本部

蛙ぴょこぴょこ

茶茸

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/07/07 15:34

掲示板

オープニング


 ギアナ支部。ギアナ高地に聳え立つテーブルマウンテンに埋め込まれたようなこの支部は全長300m。
 雄大で過酷な一面も見せる自然の中にあるこの支部には様々な研究施設や実験場が存在し、行き交う職員や所属するリンカー達も多くが研究者である。
 「汗臭い」「暑苦しい」「脳筋団体アウトドア派」と言う評価もあるが、気にしてはいけない。間違ってはいない。
 ともあれ、そんな施設を訪れたリンカーに慌ただしく誰かが近寄り声を掛けていた。

「そこの人暇そうですね。ちょっと手伝って下さい」
 と、いきなり声を掛けられたかと思うとあれよあれよと言う間に近くのテーブルセットまで連れて行かれ、お茶と茶菓子を出される。
 見ればテーブルには同じように連れて来られたと思われる面々が困惑顔を並べていた。
「実はですね、探し物をしていただきたいんですよ」
 連れて来た八の字眉の職員はと言えば、そんな事はお構いなしに数枚の写真を広げる。
 写真には実に鮮やかな色とりどりの蛙が映っていた。
「これはアマゾンで発見されたヤドクガエルの突然変異、または亜種か新種だと思われます」
 最近アマゾン地帯で動植物の変異や新発見が度々起こっているらしい。
 これらの蛙も最近発見されて研究のため捕獲したのだと言う。
「まあそこまではよかったんですけど、研究室に向かう途中に逃げ出しまして」
 蛙を運搬していたワゴンから突然水槽の一つが傾き、他の水槽も巻き込んで落下。衝撃で蓋が外れて蛙が逃げ出したと言う。
 何匹かは捕獲できたのだが、焦るあまり毒持ちの蛙を素手で触ってしまった職員は治療室へ。 現在は意識不明である。その間に蛙は近くにあった部屋の扉の隙間から中に逃げ込んだらしい。
 幸いそれを見た他の職員が扉の隙間に目張りと立ち入り禁止の札を置いてそれ以上の事態を防いでくれたそうだ。
 先程から「らしい」や「~だそうだ」などが続いているのは、この職員はその状況を実際見たわけではないからだった。
「何しろ当事者が治療中ですからねえ。あ、でも報告書はあがっていたのでこの通り逃げた数は分かってます」
 問題は逃げ込んだ先が資料室だと言う事なのだ。
 この資料室、様々な研究機関の関係者が物を放り込んで行くので内部は資料室と言うより博物館のような有様になっている。
 本だけでなく誰かが持ち込んだ標本の数々に密林をプランター大に切り取ったような植物類。石版石像に何かの面。巨大な水槽を覗いてみればこれまた巨大なアロワナやら何やらが泳いでいる。
 気が付けば誰かが何かを放り込む資料室の混沌は留まるところを知らない。
「この機会に片付けしながら蛙を捜そうと言う話になりましてね。君達が引き受けてくれて助かりました」
 ではこれをどうぞと渡されたのは分厚い手袋とガスマスク。
「ヤドクガエルは猛毒ですし資料室に突っ込まれた物の中にも危険な物がありますから」
 あ、行く前にこれ書いて下さいね。と職員が手渡してきたのは「危険を説明された上で自分の意志をもって行動を起こしたものであり、依頼した側には責任を問わない」と言う同意書であった。
 訝しみつつもサインをすると、職員の糸目が半円を描く。
「発見された蛙の中にガスマスクや手袋も効かない強力な毒を持っている個体がいるらしくて」
 しまったと思っても時すでに遅し。同意書にはすでにサインが書き込まれていた。
「まあ共鳴してれば死にはしませんよ。大丈夫大丈夫」

解説

●目標
 蛙6匹の内最低3匹の捕獲(従魔除く3匹死なせるとシナリオ失敗)
 従魔一体の討伐

●状況
 午前中・晴れ
 ギアナ支部の資料室。一階、二階の広さは半径15スクエア。
 二階のみ階段がある中央付近をくりぬいたドーナツ型で通路の幅は2スクエア。
 棚や物が置かれたスペースは壁から1スクエア。
 部屋は蛙が逃げ込んでから数時間経過しており蛙がどこにいるかは不明。
 資料室はすでに関係者以外の立ち入りを禁じており、PCが入った後改めて扉の目張りをするので蛙の逃亡、人の侵入はない。

●注意事項
 逃げた蛙の捜査、捕獲方法は自由に決めて構いませんが、蛙はあくまで蛙です。
 乱暴に扱ったり物に押し潰されると死んでしまいますので注意して下さい。

●捕獲対象
・ヤドクガエル
 普通の蛙ですが毒があり、共鳴していない人は基本手袋をつけている事になっています
 A:紫と黄のツートンカラー。隠れると滅多な事では動かない
 B:水色に紺の斑模様。あちこち跳ねまわっており一番見つけやすいが動きを止めない
 C:牡丹色に青い手足。最も小さくどんな隙間にも入ってしまう
 D:黒地に黄の帯。跳ねた跡が分かるほどヌルヌル(毒含有)。掴みにくい
 E:緑に黒い斑。見付かった後は大人しい

●討伐対象(PL情報です。PCは従魔になりかけの蛙がいる事を知りません)
・従魔『グルヌーヌ』
 ミーレス級
 発見前は体長4cmほどの橙と青のツートンカラー
 従魔になりかけで発見すると体長180cmくらいに巨大化し襲い掛かってくる
 強力な毒を有しており従魔化する前でも手袋やガスマスクが効かない
 その他ステータスは平均値

・スキル
『毒舌』:舌を鞭のように使い攻撃する。扇形射程2スクエア【減退】猛毒
『毒唾』:毒の塊を吐き出す。射程2スクエア【減退】猛毒
『毒霧』:体表から細かな毒を散布。使用者中心のドーム型、半径1スクエア【減退】猛毒

リプレイ

●ようこそ混沌の資料室へ!
 資料室と聞けばぱっと頭に浮かぶのは人によって多少違いはあれど『知識の宝庫』と言ったところではないだろうか。
 しかしギアナ支部の資料室は一味違う。
 棚の中に詰まっているのは資料室の名に相応しい書類や文献のみならず、遺跡から持ち込まれたと思われる石版や何かの彫像、民芸品らしき何かの面。ごろごろ転がされている石に標本にボトルシップまである。
 棚に収まっていない物はさらに雑多だ。プランターにはこの周辺で採取したのであろう高原植物や熱帯植物。博物館に置かれているような骨格標本。そして壁にびっしりある写真に標本に大きな水槽の中を泳ぐアロワナ。色鮮やかな熱帯魚。天井を見れば何かの植物や模型などがぶら下がったり旋回したりしている。
 逃げ出した蛙を捕まえて欲しい。ついでに資料室も片付けて。
 突然押し付けられたリンカー達はこの混沌とした資料室で奮闘していた。
「確かにオフで見学に来てただけですけど、いきなりですね!」
「拙者は別の任務で訪れていたのでござるが……暇そうに見られるとは不覚でござった」
 見学を邪魔された唐沢 九繰(aa1379)がぷりぷりとして言えば、彼女と同じく『暇そうだから』と巻き込まれた小鉄(aa0213)も腕組みして唸る。
『見学は中断してしまいましたが、ここで小鉄と会うとは思いませんでした。偶然と言うものはあるのですね』
 九繰のパートナーのエミナ・トライアルフォー(aa1379hero001)はこの予想外の遭遇に喜び顔文字が表示される腕のディスプレイを口元に当てて笑顔を表現していたが、資料室の混沌ぶりを見て早々に共鳴状態になっていた。
『こーちゃん、掃除は上からするものなのよ。それと喋っても手を止めないこと!』
「しょ、承知でござるよ……」
 小鉄のパートナーである稲穂(aa0213hero001)が棚の下をごそごそやっていた小鉄に苦言を呈する。
『まずはスペースの確保。次いで種目別に整頓です』
「そうですね。千里の道も一歩からです」
 エミナの声に頷いた九繰と小鉄で協力して片付けながら蛙を捜す。
 隙間や暗がりに目を凝らしたり棚や物を軽くたたいて蛙がいないか確認していると、離れた所から歓声が聞こえて来た。
「お、おおっ! これはゴライアスバードイーターではないかっ!」
 色鮮やかな蝶の標本には目もくれずカグヤ・アトラクア(aa0535)が両手で捧げ持ったのは子犬ほどもありそうな巨大な蜘蛛の標本だった。
「くふふ、ギアナ支部が研究施設じゃったとは僥倖じゃ。今後もよい付き合いをさせてもらおうかの」
 どう見ても片付けと言うより自分の好きな物を物色しているようにしか見えないが、共鳴状態と言う名の掃除回避を敢行しているパートナーのクー・ナンナ(aa0535hero001)は傍観している。
『カグヤにとっては宝の山だね。こんなのを招き入れた不運を嘆くといい』
「流石は生命の宝庫南米だのぅ。おおっ、この標本もいいのぅ!」
 クーの呟きなど聞こえるわけもなく、カグヤは何やらごそごそとし始めた。
「片付けに大切なものは、いるものといらないものの取捨選択じゃ! というわけで、いらないものはわらわの幻想蝶内に収納じゃ。うん」
「それは窃盗でござる!」
 カグヤがあまりにテンションを上げていたため何事かと耳を澄ませていた小鉄が急いで止めに来た。
「違うのじゃ、置くスペースがないから一時的に片付けるだけじゃ!」
『返す予定はないけどね』
 クーがぼそりと言うが、共鳴しているためカグヤ以外には聞こえていない。
 盗みだ片付けだと二人が言い合っていると、視界の端になにかがぴょんとよぎっていった。
「………ん?」
 小鉄とカグヤは首を傾げた。今何かいたような。
 二人してそちらに振り向く。
「蛙じゃ!」
 二人の横をぴょんぴょん飛び跳ねて行くのは水色に紺の斑模様がある蛙だった。
 通路に飛び出した三人に驚いたのか、蛙はぴょんと方向を変えてまだ誰も手を付けていない場所に飛び込もうとする。
「拙者からは逃れられぬでござる!」
 あと一跳びで混沌の中に逃げ込まれると言うタイミングで小鉄の両手が獣の咢の如く蛙を捕らえた。
「ぐえぅ」
「あ」
 何とも言えぬ呻き声が閉じられた小鉄の両手から漏れる。
「小鉄さん、捕まえましたか?!」
 小鉄とカグヤの騒ぎが気になって駆け付けた九繰に、小鉄は目を反らしつつ答えた。
「……お、おう……捕まえたでござる、よ?」
『多分大丈夫、よね?』
 稲穂の不安そうな問いには答えられず小鉄はそっと指の間から中を覗き込んだ後、セーフティガスを使おうとした九繰にケアレイを頼んだ。

●潰すなよ! 絶対潰すなよ!
 資料室は通路こそ空けてあるが、棚の中にも上にも壁のちょっとした隙間にも物が置かれており目に煩いくらいだ。
 石井 菊次郎(aa0866)のパートナー、テミス(aa0866hero001)がふんと鼻を鳴らして腕組みをする。
「それにしても何やら忌まわしいモノが満ち溢れておるな此処は……いっそ雷で全てを微塵にしてしまってはどうか?」
「……まあ、新しいスキルがどの程度使えるのか試して見たいですし、それは後にしましょう」
 菊次郎はテミスを宥めつつ共鳴を済ませ、マナチェイサーを使う。
『どうだ、マナのパターンは特定できそうか?』
「……難しいようですね。反応はあるのですが、それが何なのかまでは判別できません」
 共鳴したテミスに聞かれ、菊次郎は首を横に振る。
 二人がこの捜索に加わった理由は職員に引っ張られた事もあるが、この機会にマナチェイサーの性能を実験したかったと言うのもある。
 マナチェイサー以外にもライヴスを見る事ができるライヴスゴーグルがあるが、二つの性能の比較の他に探知できる痕跡がどれくらいなのか、探知できるのは大まかな痕跡だけなのか、それとも個体の大きさ等も探知できるのか。
 しかし効果範囲内にある反応の数は他のリンカーの数と合っており、反応の強弱の差も特に感じない。
『ふむ……経過時間や距離があると反応しないらしいが、個体差を判別するのも難しいか』
「そのようですね」
 これは地道に物陰や隙間を探すしかないかと菊次郎は覚悟を決めて目の前に広がる本と石板とクリアファイルの森に手を伸ばした。
「ここにはいないようですね……」
 菊次郎がいる場所とは別の場所で隙間や床をじっと調べていた紫 征四郎(aa0076)が顔を上げる。
 小柄な征四郎は高い場所を探すのではなく地面やその近くを重点的に見ていた。
 背の高いガルー・A・A(aa0076hero001)の方はと言うと―――。
「なんだこの資料……へぇへぇ、面白い研究してやがるな」
「ガルー! サボらないでくださいっ!」
 征四郎には指先すら届かない位置にある資料を取り出して読み耽っていた。
「ちゃんと片付けながら読んでいるだろう」
「読まずに片付けてください」
 わかったよと降参するように手を上げて片付け始めるガルーによしと頷き、征四郎も暗い隙間をライトアイで見ながら棚に大小ばらばらに詰め込まれた本を揃えて並べる。
 その時少し隙間が空いていた場所に本を入れようとすると、本がぬるりと滑った。
 はっとしてそのあたりの床を見ると蝸牛や蛞蝓が通った跡のようにぬるぬるとしたものが本棚の中にまで続いている。
 「ガルー! あ、アマゾンのカエルはなんだかカラフルなのですね!」
 ひそひそと、しかし少しはしゃいだ声で呼ばれておやとガルーは目を下に向けると、征四郎が本棚の中を指差していた。
 体を折りたたむようにしゃがんで中を見ると……いた。黒地が本棚の暗がりに溶け込んでいたが、体に巻かれたレモンイエローの帯のような模様が微かに浮き上がって見える蛙が一匹。
「なんだかちょっと可愛いのですよ」
 蛙と聞いて嫌そうにしていた征四郎だったが、小さな体に鮮やかな帯を巻いた蛙に可愛げを見出したらしい。
「毒は相当強いから気をつけろよ……」
「はい……」
 お互い声をひそめながら隙間に手を伸ばす。
 ぬるん。
「あ」
 手袋に包まれた蛙がぬるりと滑った。まるで鰻である。
 そのままぺちゃりと落ちた蛙は捕まれて驚いたのか、本棚の外に飛び出す。
「はっ、待て待てなのです!!」
 慌てて後を追った征四郎が通路に飛び出す。
 が、蛙が飛び跳ねた後のぬるぬるを踏んで盛大に滑った。
「俺に任せろ!」
 東海林聖(aa0203)があちらこちらに残った障害物もなんのそのと走ってきた。
「ありがとうございます聖! 蛙がそっちに行ったのです!」
 聖は棚からはみ出した物や足元に転がっている彫像を巧みに避けて蛙を追う。
「ガキの頃から山だとか森だとかは突っ切らされてんだ。蛙ごときに遅れはとらねえぜ!」
『捕まえたら……まずは焼いてみる……』
「なんでだよ!」
 あとちょっとで蛙に手が届くと言う所で、聖と共鳴しているLe..(aa0203hero001)の呟きが水を差した。
『……蛙って鶏肉みたい、らしいね……』
「依頼の蛙食ってどうすんだよ! 後で飯食わせてやるからちょっと待ってろ!」
 いつでもどこでもなんにでも食欲を示す腹ペコパートナーがいると大変である。
 つい立ち止まって突っ込みを入れた分蛙に引き離されてしまい、聖は急いで追いかけようと足に力を……入れようとした所で、蛙が残したぬるぬるを踏んだ。
「ま、まだまだぁ!」
 盛大に滑った聖だったが、咄嗟に両腕を伸ばして蛙を掴む。
「へっ、伊達にガキの頃に田んぼで何十匹も捕まえてねェぜ!!」
 得意げにぐっと力を入れる聖の手から、ぬるんと蛙がすっぽ抜けた。
 蛙は勢いよく放物線を描いて本棚の向こう側へ飛んで行く。
 本棚を一つづつ片付けて移動してきた菊次郎がいる本棚の向こう側へ。
 この後、菊次郎の上着に見事にプリントされた蛙スタンプを前に謝る聖と気にするなと宥める菊次郎のやりとりを、セーフティガスで眠らせた蛙を水槽に入れた征四郎が少し困った顔で眺めていた。

●混沌の資料室が更に大変な事に
 一階でそんなアグレッシブな事が起きている中、オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)と共鳴した木霊・C・リュカ(aa0068)は白杖の代わりに蓋つきの水槽を抱えている。
『何度見てもカラフルだな。自然の中だと逆に目立たないか?』
 リュカの目を通して水槽の中を見ていたオリヴィエに、リュカは少し考えてこう答えた。
「美しい花には毒がある……では無いけど、何でだろうね。俺には毒があるんだ! って自分から知らせてるのかな」
 リュカが抱えた水槽には牡丹色に青い手足の小さな蛙が一匹。
『カエルって生き物は綺麗なのね。他のカエルもこの目で見てみたいわぁ』
 そう言って水槽の中を覗き込むまほらま(aa2289hero001)も、共鳴した彼女のパートナーのGーYA(aa2289)の目を通して蛙を見ていた。
「この広さの中からどうやって捜せばいいんだって思ってたけど、意外と上手くいったな」
 GーYAは手に持っていたペットボトルを軽く振った。
 リュカとオリヴィエ、GーYAとまほらまの二組は蛙を捕まえるためにちょっとした仕掛けを作っていたのだ。
 実はもう一人、聖も床に砂をまいて蛙が通ったら分かるようにしていたのだが、先ほど一階が何やら騒がしくなったと様子を見に行っていた。
 最初はG-YAとまほらまがスマートフォンをいじり出してヤドクガエルの事を調べていたが、出て来るのはヤドクガエルの生態やらのうんちくで肝心の捕獲方法などは出てこなかった。
「蛙と言えば水場って……そんなの最初に考えたわ!」
『使えないわねぇ』
 思わずスマートフォンの電源をぶっつり切ったGーYAとため息をついたまほらまは人に頼らず仕掛けに頼る事にしたのだ。
 蛙を誘き寄せるため、ペットボトルに水を含ませたティッシュを入れて水気のない場所に置いて行く。
「君も同じ事を考えたようだね」
 そこに声を掛けてきたのがリュカだった。
 リュカは混沌の資料室を前にすぐオリヴィエと共鳴し、蛙を誘き寄せるために小皿に水を張って資料室の各所に置いて回った。
 小皿の周りには小麦粉をまき、何かが通れば水と小麦粉で分かるという寸法だ。
 お互いの仕掛けの事を話し合ったリュカとGーYAは協力して仕掛けをあちこちに設置し、カグヤが窃盗を責められているのを横目で見たりしながら仕掛けを見回ってその時を待った。
 そして見付けたのが今水槽の中にいる蛙と言う訳だ。
 小麦粉をぺっとり付けたこの蛙、よりによって埃がたまっている所に入ってしまったらしい。最初は足のあたりが埃まみれだった。
 足についた小麦粉に埃までまとわりついて困り果てたのか、再び水のある所を捜しまわっていた所を捕らえられた。
「この調子で他の蛙も捕まえられるといいんだけど」
『残りの蛙は少し難しいかもな』
 リュカは捕まっていない蛙を確認するため持っていた写真を確認する。
 残るは紫と黄のツートンカラーの蛙と、緑に黒い斑の蛙、橙と青のツートンカラーの三匹である。
「この蛙、何かオリヴィエっぽいね」
『……』
 緑と黒の斑の蛙が映った写真を指差したパートナーに、オリヴィエは何と言ったものかと反応に困る。
『ジーヤ、他のカエルも早く捕まえましょう。全種類コンプリートよ!』
 狙い通りに蛙が捕まった事に気を良くしたまほらまがG-YAに発破をかける。
「後は一階の仕掛けだな」
「一階は行った人が少ないから蛙も油断して出てこないかな」
 雑談しながら階段を降りると、何故か菊次郎に謝り倒している聖が見えた。
 二人を困った顔で見ている征四郎と目が合ったのでなんとなく手を振ってから一階の仕掛けを見て回る。
 アロワナが泳ぐ水槽を横目に博物館にありそうな動物の骨格標本の下を通ってまだ誰も手を付けていない一角へ。
『ジーヤ、いたわよ! オレンジのカエル!』
 まほらまが見ろと促したのは瓶詰された植物の標本がごちゃっと山になっている所だった。
 瓶に混ざるように置かれたペットボトルの中に橙と青のツートンカラーの蛙がいた。
「よし! これで二匹目……」
 早速捕まえようと近付いたG-YAだったが、喉に違和感を感じて立ち止まった。
 隣を歩いていたリュカと、リュカと共鳴した体の変化に気付いたオリヴィエもだ。
『これは……毒?』
 まほらまが確かめるように呟く。
 そう言えば手袋もガスマスクも効かない毒を持つ蛙がいると聞いたが、あの蛙がそうだろうか。
 蛙との間に奇妙な緊張感が走ったその時、蛙の体が急速に肥大化し始めた。
「へっ!? 何なに、どしたの……!」
『敵だ。戦闘に備えろ』
 ばきっとペットボトルを踏み潰してぬらぬら濡れた目をリュカ達に向けたのは、橙と青のツートンカラーの巨大な蛙だった。
 蛙は巨大化に驚くリュカ達に向かって突然黒っぽい塊を吐きかける。
『ジーヤ、敵よ!』
 まほらまに言われて我に返ったG-YAが咄嗟に体を横に投げ出す。
 通り過ぎた黒っぽい塊は粘着質の不快な音を立てて本棚に当たり、その部分が一瞬で変色して萎びた。
「ちょっ……なんだよあの蛙! こんな情報なかったじゃないか!」
「まさか従魔がこんな所にいるなんてね」
 異常な毒の強さに唐突な巨大化。
 これが従魔だと言う事は疑いようがなかった。
『従魔化すると綺麗じゃないのねぇ残念だわぁ』
 小さい内はまだよかったが、橙と青の巨大な蛙の従魔は異常性が際立っていてまほらまは残念だった。
「物が多い場所から離れよう、まだ見つかってない蛙がいるかもしれない」
 リュカの一言で先ほど通ってきた一階中央の階段付近に戻ろうとするが、従魔の舌がその足元を激しく叩く。
「窒息しろ!」
 G-YAが従魔に向かってウレタンを噴きかけた。
 噴出したウレタンはあっと言う間に膨張して従魔の鼻を覆ったが、元になった蛙自体が皮膚呼吸が可能なせいか今や従魔となった身は鼻を塞がれた程度では怯まなかった。
「ぴゃあああおっきいのです!! おっきいのです……!」
 征四郎の悲鳴にリュカとG-YAが振り向いた。
 異常を感じて一階にいた征四郎達が様子見に駆け付けたのだ
「こりゃ流石に実験用のカエルじゃねぇな。共鳴するぞ、征四郎」
「は、はい!」
 ガルーに共鳴を呼びかけられ、巨大な蛙の従魔に思わず悲鳴を上げた征四郎の口元と表情が凛と引き締まる。
 引き締まった口元、顔立ち、目元が更に凛々しさを増し、小柄な少女は青年の姿になって従魔に斬りかかって行く。
 そのすぐ後ろから飛び出して来たのはライオンハートを振りかざした聖だ。
「従魔化するとはな……だけど、倒しちまって構わねェんだろ!! 行くぜッ!」
 二人に斬られた従魔のぶにぶにした皮膚は血こそ出なかったが、毒の霧を噴出するという反撃が飛び出した。
「毒が強いと聞いていましたがここまでとは」
 範囲内に入った全員が毒を喰らい、征四郎が急いでクリアレイの治療を施す。
 従魔は急いで毒を治療しようとする征四郎に舌を伸ばそうとするが、銀の魔弾に撃たれて怯む。
「今二階に行った全員に連絡を取りました。周囲に被害が出ない内に片付けましょう」
 銀の弾丸を放ったグリモアが菊次郎の手の中で十字の文様を浮き立たせ、同じ形をした菊次郎の動向が冷徹に従魔を見下ろす。
「手早く片づけねば他の蛙が危ういでござるよ!?」
 菊次郎の言葉を裏付ける最初の一撃が従魔に向かって降ってきた。
「折角片付けに来たのに物を壊さないでください!」
「片づけの仕事を増やさないでほしいでござる!」
 九繰が叩きつけた斧と小鉄の疾風怒濤の攻撃が、ただでさえ平たい従魔の体を更に平べったくなるほど押し付ける。
「でかい蛙じゃなー。そんなでかい図体で暴れるでない。標本が壊れたらどうするのじゃ」
 毒を放つ従魔に恐れる様子もなく無造作に歩み寄ったカグヤの手で鞭が翻り、従魔の舌が叩きつけられるようりも鋭く激しい音を立ててオレンジと青の皮膚を弾き飛ばした。
『蛙と資料室はどうでもいいんだ』
「何を言うか。重要な資料ももちろん大事じゃぞ」
 カグヤの答えを聞いたクーはそれ以上の突っ込みが面倒になって沈黙を選んだ。
 従魔は畳みかけるように加えられた攻撃に大きなダメージを受けていたが、本人の体力と持った毒の強さはまったく関係なくリンカー達だけでなく周囲の物にまで影響を及ぼした。
 毒の塊を喰らった物は最初に毒を受けた本棚と同じように変色して萎び、全身から噴射される毒霧は細かな粒子のためか小さな隙間にも入り込んで毒で爛れさせる。
「毒もだけど、あの体で暴れられるだけで被害が出てるな」
『早く片付けないと他のカエルも危ないわね。いざとなったらジーヤが守るのよ!』
「肉壁?!」
 G-YAとまほらまが端から見たら独り言に見える事を言っている見ている間にも従魔は動き回っている
 今大きな体にぶつかられた骨格標本が音を立てて崩れ落ちた。
「俺が足を止めましょう」
「なら俺が従魔の視界を塞ぐ」
 菊次郎がグリモアを手に狙いをつけると、リュカも従魔の動きを止めるために仕掛けた。
 グリモアから放たれた魔弾が従魔の水かきのついた足に穴を開け、眩い光が従魔の両目を灼く。
「治療と守りは私達が!」
「みんなで畳みかけてください!」
 征四郎と九繰がそれぞれクリアレイとケアレイを惜しげもなく使って味方を癒し、毒の不安要素を振り払ったリンカー達が動きを止めた従魔に攻撃を集中させる。
 ミーレス級の、しかもなり立てであった従魔はそれほど力を持っていなかったらしい。
 集中攻撃を受けてあえなく力尽き、巨大な体は空中に溶け消えるように縮んでいった。
「なむー」
 従魔の巨体が消えたあと、ぽつんと残った小さな蛙の亡骸にG-YAが手を合わせた。

●片付け(物理)の結果
 従魔を倒した後がまた大変だった。
 リンカー達をこの資料室に閉じ込めてさっさと行ってしまった職員に従魔が出現した事を知らせるために連絡を取ると、真っ先に言われたのが『蛙は無事ですか?』だった。
「いや、確かに依頼は蛙の捜索だったけどね……」
 職員に連絡をとった菊次郎が苦笑しつつ内容を話せば、リンカー達から不満や文句が飛び出すのも仕方ないだろう。
「まあ何とか依頼は達成したし、文句は言わせませんよ」
「そうですね。蛙は従魔になったもの以外全部捕まえられましたし」
 近くのテーブルに並ぶ水槽を見る九繰と征四郎。
 水槽には先に捕まえたもの以外に、黄色と紫のツートンカラーと緑に黒の斑模様をした二匹の蛙が入っている。
 従魔との戦いで巻き込まれてはいないかと気を揉んだリンカー達は戦闘場所になった一階をくまなく捜し、近くで戦闘が起きて物が自分の近くに倒れこんできたにも関わらず不動を貫いた紫と黄のツートン蛙を発見。
 緑に黒い斑の蛙はと言うと、人の気配が近付いたり一階で大きな物音がする度に居場所を変えていたらしい。
「そこさっき調べてたのに!」
 と、九繰と小鉄が協力して片付けすっかりきれいになった場所に堂々と居座っていた所を捕獲した。
 何より大変だったのは従魔の毒が染みついた物の選別と片付けだった。
 ガスマスクも手袋も効かず、リンカー達ですら侵す強力な毒である。少しでも浴びた可能性のある物はしっかりと選別し、しかるべき処置をしなければならない。これには一階を片付けていた菊次郎と征四郎も苦い顔だ。
『それにしても、相次ぐ動植物の変異。偶然でしょうか』
「うん? 気になる感じですか?」
 エミナのつぶやきも共鳴状態のままでいる九繰にははっきり聞こえた。
 動植物の変異はなにもこれが初めての事件ではないが、エミナには何か引っかかるものがあったようだった。
 九繰はエミナが自分の思考に沈んで行くのを感じたが適当な答えを出す事はできず、とりあえずは片付けのために体を動かす事にした。
 思わぬトラブルに襲われながらも無事他の蛙を発見する事に成功したが、戦後処理と言う後片付けの苦労はむしろ最初より増えてしまったのだ。早く片付けなければ日が暮れてしまう。
 戦闘の疲れを感じながら、リンカー達は混沌の資料室の片づけを再開せざるをえなかった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • Run&斬
    東海林聖aa0203
    人間|19才|男性|攻撃
  • The Hunger
    Le..aa0203hero001
    英雄|23才|女性|ドレ
  • 忍ばないNINJA
    小鉄aa0213
    機械|24才|男性|回避
  • サポートお姉さん
    稲穂aa0213hero001
    英雄|14才|女性|ドレ
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • Twinkle-twinkle-littlegear
    唐沢 九繰aa1379
    機械|18才|女性|生命
  • かにコレクター
    エミナ・トライアルフォーaa1379hero001
    英雄|14才|女性|バト
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
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