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戦闘

欲深な祈り

藤たくみ

形態
ショート
難易度
やや難しい
参加費
1,000
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/03/14 22:00
完成予定
2016/03/23 22:00

掲示板

オープニング

●経緯
 昨年の暮れ、H.O.P.E.宛に招待状を寄越した子供好きの愚神、アル。
 八人のエージェントがその魔手から子供達を解放するのを尻目に、当事者はまんまと逃げ果せた。
 とは言え状況柄、愚神打破にまで至らなかったのは想定内。
 重要なのは更なる犠牲を出さない事。
 かくして今年に入ってからもH.O.P.E.お抱えのプリセンサー(予知能力者)は愚神の動向――捨て置けばやがてもたらされるであろう未来図の捕捉を試み続け、そしてそれは成功した。

 ロシア連邦シベリア地方イルクーツク州州都イルクーツク。
 三月を迎えてなお雪深く厳冬に包まれたバイカル湖――その畔に建つ教会に、アルは現れる。

 以下はプリセンサーが垣間見た情景の一部である。


●全てを失い
 雪影がちらつくステンドグラスの色が落ちた礼拝堂では、修道女の弾くオルガンに二十名ほどの子供らが集い、聖歌を練習していた。
 祈りを捧げに来たのか、暖を取る為か、はたまた単なる時間潰しか――十名に満たない身なりも年恰好もばらばらの大人達が思い思いの席に座り、それをぼんやりと聴いている。
 やがて、入り口の扉が開け放たれた。
 帽子もコートもまっくろけ、髪はグレーで肌は白――上から下までモノトーンの老婆が、まみれた雪を払いもせず、季節外れの花籠片手に中へ足を踏み入れる。
 寒気が吹き込むのを幾人かが迷惑そうに振り向き、見かねた司祭が扉を閉じると共に、彼女へ挨拶した。
「神の家へようこそ、ご婦人。本日はどうされました? 何かお悩み事でも」
「“種蒔き”さ」
「なるほど、種を蒔けば自ずと刈り取る事になるでしょう」
 こうした暗喩的な物言いの訪問者に慣れているのか、司祭は老婆の用件に如才なく応える。
 老婆は左手で帽子のつばを下げ、「ふん」と小馬鹿にしたような息を吐く。
「なんでもおたくらの教えじゃ、自分の為に種を蒔いた者には破滅が、けど神様の為なら永遠の命が実るんだって?」
「よくご存知で」
「じゃあ――『両方の種を同時に蒔いたら、一体何が起こる』んだい?」
「お戯れを、そのような事は無……――っ!?」
 彼の否定は叶わなかった。
 なぜなら籠の中から一輪、鋼鉄の花がにゅっと突き出て、自分へ向けられたから。
「キャアアー!!」
 近くに居た女性が金切り声を上げ――籠が床に落ちて、色褪せた花が散り。
 銃身と化した老婆の右腕が顕わとなって、誰もが瞬時に事態を把握した。
 静謐な倦怠感に包まれていた礼拝堂を、俄かに恐慌が支配する。
 ――と、今度は小刻みな銃声とガラスの割れる音が矢継ぎ早に鳴り響き、ざわめく子羊達へ静粛を強要した。
「全員動くんじゃない」
 薬莢を撒きながら左腕を振り回していた老婆が、その袖口から上る硝煙をふっと散らす。
 右手の大口径は司祭に向けたままだ。
「……おっと、シストラ(修道女)と子供達は別だよ。唄うんだ、もう一度最初から」
「神よ……!」
「ここに居るじゃないか。神は神でも――愚神だけどね」
 老婆ことアルに現実を突きつけられ、修道女は嘆かわしげに天を仰いでから伴奏を弾き始めた。
 愚神は右の銃口を司祭の胸元へ押し当て、子供達の歌声――というよりは涙声が聞こえ始めると、世間話でもするような調子で、今一度問う。
「さっきの質問に答えとくれ、神(私)の為にさ。曲が終わるまで待っといてやるから」
 アルはそう言うと、怯えて震える司祭に人の好い笑顔を浮かべた。

 わたしは――

「…………っ」
 他の子達がシストラの背中にすがるような目で見て唄っているけれど、わたしはそれどころじゃない。
 ただ、お婆さんの顔を、何度も、何度も確かめた。

 ……どうしてここに。どうしてここに!

 せっかく逃げたのに。
 せっかくマロースおじさんに助けて貰ったのに。
 まさかあの子も一緒に来たのだろうか。
 どこかで見ているのだろうか。
 置き去りにしたわたしの事を恨みがましい目で睨みつけているのだろうか。
「ゆるして……」
 神様、どうか。


●全てを欲し
「プリセンサーによるとこの後、司祭はアルの質問に答え――彼と修道女を除いた――大人全員が解放されるとの事です」
 ブリーフィングルームにて一連の事情を語るのは、その制服からオペレーターと判別できる、けれど見慣れない長身の女性だった。
 新人だろうか、それにしては妙に落ち着き払っている。
 幾人かのそうした視線を意にも介さず、彼女は説明を続けた。
「……ですが、その後すぐに教会の敷地内をドロップゾーンと化します」
 つまり、子供ら二十名と二人の聖職者はゾーンルールの虜囚となる。
「更に良くない事に、かつてアルによって“ノーリ”と名づけられた少年と瓜二つの子供が――偶然か、必然か――今回の現場となる教会付属孤児院に保護されている、との事で」
 オペレーターは「詳しくはこちらに」と資料を差し出し、何かに呆れたような溜め息を吐く。
「……アルがその子に気づいた時、虐殺が始まるという予知が出ているんです。一方で、我々が直ちに駆けつけたなら、司祭とアルの会話が始まる頃には到着する――とも」
 猶予こそないが、行動の起点には融通が利きそうだ。
「もちろん、なりふり構わずターゲットを討てば解決というわけではありません。一人の犠牲も出さずに愚神アルを倒す――これが今回の任務となります」
 一般人が入り乱れる最中、なまじ早く動いて愚神を刺激した挙句、予知された内容よりも悪い方に転ばないとも限らない。
「状況を踏まえた作戦、変化に応じた行動が肝要となるでしょうね」


●ゆえ、今一度
 ここでオペレーターは「改めて言う事もないのかも知れませんが」と一同を見回した。
「ご承知のように、我がH.O.P.E.は世界で最も門戸の広い組織のひとつです。登録される方の年齢性別は元より、経歴、主義、思想、信条など、その一切を否定しません。しかしながら、当組織のエージェントとして任務をお引き受けいただく以上は、常に最大限の達成努力を期待します。そして――」
 そして。
「――そしてこの言葉によって皆さんの個性が損なわれる事はないと――H.O.P.E.の多様性は大いなる“力”たり得るのだと――私は、信じていますよ」
 徐々に声のトーンを落とし、伏目がちに、まるで祈るように。
 ――と思えば一転「そうそう」と両手を合わせ、やや穏やかな面持ちとなる。
「私も同行します。……と言っても、要請がない限り口も手も出すつもりはありません。ただ……着任して最初の案件です。何もする事がなくても、せめて見届けさせてくださいな」
 上品に微笑んで、オペレーターは居住まいを正す。
「申し遅れました。本日付でロシア地区の担当となりました、鬼丸鞘花と申します。他のオペレーター同様、欧州や東日本など複数のエリアと兼任ですので、今後お目にかかる機会も増えていくものと存じます。よしなにどうぞ」
 鞘花は楚々とした礼を以って、結んだ。

解説

【はじめに】
 こちらはシナリオ『無色の庭にて』より派生した事実上の続編となりますが、過去の参加・既読は問いません。
 仮に前回とお顔ぶれが違っていても、どうかお客様同士恨みっこなしでお願いします。

【目的】
 愚神アルの撃破、ただし犠牲者ゼロ厳守の事。

【舞台】
 イルクーツク市内の教会付属孤児院、主に礼拝堂。
 時間帯は昼過ぎ。外の天気は雪。

【アル】
 ケントゥリオ級愚神。
 人の好さそうな老婆の姿。パーソナリティはOPなど参照。
 体中に様々な銃火器を文字通り仕込んでいる模様。
 以下、判明している能力。
・拳銃:右の肘から先。通常攻撃。貫通。
・自動小銃:左腕の袖口。扇形の範囲攻撃。
・大砲:右腕変形。直線貫通攻撃。高威力。衝撃付与。
・おしおき:目を合わせた対象に大ダメージの幻覚。狼狽付与。
・ドロップゾーン:
 子供達を自分の忠実な孫とするルールを布く。
 孫は老婆の為だけに生き、有事には身を尽くすように。
 また、ゾーン内は彩度が損なわれ色褪せた景観となる。

【民間人】
・司祭:制限時間を科せられ質問の答えを必死に考え中。
・修道女:上記制限時間に相当するオルガン曲を恐々演奏。
・子供:二十名ほど。全員孤児。オルガンの周囲に集い怯えながら合唱。
・大人:十名ほど。

【ノーリ?】
 女の子。名前はアルビナ。九歳。
 双子の弟共々行方不明となっていたが後に彼女のみ発見、保護される。
 現時点では他の子供同様怯えているだけ。

【ノーリ】
 前回アルに囚われていた少年。
 別の愚神(雪娘を自称)に憑依されたまま姿を消す。

【鬼丸鞘花】
 要請がなければ外で待機。
(※装備以外のデータはマイページと異なるものを使用)

 以上H.O.P.E.による資料。以下PL情報。

【その他】
・重体・邪英化判定の可能性あり。
・ノーリや雪娘は現場付近に居ない。

マスターより

 藤たくみです。

 【東嵐】で巷がきな臭くなってきている最中、危険度も高めで心苦しいのですが、もしよろしければ、どうかお力添えを。

 ご参加お待ちいたしております。

関連NPC

  • サンサーラ
    鬼丸 鞘花az0047
    人間|37才|女性|命中適性

リプレイ公開中 納品日時 2016/03/24 18:58

参加者

  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • 我王
    ダグラス=R=ハワードaa0757
    人間|28才|男性|攻撃
  • 雪の闇と戦った者
    紅焔寺 静希aa0757hero001
    英雄|19才|女性|バト
  • 晦のジェドマロース
    マックス ボネットaa1161
    人間|35才|男性|命中
  • 朔のヴェスナクラスナ
    ユリア シルバースタインaa1161hero001
    英雄|19才|女性|ソフィ
  • 水鏡
    榛名 縁aa1575
    人間|20才|男性|生命
  • エージェント
    ウィンクルムaa1575hero001
    英雄|28才|男性|バト
  • グロリア社名誉社員
    防人 正護aa2336
    人間|20才|男性|回避
  • 家を護る狐
    古賀 菖蒲(旧姓:サキモリaa2336hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 市井のジャーナリスト
    玖渚 湊aa3000
    人間|18才|男性|命中
  • ウマい、ウマすぎる……ッ
    ノイルaa3000hero001
    英雄|26才|男性|ジャ
  • 絆を胸に
    五十嵐 七海aa3694
    獣人|18才|女性|命中
  • 絆を胸に
    ジェフ 立川aa3694hero001
    英雄|27才|男性|ジャ

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