本部

戦闘

ラスト・レッスン

和倉眞吹

形態
ショート
難易度
普通
参加費
1,000
参加人数
能力者
6人 / 4~8人
英雄
6人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/07/19 12:00
完成予定
2016/07/28 12:00

掲示板

オープニング

「素敵ね。素晴らしいわ」
 コンサートホールに満ちる、伸びやかな歌声にうっとりしながら言う女の身体は、微かな光を放っている。
 しかし、極上の歌声の主は、それには気付いていない。苦しげな顔をしながらも、女の言葉通りの類稀な歌声をホール一杯に響かせているのは、十代半ばに見える少女だ。
 そして、その声は徐々にトーンダウンしていく。
 曲が終盤に近付いているのではない。少女の体力が、底を突こうとしているのだ。
 ただ一人の観客だった女は、満足げな顔で立ち上がり、クスクスと楽しげな笑いを零しながら、壇上へ歩を進める。
 やがて歌声が途切れ、力尽きた少女は近距離へ歩んできた女に凭れ掛かるようにして体勢を崩した。
 それを抱き留めた女は、優しく少女の耳許へ囁く。
「いい子ね。後少し、私の言う事を聞いて?」
「後……少し?」
 女の言葉を苦しげに反芻した少女に、女は妖艶な笑みを浮かべる。
「そう。これが“最期”のレッスンだから。一人でお部屋まで帰れるわよね?」
 目を合わせて歌うように言うと、少女は恍惚とした表情でコクリと頷く。
 やがて、女の腕から解放された少女は、覚束ない足取りながらも、ホールを後にした。

「助けて、欲しいんです」
 神原優と名乗る少女が、HOPEの支部を訪れたのは、もう少しで一般的な学校は夏休みに入ろうかという暑い日の事だった。
「学校も……警察も宛にならない。このままじゃ、次は私が死ぬ番なんです」
 思い詰めた顔をした優を、取り敢えず応接室に通した女性オペレーターは、彼女の前に冷たい麦茶を置いて先を促した。
「それはどういう事?」
「ニュースとかになってないからご存知ないと思うんですけど……私の高校では、もう四人も生徒が死んでるんです」
 優の話によると、三日程前、彼女の通う高校の同級生が、急死したという。
「亡くなったのは、南條歌苗さんと言って、私のルームメイトでした。私も彼女も、全寮制音大付属高校の二年生です」
 沈鬱な面もちを伏せ、優は続ける。
「さっきも言った通り、ウチの学校でこういった事件が起きたのは、初めてじゃありません。南條さん……歌苗で四人目なんです」
「と言うと?」
「ここ一ヶ月、ウチの学校では、声楽科専攻の生徒だけが、次々に衰弱死してるんです。特に命に関わるような持病はなくて元気に過ごしてたのに、ある日を境に見る見る憔悴してって、大体一週間くらいで、寮の自室で亡くなってるのを発見されるんです」
 それは確かにおかしい。
「じゃあ、貴方がさっき言ってた、『次は自分が殺される番』っていうのは、どういう意味?」
 それが核心を突く質問だったのか、優はビクリと身体を震わせた。心なしか顔色も、駆け込んできた時より青ざめているように見える。
 何に怯えているのだろうか。
 オペレーターは息を吐くと、テーブルを回り込んで彼女の隣に腰を下ろした。
「落ち着いて」
 そっと手を握ると、優は弾かれたように顔を上げて、オペレーターを見た。
「大丈夫よ。何があっても守るから、話してくれる?」
 本来、従魔愚神が関わっているとはっきりしない内にこういう事を言うのは、オペレーターの職務ではない。けれど、目の前で怯え切っている少女に、何もしないという選択も、オペレーターにはできなかった。
 少なくとも、こちらが心から言っているのは分かったのだろう。優は、目を伏せて小さく頷くと、口を開いた。
「じ、実は……亡くなった四人には、ある共通点があるんです」
「どんな?」
「最近……来校した特別講師の個人授業を受けていた事です」
「特別講師の、個人授業?」
 鸚鵡返しに言うと、優は頷いて言葉を継ぐ。
「ガイア=ランテ先生と言って、世界的なオペラ歌手だそうです。と言われても、私達は誰も知りませんでした。世界で活躍する方なら、それでもインターネットで検索すれば載っていてもおかしくないのに、全然検索でヒットしませんし……でも、校長先生は全校集会でそう言って、ランテ先生を紹介しました」
 実際、ランテも歌唱力は高いようだ。優も一度、彼女の歌声を聴いて、そう感じたという。
「でも、指導力は分かりません。歌が巧い事と、教えるのが巧いのは、イコールじゃありませんから」
 しかし、ランテは就任後、すぐに指名した生徒の個人レッスンに当たるようになったらしい。
「そして、最初の死亡者が出たんです……」
 それが、一ヶ月前の事だそうだ。
「それと、貴方が殺されるかも知れないという主張が、どう繋がるのかしら?」
「そ、それが……歌苗の遺体が彼女のご両親に引き取られてすぐ、ランテ先生は、私に個人レッスンへ来るように言ったんです」
「一つ確認したいんだけど、歌苗さんが亡くなるまでに、三人の生徒さんが、ミズ・ランテの個人授業に参加したのをきっかけに衰弱して、亡くなったのよね? それまでに、誰か疑問を呈したり、個人授業を拒否する子はいなかったの?」
 優は、益々眉間に眉根を寄せ、泣きそうになりながら俯いた。
「それは……一人目は、たまたま、その時に具合が悪くなったのかも知れないって。二人目の時は、『また?』っていう空気は校内に流れたけど、先生方は特に何かの対策を打ち出す訳でもなくて……三人目になると、何か縁起が悪いって言う生徒もいたけど、『騒ぎ立てると退学処分にしますよ』って先生に一喝されて……最後に指名された歌苗も、一日目のレッスンを終えて戻った時は、とても疲れているように見えました。もう行くのは止めた方がいいんじゃ、って言ったけど、『どうしても行きたい』って聞く耳を持ってくれなくて……初めは、気乗りしない風だったのに」
 一週間、彼女もランテの個人授業に足を運び続け、他の三人と同じように衰弱死してしまったらしい。
「私が……もっと強く止めていたら……」
 亡くなったばかりの友を思い出したのか、優は顔を泣き出しそうに歪め、膝に置いた手でスカートを握り締める。
「貴方は、その授業を拒否する事はできないの?」
「だから、ここへ来たんです。連続で人が亡くなってるけど、殺人事件て訳じゃないから警察は動いてくれないし、私は母子家庭で、奨学金で学んでます。そんな曖昧な理由だけじゃ、授業の一環なのに拒否はできません。でも……」
 行けば、自分も四人の生徒と同じ運命を辿る気がしている。
「歌苗が亡くなったばかりで、まだそんな気分じゃないって、今は保留にして貰ってます。勿論それも本当だけど、私……」
 まだ死にたくない。
 死んでしまった友人に申し訳なくて、口には乗せられずとも、オペレーターにはそれがよく分かった。

 説明を終えたオペレーターは、ミーティングルームに集ったエージェントを見渡して、話を結んだ。
「今のところ、プリセンサーの報告はありませんが、神原優さんの話が事実なら、放っておく訳にもいきません。新たな犠牲が出る前に、事態の解決をお願いします」

解説

〈〉内…PL情報=PCは知り得ない情報。PCがそれを知る為には、何らかのアクションが必要となります。
▼目標
生徒の連続不審死の原因を突き止め、その除去に当たる。

▼登場
■ガイア=ランテ…表向きは音大付属高校の特別講師。容姿は華やかで端麗。
〈デクリオ級愚神。
・高い歌唱力の相手に歌わせてライヴスを奪い取る。「上手な歌でないと食べる気がしない」らしく、歌を歌う人間からでないとライヴスを奪えない。
・歌う事で衝撃波を生じさせ、敵を攻撃。命中すれば、身体はなます斬りに。有効射程:3スクエア。ライヴス、もしくはAGWで防御すれば、相殺は可能。
・同じく歌で敵の攻撃を防御、もしくは無効化させる。
歌えなければ、攻撃・防御共にできない。いつも歌う事で相手を退けて来た為、接近戦・格闘は苦手。
武器らしい武器は特に持っていない。とにかく歌わせなければ勝機はある。歌っていない状態から新たに歌う為に、必要な溜めの時間は十秒程。
上手な歌を聴くのが好きな為、音痴な歌を聴かせて弱らせる方法も有り。〉

■神原優(かんばら ゆう)…全寮制の音大付属高校一年生。声楽科専攻。四人目に亡くなった生徒・南條歌苗(なんじょう かなえ)のルームメイト。
 
〈備考
・校長は洗脳されており、ランテを「世界的オペラ歌手」と思い込まされている。
・ランテの本拠は、学校敷地内にある第一ホール。個人レッスンは、例外的ではあるが、そこで行われる。
ホールは、全体面積三百平方メートル。内、舞台は百平方メートル程。座席三百席。〉

マスターより

こんにちは。和倉眞吹です。
今回は、音楽に絡んだお話になります。と言っても、有名作曲家や曲目が出る訳ではなく、あくまで味付け程度になりました。
本当は、絶対音感に絡んだミステリもどきを書いてみたかったのですが、今回はくっつける事ができませんでしたので、それは次回以降。

いつものように、プレイング提出の際には、マスター詳細の自己紹介欄にお目通し下されば幸いです。
それでは、皆様のご参加を、心よりお待ち申し上げております。

リプレイ公開中 納品日時 2016/07/25 20:50

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 美食を捧げし主夫
    会津 灯影aa0273
    人間|24才|男性|回避
  • 極上もふもふ
    aa0273hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • 楽天家
    片桐・良咲aa1000
    人間|21才|女性|回避
  • ゴーストバスター
    尾形・花道aa1000hero001
    英雄|34才|男性|ジャ
  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
    機械|27才|?|生命
  • 今、流行のアイドル
    小鳥遊・沙羅aa1188hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ

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