本部

観たかった物。

玲瓏

形態
ショートEX
難易度
普通
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 5~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/05/27 19:17

掲示板

オープニング


 本当ならオペレーターとしての勤務は既に終えているはずだった。
 毎日のようにエージェントと顔を合わせ、任務の伝達や救援物資の手配をしている。坂山はオペレーターの葉山の長期休暇の合間を縫う代行としてその仕事を担っている。
 一昨日葉山から不遇な連絡があったのだ。彼女は病に倒れ、今は病院で休んでいる。一週間程度の合間が一ヵ月に長引いてしまったのだが、坂山は毅然とした態度を保っていた。
 一つだけ彼女には気になる事があった。以前彼女が関わった事件に関する事だ。その事件はアミューズメントパークを愚神と従魔が討伐し、エージェントが無事にどちらもを撃破した事件だった。
 ところがエージェントの一人の身におかしな出来事が起きたのだ。
「あの時の愚神はまだ生きている、かもしれない」
 口走ったのは坂山だった。休憩時、隣に座る彼女の英雄に向けて言ったものだった。
「でもしっかりと倒したって報告はあったよ。それでもまだ疑うの」
「エージェントの皆は、倒した幻覚を見せられていた、としたらどう?」
 幻覚技を使われた形跡はなかった。その時エージェント達は愚神と剣で戦っていたというだけで、特殊攻撃のような物は使ってこなかったのだ。
 だが後になって、幻覚技を愚神が所持している事がわかった。任務終了後、エージェントの一人が幻覚の作用を受けたからだ。
 とはいえその作用が愚神による物なのかははっきりしていない。「かもしれない」と語尾につけたのは、まだ可能性の一つに過ぎないせいだ。
「相手は頭のキレる奴よ。人間を騙せる頭脳を持つ愚神。自分の死さえ騙す事は出来たんじゃないかしら」
「だとしたら結構すごい事やってる愚神だよ。早い内に捕まえてやんないと!」
「そうね。どうやって見つければいいのか、分からないけどね」
 不意に話に見切りがついた。愚神を逃してしまったかもしれない、という責任感の問われる話題を容易く切っていいものかと坂山は悩んだが、これ以上どう展開すればいいのか不明瞭なまま続けても意味は成さないだろう。
 しかし、胸の内にしまわれた暗雲のような気持ち。何か言おうとして、やめる――坂山はそれを三回くらい続けた。自分のデスクにつくまで。
 でも……。なんで……。いやいや、そんな事は……。
「やっぱり――」
 椅子に座って、ようやく言葉に出せた時、その声は近くにある固定通信機の音に掻き消された。
「こちらH.O.P.E、一体どうされましたか」
「助けてくれ! 従魔が俺達を殺そうと近寄ってくるんだ!」
 通信の向こうの男はパニックに陥っていた。
「落ち着いて。今あなたは何処にいますか?」
「R市RT中央病院の、えーっと東棟だ! 早く助けてくれ、従魔が俺達を殺そうとする!」
「え? RT中央病院、ですって?」
「そうだよ。早くしないと!」
「わ、分かりました。分かりました……。急いでエージェントを向かわせます。それまで、絶対に従魔と戦おうとしない事。そして何よりも自分の命を優先にまず、逃げる事。いいですね?」
 通話は終わり、切られてから英雄のノボルは坂山に、一体なぜそんなに焦っているのか尋ねた。
「葉山さんがいる所だからよ。急いでエージェントを呼ばないと」
「落ち着いて。従魔だけなら、そんなに大した事じゃないから――」
 またぞろ通信だ。急ぐ気持ちを抑え、ノボルに手を握られながら坂山は通信を取った。
「こちらH.O.P.Eです、どうなさいましたか」
「RT中央病院の者ですが、患者が、従魔が従魔がと騒いで仕方がないんです。従魔はどこにもいないというのに」
「え?」
 あやうく、自分がパニックになる所であった。
「従魔がいないのに、患者の皆さんが従魔がいると騒いでいるのです。挙句の果てには、我々医師や看護師の事を従魔だと言って逃げています。おそらく集団催眠か集団幻覚による物だと思いますが……念のため、確認していただいてもいいですか。ご迷惑をおかけしますが――」
「分かりました。至急向かわせます」
「すみませんね。一応我々の方でも病院内にたとえば――薬物か不審物がないか確認しておきますから」
 患者は従魔がいると電話してきた。
 医師は従魔はいないと電話してきた。ついでに、集団催眠か幻覚による物だと言葉を付け加えた。
 幻覚……。
「調べないといけないわね。この事件は」
「そうだね。きっとただの集団催眠って言葉では終わらせられないよ。やっぱりじゃあ、母さんの勘は……」
「昔からそう。悪い事の予想だけ当たるのよ。最悪な事にね。さあ、このややこしい事件をまとめるわよ。エージェント達に分かりやすく伝えるために」
 坂山はすぐにエージェントに招集をかけた。


 東棟は今、まさに混沌としていた。葉山はその中で、とにかく患者達をまとめるために一役買っていた。
「大丈夫、大丈夫です。皆さん私の後についてきてください」
 患者の群れを引き連れて、従魔と離れた場所に誘導していた。広めの病室に籠城し、扉前にベッドや様々な器具を設置して開けられないようにして、窓からは離れるよう指示も忘れなかった。
 ――あなたはH.O.P.E通信士だったみたいですね。
 患者たちを全員座らせ、言葉も喋らせないように静かにしていた。後はエージェント達を待つだけだ。
 ――あの事件の時、私も丁度あのアミューズメントパークにいましてね。あなたの活躍を見ていたんですよ。
 ただただ静かに……。
 ――おや、その傷はもしかしてあの時の。
 脳裏から繰り返される言葉が、もしや……という言葉を生み出していた。もしや、の先に続く言葉は坂山の予想と似ている。
 あの愚神は生きているのかもしれない。
 そこから先に続く言葉は坂山とは違った。
 あの愚神が従魔達をここに呼び寄せたのかもしれない。
「大丈夫よ……」
 一つだけ葉山には気掛かりな事があった。彼女の家族は今日、病院にお見舞いにきているのだ。飲み物を買ってくるといったきりだから、不安感を募らせるのだ。

解説

●目的
 病院内の調査。患者達に付きまとう幻覚の排除と保護。

●一体何が?
 「最後にあなた達と、」で倒されたはずだった愚神が生存しており、RT病院に潜入。その最中、患者一人一人に幻覚作用を及ぼす行動を取った。(その行動については下記にあります)
 全ての患者に幻覚を起こし、患者以外の全員の姿を従魔に見せるようにして、混乱を巻き起こす。

●愚神について
 名称「ボリン」
 頭脳的に行動する愚神だが、回避命中共に優秀。二本の刀とトラップによる攻撃をする。主に幻覚による攻撃を得意としており、刀やトラップで対象を傷つけ、幻覚を引き起こす。病院内には至る所にトラップがあるが、トラップに引っかかっても気づく事はないだろう。気づかないうちに幻覚を引き起こすのだから。
 主に人間同士を戦わせる事で自分は何もせず人間たちからライブスを吸収する事を目的として、事件を起こした。

●患者の行動
 医者やリンカーから逃げ回る。他に、物を投げてくるなど攻撃的な患者も多数いる。
 葉山を筆頭として逃げていた患者達はよほどの事がない限り籠城を続ける。外部からの接触は一切立つ姿勢を見せる。

●本物の従魔の登場
 エージェントが病院に辿り着くのを見た愚神は本物の従魔を東棟の窓から招く。急いで患者達を避難させる必要があるが、エージェントも今では従魔に映る彼らをどう避難させよう?

●その他情報
 患者数:302人。籠城組は30人。
 従魔数:50匹。


●病院について
 敷地内には東、中央、西と三つの四角形の建物がある。中央は主に一般的な内科病院の形を取り、東はメンタルクリニック用、西は外科、整形手術等をする時に用いられる。
 事件は東で発生しており、医師達の判断で東と中央を繋ぐ廊下は頑丈なシャッターで閉じられており、東棟以外に被害はない。
 また、東棟は十階建てで、一、二階が診察室。三階以降が病室となる。給油室、待合室、テレビが各階に置かれる。

リプレイ

『先日、あの悲しい一家殺害事件の犯人が無事逮捕されました。犯人は日本人で、その家族と深い関わりがあると警察は述べていますが、今のところ一体どういった関わりなのかはっきりとはしていません。
 えー……また、犯人の持っている凶器である拳銃ですが、ライヴスを纏った物だと明確になっています。H.O.P.Eは正式に犯人に銃器を貸し出した事を認めましたが、自己防衛のための手段として犯人に付与した事、また、犯人は元H.O.P.E職員だった事から想定外の出来事として、この事件に関して一切の関与を否定しています。まあ私も、H.O.P.Eがこの事件に関与しているとは思えません。我々の正義の味方が、どうしてこのような悲惨な事件を生み出すのでしょう?
 犯人の全貌につきましては、今後の新情報をお待ちください。以上、夕方のニュース速報でした』

 遊園地での事件が一件したものの、橘 由香里(aa1855)はその後の幻影に悩まされていた。消えては浮かぶ両親の姿。それは幻影ながら、確かな精神的疲労を橘に与えている。
 事件が起きた町にはちょうど病院があり、橘は飯綱比売命(aa1855hero001)の付き添いで、二人で向かっていた。病院は幅広く、東棟、中央棟、西棟でそれぞれ役割が異なっている。橘は中央棟で受付嬢に病状の説明をした後、西棟に行くよう診察券を手渡された。
 主に精神を患った人々が治療を受ける場所、それが東棟だ。
 この病院のメンタルクリニックは軽症の患者が多い。七割方うつ病を患う人々だとされているが、深刻な病気だと判断された患者は別の病院に案内される。ここはあくまでも社会復帰が比較的早い――言い換えれば回転率の早い――患者が多くいる。
 一階の診察室前の椅子に着席する橘。カラフルな四角いソファに座り、暇つぶしに本か何かが手元にあれば良いのだが、彼女の興味を誘うような物はなかった。
「災難よのう。まだ、親の姿は見えているのか?」
「今は見えてないわ。だけれど、またいつ見えるようになるか……」
 橘が見るようになった幻覚が訪れたのは突然だった。彼女は遊園地の事件で活躍したエージェントだったが、任務終了後、突然だったのだ。遊園地には親子連れが多かった。そのせいで、親の幻影を見たのだろうと考えるのが一番、納得するように思えるが……。
 しかし、橘は日々成長を重ねる青い少女だ。そんな彼女が突然、前触れなく幻覚を見るような事があるのだろうかと飯綱比売命は疑問を持っていた。
 ――そこまでお主が未熟者だとは、わらわは思っておらんでの。
 じゃあこの幻影を作り出したのは誰であるのかは、分からない。
 平日のこの時間は空いていた。橘が座ってから彼女の名前が呼ばれるのは早かった。ソファからゆっくりと立ち上がり、周囲を見渡して誰もいない事が分かると、いつもより短くなった歩幅で診察室まで歩いた。
「様子はどう? 少しは気分が晴れているかな」
 優しい表情で橘を迎えた医師は、いかにも人生を知り尽くしてきたような、それでいてまだ青っぽい所が抜けないような顔であった。
 橘は冷静を崩さずに次々と病状を説明したが、その最中はずっと緊張していた。言葉選びも慎重になる。英語の使い方や、事実をしっかりと伝えられているか、全てを俯瞰的に見る。
 だって今この瞬間でも、親の気配を感じているのだから。
 すぐ後ろにいるから。
「という事は、タチバナはまだ幻覚に悩まされていて、精神的に疲弊しているんだね。友達とかに、その事は相談した?」
「いや……」
「そうか。――エージェントという事は、その任務の中で、無意識にタチバナの脳の奥の部分を刺激するシーンに出くわしたのかもしれないな。優秀な人材が陥る危険な、まあここでは妄想と呼ぼう。妄想が、現れたんだな」
 医師はあくまでも脳の誤作動なのだと言った。
「普通の医者は幻覚の事は精神病だとか、病気だとかいうけど僕は違うと思っているよ。うつ病も同じ。だから気にしないで。君は君らしくいればいい」
 橘は短い礼をした。その後、医師はせかせかと話はすぐに終えず、緊張している橘をリラックスさせるために、日本旅行の思い出やら外国と日本の違いやらそれぞれ三分ずつ話し始めた。飯綱比売命は面白がって医師と言葉を交えていたが、橘は上の空で相槌を打つだけだった。
「それにしても、最近幻覚症状による通院がやけに増えているんだよなあ」
 その最中、固定電話機からコール音が鳴った。二回鳴った後、医師はすぐに取った。
「はいはいこちら東棟診五番診察室、どうした? ――え? 患者が暴れてる? 我々の事を従魔だと? ああ悪いけど最初から説明してもらわないと分からないな。もう一度。――ああやっぱり分からん。どうなっているんだ?」
「何かあったみたいじゃの」
 医師はついに受話器を置き、二人に説明した。
「ええっと混乱せず聞いてほしい――タチバナ、どうしたんだ?」
 座っていた椅子から立ち上がり、橘は薙刀を医師に向けていた。戸惑いを見せるのは医師だけではなく、飯綱比売命も困惑していた。
「何をしておるのじゃ。その武器を下ろせ」
「この男は従魔よ。下がって!」
 黒い二本の触覚。大量に並んだ目玉、尖った鼻に耳元まで裂けた口。その隙間から見える牙。毛むくじゃらの身体。白衣はどこにいったのだろう? 橘に見えているのは医者ではなかった。橘と従魔を隔てる物は何もない。たかが従魔一匹。橘は強い気で威嚇していた。
 だが、飯綱比売命は薙刀を下げるよう指示する。
「それも幻覚じゃ。こやつは正真正銘の医師なのじゃ。いいから武器を下ろせ」
「でも、え……じゃあ一体どうなって……」
 信頼する飯綱比売命に言われ動揺を露わにする橘。しかし、親がいる前で従魔を見放しにするとは……。武器を握る手が汗ばむ。
「今、この病院の医師たちから連絡があって、患者が我々医師の事を従魔だと思うって――。もしかしてタチバナも……」
「正解じゃな。緊急事態じゃ、今すぐH.O.P.Eに連絡をすると良い。わらわ達はちょいと外の様子を見てこよう。ゆくぞ」
「え、ええ……」
 未だに目の前の従魔が、医師であるという事が信じられない。
 彼女の袖を、飯綱比売命が指で引っ張った。
「おぬしはエージェントであろう。エージェント達が来る間に、わらわ達が少しでも混乱を治めずに、誰がやるのじゃ」
「そうね……」
 扉から出る時、橘は厳しい視線を受け取った。
 従魔を見放しにする気か? それでもエージェントなのか、お前は。
 言葉の攻撃は橘を衰弱させた。飯綱比売命はそれでも彼女を先導する事にだけ専念した。


 従魔が病院に攻め込んでくる事は想定外で、私はオペレーターという経験を活かして患者達を避難誘導する事にした。
「葉山さん、あそこに従魔が!」
「落ち着いて、私の後についてきてください」
 東棟に入院し始めてからまだ間もないが、私は病院の出来具合については大体把握している。これも通信士だった頃の癖で、全体見取り図等を見てしまえば、大体頭に焼き付く。
 外に出るのは危険と判断し、私は避難場所として三階の給湯室のすぐ手前にある二○六号室を選び、バリケードを作った。ここは大部屋で、ベッドが六人分も用意されており、窓際には大きなテレビモニターが設置されており、ニュース等で情報をよく見る事ができる。
 しかし、電話機はない。外に助けを呼ぶ事ができないのは辛く、携帯電話等も専用のロッカーに閉まっている。
「三階ならいつでも窓から脱出ができます。しかし、それは最終手段にしましょう。従魔といえど、あの防壁を破るのは難しいはずです」
 四階から上の窓にはガラスが張っており、窓からの脱出ができなくなっている。
 私がH.O.P.E職員という事を知って、患者達は安堵する。そしてゆっくりと私の指示でしゃがみ、物音を制限する。呼吸音、話し声全てに。
 扉の外は混乱していた。人間の悲鳴や、物音の悲鳴。もっと多くの人を籠城させるべきだった。私は嘆くが、これ以上救おうとすれば自分の身に危険が降りる。一人を救出しようとする度に難易度は上昇するのだ。わが身に何かがあれば悲しむのは家族だ。誰よりも悲しませてはいけない人々。
 その家族は今、この病院にお見舞いにきている。従魔の被害に合う前に外に飛び出していてくれる事を願うばかりだった。
 しばらく時間が立った所で、拡声器から発せられる声がこの場にいる全員の耳に届いた。
「皆さん、こちらH.O.P.Eです! 二階、三階にいる皆さんは落ち着いて、外に避難してください!」
「H.O.P.Eだ、俺達は助かったんだ! ならすぐに移動しよう、外に出ればいいんだろ?」
 エージェントが到着したという事は家族は無事なんだ。私は胸を撫で下ろした。
「落ち着く事を第一に、表に出ましょう。貴方と貴方で、ドアの前に置いたベッドや物を退かしてください。静かに」
 指名された二人の男はゆっくりと、扉の前のバリケードを崩していく。五分かかりようやく扉が開くようになった所で、後ろにいた患者が大きな叫び声を上げて私や他の患者の寿命を縮めた。
 驚いて後ろを振り返ると、窓には大きな、蜘蛛のような従魔が張り付いていた。
「う、うわあ殺される!」
「皆さん落ち着いて! しゃがんでください! 静かに……。あの従魔が去るのを待ちましょう」
 患者達は暴れる事なくその指示に従う。自分に従魔を倒す力があればよかったのだと思った。せめて、武器さえ手元にあれば。


 その病院には同じ仲間がいる。黒金 蛍丸(aa2951)は通院していた橘の姿を探して一階から歩き回っていた。西棟から東棟に移る際の渡り廊下には罠が設置してあったため、警戒は怠らない。
 一本の糸のような物が何十にも重なる罠は透明で、迫間 央(aa1445)が気付いたのが幸いしたものの、知らぬ間に踏む可能性もあるのだった。
 ところで東棟に移るためには防火シャッターを越えなければならないのだが、中央にある管制、管理部屋に真っ先に向かった国塚 深散(aa4139)達が医院長の許可を得て短期間の間のみ解放している。その間に医師達を全て中央へと追いやり、東にはエージェントと患者以外存在しない状態を作り出した。
「国塚さん、ひとまず医者達を全て中央棟まで誘導させ終えました」
 黒金はライヴス通信機で国塚に状況報告を怠らなかった。
「分かったわ。次は根本となる元凶を探さなくちゃならないんだけど、医者達の中に怪しい人物が紛れこんでなかった?」
「僕は何も……。皆さんはどうですか?」
「怪しい奴に心当たりはわかんねーなあ。ヤブ医者とまともな医者を見分ける事は簡単にできんだけどなー」
 鹿島 和馬(aa3414)は医者達の様子を一人一人細かく見ていたが、どれも不審な動きをしていなかった。
「そういえば坂山氏から返答を貰っていたんじゃなかったかな」
「ああそうそう。坂山に病院のここ最近の動向やらを窺ってみたんだけどな。さっき返事が返ってきて、返事はこうだ」
 ――時期が時期だから新しく入った人達は多いみたいね。百人前後の医者、看護師、雑務員や……警備員が配属されているわ。後、全患者に対する医療行為は行っていない……みたいね。そもそもメンタルクリニックだから、肉体に傷をつける事はあまりしないんじゃないかしら。……私は医者じゃないから分からないんだけれど。
「という事は、まだ医者の中に元凶がいるとは考えづらいのですね――って、あ!」
 二階に向かうための階段に登っていた黒金は、途中で足を止めた。階段の先に、橘の姿があったのだ。
「どうかしたのか」
「橘さんを発見して……! ま、また後で連絡しますっ」
 通信機を切った黒金は階段を一段飛ばしで登ったが、途中で詩乃(aa2951hero001)が彼の動きを緩めた。
「蛍丸様、罠がまだ残っているかもしれないので、気を付けてください」
 頷いた黒金は警戒しながら前へと進み、階段を登り切った所で橘に大きな声をかけた。
「橘さん!」
 声に反応した橘はすぐに振り向いた。その手には薙刀が握られており、攻撃先を黒金に向けていた。彼女の異変にすぐに気づいた黒金は彼女に近づいた。
「どうか……したのですか?」
 薙刀に手を触れようとした途端、彼女は片足を前に出して先端を黒金の胸部に伸ばした。片手で武器の本体を握り進行方向を逸らす事で黒金は攻撃を逃れたが、橘の力は強く、すぐに次の攻撃に入った。身体と武器を半回転させて黒金の片手を払った橘は横から薙刀を大きく振るった。
 困惑しながらも、黒金は両手で武器を抑えた。二人の間に、力の比べ合いが発生した。
「僕は従魔じゃありません、落ち着いて!」
 まるでその声は、言葉は橘に届いていなかった。
 橘にも幻覚の症状が現れていたのだ。医者、エージェントを従魔に見せられている。どれだけ友人であろうとも、もしくは家族であろうとも、幻覚一つで全てを破綻させるのだ。
「お父さん、お母さん、見ててください……ッ、今度はちゃんと、上手にやってみせる……!」
「橘さん、やっぱり……!」
 親が見ている前では力が抜けないのだろう。橘が武器に加えている力は強く、刃が黒金の服に当たっていた。
 だが、寸前で急激に力が落ち着いた。刃が地面に落ちたのだ。
「全く。わらわがいないと本当におぬしは驚く事をやってくれるな」
 黒金の背後から、飯綱比売命が現れて言った。
「従魔を目の前にして、何もしないのはエージェントじゃないわ。このまま放っておくと……」
「親に叱られる、と言いたいのであろうな。先ほどから、従魔はいないと言っておるだろう」
「でもお父さんとお母さんは倒しなさいって……!」
 飯綱比売命は黒金達の方に向いた。
「おぬし達は幻覚の元凶を探しに行って参るといい」
「で、でも……」
「おぬしが優しいのは知っておる。されとて、これはあやつめの問題じゃ。わらわのサポートが心配か?」
「いえ……そういう事では」
 尊敬する人物の事を放ってはおけない、だけど今自分に何ができるのか……。その自問の中で揺れ動く中、彼のライヴス通信機に動きがあった。
「もしもーしウチだよー」
 シエロ レミプリク(aa0575)の陽気な声。
「どうやら本物の従魔が来てるみたいだねー。従魔もストレス社会なのかなー」
「それは本当ですか?!」
「うんー。今三階の窓にひっついて回りみてたら、なんかたくさん従魔が集まってるからさー」
「国塚さん、従魔の被害は今出ていますか?」
「いや、今のところ出てないわよ。中央、西に被害は一切ないわね」
「狙いは東棟、という事か」
 流暢なポルトガル語でヴァイオレット ケンドリック(aa0584)が言った言葉は、的の真ん中を得ているだろう。
「シエロ、今の状況は?」
「一応、従魔を対処してるよー! 従魔がよじ登って中に入ろうとしてるからね。だけど、結構数多いから逃がしてるかも。急いできてくれると助かるかな!」
「では僕らも向かいます」
「三階より上の窓からは入れないと思うから、とりあえず一階とか二階とか――」
 外側から建物を分析していたシエロは、三階より上の窓はガラス張りになっていて侵入できない事を知っていた。その事を説明しようとした矢先、まるでガラスが割れたような音が聞こえた。
 その通り、ガラスが割れたのだ。窓のガラスが。何個もガラスが割れた音が聞こえたおかげで、誰の耳にも音が入った。
「あーあ。みんな張り切っていこー!」
 シエロは壁伝いに移動しながらライフルを構え、よじ登る従魔を次々と撃墜していった。
「にゃーっはっはっは! 流石に外の壁にまではトラップなさそうだねえ!」
 一匹の従魔を撃ち落とし、強気に胸を叩く。
 ――シエロ、正面。
 ナト アマタ(aa0575hero001)からシエロへと、完璧なサポートだ。
「あいよぉ!うららららー!」


「三階、二○六の病室に患者が立て籠もっています。一応救援が来るまでそこで待機しているように電子機器を通して俺は言っておきましたので、情報として。――ええ、その中に愚神がいる可能性も。それと、中にはH.O.P.Eの通信士の方もいらっしゃいました。以上です」
 ライヴス通信機に送る言葉は終わり、石井 菊次郎(aa0866)は正面を向いた。隣でテミス(aa0866hero001)が静かに言った。
「この事件が愚神の仕業だというのは、どうやら誠の事であったようだな」
 二人の前には、ボリンの姿があった。
 ボリンは黙って石井を睨んでいる。黒いフードと、ガスマスクのような仮面を被り、その奥にある赤い瞳が。
「失礼しますボリン様……ああ、我々は御身の事をそう呼ばせて頂いております」
「よく、私の事を見破った。フ……、そこだけは、褒めよう」
「俺が犯人だったら、そう考えると簡単な事ですよ」
 従魔が病院に侵入した事が、石井の知能に閃きを与える切っ掛けとなった。
「患者や医師の中に愚神が紛れ込んでいるというのは俺だけじゃなく、全員が考えていた事でした」
「お前達がそう考える事を、私も知っていた」
「そうですか。ではおそらく、運が悪かったのでしょう。最初に出会うのが俺じゃなければ、これ以上の混乱に陥っていたのだと思いますよ」
「詰めが甘いな。貴公はこの場合、表に出るべきではなかったのだ」
 石井はライヴスゴーグルを外して視界を元に戻すと、ボリンにこう呼びかけた。
「提案があるのですが」
「なんだ」
「これから刃を交えるのも良いですが、ボリン様とはそれよりも話し合いで解決するのが最良の手段であると俺は考えました。さて、これから二人きりで交渉、を始めませんか? 仲間は今従魔の排除に忙しい。それに、ボリン様がここにいるとは思わないでしょうそれに、御身に決定的に重要な情報を俺は持っています。聞きたいですか?」
「……二人きり、とはよくいったものだ」
 マスクの中の赤い目は石井からテミスへと視線を移した。
「ああそれなら問題ありません」
 石井はテミスと共鳴した。
「これで条件は整いました。乗りますか? 乗りませんか?」
 何か罠があるのかとボリンは最初は疑う目をしていたが、はっきりとはしないその石井の罠に、こう言葉を返した。
「分かった。ただ、あまり私をみくびるのは危険だとも言っておかなければなるまい」
「無論です。ではこちらへ」
 石井は無人の病室へとボリンを案内した。ボリンに背中を向けているが、ボリンは罠を疑っており手を出さずに、従ってついていった。

 窓ガラスが割られているのは四階から六階の窓で、各階では苛烈な従魔掃除が開始されていた。未だに患者の誘導が完全に終えられていない事は、大きな混乱を招いていた。
「今、病院内部の映像が確認できたわ」
 国塚の計らいで、坂山……H.O.P.Eのパソコンに監視カメラの映像を共有できるように病院前に衛星通信車があり、それを介して坂山もサポートをする事ができるようになった。
「本物の従魔が出現して、現場はパニック状態です。これではまともに避難もできないと思いますが……手段として、院内放送を行うの良いかと」
 内心、国塚は焦っていた。たくさんの人命がかかっているという任務であっても、ヴァイオレットの同行もあり落ち着いて行動できていたが、従魔の出現は想定外の事であった。
「そうね。映像を見る限り、患者はほとんどの階に散らばっているそうだし……。まだ従魔のいない七階階から十階に避難するのが最適だわ。従魔はどうやって中に侵入しているのかしら?」
「壁を上って、病室の窓から侵入しています」
「それなら、十階が一番安全でしょうね。それと病室も指定するといいわ。一つに入りきらないなら複数指定するのが一番ね」
 坂山との通信を終え、国塚は院長に院内放送の指示。その時、病室の指定までするのを忘れなかった。その後は各エージェント達にライヴス通信機を繋いだ。
「五階の階段付近と、六階の従魔がフリーよ。そこに患者もいるみたい。これから院内放送を行って患者に指示を仰ぐけれど、急いで救助に向かって!」
 ライヴス通信機を切った国塚は、ヴァイオレットと一緒に東棟へと走った。
 流 雲(aa1555)と鹿島は五階の階段付近、従魔掃除へと向かっていた。そこに患者の姿はないが、確かに、従魔が七匹くらいで病院内をピクニックしていた。二人に気づくと一斉に警戒を開始した。犬のように四足歩行で、蛇のようにうねった二本の首。
「結構な数だな。さて、歓迎会といくか」
 ――サポートは任せて。雲の事は私が守るから。
 共鳴していたフローラ メイフィールド(aa1555hero001)は、流雲にそう言った。
「そういや罠はちゃんと片付いてんだよな、これ」
「はい。先ほど迫間さんと石井さんがほとんどの罠を解除してくださいました」
「ほーん。そいつはありがたいな。そんじゃ心置きなくお掃除ができるって事か」
「そうなります。ですが……まだ決まって訳ではないですが、愚神の存在も警戒してください。敵にいるのが従魔だけでない事も」
「分かってる分かってる。俺は医者の中に愚神がいるんだろうと思ってたんだが、おおよそ外れてるだろうし。こっちに専念しねーとな」
「では、行きますよ!」
 初手を決めたのは流雲だった。刀剣を構え、跳躍し中心の従魔に強烈なパワーを誇る一撃を与える。発生した衝撃波が付近の従魔の反撃を不可とする。
 携帯端末を取り出した鹿島は、よろけた従魔に近づいて馬乗りになると、細い首を片手で掴んで自分も映るように携帯端末で撮影した。
「はいチーズ。……お、こいつは大丈夫そうだな。ほら」
 写真には笑う鹿島と従魔が映っていた。という事は、この従魔は本物で幻覚作用は受けていないという事だ。
 従魔から立ち上がった鹿島は首を掴んだまま従魔を持ち上げ、密接している場所に放りなげた。従魔の体勢は更に崩れ落ちた。
「にしてもこいつら、爪が随分と伸びてんな」
「壁をよじ登ってくるくらいですからね。身体能力は非常に高いと思います」
「ぶっちゃけ幻覚とか特殊能力とか変な事してこなきゃ全然敵じゃねーけどな」
「油断は禁物ですよ。――来ますッ」
 体勢を立て直した従魔は、階段の段差を後ろ脚で蹴って鹿島に飛びかかった。左側に避けた鹿島は反撃のために斧を構えたが、他の一匹が鹿島に走ってくるのを察知し、躯体の勢いを斧で消失させた。
 他の五匹は一斉に流雲に向かう。
「おいおい、大丈夫?」
「ご安心を、犬の世話は、嫌いじゃありませんからッ」
 流雲はそのまま鹿島と大きく距離を取って、ヘビ公達の注意を引きつけた。様子を見て、反撃できる時に剣を振るのだ。
 その時まで、ヘビ公達は遊べばよい。
 六階の従魔には四人のエージェントが討伐に向かっていた。そこには三人の患者も存在している。
「大変です……!」
 天都 娑己(aa2459)と黒金は走って患者達の救護に向かったが、患者は目の前から走ってくる二人の従魔を前に完全に足を止めてしまった。
「か、囲まれた! もうだめだあ!」
「諦めるな! 俺達も、できる事をやるんだよッ!」
 後ろからは四足歩行、前からは二足歩行。患者は目の前に見える二足歩行の従魔に向かって我武者羅に突進し、近くに落ちていた消火器を武器にして、上から下に大きく振った。
 ヴァイオレットはその消火器を盾で防いだ。
「国塚さん、後ろの従魔を!」
 従魔の数は八匹。走りくる従魔の前に立つ国塚は刀を構え、居合い切りのように横に斬った。先頭にいた三匹の従魔の首が落ち、後ろにいた五匹の従魔は足を止めた。
「ヴァイオレット、患者を」
「Entendi」
 分かった。と彼女は言った。暴れる一人の患者、それから怯える二人の患者にセーフティガスを使うと、眠りにつかせた。
「私と黒金さんが三人を安全な場所へと連れていきます! 従魔の事はお任せします!」
「任せたわよ。こいつらは私とヴァイオレットが……!」
 天都と黒金が後ろに引いていったのを背中で感じた国塚は、再び刀の切っ先を従魔に向けた。ヴァイオレットも同様に釵を両手に装着し、国塚と肩を並べた。
 耳のデバイスを外したヴァイオレットは、目の前の従魔達が本物の従魔である事が分かった。罠にかかっていないという事だ。
 先手に駆り出したのは一匹の従魔で、蛇の頭を突き出した飛びかかってきた。その腹をヴァイオレットは回し蹴りで吹き飛ばし、戦闘は始まった。
 宙に月を描くように、国塚の剣の扱いは華麗であった。互いが互いの背後をカバーし、隙を与えない攻撃を次々と繰り出すのだ。


 病室の窓側に立った石井は、振り向いてボリンと顔を合わせた。会話を先に作ったのは石井だった。
「ではお話を……此処にはこれからエージェント達が押し寄せて来ます。その者達は御身の幻に欺かれた事を良しとせず今度こそはと意気に燃えております。つまり御身の居るのは……危地です」
「それが、どうしたと。重要な話とはそのことか?」
「俺達の任務は愚神、あなたの討伐ではなく患者の保護です。これがどういう意味であるかは、お分かりになるでしょう」
「そういう事か。フン、だから二人きりである必要があったと」
 おかしな真似をするエージェントもいると、ボリンは小さい笑みを漏らした。
「ここで従魔とご自身を引かせれば我々の任務は成功という形になって終わります」
「クク……」
「引くか引かないか、そのどちらかを選択してください」
「フ……。小僧如きが、私に選択を詰めるつもりか。生意気な真似を」
 ボリンは一度石井を睨んだ後、彼に背中を向けて腕を組んだ。
「小賢しい……ッ!」
 瞬時に振り向くと同時に、短剣を石井の顔面に投げつけた。その短剣は石井には直撃せず、彼の持つ剣で天井に突き刺さっていた。
「それが答えですか」
「最初にお前に見つかった時点で、私の計画は終わっているようなものだ。ならばここでお前を殺し、計画を元通りに戻す。お前の存在等、なかった事にすればいい」
 石井は書を取り出して、戦に備えた。ボリンが動く前に、黒い霧が辺りを包み始めた。

 後ろから飛びかかってきた従魔に肘撃ちを食らわして横転させ、次に流雲は剣を従魔に突き刺して一回転し、周囲の従魔も巻き添えに天井に投げ飛ばした。
「お、派手にやるなあ。それじゃあ俺も!」
 ライヴスの糸で二匹の従魔を絡めとった鹿島は、二匹の従魔の首を掴んで病室に入り、窓に向かった。二匹の体を窓の外に出して――
「グッバイおまえら、来世で会おうぜ」
 そのまま投げ捨てた。
「鹿島氏、もし従魔が生きていたらどうするつもりなのかな?」
 注意書きに書かれている言葉をそのまま口にしたような俺氏(aa3414hero001)の注意に、平然と鹿島は言い返した。
「大丈夫大丈夫。この高さだし、結構勢いよく投げ捨てたからまず大丈夫だろ。万が一生きてたとしても動けねーと思う」
 念のために、と鹿島は窓の上から下を見下ろしたが、動く気配はなかった。
「次行くか」
 鹿島は流雲の手助けに向かうが、その最中に十五人程の患者が流雲と鹿島の姿を目撃した。
「うわあああ! 助けてくれえ!」
 院内放送では十階に避難するのだと言っていたというのに、患者達は階段を急いで駆け下りていってしまった。下にはまだ従魔が残っている可能性が高いというのに。
 流雲はすぐにライヴス通信機でその事を伝えた。
「分かったわ。ちょうどこっちも従魔退治が片付いた所だから。四階に向かえばいいのね?」
「はい。患者の保護をお願いします。今、鹿島さんも患者達を保護しに向かっている所です」
 まだ流雲には二匹、退治していない従魔が残っていた。
 ――雲、うしろ!
 フローラが言って、流雲は即座に背後に視線を向けた。新たな従魔が来ていたのだ。おそらく、すぐ近くの病室の窓から入ってきたに違いない。
「本物の従魔、だよな、これは」
 ――多分ね。明らかに雲を狙ってるし。
 流雲は一匹の従魔の方へと走った。従魔も途端に走りはじめ、噛みつこうと跳ねたが綺麗に躱された。流雲は病室へと入り、戦闘体勢を整えた。挟まれてしまっては不利だからだ。
 扉からは三匹の従魔が順々に入ってきた。従魔の世界にも順番を守るというルールはあるのだろうか。
 二匹の従魔はベッドの上に乗り、威嚇した。流雲は窓際へ一歩ずつ足を引かせ、十分な距離を取ると一気に攻め込んだ。勢いをつけて前転し、真上を飛ぶ従魔の腹にライフル銃を突きつけ至近距離で射抜く。さて、次に左右を飛んでいる従魔を相手する番だ。
 そのはずが、従魔は二匹とも倒れていた。
「いぇーい!シエロちゃんのデリバリーだぞー!」
 ――バキューン……。
 ナトの完璧な銃声の物真似だ。
 割れた窓ガラスの外からシエロが銃を構えていた。
「助かりました、ありがとうございます」
「これも仕事の内! ところで、外に従魔は全部いなくなっちゃったよ。後は中にいるのくらいかなー」
「報告しておきますね。えっと、この事件の元凶……おそらく愚神か、ヴィランか……に辿り着くための発見等はありましたか? 不審人物を見た、とか……」
「ないんだなーこれが。ごめんね~」
「いえいえ。それでは引き続き、残りの従魔の対処をしましょう。――あれ、石井さんから連絡が来てますね」
「あ、ホントだ。ウチのとこにも来てる」
 二人ともライヴス通信機をオンにして、石井からの連絡をしっかりと耳に入れた。
 天都と黒金は十階に向かうための階段を上っている最中だった。彼女は一度共鳴を解き、龍ノ紫刀(aa2459hero001)に運ぶのを手伝ってもらっていたのだが、おぶりながら階段を上るのは不慣れで遅れを取っていた。
 少し焦り気味に階段を上る。
「従魔はいないんだから、もう少しゆっくりでもいいよ、娑己様」
「う、うん。でも、まだ従魔はたくさんいるから、急がないと……!」
 九階の階段を上り終えた所で、三人は一度立ち止まった。従魔と戦う橘の姿が見えたからだ。
「橘さん!」
 黒金は思い切り叫ぶが、彼女は黒金に見向きもしない。
 傍には飯綱比売命の姿もない。
「少し、すみません……!」
 背中の患者を下ろして、黒金は急いで橘の援護に向かった。従魔三匹に単体で挑んでいるのだ。
 背後からの足音に気づいたのか、黒金は橘と眼が合った。それは仲間を見るような眼ではなかったが。それが彼女に隙を生み、側方からの攻撃に橘は一瞬遅れを取った。
「あぶない!!」
「――え? な、どうして……?」
 従魔が橘を庇った。庇うだけで、その従魔の行動は終わらなかった。
 槍を構えた黒金は次々と従魔の矛先を自分に向けた。
「こっちです……!」
 天都も援護に駆けつけ、二人掛かりですぐに従魔を掃滅した。戦闘が終わると、黒金は橘に向き直った。橘は、困惑した表情で近づいた。
「あなた、もしかして、本当に」
 声を出す前に、黒金は彼女を介抱した。
「お久しぶりです……もう、大丈夫ですよ」
「……」
 橘は武器を捨てた。
 ――どうして従魔を殺さないの? それでもエージェントなの?
 ――お前は駄目な子だ。
 違う……。
「ここにおったか!」
 黒金の背後から飯綱比売命が大きな声を出して、速足で駆け寄った。
「勝手に一人でうろつくでない。――と、ん? もしや幻覚が解けたのか?」
「いえ、まだ解けてはいません」
 橘の代わりに、黒金が言った。
「じゃが、お主は……。ふ、なるほどのう」
「私……」
 ライヴス通信機が鳴り、黒金は橘から少しだけ離れた。石井からだった。
「この事件の犯人が見つかったそうです。至急、向かいましょう……!」
「そうじゃな」
 飯綱比売命は橘の肩を叩いた。
「事件の犯人が見つかったのじゃ。わらわ達が出向かず、誰が倒すというのじゃ?」
 今まで橘の意志は薄弱であった。飯綱比売命の言う言葉、親の言う言葉二つが彼女を責め立て、従魔一匹を倒す事すらまともにできなかった。心の迷い、それは戦士にとって、最大の強敵であったのだ。
 しかし、もう彼女の心に迷いはない。


 立ち込めた黒い霧はたちまち猛獣の姿となって、ボリンに噛みつきかかった。
「チッ、やはり罠か!」
 持前のスピートを使って猛獣は退き、ボリンは石井から距離を取った。
「最後に一つ、確認したい事があります。――この眼を、見た事はありますか?」
 石井はサングラスをずらし、瞳をボリンに見せた。攻撃の一手かとボリンは身構えたが、石井に動きがない事が分かると、やがて口を開いた。
「リンカーの何者かが、瞳を尋ねるとは、他の愚神から聞いた事があった。それがこんな小僧だったとはな」
「俺の質問に答えてください」
「本来ならば、私が知っていると嘘をついて、お前に交渉を持ち掛け、私を生かす代わりに情報を教えるとでもいえば多少の時間稼ぎにはなるのだろう。だが、私はあえてしない。なぜなら、――ここでお前を殺すからだ」
「知らないならば、もう御身に用はありません」
 ボリンは小剣を構え、瞬時に至近距離へと接近した。懐に侵入した感触。二本の内、一本の刃を石井の頬に向けてきりつけた。石井は咄嗟に背後のベッドの上に乗り、丸椅子を足で蹴ってボリンの体勢を崩した。
 飛んできた椅子を避けたボリンは石井の乗るベッドの脚部をかかとで強打し石井のバランスを崩させ、刃を腹部に向けて投擲した。腰から取り出した剣で刃を投げ飛ばした石井は跳躍して、ボリンの背後に回り込む。
 持っていた剣でボリンに突き攻撃を行う所であったが、ボリンは靴で剣先を蹴り、軌道をずらした。
「フ……こうなるとは思っていた。お前には知られていないだろうが、私は一つ罠を用意しておいたのだ」
「ほう?」
「私は自由に従魔を操縦する事ができる事はもう分かっているだろう。私は彼らを扉の前で待ち伏せさせている。しかも一匹二匹じゃない。そうなれば、お前は不利だ。今度はお前が選択する番だ。引けば、逃がしてやる」
 さあどうする? ボリンは勝ち誇ったように、隠さずに笑みを向けた。石井は剣をしまい、眼を閉じた。
「降参か?」
 大きく息を吸って、石井は眼を開いて、同時に口も開いた。
「俺はまだ降参とは言っていません」
「ならばここで死ぬがいい」
 ボリンは指を鳴らした。おそらく、それが従魔突撃の合図なのだろう。だから病室の扉が開くのは当然の事だった。
 しかし、その先に立っていたのは従魔ではなかった。
「残念だったな」
 迫間は一匹の従魔の尻尾を掴みながら、見せしめにボリンの足元に投げ飛ばした。
「クッ……」
「前に仲間を見殺しにして逃げるしか出来なかった三下風情が…今更出てきて大きく出たものね」
 といったのはマイヤ サーア(aa1445hero001)だ。その言葉を終えた後、迫間は共鳴をして剣を構えた。
「クソォ……ッ!」
「幻術にかかった人間相手でないと怖くて戦えんか? それとも前のように逃げるのか?」
 迫間は潜伏していた。石井と愚神が廊下で話している時、迫間も聞き耳を立てていたのだ。付近の壁に隠れていた。元々、石井と迫間は二人で罠の解除に向かっていたのだ。
 徐々に冷静さを失うボリンは、次に迫間に斬りかかった。二つの刃が左右から迫るが、どちらの刃も、迫間の体には届かなかった。剣で抑えたのだ。
 足元は空いていた。迫間は足で膝に打撃を与えると、つま先で顎を蹴って距離を取った。怯まず、愚神は正面から特攻する。
 袖口に武器を用意していた迫間は、瞬時にそれをボリンに投擲。不意打ちに、ボリンの勢いは光の速度で消し飛び、ハングドマンを両方の刃に巻きつけると、そのまま飛び蹴りでボリン自身を吹き飛ばして武器を奪った。
「もうお前に勝ち目はない。大人しくここで、命を全うするがいい」
 跪くボリンの頭部に向けて、迫間は剣を振り下ろした――ところが、ボリンの姿が消えたと思えば空気中に溶け込んだのだ。
「幻覚、ですか」
 すぐに石井はその事象の理由を理解し、口走る。
「お前達の知らない間に罠を巡らせておいてもらった。私の世界に来たお前達に、もう勝ち目はない。残念だったな」
「それはどうでしょうか」
 幻覚の作用は強い。今や石井と迫間は大量のボリンに囲まれていた。どれが本物で、偽物なのかは見分けがつくものではない。分身の術と違って幻覚なのだから。
 聴覚、視覚は既に信用できないものとなっている。しかし、それは石井と迫間だけの話である。
 再び室内に黒い霧が発生し、幻覚の作用を受けない猛獣達はボリンに牙を剥いた。
「チッ……!」
 石井は、ボリンにとって明らかに不利な相手であった。幻覚作用という大きな力を持っているボリンは、代わりに大きな傷を相手に負わす能力を欠かしている。幻覚を見せる事で内側から死に至らしめる事が、石井には通用しない。彼の書の中に眠る猛獣には幻覚が通用しない。
 窓から逃げようとしようにも……。
「にひひっ」
 四足歩行の壁に張りつけるロボットさながら、シエロがトリガーに指をあてていつでも銃音を鳴らせる準備を整えている。
「今のあなたには、チェックメイトという言葉が一番お似合いでしょう」
 石井の背後の扉が横に開いて、従魔掃除を終えたエージェントの全員が揃った。その中には橘の姿もあった。彼女はエージェントの姿をまだ従魔に見せられているのだろう。しかし、従魔に囲まれていながら憮然とした態度で立っていた。
 橘には更に、ボリンの姿が医師のように見えていた。彼女の世界には今、医師を殺そうとする従魔の集団の背景が描かれていた。
「た、助けてくれえ!」
 ――あなた、何をやっているの?
 ――人の命を殺すのか!
 優しく、手を包み込まれる。橘はその従魔が誰なのか分からないが、微笑みを返した。
「助けてぇッ!」
 ――私達の言う事を聞いていればいいの!
 ――お前は人形だ。人形だ! 俺達の言う事を聞け!
 もはや、親ではなかった。橘は飯綱比売命と共鳴をして、こういった。
「ちが……う。私は。私は父様と母様の人形なんかじゃ……ない……!」
 そして武器を構える。その先には医師、いやボリンが立っている。フラフラして。
「なぜだ……なぜだッ! 俺の作戦は完璧であった! どこに狂いがあったのだ! お前らは全員許さん。地獄の底まで、呪ってやる! あぁぁぁぁッッ!!」
 医師は橘に飛びかかった。しかしほぼ自然に、橘の槍がボリンを貫いていた。
 ボリンは彼女の耳元で最後に、こう呟いた。
「勝ったと思うなよ……。クッククク、俺が死んでも、残滓は消えない……」
「寝言は死んでからいいなさい。地獄で」
 橘は勢いよく地面に槍を、ボリンの体ごと突き刺した。その途端、纏わりついていた幻覚は全て消え失せた。


 病院の防火シャッターは開かれた。従魔の存在は全て消え失せたという。私と回りの患者達は扉前に置いてあったバリケードを一つずつ元に戻して、表に出た。
 すぅ……。新鮮な空気が美味しい。私はエージェント達に、すぐに挨拶にいった。エージェントは中央棟の管理室で手当てを受けていると医者に聞いて、そこまで向かった。
「皆さん……! ああよかった、この度は本当にありがとうございました」
「葉山さん。いえいえ、皆さんがご無事で何よりです。お怪我の方は?」
「切り傷以外、全く。皆さんの措置が早く、とても助かりました。あの、この前遊園地を襲った愚神も……」
「安心してください。我々が今度こそ、撃破いたしました」
 今度がしっかりと撃破できた事は、坂山も確認している。幻覚作用の及ばない監視カメラを通じて全くボリンの姿は映らず、愚神によるライヴス反応も消え失せたからだ。
 その事をエージェント自身の口から聞けて、私は絶大な感謝の念を、全員に送った。
「皆さんもご無事なようで、心からホッとしました。あ……そういえば、えっと、迫間さん。主人、見ませんでしたか? 橘さんも」
「見てないわ」
「そうでしたか。帰ったのかしら……」
「それは……。どうでしょうか。大切な人が閉じ込められている中、これは私の予想ですが、葉山さんの旦那さんは帰宅しないと思います。きっと今、待っているのではないでしょうか」
「なるほど」
 私は改めてエージェント一同にお礼をすると、部屋から出て家族の待っている場所に向かおうとした。ところが、近くにいた医師が私にこう声を掛けたのだ。
「あなたの旦那さんのお名前って、ルイス、でしたか?」
「はい、そうですが」
 医者は、もう一人隣に立っていた医者と眼を合わせた。何か、声に出しづらい事を視線で送り合っているようだった。
「今日、病院には来られていません。というか……」
「確かにルイスと私は病室で話しました。来てないというのはおかしな話です」
「まあ、そうだが……。すみません、少しお話があるので、この後お時間を良いですか?」
「……分かりました、けど」
 私はなんとも納得行かない気分だった。家族に早く会いたいのに、医者はなぜ邪魔するのだろう? 私は二人の医者の後についていく事にした。なんとなく不愉快だが、仕方がない。


「よく患者の正体を見破ったな」
 ヴァイオレットは石井に言った。
「患者か、医者の中に愚神が潜んでいるというのは俺達の中で、定説のような物になっていました。そこで、俺達エージェントが登場したと同時に従魔が出現する……。更に混乱を招いて、隠れやすくなります」
 ボリンの作戦は確かに、そこまでは上手に運んでいたのだ。
「混乱に乗じて、従魔から逃げる患者、もしくは医師になりエージェントに接近。その際、エージェントに何かしらの仕掛けを施せる……と予想したんです。ただ、これは俺の思いつきなので、的中率は低いものでした」
 そこで一人の患者が従魔から逃げてくる所を、石井はライヴスゴーグルを使って愚神か従魔かを判断した。
「その結果、予想通り愚神であった、という話だ」
 テミスは最後の一文を言った。
「何ともまあ滑稽であると、我は最初から思っていたが」
「ワシは見事なやり方であったと思ったのう。敵ながら。卑怯じゃが、勝利のための手段は様々あるじゃろうからな。戦にルールはない」
 ノエル メイフィールド(aa0584hero001)はその後にこう言葉を付け足した。
「ワシは奴の事は嫌いじゃがの」
「俺に見つかったのが不運だっただけですね」
 治療の必要がなかった鹿島は、管理室の椅子に座って端末を眺めていた。先ほどとった写真をSNSにアップロードするか悩んでいたが、致命的な写真のミスがあってそれを断念していた。
「ブレッブレじゃねえか!」
「これじゃあ無理だね」
「くっそー良い写真が撮れたと思ったんだけどな。なんなら従魔探し出してもう一回やってみるか」
「俺氏は少し疲れたから、探すなら一人でいってきてね」

 橘は椅子に座って、悔いていた。幻覚だからとはいえ、仲間を傷つける所であったのだ。黒金は彼女に近づいて、丸椅子に座って彼女と向かい合った。
「ごめんなさい、私が前の任務の時に、失敗をしなければ――」
「橘さんは一人じゃありませんよ」
 肩の上に手が乗った。
「天都さんも、僕もいる。……僕はあなたに背中を押されたおかげで頑張ってこれました。今度は僕があなたの手を引く番です」
 言葉を途切れさせず、彼は続けた。
「橘さんは……人形なんかじゃないですよ。自由になってくださいね……笑顔でいてください。そして、辛いときは泣いてくださいね」
 天都の手が、橘の手を包んだ。ボリンと対峙する時に感じた温かみと同じだった。
「昔の私は両親に認められる事だけが全てだった。でも今は違うわ。感謝しているの。飯綱にも、貴方達にも……」
 

 国塚、ヴァイオレット、流雲は揃って坂山の下に任務報告完了の言葉を告げにいった。
 流雲は任務中メモしていた情報を全て坂山に送った。
「今後の任務の助けとなれば」
「わざわざありがとう」
 坂山は斜め読みにだがさっとその情報に眼を通して、しかし最後の方に書かれていた一文に眼を引きつけられた。
「ええっと……罠による幻覚作用が続くか試してみました、って書いてあるけれど、もしかしてあえて罠にかかったて調べた、という事じゃないわよね」
「そうなんですっ。私は止めたのですが」
「もし愚神が生きていれば幻覚作用が残るはず……と思ったのと、幻覚を起こされたとしたら今後の情報に役に立つのでは……と」
「勇敢ね。だけれど、あまりパートナーに心配をかけちゃだめよ。命の危険に身を晒すのは、確かに私も心配するし……。まあでも、ありがとうね」
 報告が終わり、三人が立ち去ろうとしたところで、坂山は三人を呼び止めた。
「どうかなさいましたか」
「ううんちょっとね。実はね、私、つい一時間くらい前まで仮のオペレーターだったんだけど、さっき上層部から、正式にオペレーターになるように言われてね、嬉しくて教えたくなっちゃって」
 嬉しそうな顔をして坂山は言った。若くない年齢ながら、その仕草は少し子供っぽさがあった。
「それは、おめでとうございます。妥当な事だと思いますよ。坂山さんのおかげで、私達は良い仕事ができたと思っていますから」
「あらあら、ありがと。なんだか本当にうれしくて」
「僕からも、おめでとうございます。前オペレーターの葉山さんは?」
 九郎(aa4139hero001)は何の気なしに坂山に尋ねた。坂山はあいまいな言葉で彼に答えた。
「それが分からないのよ。仕事を辞める事になったって聞いたんだけれど、それがどうしてなのかは教えてくれなかったわ」
「そうですか」
 言葉が終わった後に坂山の近くにあった電話機が音を立てた。すぐに坂山は通信をオンにして、恒例の言葉を述べた。
「はいこちらH.O.P.E――」
「坂山さんですか」
 葉山の声だった。何かに急かされるように、坂山は「そうですが」と答えた。
「本当に愚神は倒されたのですか?」
「え?」
「もう一度調査をお願いしたいのですが」
「何度も調査してるけど、愚神の反応はないわよ。どうかしたの?」
「いえ、それなら結構です。ありがとうございます。ああお借りしていたライヴスの銃はH.O.P.Eにお返ししましたので」
 葉山はそれだけ言うと電話を切った。色のない残滓が後を駆け巡るだけであった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 終極に挑む
    橘 由香里aa1855

重体一覧

参加者

  • LinkBrave
    シエロ レミプリクaa0575
    機械|17才|女性|生命
  • きみをえらぶ
    ナト アマタaa0575hero001
    英雄|8才|?|ジャ
  • LinkBrave
    ヴァイオレット メタボリックaa0584
    機械|65才|女性|命中
  • 鏡の司祭
    ノエル メタボリックaa0584hero001
    英雄|52才|女性|バト
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 温かい手
    流 雲aa1555
    人間|19才|男性|回避
  • 雲といっしょ
    フローラ メイフィールドaa1555hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • 終極に挑む
    橘 由香里aa1855
    人間|18才|女性|攻撃
  • 狐は見守る、その行く先を
    飯綱比売命aa1855hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • 初心者彼女
    天都 娑己aa2459
    人間|16才|女性|攻撃
  • 弄する漆黒の策士
    龍ノ紫刀aa2459hero001
    英雄|16才|女性|ドレ
  • 愛しながら
    宮ヶ匁 蛍丸aa2951
    人間|17才|男性|命中
  • 愛されながら
    詩乃aa2951hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • 初心者彼氏
    鹿島 和馬aa3414
    獣人|22才|男性|回避
  • 巡らす純白の策士
    俺氏aa3414hero001
    英雄|22才|男性|シャド
  • 喪失を知る『風』
    国塚 深散aa4139
    機械|17才|女性|回避
  • 風を支える『影』
    九郎aa4139hero001
    英雄|16才|?|シャド
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