本部

【甘想】連動シナリオ

【甘想】どうせならみんなで憂さ晴らしを

岩岡志摩

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
6人 / 0~8人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2016/02/07 17:24

掲示板

オープニング


 雪解けの季節。世界的、というより主に極東の島国でのみ、需要が激増する菓子がある。
 平和だったころに比べ、輸送には危険が伴うようになったが、子供たち、恋人たちの笑顔の為に様々な人々が尽力していた。
 今も、カカオを山積みした小さなトラックが山道をゆく。それを岩場から見下ろす、怪しい影があった。
「……連中が最近、やったらこそこそ運んでるアレは、いったい何なのかしらね? 秘密兵器か何だか存じ上げませんですけど」
 愚かな神、と書いて愚神と読む。一敗地に塗れたことで人間を警戒するようになっていたグリムローゼは、何やら激しく誤解をしていた。
「善はハリー、必死こいて守ろうとする連中を蹴散らして蹂躙して踏み潰して憂さ晴らしでもしないとやってらんねー気分ですし、ちょうど良い生贄ですわね」
 パーリーは盛大な方が楽しいですし、殺し合いならなおのこと、という彼女の意向で、その「情報」は一部の愚神たちの間に広まっていった。不幸な事に、そんな残念過ぎる発想に至った彼女を誰も止めてはあげなかったらしい。
 本部に並ぶ依頼に、輸送中のカカオやチョコレート工場、果ては街角の手作り教室までを襲う従魔や愚神の対策願いが並ぶようになったのは、その数日後だった。
 

 そして一連の騒動は、エージェント達の活躍により、徐々に治まりつつあるようだ。
 ただ、未だに空気が読めずに暴れまわる存在達もいる。それも勘違いした愚神、つきあわされた従魔ではなく、守られる側である人間達の一部が、いまだ憂さ晴らしとばかりに暴れている。
 愚神や従魔と比べれば、鎮圧はそう難しくはない。
 ただ、愚神や従魔と比べれば、人間達のそれは、いずれも団結力が強く、士気も高く、ある意味愚神以上に狡猾で、恨みつらみを意志に宿して暴れまわるから始末が悪い。
 どう取り締まるべきかを考え、対策に追われるH.O.P.E.の中でも、この担当官に関しては、少し別の角度からの解決を考えていたようだ。
「この際ですから、いっそ憂さ晴らしをさせて、その方々にある程度満足してもらったほうがいいのではないでしょうか? 幸いなことに、その方々へのイケニエは用意できます」
 H.O.P.E.の担当官らしからぬ物騒な物言いに、周囲の人達が戸惑いの声を上げる中、担当官は機械を操作し、目の前のスクリーンに、とある場所を示す地図と廃棄された工場らしき、ボロボロな外観の建物の姿を映しだす。
「こちらの建物はチョコレートを製造する工場です。ただし、とあるヴィラン組織が運用していたものですが」
 そのヴィラン組織は、非合法な手段でカカオなど、チョコレートの素材を手に入れてこの工場でチョコレート制作をしていた。
 しかしその工場の設備は、およそ食品を取り扱うにふさわしくない廃品同然のものばかりで、汚れ、手入れの悪さに満ちており、ヴィラン組織はそうした設備やまず市場には出回らないような粗悪な材料ばかりを使い、衛生面も全く考慮しない劣悪なチョコレートを作り、公で取引されてる商品に見えるような偽装した包みで包装した上で、非合法な手段を使い、公の流通ルートに流し、利益を得ようともくろんでいた。
 その組織は先日別件でH.O.P.E.の手により全員検挙されており、現在この工場はH.O.P.E.の管理下にある。
 手を加えれば、何かの工場に再利用できるのではないかと考えていたH.O.P.E.も、修理より交換した方が安上がりなほどひどい状態の工場内設備や、廃棄以外の用途には使えないチョコレートの群れを前に、再利用を諦め、解体して更地にすることを決定した。
「その工場を解体する手間を省くという意図もございますが、迷惑な方々が不特定な場所で暴れるくらいなら、ここにその方々を集めてもらい、好きに暴れてもらったほうが、その方々の日頃の鬱憤など、不平不満を晴らせるかと考えた次第です。ええ。私がいちゃつくカップル達が、思う存分自分達のいちゃつく姿を周囲に見せる事ができるという、歪んだ文化感により生み出されたバレンタインという行事や、いちゃつくカップル達の姿を見せつけられて、イラッとして暴れたいとかそういう事ではございません」
 なにやら黒い部分を含む内容をさらりと告げた後、担当官は依頼の趣旨を伝える。
「皆様にお願いしたいのは、この工場を運営してたヴィラン組織と対立するヴィランに扮して、人の恋路やらリア充やらに対してネガティブな感情を抱く、こういった一般人の方々の安全を確保しながら破壊活動を行わせて、うまく憂さ晴らしをさせる事です。既にこの場所や建物の所有権はH.O.P.E.にありますので、どう暴れても罪に問われる事はありません。もちろん皆様が主体となって大暴れする演技をして、一般人の方々が出来ない事、例えば大型機械を一撃で破壊するなどをやってのける事で、その方々の不平不満を晴らしてスッキリさせるというのも大歓迎です。変装に必要な道具類や無線機はこちらで貸し出します」
 とはいっても、一般人達が暴れてできる行動は限られているので、破壊対象としてその工場にある廃棄用チョコレートを使って、憂さ晴らしの対象となりそうな像を多数作って用意するとの事だ。
 なお、その非リア充な方々をこの工場へ誘導し、集める役割は、対立するヴィラン組織の者達に扮したH.O.P.E.別働隊が周辺の道路封鎖や周辺住民の避難誘導の合間に引き受けるとの事だ。
「あとはそうですね。もし皆様の中で『こいつを破壊したい』というご希望がございましたら、あらかじめご申請くだされば、皆様の破壊対象となる像も作って工場内に置いておきますので、何かございましたら、どうぞ」
 なお、この工場内にあるチョコレートは食べられる代物ではなく、工場破壊後、廃材と一緒に廃棄されるので、お持ち帰りはできない事は先に申し上げておく。
 こうして未だに空気が読めずに暴れまわる人間達が、H.O.P.E.の管理下の下で大騒ぎできる依頼が張り出された。

解説

●目標
 一般人達の安全を確保しながらチョコレート工場を一緒に破壊し憂さ晴らしをさせる
 今回は以下の方法が選択可能
 1:この工場を運営していたヴィラン組織と対立するヴィランに変装し、悪役として一緒に暴れまわる。
 2:実はこの工場は既にH.O.P.E.の管理下にあり、自由に暴れていいと一般人達にネタばらしをして、H.O.P.E.のエージェントとして一緒に暴れまわる。
 3:両方やってみる。(この場合は1を選択した人たちが悪役を演じている本物のH.O.P.E.エージェントだと、周囲のH.O.P.E.別働隊も身分を明かし一般人達に向けフォローが入る)

 登場
 一般人×50程度
 人の恋路やらリア充らに対してネガティブな感情を抱く人達。ヴィランに扮したH.O.P.E.別働隊の手で、工場破壊が終わった後、返却する事を条件に、ヘルメットやプロテクター、粉塵対策用の防護マスク、木刀などを装備して、工場前にH.O.P.E.別働隊に囲まれた状態で待機中。基本的には、憂さ晴らしができるなら皆様エージェントの言う事には従う。工場破壊後はH.O.P.E.別働隊の手で解散させられる予定。
 
 像×無数
 予めH.O.P.E.の方で、廃棄用チョコレートを使って作成した破壊対象の像。一般人用には小鬼の形をしたチョコレート像や、カップル達を象徴する何かの像が用意されている。
 予め希望すれば別の像も用意可能。
 (注意:対象は、このシナリオのMSが過去担当した愚神や従魔のみ可能)

 状況
 とある街中にある廃工場。チョコレートを製造する為に必要な設備類は一通りそろっているが、いずれも廃品寸前の状態。中は結構広い。安全確保のため、乱雑に置かれた荷物類は既に撤去されており、設備とチョコレート像のみが現場各所に残っている。道路封鎖や人々の避難はH.O.P.E.別働隊の手で完了済み。皆様の変装に必要な道具類や無線機は、既に貸与済み。

リプレイ


 その日、とある地域の一角は騒然として、殺伐とした空気に満ちていた。
 憂さ晴らしのできる場所がある。そう聞かされて目の前にそびえるチョコレート工場の前に集められた、あるいは集った人間達は、この時期にチョコレートをもらえない、ネガティブな感情の持ち主たち(以下非リア充と略)ばかりだ。
 しかしそんな彼らも周囲を取り囲む、明らかにヴィランと思われるような姿の集団に戸惑いと怯えを見せている。
 暴れる為の武器や防具は貸し出してくれたが、その時やたら多くの同意書が非リア充達に提示され、彼らは内容を良く見る事無く同意の署名をした。
 この種類の群れこそ、事後の為に必要だったのだが、彼らは知る由もない。
 実は周囲を取り囲んでいるのは、ヴィランの姿に変装しているH.O.P.E.別働隊なのだが、そのような事は非リア充達に知らされておらず、今回の役者たちが非リア充達の前に現れた。
(ふふ、ヴィランの振りしながらお仕事するんだって、何だか変わってるね、面白そう!)
 オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)との共鳴で、褐色の肌に深緑の髪を得た木霊・C・リュカ(aa0068)が、学ラン姿と武器を纏い、H.O.P.E.別働隊の助けも借りて古き良き時代の『不良』姿となったオリヴィエの中で、愉しげに語りかける。
「……いつものリュカの格好より、動きやすくて落ち着く」
 それだけリュカに告げ、オリヴィエは目の前の非リア充達の前にその姿をさらす。本人にその自覚はなかったが、その姿は非リア充達に『逆らったらヤバい』と思わせるに十分だった。
 既にプロセルピナ ゲイシャ(aa1192hero001)との共鳴化を済ませ、髪を黒く、瞳を紅くしながらも、黒子頭巾でそんな特徴を隠した谷崎 祐二(aa1192)が一見金属バットに見える武器を肩に担ぎながら、非リア充達の前に現れた。
「はっはぁ! この工場を壊しに俺は来たぁ!」
 明らかに言っている事はまともではないが、高揚感に満ちたその姿に、非リア充達は青ざめる。
 続いて現れたのは、翁のような小柄な風貌の獣臓(aa1696)と、一部でいまだ人気を誇る女性使用人の装束を纏う『美少女』の外見の人物、キュキィ(aa1696hero001)の取り合わせだ。
「キュキィよ。人の醸し出す嫉妬の炎は美しいの。まさに人間そのものじゃ」
「はい、旦那様」
 本日の旦那様は輝いていらっしゃると思い、キュキィは獣臓の意味を横に置いて賛意を示すが、キュキィを女性と勘違いしている非リア充達は嫉妬の感情を獣臓に向ける。
 だが髑髏の意匠を黒の和服や杖に纏う獣臓が唇をつり上げ、にたりと非リア充達に向けて笑うと、彼らの嫉妬は怯えに変わる。
(人間観察の出来る楽しい依頼じゃな。ねたみやひがみを破壊衝動に転化して昇華させるようじゃが、どれほど人の業を見せてくれるか楽しみじゃのぅ)
 クー・ナンナ(aa0535hero001)との共鳴化も済ませ、悪の組織の中でも蜘蛛を思わせる妖艶な女幹部の装束に変装したカグヤ・アトラクア(aa0535)が興味深そうに、非リア充達を眺めていた。
 同じく悪の女幹部風の変装をしたのは、蝶埜 月世(aa1384)も同じだったが、こちらは黒蝶が人の姿に顕現したような妖しい魅力を漂わせている。
「……もしかして月世が楽しみたいのか」
 その横で、アイザック メイフィールド(aa1384hero001)が依頼内容を再度確認しながら、半分呆れの入り混じった声で月世に問いかける。
「良いの良いの! はっちゃけて大暴れして気持ちよくお帰り頂けば、取りあえずあの非リア充の人達は今期のヴァレンタインは暴れずにいてくれるものよ」
 意味ありげに月世は笑うと、アイザックは額を抑えて首を振り、己の考えを口にした。
「やはり、自分を見つめ直し何が自分に何が出来るかを問い直さねば、あの者達は前に進めない気がするが……」
「そこまで面倒見る義理はないわよ。あの人達がここに集まったのも、暴れるのもあの人達の自己責任だもの」
 寛容な月世も、そこまでお人好しではなかった。
「トシナリ。初任務はこれで良かったのかな?」
 今回が初依頼となる女性らしい和装と精悍さが調和した須河 真里亞(aa3167)は、丸眼鏡が似合いそうな男性、愛宕 敏成(aa3167hero001)と相談を重ねていた。
「従魔と最初から戦うより良いかなと思ってね」
 話を聞く限り、工場内にあるのは従魔の姿をしたチョコレートの像が多数あるとの事で、一緒に暴れる一般人達を守りながら、敵の姿をした目標を破壊する今回の活動は、今後の真里亞が挑む戦いに役立つだろうと、敏成は真里亞に説明していた。
 借用したフード付きの装束とサングラス姿を纏い、ギャング風に変装した紫 征四郎(aa0076)は、隣にいるガルー・A・A(aa0076hero001)と共に現れた。
「ヴィラン達のやることはよくわからないのです」
「とりあえず完膚なきまでに破壊すればいい、か。運動不足の解消には、なるかね」
 征四郎の言うヴィラン達というのは、目の前にあるチョコレート工場を運営していた連中の事だ。
 征四郎やガルーから見ると、資金稼ぎの為なのだろうが、やる事のスケールが小さすぎる。
 明らかに修羅場をくぐり生き延びてきた雰囲気の征四郎とガルーの組み合わせに、非リア充達はまともに眼を合わせようとしなかった。
 そして非リア充達のうち、集団行動に向いていないと判断される者達は、手早く終わらせるには統率する事が必要だとの意識から、穂村 御園(aa1362)とST-00342(aa1362hero001)の手で強制的に集められ、御園の手で『特別チーム』に編成され、特訓を受けている。
「これが憂さ晴らしの時の掛け声。『ウサー!』。やってみて」
「ウサー」
「迫力なし。全然ダメ。練習しておいて」
 御園の容赦ない駄目だしが非リア充な人達の心に突き刺さり、彼らの抱く反抗心ごと破砕していく。
 練習を続ける彼らを残し、御園は彼らに聞かれない位置まで移動すると、こんな役割は本意ではないと嘆くが、ST-00342が宥めにかかる。
「先程から見ているが。御園の容赦ない鬼教官ぶりは、演技にしては素晴らしいとST-00342は思う」
 ST-00342の言葉に御園は真っ向から反論した。
「演技じゃないもの! あいつらにこの工場壊させればいいだけだと思ってたけど、あんなに使えない連中だなんて思ってなかったし!」
 反抗する者達もいないわけではなかったが、御園の冷徹な鬼教官ぶりと苛烈な言葉の群れで彼らをねじ伏せている。
 そして統率がとれた非リア充達が、ヴィラン(実はエージェント達)達の前に整列した頃、演説が始まった。
「よくぞ集った英雄達よ。憎きリア充製造工場破壊に協力してくれて感謝するのじゃ。ここを破壊してチョコレート等にうつつを抜かす輩に目に物を見せてやるのじゃ!」
 まずはここで行うことを非リア充達へ説明するため、カグヤがこの場に集った非リア充達へ礼を述べつつ戦意を煽り、演説を引き継いだ征四郎が今回の破壊対象である、目の前の工場について説明する。
「この工場を動かす連中は、いちゃつくカップルが許せないとひがみ、金のためと称して粗悪なチョコレートを市場に流し、カップル達を害そうとしています。ふざけた話です」
 この工場を運営していたヴィラン達も、本質的にはこの場に集った非リア充達と変わらないだろうが、征四郎の演説に非リア充の人達の心に憤りが灯され、オリヴィエの中にいるリュカも、『やだせーちゃん格好いい』と讃える。
「嫉妬の炎を持つ者達よ。わしらはカップルは(女性に限り)殴らぬ。じゃがこうした愚か者どもの工場やチョコは殴ってもよいのじゃ」
 そしてその憤りの矛先を、獣臓の言葉が工場と中のチョコへと誘導し、制限する。 
「皆さんは縁の下のヴィランです。なぜならこの工場を破壊する事により、危険なチョコレートは世に出る事はなくなるからです。そう、これは社会に貢献する憂さ晴らしですよ」
 その嫉妬と憤りを正当化するような、真里亞の代わりとして語られる、文系出身らしい敏成の言葉につられ、非リア充の人達の心に誇りと闘志が宿る。
「そしてカップル達が親密に安全なチョコレートを口にする時、例え嬉しさに浮かれてあんた達に心無い言葉をぶつけても、あんた達の奮闘のことなど知らねえ奴らだ。受け流してやれ。あんた達がこれからする事は、それだけの価値があるんだ」
 そして事後の暴走を暗に抑えるオリヴィエの演説に、非リア充達が聞き入っていた。
「さあ、気合を入れるぞ。もらえないチョコなんて全部豚に喰わせてしまえ! 貴様らの武器に『ヴァレンタインは嫌いだ』という嫉妬の声を。防具に『リア充は爆発しろ!』の憤りの声を詰めろ。それらを貴様らの意思表示として、この工場の機械やチョコ像の群れにぶつけて回れ!」
 あえて普段の丁寧さをかなぐり捨てた月世の号令に、非リア充の人達は咆哮で応じた。
「「「ウサーーっ!!」」」
 この時、(主に恋愛面とかで)泣いてきた者達は、ヴィラン達(中身はH.O.P.E.エージェント達)の掲げる目的のもとに集い、(かなり不純な動機だが)結束した。


 共鳴化し、英雄の機械めいた外装を得た御園のライヴスガンセイバーの『銃斬撃』、同じくキュキィと共鳴化し、髪と肌に闇色を、目に金色を宿し、往年の姿を取り戻した獣臓の獅子の咆哮を纏う斬撃、そして共鳴化し、青年の姿へ変貌した征四郎の繰り出す大剣の一閃、共鳴化し、アイザックの鎧姿を得た月世の無骨な斧槍が工場の入口に次々と叩き込まれる。
 凄まじい大音響とともに工場の大扉は叫喚を上げて倒壊し、大人数が押し込めるほどの隙間をこじ開けた。
 その隙間目がけ、非リア充勢の采配を振るう1人、月世が無骨な斧槍を工場内に向け、大音声を張り上げた。
「今だ。工場内へ押し込め! 全員、進撃!」
 月世の指示を受け、非リア充な人達は喚声を上げ、武器をひっ掲げて工場内へとなだれこむ。
 工場中で彼らを待ち受けていたのは、小鬼の姿をしたチョコレート像の大群とチョコレートを製造する為の機械の群れだった。
 ただしいずれの機械も整備が行き届かず、潤滑油らしき液体に塗れ、清潔と言い難い状態だった。
 こんな機械で造られたチョコレートは、見てくれを変えたとしても、間違っても食べられるシロモノではない。
「け、手こずらせやがって、なのです。ここも今すぐぶっ壊してやるから覚悟しろ、なのです」
(征四郎さん。もう少し悪役っぽくなりませんか)
「これ以上どうしろというのですか!」
 内にいるガルーにそう突っ込むと、月世に負けじと征四郎も声を張り上げる。
「誰がいっぱい壊せるか、いざ尋常に勝負なのです!」
 大剣を振るい、軌道上にある複数のチョコ像を茶色の煙に変えていく征四郎と、茨を思わせる鞭を振るって非リア充達を指揮していたカグヤ、オリヴィエと内にいるリュカが、小鬼像の中にある、鞭を握る男の像に反応を示した。
『征四郎ちゃん。リュカちゃん。あの像に見覚えでもあるのかの』
 先程まで嬉々として大剣を振るっていた獣臓が周囲の人達に聞かれぬ様、無線で征四郎とリュカに問いかける。
『あの像の存在と、どこかで会った気がするのです』
 獣臓に問われ、記憶の中からその存在を掘り返そうとする征四郎に、カグヤが無線で助言する。
『とある地方の警察署内でわらわ達が戦った愚神じゃ。名はエスクロじゃったかの』
 カグヤの言葉に征四郎は思い出したと頷き、身体を動かしていたオリヴィエから意識を交代したリュカが、獣臓に無線で愚神エスクロについて解説する。
『従魔を労働力として会社に売りつけて、騒ぎを起こした末に、僕達に討たれたんだよ』
 かつて人を人と思わない黒い会社に、労働力として従魔を売る愚神がいた。
 その愚神はエスクロと名乗り、己の行動の目的を人の命(ライヴス)を金で買うためと言っていた。
 愚神エスクロは、この場にいるリュカやオリヴィエ、征四郎やガルー、カグヤとクーの手で既に討たれており、破壊対象としては申し分ないが、彼らの本命は大型機械だ。
 実はこの像を作るよう依頼したのは、月世だった。
 当初は自分がエージェントになる前、勤務していた部署の元上司像の製作をH.O.P.E.に依頼しようとしたのだが、誰が見ているかわからない場に、元上司とわかる像を置けば自分の身元がばれる恐れもあるとアイザックから助言され、法律の範疇にない愚神や従魔はともかく、実在人物の像を置くのは様々な法的問題が絡む恐れがあると月世は思い直し、姿形の近い愚神の照会とその像の製作をH.O.P.E.に依頼した結果、エスクロという愚神が近いと回答があり、エスクロ像ができたと言う経緯がある。
 その間にも、非リア充達が数人がかりで武器を振るいチョコ像への攻撃は続いている。
 共鳴化し、蒼い狼が人型になった風貌を得た後、真里亞が意識を敏成に譲る。
「よし、取り敢えずあのチョコ像を壊す!」
(思いっ切りやって良いよ! それからちゃんとチョコは上げるから!)
 敏成からチョコレートをもらった事がないことを聞かされていた真里亞は、内から敏成に容赦ない攻撃を訴える。
(あ、ありがと)
 内にいる真里亞に戸惑いながら感謝しつつも、敏成が見据えた先には、非リア充達が残した小鬼のチョコ像があり、人間離れした速度で敏成はチョコ像に肉薄し、敏成の繰り出す斬撃でチョコ像が破壊され、欠片となって宙を舞う。
(なんか不思議な感じ。チョコの欠片がスローモーションみたく飛んで行く)
 共鳴化する事で手に入れる事の出来る驚異的な能力を、真里亞は内から感じ取っていた。
 祐二の投擲したライヴスを纏ったケーキは、屹立する小鬼の形をしたチョコ像の頭部へ吸い込まれ、柔らかいはずのケーキが、硬いはずのチョコレート像を粉砕するというありえない現象を引き起こし、非リア充達の度肝を抜いた。
「超! エキサイティン!」
 祐二がガッツポーズを決めた。
 その間にも、御園率いる『特別チーム』はチョコ像の破壊活動に勤しんでいるが、時々不穏な動きを見せようとする非リア充の者の傍を、御園の『斬撃』が通過し、動きを止めた。
「あ、ごめん。チョコゴミだと思って破壊しそうになっちゃった」
 御園の言葉は謳うように軽い。あるいは、対象を人とみなしていない御園の声に、非リア充の男は震えあがる。
「忙しいときに仕事を3倍に増やすな! ちっとはこちらの私生活を考えろ!」
 身元がばれない範囲での月世の怒声と共に、月世の振るう無骨な斧槍は仮想元上司役のエスクロ像をあっけなく粉砕し、カグヤの指揮で、非リア充達の戦意は工場の機械へと向けられていく。

 ●
「これからあなた達には工場を中身ごと全て解体して貰います」
 あえて冷えた声で御園は非リア充達に破壊を命じるが、実際に巨大機械類を目の前にした『特別チーム』は攻撃をためらった。
 そこへ銃声が工場内に響き渡り、思わず非リア充達は一斉に音の方向へ顔を向ける。
「遠慮することはないよ、ここでは皆自由だ。全部壊してしまおう」
 そこには先程銃声を咆哮させたライフルを上に向けるリュカの姿と言葉があった。
 ライフルが咆哮した先には、蛍光灯と天井があり、リュカの銃撃は蛍光灯を貫通して天井のコンクリートと鉄骨を一緒くたにぶち抜いた。
 そして御園はライヴスガンセイバーを、壁際で不穏な動きを見せた非リア充に向ける。
「危ないので動かないで下さい」
 声と奇妙な形状の銃を向けられた非リア充が硬直する中、御園が引き金を引くと、『刺突』の形状をとった斬撃が次々と射出され、非リア充のすぐ近くを通過していき、やがて壁が刺突の群れに耐えきれず、非リア充の人型だけを残し、倒壊した。
「まだ『指導』が必要ですか?」
 御園の言葉に非リア充『特別チーム』は慌てて周辺機械の破壊に取り掛かるが、早速『そこのボルトは残す!』と駄目出しを受けていた。
『征四郎もういい、ちいと代われ』
 内にいるガルーに促され、征四郎は意識をガルーに譲ると、その目つきと笑みと声に、ガルーの獰猛さが加わった。
「おいおい遠慮なんかしてんじゃねぇぞ? まだ原型が残ってんぜ。てめぇらの恨みつらみはその程度か?」
(ガルーの演技は、怖くないが似合うな )
 弱点看破で効率よく破壊できる箇所を見抜き、オリヴィエは敏成達が攻撃しやすいよう攻撃箇所を説明してたオリヴィエが、内心ガルーへ感嘆の声を上げる中、体の主導権を敏成から取り戻した真里亞は率先して破壊活動に精を出す。
「この機械を、部品単位に分解!」
 真里亞の小剣が機械を打ち砕く中、ガルーの繰り出す大剣は宙を疾走し、あたかもガルーの両肩を中心に、勝手に回っているようにも見えた。
「はーはっはっは。皆壊してやんよ!」
 同じく笑いながら獣像が振るう刀身が描く軌跡は、ガルーの斬撃と共に頭上と足元の空間を削りながら周囲の機械類に襲いかかり、ガルーと獣臓の大剣は巨大生物の両顎さながらに機械たちを次々と『噛み砕く』。 
(リュカちゃんも征四郎ちゃんも頑張っておるのぉ! わしもガンガン逝くぞい)
(旦那様。意気込みに、しんにょうに折ると書く方の『逝く』を選ばれるとはお見事です。骨は拾います)
(いやキュキィよ。そこはツッコんでほしいところじゃからな!)
 己の内で間違った方向に感嘆するキュキィに、獣臓は慌ててツッコミをいれた。
 倒壊した機械がベルトコンベアを粉砕し、跳ね上がったベルトが天井を貫く光景に凍りついた非リア充達の頭上に、打ち割られたコンクリート塊2つが落下する。
 その塊の1つに横から茨めいた鞭が絡みつき、真下にいた非リア充達ではなく別方向に跳ね飛ばされ、もう片方は、駆け寄ってきた祐二の振りかぶったファラウェイが轟音と共に弾きとばし、2つの塊は衝突した壁と共に粉砕された。
「ばっかやろう! 死なないように死ぬ気で破壊しやがれ!」
「頭上は守るぞよ。心置きなく破壊活動に専念するがよい」
 祐二の豪快な打撃とカグヤの操鞭術につかの間魅了された非リア充達は、祐二の矛盾する言葉とカグヤの力ある声に奮い立ち、カグヤの指揮のもと、残る機械や建物へ武器を振るう。
(負の感情、大いに結構。対立があるからこそ、人間は深みが増すのじゃ)
 そんなカグヤの思惑とは別に、月世も最後に残った巨大機械の一つを斧槍に叩き込む。
「全く罪作りな機械だ。ラブチョコ死すべし!」
 月世の目の前にある機械は、直撃を受け文字通り粉砕した。
 その後一般人でもある非リア充達は、御園達の指示で建物の外へと避難させられ、仕上げはヴィランに扮したエージェント達の独壇場だった。
 宙に大小様々な斬撃や茨の鞭が舞い、砲声や銃から射出される斬撃が轟き、ブースターを伴う轟音や獅子の咆哮、斧槍の衝突音と共に、残る機械や建物はあっという間に爆砕され、工場や機械は、鉄骨片とコンクリート片の入り混じる堆積物を残す更地と化した。


「うーん、気持ちが良かった」
「リンカー使うと解体工事も楽だ」
 強制的に更地と化した光景を前に、共鳴を解いた真里亞と敏成は充実していた。
「よし、そなたらの協力で最早この工場は稼動出来ぬであろう。感謝するぞ。この後は可及的速やかに撤収するが、内部の物を持ち帰ると足が付くかもしれんから厳禁じゃぞ」
 獣臓の勧めで一緒に集合写真をとった後、非リア充達はH.O.P.E.別働隊の手で貸与された武器と防具を回収され、カグヤ達の指示のもと、ほぼ強制的に解散させられた。
「ところで『りあじゅーばくはつ』というのはなんですか?」
 征四郎が不思議そうな顔でガルーに問いかける。
「お前さんにはまだ早ぇんじゃねぇかな」
「征四郎に早いってどういうことなのです!?」
 だってお前さん、恋愛したことねえだろ、という声をガルーは飲みこみ、征四郎からの追及を受け流す。
『皆様の同意が必要になりますが、彼らがこの後も今期のヴァレンタインは暴れない策ならございます』
 無線から届く担当官からの謎めいた提案に、エージェント達は内容を伺うと、エージェント達の中から『面白そう』との意見が出され、彼らの承諾を得た上で担当官とH.O.P.E.は動き始めた。
 思い思いの形でに家路についた非リア充の人達だったが、この後予期せぬ形で今後の暴走を止められてしまう。
『おい。困ったな。これじゃうかつに暴れられない』
 困った、といいながらも何故か声が弾んでいる『同志』からの連絡を受け、ネットのあるアドレスに辿り着いた別の非リア充の者も、画面に示された『それ』を見て『困ったな』と口元を緩めて呟いた。
 画面には、某動画共有サイトが表示され、動画先のヴィラン(実はエージェント)達や自分達が、身元がばれないよう、ただし参加していた当人達には『自分達は確かにここにいた』事がわかるよう調整された姿が、動画の中で再生されていた。
 投稿主は獣臓が行った記念撮影の前に、肖像権など諸々の同意書に非リア充達の名を署名させていたH.O.P.E.が、別働隊の撮影した動画の諸事業を委託した業者で、こちらも本来の委託主を隠す様々な『手段』を講じてある。
 動画のタイトルは『ヴァレンタインを守る縁の下のヴィラン達』となっていた。
 再生される動画の中を『上様のおなーりー』とか『メカ女帝陛下キター』とか『黒蝶佳人の落華繽粉』とか『剣豪斬舞キタコレ』とか『蜘蛛姫様の鞭さばき最高』とか「学ランガンナーの天井貫きすげー」とか『ケーキでチョコがぁ!?』とか『狼様の成敗タイム』などなど、右から左へコメントが流れており、再生数はもうすぐ100万回に行きそうだ。
 思わぬ形で縁の下の力持ちとしてネットで称賛された非リア充な人達は、街中で見かけたカップルの片割れが『日陰のヒーローもありよね』と言う姿を、もう片方の男性が『そんな。金持ちの男の方がいいって言ってたじゃない』と肩を落とす姿を見て不憫に思い、自分達が手にした誇りを胸に秘めて、カップル達への攻撃は控えたという話だが、彼らがその姿勢で居続けるかどうかは、別の話。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命



  • Foe
    谷崎 祐二aa1192
    人間|32才|男性|回避



  • 真実を見抜く者
    穂村 御園aa1362
    機械|23才|女性|命中
  • スナイパー
    ST-00342aa1362hero001
    英雄|18才|?|ジャ
  • 正体不明の仮面ダンサー
    蝶埜 月世aa1384
    人間|28才|女性|攻撃
  • 王の導を追いし者
    アイザック メイフィールドaa1384hero001
    英雄|34才|男性|ドレ
  • エージェント
    獣臓aa1696
    人間|86才|男性|回避
  • エージェント
    キュキィaa1696hero001
    英雄|13才|?|シャド
  • 憧れの先輩
    須河 真里亞aa3167
    獣人|16才|女性|攻撃
  • 月の軌跡を探求せし者
    愛宕 敏成aa3167hero001
    英雄|47才|男性|ブレ
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