本部

ガチでキモいから早くなんとかして!!

gene

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/12/13 20:07

掲示板

オープニング

●保育園
「はい!」
 パンッと両手を叩くと、園児達が保育士の高梨里佳子に注目する。
「みんな、帰りの準備はできましたか?」
 里佳子の言葉に、園児達は「は〜い!」と返事をする。
「それでは、バスで帰る子達は先生についてきてくださ〜い!」
 そう言って里佳子が園児達をバスへ誘導しようとしたその時、保育士の丸山和広が勇馬を抱えて走ってきた。
「高梨先生! 勇馬君をお願いします」
 和広は勇馬を里佳子に預ける。
「どうしたんですか? 丸山先生」
 窓の鍵を確認し、カーテンを閉めながら和広は説明した。
「従魔が……ムカデ型の従魔が園内に入ってきたんです!」
 和広が帰る準備をする気のない問題児の勇馬を探していると、玄関でなにかを熱心に見つめている勇馬を見つけた。
 そして、勇馬の視線を追った和広は、巨大ムカデが保育園の門を入ってきていることに気づいたのだ。
 和広の言葉に、数ヶ月前の光景を思い出した里佳子はぞっとする。
「まさか、あの……」
「新海公園で僕達が見た従魔です」
 新海公園には、数ヶ月前までほぼ毎日、園児を連れて遊びに行っていた。
 しかし、数ヶ月前のあの日、里佳子達はその公園で大きなムカデ型の従魔を見た。その時も、一番最初に従魔を見つけたのは勇馬だった。
 H.O.P.E.に連絡はしたものの、実際に人が襲われるなどの被害がなかったため、公園の周りに鉄の板を打ち込み、公園を封鎖することで対処されていた。
 そのため、新海公園にはそれ以降行けていない。
 鉄の板は従魔が登れないように滑りやすく加工され、さらに地中を通って公園の外へ出ないように、地中深くまで打ち込まれていたのだが……
「以前見たときよりも三倍ほど大きくなっていました」
 和広の言葉に里佳子はまた寒気が走るのを感じる。
「あんな気持ち悪いものがまた大きくなったなんて……」
「ええ」と、和広も顔をしかめる。
「関節のひとつひとつ、背中の凹凸までしっかりわかります」
 里佳子は寒気をおさめるために両腕を強くさする。
「子供達を送るのは、エージェント達があの従魔を倒した後になります」

●H.O.P.E.会議室
「新海公園の封鎖を壊し、ラージセンチュピードが住宅街へ出てしまった」
「公園の周りにはしっかりと板が打ち込まれていたはずですが」
 その質問に、担当職員は答える。
「どうやら、三匹いた従魔のうちの一匹が他の二匹を捕食し、吸収したライヴスの分、成長し、より大きな身体と強い力を得たようだ」
 その力で、鉄の板の一枚を押し倒したのだ。
 巨大なムカデ型従魔の資料を見ながら、会議室に集まっていた人々は顔をしかめた。
「現在は保育園の敷地内にいると連絡があった。建物内には入っていないが、鉄の板を倒しただけの力だ。いつ窓や扉を破って中へ入るともわからん。なお、建物内には園児三十二名、保育士等職員十一名がいる。至急、現場に向かってくれ!」

解説

●目標
ラージセンチュピードの退治

●登場
・ラージセンチュピード……その名のとおり、巨大なムカデ型の従魔
・デクリオ級
・全長五メートル
・意外に足が速い
・甲冑をまとっているような固い体
・噛まれた場合、猛毒のために重体を付与します

●場所と時間
・保育園
・十七時頃

●状況
・保育園敷地内に従魔が入り込み、居据わっています。
・子供達が帰る時刻でしたが、建物内に避難しています。
・保護者には連絡し、危険なので迎えに来ないようにお願いしてあります。
・従魔は砂場のあたりにいますが、今のところ暴れてはいません。

リプレイ


 保育園についた榛名 縁(aa1575)とウィンクルム(aa1575hero001)はまず、従魔の現在の位置を把握するために敷地の外から園内の様子をうかがった。
「ここからは、姿が見えないね」
 正門からはムカデ型の従魔の巨体は見えない。
 無闇に中に入ることはせず、縁は他のエージェント達にそこにいてくれるように頼み、保育園のフェンスに沿って歩く。
 フェンス沿いにすこし歩き、門に面した園舎の正面を曲がるとすぐに砂場や遊具があることがわかった。
 そして、そこに赤黒い鎧を纏ったような巨体を見つける。
 縁はすぐに引き返し、エージェント達に手の動きだけでそこから離れるように指示を出した。
「門から入ると、ムカデに気づかれるかもしれない」
 従魔がいた場所から園舎を挟んで反対側に移動すると、エージェント達はそこから敷地内に潜入する。
 坂野 上太(aa0398)はフェンスを乗り越えると、青いゴミバケツが三つほど置いてある壁沿いに扉を見つけた。油汚れのついた排気口も近くにあることから、調理室に続く扉だろうと推測してその扉を開く。
「ここから中に入れそうですよ」
 建物内に入るエージェント達と別れ、縁とウィンクルム、そして紅鬼 姫乃(aa1678)はムカデの監視に向かった。
 調理室内を通って廊下に出ると、明かりがついている部屋を見つける。中には保育士と事務員、調理師などの大人が集まっていた。
「依頼を受けたエージェントだが……」
 真壁 久朗(aa0032)が声をかけると、奥の席に座っていた年配の男性が出てきて、園長だと名乗った。
「これから、俺達は戦闘に向かう者とあなた達を守る者とに別れて行動する」
 久朗は園長含め、大人達に説明する。
「戦闘中は外は覗かずに静かにしていてくれ。いつでも逃げられるように、荷物と靴を持って、子供達、保育士や事務員等、できるだけ全員がひとつの部屋で避難してくれ」
 必要最低限のことを伝えると久朗はセラフィナ(aa0032hero001)を置いて先に建物の外へ出た。
「子供達はこちらです」と、園長が他のエージェントを案内してくれる。
 部屋に入った上太は、咳払いをひとつして自信満々の様子を演出すると、子供達に寄り添う保育士に向かって言葉をかけた。
「僕達は派遣されたエージェントです。安全確保のため、指示に従ってください」
 部屋を見渡し、ひとりの保育士と視線を合わせて聞く。
「この部屋は、砂場から一番離れた位置にありますか?」
 子供達がぴったりくっついている保育士の高梨里佳子に確認すると、彼女は「はい」としっかり頷いた。
「仲間達が速やかに従魔を排除しますから、安心してください」
 上太が安心させるために優しく微笑む後ろで、バイラヴァ(aa0398hero001)は子供や保育士を囲うようにしめ縄を張る。
「これは特別な術だぜ。この中にいる限り従魔は襲ってこねぇから、決してここから外に出るんじゃねぇぞ」
 そう言われると出たくなってしまうのが子供である。
 それまで、大人達や他の子供達の緊張感などそ知らぬ顔だった勇馬がすっくと立ち上がり、縄の外に出る。
「おい! おまえ!! 出るんじゃねぇ!!」
 さっそく、ルールを破ってくる問題児にバイラヴァは眉をつり上げるが、勇馬はおもちゃ箱をあさり始めた。勇馬につられ、数人の男の子達がおもちゃ箱に集まる。
「腹、減ってねぇか?」
 夕食の仕度中にH.O.P.E.から出動要請を受けたバルトロメイ(aa1695hero001)は、炊きたてのご飯が入った炊飯器を持ってきていた。
「いっぱいあるから、沢山食べてね!」と、セレティア・ピグマリオン(aa1695)は子供達に笑顔を見せる。
「それじゃ、おにぎりでも作ろうか?」
 北条 ゆら(aa0651)の言葉に、「そうだな」と、リーヴスラシル(aa0873hero001)が賛同する。
「梅干しやたくあんがあるから、持ってきましょう。塩とか、海苔もいりますね」
 調理室へ向かう調理師に、月鏡 由利菜(aa0873)は「手伝います」とついて行く。ゆらの肘に突かれて、シド (aa0651hero001)は「俺も行こう」と、慌てて由利菜達の後を追った。
「これ、子供達に」
 ジュースを持参した三ッ也 槻右(aa1163)はそれを保育士の丸山和広に渡す。
「えっと……もらっちゃってもいいのかな?」
 和広はジュースをじっと見つめる酉島 野乃(aa1163hero001)に尋ねる。
「ぬぅ……また買ってくれるかの?」
「今度、好きなの買っていいから」
 苦笑して野乃の頭を撫でた槻右を見上げ、野乃は納得したように頷いた。
「これは、おにぎりの後にでも」
 そう言って弥刀 一二三(aa1048)がケーキの箱を和広に渡すと、キリル ブラックモア(aa1048hero001)が「ああ!!」と嘆きの声を上げた。
「それは私のだろう?!」
「ゲージ上がらんのやったら意味あらへんどすわ」
 キリルはぽかぽかと一二三の背中を叩いた。
「お腹いっぱになったら、いっぱい遊ぼうね!」
 バイラヴァの張った縄の中に入った美夜(aa1678hero001)が尻尾を揺らして笑顔を見せると、興味津々の子供達は美夜の尻尾や耳に触る。
「やっぱり、小さい子は触り心地のいいものとか好きだね」
 セラフィナがカンガルーのぬいぐるみを見せると、数人の女の子達の目が輝く。
「はい、どうぞ。いっぱい可愛がってね」
 女の子にぬいぐるみを渡すと、セラフィナは立ち上がり、小さく呟いた。
「君達が笑顔の間に、急いで片付けてくるからね」


「みんな怖い思いしてるだろうし、一刻も早く退治しないと」
 従魔に気づかれないように滑り台の影に隠れた縁は呟いた。
「私の力では及ばぬ程の猛毒を持つそうですが……如何なさいます」
 H.O.P.E.からの情報を思い出してそう言ったウィンクルムに、縁は信頼の眼差しを向ける。
「誰ひとりとして噛ませなければ、みんな無事で帰れるから……その為の力を、貸して」
「かしこまりました。この力、存分にお役立てください」
「巨大ムカデか……」と、植木の影に隠れている久朗が言う。
「またえげつない従魔だな」
 子供達から離れて外に出てきたセラフィナが「あ、そういえば」と、今更ながらの報告を久朗にする。
「この前リビングに入ってきたムカデさんは僕が庭に戻しましたよ」
 いいことした感で微笑むセラフィナに久朗は驚きの眼差しを向ける。
「触ったのか……! お前……」
 そこから少し離れたところで、メリッサ インガルズ(aa1049hero001)は荒木 拓海(aa1049)をからかっていた。
「ふふふ☆ 最近張り切ってるわよね〜!」
 気持ちの悪い見た目の従魔を目の前にして緊張している拓海だったが、傭兵の一族の中で育ったメリッサはさすがに肝が据わっている。
「色々と頑張ってるとこ見・せ・た・い・よ・ね!」
 メリッサの言葉に徐々に頬が赤くなる拓海。
「いいのよ〜☆ 私は頑張る拓海が大好き〜!」
「……くぅ」と、拓海は呻く。
「今日は、交代せずに戦いきってやるーーー!」
 そう啖呵を切った拓海は行動を起した。
 水道の元栓を締め、メリッサと共鳴すると、手洗い場の影に隠れて移動する。
 拓海が動いたのを確認して、セラフィナと共鳴した久朗は拓海にパワードーピングをかけて防御力をあげる。
 ウィンクルムと共鳴した縁も拓海を守るために、弓をすぐに放てるように構えた。
「動くものに対し非常に攻撃的、俊敏というのは、空腹時に限る。少しでも腹に物が入っていれば動きは緩慢になるし、触らない限り反撃してこねぇ」
 バルトロメイの言葉を思い出しながら、拓海は慎重に行動する。
 手洗い場の水道に長いホースの先をつけ、蛇口を全開にした。
「少しでも近くに……っと……」
「大丈夫、落ち着け」と、拓海は自分に言い聞かせ、深呼吸する。
「オレにはみんながついていてくれる……救世主も……」
 子供達が建物の中から砂場へと出るためのベランダの柱の影に隠れたりしながら、ムカデの脇腹あたりを通過し、できるだけムカデの頭に近いところにホースを置いた。
 ムカデの横を通ったとき、さすがに大きな体をしたムカデも拓海の気配に気づいたが、セレティアと共鳴して美女の姿となったバルトロメイの機転により砂場に放たれたオートマチックが砂を揺らし、ムカデはそちらに気を取られる。
 なんとも形容しがたい様子で動く巨大なムカデに縁は眉をひそめる。
「小さいのは平気だけど……これは、ちょっと……」
「倒せば、憑代の姿に戻りますので、今暫くご辛抱を」
 ウィンクルムの言葉に縁は頷く。
「ん。子供達が辛抱してるんだから、僕も頑張るよ」
 緊張感でガチガチになりながらもホースを置くことができた拓海は早々に水道の元栓のところに戻ると、閉じていた元栓を開いた。
 大量の水を放水しだしたホースに気づいたムカデは、そちらへ頭をめぐらし、水の力ではねるように動くホースから水を飲む。

 おにぎりを作り終えたリーヴスラシルと由利菜のもとに、ムカデに水を飲ませたとの連絡が入り、二人は顔を見合わせた。
「上太さん、ゆらさん、美夜さん、保育士の方々……子供達のこと、頼みます」
 子供達の笑顔を守るため、二人は部屋を出ると共鳴し、急いで外に出た。
「危険な役ですが、お願いします」
 合流した由利菜に拓海が言う。
 由利菜はリンクコントロールでレートを上げ、ライヴスリッパーで攻撃を仕掛ける。
 一心に水を飲んでいたムカデだったが、勢いよく自分に向かってくる由利菜に気付き、そちらへ頭を向けた。
 ムカデは由利菜に噛み付こうと口を開けたが、その動作は速くない。
 水を飲んだことにより動きが緩慢になったムカデに、槻右がストレートブロウを食らわせて由利菜を援護する。
 槻右が作ってくれたその隙を活かして、由利菜はライヴスリッパーを命中させた。


 ライヴスリッパーによりムカデが気絶している間に、エージェント達は戦闘態勢を整える。
 グランツサーベルを構えた槻右は頭を狙い、そして、拓海はドゥームブレイドを構えて、胴体に向かって飛び上がった。
「みんなへのフォロー頼みます」
 拓海の言葉に、久朗は「ああ」と答えながらブラッドオペレートを放つ。
 キリルと共鳴した一二三は、ピンク色の髪をツインテールに結った可愛らしい少女の姿となって、気絶中のムカデへ決め台詞を言った。
「あたしがいれば大丈夫よ!! 魔法少女フミリル、愛と勇気を携えて、あなたを折檻しちゃうわよ☆」
 きゅらりんっ☆とお約束のポーズを決めたフミリルこと一二三は、ムカデの足を狙ってスナイパーライフルを連射する。
 ムカデの背後にまわった由利菜はライヴスブローを使ってライヴスをフェイルノートに纏わせると、長い胴の節目の間へ矢を放つ。
 飛び上がった拓海は落下にかかる重力と体重でムカデの胴を串刺しに、地面へ刺し止めを図る。
 槻右はグランツサーベルを頭に突き刺そうとしたが、その頭部は他の部分よりもさらに固く、かすり傷をつけた程度だった。
「くっ!」
 自分が込めた力の分、固い頭部から衝撃が跳ね返ってきて、槻右は歯を食いしばる。
「従魔が覚醒しますわ!」
 拓海のドゥームブレイドが節目の間に深く突き刺さったのを確認して、姫乃が叫ぶ。
 気絶から覚めたムカデは体をよじって槻右を振り落とし、口を開いた。
 縁はブラッドオペレートを放ち、ムカデの顔を攻撃した。
 ムカデが怯んだ隙に体勢を立て直した槻右は後ろに飛び退いてムカデから距離を取ると、空を見上げる。
「もう暗くなってきた……暗い中での目印には最適だと思ったんだけど……」
 しかし、先ほどの固さを考えると、ムカデの頭に刺すのは容易ではないことがわかる。
 拓海のドゥームブレイドにより動きを封じられたムカデは体をよじって逃げ出そうとする。
 一点で地面に刺し止められてうねうねと動く巨体の気持ち悪さに、その場のエージェント達は鳥肌が立った。
 特に、フミリルは一二三の冷静な意識に反し、半ばやけっぱちになってライフルを連射する。
「キ〜モ〜イ〜〜〜!!!」
 その銃弾のほとんどはムカデの固い体に弾かれ、無駄弾となっている。
 不快感をぐっと堪えて、縁は足の関節を狙ってフラメアを横に薙ぎ、前側の足を切り落とす。
 続いて、久朗が切り落とされた足の付け根にフラメアを深く刺した。そして、手首をひねり、穂先を回して傷をえぐる。
 次の瞬間、ムカデが複数の足を激しく動かし、久朗は蹴り飛ばされた。
「……っ!」
 蹴り飛ばされた衝撃で、久朗は肋骨の骨が数本折れたことがわかった。
「くっそ……」
 激痛に耐え、立ち上がろうとした久朗を縁が止める。
「待ってください! いま、治しますから!」
 縁が久朗にケアレイをかけると、体の痛みは徐々に薄まった。
「……大丈夫ですか?」
 体をすこし動かし、久朗は折れた肋骨が治っていることを確認する。他の細かな傷も癒えていた。
「すまない」
「いえ」と、縁は首を横に振る。
「大切な仲間ですから」

 仲間が怪我を負ったのを見て冷静になったフミリルは、ライヴスブローでライフルを強化してムカデの胴を駆け上がり、その勢いのままジャンプすると高い位置からムカデの胴と頭の節目を狙って銃弾を放った。
 弱い部分への強い衝撃により大きく暴れるムカデは、体の前側をぐっと高く持ち上げた。
 その動作により拓海の剣は地面から外れ、ムカデは自由に動けるようになる。
「園舎へ向かいます!」
 頭を大きく動かしたムカデの素振りを見て、姫乃がエージェント達に注意を促す。
「やっぱり来たか」
 園舎を守るためにその前で構えていたバルトロメイは口角をあげると、すぐ横に並んだ拓海と一瞬だけ視線を合わせた。
「行くぞ!」
 二人は息を合わせて、同時にストレートブロウで攻撃した。
 大きすぎる体を何メートルも吹き飛ばすことはできなかったけれど、ムカデの体はぐらりと傾いた。
 その隙をついて、由利菜はライヴスブローでフェイルノートにライヴスを纏わせ、ムカデの足を狙う。足の関節に矢は刺さったものの、足の動きを封じることができないことがわかると、由利菜は武器をブラッディランスに持ち替えて、横に薙いで足を切り落とした。
 ムカデは再び体を大きく動かし、今度は園舎とは反対のほうへ逃げようとする。その際、後ろ側の胴を園舎にぶつけた。

 園舎が揺れ、子供達が悲鳴を上げる。
 ゆらに本を読んでもらっていた子供達は、ぎゅうっとゆらに抱きついた。
「大丈夫よ」と、ゆらも子供達を抱きしめる。
「皆のことは絶対に守るからね!」
 美夜も一緒に遊んでいた子供達を抱きしめた。
 他のエージェントや保育士も近くにいた子供達を抱きしめ、安心させることに努めた。

 急に方向転換したムカデの足に、フミリルの華奢な体が弾き飛ばされそうになる。
 そんなフミリルの腕を引っぱり、ムカデから離しながら、槻右はシルフィードを振るってその足を切り落とした。
 ムカデが向かった先には久朗がいた。
「やられっぱなしってのは、癪に障るからな」
 その口を大きく開け、ムカデは久朗を狙う。
 他のエージェントが息をのむ中、久朗はムカデの口の中に自らの手を入れた。
「久郎さん!」
 慌てて久朗の名を叫んだ拓海だったが、久朗がムカデにあえて噛ませた腕が機械化した左腕であることに気づく。
 さらに、久朗は右手でその牙をしっかりと押さえ込んでいた。
「はやく攻撃を!!」
 久朗が作ってくれたチャンスを利用して、再び一斉攻撃をしかける。
「招かれざる存在よ……この世界から去れ!」
 由利菜はムカデの胴と頭部の節目へライヴスブローにより強化したブラッディランスを突き立てる。
「フミリルが成敗しちゃうよ☆」
 フミリルこと一二三もライブスブローでスナイパーライフルを強化し、ムカデの口内へ連射する。
 それと同時に、縁はブラッディオペレートを口内へ放つ。
 二人の攻撃がムカデの口の奥へと命中した次の瞬間、口から大量の深緑色の体液が流れ出し、その巨体は塵になるように消えた。


 戦闘が終わり、その日は保育士とエージェントで一緒に子供達を家まで送り届けた。
「時間が許すなら、もっと園児達とふれあいたかったな……」
 そう漏らしたリーヴスラシルに、拓海が「それなら」と提案する。
「明日も保育園に集まりませんか? まだ清掃とかも不自由分ですし、手伝ってほしいことがあるんです」

 翌日早朝、エージェント達は再び保育園に集まっていた。
 縁と一二三、久朗、それからセレティアと槻右、そして、それぞれの英雄達は昨夜の戦いで荒れてしまった園内の清掃をしていた。
 ムカデの体液だけは、昨夜のうちに体液が付着した砂や土ごとゴミ袋に入れ、H.O.P.E.へ処分を依頼していたが、回収することのできない部分についた体液の拭き取り及び消毒作業や、砂や土の整地を行う。
 上太とゆら、由利菜とそれぞれの英雄達はムカデの足跡や腹の跡が残っていた花壇の手入れを行う。
「……おはよー……ございます」
 後ろから聞こえた小さな声にバライヴァが振り返ると、そこには勇馬が立っていた。
「よぉ!」と、バライヴァが土で汚れた手を挙げると、ハイタッチするように、勇馬はその手に自分の手をパチンッとあてた。
「うちの子がお世話になりまして……」
 勇馬を追ってきた母親は、勇馬とは違い、随分と大人しそうな女性だった。
 その姿に上太は立ち上がると、にこりと微笑んだ。
「お母さん達の素敵な笑顔も守れて良かったです」
 それまでバライヴァのガラの悪そうな姿に遠巻きだった母親達まで、わらわらと上太の周りに集まる。
「本当に、ありがとうございました」と、口々にお礼を言う母親達の中、頬を染める者までいる。
「似合わない」
 花壇の花達とバライヴァを見比べてそう言った勇馬に、バライヴァは自信満々の笑みを浮かべる。
「この俺様の手にかかれば、もっと素晴らしい花壇にしてやるぜ!」
「墓イーの髪にはムリ」
 勇馬はバライヴァの髪を触る。
「昨日から何度も言ってんだろ。俺は破壊の神であって、墓イーでも、歯か胃でもねー。ましてや、神ってのは、髪の毛のことじゃねーんだよ」
「ふーん」と、勇馬の気はすでに足元のダンゴムシに逸れている。
「皆さん、こんなことまでしていただいて、ありがとうございます」
 エージェントにお礼を言った園長に、拓海は昨夜戦闘の後に家で描いたイラストを見せる。
「従魔と戦った跡を消すため、壁と屋根一杯の絵を描かせてもらえませんか?」
 園舎の壁には昨夜ムカデがぶつかった時に出来たひびや、飛び散った体液の跡があった。
「ゾウやキリンとか、大きいけれど可愛くて楽しい絵で、子供達の記憶を塗り替えたいんです!」
 拓海の真剣な眼差しに、園長は頷いた。
「ぜひ、お願いします」
 園長から許可をもらい、拓海と整地を終えた槻右は、花壇にいたゆらも誘ってさっそく作業に取りかかる。それぞれの英雄達もペンキを運んだり、梯子をかけたりして準備を始めた。
「ウィンもこういうの、だいぶ上手になったよね」
 清掃後、縁はウィンクルムと一緒に滑り台やブランコの修繕を始めていた。遊具はムカデによって壊されたわけではなく、老朽化によって錆びたり、傷ついたり、ペンキがはげているだけだが、子供達のために綺麗に修繕していた。
「それはもう頻繁に手伝わせていただいておりますので」
「なんか嫌味っぽく聞こえるな」
 縁が苦笑すると、ウィンクルムは真面目な顔で言った。
「いえ。楽しんでおります」
 園児が全員登園してくると、久朗は和広に精神的にショックを受けている子供がいないかを確認した。
「強いストレスによる精神的ダメージがあるかどうかは、もうちょっと日が経ってみないとわかりませんが、いまのところは皆、元気ですよ」
「むしろ」と、和広は言葉を続ける。
「エージェントの皆さんのおかげで、昨日は特別に楽しかったという感覚が強い子のほうが多いですね。不安がっていた子供達も、今日再び皆さんに会えたことで、昨日のことは今日のこの楽しい時間の前置きだったんだという認識に変化しているように見えます」
「……そうか」
 久朗は、元気に駆け回る子供達に優しい眼差しを送る。
「職員の皆さんも元気ですか?」
 セラフィナの言葉に和広は「おかげさまで」と笑顔を見せる。
「また、皆さんが新海公園へ遊びに行けるといいですね」
「公園の修復が済んだら、また遊びに行くつもりです」
 和広と話していたセラフィナの足元に、子供達がどーんっと突っ込んできた。
「これ、ありがとう!!」
 そう言って、女の子達はセラフィナが渡したぬいぐるみ等を差し出す。
「いや、それは……」
「あげるよ」と言おうとしたセラフィナに、女の子達の後ろにいた里佳子が目配せした。
 セラフィナがぬいぐるみを受け取ると、女の子達はまた駆けていく。
「親切で渡してくださったのに、ごめんなさい」
 里佳子は謝り、事情を説明する。
「子供達にそのぬいぐるみ、大好評だったんです」
「それじゃ、どうして?」
「だからこそ、返すということをちゃんと学べるかなと思って……すみません。無理矢理、ご協力いただいちゃって」
「……昨日、そんなこと考えていたんですか?」
 あの状況の中、冷静に子供達の教育について考えていた里佳子に驚く。
「保育士さんって、肝が据わってるんですね」
 ぬいぐるみを抱きしめて、セラフィナは笑った。

「ゆらさん、どうかな?」
「四季の様子も入れたらどうかなぁ」
 拓海はゆらと相談しながら、下絵に細かな部分を描きたしていく。
「落ちたらバルトが姫抱っこで受け止めてくれるのですって! 安全ね☆」
 屋根の上から、下で作業しているバルトロメイの姿を確認してメリッサは野乃にそんな情報を教える。
 情報を教えるだけでなく、本当にバルトロメイが受け止めてくれるのか、メリッサは実験がてら飛び降りてみた。もちろん、受け止めてもらえなかった場合を想定して、着地のイメージはしておく。
 しかし、そんなイメージは必要なかったようで、屋根から降ってくるメリッサにすぐに気がついたバルトロメイはメリッサをしっかりとキャッチした。もちろん、お姫様抱っこで。
「なにやってんだ? てめぇは」
 バルトロメイが、わざと落ちてきたメリッサに小言の一言でも言ってやろうかと思ったとき、聞き慣れた声が聞こえた。
「それじゃ、いきますよー!」
 セレティアは美夜とリーヴスラシル、由利菜と一緒に子供達を集めて、鬼ごっこをはじめたようだ。
「楽しそうね」
「……だな」
「セレティアちゃんのことじゃないわよ?」
 メリッサの言葉に、セレティアの笑顔しか見ていなかったバルトロメイは思わず「え?」と聞き返した。
 屋根の上では作画作業が進んでいた。
「子供達が思い出さないように園をキレイにしてあげよ」
 ゆらはハケで下絵にペンキを塗る。
「……子供の心に傷が残ることほどむごいことはないからな……」
 シドは細めのハケで細かい部分を担当する。
「絵やお花で怖かったっていう気持ちがだんだん薄れていくといい……私がそうだったから……」
 シドはそっと、優しくゆらの頭を撫でた。
「!?」
 驚いたゆらは、瞳を見開いてシドを凝視する。その瞳から、シドは視線をそらした。
「俺だって、たまには……だ」
「そのたまの優しさがムカデより怖いんですけど!」
「お前な……」と、シドは眉間に深い皺を刻んでゆらを睨んだ。
「野乃、頼むね」
 拓海はいつの間にか姿を消しているメリッサのことは気にせずに、野乃と槻右にハケとペンキを渡す。
「拓海さん、絵を見に来たよー!」
 下から手を振る縁に、拓海も手をあげて応え、梯子を使って下へ降りる。
「縁、手が空いていたら手伝ってほしいんだけど」
「もちろん! なんでも言って」
「はいはーい!」と、手が空いていた一二三も挙手をする。
「うちもお手伝いしますえ!」
「私もお手伝いできますわ」
 姫乃も集まり、拓海は「ありがとう」とお礼を言った。
「私もするぞ!」と、キリルが少し離れたところで叫んでいるが、なぜか子供達に大人気で、髪の毛や服を引っ張られている。
「や、やめろ! 髪を引っ張るな! 背中に乗るな!! ふ、フミッ!!」
 子供達に囲まれてもみくちゃにされ、一二三に助けを求めるキリルを見なかったことにして、一二三は拓海に笑顔を向けた。
「それじゃ、はじめましょか」
「この壁のほう、塗ってもらえる?」
 拓海も特にキリルのことを気にすることなく、三人にペンキとハケを渡す。
 ペンキを塗りながら、縁は拓海の描いた絵をまじまじと見つめる。
「こんなの描けるなんて、すごいね……」
 純粋な賛美に拓海は照れる。
「今度、遊びに行って、他の絵も見せてもらっていい?」
「うん」と拓海は頷く。
「見てほしいな」
 そう拓海が笑顔を見せた時、屋根の上から野乃が拓海を呼んだ。
 拓海が梯子を上がっていくと、そこには予想外の姿になったゾウがいた。
「ぞうさんの色はこの色でいいかの? 明るめにしてみたのだが」
「明るめっていうか……」
 金色のゾウにすこし戸惑った拓海は言葉を探したが、適切な言葉が見つからずに同じ言葉を無意味に繰り返す。
「明るめ……うん。確かに、明るめ……っていうか、明るいね。すごく明るいね。ちょっと目が痛いくらいに明るいよ……」
 ちなみに、ゆらが塗っているキリンはパッションピンクだ。
 いくら子供達の記憶を塗り替えたいとはいえ、これはさすがに強烈すぎるんじゃないかと心配になった拓海だったが、下のほうから聞こえてきた子供達の声に考えを改めることになる。
「うお〜! かっけ〜〜〜!!」
 金色のゾウに盛り上がる子供達の姿に、エージェント達も笑顔になった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
  • 黒の歴史を紡ぐ者
    セレティアaa1695

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • 繋ぎし者
    坂野 上太aa0398
    人間|38才|男性|攻撃
  • 守護の決意
    バイラヴァaa0398hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • 乱狼
    加賀谷 ゆらaa0651
    人間|24才|女性|命中
  • 切れ者
    シド aa0651hero001
    英雄|25才|男性|ソフィ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 拓海の嫁///
    三ッ也 槻右aa1163
    機械|22才|男性|回避
  • 大切な人を見守るために
    酉島 野乃aa1163hero001
    英雄|10才|男性|ドレ
  • 水鏡
    榛名 縁aa1575
    人間|20才|男性|生命
  • エージェント
    ウィンクルムaa1575hero001
    英雄|28才|男性|バト
  • エージェント
    紅鬼 姫乃aa1678
    機械|20才|女性|回避
  • エージェント
    美夜aa1678hero001
    英雄|12才|女性|シャド
  • 黒の歴史を紡ぐ者
    セレティアaa1695
    人間|11才|女性|攻撃
  • 過保護な英雄
    バルトロメイaa1695hero001
    英雄|32才|男性|ドレ
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