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【相談】熱狂の饅頭争奪戦
最終発言2016/05/26 19:42:32 -
【質問】観光案内所
最終発言2016/05/26 00:54:17 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/05/24 22:40:56
オープニング
●饅頭、それは優しきニセ頭
饅頭。
「三国志」でおなじみの蜀の天才軍師、諸葛孔明が考案したというシロモノだ。
当時、南蛮(ベトナムとミャンマーの北部を含む雲南省のあたり)には河の神を鎮めるため、蛮人の頭(蛮頭)を捧げる風習があった。
この地を攻めた際、その恐ろしい風習を止めることを誓った孔明は、家畜の肉を小麦粉の皮でくるんだニセの頭を捧げるよう教えたのだという。
しかもすばらしいのは、捧げた後は食べるというルールを制定したことだ。それにより、饅頭は改良され続け、よりおいしく進化を遂げていった……!
●死亡遊戯
22時になると、特設会場の入口に係員が姿を現わした。
待ち構えていたエージェントたちがわっと係員に群がって、整理券をもぎとっていく。
「はいみなさん押さないでーはいっ! 押すなっつってんだろがボゲぇ! だからって引っぱんなダラぁ! しょっぺぇマネしやがって……。てめぇらのドタマに詰まってんのは塩餡かゴラぁ!?」
係員――屈強な古株エージェントが、先走る参加希望者に整理券を貼りつけた拳をぶっ込んだ。
係員は、顔面に整理券をめりこませたエージェントどもをざっと見渡し、さらにダミ声を張り上げる。
「てめぇら様はこの祭のクライマックスを飾りやがる搶包山(饅頭争奪戦)に参加しくさる、HOPEの優秀なお嬢様がたでいらっしゃるんですわよなぁ!?」
覚醒オネェさながらの係員の迫力に、女性エージェントたちは「ですわ!」と声のトーンを跳ね上げ、男性エージェントたちも「そうわよ!」などと声を裏返した。
――通常の搶包山のとなりの会場で行われるこのライヴスリンカー専用搶包山は「死亡遊戯」と呼ばれ、去年までは古龍幇の血気盛んな構成員たちによる闇の祭典であった。それが今年、古龍幇と和睦したHOPEのエージェントにも参加権が与えられることとなり、表舞台で開催されることとなったのだ。
「あいつを見ろ」
係員が指差した会場の中心には、全長50メートルの塔。表面には作り物の饅頭がびっしりと貼りつけられている。
そしてその頂上にひとつ、HOPE香港九龍支部長にして香港紅茶会の首魁である霍凛雪(az0049)の生首が串刺しに……。
「心配すんな。ありゃ饅頭だ」
そう。あの生首は、凛雪の顔型を完璧に再現した饅頭なのだ。
「あ? なんであんなもん作ったかだぁ? 「死亡遊戯」が古龍幇とHOPEのなかよし記念行事だからに決まってんだろが! 昨日までぶん殴り合ってたおトモダチとなかよく支部長の生首奪い合う……実にほほえましいじゃねぇか、ああン?」
古龍幇の長老格である劉士文の顔はさすがに使えなかったようだが、これは実現しなくてよかった。香港の裏と表を代表するふたりの生首を両陣営の血走った輩で奪い合う「死亡遊戯」、さすがにただではすまないだろうから。
「ただよ、ウチにゃウチのメンツってもんがあらぁな。支部長殿のご尊顔を奪われちまいました、喰われちまいましたじゃ、笑うに笑えねぇ」
係員がハンマーのような拳で天を突き、握り込んだライヴスを弾けさせた。
「支部長殿の首にゃ、無病息災と幸福のおまじないがかかってるってぇハナシだ。なにしたってかまわねぇ、てめぇらのゲンコツでぶん獲ってこいやぁ!!」
うおおおおお!
エージェントたちも拳を突き上げ、係員に応えた。
そして向こうでは、どうやら同じような発破をかけられたらしい古龍幇のリンカーたちが雄叫びをあげていた。
「開戦は23時30分!! HOPEの小虎ども、体あっためとけよぉ!」
エージェントたちがまた「おおおおお!!」。
「開戦は23時30分!! 古龍幇の小龍たち、心して備えよ!」
リンカーたちもまた「おおおおお!!」。
果たして何人の参加者が次の日を迎えられることか。
――死亡遊戯、この後すぐ!
解説
●依頼
饅頭の塔のてっぺんに突き刺さった饅頭(凛雪の生首)を、誰よりも早くゲットしてください。
●ルール
・AGWおよび全スキル使用不可。
・素手状態による打撃、投げ技、関節技、固め技はすべて許可。
・塔に着くまでの間は共闘可。
・急所攻撃、セクハラは禁止。
・言葉の弾丸による精神攻撃はモラルの範疇で。
・塔に貼りつけられたニセ饅頭は投擲武器にできます(剥がす→投げるで2ラウンド消費)。
・各種判定はキャラのレベルよりもプレイング優先。
●饅頭の塔
・遊戯が開始すると塔のまわりに「石兵八陣(巨大迷路)」が出現。入った者を、小ぶりな石製ロボット(破壊不能。とても固いです)たちが、水攻めしたり風を浴びせたり足を引っかけたりして邪魔します。
・塔のあちこちから金棒がランダムで突き出し、塔へ取り着いた者を突き落とします。
・塔の上方が開き、超オーバーハングを造ります。ここに差しかかると移動速度が落ちるので、下から狙撃されやすくなります。
●饅頭
・生首(饅頭)の名称は「平安包」といいます。
・生首はやさしくほほえんでいます。
・生首の額部分には赤文字で「平安(無病息災と幸福を祈るおまじない)」と書かれています。
・饅頭の中身は、白ごまを混ぜ込んだ蓮の実の白餡。甘くておいしいです。
●備考
・礼元堂深澪(az0016)が実況(小学校の運動会風)します。
・エージェントと同数の古龍幇リンカーが敵として参加します。
・古龍幇リンカーの中には拳法家、チンピラ、切れたナイフ(天然)が混入しています。彼らにからむかどうかは自由。
●タグ
仏契(ぶっちぎり)=迷路、敵、塔へ突撃します。損傷率は高いですが、ネタをかますならここです。
千手=攻防を駆け引きしつつ生首へ向かいます。損傷率普通。作戦をしかけるならこのタグを。
半眼=最後尾から戦況を見て取り、漁夫の利を狙います。損傷率低め、描写おとなしめとなりますが、現場レポーターを任されるかも。
リプレイ
●23時30分
『死亡遊戯』開始のサイレンが空気を揺るがせて。
「殺せぇえええ!!」
係員ことリーン・カカが濁った雄叫びを上げると。
「なかよし記念行事やったんとちゃうんか」
先陣を切って跳びだした弥刀 一二三(aa1048)が眉をひそめてツッコんだ。
『立ちふさがる者はすべて仏にしろ! 塔を取り巻く饅頭を踏む奴らには――私が愛と勇気を携えて折檻だ!』
一二三の内で気炎を噴き上げる隠れ甘党、キリル ブラックモア(aa1048hero001)。
「あんなぁ、キリル? あのまわりの饅頭、作り物なんやで」
『ななななにぃ!? それでは私はいったいなんのために生まれてきたと……折檻、しちゃうわよ☆』
「生まれてきた理由はアレちゃうやろ。いやそれよりもや、あの生首はほんまもんの早い者勝ちや! 支部長の頭の重さとおんなし4・5キロのやで!?」
「4・5キロ……おいしいのかな……?」
こちらはリンクせずに挑戦中のLe..(aa0203hero001)である。
「そりゃそうだろ。この会場に1個しかねぇ特別なヤツだぜ」
契約主の東海林聖(aa0203)が力強く答えると。
「……食べる」
Le..が足の回転数を上げて一気に先頭へ。その速度、まさに仏契(ぶっちぎり)。
「待ちやがれルゥ! ほかのヤツにもテメーにも負けねェからなッ!」
負けずぎらい全開で後を追う聖。
これを古龍幇側のリンカーが迎撃の構えで動き出す――と、思いきや。
「いやん。お姉さんのおみ足がぽろりですわー」
なぜか古龍幇側にいたチャイナドレス姿の木霊・C・リュカ(aa0068)が、いきなりしゃがみこんで先頭のリンカーの足を引っかけた。スリットから伸び出した脚がやけに綺麗!
『こちら実況の礼元堂です~。おぉ~と、リュカ君の先制攻撃決まりましたぁ。解説のリーン・カカ君? なんで古龍幇のみんな、アレのこと見逃しちゃったんでしょ?』
実況の礼元堂深澪(az0016)が解説席に収まったリーンへ振った。
『キモかったんじゃねぇ? オレだったらぜってぇ触らねぇよ?』
リーンのコメントに、めずらしくリュカの内に引っ込んでいる契約英雄オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)がぽつり。
『普通の服に着替えたい』
もちろんその願いは叶わぬ夢なのです。
『セクハラ規定仕事しろや……』
契約主である紫 征四郎(aa0076)の内で呆然とガルー・A・A(aa0076hero001)がつぶやく。残念ながらこの祭りの規定、ガバガバです。
『かてばいいのですよ! かてば!』
涼やかな美青年の顔の裏で、征四郎がふんすふんすと意気込んだ。
『おまえさん、こういうの本当に楽しそうだよな……』
『紫家にはいぼくのにもじはゆるされないのです!』
少々引き気味のガルーにくわっと言い返す征四郎。
『ひらがなだと4文字だけどな』
「リュカ、援護します!」
ともあれ、リュカの作戦で大きく崩れた古龍幇先陣。そこへHOPEの先陣がぶちあたった。
『支部長殿の生首は私が食すっ!!』
「ルゥ……生首……まるかじり」
かたや、キリルやLe..が甘味への欲望を垂れ流せば。
「我生首愛!」
「ワタシハ、ナマクビ、ヲ、ヒツヨウ」
古龍幇リンカーたちが言い返す。
ゆずれない思いを胸に、両者は拳やら脚やらでおしゃべりを開始した。
「行くぜッ! 千照流・闘撃……枩葉崩しッ!!」
奥義をもって、聖が古龍幇リンカーの顎を打ち抜いたなずなのに。
「え!?」
リンカーは倒れるどころか揺らぎもせず、拳を打ち返してきた。ズドン!
「ぐ、ぅぇっ――やたらツエーなクソっ!」
横を見ればLe..が、頭にゲンコツを食らいながらクルクル回っていた。秘技を繰りだそうとしているらしいが、その攻撃がまるで相手に届かないのだ。
――あのLe..が手も足も出ないって……古龍幇のリンカーはバケモンか!?
このとき聖もLe..も、根本的なことに気づいていなかったんである。
『マジガチですねぇ~。やっぱりメンツと甘味がかかるとひと味ちがいます?』
リーンは深澪へ苦い顔を向けて。
『生首生首ってよ、アイツらアタマ沸いてんじゃねぇ?』
身も蓋もなかった。
「とにかく突き進んで饅頭ひと口でも食べるとにかく突き進んで饅頭ひと口でも食」
目標をセンターに入れてスイッチを押しちゃう14歳男子さながら、ひたすらに唱え続ける鶏冠井 玉子(aa0798)。そのレイジング・ブルな突撃が敵を突き飛ばし、押し退け、なぎ倒していく。
『……』
彼女の内の契約英雄オーロックス(aa0798hero001)が、思うままに突き進むがいいさ! そんな顔をしながらサムズアップを決めた瞬間。
「ベルっ!?」
「古龍幇もHOPEもかかってこい! マイヤが見てるんだよ。俺は、やる!」
玉子の後頭部を踏みつけた迫間 央(aa1445)が、一気に両勢力の先陣を跳び越えていった。
『死亡遊戯……功夫映画? 好きそうな映画に出演できたからかしら。央、とっても楽しそうね』
マイヤ サーア(aa1445hero001)が央の内で小首を傾げた。どうやら彼女、央が映画の1シーンに出演していると思っているらしい。理解し難い彼氏の趣味を生あたたかく見守る女子っぽいが、さておき。
空を行く者あれば地を行く者もある。
「足には自信ありですよ! 迷わず突撃、仏契です!」
つかみかかってきた古龍幇のリンカーの手を、唐沢 九繰(aa1379)はヘッドスライディグでくぐり抜け、前転して立ち上がってまた走り出す。
『これだけの人間が競い合うのです。至福の味にちがいありません』
契約英雄のエミナ・トライアルフォー(aa1379hero001)へ、九繰は走りながら不敵に笑んでみせた。
「エミナちゃん、この聖戦に勝ってどんな味か確かめましょうね!」
小競り合いに巻き込まれる前に迷路へ逃げ込め大作戦。それが九繰の作戦だ。
ぱらぱらと駆けつけてくる敵に目もくれず、九繰は地面から迫り上がってきた迷路の口へダイブした。
●23時31分
参加者の前に現われた巨大迷路『石兵八陣』。中は迷路になっていて、石兵ならぬ石ロボがあの手この手で参加者たちをジャマしてくるという。
「準備はいいか。石兵八陣へ踏み込むぞ」
この祭りにおける最大勢力【鴉】を率いる真壁 久朗(aa0032)がメンバーへ指示を飛ばした。
そして彼は、先の大規模作戦『東嵐』でメンバーに加わった秋津 隼人(aa0034)、そして笹山平介(aa0342)とその契約英雄、柳京香(aa0342hero001)へ顔を向け。
「俺たち全員でこの祭りを獲るぞ」
「了解です。尽力します」
やわらかい声音で答えた隼人に続き、平介もまた。
「よろしくお願いします♪ がんばっちゃいましょうね、京香」
『それはもちろんがんばるけど――な、なんかあの生首、傷口のとこからもう、あんこ出てない?』
久朗はそれに力強くうなずき、次に傍らで準備運動中の共闘勢力【駄菓子】の虎噛 千颯(aa0123)に声をかける。
「俺たちでやってやろう」
『目ざせ頂上! ですね!』
久朗の内から契約英雄セラフィナ(aa0032hero001)が言葉を添えた。
「背中はまかせたぜ! その代わり、囮はしっかりやらせてもらうぜ!」
『皆で勝利を勝ち取ろうでござる!』
千颯に続き、内より契約英雄の白虎丸(aa0123hero001)もまた太い声音を響かせた。
「よぉし、がんばろうぜ!! 【鴉】さんがいっしょなら安心だな!」
【駄菓子】の一員である呉 琳(aa3404)が、ギザギザのサメ歯を輝かせて拳を突き上げる。
『こうもできる人材がそろっていると、かならずドジを踏むうかつ者が出てくるものだ。……わかっているのだろうな、琳』
琳の内より、契約英雄の濤(aa3404hero001)が固い声を発した。
琳はジト目を寄り目に変えて考え込み。
「……濤、ドジ踏むなよ?」
『馬鹿者! おまえのことを言っているのだ!』
内と外とで口ゲンカを始める琳と濤を、千颯はかるくなだめておいて。
「【駄菓子】、突っ込むぜ!」
迷路へ突入した。
それを見送ったセラフィナがぐっと力を込めて。
『重要任務です……! 僕たちもがんばりましょう』
『ああ。この祭りを隼人たち、平介、京香の歓迎の場にする』
内なる声で答えた久朗だが、表では鋭い表情を崩すことなく。
「【鴉】は【駄菓子】の背後を守りつつ先行集団を追う」
『――みなさん! 思いっきり楽しむのを忘れずに、ですよ』
セラフィナが付け加えた言葉に、薄く笑んだ。
央や九繰を追う形で、エージェントやリンカーが小競り合いを繰り広げながら迷路へ入っていく。
『【鴉】に【駄菓子】。参加エージェントのほぼ半数が共闘体制とは予想外だったな』
内からのリーヴスラシル(aa0873hero001)の声に、月鏡 由利菜(aa0873)が苦い顔をうなずかせた。
「塔に着くまでは共闘可というルールが、私たちには災いしましたね。でも」
由利菜はまっすぐ顔を上げ、そびえ立つ塔をにらみつける。
「塔に着けば個人戦です」
『……手始めに障害物の排除からか』
同じタイミングで迷路に入ってきていたらしい古龍幇リンカーが、由利菜の腹へ前蹴りを放ってきた。
「蹴り技でしたら、私たちも少々嗜んでいますよ」
由利菜の横蹴り、その踵がリンカーの顎、鳩尾、胃に突き立ち、吹っ飛ばした。
『古龍幇の面々は手荒い交流がお好みか。ならば私たちも遠慮はしない』
「とはいえ時間がありません。急ぎましょう」
由利菜は左手を迷路の壁につけ、前進を開始した。
そんな彼女たちに先行すること3メートル。
リィェン・ユー(aa0208)は迷路の先から聞こえる声をたどり、慎重に進んでいた。
「先頭集団が罠にかかり始めたか」
『皆楽しげでなによりじゃ』
内で答える契約英雄のイン・シェン(aa0208hero001)。ちなみに先から聞こえるのは「ぎゃー!!」とか「うぇいっ!?」、観客席から聞こえるのは「殺せ殺せ」で、ある。
「しかし……この祭に自分が参加することになるとはな」
リィェンはもともと古龍幇の構成員だった。とはいえ彼の仕事はさまざまな仕末であり、同胞にすら顔を晒すことはゆるされていなかった。ゆえに初参戦なわけだが……。
『――じゃったら今日は思いきり楽しまねば!』
万感を飲み下し、インが明るい声で言う。
「やるからには勝つ。先頭集団の連中には悪いが、露払いをしてもらおう」
『せっかく昼間に服も選んでもらったことじゃしの』
リィェンの衣装は黒線の入った黄色のトラックスーツ。これは昼間の観光時、テレサ・バートレット(az0030)に選んでもらった勝負服だ。
「『死亡遊戯』にはもってこいの衣装だけどな……逆に狙いすぎな気が」
『かまわぬかまわぬ。今日は祭じゃ。過ぎる程でちょうどよい!』
先頭集団の一角、【鴉】に後ろを任せて突き進んでいた【駄菓子】の4組は今、多数の古龍幇リンカーとともに石ロボの放水攻撃をくらっている真っ最中だ。
ちなみにこの石ロボ、ダルマっぽい太っちょボディに太短い手足、ちょびヒゲをくっつけた丸顔で、かわいいと言えなくもない感じ。
「ぼべばん、ぼぼばばばびばぼばっばば、ぼんぼびぼぼびばぶぶぼぼぶばべびびぶんばあぼぼばば!」
『なにを言っているのかまるでわからんぞでござる』
水流に転がされながら多分かっこいいことをほざいている千颯の内、白虎丸が他のメンバーの本音を代弁した。
「きっと千颯さん、「俺ちゃん、この戦いが終わったら、本土に残した息子を迎えに行くんだあぼぼばば!」って言ってるんだと思います!」
頬に涙をひとすじ落として力強く言い放つ大宮 朝霞(aa0476)に、内から契約英雄のニクノイーサ(aa0476hero001)がツッコんだ。
『あぼぼばばはなんなのだ。あぼぼばばは』
しかし、千颯の自己犠牲に感動モードの朝霞にはまったく聞こえていないようで。
「ニック、千颯さんを助けますよ! だって私、聖霊紫帝闘士ウラワンダーなんだから!」
大げさなアクションを決めつつ、唐突に名乗りをあげる朝霞。香港にウラワンダーの名を轟かせたい! という野心が、彼女の特撮ヒーロー的アクションを加速している。
『助けるのはいいんだがな。古龍幇の連中がだめだと言っているぞ』
千颯へ放水中の石ロボに見つからないよう、迷路の壁に貼りつくようにして接近していた古龍幇リンカーたちが、一斉に襲いかかってきた。
「あさかを狙う卑怯な輩は俺たちが倒すぜ!」
囮役の【駄菓子】の囮役――囮オブ囮として迷路を駆け回っていた琳が、リンカーたちと朝霞の間に跳び込んできた。
『チームで唯一の女子、私たちで守りますよ!』
生真面目に言葉を添える濤。
「ありがとうございます琳さん、濤さん!」
とびきりの笑顔で朝霞がピースサインを翻した。
「笑顔がステキだ(笑顔がステキだ)!!」
『思ったことがそのまま口からダダ漏れだぞ単細胞(ああ、笑顔が素敵だ!)』
言葉どおりに本音と建て前を使い分け、琳を叱る濤だった。
ちなみに朝霞のほうも、ニクノイーサに苦い説教を食らっていた。
『目つきの悪い純情少年を惑わせるな。惑わせるなら敵にしておけ』
「笑顔で?」
『相手が男なら効果がある』
朝霞はんー、と考え込んで。
「じゃあ、相手が女性だったら?」
『鹿島ががんばれ』
急に話を振られた鹿島 和馬(aa3414)は「なんですと!?」と頭を振り回し。
「俺の笑顔は……高いぜ? オレンジジュース買ってもらうんだぜ?」
『和馬氏は知らない。オレンジジュース1本で何枚の鹿せんべいが買えるかを……。英雄的な白き雄鹿だった俺氏、人間社会を支配する貨幣システムの残酷さにむせび泣く』
内の俺氏(aa3414hero001)が重々しく告げたりしている間にも、和馬の頭はいそがしく動きまわっている。
「かずまどうした? 頭がおかしいぞ?」
『その言いかたは誤解を招くからやめろ』
濤に叱られた琳へ、俺氏が返事をした。
『俺氏たち野生動物は水NGなんだよ』
どうやら千颯に当たって飛び散る水を避けているらしい。
「いや俺、野生動物じゃなくて元ニートなんですけど」
和馬がやくたいもないことを言い返しているうち、古龍幇リンカーが朝霞目がけて殴りかかる。
そのパンチをわざわざ側転でかわした朝霞が琳と和馬へ目線を投げて。
「鹿島さん! 琳君! イリュージョンアタックをしかけますよ!」
「あさか!? ちはやを助けないと!」
琳の言うとおり、千颯は未だ水の中。
『助けなくていい。奴は……いそがしそうだからな』
ニクノイーサが千颯を指した。大変なことになっているはずの彼がうれしげな顔で「俺ちゃんパージ!!」などと水圧に抗いつつ、服をすぽんと脱ぎさる様を。
『なぜ脱ぐのでござるかっ!?』
天然系なはずの白虎丸が思わずツッコむ。
対する千颯は生き生きした顔で。
「水の中で服着てたら溺れる? 水の抵抗減らす? あとはパージャーの癖(へき)!」
『なぜ最後のヘキ以外は疑問型なのだでござるーっ!!』
さておき。
「イリュージョンアタック!」
それは【駄菓子】メンバーが身長順に縦並び、連撃をかけるという連携技である。本来先頭は千颯なのだが、彼はアレなので和馬、朝霞、琳の順に並んでいる。
「まずは俺が敵を小粋にスルーするー!」
「次に私が華麗にスルーです!」
「俺は空気読んでスルーだぜ!」
自分たちを完全スルーして去って行く【駄菓子】を、古龍幇リンカーたちはただただ見送ることしかできなかった。
「待てよー! 俺ちゃんまだここにいますー!!」
『俺をっ! 俺をコレとふたりぼっちにしないでくださいでござるーっ!!』
ようやく水攻めから逃れたインナー一丁(倫理的表現)の千颯が、白虎丸の魂の叫びを引きずりながら、だばだば仲間を追っかけていった……。
●23時32分
「もらったでござるよ!」
【鴉】のニンジャ、小鉄(aa0213)が、目についた古龍幇リンカーのみぞおちに縦拳を喰らわせて離脱、迷路の壁を三角跳びして前方宙返りを決めた。
「はっはっは! 拙者ひとり捉えられぬようでは、支部長殿の生首など獲れはせぬでござるなぁ!」
先陣を買って出た彼の仕事は、古龍幇リンカーを攪乱し、目を引きつけることで仲間の進路を確保することだ。
『張り切るのはいいけど、後で怒られるようなことはしないでよ?』
心配そうに言う契約英雄の稲穂(aa0213hero001)だったが、すぐにその声の調子は明るく転じて。
『まぁ、こういうのは楽しまなきゃ損よね、損。思いっきり行きましょ!』
「承知! 全力で参る――」
壁をもう1度蹴ろうとした足を誰かに掴まれ、小鉄は顔面からぶっ転んだ。
「な、何奴!?」
『ちっちゃい子たちだよ!』
稲穂の言葉に、小鉄が赤くなった鼻を押さえながら見てみれば、足を掴んでいるのは石製の小さなロボットたちだ。
「これっていわゆる孔明の罠っ!?」
壁の上に飛び乗り、そこで鉢合わせした別の石ロボから逃げるためにあわてて飛び降りた【鴉】の御代 つくし(aa0657)が高い声を上げた。
『その元が出てきた。くらいのものでしょうね。罠――妨害が始まるのはこれからですよ』
内の契約英雄メグル(aa0657hero001)がおもしろくもなさそうに言葉を返す。
果たしてその言葉どおり、本格的な妨害工作が始まった。
石ロボたちが持ち出したのは極太のホース。その先端から消火レベルの豪水が迸り、エージェントもリンカーもまとめて吹き飛ばす。これを食らいながら服を脱げる千颯は正直おかしい。
「これはまた凄まじいですね。夏が胸を刺激する!」
ついついそんなことを言いながら隼人が胸で水を受け、生レッグ魅惑の人魚姫なポーズを決めた――そのまま押し流された。
「なにしてるんですか秋津さん」
その背を右手で支えたのは佐倉 樹(aa0340)。
「早ク早ク、こッチに!」
樹に続いてシルミルテ(aa0340hero001)が左手を右手に重ねて押しつつ隼人を誘導した。
「すみません! つい、夏に魅せられてしまいました」
その樹を水からかばいつつ、隼人が指示された方向へ逃げる。
しかし太い水槍は執拗に追いかけてきて――
「みなさん、おいらの後ろに隠れてくださいっ!!」
両手を大きく広げて割り込み、【鴉】の仲間をその背にかばった齶田 米衛門(aa1482)が、腰を低く落として放水を受け止めた。しかし、水圧に押され、その体が仲間ごと押し込まれた。
『こんな水なんでもねぇッス! おいの単純さ、甘く見られちゃ困るッスよ!』
米衛門の内なる声に応えたのは契約英雄のスノー ヴェイツ(aa1482hero001)だ。
『おう! オレたちの守りの力、ぶちかましてやるぜ!』
ふたりのライヴスが燃え上がり、その赤を映した髪が逆巻きながら伸びていく。踏みしめる足が土に深くめり込み、後退を止める。そこへ。
「風邪でもひかせる気か」
米衛門の右どなりへ久朗が並んで共に水を遮り。
「言ったじゃないですか。サポートしますって」
左どなりは隼人が固め。
「私たちだっていますよー!」
米衛門の背中をつくしが押して。
「つくしさんに同じ、です」
久朗の背中を樹が押して。
「ボクも参加! 絶対負けないんだからね!」
『わんふぉーおーる、おーるふぉーわん。なのじゃ』
チョコバーを強く噛み締めた今宮 真琴(aa0573)が内の契約英雄、奈良 ハル(aa0573hero001)と力を合わせ、その小さな両手でつくしと樹を支え。
「後ろは私にお任せを♪」
その真琴を平介がしっかりとカバーした。
次々と【鴉】のメンバーが集結し、互いを支え合う。
『ここまで支えてもらってぶっ飛ばされましたじゃカッコつかねぇぞ!』
「あったりまえっすよ! 押し、返すっ!」
スノーに太い言葉を返し、米衛門が水を割りながら突進、石ロボの手からホースを弾き飛ばした。
「【駄菓子】に追いつくぞ」
前に飛び出してきた古龍幇リンカーを体当たりで押し退けた久朗の指示で、【鴉】が速やかに移動を再開した。
「と、その前に……」
樹が久朗に打たれてふらついているリンカーへ歩み寄った。
「おつかれさまです」
「おつカレおつカレ」
シルミルテといっしょに声をかけつつ、花がほころぶような笑みをその顔に咲かせた。
「?」
そして、思わず動きを止めたリンカーを。
流水さながらの挙動で、跳ね回るホースを追いかけて右往左往していた石ロボのほうへ投げ飛ばす。
「アイヤ!?」
石ロボにボコボコ殴られるリンカーを背中越しに一瞥。樹は低くつぶやいた。
「勝負とは非情なものなのです」
『おぉ~。【鴉】、見せてくれましたねぇ~』
深澪のコメントにリーンが言葉を添えた。
『チームの見せ場はチームワークだ。【鴉】はきちっと出せてらぁな。ま、【駄菓子】みてぇなネタのコンボも悪かねぇがよ』
『ほかのみんなはどんな感じかなぁ? 現場のカグヤちゃん~?』
「最後尾のわらわじゃ。こちらは人気もなくなって静かなものじゃよ」
渡された現場実況用マイクを手に、カグヤ・アトラクア(aa0535)がのんびりと石兵八陣へ足を踏み入れた。
「この石兵八陣、かの諸葛孔明が造ったという陣を模しておるのか。負け戦想定の罠を造る前に勝つ策を取るか戦わぬ選択をさせるのが側近じゃろ馬鹿め――という、例のアレじゃな」
『カグヤ、現場のレポートは?』
ガグヤの内から眠そうな声でツッコむクー・ナンナ(aa0535hero001)。
「陣の解説をわかりやすくしてやったではないか……おう、あんなところで殴り合いをしようというのんきな輩がおるぞ。生首争奪はどうしたのじゃ、生首争奪は」
『人のこと指差すのは行儀が悪いんじゃない? それに生首争奪はどうしたはカグヤも同じだし……』
「さて、ここからは第三者視点でタイマンをお届けしてやろうぞ」
――石兵八陣の壁を伝い、生ぬるい風が行き過ぎる。
「それなりの手練れを入口の門番として配置しておいたのだがな」
刃のような目線を横薙ぎ、古龍幇リンカーが言った。
「ああ。ちゃんと二流だったぜ」
リンカーの殺気を不敵な笑みで弾き、赤城 龍哉(aa0090)は肩をすくめてみせる。
『二流の者たちと真っ向勝負する必要がありましたの?』
皮肉ならぬ嘆息を内で漏らすのは、契約英雄のヴァルトラウテ(aa0090hero001)だ。
「リンカーと素手でやり合える機会は滅多にないからな」
『私が甘味を所望したわけでもないのに参加を決めた理由、それでしたの……』
ヴァルトラウテの声を押し退け、リンカーが龍哉へと踏み出した。
「あの生首は古龍幇でいただく。戦闘狂にはご退場願おう」
切っ先さながらの貫手が龍哉の鼻へ飛んだ。
「おいおい、急所攻撃は反則じゃなかったか?」
鼻の穴へ潜り込もうとしたリンカーの指先。頭をかるく反らしてかわした龍哉が、その貫手を下から右掌で叩き。同時に左掌で、股間を狙ってきたリンカーの膝を押さえた。
「!?」
「俺とやりたきゃせめて一流を連れてこい」
右掌を上へ、左掌を下へ、それぞれ押し広げる龍哉。そして、トクホマークよろしく大きく体を反らしたリンカーの懐へ無造作に踏み入り、眉間に額を打ちつけた。
『なにか、ここだけ格闘漫画的な感じになってますわ……』
崩れ落ちるリンカーを見やって渋い顔をするヴァルトラウテだったが、龍哉のほうは特に気にする様子もなく。
「ちょい食い足りないが、とりあえずお楽しみはここまでか。次の敵探そうぜ」
『ゴールへお向かいなさい!』
そして視点はカグヤへ戻る……はずだったのだが。
「おお、脅威のメカニズム! なんじゃコレ? 中華製ゴーレムか!?」
でかいうちわを持つ石ロボにからみつき、機械の右腕を駆使して解体しようと励んでいるので戻せなかった。
『カグヤ、石ロボが困ってるし、ゴールはあっちだし、レポートしてないし』
キーキー逃げ惑うロボに引きずられながら、それでもカグヤはしがみついて離れない。
「技術者として未知なる技術を解明せずにはおれぬ! ……いやいや、こやつの制御方法を解明し、皆の勝利に貢献するためじゃよ? さぁて、楽しむとするかのぅ」
『マイクを放送席にお返しするよ……』
クーの言葉を最後に、現場中継はぶつりと途絶えた。
『マイク渡す人まちがっちゃった』
『そういうのは気づいちまったら負けだぜ?』
突っ伏す深澪の肩をぽんぽんするリーンであった。
●23時33分
迷路のただ中、塔の先端に突き刺さった生首を微妙な顔で見上げる志賀谷 京子(aa0150)。
『せめて普通の見た目のやつが欲しかった……』
京子の内なる声に、契約英雄のアリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)が答える。
『味は普通ですよ。きっと』
『保証が弱いわー』
前方のほうで、石ロボのうちわが巻き起こした突風に巻かれたエージェントや古龍幇リンカーがわーっと舞い上がる。
それを見た京子は進路変更、横の壁をこっそりよじ登った。
『最後は真っ向勝負ですよ。それ以外の選択肢はありえませんから』
『最後は、ね。わたしたち軽量級だし、いきなり突貫は分が悪いから。それまでは観察&狙撃――って、塔まで行かないと狙撃用の弾がないのよね』
『壁の上にしかけがないとも限りません。注意してください』
『はいはい』
下から生首を見上げる者あれば、上から生首を見下ろす者もいる。
「ああいう見せしめ、昔よく見たなぁ。よーし、えらい人の生首を取り戻すよー」
石ロボのうちわで巻き上げられたギシャ(aa3141)が、宙でくるくる回転しながらしみじみつぶやいた。
『感傷も意気込みも不要だ。勝利という結果だけ出せばいい』
渋く言い聞かせる契約英雄のどらごん(aa3141hero001)だったが、ギシャの内にいるわけなので、今はギシャといっしょにくるくる中。
『というか、どうしておまえは罠という罠に引っかかるんだ? アサシンとしての心得と技はどこにしまいこんだ?』
「んー、考えることがいっこだけじゃないから? 殺すだけとかならよかったのにね」
『勝負には負けていいものと勝たなければならないものがある。そしてこれは後者だ!』
くわっ。いつにない迫力でどらごんが吠えた。
「んー、それじゃ本気でー」
「とにかく突き進んで饅頭をひと口でも食べるとにかく突き進んで饅頭をひと口でも食べるとに」
ギシャは自分の右方向、空中を超高速クロールで急降下していく玉子を見やり、平泳ぎで接近。その背にまたがった。
「とつげきだー」
「かく突き進んで饅じゅ」
――人々は見た。摩擦熱で赤く燃え立つ玉子ロケットが描いた白い軌跡を。
『玉子ちゃん、墜落してますよ~』
『背中に乗っかってるちっこいのの羽がもうちょいでかけりゃなぁ』
深澪の実況に、リーンが無念の顔でうなずいた。
玉子の内のオーロックスはいつもどおりになにを言うこともなく、ただ悟りを映した半眼を前に向け、迫り来る地面を見つめていた。
左手の法則で迷路に挑んだ由利菜とは逆に、右壁の法則を使って迷路を駆けていた央が――
「出口っ! 出口はどこだぁああっ!!」
――なぜかそこにいた石ロボにスネを思いきりぶつけ、地面に転がった。
いや、自分の勘や運の悪さは自覚していた。だから法則とシャドウルーカーの基本を守ってここまで来たのだが。
空を跳べば放水に撃ち落とされ、地を走れば迷路で迷ったあげく落とし穴にはまり、また跳ぼうとすれば石ロボが持っていたヒモに足を突っ込んでぶっ倒れ……それでもトップを維持しているあたり、マイヤに男を見せたい執念である。
『央くん不幸ですねぇ~』
『マーフィーに名前変えたらどうよ?』
「ほっといてくれ!」
放送席に叫び返し、央は前転の勢いを使って起き上がった。
『わ~上手ぅ』
『小器用なのがまたなんともなぁ』
「ほっといてくれっ!!」
ズレた眼鏡を両手でかけなおし、央はまた走り出した。
『央、あまり無理をしないで。監督さんにはワタシから話を』
今でもこれを映画の撮影だと思っているらしいマイヤが、心配そうに言う。
「大丈夫だ。俺は絶対勝って、マイヤにあの生首を捧げるよ。だから見ててくれ」
『え……いらない、けど?』
「え……いらぎゃああああああ」
上げた右脚が石ロボの頭に引っかかり、地面に顔面痛打。シャチホコのポーズで悶絶したその背中に放水を受け、押し流されていった。
「迫間さん燃えてますね! 私も負けませんよーロボかわいいっ!」
央とトップ争いを繰り広げていた九繰が、壁の上から飛び降りてきた石ロボたちに目を奪われる。
「あれで転ばないなんてバランサーが高性能なんですね! 連れて帰りたいー!」
『九繰、今はロボットより饅頭です』
足を止めかけた九繰をエミナがたしなめた。
「うう、わかってます! でもちょっとくら」
『饅頭です』
「ううう、饅頭より石ロボ欲し」
『饅頭です』
元々が医療用機械のエミナだから同族に厳しいのかなんなのか。エミナに冷たく促され、九繰は壁に跳び乗り、宙へ舞った。思いきり後ろ髪を引かれながら――
「ルゥ……もう少しで、出口だぜ……」
ボコボコの顔で、聖がよろよろとLe..に近づいた。
「おいしい……生首……」
こちらはタンコブのせいでカリフラワーみたいな頭のLe..。
ふたりは思いつきもしなかったのだ。リンクしていないリンカーと英雄が、他のリンク済みの連中と殴り合えるわけがない現実を。
「俺……まだまだだ、ぜ……」
「……リーチの差で……負けた……」
『おーい、問題はそこじゃねぇぞぉ』
リーンのツッコミを聞き遂げることなく、聖とLe..は道半ばで散った。
「なんてことだ! こっちは行き止まりだったぁ!」
迷路の端っこでリュカが哀れっぽい声をあげた。棒読みどころか演技過剰で実にウソっぽい。
『こんなのに引っかかる奴がいるのか……?』
オリヴィエが首を傾げたが大丈夫。古龍幇エージェントにも天然系が一定数混じっているので。
「なに、行き止まりだとぉ!? どれどれ」
天然なのでついついやってきてしまったりするわけだが、
「行き止まりだと言ったでしょうに」
征四郎の手刀であっさり眠らされた。
『もうすぐせきへいはちじんはおわりなのですよ。征四郎たち、がんばりましたね』
内でほうと息をつく征四郎を、ガルーが低い声音でたしなめた。
『塔に着いてからが本番だろ。チーム作ってる連中がどうすんのかにもよるけどよ』
「――今までの様子を見るかぎり、個人戦に移行はしないでしょうね」
一時的に共闘し、リュカ・征四郎と共に迷路を抜けてきた由利菜が苦い顔で言った。
『邪魔をしてくるだろうな。生首を獲る者はたったひとりでいいのだから』
リーヴスラシルの言葉に一同がうなずく。
「とにかく彼らより早く塔へたどり着くしかありませんね」
壁の影から飛びかかってきた古龍幇リンカーをかわしつつ、征四郎が視線を塔へと飛ばす。
『人数が多いだけに、最大勢力の【鴉】は迷路を抜けるまでもう少しかかるだろう』
リーヴスラシルが語り終えるまでに、由利菜が体勢を崩したリンカーの背に踵を打ちつけ。
『【鴉】に先行してる【駄菓子】には注意だな』
「ちょっとオリヴィエ、代わってくれない?」
オリヴィエに文句を言いつつ、リュカがよろけたリンカーをあちらの石ロボのほうへ押し出した。
『あんたが着替えたらな』
そう。今もリュカはチャイナドレス姿のままなのだ。
「えー、せっかくのお祭だよ? 仮装はいいでしょ~。ふふ。目の毒!」
『味方の目に毒すりこんでどうすんだよ』
ガルーがため息まじりに言えば。
『征四郎はリュカのびはだのひみつがきになるのですよ』
征四郎がちょっぴり嫉妬したり。
『――由利菜の肌は俗人の想像を超えるほどの瑞々しさだがな』
よくわからない美の戦いに思わずリーヴスラシルが参戦し。
「あの、そのようなことで競い合っているときでは……」
眉を八の字に困らせ、由利菜が止めに入った。
かくして3組は、古龍幇リンカーが石ロボにバックブリーカーを食らっている隙に塔へと向かう。
●23時34分
石兵八陣を突破した参加者たちが、塔目がけてスパートをかける。
「させるかーっ!」
方陣を組んで隼人をかばいながら前進する【鴉】から真琴が跳び出した。
塔に向かう古龍幇リンカーの脳天にジャンピング踵落とし、それを足場にして上へ。塔のほうから投げられたニセ饅頭をサマーソルトで蹴り返し、投げた相手を撃墜してのける。
『これは……昨日見たアクション映画のせいじゃな』
真琴の内で頭を掻き掻き、ハルがため息をついた。
「隊長! もうけっこうな数が塔に登ってる! ボクらも急がないと!」
真琴の報告にうなずいた久朗が、盟友の【駄菓子】を見る。
【駄菓子】は今、塔の麓で古龍幇リンカーの一団と激しくやり合っている最中だ。
「激しくやり合ってる……?」
眉をひそめるつくしに、メグルが内からあわてて声をかけた。
『つくし見るな! あれは毒だ!』
あれ。
「おっちゃん、やるな」
千颯が傷ついた顔をニヤリと笑ませ、ジャケットを脱いだ。
『ああっ! 苦労して着せた服をっ!?』
白虎丸の慟哭は無視された。
「主も、やる」
壮年の古龍幇リンカーが同じように笑み、上衣を脱いだ。
「ちがう形で逢ってたら……俺ちゃんたちトモダチになれてたかもな」
千颯、グリーヴはずす。
「おっと、妻からもらったお守りのヒモが切れた――」
リンカー、下衣脱ぐ。
たったそれだけで、ふたりの男がインナー一丁である。
『お互い防御薄すぎでござるわー!』
白虎丸にボケをゆるさないほど、今日の千颯はキレがいい……。
「それよりさ、ふたりとも死亡フラグ立てまくりじゃね?」
『いやまだだ。まだ終わらないよ』
和馬に新たな死亡フラグを立ててみる俺氏。
「完全解放一歩手前な俺ちゃんの強さ、おっちゃんとカメラの向こうの嫁と息子に見せてやんぜ!」
「それはこちらのセリフだ! 妻よ、娘よ、父のカッチカチな体を見てくれぇーっ!」
そいやそいやそいやそいや。この音から、ふたりの漢の壮絶な戦いを想像していただけましたらば幸いです。
「ちはやに助太刀しなくていいのか?」
聞いてきた琳へ、和馬がやる気なさげに。
「じゃーイリュージョンファントムやっとく?」
「イリュージョンファントムを!? でも、あれは――」
おののく朝霞へ静かに笑んで、和馬は遠くを見つめた。
「今やんなきゃやるチャンスねぇし」
意外に空気(報告書の都合)を読む和馬である。
「おーい虎噛ー、イリュージョンファントム行っくぜぇー」
「アタックじゃなくて!? え? え?」
とまどいながらも千颯がリンカーへ突撃。その後に和馬、朝霞、琳が――続かなかった。
これがイリュージョンファントム! 味方のはずの千颯を独りで突っ込ませる、究極のすかし技だ。
果たして、なにやら来ると思い込んでいたリンカーに千颯だけが激突し。
「じゃあ俺ら用事あるからー」
その隙に和馬たちは塔へ向かうのだった。
『むごい……』
『ネタは見せたしよ、アレはアレで本望なんじゃねぇの?』
放送席を冷たい風が吹き抜けた。
このころ、塔にはすでに最前線を構成していたエージェントやリンカーたちが多数取りついていた。
「とにかく突き進んで饅頭ひと口でも食べるこれはニセモノだ! とにかく突き進んで饅頭ひと口でも食べるこれもニセモノだ! とにかく突き進んで饅頭ひと口でも食べるニセモノ!」
墜落して迷路の床に突き刺さったはずの玉子が、饅頭への一念――ただそれだけで一直線に迷路を突き抜けて今、ここにいる。
本物の饅頭はよ、テッペンに刺さった生首ひとつだけだぜ。と、告げることもなく、オーロックスはナイロン的新素材をかじっては捨て続ける玉子の内でやれやれとかぶりを振った。
『そろそろ動くぞ、ギシャ』
「りょーかい」
玉子の背中からするりと剥がれたギシャが塔に飛び移った。彼女は元アサシンの経歴を生かし、これまで玉子の背に気配を消したまま貼りついていたのだ。
『意外にすべるな。思いきりつかむと剥がれてくるし、これはなかなかに厄介だ』
「足場があるから平気だよ」
玉子の頭を踏んづけ、ギシャが跳ぶ。続けて上方のリンカーの足をつかんで手がかりにし、また跳んだ。
「こんな感じでテッペンまでゴー」
一方、ギシャより3メートル上方にいる一二三&キリル。
『サンフタ方向、マルサン秒後に金棒来るぞ!』
「うぉっと!」
キリルの細かすぎる指示のおかげで、一二三は塔から突きだした金棒を辛くもかわした。
「なんで海上自衛隊風なんか知らんけど、普段からそうやと助かるんに――」
『生首っ! かぶりついた途端、とろりと甘い餡が口の中にあふれ出す生首、誰にも渡すものかぁ!』
それだけのためにキリルは覚醒した。古龍幇リンカーの攻撃や石ロボの妨害を完璧に先読みし、一二三を迷路の外まで導いたのだ。
「あとはオレが気張らんとな……生首獲れんかったら殺されそうやし」
金棒を鉄棒代わりに大車輪。一二三はその遠心力で上へ跳んだ。
『ヒトフタ方向に敵! 右手狙いで叩き落とせ!』
「塔の金棒、ランダムで出てくるみたいなんだけど」
塔の麓から上を見上げた京子が、内のアリッサへ困った声を投げた。
『そういえば解説書に書いてありましたね……。でもまだ巻き返しようはあります。京子、ニセ饅頭をいくつか剥がしてください』
と、アリッサは不敵に、
『ほかの方々に、狙撃手の真っ向勝負というものを見せてあげましょう』
「了解。……ほんとアリッサって勝負事好きだよねぇ」
手にありったけの力を込め、京子はニセ饅頭を塔から引きはがしにかかる。
「それでは私たちはこれで」
『ご武運を』
由利菜とリーヴスラシルはそう言い置き、塔へ駆けた。
ヴァニル騎士戦技の蹴り技を応用して地を強く蹴った由利菜が高く舞う。
『やるのですね、ツキカガミ』
内なる声で賞賛を送った征四郎がリュカを振り返った。
「私たちも行きます。背中は任せましたよ」
「下は俺たちが引き受ける。だから安心しろとは言えないが、あんたらはとにかく上を目ざせ」
『お兄さんたち応援してるからね』
表裏を交代したオリヴィエとリュカが応える。ちなみに着替えて――いない。
京子と同じくニセ饅頭を剥がし始めるオリヴィエたち。
『すべるらしいから気をつけろよ。あと後ろは見るな。毒だから』
ガルーのアドバイスを受け、征四郎が慎重に塔を登り始めた。
●23時33分30秒
『今の状況はぁ~……塔に登ってる人と下にいる人に分かれてる感じ?』
『登ってる奴が有利ってこたねぇぜ? ニセ饅頭があっからな。登ってる奴は背中向けてんだからよ』
リーンの解説どおり、塔の下からは激しいニセ饅頭攻撃が飛び始めていた。
「むむっ、敵発見! 攻撃開始だよ!」
つくしが塔から引っぺがしたニセ饅頭を振りかぶり。
『味方には当てないようにしないといけませんよ』
「わかってるってば。いっくよー! あったれー!」
メグルに返事をしてから、思いっきりぶん投げた。
そのけっこう重たいナイロン的新素材の固まりは見事に古龍幇リンカーの後頭部にヒットし、撃墜する。
「あそこが空いたな。笹山」
「了解ですよ♪」
久朗が平介に声をかけ、互いの手を組み合わせてカタパルトを作った。
「ついにですね! 秋津さんが空を飛ぶの!」
投擲を続けながら、ワクワクとつくしが言う。
「行ってこい、ヨネ。気張れよ、秋津」
久朗に米衞門は強くうなずき。
「おッしゃ! まがへれ!」
隼人もまた静かにうなずいて。
「ここまで生き残ったんです。あとはなにも考えずに上へ行きますよ」
そして。
「おふたりとも、いきますよ♪」
最初に米衞門、続けて隼人が射出された。
「いってらっしゃーい!」
つくしが振る手に送られて、ふたりのエージェントが超高速で頂上を目ざす。
『ここは私たちが守っちゃうよ!』
稲穂の言葉を受けた小鉄が、塔を登ろうととした古龍幇リンカーに飛びついた。そしてその腕をつかんだまま、リンカーの体を軸に3回転。見事に絡め取って引き倒した。忍術式の変形飛びつき腕がらみである。
「ささ、お方々もお登りあれ」
小鉄に促され、【鴉】のメンバーが塔へ向かったが。
最大勢力をこのまま行かせまいと古龍幇リンカーたちが群がってきた。雑伎団さながら人間タワーを作り、物理的に上方を塞ぐ。
「させるかって言ったでしょ!」
真琴だった。
彼女は小柄な体をさらに縮めて駆け。
「イリュージョンアタックかファントム!」
と敵に突撃中だった【駄菓子】に向けて、
「ごめんね!」
彼らの後ろからジャンプ。琳、朝霞、和馬の順にその肩を踏んで跳んだ。
『俺氏を踏み台にした?』
「実際踏まれたの俺なんですけど!?」
俺氏のセリフに和馬が噛みついたタイミングで、真琴は人間塔の頂上にいたリンカーの首を両脚で挟み、思いきりひねった。
あざやかなフランケンシュタイナーを食らった人間塔がバラバラと崩れ落ちていく。
『今のは……いったいどこで覚えてきたんじゃ』
ハルの疑問に「お祭だからねっ」と返した真琴が、仲間たちにサムズアップ。
「みんな、今のうちだよ!」
撃ち落とし合い、足を引っ張り合い、テッペンを目ざす戦いがヒートアップしていく。
「とにかく突き進んで饅頭ひと口でもニセモノだ!」
オーバーハングの手前で次々とニセ饅頭を引っぺがしてかじり、放り出し続ける玉子のすぐ下につき、落ちてくる饅頭をキャッチして敵に投げる京子。
「弾に困らないのはいいんだけどねぇ」
『ここからどうするか、ですね』
塔を登る傍ら、横から這い寄ってきた古龍幇リンカーの鼻にニセ饅頭を投げつける京子。
しかしリンカーは地面に落ちた後、すぐに起き上がって再び塔を登り始める。
「あーもー、キリがない――わぁっ」
ランダムに突きだす金棒に手を払われ、京子が大きくずり落ちた。
「あーもー! キリがないー!」
その横を「うわー」と落ちていくのは九繰だ。
『九繰が集中していないからこうなるのですよ』
エミナの苦言に「うう」。九繰が言い返す。
「集中はしてましたよぅ。でも、たくさん人がいるから……」
『とにかく上に戻りましょう。ランダム計算で金棒の射出位置を予測して』
しかし、その腹の上に落ちてきた古龍幇リンカーたちによって落下速度が加速。地面に穿った九繰型の穴の底、失神KOに終わるのだった。
「さあ、俺たちも白虎砲にて勝負をかけるでござるよ!」
気絶した千颯とのリンクを強制解除してきた白虎丸が【駄菓子】の面々に告げた。
「よっし、まずは俺が行くぜ!」
鼻の頭を掻きながら、右ななめ45度の角度を決める和馬。
「――琳、俺が露払いしてくっからよ。ちょっとだけ待ってな」
「かずま……!」
『和馬さん、そこまで琳のことを』
感涙する琳と濤へ、和馬ははにかんだ笑みを向け。
「気にすんな。そのかわりよ、この戦いが終わったらオレンジジュースおごってくれよ。ペットボトルのやつ」
『歳下にたかるだけでなく、さりげに大きめのを注文する和馬氏に驚愕を隠せない俺氏だよ』
進み出た和馬を抱えた白虎丸の全身に、ワイヤーをより合わせたかのような筋肉がぐいと浮かび上がる。
「――白虎砲、発射でござるっ!!」
白虎砲。それは白虎丸が思いきり仲間を投げ上げるという、【鴉】のカタパルト作戦の簡易版である。
和馬は直立不動の姿勢で真上にかっ飛んで。
「このままテッペンとるぜ――ぇぅえ?」
そのまままっすぐ墜落した。
「今のは角度、でしょうか?」
『思いきり真上に投げたからな。当然の結果だ』
呆然とつぶやく朝霞に、苦い声でニクノイーサが応えた。
見事に頭から地面に突き刺さった和馬は直立不動を保ったまま、びよよびよよと揺れていた。
「……なに、本命の琳殿が無事ならばいいのでござるよ!」
白虎丸の発言に、それもそうだと残りの3組、大笑い。【駄菓子】の絆は不滅なのだ。
『そこはさっぱり手~切ろうよぉ』
『お互いに信頼(打算)があるうちゃいいんじゃねぇの?』
放送席も実に振るわない様子であった。
●23時34分
先頭集団が塔の40メートル付近に到達すると。
塔の表面が大きく展開し、超オーバーハングを形成した。
引き剥がれたニセ饅頭とともに落ちていく古龍幇リンカー数名。
『こうなると体重が軽いギシャは有利だな』
「ニセ饅頭が剥がれる前に移るー」
両手の力だけでオーバーハングに貼りついているニセ饅頭をひょいひょい渡っていくギシャ。しかし。
『ギシャ、よけろ!』
「え? あいやー」
下から狂ったように飛んでくるニセ饅頭の散弾に打ちまくられ、落ちた。
「ゴメンね。勝負トは非情なモノなんダヨ」
「ここまで来れば仲間以外はすべて敵。悪く思わないでくださいね」
魔女衣装を翻し、シルミルテと樹は落下中のギシャに小さく詫びた。饅頭を投げたのはもちろん彼女たちばかりではなかったが、トドメになったのはギシャの手を打った樹の一投だ。
「――ヨネさんと秋津さんはどうですか? まさか落とされたりしていませんよね?」
「ふタりが落チチゃッタら、ワタシタチががんばッテもムダになっチゃうヨ」
仲間の姿を確認しようと、ふたりが目をこらす。
その願いが叶ったか、米衞門と隼人はまだ無事だったが。
「わわっ」
塔の下から上の連中を攻撃中だったつくし目がけ、リンカーが降ってきた。
『つくし、塔から離れなさい!』
メグルがとっさに指示を出すが間に合わない――
「――間に合いましたね」
平介が体を固くしたつくしの上にかぶさり、リンカーを受け止めていた。
「笹山さん? え? だって笹山さん、塔に……」
「戻ってきちゃいました♪ 私、我慢ができない困った大人ですから」
つくしを守る。ただそれだけのために、平介は塔の半ばからためらうことなく滑り降りてきたのだ。
「でも笹山さん……」
『こいつが言ったとおりよ。平介はただ我慢できなかっただけ。あんたはバカだなって笑ってあげればいいの』
平介の内で京香が微笑んだ。
「そうそう。御代さん、笑ってください。笑顔で送り出してもらえれば、私はまたがんばれます」
平介がまた塔を登り始めた。でもきっと、仲間の誰かがピンチになれば、ためらうことなくまた飛んでくるんだろう。
「いってらっしゃい」
精いっぱいの笑顔でつくしが平介に手を振った。返ってきたのはいつもどおりのやさしい笑顔。
「行って参ります♪」
このように下から上への攻撃は激化していたが、下と下での攻防もまた激化する一方だ。
『せーちゃんが狙われてる』
「見えてるさ」
征四郎を狙い撃とうとしていた古龍幇リンカーのこめかみに、オリヴィエの投げたニセ饅頭がめり込んだ。
と同時に、別の古龍幇リンカーの投擲攻撃がオリヴィエの後頭部に炸裂する。
『オリヴィエ負けるなー。饅頭合戦だよ』
なぜか楽しげにリュカが内から声をあげた。
『あ~ニセ饅頭の投げ合い、始まりましたぁ。HOPE勝てぇ、古龍幇負けるなぁ』
ようやく解説に記載された小学校の運動会的アナウンスをやりとげた深澪に、リーンが塔の上を指しながら言った。
『剥がさねぇでも下に落ちてっからな。問題は、供給源になってやがる“上”だぁな』
そう。塔の上方はなかなかに大変な感じだった。
オーバーハングへ進めば下から撃ち落とされるし、それを逃れたとしても、手がかりのニセ饅頭はオーバーハングの表面に貼りついているだけなので、体重を預けるとすぐに剥がれてしまう。
結果、オーバーハングの手前にエージェントとリンカーが溜まり、とりあえず互いに蹴り落としあっている有様である。
「とっとと落ちいや! 地獄で逢おうで自分!」
敵とぐだぐだな死闘劇を公演中の一二三をキリルが急かす。
『なにをしているフミ! 進撃しろ!』
「そうは言うてもなはぁっ――!」
にゅっと頭を踏まれた一二三の口から、大量の空気が悲鳴といっしょに押し出された。
「詫びは後で入れる。今は先を急ぐんでな」
オーバーハングに片手をかけ、誰よりも高い位置をキープしたリィェンだった。
「って誰や――リィェンはん、いやドラゴン!?」
リィェンのたくましい体を包む真新しいトラックスーツの黄色が、一二三の目を眩ませる。
「そら狙いすぎやろ! 死亡遊戯で黄色てそんな――くっ!」
『なにやら悔しがっておるのう、関西人』
これに一二三はまた「くっ、悔しなんかない!」。
『ま、そちの苦しみもここまでじゃ』
「?」
『苦しみとともに――逝けい!』
インが唐突にリンクを解除した!
「なっ!?」
落ちていくリィェン。その筋肉がみっしり詰まった重い体は、彼の下にいたエージェントとリンカーのことごとくを巻き込み、下へ、下へ、下へ――
「勝負は勝たねばつまらぬゆえな。わらわの勝利に貢献せよ」
「は、謀ったなイぃぃぃン!!」
『ああああ生首が――私の生きる意味が――』
「怨んだるからなぁぁぁ!!」
落ちていくリィェン、一二三(とキリル)を見ていた征四郎の横目が暗く輝いた。
「なるほど」
『え? おい征四郎?』
不穏な空気を感じ取ったガルーが内から征四郎を揺すぶったが。
「オーバーハングを越えるには体重の軽さが重要です。そして表面積が小さいほど撃墜されにくくなる。さらには障害物によるライバルの滅殺」
『待て待て待てって!』
「さらばなのですガルー。ほねはひろいにいくのですよ。なまくびをたべたあとで……」
インと同じようにリンク解除、両足でガルーを蹴り落とした征四郎が非情な前進を開始した。
「ぎゃー!」
――ガルー爆弾の成果をちらとも見てやることなく。
『リンクの解除って有利になるのかな?』
『地力じゃリンクしてる連中がずっと上だから、不利だろうな。ただよ、こいつでラストスパートってぇのが始まったわけだ』
リーンの見解どおり、インと征四郎によって硬直していた場が動き出した。
次々とオーバーハングにぶらさがる参加者たち。そして、自重や撃墜により、ニセ饅頭ごとどんどん下へ落ちていく。
「まずいですね、あれでは手がかりそのものがなくなってしまう……!」
オーバーハング手前で停まっていた隼人が、互いにかばいあいながらここまで来た米衞門に言う。
「別に、ふたりで行かなきゃならねぇことはねぇッスよ」
米衞門が右腕で、隼人の体を抱え込んだ。
「――齶田さん?」
『テッペンにはよ、【鴉】全員分の気持ち背負った誰かが届きゃいいんだよ』
米衞門の内でスノーがぐっと拳を突きだす。
「テッペン、頼むッス」
米衞門の脚に大量のライヴスが集約した。
「俺がみなさんの気持ちを頂上まで持っていきます。絶対に」
隼人の返事に微笑んだ米衞門が、塔に“立った”。
なにかが起きる。それを察した古龍幇リンカーたちが殺到するが。
「秋津さん、後は任せますよ♪」
下から駆け上がってきた平介が、あえて体勢を崩しながらリンカーたちにしがみついた。
「申し訳ございませんが、共に出直しと参りましょう♪」
平介の笑顔が、驚き、怒り、呆然――さまざまな顔とともに落ちていく。
『やるからには勝ちなさい! 負けたら承知しないわよ!』
平介の内から響いた京香の声は鋭く尖っていて、なのに限りなくやさしかった。
「よい――しょぉぉぉぉお!!」
隼人の体が砲弾のように上へ――オーバーハングの縁へ向かう。
それを見上げながら落ちていく米衞門の顔は、平介と同じようにやわらかく笑んでいた。
「頼むッスよ」
『あとは待とうぜ。オレたちの仲間といっしょに、よ』
スノーの言葉にうなずき、米衞門は激突の衝撃に備えて体を丸めた。
●23時35分
「うわああああ」
手がかりのニセ饅頭をインの手刀で剥ぎ落とされた琳が落下。
「おっと」
その小柄な体をしっかりとキャッチし、抱え込んだのは平介だ。
「へーすけありがとな!」
「どういたしまして♪」
琳を助けるため、塔を蹴って飛んだ平介はもう、下まで落ちるしかない。
『琳のために……笹山さん、申し訳ありません』
うなだれた濤に平介はかぶりを振って。
「無茶は大人の仕事です。それに仲間をかばうのは仕事よりも大切な使命。遠慮はいりませんよ♪」
『下に着いたらすぐに戻るわよ。少しでも敵を足止めしなきゃ』
京香に「はい」と答え、平介は塔の上を透かし見た。
「みなさんを守りますよ、何度でも最後まで全力で。私は【鴉】なんですからね」
『先頭はインちゃんと征四郎ちゃん、ちょっと遅れて隼人くん、由利菜ちゃんです~。誰が生首ゲットかな?』
『まっとうな手で登ってきやがったなぁ月鏡の嬢ちゃんだけか』
『塔の壁に注意して、妨害用の金棒うまく使ってましたねぇ』
『そういや現場はどうなってんだ?』
『あ~、はいはい。現場の石ロボくん~?』
『キーキー』
『石ロボ連れて帰りますーっ!』
『これ逃げるな! ちょっと開いて中を見るだけじゃ!』
『……九繰ちゃんとカグヤちゃんの仕末よろしく~』
以上、放送席でした。
「あと5メートル! 皆の思いを連れて行く!」
必死で伸ばした隼人の手が、征四郎のつま先をかすめた。
「しょうり! しょうりなのです!!」
征四郎がとなりのインを肩で押す。
「武姫たるわらわに先んじさせはせぬ! ああ、ニセ饅頭のボコボコに胸が引っかかる!」
インの踵を避けつつ、由利菜もしみじみ。
「贅沢な悩みと人は言うのでしょうが……少しだけ気になりますね」
『せめて塔が傾斜していれば』
リーヴスラシルもまた、思ったように進めないことに苛立ちを隠せない。
それでも着実に4組は登り続け、あと3メートルで、並んだ。
――と、思いきや。
『え、あれって央くん!?』
深澪がびっくりと声を上げた。
ビリビリの服を体に引っかけているだけの央が、いつの間にかオーバーハングの手前まで来ていたのだ。
『央、大丈夫? カメラマンさんに怒られないかしら?』
「大丈夫だぶはっ!」
突然突きだしてきた金棒に額を叩かれ、あやうく落ちかける。今日の央はいつにも増して不幸なのだったが、しかし。
「ここで終わってたまるかぁ!」
オーバーハングに今殴られたばかりの額を思いきり打ちつけ、パンチ!
『壊してしまったら大道具さんが――』
「心配いらないけど登りかたがわからん!! がああああ細かいことなんか知るかぁあああああ!!」
数々のリンカーが争ってきたことにより、ダメージが蓄積していたのか。オーバーハングに亀裂がはしった。そこに指先をねじり込んで進み、また頭突きとパンチ。
「マイヤ! マイヤ! マイヤ!」
マイヤの名を呼ぶたび、傷だらけの体に力が――ライヴスがたぎる。
「央? 央。央――」
応えてくれるマイヤの声をたぐって央はただ進み続け。
隼人を弾いた。
由利菜をかわした。
征四郎を追い抜いた。
インをぶっちぎった。
そして。
生首をつかんだ。
『え~っ!? 今年の死亡遊戯、福男じゃなくって平安男は狭間 央くん~!!』
『だー、最後に愛が勝ちやがった!』
驚く深澪と、砂を吐くリーン。
「マイヤ!! マイヤ、俺、勝っ――」
『主役の人、どこにいるのかしら? 央が目立ちすぎて迷惑にならない?』
「マイヤ……」
ここまで来てなお、央は不幸であった。
●23時40分
『これからみなさんに参加賞が配られます~。キズとか治るやつなんでぇ、ここで食べてってねぇ』
エージェントたちと古龍幇リンカーたちに、石ロボたちから参加賞が配られた。
『今回の生首作るときに試作したミニサイズ生首だよぉ』
普通サイズの香港支部長顔型饅頭。しかし、その造形は無残なもので、どう見ても支部長の頭から頭蓋骨を抜いて干しちゃったみたいな……。
「干し首どすやん」
一二三がげんなりと干し首をながめた。
そのとなりではキリルが、央から縦割りで半分こしてもらった生首にかぶりついていた。
「こういう干し首も昔、ギシャよく見たよ」
「食欲が失せるからやめろ」
完成度の低い干し首をながめながら言うギシャに、どらごんがかじろうとした干し首を口から離した。
「……干し首……おいしい」
「次はリンクして、絶対勝つからな!」
満足気なLe..と、リベンジへの闘志を燃やす聖。
「【鴉】へ」
久朗がセラフィナとふたり、干し首をグラス代わりに掲げると。
「ようこそでござる」「ようこそ!」
「……ようこそ」「よウコそ!」
「ようこそ!」「ようこそじゃ」
「ようこそっ」「ようこそ」
「ようこそッス」「ようこそだぜ!」
小鉄・稲穂、樹・シルミルテ、真琴・ハル、つくし・メグル、米衞門・スノーの5組が声をそろえて隼人たち、そして平介・京香に歓迎の言葉を贈った。
「はい。よろしくお願いします」
隼人が深く頭を下げて。
「これは――極上の歓迎ですね♪」
「これからよろしくね」
平介と京香が笑みを返した。
「えー、【駄菓子】へ」
【鴉】を真似て千颯も干し首を掲げたが。
「ようこそなどしないでござる!」
「気が向いたらそのうち電話しますー」「12年後にな」
「見たい生放送あっから帰るわ」「中華の大自然に新たな牝鹿との出逢いを夢見る俺氏は白鹿」
「ちはやはちょっとやらかしちゃっただけだよな!?」「今はなにも言わず、そっとしておいてあげなさい」
相棒のはずの白虎丸、朝霞・ニクノイーサ、和馬・俺氏は冷たいもので、数少ない味方の琳と濤もこの調子なのだった。
「結局饅頭、普通のやつはもらえなかったね」
「味は普通ですけれどね。味は……」
京子とアリッサは冴えない顔で干し首をかじり。
「作戦は悪くなかった。敗北は結果でしかない」
「最後は気持ちでしたね。気持ちをもっと、強く持たなければ」
リーヴスラシルと由利菜は戦いを振り返って小会議。
「うう、はいしゃにいいわけむようなのです」
「せーちゃんおつかれ」
「悪い。援護しきれなかった」
「俺様を蹴り落とすからだ。次はああいうのナシだからな?」
半べその征四郎にリュカ、オリヴィエ、ガルーがやさしく声をかける。
「よう、惜しいとこまで行ってたじゃねぇか」
「相棒が助けてくれなかったどころか、相方にまで裏切られたがな」
龍哉にリィェンが細めた目を向ければ、ヴァルトラウテはインにため息をついてみせた。
「龍哉君には本当に困ったものですわ」
「リィェンもじゃ! 命を賭けてわらわを補佐するのが契約主じゃろうに!」
「……生首が至福なら、この干し首は福、なのでしょうか?」
「お腹に入っちゃえばいっしょだよ! ね、石ロボ?」
エミナに返事をした九繰は、石ロボを抱っこできてご満悦だ。
「ほうほう、そのような機構で動いておるのか。実に興味深い!」
キーキー言う石ロボの前にしゃがみこみ、深くうなずいているカグヤへクーが眠たげに声をかけた。
「ねぇ、ほんとにわかってる? 適当にわかったふりしてるんじゃないの?」
「うう……とにかく突き進んで、饅頭、ひと口でも、食、べる」
干し首にかじりつき、倒れ伏す玉子。その背中を、オーロックスがそっとなでてやるのだった。今はおやすみ、レイジング・ブル。
「マイヤ、この饅頭には幸福と無病息災の祈りが」
「ワタシはいいわ」
「あ、う、うん」
「――幸福も無病息災も、央にあげたいから」
背中にマイヤのおだやかな熱を感じながら、央は幸せを噛み締めるように目を閉じた。