本部

新年、皆で集まって

真名木風由

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2016/01/11 04:37

掲示板

オープニング

 それは、年末の研修の後の話だ。
 今年最後の研修とあり、研修最後に皆で夕飯を食べた時のこと。
 お正月、お節は作るのか買うのか、そもそも食べるのかという話題から入った。
 能力者英雄問わず、日本でのお正月に馴染みがない者は、日本のお節がどういうものかまず興味深く耳を傾けた。
 縁起物の料理である為、料理や素材にも意味があるお節。
 料理のひとつひとつは日持ちするものが多く、正月は火を使う煮炊きを避ける風習的な意味合いもかつてはあった(今は昔と違うのでお節も多種多様だ)という話から、日本のお正月を詳しく知るエージェント達はお正月定番とも言えるお雑煮で話が盛り上がった。

 簡単に言うと、お雑煮は地方によってかなり違うからだ。

 そのことを知らないエージェント達に、知るエージェント達が口々に説明する。
 例えば、東日本は角餅を焼いて入れる、西日本は丸餅を茹でて入れる。餅に餡が入っていたり、別添えのタレや黄な粉につけて食べる地方もある。
 醤油の澄まし汁で仕立てる所、味噌仕立ての所、小豆仕立て、なんて所もあるそうだ。
 海沿いの地方は海産物が多く、山地は野菜が多い。
 これが更に各家庭ごとに違うのだから、定番でありながらもこれ程人によって異なる料理もないだろう。
 誰かが、食べ比べてみたい、と漏らした。
 お節の試食もしてみたいけれど、1番はお雑煮を食べ比べしてみたい。
「それなら、年明けしてから、皆でお節を作ったり、お雑煮を作ってみませんか?」
 剣崎高音(az0014)が折角だから、と提案してくる。
 彼女は東京郊外の住まいで、お節もお雑煮も作る家庭に育っており、どちらも母親を手伝って作るのだと言う。
 エージェントになって、日本のお正月を知る機会が巡ってきたならば、知って欲しいというのが彼女の意見。
「十架ちゃんも色々なお雑煮食べたいと思うし」
 ちらっと見た先の夜神十架(az0014hero001)が、こくこく頷く。

 年明け、東京海上支部の職員向けの食堂がまだ営業をしていないその日に厨房を借り、皆でお節の試食とお雑煮の食べ比べをすることになったエージェント達。
 新年だし、今年1年どう過ごすか話しながら、楽しいひと時を過ごそう。

解説

●場所
・H.O.P.E.東京海上支部内職員向け食堂(厨房含)

●出来ること(Aからひとつ、Bからひとつまで選択可能)
A
・お節作り
材料は全員割り勘で揃えたものとします。
一般的なお節を作ります。
時間的なものもあるので、家から作ってある物の持ち込みOK。
お節に馴染みがない方・馴染みがあっても作ったことがない方もお手伝いしてあげてください。

・お雑煮作り
こちらも割り勘等で材料を揃えたとします。
それぞれ作ってOKとします。
掲示板でどういうものを作るか提示しておくと、重複し過ぎることもないでしょう。
こちらもお手伝いOKの他、創作のオリジナルお雑煮もOKです。

B
・食べる
食べるのがメインです。
味わうこと重視。
ただし、横槍は入ります。

・お喋り
食べながら周囲の人と話すのがメインです。
今年1年どう過ごしたいか話したり、味の感想をシェアする交流重視。
交友がなくともアドリブの範囲として任意に絡める場合があります。

●NPC情報
剣崎高音、夜神十架
作る人がいなければ、東京出身らしいお雑煮を作ります。
いる場合はフォロー担当。ある程度持ってきてくれるそうです。
十架は高音を頑張って手伝う模様。

●注意・補足事項
・お正月は特別ということで、公認の基礎設定で未成年でないことが確認出来る方は缶ビールのみ飲酒OKとします。(公認の基礎設定に明記はないものの、公認設定及び外見年齢から確実に成人していると判断可能な方もOK。それ以外の方はノンアルコールドリンクのみ)
・未成年飲酒・飲酒強要は厳禁です。酔っ払って絡む等周囲に迷惑が掛かる行為もご遠慮ください。
・皆で楽しく過ごす趣旨ですので、特定の方とだけ独立して交流希望されてもご希望に副えかねる場合もあります。
・強行されても不本意な描写になる場合もありますので、ご注意ください。
・リプレイは各料理作成からスタートします。自宅準備風景の描写はなく、帰宅最中の描写もメインとして扱いません。

リプレイ

●お節それぞれ
「Buon anno! ここから更に作らないとね」
 アンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)は、ある程度持ち寄られたお節を前にうんうん頷いた。
「ボクも準備はしてきたけど、時間は心配だったし」
「皆いますし、全部食べられると思うのですよ」
 紫 征四郎(aa0076)は、数の子を冷蔵庫に入れながらそう答える。
 他にも木霊・C・リュカ(aa0068)とオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)が来る途中でローストビーフや魚介類を購入、桜寺りりあ(aa0092)が栗きんとん作りが滞らないよう栗の甘露煮、剣崎高音(az0014)がごまめ、昆布巻、紅白なますを持参してくれた為、だいぶ楽だ。
「試作だけど……」
 十影夕(aa0890)が取り出したのは、昆布巻と栗きんとん。
 自炊しているが得意でもない……ということで、年明けに皆で作って食べるならとレシピ本を購入した夕は当日の為に幾つか試作したらしく、数は少ないが、持ってきたそうだ。
「それにしても……シキさん、食べた?」
「おいしくできていたよ」
 中身が自分の記憶と違うと夕がシキ(aa0890hero001)を問い詰めると、シキは堂々と答えたので夕はデコピンの刑に処した。

「ところで、俺達にも出来そうな料理って何だろう?」
「蒲鉾を切る、海老を茹でる、卵を漉す」
 持ち寄りのお節の確認と必要なものは冷蔵庫に入れ終わった直後、リュカがオリヴィエに聞いてみると、オリヴィエは自分達の腕前を理解した冷静な見解を述べた。
「ガルー、何してるのです?」
 征四郎がガルー・A・A(aa0076hero001)へ声掛けでリュカもオリヴィエもそちらへ顔を向ける。
 日々のお手伝い程度の征四郎に対し、ガルーは日常的に行うが、薬の調合の要領で分量にはかなり拘ることは知っているから、それだろうと思っていたら当たっていた。
「卵によって若干体積が変わるんだよ。放っておい」
「かすのですよ」
 踏み台上の征四郎、ガルーから取り上げ、さっさと魚のすり身と混ぜ始める。
「あー!? レシピがあるならその通りにするべきだろ!?」
「ガルーが細か過ぎるのです。適量がダメとか言いますし」
「当たり前だろう!」
 何だかんだで息が合ってるし、伊達巻は大丈夫そうか。
 リュカとオリヴィエは顔を見合わせ、紅白蒲鉾の飾り切りをしようかと準備開始。
「賑やか、で……作る時から、楽しいの」
 りりあは征四郎とガルーのやり取りを見て、くすくす笑う。
 お節は食べたことはあっても、作り方はよく知らなかったし、普段あまり料理をしない(何度かお菓子を作ったことがある程度だそうだ)と興味津々のりりあは最近友達になったシキと一緒にレンジで加熱したしゃもじで潰している。
「何事も経験だからな」
 比蛇 清樹(aa0092hero001)はそう言いながらお煮しめ作成の為、各具の飾り切りの手は止まらない。
 ちなみに、食堂の厨房にも賄い料理用の電子レンジを発見した為、レンジで作れる栗きんとんを指導している辺り、彼の保護者気質も相当なものだ。
「俺もおせち料理って作るのは初めて」
 夕は砧巻の為、予め下準備してきた蕪の汁気を切り、蕪に巻く鮭を幅に合わせて切っている。
 清樹に教えて貰いつつ、食べたことはあっても作ったことはないお節作りは順調のようだ。
「家で1人で作るのは大変そうだし、料理も余りそうだし……こういう機会があって嬉しい」
「皆で食べるならあっという間だろうしな」
 清樹は切り終えたお煮しめの具を見る。
 可愛らしさのある玉蒟蒻に生麩、鳥もも肉、牛蒡、里芋、椎茸、人参はねじり梅型、蓮根は花型、筍は櫛型、絹さやは矢羽根のように……と、普段からやっていなければ出来ない芸当だ。
「……その前に」
 次の段階へ行く前に清樹はりりあとシキの所へ歩いていく。
「栗きんとんに餅は入れなくていい」
「だめなのか?」
 料理の知識は全くないが、「てつだおうじゃないか」と手伝っていたシキ、栗きんとんへ独創性を出そうとしていたらしい。
「お雑煮作業している皆が餅がないと困るだろう」
「しかたない。わたしはかんだいであるため、こんかいはだんねんしようじゃないか。ところで、リリア、あじみはひつようだとおもわないかね?」
 清樹へ納得したシキはりりあへ話を振った。
 すかさず夕が飛んできて、「つまみ食い、絶対ダメだから」と念を押すも、シキが見立てた通り、りりあは「少しだけ、ですよ?」と作成途中の栗きんとんを味見させた。

●お雑煮もバラエティに富んで
「こういう形での交流……とても素敵です」
 構築の魔女(aa0281hero001)は皆の普段と違う姿が見られると微笑を浮かべる。
「日本でも色々違うってこの前聞いて、ビックリしたの」
 ルーシャン(aa0784)は日本のお節は食べたことがないそうで、とても綺麗で美味しいという話を聞いて、今日はとても楽しみに来たらしい。
「私も驚きました。今日作るお雑煮、皆違いましたから」
 構築の魔女よりお雑煮の面々で使う材料を確認し、共通している場合は、お互いに協力し合ってはどうかという提案があった為、皆作ろうとするお雑煮のレシピを確認したら、皆綺麗に違っていたのだ。
「年末聞いて、何作ろっかなって色々探してたら、近所のお姉さんが故郷のレシピを教えてくれたの!」
 明るく話すのは、ナト アマタ(aa0575hero001)を肩車するシエロ レミプリク(aa0575)。
 そのレシピを聞いたシエロは珍しそうだし美味しそうだということで、こちらを作ると宣言。
 提案した構築の魔女は西日本風とのことで、醤油仕立ての薄味に大根、人参、白菜、長葱、鰤に湯がいた丸餅というものだそうだ。
「わ、私は少し変わったお雑煮作ってみようと思うの」
 料理自体が初めてということもあり、今回は敢えて創作のお雑煮にするというルーシャンはジャガイモ、人参、キャベツ、玉葱、ベーコンを入れ、ミネストローネ風にし、小さめの丸餅を煮て入れるらしい。
「アリスにいっぱい、お手伝いしてもらわなきゃなんだけど……」
 ルーシャンがもじもじしながら、後ろに控える英雄のアルセイド(aa0784hero001)を見ると、アルセイドは柔らかく微笑んだ。
「Yes,Your Majesty」
 アルセイドにとって、ルーシャンは女王たる存在。
 内気で愛らしい女王が自ら料理をしたい……その意志に副うよう応えるのが騎士たる自分の務め。
 コンポタージュやポトフ風も美味しいかもしれないが、トマトと餅の相性も悪くないなら、ミネストローネにしてみては。
 試しに作ってみた創作お雑煮は美味しかったから、ルーシャンは「皆も気に入ってくれるといいなあ……♪」なんて笑っていた。あの笑みを曇らせてはならない。
「人参は共通ですね」
 高音は東京のものということで、鶏肉、蒲鉾、大根、人参、小松菜といった具、醤油の澄まし汁、焼いた角餅というものらしい。
「では、協力し合って、美味しいものを作りましょう」
「がんばろー!」
 構築の魔女の言葉にシエロが元気良く答えると、ナトがぱちぱち拍手した。

「シエロの30分位クッキーング! まぁ、お餅の準備は食べる前の方が絶対いいけど」
 シエロはナトに「……わー」とまた拍手して貰いながら、割烹着に袖を通した。
 更に料理をするに相応しいっぽい格好として、眼帯こそ外さなかったが、装いをちぇんじ。
 と、肩から降りて、お雑煮のお椀やテーブル準備をするナトの肩をつつく者あり。
 振り返ると、夜神十架(az0014hero001)の姿がある。
「……」
「……」
 まるで空気中にぱぁっと小花が散ったかのようなナトへ、十架がこくこく頷いている。
 傍から見ると言葉が全くないのだが、よく分からないことに、彼女達の意思は何となく成立しているらしい。
「ルゥ様、材料は俺が皆と刻むから、具材をスープに入れたり、灰汁取りを頼むね」
「アリス、ありがとう」
 人参以外は共通するものがないのと、玉葱でルーシャンが涙を流すことなどあったら大変と思うアルセイドは、ルーシャンへそれまでならナトと十架を手伝って大丈夫と告げた。
「問題は、この先。お雑煮を作った記憶が全く出てこなかったことよね」
 構築の魔女の小さな呟きを耳に拾った辺是 落児(aa0281)が、僅かに硬直する。
「ローー」
 驚愕、焦り、疑問、不安……大まかに言うと、これらが落児の内心だが、この内心を正確に把握出来るのはやはり構築の魔女だけだろう。
「大丈夫。流石にぶっつけ本番で他の方に出したりとかしないわ。ちゃんとレシピ通りに作れるようにはなっているから、安心して」
 構築の魔女の言葉を聞き、落児が緩やかな安堵を見せる。
 微笑ましいやり取りに見えたらしい高音がくすくす笑っているが、手元はちゃんとしていた。
(しかし、私、元の世界での生活はどんなものだったんでしょうね……)
 そこはちょっと不思議。
「こういう共有は楽しくていいね!」
「そう言っていただけると提案した甲斐があります」
「それを探すのも楽しいよね」
 シエロが上機嫌で蒲鉾をウサギの飾り切りをしていくと、構築の魔女がほっとしたように微笑む。
 アルセイドはジャガイモを小さく刻んでいたが、人参は高音が花弁を模して切ったものが入る為、楽しみらしい。
「あ、日本って、今年はおサルさんの年だっけ」
「よくご存知ですね」
「ひと手間加えよっかなー」
 高音の答えを聞いたシエロはまだ切っていない野菜で、自分のお雑煮にだけ入る野菜を手におサルを模して切っていく。
「……」
 ふと、具を切り分けるだけでなく、他の人の共通の具も偏らないよう分けていた落児が何かに気づいて歩いていった。
 構築の魔女のサポート以外では周囲で何か起こってないか緩やかに確認していたのだが……。
 見ると、ルーシャン、ナト、十架の3人がテーブルを拭くクロスが椅子に乗って背伸びしても届かない範囲にあったようで、どうしようと顔を突き合わせていた。
 背丈に関しては申し分ない落児がクロスを取ってあげると、ナトの周辺空気がぱあっと輝く。
「……お礼……」
「ありがとうなの」
「…落児、ありがとう……」
 ナト、ルーシャンに続き、十架も頭を下げる。
 落児が何かあったら呼んでいいと緩やかに会釈して戻る頃には具は全て切り終えられていた。

「お餅は食べる頃合を見計らってになると思いますが、用意したものが小さめで良かったですね」
「食べ易さ重視と思ってたから」
 構築の魔女はアルセイドの返答を聞いてなるほどと思った。
 少しだけ食べてみたいと思う人がいるかもしれないと思っての選択だったが、お餅に馴染みがなければ、小さいものの方が食べ易いだろう。
 そこへ、ルーシャンが戻ってきた。
「スープの跳ねで火傷しないように気をつけてね」
「頑張るの」
 アルセイドに頷いたルーシャンが踏み台の上に乗り、灰汁取りする為のお玉を持つ。
 構築の魔女もレシピから脱線しないことを心掛け、自分の作業に専念した。

「ボリュームあるよね」
 シエロは入れる予定の沢山の具を見てそう呟く。
 胡桃ソースは最後の最後まで内緒にして、披露するつもりだが。
「もしかして……」
「ナイショ」
「ええ」
 隣の高音がソースの材料に気づいて小さく声を掛けて来るが、シエロは口止めを依頼した。
 意図を察した高音が微笑み、ナトと十架が気づく前に作業へ戻る。
(並行してやらないとね)
 シエロは気づかれないよう胡桃ソースの作業開始。
 炒った胡桃の薄皮を取り、磨り潰し、砂糖と少量の醤油を加えて溶いていく。その香りで気づかれないようその時までラップでしっかりガード。
「ふんわりとした甘みと香ばしさが食欲そそるんだって」
「お披露目が楽しみですね」
 シエロは高音とこそこそ会話。
 その間にルーシャンがアルセイドの力を借りて、餅を入れる以外のお雑煮を完成させていた。
「美味しそうですね」
「ありがとう」
 構築の魔女も餅を入れる以外は完成、何とかレシピ通りに作ることが出来たようだ。
 ルーシャンへ自身が作ったお雑煮の説明をした後、構築の魔女は高音、シエロとお雑煮を見学していく。
「シエロさんのは具沢山ですね。高野豆腐も入ってます」
「ボリュームあるかもって言ってたんだよね」
 一般的な関東風より具が多い分素材の旨味が沢山出るだろう、と。
 お椀によそった後、芹、いくらも乗せるとのこと。
 やはり、雑煮は地域ごとに差があって興味深い。
 食べる前に餅の準備をする必要はあるが、ひとまず、上手くいったことに安堵するエージェント達だった。

●完成!
「マルコさん、お酒は後!」
 割烹着姿のアンジェリカが冷蔵庫をチラチラ見ているマルコ・マカーリオ(aa0121hero001)を叱咤する。
 孤児院では食事は当番制、基本的なことは出来るというアンジェリカは手際良く作業しつつもマルコがフライングでビールを呑もうとするのを阻止しているのだ。
「……そっちは何だ?」
 黒豆を煮ているのとは別の鍋で違う豆が煮られているとマルコ。
「レンティッキエ……レンズ豆って言った方が馴染みあるかも。お金の形に似てるから、金運アップの縁起物なんだよね。これにザンポーネかなって。見た目が見た目だしコテキーノも準備したよ」
「豚足?」
「豚足ソーセージみたいなかな」
 アンジェリカの説明を聞きながら、更に別の鍋を見て確認するマルコへアンジェリカがザンポーネにレンティッキエの煮込みを添えるのが一般的なのだと話す。
「かなり差があるのか」
「そうかもしれないね。フランスだと、ガレット・デ・ロワ食べるけど、食事かと言われるとどうかなって気もするから。お節みたいにこの新年だけっていう料理は厳密にはないかも」
 マルコの呟きにリュカが加わった。
 国が違えば新年の迎え方も違う。
「吹き零れないように注意してね。ボクは忙しいんだから! 吹き零れてもそのままだったら、ビール没収するよ」
 アンジェリカが他の面々を手伝いに行く。
「ニンニクは入ってないがそれっぽい香りとセロリと人参があるな」
「俺は馴染みがないから、ちょっと楽しみだな」
「……飾り切り終わったら、錦玉子作るんじゃなかったのか?」
 マルコとリュカの会話へオリヴィエが加わる。
 蒲鉾の飾り切りが終わったら、夕と一緒に錦玉子だった。
 量も多いから夕を手伝わないと、とリュカはマルコへ見張りの大任へのエールを送り、オリヴィエと共に夕の元へと向かった。

「ちょっと待て。火は使うな火は」
「ガルーに任せていたら日が暮れるのですよ」
 鰤を焼こうとする征四郎を阻止するガルーは、逆に征四郎から反撃を食らう。
 伊達巻は既に巻いて冷蔵庫に入れた為、次の料理にとなったのだが、ガルーは身の大きさで分量をと言い出して細かく量り出したので、征四郎はさっさと焼こうとしたのだ。
 手先は器用ではないが、物怖じしない為、ガルーも気が気ではないらしい。
「目を離さなければいいんじゃないか?」
「それはそうだな。俺達も違う料理を作っていることもある、分担が同じ者が見れば安心だろう」
 吹き零し阻止任務続行中のマルコとガルーへ共感する清樹がそう言って取り成し、何とか鰤の照り焼き作りは開始された。

「続々と料理が出来、ますね」
「じつにおいしそうだね」
 りりあとシキは栗きんとんも作り終えたので、出来上がったお節をお重に詰める作業へ移行していた。
 シキは和食が格段に好きだそうで、お節も例外ではないらしく、「おいしそうなものは、いただきたいね」と完成が待ちきれない様子だが、「おぞうにとのちょうわもみたい」とのことで、味見以上のことはしないらしい。
「チビたちはやはりさそいにはおうじなかった」
 シキの定義する『チビ』は複数いるが、真面目だそうで、口八丁手八丁の誘いに応じてくれなかった。
 が、りりあは甘えられると断れず、夕が何度かシキを怒りに来たが、シキは懲りない。
「綺麗に詰めているな」
 お煮しめが出来上がった、と清樹がやってくる。
 持ち寄りなどもある為、量も多く、お重は5重が採用されているが、その説明を事前にしておいた為、りりあが控えの五の重へ誤って詰めてしまうこともないようだ。
「んむ、美味しいの……」
 お煮しめを味見したりりあが、流石清樹と目を細める。
 清樹にもと味見用の栗きんとんを差し出すのも忘れない。
 レンジこそ使ったが、梔子の実のお陰で色合いも良く、栗の甘露煮も飾る用もきんとんと混ぜたものも程よいバランスだ。
「中々上手に出来たと思うの……」
「あぁ、上手く出来ているな」
「わたしがてつだったからな」
 清樹が褒めると、シキがドヤ顔。
 リュカとオリヴィエと一緒に作った錦玉子を運んできた夕はシキがしょっちゅう飽きていたのを知っていたので、微妙な顔をした。
「でも、結構楽しい」
「こういうのもいいね」
 方々を手伝っていたアンジェリカも黒豆を運んできた。
 イタリアの正月料理はお重ではなく、お皿に盛るそうで、こちらも楽しみだ。

 食堂に運べば、あとは食べるまでもう少し。

●語らいの時
「おーい、伊達男、ちいと手ぇ貸して」
 ガルーに呼ばれたアルセイドがお節のお重を運ぶのを手伝いに向かう。
 その間に、征四郎が「ふふ、お隣で食べましょう!」とルーシャンを手招き、ルーシャンが微笑んで征四郎の隣に座る。
 ルーシャンは征四郎だけでなく、オリヴィエ、夕とシキといった面々に挨拶をし、「元気そうで良かったの」とまた共に仕事をする機会があったらよろしくねと笑った。
「おちびたちどうしでなかよくするのもだいじなことだ」
「征四郎はおチビさんじゃないのですよ!」
 その向かいに座るシキが訳知り顔で言うが、征四郎がすかさず反論。
 シキの隣にいるりりあがそんな会話に微笑を零す。
 目の前には、お節やお雑煮が置かれ、成人している中で希望者は缶ビールとビールを注ぎ入れるグラスが配られた。
「ビールだが、やっと酒が呑めるな」
 マルコの呟きにアンジェリカが呆れた目線を投げたが。
 皆で乾杯、いただきます。

「お雑煮もお節もいっぱい! ほこほこしたこの空気だけで幸せになれそう!」
 シエロが声を弾ませる向かいには、ナトがシエロ作特製くるみお雑煮を食べている。
 食べる間際に「ジャーン!」とお披露目した胡桃ソースを見たナトは、お雑煮に入っているお餅にタレのようにつけて食べるという説明を聞いて、真っ先に試したのだ。
「……」
 餅へ胡桃ソースをつけ、もふもふ食べるナトの空気は幸せそうだ。
 それを見て癒されるシエロは、やがて、ナトがサルの野菜を発見して、更にその顔を輝かせたことに気づく。
「んー良かったね~」
 頬っぺた膨らんでるナトへ笑いかけると、ナトが凄く幸せそうにお雑煮を頬張るから、シエロは嬉しい。
 お替りは他の人のものも勧めて、違う美味しさも発見して、喜んで欲しい。
 ナトの隣では十架が高音作のお雑煮を幸せそうに食べていて、高音がやっぱり和んでいる。
 これは眼福……シエロと高音は言葉も交わしていないのに共通見解を抱いた。

「お正月って言ったらお屠蘇が主流だけど、乾杯出来たし、ビールもいいよね」
「呑み過ぎるな、よ」
 リュカのテンションのギアの入りっぷりにオリヴィエは釘刺しを忘れない。
「洋風のお雑煮も美味しいよね。パセリとパルメザンチーズが更に引き立つ感じがする」
「アリスがね、好みを調節して食べられたらどうかなって言ってたから……」
 ルーシャンがリュカへ微笑むと、「好みで調節出来るのはいいね」とうんうん頷く。
「蒲鉾が色んな形に切られてて可愛いの」
「ルゥ様、どれがいい?」
 折角だし、全部味わいたい。
 そうしたルーシャンの思いを察するアルセイドは自分と半分こすれば一通り食べられるだろうと知っている。
 が、飾り切りはルーシャンの好みを優先すべきとルーシャンの好みを聞いてから、皿に取り分け、距離がある場所は構築の魔女の傍に座る落児がアルセイドの希望を(構築の魔女の通訳で教えて貰って)聞き、取り分けてくれた。
「こうして見ると凄いですね。見た目も鮮やかですし、縁起物だとか。どれも美味しそうです」
「お重、綺麗なの」
「詰めるの初めてでした、から……美味しそうに詰められて良かった、です」
 構築の魔女とルーシャンがそう言うと、りりあがほっとしたように顔を綻ばせる。
 りりあの人見知りが少しでもましになればと思う清樹は、今年も色々なことが出来るようサポートしていければとりりあを見た。
(この過保護を少しどうにかしろと言われるような気もするが)
「でも、今回はお重の中にはないけど、家によってはミートローフとか、コロッケ入れるって。そうなの?」
「それは興味深いね。俺もそこまで詳しくないんだけど、そういうのもあっても、今はおかしくないかもしれない」
「昔の人からは想像もつかない食生活だしね」
 夕の素朴な疑問へリュカが応じると、夕もそれもそうかと調べた際に知ったそのことの答えを見出す。
 オリヴィエはそんなリュカのフォローをするかのようにリュカの皿へ適当にお節を取っていく。
「オリヴィエお兄ちゃんのマスターさん、綺麗な人ね」
「見慣れるとそうでもない」
 ルーシャンへ応じつつ、オリヴィエはリュカの皿を本人の前へ置く。
 ちなみに、彼本人は食べることが苦手なのでそこまで食べない。が、征四郎が作った伊達巻やルーシャンのお雑煮は少し食べ、その感想は伝えていた。
「これ甘くて美味しいね」
「征四郎が頑張ったのですよ。あのままですと、ガルーは作れなかったのです」
 アンジェリカが『妹』達に思いを馳せて呟くと、征四郎が伊達巻を食べながらえへん。
 すかさずガルーが口を出した。
「伊達巻。形が読み物に似てるから、教養を持つようにって意味らしいぜ。食ったからには勉強しろよ」
 それにぐぬ、となっている征四郎を微笑ましく見たアンジェリカも構築の魔女が作ったお雑煮のお餅が小さいのに伸びるとやっていたら、マルコが「まだまだお子様だな」と笑われた。
「このソーセージも豆も美味しいな」
「ありがとう! イタリアのお正月で食べるんだよ」
 アンジェリカの料理に興味を持っていた夕が舌鼓を打てば、アンジェリカが色々話し始め、そこでお節の意味の話を聞いている。
 マルコはビールを呑みながら酒の肴になりそうなお節を食べ、ご満悦。
「せっくというのは、こうでなくては」
 シキのその言葉には同意したい。

「こちらのお雑煮も美味しいですね。それぞれの特色は食べ比べると、より実感します。お節も手元はよく見ることが出来ませんでしたが、作っている姿がとても興味深くて」
「地域によって違うのは、特産物の違いなんかもあるみたいだね」
 オリヴィエがちょろちょろ働く形で動き回る間、構築の魔女もリュカと話に花を咲かせていた。
 濃い目の味は寒い日に向いているのかも、という話を終え、構築の魔女はゆっくり味わう落児を見る。
「新年、無事迎えられて何よりですね」
「ロ……ー」
 落児が微かに首肯していると、ルーシャンへお餅を喉に詰まらせないようゆっくり食べてと言っていたアルセイドが折角だし今年の抱負なり正月の思い出話などが聞きたいと話を振ってきた。
「俺の抱負は、勿論ルゥ様の良き侍従で、騎士であり続けることですけれど」
 すると、りりあが軽く片手を挙げた。
「今年の目標は色々な方とお友達になって色々なことを経験したいの、です」
 今まで経験出来なかったからこそ興味を持つものは多い。
「今日もお節を作りました、けど……どのお料理も美味しいの、ですね。初めての物もあったし、色々な種類があるの……」
 清樹からお手拭を受け取って指を拭きながら、りりあは頑張って話す。
「征四郎も、新しいこといっぱいできたらいいなって思うのです。ピアノ弾けるようになったり、小学校に行ったり。あと、エージェントとしても、もっと強くなるのですよ」
 今年もそうである抱負と言わんばかりの征四郎、この時間を楽しいと、この料理を美味しいと思うからこそ、変わることがないのだろう。
 ふと、その姿を見て、料理の時は実験並に細かく、今はビールを呑みながら楽しく話していたガルーはちょっとだけ考え事……けれど、すぐに征四郎に見つかった。
「ガルー、考えごとです?」
「や。……お前さんは日に日に楽しそうだと思ってよ」
 未来が明るいのを信じていたくなる程に。
 それは口に出さず、ガルーは征四郎の頭を撫でた。
「でも、美味しいお料理も食べたし、今年はいい年になるといいね! 」
 アンジェリカの言葉に、本当にそうだと皆が頷いたのは言うまでもない。

 来年までの道は遠く、けれど、振り返ればあっという間の道。
 そこに皆、何を見るだろうか。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • エージェント
    桜寺りりあaa0092
    人間|17才|女性|生命
  • エージェント
    比蛇 清樹aa0092hero001
    英雄|40才|男性|ソフィ
  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
    人間|11才|女性|命中
  • コンメディア・デラルテ
    マルコ・マカーリオaa0121hero001
    英雄|38才|男性|ドレ
  • 誓約のはらから
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