみに、沙羅は猫恋しさに自分で戻ってきますので、放っておいていただいて大丈夫です。
リプレイ
●助っ人求む
猫カフェ タマらんどの前、六匹の猫を抱えてヴィクターは途方に暮れていたが、とりあえず、性格が温和な猫には首輪にリードをつけ、動きが激しい猫にはハーネスを着せてリードをつける。
「……それじゃ、行くか」
地面に猫たちを降ろした途端、それまで大人しくヴィクターが準備してくれるのを待っていた猫たちは自由気儘に動き出した。
目的地である公園の方向へ向かう虎之助、反対方向へ向かうブッチー、ヴィクターの足にしがみついて連続蹴りを得意げに見せるグゥちゃん、道端の草の匂いを嗅ぐオリ、手足を舐めて念入りな手入れから始めるロケット、そして、眠る体勢を整えるめたぼ。
両手はリードで塞がっているため無理だが、ヴィクターは頭を抱えたくなった。
そんなヴィクターに救いの声が聞こえた。
「オリ!」
猫カフェに遊びに来たオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)がオリを呼ぶと、オリは尻尾をピンと立て、まん丸な瞳でオリヴィエを見上げた。
「外に出て、どうしたのですか?」
オリヴィエと一緒に来た紫 征四郎(aa0076)の質問にヴィクターは質問で返す。
「……オリと知り合いなのか?」
「オリだけじゃなく、みんな知っている。よく遊びに来るから」
「それなら、協力してくれないか? タマ子から猫たちを公園まで散歩するように言われたんだが……この数を一緒に連れて歩くのは無理そうなんだ」
「……わかった」と、オリヴィエはヴィクターには落ち着いて答えたが、オリに目を向けるとその頬は自然に緩む。
「猫さんとお散歩! まっかせるのです! 征四郎はブッチーとお散歩するのですよ!」
「なんでこの暑いのにちっちゃいのの散歩なんか……タマ子さんのお願いなら断りませんけど!」
ガルー・A・A(aa0076hero001)の頬も緩む。
オリヴィエと征四郎の様子を心の目で見守っていた木霊・C・リュカ(aa0068)に、これまた偶然居合わせた虎噛 千颯(aa0123)が声をかけた。
「リュカちゃん、こんなところで何してんの?」
声で千颯だとわかったリュカはオリヴィエの気配を辿って指を差した。
「猫の散歩だって」
「何それ!? 面白そうじゃん!」
「俺は虎之助を散歩するでござるよ」
千颯が猫を決める前に白虎丸(aa0123hero001)がヴィクターの手から虎之助のリードをもらう。
「同じ虎の名の冠同士、仲良くしようでござる」
見知ったエージェントたちと見知った猫たちがいるのを見て、猫カフェに行こうと思っていた会津 灯影(aa0273)は彼らに声をかけた。
「みんな何してんの?」
「お前も猫カフェの常連か?」
ヴィクターの言葉に灯影はうなづく。
「猫の散歩を手伝って欲しいのだが」
「散歩? 猫散歩? ひーちゃんいないの?」
「ここには散歩好きな猫と、ダイエット目的の猫しかいないんだ」
「そーなんだ。ひーちゃんがいないのは残念だけど、楽しそうだからやらせてもらうよ」
灯影は猫たちの中からグゥを選び、リードをもらった。
「……二匹くらいなら俺一人でも何とかなるだろ」
めたぼを抱えたヴィクターを引っ張ってロケットが急に駆け出した。
ロケットは自分の足についてこれる貴重な人間がいることが楽しくなり、速度を上げる。ヴィクターも速さに困っているわけではないが、めたぼが徐々にずれ落ちていることが気になる。
「ロケット! 一旦止まれ!!」
しかし、ロケットは全く止まらない。
ヴィクターがどうしたものかと考えていると、横を小さな影が通りすぎ、ロケットの前に立ちはだかった。ロケットは急ブレーキをかけて止まる。
「キミ、私と同じ匂いがする……一緒にお散歩する?」
ロケットはエミル・ハイドレンジア(aa0425)の匂いを少し嗅ぎ、少女をライバルと認めるようににゃーと鳴いた。
エミルにロケットのリードを渡したヴィクターはめたぼを地面に下ろす。
「……お前だけなら、ゆっくり行くか」
そう呟いたヴィクターの前にひょっこり現れた九龍 蓮(aa3949)はめたぼのリードを取り上げた。
「この子はボクに任せて」
そう言った蓮の腕にはすでに一匹の猫が抱えられている。
「ばばものんびりだから、のんびりお散歩するよ」
何も気まぐれな猫を二匹も面倒見ることはないと言おうとしたヴィクターの手をリュカが握った。
「手持ち無沙汰になったのなら、俺の案内を頼むよ」
にこりと微笑まれては、ヴィクターも無下には断れない。
「……わかった」と、リュカの手を引き、猫たちと楽しく歩き始めた面々のあとを追う。
「ふふーふ♪ お散歩日和って奴なのかな」
まるで小さな子供のようにリュカは握ったヴィクターの手をブンブンと振った。
「なんかオリヴィエにちょっと似てるよね。多分、基本的にずっと無表情真顔でしょ!」
目が見えずになぜわかるのかと思ったが、ヴィクターは無言のままうなづいた。
●むにむに
「オリ、苦しくないか?」
穏やかな性格のオリにはハーネスはつけず、首輪のところにリードが繋がれていた。
オリは「大丈夫」だとでも言うようにオリヴィエの足へ体を擦り付けた。
征四郎は公園とは逆に進もうとするブッチーの気を猫じゃらしで引いて、正しい方向に誘導する。
「今日も暑いからね、ちゃんと帽子被るんだよ。せーちゃん!」
リュカは征四郎の頭から外れて、ゴムで首の後ろにかかっていた麦わら帽子を征四郎の頭に乗せた。
「どうしてわかったのですか? 被ってないって」
「ふふふ。せーちゃんのことは、オリヴィエと同じくらいちゃんと見てるつもりだよ?」
ちなみに、リュカは日傘でがっちり日差しガードしている。
「はぁ……しかしどの子も可愛いなぁ」
灯影は猫たちを見回してちょっと頬を染める。
「貴様も意外と気が多いな」
「いや、やっぱあの不器用なひーちゃんが一番可愛いけどさ……他の子も可愛いんだよ。ああ……俺も猫飼いたい」
「猫などいらんだろう! 猫よりも愛らしく麗しい狐がいるのを忘れたか?」
「いや狐も好きだけどさ……」
ちらりと灯影は楓(aa0273hero001)を横目で見る。
「お前はこう、違うじゃん? もふもふだけどさ」
二人が話していると、グゥが不満そうににゃぁ! と強めに鳴いた。
「あ、ごめんごめん。よーしお散歩おさんぽ!」
「気儘者の散歩だ。予定通りすんなりとはいくまい」
むしろその方が面白くなるだろうと、楓は笑った。
「うは、オリちゃんちょっち気合入れすぎじゃない?」
商店街で手に入れた糞尿処理用の袋やスコップと猫用の水、水を入れるための容器、猫用おやつなどが入ったビニール袋を持って気合の入ったオリヴィエの姿に千颯は笑う。
「だよな。気合入れすぎだぜ」
ガルーも笑う。
そんな二人にムッとしたオリヴィエはやんちゃ三匹を見回し、ガルーと千颯を指差して言った。
「ブッチー、虎之助、グゥ、あのおっさん達が今日もおもちゃだ!」
虎之助は丈の短いズボンから出ている千颯の素足を引っ掻き、ブッチーはガルーによじ登るとその鼻に噛み付いた。少し離れたところに灯影といたグゥは灯影を引っ張って走ってきたが、途中、ハーネスからするりと抜け、勢いのついたままガルーのお腹へ猫パンチした。
シュタッと地面に着地したグゥをヴィクターが捕まえ、再びハーネスをつける。
「……すまない」
グゥがハーネスから抜けてしまったことを謝ったオリヴィエにヴィクターは「いや」と首を横に振る。
「よく懐いているんだな。ハーネスは首がしまらないようにできているが、そのかわり、体の柔らかい猫を押さえておくのには不十分なんだ」
「気をつける」と、反省しているオリヴィエにそれ以上言うことはなかったけれど、ヴィクターはもう少し説明を加えた。
「猫の速度に合わせて動いていれば外れないが、強く引っ張られれば猫の体は抜けてしまう」
それはオリヴィエに言った言葉ではなく、今まさにロケットとかけっこをしようとしているエミルに対しての言葉だった。
そのことにエミルも気づき、「……ん、わかってる」とうなづいたが、かけっこをやめる気はないようだ。
「足で私が負けるわけない……きっと大丈夫」
エミルはそうヴィクターに言うと、今度はロケットに話しかけた。
「にゃーにゃ~、にゃん……(ん、貴方は、出来る猫だね)」
なんとなく通じる気がして、エミルは猫語を続ける。
「にゃん、にゃーにゃー……(どうかな、一つ速さ比べと行こう)」
速さ自慢は惹かれ合うものだと、エミルは思っている。
「エミルよ、通じているようには思えないのだが……」
頭の中に響いたギール・ガングリフ(aa0425hero001)の冷静なツッコミにもエミルは「……ん、だいじょうぶ、だいじょうぶ」と前向きだ。
その頃、蓮はめたぼのお腹をむにむにしていた。
「……どうやったら、こうなる?」
先ほどの場所からほとんど前進せずに日向ぼっこをはじめためたぼ。
「たくさん食べて、運動しなければそうなります」
月詠(aa3949hero001)の言葉に蓮は自分のお腹を見つめる。
「蓮の場合は大量に食べても変わりませんから、問題ないですよ。むしろ、そのままでいてください!」
やけに力強い月詠の言葉に蓮はうなづいた。
蓮はめたぼの上半身を持ち上げてみた。
「すらっとしたら、どうなるのかな?」
「……こうもくびれが全くないと、想像するのも難しいですね」
●蝉と蝶と
それぞれ担当の猫のペースに合わせて散歩を進めていると、徐々に進み具合に差ができ、進む道も変わってきた。
タマ子が教えてくれた道順通りに公園へ向かっているのは虎之助である。
お互いに意思疎通が取れるという貴重な人間を虎之助は気に入っているようだった。
「ふむ、やんちゃと聞いていたが、いやはや、元気が有り余っているのでござるか」
走り、鳩に飛びかかって逃げられ、お店の入り口に置かれている観葉植物に猫パンチを食らわし、触ろうとする千颯に毛を逆立てて威嚇する……
「何で!? 何で俺ちゃんのとこには来てくれないの!?」
「千颯は何だか胡散臭くてダメだと言ってるでござる」
虎之助は商店街から少し横に逸れた遊歩道を選んだ。そこには花壇があり、花々が咲いていた。
「ほぅ、この道が好きなのでござるか、虎之助は中々見る目があるでござるな」
「え? 待って? さっきから白虎ちゃん、虎之助ちゃんの言葉わかるの?」
「千颯はわからないのでござるか? 先程から千颯のアホヅラは暑苦しいから近寄るなと言っているでござるよ?」
「っ酷い! そんな事言ってたの!? 俺ちゃん酷く傷ついたんですけど!」
あまりのショックに「虎之助ちゃんのバカー!!」と、千颯は踵を返して走り出す。
千颯が走り出した頃、征四郎はブッチーと仲良く散歩していた。ブッチーは勝手知ったる道を寄り道しながら進む。
ガルーも店の看板娘を見つけては話しかけ、寄り道しながら二人(一人と一匹)のあとをついて歩く。
「……ブッチー、ガルーが遊んで欲しいみたいですよ」
征四郎は軟派なガルーにジト目を向けて言った。
ブッチーがガルーに近づこうとすると、ガルーは慌ててさらに離れる。
「ガルー、どうして離れて歩くのです?」
「そいつちょろちょろするから、踏みそうなんだよ」
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」
征四郎がガルーにそう言った時、グイッとリードが予想外の方へ引っ張られた。
「ふぉ、路地裏いきますか? おともしますよ!」
建物と建物の間、細い道をブッチーは突き進む。
「オリも好きな奴とか、いるのか?」
野良猫に気を取られているオリにオリヴィエは聞いた。オリヴィエの言葉にオリは首を傾げる。
「オリヴィエはいるの?」
急に耳元で囁く声がしてオリヴィエが慌てて振り返ると、リュカがふふふと笑う。
「オリも聞きたいんじゃないかな?」
リュカの言葉に再びオリに視線を向けると、まるでオリヴィエの答えを待つようにオリはじっと見上げてくる。
「お……俺にはそんなのいないから!」
そう答えたオリヴィエの耳は真っ赤だ。
「虫は! 虫はダメなのですブッチー!」
征四郎の叫び声が聞こえて、路地裏を覗くと、ブッチーが蝉を咥えて征四郎に差し出していた。それをガルーが笑って見ている。
「オリ、追いつくぞ」
オリはオリヴィエの言葉を理解したように軽い足取りで征四郎がいる路地裏へ入った。
焼き鳥屋の前、微動だにしないめたぼ。
「ゴールまでちゃんと行けたらね」
そして、タマ子に許可をもらえたら……ということは伏せておく。
めたぼは「本当か?」という顔で蓮を見上げた。
「本当。本当。ほら、行こう!」
めたぼは仕方なさそうに歩き出した。
やっと進みだしためたぼを見ながら、蓮は少し前に流行ったドラマの主題歌を歌う。
「それはちょっと、違うと思います」
月詠のツッコミに「むぅ、なら、なに?」と蓮は聞いた。
「そうですね……せめて、アニメの曲にしましょう。あの、大きいのと中くらいのと、小さいのが出てくる、あれ」
二人は仲良く歌いだす。ばばのニャン♪ という可愛い合いの手が絶妙である。
エミルとロケットは商店街から横道に逸れて、疾走していた。
「にゃっ、にゃにゃにゃー……(ん、なかなかやるね……)」
地面はもちろんのこと、塀の上、屋根の上、時には人様のベランダを……とにかく全力で走る。
「にゃにゃ、にゃ~ん、にゃっ?(どうしたの? もっと本気を出して、良いんだよ?)」
そんな風に言われては、ロケットだって負けるわけにはいかない。……エミルの言っていることが正確に伝わっているかどうかは別として。
二人(一人と一匹)はさらに速度を上げた。
こちらも路地裏の塀の上を行くグゥと灯影……しかし、その速度は早くはない。
グゥと楓は身軽に進むが、灯影にとっては塀の上はスムーズに移動できる場所ではない。
「遅いぞ。グゥも呆れている」
落ちそうになりながらもついて行っていることをむしろ褒めて欲しいと、灯影は思った。
「てかそのラムネどうしたの?」
いつの間に手に入れたのか、楓はラムネを美味しそうに飲んでいる。
「ん? 貴様も飲むか?」
「商店街来ると大体何かしら貰ってんだよなぁ」
灯影がラムネを飲もうとした時、グゥが塀の上から地面へ飛び降り、リードが引っ張られる。
「ちょっと待って!」
ラムネの瓶が灯影の手からすり抜けて落ち、それを楓が空中でキャッチする。
「どうしたの? 急に……」と、そこまで言って、灯影は目の前に現れた光景に驚く。
「ここって……」
そこは目的地の公園だった。
予定通りの道ではなかったが、もしかすると最短の道を来たのかもしれない。
「ちゃんとこちらを道案内していたみたいだな」
シロツメクサの絨毯が広がる美しい公園に入ったグゥは早速蝶々を見つけると戯れ始めた。
そして、仕留めると、灯影に持ってくる。
「あ、虫さんはちょっと……あの、はい……かえで~!」
「その虫は貴様への贈り物だろう。もらってやるべきだろう。なあ?」
「くっ……意地悪狐」
とりあえず、なんとか作ったぎこちない笑顔で蝶の死骸を受け取った灯影は、グゥが他のことに気を取られた隙に、草の影に蝶を置いた。
しかし、次にグゥが持ってきたのは、とかげの死骸だった。
「……まじか」
今日の散歩のお礼だろうか、はたまた自分の狩りの腕を自慢しているのだろうか……灯影はとりあえずもう一度ぎこちない笑顔を作った。
●帰るまでが散歩
「到着なのです!」
無事に公園に到着したブッチーと征四郎、オリとオリヴィエ、そしてその他一行(ガルー、リュカ、ヴィクター)。
「征四郎殿、オリヴィエ殿」
すでに公園に到着していた白虎丸と灯影が手を振る。
グゥと虎之助は一緒に遊んでいたが、虎之助は時々、公園の門を振り返る。
「虎之助が気に病む事はないでござるよ。そのうち千颯も帰ってくるでござろう」
虎之助は自分の一言でどこかに行ってしまった千颯を気にしていた。
「ヴィクター、グゥちゃんを放してやってもいいかな?」
灯影の言葉に、ヴィクターは公園を見回し、危険なものがないことを確認する。
「……公園の中だけなら大丈夫だろう」
「公園から出そうになったら、我が首根っこ掴んで止めてやろう」
「……優しく頼む」
「猫たちよ、我が遊んでやる! 感謝せよ!」
楓がもふもふの尻尾を動かすと、リードを外してもらったグゥが早速飛びついた。ブッチーと征四郎も楓の尻尾を追いかける。
虎之助と白虎丸も楓の尻尾を捕まえる遊びに参戦しようとしたその時、二人の前に千颯が戻ってきた……大きく『マタタビ』と書かれた袋を持って。
「これなら猫ちゃんを触り放題なんだぜ!!」
匂いを嗅ぎつけた数匹の野良猫が千颯の体に登りついている。
千颯は袋から一握りのマタタビを取り出すと、自分の頭上にばらまいた。
「何をしているのでござるか……千颯?」
「まずは猫たちに大人気な白虎ちゃんを虜に!」
そう言うと、千颯は白虎丸に抱きついた。
「よせ! やめろ!! でござるよ!」
白虎丸が逃げようとしても、猫たちが足にまとわりついて身動きが取れない。
「ここは猫が多いでござるにゃ……足元にまとわりついては危ないでござりゅにゃにょ……」
視界が急速にぼやけ、白虎丸はシロツメクサの中に倒れこんだ。
「ぴゃああ、ビャッコ丸どうしたのです!? ガルー、ガルー、ビャッコ丸が!!」
征四郎とブッチーは慌てて白虎丸に駆け寄る。
マタタビをつけずとも猫に大人気な白虎丸の体はどんどん集まってきた猫たちに埋もれていく。そして、白虎丸の横にごろりと横になったマタタビ付きの千颯も猫たちに埋まっていく……。
これを、俗に木天蓼事件という。
その時、蓮がばばを抱っこし、月詠がめたぼを脇に抱えて公園に到着した。
「なんか楽しそうなことしてるね」
木天蓼事件の一部始終を見ながら、爆笑していたガルーが「でしょ?」と答える。
オリヴィエとオリは呆れながら状況を見守っていた。
「ゴール!」
ロケットとエミルが公園に到着した。
ロケットはかなり遠回りの道を選んできたようで、足の速い二人が一番遅く到着するという結果になった。
エミルとロケットは互いの健闘を讃えて握手した。
「ん、いい勝負だった」
その手を放した途端、ロケットはまた走り始めた。そのあとをエミルも追う。
「……あの二人、元気だな」
灯影はロケットとエミルの様子に感心する。それから、リュカが木陰でヴィクターとお菓子を食べているのを見つけた。
「リュカさん、俺にももらえますか?」
「もちろん!」と、リュカは商店街で買った小さなカップケーキを灯影に渡す。
そこにめたぼが木陰とおやつを求めてのそのそ歩いてきた。
「お疲れ、めたぼ」
どれほど自分で歩いたのかはわからないが、普段室内でゴロゴロしているめたぼにとっては外にこんなに長い時間出ているだけでも労働であろう。
しかし、この体型の猫にタマ子の許可も取らずにおやつをあげるわけにはいかず、カップケーキも猫のおやつも早々に片付けられ、水だけがそっと差し出された。
灯影はめたぼを抱き上げて、そのお腹に顔を埋める。
「うあー! やっぱ気持ちいいなー!」
めたぼに顔をうずめたまま灯影が横になると、「俺も俺も」とリュカはめたぼの背中に顔を寄せた。
「めたぼの背中、超皮が伸びる!!」
二人はめたぼの柔らかさを堪能し、いつの間にか眠りに落ちる。
蓮と月詠とばばも灯影たちの隣で日向ぼっこを楽しんだ。
オリはちゃんとオリヴィエが自分の後をついてきているか確認しながら歩き、花や草の匂いを嗅ぐ。
好きな香りでもしたのか、オリが草を噛もうとしたのをオリヴィエが止める。
「だめ、食べちゃいけない草も外は多いんだ」
二人の隣をロケットとエミルが駆け抜けていく。
「オリはどれくらい早いんだ?」
オリヴィエの質問に、オリは足の速さには興味がないというように再び草の匂いを嗅ぐ。
「なぁリーヴィ」と、ガルーがオリヴィエのそばに来た。
「そいつ撫でてみても良い? お前さんに似てる猫」
「……どうしたんだ? 急に?」
「いや……おとなしいオリなら、少しくらい触れるかなって……」
「……オリが嫌がるようなことはするなよ」
「わーてるよ」とガルーが返事をした時、「うわ!」とリュカが叫んだ。
「どうした? リュカ?」
「いや……うとうとしてたところにやんちゃ三匹と楓ちゃんに踏まれて、ちょっとびっくりしちゃった」
「何やってんだ」とガルーが笑った時、ガルーの腕にふわふわの毛並みが触れた。見ると、オリがガルーの腕に頭を擦り付けている。
「撫でてもいいって」と、オリヴィエがオリの心を代弁した。
エミルがロケットを抱き上げる。
「ライブスラスターで、本当の速さを、教えてあげないと……ね」
悪魔を模したぬいぐるみ型のライヴスラスターを起動しようとその時、ヴィクターがロケットを抱き上げて「やめておけ」と言った。
「トラウマになったら、もう一緒には遊んでもらえなくなるぞ」
がっかりした様子のエミルは共鳴を解き、現れたギールにロケットは驚いて毛を逆立てた。
「今日の晩酌は猫かふぇで、だな!」
グゥとブッチー、虎之助が尻尾にしがみついた状態で楓は言った。
「いいな! それ!」と、ガルーは賛成する。
「中々立派な厨であったし。魚屋の奥方に何匹か貰って灯影に調理させれば良い!」
「ひーちゃんに会いたいから猫カフェに寄るのはいいけど、ご飯についてはタマ子さんに聞いてみないと」
「タマ子ならば了解するだろう」と楓は確信を持って答えた。
「私たちはうどんを食べて帰る……」
そう呟いて公園の門へ向かおうとしたエミルとギールに、灯影が声をかける。
「うどんなら作ろうか?」
「え……作ってくれるの……?」
「もちろん」と、灯影が微笑むと、エミルの無表情だった頬が少し色づいた。
「ロケット! お店まで競争!」
エミルは再び共鳴し、ロケットと一緒に公園に来た時同様、道なき道を駆け出した。
「戻ったら、ノミダニチェックしような」
オリヴィエに抱き上げられたオリは、愛情を示してオリヴィエの鼻に自分の鼻をくっつけた。
「散歩は行って帰るまでが散歩だ!」
楓の号令を合図に、エージェントたちと気まぐれな猫たちの散歩が再びはじまった。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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