本部

戦闘

霧は豹変する

影絵 企我

形態
シリーズ(続編)
難易度
やや難しい
参加費
1,300
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/05/14 07:30
完成予定
2017/05/23 07:30

掲示板

オープニング

『来ないでください』
 扉の向こう側から掠れた声が響く。青藍は顔を曇らせ、ノックしたまま扉に置かれていた手を静かに下ろす。あの日から。彼女の英雄が自覚的に記憶を取り戻し、己の姿さえも変じてしまったあの夜から、二人の関係はずっとこの調子だった。
「すみません」
 澪河青藍は唇を噛む。人に近づかれるだけで、英雄は発作を起こして激痛に苛まれるのだという。吸血鬼となっていく身体が、生存のために人間の血を欲し、渇きを知らしめるために全身に泡立つような激痛を与えるのだと。一度だけ扉を無理に開いた時に見た彼の髪は、苦痛の果てに総白髪へ変わってしまっていた。それを前にしては、青藍も彼にしてやれることを見失ってしまうのだった。
『……謝るのはこちらの方です』
 英雄の方も、青藍を邪険に扱いたいわけではない。彼女と共に戦った記憶もまた、確かに残ってはいるのだ。空の物置に閉じ籠ったまま、彼は膝を抱えて呻く。だが、気の狂いそうな、ともすれば堕ちてしまいそうになる拷問には耐えられない。
『ですが、やはりダメなのです。喉元に喰らいつきたいという衝動と、全身の骨が溶けるような激痛に……私はこれ以上耐えられそうにありません……今度貴方の姿を見れば……きっと……!』
「……あの、私は……」
 それでもいい、と言うことは出来る。知り合いには事ある度に英雄へ自分の血を差し出している能力者がいる。自分もそうしたところで、別に死にはしないだろう。自分が吸血鬼になる事も無い。厳密には、彼も吸血鬼では無いのだから。
 だが、それを彼がよしとするとも思えなかった。そんな受け入れ方こそ、「彼であること」を完全に破壊してしまうように思えた。そうして、青藍は出口を見失ってしまうのである。
(ダメだな……私は)
 沈痛な面持ちで、青藍はその場を立ち去る。ふと、携帯へとその手が伸びた。待ち受けは、神社の前で撮った家族写真。その中には、嫌々ながらに写る、彼女の英雄の姿が。
(もう、私だけじゃ……)
 ダイヤルをタッチする。通話ボタンを押し、彼女は静かに電話を耳へと押し当てた。


 暗がりの中に取り残された英雄は、小さく溜め息をつく。自分こそ、いけないとわかっていた。彼女は自分を想ってくれているというのに、自分が応えられないだけなのだ。結局は我が身が可愛いだけなのだ。彼は自嘲した。
『……懐かしい感覚じゃないか……だろう?』
 英雄は呟く。あの時もそうだった。あの愚神にばら撒かれた記憶のピースを継ぎ合わせると、見えてくる。かつての世界で、自分は同じように大切にし、されてきた人間を拒んでしまったのだ。
(いかにもみすぼらしい人間じゃないか、私は……それで、結局、……結局、どうなった……?)
 その先が見えない。英雄は弾かれたように立ち上がる。脳裏に浮かぶのは、鋭い紅。激しい死臭。身を焦がす絶望。何があったかは思い出せない。

 だが、何が起きたか、悟るには十分だった。


「すみません。来てもらったりして……任務、御疲れ様です」
 神社を訪れたエージェントの前に姿を見せた青藍は、随分とくたびれた様子だった。目元にはうっすらとクマも見え、ろくに寝られてもいないような雰囲気である。どうしたのかとエージェントが尋ねると、彼女は力なく微笑んだ。
「少し……話を聞いて頂きたくて」
 そう言うと、彼女は階段の隅に腰を下ろす。エージェントも合わせてその隣に座ると、彼女はぽつりぽつりと語り始める。

 今まで英雄と続けた旅を、英雄の顔さえ見られぬ今の有様を、自分の想いを、自分の迷いも、全て合わせて。

「……わからなくなっちゃったんです。いざって時になって。あの人をどう受け入れたらいいのか。……言葉が見つからなくなってしまったんです」
 青藍は力無く頭を抱える。ただでさえ細い彼女の姿は、易く手折れそうなほどに脆く見えた。
「……どうすればいいんでしょう。私は。あの人になんて声を掛けてあげれば、あの人を安心させてあげられるんでしょう? 何があっても、あの人は私の英雄だから、と思っていたのに。この時になって、何もあの人にしてあげられないなんて……」


(青藍……)
 飛び出した英雄は霧雨の中をひた走る。何が近づくなだ。英雄は後悔した。ウォルターとしての記憶が、薄々勘付かせていた。この後に待ち構える絶望を。エイブラハムとしての記憶が、彼女一人ではそれを避けようもない事を知っていた。
(駄目だ。いけない……そんな事、あっては……やめろ……)

(モンタギュー!)


 目にうっすらと涙さえ浮かべる青藍。そんな彼女に、エージェントは声を掛けようとする。
「姉さん!」
 だがその時、少女がバタバタと境内へ駆けてくる。仁科恭佳だ。血相を変えて、社務所の方を指差しながら叫ぶ。
「ウォルターさんが! いない!」
「……そんな」
 その言葉につられて慌てて立ち上がる青藍。エージェントの言葉も待たず、彼女は慌ただしく駆け出してしまった。呆然とその背中を見送るエージェントの携帯に、連絡が入ってくる。

――従魔が出現します。他のエージェントが向かっていますが、可能ならば援護を――


『……ぅ、あ。そんな……』
 街の路地裏。青藍の英雄は顔を真っ青にして目の前の光景を見つめていた。眼を逸らしたくても、逸らす事が出来ない。目の前に立つのは、白いコートを紅く染め上げて立つ、厭らしい笑みを浮かべた男。その右手のナイフからは、とめどなく血が滴っている。
「おやおや。また間に合いませんでしたねぇ?」
『青藍……』
 容赦なく、彼の中に記憶が流れ込んでくる。大切な存在を外へと追いやって後に訪れた悲劇。首の皮一枚というところまで、バッサリと喉を切られた彼女。皮を全て引き剥がされ、何者かもわからなくされた彼女。腹を引き裂かれ、臓腑を滅茶苦茶にかき回された彼女。人間であることの尊厳をこれでもかと傷つけられたその人が、彼の劫罰の重さを知らしめたのである。
 そしてこの世界でも、思い知らされたのだった。
「うむ……やっぱりコートは白がいいですねぇ。どれだけ人を傷つけることが出来たか、眼で見てよくわかるというものです。貴方も黒のコートなんかやめて白にしましょうよ、白に」
『貴様』
 英雄は震える唇を白くなるほど噛む。目の前に倒れる、最早原型を留めぬ亡骸を前に、彼はやり場の無い怒りを目の前の愚神へぶつけようとした。
 しかしその時、空から三体の死神が降ってくる。路地の入口にはエージェントも駆けつける。一気に騒がしくなった周辺に、愚神――夜霧はへらへらと嗤い、そして顔を顰めて舌打ちする。
「何だよ。また邪魔か? ……つまんねぇことするよなァ。……だが」
 夜霧が指を鳴らした瞬間、ミザリーはがくがくと震えながら立ち上がり、辺りは霧に包まれていく。
 得意満面、夜霧は叫んだ。

「どれだけ俺をぶっ殺そうったって無駄だ。俺は霧に愛されてるんだからなぁ!」

解説

作戦目標
1、ミザリーⅤ型、リーパー3体の討伐
2、霧の衣の破壊
3、青藍の英雄の保護

エネミー
ミザリーⅤ型
ミーレス級従魔
ステータス
攻撃0 生命B その他D
スキル
・悲鳴
 鋭い悲鳴は周囲のビルに響き渡る。

リーパー×3
デクリオ級
〇ステータス
 命中A、その他B。空中。
〇攻撃
・魂魄吸収
 魔法攻撃。自分の前方、半径2sq以内に存在する敵へ攻撃する。与えたダメージと同じ数値分体力を増加させる。
・首狩り
 物理攻撃。射程1sq、周囲1sq全てが対象。命中した場合、減退(1D6)を与える。

夜霧
ケントゥリオ級愚神
ステータス
物攻C 物防C 魔攻B 魔防C 命中A 回避B 生命B
スキル
・殺人狂
 夜霧は1Rに2回行動できる。
・白昼霧
 魔法。全体対象。命中時、対象の視界を0sqにする。プレイングで無効化可能。
・魂魄吸収
 魔法。周囲10sq。(20-特殊抵抗)分ダメージを与え、その分生命力を増加させる。また、最終ダメージ値に+5する。
・滅多切り
 物理。単体。(2d3)回連続攻撃する。
-PL情報-
アイテム
・霧の衣
 夜霧の纏う白いコート。装備中、任意のタイミングでその姿を霧と変え、外界からの干渉を完全に拒絶する事が出来る。ただし効果発動中は外界に干渉する事も出来ない。

NPC
澪河青藍
 英雄の変貌に悩むエージェント。思いつめた彼女は知り合いに心中を吐露するが……
青藍の英雄
 エイブラハム・シェリングとしてこの世界で戦った記憶とウォルター・ドルイットとして向こうの世界で戦った記憶が混在し、自己同一性の危機に晒されている青藍の英雄。夜霧により向こうの今際で味わった絶望すら蘇らされてしまった。

Tips
フィールドは路地。幅は5sq、長さは20sq。障害物は無し。
避難はプリセンサーからの大まかな予見によって完了している。
青藍とやり取りしていたPCは3R以降に戦闘参加可能となる。奇襲も可。
青藍の英雄は青藍を殺されたと思い込んでいる。

マスターより

影絵企我です。
残すところは今回含めて後二回。終わりが見えてまいりました。青藍ともども未熟なMSですが、お付き合いいただけると幸いです。
今回のアドバイスというか追加情報としては、OPで青藍とやり取りした事に出来るPCは最大でも2組までです。十余人に囲まれて心情を吐露するという絵面はシュールというレベルではないので……全くいないのも困りますが、戦闘上の作戦にもなるということで、どうかその辺りはご容赦いただけると幸いです。
もう一つは、青藍の英雄の処遇です。肉体言語で黙らせて後ろに下がらせても問題はありませんが、何かしらの声掛けをしておくことで最終戦の状況が変化する……とだけ申し添えます。

ご武運を。

関連NPC

  • 花咲く想い
    澪河 青藍az0063
    人間|19才|女性|回避適性

リプレイ公開中 納品日時 2017/05/21 17:13

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • LinkBrave
    ヴァイオレット メタボリックaa0584
    機械|65才|女性|命中
  • 鏡の司祭
    ノエル メタボリックaa0584hero001
    英雄|52才|女性|バト
  • 生命の意味を知る者
    一ノ瀬 春翔aa3715
    人間|25才|男性|攻撃
  • 生の形を守る者
    アリス・レッドクイーンaa3715hero001
    英雄|15才|女性|シャド
  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046
    人間|25才|男性|防御
  • サクラコの剣
    メテオバイザーaa4046hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • 絶狂正義
    ユーガ・アストレアaa4363
    獣人|16才|女性|攻撃
  • カタストロフィリア
    カルカaa4363hero001
    英雄|22才|女性|カオ
  • エージェント
    エレオノール・ベルマンaa4712
    人間|23才|女性|生命
  • エージェント
    トールaa4712hero002
    英雄|46才|男性|ソフィ
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ

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