本部

超人戦士タイガード=マックス(嘘)

高庭ぺん銀

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/07/11 20:29

掲示板

オープニング

●牙の無い虎
「聞いてくれるな、正体を。呼んでおくれよ、俺の名を。命をかけて正義を守る、誰が呼んだかタイガード=マックス!」

 タイガード=マックスは、ヒーローである。しかし、現実に存在している。この2つの事象は矛盾しない。能力者という存在が生まれて以来、社会は変容し続けているが、子供達にとって最も大きな変化はこのことだったかもしれない
 特撮は衰退し、リアル・ヒーロー・ショーが隆盛を極めた。街を破壊する怪獣も、極悪非道の怪人もテレビの中だけの存在ではなくなった。

 オフィス街に従魔が現れた。人々は逃げ惑う。こんなときに彼が来てくれたら。タイガード=マックスが。
 ヒーローは、奇しくもそのオフィス街の近くにいた。今は共鳴を解いているため、細身の日本人青年と西洋人と思しき金髪の少年の姿だ。雑誌のインタビューを終えた帰りだった。
 すぐに行かなくては、そう思った日本人の男は自嘲の笑みを浮かべた。行けるわけがない。いや、何かできることがあるのではないか。
「ジョージ、何バカなことを考えてる。俺たちが行っても無駄だ」
「わかってるけど……」
 彼らは二言三言交わすと、オフィス街の方向へ駆け出した。少年はガリガリと頭をかいて言った。
「ったく、お前のお人よしには付き合いきれねぇぜ」

●美しい偶像
 犀川 ジョージ(さいかわ ジョージ)は孤児である。ある教会の牧師が切り盛りする貧しい施設で生まれ育った。牧師のことを「父」、同じ施設の子供たちを「兄弟」と呼ぶ彼は、美しい青年へと成長した。高校を卒業し工場で働きながら、彼はとある芸能プロダクションに入った。スカウトされたのである。
 社長兼マネージャーは当時のことをこう回想する。
「街中を歩いていたら、まばゆいばかりの美男子が歩いているじゃないか。俺は一目でピンと来たね。こいつはスターになる男だって。ところが声をかけて身分を明かして、相手の第一声、何だったと思う? 『それって、稼げますか?』だぜ。とんでもない守銭奴かと勘違いしかけたよ」
 彼の目的は一つだ。施設への寄付。ならば半端な役者では駄目だ。目指すは大スター。その夢は意外と早く叶えられることとなった。ひとつの大きな嘘をともなって。
「ヒーロー? 俺が?」
「犀川くん、リンカーなんだよね? 懇意にしてるプロデューサーから、欠員が出たって聞いてね。でね、うちの事務所小さいでしょ? 調べてみたら犀川くんしかいなかったの、リンカー」
 ジョージは口ごもった。千載一遇のチャンスだった。しかも、子供に夢を与えるヒーロー役だなんて素晴らしい。しかし、彼には快諾できない理由があった。
「俺、リンカーっていうのは本当なんですけど……」
「じゃあ問題ないじゃない!」
「駄目なんです!」
 ジョージは形のいい眉を寄せて叫んだ。苦悶の表情も絵になる。
「俺……すっごく弱いんです!」
 その仕事は、能力者たちと愚神や従魔との戦いをそのまま番組にしたものだった。しかし、演出として、討伐に当たったヒーローの名乗りや能力紹介が別撮りで挿入されていた。「1回限りの脇役ゲスト」「どうせみんなすぐに忘れてくれる」「俺を助けると思って」その言葉に負け、ジョージは仕事を承った。ヒーロー名を自分でつけてくれと言われ困ったが、気づけば思い入れのこもった名前になっていた。使い捨ての名前だというのに。
 番組終了後、ネット上は大騒ぎとなった。「あのイケメンは何者?」とタイガード=マックスが皆の注目を浴びたのだ。一目で熱狂的なファンになった者たちから「ゲストだなんてとんでもない、また彼を呼べ」という電話が殺到したという。ジョージは主に回復や後方支援を行っていたのだが、箔をつけるために戦闘能力をねつ造していた。
 「タイガード=マックス」は彼専用の番組を持つことになった。表向きにはその熱狂的な人気のため、本当はドキュメンタリーを装ったフィクションを作り上げるため。
 ジョージは苦悩した。けれど、罪悪感を胸の奥にしまって『ヤラセ』に参加した。施設の経営がのっぴきならない状態まで貧窮しきっていたのだ。相棒のケントは、その決意に反対しなかった。
「別に。金がたくさん入るなら、俺は構わねえよ。貧乏暮らしはうんざりだ」
 施設を出てから出会った少年は、向こうの世界に居た時のことを話したがらない。
「タイガード=マックス、か。もっとセンスのいい名前を付ければよかったな。……まあ、お前には似合ってるよ」
 
●ニセモノとホンモノ
 やあ、初めまして。僕は、タイガード=マックス。え、知っている? ありがとう! いきなりだが君たちはリンカーだね? ご覧の状況だ。手を貸してくれないか? ……ありがとう、助かるよ。どこかへ行くところだったんだろうに、悪いね。うん、そうだな、緊急時だから。

 ……緊急時だから打ち明けるけど、僕の番組は……すべて嘘なんだ。僕に戦闘能力はほとんどない。もちろん一般人よりは身体能力が高いけれど。僕の本当の能力は回復特化なんだ。後は……カメラのフラッシュのような光を起こせる。雷が鳴った時みたいにあたり一面真っ白になる。……それだけ。目くらましができても、攻撃ができなきゃ意味がないよな、ハハ。

 ワガママを承知で頼みたいんだが、僕を助けてくれないか。詳しい事情は後で説明する。お礼もできるだけのことをする。だからお願いだ。僕が戦って敵を倒しているように見せて欲しい。アドリブは得意だし、ダイガードは多彩な攻撃が売りだから、君たちの能力に合わせて演技をするよ。
 まだ、ヒーローをやめるわけには行かないんだ!協力してくれ!

解説

【場所】
高層ビル街

【味方】
・タイガード=マックス
 人気ヒーロー。見た目はジョージに近いが金髪碧眼に変化し、アメコミヒーロー体型に。
 実は回復能力に特化したバリバリの後方支援型。共鳴しているだけあって運動神経はいいので、撮影用のアクションは問題なくこなせる。攻撃力・防御力など実践での戦闘能力は能力者としては最下層。
 名前は「全力(マックス)で、虎(タイガー)のように強く、人々を守りたい(ガード)」という意味を込め、ジョージが名付けた。番組内容は、熱くてベタ。ちょっと古臭い。幼児にはもちろん、一周回って大人にも人気。

・タイガードの正体
能力者:犀川 ジョージ(さいかわ ジョージ)
 施設の子どもたちのためにお金をたくさん稼げる職業に就いた。フチなし眼鏡を着用したハーフ顔の美形。誰にでも分け隔てなく優しいが、流されやすいのが欠点。リンクを解けば、変装なしで街を歩いてもバレない。

英雄:ケント・ミラー
 15歳くらいに見える少年。金髪碧眼。「暑苦しいのは苦手」を公言し、ジョージの番組を冷めた目で見る。もともとは合理的に判断するタイプのはずが、ジョージと出会ってからはつい人助けをしてしまう。

【敵】
巨鳥型従魔(デクリオ級2体)
 羽を広げると1mくらい。猛禽類のような見た目。飛び道具はなく、くちばしや鉤爪で攻撃。

鳥型従魔(ミーレス級7~8体)
 羽を広げると50cmくらい。能力は上の劣化版。

【カメラ】
3方向から報道番組のヘリが狙っている。開始時点で到着済み。顔が判別できないくらい距離が開いている(タイガード=マックスが戦っているというのは衣装で判断できる)ので、ごまかしはききやすい。

※タイガード個人からの依頼です。また突発的なミッションでもあるため、HOPEの支援は期待できません
※討伐後、タイガードからお礼が欲しい方は遠慮なくご請求ください。ダイガードと弱小事務所ができる範囲で叶えてくれます。

リプレイ

●嘘つきヒーロー
「いつも番組見てるぜ! ピンチのヒーローを助けるのもヒーローの役目だ! オレ達に任せろ!」
 一も二もなく協力を申し出たのはガイ・フィールグッド(aa4056hero001)だ。タイガードはまぶしそうに彼を見る。嘘吐きヒーローの心の痛みが空気で伝わったのか、木霊・C・リュカ(aa0068)が明るく言う。
「オッケーおっけー、男は仕事の為なら見栄を張るのも必要だよ!」
「……まぁ、これから嘘じゃなくしていけばいいし、な」
 オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)も同意する。大宮 朝霞(aa0476)は動揺していた。ニクノイーサ(aa0476hero001)を引っ張って一同から離れ、小声で叫ぶ。
「たたたタイガード=マックス!? あの本物のヒーローの!?」
「だが、当人は”戦闘能力はない”と言っているぞ?」
「そんな事は些末な事なのよ! むしろ、戦闘能力がないのに皆を守るために従魔と戦おうとする、その精神こそ真のヒーローなのよ!」
 紫 征四郎(aa0076)に「アサカ?」と呼ばれると、彼女は瞬時にキリリとした表情になり振り返った。
「私たちも助太刀します!」
 佐藤 咲雪(aa0040)だけは無言だったが、異論があるわけではないらしい。
「……ん、どうでもいい……報酬は、おいしいごはんおごってくれればいい」
 大急ぎで作戦を決めたところで闖入者が現れた。
「ちょ、あれタイマクじゃねえか? おいおいマジかよ握手して貰いに行っちゃおうぜ。あ、写メも大丈夫かな?」
「……だれ?」
 五々六(aa1568hero001)と獅子ヶ谷 七海(aa1568)だ。他の者たちは持ち場に向かい、ジョージが手短に説明する。
「ッハァー? 助けて欲しいぃ? 嘘つきな大人の事情なんざ知ったこっちゃないんですけどぉ」
 見事な変わり身である。これが現実だ、とジョージは自戒する。今自分は大切なファンの夢を壊したのだ。敵一つ打ち砕けないこの手で。
「もうファンじゃねぇけど、依頼っつーんなら受ける。報酬は頂くぜ」
 協力者たちの中でもタイガードへの温度差は激しい。
「まさかあのタイガードと一緒に戦うことになるなんて!」
「あ? なにそれ、え、特撮?」
 例えば征四郎とガルー・A・A(aa0076hero001)だ。
「え、せーちゃんファンなの? イケメンはやっぱ強いの……?」
 何かにショックを受けているリュカが不思議で征四郎は首を傾げたが、ガルーは容赦ない。
「うぜえ。とっと行け。んで、働け」
「人をニートみたいに言わないでよ~」
 肩を落としたままのリュカはオリヴィエにせっつかれて共鳴し、ビルの非常階段を昇っていった。

●2×9=ウルトラヒーロー
 ヘリコプター3台が決定的瞬間を狙って飛んでいる。その死角を探すのは御神 恭也(aa0127)と伊邪那美(aa0127hero001)だ。
「あの人、大丈夫かな? 失礼だけど、あんまり戦闘向きじゃないでしょ」
「まあ、他の皆が手助けしているし、俺達は見えない所で敵の数を減らして行くんだ。何とかなるとは思うがな」
 カメラには一切映らず間接的にサポートを行う予定だ。
「嘘は良くないと思うんだけど?」
「ああ。裏方に徹するのは慣れているが……実像と幻像の大きな乖離は危険だな。……と、この辺なら問題ないだろう」
 会ったばかりの男の行く末を気にかけながら戦い始める。醜い声で鳴く鳥に怒涛の連撃を放つと、黒い羽根が空に舞った。
「タイガード=マックス見参!」
 虎柄のボディスーツと黒いマント。野次馬たちは歓声を上げた。
「出来るだけ彼を立てるようサポートしたいが、本物の従魔相手に手を抜くわけにもいかない。まずは市民を守る!」
 飛岡 豪(aa4056)は舞台裏のようなビルの隙間でガイと共鳴する。
「俺の名はタイガード=マックス2号! 友よ、今行くぞ!」
 『イメージプロジェクター』でホワイトタイガー柄のヒーロースーツを映し出す。『爆炎竜装ゴーガイン』は一時封印だ。
「ニック、変身するわよ!」
 こちらは別の舞台裏。
「それはいいが……やるのか? 変身ポーズ」
「当然よ! こんな日のためにいままで練習してきたんだから! 変身、ミラクル☆トランスフォーム!」
 ジャンプし、宅配便のトラックの上でポーズをとる。
「聖霊紫帝闘士ウラワンダー参上!」
 参上、参上、参上……凛々しい声が孤独に反響した。
(……朝霞。報道ヘリまでずいぶん距離があるし、たぶん音声までは拾えてないんじゃないか?)
「がーん」
 一方、アル(aa1730)と雅・マルシア・丹菊(aa1730hero001)は、共鳴するとヘリコプターの近くに移動して名乗りを上げた。伝えたい言葉があったのだ。報道マンがアルに気づいてカメラを向ける。
「アルさん、タイガードに一言!」
「先に言っとく! ボクの能力は攻撃に向かない! 全力でサポートさせてもらう。だから、ボクの分まで存分に暴れて!!」
 人を支えることの格好良さを皆がわかってくれるように。彼が自分の能力に誇りを持ってくれるように。そう願ってアルは戦場へ走った。
「助けに来たのです、タイガード=マックス!」
 青年騎士の姿になった征四郎も登場する。
「こっちを向きなさい、私が相手なのです!」
 デクリオ級の巨鳥を1体引き付け、タイガードたちから距離を取る。敵は巨鳥がもう1体。ミーレス級も数体飛び回っている。
「超人戦士、謎の2号戦士、変身ヒロイン、戦うアイドル、紫の騎士。そして3人の影なる戦士……ヒーローたちの大共演ね」
「……ひーろー?」
 アリス(aa0040hero001)の言葉に咲雪はこてりと首をかしげる。能力を生活費を稼ぐための手段としか考えていない彼女には『ヒーロー』というものがいまいちピンとこない。
「……実際は戦闘能力が低い、つまり誘い受けね」
 アリスの目がきらりと光る。いま、彼女の電脳内では猛烈な勢いで『うすいほん』の構成が練られつつあった。事件を解決したら、ゆっくりと吟味しよう。
「ニチアサの特撮、日本の伝統芸能を危機に陥らせたのはちょっと癪だけど、タイガード=マックスの放送は燃えるのよね。行きましょう」
「……ん、隠密作戦」
 共鳴した咲雪たちは行動を開始した。
「5時の方向から従魔が接近」
 タイガードの耳にオリヴィエの声が届いた。
「ライフル弾を撃つから振り返れ。3、2、1」
「とうっ!」
 振り向きざま拳をぶつけるポーズ。ミーレス級の翼には穴が開き、まるでパンチが効いたかのように鳴き声が上がった。高く飛び去る前に、駆け付けたアルが地面に縫い止める。豪が駆け寄りながら合図する。
「行くぞ! ダブルタイガードキックだ!」
 1体目を撃破。鳥型従魔の依代は見た目通りカラスだった。ダメージはほとんどなかったにも関わらず、タイガードは地面に横たわるカラスを抱き上げる。
「危ない!」
 豪は新たに飛来した従魔の攻撃を前腕部で受けた。雑魚は私が、と朝霞がステッキを振るう。2体目撃破。
「す、すまない」
「構わないさ」
 その様子を見ていたオリヴィエは絶句した。
(甘ちゃん、ってレベルじゃないぞ)
 もう一つ問題がある。野次馬だ。避難させるなら、自分よりも助っ人ヒーローに向かわせるのが得策か。そう思った彼の眼に七海の姿が映った。ポケットに手を突っ込んでやって来たかと思うと、地面に唾を吐く。
(……ヒーローには見えないな)
 そのときミーレス級が1匹ギャラリーに突進してきた。
「伏せろ!」
 七海は敵が降下してきたのをこれ幸いと、ギャラリーの前に立ち迎撃する。従魔が衝撃波で吹っ飛ぶ。
「行ったぞ!」
 タイガードは衣装に仕込んだマイクでオリヴィエを呼ぶ。
「タイガーバレット!」
 上段回し蹴り。つま先が『弾丸』のように敵を射抜いた、ように見えた。
(これなら報道カメラの方はごまかせるだろう。あとは……)
 ギャラリーの前には七海が仁王立ちしていた。
「お前らじ……危険だから逃げやがれ」
 邪魔、と言いかけたのは内緒だ。先ほどの従魔に危機感を覚えたギャラリーは三々五々、踵を返す。女がひとりだけこちらをにらむ。
「アンタ誰? 怪しいわね」
「……俺? 俺はタイガード=マックスのダチの……あの、あれだ。ハクナマタタ=ガールだ。いいからさっさと失せろ、ハクナマタタされてえか」
 女は不満げだったが怖がる友人たちに引っ張られて場を離れた。
(なにその名前……)
「とりあえず名乗っときゃ、どうにかなるんだよ」
 七海は別方向の野次馬に気づき「見せモンじゃねえぞ」と言いながら寄っていく。威圧感溢れる少女に睨まれ、彼らは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

●夢の守護者たち
 不吉の象徴のように飛び回る黒い鳥たち。ミーレス級が1匹、混戦を外から見守るように飛んでいるのを咲雪が発見した。このまま別の街にでも行く気だろうか。
「だめ」
 ナイフを飛ばす。黒い鳥がぽとりと落ちた。
「頭数は減って来たな。俺はあちらのフォローに向かおう」
 通信機越しに話す相手は恭也だ。仲間たちが引き付けチャンスを狙っているが、未だデクリオ級は2体とも残っている。
「……ん、私も」
「姿は隠したままがいいだろう。では向こうで」
 咲雪は拘束手段を温存している。うまく捕まえられればいいのだが。そうしたら、あとは誰かに任せれば良い。
(咲雪、サボりはだめよ)
 アリスは咲雪の怠惰な思惑に気づき、釘を刺した。
「……ん、アリス。フォローお願い」
「ええ、側面や後方は私でカバーするわ」
 ライブスで作り出した鷹が咲雪の視界を広げた。表に出ている者たちは、タイガードを守りつつ彼の見せ場を作らねばならない。ゆえに時間がかかるし、広い視野を持ち続けるのは負担だ。影の戦士たちは新たな行動を開始した。
「おらっ、とっとと片付けろ!」
 七海が、翼を打ち抜いて弱ったミーレス級をタイガードに投げつけた。
「タイガーニードル!」
 指を伸ばした右手による鋭い突き――恭也のライフルの銃弾――がミーレス級を撃破した。
「狙撃する間が合わせ辛いな……」
「こっちの動きに合わせて貰えないの?」
「下手に動きを指示したら、やられてしまいそうで怖い」
 やはり、アクションと実践は大きく違うのだ。彼の技術はあくまで『見せる』ためのものだった。
「反射神経の良さに、共鳴後の筋肉量……素材は悪くないんだがな」
 恭也は虚像のヒーローを見つめてひとりごちた。
 ギャアアと醜く鳴いた巨鳥は征四郎に突撃する。素早く身をかわして一太刀浴びせる。途切れ途切れの血の雨を降らせ、敵が飛ぶ。かぎづめが征四郎にもかすり傷を作ったが、まだまだ戦える。オリヴィエは敵の気を散らせるため頭部を狙うが、動き回る上に的が小さすぎる。
「それなら、翼を……いや」
 味方達への突進を防ぐため、威嚇射撃に方針を切り替える。従魔たちの起こした風で木々がなぶられている。
「他の奴らは心配ない。あんたは避けることに集中するんだ」
 タイガードは巨鳥をすんでのところで避ける。オリヴィエの額に冷や汗が流れた。
「危ない!」
 タイガードにもう一匹の巨鳥のかぎづめが迫る。朝霞が飛び出す。アルが鳥を止めようとするが間に合わない。
「ウラワンダー!」
 左肩を押さえた朝霞の指の隙間から血が流れる。豪のイヤホンから恭也の声が聞こえた。
「な……ホワイトタイガーショット!」
 飛び去った鳥をライフル弾が捕らえた。恭也の機転で新必殺技を放ってしまった豪は、気を取り直して落下した鳥から従魔を叩きだす。
「ほら、獲物はこっちだよ」
 2体の巨鳥従魔をそれぞれ攻撃して気を引き、アルと征四郎が走り回る。恭也とオリヴィエはその援護に回った。豪と七海に周囲の警戒を任せ、タイガードは朝霞に治療を施す。治療はカメラの前で、とアルから頼まれていた。この力を見せるのは、初めての収録以来のことだ。
「助かります! さすがはタイガード=マックス!」
 飛び上がって元気をアピールする朝霞にカメラはズームした。
(朝霞ちゃん、よかった)
 アルは踊るように軽やかなステップで巨鳥の攻撃を避けている。巨鳥は鋭いかぎづめでアルを掴もうと、急降下する。しかし彼女の姿が左右に分身し攻撃は失敗する。両側からふたりのアルが剣を振り下ろす。翼にシンメトリーの傷がついても巨鳥は落ちない。しかしあまり高くは飛べなくなったようだ。
「任せて、ギリギリまでボクが引き付ける」
 アルが巨鳥の敵意を背に受けながら、タイガードの元へ走る。
「今だよ!」
 アルを追う巨鳥の動きが止まった。咲雪がライブス製の網を投げつけたのだ。執念深くもがいて、網から逃れようとする巨鳥の両翼をアルが街路樹に固定する。はりつけ状態だ。
「……ん、拘束しちゃえば……火力低くて……も、ボコボコにできる」
(その絵面はヒーローとしてはどうかと思うわ……ってあら?)
 タイガードが殴っても蹴っても、鳥はギャアギャアと抗議の声を上げるばかりである。
「……ん、火力、足りない」
 強打して、早く解放してあげた方が鳥としてもありがたいだろう。
「……ん、せーので連続攻撃」
 右、左、右。巨鳥の体がグラグラと揺れ、投げナイフが突き刺さる。オリヴィエも合わせて銃弾を撃ち込む。
「タイガード、とどめの攻撃を」
「わかりました」
 豪は閃いた。
「タイガーフライングキックだ!」
「あ、あれはトランポリンが……」
 バレーボールのレシーブのように手を組むタイガード2号。タイガードは助走をつけ、2号の手を踏み切り台にして飛んだ。
(よし……!)
 オリヴィエは同時に、固定された頭を狙撃する。決定打だ。カメラたちは美しい飛び蹴りでとどめを刺すタイガードを映す。巨鳥は瞬時に小さくなり、普通サイズのカラスに戻った。
「あと一体ですね」
 征四郎が上空へ逃げた巨鳥に矢を放つ。矢は避けられたものの、回避先に恭也が撃ち込んだ弾がヒットした。
「キョウヤ、もう一度行きますよ」
「ああ。タイミングはこちらが合わせる」
 ガルーはすっきりしない思いを抱えていた。
(しっかし、これで本当に良いのか……? 戦場ってのはよ、遊ぶとこじゃねぇだろうが)
 立派な癒しの力を持ちながらお遊戯に興じ続ける男。正義を語りながらも、それを守るための強さを持ち合わせぬ男。彼はある意味で無責任ともいえるのではないか。
(征四郎は、彼の優しさは本物だと思うのです。自分より強い相手に立ち向かう勇気も)
 結論は出ない。正義とは、かくも曖昧なものなのか。だとしたら正義の味方とは何なのだろう。タイガード=マックス――今、自らの弱さを痛感しているであろうヒーローは、一体何を思うのだろうか。

●閃光
「俺の必殺技を受けてみろ!」
 合図だ。全員が武器を構える。彼自身が役立たずと呼んだ光。その閃光に乗じての一斉攻撃だ。タイガードの脳裏に朝霞の言葉が浮かぶ。
「目くらまし、十分役に立つと思いますよ。閃光の瞬間に私達が敵を倒しますから。そしたら、閃光が収まった瞬間にはあたかもタイガードさんが倒したかのように見えますよ」
「タイガードフラッシュ!」
 ――それは一瞬の出来事。白い光はあたりを包み込み、従魔の動きを止め、カメラの映像を白塗りにした。だが、リンカーたちの視界が奪われることは無かった。朝霞の『パニッシュメント』の光が従魔『だけ』を焼く。彼の光もまたリンカーには効かない――なら、訓練すれば彼もこの技が使えようになるかもしれない。今はこけおどしの光だけれど、きっと希望につながる。
 恭也が、巨鳥の右の翼を射抜く。間を開けずオリヴィエの弾丸も命中する。左の翼には咲雪のナイフが突き刺さった。
 ――短くて長い閃光の終わり。世界に色が戻って来る。巨鳥従魔が垂直に墜落してきた。
「まだ憑依は解けてねえ!」
 七海が大剣を振り上げる。しかし――。巨鳥の鋭いくちばしが落ちる先には従魔から解放されたカラスが横たわっていた。タイガードは地面に飛び込んだ。
「ぐっ」
 鋭いくちばしが右の肩甲骨あたりに突き立った。
「もう一度フラッシュだ!」
 豪の言葉にタイガードは『必殺技』を繰り返す。朝霞も今一度、粛清の光を放つ。巨鳥従魔がカラスに戻っていく。同時に豪がタイガードを抱えてビルの陰に隠した。
「す、まな……」
「強いばかりがヒーローじゃない。君の優しさは、ホンモノのヒーローだ。ニセモノなんかじゃない」
 ――カメラに再び『彼』が映る。
「悪は滅んだ。しかし戦いは終わらない。俺の名は超人戦士タイガード=マックス!」
 いつも通りのエンディング。テレビの前の視聴者は突然の生放送に満足し、日常に戻って行った。
「動けますか?」
「ああ、助かったよ」
 ビルの陰。征四郎の言葉にタイガードが頷く。背中の穴はふさがっていた。エンディングを完璧にこなした『タイガード』は、座り込んでいるタイガードの側に駆け寄った。
「ナイスフォローだったのです」
 立っている『タイガード』はプロジェクターの電源を切る。虎柄ボディースーツが消え、ゴーガインの赤いスーツが姿を現した。
「タイガード助けて! 怪我しちゃった!」
 伊邪那美が足を抑えて座り込んでいる。タイガードたちは交代の合図に片手でハイタッチした。
「治してるふりで大丈夫。カメラはまだ回ってるよね?」
 伊邪那美の言葉にタイガード――こちらが本物――は頷いて小さな光を放つ。恭也が言う。
「正直、何かを壊す事よりも何かを癒す事の方が遥かに素晴らしいと思うのだがな」
「相手をかっこよく倒す姿は印象が強いからね。少しずつでも戦う姿から癒す姿に移行していけば良いと思うよ」
 小さく礼を言う声は震えていた。
「タイガード=マックスが実はそんなに強くなかったなんてちょっと親近感が湧きますね」
「前向きだな……」
 征四郎の言葉に呆れるガルー。その眼はもの言いたげにタイガードを見ていた。

●これからの話をしよう
 タイガードはくたびれた財布からありったけの紙幣を取り出した。五々六はひったくって『口止め料』を勘定する。
「……こんなこと続けてりゃ、周りの一般人にも被害が出るぜ」
「それは……」
「弱いから仕方ねえ、か? 強くなる努力をしてから寝言ほざいてんのか、お前は」
 彼は背中を向けて歩き出す。
「しけてんな。また気が向いたら請求しに来るからよ」
「卑劣な真似を……」
 征四郎の肩をガルーが押し止めた。
「いつも上手くいくとは限らねぇぜ、ジョージちゃん。誰かを守りきれなかった時、『ここに居たのが自分でなければ』って思うんなら、お前さんはやめておけ」
 征四郎は澄んだ瞳でヒーローを見る。
「辛い戦いの最中でも尚熱い、タイガードが好きです。それは征四郎にとっても、勇気になっているのですから」
 あ、と短く声をあげ写真とサインをお願いする。タイガードは笑顔で応じた。
「他のエージェントの力を借りて、今回みたいにかっこよさを演じ続けるのもいいと思う」
 頼まれてシャッターを切ったオリヴィエがぽつりと言う。
「嘘を突き通し続ければそれが真実だよ、厳しい道だけどね!」
 リュカはにっこりと笑った。
「何かお礼を……」
「いらない、施設の方に回しておけばいい」
 ぶっきらぼうに答えるオリヴィエ。リュカは冗談めかして言う。
「ふふ、今はいらないけどもっと人気になってばんばん稼げるようになったら街のバリアフリー化とかにもお金だしてよ、回り回ってお兄さん助かるしマックスの印象も良くなって一石二鳥」
 タイガードが共鳴を解くと、ウラワンダーとゴーガインも普段の姿に戻っていた。
「礼など受け取れん。俺達は当然の事をしたまでだ」
「ええ! お礼はもういただきました。タイガードの正義の心、魅せていただきました!」
「そんな……」
「それじゃあさ、今度オレをタイガード=マックスに出演させてくれよ!」
 ガイが言うと、ジョージはキャスティング権もないだろうに真剣に考えている。豪が苦笑した。
「困ったらいつでも呼んでくれ。必ず力になる」
 咲雪がぼんやりとやり取りを眺めていた。
「えっと、ご飯でしたよね」
「いいんです! 気にしないでください!」
 アリスは恐縮した。妄想のネタならお腹いっぱい頂いたのだから。しかし美青年は擦り切れたジーンズの裾をめくり、靴下の中から紙幣を取り出した。
「非常用です。なぜか怖い人に目を付けられることが多くて」
 五々六は呼ばれた気がして後ろを振り返った。勿論、誰もいない。
「……ふつう……礼には及ばねえぜ、みたいなの?……言うんじゃないの?」
「自業自得。弱ぇからこうやって食い物にされんだよ」
「……トラ、クズがいるよ」
 嫌なら、嘘が嘘でなくなるくらいに強くなることだ――五々六は思う。戦い続ければリンカーは着実に強くなる。足りなければ技術で補えばいい。グロリア社にでも売り込めば、良質な装備を提供して貰える可能性もある。やることをやってから絶望しろ。
(んなことを言ってやる義理、俺にはないがな)
 五々六は騒がしい声を背中で聞いていた。
「ゴウと一緒にトレーニングするのもいいかもな! 何事も気合だぜ、ジョージ!」
「そうだな。伊邪那美はああ言ったが戦う術を学ぶ事は必要だ。実像を幻像に近付ければ嘘も真実になるさ。訓練先に当てが無いなら、俺達で請け負うが?」
 恭也の視線を受けて豪とガイが力強く頷く。感激して特訓を依頼するジョージを英雄のケントは何も言わず見ていた。
「……ボクとしては地道に力を付けた方が良いと思うな~」
 繊細な美青年と不健康に痩せた少年。
(恭也達が教えるって言っても加減を知らなさそうで、ジョージちゃん達が地獄を見そうだよ)
 いずれにせよ、彼らは流されるままの弱者を辞めるつもりらしい。
「ド派手に攻撃は花形だなぁと思うけど、回復役もカッコいい。皆の生命線だもの。回復が得意なら、攻撃だけじゃなくそれを皆の前で発揮してほしいっていうのがボクの願い」
 アルの隣で雅が微笑む。
「お礼、か……そうね、貴方の事務所の責任者さん、一日お貸しくださる?」
 翌日、ジョージの事務所に彼女らはいた。『うっかり映ってしまったお詫び』をするために。しかし訪問から数分後、部屋の様子は一変していた。
「彼、一度ハッキリ駄目と断ったでしょう? それを押し切り強行した。能力に見合わないことをさせて命を落としたら本末転倒。命に責任を持つことはできるの? 彼は役者である前にリンカーなんです」
 社長は悲痛な顔で黙り込む。
「彼の後方支援行動を増やすこと。お約束してください。……大丈夫。本物のファンはこんなことで離れないわ」
 ジョージはその言葉が自分にも向けられていることを感じた。
「……ねえ、ジョージさんはどう思ってるの?」
 アルはジョージの眼を見た。彼はまっすぐ見つめ返してくる。
「このままではダメだと思います。人は誰だって弱い。でも、弱くても何かを守るために戦う。力が足りないなら、仲間と一緒に戦う。僕はそんな勇気を伝えたいんです」
「ジョージさん……」
「皆さんが僕と戦ってくれたから、そう思えた」
 ジョージは鞄から紙の束を出した。
「企画書?」
「これがこいつの……いや、俺たちの意思だ。話を聞いてくれ」
 深々と頭を下げるケントに一番驚いたのはジョージだったが、素早く立ち上がって相棒に続く。アルと雅は顔を綻ばせ、彼らの援護に回った。

●新番組予告
「突然、戦闘能力を失ってしまったタイガード。激しい戦いによる能力の酷使、彼の体は限界だったのだ。孤高の虎が選んだ道はHOPEへの所属。爆炎竜装ゴーガインとの出会いは彼に何をもたらすのか! 『救命戦士タイガード=マックス』第1話『真っ赤な夕日と涙の味』!」
 朝霞は次の予告を再生した。
「どんな形でも正義のために全力で戦う! 決意を新たにした彼の前に現れたのは聖霊紫帝闘士ウラワンダー。灼熱の街・熊谷で超人と戦乙女が舞う! 次回『溶けすぎたアイス従魔』お楽しみに!」
 マウスを持つ手が震える。まさか自分が出演できるなんて。ヤラセ番組は本物のドキュメンタリーになるという。地獄のトレーニングの成果が出るまでは、後方支援に励む彼を追うのだ。能力を失った経緯だけが夢を壊さないための嘘だ。
「HOPEは新たな広告塔を、番組は新たなスター候補を獲得する。お互いに悪い話じゃない、か」
「番組サイドの説得はかなり大変だったみたいよ。かなりの路線変更だし人気が保てるかは賭けだわ。ネットでも賛否両論。おまけにこれからは本物の敵を相手にする。平坦な道ではないはず。……でも私は信じたい」
 ホームページには新たな決め台詞が書かれていた。
「決して砕けぬ虎の心、いかなるときも全力で、守るは君の命の光、誰が呼んだかタイガード=マックス!」

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 太公望
    御神 恭也aa0127
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
  • エージェント
    獅子ヶ谷 七海aa1568

重体一覧

参加者

  • 魅惑のパイスラ
    佐藤 咲雪aa0040
    機械|15才|女性|回避
  • 貴腐人
    アリスaa0040hero001
    英雄|18才|女性|シャド
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • エージェント
    獅子ヶ谷 七海aa1568
    人間|9才|女性|防御
  • エージェント
    五々六aa1568hero001
    英雄|42才|男性|ドレ
  • 銀光水晶の歌姫
    アルaa1730
    機械|13才|女性|命中
  • プロカメラマン
    雅・マルシア・丹菊aa1730hero001
    英雄|28才|?|シャド
  • 夜を取り戻す太陽黒点
    飛岡 豪aa4056
    人間|28才|男性|命中
  • 正義を語る背中
    ガイ・フィールグッドaa4056hero001
    英雄|20才|男性|ドレ
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