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広告塔の少女~大発掘霊力温泉~
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相談卓
最終発言2018/03/14 07:00:40 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2018/03/14 00:06:15
オープニング
● 温泉旅行に行きたかったのに……
皆さんに残念なお知らせがある。
遙華が以前から吹聴していた二月の温泉旅行。
それが、遙華の予定変更によって無しになってしまいました。
「ごめんなさい、仕事の都合で……三月には、三月には絶対やるから」
しかし、三月とはまた微妙な季節である。温泉はいろいろな楽しみがある。
花見温泉。雪見温泉。しかし、三月は極めて微妙な季節である。雪も無ければ華もない微妙な季節である。
もちろん地方や、天気の具合でいくらでも調節可能だが……。
「なによりも約束が守れなかったのが悲しい」
そう深夜二時に遙華はしくしくと泣きながら書類にハンコを押していた。
「もう……」
ぽんぽんと押していく。
「もおおおおおおおおおお!」
ダムダムとハンコを押していく遙華。
「ああ、肩がこるのよねぇ」
疲れた、そう遙華が机に突っ伏すと、傍らのスマートフォンが震えた。
マナーモードのそれ、ディスプレイには『美人秘書(笑)』の文字。
「はい、ロクト?」
気のない返事をうんうんと唸るように繰り返す遙華、ロクトからの電話と言えば大抵仕事の話である。こんな時に仕事の話は聞きたくないの~。そんな風に思いつつ受話器を置かないだけの理性を何とか保って、ロクトの話しに耳を傾ける。
「うん、うんうん」
「え? 書類? 仕事? 予定よりは早く終わりそうよ」
「ええ、うん、その日は私の二週間ぶりのオフだけど」
「え? 仕事? いやよー、一週間前も代休が出るからって仕事させたじゃない。あれが本当だったらわたし、有給も合わせて、一か月まるまるしごと……」
「え? お……え? なに? よく聞こえなかった」
その時遙華は跳ね起きた、木端のように書面が空を舞う。
「温泉! 温泉連れて行ってくれるの!!」
しかも、みんなで。
その言葉に有頂天になった遙華は。
ロクトの気性という情報を頭からすっぽり抜かして、温泉というキーワードにただただ踊り狂うのだった。
一週間後の自分の落胆具合など、知らずに。
●霊力温泉?
今回は皆さんで温泉に行きましょうと言う企画ですが。
慰安旅行では決してありません(ごめんね) 。
れっきとしたH.O.P.Eへの依頼であり、報酬が出る任務です。
というのが今回行く、日本某所の山奥。
ここは日本有数の温泉地ですが、この温泉地は他の温泉地にない魅力を持ちます。というのが、このあたり一帯掘ればいとも簡単に温泉がでるのです。
なので、資材をなげうって温泉堀に興じる資産家も多くここを訪れますが。今回は皆さんにも温泉を掘ってもらいます。
え~、なんでリンカーが、皆さんそう思われるかもしれませんが。
今回掘り出す温泉ですが、霊石の地脈と温泉の泉脈がぶつかって霊力を含んだお湯が飛び出てしまうのです。
なので温泉掘削自体も一般人にとっては危ない可能性があるので、一般の業者は着手できません。
それに目を付けた守銭奴ロクト。
格安で温泉旅行できるだけでなく、場合によってはボーナスが出る本選採掘ツアー(仕事)なるものを企画しました。
今回は皆さんにそれに参加していただきたいのです。
みんなでリンカーに効く温泉を掘ってつかろう。
それが今回のシナリオ趣旨です。
●温泉を掘るための手順
1 線脈を見つける。
ダウジング 直感 モスケールなどの霊力関知手段が有効です。
2 掘り返す。
温泉は1500Mから2500Mの地下深くに眠っています。
掘る手段としてはドリルを借りる、AGWをつかうなどがあります。
途中霊石岩盤などにぶちあたる可能性があります。
霊石岩盤は地下一定の高さに埋まっており破壊するためにはダメージを与える必要があります。
2000M地点 魔・物防御力1200相当
2250M地点 魔法防御力1500相当
2600M地点 魔・物防御力2500相当
破壊には攻撃のタイミングを合わせる、攻撃力を高める、など工夫が必要でしょう。
3 温泉を作る。
お湯が沸いたなら、その温泉をためておくスペースが必要です。
内装に使う材料はあらかじめ申請していただく形ですが、大抵のものはそろえられるでしょう。
現地調達でも構いません。
4 施設拡張
更衣室や、サウナなど、温泉にあればうれしい施設を作っていただいてもかまいません。とロクトは気軽にいってますが……サウナってどう作るのでしょう。
*採掘場について*
採掘が許されているエリアは山の斜面を含んだ6キロメートル四方の空間で、真ん中に川が流れています。
かなり浅い川です。
川を境に手前側は岩肌や土が見えていますし、奥川は木々が生えています。
山側に竹林があるようですが、これはどこからか運ばれ故意に植えられた竹のようです。今では放置されているので、破壊したり材料に使っても怒られません。
! 最後に !
温泉を一人で掘るのは至難の業です。作業が多いですし、何より寂しい。
なのでチームで温泉堀にいそしんでいただくのがよいでしょう。
手分けもできるし。
●ふつうに温泉を楽しむ。
温泉をかならず掘らなくてはいけない訳ではありません。
採掘現場の近くに一等級の温泉旅館があるので。普通に疲れを癒してください。
宿泊する宿の近くには、小さいですがスキー場。鍾乳洞。お土産街があります。
夕食、朝食はバイキング。
お風呂は男湯、女湯、家族風呂。
ゲームセンターと卓球台と、なぜか体育館が存在し、バスケやフットサルができます。
遊技も充実、トランプ、麻雀、ツイスター等々。
窓から、降る雪と、雪間みれになりながら温泉を掘るリンカーたちを眺めつつ、お部屋で乾杯もいいかんじかと。
三泊四日の旅行の予定です。
解説
目標 温泉を掘る
今回あくまでも温泉を掘っていただくつもりなので(ロクトが)。
なのでよい温泉を掘ったグループにはボーナスがあります。
よい、温泉。その基準は人それぞれですが。下記の要素で複合的に判断されます。
1 泉質
温泉の温度や、含まれる成分、霊力量です。
霊力量は深く掘ればより多くなり、温度も深く掘れば上がるようです。
2 外観
温泉から見える景色です。山や川。断崖絶壁など、面白かったり綺麗だったりするとポイントが上がります。
3 内装
可能であれば温泉の形や広さ。材質などにも気を使ってみてください。
● 遙華について
遙華はせっせと温泉を掘ったり皆さんのサポートをしたりしてます。
彼女がゆったり温泉に入ることができるのは、皆さんの温泉審査をするときだけです。
彼女の仕事を手伝ってくれる人がいれば、一日くらい遊べる時間が作れそうなんですが……。
そうしてくれたなら遙華はその一日をあなたと過ごすでしょう。
ロクトもどうやら同様のようです。
リプレイ
プロローグ
「発掘作業か……ま、オレの得意分野だな。これまでに何本も電柱を立ててきたオレにとってはあっちゅーまさ!」
『浅葱 吏子( aa2431 )』はそう胸を張って荒野を眺めた。ところどころから硫黄が噴き出す温泉地。話に聞いていたよりは危険そうな場所である。
そんな浅葱の隣で佇む『酒呑力鬼 雷羅(aa2431hero001 )』。
「ならお主だけで終わらせてみるか?」
「あー、すまん。だから共鳴はしてくれ。あと姉御も頼む」
「折れるの早すぎじゃろ……」
その浅葱の周りには同じく、温泉発掘を目的に集まったリンカーがわんさかいた。
たとえば遙華と角をつつき合わせて相談しているのは『蔵李・澄香( aa0010 )』と『クラリス・ミカ(aa0010hero001 )』
彼女らは遙華に提出した企画書の確認を行っていた。
主にクラリスが動いていたのだが、NPOに問い合わせアドバイスと温泉法を確認、設備の予算を組んで企画書を提出。
それに習った機材がトラックで着々と運び込まれている。
「ええ、確かに受け取りました」
クラリスから、都道府県知事などへの届け出書類を受け取った遙華は、それが今回の参加者であるリンカー全員分集まっていることを確認。
「作成御苦労様、すごく助かっちゃった」
事務作業を手伝っていた。
「あ、あの」
そんな遙華の背後にもじもじと隠れている『卸 蘿蔔( aa0405 )』。
「うわ! いつの間に」
二人は先日の依頼で会って以来顔を合わせる機会がなかった。それで蘿蔔から何か話があるらしい。
「遙華。この前は心配かけてごめんね」
――反省してるなら態度で示して…………ほら、働いた働いた。
『レオンハルト(aa0405hero001 )』がそうヘルメットを差し出すと、蘿蔔はそれを頭にかぶり、遙華と手を繋いでさっそく現場に乗り出した。
蘿蔔は遙華の隣で地図等に位置や進行状況を記入していく。
「さぁ、温泉堀を始めましょう」
こうしてリンカーたちの謎企画が無事始動してしまうのだった。
● 温泉を掘るという事。
「この人数だと班分けするより纏まって作業を手分けした方が良いか」
そうあたりを見渡して『赤城 龍哉( aa0090 )』はそうつぶやいた。
あたりにはやる気十分なリンカーがあふれているのはいいが、ぱらぱらとばらけているのが見える。
『ヴァルトラウテ(aa0090hero001 )』はその光景を同じように一瞥すると龍哉の言葉に頷いた。
「ですわね」
という訳で、基本的には参加者一丸、協力し合って。
「掘るならやっぱり、アイアンマトックだね」
そう『餅 望月( aa0843 )』はマトックを担いで、ハイホーハイホーと発掘視点を目指していた。
だがその鉱夫スタイルに『百薬(aa0843hero001 )』は納得いかないらしい。
――あんまりお洒落じゃないよ。
そう口をはさんだ。
「大丈夫、あたしたちがお洒落だったためしはないから」
――え~、そんなことない。
「ん。ここかな」
そんな百薬の言葉を遮って望月ははたりと足を止める。
「ここに温泉がある気がする!」
――あ、あてずっぽだ。根拠なんて何もない顔だ。
ところがそうではない、みんなの意見を参考にしつつ選んだ土地である。
それはたとえば『あい( aa5422 )』と『リリー(aa5422hero001 )』の意見。
「デスデスデェース♪ 穴掘りデェース♪ あいもいっぱい掘るデェース♪金銀財宝ざっくざくデェ~ス♪」
――……まぁ、温泉も『掘り出し物』って意味ではお宝かもね……楽しそーだしそのまま任せよ。
そうキャッキャとはしゃぐ二人に、百薬は不安を感じた。
――あれ? あっちもあてずっぽなんじゃ。
「さ、やるよ」
――温泉のためならほいさっさ。
「手伝うぜ」
告げて穴掘りに参加したのは龍哉。
「お、ちゃんと反応があるな」
龍哉はモスケールの画面をじっと見つめると、頷きシャベルを握る。
このシャベルも普通のシャベルではない『メトロニウムシャベル』地面を掘り返すために生まれてきたと言っても過言ではないAGWである。
――ここで本当にいいんですの?
龍哉にそう問いかけるヴァルトラウテ。
「いや、本当は三角測量とかでもっとしっかり図りたいんだが」
龍哉はシャベルを杖に手を止めてあたりを見渡す。すでに望月もあいも地面を掘り返すので夢中である。
「よろしくDeath!」
あいがその視線に気が付いて手を振ると、龍哉も笑顔を返した。
「まぁ、いいだろ、温泉出やすいみたいだしな」
告げると龍哉は一際深くシャベルを突き刺す。そのまま土を放り投げるのだが、やはりリンカーでは馬力が違う。百メートル地点の硬い土もプリンのように巣食っていくし、土を目標地点に飛ばすだけなら数百メートルでも行けそうだ。
ただ、今回掘り進めるのがキロメートル単位なので、土を運び出すためのメカにもお世話になる。釣り上げ式の土砂運びだし機である。
「いけいけ、どんどん。DeathDeeeeeath♪」
――ただ…………斧はどうなんでしょう。
ヴァルトラウテの指摘通り、なんとあいは斧を使って地面を掘っていた。
器用と言うかなんというか。
「あ、硬いです」
しょんぼりしたあいの声。
「これが噂の霊石岩盤だね」
望月がマトックをゴンゴンとぶつけると龍哉は腕をまくって二人に離れているように告げた。
その手に持ち替えたのはシャベルではなく、ブレイブザンバー。
「おら!」
渾身の一撃。火花散らせるブレイブザンバー。
「手伝うです!」
あいもそれに加勢した。斧に霊力をため渾身の一撃。岩盤に徐々にひびが入り、そして、岩盤はバラバラに砕け散ることになる。
「さて、良い温泉が出てくれると良いんだが」
岩盤が砕けると土の色が変わった。アルカリ成分が強いのか、鉄っぽい色をしている。
「まだまだこれからだねぇ」
望月が告げると、三人は交代で休憩をとりながら掘削を進めていく。
● 共同作業
その採掘場は山に差し掛かる少し傾斜の強くなってきた場所にあった。
気骨隆々の男たちが薄着で汗水たらしながら土を掘り返している。
「まさか温泉場に来て温泉を掘らされるとは思わなかったな」
『御神 恭也( aa0127 )』及び『東江 刀護( aa3503 )』である。
そんな恭也と共鳴しつつ、眺めているのは『不破 雫(aa0127hero002 )』。
――源泉は確認されているのですから、無駄骨にならないだけ良しとしましょう。
「山奥ということは……露天風呂になるのか?」
そうつぶやく刀護の言葉に『双樹 辰美(aa3503hero001 )』は小さく頷いた。
――でしょうね。
二人はAGWを片手にもう何メートル掘り進めたかわからない地面をさらに下へ下へ掘り進めていく。
恭也の激震ドリルハンマーは阪須賀の掘削力で地面を掘り進め。硬い岩にぶつかれば刀護がパイルバンカーでそれを吹き飛ばしていく。
「にしてもいい立地に場所を確保できたな」
木々や雑草が邪魔ではあるが、切り開いて整備すれば涼やかな川のせせらぎが聞こえる良スポットで、外観はばっちりだろう。
温泉が実際に出たなら、そこから湯をどうやって引くか。外観はどうするかなど話に花が咲く。
男二人が作業できるのがやっとという狭いスペースでは恭也の声も良く響く。
「ああ、それも」
彼のおかげ。いや、彼女だろうか。
『麻生 遊夜( aa0452 )』と『ユフォアリーヤ(aa0452hero001 )』の二人はダウジングロットとモスケールを併用し。
あとは女の勘とか。ユフォアリーヤのおかーさんの直観とかそう言うもので選び抜いたのがここ。
――……ん、むむ……温泉は、こっち。
「やれやれ、張り切ってんなぁ」
そんなことを話しながらこのポイントを指し示すものだから、恭也も刀護も不安に思ったが、確実な方法などどこにもないのだから、とりあえず掘ってみることにした。
「そういや掘るのは初めてだな」
「……ん、何時か家でも作る……良い経験」
そんな風にのんきにお茶を飲む麻生夫婦の声が聞こえてくる。
その声に触発されてそろそろ二人も休もうかそう思い始めた頃。
恭也のドリルがうんともすんとも先に進まなくなってしまった。
「これが噂の岩盤か」
恭也はいったん採掘の手を止めて、幻想蝶を構える。
――一般的な岩盤なら破砕できるでしょうが、霊石岩盤だとどうなんですか?
雫が問いかけると恭也は頷きパイルバンカーを構える。
「完全に砕けなくとも穴の間にヒビでも入れば、AGWで砕く手助けにはなるだろ」
「手伝おう」
告げると刀護は黒旋風鉄牛を構える。
「温泉で疲れを癒すため掘る! 掘って掘って掘りまくる!」
その言葉を聞いて辰美は少し相棒の事を不安に思った。
(刀護さんも疲れが溜まっているんですね……ご苦労様です)
そして恭也と刀護は息を合わせて岩盤を穿つ。破片が散らばりその破片で服が裂ける。
しかし手ごろな穴が開いた。
それに恭也はダイナマイトを差し込み、いったん穴の中から退避した。
「おーう、おつかれ」
そう遊夜がお茶を差し出すと、それを飲みながら恭也はダイナマイトのスイッチを押す。
衝撃が地面を揺らし、土煙が吹き上がった。
●最高の設備と空間を
「おお、わりかし早くいったな」
そう遊夜が拍手を送りながら吹き上がった温泉を眺める。
おそらく一番乗りだろう。作業を始めてから六時間とたっていない、これはすごいのではないだろうか。
そう遊夜が感心しながら立ち上がると、その背後の草むらをかき分けて『水瀬 雨月( aa0801 )』が現れた。
「あ、麻生さんこっちもやってもらっていいかしら?」
その背後から現れたのは蘿蔔と遙華。
三人はどんな状況にも対応できるバックアップ係として動いていた。
たとえば 人手や火力が足りない場合の支援要請や資材も管理し必要に応じて運搬など、円滑に作業を進められるようなサポートである。
その仕事の中には別の場所で作業している人間をその手を必要としている場所へエスコートするというのも含まれる。
「二人ともありがとう」
そう遙華は書類の束を胸に抱いて、蘿蔔と雨月の顔を見比べた。
「まぁ、流石に不憫だし、お休みくらいはあげたいから」
そう雨月が柔らかく告げると、遙華は目に見えて喜んで目を細めた。
ちなみに雨月も先ほど温泉探しにダウジングロッドで参加してみたがさっぱりだった。
何かコツがあるのだろうか、首をひねらせた雨月である。
そうこうしているうちに、遊夜を目的の地点に連れてきた。
竹林のど真ん中にあり、少し小高くなっている場所。
沈む夕日が綺麗に見えるその場所に場所をバンガローとセットで温泉を建設するらしい。
澄香が言っていた。
「頑張って! イリスちゃん」
ちなみに発見したのは澄香らしい。
レーダーユニットとマナチェイサーで源泉を調査。
Dコンバートを起動したパイルバンカーで採掘をてつだっていたが、今は搬入された物資の確認で忙しい。
ほっとする空間を演出するため『イリス・レイバルド( aa0124 )』が人間ドリルとなって土を巻き上げている。時折『アイリス(aa0124hero001 )』の声が聞こえるが穴が深すぎて何を言っているのか全く聞こえない。
現在地下1900Mほどらしい。
――ああ、そろそろな気がするね。
「本当かなぁ」
半信半疑のイリスは煌翼刃・螺旋槍を常時発動。
回転付きでドリルのごとく土を削りだしていくのだが、ものすごい三半規管である。
煌翼刃の射程は約12m…………なので。一掘り10m程度進むだろう。それならば500回の回転でたどり着くことができるのだが。
衰えない勢いは普段の訓練のたまものか。
イリスからすれば素振りの範疇の回数で掘り進める上に光刃なので劣化なし。
歩く光源は地中で便利。
純粋に頑丈。とくれば温泉堀に最適であると言えるが。
やがて来る岩盤を突破するのは一苦労。
「そこで俺か…………しかし、約二キロだろ?」
弾丸が届いたとしても十分な色区が確保できるか。
そう遊夜は武装と距離の調整に移る。
「そこは私も力をかすさ」
告げるとアイリスが穴の中から出てきた。途中で主導権を交代したらしい。
「で、私達は何をすればいいの?」
雨月が告げる。
「あー、雨月にはまず最下層に降りてもらう必要があるわ」
遙華が告げると、雨月は溜息をついた。
結果アイリスが掘り進めた穴を四人で降りられるように拡張してからの作戦となった。
雨月が岩盤に霊力浸透を発動次いで遊夜が声を上げる。
「落盤もないぞ、だいじょうぶだ」
周囲に木枠や石を打ちつけたり、土を固めることで道を補強。
遊夜は器用に壁を駆け上がり、足で体を固定すると狙いを定めた。
そして銃弾を放つと共にアイリスはその盾を輝かせる。
その合いの手として澄香がアルスマギカ、および魔血晶起動。
力をためる。
次の瞬間、アイリスが動いた。光を溜め込み極光と化した十字架を。
――そこだ!
突き立てる。
その後アイリスは素早く上空に飛び立つと澄香、そして雨月がサンダーランスを放った。
二つの雷撃は轟音を響き渡らせて岩盤を粉砕。
その先の硬い土が露わになる。
「まだ先は長いようだね」
その後、また姿を見せた岩盤については、アイリスが切り札を切った。
「レディケイオス、CODE:000」
妖精の羽で発生させた振動を十字盾に伝播、渾身の連撃で岩盤を切り裂く。
「グランドクロス!」
そして吹き上がるアツアツの温泉は湯の量も温度もなかなかで、澄香の納得いく出来であった。
――内装関係は他の人に任せよう。
ずぶぬれになるイリスにアイリスが告げた。
「ボクらだとくせが強いしねー」
――まぁ、力仕事は手伝うさ。
「うん、任せておいて!」
澄香が設計図を手に設備を次々と設営していく。
配管設備、貯湯槽、貯水槽、発電機、循環ろ過機、集毛器と衛生の面も考慮。
それにユフォアリーヤはプラスしたいアイディアがあるらしい。
――……ん、ライトアップで……周囲も綺麗、昼も夜も……良い景色。
その光景を想像して、むふーとユフォアリーヤは幸せなため息を漏らす。
「内装は自然な形の巨大な切り株風檜風呂もお勧めだぞ!」
「それはなかなか難しいですね」
頭を悩ませる澄香。
「なにより俺が入ってみたい」
ついでにサウナも建築するらしい。
遊夜はプレハブサウナの構造やPCでの検索を参考に黙々とミストサウナを建築している。
――……ん、出来たら……ハルカと一緒に、入るの。
「あとは、欠かせないのはシャワー設備」
澄香は工程表を確認しながら確保した土地にテープで建設予定地を作っていく。
「そしてバンガロー」
よし、と澄香が頷く背後でクラリスは遙華とお話ししていた。
「発電機は温泉に含まれる霊力を利用できませんか?」
クラリスの言葉に遙華は頷く。
「手配済み、もうすぐで来るから」
――では、私達は効能に手を加えよう。
告げるとアイリスが羽を天高く伸ばし。その翼の欠片をさらさらと砕いて砂にする。
それを源泉にまぶすと黄金の祝福を薄くお湯にかけていく。
疲労回復、ダイエットからアンチエイジングまで健康に関わる効能があるといわれているらしい。
――元の世界で私がこれだけ関われば妖精大発生なのだがねぇ。この世界は妖精が少ない。
その源泉にネットで何やら垂らす澄香。
「どうしたの?」
それを見たイリスが澄香の隣で膝に手をつき覗き込む。
ネットの中味は卵だった。
「ふふふ、こうすると美味しいんだよ?」
そうホクホクの笑顔で澄香は告げた。
つまり温泉卵。それだけではない、澄香は温泉を食にフル活用するつもりだった。
温泉饅頭や、温泉のお湯で牛肉の塊に熱を通しローストビーフを作る。他にもジビエ肉。森で活動していたイノシシやシカの肉を漁師さんにとってきてもらい、牛肉は地元農家から直接納品されるお肉。
それだけではなく川魚も釣って、料理メニューに組み込めないか頭を悩ませていた。
「さすが、女将ね」
そう遙華が唸るとクラリスは告げる。
「いえ、単純に食い意地が張ってるだけです」
●三木一派
「温泉……私達三木一派一同は温泉と共にあり! 温泉で私達が後れをとるわけにはいかないの御座います! 私達の手で私達の伝統の力をここに作り上げましょう!」
そう『三木 弥生( aa4687 )』の御旗の元協力者が集う。その陰で『両面宿儺 スクナ/クシナ(aa4687hero002 )』がぽつりとつぶやいた。
「ちなみに三木の言う三木一派がいると主張する禅昌寺は温泉街で有名な『コレイジョウハ、イケナイ。アクマデ セッテイ。モチーフダカラナ』」
そんな声は聞こえないのか、弥生は借りてきたドリルを使って真っ先に地面に突き立てる。
浅葱が地面の様子を見たり地層をある程度堀り、観測したところ。水源やライヴズの流れから、森のど真ん中に源泉があると予測された。
「な、なんと言う振動……こ、これも……修行です……わ、私は……挫けませんよ!」
ドリルを借りて幅を広くするようにしながら掘る弥生。
――『アァ……イタイ…………、……カラダガキシム……』スクナの体にはきついだろうねぇ……あの骨が代わりにくれば良かったのに。
そんな英雄たちの文句もさらりと聞き流し、とにかく地面を掘り返した。
その弥生に背中合わせになる格好で地面をしゃくしゃくとほっているのは『ピピ・浦島・インベイド( aa3862 )』。
すでにピピは『龍寓(近衛師団長)の塚井さん(aa3862hero002 )』でその英雄はこの異常な状況下にはたりと冷静になってしまった様子。
「……な、なぜ、私が温泉に…………、そんなことしたら煮魚になってしまうではないか!」
その時、となりからじゅるりと舌なめずりの音が聞えた。
それは明らかに自分と契約した能力者の口から発せられた音だった。
「…………」
そろりとその場を逃げ出そうと試みる塚井さん。
しかしピピはその動きを感じ先回りするように滑らかに動いた。
「んぎゃー」
無慈悲にも憎き能力者に捕まり……噛みつかれる塚井さん。
「ギャー! やめろー!! そ、そうだ! 共鳴だ!! わ、私が代わりに働いてやるから!! だから噛むんじゃない!! やめなさい!! いたーい!!」
「うまうま!」
その様子をあくびをしながら『吉備津彦 桃十郎( aa5245 ) 』は眺めていた。
『犬飼 健(aa5245hero001 )』とは念のため共鳴済みである。
「……風呂か、入るなら分かるが、何故掘らなければならないんだ……?」
「そ、そのように仰せつかっております!」
「……まぁいい、あいつらの好きにやらせとけ」
一応AGWを構えてはいるが彼は土にまみれるつもりはないらしい、たまに弥生の軽口につきあったり、暴れ出すピピを眺めながら楽しく過ごすことにした。
――主殿、よろしいのでしょうか?
そう問いかけたのは犬飼。
「あぁ、弥生のすきにやらせておけばいい。あいつがしたいと決めたならば俺が口を挟む必要などどこにもないからな」
――御意。それにしても…………。
そう犬飼は何事かを胸に秘めたように言葉を濁す。
「ああ、そうだな、あれは。気にしてやるな」
次々と地面に突き立てられていく電柱。
その異様な光景をせっせと作り出していたのは浅葱だった。
何も無計画に地面に打ち込んでいるわけではない。
その電柱を使ってボーリングの要領で縦に穴を作り、籠手で広げながら深く掘っていくという手法をとっているのだ。
確かに掘りやすく作業はスムーズに進む、途中ぶち当たる霊石の塊は砕かずに掘りだし、後のために取っておく。
それを繰り返すうちにやがて。どうしても砕けない岩に当たってしまう。
例の岩盤である。
「吉備津彦の姉御、頼めるか?」
そんな浅葱の声でやっと桃十郎は重たい腰を上げた。
「任せとけ」
告げると桃十郎は岩盤を削るように掘り進めていく。
そして岩盤が薄くなってきたならピピが腕に装着しているパイルバンカーで岩盤を打ち破り、さらにその先の地面も掘っていく。
――ふはは、やはりこうして実際に武器を振るってみるとけっして私は弱くなどないと実感するな。あとはこれをどうあの小娘に教え、噛みつかせないように教育してやるべきか……。
すると意外とあっさり温泉がわき出てきたので。
あとは浅葱がメインの仕事となった。
掘り当てた源泉へと配管を繋ぎ温泉を湯船へと流す。
と言ってもまだ湯船を個々に作ると決めたエリアしかないので。
それも着々と作っていく。
浅葱は材木を組み立て囲いや更衣室を作り。また電柱を立てて配電も済まし電灯も吊し…………。
「……ぉん?」
その時浅葱は何かに気が付いた。
「どうしたんですか?」
傍らで作業の手伝いをしていた弥生が首をかしげる。
「あいつどこにいきやがった? まだ仕事残ってるっつーのに……全く」
そうあたりを眺めてその姿を探す、自身と共鳴していた相棒だが、いつの間にか共鳴が解除されており、気が付けば吉備津彦もいない。
「まぁまぁ、休憩も必要ですよ」
そう告げると弥生は両面宿儺に視線を向けた。両面宿儺はその手先の器用さに生かしてシャワーや桶、タイル敷きなど着々と進めている。もはや工程の半分も進んでおり完成は間近である。
「中々にいい感じに仕上がって来ましたね!」
そう弥生が楽しそうに告げると両面宿儺が首をあげた。
「『……イガイト、ナントカナルモンダナ……』あぁ、もう完成でいいんじゃないか?」
告げると弥生は首を振る。
「いえ! まだです! まだこれくらいでは完成には程遠いですよ!」
「『……ェ?』いや、あの……まだやるのか?」
この時、両面宿儺は思った、彼女らがいなくなったのは弥生の徹底したこの性分を察したからなのかもしれないと。
結局作業はおそくまで、そして次の日も次の日も続いたという。
そのあいだにサボり組はというと温泉を堪能していた。
桃十郎は雷羅そしてピピを連れ立って湯船につかっていたのだ。
「ふぃー、働いたあとの酒はまた格別よのぅ」
そう湯船から湯を溢れさせつつ足を延ばすのは雷羅。目の前にはお盆が浮かんでおり、それにはお猪口と徳利が並べられていた。
その耳には隣、男子風呂でピピの体を洗う犬飼の声が聞える。まぁ八割はピピの声にかき消されてしまっているが。
そんなピピの英雄である塚井さんだが。
「……なぜ、何故あの小娘だけいい思いをしているのだ……きーっ!」
残念ながら貧乏くじで弥生の作業を手伝わされていた。
● 次の日!
温泉のご飯は美味しかった。温泉の寝床は柔らかかった。
けれど、外に出たら男は七人の敵と戦わなければならない。
そんな安らぎを忘れたふりして。
そう『逢見仙也( aa4472 )』は『ディオハルク(aa4472hero001 )』と共に森の中をさまよっていた。
無駄に溢れる感で方向決めて、ダウジングやモスケールで源泉を探す。
昨日はそれでまったく見つからず。
昼まで探しても温泉が見つからなかったため、最後の手段に出た。
「すまん! 温泉分けてくれ」
すでに温泉を掘りあてているグループの湯を借りた。
もし、温泉を作る勝負、というものに臨むのであればここで負けているだろう。
だが、彼は違う。
彼が目指すのはそんなちゃちなものじゃない。
彼が目指すのは最高のサウナ。最高のミストサウナ建設である。
「ミストサウナはドライより低温で済む、だが、その名の通り霧なので黴が生えやすいし、設備もかかる…………」
仙也は届けられた資材を眺めながら一人考える。手入れをしやすさを考えた内装、そして。
水風呂入る前に汗をさっと流せるように、余裕があるなら水風呂の側にシャワーが必要だという事。
「決まった…………」
仙也は頷くと水と湯を配管して引っ張り始める。水風呂とミストサウナの霧は、掘った温泉の温度を調整し利用。
ついでに温泉を利用して湯種パンなど作れるように装丁もしている。
「お土産とかあると何となく買いたくなるものな」
――して、これで勝負になると思うのか?
ディオハルクがそう問いかける、すると仙也は首をひねった。
「……え? 温泉勝負? なんでサウナ作ったのに温泉の質比べるとかいうの?」
やらないやらない。むしろやったらおかしい、そうすがすがしいまでにサウナへの情熱を貫き通した仙也だった。
● 湯煙温泉、恋路を沿えて。
『羽跡久院 小恋路( aa4907 )』はモスケール片手に山平地を歩きまわっている。
「あらあら……温泉堀りだなんて…………どうしましょう。とりあえずナラカさんたちと一緒にいようかしら……」
初日は残念ながらはずれを引いてしまった小恋路。
だが次の日は違う、何せ『八朔 カゲリ( aa0098 )』に協力を仰いだのだから。
「いや…………俺は」
真面目にやる気など無いんだ。そう言いたかったのだが小恋路がやる気過ぎて何も言えない。
「ふむ、まぁこれも一興」
そう『ナラカ(aa0098hero001 )』は頷くと散歩…………もとい。泉脈さがしを続ける。
「ナラカが互いに此れも経験だろう」
そうナラカは恋路の探索を見守っている。
モスケールを使って歩きまわる事一時間程度。
採掘可能エリアの端っこに反応を見つけた。
「ふふっ、みんな頑張ってねぇ♪ お姉さん応援してるわぁ♪」
「おれが掘るのか?」
「お姉さんもほるわ」
ため息をついてカゲリも一緒に土をかきだす作業にうつる。
「……蘿蔔は西大寺の手伝いか。所で泉脈探しとか如何なんだ、神様的に」
そう黙々と作業に移るカゲリであったが、ふと彼女の姿を思いだし我に返る。
――如何と聞かれてもな。温泉など天ではなく地の恩恵なれば、私とは無縁のものよ。私よりも久遠、鳥より蛇の方が相応しかろうて。
共鳴中のナラカはあくびをしながらカゲリの問いかけに答えて見せた。
そんなカゲリを眺めて、青春ね、なんて微笑んでいるのが小恋路。
そう言えば彼女は先ほどから何もしていない。
「……相変わらず私ってば、こんなことしか出来ないけど……みんな頑張ってねぇ」
そう告げながら杖を展開する小恋路である。
そんなカゲリの背後で茂みが揺れた。
なんだろう、そう振り返ると蘿蔔がいて。
カゲリと目が合うと、蘿蔔ははにかんだ。
「えへへ、なにしてるのかなぁって思いまして」
告げると蘿蔔は自分たちの温泉が完成間近なので見に来てほしいとのこと。
「ああ、作業中だが」
「だいじょうぶよーん、あとはお姉さんがやっておくから」
告げる小恋路に甘えてカゲリは共鳴をとき、蘿蔔の隣に立つ。
「こっちです」
蘿蔔はそうカゲリの手を引いて歩きはじめる。
その手をカゲリは苦笑しながら握り返した。
以前と余り接し方が変わらないのは、肯定者故に他者に対しての積極性がない故か。老成しているとも言えるが。
「作業はどうだ?」
カゲリが問いかけると蘿蔔は語り始める。
「やっぱりこういう物作る方が好き、かもです」
――まぁ蘿蔔らしくて良いんじゃないかな。
レオンハルトが告げた。
「あ。これ」
何事かを蘿蔔は思い出すと、幻想蝶から看板を取り出す。
「見て見てー、私も頑張ったのです!」
「ほう」
それに見入るカゲリである。がその脇からナラカが蘿蔔に歩み寄るとレオンハルトンに共鳴をとかせ、そしてその手を引っ張って行ってしまう。
「余り邪魔をしてやるなよ、二人の仲も進まぬであろうが」
「あー、そうだな」
「では我々は温泉にでも」
「男女別の風呂になるけど…………それでもいいなら」
そうカゲリ達から離れていくレオンハルト、それを見計らって蘿蔔は本題を切りだす。
「近くに鍾乳洞があるそうですよ…………それで。あの…………行ってみたい、です。二人で」
本当は作業が終わってからの方が好ましいが、お互いに最終日に体があくとはかぎらない、なら休憩として今遊んだ方がいいと思った。
というより、一回会ってしまえばデートがしたい。
「まぁいいだろう」
告げるとカゲリも蘿蔔の言う鍾乳洞へ針路をとった。
あまり観光地として整備されていないのか、生の鍾乳洞がぽっかり口をあけている様には蘿蔔もすこし驚いたのだが。
カゲリはずんずんその中に入っていく。
「……今度は、気の効いた所にでも連れて行けると良いんだが」
その言葉に、蘿蔔はカゲリの袖をギュッと握る。
「…………手、繋いでも良いですか? まぁもう握ってるんですけどね」
そう蘿蔔は安心感からため息をついて。初めてのデートもこんな感じだったなと思いだす。
それと同時に蘿蔔はこの半年間で何も進んでないことに気づくのだった。
(此処で一歩、進めてみるのも良いのかも知れませんね)
そんなことを漠然と思いつつ。蘿蔔とカゲリは闇の奥に消えていくのだった。
* *
ちなみに、残された小恋路といえば。
先に浴室を作っていた。ハートマークを描いたり飾ったりしながら、赤い薔薇の入った花瓶を飾ったりする。
全ては疲れた人を癒すため。
こうして徐々に、リンカーたちの理想の温泉は完成に向かっていくのだった。
● 温泉大爆流
――パイルバンカー、ちゃらーん。
百薬が高らかに宣言すると望月はパイルバンカーを装備、龍哉と共に最後の岩盤をぶち抜くべく力を結集する。
「そもそもAGWで通じない岩盤なんてあっても困るんだけど、もしかして愚神とは、自然の力?」
――哲学だね。
そう不敵に笑う百薬をよそに岩盤を破壊すると、三人の足元から温泉が噴き出し、もみくちゃにされながら地上へと吹き飛ばされた。
まるで間欠泉である。
「あーやっと終わった」
二日目、日も暮れたころ。望月の班はやっと温泉を掘り終えた。
長かった。
「今日は疲れたしやすもう」
そう望月は気持ちを切り替える。というより頭の中は食べ物でいっぱいだ。
昨日のご飯はよかった。山菜が少量採れたらしく。それを美味しそうだなぁと眺めていると、特別に天ぷらで出してもらえた。
あとは、誰かさんが作った温泉卵とか。
旅館の料理は桜肉を使ったすき焼きだったり。最高である。
温泉も良かった。百薬など疲れた体を湯に鎮めると。
「ワタシはこのために地上に顕現したと言っても過言じゃないよ」
なんてつぶやく者だから望月は思わず口をはさんでしまった。
「愛と癒しはどうした」
「あと美味しいご飯、いただきまーす」
「まだ食べるのか」
そんなリンカーたちの温泉作成計画の進行度はまちまちである。
すでに完成に近づいているものも多い。
温泉が出たら、次は温泉作り。
たとえば刀護達。
彼らは昨日のうちに温泉整備をほとんど終えていたので今日は浴槽づくりをメインに動いていた。
「お湯を貯めるには、まずは貯める穴が必要だな。あまり深くないほうが良いだろう」
そう全体の成形。足元や底面は痛くないよう、タイル張りにして。周りは山奥にある岩を利用して、露天風呂らしく演出。
あとは刀護のたっての希望として足湯を作った。
「これなら、服を脱がなくても温泉に浸かれるしな。足だけだが」
完成した足湯に雫がつかり、恭也の後片付けを見守っている。
「水着着用で混浴、という方法もありますが」
辰美が告げた。
「男と女が裸で一緒に入るのは駄目だ! タオルを巻いたとしてもポロリの危険性があるだろう!」
「それには賛成です!」
そう拳を突き上げた雫の今日のお仕事は、出来上がった女湯に覗き対策を施すことであった。
男湯との間にある壁には内部に厚い鉄板、そしてAGWに抵抗出来る特殊鋼をもちいて完全ガード。
「従魔でも退けるつもりなのか?」
恭也はあきれ果てていたが、雫の徹底ぶりはこれに終わらない。
望遠鏡等で覗けそうなエリアを把握して、風呂からの風景を底わない様に注意して竹林を移設し、覗きを防止。
「本当はセンチュリーガンを設置したかったんですが、今回は見送りましょう」
そう足湯で表情をとろけさせている雫だが、口にするのは物騒な言葉。
「…………お前が想像する覗きは、どんな猛者なんだ?」
「念には念を入れてですよ。コンセプトは絶対安全な露天風呂です」
後片付けが終わった恭也を引き連れて一行は旅館へと戻っていく。
最後まで作業で残ったのは『楪 アルト( aa4349 )』だった。
「温泉が! 出ない!」
夜になっても作業をやめないアルトはもはややけくそで穴を掘る。
「……って、なんで温泉を『掘らなきゃ』なんないのよ!! おかしいでしょ!!」
そのアルトの疑問もごもっともである。
ただその当のアルトは穴の外にいる。相方の『フィー( aa4205 )』も彼女の隣に、では誰が穴を掘っているのか、それは当然『偽極姫Pygmalion(aa4349hero002 )』である。
Pygmalionはひたすらに単独で右手のドリルで地道に掘り進める。掘れと言う命令だけを受けて。
「…………まーた騙されてんですな」
そう苦笑いを浮かべるフィーに『ヒルフェ(aa4205hero001 )』が言葉で追い打ちをかけた。
「ツマリイツモ通リダナ」
「まぁこっちはそのつもりで来たんでいいんですがさ」
そうのんびり星を見あげるフィー。
彼女のモスケールで源泉を探し当て、その後はドリルでの採掘作業も進めていたが、先ほどぶち割った岩盤をきっかけに休憩中である。
「しっかし何が悲しくて温泉ごときに本気出さなきゃいけねえんですかなぁ…………」
「とっとと終わらせて早く帰る!」
その意志だけアルトは固め、相棒に霊力を送り続けた。
もともとアルトは温泉の掘り当てに一切興味がない。
「そろそろかえりましょうや」
フィーは自分が設置した、土や泥水をくみ上げる機材を一瞥。電源を切るために歩み寄るが。それにアルトは静止をかける。
「まだだ、まだすっきり眠れそうにねぇ!」
ただ闇雲に怒りや腹立ちを込めて思いっきり掘りつづけた。…………もはややけくそである。
ちなみに衣装は何故か名前入りの芋ジャー。
「お? やっこさん動きがとまったみてーですが?」
そうフィーは穴の中を覗き込むとPygmalionがドリルをがんがんと地面に叩きつけている。
岩盤だ。
「いっちょ、いってきますかねぇ」
フィーが告げると、アルトも一緒に穴の中に飛び込んだ。
「お?」
「あたしもやる」
静かに瞳の中に暴虐を宿すアルト。着地するなりピグと共鳴、そしてやみくもに岩盤を攻撃し始める。
「てかあたし曲がりなりにもアイドルだぞ!! なんでこんなことしなきゃなんないんだよ!! 芸人じゃねーんだよ!! 温泉の探し方なんざ知ってるわけがねーだろ!!」
轟音と共に削りだされる岩盤、しかしまだ浅い。
「手伝ってあげるわ」
その時穴の上部から遙華の声が聞えた。
そして次いで響くのは『影踏の音 ~Forsythia~』。
彼女の持ち曲である。
「はああぁぁ!? い、今ここで歌えって言うのか!!」
「カメラ回ってるわ!」
「っっっばっっかじゃねーのか!! 無理に決まってんだろ!! ふざけんな!! てかそこカメラとめろ―――!!」
とか言いつつ、体が勝手に振付を、その手のドリルがリズムを刻んでいる。
最後は謳い始めてしまう始末。
「アイドルの温泉堀り、これは売れるわね!」
遙華が興奮気味に告げるのを尻目にフィーはアルトの耳に口を沿える。
「あー、これ抗議するよりちゃちゃっとやっちまった方がはえーんじゃねぇですか?」
冷静にフォローをいれるフィー。その言葉に頷いて。
「おおおお! どうにでもなれ!」
夫婦初めて? の共同作業。岩盤の破壊。
酒樽のふたのように小気味よくカパーンと割れた岩盤、その向こうからお湯が噴出して。
二人とも巻き込まれ外に流された。
「おお! やった! 温泉だ!」
殺気の勢いはどこえやら、ずぶぬれで喜ぶアルトを眺めフィーは満足そうである。
その隣に立つ遙華はカメラを眺めてしょんぼりしていた。
「かめら…………動かなくなった」
「自業自得ですな」
そうあっけらかんと言い放つフィーも、髪から水を絞り出しつつ遙華に言葉をかける。
「…………あ、そういやいつぞや格ゲーのモーションキャプチャの依頼あったじゃねーですか」
「ええ、あったわね」
「確かなんかの依頼の予定が重なってて私は参加できなかったんですけどな、ああいうのまたやんねーかって」
「なるほど、新規格のゲームを……って話も来てるから、それ路線もいいかもね」
遙華は頭を悩ませる。
「まぁ私っつーよりウチのバカがなんですが」
そんなバカは、温泉の水しぶきと月光を浴びてキラキラと輝いていた。
その後二人は体が冷えるのを嫌って部屋に直行、備え付けの小さな湯船で浸る。
「昼間は全然ゆっくりできなかったんでここで一緒にゆっくりしましょーかいね?」
ふふふ、と不敵に告げるフィーに、襲われるアルト。
その後放心状態のアルトと共にフィーは月を見あげた。
エピローグ
「うん、泉質はアルトのところが一番いいみたいね、でも内装は澄香たちのところが一番充実しているようよ、でも……」
それは三日目夕時、完成したお風呂に次々と使ってジャッジをしていく遙華。
そんな遙華をエスコートし龍哉は完成したばかりの温泉、その一番風呂を遙華に捧げた。
「うん。一番風呂は何にも勝るわね、ふふふ、ありがとう龍哉」
そう遙華はしきりのむこうに待機している龍哉に声を投げた。
龍哉は間違って誰かが入ってこないようにみはり兼話し役である。
一応遙華たちも水着は来ているが、その配慮も紳士的で嬉しい。
「ほかに、人の目はありませんか?」
そう脱衣所の向こうから蘿蔔の声が聞えた。同時に水着を纏った雨月が登場する。
「そういえばどういう感じの施設にしたいのかしら? 旅館? 銭湯?」
「いろんなタイプのお風呂が選べるアミューズメント……かしら?」
そう遙華は雨月のスペースをあけると、雨月も湯船に入る。
「細々とした所はロクトがやってくれるのかしら」
「そうね、私も噛んでるけど、私はどっちかというとこのお祭り騒ぎの管理をメインにやってるし」
最後に蘿蔔が体を洗ってから湯船に浸ると。蘿蔔は告げる。
「ふふ…………久しぶりに遙華とゆっくりできて嬉しいです」
「そうね、のんびりしましょう、いろいろ始まる前に」
結局疲れを癒しに来たんだか、疲れにきたんだかわからない温泉旅行もドタバタの内に幕を下ろす。
この温泉が少し話題になったり、泉質が原因で従魔が出たりしたのはこのすぐ後の事なのだが、それを語るのは別の機会としよう。
結果
シナリオ成功度 | 大成功 |
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