本部
二つの道のその先は~闇の行方~
掲示板
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雀部兄妹の為の相談場
最終発言2018/03/24 13:01:09 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2018/03/23 19:58:26
オープニング
■少しだけ
『ねぇ……憎い?』
……憎いよ。この世が、父さんが。
『うふふ……お父様を困らせて、家族の大切さを教えてあげればいいじゃない』
困らせたって、父さんは変わらない。ボクたちを見てくれることなんてない。
『やって見なくちゃわからないわぁ……ねぇ? ちょっと悪いことをして、すぐに来てくれたら……大切に思ってくれてるってことじゃないかしらぁ?』
……そう、だろうか。
『ちょっとだけよぉ。やるっていうなら、手伝ってあげるわぁ』
そうだ。ほんの少し困ればいい。ほんの少しだけボクを――
■H.O.P.E.本部にて
椅子に座り、書類に目を通す彼が「よく集まってくれた」と言う。
「お主らは覚えておるじゃろうか……ほれ、以前救助した少年に楓という者がおったじゃろう」
実際、救助活動を行うエージェントたちが全ての被害者たちを覚えてるわけじゃないとは思うが、少なからず印象に残る少年であったのではないだろうか。
「あやつがのう……いなくなったと妹さんから相談を受けたのじゃ」
年齢もまだ幼い上、普段と様子が違かったため、余計に心配になったらしい。父である洋一は仕事で忙しくここ何日か帰宅できていなかったため、現状を知らないらしい。
ビーッビーッビーッ……
突然、彼のすぐ近くの電話が鳴る。直ぐに受話器を外し、真剣な眼差しで電話の相手を話す彼はすぐに会話をやめ、こちらに視線を戻すのであった。
「……彼の居場所が分かった。大手デパートの4階、そこに従魔が感知されたのじゃが、彼もそこにおるらしい」
重い空気が体にのしかかる――なんだろう、この気持ちは……。
詳しい説明を受けた後、エージェントたちは本部を後にするのであった。
***
「ま、まってください!」
本部を出てすぐに少女に声を掛けられる。
すぐにでも向かおうというところで、つい力の入った顔で彼女に視線を向けたため、少し怯えた表情を見せた。
『ご……ごめん……なさい……』
彼女のすぐ後ろにいる少年が彼女に隠れるように謝ってくる。直ぐに笑みを作り、彼女たちの話に耳を傾けた。
「あの……おぼえてますかね? おぼえてないかもしれませんが……えっと、おにいちゃんがいなくなったってそうだんして、それで……」
たどたどしく話を続ける。どこか焦っているのか、なかなか話が続かない。
「えっと……」
『かあさんが……いなくなった』
一生懸命、説明をしようとする彼女をよそに、用件だけを少年が伝えてくる。
母さんがいなくなった、その言葉だけで焦っている理由がわかる。
「どうしよう……どうしたらいいですか?」
とにかく彼女を落ち着かせるため、すぐさま本部内に戻り、オペレーターである彼にこの旨を伝える。
現状は思ったよりも深刻な状況のようだ。
***
「おねがいします! わたしたちも連れてってください!」
彼女の事は本部に任せ、事件のあったデパートへと向かおうとしたが、引き留められてしまう。兄のところへ行くと聞き、自分も行きたいと駄々をこねるのだ。
「ううむ……しかしなぁ……」
流石にこれはオペレータの彼も困った顔で、どうしようかと悩んでいる。
どうしたものか、彼らも彼女たちに頭を悩ませるのであった。
解説
目的
・デパートに出現した従魔の討伐
・楓(兄)の救助、現状確認
・妹(桜)を連れていくか、本部に残るように説得
詳細
>従魔
・デクリオ級2体 スパロウの雛
顔、上半身は人間の少女の姿をしている。背中に雀の羽、足も鳥のような形をしている。ハーピーなどを想像すると分かりやすい。
羽を仰ぐなどして強風を煽り、砂や物を飛ばし目くらましや攻撃を避けたりする。
持っている槍で突く、足の鋭い爪でひっかくなどが主な攻撃方法。
・ミレース級 雀 複数 15体ほど?
雀の姿そのもので、主な攻撃方法は嘴でつつくなど。
そこまでの脅威はない。
・意図はわからないが、一般人を一か所に集め立てこもる形で4階に陣取っているらしい
>事件現場
・出現場所4階、侵入経路は窓からだと思われる
・一般客が複数いる模様。従業員含め10人ほどだろう
>4階
・店は服屋が密集している
・敵が陣取っているのは、ベンチや自動販売機のある休憩スペースらしい
・4階へ行くには屋上か3階から階段を使う他ない
*こちらはシリーズ二作目となる為、前回のシナリオ『二つの道のその先は~光と闇~』の事前知識が必要となります*
リプレイ
■それぞれの心情
チクタクチクタク……――
時計の針が時間を刻む音だけがこの場を流れる。
本部にある会議室、そこで十八人の男女がパイプ椅子に座り、その時を待っていた。
依頼により今すぐにでも救助に行かねばならない状況であったが、今回救助対象の一人の雀部 楓(az0100)、8歳の少年の双子の姉、雀部 桜(az0099)が現場に行きたいと駄々をこねる。能力者である桜だが、まだ訓練も受けていない。そんな彼女を連れて行けるわけもなく、この場に残るように説得することにしたのだ。
「遅いですね……」
そう言った九字原 昂(aa0919)は、心配そうに彼らが出てった扉の方に視線を向ける。
幼い少女を皆で囲んで説得すると、威圧からの脅迫のようになってしまう可能性がある。その為、自身も子供がいる虎噛 千颯(aa0123)が代表として話をすることにしたのだ。彼と誓約している白虎丸(aa0123hero001)も共に行動している。
『まだ少ししかたってないだろう』
時計を見てベルフ(aa0919hero001)が答える。
確かに、実際のところ時間はさほど立っていない。そう感じるのも救助に行かねばならぬというせかされる気持ちと、無言の空気によるものか。
「本当は連れて行ってあげたいんだけどね」
雪室 チルル(aa5177)が椅子の背もたれに体重をかけ、ギギギっと軋む音がする。
彼女の気持ちを尊重し、「連れて行ってあげたい」と思うのは誰もが同じ気持ちだろう。しかし、エージェントとして彼女の安全を守るためにこればかりは仕方のない事だ。
『大丈夫だよ。きっと弟君の心配しているあの子ならわかってくれるよ』
スネグラチカ(aa5177hero001)は体をぐでーっと机に伸ばした。
「それにしても弟君、ぷち家出みたいなことを言ってたけど、やっぱり様子が変だよね」
八角 日和(aa5378)の尻尾がそわそわと揺れる。
『現状、情報が少なすぎてわからんな』
少しは落ち着けと付け足しウォセ(aa5378hero001)が日和に言う。
「落ち着いてるよー」と返した彼女だが、この状況で落ち着いていられないのもわからなくはない。
「……お父さんと連絡着くのかな」
藤咲 仁菜(aa3237)がぽそりと呟く。
楓のお父さんである洋一にオペレーター仲間の剣太が、皆の代わりに連絡を取ってくれるとのことだった。だが、現在別件の仕事中で、個人用連絡先では連絡がつかないらしい。
『ま、それも待つしかないよな』
今は今できることを頑張ろうとリオン クロフォード(aa3237hero001)は仁菜に笑いかけた。
「拓海……」
三ッ也 槻右(aa1163)少し不安が見え隠れする表情で荒木 拓海(aa1049)の名前を呼ぶ。
楓たちと初めて会うことになった依頼。その時のことを思うと、いなくなったと言われていた彼とその母親の身を案じて嫌な考えが過ってしまう。
「大丈夫。必ず助けよう」
彼の力強い言葉に三ッ也は少し安心するのであった。
『わからないことばかりですね……』
黒い女、今回の立てこもっている従魔の目的、楓と母親の行方、考えても埒が明かないのはわかっているのだが。
隠鬼 千(aa1163hero002)は自分の考えを一つ一つタブレットに打ち込み、思考の整理を図る。
『楓くんは、ただ居合わせただけなのかしら、それとも……』
千の隣に座っていたメリッサ インガルズ(aa1049hero001)は、彼女が打ち込んだ項目について、一緒に考えるのであった。
「……またあの黒い女絡みどすやろか?」
腕を組み弥刀 一二三(aa1048)は眉を顰めていた。
『恐らくな……少年と母親の精神状態が気掛かりだな』
二人とも色々と思うところあるらしく、いつもよりも険しい顔をしていた。
「□□――……」
辺是 落児(aa0281)がタブレット端末に保存されている今回の作戦メモを見ながら、構築の魔女(aa0281hero001)に話しかける。
『気がかりなことは沢山ありますが……そうですね』
まずは当初の目的であった救助をしっかりこなそうと辺是に頷き返すのであった。
「もうそろそろ戻ってくるかな」
黄昏ひりょ(aa0118)は時計に視線を向け、時間を確認する。救助を待っている元たちがいるのなら、あまり時間はかけられない。
『もう帰ってくるんじゃないかな』
フローラ メルクリィ(aa0118hero001)も時計を確認する。
幼い女の子が説得してわかってくれるのだろうか。
再び部屋に静かな時間が流れる。それからしばらくして、扉はゆっくりと開かれ三人の姿が見えた。それは彼らがこの部屋を出て五分よりも少し過ぎた頃であった。
■彼女の心情
他のメンバーが別室に手待機をする頃、オペレーターが用意してくれた応接室で桜がこの場に残るよう説得を図っていた。
ふかふかのソファに桜と英雄のメープルが一緒に座る。緊張でもしているのか二人の掌はキュッと握られている。
「桜ちゃんはどうして一緒に行きたいんだい?」
虎噛は二人が座るソファの前にしゃがみ視線を合わせる。白虎丸はそのすぐそばの壁に立ったまま体を預けていた。
床に視線を向けていた桜であったが、おずおずと彼の方へ目線を上げる。
返事は急かさずに、彼女が口を開くのをゆっくりと待つ。
「……わたしがおねえさんだからです」
そっかそっかとニッコリ笑みを見せると、先ほどよりも彼女の緊張は和らいだようだ。
「桜ちゃんは楓くんの事で何か知ってるのかな?」
「かえで……お母さんがびょうきになってから、お父さんがはたいてばっかりで……前よりもお父さんと遊べなくなったのが嫌みたいで……」
ゆっくりゆっくり言葉を続ける。
要約すると、もともと体があまり強くない母親が体調を崩してから、家族全員がそろって過ごす時間が無くなり、その不満をよく楓が言っていたそうだ。
「この間……おひめさまのおねえさんが……教えてくれて山に行った後、おかあさんが入院しちゃって、お父さんがおこって……」
お姫様のお姉さんという初めての単語を聞き、気になってしまったが、今はそれを置いておく。
怪我をした彼に心配をかけるなと怒ったお父さんに、楓はその日以来口を開くことが少なくなったそうだ。入院している母のところでチェリーと一緒にじっと傍にいて、意識のない母が目を覚ますのをただ待ち続けていたらしい。
いなくなる前に聞いたらしいのだが、彼がお父さんがお見舞いに来ないのが気に入らなかったらしい。
もちろん、楓が傍にいる時間帯ではなく、仕事の終わった後、夜遅くに洋一は毎日見舞いに行っていたらしいが、楓はそれを嘘だと言い張っていたそうだ。
「お父さん、お母さんがすっごく大好きで、お父さんがおしごとがんばってるのをお母さんは好きだって言ってて。かえでをおこったあとはお父さんいつも泣きそうな顔してて……」
話を聞くに、洋一も彼なりに家族は大切にしているように思え、桜も父さんが自分たちを大切にしてくれているのは感じているらしい。
ただ、桜がいくら説明しても、楓は効く耳持たずにいるようだ。
「もし今回の事で桜ちゃんが傷ついたら楓くんやお母さんはどう思うかな?」
そう聞くと「かなしくなると思う……」と小さい声で帰ってきた。
彼女も親が心配したり悲しむのはわかっているようだが、姉として弟を守らなければと考えているのだろう。
「待つのって大変だよな……俺ちゃんはみんなを信じて待つって凄く勇気がいる事だと思うんだぜ。でもな、勇気と無謀って似たようなものだけどさ、本当は全然違うんだ」
怒ってるわけじゃない、わかってほしいと真剣に、でも優しく彼女に語り掛ける。
「悪いけど桜ちゃんが現場に行きたいっていうのは無謀なんだぜ。俺ちゃんは無謀な事はして欲しくないんだ。もちろん、弟を守りたい、迎えに行きたいって気持ちもわかる」
難しい言葉だから、全部がわからなくてもいい。でも、親の気持ちが少しでもわかっているならきっと伝わるはずだ。
「でも、それでも……どうしても現場に行きたいっていうなら……その時は俺ちゃんが全力で桜ちゃんを守るって誓うんだぜ。ま、色々言ったけど子供は大人に我が儘を言っても良いんだぜ」
ここに残ってほしい、そうは言っても彼女の気持ちを縛り付けてまで、ここに残らせようとは思わない。
「だからさ、桜ちゃんはどうしたいんだ?」
桜は何も言わずに床に視線を向け続ける。それをメープルが心配そうに見守る。
『桜殿、我慢しないで自分の気持ちを伝えるでござる』
ここまで黙っていた白虎丸は優し気に彼女に答えを求める。
「わたし……わたしは……」
決意したように、彼女は顔上げ彼らに自分が今どうしたいのかを告げるのであった。
■救助開始 警備室
H.O.P.E.を後にしたエージェントたちは、現場のデパートに着いた。各自配置につき、突入の時を待っていた。
一階の警備室にて一人が、現場の状況を確認し無線で仲間に伝える。
「こちら三ッ也。本部に映像を送る準備完了。現状、目的以外の四階に一般客及び従魔の姿の確認無し」
本部で待っていると言ってくれた桜の為に、監視カメラの映像を本部に中継する。
現在見えている範囲では、楓の姿は確認できない。
『本当にいるのでしょうか……』
不安そうな気持が頭の中に響く。共鳴しているからなのか、それとも自分が感じているからなのか、不安な気持ちが段々と強くなっていく。
「わからないけど、本部で剣太さんが得た情報では僕らがここに到着する前、従魔に紛れていたようだからね」
黒い女がもし絡んでいるのなら、何らかの方法でこの場から移動している可能性もあるが。
『虎噛様から聞いた限りでは、この場にいると思った方が妥当ではありますよね……』
その言葉に、三ッ也は静かに頷く。
カタカタカタ……
警備室備え付けのパソコン、自分たちが持ってきたノートパソコンを同時進行で操作していく。
仲間が持ってきたカメラの映像もノートパソコンにばっちり送られてきている。
本部に置いてきた2台目のノーパソを遠隔で操作しながら、監視カメラの一部――四階のエリアとカメラの映像を送り、桜の声がノートパソコン備え付けのマイクを通してこちらに届くように設定する。
『これで館内放送にいつでも彼女の声を彼に届けられますね』
パソコンに視線を向けたまま「そうだね」と返事をするのであった。
「あと準備が必要なのは……」
うん、僕たちが今できるのはここまでだね。
監視カメラを同時に複数監視するために共鳴を解く。千と二人になって映し出されている複数の映像に細かな動きがないかじっと見つめる。
地下、1階、2階――
『あ、ここ……3階のこのお店の更衣室……ですかね。カーテンが揺れています』
千にそういわれ、一時的にその映像を大きく映し出す。
カーテンがふわりと揺れたかと思うと、指のようなものが隙間から出てくる。そのままそれはカーテンをつかみ、隙間が広くなったかと思うと幼い顔がのぞかせた。
「これは……」
どうやら楓君ぐらい子供がここに隠れているようだ。
『逃げ遅れたのでしょうか』
「かもしれないね。とりあえず、地上班に連絡しよう」
すぐに無線で連絡を入れる。
監視カメラの映像からだと、はっきりと顔が写らないが、髪型からして楓ではなさそうだ。
■救助開始 地上組
地上組が地下から館内に侵入し十五分が立とうとしていた。
館内の電気は一部のみ点いている状態で、普段よりも薄暗く物音無く静かな空間は不気味さを醸し出している。
「警備室から連絡。ちょうどここ三階服屋にて人影があったようだよ」
3階に着くと同時に、無線に連絡が入る。日和が代表して受け答えをする。
階段からちょうど反対側の端にある女性服のお店にて、子供らしき姿が確認された。
『楓さんでしょうか』
子供と聞いて思い浮かぶのは、いなくなったと聞かされた楓のことだろう。しかし、無線から得られた情報によると楓とは別の人物らしい。
「逃げ遅れた方がそこに隠れているのかな」
『怪我をしている可能性もあるよね』
ひりょの話にフローラが答え、彼はその言葉に静かに頷いた。
『万が一戦闘になった場合を考え、二人でその場に向かいましょう。回復ができる方ともう一人……』
「私がいくよー。従魔が出ても任せて!」
構築の魔女の提案、日和の返事に他の者は頷いて答える。
他の三人で別の場所を探索し、連絡があった店は、日和と虎噛が向かうことになった。
***
ブーブーブー
探索中、ひりょのポケットに入っていた携帯電話が震える。画面には剣太と書かれていた。
『剣太さん? 洋一さんと連絡が取れたのかな』
洋一と連絡が取れたら剣太と連絡先を交換していたひりょへ連絡がいくように取り付けてあった。こうして連絡が来たということは、何らかの進展があったとみて間違いはないだろう。
通話ボタンをタッチして、携帯電話を耳に当てる。
『おお、ひりょ。よく出てくれた。そっちは大丈夫かの?』
聞きなれた声が、電話から聞こえてくる。
「はい。今のところ問題は起きてないです」
なるべく小さな声で応答する。
『それなら良いぞ。今な、連絡が取れてそちらに向かうとのことじゃった。わしは引き続き桜ちゃんと一緒に本部に残っておるから、何かあったらすぐ連絡するように』
「わかりました。あ、えっと……恐らく洋一さんなので突っ込むようなことはないと思いますけど、三ッ也さんが警備室に待機していますのでそちらに向かうようお伝えいただけますか?」
あまり戦闘に出ない彼が、敵のいるところに考えもなしに突っ込むとは思えないが。
『おう、わかった。言っておこう。では一度切るぞ。健闘を祈る』
要点だけ伝えると彼は電話をすぐに切るのだった。
『洋一さん、来てくれるんだね……』
少し安心したようなフローラの声が聞こえてくる。
「来てくれたけど、これで楓さんは気が済むのかな……」
小さな不安が胸に残り、そのまま思った言葉が口に出てしまう。
いや、まずは来てくれたことを喜ぼう。
「すぐに皆にも伝えないと」
『うん』
直ぐに無線で連絡を入れる。
「剣太さんから連絡有。洋一さんと連絡が取れ、現在こちらに向かっているようです。こちらにつき次第、警備室に向かう様に言付けを頼みましたので、三ッ也さんよろしくお願いします」
それぞれから「了解」の返事が無線から聞こえる。
『よし、あとは従魔をどうにかして救助だね。あ、でも……』
楓さんはどこにいるのだろう。
不安はいまだに拭えないままでいるのであった。
***
「確かここのお店だったよね」
人影があったと連絡を受けたお店に来るも、依然として静まり返ったまま人がいるような気配がない。
『本当に子供がいると限ったわけではない。気を付けろ』
ウォセに年押され、日和は気を引き締め直す。
日和と虎噛は足音立てぬよう、入り口から中を確認する。店内は子供服がメインに取り扱われているお店で、子供がいる可能性は高いだろう。
店の奥の白い更衣室が三つ並んだところに、音を立てないよう忍び足で近づいていく。
「ふぅ……う……おか……さ……」
子供の泣き声を押し殺したような声が聞こえてくる。
何を言っているかわからないが、ぼそぼそと小さな声で何か話す声も聞こえてきた。
『二人いるのか?』
開けていいのか、頭の中で相談する。
『開けて確認する他ないな』
後方で武器を構える虎噛にアイコンタクトを送る。彼は無言で頷いた。
開けなくては状況がわからない。カーテンにそっと手をかけ、ばっとカーテンを開けると「ひっ」と声と共に幼い男の子と女の子が二人現れる。
「お、おにちゃ……」
驚かせてしまったのか、女の子の方が泣き出しそうになってしまう。
急いで彼女の口元に手を当てる。ここで大声で泣かれてしまったら敵に気づかれてしまうかもしれない。
慌てて手を口元に当てたのだが、今は共鳴中であり、日和のふわっとした獣毛が彼女に当たり、余計に恐怖心を仰いだのかカタカタと小刻みに揺れていた。
「っと、大丈夫だぜ。お兄ちゃんたちはお嬢ちゃんたちを助けに来たんだぜ」
虎噛が子供をあやす時の優しい顔で、二人を安心させようとにっこり笑う。彼の言葉に少し安心できたのか、こくんと小さく頷いた。
泣き出さないと確認できたところで、ゆっくりと手を放す。
「怪我はないかな?」
彼にならい、日和も安心させるようににっこり笑って二人にけががないかを確認する。
「おねえちゃん、おてて、すごい……」
自分たちに危害を加えないとわかったのか、獣毛に覆われたふわふわの手をぎゅっと握ってくる。
「えへへ、みんなを助けるために強くなってるんだ」
彼女の頬を優しく包むように手を当てると、彼女はふふふと笑う。恐怖心が和らいだようでほっとする。
「さて、連絡をみんなにいれようか。二人か……」
「二人ぐらいなら俺ちゃんが連れていけるんだぜ」
子供に慣れている彼になら任せて問題ないだろう。
「わかった。私はこのままみんなと合流して四階に突入するよ」
そう言って、無線に連絡を入れる。
「うん。子供が二人、逃げ遅れて隠れてたみたい。避難しているお客さんの中にお母さんがいると思う。うん……虎噛さんが二人を下まで連れてってくれるって」
一通り報告を終え、虎噛が二人を両腕に抱える。
「任せたよ。よろしくね」
「終わったらすぐ合流するんだぜ」
何事もなく、二人の子供を救助したところで、3階の探索は終わりを迎えるのであった。
■救助開始 屋上班
カツカツカツ……
段々と高くなるにつれ、風が強くなってくる気がする。
鉄でできた階段をなるべく音の出ないよう早足で登っていく。
「なかなかに登りがいがありますね……」
はぁと息を吐きながら、九字原は苦笑いを浮かべた。
『こんくらいで息を切らしているようじゃまだまだだな』
さらりとベルフに悪態を疲れるも、彼は苦笑を浮かべたままであった。
4階建ての建物は意外に多く、学校なんかも4階でそんなに苦労しないかと思いきや、非常階段は思ったよりも急になっており、体力を持ってかれる。とはいえ、エージェントたちの体力的には問題にはならだいだろうが。上まで一気に上がろうとすると、流石に息が切れる。
『もうちょっと楽に上に行ける方法があればいいんだけどな』
安全かつ慎重に登る方法としては、階段が一番無難だが、正直面倒な方法だと思う。
「ヘリコプターの方法もあるけど、音が大きいと従魔に気づかれちゃうかもしれないものね」
頭の中で仁菜の声がする。『それはわかってるんだけどもね』と心の中で返事をする。
「あとちょっとで屋上だよー!」
『えいえいおー!』
終わりが見えてくる階段に、チルルは気合を入れる。そんな彼女をスネグラチカは元気いっぱい応援するのであった。
***
タンっ……
「到ちゃーく!」
一番最後の段を元気よく登り切ったチルルは、戦闘切って屋上に異変がないかを確認する。
『うん、大丈夫みたいだね』
「問題無し! かな?」
振り向いて仲間の様子も確認する。
「ふう……長く感じましたね……」
九字原は、屋上から地上を覗き見る。小さくなった人たちが行き交うのが見える。
高いところから地上を見るとなんだかくらっとくる。
デパートの入り口は警備の人が中にお客さんが入れない様に寄生していた。車道を挟んで反対側の道には野次馬に集まっている人で溢れていた。
『もしかしたら近くを従魔がうろついてるかもしれないってのに、案外緊張感がないよなー』
彼と一緒にリオンも下を覗く。
怖いもの見たさってのも気持ちがわかるが、従魔と戦っている自分たちからしたら、近づかないで安全な場所にいてもらいたいと思ってしまう。
「実際に従魔に遭遇して身の危険を感じるまで、本当の意味での怖さを知らないのでしょうね……」
仁菜の悲しそうな声が頭の中に響くのであった。
「さて、地上組も準備できたようなので先に侵入しましょうか」
今回の作戦は屋上組数名が先に侵入、従魔の位置、一般客の位置を確認後、奇襲組数名が敵の気を引いているうちに、地上班が一般客の避難誘導をするという者である。
「あたいと一二三が後に入るんだよね」
「そうどすな、中の確認は任せたさかい。よろしうな」
ぐっと親指を立てる一二三に、リオンと九字原は頷き返す。
『さて、いくか』
今までよりもさらに気を引き締め、中へと侵入するのであった。
***
中に入り、物陰に屈みこみ身を隠しながら周囲を確認する。
音を立てないようにささっと物陰から物陰に動く。
(確か中心の方だったはず……)
報告のあった場所の方に近づくにつれ、羽ばたく音が大きくなる。
(いた……!)
小さな鳥が何匹も羽ばたき、その中央部分に一般客の姿が確認できた。スパロウの雛と思われる従魔は2体固まって、一般客たちから少し離れたところでじっとしている。
(スパロウの雛は距離があるけど、スズメが厄介だね……)
作戦通り、注意を引いてもらって誘導するほかないだろう。
(さて行動開始ですね)
タブレット表示されている地図に敵の位置、一般客の位置を書き込みリアルタイムで仲間に送信する。連絡がいきわたったところで、奇襲の合図が駆けられるのであった。
■戦闘開始
屋上組がまず先に侵入し、わざと音を立て敵の気を引く。
「雀はうちらからよそ見したらあかんで」
一二三の体から強い光が発生する――スキル、守るべき誓いが発動されたのだ。
戦闘しつつも中の様子を確認する。仲間からの連絡には楓と母親の姿はなかったそうだ。
『皆さんこちらから! 慌てないで、大丈夫です! 皆さんは私たちが守ります!』
仲間が体を張っている間、救助班が急いで被害者の移動を図る。大きな声で構築の魔女が誘導、飛び回っている雀を蹴散らして逃げ場を確保しつつ安全な方へ誘導する。
「なんか、おかしいよね」
誘導に手が足りているということで、拓海と一二三が1匹のスパロウの雛と戦っているのだが、あちらからしかけてくるというよりはこちらの攻撃をただひたすらに避けるだけであった。
雀も周りを飛び回っているだけど攻撃らしい攻撃をしてこない。
「楓の姿もおらんし、どういうこっちゃ」
自分たちの後方――階段がある方では一般客の誘導が完了している頃であった。
依然として、スズメたちがこちらに危害を加えようとはしてこない。
バチッ――
急に目の前が真っ暗になる。
「なっ……」
「なんや!?」
ブレーカーが落ちたのか。この状況、故意に落ちたとしか思えない。
『気をつけろ』
言われんでもわかっとるとキリル ブラックモア(aa1048hero001)に心の中で返す。
「どうした? なにかあったのか?」
拓海が無線を使い警備室に急いで連絡する。
「ごめん、よくわらない……急にブレーカーが落ちたみたいで。直ぐ復旧する」
わかったと一言だけいい、すぐに連絡を切って武器を握りしめる。
モスケールにより、暗くても敵の位置はわかる。幸いにも通路で戦っていた為店の中よりは広いが、戦いづらいことには変わりない。
パッ――
警備室の連絡通り、数分もたたないうちに明るさは取り戻されたのであった。暗闇から急に灯が付いたため、一瞬目を瞑ってしまう。次に目を開けたときには見たことのある姿が数メートル先に現れていた。
「楓くん!?」
探していた人物がそこにいて少し安心する。
「どこいっとんねん、はよこっち――」
気を付けつつ距離を詰めようとしたその時――
バサバサバサバサッ……
今まで何もしてこなかった雀たちが一斉に羽ばたき、こちらの行く手を阻もうとする。
『拓海、大丈夫!?』
急な攻撃によろけそうになる彼をメリッサが心配する。
「なんやねん!」
近づこうとするほど、嘴を使ったりと攻撃が荒くなっていく。
『うふふ……こんにちわぁ。坊やたち』
雀たちの攻撃が若干弱くなったかと思うと、自分たちと楓との間に一人の少女が現れる。
年は楓よりも上だろう。小学5年~中学1年ぐらいだろうか。真っ黒いドレスに身を包み、赤いバラの髪飾りだけが色づいている。
桜から聞いた「お姫様のお姉さん」の姿と一致している。
「この方が黒い女の……」
構築の魔女の言葉に、彼女はにっこり笑う。
『こうしてお会いするのは初めてよねぇ。初めまして、私の名前はリアリス……よろしくねぇ』
彼女は、楓の肩に手を回しながらこちらに挨拶をしてくる。
「その子を離してください!」
そういった言葉に、リアリスはゆっくり首を振る。
『う~ん……そうしてあげてもいいんだけどぉ……せっかくだからぁ、もうちょっと遊びましょうよぉ』
うふふっと、彼女は楽しそうに笑う。
攻撃しようにも、彼女を守るように配置づくスパロウの雛、なにより楓が近くにいてうかつに手が出せない。
「……なにが目的だ」
『そういえば、お父さんは来てくれたのかしらぁ?』
拓海の言葉には答えずに、彼女は言葉を続けた。そして、ここにいるメンバーの顔をちらりと見る。
『やっぱりこなかったのかしらぁ?』
その言葉にぴくりと反応する楓。
「ちゃんと来てるよ!」
だから帰っておいでと言葉を続けるが、リアリスは彼を放そうとしない。
『うふふ……あらぁ、楓君よかったじゃない。ここには来てくれたみたいよ。でも、まだわからないわよね』
こいつはいったい何を言ってるんだろうか。
彼と彼女を引きはがすタイミングを見計らうが掴むことができたい。
『心配したから来たって限らないわよねぇ。この間だって怒るばっかりだったんでしょう。うふふ……だから本当に心配してくれてるってわかるまではね』
彼に囁くように話すリアリス。
「あんさんが誑かしとったちゅうわけやな」
『私は本当に心配してくれてるなら、危険な目に合ってるときは絶対に助けてくれるんじゃないって教えただけよぉ。でも、実際ここまでは来てくれてないじゃない? だから、まだこの子は返さない』
リアリスはぎゅうっと楓を後ろから抱きしめる。
『あと2か月後、その時に彼を返してあげる。そして、その時に母親の場所も教えてあげるわぁ。大丈夫よぉ。私は楓君とお母さんと家族になりたいだけなの。でも家族の絆がちゃんとしてるなら返してあげてもいいわぁ』
ねっと楓に向かってほほ笑む。
『本当にただの遊び、ただの気まぐれ……最初はかくれんぼ、次は鬼ごっこ……家族みんなで仲良しこよしで遊んだら、すごく楽しいわよねぇ……』
それだけ言い残し、こつこつと後ろの方へ歩き出す。
「今だ……!」
一二三と拓海がリアリスが楓と離れた時を見計らい、二人の確保に乗り出そうとする――が、それをスパロウの雛が遮る。
『次会うときは、楓君とその父親が一緒にくることね……そうそう、桜ちゃん……あの子はいい子ね。いい子だから、あたしは嫌いだけど……うふふ』
スパロウと雛の攻撃を避けるうちに、彼女の姿はなくなる。彼女の姿と一緒に楓の姿もいつの間にかいなくなってしまった。「……ごめんなさい」そう小さく聞こえた気がした。
■救助後
スパロウと雀の攻撃は、彼女たちの姿が消える頃には弱まり、苦労することなく倒せたのだった。恐らく、彼らはリアリスの捨て駒に過ぎなかったのだろう。逃げるための道具でしかなかったのだ。
彼女が本当に目的としていることはわからない。わかっていることは、楓と父親の心のスレ違いを利用して、何かを企んでるぐらいだろうか。
「なにがしたいのでしょう……」
彼女は遊びと言っていた。楓と母親を拉致ったことを。
「結局、楓と母親を連れて帰れなかったな……」
デパートの一般客もただ巻き込まれただけだったのだろう。彼女は楓の父親がこの場に来ることだけを望んでいた。
「家族になりたいといったよね」
彼女は、楓と母親を連れ去って家族ごっこでもするつもりなのだろうか。
『今回、楓が向こうについていったのは、母親が人質に取られていてついていく他なかったって可能性が高いな』
いなくなる直前に聞こえた「ごめんなさい」の言葉が楓の言葉だとすると悪いことをしているのはわかってはいるのだろう。
なんにせよ人質がいる時点で、簡単には手が出せない。それに、今どこにいるかもわからない。
「まずは本部に報告して上からの指示に従う他ないな……」
重い空気がのしかかる中、エージェントたちは本部へと戻るのであった。