本部

【黒聖夜】サンタ・ライムの妨害

渡橋 邸

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/01/05 18:10

掲示板

オープニング

●騒動の予感
 聖夜が近づく、12月。
 各国の街がクリスマスムード一色に包まれる中、多くの愚神が不穏な動きを見せていた。
 あるモノは西、あるモノは東で。怪しき愚神たちは密かな企みを抱いて待っていたのだ。
 
 人類世界にとって大切な、不可欠のイベント——クリスマスウィークを。

 ほどなくして、H.O.P.E.所属のエージェントらにオペレーターからの連絡が入る。

「サンタが現れました」

 エージェントらは首をかしげる。

「失礼、何のことかわかりませんね。各地でサンタ姿の愚神が目撃されています。何が起きているのかは把握できておりませんが、エージェントの皆さんは心しておいて下さい。なお、悪事を働くと思われるこれらのサンタをH.O.P.E.では以後『黒サンタ』と呼称することになりました」

●黄緑の妨害者
 12月と言えば、ほとんど誰もが揃って浮足立つ月である。
 ある者は家族との団欒を楽しみ、ある者は恋人と甘い一日を過ごす。またある者はそこからワンランク上に向かう。聖なる夜、聖人の生まれし日——クリスマス。
 しかし今年のクリスマスはどうやら一筋縄ではいかないようだと、男は頭を抱えた。
「ケーキに使う材料が、いつまで経っても届かない……」
 業務用の冷蔵庫の中や、保管庫にはある程度の量の材料を確保してはいる。だがそれだけでは恐らく、いや確実に足りなくなるのは目に見えている。予約分で既に半数以上使うのが確定しているのだ。これから店に来るであろうことを考えると、とてもではないが足りるとは思えない。
「しっかりと発注したはずなのに」
 男は机から、古めかしいノートを取り出した。そこには出納記録と書かれている。
 開くと最新のページにしっかりと発注したと書かれており、男の思い違いではないのだと証明している。
「いったいどうしてなんだ……いや、こうしていても始まらない。今は予約分だけでも確実に作らなければ」
 困り果てた男は一旦思考を断ち切り、ケーキ作りを始めた。


 ドライバーの男は始終、困惑せずにはいられなかった。目の前には、一組の少年少女。
 クリスマスを意識しているのか、サンタコスチュームのようなものを着ている彼らは、トラックの通り道の近くで何故か多くのトナカイと戯れていた。
「いやね、だからそこをどいてもらえないと困るんですよ。ちょっと荷物を届けなきゃいけないので」
「えー? なんでー?」
 女の方が首をかしげながら、脚をバタつかせる。短いスカートがその拍子にひらりと舞い、ニーソックスに覆われた脚と脚の付け根が見えそうになり、ドライバーは思わず視線を奪われそうになった。
 彼は、はっとして頭を振り、そのままうな垂れる。
「勘弁してくださいよ。本当に……ただでさえ今日は送らなければいけないところも多いのに」
 既に予定の時間を大幅に越えている。クリスマスシーズン真っ盛りになると、荷物——主にケーキやお菓子の材料が増えるので、ノルマ達成のためにはスケジュール通りの行動が欠かせないのだというのに。
「こちらとしてもちょーっと困るんだよねー。いやさー、俺たちってこういう明るすぎるの苦手なんだわー」
 自分の服装省みて言えよ、とドライバーは思った。
 彼らの服装はサンタコスチュームである。しかも何を思ったか、それは赤い部分が全て黄緑色だ。派手なサンタコスチュームをさらに派手にしたような彩色はどう足掻いたってものすごく視線を集めるだろう。
「そうそう。だからつい邪魔しちゃうんだよねー」
「つーまーりー? 通すわけないじゃんってことー。このまま困り果てちゃえばいいんじゃない?」
「は!?」
 男の物言いに、思わずドライバーは声を上げた。
 ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら傍らの少女とスキンシップをし続ける男。
 彼は何を思ったか、急に立ち上がった。
「うーん、でも退いて欲しいんだよね? だったらさー……——その馬鹿でかい車ごと退いてあげるよぉ!」
 どこからか取り出した大きなソリに乗り、トナカイに指示を出す。トナカイたちは真っ直ぐにトラックに向かい、吹き飛ばした。
「アッハハハハハ! メリィークゥリスマァーッス! なんちゃってー! アハハハハハハ!」
「たーのしいねー! フフフフ!」
 ドライバーはトラックが吹き飛び、荷物が飛散するのを見ることしかできなかった。
「ごめんねー。でも諦めてねー。私たち、こういうのが大好きなのー」
「だからさ悪いけどー? 何回来ても吹き飛ばしてあげるよ……俺たち、愚神サンタ・ライムがさぁー! アハハハハハハーッ!」
 散乱したフルーツや糖類の甘い匂いが漂う中で、一組の愚神の笑い声がどこまでも響いていた。

●物資を無事に届けよ
「今日中に届けなきゃいけないんですが、先ほど言った通り愚神とその配下の従魔が邪魔してくるんです。それも、場所が分かっているかのように、別な道を通っても……」
 業者の男が頭を下げる。
「私達では対処できないので……すいませんが、能力者の皆さんに運送をお願いしたいのです。どうか、届けていただけないでしょうか」
 全ての話を聞いた能力者たちは当然だと頷き返した。
「ありがとうございます。それでは、こちらが届け先になります」
 能力者たちはリストを受け取りながら、クリスマスを台無しにはさせないと拳を強く握りしめた。

解説

大変! クリスマス本番直前だというのに、菓子屋にケーキなどの材料が届きません!
その邪魔をしているのは、サンタの格好をした愚神。
このままではクリスマスが最悪の日になってしまいます……。
貴方たちは、材料を届けるべく立ち上がりました。
愚神や従魔の妨害を潜り抜け、材料を無事に届けてあげましょう。

▼ステージ情報
道:大型のトラックが一台通れる程度の道。一方通行なので、基本的には行ったり来たりできない。愚神出現の報告があり、現在は一般車両の通行が禁じられている。周辺には木々がたくさんあり、車以外であれば通り抜けることができそうだ。

▼登場敵
愚神サンタ・ライム:二人一組の愚神。デクリオ級。他人の邪魔をして、困った顔をさせるのが大好き。正の感情があったらぶち壊して負の感情に変えてやりたいと常々思っている。メインの攻撃手段は魔法攻撃。少年が攻撃を得意とするのに対して、少女の方は支援や従魔の召喚・使役が得意。時々コンビネーションアタックをしてくる。他にもソリによる体当たり攻撃をしたりする。

トナカイ:サンタ・ライムの使役する従魔。見た目はトナカイそのものだが、異常にタフ。ちょっとやそっとの攻撃では怯まず、頭の角でカウンター攻撃をしてくる。半面魔法攻撃に対する防御性は低い。
数は20程度。内10体はサンタ・ライムの乗るソリを引いていたり、その護衛をしているため基本的には戦闘に参加しない。主な攻撃は体当たり、スタンピングなど。

リプレイ

●運搬作戦
「思った以上に荷物があるのね……」
 言峰 estrela(aa0526)は自らの視線くらいの高さまで積まれた荷物を見て嘆息した。
「バイクを借りられてよかったです。さて、愚神に見つかる前に積んでしまいましょう。幸い、ある程度は幻想蝶に格納できそうですし」
 紫 征四郎(aa0076)はガルー・A・A(aa0079hero001)と協力して、荷物の積み込みを開始する。残念ながら全部を積み込める訳ではないので、彼女らは予め用意しておいた袋に積み込んでいく。その最中、ガルーは酷く憎しみに満ちた目で口を開いた。
『クリスマスケーキを狙うとは……許しがたき悪行だな。八つ裂きにしてやろう!』
「ガルーちゃんもそう思う? やっぱりケーキ食べれないノエルなんて嫌だもんね!」
 ガルーの言葉に同意を示しながら木霊・C・リュカ(aa0068)は杖で地面を突いた。
『クリスマスは降誕祭なのですよ! 人にプレゼントを贈ることで愛を示す日でもあるのです! そんな日にこのような蛮行、許せません!』
「お前がそこまで怒るのも珍しいな」
 セラフィナ(aa0032hero001)は怒りに震えた。相棒の様子に気圧されながら、真壁 久朗(aa0032)は護衛のために武器を確認する。
「めんどくせえからツッコんでなかったが。なんで俺はこんなもん着せられてるんだ」
『大丈夫です周太郎。可愛いですよ、トナカイ! ……可愛いですよ!』
「写真を撮るな! あとミニスカ対抗するな! 篝も、もっと長いスカート穿け。寒いから」
「ふむ、灰堂も久遠もよく似合ってるぞ!」
 積み込みを行っている傍ら、組合組は実に混沌としていた。
 久遠 周太郎(aa0746)はトナカイのような角を着けて思わずといったように言葉を告げ、それをアンジェリカ・ヘルウィン(aa0746hero01)が褒めながら手に持ったカメラで撮影している。周太郎は鬱陶しそうにガードしながら、ミニスカサンタコスチュームの火乃元 篝(aa0437)に注意する。同じように衣装に身を包んだ灰堂 焦一郎(aa0212)は無言だった。少し離れてそれを見ていた篝は親指を立て笑う。
 estrelaは征四郎らと同様に英雄と2人でひたすら詰め込む
「キュベレー。あっちの荷物も持ってきてね」
『……分かった』
「女の子にこんな重労働させるだなんて、配慮が足りない男共ねぇ…」
 estleraは一息つくと、ちらりと流し目で篝らの立つ方向を見つつ小さく口にした。
 相変わらず篝らは騒いでいる。どうやら篝の格好に対抗している英雄の対処に苦心しているようで、estrelaの様子には気づいていない。彼女はもう一度だけ小さくため息を吐くと、キュベレー(aa0536hero001)の持ってきた荷物を積み込み始めた。


 積み込み始めてから暫くの時間がたった。その間、敵の襲撃はなかった。一通り積み終えると運搬役のestrelaと征四郎はバイクにまたがった。それぞれ荷物を入れた幻想蝶と荷物の入った袋、ダミーの袋を持つ。その量は元のものよりも遥かに少ない。
 征四郎は既に共鳴を済ませ、凛々しい青年の姿へと変貌している。
「ふむ、では私たちは先に行かせてもらうぞ。九字原は既にポイントにて潜伏中だからな。さっさと誘き出してやるとしよう!」
 篝と焦一郎、久朗の3人は先んじて歩き出した。その手には大きな袋を持っている。
 それを見届けた後で、estrelaはふと幻想蝶に目をやる。
「あんなに詰め込んだのに、こんなに軽くなるのね。どんな技術なのかしら?」
『estrela……あまり時間はない』
「そうね、クリスマスまでに届けなきゃいけないみたいだし行きましょ?」
 出発を促すキュベレーの言葉に頷くと、estrelaもまた、共鳴した。

●それぞれの戦い―ウェントスとヘルバ―
 道のど真ん中を、何に構うでもなく意気揚々と歩く集団がいた。篝たち、陽動チームだ。
「じんぐるべ~るじんぐるべ~る、サンタはどこだぁ!」
『いや、今はあなたがサンタでしょ。それにあるじどのぉ? 音程はぁずれてますよぉ?』
 プレゼント、と言う名の大量の石を詰め込んだ袋を片手に調子はずれな歌を口ずさみながら篝は歩を進める。ディオ=カマル(aa0437hero001)は半ば無理やりに赤鼻を着けられた顔に呆れを浮かべ指摘した。
「篝様、お気を付けてお進み下さい。いつどこから出没するか――」
「聖夜をぶち壊す使者、サンタ・ライムさんじょおうっ!」
 焦一郎が注意を促した瞬間、彼らの頭上に影が差した。続けて男性の叫び声。
 エージェントらが散開すると同時に地面へと着地したのは大型のソリである。乗っているのは当然、二人組の愚神、サンタ・ライム。
「あんまりにもプラスな空気を感じるからすっ飛んで来れば、どういうことかな! イライラするからライヴス頂いて殺していい?」
「ストレートすぎるよウェントス!」
 ソリの上で2人は笑い声を上げる。ただ視線だけはずっとただ1人に固定されていた。
 先にいるのは騒いでいる篝とディオだ。よほど正の感情が気に入らないと見える。
「ってわけで、もぉおおっと邪魔しなくちゃね。俺たち来た意味なくなっちゃうからさぁ!」
「やかましい」
『聖夜を乱す小悪魔は成敗ですよ!』
「邪魔するのは勝手だけど、邪魔するのを邪魔されるのも僕らの勝手だよね」
 ソリごと飛び出そうとする男・ウェントスを気配を隠し近づいた九字原 昂(aa0919)が攻撃する。示し合わせたかのように久朗・セラフィナがクロスボウガンによる威嚇射撃を行った。
 ウェントスは気が付くと指示することを止めて体を反らして回避した。昂は素早くソリを飛び越えて篝らのいるところまで避難する。セラフィナはライヴスによる結界を張る。
 それらを見たウェントスは指さしをして声高に言った。
「ぬっわ、敵襲! 背後からとは卑怯な奴!」
「貴方がたの行為は威力業務妨害です」
《聞く相手でもあるまい。戦闘システム・起動》
 焦一郎は一言言っておくが、ストレイド(aa0212hero001)はそれを無理と断定し、戦闘準備をした。焦一郎の体に灰色の鎧が集い、1つとなった。真紅の単眼が怪しく光る。
 そして篝の身を炎輪が呑みこんだ。放熱が周囲にわずかばり積もった雪を打ち消し、蒸気と共に黄金が姿を現すと同時に篝は笑った。
「ふあはっは! クリスマスは特別モードだ! だがしかし『愚神は殺す! その道は外れん!』」
「ええい、なんだか鬱陶しいなあもう! 行っちゃって私のトナカイたち!」
 黄緑の服を着た少女・ヘルバが周囲に従えた従魔に指示を出す。
 10体のトナカイは列を組んで突撃を行った。進行上にいた能力者たちは散り散りになりながら回避する。だがトナカイの内の半分は彼らに構うことなく彼らの背後へと抜けていった。
「目標は森の中か!」
「さて。どうせ本命がいるんだろ? そっちを探し出すのが先か、お前らを殺すのが先か!」
 武器を手に突進する篝をソリを操作することでヘルバはいなす。ウェントスは笑いながら言った。
「さあ、楽しませてくれよぉおお!」


 一方その頃、estrelaらは木々の中を疾駆していた。彼女らは通り抜けられる隙間を瞬時に判別して道をショートカットしていく。遠くからは火薬が炸裂する音や何かがぶつかり合う音が盛大に聞こえていた。
「うわあ、向こうは盛大にやっているみたいね」
「どうやら篝たちが愚神とぶつかってるみたいだな。全部向こうにいるのか?」
 estrelaが思わずという風に口に出した。周太郎はその音の原因が戦闘によるものだと推測する。
 しかし彼の予想を裏切るように、5体のトナカイが彼らの進路に立ちふさがった。
「フラグだったか」
「数は少ないし、撒くのは難しくなさそうだね」
「言峰と紫は俺たちが従魔を引き付けてる間に駆け抜けろ」
 周太郎とリュカは素早く状況を把握すると、共鳴し各々の武器を構えた。
 トナカイたちもそれに呼応するかのように前傾姿勢を取る。
「コトミネ、事前の打ち合わせ通りここから先は分かれて各自目的地へ向かいましょう」
「ええ、征四郎ちゃん」
「話は終わったか? ……なら、タイミング合わせろよ」
 一定の距離を保ちながら従魔とにらみ合っていた周太郎が、征四郎とestrelaに確認を取る。
 2人はそれに首肯を返すのみに留めた。
「それじゃあいくぞ。3、2、1――!」
 カウントダウンが始まる。バイクのエンジンが唸りを上げ、周太郎とオリヴィエが地面を踏みしめる音がそれぞれの耳に届いた。
「ゼロッ!」
 掛け声と共に2台のバイクと周太郎が前に出た。
 周太郎はそのままトナカイの鼻頭に一撃を叩き込む。ワンテンポ遅れて周囲には魔法攻撃の雨が降った。撃ったのはオリヴィエだ。
「思った以上に硬いな。倒すのは少々苦労しそうだ」
 魔法攻撃をまともに受けた何匹かのトナカイを見たオリヴィアはぼやいた。
 トナカイらはダメージを負いつつも、頭を振ってすぐに2人をにらみつけている。慎重に行動しており、すぐに突撃することはしない。
 周太郎はすぐに、彼の目論見通りに時間稼ぎをすることは難しいと理解した。相手は慎重に行動して彼の誘いに乗ろうとはしない。
「小細工よりはさっさと片付けた方がはえーか、やっぱ。5体しかいねえってことは残りは向こうだしな」
 まさか、追手として用意するのがたったの5体であるはずもない。
 オリヴィエもその考えにたどり着いたのか、頷き返した。
「そうだな。では沈めるか」
 2人はそれぞれ魔法書を構えた。物理攻撃に対する耐性は高くとも、魔法攻撃にはそれほどでもないならばそちらの方がいい。予め用意していた魔法書による魔法攻撃で仕留めようと攻撃を開始した。
 トナカイらはそれぞれ単独で、次々に突進攻撃をする。彼らは範囲攻撃をしてきたオリヴィエを狙う。周太郎は自らの身を盾にして庇い、返しとばかりに殴りつける。
 そしてすぐにその場を下がりながら魔法攻撃を放った。その間にオリヴィエも距離を取り、周太郎が止めたもの以外の従魔に向けて魔法攻撃を行った。貫くことはできなくても、直撃は効いたようでトナカイは怯んだ。
「延々続けるつもりはねぇからな! くたばんな!」
 まず一体とばかりに、周太郎が連続攻撃を行う。同一個所を間をおかずに狙ったその一撃は硬い体表を貫く。従魔らしく血を出すこともなくトナカイは霧散した。続けてオリヴィエも2体まとめてトナカイの腹を射抜いた。貫かれた2匹も先ほどの1体と同様に霧散する。
 残りの2体はタイミングを計ってもう一度、突進攻撃を繰り出す。しかし周太郎とオリヴィエはそれに気が付いており、手を伸ばした。
「それではこれで――」
「終いだ!」
 彼らが同時に放った攻撃は正面からトナカイを貫く。貫かれても止まることのない彼らは真っ直ぐ駆け抜け、木に激突する直前で霧散した。
「これでこっちにいるのは全部か」
(血が出ないからお兄さんも助かったよー。血の匂いって苦手なんだよねー)
「ああ。さっさと篝たちと合流することにしよう」
 魔法書をしまいながらオリヴィエが言うと、脳内でリュカが能天気に笑った。
 既に周太郎は歩き始めている。オリヴィエも後を追うように音の方へと向かっていった。


 estrelaはひたすらにバイクを走らせていた。その後方に、追手はない。
 そんな時、ふと彼女は思った。
(あれ? これってどこまで運べばいいの?)
「まさか……このまま街まで走るの……?」
 ややどんよりした表情で結論を口に出す。ダミーも多く積んだ状態で走るのは、正直望ましくない。
 そんな彼女に対してキュベレーは楽しそうに話した、
『……気を抜くと追いつかれるかもしれんぞ』
「これってやっぱり女の子のワタシがする仕事じゃないんじゃないかしら……」
『……優秀なエージェントは仕事は選ばないのではないのか?』
「むむむー」
 茶化すように微笑む英雄にそういわれると返す言葉もないestrelaは仕方なく走り続けた。


 別れるようにして別な道を走っていた征四郎は途中から徒歩に変え、バイクを押して歩いていた。
 彼女が通っていた道は町と森の中間であり徐々に木々が増えてきていた。さすがに速度を出すのは厳しくなってきたため徒歩に変えたのである。
「ふう、中々着きませんね」
『まあそう言うな。クリスマスケーキのためだ』
「クリスマスを楽しく過ごす未来を守るため、なのです。わかっているのですけど……」
『クリスマスにケーキのないことの重大さ……ああ、急ごう! こうしている間にもクリスマスは近付いてるんだ!』
「わかりましたから無理に体を動かさないでください。歩きますから……」
 再び森の中を歩きだす。森の中にはただ、バイクが通った跡のみが残されていた。


 続く戦闘で、ヘルバの操る従魔の量は大きく減っていた。
「ふあっはっは! その程度か!」
 怒涛の勢いでウェントス、ヘルバのいるソリの方へと駆け出し攻撃をする篝。
 愚神らはそれを回避すると遠ざかっていく篝にトナカイをけしかけ、追撃をしようと手を伸ばす。
 だがすぐにその手を引っ込めた。
《照準補正・予測射撃開始》
「易々とやらせはしません」
 手があったところを一発の弾丸が通過する。撃ったのは焦一郎だ。牽制の一撃でウェントスの攻撃を阻止すると、早撃ちでもう一度狙い撃った。
 銃撃は確かにダメージを与えたものの、その傷は即座にヘルバの手によって回復される。
 ウェントスの手から爆発的な風が生まれ、銃撃を行った焦一郎を襲った。暴風が彼を隠していた木々をなぎ倒す。焦一郎は次のポイントに向かって移動する。
「逃がすわけないじゃんねえ!」
「これ以上好き勝手ができると思うなよ」
 二色の眼を輝かせ久朗が駆ける。ソリの機動力は大きく低下しているうえ、ウェントスは焦一郎の方へ向いている。槍を大きく振りかぶりながらソリへ飛び乗ると、その場で振り回し彼らを攻撃した。
 それぞれが別なことに集中していたため一撃を回避することはかなわず吹き飛ばされる。着地には成功するものの、互いの距離は大きく離されていた。
「ヘルバ!」
 支援を得意とするヘルバが孤立するのはマズイと判断したウェントスは、彼女を助けようと踏み出す。
 その瞬間に針が彼に刺さった。
「うぐっ……お前ぇええええええ!!」
「悪いけど、合流はさせないよ。連携されたら困るからね」
 動きを止められたウェントスは憎しみに染まった目で針を放った人物……昂を睨みつけ、怨嗟の声を上げた。既にふざけ切った態度はなりを潜めている。
「ふざけるなふざけるなふざけるな! ふざけるなよっ! 邪魔してるんじゃねえええええッ!!」
「ぐっ、長くはもたないか」
「いや、少しでも止められれば十分だ! その間で私は……十分に殴れるからな!」
 篝は剣戟でトナカイを吹き飛ばす。そしてウェントスの元まで加速した。防御を捨てた一撃はウェントスの腹部を的確に撃ち抜く。そのまま彼女は攻撃を繰り返した。
「『愚神は殺す』からな。この場で確実に仕留めてやる」
「っざけんな……ふざけるなッ! 調子に乗るんじゃねえよ……契約しなくちゃ戦えない存在がよぉおおおお!」
 さらに攻撃を加えようとした篝を風が吹き飛ばした。
 篝はダメージを負いながらも、しっかりとした足取りで着地する。
「ああいいぞ。殺せるもんなら殺してみろよ……その前に、俺が、お前らを殺してやるッ!」
 既に彼の中に相棒の姿はない。残っているのは怒りのみである。単独では自身に迫ることもできない貧弱な存在が自分を馬鹿にし、傷つけた事実が高いプライドを持っていた彼を強く憤慨させた。
「まずはお前からだ、金ぴかァアアッ! 気に入らないんだよ、無駄に楽しそうにしやがって! どうせそんな風にしてられるほど明るい世界に生きてんだろうが! ぶっ殺してやる!」
「金ぴかではない、火乃元 篝だ……それに、私たちの人生も言うほどのものではないぞ。だが、潰すというならいいだろう! 私が相手をしよう。心配するな。私たちは『必ず愚神を殺す!』」
 言うが否や、ウェントスは烈風を纏い突撃する。篝は楽しそうにそれに対して正面から突っ込んだ。
 プレゼント袋を投げつけると血色の大剣を振りかざし、叩き付ける。ぶつかり合った2人は互いの攻撃で大きく弾き飛ばされる。
「篝様!」
《心配は後だ。今は援護を。……ターゲット変更・データ修正・照準補正……予測射撃開始》
 サポートもあり次のポイントに着くことができた焦一郎は篝を心配し、声を上げる。そんな彼に対し、ストレイドは冷静に返すと、支援のために攻撃を促す。それを聞いた焦一郎はウェントスに向かって攻撃した。
「んな攻撃が当たると思うなよ!」
「ならば私の番だな……いくぞ! 合わせろ、灰堂!」
「了解しました」
《支援射撃準備・照準補正・射撃開始》
「鬱陶しい……全部まとめて吹き飛ばしてやるッ! 消えろお前ら、俺の前からァアアアッ!」
 ウェントスが暴風を巻き起こす。
「ウェントス! ……駄目だ、もう聞いてない。すぐにああなるんだから」
 ヘルバはすぐに目の前のこと以外が見えなくなる相棒に対して悪態をついた。
 単体では戦えないほどの欠点があるが故に組んでいたというのに、1人になるとすぐこれだ。彼女は一旦彼のことを頭から離すと直ぐに自らの現状を確認する。
「さて、向こうは向こうで盛り上がっているようだ。ならば俺はお前を相手取るとしよう」
「うーん、見逃してくれたりは? 正直私は全くと言っていいほど戦えないんだよね……だから、行っちゃって私の僕!」
 槍を構え、攻撃しようとする久朗に命乞いをするふりをするヘルバ。そしてほんの少し稼げた時間で近くにトナカイを呼ぶ。
「そのトナカイには物理攻撃は効きが悪いからな」
 久朗は落ち着いた雰囲気で立ち、ライヴスでできたメスを手に取り投げつける。
 当然というようにトナカイは盾となるように立ちふさがるが、ライヴスには弱い彼らの体は容易にその刃を受け入れる。久朗は傷を狙うように一撃を加える。トナカイは苦悶の鳴き声を上げながら霧散した。
「っく……」
「何か呼ぼうとしてるみたいだけど。そうはさせないよ」
「にゃっ!」
 陣を描き、新しく従魔を呼ぼうとしたヘルバの前には昂が立っていた。怯まされ、行動を止めてしまったため彼女が描いていた陣はその姿を維持することができずに消えてしまう。
 ヘルバの首元に刃が付きつけられる。
 幾度の打ち合いで冷静さを取り戻していったウェントスもさすがに状況を理解したのか、小さく舌打ちをした。
「これ以上はさすがに無理か……仕方ない。撤退するぞ、ヘルバ!」
「そうはさせないって!」
「悪いがそれは一度見た! 二度目は……ないィ!」
 昂が放った針を風で吹き飛ばすと、瞬時にヘルバの横まで行く。そして彼女を囲んでいた2人にも風による攻撃を行った。久朗と昂も直撃は素直にその場を退く。
「だからアレには言ったのに。私達には向かないって……」
「仕方ない。俺たちはアレらよりも弱いからな。それに、乗ったのは俺たちだ」
「それもそうね……」
 誰にでもなく愚痴を零すヘルバにウェントスは返すと直ぐに能力者の方を向いた。
「今回は俺たちの負けだが……次はこうはいかねえ。最初から本気だ! 絶対にお前らは殺す!」
 宣戦布告をすると、風と共に彼らは少しずつ浮かんでいく。頭上には大きな穴が出現していた。
 彼らはその穴の中に入っていく。そして完全に入りきると穴はふさがった。
《…敵の領域離脱を確認。逃したか》
「ええ、しかし積荷が届けば問題ありません」
 ストレイドと焦一郎の声が、一気に静まり返った場に響く。
「ふむう、残念だが仕方ない。だがまあ、今は勝ったからそれでいいか」
『愚神は殺しますが……今は退けただけで良しとしましょうか』
 ウェントスと相対していた2組が共鳴を解除し、元の姿に戻る。
「ふぅ……これで今年のケーキはなんとかなりそうですね。」
 昂は汗を拭うような仕草をして一息つく。

●晴れぬ空―オールホワイト―
 それから数分も経たずに、従魔の相手をしていたリュカとオリヴィエ、周太郎、アンジェリカが合流した。
 合流時にはまだ続けていた共鳴も、既に解除している。
 焦一郎は傷を負った篝の手当てをしている。
「ふう……今、連絡を済ませた。あとは業者がやるようだ。俺たちもできれば何かしたほうがいいんだが」
 久朗は携帯電話を耳から離すと、全員に向けて告げた。
 とはいえ篝はあまり大きくはないとはいえ怪我をしている。あまり無理もさせられないだろう。
 estrelaも征四郎も、先ほど運搬を終えて戻ってきたばかり。もう一度駆り立てるのも申し訳がない。
 久朗はバイクに乗ろうとするが、その時、治療を終えたばかりの篝が急に立ち上がった。
「よし! ならばケーキを買って祝杯がてらパーティーでもするとしよう! 灰堂と周太郎は当然参加するとして……どうだ、おまえたち。パーティーだぞ、参加しないのか?」
『ケーキ! 菓子があるならば俺様は参加するぞ!』
「スイーツ男子が張り切ってます……」
 これからパーティーをするという篝の言葉に真っ先に反応したのはスイーツ男子・ガルー。そんな相棒の様子に征四郎は呆れながらも、参加する気満々であるようだ。
「パーティー! いいね、俺も行くよ!」
『リュカが行くなら当然俺も行くことになるな』
 興奮したリュカがはしゃぎだす。オリヴィエも否定はせず、行く意思を見せた。
「そういえば運んでくれたお礼に、みんなで食べてくれってお菓子を渡されたのよね……ワタシ1人で食べるわけにもいかないし、参加してもいいわ」
 少し離れた位置にいたestrelaも参加を表明する。
「そうだね。僕も特に何かあるわけでもないし。参加しようかな」
「俺は確認すらなしかよ……いや、参加するけどな」
『いいじゃないですか、周太郎。パーティーですよ! 楽しみましょう!』
「騒ぐな、飛ぶな! 行くって言ってるだろ!」
 口々に参加を告げていく。何も言わないが、焦一郎も参加する気満々で準備を進めている。
 久朗だけが参加するかどうか迷うそぶりを見せている。そんな彼に対し、セラフィナが口を出した。
『みんなで同じ日に祝い事をする…。普段まったく別々の人生を歩んでいる僕達がこうして一つになれる事は、とても貴重な機会なのですよ、クロさん』
 セラフィナのその言葉を聞いて、久朗はふっと、その表情をほんの少しだけ和らげた。
「ならば、俺たちも参加するとしよう」
「全員参加か! 楽しくなるな! では急ごう、こうしている時間がもったいないからな!」
「ああ、篝様。そう飛び跳ねると傷が……応急処置しかしていませんので……」
 全員の返事を聞き、こうしてはおけないと走り出そうとする篝を焦一郎が止める。
 そんな姿を見て各々が苦笑を零す。
「……ん」
 estrelaが不意に顔に着いた水滴を訝しんで、顔を上げる。
「雪ね。今年はホワイトクリスマスになりそう」
『そうだな』
「ねえ、キュベレー。愚神たちは結局何が目的だったのかしら」
 雪で真っ白の空を見て、キュベレーは口を開く。
『わからん、が今はこれでいいだろう』
「そうね」
 何かあったら、その時にどうにかすればいい。
 そう決めて彼女らは雪ではしゃぎだした面々の元へ向かっていった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 最脅の囮
    火乃元 篝aa0437
  • エージェント
    言峰 estrelaaa0526

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 単眼の狙撃手
    灰堂 焦一郎aa0212
    機械|27才|男性|命中
  • 不射の射
    ストレイドaa0212hero001
    英雄|32才|?|ジャ
  • 最脅の囮
    火乃元 篝aa0437
    人間|19才|女性|攻撃
  • エージェント
    ディオ=カマルaa0437hero001
    英雄|24才|男性|ドレ
  • エージェント
    言峰 estrelaaa0526
    人間|14才|女性|回避
  • 契約者
    キュベレーaa0526hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 希望の守り人
    久遠 周太郎aa0746
    人間|25才|男性|攻撃
  • 周太郎爆走姫
    アンジェリカ・ヘルウィンaa0746hero001
    英雄|25才|女性|ブレ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避



前に戻る
ページトップへ戻る