本部

能力者だってウエディングドレスが着たい

睦月江介

形態
ショートEX
難易度
易しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2016/07/04 19:39

掲示板

オープニング

 HOPEというのはその性質上、愚神やヴィランによる事件の対処が仕事の大部分となる……。そのため、また厄介な敵でも現れたのかと鋭い目つき、ピリピリとした空気をまとって会議室に顔を見せた能力者達に対して、職員はばつが悪そうに頭を掻く。
「あ~……悪いんだが今回は戦闘があるような話じゃない。まあ、ヴィランと関わりがないでもないが肩の力を抜いてくれ。どちらかと言えば俺個人の頼みだしな」
 警戒心が和らいだところを見計らって、職員が改めて話を始める。
「実は俺の友人が雑誌の編集者をしてるんだがその雑誌で取り上げる予定だったモデルがヴィランの起こした事件で怪我をしてしまってな……事件そのものは解決したんだが、代わりのモデル探しに難儀していてHOPE、というか俺にも泣きついてきたんだ」
 なるほど、事件の後処理の一環と考えればHOPEの仕事ともとれるし、職員の個人的な頼みともとれる。
「それで君達が良ければ、モデルをやってみないかということだ。報酬はあまり出せないが、お願いできないだろうか?」
「モデル、とはいうがどんな服を着るんだ?」
 話を聞いていたうちの1人から至極当然のそんな質問が来ると、職員はさらに困ったような顔をする。
「……今月は何月か、覚えてるか?」
 聞くまでもなく梅雨の時期、6月だ。
「……ジューンブライド、って言葉があるだろ? その雑誌で載せる予定なのが、ウエディングドレス特集だ」
 これは確かに頼みづらいのもわかる気がする……ウエディングドレスを着ると婚期が遅れるというジンクスもあるのだ。
「所詮迷信だとは思うが、そういうのを気にする女性もいるだろうからな。気にしない、ウエディングドレスを着てみたい、ということなら俺から話を通しておくから、一度考えてみてくれ」
 主役は女性だが、男性も一緒にタキシードで写真撮影する、写真を撮影する側に回る、カメラマンの手伝いをするなどそれなりに仕事はある。雑誌で取り上げられればHOPEとしても個人としても宣伝効果があり悪い話ではない。たまには平和な写真撮影というのも良いだろうがドレスには『サイズ』というある意味愚神に匹敵する強敵が存在する。そのあたりも考えると平和ながらも、侮れない依頼……かもしれない。

解説

 怪我をしてしまったモデルの代わりにウエディングドレスを着て写真撮影を行いましょう。ドレスは『細身』『普通』『ゆったり』の3タイプからサイズを選べます。頑張って細身のドレスに挑戦するもよし、無理せず普通あるいはゆったりめのもので妥協するのもよし。体形によっては『入らない』という敗北を喫する可能性もありますがその場合は1つ大きいサイズをスタッフさんが用意してくれます。
 男性はスタッフの手伝い、タキシードを着用して一緒にモデルとして撮影を行う、自らカメラマンとなって撮影する、という3つの選択肢が取れます。3つ目に関して下心を出しても構いませんがその後については保証しかねますのでご注意ください(笑)
 女性ファッション誌の特集に載るため、宣伝効果がある程度期待できるのでそのあたりのアピールをしていただいても構いません。

リプレイ

●平和な戦場
 久々の平和な依頼にある者は楽しげに、ある者は困惑しながら、またある者は友人やパートナーに謀られたとこぼしながら撮影会場に訪れる能力者と英雄の面々。思惑は様々なれど、どこか安心感を持っていたのだが会場に入るなりそれが蜂蜜のように甘い考えであったと思い知ることになった。
 所狭しとスタッフが駆け回り、叱責と怒号が乱れ飛ぶ……さながら戦場の様相を呈していたのだ。
「今日は能力者の方々が大勢いらっしゃるんだから、気合入れなさい! そこ! 小道具やアクセサリーどうなってるの!」
「はい、今出し終わったところです!」
「よろしい。カメラの準備は? 今回こそは編集長にグゥの音も出ないような記事を叩きつけてやるのよ!」
「バッチリよぉん。燃えてるわねぇ、もちろんあなただけじゃなくワタシも含めたスタッフ全員なんだけど。期待してもらいましょ」
 指示を飛ばす責任者らしい女性から若干私怨が見えた気がしないでもないがカメラマンが告げたように全員の士気は高い。
「ふわぁ……すごい熱気ですね」
 想像をはるかに超えるスタッフの様子に気圧される黒金 蛍丸(aa2951)。彼自身はスタッフの手伝いをしつつ詩乃(aa2951hero001)の思い出作りができれば、という好意によって参加していたのだが流石にこれだけの祭りとも戦場ともつかない激しさは想像していなかったのだろう。完全に空気に飲まれてしまいシエロ レミプリク(aa0575)の目が怪しく光っていることに気付くことはなかった。
 この平和な戦場に対する能力者および英雄達の反応は様々だ。蛍丸や黄昏ひりょ(aa0118)のように完全に空気に飲まれてしまうものもいれば、純粋に楽しもうという気持ちを前面に出している雪峰 楓(aa2427)や白雪 煉華(aa2206)、早瀬 鈴音(aa0885)といった面々。
「私達が怪我をしたモデルさんの為になれるなら、喜んで……」
『そうだな……それに女性ファッション誌にHOPEを宣伝する良い機会だ』
「やるからには責任を果たそう。何でも言ってくれ」
 これも1つの依頼であり使命と考え真剣な表情で臨む月鏡 由利菜(aa0873)、リーヴスラシル(aa0873hero001)、飛岡 豪(aa4056)といった顔ぶれ。
「騙された……」
「貴女……最近よくこの手の依頼受けてくるわね……私にも得手不得手があるのよ?」
『何をいう。何事も経験じゃぞ? 決してわらわがドレスを着てみたかったからではないぞ?』
(……着てみたかったのね)
『ゴウも花嫁姿の女の子を見ればきっとその気になるに違いないぜ!』
 パートナーに騙されたり丸め込まれたりした橘 由香里(aa1855)や国塚 深散(aa4139)は何でこんなことに、という後悔が先に立ってテンションが上がらないが、逆に丸め込んだ側である飯綱比売命(aa1855hero001)、ガイ・フィールグッド(aa4056hero001)などは純粋に楽しんでいる者達に負けず劣らずイイ笑顔であった。。
 梅雨の陰鬱な空気など吹き飛ばしてしまいそうな熱気の中、次々とドレスが試着室に運び込まれスタッフが手招きする。華やかな撮影の時間は、近い。

●王道の純白、Aライン
 一口にウエディングドレスと言っても、そのデザインは多彩である。正直なところ、特に男性は違いがよくわからないのではないだろうか。むろん例外はあるが、ウエディングドレスは基本的にAライン、プリンセスライン、マーメイドライン、エンパイアライン、スレンダーラインの5種類のシルエットがある。タイトでボディラインを強調する細身のデザイン、スレンダーラインについては今回希望者が出なかった。
 ウエストの位置が高く、上半身から裾にかけて徐々に広がっていくシルエットが、アルファベットの「A」の形にみえることが名前の由来であり、シンプルで上品かつ、特に体型を選ばないシルエットであることから人気の高いAラインに挑戦したのは由香里、詩乃、そしてナト アマタ(aa0575hero001)。もっとも、ナトに関しては小柄というより小学生とほぼ同じ体格なので合うものを選んだら必然的に子供写真のような形になり、こうなったという感じである。しかし、パートナーのシエロに喜んでほしいナトはそれでよしとはせず花をあしらったアクセサリーなどを生かしてしっかりと個性は出るようにコーディネート……しようと思ったが今度はうまくつけられない。やむを得ず友達である詩乃を頼る。
『……つけられないの』
『あ、はい。それじゃあつけますね……』
 そこで、ナトは詩乃が浮かない表情をしていることに気付く。
『……どうしたの?』
 俯きながらもはっきりと伝えられたのは『蛍丸と一緒に写真を撮りたい』という言葉。それを聞いてぐっと拳を握るナト。
『……蛍丸も、きっと撮りたいよ?』
 詩乃の気持ちを一生懸命応援する思いで自分のコーディネートもそこそこに蛍丸の所に連れて行こうとするが、それは由香里に阻止される。彼女自身、最初は裏方でいいと思っていたものの、ついモデルを引き受けまったのは回りの雰囲気に流されたというのもあるが、ちょうど話に上っている蛍丸が彼女にとっても親しい友人である点も大きい。
 心情的には彼は友人以上の存在だが、誰にでも優しい以上自分が特別な存在ではないのだろうとどこかでしっかりとブレーキがかかっている。だからこそ、二人に正しい言葉を告げた。細身でさりげない装飾の施された純白のウエディングドレスは、完璧な着付けもあって可愛らしい、というよりは知的な美しさを感じさせた。
「そこまでよ。これも依頼だし、せっかくの写真撮影なんだから中途半端はダメよ……どうせなら、しっかりとコーディネートを終えてからにしましょう」
 由香里の言葉はもっともだったので、ナトもいったん引き下がる。諦めたわけではなく、もっと綺麗になって、大切な人を喜ばせるのだという決意を持った後退だった。詩乃も同意してナトのコーディネートを再び手伝い始める。そう……どうせなら、しっかりとコーディネートを終えて彼が驚くくらい綺麗になってから、一緒に写真を撮ろう。

●気分はお姫様、プリンセスライン
 今回特に人気を集めたシルエットの1つが、ウエストでラインの切り替えがあり、スカート部分が裾に向かって大きくふくらんだデザインの、正統派ウェディングドレスであるプリンセスラインだ。このタイプのドレスを着たのは由利菜、鈴音、楓、深散、それにフローラ メルクリィ(aa0118hero001)。
 やはり女性の喜びであるウエディングドレス、加えてスタッフも含めて大勢の女性が集まれば自然と会話は賑やかになる。
「これとかどうかな?」
「えー、ちょっと大人し過ぎない? ちょっと主張が強いくらいでちょうどいいって!」
「そうねぇ……確かに今回は華やかだからインパクト欲しいわね。このリボンのやつとかどうです?」
「そ、そうですね……」
 自分よりも数段テンションが高いスタッフに押されているうちにあれよあれよとドレスが決まってしまったのは深散。いつもはずっと下ろしている髪を結ってもらい、お化粧もしてもらって鏡の前に立ってみればそこにいたのはまさに別人。フリルが段々状に重ねられたティアードスカートに胸元の大きなリボンと可愛らしさが押し出されたドレスもあって、あまりの印象の違いに息をのむ。
「これが、私……」
 友人であるシエロのウエディングドレス姿を見られると九郎(aa4139hero001)に聞いて見学に来たのに何故か自分がドレスを着ることになっている事に気分が落ち込んでいた事実を、忘れてしまいそうだった。
 一方で、自分で明確なコンセプトを持って臨んだのは鈴音と由利菜。鈴音はパートナーであるN・K(aa0885hero001)に着付けてもらいつつ雑談を楽しんでいた。
「N.Kはいつもドレス着てるじゃん?」
『ウェディングドレスはまた別物なのよ?』
 由利菜はといえば2着のドレスと真剣ににらめっこをしている。その2着はデザインそのものは大差がなく、本人の希望もあってシンプルなものだ。気にしているのはサイズ……普通のサイズで問題ないといえば問題ないのだが、実は胸がちょっときつい。
(む、胸の為だけに服を大きくしたら、太っていると思われそうで……)
 だが、現に胸はきつい。でも太っていると思われたくもない。プライドと現実の狭間に揺れる由利菜。うんうんと悩んで結果が出たのは他のプリンセスラインを着る能力者達の着付けがあらかた終わってからだった。
「こ、こっちでお願いします!」
 選んだのは普通のサイズ……最終的にはプライドが勝ったらしい。そうして着付けも終わり、表現されたコンセプトは赤系のデザインでまとめたものでさしずめ『紅の姫君』といったところか。ハートネックレス、ペアブレスレット、プリンセスハイヒール、プリンセスティアラといった品を持ち込み、更にメイクセットを使用し口紅はルージュ・ソレイユという気合の入れよう。さらにレンタルしたヴェール、赤薔薇の髪飾り、ルビーの指輪まで組み合わせれば花婿が霞んでしまわないかと心配になる美貌の出来上がりだ。
「うーん、確かにウエディングもカラーが増えてきたけどやっぱりどっちかと言えば白だったり、可愛らしいパステルカラーが人気なんすよね。これだけ鮮やかな赤で固めると上品で大人っぽいから、そっちのお嬢さんの写真と並べると良い対比になりそうっす」
 蓮っ葉な話し方をする女性カメラマンの指した先は鈴音。彼女のコンセプトは『王道の中に少しだけ自分らしさを』といったテーマで、ほんのり桃がかった白系のドレスは上半身はシンプルにまとめつつ、ティアードスカートに薄生地を用いて白とピンクのコントラストで可愛さアピールしている。
 カメラマンの女性の意見に賛同しつつ由利菜のドレスを見てはしゃぐN・K。
『見て見て鈴音。凄く大人ぽくて素敵よ』
「N.Kも大人なのににあわなそうだよね」
「急に居住まい正してもダメだからね、もう自分の選んだんだし」
『二つ着るって選択肢は?』
 極めて魅力的な選択肢を提示されたN・Kだが、文字通り鉄火場と化しているスタッフの様子を見ると少々気が引ける。そのため保留、という無難な返事を返すに留めた。
「私はどうしましょう。飛鳥さんが綺麗めな感じですから、うんと可愛くしてみましょう♪ お嫁さんですし」
自分と主にある英雄であり、何としても落としたい桜宮 飛鳥(aa2427hero001) の、という言葉は器用に飲み込む。純白のドレスはやや主張が強めなので、ヴェールはシンプルめのショートヴェールに。パートナーと一緒に撮影することを前提にしたまとめ方であると言えた……一方で、方向性に悩むのはフローラ。彼女は深散同様にスタッフに任せることにしたのだが、なまじ整った容姿だけに可愛い系で行っても、大人っぽい方向でまとめても問題がなさそうであり、明確な方向性を打ち出せないでいたのだ。
『どうしようかな……』
 そこに助け舟を出したのは由利菜だった。
「フローラさんは無邪気で明るいのが魅力ですし、綺麗な金髪が映えるように可愛い系でまとめるのがいいと思いますよ」
 フローラの長所を生かす方向のアドバイスを受け、スタッフが理解を示したうえでドレスを選んでいく。
「それならこのパフスリーブのがいいんじゃない?」
「スカートは、ティアードスカートだと被っちゃうからタッキングスカートが良さそうね」
 男性諸氏のために説明すると、パフスリーブは袖部分を膨らませたデザイン、タッキングスカートはスカートの生地にひだ(タック)をよせて、ボリュームを出したデザインである。こうして、華やかな盛り上がりとともに撮影の準備は進んでいくのだった。

●美しき人魚のように、マーメイドライン
 プリンセスラインと並んで希望が多かったのは、マーメイドライン。これはその名の通りマーメイド(人魚)のように、上半身から腰までは身体にぴったりとフィットし、裾へむけての部分は魚の尾びれのように広がっているデザインのドレス。希望者は飯綱、飛鳥、メリュジーヌ(aa2206hero001)、そして九郎。しかし、プリンセスラインに挑戦した者達と比べると明らかに迷いの色が濃い集団になっていた……というのも、半数は自分から希望したというよりはパートナーに選んでもらったのがマーメイドライン、というやや消極的なチョイスの仕方だった者だからである。時間は、プリンセスラインを選んだ能力者達の着付けの少し前にさかのぼる。
『うん? 西洋の花嫁衣裳か。なんだ、楓はこういうのが好きだったのか……そうかそうか。ならば好きなのを選んでくるがいいさ』
「ささ、一緒に着ちゃいましょう♪」
『……は? 私も着ろと?? え……?? いや、うん???? ちょっと待て、押すな。ええい、わかったわかった……こういうのはわからないのだがなぁ』
「大丈夫大丈夫。私が選んであげますから。飛鳥さん、背が高いですからねー、髪も長くて綺麗ですし。ヴェールはマリアヴェールとか合いそうですねー、合わせると綺麗ですよ♪」
 と、こんなやりとりがあり飛鳥に関してはほとんど楓に押し切られてオフホワイトのウエディングドレスを着ることになった。
『……か、肩や胸元が出るのか』
 ウエディングドレスの露出に困惑する飛鳥。だが楓に押し切られてしまい、引くに引けなくなってしまった。
『……う、やはり思ったより露出が多い。一度気になってしまうと頭から離れんぞ。ええい、ついでに楓はなぜ私にひっついているんだ』
「いいじゃないですか、綺麗ですよ。飛鳥さんってば、女装しても似合いますね♪」
『女装しても……』
 その言葉に肩を落とす飛鳥。中性的な容姿の侍ではあるが、まぎれもない女性がこれを言われれば落ち込むのは当然といえた。一方、楓と比べれば強引ではないがノリノリの煉華と表情には出さないものの落ち着かないメリュジーヌも割と近い状況であった。
「やっぱり、ウエディングドレスは女の子の憧れよね~。いい機会だしメリュジーヌちゃんには今のうちに体験してもらって欲しいわね~」
『これがウエディングドレスか……私の肌色でこの服が似合うのだろうか……』
「心配しなくても、むしろ独自の魅力が出ますよ。というより、目の前の美人を魅力的に仕上げられないヘボスタッフがいたとしたら問答無用で吊し上げます」
『そ、そうですか……』
 不穏な言葉も聞こえた気がするが、責任者の女性自ら大丈夫、とフォローしてくれた。
「背が高いからこのマーメイドタイプは似合うわね~♪」
「そうですね。しかしこれではちょっと主張が強すぎるような……こっちとかどうでしょう?」
「そっちも捨てがたいわね~。アクセサリーで調整してみます?」
「それが良さそうですね、こっちに2、3種類適当に見繕って持ってきて頂戴」
 といった具合で責任者と煉華に流されるようにドレスを選んでいくメリュジーヌだが、ここでスタッフに筆記具を借りて何やらメモを始める。書かれていたのは煉華のドレスのサイズだった。
『係りの人、すまないがこのサイズのドレスがあるだろうか? 私の連れにも着せてあげたい』
 受け取ったメモを見て、スタッフが探すが残念ながらちょうど良いサイズは見つからなかった……煉華は小学生並みの低身長にそこらのモデルをはるかに上回る豊満なバストという極端なスタイルをしている。
 なので、見つからなくても仕方がないといえば仕方がないのだがやはり小声で残念そうな声が漏れる。流石に今回ばかりは自分のスタイルが妬ましい。
「はぁ……私もいい人いたら着れたかしらね」
 そんなこんなで戸惑っている二人の横でそれなりに楽しんでいるのは九郎と飯綱。
『うーん、計画が狂ったな……ま、気を取り直して、僕は僕で楽しもうっと』
 九郎はシエロのドレス姿を餌に深散を釣ってきたのだが、本人にその気がなかったのだ。これは怒られそうだな、とは思ったがとりあえず自分の楽しみを優先。中性的で性別がはっきりしない九郎に深散は尋ねる。
「九郎って、どっちなんですか?」
『秘密』
 どっちとは無論性別のこと。だが九郎は口許に人差し指を当ててそう答えるだけだった。その後、深散が着付けを終えて試着室から出てきたのとほぼ同時に彼女(彼?)も姿を現す。九郎のドレスは背中が大きく開いたもので、胸はないものの身体のラインがとても綺麗で嫉妬を覚えるほど。
 女性スタッフがポッと頬を赤くした満足そうな顔で、小走りに去っていく。更に隣にも瞳を潤ませた女性スタッフさんを侍らせており、変な事をしていないか、後で問い詰めなければと思う深散だが、当然問題行動などあるはずもなく。
『着せ替え人形になってただけなんだけどなー』
 とのことだった。一方、飯綱は髪の色もあって美しい純白が目を引く九郎とは二重の意味で対照的な様子だった。まず、そのドレスはスタイルの良さを際立たせる深紅。そしてスタッフに振り回されていた九郎とは逆に、振り回す側である。普段和装以外あまり着ないのでドレスには興味津々だったということもあり、あれもこれもと試したり色々アクセサリーを付け替えたりしている。
 細身のドレス挑戦して、あきらかに胸が大きくサイズオーバーとわかりそうなものだったのだが苦戦した挙句諦めて渋々普通サイズにしたというのもあって、悔しかった分他で取り戻そうという意志が見て取れた。

●個性派淑女と男たち
 ある程度定番のドレスに人気が集まったが、中には個性的なチョイスをした者もいる……筆頭はN・Kだろう。彼女が選んだのは薄黄色のボールガウンドレス。ボールガウンとは、本来舞踏会用ドレスのラインでありプリンセスラインともAラインとも違う、スカートの広がりがゴージャスなドレス。
 彼女のテーマは『沢山の花に囲まれたお姫様』。肩ひものない、ベアトップ形状の胸元のラインに花を模した飾りが並び程よく開いた背の下側に大きなリボンが付いている。更にポールガウン特有のボリュームのあるスカート部には幾重にもギャザーが入っており、至る所に飾り付けられたオレンジ色の小さな花が見え隠れする非常に凝ったデザイン。後ろ髪はアップさせたまま片側にそっと花コサージュを添え、パートナーの鈴音同様愛らしさが際立つ姿となった。
 リーヴスラシルは今回唯一のエンパイアライン着用となり結果的に個性が強く感じられるようになった、というところだ。エンパイアラインとは胸下に切り替えからスカートが伸びていくデザインのドレス。彼女は赤系でまとめた由利菜と対になるような青系でまとめられており、共にある由利菜が『紅の姫君』ならばさしずめ『蒼の騎士』といったところ。
 持ち込まれた由利菜とペアのブレスレット、純白のベール、薔薇のコサージュにレンタルしたハイヒール、サファイアの指輪。その華麗で風格を感じさせる姿はやはり花婿が霞みそうな勢いである……強いて言えば本人が若干苦い顔をしているのが惜しい。
『やはり、辛うじて収まる位か……』
 実は彼女も由利菜同様胸がきついのだった。そんな苦労を知ってか知らずか、個性という言葉すらぶっちぎっているのではないかと思われるのがシエロ。
「待っててナトくん! 素敵になって帰ってくるから!」
 そう宣言するなり、彼女はドレスではなく、男性用のタキシードを着るという選択をしたのだ。長身ゆえに黒のタキシードに普段は鉄仮面と眼帯で隠している顔の左半分にシンプルなヴェネチアンマスクをに装着し、髪は一本に束ね前髪オールバックというのが様になっているのが逆に言葉に困る。彼女が黒のタキシードだから、というわけではないが豪は紺、ひりょは白のタキシードを着て相手役も揃ったところで、悲鳴があがる。その声の主は、蛍丸。
「い、飯綱さん……一体僕をどうする気ですか!? た、橘さーん!」
 見れば、悪戯心が働いたのか飯綱が蛍丸にドレスを着せようとしているようだった。メイクセットもあり、そのまま美少女メイクまで施そうと企んているのは明らか。心なしか、その様子を見ている楓も頬を染めてハァハァと荒い呼吸をしているようだ。
『別に取って食おうというわけでもないのに怯えた小動物のような目をすることはないじゃろ』
「そうですよー、ちゃんと可愛くしてあげますから♪」
 二人の魔の手が伸びる……よりも先に瓦割りでもするつもりなのかと思えるような重い手刀が振り下ろされた。由香里である。
『おおぉ……』
「はうぅ……」
 頭を押さえてうずくまる2人を気にしつつも礼を述べ、スタッフの手伝いに戻ろうとすると今度はがっしりと肩を掴まれる。
「…………え?」
 信じられないような膂力で肩を掴んだのはシエロだ。一難去ってまた一難、という言葉が蛍丸の脳裏をよぎる。
「シ、シエロさん……? あの……どうしました? って……待って……誰かに見られたら誤解されます!」
 シエロは有無を言わさず更衣室に蛍丸を連れて行こうとしたため、思わず抗議する。すると、ぶつけられたのは叱りつけるような強い言葉だった。
「他に! 誰が! 詩乃ちゃんをエスコートするのさ!?」
「ちょ、ちょっと……待ってください! 僕、こういうのは……その……」
 確かに詩乃をエスコートするべき、と言われればその通りなのかもしれないが彼女の気持ちを知っているからこそ戸惑ってしまう。その煮え切らない様子を見てこめかみに青筋が立つが早いか、シエロはそのまま蛍丸を強制連行する。
「大丈夫大丈夫♪ 恥ずかしいのは最初だけだよー!」
 その言葉とげへへという品のない笑いが残念な美人、というレッテルを張られるものだという自覚は彼女には無いようであった。

●いざ、撮影
『……このぐらいでいいのか?』
「そうそう。ウエディングドレスの白は少しカメラの方でも明るさを調整してあげないとぼやっとした印象になっちゃうのよ。アナタ、筋はいいじゃない」
 甘ったるい話し方の偉丈夫(本人曰く漢女)カメラマンの指導を受けているのはガイ。彼はタキシードを着てモデルをやるのではなく、カメラマン兼その他の手伝いだ。良くも悪くも真面目な熱血漢なので、カメラマンという仕事に全力投球していた。彼が最初に撮影するのは楓と飛鳥。
『……むっ、細身の衣装の割に動きにくい。いや、嫌いではないんだが。白無垢とは全然違う』
『リラックス、リラックス!』
 着慣れないドレスと、その露出にぎこちない様子の飛鳥に声をかけるガイ。そんな戸惑って赤くなっている様子も可愛い、と楓は飛鳥の腕をとって撮影を促す。
「飛鳥さんも容赦なく撮っちゃってください!!」
 任せておけ、とシャッターを切るガイ。
『いいぜー! いいぜー! 超いいぜー!』
 こうして一段落ついたところで、楓から飛鳥にとっては爆弾に等しい提案がされる。
「beforeの姿も添えて変身っぷりを出すといいかもしれませんね。お侍さん(イケメン・♀)がこうなりましたという感じで。ギャップ萌えって良いですよね!」
 どうやら、雑誌が完成すると飛鳥は頭を抱えることになる、という未来は確定したようであった……。

●イケメン紳士と4つの花
 ガイがシャッターと切っているのと同じ頃、当然他のカメラマンも撮影を行っていた……漢女カメラマンが手掛けるのは由利菜、リーヴスラシル、鈴音、N・Kの4人。併せて、紺色のタキシードに身を包んだ豪にもお呼びがかかる。
「皆、実にチャーミングだな」
 口調は淡々としているものの、真摯に相手を褒める豪。
「でしょ? 衣装担当も頑張ってくれたんだから、ワタシも応えないとね。やっぱりこの二人はアナタにパートナー頼まないとダメね」
「……そうなのか?」
 カメラマンが指すのは由利菜とリーヴスラシル。それぞれ個別の撮影と2人を一緒に撮影する場合は問題ないが、花婿役と並べると完全に食ってしまっているのだという。
「ほら、2人とも大人っぽいドレスでしょ? 特に青いドレスのカノジョは背も高いから、背丈が近いとどうしても花婿が霞んでバランスが悪くなっちゃうのよぉ」
「なるほど。では俺はどんな感じで立てばいいんだ?」
「そうねぇ、とりあえずは基本通り花嫁と一緒にカメラ目線で立って頂戴。綺麗な花嫁と並んで緊張するのはわかるけど、スマイルで頼むわよぉん」
『鈴音、やめなさい』
 そんな撮影の様子を写メールに収めようとしてN・Kに)怒られる鈴音。
「そういえば雑誌用だったんだっけ」
 それにしても、羨ましいなぁと声を上げる鈴音の視線の先はリーヴスラシルの胸。大きいだけでなく、形が良く本人の美貌もあってまったく下品に感じないのだから、羨ましいと思うのは無理からぬことだが当の本人からは冷めた言葉が返ってくるだけだった。
「重くて困るだけだぞ……」
 そんな言葉を交わしている間に、次はN・Kの撮影。ここで彼女はカメラマンに椅子に座ったり、やや見下ろし視点であったりといったスカート部分の広がりをみせる構図を頼んでみる。
「やっぱり、せっかくのボールガウンだものスカートを強調したいわよね……OKよ♪ 椅子の準備なんかもあるし、ちょっと単独の撮影に時間がかかりだから豪さんは一休みしていいわよん。休憩が終わったら、あの熱い性格の……ガイさんだっけ? あっちの手伝いに入ってあげて♪」
「承知した。ちょうど喉が渇いていたところだ」
 会場に咲いた4つの花との撮影に疲労を感じさせることなく、豪はスタッフが持ってきたお茶で喉を潤すのだった。

●緊張をほぐそう
「じゃあ、お願いしますね。メリュジーヌちゃんをうんと可愛く撮ってあげてください♪」
「任されたっすよ! そこに立ってもらえるっすか? うーん、表情があんまり良くないっすねぇ、ちょっと眉間にシワ寄ってるっすよ……あ、もしかして眩しいっすか?」
『ああ……実は少し』
「じゃあ、ちょっとだけ視線を下に寄せてみてほしいっす……そうそう、そんな感じっす」
 煉華がサポートしつつ、一見そつなく撮影をこなしているのはメリュジーヌ……だが、内心では緊張しておりパニックになりかかっていた。その緊張を察したわけではないが、ひりょには自分が一緒に撮影に加わる前の休憩でぎこちない動きをしていたため、逆に気合が入りすぎているように見えた。
(女の子にとっては花嫁衣裳って凄く思い入れのあるものだろうな……)
 このように実際は勘違いからなのだが、ひりょはリラックスしてもらえるようにと微笑みながら彼女に話しかける。
「花嫁衣裳、凄く似合ってますよ? 綺麗です」
『そ、そうかな?』
「ええ、とっても。俺なんか馬子にも衣裳かもですよ」
 苦笑してみせる。こういう時は自分達男性陣はある意味引き立て役だ。少しでも周りの皆が笑顔で楽しい時間を過ごして、今日を思い出に残る日にしてくれるようにサポートをしよう。ひりょはそう考えている。だからこそさりげない笑顔等、いい写真が撮れるように穏やかな雰囲気を演出してみせる。
(まぁ、実は自分へのリラックス効果も兼ねて、なのだけどね……)
 緊張を何とか隠しながら撮影を進めるメリュジーヌをほほえましいといった様子で眺めつつ、カメラマンと構図の相談などをしている煉華の後ろで何か、遠慮しているような様子をしている詩乃に気が付いたひりょ。フローラと話している様子が目に留まったのがきっかけだが、せっかくの機会なので背中を押してあげるべきかもしれない。
『う~ん、皆凄く綺麗だね♪』
『え、ええ……本当に』
 実はこういう綺麗な衣裳を着るのに慣れていないフローラは人に話しかける事で緊張をほぐそうとしているため、詩乃への配慮までは頭が回っていないように見える。幸い、撮影も一段落ついたところだったので微笑みながら2人に歩み寄り、そっと話しかける。
「せっかくのこういう機会ですから。いい記念になると思いますよ? ほんの少し、小さな一歩でもいいから、踏み出してみるといいかもです」
『小さな一歩でも……いいから……』
 詩乃は蛍丸も一緒に撮りたいと思う、というナトの言葉も思い出して、意を決して歩き出す。彼女が向かった先は由香里に飯綱、ナトとシエロが撮影を行っている一角。それを見るひりょの視線を見て、フローラがからかう。
『ひりょの鼻の下が伸びてるね~。綺麗な人一杯で嬉しいでしょ?』
「そ、そりゃあまあ……綺麗だとは、思うけど……」
 その先に続く、鼻の下を伸ばしているなんてことはない、という言葉と『綺麗な人』の中にフローラが含まれていることは恥ずかしくて口に出せなかった。

●違う、そうじゃない(多分)
『うーん、俺としてはもうちょっと何かあってもいいんじゃないかと思うぜ。次、交代で頼むぜ深散』
 九郎と豪の撮影を終えたガイだが、正直ちょっと物足りないと思ってしまった。というのも、最初の2人並んで普通に撮影した段階であまりにも絵になりすぎていて、変に手を加えるとかえって狙い過ぎという印象を与えてしまう程だったのだ。豪のパートナー探しという目的もある以上、もっと色々な構図で撮影して、需要を満たしつつその気になってもらわねばならない……とそんなわけで彼の暴走は始まってしまった。その手にあるのは『カップルポーズ参考集』なる謎の資料。
「HOPEの宣伝……。えっと、刀を構えてポーズを取れば良いでしょうか?」
『いやいや、それは違うと思うぜ!』
 いくら深散が美人だといっても、ウエディングドレスを着て刀を持った姿はB級映画のヒロインのようにしか見えない。
『壁ドンだっけ、ああいうの需要あるんじゃないか? やってみようぜ!』
 ガイの指示を受けて実行に移してみると、思った通り思わずどきりとしてしまいそうな構図であったが当の本人もやはり赤面してしまう。
「恥ずかしがる事はない。キュートだ」
 豪本人は緊張をほぐすために言ったのだろうが、いかんせん言葉選びがやや情熱的なため、傍から見たら口説いているようにも見えてしまう。深散は思わず言葉に詰まってしまうが、ガイからすれば非常に素晴らしい構図であり、成功である。そのままさらに無茶ぶりをする。
『さ! 次は横抱きしてみようか! ……お姫様抱っこだよ!』
「お姫様抱っこするんですか? 脚が金属なので重い、ですよ?」
 流石にアイアンパンクの性質上それは遠慮してしまうが、豪はそれすらもフォローする言葉をかける。その対応はまさに紳士。
「女性を抱えるくらい軽いものだ。それに、君は羽根のように軽いよ」
 しかもその言葉に嘘はなく、こともなげに彼女を横抱きにする。もはや惚れても文句が言えない程完璧だったが、意外と慌てふためくといった様子はない。仕事と割り切っているためか、単に鈍いのか、それとも九郎の存在ゆえか。答えは出なかったが、十分な出来の写真を撮影で来たところで、最後にガイが振ってみる。
『いっそキスシーンも撮ってみるか?』
「いや、流石にキスは駄目だろう」
 しっかりと止める豪。やはり物事には加減というものがあり、そこはきっちりと弁えるべきだと調子に乗りすぎたことで叱られてしまうガイであった……。

●その想いを伝えて
「いいですよぉ、次は少し下がってこっちを向いてください」
『ふむ。このくらいかの?』
「少し下がりすぎましたね、もう半歩前に……そうそう、そのぐらいでスマイル、お願いします」
 黙っていれば美人なので写真栄えする飯綱は、順調に撮影を進めていく。
「次に赤と白の対比で並べたいので、左に少しずれて。橘さんは右で……はい、そのくらいです」
 由香里も完璧な着付けに加えて堂々とした立ち居振る舞いでやや表情は硬いが、問題ないレベル。そして、椅子に座ってみてほしいとか、大きく手を広げてほしいといった要望が出てくる。後者はどうやら上から撮影することでドレスの広がりを表現したいらしい。
「構いませんけれど、これだけ人数がいて、何故こんなに幅広い構図で?」
「良い質問ですね。貴重な機会ですし、他のカメラマンも様々な構図に挑戦しているようですので私も、写真を載せてもらうために工夫してみようかと思いまして」
 TVでよく見かける解説者を思わせる口調でそんな答えを返すカメラマン。要するに対抗心なのだがまあ言わぬが華だろう。次はいよいよツーショット。パートナーは蛍丸に頼んだ。彼は由香里の手を取って、優しくエスコートしてくれた。だが明らかに緊張している様子だったので、気持ちは表に出さず依頼だから、という体を貫くように心がけたうえで言葉をかける。自分が年上なのだから『お姉さん』としてふるまいたいところも、少しだけあった。
「大丈夫。知らない間柄じゃないんだし、気楽に行きましょう?」
「よ、よろしくお願いします……橘さんとこういう風に思い出を作れるようになれるなんて……夢みたいです……はひ」
 結局蛍丸は気遣いもむなしく終始ガチガチだったため思ったよりも時間がかかってしまったが、無事撮影を終えて嬉しそうな彼の袖を引っ張るのは詩乃。女性カメラマンに一足先に撮影してもらい、手が空いたナトが引っ張ってきたのだ。想像以上に行動が早かったためシエロが蛍丸を引っ張ってくる手間は省けたが、結局本人は詩乃が膨れている様子に顔を赤らめて慌てるばかりで行動しない。その煮え切らない態度にカチンときたシエロは、蛍丸の背をバシーンと強く押してやる。
「まだ恥ずかしがってるつもりかい? ほら、気合入れて行っちゃいな!」
 2人の撮影はもちろん快諾。解説者風カメラマンは気を利かせてくれたようで、ただ並ぶだけでなく手を取ったり、横抱きにしたりといった構図を要求する。幸せそうな詩乃と由香里のパートナーで緊張しながら撮影を終えた直後に、即座に恥ずかしい構図の連発を要求されて赤くなる蛍丸のほほえましい様子を見てニヤニヤするナトとシエロ。むろん彼女らはとうに撮影を終えている。
「いやー、いい仕事しましたなあナトくん」
『……』
「ん? どしたの」
『……頑張った、ご褒美は?』
「んーそうだなあ、じゃあご褒美に……」
 グイッとナトの腰引き寄せるシエロ。そして性別を疑いたくなる、というか俳優顔負けのイケメンボイスで囁く。
「俺と、結婚するかい? お嬢さん」
『……!』
「にゃはは! なんちゃって! ……ってナトくん?」
『……!!』
 目を見開き、アイドルを前にしてキャー、なんて叫ぶ少女を思わせるリアクションを見せるナト。
「予想以上の反応が……!」
 ウチグッジョブ! と声には出さないがぐっと拳を握ってガッツポーズ。詩乃はちゃんと想いを伝えたし、おかげで見ていて楽しい撮影をしてもらっている。ナトのリアクションも予想以上に良かったためこれだけでシエロはお腹いっぱいなのだった……。

●撮影終了
 慌ただしかった撮影も無事終了し、使わなかったものから順に片付けが始まる様子を眺めながら詩乃は自分のわがままを聞いて一緒に写真を撮ってくれた蛍丸に頭を下げる。
『蛍丸様……今日はありがとうございました!』
「いえいえ、詩乃が喜んでくれたなら……本当に良かったです」
 優しい笑顔。だが、そこに見える陰りに気が付いて彼女は問う。
『あの、蛍丸様? 私が以前……お聞きしたことを今も悩んでおられますか?』
「はい……悩んでます……でも、詩乃のことは家族の一員と思ってますよ。家族と思っている女の子を恋愛対象としてみるのは難しいですね……」
 今度は詩乃の表情が暗くなり、慌てて笑顔を見せる蛍丸。
「いえ、詩乃の気持ちは嬉しいのですが……僕自身の気持ちがはっきりとしないんです。詩乃のことは大切です。ただ、恋心なのか……どうかは……」
『そうですか……』
 家族と、恋人……同じ大切な人なのに、この違いを考えると家族であることは、恋人からはひどく離れたものに感じられてしまう。悪いことは何もない……だが、つい俯いてしまう詩乃。
「あの、詩乃……詩乃のことは……好きですよ」
 答えは出ない。甘えかもしれないが、それでいいのではないかと蛍丸は詩乃の手を取った……。
 準備から撮影、片付けに至るまで終始慌ただしく動いていたスタッフ達に、ただ撮影しました、だけではつまらないだろうとガイが面白い提案をする。編集者達を含む、男性スタッフ全員にドレスを着せた集合写真、さらには女性陣にタキシードも合わせて、男女逆転集合写真である。
『雑誌の隅っこに載せるジョーク写真として、どうだ!?』
「あらぁん、素敵♪」
 真っ先に乗ったのは漢女カメラマン。責任者の女性もアリね! と想像以上に乗り気で撮影が決まった。
「じゃあ、撮影は私がするっすよ。ほら着替えた着替えた」
 ジョーク写真の撮影に注目が集まる中、人々の輪から抜け出して由香里は1枚の写真を見て、呟く。
「私は……臆病なのね。友人でいられる関係を壊すのが恐いなんて……」
『そうじゃな、せっかくの好機に踏み出せなかったのだから臆病と言われても仕方がないのう。今回は詩乃の勝ちじゃ』
 気が付けば、ドレスを着た写真に満足したのか、楽しげな表情を浮かべる飯綱が立っていた。
「勝ち負けなんて、ないでしょ……」
 からからと笑う飯綱に、すねたように返す。
『うむ、別にここで決まるとは限らぬな……じゃが、この先はどうかのう? わらわもそれなりに経験は豊富ゆえ、恋の悩みならばいつでも相談にのるぞ?』
「よ、余計なお世話よ!」
 顔を真っ赤にして怒る由香里。彼女や、モデルを務めた能力者達が本当に結婚式でウエディングドレスを披露することになるのはいつの日かわからないが、この日以上のよき思い出にならんことを……。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ほつれた愛と絆の結び手
    黄昏ひりょaa0118
    人間|18才|男性|回避
  • 闇に光の道標を
    フローラ メルクリィaa0118hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • LinkBrave
    シエロ レミプリクaa0575
    機械|17才|女性|生命
  • きみをえらぶ
    ナト アマタaa0575hero001
    英雄|8才|?|ジャ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 高校生ヒロイン
    早瀬 鈴音aa0885
    人間|18才|女性|生命
  • ふわふわお姉さん
    N・Kaa0885hero001
    英雄|24才|女性|バト
  • 終極に挑む
    橘 由香里aa1855
    人間|18才|女性|攻撃
  • 狐は見守る、その行く先を
    飯綱比売命aa1855hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • 妬ましい豊満
    白雪 煉華aa2206
    人間|14才|女性|攻撃
  • ポーカーフェイス
    メリュジーヌaa2206hero001
    英雄|24才|女性|ドレ
  • プロの変態
    雪峰 楓aa2427
    人間|24才|女性|攻撃
  • イロコイ朴念仁※
    桜宮 飛鳥aa2427hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 愛しながら
    宮ヶ匁 蛍丸aa2951
    人間|17才|男性|命中
  • 愛されながら
    詩乃aa2951hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • 夜を取り戻す太陽黒点
    飛岡 豪aa4056
    人間|28才|男性|命中
  • 正義を語る背中
    ガイ・フィールグッドaa4056hero001
    英雄|20才|男性|ドレ
  • 喪失を知る『風』
    国塚 深散aa4139
    機械|17才|女性|回避
  • 風を支える『影』
    九郎aa4139hero001
    英雄|16才|?|シャド
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