本部
救いなどない。ただ認めるのみ
- 形態
- ショートEX
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
- 1,500
- 参加人数
-
- 能力者
- 8人 / 7~8人
- 英雄
- 8人 / 0~8人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/07/12 09:00
- 完成予定
- 2017/07/21 09:00
掲示板
-
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/07/09 03:26:21 -
相談卓
最終発言2017/07/11 15:15:21
オープニング
●
この世は無関心に満ちている。
それが、私がこの世界に訪れて最初に抱いた感想である。
この世界の人々は、どこを見渡しても無関心だ。人が死んで電車が止まろうと、そこに哀惜の情は抱かない。誰かが苦しみ助けを求めようと、場違いな精神論で押さえつけ見向きもしない。誰もが苦しんでいるにもかかわらず、それらへの同情の念は欠片も持たない。
この世界は、無関心という名の怠惰に塗れている。
だから、私はそれを少しでも減らそうと、決めたのだ。
●
遠くの高架線から、電車が通り過ぎていく音が鐘のように聞こえてきた。それに反応して、僕はうつむいていた顔を上げたが、その瞬間に耐えがたい激痛に苛まれてまた下を向いた。
両手で握りしめていたのは、黒い革の長財布。父親から高校進学祝いにもらったものだ。妖しい輝きが夕日に照り映えるはずのそれは、しかし砂と泥にまみれてその面影もない。あちこちに赤いものが混じっているが、これは僕が鼻から噴き出したものだ。
「はぁ……」
一人で座るには広すぎるベンチの隅に、僕は背中を丸めて腰掛けていた。傍目からみれば何か黒い影みたいにしか見えていないだろうけれど、それでもかまわない。僕のことを少しでも放っておいてほしかった。
あまり思い出したくもないけれど、どうしてこんなことになったのか少しだけ思い返してみた。今日の昼、高校の不良連中から、放課後この公園にありったけの金を持って来いと言われた。来なかったらお前を殺すとも言われた。僕はもうそんな脅しを受けるのは十二回目だったから、おとなしく従った。
実際のところ、連中が約束というものを覚えていることは不可能だったらしいので、全財産を引き渡したらその瞬間に腹に膝蹴りを見舞われた。ニヤニヤニタニタと、下卑た笑いを浮かべながらうずくまる僕をボールか何かのように蹴り飛ばす彼らは、やっぱり人間じゃあなかったんじゃないだろうか。
散々僕につま先を入れて満足した連中は、僕のことなんて始めからいなかったかのように、今日の夜どこで遊ぼうかという相談を楽しそうにしながらここを去った。僕が起き上がれたのはそれからしばらくしてのことで、助けにくる人は誰もいなかった。
――。
もう、嫌だ。
取り繕ったところで、あの痛みを、苦しさを紛らわすことなんてできやしない。自分はあいつらなんかよりもずっと努力した。努力して努力して、学校のテストで一位を取り続けた。なのに褒めてくれる人は誰もいない。人間同じことが続くとどんなことでも慣れてしまうのか、先生も友達も両親さえも、僕の頑張りを認めてはくれなかった。
僕だって、誰かに褒められたい。
なのに――
「隣、いいか?」
「へっ……?」
不意に声をかけられて、僕は痛みにも構わず上を見た。そこにいたのは、全身を黒いぼろぼろの布で覆った、旅人のような人だった。フードを目深にかぶっていたし、夜も近いせいで光量もなかったので表情は見えない。けれど、悪い人ではなさそうだった。
「ど、どうぞ」
「ありがとう」
その人は低いけど良く通る声でそう言ってから、僕と体半分離れたところに腰を落ち着けた。その人は特に何をするでもなく、ぼうっと住宅街の屋根を眺めていた。
言うまでもなく知り合いではない。わざわざ僕の隣に座ってきたということは、僕が弱っているのを見て何かたかりに来たか、勧誘しに来たのだろうか。いずれにせよいい話は持っていそうにない。
「少年」
「……」
「君のことだ、少年」
「え、はい? 僕ですか?」少年なんて呼ばれたのは初めてだった。
「君しかいないだろう。物言わぬ岩のようにずっといただろう。何かあったのか」
「……あなたには、関係のない事です」
こうして事情を聞かれることだけでももう涙が出そうだった。だけど言ったところで何か変わるわけでもない。本当に、放っておいてほしい。首を突っ込まれたくはない。
「そうだな。関係のないことだ。君の事情を聞いても私には何もできないし、その資格もない。だが、話を聞いて君の気を楽にすることだけはできる。かの哲学者は対話を用いて人の無知を暴いたらしいが、それと同じ事が出来るのではないか?」
「……話すだけで、いいんですね?」
「それで君が楽になれるのなら」
優しい声だった。穏やかな声だった。僕はあふれる涙を抑えられなかったけれど、それでも少しづつこの不思議な人にいままでのことを語った。語っているうちにも涙が僕の手の甲に落ちた。
「……ってことです」
「成程。それは、やはり私の力ではどうにもできないな」
「そう、ですよね」
期待していなかったわけじゃない。この人が漫画の中のスーパーヒーローで、弱い僕を鮮やかに救い出してくれるなどと。だけどその願望は当の本人にあっさり否定され、むしろすっきりした。
「だが」
「?」
すると、その人は腕をにゅっと伸ばしてきて、温かい大きな手を僕の頭の上に置いた。
「君が、今日この時まで彼らの仕打ちに対して耐え忍んできた気高い男だということは、私にも理解できた。君は、強い。――よくがんばったな」
そう言って、父親のように頭を撫でてきた。
胸の奥に、すとんと温かいものがしみ込んだ気がした。
ああ。ようやく、その言葉を言ってもらえた。それだけでもう満足できた。自分の人生をこの人に保証してもらえた気がした。
「ありがとう、ございます」
不思議なことに、脚の先から僕の体は徐々に原子が離れていくように消えていっていた。僕は一抹の不安を覚えたけれど、あの人の手は変わらず暖かかった。大丈夫だ、何も心配しなくていい、と言外に伝えていた。
粒子が迫る。もう足の付け根まで僕の体は消えていた。それまでに、僕は伝えなくてはならない。
「ありがとうございます。こんな僕を、認めてくれて。何もできずにうずくまっていただけの僕を拾い上げてくれて。これ以上なんて言ったらいいのかわからないけれど」
「そう卑下するな。誇っていい。君は私が出会ってきた中で誰よりも強い。ほかならぬこの私が、君の人生の証人となろう」
芝居じみた言い回し。けれどこれぐらいのほうが、こんな非日常にはふさわしい。
僕はもう胸の下しか残っていない体で、最後に一つだけ聞いてみた。
「あなたの名前、まだ聞いていませんでしたよね。教えていただけますか」
「名乗るほどでもないが……そうだな。強いて言えば、私の名は『レイズ』。君を引き上げる男のつまらない名前だよ」
「レイズ、さん。はい。本当に、ありがとうございました――」
そして、僕は、この地上から姿を消した。
一人残された公園で、『レイズ』は長財布を拾い上げると、苦々しい表情でポケットにしまい込んだ。
解説
目的:デクリオ級愚神『レイズ』の撃破
登場人物
『レイズ』
・デクリオ級愚神。一枚の黒い布を着込んだ背の高い男の姿。数か月前から活動が観測された。
・以下、戦闘データを記す。
昇華
・対象一体の体に触れ、そのライヴスを空中に霧散させる。対象にダメージと劣化(物理攻撃+1)付与。
承認
・認識した対象一体の在り方を肯定する。特殊抵抗判定に失敗した場合その対象に翻弄を付与。
解放
・対象一体に触れ、体内ライヴスごと対象の体を破壊する一撃を放つ。対象に大ダメージと拘束、極低確率で気絶(2)付与。
・詳細がほぼ不明な謎の愚神。攻撃対象になった一般人が強い精神的疲弊、人間関係などに多大な精神的損耗を負った者ばかりであるため、そのような人間を選んでいると思われる。
・被害に遭った一般人はそのすべてが「満足した表情で」「肉体を残さず消滅」している。また、被害者の映像が音声付きで入手できたため、エージェントに公開する。参考にすること(PL情報:オープニングのこと。ただしあくまで映像と音声だけ)。
戦場
公園
・ごく一般的な公園。ブランコ、砂場、滑り台が置かれている。プリセンサーによると、夕暮れにベンチに座っている一般人を狙って『レイズ』が訪れるとのこと。
・周囲は住宅街。だがある程度公園との距離は離れている。
試練
・『レイズ』は被害者のすべてを認めたうえで殺した。被害者は一切そこに恐怖を抱かず、満足のうちに死亡した。『レイズ』は善か、悪か。
マスターより
山川山名です。
今回のテーマは『祝福』。というよりは、もっとありふれた、言うなれば『称賛』というものです。
それでは、よろしくお願いします。
リプレイ公開中 納品日時 2017/07/18 13:51
参加者
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依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/07/09 03:26:21 -
相談卓
最終発言2017/07/11 15:15:21