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チョコらしきもの回収相談
最終発言2016/02/06 12:26:38 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/02/05 20:18:03
オープニング
●お礼という名の報復を
人が使用しなくなった蔵の中、甘ったるい匂いが充満し、ぐつぐつと何かが煮える音が鼻歌と共に響く。
ふんふんと歌うそれは煮え滾ったものを型へと移し、成形させる。それとはまるで人のような容姿をしているが、明らかに人とは異なる二本の角を持ち、時代を間違えたのだろうか、平安の武士のような格好をした女だ。
「よし、これでよかろう。ボクの邪魔をしたアイツらにこれを届けて来い! バレンタインとやらで浮かれている奴らにはピッタリだ」
人間の鍋とやらを食べたかったのに、よくも邪魔しやがってと作ったものを適当に包むとそれを腕に傷のある猿たちに渡した。顔は記憶しているんだろうと尋ねれば、こくりと頷く猿。それに女は満足そうに笑みを浮かべるとさっさと行けとばかりに猿を放りだした。追い出された猿は犬、烏、小鬼と共に街へと向かう。その手にしっかりと女の作ったものを抱えて。
●寂しい男は病院へ
休日の昼時、ピーポーピーポーと鳴りやまないサイレンにくそっと悪態を吐きつつ、起き上る。
「寝てらんねぇ」
「こっちも放送になんないわ」
少年――椿康広(az0002)の呟きに放送していたのだろうか、ヘッドホンを外しながら相方であり、同居人でもあるティアラ・プリンシパル(az0002hero001)もサイレンの五月蠅さに同意する。
「なんで、こんなに救急車が走ってんだよ」
「ニュースで何かやってないかしら」
「ニュースは俺が確認するから、ティアラはH.O.P.Eの依頼を確認してくれ」
「わかったわ」
ティアラからチャンネルをもらい、テレビの前に陣取る康広。そして、ティアラはH.O.P.EのHPを確認する。
『現在、多くの人が病院へと搬送されております』
「これだな」
丁度、流れていたニュースに次々と病院に搬送されている様子が映し出されている。
『なお、犯人と思われるものは猿、犬、烏の従魔であると被害者がそれぞれ語っています。原因となるものはそれらに無理矢理押し込められたチョコらしきものだとのことです。尚、現在、H.O.P.Eからの発表待ちです』
読まれるニュースに康広は眉を顰める。そして、見てはいないものの聞いていたティアラも美しい顔を顰めた。
「……康広」
「わかってる。猿、犬、烏とか聞き覚えしかねぇだろ」
これで小鬼がプラスされたら完璧だなという康広にティアラはぽんと彼の肩を叩き、彼女が見つけた依頼文を見せた。それを読んだ瞬間、康広はテーブルに頭を打ち付ける。
「アイツらじゃん! アイツら以外いねぇだろ、これ」
「間違いないでしょうね。第一に、両腕を一閃したかのような傷を持つ猿って」
「俺たちがやったカニの猿だな」
康広とティアラが読んだ警察より移管された依頼文には追加情報も書かれていた。
『なお、被害者たちが運ばれた原因として考えられているのが、その目撃情報にもある猿、犬、烏に食べさせられたチョコらしきものとされています。このチョコらしきものはかなりの刺激物であるため、口に入れられた際は、すぐに吐き出してください。特に目撃情報が多数寄せられているC地区周辺にお住まいの方は外出していなくてもご注意ください』
『この時期にチョコでとは中々、酷なことをしてくれる犯人ですね』
『もしかして、食べさせられた人はもらえな――』
『○○アナ、それ以上は言ってはいけないことですよ』
ニュースコーナーからスタジオに戻った際にMCの男がそう言い、それに隣にいたまだ若いアナウンサーが口を開いたのだが、優しい顔をした男に言葉が飲まれた。
「寂しい男どもにばっちり当たっちゃったわけね」
「つーか、標的とされているの、眼鏡をかけた男ってなってんだけど、これ」
「もしかして、康広のことを狙ってたりしてね」
けらけらとそういって笑ったティアラだがすぐに真顔になり、笑えないわねと呟いた。それに康広は全くだと苦笑いを浮かべる。
「……依頼、受けるけど、いいわよね」
「あぁ、一度はやり合った奴らだし、大丈夫だろ」
そうして、二人はその依頼の受託した。
依頼名:ダークマターの回収及び従魔の討伐。
依頼内容:本日、従魔によりダークマターが配布されている。そのダークマターを口にした者たちが緊急搬送されており、至急、回収してもらいたい。尚、ターゲットとされているのは眼鏡をかけた男。また公にはしていないが、従魔は猿、犬、烏、小鬼となっている。こちらの従魔の討伐も合わせて行ってもらいたい。
解説
ダークマターもといチョコらしきものの回収。
および、配達員である従魔の討伐。
●従魔
猿、犬、烏、小鬼がチョコらしきものを人々に配布している。猿はターゲットの体に素早く登ると口を開かせて無理矢理ねじり込んでいる。また、烏や犬は口を大きく開いた際にそこに放り込んでいる。なお、小鬼は補充係なのか、猿、犬、烏に追加を渡している姿が目撃されている。戦闘力は殆どないといってもいい。
確認されている数は小鬼が3体、他が2体ずつ。猿の1体は両腕に傷がある。
●女「百姫」
恐らく愚神であると思われる。二本の角を持ち、平安武家のような格好をしている。今回の出来事をどこかで見ているようだが、PCの前には登場しないため、戦闘も発生しない。そのため、目の前の従魔に集中してもらいたい。
なお、こちらはPL情報となります。
●ダークマター
もとい、チョコらしきもの。少し寂しい人が口にしてしまっている模様。味は、病院に搬送されるレベルと言っておく。また、こちらはどこかに貯蓄しているらしい。
●出現場所
街中。時間帯は昼。通常は人通りが多いのだが、今回の事件を受け、人通りが少なくなっている。人がいないわけでもないので、一般人には注意するよう。
●椿康広&ティアラ・プリンシパル
以前、同様の従魔を対応しており、傷のある猿とは一度対峙している。故に今回の依頼に参加した。鷹を使用して、探すもしくは囮になる予定。指示があれば、プレイングに。
●その他
現地へはそれぞれで向かってもらうこととなる。偶々、近所に来ているものもいるだろう。尚、現地で合流するか否かはお任せする。
リプレイ
●眼鏡をかけて準備OK?
C地区。一番の大通りはいつもの賑わいどこへやら、チョコ騒動のせいで非常に閑散としている。そんな通りに椿康広(az0002)とティアラ・プリンシパル(az0002hero001)は立っていた。依頼を受けたのちに急行したまではよかった。
「何か作戦でもあるわけ?」
「……囮になることとあの猿、ブッ飛ばすくらいしか考えてなかった」
そう言って目線をティアラからそらした康広にティアラは全くと溜息を落とした。そんな時、康広の携帯が着信を告げる。
「はい、椿」
『椿か。俺はカトレヤ シェーン(aa0218)だ。今、丁度、お前が見える喫茶店にいるんだが』
わかるかと尋ねられ、康広はちょっと待ってくれと答え、周りを見渡す。そして、一軒の喫茶店に目が向いた。丁度、窓際で携帯に耳を当てた金髪の女性とその目の前で苺がたっぷり乗ったパフェを頬張る赤髪の女性が目に入る。もしやと思い、手を挙げると彼女は手を挙げて見せた。
「なるほどね、彼女たちもエージェントなのね」
「みたいだな」
通話を切り、康広はその喫茶店に入った。そして、近づけば、改めてカトレヤは自己紹介を行う。そして、彼女は、目の前でパフェを美味しそうに頬張る王 紅花(aa0218hero001)の紹介を康広にした。
「俺は椿です。こいつはティアラ」
「お願いするわ」
「こちらこそ」
握手を交わし、これからの動きを尋ねれば、もごもごとパフェを食べながら、紅花が芋づる式に敵を引きだすと答えた。それにカトレヤが物を呑み込んでから喋れと注意をする。
どうして、俺に連絡をと改めて尋ねると、偶々そこにいたからだと告げられた。彼女たちはこれから皆月 若葉(aa0778)とラドシアス(aa0778hero001)に合流するのだという。なんだったら、椿もどうだと尋ねられ、椿は俺は俺で探してみますと告げた。
「何かあったら、カトレヤサンや皆月サンに連絡するんで」
「あぁ、わかった。こちらも進展があったら連絡しよう」
じゃあ先に失礼しますと軽く一礼をすると喫茶店を後にした。
「さて、俺たちも行くぞ」
「まだ、我のパフェが残っておる」
「……」
はぁ、と大きな溜息を吐いたカトレヤは腰を上げたかと思うと、紅花の首根っこを引っ張り、若葉のもとへと向かった。
「あ~ん、我のぱふぇ~」
一方、別の所では近くの病院、消防署に連絡を取る木霊・C・リュカ(aa0068)。その近くではオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)が通行人に注意を呼び掛けていた。
「眼鏡をしてるやつは無理じゃなかったら外せ」
無理だったら服を上から被ればいいと眼鏡をかけた人にはそういい、それ以外の人にはできるだけ外に出ないように声をかける。
「うん、オリヴィエ、ここよりも大通りあたりが多いみたいだよ」
「大通りか。じゃあ、こっちだな」
肩にリュカの手を添わせ、大通りの方向へ向かう。
「……猿、犬、鬼、ときたら、烏じゃなくて雉じゃないのか?」
「そうだよね。やむを得ない事情があったとか?」
「どんな事情だ、どんな」
それか鳥と聞いて間違えちゃったとかと言い、そうだとしたら、おちょこちょいだねと続け笑うリュカ。オリヴィエはそんなおっちょこちょいがいて溜まるかと小さく溜息を零した。
「吉備団子では無く、チョコレートか。しかも、貰うのではなく与える方とはな」
「病院送りにされるちょこれーとってどんな味なんだろうね?」
依頼を受け、現場に向かっていた御神 恭也(aa0127)と伊邪那美(aa0127hero001)のもとに友人であるリュカより情報が入った。
「大通りね」
「あぁ、そうだな。まぁ、狙い目としては間違ってないな」
閑散とした場所で事に及ぶよりも人通りの多いところだと標的は見つけやすいだろう。特に眼鏡をかけた男という広義だとしたら、余計に。
「でも、今は人通り少ないよね」
「ニュースでも呼びかけをしてるからな。外出するとなると外せない用事があるとかだろ」
それ以外となると面白半分だろうが、全くもって面白いことは一つもないけどなと溜息を零す。
「あ、また、メール」
「……カトレヤさんや皆月中心に芋づる式に叩くみたいだな」
「じゃあ、若葉ちゃん達と合流したほうがいいかな」
「そうだな」
届いたメールを確認した恭也は返信のメールと同時に合流したい旨を書き、送る。暫くすると大通りのこのあたりにいるからというメールが若葉より届いた。
「猿、犬……烏」
「雉じゃないんだ」
「雉じゃないみたい……まぁどうでも良いか」
「どうでも良いね、全部燃やせば問題ないのだから」
赤い瞳に黒い髪の少女アリス(aa1651)と黒い瞳に赤い髪の少女Alice(aa1651hero001)のまるで鏡のような二人は一つの携帯を覗き込み、そう呟いていた。
「どうする? 合流する?」
「目撃情報が来たらそちらに動こう。そっちの方が、動きやすい」
「うん、そうしようか」
「そうしよう」
合流しているやこういう作戦でというメールが届き、アリスが尋ねれば、Aliceはそう答える。そして、見つけた場所にそのまま向かうとメールを送り、二人はどこにいるかな、どこにいるだろと従魔たちを探し、歩き始めた。
「自分が眼鏡を掛ければすぐに来てくれそうだ」
「自虐乙です! まぁ、そういう事ですね」
丸眼鏡をかけ、さぁ、どこからでも来るがいいと言う愛宕 敏成(aa3167hero001)にきっぱりとそういう須河 真里亞(aa3167)。ただ、敏成からしたら、自虐ではなかったので気まずそうに真里亞から目を背けた。それに気づいた真里亞は、もしかして本気で言っていたのですかと驚く。
「いや、今は似合ってないかもしれないが、そのうち似合うようになるさ」
「そうなればいいですね。まぁ、なったとしても遠い未来でしょうけど」
「……どうしてそういうこと言うんだ」
はぁあと大きな溜息を零す敏成にそれより早く囮として役目を果たしてくださいと言われ、やれやれと道に立つ。真里亞はその隣に立ち、周りを観察した。
「ん? なんかやけにトレンチコートの似合うドラゴンがいるんだが」
「もしかして、エージェントでしょうか?」
「あのドラゴンはどうやって動いているんだ?」
依頼よりもそっちが気になり始めるんだがと思っているとドラゴンもといどらごん(aa3141hero001)は自身よりも小さな少女ギシャ(aa3141)と一緒に物陰に隠れた。そして、彼女たちの携帯に、こんにちは、ギシャです! と電話が入る。
「こんにちは、あなたも桃太郎もどきの従魔討伐?」
『はい、そうです!』
『物陰から君たちを見させてもらう』
「ふむ、つまり、自分が囮というわけですな」
「トシナリ、眼鏡をかけたからにはそういうつもりだったんじゃないんですか?」
「いや、全く考えてなかった」
キリッとそう言い切った敏成に真里亞はがくりと肩を落とす。それに電話口から、ギシャじゃ、不安だと思いますけど、頑張るから、と意気込みが聞こえてきた。
「え、チョコレート無料配布中ってこと?」
「どう説明を解釈したらそうなるんだよ! ほら行くぞ!」
「ホワイトチョコも美味しいよねー」
依頼文を読み上げた玖渚 湊(aa3000)にノイル(aa3000hero001)が嬉しそうに笑みを浮かべる。それに湊はどういうチョコかなとチョコに想像を膨らませるノイルを腕を取って、歩く。
「とりあえず、一般人が通らないようにした方がいいよな」
届く情報を整理しながら、そう呟く湊の隣ではノイルがまだチョコについて語っている。
「お前も少しは考えろ」
「チョコについて考えてたけど?」
「そうじゃない! 出来るだけ一般人を巻き込まない方法を考えろって言ってるんだ」
「あ、じゃあ、刑事ドラマでやっている黄色いテープとか」
「そんなの大通り張るわけにはいかないだろ! あ、でも、そういう手もあるのか」
どんな手と聞くノイルに湊は、カラーコーンと可能なら紙とペンをどこかから借りてきてくれと告げ、とりあえずは自分たちがいるこのあたりから注意を呼びかけるコーンを置いておけば、と思考を巡らせる。暫くした後、コーンを借りてきたノイルに指示をして、道にコーンを並べる。そこに『ここより先、従魔出現につき、立ち入り禁止』と書いた紙を貼りつけて。
「――要するに何やら禍々しい物質を持った従魔を殲滅すれば良いのか?」
「そんなところだが、そいつを溜めこんだ場所探しを買って出た連中の邪魔はするなよ」
雁間 恭一(aa1168)は携帯を操作し、依頼や情報をマリオン(aa1168hero001)に伝える。それにマリオンは、配達人がいなくなれば、ゴミでしかないだろうと言えば、恭一はお前みたいなガキが手を出したら大変だろ、と溜息混じり零す。
「……」
「とりあえず、大体の連中は大通りに集合している見てぇだな」
「兎にも角にも余たちは従魔を片付ければいいのだろう。楽勝だな」
ふふんと笑みを浮かべるマリオン。恭一はそれを一瞥し、自分たちは大通りを少し外れたところを捜索する旨を伝え、マリオンと共に従魔探しを始めた。
「バンドやろうぜ! なのです。ふふ、ツバキに似てますかね?」
「お、似てる似てる! あ、これが終わったら、椿の前で披露したら?」
「……大丈夫ですかね? 流石に本人の前というのは」
「大丈夫だって」
紫 征四郎(aa0076)はガルー・A・A(aa0076hero001)と共鳴した上で眼鏡をかけ、椿と同じ茶色のウィッグを被って、ポーズを決める。それにパチパチと拍手するのはラドシアスと共鳴をし、眼鏡をかけた若葉だった。そんな征四郎の中で、征四郎がやりづらいんだったら俺がやってやるぞとどこかわくわくとしたガルーの声が聞こえたが、彼女はそれを外に聞こえていないことをいいことに黙殺した。
そして、そんな二人のもとにカトレヤと恭也が合流を果たし、動き始めた。
●愛のダークマターを一口
全員が現場に到着し、合流したり、別行動をとったりとしている中、康広はティアラと共鳴し、鷹を飛ばしていた。どこから来てもいいようにほぼ中央に立ち、敵の動きを誘う。周りはティアラに観察してもらい、康広は鷹に意識を乗せる。
『康広!』
「キィッ!!」
「食わされるかってんだ!」
襲い掛かってきた猿の手を素早く掴み、捕獲する。しかし、猿もそのまま大人しく捕獲されるわけもなく、腕を持っているのをいいことにそこの起点にして振り子のように体を揺すり、勢いをつけて、康広の胸を蹴り飛ばした。
「ぐっ!」
攻撃の勢いに押され、手を離せば、猿はしめたとばかりにチョコを放置して、別の標的のもとへと走り去った。康広は苦しい呼吸のまま、鷹で見たある程度の従魔の所在地と先程の猿の情報をメールで一斉送信する。特に先程の猿はやはりというべきか、傷のある猿だった。
「あの、くそ猿ぜってー、許さねぇ」
『まぁ、油断した康広も悪いと思うわ』
「わーかってるっての。とりあえず、俺たちはあの猿を追うってことで」
『それが妥当ね』
猿を追う旨も送信し、走り出した。
「椿のところに襲撃があったみたいだ」
「つまり、動き始めたということですね」
若葉と征四郎は送られてきたメールを確認し、頷き、物陰に隠れているカトレヤと恭也に合図を送る。それに答えるようにきらりと反射が返ってきた。
「こっちには傷のない猿と犬が来てるみたいだよ」
「私たちのほうに真っ直ぐ来てくれたらいいのですが」
「そこは祈るしかないね」
声を押え、従魔たちが姿を現すのを静かに待つ。そして、現れた猿は真っ直ぐに若葉に向かい、犬は二人に向かわず近くのお店から出てきた眼鏡の少年を連れた親子連れに向かっていた。
「させません!」
猿に向けて銃声が響く中、征四郎は犬と親子の間に走りこむ。そして、インサニアを幻想蝶の中より抜き、刃を犬に向ける形に構えた。それに勢いを殺しきれない犬は、そのまま刃に突撃する。買い物を終えて楽しそうだった親子からは悲鳴が上がった。
――一閃。犬は真っ二つになり、血を迸るのではなく、その姿を砂に変え、征四郎たちに降りかかった。
「キキッ」
犬の壮絶な死に様の一方で猿は腕を撃たれ、若葉に食わせようとしたチョコを落としていた。それを若葉が踏み砕く。猿はちらりと犬だったものを一瞥し、すぐさま回れ右をして、逃げ出した。
「紫!」
「私は大丈夫です! ミナツキたちは追いかけてください」
「わかった、こっちは任せた」
「はい」
猿の後を追うように走り出したカトレヤに若葉は問うように征四郎の名を呼んだ。それに征四郎は作戦のままにと猿の逃げた方向を指差し、それにライフルを持った恭也が彼の近くの親子を一瞥し、そう口にする。それに征四郎はコクリと頷いた。
「お怪我はありませんか?」
「え、えぇ、大丈夫です」
「君も大丈夫ですか?」
親子に降りかかった砂を払いながら、そう尋ねれば子供も母親と同じように大丈夫である旨を頷いて返した。
「まだ従魔がいるかと思いますので、子供さんの眼鏡を外して帰られるか、もう少しだけお店の方で待機していただけたらと」
「そ、そうですね。ありがとうございます」
母親は子供の名を呼び、先程出てきたばかりの店に戻っていった。征四郎はふぅと息を吐き、自分にも降りかかった砂を払い落す。
「征四郎、しゃがめ!」
その声にビクリと体がするものの目の前に迫ってくるそれを見て瞬時に理解し、しゃがむ。そして、そこに再び銃声が響いた。バサッと再び砂が降る感覚に襲われ、それが落ち着くと目の前にはリュカと共鳴したオリヴィエがスナイパーライフルを片手に立っていた。
「オリヴィエ、リュカ、ありがとうございます」
「大丈夫かと聞きたいが、ある意味大丈夫そうじゃないな」
「まさか、砂になるとは思いませんでした。でも、血よりはマシですよ」
払えば、何とかなりますしと征四郎が言えば、オリヴィエも、まぁ、それもそうだなと彼の上に積もった砂を払い落した。
「ねぇ、Alice」
「なに、アリス」
「もしかして、あれかな」
「あれかも」
自分の体よりも大きなチョコを持ってとことこ歩く小鬼の姿を見つけたアリスとAlice。彼女たちは共鳴し、一人のアリスになった。そして、取り出した雷上動をキリキリと小鬼に狙いをつけ、弦を引く。
ビュンと放たれた矢は一直線に小鬼のもとへと向かう。
「あ」
ただ、こけっと小鬼がこけたことにより、矢は小鬼の一歩先に突き刺さった。それにギギギと小鬼がアリスの方を向く。小鬼はすくっと立ち上がるとチョコを置いて走り出した。
「逃がさない」
アリスはチョコをサッと拾うと小鬼を追いかける。
『アリス、少し興味が湧いたのだけど……従魔に食べさせてみたいかな』
聞こえた言葉に彼女は面白そうと呟き、もう一度雷上動を構えた。
「む、他のところに従魔は出現したようだな」
「そうみたいですね。こっちには――」
携帯を覗き込み、来ないですねと呟いていると目の前にジリジリと近寄ってきたらしい小鬼の姿が。ぱっちりとした目と丸眼鏡の奥の目がバチリとあう。
「これは、自分にダークマターは食べるさせる気かな?」
『ちょっと面白いかもしれないけどダメです。トシナリが食べるって事はあたしが食べるって事ですから、駄目です』
慌てて共鳴した敏成たちにジリジリと気づいているとわかっていながら小鬼が近づいてくる。それに食べてみようかという敏成に中から真里亞が声を上げた。真っ直ぐ近づいてくる小鬼の後ろにはスキルを発動させ、潜伏するギシャの姿。その手にはしっかりと獲物を構えており、いつでも飛びかかれるようだ。
「勿論、自分は食べませんがね」
グルルッと獣特有の鳴き声を上げてみれば、ぴたりと一時停止する小鬼。それに敏成はちらりとギシャを見て、今だと合図をする。それにギシャはこくりと頷き、小鬼飛びかかった。
「その毛皮いただきます!」
「え、まさかの毛皮狙い!?」
「あ、でも、これ、毛皮ない」
背後から苦無を用いて、攻撃をしたギシャ。そして、ぱたりと倒れた小鬼の姿を見て、毛皮がないならどうすればいいんだろうと首を傾げる。その間にも小鬼は砂になり、崩れた。
「なんと、砂。一体、この従魔は何でできていたんだ?」
敏成はしゃがみ、従魔の砂を拾い上げるがそれはサラサラの砂と言うだけで特にこれといった特徴のないものだった。
「猿、鳥……犬はどこだ? 全種類血祭りに上げなければ収まりが付かんぞ」
インサニアをぶんぶんと振り回しながら歩くマリオンに恭一は終わったらすぐにでもリンクを終了させねぇとなと考えていた。そんな彼の前をチョコを持った犬が歩く。
「見つけたぞ、従魔め」
そう声をかけられ、犬はマリオンを向き、戦闘態勢を取る。その姿にマリオンは笑みを浮かべた。
「いい度胸だ。余をがっかりさせてくれるなよ」
犬はチョコを端に吐き捨て、マリオンから間合いを取った。それに応えるようにマリオンもインサニアを構え、攻撃のタイミングを見る。
マリオンの攻撃をひらりと犬はかわし、そのかわす勢いでマリオンへ攻撃をする。しかし、犬の攻撃力は低いのか、彼に大したダメージを与えることができない。
「ふん、この程度なのか」
もう少し出来るやつかと期待していたのだがと口にするも犬にはその言葉は理解でいないのだろう、タイミングを見ては攻撃を繰り返していた。その単調な動きに段々とマリオンは慣れてくる。
「単調過ぎだ」
もう少し複雑に攻めて来いとマリオンはインサニアを振り下ろせば、偶々そこに避けた犬はその体を砂と散らした。
「引き延ばした癖にやけにあっさりしたものだな」
残念だと呟くマリオン。それに恭一は一応、他の連中に連絡しておけよとマリオンに伝えた。
「大分、数は減っているみたいだな」
『え、もしかして、チョコもらえないの?』
「最初っから、チョコがもらえるなんて言ってない」
湊はノイルと共鳴し、康広の連絡であった鷹で目撃したという地点で姿を隠していた。
「カァッ」
チョコを持った烏は木に止まると、チョコを横に置き、周りを見渡す。ただ、そこは湊とノイルが声掛けをしたおかげで人はいない。湊はきょろきょろと烏が見渡しているうちにとアンチマテリアルライフルを構えた。
銃声が響く。狙ったチョコに見事に命中し、地面に落下した。それに驚いた烏は飛び上がり、忙しなくあたりを見渡す。
次に烏をと狙いを澄ませたそこに猿が走りこんでくる。更にその奥には康広の姿も。康広はちらりと宙に舞い上がった烏を目に入れる。しかし、すぐに目の前をいく猿に目を向けた。ただ、走り疲れたのか康広は立ち止まると幻想蝶から回収したチョコを取り出すと猿に向かって投げた。
「喰らえ!」
ただ、彼はノーコンなようで猿に投げたはずのチョコは何故か烏へと向かった。そして、突然のチョコに驚いた烏がよろめいたところにすかさず湊が銃弾を撃ちこむ。銃弾は烏を貫通し、烏は砂となって猿の上に落下した。康広は猿がウキィと驚きの声を上げたその瞬間、かつてその腕に傷をつけたように一閃――。
「よっしゃあ!」
以前のように浅いこともなく、ばっちりと仕留め、康広はガッツポーズをした。そして、すぐに銃弾が飛んできたほうに向かって、ぺこりと一礼をする。
『タイミングが良かったね』
ノイルはそう呟いた。それに湊は、次を探すぞと歩きだした。ただ、本当にタイミングと丁度従魔がいた位置が奇跡的だった。きっと従魔たちですら、それは予測できるものではなかっただろう。
「どうやら、殆ど、従魔は退治したようだな」
「……じゃあ、目の前のが最後か」
若葉が送られてくるメールを纏め、カトレヤと恭也に伝える。それにカトレヤと恭也は目の前を走る猿を見ながら、言葉を零した。
「追跡って何だか刑事みたいでわくわくするね!」
『喋ったら見つかるから、静かに……』
そこに合流したリュカ。危険がないためなのか主導権はリュカに渡している。そして、征四郎もそこに加わった。
「あ、小鬼」
小鬼の姿を確認すると恭也は再びスナイパーライフルを構え、小鬼の持つチョコに照準を当てる。その隣ではカトレヤが火之迦具鎚を構え、猿を攻撃するタイミングを探る。そして、手渡すその瞬間、チョコに銃弾が、猿には鎚が振り落された。
「うーん、いくら砂になるからって、これはちょっと見たくなかったかも」
それを傍から見ていた若葉は苦笑いを浮かべながら、そう呟く。潰された猿の砂は鎚の左右から噴き出し、砂が血だったらグロテスクだっただろうことを容易に想像させた。そして、その光景を見た小鬼は慌てて逃下出す。それをまた全員で追いかけた。
大通りから離れ、細い道などを通り、辿り着いた先は小さな空き地だった。その茂みに入りこんだ小鬼。
ごそごそ揺れるそこからポンポンと彼らに向かってチョコとが投げられた。
「逃げられないと思って自棄になったか」
「それが妥当だろうな」
恭也の言葉にカトレヤが頷く。その隣で若葉が投げられたチョコを拾っていた。そして、茂みから顔を覗かせ、大きな口を開いて威嚇してきた小鬼の口にそれを投げ込んだ。
「「「あ」」」
その瞬間、小鬼はそれをペッと吐き出すと他のチョコを回収しようと動き始め、若葉はすかさず小鬼に雷撃を落とした。
「やっぱり、椿への報復だったのかな」
『ほぼ、間違いなくな』
●万事解決!?
己が作った従魔たちが退治される様を見ていた女は冷たい目を貯蓄場に集合し、ワイワイするエージェントたちに向けていた。
「あやつらでは敵わんようだな。もっと強い従魔が必要だ」
考えるように呟いた女は次はこのようにはいかぬぞとエージェントたちを睨み付け、その場から姿を消した。
「バンドやろうぜ! どうですか? 似てますか」
無事にことを終えたところに未だ共鳴姿のままだった康広の前で物真似を披露してみせた。それにまさか物真似させるとは思わなかった康広は目を瞬かせる。隣でティアラがそっくりよと太鼓判を押していた。
そんな一方で、マリオンはカトレヤと紅花に声をかけていた。その様子を恭一は苦笑いを浮かべ眺める。
「さて、このチョコはどうしますか?」
「予想以上のダークマターだな。……再生は難しいな」
「再生は難しいね」
「難しいだろうね」
茂みからチョコを取り出し積み上げていくノイル。それに湊が全員に尋ねれば、チョコを一つ手に取り、眺めた恭也がそう言うとアリスとAliceもそれに同意する。食べた人を病院送りにするレベルだから、仕方ないと若葉たちも頷いた。
「……湊、これ不味い」
「なんで、食べてんだよ!」
これに戻したらいいわとティアラがエチケット袋を渡す。
「てか、ノイルさんも不味いってだけで病院に運ばれるほどじゃないよな」
「もしかして、英雄だからか?」
「……ギシャも食べてみたい!」
「いや、やめたほうがいいですよ。彼が英雄であるからかもしれませんし」
ノイルが不味いという評価に若葉が首を傾げる。それにカトレヤが理由を挙げてみる。そして、それに興味を持ったギシャが手を挙げれば、真里亞はやんわりとそれをとどめる。
「ただ、投げたら敵は怯むんで投擲にはいいかもしれないですね」
一個もらっとくかなと言う康広に若葉は食べさせられそうだったのに怖いもの知らずだなと笑いつつも、俺も持っておこうと一つ手に取った。何かに役立つかも、持ってると面白いかもと一つずつ手に取り、残りは分析に回す。
その分析が返ってきたのは後日のことだった。そして、彼らがあのチョコが通常の食べ物であることを知るのは別の話である。