本部

ヴィクターは眠らない

gene

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2016/05/09 20:20

掲示板

オープニング

●ヴィクター・ライト
 HOPEのエージェントにヴィクター・ライト(az0022)という男がいる。
 美しい赤い髪を持つなかなかの美形なのだが、本人はそんなことには頓着しないようだ。
 それよりも彼が気にしているのは、自分の使用価値である。
 彼の右腕は機械である。それをじっくりと眺め、どこにも傷はなく、故障の痕跡もないことを確認する。
 次に彼は鏡を覗き、左目にはめ込まれたレンズを確認する。
 この紅く美しいガラス玉が敵の位置を正確に脳に伝達し、腕の機械でためられたライヴスを掌から発射するのだが……
 しかし、その照準が最近は多少ズレている気がする。

●父(借)
「どうした? ヴィクター?」
 保護者である自分のところに訪れることなど滅多にないヴィクターを九条は椅子に座ったまま見上げた。
「ガラス玉に異常がある」
「目な。それはガラス玉じゃなくて、目だ」
「……故障だ」
「故障じゃなくて、老眼にでもなったんじゃないのか?」
 そう軽く九条が笑ってみせると、ヴィクターはむっとしたように眉を寄せる。
「俺はまだ旧式ってほど古くはない」
 たとえ機械だと思っていても、古いと言われるのは面白くないようだ。
「悪かったよ……でもな、お前の目は故障でもなんでもない」
「じゃあ……誤作動か?」
「寝不足だよ」
「……なにを言っているんだ? 機械に睡眠など必要ない」
 そうは言っても、彼の目の下にはクマがあり、さらにその瞼はほんの少しではあるが、下がっている。
「確かに、身体の一部は機械化している。でも、お前自身は機械じゃないし、脳までは機械化されていない。脳にも身体にも睡眠は必要だ」
「……そんなわけはない」
「いいや!」と、九条は強い口調で言い聞かせる。
「おまえの目の異常はただの睡眠不足だ! とにかく眠れ!」

●寝かしつけ依頼
「すこし面倒な依頼を頼む」
 そう大きくもないミーティングルームに集められたエージェントたちに九条は言った。
「睡眠を拒否する子供を眠らせてほしい」
 スクリーンには仮眠室の鏡で自分の目を覗き込んでいるヴィクターの姿が映し出される。
「子供とはいっても、ちょっとした駄々をこねている以外はこの通り大人だ」
 九条は腕時計をちらりと確認する。
「俺はこれから実験室にこもらなきゃいけないから、こいつに付き合うことができない。眠るためのアドバイスをしてやってくれ」

 ちなみに、ヴィクターの英雄である青柳沙羅は占いイベントに行っているため、不在だ。

解説

●目標
ヴィクターを眠らせてください

●場所と時間
・AGW研究所 仮眠室
・日中

●状況
・ヴィクターは三ヶ月ほどまともに睡眠をとっていません。
・機械の自分は一日一、二時間程度の充電時間(睡眠)を取ればそれで十分だと思い込んでいます。
・アイアンパンクであり、能力者であることが短すぎる睡眠時間を可能にしていますが、それでも当然、数ヶ月に一度こうして体調に違和感を感じます。その度に、彼は「故障」だと思うようです。
・なかなかの思い込みの激しさ&頑固さにより直球の説得は難しいかもしれません。

リプレイ

●睡眠アドバイザー
「こんな風に会うことになるとは思わなかったけど……ヴィクターに会えるの楽しみだな」
 荒木 拓海(aa1049)の言葉に、メリッサ インガルズ(aa1049hero001)はうなづく。
「そうね。久しぶりだものね」
 九条から説明を聞いたエージェントたちは仮眠室を目指し、一緒に廊下を歩いていた。
「……機械ですって? どこがよ。わたしには無理だわ」
 スクリーンに映っていたヴィクターの姿を思い出し、アガサ(aa3950)は小声で言った。
 男性が苦手なアガサには、どう見てもヴィクターは人間の男性だった。
「なかなかいい男ではないかえ? わらわは楽しみじゃ」
 カリオフィリア(aa3950hero001)は機嫌よく笑む。
「眠ったらいけない状況でもあるまいに、短時間睡眠は健康に良くないぜ」
 赤城 龍哉(aa0090)の言葉にヴァルトラウテ(aa0090hero001)が横目で彼に視線を送る。
「龍哉も五時間程度だったように思いますわ」
「まぁ、それだけ寝とけば概ね問題無いからな」
「おかしな気配があればすぐ目を覚ます辺り、熟睡してるか怪しいですわ」
「鍛えられたんだよ、ほっとけ」
 じっと見つめてくるヴァルトラウテから視線をそらし、龍哉は歩行の速度を速める。
「三ヶ月もちゃんと寝てないってすげーな……俺なら3日で死んでる」
 会津 灯影(aa0273)は確信を持って言った。
「愉快な男も居たものよ」
 睡眠不足とは無縁で常にお肌ツヤツヤ、毛並みツヤツヤな楓(aa0273hero001)は自らの触り心地のよい尻尾を撫でながら言った。
「……三ヶ月? だめだ。そんなに寝ないなんて想像できないな」
 三ッ也 槻右(aa1163)は信じられないという表情を見せる。
「……家のアイアンパンクは惰眠を貪ることにかけては一級品なのにの」
 酉島 野乃(aa1163hero001)がちらりと槻右を見やる。
「確かに寝るの好きだけどね?」
「ヴィクターと足して二つに割ると丁度良さそうな位寝ておるがの?」
 呆れたような野々の視線から逃れるために、槻右も少し速度を速める。
「眠り……でござるか? くく」
 宍影(aa1166hero001)が機嫌よく笑う。
「眠りこそは骸忍術が長年研鑽に努めてきた分野。とうとう世に問う時が来たでござるか」
「……そうだったっけ?」と、骸 麟(aa1166)は首をかしげる。
「でも、まあ、眠れないなんて贅沢だよな。オレなんて回峰修行百山一夜巡りをした時とか早く眠らせてくれ、何なら永眠でもいいから! ってなったもんな。修行が足りないぜ」
「真に修行の道は厳しいでござるな……という訳でライト氏には速やかに永眠……おっと、安眠して頂くでござる」
 物騒な言い間違いに、他のエージェントたちは嫌な予感を抱いた。

 コンコンッ
 仮眠室の扉を叩く音に、ヴィクターは「誰だ?」と返事を返した。
「よぉ、ヴィクター久しぶり〜」
 扉を開けたのは拓海だった。その隣には彼の英雄、メリッサの姿もあった。
「タクミか……お前が、九条の言う睡眠アドバイザーってやつか?」
「まぁ……その一人ってところかな」
「他にも来るのか?」
「うん。まぁ……」
 扉の前までエージェントたちはみんな一緒に来たのだが、まずはヴィクターの予てからの友人である拓海が彼の気持ちを和らげるために先に部屋に入ったのである。
「最近、姿を見なかったからどうしたのかと思ってたよ。顔を見れてホッとした。元気そう……でもないかな? 疲れてる?」
「疲れ?」
 ヴィクターはそんなまさかという表情を見せたが、拓海をあえてそれに気づかないふりをした。
「H.O.P.E.は人使い荒いと見た。最近、どんな事件に関わってるんだ? こちらは香港の物騒な事件を手伝わせてもらってて……」
 仕事の話になると、ヴィクターが興味深く拓海の話に耳を傾けた。
「ああ。香港の事件は大変だったな……それにより日本のほうは人員が不足していたからな。俺は従魔の退治に追われていた」
「そっか、ヴィクターも忙しくしてたんだな。個人的には政治交渉とか、裏で暗躍する頭脳戦は苦手だな……もっとストレートに……ほら、ヴィクターと一緒した巨大ワニの事件とか、戦車レースの事件みたいな体を張るほうがいいや」
 拓海の言葉に、メリッサがうなづく。
「そうね〜。何も悩まずただ骸骨を粉砕するほうが拓海には似合ってるわね」
「え? それはリサだろう?」と拓海がツッコミを入れる前に、ヴィクターが「え?」と純粋に「別にタクミには似合ってないだろう」とでも言いたげな眼差しを向けた。
「……嫌だな。ヴィクター……冗談よ。ここは軽く流してくれるのが礼儀よ?」
「ああ……そうなのか。すまない」
 メリッサの言い訳を鵜呑みにしたヴィクターは素直に謝った。
「みんな、遅いわね?」
 それが、扉の前にいるエージェントたちへの合図の言葉だった。
 ガチャッと勢いよく扉が開かれ、龍哉が顔を出した。
「入るぞ」
 龍哉とヴァルトラウテの姿に、ヴィクターは過去のデータ(記憶)を探る。
「おまえは確か……タツヤだったか? 戦車レース以来だな」
「ああ。久しぶりだな」
「僕たちは初めましてですね。三ッ也槻右です。こっちは英雄の酉島野々。よろしく」
 そう言って槻右が握手を求めると、ヴィクターはベッドから立ち上がり、握手した。
「九条って人からあなたが眠らないって聞いて来たの。早速本題に入りましょう」
 男性の苦手なアガサは早々に依頼を片付けるために前置きなしに話を進めた。

●羊とうどん
「九条に寝ろと言われて、とりあえずベッドに横になったりはしたのか?」
 麟の言葉にヴィクターは「いや」と答える。
「充電は特にどんな体勢でも関係ないだろう」
「……なるほど。我々に、機械にも効くと言い伝えられる秘術があるのだが、それがどれほど効くものなのか検証したい。協力してくれないか?」
「……ああ。俺でよければ」
「では、我々は少し準備があるため退出するが、その間にベッドを部屋の中央へ移動しておいてもらいたい」
 部屋の左右の隅にはそれぞれ一つずつベッドが置いてあった。その一つをエージェントたちは協力して部屋の中央へ持ってきた。
 再び部屋に入ってきた麟と宍影、二人の姿にその場の全員がぽかんと口を開いた。
 二人は、フワモコの羊の着ぐるみを着て、大真面目な顔をしていた。
「では、骸忍術が生み出した最強の睡眠幻術! 骸飛羊幻術でござる!!」
「幻身発術……飛羊出来!! それ一の羊!」
 ベッドの上に横になったヴィクターの上を、まずは麟が身軽に飛び越えた。次に、「二の羊!」と言いながら、宍影が飛び越える。
  素早くヴィクターの足のほうを通って元の位置に戻った麟が「三の羊!」と、また飛んだ……それを二人は交互に繰り返し、徐々にスピードをアップする。途中、二人は共鳴し、数読みが「ひちゅーんるるるるる……」と高周波になるまで行った。
 ……しかし、ヴィクターは眠らない。
 むしろ、二人の忍者の芸当を興味深く見つめるその目は、らんらんと輝いている。
「……中々の難物でござるな。どうしたものか?」
 眉間に深い皺を寄せて考える宍影の隣で、麟は「ふふふ」と笑った。
「オレの出番だな。やっぱり修行でさっぱり入眠だぜ!」
 ということで、麟は山に行くことを提案した。しかし、それはヴィクターに断られた。
「修理を依頼したからには、持ち主の許可が下りるまで俺はこの敷地内を出ることはできない」
「持ち主?」と拓海が聞き返すと、ヴィクターは「九条が俺の現在の持ち主だ」と答えた。
「なるほど……しかし、姿勢制御機構のバランス調整の為にデータを取る必要があると、九条博士から言付かったのでござるが……」
「……睡眠のことはもういいのか?」
「ああ。そのことは一旦忘れてくれ」
 機械だと思い込み、睡眠が必要ないと思い込んでいるヴィクターに睡眠を意識させて眠らせることは難しいと判断し、宍影は一旦、ヴィクターに眠ることを忘れさせることにした。
 宍影のもっともらしい嘘にヴィクターは「それなら」と、仮眠室を出た。エージェントたちがヴィクターの後をついていくと、彼は建物の外へ出て、ネットで囲まれた第一屋外実験場の脇を通り、第二屋外実験場と書かれた場所へみんなを案内した。
 そこは第一屋外実験場のように平な場所ではなく、土や石により凹凸があり、場所によっては大きく窪み、さらに土が盛られて四階建てのビル程度の高さの小山もあった。
「データ採取なら、ここでもできるだろう」
「まぁ……ちょっと本物の山にはほど遠いが……仕方ないだろう」
「これをつけてくれ」と、麟はフェイクのセンサーをヴィクターに取り付けさせた。
「本当の山だったら、登り下り百回くらいでいいかと思ったが……」
 麟の小声に、ヴィクターが「何か言ったか?」と聞き返す。
「いや。そうだな……大量のデータが必要らしいから、三百周くらいしてくれ」
「三百……そんなにデータを取るのか?」
「ああ。それじゃ、行くぞ」と、モニター役も兼ねた麟が走り出す。
「ふふふ……オレのスピードについて来れるかな?」
 それから一時間ほども経った頃だろうか……「三百っ!」と、走り終えた麟がヴィクターとほぼ同時に足を止めた。
 麟はぜいぜいと、肩で息をする。
「……どうだ、眠くなっただろ?」
「眠く? ……姿勢制御機構のバランスのデータに眠気は関係ないだろう?」
「……いや、そら! 起きてられないくらい体使わないとデータ取れないから!」
「……そうなのか? それなら、睡眠を必要としない機械の俺では役に立たないのでは……」などと言いながらも、ヴィクターの瞼は徐々に下がり……立ったまま眠りに落ちた。
「眠ったようでござるな」
「よっし! オレの計算通りだな!」
「でも、こんなところで、立ったまま眠っちゃったな……」
 灯影がヴィクターの顔を覗き込む。
「我が運んでやろう。灯影で慣れているからな」
「え!? そうなのか!? そういえば、寝落ちしたはずなのに、なぜか起きたらベッドにいるような気がしてたんだよな……」
「我が運んでやっているに決まっているだろう。喜べ、姫抱きで優しく労わってやっている」
 クスクスと笑うそれは明らかに優しさではなくからかいの声音である。
「喜びたいような知りたくなかった事実なような……」
 とにかく、ヴィクターを仮眠室に運んでしまおうと、楓がヴィクターに触れた瞬間、ヴィクターの目がパチリと開いた。
「……」
 エージェントたちが全員、がっかりした様子で自分を見ていることに気がついたヴィクターは「どうした?」と小首を傾げた。
「……仕方ないでござる。こうなったら永眠コースでござる!!!」
 どこからともなく取り出した巨大ハンマーを宍影はヴィクターに向かって振り上げる。
「いや、早まるな!」
「待て!!」
「諦めるにはまだ早いわ!!」
 宍影を前からおさえたり、後ろから羽交い締めにしたりして、エージェントたちはその場が惨劇の現場となるのをなんとか食い止めた。

「……えっと……仕切り直して、俺からアドバイス。俺は疲れて気づいたら寝落ちとか多いから……体を疲れさせるっていうのはいいと思うんだ」
 灯影の言葉に「寝落ち?」とヴィクターは首を傾げた。
「えっと、疲れきって、自然と寝ちゃうことかな」
「再び運動をするのなら、今度は我が付き合おう」
「それじゃ、あと三百周!! 行ってみよう!!」
 少し休憩していた麟が叫んだ。
「……なんだ? まだデータ取るのか?」
「いや、今度は、我と競争してもらおう」と楓。
「競争?」
「我は万能であり至高の傾国の妖狐。機械ならまだしも、人の身であるお主では勝てんだろう」
「いや、俺は人ではなく、機械だ」
「まだ言っているのか? 貴様はどう見ても……」
「その議論は、後にしようか? 多分、すごく長くなるから」
 ヴィクターの頑固さに気づいている拓海が話に割って入った。
「楓様が走るなら、あたしは休憩してます」
 そう言うと、麟はその場にゴロンと倒れると眠り始めた。
 そうして、楓とヴィクターの競争が始まったのだが……途中、楓は偶然を装ってヴィクターに衝突しようとした。
 それは、ヴィクターにちょっとした怪我でも負わせれば、嫌でも人間であることを認識せざるをえないだろうと考えたからなのだが……しかし、ヴィクターは難なく楓の体をかわし、逆に足を滑らした楓を支えた。
「……我には劣るが、そこそこの美丈夫ではないか」
 ヴィクターに体を支えられたまま、楓は至近距離のヴィクターの頬に触れた。
「床を共にしてやるのも吝かではないぞ。寝れぬなら我が極楽へ誘ってやろう」
「何言っちゃってんの!? 楓!!」という灯影の声は、カリオフィリアの艶を含んだ声にかき消される。
「それなら、性別もわからぬ狐よりも、わらわのほうが適任じゃろう」
 ヴィクターの腕の中から楓を引き離し、自分がそこに収まろうとするカリオフィリア。しかし、それを今度は楓が邪魔をし……二人はヴィクターの両腕にそれぞれ腕を絡めた。
「なかなか寝付けないというのなら、睡眠薬を飲め」
 楓の言葉に、カリオフィリアは鼻で笑った。
「睡眠薬なんて、色気のない……酒はどうじゃ?」
「酒は眠りには適さない」と楓はカリオフィリアに言い返しながら、この状況に困っているヴィクターをからかうためにさらに密着する。
「寝ている間のことは心配するな。我がちゃんと冷えないように温めて……」
「もうお前はこれでも食ってろ!! カリオフィリアさんもどうぞ!」
 灯影は狐うどんを楓とカリオフィリアに押し付けるように渡した。
「皆さん、少し早いですが夕食にしませんか?」
 いつの間にか時刻は十八時を回り、夕日が空を紅く染めていた。
 エージェントたちは仮眠室に戻り、灯影が作った海鮮キムチうどんを食べた。睡眠促進のため、睡眠ホルモンの原料となるトリプトファンが含まれた肉類や魚類、そして体温が下がる時に眠くなるため、まずは体温を上げるためにイカやエビ、唐辛子を入れたメニューである。
 楓とカリオフィリアに渡した狐うどんは、油揚げ好きの楓のための特別メニューだ。
「機械もつけっぱなしだと挙動速度悪くなるし、機械も人間も睡眠は必要ですよ?」
 うどんを食べながら灯影はヴィクターを説得した。
「……うまい」と、ヴィクターはうどんを食べすすめる。
「ほら、スリープモードなんてのもあるくらいだし! こう、いつも元気なヴィクターさんでいるために寝て欲しいなって!!」
「おかわりあるか?」
 いつもは小食なヴィクターも、先ほどの運動でお腹が空いているのか、よほどうどんの味を気に入ったのか、空のどんぶりを灯影に差し出した。
「……聞いてました? 俺の話?」
「灯影! 我にもおかわりだ!」
「……」

●仲間の仲間は仲間
「てか、ヴィクターさんよ。そもそも何で二時間しか寝てないんだ? 別に常日頃から任務漬けで、休む暇もないって訳じゃないよな」
 美味なるうどんを食べ終わり、龍哉が聞いた。
「残りの二十二時間、任務がない時はどのような過ごし方を?」
 ヴァルトラウテの質問にヴィクターは自分のいつもの行動を思い出す。
「起きたら三十分かけて機械部分に異常がないかを確認し、三時間はランニングを行い、次に四時間ほどは骨、筋肉などで構成されている部分を鍛え(ストレッチや筋トレ)、三十分の燃料補給(食事)をした後に二時間の射撃の練習をし、二時間の読書をし、この後、これとほぼ同じ流れを繰り返す……そんな感じだな」
「そりゃまた、生身のほうに優しくない過ごし方だな」
 龍哉は苦笑する。
「それでは、あなたの言う所の故障や誤作動があってもいたしかたありませんわ」
 ヴァルトラウテの言葉に、アガサが言葉を続ける。
「それは故障でなくて不具合よ。パッチを当てる必要があるわ」
「四十五度で叩けばなおらんかの?」
 カリオフィリアの言葉を、アガサは一旦聞き流すことにした。
「……あなたのOSは複雑で繊細なの。時々アップデートが必要だし、起動しっぱなしだとだんだん安定しなくなってくるのよ」
「アップデート……」と、ヴィクターはアガサの言葉を繰り返す。
「少なくとも日に六時間程度は、システムをシャットダウンすることが望ましいわ。人間で言うと睡眠がそれに相当する行為ね」
 ヴィクターは自分の腕をじっくりと眺める。
「時々調子が悪くなるのは、あなたが完璧じゃないからかもしれないわ……」
 その言葉にヴィクターが緊張する。
「それでも、九条とかいうあの人がうるさく言うのは、多少不具合があるというデメリット以上に、あなたを使うメリットが大きいからではなくて? 期待されてるのよ」
「……期待」
「眠れというのはそれが必要だからよ。素直にお聞きなさいな。そうすることで何かあなたにデメリットがあって?」
 カリオフィリアがそっと、ヴィクターの機械化された腕に触れる。
「わらわが添い寝してやろうかの。それとも子守唄がよいか? ……ちと、このベッドは狭いのぅ。さて、ヴィクターとやらのスイッチはどこかの?」
 機械部分をつつつーっと色っぽく指でなぞるカリオフィリアに、アガサが厳しい眼差しを送る。
「カリオ、やめなさい!」
 カリオフィリアから解放され、ヴィクターはほっと胸を撫で下ろした。
「食後に、お茶をどうぞ」
 槻右は人数分のポーレイ茶を淹れた。
「ヴィクター殿はここにも載っておられるの!」
 そう言って野々はヴィクターにエージェント名鑑を見せた。
 槻右がポーレイ茶をヴィクターに渡すと、ヴィクターはお礼を言い、お茶を一口飲む。
「僕もアイアンパンクです。でも睡眠はとりますよ」
 槻右の言葉に、ヴィクターは不思議そうな表情を浮かべた。
「なぜだ? 頻繁に誤作動が起こるのか?」
「いえ。そうではないです。みんなの話の中にもありましたが、誤作動があるから睡眠をとるのではなく、睡眠をとらないから誤作動が起こるんですよ」
「……どういうことだ?」
「あれ? もしかして……自己回復機能が付いてないくらい旧型とか?」
「旧型」という言葉に、ヴィクターの眉がピクリと動く。
「ごめんなさい」と槻右は、わざと発した失言に謝罪する。
「もしかしてご存じないですか? 生体部分も機械部分も睡眠中の自己修復機能が働かないと機械寿命減るんですよ?」
「自己修復が完了する最低睡眠時間は一日最低六時間……せめて四時間と聞くの!」
「足りてないと確か……」
 槻右はどこからともなくスケッチブックを取り出した。

・活動能力低下
・集中・命中低下
・メンテナンス時間の大幅な増加
・メンテナンス費用の圧迫

 スケッチブックの文字を、ヴィクターはまじまじと見つめた。
「百害あって一利なしです。現に君がここにいるってことは活動に支障出てますよね?」
「H.O.P.E.も自己メンテのできぬエージェントでは損害がでかいのう」
 野々は大げさに首を横に振りながら言った。
「嘘だと思うなら試してみればいいんですよ。寝てる間は近付きません。後で防犯カメラの映像で確認してみるといい。それで君が起きた時に不具合を確認してみて下さい
自力で治せるのに他の手を煩わせるなんて情けない」
「青二才に馬鹿にされたままでよいのなら乗らなくてもよいがの」
「治らなかったら僕が寝ないで活動しますよH.O.P.E.の為に」
 そう微笑みながら、槻右は『遼丹』をヴィクターに渡した。
 エージェントたちがこれまでしてくれた話に納得したヴィクターが「……わかった」とうなづいた。
「アップデートや自己修復のために、これからは一日六時間の睡眠時間を確保しよう」
「よかった。色々ご無礼を言いました」
 さらに槻右はヴィクターに『犀の目』を渡す。
「良かったら使ってください。メンテナンスを効率よく行なうためのものです」
「それがし、ヴィクター殿の活躍をもっと拝見したいの!」
 野々が椅子から立ち上がり、槻右も「それじゃ、僕たちはこれで……」と立ち上がる。
 そして、他のエージェントたちも立ち上がろうとした時、ヴィクターが言った。
「別にいてくれても構わない」
「え?」と槻右が聞き返す。
「タクミの仲間なのだろう? それならば信頼できる」
 ちらりと、ヴィクターはもう一つのベッドへ視線を向ける。
「タクミも寝てしまっているしな」
 灯影の作ったうどんを食べ終わった後、拓海はいつの間にか寝てしまっていた。
「効いたみたいね〜? 睡眠ホルモン?」
 メリッサは幸せそうに眠る拓海の寝顔を、スマートフォンのカメラアプリで撮った。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 拓海の嫁///
    三ッ也 槻右aa1163
  • 捕獲せし者
    骸 麟aa1166

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 美食を捧げし主夫
    会津 灯影aa0273
    人間|24才|男性|回避
  • 極上もふもふ
    aa0273hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 拓海の嫁///
    三ッ也 槻右aa1163
    機械|22才|男性|回避
  • 大切な人を見守るために
    酉島 野乃aa1163hero001
    英雄|10才|男性|ドレ
  • 捕獲せし者
    骸 麟aa1166
    人間|19才|女性|回避
  • 迷名マスター
    宍影aa1166hero001
    英雄|40才|男性|シャド
  • ツンデレお嬢様
    アガサaa3950
    人間|21才|女性|防御
  • 星辰浮上
    カリオフィリアaa3950hero001
    英雄|32才|女性|ブレ
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