本部

狂幸の騎士道

玲瓏

形態
ショートEX
難易度
難しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 6~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/03/20 19:21

掲示板

オープニング


 強烈な吹雪が襲うロシア西部。普段なら柔らかな雪が市民を包み込んでいたが、今日は一変して大きく荒れ模様を見せていた。田舎町で暮らす人々は家の中に籠り、貯蓄された食材だけを使って今日を生き延びる。
 そのために外を出歩く黒ずくめの集団に気づく者はさほど多くなかった。フードを被り、白い布で口元を隠したその集団はある一定の方向に向かって進んでいる。その先には山があった。
「おいあんた」
 集団の最先端を歩く、団長という肩書を背負う女性グリッシュが、すぐ真後ろに続く男にそう呼びかけた。
「期待通りしっかりと仕事をしてくれるんだろうね」
「ああうん、うん勿論。勿論さ」
 男はそう答えて、不気味な笑い声の後に言葉をつづけた。
「僕にしっかりと金を用意する事。それと、殺害対象の研究材料を僕にきちんと譲る事。それさえ守ってくれれば僕はしっかりと頑張るよ」
 山間部に向かうと吹雪はより一層荘厳さを増し、黒集団が近づく事を自然が許さないと言っているようだった。それに構わず進んでいく。曲線的な獣道を通って、十九メートルの登山道を上った地点に辿りつく。そこは山だというのに平面だった。
 変わらずに歩き続ける一行だったが、突然グリッシュが手を挙げて動きを止めた。すると、背中に背負っていた太刀を地面に突き刺す。
「ここだ」
 彼女は白い布を取り、淡い吐息を天へと昇らせた。その吐息に言葉を描く。吹雪に邪魔されずに、天にまで届くだろうか、その言葉は。


 地下闘技場の事件で存在が明らかになり、罪を重ねた男、カナピルの行方を必死になって探していたオペレーターは、目撃情報が出た地域に調査員を派遣して、手の抜かない追跡を行っていた。
 ここ数日間の間、痕跡は残ったものの既に別の町に旅立っていたという事態が重なっていた。そんな中、早い発見情報が舞い込んでくるのである。
 ロシア西部にてH.O.P.E職員がカナピルと思わしき人物を発見していた。特徴はほとんど一致しており、オペレーターはすぐにエージェントを呼んだ。
「重罪人、カナピルがロシア西部、L町にて発見されました。至急、調査及び確保に――」
 電子音が彼女の言葉を遮った。
「すみません、少し失礼します」
 急いで行動に移さなければならないというのに。彼女は電子音を厄介に思いながら、通話が開始された。
「はい、はい。分かりました、すぐにエージェントを向かわせます。いいですか、決して立ち向かおうとしないこと」
 何度かの応酬が終わると、オペレーターはあなた達エージェントに再び顔を向ける。
「L町オブルグ研究施設という所から通報がありました。研究所にテロリストのような集団が押し寄せているとのことです。早急に救出に向かってください。……カナピルが関わっている可能性もゼロではありません。彼は人を容赦なく殺める人物です。どうか気を付けて、任務を達成してきてください」
 以前、オペレーターは自分の不手際で一人の命が失われてしまった事を悔いていた。カナピルは、彼女にとってトラウマの種の一つとなりかけている。
 ――早い解決を。任務に向かうエージェント達の背中に、手を合わせた。


 私たちは動物。人間や、犬や、虫といった区別はあるけれど、どれも動物。動く物と書くのだから、同じようなもの。
 博士はこういっていた。人間には感情という未知なるエネルギーがあるから、真の幸福について調べる事はできないのだと。だから感情のない私に幸福というプログラムを覚えさせたのだ。
 私は犬だ。造られた犬で、ふつうの犬と違って話す事もできるし……ロボットなのだ。
 博士は私を使って、真の幸福を探求しようとしていた。本当の幸福に出会えた時、私は寿命を迎えるらしい。何らかの切っ掛けが私を幸福にした時、電気量が倍増してショートを起こすのだという。その瞬間を、博士は待ち続けているのだ。
 しかし、造られてもう何十年経つだろう。博士は老い、もう寝たきりになってしまった。私はいつになったら役目を終える事ができるのだろう。
 この世界に、動物による真の幸福というものは、そもそも存在するのだろうか。
 幸福の探求というのは――。
 目の前で扉が開いて、私は客人を出迎えた。悪い黒ずくめの集団を退治しにきたエージェント達だ。私は案内役を頼まれている。
 優秀な助手、マクランという二十五歳の男が私にそう言ったのだ。彼ら客人を案内してほしいと。
「待っていた。私はスチャースだ。君たちエージェントのお助けロボット、と考えてほしい」
 私は思考を許されていない。ただ幸福を追求するだけ。次から次へと溢れ出てくる言葉は、おそらく過去に私が聞いた言葉。
 博士が寝たきりになってしまった今、私は幸福とは何なのかについて尋ねる人がいない。マクランという人間も、私は十回その問いを投げた事があるが、分からないとしか言わない。
 時間が許せば、私はこの人達に幸福について尋ねてみようと思う。


 既に共鳴状態となっているグリッシュは、太刀を助手ののど元に向けた。
「研究資料を全て差し出せ」
「そ、そんな事は、できません……! 大切な資料なんです」
「ならば、オブルグの命を刈り取る。お前の命もだ」
 太刀を持ちながら、彼女は寝たきりの老人を睨んだ。――狂人め。
 助手のマクランはエージェントが早くこないかと祈る事しかできなかった。早く、早く、一刻も早く。スチャースに案内されて、早くここまできてくれ!

解説

●目的
 集団の討伐・捕獲。施設関係者の救出。

●集団について
 科学を敵とする宗教団体。一神教であるが、彼らが崇拝しているのは神という概念だけであり、その神に明確な名前はない。
 今回研究所を襲ったのは、幸福という概念を科学的に証明しようとする博士に怒りを示すためである。神から与えられるもので、弱小な人間が幸福を司るのは悪だとしたのだ。
 教祖、また団長であるグリッシュは二十五歳のロシア人女性で、教祖としては三代目である。二代目の父から受け継いだ。
 リンカーと一般人が混在しており、十五人中、十人がリンカー、五人が一般人である。

●研究施設
 山の地面の中にある研究所で、地下三階まで続いている。
 階層の形は同じで、正四角形が重なっている構造だ。地下にいくほど面積が小さくなっているのが特徴的。
 玄関は天井についており、梯子を上り蓋を開けると外に出る事ができる。
 一階はパーソナルスペースで、研究する場所はなく、一般家庭を思わせる階層。ワンルームで、廊下というものがなく、玄関を下ったらすぐに四角形の部屋が見える。壁は耐性力を持つ加工大理石でできている。
 一階中央の階段を下に下り、二階から研究施設になる。二階は三つの部屋が連なっている。
 三階は二つの部屋があり、片方の部屋が病室に、片方の部屋が助手の個人室となっている。
 集団は狭い病室内で博士と助手の命を狙う。

●博士について
 寝たきりの老人となってしまった博士。マクランという研究熱心でけなげな助手に介護をしてもらいながら生き延びている。
 幸福や人間の感情といったものを研究していた。

●カナピルについて
 地下闘技場で選手として活躍していて、闘技場制圧任務の際エージェントやH.O.P.Eの手を撒いて逃げた罪人。
 中世ヨーロッパ武術の心得がある剣闘士だが、騎士道のプライドはあまりない。勝利のためなら卑怯な手も使う。
 シナリオ『暗がりの騎士道』に登場。

リプレイ

 虚ろな目をそのままに、クリュは吐息交じりの笑みを床に落とした。
「サラは俺を守って死んだ。ここにいるのは、サラだったはずなんだ」
 それ以上何も言わなかった。静かな空間は何も生み出さない。
 雲に隠されていた太陽が顔を出した。
「カーテンを閉めてくれないか」
 厚い布が陽気を遮断した。
「暗がりの方が俺にはお似合いなんだ」
 オペレーターは何も言わず病室を出た。扉を出てから「すみませんでした」それだけ言ったのだった。


 針葉樹が不規則に生える山の腹部分。ほとんどが雪に覆われており、防寒具の中に入り込む雪一つが最高に冷たい。
 研究所の出入り口は降り積もる雪に隠されていたが、明らかに雪の積もる量がおかしい地点が一カ所ありすぐに発見する事ができた。取っ手を掴んだ赤城 龍哉(aa0090)は思い切り手前に引いた。あまり大きな音はならなかった。
「カナピルがいるって事も、ありえんだよな……。奴にはサラを殺した事のケジメを取らせないとな」
「そうですわね……。大きすぎる罪を背負ってしまいましたわ」
 ヴァルトラウテ(aa0090hero001)は服についた雪を振り払いながら降りる準備を整えていた。
 重罪人がこの先に潜んでいる可能性は大きい。エステル バルヴィノヴァ(aa1165)はいつにもまして、今回の任務には精力を出していた。
 研究所へと誘う梯子が扉の先に見えて、赤城は全員に視線を配ってから下り始めた。橘 由香里(aa1855)もメンバーの後に続いて降りようとしたが、言峰 六華(aa3035)と、彼女の乗る車椅子を押しているEлизавета(aa3035hero001)はメンバーに続こうとしておらず、声をかけた。
「行かないの?」
「先に降りていてください。すぐに向かいます」
 傘をさしたエリザが答えた。
「遅れないでね」
 橘は梯子を下りていく。靴と金属の音が徐々に遠ざかっていく。
「間に合わなかったようですね」
「……そうみたい」
 従姉妹のエストレーラが任務に間に合わなかったのだ。いつも一緒であった二人。
 言峰は視線を受け取った。エリザからの視線だった。それが問いを投げかけているかのように見えてこう言った。
「……大丈夫。私一人でも、がんばれるから」
 雪の輪舞。言峰のその笑みが偽物であるか。
「わかりました」
 仮面を被っている事をエリザは知っていた。
 遅れないようにメンバーの後に続く。梯子は言峰一人では降りられないので、車椅子を先に下ろしてから、言峰を抱えて降りる事にした。
 言峰の作った笑顔が徐々に剥がれている様をしっかりとエリザは視認する。
「私が皆さんを案内する犬のロボットだ」
 エージェント達の前にはお座りをした犬型のロボットがいた。身体は金属で覆われており、一本の赤い線が目の位置にある。
「犬さんが……! 喋りました……! ぼ、僕テレビで喋る猫さんは見たことありますけど……!」
 珍しい機械に、セラフィナ(aa0032hero001)は大きく興味を示した。犬の前でしゃがみ、頭に手を置いてみる。その犬は頭を垂らし、本物の犬の真似事をした。
「なんだか……かしこそうな犬だな。俺達に協力してくれるのか?」
「研究所の助手、マクランに私はそう言われている。案内をしろと」
「敵に関する情報は得ているのか」
「攻め込んできた集団は宗教団体。私の頭の中に入っているデータでは、一神教であり、このように暴動を起こした事は少ないとだけ。神という存在を頑なに信じて、疑う存在を罰す」
「博士は神を疑った、ということか」
「私が思うに、どちらも愚かという事だ。私は博士に作られ、助手に育てられた。その中で宗教と科学はいかに類似点が多いかを教えられた」
 真壁 久朗(aa0032)との応酬を見る限りでは、このロボットは緻密な知能を持っている事が伺えた。九字原 昂(aa0919)は能力のあるロボットに情報を求めた。
「現状について教えていただけますか」
「急がないといけない。手短に説明する。寝たきりの博士は地下三階の病室に助手とあり、集団はそこを占領している。二階にも何人かいた。サバイバルナイフを平等に持っていたが、長の女は太刀を背負っていた。以上で説明は足りるだろうか」
「ええ、十分です。ありがとうございます。ところで、あなたはその集団に存在を知られていますか?」
「それはない。一度集団は全員病室に集まり、その後に二階に散ったのだが、その前に私はここに来ていたからだ」
 ならばと、間に入って赤城 龍哉(aa0090)はスチャースに言った。
「斥候役を頼みたいんだがよ。ぜひ協力願いたい所だぜ」
「私のデータに間違いがなければ、斥候役とは敵の様子を見に行くという事なのだが、相違はないか」
「ああそんな感じだ」
 動作を止めるスチャース。思考中のようであった。ロボットの思考は人間と違ってすぐに終わる。スチャースは過去自分に下された禁止命令を振り返り、その中に他者からの命令を一切禁ずという文面がなかった事を確認して動作を回復させた。
「無問題。その役目、承ろう」
「敵のただ中へ行ってもらうが……本当にいいか? もしかしたら気付かれて壊されるかもしれない」
 身の安全に関する真壁からの問いに、スチャースは冷静に答えた。
「壊される事があれば、その時はその時だ。それに、私としては壊れてしまった方が有意義なのだという事もここで言わなければならないだろう」
「どういう意味だ、そりゃ」
 赤城の言葉を受け流し、スチャースはエージェント達に尻尾の生えたお尻を向けた。セラフィナは立ち上がって戦闘の心構えに切り替える。
「ついてきたまえ」
 彼、スチャースは目先にあるテーブルを避けエージェントの案内を始めた。それを見届ける言峰。
 ――レーラちゃんがいないのに、私なんで戦おうとしてるの、かな。戦う意志を失った言峰。その様子を見たエリザはエージェント達に準備があるから遅れる、後から追いつくと伝えた。
「急ぐんスよ! あんまりモタモタしてられないッスからね」
 言葉とは裏腹に、急かさない口調で齶田 米衛門(aa1482)が言う。エリザは彼を見て頷いた後言峰に顔を向けた。車椅子から手を放した。
「……六華――」
「私が許可しない限り共鳴しないって」
 言峰は自分の名前が呼ばれるのと同時に口を開く。更に、彼女の言葉を遮るようにエリザは言う。
「確かにそうです。ですがそれは貴方の優しさが、そのままであって欲しかったからです」
 エリザの言葉には何も反応を示さなかった。
「六華。貴方の独りよがりな我儘で仲間が死んでも構わないというのですか? ……そんな子と、私は契約した覚えはありません」
 本当に一瞬であった。エリザの姿が消えかけたのだ。水に落ちる雪のように。だが言峰は気づかなかった。彼女は真っ暗な窓を見ていたからだ。正確にはそれは窓ではなく絵画だ。窓の枠組みの中に雪景色が彩られている。彼女は最初から、雪の降る窓の外を見ていたのだ。
 雪を見ながら言峰は言う。
「……我儘を、いっちゃいけないの?」
 先ほど言峰がそうしたように、エリザは何も答えなかった。弱い力で車椅子の手すりを叩く音が部屋を鳴らした。
「エリザなんか嫌い……どっか行ってっ!!」
 激昂する少女。エリザは彼女の横に立って、指で頬に触れた。その指の上には涙の雫が乗る。
 ――どうすれば……いいの。
 優しく、後ろから包まれる言峰。エリザは彼女の両手を取った。そして。
「状況……」
「……開始」
 涙で潤された彼女の眼は、雪の景色が先ほどよりも綺麗に映って見えた。


 スチャースの案内通りに進むエージェント達。階段を下り終える途中でスチャースが足を止めて、全体の動きも停止した。
「既に敵が何人かいる様子だ」
「スチャース、任せられるか」
「無論だ」
 彼は階段を下りて、無機物を装って探索を開始した。
 ――。
 五分とかからずに帰ってきたスチャースは、敵の居場所を詳細に説明した。まず三つの部屋に二人ずつおり、それぞれ部屋の扉前で待機しているとの事だ。階段は連続で続いており一階から三階まで直通であり、無視をする事は可能であるが万が一を考えなければならない。
 先行する赤城と齶田。守りを固める真壁は二人に訪れる攻撃を守る。
 階段を下り、すぐにいた二人の脳天に齶田と赤城は同時に武器を当て、気絶させる。倒れる時大きな音を立てないよう、静かに地面に転ばせる事も忘れなかった。
 左右に扉がある。
「一度二手に別れるぞ」
 左の研究部屋に進んだ真壁と齶田は、扉を開けてすぐ二人の信者を床に伏せさせた。
「久朗! 任せたッスよ!」
 真壁はセーフティガスを使って一人を眠らせた。一人はリンカーであったのか効果を見せず、齶田は地面でのたうち回る男の首筋を肘で強打し、意識をどこかへ追いやった。
 反対の部屋には赤城と石井 菊次郎(aa0866)が攻め込み、容赦なく銀の魔弾を浴びせる。魔弾で吹き飛んだ二人のうち一人はすぐに気絶したが、一人は立ち上がった。
「能力者、ですか」
「あんたたちがエージェントね、来る事くらい知ってたんだからっ」
 ローブで顔が見えないが、その信者は若い女性らしかった。彼女はナイフを両手に持ち、石井に切りかかった。すぐに赤城は彼女の両腕を掴みナイフを落とさせると、地面に投げ飛ばして急速に気絶させた。
「この信者、俺達が来る事を知っていたようですね」
「らしいな。なんでだ?」
「いえ、そこまでは。しかし……そうなれば、少し注意して進む必要が出てきましたね」
 見張りを倒して階段へと再集合する。その時、部屋をさっとみていた橘が発見をしていた。
「部屋に、私がギリギリ通れるくらいの通気ダクトのような物があったわ。救助者のいる部屋まで続いているかもしれないから、私はそこを使っていくわね」
「それでしたら、僕もダクトを通って侵入を試みます」
「わかった。無線機を使って随時連絡を取り合った方がいいな」
「そうですね……。スチャースさんについている通信機に連絡を入れましょう」
「分かったぜ。なんか異常事態があったら無理すんじゃねーぜ」
 了承の返事をした九字原は部屋に入ると、先に彼がダクトの中に入った。続いてベルフ、最後に橘が続く。
「少しだけ油が匂うわね」
 ダクトの中は、お世辞にも環境が良いと呼べる代物じゃなかった。


 ダクトの中を通る九字原と橘。ダクトはほぼ全ての部屋に精通する。病室も例外に漏れる事はなかった。スチャースの口伝による地図情報を頼りにダクトを伝っていくと、話し声が二人の耳に届く。
「お、お願いです。命も、資料も奪わないでください! あなた達と敵対する理由なんて、ないじゃないですか!」
「交渉決裂かあ」
 男の低い声がした後に、壁に金属が打ち付ける音がダクトを振動させた。重い武器が壁と激突したのだろう。その音の直後に、助手の声と想像がつく上ずった小さな悲鳴が聞こえた。
「ど、どうして、そこまで資料を求めるんですか? あなた達には何も関係がない」
「こんな事やって、要求を呑んでくれると思うのかなぁ」
 九字原は率直な感想を述べながら無線機を付けた。他のエージェント達に会話を聞かせるためだ。
「幸福というのは神から与えられる物であり、我々人間が司るべきではない。禁忌だからねえ。オブルグは禁忌を犯そうとしている。その資料が無くなれば研究も進まないでしょ?」
「わ、分かりました。研究資料を渡せば命も保証されるのですね?」
 涙声の混ざった懇願する態度で助手は訊いたものの、男はそれに答えなかった。
 九字原は後ろを向いて、橘に合図した。突入の準備だ。
「さて、ここからは時間との勝負かな」
「俺達に気づいたようなら、後は向こうの指揮官の判断力との勝負になる」
 ベルフ(aa0919hero001)の言う通り、宗教団体の指揮能力がどこまで高いかによって戦況は大きく変わる。ただ、あくまでもただの宗教団体なら、高次元の能力は持っていないだろう。
「そうだね」
 深呼吸を終えた彼は共鳴をすると、無線機に最大限に声を近づけて、扉の前で待機するエージェント達に言った。
「それでは皆さん、突入の準備を」
 十秒から一秒ずつ、規則的に数字を数え始めた。少しずつ近づいていく突入のタイミング。
 ――六、五、四。
 病室扉前で突入を待つ一匹とエージェント達。牽制するため先頭に立つスチャースはゼロ秒を待った。順調に減っていく十進数。
 しかし、三秒と言われた所で合図が止まった。無線機を通じてスチャースの後ろに立つ赤城達も異常に気付いた。
「どうしたんだ?」
 赤城は無線機に向かって言った。応答がない。
 ――どうしたんだ?
 答える猶予というのは与えられていなかった。九字原と橘は数える度一歩ずつダクトを進み、ついに部屋の中の様子が見渡せる所まで来ていた。そして突入まで三秒を切ったところで、突然ダクトの中に明かりが赤裸々に舞い込んできたのだ。
 明かりは丸い影を映し出す。九字原は影と目が合う。合ったのは目だけで、それ以外は包帯に隠されていた。
「待ってたよォ」
 距離を取る前に、九字原の腕を掴んだその男はダクトから彼を引きずり下ろした。
「しまったッ」
「遅いなァア!」
 部屋の中に落とされる九字原を見た橘は咄嗟に死者の書を取り出した。
 腹部に生暖かい感触。剣の木がゆっくりと生える。
「驚いたか」
 低い女の声が耳元で囁いた。橘は女に頭突きをして距離を取った。ところが足をかけられ、仰向けに転ばされてしまう。その時、女の顔が見えた。憎悪に満ち溢れた顔をしていた。
「貴女……、知っていたの?」
 苦しげな表情を隠し声音も普段と同じように保ち、尋ねた。
「カナピルという男がエージェント達が来ると私たちに教えた。おそらくダクト内を通過するだろうと勘を働かせ、私は潜んでいたのだ」
「なぜ、その男は――」
 病室の扉が強行突破のえじきになる爆音が橘の言葉を散らばせた。
「大丈夫ッスか?!」
「おーっとストップ。下手に動くとこの人しんじゃうよ?」
 地面に伏せられた九字原は背中に剣を突きつけられていた。
「不甲斐なく、申し訳ないです……!」
「そこの男、その人を離すのだ。さもなくば、私の牙がお前を砕く」
 威嚇しながらスチャースは言った。ロボットには感情による声音の変化はないが、敵対心は明らかに剥き出しであった。
「おおワンちゃん。さあおいで、ミルクを上げよう。それとも肉がいいかな? ああ残念、今は手持ちに肉がないんだ。だけどすぐに作りだす事ができるよ」
 勝ち誇った眼光。その男、カナピルは不気味な声で笑い声を漏らした。
 彼が簡単に人を殺める事ができるという事実が鎖を生む。
「カナピル……!」
 ロザリオの切っ先をカナピルに向けたエステルは鋭い視線で彼を射抜いた。
「ああ君、前見た事あるねえ。美人さんだなあって思ってたんだけど、いやあ残念今日で美人さんじゃなくなっちま――」
 何が起きたのか、判断力の正確性が抜群のスチャースでさえ一瞬で理解ができなかった。扉に続き破壊音が部屋中に響いたのだ。音の中心が天井であるという事は、赤城がカナピルの前に立ち塞がった時に全員が気付いた。
 天井から舞い降りた赤城が、カナピルの顎を目掛けて猛威を奮う拳を叩きつけた。宙に浮く剣闘士。彼は剣を離さなかった。
 そしてカナピルが落ちる前に周囲の宗教団体は次々と倒れていった。赤城は一人一人正確に、瞬時に薙ぎ倒したのだ。
「また会ったな、カナピルッ! 今度は逃がさねえぜ」
「ああ……次から次へと懐かしいねえ……。ン、フッフフ……、楽しもうかァ。ほら、てめえらも起きろよお! ミナゴロシだあ!」
 赤城は九字原に手を伸ばす。その手を取った九字原は立ち上がり、礼を交わした。
「ありがとうございます、助かりました」
「まあいいってんだ。――来るぞ、構えろ!」
 カナピルが振り回す剣を、九字原の弧月が捕らえるのを切っ掛けに、真壁が牽制で動き、その後に続々と武器が続いた。
 ダクトの中、女は橘の足を引いて奥へと飛ばした。橘は扇で抵抗を試みたが、剣と壁が擦れる度に体に酷い痛みが走りまともな反撃を繰り出せなかった。
 うつ伏せにされ、背中から思い切り剣を引き抜かれる。
 即座にケアレイをかけて回復する橘。その間に女はダクトから脱出しており、橘はその後を追った。
 部屋の中は混戦になっていた。広い部屋ではなく、一般的な病院の病室と同じ部屋に十人以上もいるのだから。橘はすぐにベッドの上の老人に近づいて保護を開始した。
「あなた、大丈夫?」
 マクランはベッドの下に隠れており、橘は下をのぞき込む事なく言葉だけを飛ばして聞いた。
「だ、だ、……大丈夫か、分からないです……!」
「そのままじっとしてるのよ。動かない事、いいわね」
「わ、わかりました」
 橘は近づく襲撃者の足元、腕に連続して鉄扇を突き刺し戦力を遮断する。
「ぐッ、くそ!」
 直後に、襲撃者の全身をライヴスのメスが切り刻む。
「攻防一体、鬼祓いの舞い。拙い芸だけれどご披露しましょう。堪能してね!」
 一人でも徹底的に戦力を削ぎ落とす。男は床に倒れ伏し、立ち上がる事ができなくなった。
 中央付近では石井と太刀を手にした女性が対峙していた。他の襲撃者はローブを羽織っているのに対し、彼女だけローブを脱ぎ捨てている。
「どうやら、貴方がリーダー格の方のようですね。幸福を研究する博士、彼の研究資料を求めていると、お話を伺っていますが」
「そこまで知っているのなら話は早いッ」
 下から振り上げられた太刀。真壁が石井の前に身を投じ、盾で剣先を受け止めた。クロスボウを彼女の顔面の位置に合わせてトリガーを引く。女は矢を掌で受け止め身を引いた。
「助かりました。――失礼ですが、貴女の名前は?」
 石井は礼をすると、視線を女へと向けた。
「グリッシュだ。聞いた所で、お前にはなんの意味もない」
「いえ、会話が円滑になります。ところでグリッシュさん。このような言葉を耳にした事はありませんか?」
 剣とナイフが交わる音、集団の怒声、人が倒れる音が交差する喧騒の中、石井はキッパリと言った。
「人を傷付けては成りません」
「それは……」
 人を幸福にするならば、傷つける事などもってのほか。グリッシュの太刀を構える両腕が綻びを見せた。憑りついていた魔物が浄化されるのと似る。
 真壁はタイミングを見計らってガスを発生させ、部屋内にいる敵対組織のほとんどを眠らせた。起きているのはグリッシュとカナピル、救助者のみだ。
 言峰がスナイパーライフルをグリッシュに向け、引き金に手をかける。
 赤城と格闘劇を展開していたカナピルは大きくステップを踏んで後ろへ下がった。グリッシュとカナピルは部屋の中央で、リンカーに囲まれていた。
「カナピル……もう逃げるところは無いです」
 先ほどまでの喧騒が嘘のように静まり返った。グリッシュは変わらず太刀を握っているが、その表情はどこか頼りない。
「ねえねえ君、まさかここまできて諦めるとかないよね」
 カナピルが彼女に言った。
「そ、それは……」
「そんな事いったら君の首飛んじゃうよ?」
 不測の事態が起きた。カナピルは剣をグリッシュの喉元に突き立てたのだ。あくまでも彼は勝利を目指す選択をするという事だ。
 冷静に考えれば圧倒的に不利であった。自分を守る集団は全員眠らせられており、足掻いた所で勝てる見込みはない。
 投降の態度を見せないグリッシュ。石井はゆっくりと言葉を放ったが、グリッシュに向かっての言葉ではなかった。
「助手の方に質問があります」
 未だにベッドの下に隠れているマクラン。くぐもった声で返事をした。
「なんでしょうか」
「スチャースは幸福の定義というものを知っているのでしょうか」
「いえ、それは……。おそらく、博士は幸福の定義付けというのを、スチャースにしていないかと思います」
「そうですか……。俺は先ほどから、スチャースの存在に疑問を感じていたんですよ。博士はスチャースの幸福の定義を知らなくてはならない。だとしたら、博士は自分の考えを整理した方が答えに早く近づけるでしょう。もしくはスチャースが単なる、他人の幸福の確認という存在かもしれない。ですが――今の答えを聞いて、スチャースという存在が誤謬であると分かりました。定義無きものを証明出来ませんから。無駄死を運命付けられている事になる」
「で、ですが」
 尊敬する博士の研究を真っ二つに斬られたと感じたマクランは反論しようとベッドから身を乗り出した。
「――博士は幸福の定義というのを調べようとしていたんです」
「なるほど。しかし……時間だけが過ぎた」
 要するに、この実験は最初から失敗が定義付けられているということだ。石井はグリッシュに再び顔を合わせた。
「人間が幸福を司るのは確かに傲慢です。しかし、彼の研究は結局それに値しない。今、それが明らかになったでは無いですか? このやり方では到達出来ない……それは却って神の栄光と偉大さを証明するものでは無いですか?」
「私がやっていた事は、単なる……自己満足に過ぎなかったのか……」
 緩くなった手元から脅威が落ちていった。神を心の底から信じているならば、この研究がどれだけ愚かな事が気付けたのだ。人を傷つけ、それは神に対する最大の仇とも呼べるのではないか。
 小さなため息が、彼女の隣で鳴った。


 グリッシュの首元で、ロザリオと剣が交差していた。カナピルの動きに即座に反応したエステルが、グリッシュを守ったのだ。
「ムシャクシャするねェ……!」
 包帯をしていながら、彼が三日月の形をした笑みを作った事に気づく。言峰はすかさず引き金を引いた。銃弾はカナピルの腕を貫く。
 しかし、カナピルの拳は瞬時にエステルの腹部に叩きこまれていた。武器は囮、本命の攻撃は別側にあった。
「あぐッ」
 壁に叩きつけられる寸前、九字原はエステルを庇い自らがクッションとなった。
「お怪我はありませんか」
「ええ、はい……ありがとうございます」
 カナピルが動くのは早かった。次に目をつけたのは橘で、剣を捨てて彼女の首元目掛けて両腕を伸ばす。橘は盾でカナピルの腕を抑えた。
「あなた正気? もう諦めた方がいいと思うんだけど。不利なのは明らかじゃない?」
「どこがぁ? 俺様はカナピルだァア! てめえらが何人いようが変わんねえんだよ! オラ、オラぁ!」
 彼は盾に向けて拳を次々と打ち付ける。銃弾を食らった事を忘れているに違いない。
「吹き飛べよぉ!」
 連続で繰り出した後、最後の一撃なのかカナピルは助走をつけて橘の盾に攻撃線を向けた。もう武術の心得といったものは皆無で、躍起になっていた。
 橘は両手で盾を握り締める。カナピルの右腕が軌道をそのまま、盾に近づく。
 盾に当たるわずか数センチの所で、右腕が止まった。
「くそったれェ」
 包帯で巻かれた頭が地面に打ち付けられ、床に穴が開く。
「いい加減に、しやがれ!」
 胴体にライヴスセーバーが刺さる。地面ごと突き刺し、カナピルは縫い止められた。
「あぁ……痛ぇ……。くそが。この女、使えると思ったのになぁ……」
 真壁は手錠をカナピルに着けた。もう逃げらないのだ。逃げられないし、誰も逃がさない。
 逃亡劇の幕は降り、カナピルという魂はやはり、地下が墓場となるのだ。


 オペレーターは何台かのヘリコプターと輸送車を用意した。起きた宗教団体を輸送車に入れて一般人リンカー問わず尋問にかけられる。
 集団の中で一番罪が重いのはグリッシュであった。
「応、セラフィナ。手出せ!」
「手ですか?」
 スノー ヴェイツ(aa1482hero001)に言われ、セラフィナは素直に手を差し出す。スノーはその手を握る。すると、セラフィナの手の上に飴が乗った。
「今回は練乳苺味の飴やるな」
「わあ、ありがとうございます! クロさん、雨をもらいました!」
「よかったな」
 幸せそうに喜ぶセラフィナ。スノーはにこやかにその様子を見ていた。その場所にスチャースがとことこと歩いてきた。
「幸福とはなんだと思う」
 連れていかれる集団を見送りながら、スチャースはエージェントに尋ねた。
「幸せ……だったなと思うのはやっぱり昔の……一緒にいて楽しいと思える奴といたあの頃かな……」
 最初に答えたのは真壁であった。
「今はどうなのですか? クロさん」
「ん……そうだな、悪くないな。今も」
 横でくしゃみをした齶田を、真壁は小突いた。
「なんスかー?」
「いや、なんでもない。ヨネの幸福はなんだろうな」
「オイのッスか。んー、”人と食べる飯”、これに勝るものは無いと考えでる……独りでうめもん食った所で物足りねもんスよ。なして物足りねがって、独りで食う飯は虚しい、いっくらうめぐっでもアイツと食ったらもっとうめぇだろうなってなるんス……なるんスよ」
 その言葉に付け加えるように、スノーが口を挟んだ。
「人によって違うのはそれだけ多様化しちまっただけだ、本質は変わらねぇ。誰かと飯を食う、これはどの生き物だろうが幸福ってのになるんじゃねぇか?」
「食事、か」
 スチャースは考え込んだ。そして、次に彼は橘を見て同じ事を尋ねる。
「幸福とはなにか?」
 彼女はしばらく思考した後、こう言った。
「そうね。大切な人に認めて貰える事よ。自分の存在価値を。存在する意味を。認めて貰えないと…自分の価値が無くなるのよ。存在する意味がなくなる。だから頑張らないといけないのよ」
「お主はいい加減その考えから脱却すべきだと思うのじゃがのう。最近はだいぶましになったと思ったが、まだ芯までは変わらぬか」
 飯綱比売命(aa1855hero001)はスチャースの首元をくすぐり、すまぬが、と言葉を続けた。
「すまぬがワン公、こやつに幸せの定義など答えられぬぞ。どうやったら自分が幸せになれるのかもわからぬ奴じゃからな」
「構わない。だが、余計な世話と思われるはずだが、幸福というのは会って損はないはずだ。――聞き流すべき言葉だと思ってくれてよい」
「ワン公に言われておるわ」
 スチャースはエステルに体を向けた。エステルはカナピルを真横でしっかりと監視している。
「あなたにもこたえてほしい」
「幸福ですか? ……ごめんなさい、私それを感じる部分が壊れてしまっていて……ディタはどうですか?」
 泥眼(aa1165hero001)はこう答えた。
「そうね、自分が幸福であるか気にならなくなったら幸福であると法の教えにはあるけど…あなたが問う事を忘れられればその時、幸福が訪れたと言えるのかも知れないわね」
 ふむふむ、とエステルは口元に人差し指を当てて、何かを閃いたのか泥眼に訊いた。
「と言う事は私も幸せって事ですか?」
「……如何かしら?」
「えー」
 遠くから二台目のヘリコプターの音がし始め、地面に近づいてそこからオペレーターが山に下りた。
「皆さん、任務お疲れ様です。カナピルの捕獲、本当によくやってくれました。ありがとうございます」
 エステルからオペレーターにカナピルが引き渡される。オペレーターは彼を見て言う。
「貴方の罪は非常に重い物です。覚悟しなさい」
「さてなぁ……」
 その言葉は訳が分からず戯言じみていた。さて、というのは接続詞のようなもので、その後に何か言葉が続かなければならない。しかし彼は何も言葉を続けなかったのだ。
「無駄死に、か。つくづく、冷たいの」
 石井がマクランに言った言葉を反芻しながらテミス(aa0866hero001)は言った。雪のように冷たい。
「事実ですから」
「ふむ……。それで、主にとっての幸福とは何なのだ?」
「それが至福を表すならコレクションを眺めている時ですね。仕合せなら……分かるでしょう?」
 二人の会話に聞き耳を立てていたスチャース。すると、泥眼が彼に言った。
「スチャース、彼らにも幸福とは何かを問いなさい」
 彼ら……と泥眼が眼を向けたのは宗教団体の事である。一人ずつ車に乗せられている所であった。
「神の恩寵の内容も示せない様では彼らはそれを頂いても気付け無い事になります。だから答えは有る筈です……でなければ彼らは不敬者となってしまいます」
「分かった。尋ねてこよう」
 雪の中に小さな足跡を残しながら彼は車に向かって歩いていった。泥眼も、少しだけ側に近寄った。
「幸福とはなんだ」
 ――生きられるという事。
 ――家族がいる事。
 ――楽しさを感じるという事。
 一度にたくさんの返答が帰ってきたスチャースは、違う意味でショートを引き起こしそうになっていた。人間の言う幸福とは多種多様すぎるのだ。
「言葉はとても便利だけど……それが道具でなく信じたり追求したりする対象になってしまえば呪いとなるわ。恐らくここに居る全員が幸福と言う言葉で全く違うものを追い求めているの。これを喜劇だと思える精神の自由の無い人にとっては、幸福と言う言葉は人生を無駄に使う為の言い訳になるのでしょうね」
 泥眼が言った。エステルは彼女と肩を並べてこう返した。
「博士の研究も無駄なのかな?」
「博士が本当にそれを追い求めていたのならね」

 言峰はエージェント達から離れ、車椅子をエリザに押してもらいながら遠くを見ていた。ここはよく町を見渡せる。
「一人でも、戦えたよ……。ね、ねえエリザ、頑張れた……かな」
「はい。よく、戦い抜きました」
 座りながら手を伸ばして、雪を手の平に乗せる。そして、乗った雪を息で吹く。その雪はひらひらと下に落ち、他の雪に紛れて見えなくなった。
「行きましょう」
「そう、だね。ちょっと疲れちゃったな」
 眼を閉じて背もたれに寄りかかる。目を閉じているというのに、雪はずっと目の前に広がったままだった。


 病室に戻ってきたオペレーターは、任務が無事に達成された事をクリュに伝えた。
「そうか」
 彼は両手に石コロを握っていた。
「それは、なんでしょうか」
「友人達からの贈り物だ。大切な物だ」
 彼はそれをサイドテーブルの上に置くと、身体を倒して天井を見つめる。
「あんた、カナピルを探すために奮闘してたんだってな。誰かのために」
「いえ、私は、私自身のために仕事を全うしただけです。失敗を帳消しにするために。誰かのためというほど綺麗な話ではありませんから」
「――俺も、自分のために動いてみようかと思った」
 オペレーターは備え付けの丸椅子に座った。
「長話はしない。……偽善でもなんでも、他人の幸福と自分の幸福、そのどっちも考えて動く事にした。そんな事をいつだったか、サラが言ってたような気がする」
「自分という存在がなければ、他人は救えませんから」
「似たような事をアイツも言っていた」
 少しして、彼はオペレーターの方を向いてこう言った。
「カーテンを開けてもらえるか」
「分かりました」
 病室に入る事を拒んでいた日差しが入り、クリュの顔を照らす。

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • 悠久を探究する会相談役
    エステル バルヴィノヴァaa1165
    機械|17才|女性|防御
  • 鉄壁のブロッカー
    泥眼aa1165hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • 我が身仲間の為に『有る』
    齶田 米衛門aa1482
    機械|21才|男性|防御
  • 飴のお姉さん
    スノー ヴェイツaa1482hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 終極に挑む
    橘 由香里aa1855
    人間|18才|女性|攻撃
  • 狐は見守る、その行く先を
    飯綱比売命aa1855hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • エージェント
    言峰 六華aa3035
    人間|15才|女性|命中
  • エージェント
    Eлизаветаaa3035hero001
    英雄|25才|女性|ジャ
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