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二つの道のその先は~光と闇~
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桜・楓達を蜘蛛から守る相談板
最終発言2017/11/24 11:27:38 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/11/20 18:41:27
オープニング
■白い物体の正体は
山奥の人気のないところに、小学3年生ぐらいの四人の少年と少女が奥へ奥へと進んでいた。
『ねぇ~……あぶないよぉ。はやく、かえろう?』
赤髪の少女が赤髪の少年に声をかける。
「だめだよ! ボクたちだってきっと戦える。悪い奴が少なくなれば、父さんだって帰ってこれるんだ」
本来、このような場所に子供だけで来るべきではない。それなのに、彼らは何かを探すようにどんどん歩いていく。
「そうだよ! お母さんだって寂しがってたから、私たちがなんとかしないと!」
桃色の髪の少女も赤髪の少年と同じ意見のようだ。
『ん……なんかあっちのほう。しろいの……いっぱい』
緑の髪の少年が、進む方向の斜め右を指さす。
「なんだろう……」
近づいてみると、太い蜘蛛の巣のようなものがそこら中に張っているのである。
「きっとここだよ! おねえさんが教えてくれた悪い奴がいるところ!」
「うん! 行ってみよう!」
少年と少女たちはそのまま奥へと消えていくのであった。
■H.O.P.E.本部にて
「君たちに集まってもらったのは他でもない」
一人の男性のオペレーターが書類を片手に話を進める。
本部内の一角にあるホワイトボートが置かれている会議室。そこに緊張感が走る。
「えー……知っている者もいるだろう。栃木県の山奥で従魔の報告があった」
彼の言葉により場の空気がさらにピリピリとしだす。
「幸いにも、今のところけが人も出ていない。報告があった場所は人が住んでいないところだ。ただ、場所が場所ということもあり登山客などの一般人が紛れ込む可能性も少なくない。そこで君たちには、報告があった従魔の討伐をお願いしたい」
眼鏡越しの彼の視線がエージェントたちに注がれる。
「……ふむ。依頼内容は以上だが、質問等がなければ詳しい話を続けさせてもらうぞ」
彼は後ろにあるホワイトボードに「現状について」と書き出した。
■響き渡る二つの音
静かだった会議室内に、電話の着信音が響き渡る。
「失礼。緊急用の電話だ」
そういうと彼は即座に電話に応答する。会議室を出てすぐのところで話し始める。
「はい……はい。今、その現場の説明を……え? それは……本当なのですか。はい。分かりました」
手短に話を終え、室内に戻ってくる。
「非常に嘆かわしいことなのだが、今説明している場所に二名の一般人が侵入してしまったらしい。ヒーローにでもあこがれたのか……」
迷惑な話だ、まったくと呟きつつ、またボードに追記を書き出す。
数文字書いたところで彼はペンを落としてしまう。コツーンとペンが床に当たる音が室内に響いた。
普段の彼は、いつでも落ち着いている。そんな彼がペンを落とすほど動揺するのは珍しい。
「はぁ……」
大きなため息が彼から漏れるのが聞こえた。
解説
●目的
従魔の討伐と一般人の保護
●現状、判明していること
・従魔について
デクリオ級:1体、ミレース級:複数
恐らくリーダー格であろう。姿は、大蜘蛛と報告されている。大きさは直径2mだそうだ。
複数の従魔を従えており、その従魔も蜘蛛の姿をしているようだ。こちらは、小型犬ほどの大きさらしい。
数は現状不明だが、恐らく15~25体ほどらしい。太い糸と鋭い爪に注意したほうが良いだろう。
・現場について
栃木県日光の山奥。報告されている場所に民家などはない。ただし、登山客などの一般人が侵入する恐れがある。
山の中での戦闘になるため、戦闘中は足元に注意したほうが良いだろう。
・侵入してしまった一般人について
4名の男女が現場に侵入してしまった。
少女の名前は、桜とチェリー。少女の名前は楓とメープル。全員8歳である。
それぞれ能力者とそのパートナーであるため、共鳴することは可能だが、戦闘に慣れていない者らしい。
その為早急に保護が必要とされる。
リプレイ
■騒めく森 A班
時刻は1時より数十分前。他の班よりも一足先に現場に到着する。こちらの方が街よりも離れているからだ。
「なーんか、ちょっち静かだよな~」
首をかしげるのは虎噛 千颯(aa0123)である。周りに住宅もないためか、いつもより静かに感じる――本当にそれだけだろうか。
『あまり、田舎に来る機会が少ないからそう感じるのではないでござるか』
頭の中で『よく聞けば鳥や虫の声も聞こえるでござる』と白虎丸(aa0123hero001)の声がする。
引っかかるところはあるが「まぁ……そういうもんかな~」と彼も納得したようだ。
ザァッと風が吹き、木々が揺れる。今日は風が強い。
「確かに静かだよね。それに風が強いみたいだし、すごく寒いよね」
体を震わせながら荒木 拓海(aa1049)が話に加わる。
『ここでこれだけ寒いと感じるなら、上はもっと寒いのよね』
メリッサ インガルズ(aa1049hero001)も彼に同意する。もちろん、彼女の声は彼以外に聞こえることはない。
「風邪ひかないようにね……心配だから」
寒がる彼を三ッ也 槻右(aa1163)が心配する。それに対し『そういう主こそ、風邪をひかないでくださいよ』という隠鬼 千(aa1163hero002)の突っ込みが入る。
ほら、これ着たらと三ッ也が拓海に上着を貸そうとする。「いや! 大丈夫だよ」などとやり取りをする後ろで目を細める者が一人。
「……なんか十分熱い気がするよ」
いろんな意味で……と溜息をつくのはテト・シュタイナー(aa5435)である。『まぁまぁ』と頭の中でL.F.L(aa5435hero001)が苦笑する。
ザァッと木々が揺れる音と共に鳥たちの声が聞こえる――静かだ。音はあるのになぜそう感じるのだろうか。皆も同じなのか、不安げにそわそわしている。
「なーんでまた、こんなとこに来たんかね」
しばしの沈黙を破るように虎噛が呟く。
「なんでだろうね」
拓海は皆に視線を送る。
「……色々気になるけど、今は救出だけを考えないと」
三ッ也の言葉に、テトも頷く。
「終わった後に聞けばいいさ」
準備をしつつ色々と話していると、警察の配置も終わったようだ。
各自、地図や装備を改めて確認した後、他の班へと連絡を入れる。
そちらの班も準備は完了し待機していたようだ。皆、気合を入れ山へ足を踏み入れる。
皆の不安を煽るように風が吹く。なんだろうか、この胸騒ぎは。
ザァッ……――まーだだよ……
風に乗り、誰かの声が聞こえた気がした。
■騒めく森 B班
午後1時、報告を受け現場に来た皆は街よりも格段に下がった気温に体を震わせた。
風がザァッと吹き、木々が揺れる。鳥たちが妙に騒がしい気がした。
「すべて配置終わりました」
警察官の一人がビシッと声をかけてくる。
「おおきに。何やあったらすぐ連絡するんでそれまで待機でよろしゅう」
弥刀 一二三(aa1048)が対応する。長い髪が木々同様、風に揺れていた。
ビシッと敬礼し、また警察官は元居た場所へと戻っていく。
『なぁ……』と頭の中で声が聞こえる。キリル ブラックモア(aa1048hero001)だ。
『救出するのは子供だっただろう……リンカーとはいえ不安だろうな』
「そうやなあ。心細いやろうから、早う行ったろうか」
事前準備は万全。ここにいるグループとは別のグループの準備次第ですぐにでも行きたいところだ。
「焦りは禁物だよ。すぐに行きたいのは俺も同じだけどね」
そわそわする周りに対し、そして自分に言い聞かせるように黄昏ひりょ(aa0118)が呟く。彼の姿はいつもより少し大人びている。彼の表情からは焦っている様子は窺えない。
『それより、ひりょはちゃんとはぐれないようにみんなについて行ってよね。すーぐ、迷子になっちゃうんだから!』
「わわっ……わかってるって」
共鳴中のフローラ メルクリィ(aa0118hero001)に方向音痴を突っ込まれ、苦笑いを浮かべる。その顔つきはいつもの彼と変わらない。
「よーし! 従魔をさくっと退治してぱぱっと救助をしちゃおう!」
彼らのすぐ後ろで「えいえいおー」と気合を入れるのは、雪室 チルル(aa5177)である。彼女と一緒に「えいえいおー!」と気合を入れたのは、八角 日和(aa5378)であった。
「あたいたちがいるなら救助はできたようなものよね!」
自信満々にそう言ったチルルにスネグラチカ(aa5177hero001)が冷静に『その自信はどこから出てくるかわからないけど、頑張ろう』と突っ込みを入れる。
「何事もなければいいんだけどね。色々と考えるところがあるし……」
考え込む日和同様、他の者も考えることは同じだろう。どう救出、討伐するか以前に、なぜ子供たちがここに来たのか。皆不思議に思っているのではないだろうか。
考えれば考えるほど、謎の渦にのめり込まれていくようだ。日和の尻尾と耳が徐々に垂れていく。
『……それは後に考えればいいだろう。救出した後本人たちに聞けばわかることだ』
考えてもらちが明かないだろうと、ウォセ(aa5378hero001)が考えこんでしまった日和に制止をかける。
「そうだね……」
小さく呟き、尻尾と耳も普段通りになる。
後は、連絡を待つのみだ。皆の視線は目的の山奥へと注がれる。今日は風が冷たい――いや、冬はこんなものか。風に吹かれ、体をぶるっと震わせる。早く見つけ出さないと夜になっては、見つけるのも困難になるだろう。
緊張感が走る中、通信機に連絡が入るのであった。準備ができたらしい。
目線を交わし頷く。「さあ、行こう」というと歩みを進める。
ザァッとまた強い風が吹く――気のせいだろうか。風に乗り鼻歌が聞こえた気がした。
■どーこだ A班
時刻は3時すぎ。連絡を受けてから5時間経過。駆け足で捜索しているとはいえ、現場に来てから2時間は経ってしまった。
見落としがないように。それでいて早く。そうこうしているうちに、今は山の中腹だろうか。段々と上へ上へと行くうちに、風が強くなっていく。
「ここまでいないとなると……頂上だったり……しないよね?」
汗をかいた肌に風が吹く。それによって冷えた体に、さらに冷たい汗が流れる。
もしかして見落としてしまったのか、いや、そんなはずはない。拓海は不安げに仲間をちらりと見た。
「ま、まさか……ね。リンカーとはいえ子供だよ。それに見落としたりもないと思うよ?」
拓海の言葉にすぐさま、三ッ也がフォローを入れる。
そうは言っても、ここまで探して今のところ従魔も見当たらない。皆も不安なのか額に冷や汗が流れる。
「大丈夫だろ。俺たちの力を信じる以前に子供たちのことを信じるもんだ」
「テトちゃん、いいこと言う~」
明るく振舞う虎噛もいつもより表情が硬い。
キョロキョロと辺りを見る。慎重に。彼らを見逃さないように。
じゃりっと地面を踏みしめ、先へ先へと進んで行く。
「なぁ……静かじゃないか?」
しばらくして、テトが沈黙を破る。
「いや、それはさっき話してたとおり」
「いや……そうじゃなくてさ」
虎噛の言葉を遮り、彼女は耳を澄ますように言う。ゴォッと風が吹く。
「……風がうるさいな」
うんうんと頷く皆に彼女が「それ以外で」と突っ込みを入れる。
「鳥の声……それどころか動物の声がしない……?」
「そう、それ」とようやく彼女が同意する。
「なるほどね……言われてみれば」
「これは……近づいてきたってことかな……」
「かもな。よーやくお出ましかぁ?」
虎噛の言葉に、場の空気がよりピリピリとしだす。
――パァン!
突然辺りにはじける音が響く。見上げると花火が上がっていた。
まずい。まずい……他の班が遭遇したんだろう――通信機にも連絡が入る。
「従魔か」
その言葉に連絡を取った彼は静かに頷く。ビンゴだ。仲間へ視線を向けアイコンタクトをとると、すぐさま花火の上がった方へと向かうのであった。
■どーこだ B班
ざわざわと木々が騒めいている。風が強くなってきた。
「他の班からの連絡はない……か」
到着してからしばらく捜索しているが、別の班からの連絡もなくこちらも足取りをつかめていなかった。
「残るは中腹以上って感じやなぁ。ここまでくると流石に風が強くなりますなぁ」
上に登るにつれ、強くなる風に多少の焦りを感じる。
「これは上はもっと寒いってことよね」
早く見つけないとと思うのは皆同じだろう。
「私たちは、子供らより上だから体力もあるけど、なんだかんだ足場が悪くていつも以上に体力を消耗するじゃん? よく入ってこれたよね」
ふと日和がそんなことを口にした。数秒の沈黙が流れる。
「まさか……捕まってたりは」
「しないよね……」
場の空気が一層ピリピリとしだす。冷や汗が流れる。
「あ、見てくださいよ!」
ひりょの指さす方に白い太い糸のようなものが張っているのを見つける。それはなん十本も集まり、一種のひものようにも見える。
「これは例の蜘蛛のやつやろか」
周りを気にしつつ近づいていく。
「蜘蛛の糸……で間違いなさそうだよね」
「すごい太いね……これ」
近づいて触れようとする二人に一二三が静止をかける。
「あんまり触らんとき。糸に毒があらへんとも言えへんさかいね」
出した手を慌ててしまう。
「よう見てみると、木にもぎょうさん蜘蛛の巣がついてんな」
そういえばと周りを見渡すと、太い糸の他にも小さい蜘蛛の巣が張っている。それも、かなりの量だ。
「山の中だから。今まで歩いてきた中も蜘蛛の巣はあったけど……ちょっと気持ち悪いね」
「ね。ところどころ、綿あめみたい」
すぐ近くの塊を見てみる。中に何かいる。持っていた武器で塊の表面を切ってみる――ソレは簡単に切ることができた。中に鳥の死骸が。
「……これは」と言いかけたところで、ひりょが「静かに」と口に指を当てる。
皆意図をくみ取ったのか会話をやめる。呻き声が聞こえる。
声の聞こえる方へしばら歩みを進めると、大きな木の幹にひと際目立つ糸の塊が4つくっついている。ゴーグル越しに、ライヴスの流れを感知する。
まさか……と思い、周りを警戒はするも駆け寄る――が罠だった。
シュッ!
糸が自分たちへと向かってくる。マズい囲まれたか。警戒はしていたため糸は難なく避けることができた。
アイコンタクトをとり頷く。皆が周りを見ているうちに、ひりょがすぐさま花火を付ける。
ピュウッ……パァンッ!
その音と共にソレは姿を現すのだった。
■みーつけた
ガサガサと姿を現したのは、報告通りの小型犬ぐらいの蜘蛛だった。それもざっと見るだけで20はいる。
「これは……」
「焦りすぎてしもうたかもなぁ」
囲まれた。それは誰しもがわかる事であった。大きな木を中心に蜘蛛が囲むように現れる。
ううぅ……
小さなうめき声が気についている塊から聞こえてくる。
「とりあえず、中を確認するね」
蜘蛛は仲間に任せ、日和が塊の中を確認する。
中を傷つけないようにそっと表面だけを。すうっと切れ込みをいれる――中に赤色がちらりと見えた。
「わわっ」
見えていたのは男の子の髪の毛だった。中から支えをなくした体が倒れ込んでくる。
受け止めはするもバランスを崩してしまう彼女に、ひりょがさらに受け止める。
「彼は俺が。日和さんはもう一つを」
彼の言葉に頷き、すぐにもう一つを確認する。こっちも男の子だった。
「となると……」
残りは女の子だろう。
一度、その場に子供を横たわらせる。意識を失っているが息はある。
ピョンッととびかかってくる蜘蛛を避け、一二三が切り落とす。チルルも同様に向かってくる敵を切る捨てる。
「手当をしたいけど数が多いね……」
「蜘蛛自体は弱そうやけど、この状況で背は向けられへんな」
二人が敵を倒すうちに、塊の中の子供たちを取り出すことはできた。落ち着いて体を見ないことには、状況がわからない。
「片手で攻撃するのにはちょっと危険よね」
倒しても倒しても敵は姿を現す。スキルを使って敵の気を引くべきか。いや、数が多すぎる。
「蜘蛛は大量に子供を産むってだけあるな」
何としてもこの状況を打破しないと。ここにいる全員がそう思ったとき。
――ザクッ!
ドサッと音と思に離れている蜘蛛が真っ二つになる。そして見覚えのある姿が現れた。
「ヒーロー……登場!」
にかっと笑う虎噛。額には汗がにじんでいる。
「ちーちゃん、今はそれどころじゃ」
「無事でよかった……」
彼に続いて拓海、三ッ也が言葉を続ける。
蜘蛛の視線は、後ろからの攻撃に釘付けになる――今だ!
子どもたちから少し距離をとりチルルがスキルを発動する―守るべき誓いの発動。
彼女のライヴスが活性化され防御力が高まる。それに伴い蜘蛛の視線は彼女へと集中する。
他の三人がすぐに子供たちを合流した仲間たちの方へと運ぶ。
最初に決めていた通り、敵をひきつけ討伐するものと子供たちを救出するもので別れる。
「お前ら、後は頼んだ。とりあえず、俺たちは距離をとろう。回復はそのあとだ」
テトの発言に頷き、「っと前に」と虎噛が小さく呟いた。
直後、ぱぁっとその場にいる皆の足元が光る――フットガードだ。
「助かるよ」
「ありがとう!」
彼は頷く。子どもたちは四人。直ぐに二人ずつ、ひりょと虎噛が抱え走る。
走る。幸いにも彼らのおかげで追ってこない。
走る。走る。ソレから離れ安全を確認するまで。
「ここまでくれば……」
蜘蛛の巣が少なくなり、敵が来ないのを確認しつつ、木の陰に隠れる。
彼らの状況を確認しなければ。
「毒は……受けてないようやな」
とりあえず、一安心だろうか。とはいえ、切り傷から血が流れている上、かなり体力を消耗している。このままでは危ないのは確かだ。
「ケアレイ」
落ち着いてスキルを発動する。傷が深いところを中心に光が彼らの体を包む。
時々苦しそうな唸り声を漏らしていたのも静かになり、呼吸も落ち着いてくる。
落ち着いたのを確認しすぐさま下山する。
「うぅ……お……かあさん……」
夢を見ているのか、桃色の少女が小さく声を漏らす。髪色からして桜だろうか。
心配そうに彼女たちの顔を見る。するとパチッと赤髪の少年が目を開ける。
「う、うわぁ!!」
見知らぬ人に抱えられ、驚いたのか小さく暴れる。
「っとと、危ないな」
急に暴れられ、虎噛はバランスを崩しそうになる――が流石子持ち。難なく体制を整える。
「大丈夫や。もう悪い奴はいーひんさかい」
なだめる様に一二三が少年にやさしく声をかける。
「大丈夫? えっと……楓さんかな?」
ひりょの言葉に「うん……そうだよ」と少年は不安げに答える。
「もう安心していいぞ。俺たちが助けに来た」
その言葉に一瞬ほっとする顔をするも、はっと抱える他の3人を見て顔が真っ青になる。
明らかに焦りを見せる彼。
「お母さんは!? お母さんもいたはずなのに!」
予感は最悪の形で的中した。
(落ち着け……とりあえず、状況を確認するんだ)
ふうっと一息つき、改めて確認をする。
「君たちは、楓、桜、メープル、チェリーで間違いないよね。他にお母さんもいたの?」
そんな報告はなかったはずだが。
「いたよ! ボクたちを助けに来て! それで! それで……」
涙を浮かべ、「どうしよう……血がいっぱいで」と明らかに動揺している。
頭の中で、先ほどの場所を思い浮かべる。近くには見当たらなかったはずだ。
「……親玉の大蜘蛛。見当たらなかったな……」
テトの言葉にさぁっと血の気が引く。
急いで他の班に連絡する。
「緊急連絡! 最悪の事態や。急いで親玉を探してほしい。少年たちの母はんも侵入しとったらしい……」
安全な位置まで四人で。途中から二人が来た道を戻る。急がないと……最初の胸騒ぎが当たらなければいいが。
■もーいーよー
子どもたちが離れたことにより、少し派手な戦闘もできたことで、ようやく落ち着くというところで連絡が入る。
「まずいことになった」
直ぐに皆に伝える。これだけ派手な戦闘をしていても親玉の姿が見えない。
「探している時間はないよね!?」
チルルは焦りを見せる。話に聞くと、侵入してしまった母親は怪我をしている。そのうえリンカーでもないただの一般人。
「ちょっと待って。あれを見て」
弱って逃げ出そうとしている蜘蛛は一方向へと向かっていっている。
「よく見ると太い糸も同じ方向だよ」
三ッ也の言う通り、蜘蛛の逃げる方、糸の張っている方、二つとも同じ方向へ向いている。
「とりあえず、数匹だけは生かしておいてついて行ってみよう」
拓海の言葉に同意し、残り数匹になるまで蜘蛛を倒す。そのまま、糸の張る方へと向かっていった。
「ここか……」
糸の先、しばらくいったところで小さな崖にあたる。そこにはぽっかりと穴が空いていた。逃げた蜘蛛は、すべてそこに向かっていた。
「なるほどね」
どうすると目線で合図を送る。このまま突っ込んで狭いところで戦闘となると、万が一中に人がとらわれていた場合、敵の攻撃が当たってしまう可能性がある。
ギギギ……ズシンッ……
その心配はなかったようだ。ゆっくりと着実にこちらへと向かって音が近づいてくる。
しばらくしてソレは完全に姿を現した。
ギギギアアァァ……
鋭い牙から奇声が発せられる。明らか怒っている。
「仲間を殺されておこってのかな」
「それはこっちも一緒だよ。子供たちを傷つけられてるんだから」
拓海もいつもは見せぬ怖い顔をしている。時折、大丈夫と小さく呟く。リンク中の彼女と会話をしているのだろう。
「いくよ……」
「うん……」
敵は完全にこちらに気づいている。大丈夫。落ち着いて戦えば。
小さい敵はどうってことなかったが、こいつは……小さな不安を胸に四人は戦いに挑むのだった。
――もーいーよー……
冷たい風がまた彼らの頬をかすめた。
■大蜘蛛を
勝負が決まるまではそんなに時間がかからなかった。
「っと危な!」
テトはびしゃっと毒々しい緑色の液体が飛んでいた虫にかかる。ソレにかかった虫はその場にポトリと落ち、しばらくもがいたかと思えば段々と動きを止めていった。
「予想通りってこったな」
子供たちを安全なところに運び、直ぐに全員が合流する。八人で最後の敵に向かっていく。
回復ができるものは、敵の動きを見つつ洞窟の方へと向かう。母親の救出へと急いだ。
シュッという音と共に、大きな爪が荒木を目掛け振りかざされる。小さい蜘蛛の方に気を取られ、気づくのに遅れる。
――グイッ!
仲間が引っ張って難を逃れる。
「槻右ちゃうくてがっかりした?」
敵から目線は逸らさずに、一二三はそんな冗談を言ってくる。
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう」
目を細め三ッ也がちらりと彼らを見る。
「わかっとるちゅーの」
ザクッ!
プシャッと音と共に、胴体から足が切り離される。
「こんくらい! あたいたちにはどうってことないんだから!」
チルルに続き、日和も大蜘蛛の足を切り落とす。
「私も負けないよ!」
足を二本失い、バランスを崩した大蜘蛛は倒れ込む。
「これで、終わりやな!」
バランスを崩し、隙ができた大蜘蛛に鋭い歯を突き立てる。
キイィィィ……
今までの叫び声の中で一番大きな声を上げ、ソレは動きを止めるのであった。
■救出は
「あれじゃないかな」
洞窟は少し行った先ですぐ行き止まりになった。
そこら中に糸が張られ、丸い卵のようなものもそこら中に転がっていた。
「ここが巣ってことか」
仲間が大蜘蛛と戦っているとはいえ、小さい蜘蛛もまだいるだろう。警戒しながら近づいていく。
「おい、あれ……」
薄暗くて見えずらいが、蜘蛛の巣の中心に女性らしき姿があった。
中に逃げ込んだであろう蜘蛛は、弱っていたのかすでに動いていない。慎重に近づいていく。
シュッ!
蜘蛛の糸により吊るされた体を一人が支え、他のものが糸を切る。そしてゆっくりとその場に寝かせる。
「……冷たい」
彼女はまだ息がある。だが、素人から見ても傷がひどく、命の危険があるのがわかった。
遅かった――いや、そうじゃない。もっと早く来てもこれは間に合わなかったかもしれない。傷を手当てしながら、彼女の状態を詳しく見る。背中に鋭い切り傷。大蜘蛛により毒を受け、かなりダメージが大きい。服についている血を見ると、傷を負ってから時間はかなり経過していたようだ。
「とりあえず、今ここでできる手当はしたよ。直ぐにここを出て病院へ連れて行かないと」
「ううぅ……」
傷がかなり痛むのだろう。辛そうな呻き声を漏らす。
優しく抱き上げ、この場を去ろうとした――すると、彼女はゆっくりと目を開ける。
「……あ、あなた……たちは……」
時間を無駄にしないため歩きながら言葉を返す。
「俺たちはエージェントだ。お前らを助けに来た」
もう大丈夫だとテトが優しく声をかける。
「……そう……あ、あの子たちは?」
彼女の瞳に不安が浮かぶ。
「大丈夫だぜ。救出して安全なところにいるからな」
虎噛の言葉に「よかった」と安心したように呟き。彼女の腕はだらんと下がる。
「う……そだろ」
一瞬の不安が過る。
「大丈夫。また気を失っただけみたいだよ」
危ない状況には変わりないからとすぐにこの場を後にした。
■まーだだよ
ひとまず下山し、下に待機させておいた救急車にすぐに運ばせる。
子供たちのうち傷が浅く、気が付いたものはその場で手当てをしてもらっていた。楓、桜の二人は霊符を張ってもらい。仲良く三人でチョコレートを頬張っている。
怖がらせないようにと、数人で彼らに話を聞くことにした。聞きたいことは決まっている。
目線を合わせ、ゆっくり優しく彼らの言葉に耳を傾ける。
「どうしてここにきたって? えっと……おねえさんが街で教えてくれて」
どうしてそんなことを聞くのかとでもいうように、きょとんとした顔で桜が答えてくれる。
『公園で……お母さんをどうしたら喜ばせられるかって話していたんだ……』
『そうだよぉ。お父さんが帰ってこないから寂しいねって話をしてたときに、お姉ちゃんが教えてくれての』
「仕事で忙しいなら手伝ってあげたらって」と三人は話を続ける。楓はただ一人、黙って後ろを向いたままだった。
「みんなでやればたおせるって……だから……」
ごめんなさいと口々に謝る。
確かに危険な場所に入るのは感心しない。でも悪いのは君たちじゃない。目に涙を浮かべる彼らの頭を優しく撫でるのであった。
「ありがとう。ご苦労だった」
後から雀部も合流する。その声に今まで黙っていた楓がピクリと反応する。彼の姿を見るなり他の四人も、表情が固まる。
「……よく迷惑をかけてくれたな」
静かに怒鳴るわけでもなく淡々に。
「まぁいい……それより、私の娘たちが世話になった」
一言いうと、彼は警察官につられどこかへ行ってしまった。
(……子供!?)
彼と四人を見比べる。いや、二人は英雄か。
似てないと思う者も、状況が把握できず混乱する者もいたのではないだろうか。
ひとまずこの状況は置いておくことにし、まずやるべきことを実行することにする。
「なんで今頃来るんだよ……」
楓が小さく呟いた気がした。
情報をもとに、彼らがここに来るように裏を引くものがいたのに違いない。姿はお姫様のような黒いドレスを身にまとう綺麗な女性だったという。
逃した従魔はいないか、また例の女性がいないかをくまなく探索する――が、残念ながら彼女の情報は得ることができなかった。
あたりが暗くなったところで、今回の任務は終了を迎える。今回の目的は従魔の討伐と保護が目的だ。
暗くなった山は昼間よりも冷たい風が吹く。
ビュゥッ……――まーだだよ、坊やたち……
この日はエージェントとしての活動を彼らは終える。
胸には、モヤモヤというした不安だけが残るであった。