本部

男子の天下じゃ! 女子は去ねぇい!

一 一

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 6~8人
英雄
6人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/05/18 20:14

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青柳るう

掲示板

オープニング

●こども『だけ』の日
「やあーっ!」
「なんの!」
 東北某県。
 休日になると小さい子どものいる家族連れがよく訪れる自然公園の広場で、子どもたちの勇ましい声がいくつも上がっていた。
 各々手にはクルクルと巻かれた緑色の棒を持ち、楽しそうにチャンバラで遊んでいる。
 小学生くらいの男の子たちのやんちゃな合戦は、棒をぶつけ合うこともあれば、相手の子を叩くこともある。しかし棒が当たると、しなって折れたりへこんだりしていて、子どもたちに怪我を負わせることはなかった。
「せいっ!」
 別の場所では、中学生くらいの男子たちが同じような緑の棒を正眼に構え、何度も垂直に振り下ろしている。素振り稽古らしい。
 まるで剣道の稽古のように、何人もの少年たちが一糸乱れず素振りをする光景は、見ていて清々しい。真剣な眼差しで棒を振る統一された動きは、若気独特の迫力とエネルギーに満ち満ちていた。
「やあああっ!」
 また少し離れた場所では、本格的な試合がいくつも展開されている。こちらになると、高校生くらいに年齢が上がる。年下の少年たちが持っていたものと同じ、緑色の棒を持って発奮する。こちらは小学生のものと違い、そこそこ硬度がありそうだ。
 打ち合い、つばぜり合い、隙をうかがい、棒を相手の体へ当てる。
 小学生たちのチャンバラを、より実戦に近づけた試合がいくつも同時並行で展開され、少年たちは対戦相手へ果敢に挑戦していった。
「カカカ! お前たち皆、筋がいい!」
 その様子を眺め、満足そうに頷くのは指導者らしい男性だ。声は野太く若干くぐもっており、少々聞こえづらい。
 それもそのはず、その男性は全身鎧兜を着用していたからだ。それも、コスプレという域を超えた本物の金属鎧であり、腰に佩く太刀と背中に背負う長弓は異様な存在感を醸し出す。
 おまけに、兜の下にある顔は面頬という仮面で覆われ、表情は一切見えない。奥に見える眼光は怪しく紅色に光り、緩く曲がった線は笑った目元にも見える。
 外見は不審者以外の何者でもないが、この場にそれを指摘する者はいない。むしろ親愛の念さえ向ける子どももいた。
「いたっ!」
 すると、小学生くらいの男の子が一人、つまずいて転んでしまった。膝から血が滲み、すぐに大声で泣き始める。
「こら! 男子が簡単に泣くでないわ!」
 直後、一瞬でその子の傍に現れた鎧兜は無理やり立たせる。そして、膝をついて目線を合わせ、鋭い眼光を子どもに叩きつけた。
「ひぐっ! ……うん」
「わかればよい」
 しばらく無言で見つめ合うと、男の子は涙を腕で拭い去り、鎧兜へ大きく頷く。それを見送った鎧兜は声音に笑みをこぼし、男の子に袋を差し出した。
「腹は減っておらんか? 皆で分けるといい」
 それはパック詰めされた柏餅だった。
 今日の日付は五月五日。どこかの店から調達したのか、ビニール袋に入って揺れている。
「ありがとう、おじさん!」
 男の子は笑顔で受け取ると、袋を持って友達のところへ走っていった。
「カカカ! 男子は元気が一番!」
 鎧兜をカタカタ鳴らし、時を忘れて遊びまわる男の子たちを見て満足げな声を上げた。
 実に『こどもの日』らしい光景に、しかし頬を緩ませる『大人』は鎧兜しかいない。
 何故なら、この場で立っているのは高校生以下の『少年』だけ。
『成人男性』は全員虚ろな表情で立ちすくみ、『女性』は例外なく地面に倒れこんでいるのだから。
「カカカカカ!」
 鎧兜は笑う。
 ドロップゾーンの主として。
 集まるライヴスと、己が戯れに作り上げた光景を前に。
 ただただ、笑う。

●魔をはらえ
「プリセンサーがドロップゾーンを感知しました!」
 集まった能力者たちは、女性職員から任務の説明を受ける。
「場所は東北で、K市がまるまるドロップゾーンに飲み込まれています! 外見上は何の変化もありませんが、市内全域が愚神の支配下に置かれている状況です!」
 報告によると、市民のほとんどがライヴス吸収により意識がない。特に女性の衰弱が激しく、1人の例外なく地面に倒れ伏したまま動かないらしい。
 このままでは、いつ死者が出てもおかしくはない。状況はかなり悪いといえる。
「ゾーンルーラーはケントゥリオ級の愚神、近くにはミーレス級の従魔が2体いる模様です! 高校生以下と思われる少年たちを集め、剣術指南のようなことを行っています! 外見からはドロップゾーンの影響は見られませんが、絶対安全という保障はありません! 愚神討伐と並行して、少年たちの避難もお願いします!」
 市民の救助要員として他の能力者も派遣されるが、救助対象が多数かつ広く分布しており、討伐への介入は遅れるだろう。この場にいるメンバーが先行し、倒す必要がある。
 ただ、愚神のいる現場には少年たちがかなりの人数集まっているらしく、避難誘導だけでも骨が折れそうだ。
 しかも、悪条件はまだ続く。
「特に『女性』のライヴス消失が著しいことから、おそらく共鳴状態の能力者であっても『女性』はかなり力を殺がれることが予想されます! 共鳴時『女性』である能力者の方は、さらに危険が増すことを覚悟しておいてください!」
 最後に、と女性職員は厳しい表情で能力者たちを見渡した。
「ドロップゾーン内の『女性』の衰弱具合は、かなり酷い状態です! あまり時間に猶予はないと思ってください! 出来る限り早く現場へ向かって愚神を倒し、人々を救ってください!」

解説

●目標
 愚神、従魔の討伐。およびドロップゾーン内の人命救助。

●登場
 ケントゥリオ級愚神「モノノフ」
 鎧兜の愚神。やや古風なしゃべり方と、笑い方が特徴。ケントゥリオ級の中での強さは下位。
物理攻撃
 太刀…射程1。装備中、防御を多用。
 長弓…射程15。装備中、回避を多用。
魔法攻撃
 真空刃…射程8。太刀装備時使用。
 尚武の舞…射程13。範囲2。装備制限なし。

 ミーレス級従魔「マゴイ」「ヒゴイ」
 こいのぼり型従魔。元々5mほどの大きさだったが、サイズはおおよそ2倍に。常に空中を泳いでいる(戦闘時、近接攻撃が届く位置にまで高度は下がる)。攻撃手段、能力値は同一。
物理攻撃
 体当たり…射程1。
 突撃…射程1。直線5スクエア。
魔法攻撃
 突風…射程1。直線5スクエア。衝撃BS付与。

●場所
 自然公園の広場。地面は芝で覆われ、起伏や障害物等なく、見晴らしがいい。時間帯は午後3時ごろ。天気は晴天。

●状況
 隠れる場所がないため、現場に駆けつけると同時に愚神と対峙。言葉は通じるが、話は通じない。愚神の周りには少年たちがいて、突然現れたPCたちに警戒心を抱く。また、現場到着時、従魔の背には少年たちが乗っており、空中遊泳を楽しんでいる。

※以下PL情報
 少年たちはドロップゾーンの影響で、『不安』を感じにくくなっている。その影響で、周囲の大人や女性が倒れていることに恐怖や深刻さを感じることが出来ない。少年たちが抱く愚神への好感度は若干親しみを感じる程度で、ドロップゾーンの影響とは無関係。

 愚神のPC攻撃優先順位
 成人女性>未成年少女>成人男性>高校生以下の少年>小学生以下の少年

 共鳴時、『女性』PCは生命力半減、外見年齢が小学生以下の『女性』PCは生命力25%減。

リプレイ

●組み分け
 現場に到着した能力者たちは役割分担で班分けを行い、すぐに別行動となった。

「ホモでショタコンの愚神とかマジウケるーw」
「千颯、人の好みを笑ってはダメでござる」
 ドロップゾーン内の状況を揶揄して吹き出す虎噛 千颯(aa0123)と、やんわり窘める白虎丸(aa0123hero001)。いつものような軽さを見せてはいるが、今回は子どもの命が関わる依頼。意識的に平時のように振る舞うことで、千颯は気負いすぎない姿勢を保っていた。
「うふふっ、強そうな御仁ですこと」
「……日和が張り切りそうな相手だな」
 愚神の外見に勝負師の血が騒いでいるのは散夏 日和(aa1453)だ。ドロップゾーンの影響で強い虚脱感があるはずだが、むしろ生き生きしている。そんな様子に呆れ顔なライン・ブルーローゼン(aa1453hero001)。無理をしないように、と言っても無駄と悟って共鳴に応じた。
『微力ながらサポートする』
「ラインは私をよく分かっていますわね」
 ならば、自分の補助でリスクを下げればいい。そんなラインの言葉に、日和は笑みを深めた。
「一見、安穏たル光景。……コレさえ無くば」
 厳しい表情を隠せないのが鬼子母神 焔織(aa2439)と青色鬼 蓮日(aa2439hero001)だ。
「親を奪イ、ヤガテ子らの命も奪う。ソウで無くとモ、子らに残ルは絶望のミ……」
 愚神の行いは子どもたちの多くを『奪う』、彼らにとっては最も許しがたい所業。焔織には容易に己の過去を連想させ、蓮日にはより直接的な憤激を覚えさせた。
「例え釈迦が赦しても、ボクは赦さんッ! 焔織、体を貸せッ! ボクが直々に滅してくれるッッ!」
「御心のママに」
 共鳴した姿は、蒼炎散らす般若の面が如き鬼女。感情の苛烈さを示すように、全身の梵字が赤く輝いている。
 最後に共鳴済みの呉 琳(aa3404)を加えた4人が、愚神対応組になる。

 残りが救助と従魔対応組だ。
「いえすショタノータッチ! 子供達の大切な人を傷つけて尚且つ卑怯な手で心を奪うなんて、さては紳士ではないねっ」
「……男子が好きであろうが否定しないが、他を排除するのはやり方が狡いな」
 一方、奇しくも千颯と似た台詞で力説する木霊・C・リュカ(aa0068)の姿が。オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)はリュカの発言に呆れた表情となったが、すぐに無表情に戻り銃の感触を確かめた。
「何が狙いかわかりませんが、早々にご退場いただきましょう!」
「そうだな。レディファーストの何たるかを教えてやろうぜ、征四郎」
 隣では紫 征四郎(aa0076)とガルー・A・A(aa0076hero001)が意気込みを見せていた。
 征四郎は髪を一つに結び、男の子として過ごした経験を生かして年少組の説得に向かう。ドロップゾーンの影響を多少受けているが、日和や蓮日よりも余裕がある。ガルーは見た目に威圧感がある、ということで高校生たちの一団へ向かうことに。説得成功後、合流する手はずだ。
「みんな普通にしてる……。危ない、って言っても通じないかもしれないね」
「ユウ、わたしもセルウスにのりたい!」
 大人が倒れている中、平然とする子どもたちの異常に、十影夕(aa0890)は疑問を覚える。その横で、シキ(aa0890hero001)の意識は楽しそうに騒ぐ子どもたちを乗せた巨大こいのぼりに夢中だ。
「いい人そうな人ほど、って事なのかな? まぁ、あんな風体の『いい人』が居るのも変な話だけど」
 共鳴状態の九字原 昂(aa0919)は、偵察時に見えた愚神の容貌を思い出しつつ、空を泳ぐ従魔に視線を向けた。
 最初は昂も説得に加わる予定だったが、予想以上に従魔と子どもたちの距離が近かった。よって、従魔の背に乗る子どもの確保と、従魔の囮役に任されている。

●避難誘導
 従魔に近い位置にきた能力者たちは、すぐさま行動を開始した。
 リュカは征四郎とシキに補助してもらいつつ小学生へ、夕は中学生へ、オリヴィエとガルーは高校生の集団へと走っていく。
「うわっ!」
 メンバーが散開し、単独で従魔へ接近した昂はすぐさま襲撃を受けた。体当たり、突撃、突風、積極的に攻撃できないのをいいことに攻撃が集中する。
「いいぞー!」
 その度に子どもたちが歓声を上げ、昂は口角を引きつらせる。囮役としては助かるものの、間接的に敵扱いされていい気はしない。
「わあっ!」
「危ない!」
 次々と攻撃を回避していた昂だが、突風を放った従魔の背にいた1人が落下。ギリギリで助けることには成功した。
「これは、早く助けないとまずいかな」
 昂は一度従魔から離れて子どもを下ろし、全員早く従魔から降ろさないと、と気を引き締めた。

「こんにちは! 何をしているのですか?」
 昂が従魔の気を引いている間に3人が小学生に近づくと、まず話しかけたのは征四郎だ。同年代のため警戒心が薄まるとして先陣を切ると、予想通りさほど警戒されずに返答があった。
「あれ見てるんだ!」
「スゲー!」
 やや興奮気味に子どもたちが指さしたのは、昂が従魔相手に立ち回っている姿だった。
「すごい、ですか? 危なくないですか?」
「え? なんで?」
 少年たちの発言に違和感を覚えた征四郎が疑問を唱えるも、逆に不思議そうな表情を返されてしまう。
 テレビならまだしも、人が襲われている光景を前にした反応としては明らかにおかしい。加えて、従魔の背には先ほどまで一緒に遊んでいた子がいるのだ。激しい動きを見せる従魔から落ちるかも、と心配してもいいはず。
 だが、そんな不安が一切見られない。大人がいないのも気にしていない様子から、ドロップゾーンの性質だと推測された。
「ふふ、今日は子供の日! でも、みんな知ってる? 五日後は『母の日』なんだよ。良い子の皆は、お母さんにどんな贈り物をするのかな? お兄さんに教えてくれると嬉しいなー!」
 違和感を察したリュカは子どもたちの意識を従魔からそらすため、視線を遮るように手を広げて笑顔を振りまいた。
「じゃあ、ここから移動して、遊びはちょっとお休みしようか?」
 次いで取り出したのはクッキーだ。ずっと動き回っていた子どもたちは空腹もあり、リュカの提案に大きな返事で賛成した。
「やあ、きみ。クッキーはすきかね?」
 他方、リュカの手腕を見ていたシキは、クッキーを片手に柏餅を持った子に近寄った。目的は誘導というより、物々交換らしい。
「それと、あれにのるには、どうしたらいいのだね?」
 首尾よく柏餅をゲットした後、シキは従魔に乗る方法をしきりに聞いていた。まだ諦めてなかったらしい。ただ、どうやら愚神が従魔を操って乗せていたらしく、シキは目に見えて肩を落としていた。

「稽古中? その緑の棒、なに?」
 こちらは中学生の集団に単独で近寄った夕。戦闘を観戦したり素振りをしたり、彼らの様子はやけに落ち着いている。違和感を強くした夕が会話の糸口を探って指摘したのは、全員が持っていた緑色の棒だ。
「これ? 鎧のおっさんから渡されたんだ」
 やや警戒する気配はあったものの、中学生たちは素直に返答した。
 つまり、緑の棒は愚神の差し金。効果不明のそれを持たせたままは危険だと思い、夕は言葉を重ねる。
「倒れてる人いるの、わかる?」
 なるべく言葉を選びつつ、夕が次に指したのは遠方の大人たち。
「運ぶの手伝って欲しいんだけど、みんなで」
「何? 寝てんの?」
「しょうがねぇなー」
 彼らの避難ではなく、戦闘区域から離脱する口実を与えた夕の目論見は当たった。深刻さがない彼らに不安はあるものの、自主的に声をかけあって移動する意思を見せている。
「それ邪魔じゃない? 置いていきなよ」
「それもそうか」
 ついでに、夕は不審な緑の棒を捨てるように促した。素直に従ってくれた中学生に安堵しつつ、彼らを先導していく。

 一方、オリヴィエとガルーはすっかり観戦気分だった高校生たちの集団に駆け寄り、説得を開始した。
「あれらはお前さんらが思ってるほど優しい奴じゃない。いつかは攻撃の手がそっちにも回ることになるぞ」
「そうか? ま、その時はその時だよな?」
 少し世間話をした後、従魔の危険性を訴えかけたガルーだったが、高校生たちの反応は薄い。全員が不自然なほどの楽観思考に眉をひそめ、どのように説得したものかと悩む。
「あんたたち、あれが見えるか?」
 ガルーの説得に反応が悪かったのを見て、オリヴィエは別の切り口を試すことに。指さしたのは、ここから離れた場所にいた大人だ。
「あのままじゃ、風邪引くぞ?」
 少々強引な話題転換だったが、それが功を奏した。
「……確かに、そうだな」
「しょうがない、運んでやるか」
 やはりどこか危機感が薄い反応であったが、高校生たちはこの場を離れる意思を示したのだ。
「ほ~? やるな、オリヴィエ」
「……俺もびっくりだ」
 ガルーに褒められるも、自分でも予想外の結果に声音は戸惑いが強い。これでいいのか? とオリヴィエは内心で首を傾げつつ移動を開始した。

●愚神・モノノフ
「カカカ! 儂の名はモノノフ! 強き魂を持つ者よ、大人しく我が糧となれ!」
 愚神討伐組が視界に入ると、愚神モノノフは太刀を振り上げ名乗りを上げた。背後には小学生が十数名おり、バトルが始まる気配に興奮している。
「貴公! 中々の手練と見ましたわ。私と手合わせなさい!」
『……道場破りか何かか?』
 最初に反応したのは日和。グリムリーパーを掲げて口上を述べ、ラインから冷静な突っ込みが入る。
「なっ!? 何故女子がここにいる!?」
 すると、予想外に大きな動揺を見せたモノノフは、一瞬で気配から余裕を消した。
「我が戦場に、女子はいらぬっ!」
 太刀から長弓に持ち替え、モノノフは日和たちを射程内に収めんと地を蹴った。
『敵は武器を使い分ける様だな』
「どちらにせよ近接型なのです。攻めの守りで押せ押せですわっ!」
 ラインの分析に耳を傾けつつ、日和は直進。真っ向から迎え撃つ姿勢を見せた。
「蓮日ちゃん、危なくなったら俺ちゃんの後ろに隠れてな! 琳ちゃんも行くぜ! 連携遅れんなよ!」
「いざとなったら子らが先で頼む!」
「おうよ! 頼りにしてるぜ、ちはや!!」
 好戦的な日和の突貫に続き、千颯、蓮日、琳も後に続く。その際、琳は武装をオートマチックに変更。まずは後衛として出方を見ることにした。
 能力者たちに対し、まずモノノフは先頭の日和めがけて複数の矢を射った。
「狙いが甘いですわよ!」
「ぬぐっ!?」
 が、矢が掠っても怯まず突進し、日和は大鎌を一閃。強烈な痛手を与えた。
 モノノフは防御を固めようと太刀へ変更し、『尚武の舞』を発動。菖蒲の葉を思わせる緑の刃をけしかけるも、日和は多少の傷も構わず攻勢を緩めない。
「くっ、かてぇ!?」
 日和の攻勢の間に援護射撃を行う琳だが、ダメージが通ったような感覚がない。事実、モノノフの意識は相対してからずっと日和と蓮日に集中しており、千颯や琳は眼中にさえ入っていなかった。
 代わりに、集中的に狙われている日和と蓮日の攻撃は1つ1つが有効打になっていて、モノノフの攻撃はどこか精彩を欠いている。少し離れた琳のいる位置からだと、敵のぎこちなさがよく見えた。
「どうなってんだ?」
「う~ん、女の子相手だと弱体化する、とか? ま、わかんないけど~」
 横で琳の疑問を拾った千颯が冗談っぽく返し、前衛へ加わっていく。
「そうか! だったら、今回はサポートに回るぜ!」
 すると、琳は千颯の答えを全面的に信用し、適度な距離を維持していつでも動けるように様子見の構えを取った。
 しかし実際、千颯の意見が正しいとしか思えない戦況が展開されている。女性の被害が大きかったのも、モノノフが苦手とする女性を排除したかったから、という強い意識があったからだとすれば辻褄も合う。あながち間違いではないのだろう。
 まあ、千颯の台詞を丸呑みした琳に、そこまでの考えがあったかは不明だが。
「このヘタレ弱虫ショタコンヤロー! 自分の強さに自信がないからって遠距離攻撃なんて卑怯な真似してんじゃねー!」
 日和や蓮日への攻撃が続き、千颯は意識をこちらへ向けさせるために大声で挑発する。が、あくまで優先順位は女性陣なのかモノノフは一切反応せず、千颯は舌打ちを漏らす。
「この結界は、手前の惨めな心そのものだな」
「何?」
 前衛では日和の動きに合わせて攻撃を行った蓮日がモノノフを鼻で笑った。
「大人を黙らせ、子供相手に威張りチラす。まさに手前の弱さそのものだろ?」
 冷静さを奪うために蓮日が放った挑発は、モノノフへの嘲りと同時に罵声でもあった。
「さぁ次はどうする? 人質か? 遠間へ引くか? ……刃と拳で戦場に立つ『女』を前に逃げるなッ! 刀一本で来いッ!」
 これだけこき下ろされて、黙っているはずがない。そう考えた蓮日だったが、モノノフの反応は違った。
「……カカカ! 女子が戦を語り、儂を愚弄するか!」
 さも愉快だと言わんばかりの笑い声を上げ、子どもたちのいる場所へと後退したのだ。
「おじさんをいじめるな!」
「えっ?」
 追従しようとした日和に、子どもたちがモノノフを庇うように手を広げた。わずかな躊躇が生まれ、足が止まる。
「琳ちゃん!」
 モノノフを庇う素振りを見せた子どもたちに、千颯は日和の後ろから『セーフティガス』を発動。全員が眠りに落ちたことを確認し、言葉少なに琳へと視線を向けた。
「そっち任せた!!」
「おう!」
 阿吽の呼吸で意図をくみ取った琳は、抱えられる限りの子どもたちを回収し、モノノフから遠ざけようと離脱した。
「卑劣な!」
 瞬間、蓮日は正面から愚神へ拳を突き出す。明らかに子どもを利用した敵への怒りを込めた攻撃はしかし、瞠目した蓮日自身により強引に止められた。
 蓮日の眼前に、1人の子どもを盾としたモノノフの姿があったためだ。
「卑怯と謗られる手もまた、兵法の一つ。儂は一切否定せんぞ?」
「……外道がぁッ!!」
 底知れない憤怒が宿った蓮日の目が、モノノフを貫いた。

●従魔を落とせ!
 救出組の説得が終わっても、従魔との距離は近いまま。安全確保は早期討伐しかない。
「まだ従魔の背に子供は残っているよね? その子たちも、助けに行こう」
 リュカと合流したオリヴィエは無言で頷き、共鳴。従魔を視界に収めて駆け出した。
 接近中、オリヴィエは『弱点看破』で従魔を見上げて目を細め、ライトブラスターの引き金に指を添える。
「征四郎たちも行くですよ!」
「おうよ」
 オリヴィエに続き、征四郎とガルーも拳を合わせて共鳴。前衛として被害を最小限に抑えるため、従魔へと向かっていった。
「俺たちも行こうか」
「セルウス、はぁ……」
 他のメンバーが従魔へ向かうのを確認し、何故かテンションの低いシキと共鳴して、夕は武器を構えた。
「ふっ!」
 仲間が集結する中、回避に専念していた昂は隙を突いてヒゴイの背へ飛び乗った。ぐにゅんとした感触に足を取られつつ、子どもたちを抱えて飛び降りる。
「従魔の引き付け、助かりました」
 ずっと従魔の気を引いていた昂に声をかけ、征四郎は『ケアレイ』を発動。昂の負傷を治療する。
「ありがとう。残りの子も、すぐに移動させる」
 ヒゴイの背にいた子どもを抱えて離れていく昂に代わり、征四郎はさらに前へ出て敵と相対する。
 その近くで、オリヴィエは離脱した昂とすれ違いざまにヒゴイへ接近し、跳躍。銃口を瞳に映した弱点へ合わせ、敵の肉体に穴を穿った。
「突っ込んで来られると怖いけど、しかたないね」
 一方、攻撃よりも護衛を優先させていた夕は、従魔の意識が一度こちらに移ったことに気付き、子どもから離れた。子どもに攻撃されないよう従魔へ銃弾を撃ち込んでいたら、2体の標的が夕に移ってしまう。
「大丈夫ですか?」
 護衛に意識を取られて運悪く挟み撃ちにあった夕だが、背後から迫ったマゴイの体当たりを征四郎が受け止めた。
「助かったよ。そのまま前衛、よろしく」
「了解です」
 一拍遅れたヒゴイの体当たりを躱し、夕は視線を従魔へ向けたまま後退していく。征四郎もまた、従魔へ意識を集中させたままインサニアを正眼に構えた。
「しつこい」
 まだ動いていたヒゴイへ、オリヴィエは淡々と照準を合わせ、『ブルズアイ』の精密狙撃が再度弱点を貫通。それをとどめにヒゴイは力なく地面へ落ち、消滅した。
「攻撃はまだしも、回避がおろそかですよ、オリヴィエ?」
 直後、撃破後の隙をマゴイに狙われたオリヴィエだったが、すかさず征四郎がカバーに入る。
「前衛が優秀だからじゃないか?」
 体当たりを大剣で受け止めた征四郎から注意が飛ぶも、オリヴィエは気にした様子がない。が、短く端的な言葉に確かな信頼を感じ、征四郎は口角をわずかに上げてマゴイの攻撃を弾き返した。
「これで、最後!」
 ヒゴイから降ろした子どもを離した後、マゴイに近づいた昂は再び大きく跳躍。背に乗っていた子どもを一気に抱えてすぐさま飛び降り、従魔から離れた。
「終わりだ」
 後は従魔を倒すだけ。オリヴィエは二度目の『ブルズアイ』を発動し、マゴイへ着実に着弾。両目を貫通するオリヴィエの攻撃を皮切りに、全員の集中攻撃を受けて、ようやくマゴイは力尽きた。

●燃え上がる義憤
「あの野郎……っ!」
 躊躇なく子どもを盾にしたモノノフの行動に、千颯の思考が激情で染まった。フラメアを握る手に力がこもり、怒りでそのまま飛び出しそうになる。
「千颯殿ッ!」
 しかし、千颯が地を蹴る直前、モノノフと睨み合う蓮日から鬼気迫る声が浴びせられた。
「子らが先だ!!」
 この場にはまだ、琳が回収しきれなかった子が残っている。このまま戦っては、子どもたちに被害が及ぶのは必至。それを考慮した蓮日は千颯にも、子どもたちをモノノフから離すよう叱責したのだ。
「っ!」
 それで千颯も冷静さを取り戻し、倒れた子どもたちを担ぎ上げていく。
「隙ありですわっ!」
「なっ!?」
 直後、蓮日の異様な気配に気を取られていたモノノフは、背後より迫る日和への反応が遅れた。何とか太刀で防いだものの、人質を取りこぼしてしまう。
「すぐ戻る!」
 日和の奇襲で解放された子どもも回収し、千颯も琳の背を追い戦闘から離脱していった。
「き、貴様……!」
 苛立ちを日和に向けて千颯を見逃したモノノフは、走る悪寒に従いもう一度背後を振り返った。
「ケチな瞋恚を、撒き散らすなッ!」
「ぐおおっ!?」
 直後、凄絶な気迫を纏った蓮日の拳が今度こそ振り抜かれ、爆発。子どもを掴んでいたモノノフの腕が爆ぜ、無惨に損壊した。
「ぐっ! まだ終われぬ!」
 大ダメージを負ったモノノフだが、紅い眼光に戦意は消えていない。無事な腕を天に掲げると、子どもたちが持っていた緑の棒が集結し、開いた。
 棒の正体は『尚武の舞』で生まれる菖蒲の葉が螺旋状に巻かれたもので、子どもたちのライヴスをひそかに集積していた。遠隔操作で棒を集めたモノノフは、ライヴスの光を浴びて傷を修復した。
「一人当千の強者なりや! 巴御前もかくやと言われる私の力、ご覧遊ばせ!」
 回復を隙とみて、日和は『一気呵成』で攻め立てる。
「っ! どこまで子らから奪うつもりだったぁ!!」
 日和に続き、モノノフの回復の仕組みを察した蓮日はさらに激高。勝機を根こそぎ奪うつもりで渾身の『ストレートブロウ』をぶち当てた。
「ぐほっ!? ぬぅぅ……」
 衝撃で吹き飛んだモノノフは劣勢を自覚し、距離を取ろうと駆けだした。
『言われてたのか……?』
「細かいことを気にしてはいけませんわ。ラインも元世界では軍人でしたのでしょう? えぇと……、なんとかの銀狼とか呼ばれてたかもしれませんわ」
『雑だな……』
 後退するモノノフを追う最中、ラインの疑問に日和は平然と返した。ついでに変な二つ名をつけられ、ラインの声は脱力した。
 逃げの最中モノノフは真空刃を牽制に使うも、戦線復帰した琳の『威嚇射撃』で無力化される。
「去ねぇい!」
 観念したのか、手負いかつ回復手段を失ったモノノフは足を止め、全力を込めただろう一刀を背後の日和に放った。
『そこだ、日和!』
 が、今までの戦闘で太刀筋の癖を見切ったラインの指示により、日和は紙一重で凶刃を躱す。
「武士たるもの、潔くお逝きなさいませ!」
 大振りの隙を突き、日和は『疾風怒濤』の連撃を叩き込んだ。
「がああっ!」
 咄嗟に防御に回ったモノノフだが、耐え切れず太刀が破砕。日和の刃がその身を幾度も両断し、苦悶と共に消滅していく。
「死出の裁きは、ここまで温くはないぞ、外道が」
 最後に、蓮日は怨敵の消滅した場所を酷薄に見下し、背を向けた。

●魔は去りて
 愚神が消え、保護された子どもたちは能力者たちといた。
「よーしよし、もー怖くないよぉ~!」
「……蓮日さマ、鼻血が垂れてマスよ。……無茶をしまスね」
「そりゃー子らの為だからね!」
 こちらは焔織と蓮日。ドロップゾーンの影響がなくなり、親の不在で不安そうな子どもたちを慰めていた。ただ、2人とも同じ慰め方でも、鼻血を自重しない蓮日は危険な臭いが強すぎる。彼らの不安の一端は、彼女にもあるのかもしれない。
「今回は日和ちゃんと蓮日ちゃんが大活躍だったな~」
 同じように小学生たちの相手をしていた千颯は、蓮日や日和に視線を向ける。戦闘に手応えがなかった、と消化不良だった日和は、中高生相手のチャンバラごっこで楽しそうだ。ラインは呆れ気味だったが。
「何はともあれ、こうして子どもたちが無事ならよかったでござろう?」
 ホワイトタイガーの頭が男子のツボに入り、囲まれている白虎丸はそう笑った。
「……そうだな」
 1人の子にせがまれ、肩車をしながら千颯は笑みを返した。
 周囲には『母の日』の話題で盛り上がっているリュカや、子どもたちに混じって柏餅を美味しそうにほおばる征四郎。唯一従魔に乗った昂に、柏餅片手にやたらと絡むシキの姿も見られる。ここにはいない他のメンバーも、倒れた一般人の救助を手伝っていることだろう。
 無事に守れたたくさんの笑顔を見回し、千颯は疲れ知らずの彼らと遊びまくった。

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青柳るう

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 自称・巴御前
    散夏 日和aa1453
  • 我ら、煉獄の炎として
    鬼子母 焔織aa2439

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • エージェント
    十影夕aa0890
    機械|19才|男性|命中
  • エージェント
    シキaa0890hero001
    英雄|7才|?|ジャ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避



  • 自称・巴御前
    散夏 日和aa1453
    人間|24才|女性|命中
  • ブルームーン
    ライン・ブルーローゼンaa1453hero001
    英雄|25才|男性|ドレ
  • 我ら、煉獄の炎として
    鬼子母 焔織aa2439
    人間|18才|男性|命中
  • 流血の慈母
    青色鬼 蓮日aa2439hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • やるときはやる。
    呉 琳aa3404
    獣人|17才|男性|生命



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