本部

【初夢】IFシナリオ

【初夢】慣れぬ体

秋雨

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2018/01/16 14:06

掲示板

オープニング

 この【初夢】シナリオは「IFシナリオ」です。
 IF世界を舞台としており、リンクブレイブの世界観とは関係ありません。
 シナリオの内容は世界観に一切影響を与えませんのでご注意ください。


●小さく、大きい

「シェル、おはよ……誰ですか」
 四月一日 志恵(az0102)は警戒心露わに、洗面所に立っていた女性へ誰何した。
 女性はその豊かな黒髪をふわりとなびかせて志恵を振り返る。
 その顔立ちは見たことがあるような気がするが、この女性に会ったことも、ましてや家に入れるなど記憶がない。
「……シエ? もしかして、もしかしなくてもシエなのね!」
「! ちょっ」
 銀の瞳を丸くしていた女性が破顔し、志恵へ手を伸ばす。ひょいと抱き上げられた志恵は眦を釣り上げて口を開き……その言葉を飲み込んだ。
 今、この女性は自分に何をしたか?
 そう、軽々しく抱き上げた。


 ……抱き上げた?


 そろそろと視線を下ろした志恵は、その思考を停止することになる。
 しかし、情報の整理をする時間は与えられなかった。
「シエ可愛いー! お人形さんみたい!」
「っ!? こ、こら! 危ないから回らない!!」
 視界がぶれる。頬に当たるその風に、女性がくるくるとその場で回り始めたことがわかった。志恵は思わず彼女の抱き上げる腕をぺしぺしと叩く。
 その力は加減しているつもりもないのに、いつもより格段に弱い。
「はぅ……ごめんなさーい……」
 止まった女性はしゅんと肩を落とし、ついでに志恵を地面へ下ろしてくれる。
 下ろされた志恵の視線はいつもより低い。
 志恵は女性をぐっと見上げ、その容姿を見て怪訝そうに目を細めた。
「………もしかして……シェル?」
「うん!」
 にぱ、と嬉しそうに女性が笑う。
 豊かな黒髪、小麦色の肌。銀の瞳が笑みで細まるその表情は、いつもの幼い姿と重なる。
「起きたらね、大きくなってたの! シエも起きたら小さくなってたの?」
 中身は元と変わらないらしい。その女性らしい体つきと幼げな口調はちぐはぐさを感じさせた。
「……そう、ね。私が寝惚けているのかと思ったわ」
 シェラザード(az0102hero001)の言葉に志恵は視線を落とす。
 視点からして、今の身長は常の3分の2ほどだろうか。頬にぺたりと手を当ててみれば、その輪郭はいつもより少し丸い気がする。
 そう、子供のように。
「何が起こっているのかしら……」
「んー……なんだろうね?」
 志恵と視線を合わせるためにしゃがんでいたシェラザードが、不思議そうに小首を傾げる。
 けれど2人で考えたところで、その原因が分かるわけでもなく。志恵は溜息をついた。
 今日は休みだ。明日になってもこのままなら、またその時考えよう。
「シエ! シェル、はつもうでに行きたい!」
「初詣? ああ、年が明けたものね。人混み凄そうだけれど……」

 貴女の服を借りてもいいかしら、なんて会話をしつつ出かける準備をして。



 志恵とシェラザードが見たのはそんな夢。


●ユメ

 ある人は、英雄と共に初詣へ行く夢かもしれない。

 ある人は、友と買い物へ向かっているかもしれない。

 ある人は、ただ家でぐうたらと一日を過ごしているかもしれない。


 どんな夢だったとしても不思議なことは、外見年齢が変化しているという事。


 さあ、あなたはどんな夢を見た?

解説

●概要
 慣れない体で休日を過ごす。
 外見年齢を参照し、15歳以下なら年齢プラス10歳。16歳以上なら年齢マイナス10歳の姿となる。

●休日内容
 依頼中は不可。その準備などは可能。
 夢は初詣など新年らしい内容でも、普段のなんでもないような1日でもよい。
 夢の中の日時は限定しないため、天候や時間帯は自由。

●注意事項
 参加者以外のPCは描写不可。
 基本的に個々(能力者&英雄)の描写となる。
 参加者内で同じ夢を共有する(行動を共にする)場合は、タグなどの使用推奨(絶対ではありません。当方が助かります)。
 アドリブ不可の場合は記載必須。

リプレイ

●黒と赤の夢

「……」
「……」
 配色が反転したような、瓜二つの少女達。
((……どうして成長しているんだろう))
 いつもより10歳程度外見年齢が上がっている。
 アリス(aa1651)とAlice(aa1651hero001)は上から下へ、そしてまた上へと互いへ向けた視線を移動させた。そして、今度は自分の方へ。
「……体調はなんともないみたいだよ」
「そうだね」
 アリスはAliceの言葉に頷いた。
 違和感も疑問もあるけれど。熱があるわけでも、体のどこかに不自由を感じるわけでもない。
「一先ず、様子見といこうか」
「そうしよう」
 アリスの言葉にAliceが頷く。
 彼女たちは自分達以外に変わってしまったものがないか確認することにした。

 変化がないことを確かめていたAliceは、アリスが姿見を覗きこんでいることに気が付いた。
「……何をしてるの?」
 そっと声をかけると、何度か目を瞬かせたのちに柘榴石の瞳がAliceを映す。
「いいや……10年後くらいの自分ってこうして見ると、中々違和感があるなって」
「ああ……同意」
 10年後、自分達は果たして何をしているのだろう。そもそも、生きているのだろうか。Aliceに至っては成長が止まっているのだから、この状況は10年経ったって有り得ない、想像していなかった状況であったのだ。
「……そう、部屋のものだけど。特に変わったことはないみたいだよ」
「そっか。……折角成長したのだけれど、如何せん服が問題だよね」
 Aliceの言葉に頷いたアリスが自らの服を見下ろした。
 スカートが際どくて流石にこの状態で外には出られない。室内でできる事も限られてくる。
「……掃除かな」
「うん。雑巾取ってくる」
 雑巾を濡らして、固く絞って。
 Aliceは持ってきた雑巾の片方をアリスへ手渡した。
 2人は棚に置いてあるものをテーブルへ避けて、棚を拭く。その身長は棚の上を拭くには十分で、いつもこれくらいの身長なら楽なのに、と思う。
 ふとアリスがこちらを向いて目線が合った。
「……どうしたの」
「掃除……終わったら、お茶をしようか」
 その視線は棚へ戻す茶葉の容器に注がれている。
「そうだね」
 もう少しやることはあるだろうけれど、この姿ならきっとすぐ終わる。
 そうしたら茶を淹れて、菓子を用意して。2人だけのお茶会だ。

 ふ、と目を開ける。広がる視界は――その世界は、いつもと変わらない。
 棚の前へ行くと既にAliceがいた。黒曜石の瞳がアリスの方へ向けられる。
「おはよう」
「……おはよう。夢を見たよ」
 2人とも大きくなって、脚立なしに2人で棚を拭いている夢。
 淡々と告げるAliceにアリスは目を瞬かせた。Aliceは視線を棚へ戻し、手を伸ばす。
 その手は棚に届くことはなく。
「まぁ……」
「そうだよね」
 アリスが同意の声を上げると、Aliceが視線をアリスへ向けた。
「……多分、だけど。同じ夢を見たよ」
 Aliceにそう告げて、脚立を用意しに行くために背を向ける。
 脚立を取って、棚の上の茶葉を手に取って。それが、彼女たちの『いつも通り』である。


●お人形はどちら

「……まぁ、こんなこともあるさ」
 ソピア=アイオン(aa5364)は自身の姿を見下ろした。そんな彼女の背後から呆然としたような声が上がる。
「……師匠が俺より小さい……だと……」
 振り返るとそこにいたのは白髪の青年。
「そこまで驚くことかい? きみも変わっているだろう」
「驚くだろ? 師匠を見下ろしてるんだから」
 彼――命荷(aa5364hero001)は呆れたような表情を浮かべた。そんな姿じゃ占いも信じてもらえなさそうだ、と呟く。
 ソピアの視点はいつもより大分低く。体は見事なまでにぺったんこ。
「これじゃあ占いの仕事も説得力に欠けるのは確かだね」
 珍しい体験だ、遊びに出かけてみようか。
「やった、お供しますよ」
 ソピアの言葉に命荷が瞳を輝かせる。
 けれど。
「師匠、服はどうするんだ?」
「……さて、どうしようかね」
 命荷は服のアテがあるが、ソピアの着るものがない。最初に向かうのはブティックとなった。

「このワンピースも似合いそうですね」
 店員の言葉に命荷はええ、そうですね、と保護者面をして店員の話を聞いている。傍らにいるソピアはうんざりだと言わんばかりの表情だ。
 やがて、とうとう耐えられなくなったらしい。
「はぁ……もういい、勝手に決めてくれ」
 ソピアは小さな溜息をつくと踵を返してどこかへ行ってしまう。
 店員と命荷は互いに見合わせたものの、再び服へ視線を落とすまでにそう時間はかからなかった。

『娘さんカワイイです。お人形さんみたい!』
 服を着せられたソピアに店員が褒めちぎっていた言葉をまた思い出す。店員が選んだのはクラシカルロリータというものだ。
「……誰が娘で誰が人形だか。私は主人で……人形はきみの方だろうに」
 店員の後ろで命荷がまんざらでもなさそうな顔をしていたことをソピアは知っていた。
「顔は似てるからなぁ、師匠と俺。兄妹の方がよかったか?」
「冗談じゃないね」
 命荷の言葉に緩く頭を振ったソピアは、近くの看板に気づいて命荷へ声をかけた。
「あそこに入ろう」
「あそこ? ……ああ、カフェか」
 命荷が看板を見て頷く。カフェへ入ったソピアは注文カウンターへ向かった。
「酒はあるか?」
 カウンターにいた店員はソピアに苦笑して子供にお酒は早いですよ、と答えた。仕方ないので代わりにブラックコーヒーを注文する。
「随分と不自由なからだになったものだ」
 コーヒーを飲んで開口一番。不満を口にしたソピアに命荷が苦笑した。
「いいじゃん、オマケで玩具もらえたし。俺の普段の格好じゃ貰えないぜ」
 その言葉に、ブラックコーヒーと一緒に渡された玩具へ視線を向ける。
「脳がコドモのきみのほうが好きそうな代物だ」
「脳みそあんのかな、俺。今はわかんないけど元は人形だろ?」
「さぁね。そのモデルはきみほど阿呆じゃ無かったのは確かだ」
 そう告げてソピアは命荷を見る。否、彼を通して弟を想う。彼の瞳は紅いけれど、弟の瞳は蒼かった。
(命荷の瞳が蒼かったら……成長した弟のような感じなんだろうか)
 彼をベースに共鳴した姿と大した変わりはない。だというのに、共鳴時には感じないことをソピアは考えていた。

「師匠、ほら」
 カフェを出ると、命荷が屈んで手を広げた。
「その体じゃ歩幅も小さいし、疲れただろ?」
「……きみにしては気が利くな。落としたら承知しないよ」
「了解、マスター」
 ニッと笑った彼の腕へ、ソピアは素直に収まった。


●もったいない!

「クロさーん! クロさん!」
 自らの誓約者である真壁 久朗(aa0032)の名を呼びながら、セラフィナ(aa0032hero001)はばたばたと彼の部屋へ入った。
「……どうした。何事だ?」
 セラフィナは寝ぼけ眼の彼を見て目を丸くする。
「わー! ク、クロさんどうしてそんなミニマムにー!」
「……ミニマム?」
「ミニマムです! ほら、鏡見に行ってください!」
 セラフィナの言葉に久朗が目を瞬かせた。

「こんな事は初めてだな」
 久朗は少年の姿に。セラフィナは青年の姿に。雰囲気を残しつつも変わってしまった体に、2人は戸惑いを覚えていた。
「ええ……クロさんが僕より小さいなんて。それに、か、かわ……」
「そ、それ以上は言うな」
 言葉の先を予測した久朗は慌てて止めた。
 自分にその言葉は当てはまらない。そう、絶対に。
 ふとセラフィナが真剣な表情で久朗を見つめてきた。その眼差しに久朗は何だ、と視線で問う。
「……もしかして。僕達、ずっとこのままなんでしょうか」
「わからん。ひとまず、支部に相談でもするか」
 他にも同じような状態の者がいるかもしれない。元に戻る何らかの手段も見えてくるだろう。
 しかし。
「もしそこで解決策が見つかってしまったら、元に戻ってしまいますよね!?」
「……うん?」
 会話が噛み合っていないような、思考の方向性が合っていないような。
 久朗が内心首を傾げる中、セラフィナはずいっと久朗に詰め寄った。
「セラフィナ?」
「それはそれでもったいない気がします! 少し……外を出歩きませんか!」


●年相応に愛らしく

 鏡を見たエス(aa1517)はわなわなと映ったものを見つめていた。
「こ、これは……私……?」
 そこへ通りかかったのは縁(aa1517hero001)エスを見て動揺の声を上げる。
「あ、主様……お姿が……」
「びけい! かわいい! うるわしい!」
 エスの言葉に縁の動きが固まる。
「ははは! なんだか学生時代を思い出すな。薔薇色に輝いていたあの頃!」
 芝居がかったような身振りで両手を上へ伸ばすエス。
「主様はいつどんな状況でも輝いているような気がしますが……ところで、きちんと服をお召しになってください」
 シャツを差し出すと、エスが縁を見て目を瞬かせた。
「おや。縁、キミはなんだかでかくなったな!」
「はあ……これはこれで、よりお世話がしやすくなりましたが」
 縁の言葉を聞きつつシャツを着たエス。唐突に「は!」と声を上げるとブラシを掲げて縁の方へ向き直る。
「縁! 私あれがやりたい! ツインテール! 愛らしい感じでよろしく!」
「……は、はあ。仕方ありませんね」
 ブラシを握らされた縁は戸惑いの声を上げるものの、否とは答えない。
 姿が変わっても、この構図は相変わらずであった。


●2つの夢の合流地点

「はー自由! 人生とはここまで楽しいものか……」
 そう呟くエスが身に纏うのは女子中学生の着るような制服。縁に買いに行かせたものだ。
 一度でいいから年相応の少女の姿になりたいという夢が、何故かは分からないが叶った。ならばこの姿を満喫するしかない。
「さて、女子中学生が好む事とはなんだ。クレープか? プリクラか?」
 そう呟くエス、けれどふと顔を上げたエスの視界に入ったのはどこか懐かしい面持ちの少年。
「そうか! ナンパか!」
 意気揚々とその少年へ声をかけに行った。

「……主様、外へ出るなりあっという間に置いていかれて……」
 人込みに紛れてしまったエスに、どこか遠い場所を見るような口調で縁が呟く。
「……日用品の買い足しでもしておきましょうか」
 縁は日用品を取り扱う店へ入ると、家でなくなりそうだったものを思い浮かべつつ店内を歩く。
「こんにちは!縁……さん? も何だか大きくなりましたね!」
 棚に陳列されている商品を見ていると、傍から突然声をかけられた。振り向いたそこにいたのは、以前助けてくれたセラフィナの姿。
「……セラフィナさんも随分変わられたようで」
「縁さんもですよ! 元の姿だと僕とそう変わらないのに、今は随分頼もしくなっててびっくりしました!」
 一方のセラフィナは、彼のミステリアスさにどことなく懐かしさを覚えていた。
 最初は久朗に似ている、と思ったのだ。けれど久朗は子供の姿。
「頼もしい……ですか」
「ええ。あ、外にクロさんもいるんです。買い物が終わったらゆっくりお話しませんか!」
「はい、構いませんよ」
 そうして会話をしながら買い物を済ませると、縁がセラフィナの手元を見て小首を傾げた。
「重そうですね。縁が持ちますよ、セラフィナ。……あ、いえ」
 口から零れ落ちた敬称なしの呼び名に、縁が口元へ手を当てる。
 それを見たセラフィナはにこりと笑った。
「呼び捨てで大丈夫ですよ。もし良かったら、僕も縁と呼んでも構いませんか?」
 考えるような、数瞬の間。その後に縁の仮面についた鈴の音が、頷きに合わせてリンと応えた。

 久朗はセラフィナを待ちながら、そわそわと落ち着かない様子であった。
 頼りない自分の姿が店のガラスに映る。
(万一、ずっとこのままだと……緊急時に対処できない事もあるか。どうにかしないと)
「キミ、なんだかどこかで見たような顔だな。私と遊ばないか!」
 横から声をかけられ、不意のことに久朗は思わず距離をとった。
 声をかけてきたのはツインテールの女子中学生。久朗は思わず眉を寄せた。
 姿も、声も。既知の人物にとても似ている少女だ。けれど年齢が合わないし、何よりその幼馴染は男物の服ばかり着ていたはずだった。
「……いや、人を待っているんだが」
「まあそうつれない事を言うな。なんだか暇そうにしているじゃないか」
 断るものの、少女が久朗の肩を掴んで向かい側の店を指さす。
「ひとまずクレープに付き合いたまえ」
「他を当たってくれ……って人の話、聞いてないだろ」
 ぐいぐいと引かれる力はさほど強くない。けれど、この強引さはどこか懐かしくて。
 セラフィナと縁に捜され、少女がエスだと知るのはもう少し後のこと。


●兄弟のように

 君島 耿太郎(aa4682)は視線を壁にかけられたカレンダーへ向けた。
「バイトも学校もない日で助かったっすね……」
「しかし、家事が溜まっているだろう」
 耿太郎の隣で呟いたのはアークトゥルス(aa4682hero001)。
「掃除はまぁ、いいが……洗濯だけは済ませねば」
 まずは自分達の服だな、と言われて耿太郎は自分の姿を見下ろす。そして次にアークトゥルスを。
「王さん、俺の服着れそうっすかね?」
「そうだな、恐らくは」
 耿太郎の問いにアークトゥルスが頷いた。
 元々耿太郎は小柄だ。今のアークトゥルスの方が身長は低いだろうが、それでも着られなくはないだろう。
「問題は……耿太郎の服か」
 この家には耿太郎とアークトゥルスしかいなくて、当然ながら子供の服もない。
 結局、アークトゥルスの細身なセーターをワンピースのように着ることとなった。
「うぅ……足元すーすーするっす……」
「暖房を効かせても、それはどうしようもないな」
 セーターの上から更にガウンや毛布を羽織り、もこもこと着こんだ状態だ。一先ずこれで風邪をひくことはないだろう。
 2人は衣類を洗濯機の方へ持って行った。

 さて、問題は干す作業だった。
「耿太郎! 椅子を持ってきてくれ! 僅かに背丈が足りん!」
「了解っす!」
 ハンガーをギリギリで手に持つものの、残念ながらほんの少しだけ身長が足りない。ハンガーは物干し竿にかからないままだ。
 いつものように耿太郎へ頼むと元気の良い返事が返ってきた。
 しかし。
「よっ………とっと……うわっ!?」
 ガタガタンッという音に慌てて振り返る。そこには転がった椅子と、膝をつく耿太郎の姿。
「耿太郎! 怪我はないか?」
「大丈夫っす……でも情けなくて心が大丈夫じゃないっす……」
 項垂れる耿太郎の足には転倒の原因と思しき、羽織っていた毛布が絡まっている。
 アークトゥルスは耿太郎の肩に手を置いた。
「普段の耿太郎が頑張りすぎているくらいなのだから、今日くらいは俺に任せておけ」
 情けないとは言っても、ここまで小さい子供の姿では当然のことだ。為すことを見守っていたいような、心配で手を出してしまいそうな。そんな微笑ましい姿である。
「でも俺だって何かやりたいっす! ……って何笑ってるんすか王さん」
「いや……兄とはこんな気分かと、つい、な」
 いつもはアークトゥルスが心身ともに大人で、耿太郎も未成年とは言え子供から大人へ移り変わっていく年代だ。どちらかと言えば親子のような距離感だった。
 けれど、今のこの状態は親子というよりは兄弟だ。
「えー! 王さんだけなんか楽しそうなのずるいっすー!」
 抗議の声をあげる様も、なんだか微笑ましかった。


●満喫する日
 レイルース(aa3951hero001)は目が覚めた瞬間から違和感を抱いていた。
 首を傾げながらも、顔を洗うために洗面所へ向かう。たどり着いたレイルースは、鏡に映った姿に首を傾げた。
「……誰?」
 鏡の中の『少年』は同じように首を傾げる。どうやらこの少年は自分らしい。
 レイルースは鏡の中の自分と睨めっこをしながら思考の淵へ沈む。
(頬に肉がついてるし、手もいつもより小さい……それに、身体が縮んだ?)
「おはよー……」
 聞こえてきた声にレイルースは振り返った。そこにいたのは寝ぼけ眼で欠伸をする子供。
「マオ?」
「……えっ、誰!?」
 レイルースを見て、彼同様幼くなってしまったマオ・キムリック(aa3951)は驚きの声を上げた。

「何で子供になったのかな?」
 朝食の牛乳を飲んでいたレイルースはコップから口を離すと、考えるように小さく眉を寄せた。
「分からないけど……少し、様子みよう」
 物を取るときにやや不便ではあるが、体が変調を来しているわけでもない。
「でも、ほんと吃驚。レイくんの小さい頃はこんな風なんだね」
 頷いたマオはレイルースをまじまじと見つめた。
「覚えてない……不思議な感じ」
 彼はこちらの世界へ来た際、元の世界の記憶を無くしている。
 周りは勿論、自分自身でさえ子供の頃を知らないのだ。
「うーん、よし!」
「……マオ?」
 朝食を食べ終わったマオが席を立つ。レイルースが怪訝そうにマオを見下ろした。
「レイくん! 難しいことは置いといて、今日は子供を満喫しよ♪」

「まずは、服! ぶかぶかは困るよね」
 マオに指摘され、レイルースは体を見下ろす。
「レイくん、わたしと同じ位の背丈かな」
「多分……マオの目線って、これくらいの高さなんだね」
 レイルースは興味深げに周りを見渡す。
 しかし、それなら私の服を貸してあげるよ、という言葉にレイルースは動きを止めた。マオはレイルースの様子に気づかず、ぱたぱたと自分の部屋へ駆けていく。
 もしや彼女が持ってくるのはスカートなのでは――。
「はいっ」
 戻ってきたマオが差し出したそれに、レイルースは目を瞬かせた。
「……これは」
「スポーツウェアだよ。これならレイくんも着られるでしょ?」
 ジャケットと緩めのパンツ。なるほど、確かにこれなら問題はない。
(スカート以外もあってよかった……)
 レイルースは心の底から、そう思った。

『あ、これ可愛い……あれもいいな♪』
 共鳴した2人は子供服の店へ赴いた。レイルースが1人で服を眺めている状態だが、その内ではマオがあれこれとコーデを考えている。
 服を買い終え、帰宅した2人は着替えて再度外に出た。
 色違いのトレーナーは何だか兄妹のようだ、と思いながらマオに連れられる。立ち止まった彼女の先を見たレイルースは首を傾げた。
「ここ……公園?」
「うん! 小っちゃい子達が遊ぶ姿が楽しそうだなって……私たちも遊んでみようよ」
 子供だもん、大丈夫! と、返答をする暇もなくマオがレイルースの手を引いた。
 遊具で遊び、お腹が空いたら買ったあんまんと肉まんを半分こ。
 他の子達とも鬼ごっこなどして遊んでみる。
「ふふ、次はあっちに行ってみようよ♪」
 レイルースも最初は戸惑いながらついていっていたが、今では柔らかな表情を浮かべて隣を歩いていた。
(子供時代はこんな感じだったのかな……だと、いいな)
 こんな風に、誰かと一緒に遊んだ時間があったらいい。
 そう、無くした記憶に思いを馳せた。


●齢の通りに

「にゅふ~、恭也がちっちゃい~」
 何やら嬉しそうに御神 恭也(aa0127)を眺めているのは伊邪那美(aa0127hero001)だ。恭也は彼女の視線を物ともせず、着るものをどうするか、と呟いている。
「……伊邪那美は俺の服が着られそうだな」
 恭也の言葉に伊邪那美がえぇ、と不満の声を漏らした。
「いきなりの事だから仕方ないけど……恭也の服って、黒ばかりで可愛くない」
「男の俺が、お前が可愛いと思う服を持っている筈がないだろうが」
 む、とむくれる伊邪那美に呆れた視線を送る。
「……それよりも、俺の服をどうするかだ」
「ボクの服を着る? 今の恭也なら十分着れると思うよ?」
「断固として拒否する」
 見事なまでに即答である。恭也は溜息をついた。
「……仕方ない、駄賃を付けるから買いに出てくれ」
「んっ、良いけど時期が時期だし良いのが買えるかは微妙だよ」
 伊邪那美の言葉に恭也は肩をすくめ、男物なら我慢するさと呟いた。

 そうして伊邪那美が買ってきた服を身に着け一息。
「さて、これからどうするかだが……何故抱きかかえる?」
「え~っ、小っちゃくて可愛いし、恭也も役得でしょ?」
 同意を求めるような声が上から聞こえる、だがしかし。
「全くもって役得じゃないから離せ!」
「素直じゃないな~」
 伊邪那美の腕から逃れようともがくが簡単に抑え込まれ、暫しの後に恭也は逃れることを諦めた。
「真面目な話、如何するか……仕事は入っていないから、家に籠っていて良いんだが」
 そう呟くと、上からえっ!? という驚きの声が上がった。
「折角の休日なのに勿体なくない? 何処か遊びにでも行こうよ」
「こんな姿になった俺に出かけろと言うのか……」
 伊邪那美は恭也を抱きかかえた体勢のまま一緒に立ち上がらせた。
「気分転換になるでしょ。知り合いに合ったら恭也の親戚の子って誤魔化すから」
 ほら行くよ、と言わんばかりに腕を解かれる。
 恭也は自由になった自分の体を見下ろし、小さく溜息をついた。
「明日に戻っている保証も無い以上は、この体に少しは慣れる必要もあるか」

「あのねぇ、別に恭也を揶揄う為にしてるんじゃないんだよ」
「いや、手を繋ぐ必要はないだろう」
 恭也はじり、と1歩下がった。そんな彼を前に、伊邪那美は珍しくやや呆れた風情だ。
「今の恭也じゃ、人込みにのまれたら絶対に迷子になるでしょ? だから、僕に抱えられるか手を繋ぐか。覚悟を決めちゃいなよ」
 そう言っている間にも、多数の人間が2人の横を通り過ぎていく。
 恭也が結果として選んだのは当然と言うべきか、手を繋ぐ方だ。
「……精神も肉体と一緒に若返っていれば、こんな苦悩をしないで済むというのに」
「それって、元に戻った時に記憶は残ってて身悶えるオチだと思うよ」
 伊邪那美の言葉にそれはそれで、と渋面を浮かべる恭也。
 幸い、既知の者に会うこともなく。2人は傍から見れば仲の良さそうな姉弟に見えたとか何とか。


●服を作りましょう

(なんだか、胸が重たい気がするんだよ……?)
 眠い目を擦りながら鞠丘 麻陽(aa0307)が暖房をつける。肌蹴た浴衣をそのままに鏡を覗いた麻陽はようやく異変に気付いた。
「身長も……胸も大きくなってるんだよっ!?」
 流石に眠気も覚める。けれど、麻陽は偶にこういった体型の変化を経験していた。原因と思しき英雄に幻想蝶越しから呼びかける。
「はぁいー」
 ふんわりとした返事と共に出てきたのは鏡宮 愛姫(aa0307hero001)彼女も体が成長しており、ネグリジェから胸が溢れんばかりであった。
「また胸が育っちゃってるんだよっ」
「ああ、私もすぐ気づきましたよぉ。気になって、そのまま研究しておりましたぁ」
 2人は同時に小さくくしゃみをして顔を見合わせる。風邪をひいてはたまらない、と2人は炬燵に入ることにした。
「1番の問題は服かなぁ、だよ」
「そうですわねぇ。私もこの状態の服は流石に用意していませんでしたぁ」
 買うにしてもオーダーメイドでないと服がないだろう。つまり、生地と1,2着の服を注文する必要がある。
 併せて、それらを済ます為にも外に出られる格好にならなければいけない。
 2人は互いのサイズを調べることにした。
「此処まで育つと思ってなかったんだよ……」
「麻陽様の食事量からしますと、全て発育に使われていれば、これでも小さい気がしますねぇ」
 愛姫が呟きながら計測を終え、今度は麻陽が愛姫を測る。
 そうしてサイズを測り終えた2人はさらしで胸元を覆い、大き目の浴衣を纏った。和装用のコートと母の下駄を借りれば、どうにかぎりぎり外へ出られなくはない、という姿。
「うぅ……寒いんだよ。早く行かなきゃだよ」
 1月半ばの風はまだまだ冷たい。
 麻陽の言葉に愛姫も頷き、2人は足早に目的の店へ歩き出す。
 あらかじめ調べてあったため最短ルートで向かっているが、日中に人気がないわけがなく。
 その出で立ちや体型故に人の目を集めつつ、どうにか辿り着いた2人は人目から身を守るように店へ滑り込んだ。
「すみませーんっ、オーダーメイドで服を作ってほしいです、だよ」
「いらっしゃいま、せ……」
 出てきた店員が2人を見てあらぁ、と思わず声を漏らす。
 体のサイズは測ってきており、1,2着注文したい旨を告げると店員は頷いた。
「わかりました。もう1度こちらで計測し直して、それからご注文をお伺い致しますね」
 奥へ通され、複数の店員達に体を測ってもらい。服を作る生地の購入をして服の注文を終え、再び人の目に晒されつつ帰路へ。
 家に帰った2人は炬燵に入り、ぐったりと突っ伏した。
 どうしても服が必要だから今回は外出をした。けれど、そうでもなければこうやって炬燵でまったりするのもアリかもしれない。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • さようなら故郷
    鞠丘 麻陽aa0307
    人間|12才|女性|生命
  • セクシーな蝶
    鏡宮 愛姫aa0307hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 色鮮やかに生きる日々
    西条 偲遠aa1517
    機械|24才|?|生命
  • 空色が映す唯一の翠緑
    aa1517hero001
    英雄|14才|男性|ドレ
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 希望の守り人
    マオ・キムリックaa3951
    獣人|17才|女性|回避
  • 絶望を越えた絆
    レイルースaa3951hero001
    英雄|21才|男性|シャド
  • 希望の格率
    君島 耿太郎aa4682
    人間|17才|男性|防御
  • 革命の意志
    アークトゥルスaa4682hero001
    英雄|22才|男性|ブレ
  • エージェント
    ソピア=アイオンaa5364
    獣人|20才|女性|攻撃
  • エージェント
    命荷aa5364hero001
    英雄|15才|男性|ドレ
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