本部

【神月】連動シナリオ

【幻島】冬幻・ブリザート・パニック

渡橋 邸

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 6~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/07/08 19:56

掲示板

オープニング

●冬島の危機
 リゾート地として有名な四島「季節島」。そのうちの一つ、「冬島」は現在未曾有の危機に陥っていた。島全域を激しい吹雪が襲い、ライフラインはそのおおよそが止まり、連絡を取ることもかなわない。
「ど、どうすれば……!」
「このままでは皆死んでしまう! 私は嫌だぞ! そんなことになるくらいならば私1人ででも逃げてやる!」
「今外に出るのは危険だぞ! いいから落ち着け!」
 南のホテルのロビーは余暇を楽しみに来ていたセレブたちで溢れていた。彼らは例外なく現状に戸惑いを隠せておらず、一部は錯乱するほどまで追い詰められていた。
「H.O.P.E.は! H.O.P.E.は何をしているんだ!」
 最後の希望はこの異常をH.O.P.E.が察知することのみ。だが、そのH.O.P.E.も以前、ある件で揉めて以来関係は落ち込んでいる。本当に助けは来るのか――セレブたちは不安と焦燥で今にも発狂したいような気持ちだった。
 この異常を引き起こした原因はただ一つ。中央に存在する古代遺跡「クリュリア」の暴走だ。潜入したセラエノ諜報員はクリュリア奪取のために、クリュリア自身の特性を利用としたのだが、その考えは甘かったのだ。十分以上にライヴスをため込んだクリュリアはセラエノの思考の奥――クリュリア回収までの足止めという考えを最悪の形で実現した。
 島に発生したブリザードは海上にまで影響を及ぼし、船は寄りつくことすらできず、航空機もブリザードの中の離着陸には大きな危険が伴うため実行には移せない。
 島には取り残された一般人もいる。
 ……だが、脱出の方法は未だに見つかっていない。
 残された時間は、あと2日――。

●ブリザード・アイランド
 冬島が閉ざされてから18時間が過ぎようとしていた。
 春島からの連絡で季節島の異常を察知したH.O.P.E.はすぐさま周辺の状況をモニタリングした。
「な、なんだこれは……」
 そこに映るのは白に包まれた島の姿だ。観測を続けると島全体が吹雪に覆われており、急激な気温低下と連絡網の途絶が確認された。
「くそっ、こうなる可能性があるから権利を買おうとしていたのに……」
 モニターを見ていた職員はぼやいた。想像できる中でも最悪の事態に焦燥が募る。彼はすぐさま待機していた他の職員に向かって口を開いた。
「すぐさま動けるエージェント全員に連絡を入れろ!」

解説

●シナリオ概要
 セラエノにより占拠され、危機的状況に陥った島を奪還せよ。
 
●舞台
 地中海に浮かぶリゾート島「季節島」の1つ「冬島」
 地中海でありながらクリュリアの力により年中冬を楽しむことができる。
 島の北部には大型スキー場、東にはスケート場が存在。
 西には滑走路があり、南には船着き場とホテルが存在する。
 ホテルは複数あり、それぞれに何組かのセレブが宿泊していた。
 どのホテルも食料は予備もあわせると2日分ていどしかない。
 電気が止まっているためセレブたちは布団などで身を包み寒さをしのぐ。
 水は食料などと一緒に保管されていたミネラルウォータしかない
 島の広さは東京都1つ分くらい。
 
●状況
 島の全域が吹雪によって閉ざされている。
 視界は最悪であり、外部との連絡も取ることができない。
 水や電気などのライフラインは止まってしまっているが、復旧は可能。
 中心部にはオーパーツ遺跡「クリュリア」が存在する。
 暴走の原因はどうやらクリュリアのようだ。
 
●敵情報
 セラエノ諜報員
  セラエノの構成員の中でも特に潜入工作を得意とする人員。
  潜伏および工作に秀でているため発見と対処には少なくない苦労が伴う。
  戦闘能力は総じて低め。

リプレイ

●降下 / 吹雪の島
 地中海上空、冬島近辺に1機のヘリコプターがあった。そこにはすし詰め状態でエージェントらが搭乗している。
「急な連絡で何事かと主増したけど」
『これは……酷い状況ですね』
 ヘリコプター内部から外を見ていた唐沢 九繰(aa1379)とエミナ・トライアルフォー(aa1379hero001)がぼそりと口にした。彼女らの視線の先には真っ白に染まった島のような物が映っていた。
『っち。こうも視界が悪いんじゃどうしようもねえな。さっさと着けりゃいいんだが……』
 いよいよ冬島上空に到達し、高度を下げようとした。徐々に酷くなっていく景色に獅子道 黎焔(aa0122hero001)が思わずと言ったようにぼやく。
 ため息を吐きたくなるような状況に頭痛がしてきたような彼女の耳に、相棒であるまいだ(aa0122)のはしゃぐ声が聞こえた。
「れいえん! すごい! おそらとんでる! ゆきすごいねー!」
『ああすげえな畜生! 後ちょっとしたら共鳴してお前おねんねだからな! 好きなだけ見とけやあ!』
「わーい!」
 まいだのはしゃぎ振りに自棄になったように彼女は声を上げる。
『計画的な動きだから脱出手段も一つないし二つ以上考えているはず。怪しい点があれば、これを判断材料にしてください』
 目的地の目前で九郎(aa4139hero001)は予め聞いておいた情報を共有する。エージェントたちは受け取った情報をそれぞれ吟味し始めた。
 その間にもヘリコプターはゆっくり高度を下げていく。
『さて、そろそろ最初の降下ポイントだな』
 資料から目を上げ、いよいよかと腰を上げたオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)の言葉に、隣にいた木霊・C・リュカ(aa0068)の肩がびくりと上がった。
「やだあああ」
『……やだ、じゃない。大丈夫一瞬だ』
 渋るリュカの姿にオリヴィエはやれやれと首を振った。
 リュカの声に同意するように鹿島 和馬(aa3414)が口を開く。
「大丈夫だと聞いちゃいるが、なかなか勇気のいる高さだよなぁ」
『普通やらないもんね――あ、ほら、飛び降りのベテランもいるから、参考にすれば良いんじゃない?』
 そんな彼らに対し俺氏(aa3414hero001)は隣を指さす。その先にいた東海林聖(aa0203)はサムズアップを決めながら言い放った。
 「ああ。何時ぞやは旅客機から飛び降りたしな! この程度の高さ、どうってことはないぜッ!」
『……ルゥも……飛び降りられるの慣れてきたな……』
 諦めたようにLe..(aa0203hero001)も小さく口にする。そしてヘリコプターの扉を開け放つとすぐに飛び降りた。
 続くように他のメンバーも飛び降りていく。意を決してリュカたちもその後に続いた。
 中央に向かうメンバーが全員降下したことを確認するとヘリコプターは再び上昇していく。そして定められた順番で降下ポイントを回っていく。
「それではお先に失礼します。行きますよ、ガルー」
『おう』
 南の降下ポイントに到達すると、紫 征四郎(aa0076)が残ってい人に一言告げる。ガルー・A・A(aa0076hero001)はぶっきらぼうに応えると共鳴し空に体を踊らせた。
 国塚 深散(aa4139)、九郎も続くようにして降りていった。
『さて、時間だ』
「はーい!」
 まいだと黎焔は一言交わすと共鳴して飛び降りた。
 その後しばらくそこに滞在し、コンテナを下ろしてから続いて西に向かう。
「さて、ラストは俺たちですか」
 すっかり寂しくなってしまった機内を見渡すと、石井 菊次郎(aa0866)はぼそりと口にした。
『まあ、我らが一番遠いからの。仕方のないことではある』
 菊次郎の言葉にテミス(aa0866hero001)は嘆息気味に述べた。侵入口は陸地から一番近く比較的安定していた北東であり、そこから中央、南を経由してきたのだ。ヘリを降ろすついででもあるので西側は一番遠い。
「そうですね……っとと、到着したようです。降りましょうか」
 ヘリが不安定になりながらも着陸する。菊次郎らはそれを確認すると扉から外へと出た。
「これは……なんともまあ、とんでもないですね。島全体を吹雪に閉ざすほどのオーパーツ……その力、やや侮っていたかもしれません」
『見事に真っ白じゃの……』
 なんとか着陸した土地は、元の滑走路が見えないほどに真っ白であった。吹雪はほかに比べると弱いが、再び離陸するのは困難極まるだろう。何せ、どこまで滑走路があるのかもわからない状態だ。ヘリコプターのような垂直に離着陸のできる乗り物でなければまともに離陸できまい。
「とにかくここにいるパイロットの方と交渉したいところですが……確か、この付近にパイロットの休憩施設などがありましたね」
『一応九郎から預かっているデータがあるが、やはり実物を確認したいな』
「ええ」
 菊次郎とテミスは真っ白な地面に足跡を付けながら地図に示してある休憩所に向かう。その付近にはいくつもの格納庫があるが、そのすべてが締め切られていた。
「これは……こっそり調べるというわけにもいきませんね」
『うむ。どうにか鍵を開けてもらわねばな。最も、緊急の事態になった場合は問答無用でこじ開けるが』
「仕方ないでしょう……と、見えてきましたね。あれが休憩所ですか……なんとも、まあ、豪華なつくりで。リゾート島だと実感させられますねえ」
 冬を担当する島であるからコテージのような物がよく似合う。これで吹雪がなければかなり幻想的に見えたかもしれない。
 菊次郎とテミスはいくつかあるコテージの一つに近づくと、入口のブザーを鳴らした。
「こんな時に申し訳ありません。私、H.O.P.E.のエージェントをしております石井菊次郎と申しますが――」
 中から出てきたパイロットと思しき人に身分を明かして中へと入れてもらう。そうして菊次郎とテミスはここに来た目的を話していった。
「――はい、ありがとうございます」
「ああ、鍵は後で返しに来てくれればいい。こちらこそ救援物資を持ってきてくれてありがとう。助かったよ」
「いえいえ、こういったときはお互い様です。それでは、確認が終わり次第お返ししますので。重ね重ね申し訳ないのですが、天候が回復した場合も……」
「ああ、すぐには除雪はしないで様子を見ていればいいんだろう?」
「ええ、お願いします」
 1時間弱の交渉の後、菊次郎はコテージを後にした。その手にはやや華美なカードキーが握られている。いわゆるマスターキーと呼ばれるものだ。
『ふむ、無事借りられたようだな』
「ええ。とりあえず、確認していきましょうか」
 菊次郎はコテージから最も近い格納庫に向かうと、扉横のリーダにカードを通す。機械音と共にランプが緑に点滅しロックが解除された。内開きの戸を押し開け、中に入っていく。
「1つの格納庫につき2機ですか……」
『全て閉まっておったが、それでは計算が合わないのう』
「1機だけの所もあるのかもしれませんし、もしかすれば連中の脱出用の輸送機があるのかもしれません。念入りに調べていきましょう」
『うむ、そうじゃな』
 サングラスを持ち上げ眉間をもむと、菊次郎らは機体のチェックに取り掛かった。
 一方、北部にあるスキー場では九繰とエミナが山の方を目指して歩いていた。
『まさかケーブルカーが使えないなんて……雪中行軍の研修を受けておいて良かったですね』
「ですね!」
 厳しい寒さの中行われる雪中行軍はその経験の有無、知識の有無で成功率が大きく変わる。九繰とエミナはモンゴルの極寒地帯で行われていた雪中行軍訓練に参加した時のことを思い出しながら、一歩ずつ確実に歩を進めていく。
「そういえば前にピラミッド頂上に輸送機が乗り付けられたことがあったよね。もしかしたら山中にも何か仕掛けてあるかも」
『そうですね。確か山頂付近は開けていたはずです。確認してみましょう』
 ノートPCを用いて場所を確認すると、彼女らは再び前へと進んでいく。やがてなだらかな初心者コースを抜け上級者向けの急斜面に差し掛かっていく。彼女らはペースを落とすことなく頂上へと向かっていく。
 そうしてどれだけ経っただろうか。吹雪の中の行軍は想像以上に体力を奪っていく。
「……ふう、なかなか着きませんね」
『九繰、大丈夫ですか?』
「まだまだ大丈夫です! どうやらもう少しで山頂の様ですし……ラストスパートです!」
 九繰とエミナはさらに速度を上げて山中を突き進んでいく。
 そして登り切ると、それなりの大きさの建物が見えた。
「着いた!」
 麓の方にある建物よりは小さいが立派な建物だ。恐らく頂上で休憩を取ったり景色を楽しむために建てられたのだろう。いざという時の避難用だろうか。ヘリポートのような物も見られる。そこには黒塗りのヘリコプターが1機停まっていた。
「……ん?」
 そこまで確認してから九繰はふと違和感を抱いた。
「殆ど人がいないのにヘリコプターだけ置いてありますね……」
『怪しいですね……』
「とりあえず、連絡を取らないとですね」
 九繰は懐から通信機を取り出すと、とにかく通じそうな相手に向かって通信を行った。
「うう、"寒い"ですね。こちらは北のスキー場にいますが、不審なヘリコプターを発見しました。暫く様子を見てみようと思います。以上です」
 通信相手と1つ、2つ言葉を交わすと九繰は通信機を切った。
 共鳴状態を維持し、比較的吹雪の弱い建物の軒下に身を寄せると彼女らはヘリコプターの方へと視線を向ける。
『さて、持久戦ですね。体を冷やし過ぎないように気を付けながら頑張りましょう』
「ですね!」

●復旧 / ホテルに潜む者
 南部・ホテル群傍で着陸したエージェントらはすぐさま周囲を確認した。吹雪のためか視界の確保は難しいが、ライヴスでの補佐などにより最低限度の確認を済ませる。安全であるとわかった時点で上空のヘリコプターに合図を送り物資を降ろしてもらった。
 物資を降ろしたヘリコプターはすぐにその場を去っていく。
「さて、それではホテルの中に入りましょうか」
『賛成だ。寒いからな』
「それにせっかくの支援物資も放置しておくわけにはいきませんからね」
 征四郎の言葉に黎焔と深散が頷きを返した。
 彼女らは揃ってホテルに足を踏み入れる。それと同時にコンテナを降ろす音が聞こえていたのか、ホールに集まっていた人々が詰め寄った。
「あ、アンタたちは! もしかして、助けが来たのか……!?」
「はい。安心してください、私たちは助けにきました」
『あたしらはエージェントだ。あんたらの安全を確保しに来たんだよ』
 黎焔の言葉にホールがにわかに活気づく。寒さをある程度しのぐことはできていたが、ライフラインのおおよそが停止していたため、一部はここで死んでしまうのではないかと危惧していたのだ。そこに救いの手が現れたとなれば、元気にもなろう。
『遺跡の方が落ち着くまで全員ホールで待機していてくれ』
「救援物資もあります。今から配布しますので、並んでください」
『とりあえずチョコでも口に入れとくと違うぞ。防寒具は体調悪い奴優先な』
 深散と黎焔が率先して物資を配っていく。まいだと九郎は列を作るなどして補佐をしていた。
 その列から少し外れたところで征四郎とガルーは客の動きに目を凝らしていた。
『今のところ怪しい動きはねぇが……』
「ええ、油断してはいけません。どこに紛れ込んでいるのかわかりませんから」
 ガルーは油断なく人々を観察している。征四郎はその列から目をそらし過ぎないように気を付けながらホール全体をゆっくりと見渡していた。
「高級ホテルなだけあって、中々豪華なつくりです」
『ここまで開放的に作られてると見逃すほうが難しそうだな』
 ガルーがそう言いながら何気なく目をそらすと、柱の陰に隠れている男の姿が目に入った。男は従業員のような恰好をしているが、どこかおかしかった。じっくりと見ると、その手にはとてもホテル仕事用とは思えないごつい通信機が握られていた。
『言った傍からこれだ』
「捕まえますよ、ガルー」
 征四郎とガルーは共鳴し、気づかれぬように近づいていく。
「――はい。奴らが。……予想よりも早く。――ええ、人数は6。恐らくほかにも……」
 幸いにも男は通信に集中しているようで接近していることに気が付かなかった。簡単に後ろを取った征四郎はその手を取り動きを封じた。
「大人しくしていただきますよ」
「ぐっ」
 手を押さえられた男は通信機を落とす。そしてそのままなすすべもなく地に伏す羽目となった。
 征四郎は逃げられないように念入りに捕縛する。
「これでまず1人ですか……ですが潜んでいるのはあなただけではないでしょう」
「はっ、言うとでも」
「言っていただかないと困る……と思っていたのですが、どうやらその必要はなさそうです」
 征四郎は通信機を操作すると、届いた通信を受信した。
「外は確かに"寒い"ですね……はい。了解しました。こちらもセラエノの工作員とみられる方を捕縛しました。見たところこれ以上怪しい人もいないでしょうし、ホテルに潜んでいるのはこれで全員だと思います。以上です」
 征四郎の通信を傍で聞いていた男はあからさまに怯んだ様子を見せた。
「馬鹿な! いつの間に……!」
「気づいていませんでしたか? あなたが通信を行っている間に、配給が終わっていたのですよ。それを確認次第、他の方にはもう一つのホテルの方で配給と怪しい方の捜索を行って頂いてました。――最も、もう一つのホテルの方でもわかりやすく怪しい行動を取ってくれていたそうなのので探すのには苦労しなかったそうですが」
 征四郎の言葉に、男はついぞ項垂れた。それを見た征四郎は男に対して問いかけた。
「では質問させていただきます。何故島を乗っ取ろうなんてしたのです」
「乗っ取る? まさか! 我々はそのようなつもりで動いていたわけではない! あくまで我々の目的はクリュリアだ。このような事態は想定していなかった!」
「ですが、結果的に占拠しています。それは変わりのない事実でしょう」
「ぐ……」
 征四郎の一言に、男は言葉を詰まらせる。事実、吹雪によって島を閉ざしたのは彼らであるため否定しようにも否定することはできない。そうこうしているうちに捕縛されたセラエノの構成員とみられる男を連れてまいだと黎焔、深散と九郎が戻ってきた。
 連れてきた男を壁に寄りかからせるように座らせると、九郎が口を開いた。
『さて、この後どうしましょうか』
「物資も配給しましたし、暫くは皆さんもつと思います」
「それならばライフラインの復旧を優先させましょうか」
 九郎の言葉に征四郎と深散が返す。
『でもどうするんだ? 何が原因で止まってるのかもわからないんだろう?』
『怪しいのはそいつらだけど、口を割るかねえ……』
 ガルーと黎焔は座らされている2人の男を見た。彼らは厚着をしていたが、それでも寒そうに体を震わせている。……そういえば、彼らは救援物資を受け取っていなかった。防寒具も、まともな食料も受け取っていない。
「では交渉といきましょうか。セラエノ構成員のお2人に提案があります」
「こっちの物資にはまだ余裕があります。そこでそちらにも物資を提供する代わりにライフラインの復旧に力を貸していただきたいのです」
『この際うだうだ言ってられないからな……大事なのはここにいる奴らの命だ』
 征四郎、深散、黎焔の3人が告げた内容にセラエノ構成員の2人はしばし困惑した。
 しかしどれだけ悩んでもこれ以上事態が好転しないことを察すると潔く協力を言いだした。

●捕獲 / 譲れない物
「――ふむ、なるほど。了解いたしました。では、そちらは引き続き周辺の警戒をお願いします」
 黄昏ひりょ(aa0118)は通信機を切ると、顔を上げた。
「どうやらホテルの方はもう大丈夫みたいですね」
『セラエノ工作員の捕獲にライフラインの復旧……もしかして、もう終わり?』
 フローラ メルクリィ(aa0118hero001)が首をかしげてそう言った。
 今回の依頼内容はセラエノの手から中央にあるクリュリアを守ることと、占拠された島を取り戻すことである。セラエノの構成員が捕獲された今、やることはもうないのではないかと考えたのだ。
 しかし、それに対してオリヴィエは首を横に振った。
『あくまでも捕まえたのはホテルのところにいた奴らだけだろう』
「ってことは、こっちの遺跡にあるオーパーツを狙ってるのがまだいるってこと?」
『その可能性は高いだろうな』
 リュカが疑問を述べるとオリヴィエは頷く。それを聞いて納得したのかフローラも再び気を引き締めた。
 再び移動を開始すると、ギシャ(aa3141)はうんざりした表情で口を開いた。
「視界は悪いし、足下も雪で動きづらい。あと寒い。……まだ着かないの?」
『……がんばれ』
「……がんばる」
 相棒であるどらごん(aa3141hero001)の激励を受けてうなだれながらも歩いて行く。しかしギシャの言葉はただの愚痴とは言いがたかった。
「しかし、本当に着かねえな。外から見た分には全然大きく見えなかったのにな。まさか地下まで広がってるなんて予想外だったぜ」
 聖は腕を組んでうんうんと首を振った。
『そのうえ遺跡内なのに雪が積もってるときた。これはひどい』
「普通はこんなところまで吹雪は入ってこねーよ。さすがはオーパーツってところか」
 俺氏の言葉に頷きながら和馬は話した。そして一歩踏み出そうとしたところで足を止めた。彼の足下にはうっすらと見えるか見えないかくらいの線があった。
「ちっ、ワイヤートラップか。危ねえ、踏むところだった」
 仲間たちにそこで止まるように言うと、和馬と俺氏は手早くワイヤーとその先にくくちつけられた仕掛けを解除していく。
「今まで罠がなかったので油断してましたが、いよいよ本格的に仕掛けてきたようですね」
『ああ。ってことは、クリュリアも近いのかもしれないな。こいつは足止め用か?』
「っし、そうとわかったら一気に抜けるか!」
『東海林氏、待って。罠があるから闇雲に進んでも駄目だよ』
 共鳴状態の聖が勢いよく駆けだそうとしたところを俺氏が止めた。
 止められた聖は何か言いたそうにしたが、事実その通りであるので反論はしなかった。
 そうして彼らは仕掛けられた罠を解除しながら道を進んでいく。それから数分もしない内に、遠くから光が見えてきた。
 彼らはそのまま光の方へと進んでいく。そして光が見えてからさらに数分後にそこへとたどり着いた。
 彼らを迎えたのは怪しく輝く水晶体だ。花のようにも見える半透明なそれは薄暗い遺跡内を明るく照らしていた。
「どうやらまだ奪取はされていなかったようですね……助かりました」
 ひりょが小さく息を吐いた。
 その後、彼らは周辺を警戒する。罠が仕掛けられていた以上、セラエノの構成員も一度ここまでたどり着いている可能性が高い。ではなぜクリュリアが奪取されていないのか……。
『暴走解除待ちとかしてそうだよね』
「ありそうな展開だな。ま、そう簡単にさせやしねえけどよ」
 俺氏と和馬が意見を述べた。他の全員も同様の意見だ。動かせないということは恐らく何らかの対策が施されているのだろう。もしかするとセラエノはそれを突破しようとしてクリュリアを暴走させてしまったのかもしれない。とすると、その暴走および対策を解除した瞬間を狙ってくるはず――。
「暴走を止めるワケだけど。どうすれば良いんだ……叩けば直るのか?」
『ルゥに聞かれても……叩いてみる?』
『……そうだな。このままではお互いに吹雪の中で倒れるだけだ。天候回復するように説得しろ』
「了解。説得(物理)だねー」
 聖とルゥ、ギシャとどらごんはどうやら物理的に殴るなどして止めるつもりのようだった。
 しかしそこにオリヴィエのストップがかかる。
『叩くと言っても、迂闊に殴ろうものなら手痛いしっぺ返しを受けそうだが』
「そうですね、オーパーツですから何を仕掛けてあるかわかりません」
 ひりょは難しい問題を前にして、少し顔を顰めた。
 じっと見ていた俺氏が不意に声を上げた。
『クリュリア自身の特性に、セラエノの思考が方向性を与えてしまって変に機能しちゃったみたいだね』
「んー……てことは、より強い想いで上書き出来る?」
『ワンチャンあるかも』
「なるほど、クリュリア自身の特性を利用するんですね」
 俺氏と和馬の話で理解したようにひりょが口を開いた。それを聞いて他のメンバーもなるほど、という顔をした。
 その時、彼らの背後から小さな物音が鳴った。
 それに真っ先に反応したのはギシャだ。彼女は振り返りざまに手にした鉤爪を薙ぐ。その一撃は迫っていた何かを弾いた。それに少し遅れるようにして他のメンバーも攻撃のあったほうを見る。
『敵襲か!』
「来たか!」
 共鳴状態であった彼らの行動は早い。オリヴィエは投擲物の方向から敵の位置を割り出し射撃を行った。
 しかし攻撃が当たった気配はない。
 聖やひりょ、ギシャや和馬はクリュリアの傍まで行き、周辺を警戒した。幸いにして行き止まりであるから他の方向全てを警戒する必要はない。しかしどこから来るかわからない以上、クリュリアへの接触をさせないことを最優先にさせた。
 攻撃を仕掛けた奴らは中々姿を現さない。
 じりじりと時間だけが過ぎていく。やがてしびれを切らしたのか影が動いた。
 飛び出した影は地を這うように疾駆する。オリヴィエが影に向けて攻撃を行うものの、影は機敏な動きでそれを避けて横をすり抜けていった。そしてクリュリアに触れようとしたとき、その体をライヴスの糸が縛り上げた。そこに斧や剣、槍での一撃が加えられる。
 それでもあきらめることなく動こうとしていたその影は暫くその場でもがいた後、どこかから漂ってきたガスによって無力化された。
 
●快晴 / 冬の島
『終わったか……?』
「それフラグじゃないかな……」
 オリヴィアの真剣な言葉を茶化すようにリュカが口を開いた。
「とにかく暴走を止めましょうか」
「賛成」
 ひりょの言葉に和馬が返した。そして彼らはクリュリアへと近づいていく。
「じゃあ、俺が触るかな」
 その結晶に真っ先に触れたのは和馬だ。彼はそのままで瞳を閉じ、祈りを捧げる。
 その願いは夢見がちではある。それでもただひたすらに純粋であった。
 しかしその願いは無機質な結晶体には届かなかったのか、怪しい光はとどまらない。他のメンバーもダメかと思った。だが彼は、和馬は諦めずに言葉を紡いだ。
「想いの強さなんて比較出来るもんじゃねぇだろうけど――それでも誰かを助けたい想いが弱いもんのはずがねぇ! だから、頼む! 止まれぇええ!」
 彼が叫ぶと同時に遺跡内が沈黙する。気が付けば怪しい光は消え、結晶体は淡く白い光を放っていた。

 ――そして世界は色を取り戻した。

 島全域を覆うようにしていた吹雪は止んだ。天から差す日光が雲を割き大地を照らした。消えていく吹雪が光を浴びて眩く煌く。
 その様をエージェントたちは各々が担当していた位置で眺めていた。
 遺跡にいた者たちは停止したことを確認して外に出て、それを目にした。
 北にいた者は山頂から晴れていく景色を見た。
 西にいた者は中央に向かう道すがらに輝く景色を見た。
 南にいた者たちはホテルから外に出て、綺麗に見える青空を仰いだ。

 そして彼らは全く違う場所に居ながら、まるで示しあったかのように同じタイミングで小さく息を吐いた。
 島の危機は過ぎ去った。
 軽く脱力した彼らの周囲には雪が優しく舞っていた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • ほつれた愛と絆の結び手
    黄昏ひりょaa0118
  • 初心者彼氏
    鹿島 和馬aa3414

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • ほつれた愛と絆の結び手
    黄昏ひりょaa0118
    人間|18才|男性|回避
  • 闇に光の道標を
    フローラ メルクリィaa0118hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 止水の申し子
    まいだaa0122
    機械|6才|女性|防御
  • まいださんの保護者の方
    獅子道 黎焔aa0122hero001
    英雄|14才|女性|バト
  • Run&斬
    東海林聖aa0203
    人間|19才|男性|攻撃
  • The Hunger
    Le..aa0203hero001
    英雄|23才|女性|ドレ
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • Twinkle-twinkle-littlegear
    唐沢 九繰aa1379
    機械|18才|女性|生命
  • かにコレクター
    エミナ・トライアルフォーaa1379hero001
    英雄|14才|女性|バト
  • ぴゅあパール
    ギシャaa3141
    獣人|10才|女性|命中
  • えんだーグリーン
    どらごんaa3141hero001
    英雄|40才|?|シャド
  • 初心者彼氏
    鹿島 和馬aa3414
    獣人|22才|男性|回避
  • 巡らす純白の策士
    俺氏aa3414hero001
    英雄|22才|男性|シャド
  • 喪失を知る『風』
    国塚 深散aa4139
    機械|17才|女性|回避
  • 風を支える『影』
    九郎aa4139hero001
    英雄|16才|?|シャド
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