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色彩戦隊ゴ―リンカー、救出されるの巻き!
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最終発言2016/05/29 14:01:02 -
救え!子供の夢とヒーローを
最終発言2016/06/02 10:39:27
オープニング
●ヒーロー戦隊現れない!
日曜日のデパートの屋上。
今日も、そこでは子供達の夢と希望の詰まったヒーローショーが始まる予定であった。
「さぁ、みんなー!! 声をそろえて、ヒーローを呼んであげましょう!!」
マイクを持った司会進行のお姉さんが、元気よく跳ねる。子供たちはそれに興奮して、ワーワーと騒ぎだした。子供たちの面倒を見ている父親の顔は疲れで、げんなりしている。家族サービスも楽ではないという見本のような光景であった。
台本通りならば、舞台の上には色の名前で呼ばれるヒーローたち――レッドリンカー、イエローリンカー、ブルーリンカー、グリーンリンカー、ピンクリンカー――がテレビでおなじみのポーズを決めるはずだった。
「あらら、ヒーローじゃなくて敵のブラック大将がでてきちゃった!
舞台に上がって来たのは、ブラックな衣装を着た敵役だった。ごついキグルミはいかにも敵っぽく、その悪役は観客席から男の子を一人舞台に引き上げた。全員が、その男の子が今回のヒーローショーのゲストになるのだと思った。
敵役は、小さな男の子を司会のお姉さんに預けると武器である矛を振りまわした。その矛が、触れた舞台セットがパリーンと綺麗に二つに割れた。舞台のセットからでてきたのは、五人の色戦士たちであった。
「く……子供たちに夢を与えるのが、ぼくたちの仕事なのに」
ヒーローたちは悔しそうに歯噛みをするも、彼らは本物のヒーローというわけではない。様々な理由で日々アルバイトをこなす、非正規社員である。
「せめて、本物のヒーローが現れてくれたら……」
ピンクリンカーは、紅一点とは思えないほどに低い声で呟いた。テレビでは紅一点でも、ヒーローショーでの中身は男子大学生である。
「ははは、ヒーローなんて恐れるに足らず! 本物のリンカーが到着する前に、叩き切ってくれる!!……以上が悪の総帥のお言葉でした」
司会のお姉さんは、レットリンカーが被っているキグルミの頭に手をかけた。
「止めろ! 子供たちの夢だけは、壊すな!!」
「こんなときでも子供たちの夢を優先させるの? 分かってないわねぇ。あなたたちは本物のヒーローなんかじゃなくて、弱っちぃ一般市民なんだよ」
司会のお姉さんの指が、レッドのかぶり物を取り去ろうとした――その瞬間。
「そこまでだ! ブラック大将!!」
人質のふりをしていたHOPEのヒーローたちが立ち上った。
●数時間前
「都内のデパートの屋上で、愚神および従魔が現れる事件がありました」
受付嬢は、デパートより受けた電話の内容を話す。
「手口は客およびヒーローを人質にとり、自分たちに有利な状況で戦闘を進めるというものです。以前は五人のリンカーが対戦し、負けています。一応、デパート各社には警告はしているのですが……続いているというわけでもないので、自粛まではしていないようですね」
愚神や従魔が単に人が多い所を狙い、それが偶然にもヒーローショーであっただけという可能性はいなめない。デパート側としては、これだけを理由に企画を中止したくはないのだろう。
「本日、都内のデパートでヒーローショーをおこなうデパートは一つだけです。ここに愚神が来る可能性は高いと思われます。ですから、皆さんはヒーローショーの観客席で、お客さんにまぎれていてください」
いざというときは、ヒーローを守る本物のヒーローになってほしいと受付嬢は言う。
「……人質には子供が多い事が想定されますから、彼らのトラウマになるようなことはできれば避けてください。そうですね――ヒーローショーの延長線上のように戦う事はできないでしょうか?」
解説
・愚神および従魔を殲滅。
・人質の無傷解放。
・デパートの屋上……十三階建の建物の屋上。小さな舞台と簡単な座席があり、大規模な戦闘を出来るほどの広さはない。なお、屋上以外の客の避難は終わっている。
・愚神……ショーの司会進行役の女性。マイクを持っており、それによって歌の攻撃をおこなう。なお、音の攻撃は一定時間ごとに徐々に威力が上がっていく。
レベル1――ただうるさいだけの声。攻撃力は全くない。
レベル2――鼓膜が破れそうなほどの騒音。一般人は精神的なダメージを受ける。
レベル3――耳栓などをしても防げないほどの騒音。リンカーでも動きを止めてしまうなどの妨害を受ける。
レベル4――リンカーであっても吐き気を催すほどの騒音。うずくまって、動けなくなってしまう。
なお、先にブラック大将が倒されたり、自分が追いつめられたりすると近くにいる子供を人質にとって逃げようとする。
・従魔(ブラック大将)……愚神を守る、防御力の高い従魔。攻撃力も高いが、遠距離攻撃の手段は持ち合わせていない。鎧に覆われており、見た目は悪役そのもの。三又の槍を持ち、その槍で攻撃をしてくる。愚神を優先的に守る傾向がある。集団で攻撃されると人質を害しようとする。
・人質……座席側には、大人五名。子供は九名。
舞台側には、縛られたヒーロー五名。愚神の側にいる子供、一名。
※人質の人数にPLは含まれてはいません。
(PL情報――愚神の側にいる子供が危なくなると、座席側にいた子供の父親は音の攻撃中であっても愚神に立ち向かおうとする)
リプレイ
デパートの屋上でおこなわれていたありふれた、ヒーローショー。
そのヒーローショーは今、愚神と従魔によって支配されていた。
「こんなときでも子供たちの夢を優先させるの? 分かってないわねぇ。あなたたちは本物のヒーローなんかじゃなくて、弱っちぃ一般市民なんだよ」
司会のお姉さんの指が、レッドのかぶり物を取り去ろうとした。ヒーローの素顔がさらされる――その瞬間。
「そこまでよ! ブラック大将!!」
観客席から、大宮 朝霞(aa0476)が立ち上る。
その突然の登場に、子供たちのみならず従魔や愚神の視線までもが朝露とニクノイーサ(aa0476hero001)に注がれた。朝露はその注目のなかで、にやりと笑ってみせた。
「そして、悪の女幹部サウンドレディー!!」
びしっと朝露は愚神を指さすが、ショーを見ていた大人やゴ―リンカーは疑問に思った。
――だれ、それ?
その疑問を追及してくれたのは、ニックである。
『朝霞……サウンドレディーって、なんだ!?』
おもわず声をひそめてニックは、朝露に訪ねた。すでに共鳴しているために声をひそめる必要などまったくなかったのだが、なんとなくヒソヒソ話になってしまう。
「愚神の名前よ! それっぽいでしょ!?」
悪戯っ子っぽく笑う朝露にならうように、立ち上った二人組がいた。旧 式(aa0545)とドナ・ドナ(aa0545hero001)である。旧式は声を張り上げて、無理矢理に笑顔を作っていた。いつものやんちゃは隠して、爽やかな笑顔を振りまく姿はまるで別人である。
「なんとお姉さんの正体は、悪の怪人サウンドレディーだぜ! ブラック大将をも上回る悪の幹部だ! 本当はお兄さんが司会するはずだったのに閉じ込められてすり替わったんだ。さぁ、みんな。ゴーリンカーに力を貸してくれる力を貸してくれる力強い味方を呼ぼう!!」
ぽかんとしている子供たちの声援を待たずに、リンカーたちが声を張り上げる。なかでも一番派手な登場を決めたのは、咲魔 慧(aa1932)であった。彼はファンブル・ダイスロール(aa1932hero001)とさっと共鳴してしまうと、くるりと宙返りをして舞台に上がる。後ろ向きのヒーローの登場に、見ているものの期待は言葉なくとも高まった。
「この世に蔓延る神を討つ! 電撃戦士ジュピター、お節介ながら助太刀させてもらう!」
台詞と共に振り向く、びしっとポーズを決める手際はさすがは元スーツアクターである。ヒーローの見せ方は、誰よりも上手かった。
『……ま、戦闘はともかく、ショービズは専門外でございますから。お手並み拝見、という事にいたしますか』
ファンブルは、子供たちの夢を壊さぬようにする役目を全て慧に任せることにした。休職中とはいえ、彼はその道のプロなのである。
「俺もいるぜ! そう……俺は中間色グンジョーレンジャーだぜ!」
呉 琳(aa3404)はグレーのターバンで顔を隠しつつ、部隊に上がった。慧に比べるとあまりにお手軽な変装であるが、仕方あるまい。だが、濤(aa3404hero001)はできることならば顔を完全に隠してしまいたい気分だった。
『あぁ……この失態は一生背負って生きていかねばならんのか……』
できればもっとちゃんとした仮装をしてほしい、と願ってしまう。いくら顔を隠せるものが少なかったとはいえ、ターバンとはあまりにお手軽すぎやしないか。見ればヒーローを名乗る仲間たちは、皆手慣れた様子でヒーローの仮装をしている。
「俺ちゃんは、白虎仮面さ!」
ばしっとポーズを決める虎噛 千颯(aa0123)の顔には、どこかでみたことがあるような仮面が張り付いていた。そう……どこぞの非公認ユルキャラの顔そのものだ。
そんなヒーローショーが始まったなかで、真白・クルール(aa3601)は涙を溜めていた。純真な彼女はヒーローの存在を信じていたのである。娘に甘いシャルボヌー・クルール(aa3601hero001)はつい『……そ、そうね……けれど、本物がきっとどこかにいるかもしれないわよ?』と言ってしまう。母は、科可愛い娘に弱かった。とても、弱かった。
真白は、大きな瞳を輝かせて尋ねる。
「ホント?」
『……え、ええ……良い事沢山すれば、きっとね』
「よーし!負けないぞ!」
真白は裏方に周り、こっそりマイクも電源を切った。
それを確かめたかのように、旧式が司会のお兄さんの演技を続ける。
「ゴーリンカーも苦戦してるけど大丈夫だ、お兄さんを助けてくれた異次元のリンカー戦士達が今度の相手だ! ママさんパパさん達、今日のショーは派手にやる特別公演だからお子様方と一緒にステージからなるべく離れて見てくれよな」
司会のお兄さんに扮した旧式は、さわやかにマイクを握る。その舞台裏――客席側ではアリス(aa1651)とAlice(aa1651hero001)がそっと暗躍していた。彼女たちは普段から人畜無害な少女のふりをしている。今回もそれの延長線だ。
『……正直、子供は兎も角大人は劇の続きと言っても騙されないと思うわ』
「まぁ、普通はね。……パニック起こさなければ良いけど」
冷静な大人の目で見てみれば、ステージに愚神と従魔が現れた事は自明の理である。ヒーローショーであると無邪気にはしゃぐ子供と違って、今回本当に厄介なのは大人だ。パニックに陥って、怪我でもされたらたまらない。
「……H.O.P.E.のエージェントです。……騒ぐと相手の注意を引いてしまいますので……大丈夫ですから、私達にお任せください」
アリスは、近くにいた父親にそっとささやいた。父親は目を白黒させていたが、アリスの話を信じたらしく静かに頷く。大人たちは自分の子を抱きかかえ、そっと舞台から離れ始めた。子供たち全員が保護者と手を繋いだ事を、アリスは確認する。もしものときは、子供たちは親に手を引かれて避難をするであろう。そのなかで、子供と手を繋がずに舞台を睨んでいる大人がいることにアリスは気がついた。おそらくは、人質にとられた子供の父親なのだろう。なにかあれば、今にも飛び込んでいこうとする姿だ。
『愚神達もわかってませんね、悪役の手本ってものを見せてあげます……兄さんが』
舞台裏で禮(aa2518hero001)が呟くが、海神 藍(aa2518)はため息をついた。
「……今回悪役は要らないだろう? 禮……」
今回、悪役は足りているのだ。
足りないのは、正義のヒーローたちなのだ。
派手に登場したヒーロー(という名のリンカーたち)に今は全ての人間が目を奪われている。人質を解放するのには、これ以上のチャンスはなかった。なにせ、最も目立つヒーローがこれでもないほどの目隠しになってくれている。
飛岡 豪(aa4056)とガイ・フィールグッド(aa4056hero001)であった。それぞれ違う方向にヒーローっぽい二人が互いに腕を合わせて「イグニッション!」と叫んだ。アメコミヒーローと特撮ヒーローの合体し、新たなヒーローがここに誕生する。
爆炎竜装ゴーガイン。
「そこまでだ!! ブラック大将に悪の幹部サウンドレディー」
豪は、愚神を指さす。
「オレは悪を滅ぼす赤色巨星――正義の使者、爆炎竜装ゴーガイン! 色彩戦隊ゴーリンカー! 助太刀するぞ!!」
ゴーリンカーに近づいた藍は、客席には聞こえぬようにそっと囁いた。
「立てるか? ……お客さんの安全の為に、誘導に力を貸してくれないか。危なくなったら皆を連れて逃げてくれ。ヒーローとは力ではない、在り方だ。」
囚われていたゴーリンカーたちは、その言葉に人知れず頷いた。彼らもまた、心はヒーローであった。子供の夢を壊したくはないし、誰を守りたいのだ。
「あららら。いっくら集まっても、無駄よ! ヒーローたち!! 悪事の為の歌をきっつけ――!!」
子供を人質にとった愚神が、マイクを握る。辺りに女性の甲高い声が響き渡る。人質にとられている子供はというと、まだヒーローショーの続きだと思っているらしくはしゃいでた。その様子を見ていた千颯は、一瞬だが苦虫を噛んだような顔をした。
「琳ちゃん……。あの子絶対に助けるよ……」
武器を握った千颯は、真剣な声色で琳に助力を願う。一児の父である千颯には、人ごとではない事件なのであろう。それを知っている琳は、元気良く頷いた。
「ちはや! あの子! 助けるの全力で援護するぜ!」
『思いっきり、あなたの思うように動いてください……こちらで合わせます』
声援を受けた千颯は、ライブスフィールドを展開する。
敵を弱体化させた千颯をサポートするのは、琳である。
「お父さん! 子供の心配は分かるぜ……だから数秒俺達にチャンスをくれ!! 必ず助けるぜ」
琳はフラッシュバンを使用し、千颯の援護をする。
「司会の座を奪ったって、歌は止められないわよ♪」
愚神が歌い出す。
その歌声は、屋上中に響き渡った。
『どうやらこの歌が、愚神の攻撃らしいな』
未だにダメージはないが、声は徐々に大きくなっているようである。そのうち何かしらのダメージを負いかねないとニックは推測する。
「なら! こっちもウラワンダーの歌で対抗するわよ!」
♪ うっうっうう~☆ウラワンダー
♪ うっうっうう~☆ウラワンダー
誰も聞いたことがない主題歌を歌いつつ、朝露はレインメーカーを振りまわす。
「キャー! ウラワンダーさん素っ敵ー♪」
鹿島 和馬(aa3414)はハイテンションになりながら、ウラワンダーに声援を送る。その姿は、一お客さんである。だが、彼もウラワンダーの応援ばかりをしているわけにもいかない。彼もヒーローもとい、リンカーなのだから。和真は、にやりと笑いながらポケットから何も握っていない手を出した。
「てめぇら、ヒーローなんて恐れるに足らずとか言ったな?」
『そういうの俺氏達に勝ってから言って欲しいかな』
俺氏(aa3414hero001)が掌を掲げると、和真はその手に自らの掌を押し当てる。
パーン、と乾いた良い音がした。
「『共――鳴っ!』
愛用の斧を振りまわし、和真は従魔の前に立つ。
にやにやと笑う口には、不可解な自信が見てとれた。
「子供も大人も安心しな……愚神と従魔は覚悟しろ。てめぇらを派手にぶっ飛ばす――ヒーローが来たぜ!」
ブラック将軍は和真を前にして、三又の槍を構え直す。その視線は和真ではなく、その奥にいる愚神を見ているように思われた。従魔は、愚神の方に行く。和真は、銃間の視線からそう推察した。
「咎人の残滓を射抜き、現へとどめる楔をここに――縫止ッ!」
ブラック将軍の足が止まるが、長くは持ちそうになかった。この隙に他の人間が、人質を避難させてくれればいいのだが。
「行かせはしないッ!」
慧も和真と共に、従魔の前に立ちふさがる。
「悪の幹部サウンドレディー! 本物のお姉さんと封印したゴーリンカーの力を返しなさい!」
真白はストレートブロウを使用し、愚神と従魔に距離を取らせる。愚神の意識も従魔の意識も、自分達を攻撃し足止めするリンカーたちに意識を向けていた。
「くっ、子供は返して貰うぜ!」
気がつけば、千颯が愚神の隙をついて子供を抱き上げていた。子供はきょとんとしており、今の今まで自分の生命が脅かされていたとは気がついていないようであった。
「逃がさないわよ!!」
手を伸ばす愚神に向かって、琳がフラッシュバンを放つ。千颯はその光にまぎれて、愚神から距離を取る。
「もう大丈夫だ……偉かったな!」
千颯は子供を撫でて、観客席にいた大人に渡した。子供の親らしい男は子供を受け取ると、自分の息子をぎゅっと抱きしめた。その光景に、千颯は胸が熱くなった。父が子を守る姿は、たとえ父親が無力であっても美しい。
「あ……ありがとうございます。よかった。なにもなくて、本当によかった。タク、怖くなかったか?」
「お父さん! 子供! 無事に救出したぜ! やったな!白虎仮面!!」
援護していた琳もほっとして、再会した親子を見つめていた。
「まだ、全部は終わってないぜ。俺ちゃん達が必ず守るから慌てないで欲しいんだぜ。式ちゃん……司会のお兄さんも俺ちゃんの仲間だから誘導に従ってくれ」
すうっと、千颯は息を吸った。
「みんな大変だ! サウンドレディーの音波攻撃がみんなを狙っているからゴーリンカー達が力を出せない! もう少し下がって後ろで応援しよう!」
「子供の人質は、保護したみたいだね」
アリスは、避難のために入口付近に集まった客たちのなかに混ざっていた。雷神ノ書を構えて、此方に愚神か従魔が寄ってこようものならば強烈な一撃を加えてやる気であった。
『愚神の声は……まだ安全だよね』
さほど大きくはなっていない声に、アリスは「たぶん」と返す。今はまだ煩いだけだが、これ以上愚神の声が強力になるのならば一般客は逃がさなければならない。
――気にかかるのは、残りの人質だが……。
「ゴーリンカー! 君たちは戦う力が残っていない! 戦いはオレ達に任せ、子供たちを守ってくれ!」
「元怪人にしてこの星の自然を守るもの、シュバルツローレライ。次まみえる時は敵同士だろうが……今は分け合って助太刀する。次は万全の状態で戦おう、ゴーリンカー」
豪と藍が、囚われていた五人の戦士達を解放していた。
ゴーリンカーたちは、それぞれが観客の方へと向かう。観客を守るように演技はしているものの、安全な場所に確実に避難していた。子供たちはヒーローが自分たちを守ってくれると目を輝かせていた。
「ここは任せておけ、この世界そのものを壊しかねん奴らには、ここで消えてもらう」
藍は愚神が持つ、マイクを狙った。電源の切ったマイクであったが、もしかしたらアレが愚神の力を高めているのかもしれないと藍は考えたのである。破壊されたマイクの残骸を見ながら、愚神は嗤う。
「ざっんねーん♪」
だが、マイクを破壊しても愚神の歌は止まらない。
愚神を守ろうと動き出す従魔に向かって、和真は狙いを定める。
「其は夢にして現なり……夢幻の刃をここに――ジェミニストライクッ!」
「無限の未来がある子どもたちを、一緒に幸せな思い出を作っていくパパさん達を手にかけようとした事は! 天の神が許しても俺が許さん! ――それとヘルメットを脱がそうとした事も! アレがどれだけ大事か分かってない訳じゃないだろうによ!!」
慧はストレートブロウを使用し、ゴーリンカーの恨みを込めて拳を放つ。
『ご主人様にとっては生命線ですからな』
その様子を見ていたファンブルが、ぼそりとつぶやいた。
慧と和真の攻撃を受けたブラック将軍の体が滑り、避難した観客のほうへと向かってしまう。それに反応したのは、旧式であった。
「おーと、皆の声援でヒーローたちの力が百二十パーセントになったみたいだ! あぶないから、もうちょっと離れて応援しような!!」
旧式と真白は盾を構えて、ブラック将軍の体から観客を守る。
『司会……つーかマスコットだな』
「……うっせ」
ドナの言葉に、誰も聞こえないように旧式は呟いた。チンピラ風のいつもの自分が司会進行なんぞをやったら、それだけでショーを台無しにしてしまう。それを分かっているからこその演技である。
「……近寄らないでくれる」
雷神の書を構えていたアリスが、ブラック将軍に攻撃を加えた。
「あらら、ブラック将軍がやられちゃった。これは私も本気を出すか♪」
愚神の歌が一層激しさを増す。その声を聞いた豪は、救助したゴーリンカーと仲間たちに目配せする。
これ以上、観客をこの場に置けば被害がでる。
そう判断した結果だった。
「みんな、ここは聖霊紫帝闘士ウラワンダーに任せて!」
「よく見ればかなりの別嬪さんじゃないか。まあ、愚神って時点でストライクゾーン外だがな」
慧の攻撃に目を奪われていた愚神は、気づかなかった。
彼の背後には、怒れる父親――千颯がいた。
「子供人質に取るとかてめぇらぜってぇに許さねぇからな! 地に這いつくばって懺悔しやがれ!!」
槍を持った千颯が、愚神に狙いをつける。
「……悪は必ずほろびる! それが鉄則……」
千颯の槍から逃げようとする愚神を追いつめた影は、真白であった。トップギアで力を溜めた彼女は、愚神に向かって一気阿成を繰り出す。
「ち……多勢に無勢ね。ブラック将軍も倒されちゃったし、新しい悪役でも考えますか」
愚神が、リンカーたちに背を向ける。
その背に向かって和真は叫んだ。
「まわれ因果の糸車、罪を括りて絡み取れ――女郎蜘蛛ッ!」
和真の攻撃が愚神の動きを拘束し、朝露は咄嗟に武器をフェイルノートに持ちかえる。
「正義の味方は、悪を見逃さないわよ!」
朝ウラワンダーの声が、屋上に響き渡った。
●ヒーローショーの続きをね
愚神が倒され、子供たちはおろおろしていた。何となくではあるが子供たちも演出がリアルすぎると勘付き始めていたのである。
「うわわぁぁぁ!」
いきなり琳が大声をあげる。
その声に、子供や仲間のリンカーたちも目を丸くした。
琳と濤は共鳴を解き、いつのまにか黒っぽい服装に着替えていた。
「く、くそう! 力を使ったせいでこんなに小さく……お、おぼえてろ~!!」
どうやら、ブラック将軍と愚神のフリをしているらしい。今時のテレビ番組にありがちなソフトな幕引きに、子供たちの顔に笑顔が戻る。
琳は「覚えてろよ」と捨て台詞を残して舞台から逃げていった。
敵がいなくなり寂しくなった舞台にゴーリンカーを誘ったのは、慧であった。ゴーリンカーはすぐに事情を察し、テレビでおなじみの決めポーズをとる。
「みんな、応援ありがとう。みんなの応援が、新しいヒーローを呼んでくれた! だから、みんな!! ピンチのときは、あきらめずにヒーローを呼んでくれ。君たちがあきらめない限り、ぼくたちヒーローはどこにだって現れる!!」
レッドの言葉に、大人たちが拍手をする。
その拍手で、ヒーローショーはようやく終わりを告げたのだ。
「はーい! みんなー今日はH.O.P.E非公認ゆるキャラの白虎ちゃんが来てくれたよー!」
にやにやと笑う千颯と白虎丸(aa0123hero001)の周囲には、子供たちが群がっていた。その様子は、もはや子供に人気のマスコットキャラクターでしかない。
『お……おい千颯……』
「ハイ拍手ー! さぁモフっていいよー!」
子供をむげにすることもできず、白虎丸は戸惑うしかない。子供たちは無邪気に白虎丸の色々なところを引っ張ったりしている。朝露はそれを横目で見つつ、ちょっとうずうずしていた。今だったら、子供たちにまざって白虎丸の色々なところを撫でたりひっぱたりしても許されるかもしれない。――思うだけで、しないけれども。
『おっと、慌てちゃ駄目だよ。握手もサインも並んで、順番にね。大丈夫、皆の俺氏はここにいるよ』
白虎丸の次に人気だったのは、俺氏だった。ただし彼も子供に色々なところを引っ張られていた。
「……な、なんでお前ばっか人気なんだよ」
和真もひがみながらも、色々なところを引っ張られる俺氏は大変そうだと思った。子供はこういうときに容赦がない。
舞台裏では、藍が人知れず精神的な傷を負っていた。二度とやるまい。絶対にやるまいと誓ったのに、本日でコレをやるのは三回目である。
「私は何を……」
一方で、禮はサイン色紙を片手に元気だった。
『こうしては居れません、サインを貰いに行ってきます!』
『ふぁっきん。なんでこんな依頼受けやがった?アタシはガキは嫌いなんだよ』
表で騒ぐ子供の声を聞きながら、旧式はふっと笑う。本日、一番悪そうな笑みであった。
「いや、ヒーローを助けたリンカーとかになったらモテそう……だろ?」
古今東西の男の行動原理なんてそんなもんだ、と旧式は威張った。
『テメェみたいなチビがもてるか』
「うるせえ。小さめの子供たちも、それを聞いたら泣くぞ!」
男は生まれた瞬間からモテたいんだよ、と旧式が怒鳴った。その隣で、琳はわずかに落ち込んでいた。最初は表舞台に立っていた彼らだが、子供たちに「悪者、されー」とぽかぽか叩かれてしまったのである。最後の最後でラスボスの演技をしたせいなので仕方がない事なのが、若干寂しい。本当なら、子供たちに風船を配ってみたかった。白虎丸みたいに、色々なところを引っ張られて困ってみたかった。
「琳さん、恰好良かったよ。私も琳さんみたいなヒーローになりたい! ううん、なる!」
真白が喜んでくれているのが、唯一の救いである。純粋な彼女は目をキラキラさせて、これから頑張ると小さな拳を握りしめている。
『今度のショーにはオレをゲストで呼んで欲しいぜ! ゴーリンカー6人目の戦士・ゴーファイヤーって名乗るぜッ! ……ダメなら、ショー限定ヒーローの7人目でも』
ガイも拳を握ってこれからのヒーローショーの計画を立てているなかで、ヒーローの裏側を知る男――慧はぼそりと呟いた。
「スポンサーの関係上、それはすごく難しいだろう?」
元はテレビ番組だからしっかり予算は決まっているはずだし、下手なところに予算がかかると番組が打ち切りなったり……と慧はあまり知りたくなかったヒーローの裏側を語る。
「天誅完了! ま、これだけヒーローがいりゃあ、当然ってトコかな」
慧はそういうが、彼の話を聞いたものは思った。
ヒーローの最大の敵それは――悪の総大将とかではなくて『予算』なのではないだろうかと。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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