本部

戦闘

苦節20年の集大成

一 一

形態
ショート
難易度
難しい
参加費
1,000
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/11/14 07:30
完成予定
2016/11/23 07:30

掲示板

オープニング

●20年目の個展
「あ、それは1番奥のところで! ……うん、そこがいいです!」
 とあるビルの一角。貸ギャラリーとして設けられたスペースに、数人の男性が大量の荷物を搬入していた。
 その中の1人、50歳ほどの男性が出す指示の下、次々と運び出されているのはいくつもの木彫りの仏像。大小様々な仏像はどれも豊かな表情をしており、同じ種類の仏像であっても1つ1つが実に個性的な顔を見せてくれている。
 何より特徴的なのは、それらの仏像の完成度に大きな開きがあること。傾向として、小さな仏像はどこかつたなさの残る作品が多く、はっきり言えば未熟で見栄えが悪い。逆に、比較的大きい仏像は細部まで目が行き届いた力作が多く、見る者のため息を誘う荘厳ささえ感じられる。
「しかし、本当にいいんですか? 言っちゃ何ですが、作品の出来が天地の差がある個展なんて、初めて受け持つんですけど?」
「いいんですよ。今回の個展は利益が目的じゃなくて、私の彫刻家としての歩みを見せる、自己満足のようなものですから」
 展示を手伝っていたギャラリー側の責任者が心配そうに声をかけるも、個展開催者でもある彫刻家の男は快活に笑った。
 夢もなく、やりたいことも見つけられないまま大学を卒業し、たまたま内定をもらったIT企業に勤めて8年。気まぐれにとある展覧会に足を向けて、仏像の魅力にとりつかれた彼はすぐに退職。特に感銘を受けた彫刻家に弟子入りを志願し、彫刻家としての道を歩み出した。
 だが、幼少から特別美術センスが優れているわけでもなかった男は、なかなか芽が出なかった。彫刻技術も、作り出したい作品のイメージ力も、そもそも仏様に関する知識もからっきしだった男の挑戦は、最初から苦難しか存在していなかった。
 周囲からの反対の声を押し切り、いざ入門すれば同期や先輩は手の届かないはるか先を行き、後輩にはあっさりと追い抜かれ、師にすら見限られかけた。
 それでも、男は情熱を絶やさなかった。己の未熟さととことん向き合い、少しでも前に進むため、周りの雑音を閉じて邁進した。
 その結果、徐々に作品が評価されはじめ、ギャラリー側から声がかかって開かれる企画ギャラリーにも参加をさせてもらえるようになり、今では個展を1度開くだけで十分に生活できるほどの、売れっ子彫刻家として名が知られるようになった。
 その男が準備をしているのが、男自身の彫刻家人生の歩みを示す個展だった。評価が高い現在の作品だけではなく、普通なら捨ててしまいそうな初期の作品まで、まさに彫刻家人生すべてを公開するような内容となっている。
「それに、私が魂を込め続けた『彼』を披露する場は、私がこれまで歩んできた人生を、すべてさらけ出すような場でないといけないんです」
 男が見上げたのは、彼が作り出した仏像の中で1番大きく、かつ息が詰まりそうになるほど美しい千手観音立像だった。顔が全部で11、腕が全部で42本ある十一面四十二臂像は、しかし持物と呼ばれる道具類は一切持っていない。
「『彼』の制作は、私が未熟だった時代から着手してきました。そこには、私の未熟さと成長の過程が余すことなく刻まれています。今、これと同じ物を作ろうと思ってもできない、唯一無二の我が子のような存在なのです」
 よく見れば、千手観音の腕の一部はとても荒削りで、それこそ初期の作品から見える技術とそう変わらない。持物を持っていないのも、それと関係しているのだろう。
「だから、『彼』が人目に触れる場は、この個展でなければならないのです」
 そう語った男の表情は、どこか千手観音の笑みに通ずる、穏やかなものだった。

●汚された魂
 準備は着々と進み、開催日を翌日に控えた午後のこと。
 それは、前触れもなく突然現れた。
「うわあああっ!?」
 最終チェックをしていた作業員の悲鳴が、ギャラリーを越えてビルのフロア全体にこだました。
「どうしました!? ……ぁ」
 悲鳴に集まった彫刻家の男と、作業員が見たもの。
 それは、個展の目玉であった千手観音が、ゆっくりと動き出した姿だった。しかも、その手には数分前まではなかった持物らしき武器が握られ、異様な気配を醸し出している。
「じゅ、従魔だ! H.O.P.E.に連絡を!」
 責任者の声を合図に、千手観音は右手の金剛杵を振り上げ近くの仏像を薙ぎ払った。同時に、危険を感じた作業員たちも慌ててその場から逃げ出していく。
「ま、待て! まさか、『彼』を壊す気じゃないでしょうね!?」
「仕方ないでしょう!? あれはもうただの化け物です!」
「違う! 『彼』は私の子どもだ! 私の魂だ! それを破壊する!? そんなこと、私が許可すると思っているのですか!?」
「何を言ってるんですか!? このままじゃ、建物だけじゃなくて人にも被害が出るかもしれないんですよ!?」
 避難のさなか、彫刻家と責任者の間で激しい口論が交わされ、その声もまたH.O.P.E.へ届くことになる。

●求めるは破壊か救済か
「ここからほど近いビルに、従魔が出現したとの連絡が入りました」
 急遽集められたエージェントたちの前に、どこか困惑した表情で説明する職員の姿があった。
「場所は、著名な彫刻家の仏像が展示される予定の個展会場。その中の1体の仏像に憑依したものと思われます。同時に上がったプリセンサーの報告では、その従魔の脅威度はケントゥリオ級。決して油断できない相手です」
 ですが、と続けた言葉とともに、職員は眉間にしわを寄せる。
「実は仏像の制作者の男性が、『仏像に手を出すな!』と主張し、暴れているようなのです。何とかその場にいた作業員が取り押さえていますが、まだ彼らは従魔からほど近い位置にいて、避難しきれていないらしいのです」
 つまり、急がなければ個展関係者の命さえ危うい。
「……心情的には、制作者の気持ちもわからなくはないです。憑依された作品は完成に20年以上をかけた力作だそうで、自身の魂とまで豪語しているそうですから」
 男性の年齢からしても、ほぼ半生を賭した作品なのだ。簡単に諦めろと言うのも酷だろう。
「もちろん、人命最優先なのは当然ですが、可能であれば仏像への損傷を最小限に留めていただけますか? 電話口で聞いた涙混じりの怒鳴り声を、無視するのは忍びなくて」
 この言葉を最後に、エージェントたちは現場へ急行した。
 従魔の暴走を確実に止めるための破壊か、制作者と仏像を繋ぐ魂の救済か。
 各々が抱く、『彼ら』に下す選択とともに。

解説

●目標
 従魔討伐・人命救助(仏像保護)

●登場
 千手観音…ケントゥリオ級従魔。個展の目玉だった渾身の作品。彫刻家が修業時代も含め20年以上の月日を費やし完成させた、3mほどの木製仏像彫刻。立像と呼ばれる立ち姿の仏像で、実際の腕の総数は42本。展示では無手だったが、憑依後は武器を所持。憑依対象との結びつきが非常に強く、受けたダメージはダイレクトに仏像へと反映される。

 能力…物理・魔法攻撃・生命力↑↑、魔法防御↑、物理防御・移動・イニシアチブ↓。

 スキル
・宝戟・錫杖…射程1~3、単体物理、左手の宝戟による鋭い突きと、右手の錫杖による祓いの音。全BS回復。
・宝弓・宝箭…射程1~50、単体魔法、魔法攻撃ー50、命中+100、左手の弓と右手の矢による攻撃。障害物無視。
・羂索・鉞斧…射程1~5、単体物理、物理攻撃+100、命中ー50、左手の羂索で動きを封じ、右手の鉞斧で追撃。スキル命中→BS拘束付与。

●場所
 とあるビル1階の開けたギャラリースペース。フロアの隅の一角であり、千手観音の展示場所はちょうど四隅の直角部分。構造上いくつか大きな柱があり、長柄武器を取り回す広さはあるが、通路が若干入り組み射撃武器など一部武装の扱いに注意。足下には破壊された仏像や内装飾りが散乱。

●状況
 到着直後、従魔はまだギャラリースペース内部にいる。責任者の判断でビル内の避難指示は出されたが、個展関係者は全員彫刻家の拘束のため、ギャラリー入り口付近から動けない。ギャラリーから破壊音が断続的に聞こえ、徐々に入り口へ近づいている。
 使用武器・スキルによっては、討伐後に仏像へ傷が残る可能性あり。正面で合掌する2本を除く40本の腕に持物が握られるが、作りの甘さから簡単に破壊でき、腕破壊でスキルを使用不可にできる。

マスターより

 1人の芸術家の集大成を、個展ごと破壊しようとする従魔の討伐です。現在は目の前にある物の破壊に気を取られていますが、彫刻家を含む作業員たちのところへ移動するのも時間の問題です。

 スキルは千手観音が持つとされる持物の特性が現れ、かなり厄介な能力になっておりますが、腕の破壊でその後の戦闘でスキルの使用を封じることができます。この敵に配慮しながら戦うのは非常に骨が折れるかもしれませんが、皆さんができる最善の方法で被害を食い止めてください。

リプレイ公開中 納品日時 2016/11/21 20:32

参加者

  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 単眼の狙撃手
    灰堂 焦一郎aa0212
    機械|27才|男性|命中
  • 不射の射
    ストレイドaa0212hero001
    英雄|32才|?|ジャ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • ひとひらの想い
    想詞 結aa1461
    人間|15才|女性|攻撃
  • いたずらっ子
    ルフェaa1461hero001
    英雄|12才|男性|ソフィ
  • 終極に挑む
    橘 由香里aa1855
    人間|18才|女性|攻撃
  • 狐は見守る、その行く先を
    飯綱比売命aa1855hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • 暗闇引き裂く閃光
    大門寺 杏奈aa4314
    機械|18才|女性|防御
  • 闇を裂く光輝
    レミ=ウィンズaa4314hero002
    英雄|16才|女性|ブレ
  • やばみ僧侶
    田上迅雷aa4511
    人間|29才|男性|攻撃
  • エージェント
    南方諸童子aa4511hero001
    英雄|10才|男性|ドレ

掲示板

前に戻る
ページトップへ戻る