本部

その天狗、嵐と共に

東川 善通

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/01/30 15:24

掲示板

オープニング

●狐は好奇心旺盛である
 その日もいつもと変わらず、ソロ デラクルス(az0036hero001)を膝に抱きかかえ、風 寿神(az0036)はソロの耳や尻尾のモフモフ堪能していた。幸せそうな寿神の一方でソロはテレビでやっている特番『日本の水百景』を真剣に見ている。
「スー、スー」
「なんじゃ」
 興奮したようにぱんぱんと寿神の腕を叩くソロに折角堪能してたのにとそろそろと顔を上げる。それにソロは、テレビ見てと指を指し、寿神はソロの頭に顎を乗せ、テレビを見た。そこには愛媛の冬の風物詩ともいえる「肱川おろし」が映し出されている。ゴォゴォ唸るような音を立てて山から海に霧が駆け下りる様はなんとも幻想的だ。
「この中を小さい子が行くんだって」
「そりゃあ、学校があるけんなぁ」
「あのね、ボクも歩きたい! で、嵐の中、見てみたい」
 キラキラとした目でダメ? と首を傾げられ、寿神は否と答えることなどできはしなかった。

●水が生み出す芸術
 そうして、二人は連泊で愛媛に来ていた。見られる時間帯は朝ということもあり、初日は地元の人に話を伺う。話の終わりに明日は見られるだろうかと問えば、天気を見て、この天気だったら起こるかもしれないねと皆、口を揃えていた。中には船の上から見るとまるで龍が迫ってくるよう見えるよと教えてくれる人などもいた。しかし、ソロの目的はその中を歩くということなので、船上はまたの機会とし、よく映像にもある架道橋に目的地を設定をする。
「えへへ」
「楽しみじゃのぅ」
「うん! あ、もし、明後日も見られそうだったら次は船の上で見ようよ」
「そうじゃな」
 時間も空き、手を繋いで二人はぶらぶらと観光して過ごした。
 翌早朝、まだ日も昇らない時刻、寿神はソロに叩き起こされ、眠たい目を擦る。ソロは楽しみで仕方がないようで架道橋の欄干に上ったりして遊んでいた。
「ソロ、危ないけん」
「大丈夫だよ。スーは心配症だね」
 ひょいと欄干から飛び降り、寿神の前に、ほら、大丈夫でしょと笑みを浮かべる。それに、俺が怖いんじゃと言えば、大丈夫大丈夫と彼女の手を握った。
 そんなことをしていると、遠くからゴォゴォと唸るような音が響く。
「起こった!」
「みたいじゃな。風も強うなってきた」
 顔を覆うベールを飛ばされないように掴む寿神と降りてくる山を目を大きく開いて見つめるソロ。そして、やってきた霧の波はあっという間に寿神たちを飲み込む。
 バサバサと服やベールが風にはためき、それを押えることに意識がいってしまい、寿神はそれに気づくのが遅くなった。
「スー!!」
 叫ぶように呼ばれた名前にバッと顔を上げれば、人が巻きあげられる風速ではないというのにソロは宙にいた。そして、それには何かの風の力が働いているようでソロをどこかに連れ去ろうとしている。
「フーリ!!」
 ソロがいなくなってしまうと恐怖した寿神は宙にいるソロに飛びつく。ただ、その際に巻きあげているだろう風が寿神の白い肌に細い傷を作った。そして、二人の重さを苦にすることなく、風は霧の流れに逆らい、運び始める。

●天狗の風牢
 寿神とソロが運ばれたのは入り口が風に塞がれた洞穴だった。その洞穴にはランドセルを背負った子供が数人身を寄せ合っていた。
「……これは」
「ボクたちと同じように連れてこられたのかもね。それにこの入り口」
 もしかしてと寿神がソロを見れば、うんと頷いた。そして、入り口にそっと手を近づけさせれば、その手に細い傷ができる。それにソロは逃がさないための檻だねと言葉を繋げた。
「つまり、あの霧の中にいた天狗じゃな」
「だろうね。それ以外にはないかな」
 二人は風に運ばれる中、霧の中にいた影をしっかりと見ていた。しかし、それを共鳴して倒したところで、風の力がなくなり、落下の危険性もある。そういうこともあり、大人しく運ばれてみたのだが、思わぬ事実が分かったものだ。
「あ、あの、おね、お兄ちゃん? たちも連れてこられたの?」
「……なんで、言い直されたんじゃ」
「多分、スーの声が普通の女の人より低いからじゃないかな」
 子供たちの中で上なのかおずおずとツインテールの女の子が寿神たちに声をかけてきた。その中の言葉に思わず呟けば、仕方ないよとソロは苦笑いを浮かべる。しかし、すぐに女の子に笑顔を向け、そうなんですよと同意した。
「お姉ちゃんたちも連れてこられたんですよね。いつぐらいからかな?」
「あ、私は昨日から。で、あっちの隅にいる子たちは一昨日から」
 女の子が丁寧にソロに説明し、ソロはそれをうんうんと頷きながら聞く。その間に寿神は連絡が取れないかと携帯を取り出し、電波を確認した。そして、それが確認できるとH.O.P.Eへと救援要請を行う。

「肱川おろしにて、愚神と思われる天狗により誘拐が起こっている。尚、誘拐された子供たちは俺と一緒にいるので、、この携帯のGPS信号を辿ってもらえばよいじゃろう。また、愚神は天狗型を二体確認している。一人では対処できない故、至急、救援願う」

解説

●風 寿神の報告に準ずる情報
・肱川おろしに乗じて、愚神による子供の誘拐が行われている。また、この誘拐に関しては既に警察に子供の親より捜索願も出されている。ただし、この案件は愚神による犯行であることからこれをもって、警察からH.O.P.Eに委託となった。尚、今後の危険性も考え、愚神の討伐も含めるものとする。

・天狗型愚神
 恐らくデクリオ級であると思われる。姿は山伏のような格好で顔はカラスのようであり、翼を持ち、自由に空を飛べる。また、手には葉団扇を持ち、腰には刀を差している。尚、葉団扇は風を操作できる模様。数は確認できているだけで二体ほど。ただ、この二体は音もなしに意思疎通し、同タイミングで行動することもあり、一つの情報を同時に共有しているものとされる。

・風牢
 子供と寿神が閉じ込められている洞穴。入り口を風で封鎖しており、近づくと怪我をする。尚、こちらは中よりタイミングを見計らい、寿神たちが脱出を試みるとのことである。場所は肱川河口傍の山の中腹らしい。

・誘拐された子供たち
 人数は十人。食事は子供たちの弁当を分け合っているらしい。尚、ライヴスの保有量が多い子供を狙って浚っているようである。

・風 寿神&ソロ デラクルス
 NPC。動きなど指示があればプレイングに記載を。指示がなければ、子供たちを守るように動く。尚、質問には寿神とソロのどちらかが答えるが、必ず答えられるわけでもないとのこと明記しておく。

リプレイ

●神が味方をするのは……
 肱川おろしは特定の条件が揃わなければ、出会うことができない自然現象。いつ起きるかの予報も出るが、勝率は五分五分といったところ。彼らは顔合わせもかねて集まり、各々の動きや状況、肱川おろしについてなどを話し合った。そして、その自然現象に賭けることにした。
「寿神君のGPSの反応はあのあたりか」
 決行前日、スマホで寿神の位置を検討付けながら、架道橋を歩く餅 望月(aa0843)。その隣では橋の下を覗き込む翼を持つ少女百薬(aa0843hero001)。
「間違って、落ちないでよ」
「大丈夫だよ、いざとなったら飛べる気がする」
「それ、気のせいよ」
 危ないからと注意していると目の前で、高さは結構、ないようですねと橋の下を覗き込む御伽噺から出てきたかのような少女セレティア・ピグマリオン(aa1695)。それを、あぶねぇから乗り出すなと注意する一見すると不審者もとい保護者なバルトロメイ(aa1695hero001)の姿があった。
 そんな二人に歩み寄ると、二人も望月と百薬に気づいたのだろう、会釈をする。
「明日は肱川おろし、発生するでしょうか?」
「発生してもらわねぇと困るがな」
 不安そうなセレティアの言葉にガシガシと頭を掻くバルトロメイに望月たちも頷く。
「あの、それなら、地元の人が起こるかもしれないって」
 四人がいるのを見て、急いで来たのだろうか、息を整えながら、聞いてきたことを伝える龍のような少女ギシャ(aa3141)。その後ろには緑色で三等身のドラゴンもといどらごん(aa3141hero001)。
「どうやら、寿神たちが攫われた以前から車での送迎に切り替えているらしい。そんな中、子供が歩いてれば、標的になりやすいだろう」
 どらごんの言葉に確率は上がるなとバルトロメイも頷く。
「あ、そうだ、ギシャちゃん、これ、風牢で合流した時に子供たちに渡してくれるかな」
「は、はい、わかりました! あ、でも、セレティアでも」
「俺たちは風牢に到着したら、攻撃する予定だからな。放り出されりゃ、渡すこともできねぇ」
 望月は【限定】甘い魔法のクリスマスブーツをギシャにそういって預けた。ギシャは、セレティアもと言うが、それにバルトロメイがおまえにしか出来ないことだと伝えれば、重要な任務ですねとブーツを抱え込み、頷く。
「明日は、イメージプロジェクターで服装とアイテムを何とかして、という形ですね」
「そうだね。まぁ、ソロ君が普通の状態で攫われたみたいだし、子供ってわかれば、問題はないかも」
「やってみないことにはわからんがな」
 どちらにしても用心に越したことはないだろうとどらごんが言えば、それもそうだと皆頷いた。
 一方、風牢の付近では今回の標的でもある愚神の天狗を警戒しつつ、他メンバーは確認をしていた。
「丁度、風牢付近は木々がないんですね」
「そうね。今の内に射線と場所を確認しておいた方がいいわね」
 ぽっかりと空いた風牢付近。その中にうっかり入らないように注意しつつ、エステル バルヴィノヴァ(aa1165)と泥眼(aa1165hero001)は潜む場所を探す。そして、見つけた場所から、天狗が通るであろう場所に銃を向けてみる。場所を変更しつつ、確認をし、決まった場所に印をつけた。
「ふわぁ」
「ここで寝るなよ」
「わかってる」
 眠そうな目を擦り、周りの状況を確認する來燈澄 真赭(aa0646)に注意するソロと同様に狐耳と尻尾を持つ男緋褪(aa0646hero001)。
「……動物の姿がない」
「愚神の気配を感じて逃げたんじゃないのか」
「だと、いいけど」
 麓から風牢のところまで登ってきたが、動物らしき姿を見てないと呟く真赭に動物は敏感だからと言えば、その疑問が拭い切れないのだろう、どこか納得できずにいる様子だ。
「これが一番、最短ね」
 地図アプリを確認しつつ、実際に動き、そう零す水瀬 雨月(aa0801)。パートナーである英雄アムブロシア(aa0801hero001)はそんな彼女の呟きに応えることはなく、幻想蝶の中に篭っている。
「今は近くにいないのかしら」
 情報共有しているから近くにいそうだけどと警戒しつつ確認をしてみるが、その姿は発見できない。姿だけでも確認できればと、索敵をそのあとも少し行うが、その姿を見つけることはできなかった。
「にしても、天狗たぁまた、古風な愚神もいたもんだな」
「……それ、年がら年中着流しに下駄のユーイにだけは言われたくないと思うよ?」
 潜伏場所にあたりを付けた着流しの少年鹿米夕ヰ(aa0819)は麓に戻り、データを確認しつつそう呟いた。そんな呟きに一緒にデータを覗き込んでいた白髪の少女リンピア=オリエント(aa0819hero001)が苦笑いを浮かべる。
「あ、そういや、GPS連動させてねぇや」
「もう、ちゃんとしないとタイミングを計れないじゃない」
 スマホを取り出し、囮役となってくれたセレティアとギシャのGPSを地図アプリと連動させる。それにここからここまでの距離運んでくるんだねと状況を確認するリンピア。
「こういう土地柄の強い自然現象に伴って動かれると、妖怪の類なのか愚神なのかって感じだな」
 現に最初は警察しか動いていなかったのがその証拠だなと迫間 央(aa1445)が呟けば、幻想蝶の中から、愚神風情が郷土文化に勉強熱心じゃないと彼のパートナーであるマイヤ サーア(aa1445hero001)が忌々しいとばかりに言葉を返してきた。
「……全くその通りだ。しかも、厄介なことに確認ができているのが二体だ」
 もう少しいるのかもしれないという警戒は怠らないほうがいいなと己に言い聞かせる。

●全ての条件は揃った
「冷えるのぅ」
「もしかしたら、肱川おろしがあるのかもね」
 早朝の風牢の中、長身を縮こまらせ、入り口付近で一人暖を逃さないようにしている風 寿神(az0036)が小さく呟く。それに彼女同様に体を縮こまらせ、眠っている子供たちの中にいるソロ デラクルス(az0036hero001)がそう答えた。
「救援の連絡は?」
「餅サンから連絡があった。今日、動くそうじゃ」
「そっか、じゃあ、もうひと踏ん張りだ」
 望月から伝えられた作戦を子供たちを起こさないように伝えれば、ソロがもうちょっとしたら帰れるからねーと小さく声をかけていた。
 一方、架道橋ではセレティアとギシャがイメージプロジェクターを使用し、ランドセルと子供らしい服装を投影していた。
「子供をさらうのは悪いことだよ。だから子供をたすけて悪い天狗は倒すよ」
「うん、そうですね、倒しましょう」
 ギシャ頑張ると拳を握るギシャ。その幻想蝶の中から、倒すのは仲間の役割だと溜息交じりな言葉が聞こえたが、隣にいたセレティアが同調したため、それはギシャには届かなかった。
「……これはいささか、危なくねぇか」
 敵がというわけでも、味方がというわけでもなく、自分が。幼女二人の後ろを歩く厳つい外見の成人男性と言うのは、ダメな気配がするとバルトロメイは思うが、前にいる二人には通用しないだろう。もう少しだけ、距離を取った方がいいかと下がろうとしたその時、轟々と風の音が響く。
「きゃあっ!」
「くそ、前が見えねぇ」
 強風が吹くとともに周りが一瞬で霧の海になる。慣れない強風に吹き飛ばされそうになるセレティアを己の体で守るバルトロメイ。しかし、どこに敵がいるのか、霧の中では見つけることができない。ギシャは近くの欄干に掴まり、風に飛ばされないようにしている。
「あちゃー、これは追いかけれないわね」
『風牢のところに行く?』
「うん、そうしよう」
 共鳴し、天狗の後を追いかけようと橋の端でセレティアたちを見ていた望月だったが、霧により視界不良となってしまった。そのため、追跡のしようがないと風牢へと移動を開始した。
「きゃあー!」
「うぉっ!」
 ギシャが風に巻き上げられ、次にセレティアを守っていたバルトロメイがセレティアと共に風で巻き上げられる。そして、霧の海を抜ければ、赤目の天狗と青目の天狗の二体の姿がそこにはあった。
「二体だけなのでしょうか? バルトさんも簡単に巻き上げられましたけど」
「あぁ、この二体だけで動いているっぽいな」
 青天狗が風を操っているのか、赤天狗は風に囚われているギシャとセレティアを眺めている。そして、スッとバルトロメイに目を移すと首を傾げた。しかし、暫く見つめたのち、目をそらし、青天狗の近くに戻っていった。
「この霧が肱川おろしなのかしら?」
『……お前が知らないのに私が知っているわけがない』
「それもそーねぇ」
 風牢付近には霧が立ち込めていた。そんな中、共鳴をして、天狗が来るのを待つ言峰 estrela(aa0526)。漂う霧にそう疑問を零せば、キュベレー(aa0526hero001)が彼女の胸の内でそう答えた。
「ティアちゃんのGPSが移動してますね」
『しっかりと気を引き締めろよ』
「わかってます」
 スマホでセレティアのGPSの反応が徐々に風牢の方に向かってきているのを確認する御童 紗希(aa0339)。それにカイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)が注意を促す。
 そうして、風牢の上でGPSの信号は止まった。少しすると赤天狗が風牢の傍に降り立ち、刀を風牢へと向けた。それが合図のようにスゥッと風で包まれたギシャとセレティア、バルトロメイが風牢の方へ降りてくる。
「あと少し」
 ギシャを風牢に入れ、次にセレティアたちを風牢へと移動させる。セレティアとバルトロメイは横目で赤天狗の位置を確認しつつ、タイミングを見計らう。
「もうちょっとかしら」
 レーラは速射砲を上空にいる青天狗へと照準を合わせ、タイミングを見る。恐らく、タイミングとしてはバルトロメイたちが狙っているだろう赤天狗を攻撃するタイミング。意識がそちらに向かった瞬間、意識を共有していたとしても隙ができるだろう。その瞬間を狙う。ピリピリとした空気が漂い、風牢の中でも子供たちがどうしたのだろうかとざわざわしていた。
「喰らいやがれ!」
 赤天狗に近づいた瞬間、素早く共鳴を行い、幻想蝶から取り出したドラゴンスレイヤーで下から斬り上げる。まさか、攻撃されるとは思ってもいなかったのだろう入り口にいた赤天狗は驚き、風牢を閉じ、飛びずさった。とっさにガードをしたのだろう表皮を薄く斬っただけでダメージを与えられていない。その様子を見て、上にいた青天狗の意識が自然と下へと向く。
 落とされた形になった成長したセレティアの姿を借りたバルトロメイは風牢に背を向けたまま、声を張り上げた。
「助けに来た! 安心しろ!」
 その言葉を聞いた子供たちはぎゅっとソロの服を握りしめた。
「大丈夫ですよ。皆、強い人ばかりですから。もうちょっとしたら、おうちに帰れるよ」
 だから、もう少し、頑張ろうとソロが子供たちに言えば、子供たちは口を真一文字に結び、頷いた。
「敵はそちらばかりではないわよ」
 叫んだバルトロメイを警戒する天狗たちにレーラはそう呟くと引き金を引いた。それはまさしく引き金となり、一斉に上下の天狗に様々な方向から銃弾が飛ぶ。勿論、天狗も簡単に撃たれるほど馬鹿ではない。青天狗は一瞬こそ、気がそれたがすぐに持ち直し、持っている葉団扇で飛び来る弾を払い落す。天狗たちはそれぞれに警戒色を強め、目を光らせた。
 一方、風牢に入れられたギシャは前日に望月から預かったクリスマスブーツをソロへと渡していた。それを受け取ったソロは子供たちに中に入っているお菓子を渡していく。お腹が空いていた子供たちはそれを無我夢中で頬張った。
「大分、腹が減っておったようじゃ」
 俺も持っていた食べ物もやったんじゃがと苦笑を浮かべた寿神。それにギシャは寿神さんは大丈夫なのですか? と尋ねた。これから、脱出などの体力を使うことがあるがとまでは口に出さなかったが、寿神は理解できたようで、問題ないと笑みを浮かべ、視線を外へと移した。
 別の任務での負傷もあり、紗希は積極的に打って出ることはなかった。しかし、トップギアで、力を溜め、相手の出方を見つめる。そんな矢先、隣にズザーッと赤天狗の刀を受けていたバルトロメイが弾き飛ばされてきた。弾き飛ばされたといえど、力で押し負けた結果であり、しっかりと体勢は維持していた。
「バルトさん」
「おぅ、いっちょ、やるか」
 敵をしっかりと見据えたまま彼に声をかければ、彼もまた先程まで相手していた赤天狗を見据えつつ言葉を返す。二人は視線を一度交わしたのを合図に怒涛乱舞を発動させた。トップギアで力を溜めていたこともあり、紗希の一撃は非常に重たいものになっている。
「避けても大丈夫だよ。ワタシが当てるから」
 青天狗が避けるであろう方向を狙い、避けると同時に望月が銃弾を撃ち込む。外れれば、彼女とは別の方向から銃弾が青天狗を狙う。
「何重にでも射線を張っておけば、逃さないでしょう」
 霧で見にくくても射線は昨日確認してましたからと口に笑みを浮かべるエステル。逃げ道をなくすかのように銃での攻撃が頭に来たのか、青天狗は葉団扇で風を集め始めた。それに攻撃が来ると望月とエステル、紗希はガードを構える。風が霧を集め、視界が明瞭になっていく。
「情報共有しているとはいえ、この程度か」
 潜伏に鷹の目を使用し、状況を見つめていた央は視界が明瞭になったことに乗じて、地上で真赭、雨月、バルトロメイの相手をしていた赤天狗の背後を捉える。予期もせぬ奇襲に避けきれなかった赤天狗の翼がぼとりと地面に落ちた。
「これでおまえの空の逃げ道はなくなったわけだ」
 孤月を構え、赤天狗の攻撃に備える。
「私たちの攻撃がそれだけだと思わない欲しいわね」
 攻撃を仕掛けようと刀から葉団扇に持ち替えた赤天狗に雨月はそう言うと杖を構え、リーサルダークを放つ。呪力の闇は天狗を覆った。しかし、赤天狗はその身にダメージを喰らいつつもしっかりと雨月たちをねめつけていた。
 そんな上空では風が集まり、木々たちが激しく揺れていた。そして、青天狗はそれを地面へと叩きつける。その瞬間、周りには鋭い刃となった強風が吹き荒れる。
「ゴーストウィンド!」
 範囲に強風域を指定し、逆回転の風を刃にぶつけた。ぶつかり合った風はパンと破裂音を放ち、一時、風がその場から消え失せる。
『なんとか、相殺できたみたいだね』
「成功してよかったよ」
 リンピアの言葉に夕ヰもなんとかなと同意する。一方、天狗たちはまさか自分たちの風が相殺されるとは思っていなかったらしく、目を瞬かせたが、ホッとしている今を攻撃の機と捉え、赤天狗が風を巻き起こす。
「そうはさせたくないのよね!」
 潜伏してたのが一人とは誰も言ってないし、と付け加えながら、真赭は赤天狗の腕を狙い攻撃をする。腕が狙われていることに気づいた赤天狗は風を散らし、反対の腕でガードをした。
「まぁ、攻撃を中断させれたので良しとしようか」
「全くだ。もう一辺、デカイのが来られても困るしな」
 相手はこっちにもいるからなとバルトロメイはドラゴンスレイヤーで空を斬る。紗希もその隣でライオンハートを構えるがぼそりとおっぱいミサイルと呟いた。その言葉にちらりと紗希に視線をやれば、グッと一瞬サムズアップをして見せる。その姿は紗希の姿であっても、どこかカイを彷彿させた。
「……やってやろうじゃねぇかよ」
 ランドセルを背負った少女の姿でさらにはおっぱいミサイルをやらなければならないということに、半分やけくそにバルトロメイはなっていた。やるからには命中させるからなと目で訴えれば、援護は任せろとばかりにライオンハートを構え直す紗希。バルトロメイはドラゴンスレイヤーを一時仕舞い込む。その姿に武器を捨てたと思った赤天狗は彼に攻撃の照準を当てた。
 赤、青の天狗を紗希たちが相手している中、レーラは意識外に放り捨てられた風牢の入り口に立っていた。
「はあい? お元気かしら?」
 そういって、覗き込めば、苦笑いを浮かべた寿神が少しはと答えた。
「チャンスは今だと思うの」
「うん、そうだとワタシも思う。寿神君、いける?」
「問題はない」
 ライフルを天狗に合わせたままそっと風牢に下がってきた望月もレーラの言葉に賛同し、寿神もそれに頷く。そして、ソロと共鳴し、彼女に狐耳と尻尾が出現する。
「タイミングはどうする?」
 どこか表情が柔らかくなった寿神にそれがソロであることを二人はなんとなく、理解した。
「内からだけじゃ、破れないかもしれないから、私が外から攻撃をかけるわ」
「りょーかい」
 ソロはないよりはマシだからと言って、子供たちにベールを被せた。そして、ギシャに衝撃で石などが落ちてくるかもしれないから可能な限り、排除してとお願いをし、ネモフィラを構える。
「いっせーの、せ、でいい」
「大丈夫よ」
 レーラと少し打ち合わせをし、ソロの掛け声で入り口を塞ぐ風を攻撃した。ブワッと内と外に風が吹き付ける。子供たちはきゃーと声を上げ、ギシャがそんな子供たちに大丈夫だからと声をかけた。
「もう一回行きましょ」
「うん」
 今度はレーラの掛け声で攻撃を放つ。しかし、それでも破れなかった。やはり、天狗がいるから解けないのかとレーラは思案するが、ソロがもう一回と声をかけてきたので、それを打ち切った。
「何度でもやろう。解けないなんてきっとないから」
「そうね。やりましょう」
 それから、何度か攻撃を繰り返すと、一際強い風が内と外に吹いた。ソロが恐る恐る風があったところに手を伸ばせば、風が手を傷つけることはない。
「やったー!」
「気づかれるわ」
「あは、ごめんなさい」
 てへっと笑みを浮かべ、ソロは注意したレーラに頭を下げる。そして、風牢が解けたのに気づいた真赭が戦闘を抜けてきた。
「天狗たちはセレティアさんたちを相手するので手一杯みたいよ」
 様子はうちが鷹の目で見てるからと真赭は告げる。それにソロはありがとうとお礼を告げ、洞穴の中にいる子供たちとギシャに声をかけた。
「ギシャサン、怪我とかない?」
「大丈夫だ。共鳴もしているし、問題はない」
 子供たちの上に散らばる細かい石を払いのけ、ギシャは出口に誘導する。
「えっと、こっち?」
「うん、そっち。そのまままっすぐ行けば、川岸に出るわ」
「りょーかい」
 逃げ道を疑問符で指させば、望月が説明する。それにソロは大きく頷いた。そして、低学年の子供二人、両脇に抱え、背に一人捕まってもらった。
「戦いはできないから、援護してもらえると嬉しいな」
「任せろ。ギシャの役割は救出だからな」
「他は大丈夫そう?」
 レーラの質問に高学年の子が小さな子を背負い、大丈夫だと告げる。
「あ、天狗がこっちに気づいた」
「ここはワタシたちが食い止めるから、早く行って」
 真赭の言葉に素早く望月が反応し、気づいた赤天狗に銃弾を撃ち、自分に意識を向けさせる。真赭も獅子王を構え、目で早く行ってと訴えた。
「ほら、皆走るよ。川まで、競争だよ」
 ばらばらと走り出した小学生六人。そのあとをソロは追いかけ、レーラとギシャは他の愚神や従魔が来ても対応できるように意識を配る。
「喰らえ! ロリ天狗め!」
 装備したPAD型攻性エネルギー射出装置からエネルギー弾を風牢に意識が向いた赤天狗に向かって放つ。
「グァッ!」
 見事に命中したそれにバルトロメイは渾身のガッツポーズを決める。そして、エネルギーを放出したことにより、萎むセレティアの胸に赤天狗を相手していた女性陣はそっと自分の胸に目を向けた。
 一方で青天狗は雨月の魔砲銃で地面に落とされていた。
「どうやら、おまえたち二体だけのようだな」
 戦闘しつつも、鷹の目で周囲の警戒を怠らなかった央はそう言い、そうと決まれば、と孤月を向ける。
「赤い方はやられちまったみたいだぜ」
 魔導書を片手に不敵な笑みを浮かべる夕ヰ。彼の周りには黒い霧で作られた狼たちが今か今かと青天狗を見つめている。
「噛み殺ろせ、猟兵(イェーガー)!!」
 その言葉に、狼は牙をむき出しに青天狗に襲い掛かる。しかし、赤天狗のように大きなダメージを喰らうことのなかった青天狗は辛うじてそれらを避けきってみせた。そこに央の攻撃が加わり、よろける。
「ブルームフレア!」
 その声と共に青天狗は燃え上がった。声にならない声は轟く火炎に飲まれ、消えていった。
「これで、終わったわね」
 杖をしまい、そういった雨月に赤天狗の死体を確認していたバルトロメイたちも同意した。

●天狗退治のご褒美
 山を下りた子供たちはすぐに病院へと搬送された。寿神もと言われたのだが、特に問題がなかったので、寿神はそれを辞退した。
 また、天狗との戦いで負傷したものたちは望月やエステルによって、軽く治療が施される。ただ、やはり疲れは残っているということもあり、もう一日、彼らは愛媛に滞在することになった。
「みっ!」
「ふわふわ」
 もふもふと音のしそうなソロの尻尾をギシャが触れていた。急に触れられたこともあり、耳も尻尾もピンと立ったが、少しすると体の緊張は取れる。しかし目はどうしようと右往左往していた。
「風さん、よければ、お名前の読みなど教えてもらえる?」
「あぁ、構わんよ。姓が風(フォン)、名は瑞(ズイ)で字が寿神(スシェン)じゃ。名は殆ど使っておらんが」
 今の中国では字自体使ってはいないが、俺がいたところでは未だに風習として残っていてのぅとレーラに説明する。そんなところにギシャから解放されたソロが逃げ込んできた。
「……えっと、レーラサンでええか? フーリに何か?」
 他の人が呼んでおったが、大丈夫じゃ不安げにレーラの名前を聞きつつ、ずっとソロの揺れる尻尾を見つめているレーラに質問をする。
「獣人の英雄ってあまり会ったことないのよねー」
 もしよかったら、触らせてもらえないかしらとソロに尋ねるレーラ。それにソロはおずおずとどうぞと尻尾を差し出した。
「ふわふわね。手入れ大変でしょ」
「これね、スーがやってくれるんですよ」
 だからね、いつもふわふわなのと先程のおずおずとした雰囲気はどこへやら、ふふふと嬉しそうに笑う。そんなソロの耳の形を見て、自分の被っているニット帽をソロに被せてみたりする。そんなソロとレーラから離れたところからキュベレーはジッとソロを見つめていた。それに気づいたレーラは味方だからと彼女に釘をさす。どういうことかわからないソロは首を傾げていたが。
「言ったら、うちも触らせてもらえるかな」
 ふわふわと揺れるソロの尻尾を見つめ、真赭がそう零せば、それを見ていた緋腿は言ってみればいいんじゃないかとソロと似た尻尾を揺らしながら告げる。
「ソロくんの方が感情を抑えるの上手そうね」
「!?」
 自分でコントロールしているらしいソロはふりふりと三本の尻尾を動かしている。それに気づいた真赭がそう緋腿に告げれば、興味なさそうだったのにソロに目を向けていた。
「あ、餅サン、クリスマスブーツ、ありがとさんじゃ。あのおかげで、子供たちも気力が回復したようでの」
「役に立ったんだったら、良かった」
 ギシャから望月の持ち物だったというのを聞いた寿神は子供たちの代わりにと礼を述べに望月のもとに来ていた。
「うーん、寿神君?」
「なんじゃ?」
「男の子? 女の子?」
「一応、生物学上は女じゃろうな」
 それがどうかしたけ? と首を傾げれば、望月はごめんなさいと頭を下げた。それに寿神は困惑する。望月は子供たちがお兄ちゃんと呼ぶからと男性であると思っていたと言えば、好きに呼んでもらえればいいし、性別に関しては間違われても気にしていないと彼女に伝えた。
「まぁ、訂正するのもたいぎかったんじゃ」
 そう望月と寿神が会話している間に再度ギシャにもふもふされ、他にも真赭たちにももふもふされたソロ。
「今日は念入りにピカピカに」
「はいはい」
 そうして、忙しい一日を終えた翌日、エージェントたちは漁船の上にいた。
「こんな朝っぱらになんで船になんか」
「あ、あそこにわたし、いたんですよ」
 央がやれやれと言っている中、セレティアは嬉しそうに赤い橋を指差す。
「ギシャもいたんだよ」
 ギシャもセレティアと並び、嬉しそうに赤い橋を見つめる。するとごぉごぉと風の音が聞こえてきた。
「へぇ、こいつぁ、すげぇや」
「まるで龍だね」
 海へと向かって流れてくる霧の波。朝日に照らされれば、オレンジ色へと変化をし、海上を滑る。それに全員がほぅと溜息を零す。
「昨日も出たから、出るかはわかんなかったが、今日も見事な肱川おろしだ。あんちゃんたちは運がいいのぅ」
 昨日以上に綺麗に条件が揃ったらしく、青空の下、彼らの目の前でオレンジ色の龍が優雅に山から海に降りてきていた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
  • 黒の歴史を紡ぐ者
    セレティアaa1695
  • ぴゅあパール
    ギシャaa3141

重体一覧

参加者

  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • エージェント
    言峰 estrelaaa0526
    人間|14才|女性|回避
  • 契約者
    キュベレーaa0526hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • もふもふの求道者
    來燈澄 真赭aa0646
    人間|16才|女性|攻撃
  • 罪深きモフモフ
    緋褪aa0646hero001
    英雄|24才|男性|シャド
  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801
    人間|18才|女性|生命
  • 難局を覆す者
    アムブロシアaa0801hero001
    英雄|34才|?|ソフィ
  • エージェント
    鹿米夕ヰaa0819
    人間|18才|男性|防御
  • エージェント
    リンピア=オリエントaa0819hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 悠久を探究する会相談役
    エステル バルヴィノヴァaa1165
    機械|17才|女性|防御
  • 鉄壁のブロッカー
    泥眼aa1165hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 黒の歴史を紡ぐ者
    セレティアaa1695
    人間|11才|女性|攻撃
  • 過保護な英雄
    バルトロメイaa1695hero001
    英雄|32才|男性|ドレ
  • ぴゅあパール
    ギシャaa3141
    獣人|10才|女性|命中
  • えんだーグリーン
    どらごんaa3141hero001
    英雄|40才|?|シャド
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